説明

RNAの分析方法

【課題】固定液により固定された組織から抽出したRNAの分析方法を確立することを課題とする。
【解決手段】表面に凹部及び凸部からなる凹凸部を有し、該凸部の上端面に選択結合性物質が固定化されてなる基板と、該基板と接着されたカバー部材とを備え、該基板と該カバー部材との間に空隙を有し、該空隙に微粒子が移動可能に格納された分析用チップに、固定液により固定された組織から抽出したRNAを非増幅または1回増幅した核酸を含む反応液を接触させて、該選択結合性物質に選択的に結合した該核酸量を測定する、RNAの分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定液により固定された組織から抽出したRNAの分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子、タンパク質等の発現プロファイルを調べるのに有用なバイオツールの一態様として、マイクロアレイがある。マイクロアレイとは、基板上にDNA、タンパク質等の分子が高密度に配置されたもので、数十〜数万という多数の分子の発現量、発現の有無を同時に測定することができる。マイクロアレイを使用することで、各種疾患動物モデルや細胞生物学現象における体系的かつ網羅的な発現解析を行うことができる。例えば、生物の細胞又は組織レベルでの遺伝子発現の変動をDNAマイクロアレイによって解析し、生理学的、細胞生物学的、生化学的事象データと組み合わせて遺伝子発現プロファイルデータベースを構築することによって、疾患遺伝子、治療関連遺伝子の検索や治療方法の探索が可能になると考えられている。
【0003】
近年、病院や研究機関等で莫大な数の検体が保管されている、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織に代表される固定液により固定された組織の遺伝子を解析する技術に対して、期待が高まっている。FFPE組織に対する膨大な疾患データが蓄積されていることから、FFPE組織から遺伝子を抽出し、マイクロアレイを用いて解析する技術が確立すれば、長期間保存された組織の遡及的な研究が可能となることから、症例対照研究(ケースコントロールスタディー)等に利用することができ、よって医療界に大きく貢献する技術となり得る。
【0004】
しかしながら、固定組織から抽出したRNAをマイクロアレイで分析する場合、抽出されるRNAが断片化していることが大きな課題となっている。検出対象となるmRNAは、3´末端に50〜200塩基程度のアデニンヌクレオチドが付加されているのが特徴であり、ポリ(A)鎖と呼ばれている。mRNAを増幅する場合、プライマーとして、ポリ(A)鎖と相補的な配列を有するオリゴdTプライマーが一般に使用され、オリゴdTプライマーにより、mRNAの3´末端から選択的にcDNAを合成する。しかしながら、mRNAが断片化されていると、3´末端にポリ(A)鎖を持たないものも存在することになり、それらに対してオリゴdTプライマーが結合しないため、逆転写反応することができない。その結果、増幅効率が非常に悪くなり、マイクロアレイに必要となる量のRNAを確保するのが困難であった。
【0005】
その問題を解消するため、ランダムプライマーを用いることでFFPE組織から抽出したRNAでも増幅を可能とする方法が開示されている。例えば特許文献1には、6〜9個のランダムヌクレオチドを含むランダムプライマーを用いた、非バイアス核酸増幅方法について開示されている。しかしながら、本方法によっても固定組織から抽出したRNAは断片化が進んでいるため、増幅効率が低い。よって、マイクロアレイでの分析を行うのに必要なRNA量を確保するためには、複数回の増幅操作が必要となるため、それに伴って生じる増幅バイアスの影響を避けられない。さらに、増幅用の試薬は高価であるため、実験にかかるコストが膨大になる上、実験に要する時間も長くなる。
【特許文献1】特表2006−520603
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固定組織から抽出した、断片化が進んでいるRNAを、非増幅、あるいは最小限の増幅回数でマイクロアレイ分析を可能とする技術を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題に鑑みて、本発明者らは鋭意検討した結果、表面に凹部及び凸部からなる凹凸部を有し、該凸部の上端面に選択結合性物質が固定化されてなる基板と、該基板と接着されたカバー部材とを備え、該基板と該カバー部材との間に空隙を有し、該空隙に微粒子が移動可能に格納された分析用チップを用いることで、固定組織から抽出したRNAの発現量を非増幅、または1回の増幅のみで分析できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち本発明は、表面に凹部及び凸部からなる凹凸部を有し、該凸部の上端面に選択結合性物質が固定化されてなる基板と、該基板と接着されたカバー部材とを備え、該基板と該カバー部材との間に空隙を有し、該空隙に微粒子が移動可能に格納された分析用チップに、固定液により固定された組織から抽出したRNAを非増幅または1回増幅した核酸を含む溶液を接触させて、該選択結合性物質に選択的に結合した該核酸量を測定する、RNAの分析方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の分析方法により、固定組織から抽出したRNAを分析する場合に必須となっていた複数回の増幅操作を必要としないため、解析のバラツキの原因となる増幅バイアスを最小限に抑制できる結果、従来の分析方法と比較して分析結果の精度、再現性を大きく向上させることができる。また、増幅する場合でも1回の増幅で十分量のRNAが得られるため、実験に要する時間を短縮できる。さらに、増幅操作に使用する試薬量を減らせるため、1サンプル当たりの分析にかかるコストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明をさらに具体的に説明する。
【0011】
本発明で用いられる分析用チップは、ガラス、セラミックス、シリコンなどの無機材料、ステンレス、金(めっき)などの金属類、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、酢酸セルロース、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリジメチルシロキサン、シリコンゴムなどの高分子材料からなる基板の表面に凹部及び凸部からなる凹凸部を形成し、該凸部の上端面に選択結合性物質を結合させたものである。ここで選択結合性物質とは、RNAと直接的又は間接的に選択的に結合しうる物質をいう。その例として、核酸または他の抗原性化合物が挙げられる。核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、ペプチド核酸(PNA)、相補的DNA(cDNA)、相補的RNA(cRNA)などを含む。他の抗原性化合物としては、低分子化合物を含む。特に好ましい選択結合性物質は核酸である。このような選択結合性物質は、市販のものでもよいし、あるいは、合成したもの、生体組織又は細胞などの天然源から調製したものでもよい。
【0012】
また、本発明で用いられる分析用チップは、前記基板表面の凹凸部を覆うカバーを接着することを特徴とする。このとき、凸部の上面とカバーとの間には、選択結合物質と核酸とが結合しうるための空間を設ける必要があり、そのサイズは高さ方向で1〜500μmであることが好ましい。空間サイズが1μmより小さいと、固定された選択結合性物質にRNAが接触する機会が極端に少なくなり、選択結合性物質と核酸の結合後のシグナルが著しく小さくなるため、一方、500μmを超えると、多くの液量が必要となり、微量な検体を用いる場合、核酸溶液の濃度が薄くなって選択結合性物質と核酸の反応性が低下し、検出時のシグナルが弱くなるため、それぞれ好ましくない。さらに、ハイブリダイゼーション後にそのシグナル(蛍光)を測定することを考慮すると、カバーはハイブリダイゼーション後に脱離できることが好ましいため、固定手段としては両面テープやPDMS(ポリジメチルシロキサン)による接着が好適に用いられる。また、カバーには、空隙に連通する1つ以上の貫通孔を備えることが好ましい。この孔は、核酸溶液、結合用バッファーなどの液体を注入するためのものであり、また同時に、基板内部の圧力を大気圧に保持するためのものでもある。貫通孔は、一つの空隙に対して複数あることが好ましく、中でも3〜6個とすることにより、検体溶液の充填が容易となるので特に好ましい。なお、上記のようなカバーの製造方法は特に限定されず、例えば、樹脂の場合は射出成形法、ホットエンボス法等、削り出し等の方法、ガラスやセラミックの場合はサンドブラスト法、シリコンの場合は公知の半導体プロセスで使用される方法等が好ましく用いられる。
【0013】
さらに、本発明で用いられる分析用チップは基板とカバーの間の空隙に微粒子を含むことを特徴とする。空隙に検体溶液をアプライして、検体溶液に振動を伝播させると、微粒子が液中で激しく動き回り、攪拌効率が著しく高くなる。その結果、ハイブリダイゼーションの反応促進効果がもたらされる。ここで、微粒子の材質は特に限定されないが、例えばガラス、セラミックス(例えばイットリア安定化ジルコニア)、ステンレス等の金属類、ナイロン、ポリスチレン等のポリマー、磁性体などが好適に用いられる。中でも、物理的、化学的に安定であり、かつ比重が大きいことから、セラミックの微粒子が好ましく用いられる。さらに、基板を回転させて重力方向に微粒子を落下させる方法や、基板を振盪させる方法、磁性微粒子を用いて磁力により微粒子を移動させる方法などを併用することで、より一層攪拌効率が向上する。
【0014】
本発明のRNAの分析方法は、固定液により固定された組織(固定組織ともいう)から抽出されたRNAを分析することを特徴とする。固定組織からRNAを抽出する方法としては、各社から上市されている抽出キットを用いる方法が挙げられ、例えば、“RecoverAll(TM) Total Nucleic Acid Isolation Kit for FFPE”(Ambion)、“RNeasy FFPE Kit”(Qiagen)、“ISOGEN PB Kit”(ニッポンジーン)、“FFPE RNA Purification Kit”(Norgen)、“Arcturus(登録商標) Paradise Extraction and Isolation Components”(MDS Analytical Technologies)、“PureLink(TM) FFPE RNA Isolation Kit”(Invitrogen)、“High Pure FFPE RNA Micro”(Roche Applied Science)を好適に用いることができる。
【0015】
本発明においては、固定組織から抽出されたRNAを、そのまま非増幅RNAとして反応液に溶解して前記分析用チップの選択結合性物質と結合させるか、増幅する場合は、1回増幅した核酸を反応液に溶解して該選択結合性物質と結合させる。固定組織から抽出されたRNA由来の核酸と選択結合性物質の結合させる方法としては当業者に公知の方法が採用され、特に選択結合性物質が核酸である場合、当業者に公知のハイブリダイゼーション方法によって結合させることができる。また、核酸と選択結合性物質を結合させる場合の反応液についても、当業者に公知の組成が採用され、特に選択結合性物質が核酸である場合、当業者に公知のハイブリダイゼーション緩衝液を使用することができる。
【0016】
固定組織から抽出されたRNAを、そのまま非増幅RNAとして分析を実施する場合、蛍光標識方法は特に限定されず、当業者に公知の方法で標識を行うことができる。標識試薬としては、例えばULYSIS(登録商標)核酸標識キット(Molecular Probes)、Label IT(登録商標) Non−RI Labeling & Modifying Kits(タカラバイオ)、Array 900 MPX(TM) Expression Array Detection Kit(Genisphere)等が好適に用いられる。
【0017】
固定組織から抽出されたRNAを1回増幅して分析を実施する場合、各社から上市されているキットを用いて操作することが好ましい。該増幅キットとしては、アンチセンス鎖のRNA(aRNA)を増幅するもの、相補的DNA(cDNA)を増幅するものであれば特に限定されず、例えば、“ExpressArt FFPE mRNA Amplification Kit”(AmpTec)、“Paradise Purification Components Amplification” (MDS Analytical Technologies)、“SenseAMP Plus”(Genisphere)が好適に用いられる。aRNA増幅のキットを用いる場合、増幅時にアミノアリル基やビオチンを導入することが好ましい。アミノアリル基やビオチンを導入することで、ターゲット分子のRNAに蛍光標識することができる。
【0018】
選択結合性物質と結合した核酸量を検出する方法としては、特に限定されないが、当業者に公知の蛍光スキャナー装置により、核酸に標識した蛍光の強度を読み取るのが好ましい。分析用チップのサイズがスライドガラスと略同一である場合は、当業者に公知のマイクロアレイ用スキャナーを用いることが好ましい。
【0019】
本発明の分析方法では、マイクロRNA(miRNA)等、塩基長が100塩基以下の短塩基長RNAの分析においても好ましく利用できる。短塩基長RNAの場合、非増幅で分析することが好ましい。
【0020】
本発明で使用される固定組織はパラフィンで包埋された組織であることが好ましい。固定組織をパラフィン包理する場合は、一般的に行われる手法で操作すればよい。すなわち、アルコールで置換することにより組織を脱水し、次いでキシレン、ベンゼン等で置換した後、熱して液化したパラフィンを流し入れた型枠に組織を入れて包埋しパラフィンブロックとする。パラフィン包埋した組織からRNAを抽出するときは、パラフィンブロックの組織を5〜20μm程度の厚さに薄切して使用する。
【0021】
本発明で使用される固定組織を作製する際に用いられる固定液としては、ホルムアルデヒド溶液(ホルマリン)、パラホルムアルデヒド溶液、エタノール等のアルコール類、アセトン等が使用され、また、ピクリン酸、重クロム酸カリウム等の酸を含む固定液、酢酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸亜鉛等の金属を含む固定液も使用できるが、ホルマリンが好ましく用いられる。ホルマリンは、精製水で希釈したものを使用してもよいし、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等でpHを中性に調整したものや、リン酸緩衝液で希釈してpHを中性に調整したものを使用してもよい。なお、ホルマリンの濃度は、5〜20%が好ましく、10〜15%がより好ましい。
【実施例】
【0022】
本発明を以下の実施例によってさらに詳細に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1
(分析用チップの作製)
基板として、外形が縦76mm、横26mm、厚み1mmであり、基板の中央部に縦39.4mm、横19.0mm、深さ0.15mmの凹部を設け、この凹部の中に、直径0.1mm、高さ0.15mmの凸部を9248箇所設けた基板(以下「基板A」とする)を用いた。この基板Aにおいて、凸部上面と平坦部上面との高さの差(凸部は高さの平均値)は、3μm以下であった。また、凸部上面の高さのばらつき(最も高い凸部上面の高さと最も低い凸部上面との高さの差)は、3μm以下であった。また、凸部のピッチ(凸部中央部から隣接した凸部中央部までの距離)を0.5mmとした。上記基板Aを10Nの水酸化ナトリウム水溶液に70℃で12時間浸漬した。これを、純水、0.1NのHCl水溶液、純水の順で洗浄し、基板表面にカルボキシル基を生成させた。
【0024】
基板Aに対し、以下の条件で、それぞれ選択結合性物質(プローブDNA)としてオリゴヌクレオチドを固定化した。オリゴヌクレオチドとしては、オペロン社製DNAマイクロアレイ用オリゴヌクレオチドセット“Homo sapiens(Human)AROS V4.0(各60塩基)”を用いた。このオリゴヌクレオチドを、純水に0.3nmol/μLの濃度となるよう溶解させて、ストック溶液とした。このストック溶液を基板にスポット(点着)する際は、PBS(8gのNaCl、2.9gのNaHPO・12HO、0.2gのKCl、及び0.2gのKHPOを合わせて純水に溶かし、1Lにメスアップしたものに、塩酸を加えてpH5.5に調製したもの)で10倍希釈して、プローブDNAの終濃度を0.03nmol/μLとし、かつ、PMMA製基板表面に生成させたカルボキシル基とプローブDNAの末端アミノ基とを縮合させるため、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を加え、この終濃度を50mg/mLとした。この溶液をアレイヤー(スポッター)(日本レーザー電子製;Gene Stamp−II)を用いて、基板Aの全ての凸部上面にスポットした。次いで、スポットした基板を密閉したプラスチック容器に入れて、37℃、湿度100%の条件で20時間程度インキュベートした。最後に純水で基板を洗浄し、スピンドライヤーで遠心して乾燥した。
【0025】
選択結合性物質を固定化した上記基板Aに対し、次のようにカバー部材を貼付した。カバー部材としては、縦41.4mm、横21mm、厚さ1mmのPMMA平板を切削加工により作製してカバー部材とした。作製した該カバー部材には、貫通孔および液面駐止用チャンバーを図4の5、7に例示するように設けた。そして接着部材として縦41.4mm、横21mm、幅1mm、厚さ25μmの両面テープを、カバー部材を縁取るようなサイズにカットし、厚さ(クリアランス)が50μmとなるように積層させて貼り付けたのち、該カバー部材を基板Aに貼付した。
【0026】
上記でカバー部材を貼付した基板Aに、直径180μmのジルコニア製微粒子120mgを、基板Aとカバー部材とで形成される空隙(基板A表面の凹凸構造の凹部)に封入した。なお、微粒子の封入は、カバー部材の貫通孔(図2または図4に例示される貫通孔5)から行った。以上のようにして得られた分析用チップを、「分析用チップ1」とした。
【0027】
(凍結組織からのRNAの抽出)
マウス小脳および肝臓の凍結組織各30mgから、RNeasy mini Kit(Qiagen)を用いて、キットのプロトコールに従ってRNAを抽出した。
【0028】
(FFPE組織からのRNA抽出)
マウス小脳および肝臓のホルマリン固定パラフィン包埋組織切片(厚さ10μm)各5枚をそれぞれ2mLのチューブに入れた。キシレン1mLを加えて10秒間ボルテックスミキサーで攪拌し、パラフィンを溶解させた。15,000×gで2分間遠心した後、ピペットを用いて組織を吸わないよう注意深くキシレンを除いた。次いで、エタノール1mLを加えて10秒間ボルテックスミキサーで攪拌した後、15,000×gで2分間遠心した。ピペットで組織を吸わないよう注意深くエタノールを除去し、風乾してエタノールを完全に除いた。組織をプロテイナーゼK溶液(500μg/mL)に懸濁し、37℃で16時間静置してタンパクを消化させた。シリカカラムを用いて、RNAを精製した。
【0029】
(RNA増幅、標識、ハイブリダイゼーション)
凍結組織、FFPE組織それぞれから抽出したトータルRNA100ngを、キットのプロトコールに従って、アミノアリル化アンチセンスRNA(以下、AA−aRNA)として増幅した。マウス小脳由来RNAから増幅したAA−aRNAをCy3−NHS(GEヘルスケア)で、マウス肝臓由来RNAから増幅したAA−aRNAをCy5−NHS(GEヘルスケア)でそれぞれ標識し、カラム(マイクロコンYM−30)で未反応のCy3、Cy5を除去、精製した。凍結組織抽出RNA、FFPE組織抽出RNAそれぞれについて、小脳、肝臓各500ng分のRNAを含む溶液を、1重量%BSA、5×SSC、0.01重量%サケ精子DNA、0.1重量%SDSの溶液(各濃度はいずれも終濃度))に溶解させて、250μLの検体溶液を調製した。脱気後、分析用チップのオリゴヌクレオチドがスポットされた面、すなわち基板とカバー部材の空隙部分に、マイクロピペットを用いて貫通孔から210μLアプライした。カバーに備えられた4箇所の貫通孔をシールして塞ぎ、バイオシェーカー(東京理化器械株式会社;MMS−210)の天板に固定したハイブリダイゼーションチャンバー(タカラバイオ株式会社;TX711)にセットした。設定温度を37℃とし、250rpmで旋回回転させて攪拌しながら、16時間反応させた。
【0030】
(蛍光シグナル値の測定)
反応後、分析用チップのカバー部材および両面テープを脱離させ、基板を洗浄、乾燥した。DNAチップ用のスキャナー(Axon Instruments社製 GenePix 4000B)に上記基板をセットし、レーザー出力33%、フォトマルチプライヤーの電圧設定を500にした状態で、ハイブリダイゼーション反応した蛍光標識RNAのシグナル値(蛍光強度)、バックグラウンドノイズを測定した。全25392個のスポットのうち、48個をバックグラウンド蛍光値測定用のネガティブコントロールスポットとし、個々のシグナル値からバックグラウンドシグナル値を差し引いて各スポットの真のシグナル値を算出した。ここで、真のシグナル値が正の場合を「有効スポット」とする。
【0031】
有効スポット数、および全てのスポットの平均シグナル強度を表1に示す。また、小脳と肝臓の共通有効スポットを抽出して、シグナル強度の比をとり(小脳/肝臓)、凍結組織から抽出したRNAとFFPE組織から抽出したRNAの相関係数を算定すると0.91であり、凹凸構造の基板を用いることで、両者の高い相関を得ることができた(表1参照)。
【0032】
【表1】

【0033】
実施例2
(RNAの抽出)
マウス小脳の凍結組織およびFFPEから、実施例1と同様にしてRNAを抽出した。
【0034】
(逆転写反応、捕捉配列のライゲーション、ハイブリダイゼーション)
各RNA1μgから、Array 900 MPX Expression Array Detection Kitのプロトコールに従って逆転写反応、捕捉配列のライゲーションを行った。各500ng分のRNAを含む溶液を、1重量%BSA、5×SSC、0.01重量%サケ精子DNA、0.1重量%SDSの溶液(各濃度はいずれも終濃度))に溶解させて、250μLの検体溶液を調製した。脱気後、分析用チップのオリゴヌクレオチドがスポットされた面、すなわち基板とカバー部材の空隙部分に、マイクロピペットを用いて貫通孔から210μLアプライした。カバーに備えられた4箇所の貫通孔をシールして塞ぎ、バイオシェーカー(東京理化器械株式会社;MMS−210)の天板に固定したハイブリダイゼーションチャンバー(タカラバイオ株式会社;TX711)にセットした。設定温度を37℃とし、250rpmで旋回回転させて攪拌しながら、16時間反応させた。
【0035】
(洗浄、染色)
反応後、分析用チップのカバー部材および両面テープを脱離させ、基板を洗浄、乾燥した。接着部材として縦41.4mm、横21mm、幅1mm、厚さ25μmの両面テープを、カバー部材を縁取るようなサイズにカットし、厚さ(クリアランス)が50μmとなるように積層させて貼り付けたのち、該カバー部材を基板に貼付した。上記でカバー部材を貼付した基板に、直径180μmのジルコニア製微粒子120mgを、基板とカバー部材とで形成される空隙(基板表面の凹凸構造の凹部)に封入した。なお、微粒子の封入は、カバー部材の貫通孔(図2または図4に例示される貫通孔5)から行った。キット添付のCy5で標識された捕捉試薬を含む溶液を、マイクロピペットを用いて貫通孔から210μLアプライした。カバーに備えられた4箇所の貫通孔をシールして塞ぎ、バイオシェーカー(東京理化器械株式会社;MMS−210)の天板に固定したハイブリダイゼーションチャンバー(タカラバイオ株式会社;TX711)にセットした。設定温度を37℃とし、250rpmで旋回回転させて攪拌しながら、4時間反応させた。
【0036】
(蛍光シグナル値の測定)
反応後、分析用チップのカバー部材および両面テープを脱離させ、基板を洗浄、乾燥した。DNAチップ用のスキャナー(Axon Instruments社製 GenePix 4000B)に上記基板をセットし、レーザー出力33%、フォトマルチプライヤーの電圧設定を500にした状態で、ハイブリダイゼーション反応した蛍光標識RNAのシグナル値(蛍光強度)、バックグラウンドノイズを測定した。全25392個のスポットのうち、48個をバックグラウンド蛍光値測定用のネガティブコントロールスポットとし、個々のシグナル値からバックグラウンドシグナル値を差し引いて各スポットの真のシグナル値を算出した。ここで、真のシグナル値が正の場合を「有効スポット」とする。
【0037】
有効スポット数、および全てのスポットの平均シグナル強度を表2に示す。共通の有効スポットを抽出して、凍結組織から抽出したRNAとFFPE組織から抽出したRNAの相関係数を算定すると0.93であり、凹凸構造の基板を用いることで、両者の高い相関を得ることができた(表2参照)。
【0038】
【表2】

【0039】
比較例1
(分析用チップの作製)
基板として、DNAマイクロアレイ用コートスライドガラス(松浪硝子)を用いた。以下の条件で、それぞれ選択結合性物質(プローブDNA)としてオリゴヌクレオチドを固定化した。オリゴヌクレオチドとしては、オペロン社製DNAマイクロアレイ用オリゴヌクレオチドセット“Mus musculus(Mouse)AROS Version 4.0(各70塩基)”を用いた。このオリゴヌクレオチドを、終濃度が0.03nmolおよびμLとなるようにDNAマイクロアレイ用Spotting Solution(松浪硝子)に溶解した。この溶液をアレイヤー(スポッター)(日本レーザー電子製;Gene Stamp−II)を用いて、計25392点(短軸方向に92スポット、長軸方向に276スポット)スポットした。以上のようにして得られた分析用チップを、「分析用チップ2」とした。
【0040】
(RNA増幅、標識、ハイブリダイゼーション)
実施例1で記載した方法と同様にして、RNAの抽出、増幅、標識の操作を行い、マウス小脳、マウス肝臓各500ng分のRNAを含む検体溶液を調製した。マイクロピペットを用いて分析用チップ2のオリゴヌクレオチドがスポットされた面に210μLアプライした。ギャップカバーガラス(松浪硝子)を検体溶液がアプライされた面に載せて、ハイブリダイゼーションチャンバー(タカラバイオ株式会社;TX711)にセットし、37℃で16時間反応させた。
【0041】
(蛍光シグナル値の測定)
分析用チップを洗浄、乾燥した。DNAチップ用のスキャナー(Axon Instruments社製 GenePix 4000B)に上記処理後の基板をセットし、レーザー出力33%、フォトマルチプライヤーの電圧設定を500にした状態において、ハイブリダイゼーション反応した被験物質の標識体シグナル値(蛍光強度)、バックグラウンドノイズを測定した。全25392個のスポットのうち、48個をバックグラウンド蛍光値測定用のネガティブコントロールスポットとし、個々のシグナル値からバックグラウンドシグナル値を差し引いて、各スポットの真のシグナル値を算出した。ここで、真のシグナル値が正の場合を「有効スポット」とする。
【0042】
有効スポット数、および全てのスポットの平均シグナル強度を表1に示す。凹凸構造を有する基板を用いたときと比較してシグナル強度がかなり弱く、有効スポットが少ないことが示された。また、有効スポットを抽出して、小脳と肝臓のシグナル強度の比をとり(小脳/肝臓)、凍結組織から抽出したRNAとFFPE組織から抽出したRNAの相関係数を算定すると0.66であり、両者の相関は凹凸構造を有する基板を用いたときと比べてかなり低値であった(表1参照)。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の分析方法により、解析のバラツキの原因となる増幅バイアスを最小限に抑制し、従来の分析方法と比較して分析結果の精度、再現性を大きく向上させることができるため、病院、研究機関に莫大な数保存されたホルマリン固定パラフィン包埋等の検体を用いた研究において、正確な結果を得ることができる。さらに、実験に要する時間を短縮でき、増幅操作に使用する試薬量を減らせるため、1サンプル当たりの分析にかかるコストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明で使用する分析用チップを構成する基板の一例を概略的に示す俯瞰図。
【図2】本発明で使用する分析用チップの一例を概略的に示す縦断面図。
【図3】本発明で使用する分析用チップの一例の概略的に示す俯瞰図。
【図4】本発明で使用する分析用チップを構成するカバーにおける貫通孔及び液面駐止反応容器の一例を示す部分断面図。
【符号の説明】
【0045】
1 基板
2 基板に固定された選択結合性物質
3 カバー
4 接着層
5 貫通孔
6 微粒子(ビーズ)
7 液面駐止チャンバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹部及び凸部からなる凹凸部を有し、該凸部の上端面に選択結合性物質が固定化されてなる基板と、該基板と接着されたカバー部材とを備え、該基板と該カバー部材との間に空隙を有し、該空隙に微粒子が移動可能に格納された分析用チップに、固定液により固定された組織から抽出したRNAを非増幅または1回増幅した核酸を含む反応液を接触させて、該選択結合性物質に選択的に結合した該核酸量を測定する、RNAの分析方法。
【請求項2】
固定液により固定された組織がパラフィン包埋されてなる、請求項1に記載のRNAの分析方法。
【請求項3】
固定液がホルムアルデヒドを含む、請求項1または2に記載のRNAの分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−101632(P2010−101632A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270630(P2008−270630)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】