説明

POPs又はPOPsを含む油の処理方法、装置及び制御システム

【課題】 POPsの分解処理に際して、不純物含有等の処理阻害要因を、処理工程の早期に検出して対処することで、不完全な処理になること、もしくは環境への汚染物質の排出を防止することが可能な方法及び装置を提供する。
【解決手段】 POPsを含む油と薬剤とを混合してPOPsの分解を行う方法において、分解処理を阻害する要因を、分解反応の開始以前もしくは分解工程中に検出し、処理条件を変更することを特徴とするPOPsを含む油の処理方法、並びに装置及びそれらのための制御システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、POPsの分解に関し、特に油中のPCBの分解、さらにPCBから塩素を除去する分解方法、装置、及び制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
POPs(難分解性有機化合物)とは、その有害性が指摘され、環境汚染物質として大きな社会問題となっているため、処分が必要とされている難分解性有機化合物で、PCB、DDT、PCDD/F、その他の塩素系農薬等がある。
なかでも、PCBは、化学的に非常に安定であり、絶縁性に優れていることから、主として電気絶縁油、熱媒体として用いられたが、環境中に出たPCBが人体や動物に蓄積され、毒性を有することが判明して、1972年にその製造及び新たな使用が禁止された。 処分方法としては、従来より焼却が認められていたが、処理施設の設置の問題などにより、ごく一部を除き実現していない。焼却以外の方法として、例えばPCB等については、脱塩素化分解、水熱酸化分解、還元熱分解、光分解などが認められている。
【0003】
脱塩素化分解は、金属ナトリウム、又はアルカリ等の薬剤、又は触媒と水素等を用いて(特許文献1、特許文献2)、光分解はさらに紫外線等の光照射を用いて有機塩素化合物中の塩素を除去するものである(特許文献3、特許文献4)。また、水熱酸化分解は超臨界状態又はそれに近い高温/高圧の水中で酸化剤を用いて分解するものであり(特許文献5)、還元熱化学分解は主として還元状態での熱分解を利用するものである。
【0004】
PCBの処理法として認められたこれらの方法の多くは、その他のPOPs等の有機ハロゲン化合物の分解方法としても有効とされているが、いずれの分解においても、処理すべきPOPsの量及び濃度に対して適切な量の薬剤添加と反応条件が必要である。POPs中の塩素等のハロゲン量に対して薬剤量が不足であると反応が不十分になる恐れがあり、過剰であれば薬剤を無駄に消費することになり、費用増加と廃棄物の増加を招く。
また、処理対象としているPOPs以外にも使用薬剤との反応を起こして薬剤を消費する物質、反応を阻害もしくは促進する物質が存在する。
【0005】
処理すべきPOPsが純物質である場合には、共存物質による反応への影響は考慮する必要が無いか、もしくは予測可能である。しかし、廃棄物となったPOPsには、各種の不純物が混入している可能性があり、処理にあたっては適切に対応しなければならない。
【0006】
POPs、特にPCBについては、処理後に基準を満たしていないことは非常に大きな問題であり、不純物の存在によって処理が不十分になったものが排出されて他の処理済物を汚染することは、是非防止しなければならない。また、場合によっては、基準を満たしていない場合は、反応器からすら排出が認められない場合もあり、速やかに原因を判定し、改善を行う必要がある。
【特許文献1】特開2000−15088号公報
【特許文献2】特開2001−206857号公報
【特許文献3】特開2002−102686号公報
【特許文献4】特開2003−339903号公報
【特許文献5】特開2002−360727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PCBを含む油の分解処理を行う場合、事前に油の性状を試験、分析して必要な薬剤の量を定めることが行われ、油中のPCBの種類及び濃度、不純物の種類及び濃度によって所要薬剤量等の処理条件が異なることが知られている。
【0008】
廃棄物であるPOPsを処理する場合、その分解処理に当たっては通常の化学反応の場合と全く異なった注意が必要である。すなわち、通常の化学反応であれば原料の組成を制御することができるが、廃棄物である場合には不純物が含有される可能性が高く、その種類と量、及び反応への影響も様々である。
例えば、不純物の種類、濃度によっては所要薬剤量が10倍以上になったり、適切な処理条件を達成できない等、不十分な処理につながることも指摘されている。さらに不純物の種類によっては、過剰な反応が起きる、水素ガス等の発生等、危険な場合もある。また、低沸点成分が混入した場合、処理対象成分が低沸点成分に伴送されて排気ラインに移行し、排気処理系統の汚染を招いたり、処理油の汚染や、大気中への汚染物質の排出につながる可能性がある。
従って、処理前もしくは処理中に、不純物の存在等による阻害を検出し、速やかに対策を取ることが重要となる(特開2000−102686号公報)。
【0009】
ところで、処理すべき油の全量を事前に分析することは困難であり、一部のサンプルを代表例として分析することが一般的である。しかし、タンク等に貯留した場合、時間経過によってスラッジ分や、水分が相分離するなどして、必ずしも代表性のあるサンプルでない場合がある。
また、事前に最適処理条件をラボ実験等で推定する場合においても、実機での処理に必要な薬剤処理量等の最適処理条件は、必ずしも確認できるとは限らない。
【0010】
従って、事前に分析していても、常に実機で最適な処理が行えるとは限らない。
そこで、本発明は、不純物含有等の処理阻害要因を、処理工程の早期に検出して対処することで不完全な処理になること、もしくは環境への汚染物質の排出を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を下記の手段により解決することができた。
(1)POPsを含む油と薬剤とを混合してPOPsの分解を行う方法において、分解処理を阻害する要因を、分解反応の開始以前もしくは分解工程中に検出し、処理条件を変更することを特徴とするPOPsを含む油の処理方法。
(2)POPs又はPOPsを含む油を希釈した液と薬剤とを混合してPOPsの分解を行う方法において、POPs又はPOPsを含む油と希釈液との混合以前に分解処理を阻害する要因を検出し、処理条件を変更することを特徴とするPOPs又はPOPs含む油の処理方法。
(3)分解処理を阻害する要因の検出手段が、処理装置内の温度、圧力、流量、ガス組成のうち1つの因子、又はそれらの2つ以上の因子の組み合わせの監視であることを特徴とする前記(1)又は(2)記載の処理方法。
(4)POPsがPCB又は及びダイオキシン類であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の処理方法。
【0012】
(5)POPs又はPOPsを含む油と薬剤とを混合してPOPsの分解を行う装置であって、POPs又はPOPs含有油と希釈油と薬剤を撹拌しながらPOPsの分解を行う反応器と、処理装置内の温度、圧力、流量、ガス組成のうちの1つの因子、又はそれらの2つ以上の因子を監視して分解処理を阻害する要因を検出できる手段を有することを特徴とするPOPsを含む油の処理装置。
(6)検出結果に基づいて、処理条件を変更できるようにしたことを特徴とする前記(5)記載の処理装置。
(7)POPsがPCB又は及びダイオキシン類であることを特徴とする前記(5)又は(6)に記載の処理装置。
(8)処理装置内の温度、圧力、流量、ガス組成のうちの1つ、又はそれらの2つ以上の計測データを取り込み、阻害要因の存在を検出するシーケンスを組んだことを特徴とするPOPs又はPOPsを含む油の処理装置用の制御システム。
(9)検出した後、処理条件の変更を行うシーケンスを組んだことを特徴とする前記(8)記載の制御システム。
(10)前記(8)又は(9)記載の制御システムの記憶媒体。
【0013】
ここで、処理を阻害する恐れのある不純物としては、主として、分解処理温度に比較して低沸点のもの、及びPOPsと競合して薬剤を消費して反応を阻害する物質がある。反応阻害物質としては、例えば、水、酸化・劣化した油、木酢液等がある。
【0014】
分解処理の方法においては、各々処理温度や薬剤の種類が異なるため、問題となる不純物の種類と影響の内容が異なる場合がある。例えば、不純物として水が存在していた場合、水の沸点以上で処理する分解方法では、反応阻害よりもむしろ低沸点物として影響する可能性があり、低温で処理する場合には反応阻害及び副生成物による二次的阻害の可能性が大きい。
【0015】
ここで、処理の阻害によって起こる現象としては、低沸点のものが含まれる場合は、所定の反応温度まで昇温できないか、昇温に時間がかかること、又は低沸点物の蒸気によってPOPsが排気中に随伴され、排気処理の負荷が増大することが挙げられる。
【0016】
また、反応阻害物質が含まれている場合は、例えば水の混入は、薬剤を消費・失活させてPOPsの分解を不十分にしがちなだけでなく、量によっては激しい反応が起き、可燃性ガスの急激な発生や圧力の急上昇等の危険性がある。これは金属アルカリのように水と強く反応する薬剤を用いた場合に特に重要である。また、劣化油や木酢液の場合は、薬剤を消費して所要量を増加させる可能性が高い。
【0017】
これらの結果、通常の処理時間では処理ができない、処理後に基準を満足できない、排気処理の負荷増加による所要エネルギー増加、排気処理に用いる薬剤及び活性炭等の消費増加、排気系汚染に伴う処理油の汚染、排気の冷却凝縮回収液の増加、排気処理能力の不足によるPOPs等の環境への排出、等の悪影響が起きる可能性がある。
特に、処理後に基準を満足できないことは大きな問題であり、防止する必要がある。また排気中にPOPs等が排出されることも出来るだけ防止する必要がある。
【0018】
阻害要因の検出手段としては、処理設備内の温度、圧力、流量、ガス組成のうち、1つ又は2つ以上を測定し、記録して、その変化及び/または通常処理時との比較を行うことによって実施できる。
ここで、温度の測定場所としては、反応器内の液相温度、気相温度、排気系配管温度、凝縮器内の気相温度、凝縮液温度、凝縮器冷媒温度、反応器の加熱媒体もしくは冷却媒体の温度等がある。また、圧力としては、反応器内のほか、凝縮器前後等がある。流量としては処理対象物、供給薬剤等、窒素等の不活性ガス、熱媒/冷媒の供給量及び排気量等がある。ガス組成としては、反応器からの排気の他、凝縮器等の排気処理後ガスがある。
【0019】
阻害要因の検出方法としては、昇温速度の異常、液温度、気相温度の変動、排気量の変動、排気組成の変化の検討による方法が挙げられる。例えば、低沸点物が混入した場合、平常時に比較して液温度の低下、気相温度の上昇等が起きる。反応阻害物質の混入、例えば金属アルカリ法における水の混入等の場合には、急激な発熱による反応液温度上昇や、水素ガス発生による排気量増加及びガス組成の変化等が起きる可能性がある。
【0020】
処理条件の変更としては、反応器内にPOPsが供給される前に不純物を除去する方法、POPsの供給自体を止める方法、POPsの量あたりの薬剤量を相対的に大きく、処理時間を長くする、もしくは反応温度を高くするなどの方法によって反応を進ませる方法、処理装置内を洗浄する工程を追加するか、洗浄できる条件に変更する方法等がある。ここで、不純物がPOPsを含む油ではなく希釈油に混入している場合は、POPsを供給する前に希釈油から不純物を除去するか、別の希釈油に変更するのが適当である。しかし、POPsを含む油自体に混入している場合、またはPOPs供給・混合後に検出された場合には、不純物除去工程を追加するか、分解処理工程の条件を変更することになる。
【0021】
温度・圧力・流量・組成等計測データから、処理阻害要因の存在を検出するためには、計測データの変化を監視・比較するか、又は/及びこれらの計測データを正常処理時と比較して、そこからの逸脱を検出することによって行う。運転員が運転中にデータを検討し判断するためには、運転員に十分な知識・経験・能力が必要であり、データの量及び煩雑さから困難である。
【0022】
そこで、運転制御システムに阻害要因を検出し、さらに対処するシーケンスが組まれていることが望ましい。また、これらの状況を警報として示したうえ、運転員による対策の検討・変更も可能であるような柔軟性のある制御システムであることがより望ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、廃棄物等のように処理を阻害する恐れのある不純物が混入している可能性のある処理対象物中のPOPsを分解処理する場合において、事前の不純物の分析と除去が不十分であっても、処理状態の計測と評価によって、不純物の混入を検出でき、処理条件の変更、汚染除去等の処置ができることによって、処理不十分な状態を回避することができ、他の処理済油を汚染することがないため、確実に分解処理することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施の形態に限定されるものでない。
図1は、POPsを含む油の処理装置の概略を説明する縦断面図である。すなわち、実際の装置は、加熱下にPOPs含有油と希釈油と薬剤を不活性ガス雰囲気下に撹拌しながらPOPsの分解を行う反応器と、この反応器で発生する蒸気や不活性ガスを冷却する凝縮冷却器と、反応器からのガスを吸引する吸引機と、非凝縮性ガス中の有機物質等を吸着する活性炭吸着器とからなり、かつ、分解処理装置内の温度、圧力、流量、ガス組成のうちの1つ、又はそれらの2つ以上を監視して阻害要因を検出できる手段を有することにより構成されている。
【0025】
反応器1の底部は、分解反応を促進又は制御するための加熱装置又は加熱冷却装置5で囲撓されており、反応器1の上部にはPOPs等含有油6の供給管、薬剤7の供給管、希釈油8の供給管、反応器1内を窒素雰囲気に維持するための窒素ガス9の供給管、吸引機3により凝縮冷却器2へ窒素ガス等を排出する配管10及びモータMにより回転駆動される撹拌機11が取付けられており、また反応器1には凝縮冷却器2で生成した凝縮液の還流管12が取付けられており、さらに反応器1の気相部分には圧力計13及び気相温度計14が、反応器1の液相部分には液相温度計15がそれぞれ配設されている。
【0026】
また、10の排気管には温度計16が、凝縮冷却器2には冷媒17の供給管、非凝縮ガスを、吸引機3により活性炭吸着器4を経て放出する配管には、ガス分析計18及び圧力計19と流量計20が、さらに凝縮冷却器2の下部の冷媒流出管には、温度計21及び流量計22がそれぞれ配設されている。
【0027】
上記の構成からなるPOPsを含む油の処理装置を使用して、油中のPCBの分解、さらにPCBから塩素を除去する分解方法を最良の条件にするための各要因について、以下に詳細に説明する。
検出手段、それによって検出される不純物について、PCBを含む油の処理を例にとって下記に示す。
【0028】
1)PCBがある状態で処理所要温度まで昇温する場合
昇温中に、気相系温度(反応器内、排気配管、凝縮器等)の異常上昇が認められた場合、液温の昇温カーブが通常時と比較して有意に遅い又は段が認められる場合、及び、液温の低下と気相温度の上昇が認められる場合は、低沸点成分(以下低沸分と略記する)の混入と判断され、排気系に低沸分によってPCBが随伴されてコンタミネーション(混入・汚染)、(以下コンタミと略記する)が起きている可能性が高い。なお、気相系を熱媒/冷媒などによって一定温度に制御している場合、気相系温度の異常上昇ではなく、熱媒/冷媒の制御所要量の異常変動で検出することも可能ではある。ただし、熱容量の関係で感度及び追随速度が悪いため、温度制御を行っていない部分の温度の測定/監視が望ましい。
【0029】
昇温中又は反応中に、異常発熱が認められた場合、圧力が上昇した場合、及び/又は、排気量/ガス組成の逸脱があった場合、薬剤を消費して反応を阻害する不純物の混入と判断され、薬剤所要量の増加(添加薬剤量の不足)の可能性が高い。ここで、異常発熱の検出は、液温の急激な上昇、もしくは熱媒/冷媒による熱除去量の低下によって判断される。
【0030】
排気中のガス組成が通常と異なる場合、不純物との反応による生成ガス発生の可能性がある。例えば、金属アルカリを用いた方法の場合に排気中水素ガス濃度の上昇があった場合には、反応器中に水が存在してその反応によって水素が生成した可能性が高い。ガス流量が増大した場合及び圧力が増大した場合には、同様に蒸気発生及び又は生成ガス発生の可能性がある。特に冷却凝縮器後の流量が増加した場合は、水素ガス等の生成の可能性が高い。
【0031】
2)PCBがない状態で昇温してから処理する場合
希釈油及び薬剤のみを昇温中に、気相系温度(反応器内、排気配管、凝縮器等)の異常上昇が認められた場合、液温の昇温カーブが通常時と比較して有意に遅い又は段が認められる場合、及び、液温の低下と気相温度の上昇が認められる場合は、低沸分の混入と判断される。この段階ではPCBが存在しないため、低沸分を還流させなければ、コンタミの原因になることは無い。
【0032】
処理対象液を供給してから、気相系の温度上昇、及び/又は、圧力上昇が起きた場合は、対象液中に低沸分の混入と判断され、排気系のコンタミが起きる可能性が高い。また、異常発熱、及び/又は、排気量/ガス組成の逸脱があった場合、薬剤を消費して反応を阻害する不純物の混入と判断され、薬剤所要量の増加(添加薬剤量の不足)の可能性が高い。
【0033】
阻害要因が検出された場合の処理条件の変更の例を示す。検出手段によって阻害要因の存在が推定される場合、その種類、及び/又は推定時の工程進行状況によって、異なる対策を取ることになる。
処理の阻害要因がある場合、単に処理時間を延長しただけでは満足できる処理効果を得ることは難しい。
【0034】
1)PCBを含む油を希釈して処理する場合においてPCBが無い状態で昇温する場合
PCBの供給以前に低沸分もしくは反応阻害物質の存在が検出された場合には、処理条件を下記のように変更する。どの方法が最適かについては、希釈油の供給状況、処理設備の耐熱温度、処理時間等の条件のうち、何を優先するかによって異なる。適当な方法を下記に例示する。ここで、(a),(b)の場合、低沸分(凝縮液)は反応器に還流させずに排出する。
(a)気相温が通常に復帰するまでの間、PCBの供給を延期して加熱する。
(b)反応時の最高温度まで一旦昇温して低沸分を除去する。ここで最高温度まで一旦昇温する理由は、PCBを入れた後で蒸気随伴が起きることを防止するためである。
(c)そのまま排出して廃棄し、新しい希釈油を使用する。
【0035】
2)PCBが存在する状態で低沸分の蒸気が発生した場合
処理装置の構造、処理時間等によって、何が最適な方法かについては変わってくる。
ここで、実施する処理条件において低沸分蒸気の発生が事前に予測されるのであれば、液相温度/気相温度等の計測によらず、通常工程として蒸気洗浄工程を組み込んでも良い。適当な方法を下記に例示する。
(a)凝縮液の反応器への戻りを防止し、反応器内の液のみを処理して汚染させずに排出する。
(b)分解終了後の反応液を加熱蒸発させ、凝縮器及び還流配管を蒸気洗浄しつつ、反応器内での分解を進める。
なお、通常の処理温度が反応液の沸点より低く、反応液を蒸発させるだけの加熱能力又は設備の耐熱性が無い場合には、反応液より沸点が低く、かつ分解反応に悪影響を与えない物質を添加し、凝縮器及び還流配管を蒸気洗浄し、還流液中PCBの分解をすることが出来る。
【0036】
3)薬剤を消費する不純物を含有していた場合
不純物による薬剤の消費によって、PCBの分解反応に必要な薬剤が不足する。反応液を排出する前に薬剤を追加供給して反応を継続して、十分な分解反応を行わせることが望ましい。処理対象液の事前の性状分析、及び/又はラボ実験等による処理条件の確認によって、薬剤添加量を決定することはできるが、実機での処理中に薬剤供給量が十分であることを確認できることがより望ましい。この方法として、反応液に薬剤等を追加供給してその時の温度変化/圧力変化を監視・比較して判断する。薬剤と反応する不純物又はPCBがある間は、反応が終了している場合に比較して、添加時に発熱又はガスの発生が検出される。この薬剤の供給は連続的に行っても良いし、1回又は2回以上断続的に行っても良い。対照として、反応性物質が含まれない場合の温度変化を事前に測定・記録して置くことが望ましい。
【0037】
ここで、不純物の含有が事前に予測される場合等においては、液相温度/気相温度等の計測によらず、通常工程として薬剤追加供給による判定工程を実施することもできる。
不純物と薬剤との反応によって発生するガス等による二次的な影響については、低沸分混入と同様の条件の変更/対策を取ることが出来る。
【0038】
ここで、希釈液中に処理を阻害する不純物が混入している原因としては、希釈液の入手・保管中に水その他の不純物が混入する可能性の他、処理済油を希釈油として循環再利用する場合に再生不良で水が残留している、分解反応後の後処理もしくは洗浄等によって設備内に水が残留し、希釈油中に混入している等がある。
【0039】
PCBを含有する液自体に不純物が混入している原因としては、イ)数十年という長期にわたる保管中に水等が混入、使用中に酸化及び経時劣化した、ロ)PCB液を抜き取り・保管する際に灯油または何らかの溶剤で洗浄して廃洗浄剤を混合した、ハ)PCB汚染物の処理の際に使用した溶剤が蒸留回収後に残留している、ニ)PCB汚染物の洗浄処理中に溶剤中に電気機器構成剤から洗浄溶剤に溶け出した、ホ)PCB汚染物の真空加熱分離等の回収液に熱分解生成物を含む木酢液が混入している、等がある。
【実施例】
【0040】
以下、本発明の理解を助けるために、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
下記の実施例1〜6の不純物含有判定及び条件変更の概念を、図2にまとめて示す。図2中、a)〜f)がそれぞれ実施例1〜6に対応する。
【0041】
実施例1:
反応器内を所定条件まで昇温してからPOPsを添加供給してPOPsの分解を行う処理設備において、反応器内気相又は排気配管の温度変化を制御項目とし、所定の液温以下でこの温度変化が所定値を超えた場合、低沸点不純物含有として警報を出し、POPs含有液を供給せず、反応器内油を排出する。
図2のa)に実施例1の概念を示す。
【0042】
実施例2:
反応器内を所定条件まで昇温してからPOPsを添加供給してPOPsの分解を行う処理設備において、反応器内の液を所定の反応温度まで昇温する過程において、反応器内気相又は排気配管の温度変化を制御項目とし、所定の液温以下でこの温度変化が所定値を超えた場合、低沸点不純物含有として警報を出し、反応器内の液を処理時の所定最高温度まで昇温し、気相温度がその際の通常値に戻るまで保持した後、通常の処理工程に戻る。
図2のb)に実施例2の概念を示す。
【0043】
実施例3:
POPsの分解を行う処理設備において、反応器内気相又は排気配管の温度変化を制御項目とし、所定の液温以下でこの温度変化が所定値を超えた場合、低沸点不純物含有として警報を出し、所定の処理時間経過後に排気ラインの洗浄工程を行って、排気ラインから低沸点不純物を十分に除去し、次の処理の際に低沸点不純物が混入しないようにしてから処理終了とする。
図2のc)に実施例3の概念を示す。
【0044】
実施例4:
アルカリなどの薬剤によりPOPsの分解を行う処理設備において、薬剤供給時に液相温度、気相温度又は排気流量の上昇が所定値を超えた場合、薬剤を追加供給する。追加供給は所定の処理時間経過後に行い、処理時間を延長して処理を継続し、その際、液相温度、気相温度又は排気流量の上昇が所定値を超えた場合には再度、薬剤の追加供給及び処理時間の延長を行う。
図2のd)に実施例4の概念を示す。
【0045】
実施例5:
反応器内に薬剤を含む液を充填し、反応器内を所定条件まで昇温してからPOPsを添加供給してPOPsの分解を行う処理設備において、POPs添加供給時に液相温度、気相温度又は排気流量の上昇が所定値を超えた場合、POPsの供給を停止し、薬剤の追加供給を行う。
図2のe)に実施例5の概念を示す。
【0046】
実施例6:
脱塩素化分解の処理設備において、分解工程で不純物含有が検出された場合には、通常の処理済油排出ルートに自動排出せず、別の貯槽に仮排出するなど排出先の変更を可能にする。
図2のf)に実施例6の概念を示す。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、PCB等のPOPsを分解処理するにあたって、不純物が含有されている廃棄物であっても、確実に処理することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】処理設備の概要を説明する縦断面図である。
【図2】不純物含有判定及び条件変更の概念を説明するブロック図である。
【符号の説明】
【0049】
1 反応器
2 凝縮冷却器
3 吸引機
4 活性炭吸着器
5 加熱装置
6 POPs含有油
7 薬剤
8 希釈油
9 窒素ガス
10 排出管
11 撹拌機
12 凝縮液還流管
13 圧力計
14 気相温度計
15 液相温度計
16 温度計
17 冷媒供給管
18 ガス分析計
19 圧力計
20 流量計
21 温度計
22 流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
POPsを含む油と薬剤とを混合してPOPsの分解を行う方法において、分解処理を阻害する要因を、分解反応の開始以前もしくは分解工程中に検出し、処理条件を変更することを特徴とするPOPsを含む油の処理方法。
【請求項2】
POPs又はPOPsを含む油を希釈した液と薬剤とを混合してPOPsの分解を行う方法において、POPs又はPOPsを含む油と希釈液との混合以前に分解処理を阻害する要因を検出し、処理条件を変更することを特徴とするPOPs又はPOPs含む油の処理方法。
【請求項3】
分解処理を阻害する要因の検出手段が、処理装置内の温度、圧力、流量、ガス組成のうち1つの因子、又はそれらの2つ以上の因子の組み合わせの監視であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の処理方法。
【請求項4】
POPsがPCB又は及びダイオキシン類であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項5】
POPs又はPOPsを含む油と薬剤とを混合してPOPsの分解を行う装置であって、POPs又はPOPs含有油と希釈油と薬剤を撹拌しながらPOPsの分解を行う反応器と、処理装置内の温度、圧力、流量、ガス組成のうちの1つの因子、又はそれらの2つ以上の因子を監視して分解処理を阻害する要因を検出できる手段を有することを特徴とするPOPsを含む油の処理装置。
【請求項6】
検出結果に基づいて、処理条件を変更できるようにしたことを特徴とする請求項5記載の処理装置。
【請求項7】
POPsがPCB又は及びダイオキシン類であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の処理装置。
【請求項8】
処理装置内の温度、圧力、流量、ガス組成のうちの1つ、又はそれらの2つ以上の計測データを取り込み、阻害要因の存在を検出するシーケンスを組んだことを特徴とするPOPs又はPOPsを含む油の処理装置用の制御システム。
【請求項9】
検出した後、処理条件の変更を行うシーケンスを組んだことを特徴とする請求項8記載の制御システム。
【請求項10】
請求項8又は請求項9記載の制御システムの記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−271519(P2006−271519A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92025(P2005−92025)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】