説明

PPARリガンド剤

【課題】本発明は食経験が豊富な安全性の高い食品素材から得られる成分を有効成分として含有するPPARリガンド剤等を提供することを解決課題とする。
【解決手段】本発明は、ディル抽出物を有効成分として含有するペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤、脂質異常症の予防及び/又は改善剤、糖尿病の予防及び/又は改善剤、肥満の予防及び/又は改善剤、炎症の予防及び/又は改善剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディル抽出物を有効成分として含有するペルオキシソーム増殖剤応答性受容体(peroxisome proliferator−activated receptor:PPAR)リガンド剤に関する。さらに本発明は、ディル抽出物を含有するヒト又は動物の脂質異常症、糖尿病、肥満、炎症などの予防及び/又は改善剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
PPARは、ステロイド受容体、レチノイド受容体やサイロイド受容体等と同様、核内受容体スーパーファミリーに属するリガンド依存性の転写因子である。哺乳動物においては、α型、γ型、δ型の3種類のレセプタ−サブタイプが存在することが知られている。PPARαは、肝臓、心臓、骨格筋、褐色脂肪細胞、腎臓などに発現し、主に脂質代謝に関与することが知られている。PPARαの主要調節臓器は肝臓であり、PPARαが活性化することにより、肝臓における脂肪の燃焼が促進され、血中・肝臓・骨格筋の中性脂肪含量が減少し、インスリン抵抗性が改善される。脂質異常症薬のフィブラ−ト系薬剤は、PPARαに作用することにより、血清脂質低下作用、並びに、動脈硬化発症に抑制的に働くHDL−コレステロ−ル上昇作用抑制作用を発現することが報告されている(非特許文献1)。PPARγは、脂肪細胞に特異的に発現し、脂肪細胞の分化に密接に関わり、2型糖尿病治療薬の標的分子とされている。PPARδは、特に骨格筋を中心とした強力なエネルギー代謝促進作用、脂肪酸燃焼促進作用をつかさどっていることが明らかとなっている。PPPARδリガンドは、抗肥満、インスリン抵抗性改善作用を示すことが報告されている(非特許文献2)。この様に、PPARは、糖尿病、肥満、脂質異常症などの生活習慣病に深く関係することが明らかにされており、また、PPARが関与する皮膚における生物活性としては、PPARαを活性化することにより炎症反応を抑制する作用(特許文献1)も知られている。
【0003】
前記のように、PPARs(PPARα、PPARγ、PPARδ等のPPARのサブタイプを総称して「PPARs」という)は生体内の糖、脂質代謝の制御に関与しているのみならず、肥満、脂質異常症、高血圧、糖尿病などの生活習慣病、癌、炎症性疾患、動脈硬化症などの疾患の発症への関与が明らかとなっている(非特許文献3)。PPARリガンド剤はPPARを活性化することにより、生体内における脂質代謝を促進し、蓄積した脂肪を減少させることにより、肥満を予防および改善し、さらに肥満に伴い発症するインスリン抵抗性、脂質異常症、高血圧、糖尿病を予防および改善することが可能である(非特許文献4)。
前記PPARリガンド剤は植物抽出物を含むものが多く知られている。
【0004】
特許文献2には、セリ科ウイキョウ属に属するフェンネルの抽出物を有効成分とするリガンド剤が記載されている。特許文献2によると、フェンネルの抽出物を有効成分とするPPARリガンド剤は優れたPPARリガンド活性を有し、脂質異常症、糖尿病、肥満、炎症の予防及び/又は改善剤として有用である。
【0005】
特許文献3には、モノアシルグリセロールからなるPPARリガンド剤が記載されている。
特許文献4には、(A)没食子酸エステル、(B)ガロイルタンニン類、(C)ケルセチンもしくはその配糖体、(D)フラボンもしくはその類縁体、(E)イソフラボンもしくはその類縁体、(F)カテキンもしくはエピカテキンから選ばれる化合物からなるPPARリガンド剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007−522259号公報
【特許文献2】WO2004−045632
【特許文献3】特開2001−354558号公報
【特許文献4】特開2002−80362号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】田中十志也、「PPAR作動薬の将来」 メタボリックシンドロ−ム 病態の分子生物学、141−155(2005)、南山堂
【非特許文献2】Chaput E. et. al.、FEBS Letters、514、315−322(2002)
【非特許文献3】日本臨床63巻4号(2005−4)
【非特許文献4】Journal of Clinical and Experimental Medicine (IGAKU NO AYUMI) vol.220 No.1 (2007) “PPARと疾患“
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のPPARリガンド剤は活性及び安全性の面で必ずしも満足できるものではない。特に、食経験の豊富な安全性の高い食品素材に由来する成分を有効成分とするPPARリガンド剤が求められている。
【0009】
そこで本発明は、古くから食用されている食経験が豊富な安全性の高い食品素材から得られる成分を有効成分として含有するPPARリガンド剤を提供することを目的とする。
【0010】
さらに、本発明は、上記の成分を含有するヒト又は動物の脂質異常症、糖尿病、肥満、炎症などの予防及び/又は改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、セリ科に属する植物であるディルの抽出物が、PPARリガンド剤として優れた活性を有することを見出した。さらに本発明者らは、ディル抽出物が、ヒト又は動物の脂質異常症、糖尿病、肥満、炎症などの予防及び/又は改善剤の有効成分として優れた活性を有することも見出した。
【0012】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(5)を提供する。
(1)ディル抽出物を有効成分として含有するペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤。
(2)ディル抽出物を含有するヒト又は動物の脂質異常症の予防及び/又は改善剤。
(3)ディル抽出物を含有するヒト又は動物の糖尿病の予防及び/又は改善剤。
(4)ディル抽出物を含有するヒト又は動物の肥満の予防及び/又は改善剤。
(5)ディル抽出物を含有するヒト又は動物の炎症の予防及び/又は改善剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、古くから香辛料として食用されている食経験が豊富な安全性の高い食品素材であるディルの抽出物を有効成分とするPPARリガンド剤、並びに、ヒト又は動物の脂質異常症、糖尿病、肥満又は炎症の予防及び/又は改善剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1はディル抽出物を有効成分として含有するPPARリガンド剤のPPARαリガンド活性を示す図である。
【図2】図2はKKAYマウスの体重の推移を示す図である。
【図3】図3はKKAYマウスの血糖値の推移を示す図である。
【図4】図4(A)、図4(B)及び図4(C)は、それぞれ、KKAYマウスの暗条件下における酸素消費量、光条件下における酸素消費量及び全酸素消費量を示す図である。
【図5】図5はKKAYマウスの直腸温度を示す図である。
【図6】図6はKKAYマウスの臓器重量(皮下脂肪)を示す図である。
【図7】図7(A)及び図7(B)は、それぞれ血漿中の非エステル型脂肪酸値及び血漿中の中性脂肪値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.ディル抽出物
本発明においてディルとは、セリ科の植物の学名Anethum graveolensを指す。
ディル抽出物とは、ディルの植物体の少なくとも一部の部位から、抽出媒体を用いて抽出された抽出物である。
【0016】
ディル抽出物を抽出するためのディルの植物体の部位は特に限定されないが、典型的には種子である。これらの部位は生のまま、或いは、適宜乾燥したものを用いることができる。これらの部位は原型のまま、或いは、適宜粉砕したものを用いることができる。
【0017】
抽出媒体としては有機溶媒、水等の溶媒、超臨界二酸化炭素等の超臨界流体が挙げられ、溶媒が特に好ましい。
【0018】
抽出媒体としての溶媒としては、ヘキサン、アセトン、エタノール、メタノール、イソプロパノール等の有機溶媒を用いることが好ましい。
【0019】
ディル抽出物を調製するための条件は特に限定されない。溶媒抽出によりディル抽出物を調製する場合、溶媒の使用量は、特に限定されないが、例えば、ディルに対して重量比で0.5〜50倍量とすることができる。溶媒抽出は、ディルを溶媒中に浸漬し、適宜撹拌又は放置して溶媒中に溶媒可溶性成分を溶出させる。抽出時間は特に限定されないが、30分〜30日であることができ、30分〜7日であることが好ましい。抽出温度は特に限定されないが、5〜80℃であることができ、15〜40℃であることが好ましい。抽出後、溶媒可溶性成分を含む溶媒画分とディル残渣とをろ過、遠心分離等の通常の固液分離手段により分離し、溶媒画分を取得する。溶媒画分はそれ自体がディル抽出物として利用可能であるが、溶媒画分から必要に応じて溶媒を全部又は一部除去した固形物又は濃縮物や、当該固形物又は当該濃縮物を適当な溶媒により希釈した希釈物や、溶媒画分を適当な溶媒により希釈した希釈物もディル抽出物として好適に利用することができる。溶媒画分から溶媒を除去する方法は特に限定されず、加熱条件及び/又は減圧条件において溶媒画分から溶媒を揮発させる方法が挙げられる。
【0020】
2.PPARリガンド剤、脂質異常症、糖尿病、肥満、炎症などの予防及び/又は改善剤
本発明のPPARリガンド剤とは、PPARリガンド結合領域に結合する能力、即ち、PPARリガンド活性を有する。ここで、PPARリガンド活性は、例えば、PPARリガンド結合領域とGAL4との融合タンパクに対する結合をルシフェラーゼの発現で評価するレポーター・アッセイ(Cell,1995年,83巻,p.803−812)や、PPARリガンド結合領域を含むタンパクを用いたコンペティション・バインディング・アッセイ(Cell,1995年,83巻,p.813−819)などにより測定することができる。これらのアッセイにおいて、溶媒対照と比較し、溶媒対照よりも高い活性を示し、なおかつ用量依存性が認められるサンプルを「PPARリガンド活性あり」と評価する。本発明のPPARリガンド剤は典型的にはα型、γ型及びδ型のうち少なくとも1種のPPARに対してリガンド活性を示す。PPARリガンド剤はヒト又は動物の生体内のin vivo環境においてPPARリガンド活性を奏するものであってもよいし、試験器具等の生体外のin vitro環境においてPPARリガンド活性を奏するものであってもよい。In vivo環境においてPPARリガンド活性を奏する本発明のPPARリガンド剤は、PPARを介して、糖及び脂質代謝を含む多くの生理機能の重要な調節因子となり、脂質異常症、糖尿病、肥満、炎症などを予防および/または改善することができる。
【0021】
本発明において、脂質異常症の予防とは、脂質異常症の状態又は境界域の状態になるのを防ぐ又は遅らせることをいう。また、脂質異常症の改善とは、上記に示す脂質異常症の状態または境界域の状態から、正常域と定義している状態に近づけることをいう。糖尿病の予防とは、糖尿病の状態または境界域の状態になるのを防ぐ又は遅らせることをいう。また、糖尿病の改善とは、糖尿病の状態または境界域の状態から、正常域と定義している状態に近づけることをいう。肥満の予防とは、肥満または肥満症であるとされる状態になるのを防ぐ又は遅らせることをいう。また、肥満の改善とは、肥満または肥満症であるとされる状態を改善することをいう。発明において、炎症とは、PPARが関与する、ロイコトリエンBを介した炎症、マクロファージなどの細胞における炎症性サイトカインやタンパク(例えば、TNF−α、IL−1β、IL−6、NO合成酵素、ゼラチナーゼB、スカベンジャーレセプター)に起因する炎症などを指す。そして、炎症の予防とは上記の炎症の症状になるのを防ぐまたは遅らせることを指す。また、炎症の改善とは、上記の炎症の症状を回復または低減させることを指す。
【0022】
本発明において「動物」とは非ヒト動物を指し、例えば、ヒト以外の哺乳類であり、ラット、マウス、モルモット、ハムスター、イヌ、ネコ等を意味し、品種、年齢は特に限定されない。
【0023】
本発明のPPARリガンド剤、並びに、脂質異常症、糖尿病、肥満、炎症などの予防及び/又は改善剤は、所望の作用を奏する量のディル抽出物を含んでいることが好ましく、全体がディル抽出物のみからなるものであってもよいし、ディル抽出物と他の成分とを含むものであってもよい。本発明のPPARリガンド剤中には、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.01〜100%、更に好ましくは0.02〜80%となる量のディル抽出物(PPARリガンド剤の全重量(湿重量)あたりのディル抽出物の乾燥物換算重量の割合)が配合されることができる。また、脂質異常症、糖尿病、肥満、炎症などの予防及び/又は改善剤中には、好ましくは0.01%以上、好ましくは0.01〜100%、更に好ましくは0.02〜80%となる量のディル抽出物(前記予防及び/又は改善剤の全重量(湿重量)あたりのディル抽出物の乾燥物換算重量)が配合されることができる。
【0024】
本発明のPPARリガンド剤や脂質異常症、糖尿病、肥満、炎症などの予防及び/又は改善剤は他の成分を更に含んでいても構わない。他の成分は飲食品、医薬品等の最終的な形態において許容される成分である限り特に限定されない。
【0025】
本発明のPPARリガンド剤や脂質異常症、糖尿病、肥満、炎症などの予防及び/又は改善剤の形状は、特に限定されずに液状、固形状または半固形状であることができる。
【0026】
本発明のPPARリガンド剤や脂質異常症、糖尿病、肥満、炎症などの予防及び/又は改善剤は飲食品、医薬品、医薬部外品等、特に、飲食品、医薬品、医薬部外品等である経口摂取用組成物として利用することができる。
【0027】
前記飲食品の態様は限定されず、健康食品、栄養補助食品、栄養機能食品、特定保健用食品等の態様であることができる。前記飲食品は、ディル抽出物と、飲食品として許容される他の成分、例えば、果糖ブドウ糖液糖、環状オリゴ糖、酸味料、増粘剤、イノシトール、香料、ナイアシン、酸化防止剤、ビタミン類、甘味料等とを含むことができる。
【0028】
前記医薬品の剤形は特に限定されず、例えば、カプセル剤、錠剤、顆粒剤、注射剤、座薬、貼付剤などの剤形が挙げられる。医薬品又は医薬部外品は、ディル抽出物を、薬剤学的に許容される他の製剤素材、例えば、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、着色剤、凝集防止剤、吸収促進剤、溶解補助剤、安定化剤などと適宜組み合わせて製剤化することにより製造することができる。
【0029】
本発明のPPARリガンド剤、或いは、脂質異常症、糖尿病、肥満、炎症などの予防及び/又は改善剤の投与量又は摂取量は特に限定されず、投与又は摂取の経路、対象となるヒト又は動物の年齢、体重、症状等に応じて適宜設定することができる。例えば、PPARリガンド剤、或いは、脂質異常症、糖尿病、肥満、炎症などの予防及び/又は改善剤が飲食品の形態である場合、1日あたり、有効成分であるディル抽出物換算(ディル抽出物の乾燥物換算重量、以下同じ)で、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重(ヒト又は動物の成体の体重を指す。以下同じ)、より好ましくは0.1〜100mg/kg体重であることができる。飲食品の摂取は1日に1回ないし、数回に分けて行うことができる。PPARリガンド剤、或いは、脂質異常症、糖尿病、肥満、炎症などの予防及び/又は改善剤が医薬品又は医薬部外品の形態である場合、1日あたり、有効成分であるディル抽出物換算で、好ましくは0.01〜1000mg/kg体重、より好ましくは0.1〜100mg/kg体重であることができる。医薬品又は医薬部外品の投与又は摂取は1日に1回ないし、数回に分けて行うことができる。
【0030】
[実施例1]
本発明のディル抽出物を有効成分として含有するPPARリガンド剤のPPARαリガンド活性を確認した。
1.ディルシード抽出物の調製
ディルシード10gを粉砕し、アセトン30mlに浸し室温で一晩抽出した後、ろ過により抽出液を100mg得た。
【0031】
2.PPARαリガンド活性の測定
本発明のPPARリガンド剤のPPARαの活性化能の測定は、Tsuyoshi Gotoら、Biochemical & Biophysical Research Communication 337 (2005) p.440−445、「Phytol directly activates proliferator−activated receptor α (PPARα) and regulates gene expression involved in lipid metabolism in PPARα−expressing HepG2 hepatocytes」のMaterial and methods Luciferase assaysの欄を参照して行った。詳細には、PPARαリガンド活性は、PPARリガンド結合領域とGAL4 DNA結合領域との融合タンパクに対する結合および標的遺伝子活性化をルシフェラーゼの発現で評価するレポーター・アッセイにより測定した。ルシフェラーゼ活性の検出は、FEBS Letters 514 (2002) 315−322に記載されるような、レポータージーンアッセイ法を用いた。具体的には、CV−1細胞に、PPARαリガンド結合領域とGAL4 DNA結合領域の融合タンパク質をコードするDNAを含むプラスミドと、GAL4結合DNA配列にルシフェラーゼをつないだレポータープラスミドを導入し、この細胞に、以下に記載のリガンドを添加して、インキュベートした後にルシフェラーゼ活性の検出を行った。
【0032】
サンプルはDMSO(ジメチルスルホオキシド)を用いて濃度調整を行った。陰性コントロールにはDMSO、陽性対照にはPPARリガンド剤 GW7647(15μg/ml)を用いた。結果を図1に示す。
【0033】
図1から、ディル抽出物に、用量依存的にルシフェラーゼ活性が認められ、PPARαリガンド活性が認められた。
【0034】
[実施例2]
本発明のディル抽出物を含有する脂質異常症等の予防、改善剤の効果を確認した。
1.ディルシード抽出物の調製
ディルシード20kgを粉砕し、ヘキサン35Lに浸し室温で一晩抽出した後、ろ過により抽出液を得た。その抽出液にメタノールを加えて分液し、メタノール層を得た。メタノール層を減圧濃縮して溶媒を除去した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(0〜80%酢酸エチル/ヘキサン)に供して、油状の粗精製画分を2.9g得た。
【0035】
2.糖尿病モデルマウスにおける効果
(1)2型糖尿病モデルマウスであるKKAYマウスを用いて、ディル抽出物の効果を評価した。ディル抽出物として、上記のディルのヘキサン抽出物を使用した。陽性対照には脂質異常症治療薬であるベザフィブラートを使用した。KKAYマウス(KKAY/TaJcl、オス、4週齢で購入し、個別飼育した)を4群(各5匹)に分け、それぞれ普通飼育飼料(ND)で1週間予備飼育し、高脂肪飼料(HFD)を基本飼料として、無添加群(対照群)、ベザフィブラート群、ディル抽出物群を4週間投与し、飼育した。ベザフィブラートは、ベザフィブラート添加量が0.05%(w/w)となるように飼料に添加した。ディル抽出物は、ディル抽出物添加量が0.02%(w/w)又は0.05%(w/w)となるように飼料に添加した。
【0036】
(2)KKAYマウスの体重及び血糖値の推移を測定した。また、実験飼育終了の翌日にKKAYマウスを解剖し、酸素消費量、直腸温度、臓器重量(皮下脂肪)、血漿中の非エステル型脂肪酸値、血漿中の中性脂肪値について測定した。
【0037】
(3)KKAYマウスの体重の推移を図2に示す。陽性対照群及びディル抽出物添加群のマウスの体重は無添加群(対照群)とほぼ同様に推移し、有意な差は認められなかった。KKAYマウスの血糖値の推移を図3に示す。対照群と比較してディル抽出物0.02%で、血糖上昇が有意に抑えられており、強い血糖降下作用が認められた。さらに、ディル抽出物添加量0.05%では、より強い血糖降下作用が認められた。KKAYマウスの暗条件下における酸素消費量、光条件下における酸素消費量及び全酸素消費量の結果を、それぞれ図4(A)、図4(B)及び図4(C)に示す。また、KKAYマウスの直腸温度の結果を図5に示す。対照群と比較し、酸素消費量が増加していることが認められ、直腸温度の上昇も認められた。さらに、ディル抽出物添加群は陽性対照と同等の効果が認められた。この結果は、熱産生が亢進していることを示している。KKAYマウスの臓器重量(皮下脂肪)の結果を図6に、血漿中の非エステル型脂肪酸及び血漿中の中性脂肪の結果を、それぞれ、図7(A)及び図7(B)に示す。臓器重量(皮下脂肪)、血漿中の非エステル型脂肪酸及び血漿中の中性脂肪のいずれもディル抽出物0.02%で対照群と比較して減少しており、ディル抽出物0.05%では、陽性対照と同等の脂質代謝の改善が確認された。
【0038】
(4)以上の結果から、ディル抽出物には陽性対照であるベザフィブラートと同様の効果が認められた。さらに、脂質代謝が確認されていることから、酸素消費量の増加及び直腸温度の上昇により確認された熱産生の亢進は脂質代謝によるものであると言える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディル抽出物を有効成分として含有するペルオキシソーム増殖剤応答性受容体リガンド剤。
【請求項2】
ディル抽出物を含有するヒト又は動物の脂質異常症の予防及び/又は改善剤。
【請求項3】
ディル抽出物を含有するヒト又は動物の糖尿病の予防及び/又は改善剤。
【請求項4】
ディル抽出物を含有するヒト又は動物の肥満の予防及び/又は改善剤。
【請求項5】
ディル抽出物を含有するヒト又は動物の炎症の予防及び/又は改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−95678(P2013−95678A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237786(P2011−237786)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(511262913)
【出願人】(511262533)
【出願人】(511262924)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】