説明

RH拡散源およびそれを用いたR−T−B系焼結磁石の製造方法

【課題】R−T−B系焼結磁石体へのRH拡散の条件が変わっても拡散量が変動することなく安定してR−T−B系焼結磁石を製造する。
【解決手段】焼結磁石の製造方法は、R−T−B系焼結磁石体を準備する工程と、ジルコニア、アルミナ、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化硼素若しくはこれらの混合物のセラミックスまたはMo、Nb、W、Taのいずれかの1種の金属若しくはこれらの合金のいずれかからなる基材に重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)を含む金属または合金を被覆したRH拡散源を準備する工程と、前記R−T−B系焼結磁石体および前記RH拡散源を処理室内に装入・配置する工程と、前記R−T−B系焼結磁石体および前記RH拡散源を700℃から1000℃に加熱するRH拡散工程とを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、R214B型化合物を主相として有するR−T−B系焼結磁石(Rは希土類元素、TはFeを含む遷移金属元素)の製造に用いられるRH拡散源およびそれを用いたR−T−B系焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
214B型化合物を主相とするR−T−B系焼結磁石は、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られており、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)や、ハイブリッド車搭載用モータ等の各種モータや家電製品等に使用されている。
【0003】
R−T−B系焼結磁石は、高温で保磁力が低下するため、不可逆熱減磁が起こる。不可逆熱減磁を回避するため、モータ用等に使用する場合、高温下でも高い保磁力を維持することが要求されている。
【0004】
R−T−B系焼結磁石は、R214B型化合物相中のRの一部を重希土類元素RH(DyまたはTbの少なくとも一方)で置換すると、保磁力が向上することが知られている。高温で高い保磁力を得るためには、R−T−B系焼結磁石中に重希土類元素RHを多く添加することが有効である。しかし、R−T−B系焼結磁石において、Rとして軽希土類元素RL(NdまたはPrの少なくとも一方)を重希土類元素RHで置換すると、保磁力が向上する一方、残留磁束密度が低下してしまうという問題がある。また、重希土類元素RHは希少資源であるため、その使用量を削減することが求められている。
【0005】
そこで、近年、残留磁束密度を低下させないように、より少ない重希土類元素RHによって焼結磁石の保磁力を向上させることが検討されている。本願出願人は、既に特許文献1において、R−T−B系焼結磁石体表面にDy等の重希土類元素RHを供給しつつ、該表面から重希土類元素RHを焼結磁石体の内部に拡散させる(「蒸着拡散」)方法を開示している。
【0006】
特許文献1では、高融点金属材料からなる処理室の内部において、R−T−B系焼結磁石体とRHバルク体とが所定間隔をあけて対向配置され、処理室内を700℃以上1000℃以下に加熱することで上記蒸着拡散を行うことが開示されている。
【0007】
特許文献2は、R−T−B系焼結磁石体と重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも1種)の金属または合金からなるRH拡散源とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に装入する工程と、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とを処理室内で連続的または断続的に移動させながら、500℃以上850℃以下の熱処理を10分以上行うRH拡散工程とにより、残留磁束密度を低下させることなくDyやTbの重希土類元素RHを磁石素材の表面から内部に拡散させるR−T−B系焼結磁石の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2007/102391号
【特許文献2】国際公開第2011/7758号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の方法では、700℃から1000℃という温度域で重希土類元素RHを焼結磁石体に供給・拡散する結果、R−T−B系焼結磁石体表面の重希土類元素RHの濃度が過度に高まることがないため、残留磁束密度の低下がほとんどなく保磁力の向上したR−T−B系焼結磁石を作製することができる。
【0010】
しかし、R−T−B系焼結磁石体の内部に拡散する重希土類元素RHの量は、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源との間隔、雰囲気の圧力、温度等の条件により変動し、得られるR−T−B系焼結磁石の特性を安定して得るには前記条件を厳密に管理する必要があった。特に、RH拡散源は前記間隔を一定とするため形状、寸法に制約を受け、消耗した場合は間隔や圧力を再設定しなければならない。
【0011】
特許文献2の方法でも、R−T−B系焼結磁石への重希土類元素RHの供給量が過多にならないため、残留磁束密度の低下がほとんどなく保磁力の向上したR−T−B系焼結磁石を作製することができる。
【0012】
しかし、特許文献2の方法では、比較的処理条件の管理は簡単であるものの、処理回数を重ねるとRH拡散源が消耗して粉末化し、微粉末の量が増加するとそれらがR−T−B系焼結磁石体と溶着する場合があり、その結果、溶着した部分のみ過剰に重希土類元素RHが供給されたことになり、残留磁束密度の低下が生じるなど、得られるR−T−B系焼結磁石の特性が劣化する問題があった。
【0013】
また、特許文献2の方法では、さらに拡散された重希土類元素RHを均質化する目的で次の熱処理工程に移る際、R−T−B系焼結磁石とRH拡散源を分離して次の工程に移る必要があった。
【0014】
本発明の目的は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、残留磁束密度を低下させることなくDyやTbの重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体の表面から内部に拡散させるR−T−B系焼結磁石の製造方法において、RH拡散源の組成や量、RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体との距離、RH拡散をする処理室の圧力、温度等のR―T−B系焼結磁石へのRH拡散工程の条件が変わっても拡散量が変動することなく安定して製造するのに用いられるRH拡散源を提供することである。
【0015】
また、本発明の目的は、前記RH拡散源を用いたR−T−B系焼結磁石の製造方法を提供することである。
【0016】
また、本発明の目的は、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とを接触しつつRH拡散しても、RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体とが溶着にくいR−T−B系焼結磁石の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のRH拡散源は、ジルコニア、アルミナ、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化硼素若しくはこれらの混合物のセラミックスまたはMo、Nb、W、Ta、Zr、Hf、Ti、Crの周期律表4族から6族のいずれか1種の金属若しくはこれらの合金のいずれかからなる基材に重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)を含む金属または合金を被覆したRH拡散源である。
【0018】
本発明の焼結磁石の製造方法は、前記RH拡散源を準備する工程と、R−T−B系焼結磁石体を準備する工程と、前記R−T−B系焼結磁石体および前記RH拡散源を処理室内に装入・配置する工程と、前記R−T−B系焼結磁石体および前記RH拡散源を700℃から1000℃に加熱するRH拡散工程とを包含する。
【0019】
ある実施形態において、前記装入・配置工程および前記RH拡散工程が、前記焼結磁石体と前記RH拡散源とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に装入する工程と、前記焼結磁石体と前記RH拡散源とを前記処理室内にて連続的または断続的に移動させながら、前記焼結磁石体および前記RH拡散源を700℃以上1000℃以下の処理温度に加熱するRH拡散工程と、を包含している。
【0020】
ある実施形態において、前記装入・配置工程および前記RH拡散工程が、前記R−T−B系焼結磁石体とともに前記RH拡散源とは接触することなく処理室内に配置され、かつ、その平均間隔を0.1mm以上300mm以下の範囲内に設定する工程と、前記RH拡散源および前記R−T−B系焼結磁石体を700℃以上1000℃以下に加熱することにより、前記RH拡散源から重希土類元素RHを前記R−T−B系焼結磁石体の表面に供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R−T−B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させるRH拡散工程とを包含している。
【0021】
ある実施形態において、前記RH拡散工程について、RH拡散源はRH拡散工程に必要な量の重希土類元素RHが被覆されている。
【0022】
ある実施形態において、前記基材に被覆した金属又は合金に含まれる重希土類元素RHの含有量は70質量%超100質量%以下である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ジルコニア、アルミナ、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化硼素若しくはこれらの混合物のセラミックスまたはMo、Nb、W、Ta、Zr、Hf、Ti、Crの周期律表4族から6族のいずれか1種の金属若しくはこれらの合金のいずれかからなる基材に、重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)を含む金属または合金を被覆したRH拡散源を用いることにより、R−T−B系焼結磁石に供給されるRHの総量をRH拡散処理に必要な量に調整できるので、RH拡散工程の条件により拡散量が変動することなく安定して処理することができる。
【0024】
また、本発明によれば、RH拡散源からの重希土類元素RHによってR−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とが溶着することが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の好ましい実施形態で使用される拡散装置の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の好ましい実施形態で使用される拡散装置の他の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】(a)および(b)は、本発明の好ましい実施形態で使用されるRH拡散源の構成を模式的に示す断面図である。
【図4】拡散処理工程時におけるヒートパターンの一例を示すグラフである。
【図5】拡散処理工程時におけるヒートパターンの他の例を示すグラフである。
【図6】拡散処理工程時におけるヒートパターンの更に他の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明では、ジルコニア、アルミナ、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化硼素若しくはこれらの混合物のセラミックスまたはMo、Nb、W、Ta、Zr、Hf、Ti、Crの周期律表4族から6族のいずれかの1種の金属若しくはこれらの合金のいずれかからなる基材に重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)を含む金属または合金を被覆したRH拡散源を用いる。これらの基材は本質的に希土類元素と反応しにくい、または合金化しないものである。また、被覆する重希土類元素RHの量を必要量に応じて決められるので、RH拡散工程でのR−T−B系焼結磁石体への重希土類元素RHの供給過多がなくなり、残留磁束密度Brの低下がなくなる。
【0027】
また、RH拡散源の基材は、形状、寸法を選択することができるため、処理中に基材に被覆されている重希土類元素RHが粉末化する恐れがない。
【0028】
本発明の製造方法では、R−T−B系焼結磁石体を準備する工程と、前記RH拡散源を準備する工程と、前記R−T−B系焼結磁石体および前記RH拡散源を処理室内に装入・配置する工程と、前記R−T−B系焼結磁石体および前記RH拡散源を700℃から1000℃に加熱するRH拡散工程とを含む。
【0029】
好ましい実施形態は、R−T−B系焼結磁石体と、上述のセラミックスまたは金属若しくは合金のいずれかに重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)を含む金属または合金を被覆したRH拡散源と、を相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室(または処理容器)内に装入し、それらを連続的または断続的に移動させながら700℃以上1000℃以下の温度(処理温度)に加熱保持する。好ましい処理温度は800℃以上950℃以下である。
【0030】
上記の処理中、連続的または断続的に移動させるに際し、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とが相互に分離しない方法を選択できる。例えば、処理室を回転または揺動させたり、処理室に振動を加えたりしてもよい。こうすることにより、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とを前記処理室内にて連続的または断続的に移動して、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源との接触部の位置を変化させたり、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とを近接・離間させながら、重希土類元素RHとの接触による供給とR−T−B系焼結磁石体内部への拡散とを同時に実行できる(RH拡散工程A)。
【0031】
本発明では、RH拡散源とR−T−B系焼結磁石体とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に装入し、連続的または断続的に移動させることができるので、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とを所定位置に並べる載置の時間が不要となる。
【0032】
また、別の好ましい実施形態は、前記R−T−B系焼結磁石体とともに前記RH拡散源が接触することなく処理室内に配置され、かつ、その平均間隔を0.1mm以上300mm以下の範囲内に設定する工程と、前記RH拡散源および前記R−T−B系焼結磁石体を700℃以上1000℃以下に加熱することにより、前記RH拡散源から重希土類元素RHを前記R−T−B系焼結磁石体の表面に気化・昇華により供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R−T−B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させる(RH拡散工程B)。
【0033】
RH拡散工程AとRH拡散工程Bは、R−T−B系焼結磁石体の形状、寸法に応じて適宜選択される。
【0034】
さらに、本発明によれば、上述の基材に被覆する重希土類元素RHを含む金属または合金からなるRH拡散源の被膜(以下、RH膜という場合もある)の厚さをあらかじめ調整することにより、RH拡散源の重希土類元素RH量を、RH拡散工程に必要な量に設定することができる。このため、RH拡散工程を行っても、R−T−B系焼結磁石の表面に供給される重希土類元素RH(DyまたはTbの少なくとも一方)が過多とならずに、RH拡散源の表面にある重希土類元素RHが磁石表面に供給される。このため、RH拡散後の残留磁束密度の低下を抑えながら、充分に高い保磁力を得ることができる。
【0035】
また、基材に被覆するRH膜中の重希土類元素RHの量が70質量%未満であると、RH拡散に必要な重希土類元素RHを確保するために必然的にRH膜が厚くなり生産効率がよくない。
【0036】
また、本発明では、R−T−B系焼結磁石体の組成に重希土類元素RHを含む必要はない。すなわち、希土類元素Rとして軽希土類元素RL(NdおよびPrの少なくとも一方を含む)を含有する公知の焼結磁石体を準備し、その表面から重希土類元素RHを磁石内部に拡散する。本発明によれば、重希土類元素RHの粒界拡散により、R−T−B系焼結磁石体の内部に位置する主相の外殻部にも重希土類元素RHを効率的に供給することが可能になる。もちろん、本発明は、重希土類元素RHが添加されているR−T−B系焼結磁石体に対して適用しても良い。ただし、多量の重希土類元素RHを添加したのでは、本発明の効果を充分に奏することはできないため、相対的に少ない量の重希土類元素RHが添加され得る。
【0037】
[RH拡散源]
ジルコニア、アルミナ、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化硼素若しくはこれらの混合物のセラミックスまたはMo、Nb、W、Ta、Zr、Hf、Ti、Crの周期律表4族から6族のいずれかの1種の金属若しくはこれらの合金のいずれかからなる基材に、重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方を含む)を含む金属又は合金が被覆されているRH拡散源が使用される。
【0038】
RH拡散源の基材はRH拡散処理中にR−TーB系焼結磁石体と反応しにくい前記セラミックスまたは前記金属若しくは前記合金から形成される。セラミックスとしては、ジルコニア、アルミナ、イットリウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素並びに窒化硼素、またはこれらの混合物のセラミックスから好適に形成される。ジルコニア、アルミナ、イットリウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素並びに窒化硼素、またはこれらの混合物のセラミックスは比重がR−T−B系焼結磁石体とほぼ等しいので均質に混合しやすい。
【0039】
また、R−T−B系焼結磁石と反応しにくい基材としては、Mo、Nb、W、Ta、Zr、Hf、Ti、Crの周期律表4族から6族のいずれかの1種の金属若しくはこれらの合金から形成され得る。
【0040】
RH拡散源の形態は、例えば、球状、線状、板状、ブロック状など任意である。球状や線状を有する場合、その直径は例えば数mm〜数cmに設定され得る。このように、RH拡散源の形状・大きさは、特に限定されない。
【0041】
RH拡散源が球状である場合、RH拡散源は図3(a)に示すように内部に球状のセラミックス又金属からなる基材13があり、その基材13を、重希土類元素RHを含むRH膜14にて被覆している。
【0042】
RH拡散源が板状である場合、RH拡散源は図3(b)に示すように内部に板状の基材13があり、その基材13を、重希土類元素RHを含むRH膜14にて被覆している。
【0043】
重希土類元素RHを基材に被覆する方法としての一例は、容器内にDy又はTbの塊と前記セラミックス粒またはMo、Nb等の球状の基材を入れて、例えば500℃以上1000℃以下に加熱し、近接・離間させながらDyまたはTbを前記基材のまわりにRH膜として被覆する方法である。
【0044】
他の例としては、スパッタ法、蒸着法または溶射法によって前記基材にRH膜を形成する。
【0045】
スパッタ法、蒸着法によるRH膜の被覆には、物理的気相成長(PVD)法と化学的気相成長(CVD)法に分けられる。PVD法としては、蒸発系とスパッタ系に分けられ、前者としては、真空蒸着、イオンプレーティング、アークイオンプレーティング、ホロカソードイオンプレーティング、イオンビーム蒸着等がある。また、スパッタ系では、マグネトロンスパッタリングが一般的である。一方、CVD方法には、熱CVD、プラズマCVD、光CVD、MOCVDなどの方法がある。
【0046】
溶射法によるRH膜の被覆には、数十μmから70μmの粉末状の重希土類元素RHを高速高温のガス噴流(プラズマジェット)を用いて、溶融、軟化、加速し、基材の表層に衝突、堆積させて膜を被覆する方法がある。
【0047】
また、Dy、Tbの溶湯中に基材を浸漬するディッピング法でも基材にRH膜を被覆することができる。
【0048】
また、基材が導電性基材の場合、Dyイオンを含有する溶融塩中で電解を行うことにより基材の表面にDyを電析させる溶融塩電解法や有機溶媒およびDyイオンを含むめっき液中で電解めっきを行うことにより基材にDyを電析する電解めっき法によりRH膜を被覆することができる。
【0049】
さらに前述の方法を組み合わせてRH膜を形成してもよい、例えば、基材が非導電性基材であっても、スパッタ法、蒸着法、溶射法にて重希土類元素RHを数μm以上成膜してからであれば、前述の溶融塩電解法、電解めっき法にて被覆することもできる。
【0050】
前記基材を被覆するRH膜は、少なくとも一回のRH拡散で供給しようとする量だけ被覆するのが好ましい。重希土類元素RHは、一回のRH拡散が完了するたびに繰り返して被覆するのが好ましい。一回のRH拡散が完了するたびに重希土類元素RHで前記基材に被覆することで、後述するRH拡散工程と第1熱処理を同じ装置にて連続して行うことができる。
【0051】
RH膜は、Dy、Tb、以外に例えば、他の希土類元素やCo、Feを含んでいてもよい。
【0052】
[R−T−B系焼結磁石体]
まず、本発明では、重希土類元素RHの拡散の対象とするR−T−B系焼結磁石体を準備する。このR−T−B系焼結磁石体は、例えば以下の組成からなる。
希土類元素R:12〜17原子%
B(Bの一部はCで置換されていてもよい):5〜8原子%
T(Feを主とする遷移金属であって、Coを含んでもよい)および不可避不純物:残部
Tの一部は以下の範囲で添加元素Mに置換されていてもよい。
添加元素M(Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種):0〜2原子%
ここで、希土類元素Rは、主としてNd、Prを含む軽希土類元素RLから選択される少なくとも1種の元素であるが、重希土類元素を含有していてもよい。なお、重希土類元素を含有する場合は、DyおよびTbの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0053】
上記組成のR−T−B系焼結磁石体は、公知の製造方法によって製造される。
【0054】
以下、作製されたR−T−B系焼結磁石体に対して行う拡散処理工程を詳細に説明する。
【0055】
[RH拡散工程A]
一つの例として、図1を参照しながら、本発明によるRH拡散工程Aを説明する。R−T−B系焼結磁石体がブロック形状である場合、次に示す方法が好ましい。
【0056】
図1に示す例では、R−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2がステンレス製の筒3の内部に装入されている。ここで、RH拡散源2は図3(a)にて示すように球状の基材13の上にRH膜14が被覆されている。また、図示していないが、RH拡散源の形状によってはジルコニア球などを攪拌補助部材として筒3の内部に導入されていることが好ましい場合がある。この例では、筒3が「処理室」として機能する。筒3の材料は、ステンレスに限定されず、1000℃を超える温度に耐える耐熱性を有し、R−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2と反応しにくい材料であれば任意である。例えば、Nb、Mo、Wまたはそれらの少なくとも1種を含む合金を用いてもよいし、ステンレスにAlまたはCoを添加したFe―Cr−Al系合金、Fe―Cr−Co系合金を用いてもよい。筒3には開閉または取り外し可能な蓋5が設けられている。また筒3の内壁には、RH拡散源2とR−T−B系焼結磁石体1とが効率的に移動と接触を行い得るように、突起物を設置することができる。筒3の長軸方向に垂直な断面形状も、円に限定されず、楕円または多角形、あるいはその他の形状であってもよい。図1に示す状態の筒3は排気装置6と連結されている。排気装置6の働きにより、筒3の内部は減圧され得る。筒3の内部には、不図示のガスボンベなどからArなどの不活性ガスが導入され得る。
【0057】
筒3は、その外周部に配置されたヒータ4によって加熱される。筒3の加熱により、その内部に収納されたR−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2も加熱される。筒3は、中心軸の回りに回転可能に支持されており、ヒータ4による加熱中も可変モータ7によって回動することができる。筒3の回転速度は、例えば筒3の内壁面の周速度を毎秒0.005m以上に設定され得る。回転により筒内のR−T−B系焼結磁石体同士が衝突して欠けないよう、毎秒0.5m以下に設定するのが好ましい。
【0058】
図1の例では、筒3は回転するが、本発明は、このような場合に限定されない。RH拡散工程中に筒3内でR−T−B系焼結磁石体1とRH拡散源2とが相対的に移動可能かつ接触可能であればよい。例えば、筒3は、回転することなく揺動または振動していてもよいし、回転、揺動および振動の少なくとも2つが同時に生じていてもよい。
【0059】
次に、図1の処理装置を用いて行うRH拡散工程の手順を説明する。
【0060】
まず、蓋5を筒3から取り外し、筒3の内部を開放する。複数のR−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2を筒3の内部に装入した後、再び、蓋5を筒3に取り付ける。排気装置6を接続して筒3の内部を真空排気する。筒3の内部圧力が充分に低下した後、排気装置6を取り外す。加熱後、必要圧力まで不活性ガスを導入し、モータ7によって筒3を回転させながら、ヒータ4による加熱を実行する。
【0061】
拡散熱処理時における筒3の内部は不活性雰囲気であることが好ましい。本明細書における「不活性雰囲気」とは、真空、または不活性ガスを含むものとする。また、「不活性ガス」は、例えばアルゴン(Ar)などの希ガスであるが、R−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2との間で化学的に反応しないガスであれば、「不活性ガス」に含まれ得る。不活性ガスの圧力は、大気圧以下であることが好ましい。RH拡散工程時における雰囲気ガスの圧力(処理室内の雰囲気圧力)は、例えば10-3Paから大気圧の範囲内に設定され得る。しかし、本実施形態においては、RH拡散源2とR−T−B系焼結磁石体1とが近接または接触しているため、特許文献1に記載の圧力よりも高い圧力でRH拡散ができる。また、重希土類元素RHの供給量は真空度にあまり依存せず、真空度を更に高めても、重希土類元素RHの供給量(保磁力の向上度)に大きく影響しない。重希土類元素RHの供給量は、雰囲気圧力よりもR−T−B系焼結磁石体の温度に敏感である。
【0062】
本実施形態では、重希土類元素RHを含むRH拡散源2とR−T−B系焼結磁石体1とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に装入し、連続的または断続的に回転させつつ、加熱することにより、RH拡散源2から重希土類元素RHをR−T−B系焼結磁石体1の表面に供給しつつ、内部に拡散させることができる。
【0063】
拡散処理時における処理室の内壁面の周速度は、例えば0.005m/s以上に設定され得る。回転速度が低くなると、R−T−B系焼結磁石体1とRH拡散源2との接触部の移動が遅くなり、溶着が発生しやすくなる。このため、拡散温度が高いほど、処理室の回転速度を高めることが好ましい。好ましい回転速度は、拡散温度のみならず、RH拡散源の形状やサイズによっても異なる。
【0064】
本実施形態では、RH拡散源2およびR−T−B系焼結磁石体1の温度を700℃以上1000℃以下の範囲内に保持する。この温度範囲は、重希土類元素RHがR−T−B系焼結磁石体1の粒界相を伝って内部へ拡散する温度領域である。好ましくは800℃以上900℃以下の温度範囲でRH拡散を行う。
【0065】
処理温度が1000℃を超えると、RH拡散源2とR−T−B系焼結磁石体1とが溶着してしまう問題が生じ易く、一方、処理温度が700℃未満では、目的とする拡散効果が得られない。RH拡散の処理時間は、10分以上72時間以下である。好ましくは1時間以上12時間以下である。
【0066】
処理時間は、RH拡散処理工程をする際のR−T−B系焼結磁石体1およびRH拡散源2の装入量の比率、R−T−B系焼結磁石体1の形状、RH拡散源2の形状、および、RH拡散処理によってR−T−B系焼結磁石体1に拡散されるべき重希土類元素RHの量(拡散量)などを考慮して決められる。
【0067】
[RH拡散工程B]
R−T−B系焼結磁石体が薄板状や棒状で場合は、次に示す方法が好ましい。
【0068】
図2を参照しながら、本発明によるRH拡散工程Bを説明する。
【0069】
図2は、R−T−B系焼結磁石体11とRH拡散源12との配置例を示している。ここで、RH拡散源12は図3(b)に示すように前記板状の基材13の上下面にRH膜14が被覆されている。図2に示す例では、高融点金属材料からなる処理室15の内部において、R−T−B系焼結磁石体11とRH拡散源12とが間隔をあけて対向配置されている。板状の基材13の上面又は下面の一方面にのみRH膜14が被覆されているRH拡散源12を用いてもよい。図2の処理室15は、複数のR−T−B系焼結磁石体11を保持する焼結磁石体保持部材16と、RH拡散源12を保持する拡散源保持部材17とを備えている。また、これらの焼結磁石体保持部材16と拡散源保持部材17とはスペーサ部材18を介して所定の間隔を形成している。図2の例では、焼結磁石体保持部材16と拡散源保持部材17とは網であるが、RH拡散に必要なRH膜を被覆した板状RH拡散源を用いることで拡散源保持部材17を用いずにそのまま配置し、RH拡散処理することが可能である。R−T−B系焼結磁石体11およびRH拡散源12を保持する構成は、上記の例に限定されず、任意である。保持する構成は、板状部材を組み合わせた格子状の部材であってもよい。本願における「対向」とはR−T−B系焼結磁石体とRH拡散源が間を遮断されることなく向かい合っていることを意味する。
【0070】
なお、RH拡散源12としては図示のような板状の基材13を用いる他、棒状の基材を用いることも可能である。いずれの形状からなる基材13の場合でも表面に拡散に必要なだけの重希土類元素RHを被覆しており、数mm以下の厚さ・直径からなる高強度の基材を有するRH拡散源であるので、図2の方法で処理室内に多くの磁石を積載することができる。
【0071】
不図示の加熱装置で処理室15を加熱することにより、処理室15の温度を上昇させる。このとき、処理室15の温度を、700℃以上1000℃以下、好ましくは850℃以上950℃以下の範囲に調整する。
【0072】
R−T−B系焼結磁石体11とRH拡散源12の間隔は0.1mm〜300mmに設定する。この間隔は、1mm以上50mm以下であることが好ましい。
【0073】
熱処理時における処理室内は不活性雰囲気であることが好ましい。不活性ガスの圧力は、大気圧よりも低い値を示すように減圧される。処理室内の雰囲気圧力が大気圧に近いと、RH拡散源から重希土類元素RHが焼結磁石体の表面に供給されにくくなるが、処理室内の雰囲気圧力は例えば102Pa以下であれば必要な重希土類元素RHを供給できる。
【0074】
処理時間は、RH拡散源およびR−T−B系焼結磁石体の温度が700℃以上1000℃以下および圧力が10-5Pa以上500Pa以下にある時間を意味し、必ずしも特定の温度、圧力に一定に保持される時間のみを表すのではない。
【0075】
[第1熱処理]
RH拡散工程AまたはRH拡散工程Bの後に、拡散された重希土類元素RHをより均質化する目的でR−T−B系焼結磁石体1に対する第1熱処理を行っても良い。第1熱処理は、重希土類元素RHの供給を止めた後、重希土類元素RHが実質的に拡散し得る700℃以上1000℃以下の範囲で行い、より好ましくは800℃以上950℃以下の温度で実行される。この第1熱処理では、R−T−B系焼結磁石体1の内部へ重希土類元素RHを拡散するため、焼結磁石の表面側から奥深くに重希土類元素RHを拡散し、磁石全体として保磁力を高めることが可能になる。第1熱処理の時間は、10分以上72時間以下である。好ましくは1時間以上12時間以下である。ここで、第1熱処理を行う熱処理炉の雰囲気圧力は、大気圧以下である。好ましいのは100kPa以下である。また、第1熱処理工程は、RH拡散工程と同じ装置にて繰り返して行ってもよい。本発明の好ましい実施形態では、RH拡散源から供給される重希土類元素RHの量に限りがあるため、特に重希土類元素RHの供給を止める措置をすることなく、RH拡散工程と第1熱処理を連続して実施することができる。
【0076】
[第2熱処理]
また、必要に応じて保磁力を高めるため第2熱処理(400℃以上700℃以下)を行ってもよい。第1熱処理(700℃以上1000℃以下)と第2熱処理を両方行う場合は、第1熱処理の後に行うことが好ましい。第1熱処理(700℃以上1000℃以下)と第2熱処理(400℃以上700℃以下)とは、同じ処理室内で行っても良い。第2熱処理の時間は、例えば10分以上72時間以下である。好ましくは1時間以上12時間以下である。ここで、第2熱処理を行う熱処理炉の雰囲気圧力は、大気圧以下である。好ましいのは10kPa以下である。なお、第1熱処理を行わずに第2熱処理のみを行ってもよい。
【0077】
(実験例1)
まず、組成比Nd=30.1、Dy=0.5、B=1.0、Co=0.9、Al=0.1、Cu=0.1、残部=Fe(質量%)のR−T−B系焼結磁石体を作製した。これを機械加工することにより、7.4mm×7.4mm×7.4mmの立方体のR−T−B系焼結磁石体を得た。比較のため作製したR−T−B系焼結磁石体の磁石特性をB−Hトレーサーによって測定したところ、熱処理(500℃)後の特性で保磁力HcJは1000kA/m、残留磁束密度Brは1.42Tであった。
【0078】
次に、図1の装置を用いてRH拡散処理を実行した。筒の容積:128000mm3、R−T−B系焼結磁石体の装入重量(又は装入個数):50g(17個)、RH拡散源の投入重量:25g(30個)であった。RH拡散源としては、表1に示す組成の重希土類元素RHを10μmの厚さでジルコニア球に被覆した直径5mmのRH拡散源を用いた。
【0079】
RH拡散源は、ダウンスパッタリング装置を用い、基材に対向する位置にターゲットが配置され、ターゲットからスパッタされたDyが下方に位置する球形の基材の表面に堆積し被覆される。これらの基材を収容する容器を振動させることにより、基材を転動させ、基材表層にDyからなるRH膜を均一にコーティングした。
【0080】
拡散処理時における処理室の温度は、図4に示すように変化した。図4は、加熱開始後における処理室温度の変化(ヒートパターン)を示すグラフである。図4の例では、ヒータによる昇温を行いながら、真空排気を実行した。昇温レートは、約10℃/分である。処理室内の圧力が表1のレベルに達するまで、約600℃に温度を保持した。その後、処理室の回転を開始する。RH拡散処理温度に達するまで昇温を行った。昇温レートは約10℃/分であった。RH拡散処理温度に達した後、所定の時間だけ、その温度に保持した。その後、ヒータによる加熱を停止し、室温程度まで降温してからR−T−B系焼結磁石体を取り出し、熱処理装置内の圧力を10Paにして、第1熱処理(900℃、3時間)を行った。さらに拡散後の第2熱処理(450℃、4時間)を行った。ここで、第2熱処理の処理温度と時間は、RH拡散温度等を考慮し設定された。
【0081】
被覆したRH膜の組成を変えたRH拡散源(サンプル1から14)を用いてRH拡散処理を行ったところ、表1の結果となった。また、比較のため、Dy金属単体の拡散源をRH拡散源として用いて同様の実験(サンプル15、16)を行った。ここで、磁石特性は拡散処理後における焼結磁石体の各面を0.2mmずつ研削し、7.0mm×7.0mm×7.0mmの立方体に加工した後、B−Hトレーサーにてその磁石特性を評価している。表では、「RH膜」の欄には、拡散処理工程で使用したRH膜の組成が示されている(ただし、サンプル15及び16はDy金属単体から構成されている)。「周速度」の欄には、図1に示す筒3の内壁面の周速度が示されている。「RH拡散温度」の欄には、拡散処理中において保持される筒3内の温度が示されている。「RH拡散時間」の欄は、RH拡散温度を保持した時間が示されている。「雰囲気圧力」は拡散処理開始時の圧力を示している。RH拡散処理後の保磁力HcJ増加量を「ΔHcJ」、RH拡散処理後の残留磁束密度Br増加量を「ΔBr」で示している。マイナスの数値はRH拡散処理前のR−T−B系焼結磁石体の磁石特性より低下したことを示している。
【0082】
【表1】

【0083】
表1からわかるように、本発明の範囲(サンプル1から4、6から14)では、残留磁束密度の低下がなく、かつ保磁力が向上していた。サンプル3、4、8、9から、本発明の効果は雰囲気圧力が高くとも得られることがわかった。
【0084】
サンプル5よりRH拡散温度が600℃であるとRH拡散の効果が小さいことがわかった。
【0085】
一方、Dy金属単体のRH拡散源では、RH拡散温度を900℃にした場合(サンプル15)、R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とが溶着してしまっていた。RH拡散温度を820℃にした場合(サンプル16)、溶着もなく、保磁力が向上していた。
【0086】
以上のことから、ジルコニアからなるセラミックスに重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)を被覆したRH拡散源とR−T−B系焼結磁石体とを加熱した処理室内で接触させ、かつ、その接触点が固定されないようにすると、量産に適した方法で重希土類元素RHを効果的に焼結磁石体の粒界内に導入し、それによって磁石特性を向上させることが可能である。
【0087】
(実験例2)
RH拡散工程後、処理室からRH拡散源を取り出さず、そのまま続いて第1熱処理を行ったことを除き、実験例1のサンプル1、2、6、10、16と同じ条件にてRH拡散処理を行ったところ、表2のサンプル17から21の結果となった。ここで、拡散処理時における処理室の温度は、図5に示すように変化した。
【0088】
表2から明らかなように、本発明の範囲(サンプル17から20)では、残留磁束密度の低下を抑え、かつ保磁力が向上していた。一回のRH拡散処理に必要な量だけ重希土類元素RHを被覆したRH拡散源を用いるとRH拡散処理工程後にRH拡散源表層の重希土類元素RHがなくなっているので、RH拡散工程完了後R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とを分離せずに第1熱処理工程を行っても重希土類元素RHを均質に拡散することができたからであると推察する。
【0089】
一方、サンプル21では、RH拡散工程完了後R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源とを分離せずに第1熱処理を行うと、第1熱処理中にRH拡散源とR−T−B系焼結磁石体とが溶着してしまっていた。
【0090】
【表2】

【0091】
(実験例3)
まず、組成比Nd=22.5、Pr=6.0、Dy=4.0、B=1.0、Co=0.9、Al=0.1、Cu=0.1、Ga=0.1、残部=Fe(質量%)のR−T−B系焼結磁石体を作製した。これを機械加工することにより、5mm×30mm×40mmの直方体のR−T−B系焼結磁石体を得た。比較のため5mm×7mm×7mmの直方体を切り出し、その磁石特性をパルス励磁型のB−Hトレーサーによって測定したところ、熱処理(500℃)後の特性で保磁力HcJは1720kA/m、残留磁束密度Brは1.31Tであった。
【0092】
次に、図2の装置を用いてRH拡散処理を実行した。
【0093】
この焼結磁石体を図2に示すように処理室内に配置した。処理室内は底部から拡散源保持部材17、RH拡散源12、焼結磁石体保持部材16、R−T−B系焼結磁石体11、拡散源保持部材17、RH拡散源12、焼結磁石体保持部材16、R−T−B系焼結磁石体11、の順番を繰り返して積層し積層体を構成している。ここで焼結磁石体保持部材16と拡散源保持部材17との間にはスペーサ部材18を配置している。
【0094】
実験例3のサンプル22から25では、厚さ1.5mm×縦200mm×横200mm、4メッシュ(開口部 5.4mm×5.4mm)のMoからなる焼結磁石体保持部材上には、前記R−T−B系焼結磁石体を12個配置した。
【0095】
そして、処理室内には前記R−T−B系焼結磁石体を保持した焼結磁石体保持部材を3列配置し、処理室内にはR−T−B系焼結磁石体を一度に36個処理できるよう配置した。
【0096】
焼結磁石体保持部材と同じ材質、形状の拡散源保持部材17上には、2mm×25mm×170mmのサイズを有しているMo板からなる基材の主面に15μmの厚さにDyをRH膜を被覆したRH拡散源を7個配置した。RH拡散源については、最上段の上面、最下段の下面にはRH膜は被覆していない。RH拡散源を被覆している面は6面である。ここで処理室の容積は220mm×220mm×75mmである。
【0097】
ここで、Dyの被覆には、まず、マグネトロンスパッタ装置を用いて、Mo板の主面にDyを堆積し被覆した。具体的には以下の工程を行った。
【0098】
まず、スパッタ装置における成膜室内の真空排気を行い、その圧力を低下させた後、Arからなる不活性ガスを導入し、圧力を1Paに維持した。次に、成膜室内の電極間にRF出力300Wの高周波電力を与えることにより、Mo板の主面に対して5分間の逆スパッタを行った。この逆スパッタは、Mo板の主面を清浄化するために行うものである。その後、成膜室内の電極間にDC出力500WおよびRF出力30Wの電力を印加することにより、Dyターゲットの表面をスパッタし、Mo板の主面に厚さ4.5μmのDy膜を形成した。
【0099】
次に、Dy膜を形成したMo板に、Dyイオンを含有する溶融塩中で電析を行い、スパッタによるDy膜と合わせて15μmのDy膜を形成した。溶融塩による電析は具体的には以下の工程を行った。
【0100】
溶融塩としては、無水DyCl3を30g含むLiCl−KClを用いた。これら溶融塩を所定の温度に保ち、電解浴を形成した。電解処理条件は以下の通りである。
【0101】
前記Mo板を作用極として電解浴中に浸し、浴温500℃、0.2Vの電気電極で9時間の電解を行った。電解処理後のMo板の表面にはDy層が形成された。電解浴からMo板を取り出した後、Mo板表面に残存する溶融塩を除去するとともに酸化防止のため、R−T−B系焼結磁石体をエチレングリコールに漬ける浸漬し、Mo板の主面にDyを被覆した。
【0102】
R−T−B系焼結磁石体とRH拡散源との間隔は2.5mmに設定し、配置完了後RH拡散処理を行った。具体的には、図示しないヒータにて図2の処理室を加熱し、図6の温度条件にてRH拡散を行った。図6の温度条件では、処理室にR−T−B系焼結磁石体とRH拡散源をそれぞれ保持部材に配置し、水分を除去する目的で40Paの不活性ガスを流気させてから、新たに不活性ガスを流気させて炉内の雰囲気圧力を1.5kPaの圧力にして900℃まで昇温させる。900℃に昇温後圧力1.0Paの真空中で3時間RH拡散処理を行った。
【0103】
RH拡散処理のあと、再び不活性ガスを処理室内に流気させ1.5kPaの雰囲気圧力中で6時間第1熱処理をし、さらに徐冷後、不図示の第2熱処理(圧力2Pa、500℃で60分)を行い、R−T−B系焼結磁石を作製した。
【0104】
磁石特性は拡散処理後の磁石を4.6mm×7mm×7mmの直方体に加工した後、パルス励磁型のB−Hトレーサーにてその磁石特性を評価したところ、表3の結果となった。
【0105】
サンプル26では、拡散源保持部材17を用いなかったことを除き、サンプル23と同様の条件に設定した。サンプル27ではスペーサ部材18をサンプル22から25の2倍の高さのあるものを用いたことを除き、サンプル22と同様の条件に設定した。
【0106】
【表3】

【0107】
表3から明らかなように、実験例3のサンプル22から26では、RH拡散処理後のR−T−B系焼結磁石はRH拡散処理前と比べて300kA/mの保磁力向上効果(ΔHcJ)があり、残留磁束密度の低下もなかった。また、RH拡散後、R−T−B系焼結磁石と保持部材とで溶着がなかった。あらかじめ必要なだけの重希土類元素RHしか処理容器内にないため、重希土類元素RHが過多に処理容器に充満しないことによるものと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明によれば、高残留磁束密度、高保磁力のR−T−B系焼結磁石を作製することができる。
【符号の説明】
【0109】
1、11 R−T−B系焼結磁石体
2、12 RH拡散源
3 ステンレス製の筒(処理室)
4 ヒータ
5 蓋
6 排気装置
13 基材
14 RH膜
15 処理室
16 焼結磁石体保持部材
17 拡散源保持部材
18 スペーサ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニア、アルミナ、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化硼素若しくはこれらの混合物のセラミックスまたはMo、Nb、W、Ta、Zr、Hf、Ti、Crの周期律表4族から6族のいずれかの1種の金属若しくはこれらの合金のいずれかからなる基材に重希土類元素RH(DyおよびTbの少なくとも一方)を含む金属または合金を被覆したRH拡散源。
【請求項2】
請求項1に記載のRH拡散源を準備する工程と、
R−T−B系焼結磁石体を準備する工程と、
前記R−T−B系焼結磁石体および前記RH拡散源を処理室内に装入・配置する工程と、
前記R−T−B系焼結磁石体および前記RH拡散源を700℃から1000℃に加熱するRH拡散工程と、
を含むR−T−B系焼結磁石体の製造方法。
【請求項3】
前記装入・配置工程および前記RH拡散工程が、
前記焼結磁石体と前記RH拡散源とを相対的に移動可能かつ近接または接触可能に処理室内に装入する工程と、
前記焼結磁石体と前記RH拡散源とを前記処理室内にて連続的または断続的に移動させながら、前記焼結磁石体および前記RH拡散源を700℃以上1000℃以下の処理温度に加熱するRH拡散工程と、
を包含する請求項2に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記装入・配置工程および前記RH拡散工程が、
前記R−T−B系焼結磁石体とともに前記RH拡散源が接触することなく処理室内に配置され、かつ、その平均間隔を0.1mm以上300mm以下の範囲内に設定する工程と、
前記RH拡散源および前記R−T−B系焼結磁石体を700℃以上1000℃以下に加熱することにより、前記RH拡散源から重希土類元素RHを前記R−T−B系焼結磁石体の表面に供給しつつ、前記重希土類元素RHを前記R−T−B系希土類焼結磁石体の内部に拡散させるRH拡散工程と、
を包含する請求項2に記載のR−T−B系希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
前記RH拡散工程について、RH拡散源はRH拡散工程に必要な量の重希土類元素RHが被覆されている請求項2に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。
【請求項6】
前記基材に被覆した金属又は合金に含まれる重希土類元素RHは70質量%超100質量%以下である請求項2に記載のR−T−B系焼結磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−169436(P2012−169436A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28779(P2011−28779)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】