説明

RGMおよびそのモジュレーターの用途

【課題】多くの生理学的傷害または損傷が細胞の移動プロセスの変化に関連する事実を考慮し、病気の状態をもたらす発達または細胞(移動)プロセスの変化を修飾する手段および方法の提供。
【解決手段】脈管形成障害または心血管系の障害もしくはそれに関連する発作に関連する脊椎動物神経組織の変性または損傷に関連した疾患もしくは病状を予防、軽減または治療するための医薬組成物を製造するための該アミノ酸配列を有するかもしくは含むポリペプチドまたはその機能的断片もしくは誘導体、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは断片もしくは誘導体のモジュレーターの用途。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈管(血管)形成障害または心血管系の障害に関連する脊椎動物神経組織の変性または損傷に関連した疾患もしくは病状を予防、軽減または治療するための、医薬組成物を製造するための本明細書に開示したアミノ酸配列を有するかもしくは含むポリペプチドまたはその機能的断片もしくは誘導体、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは断片もしくは誘導体のモジュレーターの用途(使用)に関する。さらに、本発明は、脈管形成障害または心血管系の障害に関連する発作に関連する脊椎動物神経組織の変性または損傷に関連した疾患もしくは病状を予防、軽減または治療するための医薬組成物を製造するための該アミノ酸配列を有するかもしくは含むポリペプチドまたはその機能的断片もしくは誘導体、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは断片もしくは誘導体のモジュレーターの用途を提供する。さらに、本発明は、腫瘍増殖または腫瘍の転移形成を予防もしくは治療するための医薬組成物を製造するための、または幹細胞のマーカーとしての該ポリペプチドまたはその機能的断片もしくは誘導体の用途を提供する。
【0002】
本明細書の本文を通して種々の文献を引用している。本明細書に記載の各文献の開示内容(あらゆる製造業者の仕様書、使用説明書などを含む)は本明細書の一部を構成する。
【背景技術】
【0003】
胎児(胚)神経系の形成における最も重要なメカニズムは、ディレクショナル・ガイダンス・キュー (directional guidance cues)による軸索および成長円錐の誘導である (Goodman、Annu. Rev. Neurosci. 19 (1996)、341-77; Mueller、Annu. Rev. Neurosci 22、(1999)、351-88)。このガイダンス工程を研究するのに適したモデル系が脊椎動物動物の網膜視蓋(retinotectal)系である。ニワトリ胎児(胚)において、約200万個の網膜神経節細胞(RGC)の軸索が各眼から出発し、対側視蓋(contralateral tectum opticum)に向かって成長し、精密なマップ(地図)を形成する(Mey & Thanos、(1992); J. Hirnforschung 33,673-702)。視蓋の前極に到着したら、RGC軸索は、その蓋の標的に侵入を開始し、その標的ニューロンをみいだす。マッピングは、鼻部(nasal)網膜由来のRGC軸索は後蓋(posterior tectum)に、また側頭(temporal)軸索は前蓋(anterior tectum)に突出するように生じる。背腹軸に沿って、背側網膜由来の軸索は腹側蓋で終わるが、腹側網膜由来の軸索は背側蓋で終わる。最終的に、精密な組織分布(topograpic)地図(マップ)が形成され、網膜シナプス中の隣接神経節細胞由来の軸索と蓋ニューロンが隣接するように網膜の近隣関係が蓋に保存される。この地図を形成するために最も重要なものは、段階的分布も示す、対応レセプターを保持する網膜成長円錐により読み取られる段階的蓋ガイダンス・キューである(Sperry、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 50 (1963)、703-710; Bonhoeffer & Gierer、Trends Neurosci. 7 (1984) 378-381)。したがって、蓋野の各網膜成長円錐の位置は、二組の勾配、すなわち内方に成長する網膜軸索および成長円錐上のレセプター勾配ならびに蓋細胞上のリガンド勾配により決定される(Gierer、Development 101 (1987)、479-489)。段階的蓋リガンドの存在は、解剖学的研究から仮定されてきたが、その同定はきわめて困難であると考えられ、単純なin vitro系の開発によってのみ可能になった(Walter; Development 101 (1987)、685-96; Cox、Neuron 4 (1990)、31-7)。ストライプ(stripe)アッセイにおいて、RGC軸索は、前(a)蓋膜と後(p)蓋膜の交互レーンからなる膜カーペット上に成長する。このカーペット上では、側頭部網膜軸索は前蓋膜上に成長し、後レーンにより拒絶されるが、鼻部軸索はa膜とp膜を区別しない (Walter、Development 101 (1987)、685-96)。同じ特異性は、成長円錐崩壊アッセイでも観察され(Raper & Kapfhammer、 Neuron 4 (1990)、21-29)、側頭部網膜成長円錐は後蓋膜ベジクル添加後に崩壊するが前蓋ベジクルとは反応せず、鼻部成長円錐はいずれのタイプのベジクルにも非感受性である(Cox、(1990)、loc. cit.)。両アッセイ系において、グリコシルホスファチジルイノシトール (GPI)結合タンパク質の脂質アンカーを開裂する酵素、ホスファチジルイノシトール特異的ホスホリパーゼC (PI-PLC)による後蓋膜の処理はそのリペレント(repellent)な崩壊誘導活性を除去した(Walter、J. Physiol 84 (1990)、104-10)。
【0004】
ニワトリ胚の網膜視蓋系において同定された最初のレパルシブ(repulsive)なガイダンス分子の1つは、分子量33/35 kDaのGPI固定(アンカード)糖タンパク質であった (Stahl、Neuron 5 (1990)、735-43)。この33/35 kDa分子(その後、RGM (Repulsive Guidance Molecule:レパルシブなガイダンス分子と呼ばれた)は、ストライプアッセイおよび崩壊アッセイの両方で活性であり、ヒヨコおよびラットの胚蓋の前低後高勾配中に発現することが示された(Mueller、Curr. Biol. 6 (1996)、1497-502; Mueller、Japan Scientific Societies Press (1997)、215-229)。RGMの異常な生化学的挙動により、精密なアミノ酸配列は得られなかった。RGMは、脊椎動物の発生(発達)の間、活性である分子と説明された。興味深いことに、RGMはE12後にニワトリ胚蓋で、またP2後にラット胚蓋において下方調節(downregulate)され、胚の段階後に完全に消失する (Mueller (1992)、Ph. D the University of Tuebbingen ; Mueller (1997) Japan Scientific Societies、215-229)。1996年に、Mueller (loc. cit.)は、RGMのCALI (発色団補助レーザー不活化):chromophore-assisted laser inactivation)が後蓋膜/RGMのレパルシブなガイダンス活性を排除することを示した。しかしながら、他のガイダンス分子、特にRAGS (レパルシブな軸索ガイダンスシグナル)およびELF-1 (Ephリガンドファミリー1)の存在により、ガイダンスの完全排除は必ずしも検出されるとは限らず、RGMはRAGS (現在、エフリン-A5という)およびELF-1 (エフリン-A2)と協調して作用すると考えられた。さらに、RGMは、胚ガイダンス事象におけるRAGSおよびELF-1 の活性を増強する補助因子であるかもしれないと予想された。
【0005】
1980/81年に、Aguayoのグループは、末梢ニューロンは成体の受傷CNSに移植(transplanted/grafted)されるときにCNSニューロンの軸索の成長が誘導されることを見出した(David、Science 214 (1981)、931-933)。したがって、適切な環境が与えられれば、CNSニューロンは神経突起の伸長および/または再生の能力と可能性を依然として有するものと推測される。さらに、「CNS-ニューロン再生インヒビター」が存在するかもしれないと推測された。
【0006】
1988年に、CaroniおよびSchwab (Neuron 1、85-96)は、ラットCNSミエリンから単離された35kDaおよび250kDaの2つのインヒビターについて記載した(NI-35およびNI-250; Schnell、Nature 343 (1990) 269-272; Caroni、J. Cell Biol. 106 (1988)、1291-1288も参照)。
【0007】
2000年に、NI-220/250をコードするDNAが推定され、対応する強力な神経突起の成長のインヒビターがNogo-Aと名づけられた (Chen、Nature 403 (2000)、434-438)。膜結合Nogoはレティキュロン(reticulon)ファミリーのメンバーであることが解った(GrandPre、Nature 403 (2000)、439-444)。
【0008】
さらに、神経成長の阻害に介在する因子は、最初にグラスホッパーにおいて単離され、「ファシクリン(fasciclin)IV」および後にニワトリで「コラプシン(collapsin)」と名づけられた。これらインヒビターは、いわゆるセマホリンファミリーに属する。セマホリンは、広範な種で報告され、貫膜タンパク質と説明されてきた (特に、Kolodkin Cell 75 (1993) 1389-99、Pueschel、Neuron 14 (1995)、941-948参照)。さらに、すべてのセマホリンが阻害活性を持つわけではないことも示された。該ファミリーのいくつかのメンバー、例えばセマホリンEは皮質の軸索に対する魅力的なガイダンスシグナルとして作用する(Bagnard、Development 125 (1998)、5043-5053)。
【0009】
レパルシブなガイダンス分子のさらなる系はエフリン-Eph系である。エフリンはEphレセプターキナーゼのリガンドであり、神経組織分布地図の発達を導く位置的ラベルとして関与する(Flanagan、Ann. Rev. Neurosc. 21 (1998)、309-345)。エフリンは、グリコシルホスファチジルイノシトール-アンカー (GPIアンカー)により膜に結合するA-エフリンと、貫膜ドメインを保持するB-エフリンの2つのクラスにグループ分けされる(Eph命名委員会1997)。 視蓋中の前低後高勾配中に発現するA-エフリンの2つのメンバー、エフリン-A2およびエフリン-A5は、in vitroおよびin vivoでの網膜神経節細胞軸索のレパルシブなガイダンスに関与することが最近示された(特に (Drescher、Cell 82 (1995)、359-70; Cheng、Cell 79 (1994)、157-168; Feldheim、Neuron 21 (1998)、563-74; Feldheim、Neuron 25 (2000)、563-74参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】USP 4,946,778
【特許文献2】EP-B1 0 291 533
【特許文献3】EP-A1 0 321 201
【特許文献4】EP-A2 0 360 257
【特許文献5】EP-0 963 376
【特許文献6】WO 98/25947
【特許文献7】WO 00/02911
【特許文献8】US 6,004,746
【特許文献9】USP 4,946,778
【特許文献10】US 5,525,490
【特許文献11】WO 99/51741
【特許文献12】WO 00/17221
【特許文献13】WO 00/14271
【特許文献14】WO 00/05410
【特許文献15】WO 94/29469
【特許文献16】WO 97/00957
【特許文献17】WO 97/00957
【特許文献18】US 5,580,859
【特許文献19】US 589,66
【特許文献20】US 4,394,448
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Goodman、Annu. Rev. Neurosci. 19 (1996)、341-77
【非特許文献2】Mueller、Annu. Rev. Neurosci 22、(1999)、351-88
【非特許文献3】Mey & Thanos、(1992); J. Hirnforschung 33,673-702
【非特許文献4】Sperry、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 50 (1963)、703-710
【非特許文献5】Bonhoeffer & Gierer、Trends Neurosci. 7 (1984) 378-381
【非特許文献6】Gierer、Development 101 (1987)、479-489
【非特許文献7】Walter; Development 101 (1987)、685-96
【非特許文献8】Cox、Neuron 4 (1990)、31-7
【非特許文献9】Raper & Kapfhammer、 Neuron 4 (1990)、21-29
【非特許文献10】Walter、J. Physiol 84 (1990)、104-10
【非特許文献11】Mueller、Curr. Biol. 6 (1996)、1497-502
【非特許文献12】Mueller、Japan Scientific Societies Press (1997)、215-229
【非特許文献13】Mueller (1992)、Ph. D the University of Tuebbingen
【非特許文献14】Mueller (1997) Japan Scientific Societies、215-229
【非特許文献15】David、Science 214 (1981)、931-933
【非特許文献16】Caroni and Schwab Neuron 1 (1988)、85-96
【非特許文献17】Schnell、Nature 343 (1990) 269-272
【非特許文献18】Caroni、J. Cell Biol. 106 (1988)、1291-1288
【非特許文献19】Chen、Nature 403 (2000)、434-438
【非特許文献20】GrandPre、Nature 403 (2000)、439-444
【非特許文献21】Kolodkin Cell 75 (1993) 1389-99
【非特許文献22】Pueschel、Neuron 14 (1995)、941-948
【非特許文献23】Bagnard、Development 125 (1998)、5043-5053
【非特許文献24】Flanagan、Ann. Rev. Neurosc. 21 (1998)、309-345
【非特許文献25】Drescher、Cell 82 (1995)、359-70; Cheng、Cell 79 (1994)、157-168
【非特許文献26】Feldheim、Neuron 21 (1998)、563-74
【非特許文献27】Feldheim、Neuron 25 (2000)、563-74
【非特許文献28】Sambrook (Molecular Cloning; A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbour Laboratory Press、Cold Spring Harbour、NY (1989)
【非特許文献29】Ausubel、「Current Protocols in Molecular Biology」、Green Publishing Associates, and Wiley Interscience、N. Y. (1989)
【非特許文献30】Nielsen、Science 254 (1991)、1497-1500
【非特許文献31】Routbort、Neuroscience 94 (1999)、755-765
【非特許文献32】Harlow and Lane「Antibodies、A Laboratory Manual」、CSH Press、Cold Spring Harbor、1988
【非特許文献33】Koehler and Milstein、Nature 256 (1975)、494-496
【非特許文献34】J. G. R. Hurrel、ed.、「Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques and Applications」、CRC Press Inc.、Boco Raron、FL (1982)
【非特許文献35】L. T. Mimms et al.、Virology 176 (1990)、604-619
【非特許文献36】Famulok、Curr. Op. Chem. Biol. 2 (1998)、320-327
【非特許文献37】Gold、Ann. Rev. Biochem. 64 (1995)、763-797
【非特許文献38】Santoro、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94 (1997)、4262
【非特許文献39】Steinecke、Ribozymes、Methods in Cell Biology 50、Galbraith、eds. Academic Press、Inc. (1995)、449-460
【非特許文献40】Sharp、Genes and Dev. 13 (1999)、139-141
【非特許文献41】Kasus-Jacobi、Oncogene 19 (2000)、2052-2059
【非特許文献42】McNamara、Nat. Suppl. 399 (1999)、A15-A22
【非特許文献43】Tanelian、Nat. Med. 3 (1997)、1398-1401
【非特許文献44】Charron、J. Biol. Chem 270 (1995)、25739-25745
【非特許文献45】Giordano、Nature Medicine 2 (1996)、534-539
【非特許文献46】Isner、Lancet 348 (1996)、370-374
【非特許文献47】Muhlhauser、Circ. Res. 77 (1995)、1077-1086
【非特許文献48】Schaper、Circ. Res. 79 (1996)、911-919
【非特許文献49】Anderson、Science 256 (1992)、808-813
【非特許文献50】Wang、Nature Medicine 2 (1996)、714-716
【非特許文献51】Schaper、Current Opinion in Biotechnology 7 (1996)、635-640
【非特許文献52】Verma、Nature 389 (1997)、239-242
【非特許文献53】Bloemer、J. Virology 71 (1997) 6641-6649
【非特許文献54】Geddes、Front Neuroendocrinol. 20 (1999)、296-316
【非特許文献55】Geddes、Nat. Med. 3 (1997)、1402-1404
【非特許文献56】Meier (1999)、J. Neuropathol. Exp. Neurol. 58、1099-1110
【非特許文献57】Davis (1994)、Science 266,816-819
【非特許文献58】Walter et al.、Development 101(1987)、685-96
【非特許文献59】Wilm、Nature 379(1996)、466-9
【非特許文献60】HeukeshovenおよびDernick(Heukeshoven & Dernick、Electrophoresis 9 ,(1988)、372-375
【非特許文献61】Wilm and Mann, Anal. Chem. 68(1996)、1-8
【非特許文献62】Ruoshlahti、Annu. Rev. Cell Dev .Biol .12(1996)、697-715
【非特許文献63】Wahl、J. Cell Biol. 149(2)(2000)、263-70
【非特許文献64】Drescher、Cell 82(1995)、359-70
【非特許文献65】Nakamoto、Cell 86(1996)、755-66
【非特許文献66】Frisen、Neuron 20(1998)、235-43
【非特許文献67】Feldheim、Neuron 21(1998)、563-74
【非特許文献68】Picker、Development 126(1999)、2967-78
【非特許文献69】Feldheim、Neuron 25(2000)、563-74
【非特許文献70】Brown、Cell 102(2000)、77-88
【非特許文献71】Goodhill、Neuron 25(2000)、501-3
【非特許文献72】Reifers、Development 125(1998)、2381-95
【非特許文献73】Beschorner、Acta Neuropathol. 100 (2000)、377-384
【非特許文献74】Graham、「Greenfield's Neuropathology.」 D. I. Graham and P. L. Lantos (eds)、6th. Edn.、Edward Arnold、London (1996)、pps. 197-248
【非特許文献75】Kalimo、Greenfield's Neuropathology 6th. Edn. Arnold、London Sydney Auckland (1996)、pp 315-381
【非特許文献76】Kato、Brain Pathol.、10 (2000)、137-143
【非特許文献77】Postler、Glia 19 (1997)、27-34
【非特許文献78】Schwab、Acta Neuropathol. 99 (2000)、609-614
【非特許文献79】Stoll、Prog. Neurobiol. 56 (1998)、149-171
【非特許文献80】Streit、Prog. Neurobiol. 57 (1999)、563-581
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
多くの生理学的障害または損傷が細胞の移動プロセスの変化に関連する事実を考慮し、本発明の根本的な技術的課題は、病気の状態をもたらす発達または細胞(移動)プロセスの変化を修飾する手段および方法を提供することであった。
【0013】
したがって、本発明は、脊椎動物神経組織の変性または損傷に関連し、脈管(血管)形成障害または心血管系の障害に関連し、腫瘍形成および腫瘍増殖に関連する疾患もしくは病状を予防、軽減または治療するための医薬組成物を製造するための配列番号18、20、23、または25のアミノ酸配列を有するかもしくは含むポリペプチドまたはその機能的断片もしくは誘導体、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは断片もしくは誘導体のモジュレーターの用途に関する。
【0014】
本発明の文脈において、また添付の実施例に示すように、驚くべきことに、レパルシブなガイダンス分子 (RGM)は脊椎動物の発生中に発現するたけでなく、成体組織、特に損傷した成体組織に再発現することがわかった。特に、驚くべきことに、RGMは神経組織の損傷後、外傷性事象または限局性虚血後に再発現することがわかった。本発明は、RGMの完全ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸を提供する(例えば、ニワトリのRGM配列を示す配列番号17または18、またはヒトRGM相同体を示す配列番号20〜25参照)。先に指摘したようにRGMは、GPIアンカーにより膜と結合した糖タンパク質である。該GPIアンカーは、交叉反応性決定基(CRD)エピトープも保持し、その炭化水素部分はピーナッツレクチンと結合し得る。本明細書に記載ごとく、RGMタンパク質は、有力な成長インヒビターであり、ピコモルの濃度で神経突起成長阻害の状態にすることができる。
【0015】
本明細書で用いている用語「モジュレーター」は、RGM機能の「インヒビター」および「アクチベーター」に関する。最も好ましくは、該「モジュレーション(調節)」は阻害であり、該阻害は部分的または完全阻害であってよい。
【0016】
本明細書で用いている用語「配列番号18、20、23、または25のアミノ酸配列」は、RGM (レパルシブなガイダンス分子)のアミノ酸配列、およびそれぞれニワトリまたはヒトのRGMポリペプチドに関する。特に、配列番号20および21はヒトRGM1を示す。ヒトRGM1は、15番染色体に局在する。さらに、ヒトRGMはRGM2およびRGM3を含む。RGM2は配列番号23 (アミノ酸配列)に示され、配列番号22に示すヌクレオチド配列によりコードされる。ヒトRGM2は5番染色体に局在している。さらに、ヒトRGM3は添付の配列番号25(アミノ酸配列)に示され、配列番号24に示すヌクレオチド配列によりコードされる。ヒトRGM3は1番染色体に局在している。さらに以下に記載するように、該用語はさらにRGM相同体にも関する。
【0017】
本発明によれば、用語「(ポリ)ペプチド」は、特定の長さのアミノ酸鎖を含むペプチド、タンパク質、または(ポリ)ペプチド(アミノ酸残基は共有ペプチド結合により結合する)を意味する。しかしながら、該RGMタンパク質/(ポリ)ペプチドのペプチド模倣物(ここで、アミノ酸および/またはペプチド結合は機能的類似体により置換されている)も本発明に含まれる。
【0018】
本発明は、ヒト、マウス、またはニワトリ由来のRGMおよびそのインヒビターに制限されないが、他の種由来のRGMのインヒビターまたはRGMそれ自身(またはその機能的断片もしくは誘導体)の用途に関する。本発明はRGMのアミノ酸配列/ポリペプチドおよびその対応するインヒビターの用途を提供するものであり、また、ヒトおよびニワトリRGMのアミノ酸配列は本明細書に開示されているので、当業者には、特にマウス、ラット、ブタなどのような他の種由来のRGM配列を得るための情報が提供される。関連する方法は当該分野で知られており、特にPCR技術において縮重および非縮重プライマーを用いる標準的方法により実施することができよう。
【0019】
該分子生物学的方法は当該分野でよく知られており、例えば、Sambrook (Molecular Cloning; A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbour Laboratory Press、Cold Spring Harbour、NY (1989))、およびAusubel、「Current Protocols in Molecular Biology」、Green Publishing Associates; and Wiley Interscience、N. Y. (1989)に記載されている。
【0020】
さらに、本発明の文脈において用いているように、用語「RGM」、「RGMモジュレーター」、および「RGMインヒビター」は、本明細書に記載のRGM分子 (およびそのインヒビター)の変異体または相同体であるRGM分子(およびその対応インヒビター)にも関する。この文脈において「相同性」は、この文脈においてアミノ酸レベルで少なくとも70%、好ましくは80%以上の、さらにより好ましくは90%以上の配列同一性を表すと理解される。しかしながら、本発明は本明細書に記載のヒトまたはニワトリRGMの野生型アミノ酸配列から逸脱した(ポリ)ペプチドを含む(ここで、該逸脱(deviation)は、例えばアミノ酸および/またはヌクレオチドの置換、欠失、付加、挿入、重複、逆位(inversion)および/または組換えの単独または組み合わせの結果であってよい。)。該逸脱は天然に生じるか、または当該分野でよく知られている組換えDNA技術により生成してもよい。用語「変異」には、本明細書で用いている「アレル変異体」も含まれる。これらアレル変異は、天然のアレル変異体、スプライス変異体、および合成もしくは遺伝子組換え変異体であってよい。
【0021】
本発明によれば、用語「ポリヌクレオチド」は、コーディング、および適用可能であれば非コーディング配列(プロモーター、エンハンサーなどのような)を含む。該用語はDNA、RNA、およびPNAを含む。本発明によれば、用語「ポリヌクレオチド/核酸分子」は、核酸プローブがハイブリダイズする核酸のあらゆる可能な誘導体も含む。該核酸プローブそれ自身は、核酸分子またはその該誘導体とハイブリダイズすることができる該核酸分子の誘導体であってよい。 用語「核酸分子」は、さらにアミドバックボーン結合を有するDNA類似体を含むペプチド核酸 (PNAs)を含む (Nielsen、Science 254 (1991)、1497-1500)。本発明においてRGM (ポリ)ペプチドまたはその機能的断片/誘導体をコードする用語「核酸分子」は、(a)本発明において特定された該(ポリ)ペプチドをコードする特異的核酸配列、または(b) (a)のヌクレオチド配列の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする、1またはそれ以上のヌクレオチドの置換、欠失、付加または逆位により(a)の核酸から逸脱した(ポリ)ペプチドをコードする核酸配列(ここで該ヌクレオチド配列は先に定義したアミノ酸配列とRGM (またはその機能的断片/誘導体)としての機能を有する該コードされたRGM(ポリ)ペプチドのヌクレオチド配列と少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%の同一性を示す。)により定義される。
【0022】
本明細書で用いている用語「モジュレーター」は、本明細書で先に記載の用語「インヒビター(阻害物質)」を含む。
【0023】
したがって、用語「配列番号18、20、23、または25のアミノ酸配列を有するかまたは含むポリペプチドまたはその機能的断もしくは誘導体のインヒビター」は、ヒトまたはニワトリRGMの特異的インヒビターのみならず、他の種のRGM (またはその機能的断片もしくは誘導体) のインヒビターにも関するものである。有用なインヒビターは本明細書に開示され、下記および添付の実施例に記載されている。
【0024】
用語「インヒビター」には、RGMポリペプチドおよび/またはRGMをコードする核酸分子/遺伝子の「モジュレーター」も含まれる。本発明の文脈において、所望であれば該「モジュレーション」はRGMの活性化をもたらすことも想定される。
【0025】
本発明の文脈において、また本明細書に記載のRGM分子に関して用語「その機能的断もしくは誘導体」は、長さが少なくとも25、より好ましくは少なくとも50、より好ましくは少なくとも75、さらにより好ましくは少なくとも100アミノ酸の本明細書に定義したRGM分子の断片を含む。
【0026】
本明細書において同定されたRGM分子または他の種のRGM分子(ホモローガスなRGM)の機能的断片は融合および/またはキメラタンパク質を含んでいてよい。「機能的断片」は、対応アッセイ(本明細書に添付の実施例に開示した、例えば崩壊および/またはストライプアッセイ)においてRGM完全長分子を置換することができるか、または抗RGM特異的免疫応答を説明することができ、そして/または特異的抗RGM抗体をもたらすRGM断片(またはそのコーディング核酸分子)が含まれる。そのような「機能的断片」の例には、特に、配列番号19に示すニワトリRGMの機能的断片がある。本発明の文脈において、RGMおよび/またはその誘導体の機能的断片をコードするポリヌクレオチドは、好ましくは少なくとも15、より好ましくは少なくとも30、より好ましくは少なくとも90、より好ましくは少なくとも150、より好ましくは少なくとも300個のヌクレオチドを有する。本発明の文脈において用語「誘導体」は、RGM分子の誘導体および/またはそのコーディング核酸分子を意味し、天然の誘導体 (アレル変異体のような)、および少なくとも1個の修飾/突然変異、例えば少なくとも1個の、欠失、置換、付加、逆位、または重複により本明細書に記載のRGM分子と異なり得る、組換えにより作製した誘導体/変異体を表す。用語「誘導体」は、化学修飾も含む。RGM分子の文脈において本明細書で用いている用語「誘導体」は、いかなる膜固定も含まない可溶性RGM分子も含む。
【課題を解決するための手段】
【0027】
先に記載のごとく、本発明は、神経系の種々の障害、脈管形成障害、または心血管系の障害、および種々の病因の悪性腫瘍を予防、軽減、または治療するための医薬組成物を製造するためのRGM分子および/またはその対応するコーディングポリヌクレオチド/核酸分子のモジュレーター、好ましくはインヒビターの用途を提供する。
【0028】
好ましい態様において、該神経系の該障害は、脊椎動物神経組織の変性もしくは損傷、特に、神経変性疾患、神経繊維損傷、および神経繊維損失に関連した障害を含む。
【0029】
該神経変性疾患は、運動神経疾患(MND)、筋萎縮性側索硬化症 (ALS)、アルツハイマー病、パーキンソン病、進行性球麻痺、進行性筋萎縮症、HIV関連性痴呆および脊髄性筋萎縮症、ダウン症候群、ハンチントン病、クロイツフェルトヤコブ病、Gerstmann-Straeussler症候群、クール、スクレイピー、伝染性ミンク脳症、他の未知のプリオン病、多系統アトロフィー、Riley-Day家族性自律神経失調症からなる群から選ばれてよく、該神経繊維損傷は、脊髄損傷、頭蓋内圧亢進に関連する脳損傷、外傷、頭蓋内圧亢進による二次的損傷、感染症、梗塞、毒性物質への暴露、悪性腫瘍、および腫瘍随伴症候群からなる群から選ばれてよく、また、該神経繊維損失に関連した障害は、顔面神経、正中神経、尺骨神経、腋窩神経、長胸神経、橈骨神経、および他の末梢神経の不全麻痺、ならびに他の(ヒト)中枢および末梢神経系の後天性および非後天性疾患からなる群から選ばれてよい。
【0030】
上記脊髄および脳損傷は、外傷性損傷を含むのみならず、脳卒中、虚血などにより生じる損傷にも関する。特に、以下に定義したインヒビター(特に抗RGM抗体を含む)は、個体、特に、脊椎動物動物、最も好ましくはヒトにおける神経繊維の成長を増強するために医薬分野で用いられるものと考えられる。
【0031】
本発明のより好ましい態様において、本発明は、例えば、血液脳関門の障害、脳水腫、頭蓋内圧亢進による二次的脳損傷、感染症、梗塞、虚血、低酸素症,低血糖症、毒性物質への暴露、悪性腫瘍、腫瘍随伴症候群を含む、心血管系の障害を治療するための医薬組成物を製造するためのRGM(またはその機能的断もしくは誘導体)のモジュレーター、好ましくはインヒビターの用途を提供する。
【0032】
理論に縛られることなく、RGMインヒビターは生存するニューロンを刺激して側枝繊維を病気の組織、例えば虚血組織に突出させることができると考えられる。
【0033】
添付の実施例に示すように、RGMは、被検動物(ラットのような)の脳/脊髄組織、例えば、側頭部皮質(contex)の局所的虚血をきたしたヒトの虚血コアを取り囲む境界領域の人工的横断面側に限局性に発現する。さらに、驚くべきことに、RGMが外傷性脳損傷を受けた組織に発現することが添付の実施例に記載されている。本発明は、RGMポリペプチドもしくはその機能的断片または誘導体の用途、またはそれらをコードするポリヌクレオチド(本明細書で定義したポリペプチドおよびポリヌクレオチド)の用途に関する(ここで、上記発作に関連する疾患または病状はてんかんである)。したがって、てんかんは、(脳)ニューロンの発作性発射による、対象、例えばヒト患者が経験した痙攣または一過性の異常事象としててんかん性発作により特徴付けられる。てんかん性発作には、強直性発作、強直性間代発作(大発作)、ミオクローヌス発作、失神発作、および無動発作が含まれる。さらに、本発明の文脈において、単純部分発作、例えば、ジャクソン発作、および周産期の外傷および/または胎児無酸素症による発作も含まれる。下記に示すように、本明細書に記載の用途は、特に、てんかんのような神経繊維の異常な萌芽に関連する疾患/病状を治療するための医薬組成物の製造に関する(Routbort、Neuroscience 94 (1999)、755-765も参照)。
【0034】
本発明のさらにより好ましい態様において、RGM(またはそのその機能的断もしくは誘導体、またはそれをコードする核酸分子)のモジュレーター、好ましくはインヒビターは、血管新生を修飾するための医薬組成物の製造に使用される。該修飾には、活性化および刺激が含まれよう。特に、該血管新生は特に虚血および/または梗塞組織のような病気の組織において刺激および/または活性化されると考えられる。さらに、本明細書に記載のRGM-インヒビターは、血液脳関門の透過性の調節に用いてよい。
【0035】
さらに、RGMの該モジュレーター、好ましくは該インヒビターは、心血管、脳血管および/または腎血管疾患/障害における血管プラーク形成(例えばアテローム性動脈硬化症)の進行の軽減、予防および/または阻害に用いられると考えられる。
【0036】
さらに、本発明は、再ミエリン化のための医薬組成物を製造するための本明細書に記載のRGMのモジュレーター、好ましくはインヒビターの用途を提供する。したがって、本発明は、多発性硬化症のようなCNSの脱ミエリン化疾患、またはジフテリア毒素により生じる末梢ニューロパシー、ランドリー・ギランバレー症候群、エルスバーグ症候群、エスルバーグ症候群、シャルコー・マリー・ツース病、および他の多発ニューロパシー(polyneuropatias)のような脱ミエリン化疾患を治療するための医薬組成物を提供する。この文脈においてRGMの特に好ましいインヒビターは、RGMに対する抗体、例えばIgM抗体である。ある種のIgMは乏突起膠細胞と結合して再ミエリン化を誘導することがすでに示されている。RGMに対するIgM抗体は当該分野で知られており、例えば、添付の実施例に記載のF3D4が含まれる。
【0037】
さらに、本発明は、自己反応性免疫細胞の活性または過剰反応する炎症細胞に関連する疾患または病状を予防、軽減もしくは治療するための医薬組成物を製造するための、本明細書に記載のRGMポリペプチドまたはその機能的断片または誘導体、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは断片もしくは誘導体の用途を提供する。最も好ましくはこれら細胞はT細胞である。
【0038】
さらに、本発明は、神経幹細胞および/またはその前駆細胞の分化状況を修飾および/または変更するための、RGMポリペプチドまたはその機能的断片または誘導体、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたはその断片/誘導体のモジュレーター、好ましくはインヒビターまたは他のRGM結合分子の用途に関する。該幹細胞は、通常、多くの脳領域の脳室下域にみられる。脳の微小環境中の因子は未分化幹細胞の分化に劇的な影響を与えることが知られている。多くの異なる脳領域の脳室下層におけるRGMの特徴的発現により本分子は幹細胞のマーカーになり得るものと思われる。さらに、抗体のようなRGMインヒビターは、幹細胞の有用なマーカーであり得る。幹細胞生物学において最も重要なことは、その分化に影響を与える因子を理解することである。したがって、RGMインヒビターは該細胞の成長の最終結果を変化させると思われる。
【0039】
添付の実施例に示すように、RGMは虚血組織に発現するのみならず、(脳)病片周囲の瘢痕組織にも発現する。
【0040】
RGM分子(またはその機能的断片または誘導体)のモジュレーター、好ましくはインヒビターが抗体またはその断片もしくは誘導体であるか、アプタマーであるか、RGM ポリペプチドまたはその機能的断片もしくは誘導体と相互作用することができる特異的レセプター分子であるか、またはRGMおよび/または本明細書に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと相互作用する特異的核酸分子であることが特に好ましい。
【0041】
本発明の文脈において用いる抗体は、例えばポリクローナルまたはモノクローナル抗体であり得る。抗体の製造技術は当該分野でよく知られており、例えばHarlow and Lane「Antibodies、A Laboratory Manual」、CSH Press、Cold Spring Harbor、1988に記載されている。さらに、特異的抗RGM抗体の産生は当該分野で知られているか(例えば、Muetter (1996) loc. cit.参照)、または添付の実施例に記載されている。
【0042】
本明細書で用いている用語「抗体」は、キメラ抗体、1本鎖抗体およびヒト化抗体、ならびに抗体断片、特にFab断片なども含まれる。さらに、抗体断片または誘導体はF(ab')2、Fv、またはscFv断片を含む(例えば、Harlow and Lane、loc. cit.参照)。種々の方法が当該分野で知られており、該抗体および/または断片を製造するのに用いてよい(添付の実施例も参照)。すなわち、(抗体)誘導体は、ペプチド模倣物により生成することができる。さらに、1本鎖抗体を生成するために記載した技術(特に米国特許第4,946,778号)は、本発明のポリペプチドに対する1本鎖抗体を生成するのに適応させ得る。また、トランスジェニック動物を用いて、本発明のポリペプチドに対するヒト化抗体を発現させてよい。最も好ましくは、本発明に用いる抗体はモノクローナル抗体であり、例えば、IgMが望ましいときは添付の実施例に記載のF3D4抗体を用いてよい。モノクローナル抗体の一般的生成方法論はよく知られており、例えばKoehler and Milstein、Nature 256 (1975)、494-496、およびJ. G. R. Hurrel、ed.、「Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques and Applications」、CRC Press Inc.、Boco Raron、FL (1982)、およびL. T. Mimms et al.、Virology 176 (1990)、604-619に記載されている。
【0043】
好ましくは、該抗体(またはインヒビター)は、RGMポリペプチドの機能的断片に対して誘導される。本明細書で先に指摘し、添付の実施例に示すように、該機能的断片は、当業者が容易に推論でき、同様に関連抗体(または他のインヒビター)を生成することができよう。
【0044】
本明細書に記載の「モジュレーター」、好ましくは「インヒビター」はアプタマーであってもよい。本発明の文脈において、用語「アプタマー」は、高い特異性と親和性を有する、多数の標的配列と結合する核酸、例えば、RNA、ssDNA (ss = 1本鎖)、修飾RNA、修飾ssDNAまたはPNAが含まれる。アプタマーは当該分野でよく知られており、特に、Famulok、Curr. Op. Chem. Biol. 2 (1998)、320-327に記載されている。アプタマーの製造は、当該分野でよく知られており、特に、結合部位を同定するためのコンビナトリアルRNAライブラリーの用途を含んでいてよい(Gold、Ann. Rev. Biochem. 64 (1995)、763-797)。該他のレセプターは、例えばペプチド模倣物により該抗体などから誘導することができよう。
【0045】
RGMポリペプチドのインヒビターとして機能することができる他の特異的「レセプター」分子も本発明に含まれる。該特異的レセプターは当該分野で知られた方法により推定してよく、これには結合アッセイおよび/または相互作用アッセイが含まれる。これらは特にELISA形式やFRET形式のアッセイを含んでいてよい。該「インヒビター」は、RGMと結合し、そして/または干渉する特異的ペプチドを含んでいてもよい。
【0046】
さらに、上記「モジュレーター」、好ましくは「インヒビター」はRGM遺伝子の発現レベルで機能してよい。したがって、該インヒビターは、RGM分子 (またはその機能的断片もしくは誘導体)をコードするポリヌクレオチドと相互作用する(特異的)核酸分子であってよい。これらインヒビターは、例えばアンチセンス核酸分子またはリボザイムを含んでいてよい。
【0047】
RGMをコードする核酸分子(および、例えば本明細書に記載の配列番号17)を用いて適切なアンチセンスオリゴヌクレオチドを構築してよい。該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、野生型(または突然変異)RGM遺伝子の機能を阻害することができ、好ましくは少なくとも15ヌクレオチド、より好ましくは少なくとも20ヌクレオチド、さらにより好ましくは30ヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも40ヌクレオチドを含む。
【0048】
さらに、リボザイム法も本発明における用途が予想される。リボザイムは特にRGMをコードする核酸分子を開裂することができよう。本発明の文脈において、本発明のリボザイムは、特にハンマーヘッドリボザイム、コア配列が変化したハンマーヘッドリボザイム、またデオキシリボザイムを含み(例えば、Santoro、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94 (1997)、4262)、天然およびin vitroで選択および/または合成したリボザイムを含むことができよう。肥満を調節するか、生じるか、または関与するタンパク質/(ポリ)ペプチド、および/または体重の調節に関与する哺乳類(ポリ)ペプチドをコードする核酸分子と相補的な本発明の核酸分子(下記参照)は、本発明の核酸分子を特異的に開裂する適切なリボザイムの構築に用いることができよう(例えば、EP-B1 0 291 533、EP-A1 0 321 201、EP-A2 0 360 257)。適切な標的部位および対応するリボザイムの選択は、例えば、Steinecke、Ribozymes、Methods in Cell Biology 50、Galbraith、eds. Academic Press、Inc. (1995)、449-460の記載に従って行うことができる。
【0049】
該「インヒビター」は、RNA介在遺伝子干渉をもたらす二本鎖RNAも含んでいてよい(Sharp、Genes and Dev. 13 (1999)、139-141参照)。
【0050】
RGMのさらなる可能なインヒビターは、相互作用アッセイにより、対応する読み取りシステムを用いて発見および/または推定することができよう。これらは当該分野で知られており、特に2つのハイブリッドスクリーニング (特にEP-0 963 376、WO 98/25947、WO 00/02911) GSTプルダウンカラム、特にKasus-Jacobi、Oncogene 19 (2000)、2052-2059に記載の細胞抽出物からの共沈殿アッセイ、「相互作用・捕捉」系(特に、US 6,004,746に記載の)発現クローニング(例えばlambda gtll)、ファージディスプレイ(特にUS 5,541,109に記載の)、およびin vitro結合アッセイなどが含まれる。さらなる相互作用アッセイ法および対応する読み取りシステムには、特にUS 5,525,490、WO 99/51741、WO 00/17221、WO 00/14271、またはWO 00/05410に記載されている。
【0051】
本発明のさらなる目的は、神経繊維の過剰な側枝発芽に関連する疾患または病状を予防、軽減もしくは治療するための医薬組成物を製造するための、RGMポリペプチドおよび/または配列番号18、20、23、または25のアミノ酸配列を有するかまたは含むポリペプチドまたはその機能的断片または誘導体、あるいは該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは断片もしくは誘導体の用途を提供することである。
【0052】
したがって、本発明は、過剰な側枝発芽が生じる病状におけるRGMタンパク質、および/またはその機能的断片/誘導体の医療的用途、または該RGMタンパク質をコードするポリヌクレオチドの該用途を提供する。該病状には、限定されるものではないが、てんかん、幻想痛、およびニューロパシー痛が含まれる。例えば、McNamara (Nat. Suppl. 399 (1999)、A15-A22)は、該萌芽がある種のてんかんに生じることを記載した。したがって、天然に単離されるかまたは組換えにより生成されたRGM分子、またはその機能的断片/誘導体は、神経繊維を成長させるための有力な「停止」シグナルとして用いることができよう。そのようなアプローチの実施可能性は、Tanelian (Nat. Med. 3 (1997)、1398-1401)が記載している(神経繊維の成長の阻害にセマホリンを用いている)。
【0053】
さらに別の態様において、本発明は、腫瘍増殖または腫瘍の移転形成を予防または治療するための医薬組成物を製造するための、RGM、および/または配列番号18、20、23、または25のアミノ酸配列を有するかまたは含むポリペプチドまたはその機能的断片または誘導体、あるいは該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは断片もしくは誘導体の用途を提供する。
【0054】
RGM(天然に単離されるかまたは組換えにより生成された)および/またはその機能的断片は、新生物障害、特に、腫瘍(細胞)移動、転移および/または腫瘍侵入に関連する障害を治療するための医薬組成物を製造するために用いてよい。さらに、RGMは望ましくない血管新生を阻害すると考えられる。該血管新生は新生物発生時の脈管形成障害同様、特に腫瘍増殖を制限するために抑制すべきである。
【0055】
ニューロンの成長円錐および(侵入)腫瘍細胞は、細胞外マトリックスを分解するためにプロテアーゼ(uPA、tPA、MNPsなど)のカクテルを分泌する。さらに、付着および(細胞)移動の同様のメカニズムがこの細胞系により用いられる。RGMおよび/またはその機能的断片は、腫瘍細胞の膜状仮足の停止を積極的に刺激し、および/またはその崩壊を誘導するのに用いることができよう。添付の実施例に示すように、RGMは、腫瘍増殖挙動にも影響を与え、すなわち腫瘍増殖に負の影響を及ぼすことができる。
【0056】
さらに、本発明は自己反応性免疫細胞の活性または過剰に活性な炎症細胞に関連する疾患または病状を予防、軽減、または治療するための医薬組成物を製造するための、本明細書に記載のRGMポリペプチドまたはその機能的断片または誘導体、あるいは該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは断片もしくは誘導体の用途を提供する。最も好ましくは該細胞はT細胞である。
【0057】
さらに別の態様において、本発明は、炎症過程および/またはアレルギーの治療、創傷の治癒、または瘢痕形成を抑制/軽減するための医薬組成物を製造するための、特に配列番号18、20、23、または25のアミノ酸配列を有するかまたは含むRGMポリペプチドまたはその機能的断片または誘導体、あるいは該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは断片もしくは誘導体の用途を提供する。瘢痕組織は、侵入細胞により、最も重要なことは繊維芽細胞および/またはグリア細胞により形成される。これら細胞の移動および付着は、病変側に達するのに必要である。
RGMまたは活性断片/誘導体は、病変側のこれら細胞の蓄積を抑制することにより瘢痕形成を抑制するか衰えさせるかもしれない。炎症反応において、細胞は炎症領域に移動し、RGMまたはその活性断片/誘導体はこれら細胞の炎症側への移動を予防または減少させることにより過剰反応性炎症反応を抑制する。
【0058】
本発明の文脈において、用語「医薬組成物」には、所望によりさらに許容される担体および/または希釈剤および/または賦形剤を含むものを含む。本発明の医薬組成物は、脊椎動物動物、例えばヒトの病的障害を予防および/または治療するのに特に有用であろう。該病的障害には、限定されるものではないが、神経学的、神経変性および/または新生物性障害、および発作、例えばてんかんに関連する障害が含まれる。これら障害には、特にアルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症 (FALS/SALS)、虚血、(脳)卒中、てんかん、AIDS痴呆、および癌が含まれる。医薬組成物は予防目的に用いることもできよう。適切な医薬的担体の例は、当該分野でよく知られており、リン酸緩衝生理食塩溶液、水、エマルジョン、例えば油/水エマルジョン、種々のタイプの湿潤剤、無菌溶液などが含まれる。該担体を含む組成物はよく知られた常套的方法により製剤化することができる。これら医薬組成物は適切な用量で対象に投与することができる。適切な組成物の投与は、種々の方法、例えば静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所的、皮内、鼻内、または気管支内投与により行ってよい。しかしながら、該医薬組成物は神経組織に直接適用されることも考えられる。投与方法は、担当医および臨床的要因により決定されよう。医療分野でよく知られているように、あらゆる患者に対する用量は、患者のサイズ、体表面積、一般健康状態、年齢、性別、投与する特定の化合物、投与の時間と経路、および同時に投与する他の薬剤を含む多くの因子に依存する。医薬活性物質は、好ましくは、特に1ng〜1000mg/用量の量で、より好ましくは1ng〜100mgの量で存在してよいが、特に前記因子を考慮して、この例示範囲以下または以上の用量が想定される。投与法が連続注入である場合は、用量はそれぞれ、1μg〜10mg単位/kg体重/分の範囲でもあるべきである。進行は定期的評価によりモニターすることができる。本発明の組成物は、局所または全身的に投与してよい。投与は、一般的に非経口的、例えば静脈内であろう。本発明組成物は、内部または外部標的部位に微粒子(遺伝子)銃による送達によるか動脈中の部位にカテーテルにより標的部位に直接投与してもよい。非経口的投与用製剤には、無菌水性または非水性溶液剤、サスペンジョン剤、およびエマルジョン剤が含まれる。非水性溶媒の例には、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、および注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルがある。水性担体には、水、アルコール/水性溶液、エマルジョン、またはサスペンジョン(生理食塩水および緩衝媒質を含む)が含まれる。非経口的ビークルには、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸化リンゲル、または不揮発性油が含まれる。静脈内用ビークルには、液体および栄養補充剤、電解質補充剤(例えば、リンゲルデキストロースをベースとするもの)などが含まれる。例えば、抗生物質、抗酸化剤、キレート化剤、および不活性ガスなどのような保存料および他の添加剤が存在していてもよい。さらに、本発明の医薬組成物は、医薬組成物の意図する用途に応じてさらなる物質を含んでいてよい。そのような物質は中枢神経系、および小無髄感覚神経終末(例えば皮膚中)、消化管の末梢神経系のニューロンなどに作用する薬剤であってよい。
【0059】
本明細書に記載の医薬組成物は、RGM(および/またはその機能的断片または誘導体)をコードする核酸分子、または対応するRGMインヒビターまたは本明細書に記載のものを含んでいてよいことも理解される。先に記載のように、該インヒビターには、限定されるものではないが、抗体、アプタマー、RGM相互作用ペプチド、およびRGMをコードするポリヌクレオチドと相互作用するインヒビターが含まれる。
【0060】
したがって、本発明は、本明細書に記載したような治療用医薬組成物/医薬をそれを必要とする対象に投与することを含む、本明細書に記載の病的障害および病状を治療、予防および/または軽減する方法も提供する。好ましくは対象はヒトである。
【0061】
該核酸分子は、遺伝子療法的アプローチに特に有用であり得るものであり、これにはDNA、RNA、およびPNAが含まれよう。該核酸分子は、適切なベクター、特に遺伝子発現ベクター中に含まれてよい。そのようなベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、および例えば遺伝子操作において通常使用する他のベクターが含まれていてよく、さらに、適切な宿主において適切な条件下で該ベクターの選択を可能にするマーカー遺伝子のようなさらなる遺伝子を含んでいてよい。
【0062】
さらに、該ベクターは、RGMをコードする核酸配列またはその対応インヒビターに加え、適切な宿主細胞または組織においてコーディング領域を適切に発現させる発現調節エレメントを含んでよい。該調節エレメントは当業者に知られており、プロモーター、翻訳開始コドン、ベクターに挿入物を導入するための翻訳および挿入部位を含んでいてよい。好ましくは、本発明の核酸分子は、発現調節配列と機能的に連結し、(真核)細胞で発現することができる。この文脈において、神経細胞および/または神経組織由来細胞において正しい発現を可能にする調節配列が特に好ましい。
【0063】
真核細胞での発現を保証する調節エレメントは当業者によく知られている。上記のように、それらは通常、転写開始を保証する制御配列、および所望により転写の終了や転写の安定化を保証するポリAシグナルを含む。さらなる制御エレメントは、転写および翻訳エンハンサーおよび/または天然に付随するかまたはヘテロローガスなプロモーター領域を含んでいてよい。例えば哺乳類宿主細胞での発現を可能にする考えられる制御エレメントには、CMV-HSVチミジンキナーゼプロモーター、SV40、RSVプロモーター(ラウス肉腫ウイルス)、ヒト伸長因子1α-プロモーター、CMVエンハンサー、CaM-キナーゼプロモーター、またはSV40-エンハンサーが含まれる。例えば、神経組織および/またはそれ由来の細胞で発現するための、いくつかの制御配列、例えばヒトニューロフィラメントLの最小プロモーター配列が当該分野でよく知られている(Charron、J. Biol. Chem 270 (1995)、25739-25745)。転写開始を担うエレメントに加え、該制御エレメントは該ポリヌクレオチドの下流に、転写終止シグナル、例えばSV40-ポリA部位またはtk-ポリA部位を含んでいてよい。この文脈において、Okayama-Berg cDNA発現ベクターpcDV1 (Pharmacia)、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3 (In-Vitrogene、特に添付の実施例で使用)、pSPORT1 (GIBCO BRL)、またはpGEMHE (Promega)のような適切な発現ベクターが当該分野で知られている。本明細書に記載の核酸分子に加え、ベクターはさらに分泌シグナルをコードする核酸分子を含んでいてよい。該配列は当業者によく知られている。さらに、発現系に応じて、細胞コンパートメントにタンパク質/(ポリ)ペプチドを導くことができる用いるリーダー配列を、本発明の核酸配列のコーディング配列に加えてよく、当該分野でよく知られている。リーダー配列は、適切な相中で翻訳配列、開始配列および終止配列と組み立てられ、好ましくは、リーダー配列は翻訳したタンパク質またはその部分の分泌を指示することができる。
【0064】
上記のように、該ベクターは、発現ベクターに加え、遺伝子伝達および/または遺伝子標的化ベクターを含んでもよい。ex vivoまたはin vivo技術により細胞に治療的遺伝子を導入することに基づく遺伝子療法は、遺伝子伝達の最も重要な応用のひとつである。in vitroまたはin vivo遺伝子療法のための適切なベクター、ベクター系、および方法は、文献に記載されており、当業者に知られている。例えば、Giordano、Nature Medicine 2 (1996)、534-539; Schaper、Circ. Res. 79 (1996)、911-919; Anderson、Science 256 (1992)、808-813、Isner、Lancet 348 (1996)、370-374; Muhlhauser、Circ. Res. 77 (1995)、1077-1086; Wang、Nature Medicine 2 (1996)、714-716; WO 94/29469; WO 97/00957、Schaper、Current Opinion in Biotechnology 7 (1996)、635-640、 Verma、Nature 389 (1997)、239-242、WO 94/29469、WO 97/00957、US 5,580,859、US 589,66、またはUS 4,394,448、およびその中で引用された文献を参照。
【0065】
特に、該ベクターおよび/または遺伝子送達系(デリバリーシステム)は、神経学的組織/細胞(特に、Bloemer、J. Virology 71 (1997) 6641-6649参照)または視床下部(特に、Geddes、Front Neuroendocrinol. 20 (1999)、296-316、またはGeddes、Nat. Med. 3 (1997)、1402-1404参照)を用いる遺伝子療法的アプローチにも記載されている。神経学的細胞/組織に用いるさらに適切な遺伝子療法構築物は、当該分野で知られている(例えば、Meier (1999)、J. Neuropathol. Exp. Neurol. 58、1099-1110)。本発明の核酸分子およびベクターは、細胞中に直接導入するか、またはリポソーム、ウイルスベクター(例えばアデノウイルス、レトロウイルス)、エレクトロポーレーション、衝撃(ballistic)(例えば遺伝子銃)または他の送達システムを介して導入されるように設計してよい。さらに、バクロウイルス系を本明細書に記載の核酸分子の真核性発現系として用いることができる。
【0066】
本明細書で用いている用語「治療」、「治療すること」などは、一般に、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを意味する。該効果は疾患またはその症状を完全または部分的に抑制する点で予防的であり、そして/または疾患および/またはその疾患に起因する悪影響を部分的または完全に治療する点で治療的であってよい。本明細書で用いている用語「治療」は、哺乳動物、特にヒトの疾患のあらゆる治療に及び、(a)疾患に罹りやすいがまだそれに罹患していると診断されていない対象に該疾患が生じるのを抑制し、(b)疾患を阻止、すなわちその発生を止め、または(c)疾患を軽減、すなわち、疾患の緩解をもたらすことが含まれる。
【0067】
さらに別の態様において、本発明は、(RGM)ポリペプチドおよび/または配列番号18、20、23、または25のアミノ酸配列を有するかまたは含むポリペプチドまたはその機能的断片または誘導体、あるいは該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは断片もしくは誘導体の、幹細胞のマーカーとしての用途を提供する。幹細胞およびその未分化な前駆細胞はRGMを発現すると考えられるので、RGMおよび/またはその機能的断片または誘導体を用いて該幹細胞の分化/分化パターンに影響を与えることができよう。
【0068】
さらに、RGM、特に本明細書に開示の、または配列番号18、20、23、または25のアミノ酸配列を含むポリペプチド(または(a)その機能的断片/誘導体)に対する抗体は(神経)幹細胞および(神経)前駆細胞に影響を与えるのに用いることができると考えられる。特に、該抗体(および他のRGM-インヒビターおよび/またはRGM-結合分子)を幹細胞を選択的に標識するのに用いるのが特に好ましい。したがって、これら試薬は幹細胞のマーカーとして用いることができよう。ペプチドまたは誘導体を該目的に用いることも考えられる。
【0069】
本発明の特に好ましい態様において、配列番号18、20、23、または25で示されるアミノ酸配列を含むかまたは有するか、または本発明に従って用いるRGM分子であるポリペプチドおよび/またはその断片は可溶性、すなわち膜に結合していない分子である。
【0070】
Davis (1994)、Science 266,816-819に示すように、エフリン、特にA-エフリンは、可溶性の単量体形では活性でない。これに対し、可溶性RGMは活性であり、何ら膜に結合することなく機能し得よう。エフリンとは対象的にRGMは二量体を自己形成し、および/またはより高度の凝集物を形成することができる。本発明は、恒常性および/または出血障害および/または血管損傷を軽減、予防および/または治療するための医薬組成物を製造するための、RGM分子および/または配列番号18、20、23、または25のアミノ酸配列を有するかまたは含むポリペプチド、またはその機能的断片または誘導体、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、断片または誘導体の用途も提供する。
【0071】
理論に縛られることなく、RGMはそのvon-Willebrand(フォン・ウィルブラント)因子(vWF)との構造的相同性により該障害/疾患の治療に用いることができると考えられる。さらに、RGMはvon Willebrand因子と相互作用することにより該分子がvWFの活性に影響を与えると考えられる。さらに、本明細書に記載のインヒビターは、免疫細胞が脳に侵入する障害、例えば、多発性硬化症、汎発性脳脊髄炎に用いるべきである。
【0072】
本発明は、神経学的および/または神経変性障害またはその傾向を検出するための診断的組成物を製造するための、配列番号18、20、23、または25のアミノ酸配列を有するかまたは含むポリペプチドまたはその機能的断片もしくは誘導体と相互作用することができる抗体、またはアプタマー、または結合分子、または該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドもしくはその断片と相互作用することができる核酸分子の用途も提供する。
【0073】
診断的組成物は、特に細胞由来のRNAの単離を含む対応するmRNAの存在を検出し、そのようにして得られたRNAを、バイブリダイズする条件下で上記の核酸プローブと接触させ、該プローブとハイブリダイズするRNAの存在を検出することによりRGMポリペプチドをコードする核酸の発現を測定する方法に用いることができよう。さらに対応する突然変異および/または変化を検出することができよう。さらに、RGM(ポリ)ペプチドは、特に免疫学的方法、例えばELISAまたはウエスタンブロッティングを含む当該分野で知られた方法を用いて検出することができる。
【0074】
本発明の診断的組成物は、特に、RGMポリペプチドの異常発現に関連した疾患の流行(prevalence)、発現または進行を検出するのに有用であろう。したがって、本発明の診断的組成物は特に本明細書で先に記載した神経学的、神経変性性、および/または炎症性障害の流行、発現および/または病的状態を評価するのに用いることができよう。抗RGM抗体、アプタマーなど、および該抗体、アプタマーなどを含む組成物は、疾患の段階を判断するのに有用でありうることも予期される。
【0075】
所望により、診断的組成物は、診断のための適切な手段を含む。上記核酸分子、ベクター、抗体、(ポリ)ペプチドは、例えば液相で利用することができるか、固相担体と結合することができるイムノアッセイに用いるのに適している。よく知られた担体の例には、ガラス、ポリスチレン、塩化ポリビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然および修飾セルロース、ポリアクリルアミド、アガロース、および磁鉄鉱が含まれる。担体の性質は、本発明の目的において可溶性または不溶性のいずれでもあり得る。
【0076】
固相担体は当業者に知られており、ポリスチレンビーズ、ラテックスビーズ、磁性ビーズ、コロイド金属粒子、ガラスおよび/またはシリコンチップおよび表面、ニトロセルロースストリップ、膜、シート、デュラサイト(duracyte)、および反応トレイのウェル、プラスチックチューブ、または他のテストチューブの壁が含まれてよい。固相上に核酸分子、ベクター、宿主、抗体、(ポリ)ペプチド、融合タンパク質などを固定化するのに適した方法には、限定されるものではないが、イオン性、疎水性、共有結合性の相互作用などが含まれる。本発明の化合物を利用することができるイムノアッセイの例には、直接または間接形式の競合および非競合イムノアッセイがある。一般に用いる検出用アッセイは、放射性同位元素法または非放射性同位元素法を含み得る。そのようなイムノアッセイの例には、ラジオイムノアッセイ(RIA)、サンドイッチ(イムノメトリックアッセイ)、およびノーザンまたはサザンブロットアッセイがある。さらに、これら検出法は、特にIRMA (Immune Radioimmunometric Assay; 免疫ラジオイムノメトリックアッセイ)、EIA (Enzyme Immuno Assay; 酵素免疫測定法)、ELISA (Enzyme Linked Immuno Assay; 酵素結合免疫測定法)、FIA (Fluorescent immune Assay; 蛍光免疫測定法)、およびCLIA (Chemioluminescent Immune Assay; 化学ルミネッセント免疫測定法)がある。さらに、本発明の診断的化合物は、FRET (Fluorescence Resonance Energy Transfer; 蛍光共鳴エネルギー転移)アッセイのような技術に用いることができよう。
【0077】
他の種のRGMをコードする核酸配列およびRGMの変異体は、本明細書に記載の情報から容易に推論できる。これら核酸配列は、本明細書に記載したように特に医療的および/または診断的環境において有用であるが、重要な研究手段も提供する。これら手段は、特に、RGMを過剰発現または抑制するか、またはRGM遺伝子がサイレントであるかまたは欠失しているトランスジェニック動物の作製に用いることができよう。さらに、該配列を用いてRGM相互作用パートナーおよび/またはRGMと結合および/または干渉する分子を検出および/または解明することができる。
【0078】
図面の説明:
図1:RGMタンパク質分画は、RGC成長円錐の崩壊を引き起こす。E9/E10ヒヨコ脳由来の可溶化膜タンパク質を2つの異なるイオンカラム、DEAE陰イオン交換カラムおよび陽イオン交換カラムにロードした。RGMを2つの1ml分画(4 +5)中のNaCl濃度200-400 mMで陽イオン交換カラムから溶出し、レシチンベジクルに組みこみ、次いでレシチンベジクルをRGC成長円錐を用いる崩壊実験に用いた。RGM含有分画(4 + 5、矢印)はRGC成長円錐の広範な崩壊(>90%)を誘導したが、無RGM分画ではそのような誘導はなかった。エフリン-A5およびエフリン-A2はいずれも特異抗体を用いてRGM分画中に検出されなかった。ラミニン上のRGC軸索および成長円錐をAlexa-Phalloidinで染色した。二次元ゲルから得たウエスタンブロットをF3D4モノクローナル抗体でインキュベーションし、次いで全タンパク質をインディアインク染色で染色した。
【0079】
図2:蓋タンパク質およびRGM配列の比較二次元ゲル分析。
A: E9/10ヒヨコ前および後蓋由来の膜を豊富化し、緩衝液(C)またはPI-PLC (E)で処理してGPI-結合タンパク質を除去した。推定上のRGM (前E + 後E中の矢印)、分子量33kDaのPI-PLC開裂可能な塩基性タンパク質を切りだし、ナノエレクトロスプレータンデム質量分析法に用いた。二次元ゲルを銀染色した。これらゲルにおいて、RGM候補の前後差は観察されず、これはおそらく選択スポットにおける2つの他のタンパク質による。
B: 推定RGMペプチド配列
【0080】
図3:RGMのヌクレオチドおよびアミノ酸配列
A. RGMのヌクレオチド配列。
B. RGMのアミノ酸配列。マイクロシーケンシングから得たペプチドを太字で強調し、ポリクローナル抗体の製造に用いるペプチドに下線を付す。潜在的N-グリコシル化部位およびRGDトリペプチド、潜在的細胞結合部位はアステリスクにより強調する。
C. RGMタンパク質の略図。疎水性ドメインは該タンパク質のNおよびC末端に存在する。2つのポリクローナル抗RGM抗体のエピトープをはっきり区別する。
【0081】
図4:ポリクローナルおよびモノクローナルRGM抗体は、同じ33kDaタンパク質を認識する。
A. 抗RGM1抗体は、GPI-結合CRD-(交叉反応する決定基)陽性33kDaタンパク質と結合する。左のブロット:抗CRD抗体は、E (PI-PLC上清)に存在し、C分画(コントロール上清)には存在しない豊富さの低い33kDaタンパク質(矢印)と結合する。右ブロット:E9/E10ヒヨコ脳膜由来の上清のウエスタンブロットのGPI-結合33kDaタンパク質の抗RGM1染色。
B. 抗RGM1抗体のGPI-結合33kDa抗原は前(ant.)蓋膜より後(pos.)蓋膜により豊富である。左ブロット:ウサギ免疫前血清は前および後蓋由来のPI-PLC上清タンパク質のウエスタンブロットのいかなるタンパク質とも結合しなかった。 右ブロット:33 kDaタンパク質に対する抗RGM1の結合。E = 蓋膜由来のPI-PLC上清、C = 蓋膜由来のコントロール上清。
C. 抗RGM1およびF3D4は蓋膜の同じ抗原を認識する。
左ブロット:蓋膜タンパク質のF3D4染色。33kDaの二重バンド (下矢印)と35kDaのほとんど見えないバンド(上矢印)が認められる。
右ブロット:抗RGM1染色は33および35kDa抗原(矢印)と同じ染色パターンを示す。3つの異なるタンパク質バンドが観察される膜分画と異なり、PI-PLC上清のほとんどのウエスタンブロットではただ1本のバンドが検出される。
ウエスタンブロットにおける検出では、2次アルカリホスファターゼ共役抗体を用い、NBT (ニトロブルーテトラゾリウム)およびBCIP(リン酸ブロモクロロインドリル)を着色反応に用いた。
【0082】
図5:RGM抗センスプローブは前後軸に沿って段階的に発現したmRNAとハイブリダイズする。
A、B: RGM-mRNAは、E9ヒヨコ胚の蓋の脳室周囲勾配に発現する。より表面層(矢印)にはRGMも発現するがそのレベルははるかに低い。前蓋極は右で、後蓋極は左である。
C、D: E9ヒヨコ蓋由来のパラレルクリオスタット切片においてRGMセンスプローブによる染色は検出されない。前蓋極は右であり、後蓋極は左である。
【0083】
図6:組換えRGMは網膜成長円錐の崩壊を引き起こす。
A: RGC軸索は、ラミニンをコートしたカバースリップ上に増殖し、アフィニティ精製組換えRGMを最終濃度10ng/mlに加えた。90%以上の側頭部網膜成長円錐が崩壊する。
B: アフィニティ精製由来の隣り合った無RGM分画は、側頭部成長円錐の崩壊を誘導しなかった。空のプラスミドでトランスフェクトしたcos-7細胞由来の上清はいかなる崩壊誘導活性も持たなかった(データ示さず)。
AおよびBにおいて、網膜軸索および成長円錐はF-アクチン染色Alexa-Phalloidinで染色された。
【0084】
図7:組換えRGMはストライプアッセイにおいて側頭部網膜軸索をガイドする。
A、B:側頭部網膜軸索は、RGM含有ストライプ(赤色蛍光ビーズで区別される)を回避する。RGMトランスフェクトcos-7細胞由来の膜(ビーズでマークした)および前蓋膜を用いてストライプ(縞模様)のカーペットを作製した。
C、D: 側頭部網膜軸索は、空のプラスミドでトランスフェクトしたcos-7細胞由来の膜(赤色ビーズ)を用いたときいかなる回避反応も示さない。
A-Dではストライプの膜カーペットをさらにラミニンでコートし、以前のプロトコール(Monschau et al. 1997)に従って網膜軸索の増殖を増強した。
【0085】
図8:(ヒト)脳の内皮のRGM染色。
RGM免疫応答性は健康で神経病理学的変化のないコントロール脳、および損傷脳の両方の内皮および血管平滑筋細胞(SMC)において検出され、これは血管の恒常性における構成性の生理学的役割を示唆する。
【0086】
図9:重度の脳損傷により死亡したヒトの病変(死後1-2時間)におけるRGMの発現。免疫系由来の浸潤細胞におけるRGMの発現。
細胞RGMの発現の上方調節(upregulation)は、損傷後の時間経過、浸潤白血球の出現、およびミクログリア/マクロファージの活性化と関連していた(Stoll et al.、1998)。
損傷後初期(2.5日まで)に、RGM免疫応答性が虚血組織内の血管中の顆粒球、単球、およびリンパ球起源の白血球に見られた。
水腫形成と平行して(1-7日まで)、RGM陽性細胞は血管壁の外側から限局性虚血性病変の実質組織中に管外遊出することがわかった。血管周囲領域において、RGM陽性細胞は第1-7日からVirchow-Robin腔にクラスターを形成した(後に正常に戻った)。外膜またはペリテリアル(perithelial) 細胞とも呼ばれるこれら血管周囲の細胞は、特徴的に機敏な免疫細胞である(Kato and Walz、2000; Streit et al.、1999)。
【0087】
図10:脳病変(ヒト)におけるRGM発現。
脳損傷後の時間の増加につれて、大部分の顕著な変化は、進行中の瘢痕形成領域と一致した。これら領域において、十分明確な細胞外RGM陽性板(ラミナ)およびRGM陽性フィブロブラストイド、および反応性星状細胞様細胞は、境界域に隣接して明らかに凝縮していた。これらのRGM陽性板は時間が経つと大きさおよび領域の範囲が増大した。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1A】RGMタンパク質分画は、RGC成長円錐の崩壊を引き起こす。
【図1B】RGMタンパク質分画は、RGC成長円錐の崩壊を引き起こす。
【図1C】RGMタンパク質分画は、RGC成長円錐の崩壊を引き起こす。
【図2A】蓋タンパク質およびRGM配列の比較二次元ゲル分析。
【図2B】蓋タンパク質およびRGM配列の比較二次元ゲル分析。
【図3】RGMのヌクレオチドおよびアミノ酸配列。
【図4】ポリクローナルおよびモノクローナルRGM抗体は、同じ33kDaタンパク質を認識する。
【図5】RGM抗センスプローブは前後軸に沿って段階的に発現したmRNAとハイブリダイズする。
【図6】組換えRGMは網膜成長円錐の崩壊を引き起こす。
【図7】組換えRGMはストライプアッセイにおいて側頭部網膜軸索をガイドする。
【図8】(ヒト)脳の上皮におけるRGM染色。
【図9】重度の脳損傷により死亡したヒトの病変(死後1-2時間)におけるRGMの発現。
【図10】脳病変(ヒト)におけるRGM発現。
【実施例】
【0089】
実施例は本発明を例示する。
実施例I
RGM候補のミクロシークエンシング
【0090】
A-エフリンからRGMを分離するため、2つの異なるイオン交換カラムの組み合わせを用いた。RGMは、A-エフリンと対照的に強陽イオン交換体と結合し、200-400mM NaClの塩濃度で溶出された。RGMのレシチンベジクルへの組込み後、強い崩壊誘導活性がRGM分画(分画4 + 5、図1)に観察され、隣接する無RGM分画(分画6、図1)には観察されなかった。エフリン-A5もエフリン-A2も、これら分画には存在せず、これによりRGM機能はA-エフリンの存在を必要としないことがわかった。
【0091】
RGM由来のペプチド配列を得るためにすべてのタンパク質についてミクロシークエンシング(酵素PI‐PLC処理により膜から開裂させた、分子量30-35kDaおよび等電点7-9を有する)を行った。この目的に、ニワトリ胎児蓋(E9/10)由来の前膜および後膜を、以前の記載に(Walter et al.、Development 101(1987)、685-96)いくらかの修飾を施したものに従って調製し、膜ペレットを酵素PI-PLC(E分画)または緩衝液のみ(C分画)で処理した。特に、ニワトリ胎児蓋(E9/10)由来の膜を以前の記載に(Walter et al.、1987)いくらかの修飾を施したものに従って調製した。全ての工程は4℃で行った。100個のニワトリ胎児由来の蓋を単離し、前‐後軸に沿って等しい長さの3部分に分割した。中間の蓋部分を捨て、前および後の部分を別々にワークアップした。膜を、プロテアーゼインヒビターを含む PBS で洗浄し、次いで遠心した。蓋膜ペレットは、トリエタノールアミン緩衝液に再懸濁し、酵素 PI-PLC(50mU Boehringer Mannheim/Roche Diagnostics GmbH)で処理して、膜からグリコシルホスファチジルイノシトール結合(GPI結合)タンパク質を除去した。他の前および後蓋膜分画、コントロール分画(C)にはPI-PLCを加えなかった。酵素(E)およびコントロール(C)分画を1.5時間、37℃でインキュベーションし、膜懸濁液は、Beckmann TLA 100.3 ローターを用い400.000 xgで遠心した。上清を集め、そのタンパク質濃度を決定した(Bradford 1976、ZorおよびSelinger、1996により一部変更)。上清は、氷冷10% トリクロロ酢酸で沈殿させ、遠心し、次いでタンパク質ペレットをエタノール‐エーテル(1:1v/v)で洗浄し試料用緩衝液(8.5 M尿素、5%β-メルカプトエタノール、2.5%両性電解質pH 3-10、2% NP40)で可溶化した。
【0092】
E分画およびC分画を二次元ゲルにロードし、銀染色後、E分画中の候補タンパク質(図2A、矢印)を切りだし、ゲルをトリプシン消化し、ナノエレクトロスプレーイオン化にかけた(Wilm、Nature 379(1996)、466-9)。
【0093】
詳細には、該 2Dゲル電気泳動およびタンパク質配列分析を以下で本明細書に概説したように行った:
試料用緩衝液に再懸濁した蓋タンパク質を二次元ゲル電気泳動を用いて分離した。蓋タンパク質 20μgを、各ゲルにロードした。Boxberg(1988)によって示されたように、非平衡pH勾配電気泳動(NEPHGE)、次いで二次元SDS-PAGEを行った。SDS PAGE後、ゲルをHeukeshovenおよびDernick(Heukeshoven & Dernick、Electrophoresis 9 ,(1988)、372-375)の変法銀染色プロトコールにより染色した。
【0094】
C分画でなくPI-PLC処理E分画に存在する、分子量33/35kDaの塩基性等電点を有する2Dゲル中の銀染色タンパク質を鋭い無菌のメスを用いて切り出した。
【0095】
ミクロシークエンシング は、以前に示された(Wilm et al.、1996)ナノ‐エレクトロスプレータンデム質量分析技術を用いて行った。タンパク質スポットを、トリプシンによりゲル中で消化し、得られたペプチドを吸着させ、次いで段階的に溶出して質量分析用のエレクトロスプレー供給源とした。ナノエレクトロスプレー法は、WilmおよびMann(Wilm & Mann、Anal. Chem. 68(1996)、1-8)によって示されたようにAPI III(Perkin-Elmer)の質量分析器を用いて行った。ペプチド混合物からイオン化ペプチドを選択後、ペプチドを断片化し、ペプチド断片を分析した。
【0096】
図2に矢印で印をつけたスポットからのイオン化されたペプチドの質量分析的ミクロシークエンシングは、図2B(配列番号1-10)に示す長さ5-14アミノ酸の10個の異なるペプチドを生じた。選択されたスポットは、同様のレベルで前および後のPI-PLC上清に存在した。しかしながら、RGMは、前の蓋膜より後蓋膜でより豊富であり、2Dゲルにおけるap‐差異の消失は、RGMに無関係の、選択されたスポットに存在する2つの異なるタンパク質によって多分引き起こされた。
【0097】
実施例II
RGM遺伝子のクローニング
【0098】
ナノエレクトロスプレータンデム質量分析によって得られた10個のペプチド配列(配列番号1〜10)のうち3つを縮重オリゴヌクレオチドプライマーの合成に用い、PCR実験を以下のごとく行った。ナノエレクトロスプレータンデム質量分析によって得られた10個のペプチド配列のうちの3つを縮重オリゴヌクレオチドプライマーおよびそれらの相補的配列の合成に用いた。
【0099】
P1F:5'-ATGCC(AGCT)GA(AG)GA(AG)GT(AGCT)GT(AGCT)-3'(配列番号11)
P1R:5'-TT(AGCT)AC(AGCT)AC(CT)TC(CT)TC(AGCT)GGCAT-3'(配列番号12)
P2F:5'-GA(CT)AC(AGCT)TT(CT)CA(AG)AC(AGCT)TG(CT)AA-3'(配列番号13)
P2R:5'-TT(AG)CA(AGCT)GT(CT)TG(AG)AA(AGCT)GT(AG)TC-3'(配列番号14)
P3F:5'-AA(CT)CA(AG)CA(AG)(CT)T(AGCT)GA(CT)TT(CT)CA-3'(配列番号15)
P3R:5'-TG(AG)AA(AG)TC(AGCT)A(AG)(CT)TG(CT)TG(AG)TT-3'(配列番号16)
【0100】
モロニーマウス(ネズミ)白血病ウイルス逆転写酵素および任意のヘキサマープライマーは、E9ヒヨコ蓋全RNAから1本鎖cDNA を合成するために用いた。ホワード(F)およびリバース(R)プライマーの組み合わせをcDNAに加え、PCR増幅をTaq ポリメラーゼを用いて行った。次のPCR条件を用いた:95℃、5分間の初期変性工程、次いで95℃、40秒; 50℃、1分間; 72℃、2分間を30サイクル。PCR生成物を、pGEM Tベクター(Promega)にクローンし、4つの陽性クローンをALF 発現シーケンサー(Pharmacia)を用いてシーケンスした。該配列は、ミクロシークエンシングによって得られた大部分のペプチド配列を含むORFをもたらした。459bp断片を、完全長配列を得るためのcDNAライブラリーのスクリーニング、およびノーザンブロッティングおよびin situハイブリダイゼーションのような更なる分析に用いた。
【0101】
PCR生成物を臭化エチジウムで染色したアガロースゲルにロードし、長さ459bpのPCR生成物を得、pGEM Tベクターにクローンした。シーケンシング後、大部分のペプチド配列はPCR生成物中に見出され、正しい候補者が増幅されたことを確認した。459bp断片を、E14ニワトリ脳cDNAライブラリーのスクリーニングに用いた。陽性クローンは約4kbの挿入物を含み、シーケンシングは459bp断片およびさらなる下流配列(終止コドンを含む)の存在を裏付けた。上流配列は、5'-RACEを行うことにより得た。
【0102】
詳細には、459bpプローブを用いてE14ニワトリ脳ライブラリーの500.000個のプラークをスクリーニングし、λ Zapベクターにクローンした。2回のスクリーニング後、8個の単一プラークを単離し、急速切り取りキット(Stratagene)を用いてBluescriptベクターにクローンした。制限消化により分析した陽性クローンは約 4kbの挿入物を含み、シーケンシングは459bp断片およびさらに下流配列(停止コドンを含む)の存在を裏付けた。459bp断片の上流領域の配列を得るため、5'-RACEを、製造業者のプロトコールに従いBoehringer MannheimのRACEキットおよびE9ヒヨコ蓋由来の全RNAを用いて行った。700bpバンドを増幅し、精製し、pGEM Tベクターにクローンし、5つの陽性クローンをシーケンスした。該配列は、潜在的な出発部位として作用するであろう2つのメチオニンを有するORFを持っていた。完全長のRGM配列が独立して数回確認された。
【0103】
in situおよびノーザンブロット実験において、459bp断片をBluescript KSベクター(Stratagene)にクローンし、アンチセンスおよびセンスプローブをそれぞれSP6およびT7ポリメラーゼを用いて生成した。
【0104】
この5'-RACE は、潜在的な出発部位の2つのメチオニンを有するORF を生じた。RGMの完全なORFは、長さが1302ヌクレオチドであり、434アミノ酸からなるタンパク質(図3A、配列番号17)をコードすることを示唆した。2つの疎水性ドメインがそれぞれN末端とC末端に存在し(図3B、配列番号18)、2つの異なるアルゴリズムは、N 末端の疎水性ドメインがシグナルペプチド(予測した最良開裂部位:aa29)、C 末端ドメイン、GPI-アンカードメイン(予測した最良開裂部位:aa 406)をコードする。RGMは、データベースに存在するいかなる他のタンパク質とも有意な同一性を持たず、いかなる特定のドメインまたはモチーフ(トリアミノ酸モチーフ、RGD部位、潜在的な細胞付着部位を除く)を保持しなかった(Ruoshlahti、Annu. Rev. Cell Dev .Biol .12(1996)、697-715)。予備的結果は、この部位がRGM機能にとってなくても済むことを示唆する。組換えRGM分子の2つのペプチドに対して生じた抗RGM1(aas:276-293に対する)および抗RGM2(ass: 110-130に対する)と呼ぶポリクローナル抗体は、前蓋膜 PI-PLC上清より後部により高レベルに存在する33kDa GPI結合分子を認識する(図4A)。膜分画には少なくとも3つのタンパク質バンド、33kDaの2つのバンドと35kDaの1つのバンドが現れる。これらのタンパク質バンドは、ポリクローナル抗RGM1抗体およびモノクローナルF3D4 抗体(Mueller(1996)、loc. cit)により認識される(図4B)。両抗体は、GPI結合F3D4陽性タンパク質のプルダウンをもたらす抗RGM1を用いるウエスタンブロットおよび免疫沈降実験において同じ染色パターンを示す。これらの結果は、F3D4モノクローナル抗体および抗RGM1ポリクローナル抗体の抗原が同じであることを示す。
【0105】
RGMはエフリン、ネトリン、スリット、セマホリン、および他の軸索ガイダンス分子との配列相同性を有しない、新しいクラスの軸索ガイダンス分子の最初のメンバーである。対応するヒトRGM配列(配列番号20)は、ヒトゲノムデータベースを推定ニワトリRGM配列でスクリーニングすることにより推定されるであろう。
【0106】
実施例III
RGMmRNAは視蓋の勾配に発現する。
視蓋においてRGM-mRNAの発現を分析するため、RGMアンチセンスプローブをE9ヒヨコ蓋からのクリオスタット切片を用いるin situハイブリダイゼーション実験に用いた。最も強い染色が、蓋室を囲む室周囲層に観察され、染色強度は、前蓋より後蓋ではるかに強い(図5A、B)。放射状グリア細胞の細胞体は室周囲層に位置し、染色パターンはモノクローナルF3D4 抗体を用いた前のデータ(グリアエンドフィートとグリア細胞体の染色が観察された(Mueller; (1996)、loc. cit.; Mueller(1997)、loc. cit.)を裏付ける。より表面の層において、はるかに弱い染色がRGMアンチセンスプローブによって検出されるが、前蓋極と後蓋極間の差別的発現はこの層では検出しにくい。この層において、蓋ニューロンはRGM陽性である。これは、蓋ニューロンのサブポピュレーションによるRGMの発現と一致している。総合的に、RGMアンチセンスプローブによる染色パターンはエフリン-A5 の発現パターンと非常に類似しているようであり、両メッセージは室周囲およびより表面の蓋層においてみられる。RGM‐センスプローブによる染色は検出不能である。
【0107】
蓋(視蓋)RNAを用いるノーザンブロットにおいて、RGMアンチセンスプローブは、5.5 および6.1 kbの2つの転写物を示した。両メッセージはE14で下方調節され、より小さなメッセージはもはや検出不能であり、より大きな転写物が低レベルであるが明瞭に存在する。
【0108】
RGMは、in vitroアッセイにおいて活性であり、脊椎動物動物の視蓋において段階的発現を示す。サザンブロットデータに基づいて、同様のガイダンス活性を有するであろう少なくとも2つのさらなるファミリーメンバーあることが推測される(図11参照)。
【0109】
実施例IV
組換えRGMは崩壊およびストライプアッセイで活性である。
【0110】
組換えRGMの機能を分析するため、完全長RGMcDNAをcos-7細胞にリポフェクション法にてトランスフェクションした。完全長RGMcDNAを、発現ベクター pTriEx-1(Novagen)のKpnI部位にクローンした。cos-7細胞を、製造業者のプロトコールに従ってSuperfectトランスフェクション試薬(Qiagen)を用い、RGMcDNA を含む pTriEx-1プラスミド、もしくは空のプラスミドによりトランスフェクションした。DNA-Superfect混合物を、10cm皿に増殖するCos-7細胞に加えた。2時間後、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄し、新鮮培地中でさらに48時間増殖させた。順化培地を集めてRGMアフィニティカラムに流し、次いでRGM含有分画および無RGMコントロール分画を崩壊アッセイ実験に直接用いた。ストライプアッセイ実験では、RGMトランスフェクトCos-7細胞および空のプラスミドでトランスフェクトした細胞をPBSで洗浄し、プロテアーゼインヒビター含有乳化用緩衝液の存在下でラバーポリスマンを用いて回収した。RGM-pTriEx-1プラスミドでトランスフェクトしたcos-7細胞の順化培地を回収し、抗RGM1抗体カラムに流した。溶出分画を高感度急速ドットブロット分析によって評価し、RGM陽性分画を、ラミニン基層上に増殖した網膜軸索に加えた。10ng/mlの最終度で、可溶性RGMは側頭部RGC成長円錐の90%の崩壊をもたらした(図6A)。隣接する無RGM分画または空のプラスミドでトランスフェクトしたcos-7細胞由来の順化および濃縮上清はいかなる崩壊誘導活性も持たなかった(図6B)。組換えRGMは可溶性形で活性であり、RGMとA-エフリンの間で強い差があり、網膜視蓋地図を樹立する際のケモトロピック(chemotropic)なメカニズムに対する役割を示唆する。
【0111】
ストライプの膜カーペットを調製するため、RGMまたはmockでトランスフェクトした細胞由来の膜を使用した。mockトランスフェクトcos-7細胞およびRGMトランスフェクト細胞由来の膜の交互レーンからなるカーペットを、側頭部および鼻部RGC軸索に提供した。cos-7膜の乏しい生長刺激活性を増強するため、前蓋膜、またはラミニンを加えた。崩壊アッセイおよびストライプアッセイを以下のごとく準備し、使用した。崩壊アッセイは記載のごとく行った(Cox(1990)loc. cit.; Wahl、J. Cell Biol. 149(2)(2000)、263-70)。RGM-cos上清からのRGM陽性分画、またはコントロールcos細胞からの上清、または無RGM分画5μlを網膜培養に加えた。1時間後、培養を固定剤(4% パラホルムアルデヒド、0.33M蔗糖、pH7.4)1mlを注意深く加えて固定した。4-12時間後、培養を洗浄し、製造業者の推奨に従ってAlexa-Phalloidin(Molecular Probes)で染色した。染色した培養をCCDカメラを用いてコンピュータに保存し、そのイメージをSIS分析画像ソフトウェアにより分析した。
【0112】
Walterら(1987)が以前に述べたごとく、ストライプアッセイ実験を行った。膜カーペットは、空のプラスミドでトランスフェクトしたcos細胞からの膜と混ざり合った前膜から成るレーンと交互になった(比:1:1)、RGMトランスフェクトcos細胞からの膜と混ざり合った前蓋膜のレーンから成った(比:1:1)。別のプロトコールでは、膜カーペットは、RGMトランスフェクトcos細胞からの膜とコントロールcos膜の交互のレーンからなる膜カーペットを、20μg/mlラミニン(Becton-Dickinson)と37℃で2 時間インキュベーションした。使用前に、該カーペットをハンクス緩衝液(2x)で洗浄した。これらのカーペット上では、鼻部軸索ではなく、側頭部RGC軸索が無RGM膜ストライプ上で増殖する、明瞭なレパルシブな回避挙動を示した(図7A-D)。これらの結果は、組換えRGMタンパク質が崩壊アッセイのみならずストライプアッセイでも活性であることを示す。
【0113】
RGMは、2つの異なるin vitroシステムにおいて、GPI-アンカー、段階的発現、および機能的活性を A-エフリンA2およびA5と共有する。しかしながら、その活性は、他の点で2つのA-エフリンと異なる。その活性の特異性は側頭部軸索および成長円錐に限定されない。より高いRGM濃度ではあるが、鼻部軸索および成長円錐も反応する。これは、側頭部網膜軸索が鼻部網膜軸索よりRGMとより強く反応するという以前の所見と一致する(Stahl(1990)、loc. cit)。エフリン-A5 に関して、側頭部および鼻部網膜軸索の感度におけるわずかな差異が観察されたが、この差異は、RGM(Drescher、Cell 82(1995)、359-70)の場合のように明白ではない。RGM機能のより強い濃度依存性に加え、他の重大な相違は、RGMがエフリン-A5およびエフリン-A2の両方と対照的に可溶性形で活性であるようであり、明らかにその現在未知の網膜レセプターを刺激するのに凝集を必要としないことである。これらのin vitroの結果はエフリンおよびRGM間の相違を強調する。ストライプアッセイにおいて、F3D4モノクローナル抗体および発色団補助レーザ不活化(CALI)法を使うRGMの不活化は、実験(Mueller(1996)、loc. cit)の50%以上で後蓋膜のレパルシブなガイダンス活性の完全な中和を生じた。しかしながら、F3D4 はエフリン-A2およびエフリン-A5のいずれにも結合せず(Mueller(1997)、loc. cit)、A-エフリンおよびRGMが何らかの方法でGPIアンカーによりリクルートされる特別な膜ドメインと相互作用することを示唆した。そのような共局在化は、エフリン-A2およびエフリン-A5 の不活化に加えてRGMの不活化をもたらす結果を説明し、ストライプアッセイ実験(Mueller(1996)、loc. cit)において観察された完全な中和を説明するであろう。特に両エフリンは脊椎動物動物における組織分布地図(topographic map)形成のために重要な分子決定基(決定因子)であることを示されているのでRGMとエフリン-A2およびエフリン-A5との機能的関係およびRGMのin vivoでの役割に注意を払う必要がある(Nakamoto、Cell 86(1996)、755-66; Frisen、Neuron 20(1998)、235-43; Feldheim、Neuron 21(1998)、563-74; Picker、Development 126(1999)、2967-78; Feldheim、Neuron 25(2000)、563-74; Brown、Cell 102(2000)、77-88)。しかしながら、網膜視蓋地図の形成にエフリンの他にその他の因子が必要とされることを示唆する2種の脊椎動物動物からの証拠がある。マウスにおけるエフリン-A2またはエフリン-A5遺伝子のいずれかの欠失は、いくらかの網膜軸索が哺乳類の視蓋相同物である上丘(SC)の異所性終止域を形成し、鼻部網膜軸索がSCを越え、下丘で終了する表現型のマッピングをもたらす。エフリン-A2-/-マウスでは、側頭部軸索は異所性終止域でマッピングエラーを示したが、側頭部軸索ではなく鼻部軸索の組織分布マッピングに欠陥を有するエフリン-A5-/-マウスと対照的に(Frisen(1998)loc. cit.; BFeldheim(2000)、loc. cit.)、鼻部軸索はいかなるマッピングエラーも示さなかった。したがって、両遺伝子の欠失は、SCの前‐後軸に沿った鼻および側頭部網膜軸索の両方のマッピングにおいてはるかに多くの混乱を生じるはずである。これは、二重の突然変異体エフリン-A2-/-A5-/-ホモ接合体において実際に観察されるが、鼻および側頭部軸索両方の組織分布的偏りがまだ存在し、側頭部および鼻部網膜軸索の大部分がそれぞれ前および後蓋の半分に限定された(Feldheim(2000)loc. cit.; Goodhill、Neuron 25(2000)、501-3)。これらの結果は、前‐後の軸に沿ったマッピングに必要なさらなる要因の1つとしてのRGMの役割を示す。そのような役割は、ほ乳動物のSC におけるこの分子の段階的前低後高発現により支持される(Mueller(1997)、loc. cit)。
【0114】
ゼブラフィッシュ突然変異体アセレベラ(acerebella)(ace)はfgf8の突然変異体であり、中脳-後脳境界領域および小脳が欠如している(Reifers、Development 125(1998)、2381-95; Picker(1999)、loc. cit.)。その結果、蓋は、野生形よりace突然変異体ではるかに小さく、3種のゼブラフィッシュ A-エフリン全ての発現レベルは変化し、エフリン-A2およびエフリン-A5aはまだace蓋に低および前部レベルで発現し、エフリン-A5bは完全に除去される(Picker et al.、1999)。ace突然変異体蓋において、前‐後の軸に沿った網膜軸索のマッピングは、背側蓋で正常であり、腹側蓋では完全には失われず、他の段階的ガイダンス・キューの関与がaceゼブラフィッシュ突然変異体のfgf8突然変異により重大な影響を受けなかったことを示唆する(Picker et al.、1999)。ゼブラフィッシュace突然変異体およびエフリン-A2-/-A5-/-二重ノックアウトマウス両方の背腹パターンニングは影響を受ける。
【0115】
蓋の前後軸に沿った段階的発現を示し、分泌および膜連結様式で機能する能力を有するRGMは、組織分布地図形成のための重要なプレーヤーである。
【0116】
実施例V
材料および方法
1.患者
【0117】
限局性脳梗塞の病歴および神経病理学的に確認された診断を有する患者21名の脳、および外傷性脳損傷を有する患者25名の脳をこの研究に含めた。梗塞脳組織は、先に報告した最新の脳卒中および外傷脳バンク(表1、2)から得た(Postler et al.、1997、Beschorner et al.、2000)。組織試料の調達は、Tuebingen大学の倫理ガイドラインに従って行った。免疫抑制療法または髄膜炎/脳炎のために免疫状態の異常を示す患者はこの研究から除外した。コントロールとして、結果を、以前に(Schwab et al.、2000)示された4つの正常な非虚血脳の対応する領域から得た組織と比較した。患者データに加え、ヘマトキシリンエオジン(HE)、ルクソール・ファーストブルー(LFB)、および鉄(Fe)染色を用いて、梗塞(Kalimo et al.、1996)、および外傷年齢(GrahamおよびGennarelli、1996)の標準的徴候と定義された典型的な組織学的特徴を評価した。
【0118】
2. 免疫組織化学
ホルムアルデヒド固定およびパラフィン包埋後、再水和した(rehydrated)2μm切片を、クエン酸塩緩衝液(2,1gクエン酸ナトリウム/リットル、pH7,4)中で5分間7回ボイルした(600W 電子レンジ中)。内因性のパーオキシダーゼをメチルアルコール中の1% H2O2で阻害した(1:10; 15分間)。切片は、免疫グロブリンの非特異結合をブロックするため、10%正常ブタ血清(Biochrom、Berlin、FRG)でインキュベーションした。RGMに対する単一特異的なポリクローナル抗体を1% BSA(ウシ血清アルブミン)TBS(0.025Mトリス、0.15M NaCl含有トリス平衡塩溶液)で希釈した(1:10)。抗体の特異的結合を二次ビオチン化ブタ抗ウサギIgG F(ab)2 抗体フラグメント(DAKO、Hamburg、FRG)1:400を用いて30分間、次いでパーオキシダーゼ共役ストレプトアビジン-ビオチン複合体(DAKO、Hamburg、FRG)とインキュベーションして検出した。酵素を、色原体としてジアミノベンジジン(Fluka、Neu‐Ulm、FRG)を用いて可視化した。切片を、Mayer's Hemalaunで対比染色した。陰性コントロールは、一次抗体非存在下でインキュベーションした切片から成った。ポリクローナルRGM抗体の特異性は、同系RGMペプチドと氷上で3時間プレインキュベーションした後のヒト虚血脳組織を用いる染色阻害により確認した。
【0119】
3. 二重標識実験
二重標識実験において、細胞タイプまたは活性化特異抗原を、最初にABC法をアルカリホスファターゼコンジュゲートと共に用いて標識した。特異抗原は、GFAP に対する抗体(グリア繊維性酸性タンパク質、モノクローナル、Boehringer Mannheim、ドイツ、1:100)で標識し、星状細胞、MBP(ミエリン塩基性タンパク質、ポリクローナル、乏突起膠細胞、Dako、1:500)およびミクログリア/マクロファージ同定のためにCD68(Dako、1:100)を検出した。活性化ミクログリア/マクロファージは、HLA-DR、-DP、-DQ(MHCクラスII、DAKO、Glostrup、デンマーク、1:100)もしくはMRP-8(8-5C2、BMA、Augst、スイス、1:100)に対する抗体を用いて検出された(Postler et al.、1997)。リンパ球のサブポピュレーションを、CD4(T‐ヘルパーリンパ球、1:10、Dako)、およびCD8(T細胞障害性/サプレッサーリンパ球、1:500、Dako)、およびCD20(汎B細胞マーカー、1:200、Dako)に対するモノクローナル抗体で分類した。管および瘢痕形成中の細胞外基底板構造を検出するため、マウスラミニン(1:500、Chemicon)抗体を用い、ウサギフィブロネクチン(1:100、Dako)抗体を用いてマトリックスの析出を検出した。さらに、細胞増殖反応を特徴づけるため、切片を、S期特異的PCNA(増殖細胞核抗原、1:100、Dako)モノクローナル抗体でインキュベーションした。簡潔に言えば、スライスを脱パラフィンし、電子レンジ中で照射して抗原を回収し、上記のように非特異的ブタ血清とインキュベーションした。可視化は、ビオチン化二次抗体(1:400)を30分間、およびTBS-BSA中のアルカリホスファターゼ共役ABCコンプレックス(1:400希釈)を30分間加えることによって達成された。次に、スライスをファーストブルーBB塩色原体‐基質溶液で顕色(develop)させて、青色反応生成物を得た。二重標識実験の間に、スライスをクエン酸塩緩衝液中、電子レンジで5分間照射した。次に、RGMを上記のごとく免疫検出した。
【0120】
4. 評価および統計分析
データは、境界域または同じ組織切片の離れた領域からの標識細胞の平均値(MLC、±SEM)として計算し、両側独立Student t検定を用いて正常コントロール脳と比較した。境界域は、主な損傷領域の境界を定める、生じる壊死コアに隣接する病変周囲領域と定義された。RGM+細胞を10の高パワーフィールド(HPF、0.25mm2を示す接眼レンズグリッドを用い、x200に拡大)でカウントした。
【0121】
結果
限局性脳梗塞(FCI)の患者21名の脳、外傷性脳損傷(TBI)の脳25個、およびコントロール脳4個におけるRGMタンパク質発現を免疫組織化学により評価した。
【0122】
1. 健全な、神経病理学的な変化がないコントロール脳
神経病理学的な変化がないコントロール脳において、RGM免疫活性は、白質繊維、乏突起膠細胞、一部のニューロンの神経細胞体に検出され、RGM+細胞は、脈絡叢(図8)および上衣でも検出された。血管周囲腔に単一細胞のみが検出された。さらに、一部の平滑筋細胞および少数の内皮細胞が標識された(星状細胞は標識されず)。
【0123】
2. 限局性脳虚血(FCI)
RGM発現細胞の数および分布が脳梗塞後に変化するか否かを分析した。結果は、RGM発現が病変に関連することを示唆した。細胞のRGM発現は、ニューロン、少数の反応性星状細胞、および侵入白血球に限定していた。病変のエージングに伴って、RGM陽性細胞外板成分が構成される瘢痕にみられた。RGM陽性細胞は、それぞれ、梗塞を起こした白質、出血領域、梗塞コア、および梗塞周辺領域に集積した。Student t検定を用いて、離れた領域(MLC=2、SEM=0.2)やコントロール組織(MLC=6、SEM=0.8)より梗塞周囲領域(MLC=24、SEM=1.1)において有意に(P<0.0001)高い数のRGM+細胞が検出された。形態学的に説明される梗塞周囲領域は、生理学的に定義された境界域の部分であった。これらの領域において、第1日までにすでに集積したRGM陽性細胞の数(p<0.0001、MLC=31.93、SEM=2.3)は、梗塞後1.5-2.5日で最大に達し(MLC=34、SEM=3.2)、生存数週間および数ヶ月まで高い状態を維持した(MLC=11、SEM=1.4)。虚血損傷後早い時期(2.5日まで)に、RGM免疫応答性は、主に虚血組織内の血管中に顆粒球、単球、およびリンパ球起源の白血球、ならびにニューロンにみられた。1-7日までの浮腫形成と平行して、RGM陽性細胞の限局性虚血病変実質への血管壁外浸出がみられた。血管周囲領域において、RGM陽性細胞は、第1-7日からVirchow‐Robin腔にクラスターを形成し、これはその後正常レベルに戻った。外膜細胞または外皮細胞とも呼ばれるこれら血管周囲細胞は特徴的に敏感な免疫細胞である(KatoおよびWalz、2000; Streit et al.、1999)。第3日以降からの病変のエージングにつれて、少数の反応性星状細胞による病変におけるRGMの発現が観察された。後期に、梗塞の1週間後に起こる細胞外のRGMの蓄積により、進行中の瘢痕形成の領域に限局した新生板の構築が検出された。これらのRGM陽性板は時間につれて大きさと局所における範囲が増大した。病変組織の再編成に伴い、「泡状の(foamy)」、脂質が詰まったRGM陽性食細胞様RGM陽性ミクログリア/マクロファージが観察された。
【0124】
細胞のRGM発現の上方調節は、損傷後の時間経過および浸潤白血球の出現およびミクログリア/マクロファージの活性化と関連があった(Stoll et al.、1998)。ところが、細胞外RGM発現の上方調節は、損傷後の時間経過および瘢痕の出現と関連があった。数例(対比染色した核の<5%)において、境界病変コアに制限されたいくらかの反応性星状細胞はRGMも発現した。
【0125】
3 .外傷性脳損傷
TBI後に死亡した患者において、脳梗塞(FCI)に基づく免疫組織学的評価において、白血球、少数の反応性星状細胞、およびニューロン(その神経細胞体、樹状突起、および軸索が強く染色された)による初期の細胞膜、細胞質、および核におけるRGMの発現が示された(図9)。TBI後の観察時間中に、壊死コアおよび境界壊死周囲実質内のRGM陽性細胞の蓄積(p<0.0001)が、離れた領域(MLC=1、SEM=0.1)および正常な脳コントロール(MLC=5.8、SEM=0.8)と比べて境界域(MLC=22、SEM=0.7)で検出された。TBI後、RGM陽性細胞数は最初の24時間(p<0.0001)の間にすでに上昇し(ここで、RGM陽性細胞数は最大レベルに達した(MLC=29、SEM=0.9))、次いで減少した。TBI後の時間が増すにつれ、大部分の顕著な変化は、進行中の瘢痕形成領域と一致した(図10)。これら領域において、十分明確な細胞外RGM陽性板は、境界域に隣接して凝縮して見ることができた。RGM免疫応答性は、内皮および血管平滑筋細胞(SMC)にも検出されたが、損傷脳とコントロール脳の間で有意差は観察されなかった。
【0126】
本明細書の上記実施例に記載の参考文献:
Beschorner、Acta Neuropathol. 100 (2000)、377-384;
Graham、「Greenfield's Neuropathology.」 D. I. Graham and P. L. Lantos (eds)、6th. Edn.、Edward Arnold、London (1996)、pps. 197-248;
Kalimo、Greenfield's Neuropathology 6th. Edn. Arnold、London Sydney Auckland (1996)、pp 315-381;
Kato、Brain Pathol.、10 (2000)、137-143;
Postler、Glia 19 (1997)、27-34;
Schwab、Acta Neuropathol. 99 (2000)、609-614;
Stoll、Prog. Neurobiol. 56 (1998)、149-171;
Streit、Prog. Neurobiol. 57 (1999)、563-581。
【0127】
実施例VI
マウスにおける腫瘍の成長挙動変化
RGM特異的F3D4モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ細胞を、鉱油でプライムしたマウスの腹膜中に注射した。通常、ハイブリドーマ細胞は腹膜中で分裂し続け、抗体を大量に分泌するハイブリドーマ細胞は大きな腹水腫瘍を形成する。F3D4産生ハイブリドーマ細胞を投与されたマウスは、腹腔に腹水腫瘍ではなく、固形の粘着性の腫瘍を生じた。F3D4モノクローナル抗体は、腫瘍化ハイブリドーマ細胞の、侵入性の低い非粘着性の状態から侵入性で粘着性の状態への表現型の変化をもたらした。ハイブリドーマ細胞から分泌された抗体による内因性RGMのマスキングは、これら腫瘍細胞の付着と侵入を可能にし、この結果を引き起こした。
【0128】
実施例VII
機能的RGM断片の検出
RGMをpTriExベクターにクローンし、次いでベクターを第1工程で、SacIを用いてポリリンカー側の内側およびRGM配列の内側で切断した。両末端を連結後、RGM含有ベクターを、第二工程において、RGM配列の内側をStuIで、またポリリンカーをPmIIで切断した。両末端を連結後、より短いRGM断片を持つベクターをCOS7細胞にトランスフェクトした。これらCOS細胞の細胞溶解物を抗RGM1アフィニティカラムを用いて精製し、RGM含有分画を崩壊アッセイ試験に用いた。配列番号19で示す断片が該アッセイにおいて活性であった。
【0129】
実施例VIII
更なるRGMの検出
National Center for Biotechnology Information(NCBI、USA)の公衆に利用可能なコンピュータデータベースを用い、本明細書で先の実施例に記載の情報とデータを用いてニワトリRGMとホモローガスなヒト遺伝子を同定した。Blastアルゴリズム(NCBI)に基づく検索戦略により、第1、5、および15番染色体上に位置する3つのヒト遺伝子を得た。対応する配列群(contig)は、それぞれNT 021932.5(RGM3)、NT 029283.2(RGM2)、およびNT 010370.5(RGM1)である。RGM1、2、および3のcDNA配列は、イントロンを削除し、残っているエクソンを融合することによりこれらゲノム配列から得た。
【0130】
ヒトRGM2に対応するアミノ酸およびヌクレオチド配列を、添付の配列番号22および23に示す。ヒトGM3配列を配列番号24および25に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経変性疾患、神経線維損傷、もしくは神経線維損失に関連した障害、または脈管(血管)形成障害に関連した疾患もしくは病状、発作に関連した疾患もしくは病状、または心血管系の障害を治療するための医薬組成物を製造するための配列番号18、19、または20のアミノ酸配列を含むポリペプチドと特異的に結合する抗体の使用であって、
(a)該神経変性疾患が、運動神経疾患(MND)、ALS、アルツハイマー病、パーキンソン病、進行性球麻痺、進行性筋萎縮症、HIV関連性痴呆および脊髄性筋萎縮症、ダウン症候群、ハンチントン病、クロイツフェルトヤコブ病、Gerstmann-Straeussler症候群、クール、スクレイピー、伝染性ミンク脳症、多系統アトロフィー、Riley-Day家族性自律神経失調症からなる群から選ばれ、
(b)該神経繊維損傷が脊髄損傷、頭蓋内圧亢進に関連した脳損傷、外傷、頭蓋内圧亢進による二次的損傷、感染症、梗塞、毒性物質への暴露、悪性腫瘍、および腫瘍随伴症候群からなる群から選ばれ、
(c)該神経繊維損失に関連した障害が顔面神経、正中神経、尺骨神経、腋窩神経、長胸神経、橈骨神経および他の末梢神経の不全麻痺からなる群から選ばれ、
(d)該発作に関連する疾患または病状がてんかんであり、
(e)該脈管形成障害に関連した疾患または病状が虚血性障害、梗塞、心血管、脳血管および/または腎血管障害において血管の斑(プラーク)形成の進行をもたらす障害、または血液脳関門透過性を調節しなければならない障害からなる群から選ばれ、
(f)該心血管系の障害が血液脳関門の障害、脳水腫、頭蓋内圧亢進による二次的脳損傷、感染症、梗塞、虚血、低酸素症、低血糖症、毒性物質への暴露、悪性腫瘍、腫瘍随伴症候群を含む、使用。
【請求項2】
自己反応性免疫細胞の活性または過剰反応性炎症細胞と関連した疾患または病状を治療するための医薬組成物を製造するための、配列番号18、19、または20のアミノ酸配列を有するかまたは含むポリペプチドの使用。
【請求項3】
炎症過程および/またはアレルギーを治療し、創傷を治療し、または瘢痕形成を抑制/軽減するための医薬組成物を製造するための、配列番号18、19、または20のアミノ酸配列を有するかまたは含むポリペプチドの使用。
【請求項4】
恒常性および/または出血性障害および/または血管損傷を治療するための医薬組成物を製造するための、配列番号18、19、または20のアミノ酸配列を有するかまたは含むポリペプチドの使用。
【請求項5】
該ポリペプチドが可溶性である請求項4に記載の使用。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−65045(P2010−65045A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250440(P2009−250440)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【分割の表示】特願2002−552580(P2002−552580)の分割
【原出願日】平成13年12月21日(2001.12.21)
【出願人】(390040420)マックス−プランク−ゲゼルシャフト・ツア・フェルデルング・デア・ヴィッセンシャフテン・エー・ファオ (54)
【氏名又は名称原語表記】Max−Planck−Gesellschaft zur Foerderung der Wissenschaften e.V.
【住所又は居所原語表記】Berlin, Germany
【Fターム(参考)】