説明

PTC抵抗体

本発明は、ポリマー繊維を含む、ポリマー繊維ベースのPTC抵抗体に関するものであり、前記ポリマー繊維は、共連続ポリマー相ブレンドを含み、前記ブレンドは、第一及び第二の連続ポリマー相を含み、第一ポリマー相は、パーコレーション閾値より上の濃度のカーボンナノチューブの分散体を含み、前記第一ポリマー相は、第二ポリマー相の軟化温度より下の軟化温度を示すことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー繊維ベースのPTC抵抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
正の温度係数(PTC)を持つ抵抗体(サーミスタ)は、特定の温度で抵抗の鋭利な増大を示す、熱に敏感な抵抗体である。前記特定の温度は、PTC転移温度又は切換え温度と一般的に称される。
【0003】
PTC抵抗体の抵抗の変化は、周囲温度の変化によって、又は装置を通って流れる電流から生じる自己加熱によって内部的に生じることができる。PTC材料は、加熱要素を作成するためにしばしば使用される。かかる要素は、それら自身サーモスタットとして作用し、それらが最大温度に到達したときに電流を切る。
【0004】
一般的に使用されるPTC材料は、融解温度での体積の増大により導電性粒子が接触を絶ち、電流を中断するように注意深く制御された量の黒鉛を充填された高密度ポリエチレン(HDPE)を含む。
【0005】
かかる装置は、一般的に、HDPEの融解温度(125℃)より上の温度でのそれらの一体性を維持するために高融解温度材料中に封じ込められる必要がある。
【0006】
HDPEに基づくPTCの制限は、切換え温度が、その材料について利用可能な融解温度の範囲内に制限されるということである。
【0007】
かかる装置の熱安定性を改良するための別の方策は、ポリマー組成物の架橋にある。かかる方策は、例えばWO 01/64785に開示されている。かかる架橋は、ポリマー組成物に化学的架橋剤を添加することによって、又は照射のような物理的方法によって得られることができる。かかる架橋は一般的に、照射設備にかかる高い費用のために、又は化学的架橋を制御する困難さ(プロセス中での早すぎる架橋又は不十分な架橋)のために、工業的プロセスにおいては実行するのが困難である。
【0008】
さらに、かかるPTC装置の通常の形状は、二つの導電性電極の間に封じ込められた平坦なポリマー組成物である。かかる幾何学的形状は、布地又は布中へのかかる装置の封入を妨げる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来技術の欠点を克服するポリマー繊維ベースのPTC抵抗体を提供することを目的とする。
【0010】
より具体的には、本発明は、かさばらず、自立したポリマー繊維ベースのPTC抵抗体を提供することを目的とする。
【0011】
また、本発明は、布地又は布中で使用するのに好適なPTC抵抗体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、共連続ポリマー相ブレンドを含む、ポリマー繊維ベースのPTC抵抗体であって、前記ブレンドが、第一及び第二の連続ポリマー相を含み、第一ポリマー相が、パーコレーション閾値より上の濃度のカーボンナノチューブの分散体を含み、前記第一ポリマー相が、第二ポリマー相の軟化温度より下の軟化温度を示すことを特徴とするポリマー繊維ベースのPTC抵抗体に関する。
【0013】
特に好ましい実施態様によれば、本発明は、以下の特徴の少なくとも一つ又は好適な組み合わせをさらに開示する:
− 前記第一ポリマーが、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキサイド、及びバイオポリエステルからなる群から選択される;
− 前記第二ポリマーが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、及びポリアミドからなる群から選択される;
− 第一ポリマー相が、繊維の40重量%より多い;
− カーボンナノチューブが5〜20nmの直径を好ましくは有する多層カーボンナノチューブである;
− PTC転移温度が30〜60℃である;
− 第一及び第二ポリマー相が、ASTM13432又はASTM52001による生分解性ポリマーである。
【0014】
本発明の別の側面は、本発明によるPTC抵抗体を含む布に関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の繊維の製造のための紡糸プロセスを示す。
【0016】
【図2】図2は、PCL相中に分散された3%CNTを有するPP/PCLブレンド50/50の横断面のSEM分析を示す。
【0017】
【図3】図3は、酢酸を使用したPCL+CNTの選択的な抽出によって測定されたPP又はPAマトリックス中のPCL+CNTの連続性割合のグラフを示す。
【0018】
【図4】図4は、PA12及びPP中のPCLの重量分率の関数としての導電性を示す。
【0019】
【図5】図5は、PCL相の抽出後のPCL相中の3%CNTを有する50/50重量でのPA12/PCLブレンドのSEM写真を示す。
【0020】
【図6】図6は、サンプル9の二つの繊維:バイオポリエステル(BPR)/PPの温度の関数としての抵抗の変化を示す。
【0021】
【図7】図7は、サンプル10の二つの繊維:BPR/PEの温度の関数としての抵抗の変化を示す。
【0022】
【図8】図8は、サンプル3及び4(PCL/PP)の温度の関数としての抵抗の変化を示す。
【0023】
【図9】図9は、サンプル7.8及び9(BPR/PLA)の温度の関数としての抵抗の変化を示す。
【0024】
【図10】図10は、サンプル10(PEO/PP)の温度の関数としての抵抗の変化を示す。
【0025】
【図11】図11は、サンプル11(PEO/PA12)の温度の関数としての抵抗の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、ポリマー繊維ベースのPTC抵抗体に関する。ポリマー繊維ベースのPTC抵抗体は、少なくとも二つの共連続ポリマー相のブレンドを含む。共連続相ブレンドは、二つの連続相を含む相ブレンドを意味する。
【0027】
第一ポリマー相は、カーボンナノチューブのような導電性充填剤を含む。前記第一ポリマー相は、標的PTC転移温度に近い軟化温度を有する。第一相中のPTC転移温度より下の導電性充填剤の濃度は、第一ポリマー相が導電性であるようにパーコレーション閾値より上である。
【0028】
表現「軟化温度」は、ポリマー相が液体になる温度であるとして理解されなければならない。この転移は、ガラス状材料についてのガラス転移温度、又は半結晶材料についての融解温度に相当する。
【0029】
パーコレーション閾値は、連続的な導電性経路が複合体中に形成される最小充填剤濃度である。前記パーコレーション閾値は、増大する充填剤濃度と共に、ブレンドの導電性の鋭利な増大によって特徴付けられる。通常、導電性ポリマー複合体中では、このパーコレーション閾値は、10オーム・cm未満の抵抗率を誘導する充填剤の濃度であるとみなされる。
【0030】
PTC転移温度より高い温度では、第一ポリマー相は、その軟化温度より上であり、従って、第一ポリマー相の機械的特性は、強く低下する。このため、支持材料は、繊維の機械的一体性を維持することが必要である。この支持材料は、第二ポリマー相によって形成される。第二ポリマー相は、PTC転移温度より上の最大使用温度で繊維の物理的一体性を維持するように選択される。従って、第二ポリマー相の軟化温度は、第一ポリマー相の軟化温度より高くなるように常に選択される。
【0031】
繊維は、図1に示されるように紡糸プロセスにおいて製造される。繊維の使用は、いくつかの利点をもたらす。表面積対体積比率は、いくつかの繊維を束にして使用することによって最適化されることができ、熱交換表面積を最適化することができる。繊維は、高性能の布中に含められることができ、様々な幾何学的形状に容易に成形されることができる。
【0032】
ポリマーブレンドの相溶性は、二相系の紡糸性に影響を与える。より具体的には、両方の相の間の付着は、ブレンドの紡糸性を改善する。付着は、本来的に付着するポリマーの対を選択することによって、又は一方のポリマー相に相溶化剤を添加することによって達成されることができる。相溶化剤の例は、無水マレイン酸グラフトポリオレフィン、イオノマー、各相のブロックを含むブロックコポリマーである。凝集も、ブレンドの形態に影響を与える。
【0033】
相の共連続性を可能にするため、二相系の二つの相の間の粘度の比率は、1に近いことが好ましい。共連続性を決定する他のパラメータは、ポリマーの性質(粘度、界面張力、及びこれらの粘度の比率)、それらの体積分率、及び加工条件である。
【0034】
バイオポリマーは、生きている生物によって生産されるか又は生物資源に由来するポリマーである。いくつかのバイオポリマーは生分解性である。生分解性ポリエステルの例は、ポリ乳酸(PLA)である。バイオポリマーの中でも、バイオポリエステルは、細胞内保存材料として幅広い種類の細菌によって生産されることができる。これらのバイオポリエステルは、再生可能な資源から製造されることができる、生分解可能で融解加工可能なポリマーとして、可能な用途について増大した注意を引きつけている。バイオポリエステルの中でも、線状ポリヒドロキシアルカン酸が、最も一般的に使用されるポリマーのファミリーを表わす。PHBのポリ−3−ヒドロキシブチル酸形態が、たぶん最も一般的な種類のポリヒドロキシアルカン酸であるが、このクラスの他の多くのポリマーが、様々な生物によって生産される。これらは、ポリ−4−ヒドロキシブチル酸(P4HB)、ポリヒドロキシバレリアン酸(PHV)、ポリヒドロキシヘキサン酸(PHH)、ポリヒドロキシオクタン酸(PHO)、及びそれらのコポリマーを含む。
【0035】
熱可塑性バイオポリマーのこのファミリーのメンバーは、ぶらさがっているアルキル基Rのサイズ及びポリマーの組成に応じて、堅固でもろいプラスチックから、良好な衝撃特性を有する柔軟なプラスチック、そして強靭なエラストマーまでそれらの材料特性の変動を示すことができる。材料特性のこの変動性は、後述するような低融解温度の脂肪族ポリエステルから、高融解温度のポリエステルまで、所定の用途についての転移温度を正確に選択することを可能にする。
【実施例】
【0036】
実施例は、以下のものを含むブレンドに関する:
− 第一ポリマー相としてのポリ(ε−カプロラクトン)(PCL)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、及びBPR;
− 第二ポリマー相としてのポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリ乳酸(PLA)、及びポリアミド12(PA12);
− カーボンナノチューブ(CNT)。
【0037】
PCL、即ちSolvayからのCAPA6800は、約60℃の比較的低い融解温度を有する生分解性ポリマーである。ポリエチレンオキサイドは、Sigma Aldrichによって提供された。その商品名はPEO 181986であり、65℃の融解温度を有する。BPRは、JAOC(2009)に掲載された「Novel aliphatic polyesters based on oleic diacid D18:1,synthesis,epoxidation,cross−linking and biodegradation」にF.Laflecheらによって記述されているように、植物油から合成されたバイオポリエステルである。このポリマーは、約35℃の融解温度を有する。
【0038】
DOWからのH777−25Rという種類のPPが選択された(Tm〜165−170°C)。PEは、Arkemaからの低密度ポリ(エチレン)LDPE Lacqtene(登録商標)1200MNである(Tm〜110°C)。PLAは、Biomerからのポリ(乳酸)L9000である(Tm〜178°C)。PA12は、EMS−ChemieからのGrilamid L16Eであった。これらのPP,PE,PLA及びPA12は、紡糸タイプのものであり、ブレンドの良好な紡糸性に導くにちがいない。
【0039】
これらのポリマーとNanocylからのカーボンナノチューブ(CNT)の様々な重量との複合体は、様々な重量分率で調製された。カーボンナノチューブは、直径5〜20nm、好ましくは6〜5nmで比表面積100〜600m/g、好ましくは100〜400m/gの多層カーボンナノチューブである。
【0040】
繊維の製造は、二工程プロセスで行われた。第一工程では、カーボンナノチューブは、二軸スクリュー配合押出機で第一ポリマー中に分散された。得られた押出し物は、次にペレット化され、第二ポリマーとドライブレンドされた。
【0041】
得られたドライブレンドは、次に、図1に示されるように紡糸ダイに供給する一軸スクリュー押出機のホッパーに供給された。図1に相当する様々な領域の温度が表1にまとめられている。温度は、所定の第二ポリマー相について固定された。

さらなる実験のために調製されたPTCの組成が表2にまとめられている。

【0042】
マルチフィラメント糸を得るために溶融紡糸機(Busschaert Engineeringによって製造されたSpinboy I)が使用された。マルチフィラメント糸は、紡糸油剤で被覆され、延伸比率を制御するために異なる速度(S1及びS2)を有する二つのロールに巻き上げられた。マルチフィラメント糸の理論的な延伸は、比率DR=S2/S1によって与えられる。繊維紡糸中、ナノチューブを含む溶融ポリマーは、ポリマーの種類に応じて400μm又は1.2mmの直径を有するダイヘッドを通して押し出され、次に一連のフィルターを通して押し出された。紡糸可能なブレンドを得るためにいくつかのパラメータがプロセス中に最適化された。これらのパラメータは主に、加熱領域の温度、体積ポンプ速度、及びロール速度であった。
【0043】
選択的な抽出によるPCL相の連続性の決定
PP/PCL及びPA12/PCLブレンドの共連続性の拡張された研究が実施された。一つの相の選択的な抽出は、混合物の共連続性の良好な推定を与える。これは、酢酸中へのPCLの溶解によって達成された。この溶媒は、PA12及びPPに対して何の影響も与えない。もし混合物が小節構造を有するなら、PCL含有物は、溶媒によって影響を受けず、溶解しないだろう。次に、PCL相の連続性の割合が、重量損失測定によって演繹された。
【0044】
可溶性のPCLポリマー相を除去するため、各ブレンドの繊維は、室温で2日間、酢酸中に浸漬された。抽出されたストランドは、次に酢酸中で洗浄され、50℃で乾燥されて酢酸が除去された。抽出プロセスを数回繰り返した後、サンプル重量は、一定値に収束した。
【0045】
相の連続性は、ブレンド中の初期PCLの濃度に対する可溶性PCLポリマー部分の比率を使用して計算された。ただし、可溶性PCL部分は、抽出前後のサンプル重量の差である。
【0046】
ブレンド中のPCL部分は、以下の式を使用して計算される:
PCLの%連続性=((PCLの初期重量−PCLの最終重量)/PCLの初期重量)×100%
結果は、図3に示される。図3は、PCLの連続性がPA12中で約40%のPCLに到達し、PP中で約30%のPCLに到達したことを示す。
PTC測定
電気抵抗の測定は、Keithleyマルチメータ2000を、変化する温度で使用して行われた。繊維の抵抗は、10sごとに測定された。次に、相対振幅が(R−R0)/R0として定義された。ただし、R0は、複合体の初期抵抗(即ち、20℃での抵抗)である。
【0047】
様々なサンプルで得られた相対振幅は、図6〜11に示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー繊維を含む、ポリマー繊維ベースのPTC抵抗体であって、前記ポリマー繊維が、共連続ポリマー相ブレンドを含み、前記ブレンドが、第一及び第二の連続ポリマー相を含み、第一ポリマー相が、パーコレーション閾値より上の濃度のカーボンナノチューブの分散体を含み、前記第一ポリマー相が、第二ポリマー相の軟化温度より下の軟化温度を示すことを特徴とするポリマー繊維ベースのPTC抵抗体。
【請求項2】
前記第一ポリマーが、ポリカプロラクトン、ポリエチレンオキサイド、及びバイオポリエステルからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のポリマー繊維ベースのPTC抵抗体。
【請求項3】
前記第二ポリマーが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ乳酸、及びポリアミドからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリマー繊維ベースのPTC抵抗体。
【請求項4】
第一ポリマー相が、繊維の40重量%より多いことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポリマー繊維ベースのPTC抵抗体。
【請求項5】
カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のポリマー繊維ベースのPTC抵抗体。
【請求項6】
前記多層カーボンナノチューブが、5〜20nmの直径を有することを特徴とする、請求項5に記載のポリマー繊維ベースのPTC抵抗体。
【請求項7】
PTC転移温度が30〜60℃であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のポリマー繊維ベースのPTC抵抗体。
【請求項8】
第一及び第二ポリマー相が、ASTM13432又はASTM52001による生分解性ポリマーであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のポリマー繊維ベースのPTC抵抗体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリマー繊維ベースのPTC抵抗体を含むことを特徴とする布。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2013−513246(P2013−513246A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−542418(P2012−542418)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066164
【国際公開番号】WO2011/069742
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(507201223)ナノシル エス.エー. (8)
【出願人】(512140027)ユニヴェルシテ ドゥ ブレターニュ スッド (2)
【Fターム(参考)】