RNA干渉を介する多能性遺伝子の誘発による細胞の再プログラミング
本発明は、細胞を再プログラムするための方法、組成物、およびキットに関する。1つの態様では、本発明は、細胞が多能性(pluripotent)または多分化能性(multipotent)であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘発するための方法に関する。さらに別の態様では、この方法は、転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を阻害することを含む。さらに別の態様では、本発明は、ES様細胞の特徴を持つことができる再プログラムされた細胞、または再プログラムされた細胞の濃縮された集団に関し、これらは、分化型細胞へ再分化または分化転換することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連特許出願の相互参照]
本願は、2005年8月1日に出願された米国特許仮出願第60/704,465号の利益を米国特許法第119条(e)に基づいて主張し、ならびに2008年4月7日に出願された米国特許仮出願第61/042,890号;2008年4月7日に出願された米国特許仮出願第61/043,066号;2008年4月7日に出願された米国特許仮出願第61/042,995号;および2008年11月12日に出願された米国特許仮出願第61/113,971号の利益も米国特許法第119条(e)に基づいて主張する、2006年8月1日出願の米国特許出願第11/497,064号の一部継続出願であり、これらの出願の各々は、その全文が記載されているかのごとく、参照することで本明細書に組み入れられる。
【0002】
[技術分野]
本発明の態様は、細胞生物学、幹細胞、細胞分化、体細胞核移植、および細胞治療学に関する。より詳細には、本発明の態様は、細胞の再プログラミングおよび細胞治療学のための方法、組成物、ならびにキットに関する。
【背景技術】
【0003】
再生医療は、ヒトの多くの病気に対する治療法として非常に有望であるが、同時に現代科学の研究が遭遇した最も困難な技術的課題のうちのいくつかを伴ってもいる。再生医療に対する技術的課題としては、低いクローン化効率、多能性(pluripotent)である可能性のある組織の少ない供給、ならびに、細胞分化を制御する方法、および選択された治療法に対して用いることができる胚性幹細胞の種類に関する知識の全般的な不足、が挙げられる。ES細胞は非常に高い適応性を有するものの、未分化ES細胞は、様々な組織型を含むテラトーマ(良性腫瘍)を形成し得る。さらに、1つのソースから別のソースへのES細胞の移植を行う場合、新しい細胞の拒絶を予防するために薬物を投与する必要のある可能性がある。
【0004】
胎児由来ではない組織から幹細胞を作り出すための新たな手段を見出す試みが行われてきた。1つの手法は、自己成人幹細胞の操作を含む。再生医療に自己成人幹細胞を用いることは、それらが誘導された同一の患者へ戻され、従って免疫性拒絶を起こしにくいという事実に利点がある。欠点は、このような細胞がES細胞の適応性および多能性に欠けるために、その潜在能が不確定であることである。別の手法は、成人組織からの体細胞を再プログラムして多能性ES様細胞を作り出すことを目的とするものである。しかし、多細胞生物内の各細胞型が、細胞が分化するかまたは細胞周期からはずれると固定されると考えられる特有のエピジェネティックサイン(epigenetic signature)を有することから、この手法は困難である。
【0005】
細胞DNAはクロマチンの形態で存在することが一般的であり、これは、核酸およびタンパク質を含む複合体である。実際には、ほとんどの細胞RNA分子も核タンパク質複合体の形態で存在している。クロマチンの核タンパク質構造は、当業者に公知であるように、広く研究されてきているテーマである。一般に、染色体DNAはヌクレオソーム内にパッケージされる。ヌクレオソームはコアおよびリンカーを含む。ヌクレオソームのコアはコアヒストンの八量体(H2A、H2B、H3、およびH4が2つずつ)を含み、その周りにおよそ150塩基対の染色体DNAが巻きついている。さらに、およそ50塩基対のリンカーDNAセグメントが、リンカーヒストンH1と会合する。ヌクレオソームは組織化されて高次のクロマチン繊維となり、クロマチン繊維が組織化されて染色体となる。例えば、Wolffe“Chromatin:Structure and Function”3rd.Ed.,Academic Press,San Diego,1998を参照されたい。
【0006】
クロマチン構造は固定的なものではなく、集合的にクロマチンリモデリングとして知られるプロセスによる修飾を受けやすい。クロマチンリモデリングは、例えば、DNA領域からのヌクレオソームの除去、あるDNA領域から別の領域へのヌクレオソームの移動、ヌクレオソーム間のスペーシングの変化、または染色体内のDNA領域へのヌクレオソームの付加といった機能を果たし得る。クロマチンリモデリングはまた、高次構造の変化ももたらし、それによって転写活性クロマチン(オープンクロマチン(open chromatin)またはユークロマチン)と転写不活性クロマチン(クローズドクロマチン(closed chromatin)またはヘテロクロマチン)との間のバランスに影響を与え得る。
【0007】
染色体タンパク質は、数多くの種類の化学修飾を受けやすい。これらのコアヒストンの翻訳後修飾の1つの機構は、保存高塩基性N末端リジン残基(conserved highly basic N−terminal lysine residues)のイプシロン‐アミノ基の可逆的アセチル化である。ヒストンアセチル化の定常状態は、競合する1もしくは複数のヒストンアセチルトランスフェラーゼと、本明細書にてHDACと称する1もしくは複数のヒストンデアセチラーゼとの間の動的平衡によって確立される。ヒストンのアセチル化および脱アセチル化は、かなり以前から転写制御と関連付けられている。ヒストンの可逆的アセチル化は、クロマチンのリモデリングをもたらす可能性があり、それ自体は遺伝子転写に対する制御機構として作用し得る。一般に、ヒストンの過剰アセチル化は遺伝子発現を促進し、一方ヒストンの脱アセチル化は転写抑制と相関している。ヒストンアセチルトランスフェラーゼは転写共役因子として作用することが示され、一方デアセチラーゼは転写抑制経路に属することが見出された。
【0008】
ヒストンのアセチル化と脱アセチル化との間の動的平衡は、正常な細胞成長に不可欠である。ヒストンの脱アセチル化を阻害すると、細胞周期停止、細胞分化、アポトーシス、および形質転換された表現型の逆転(reversal of the transformed phenotype)が発生する。
【0009】
遺伝子発現の制御に関与する別のグループのタンパク質は、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)であり、これは、転写サイレンシングを誘発するゲノムメチル化パターンの発生を担っている。DNAメチル化は、胚発生、X染色体不活性化、ゲノムインプリンティング、および遺伝子発現の制御を含む哺乳類の多くのプロセスの中心を成している。哺乳類におけるDNAメチル化は、S‐アデノシル‐メチオニンからシトシンのC5位へのメチル基の転移によって行われる。この反応はDNAメチルトランスフェラーゼによって触媒され、CpGジヌクレオチドのシトシンに特異的である。ヒトゲノムにおけるCpGジヌクレオチド中の全シトシンの70パーセントがメチル化されていて脱アミノ化を起こしやすく、その結果シトシンがチミンへ遷移する。このプロセスにより、グアニンおよびシトシンの頻度が全体として全ヌクレオチドの約40%まで低下し、さらにCpGジヌクレオチドの頻度が想定される頻度の約4分の1まで低下する。
【0010】
哺乳類には4種類の活性なDNAメチルトランスフェラーゼが識別されており:DNMT1、DNMT2、DNMT3A、およびDNMT3Bである。さらに、DNMT3Lは、DNMT3AおよびDNMT3Bと構造的に密接に関連し、DNAメチル化に不可欠であるタンパク質であるが、それ単独では不活性であると思われる。CpGアイランドを含むプロモーター領域におけるシトシンのメチル化は、脊椎動物細胞における下流コード配列の転写不活性化を引き起こす。
【0011】
メチル化CpG結合タンパク質(MBD1から4)として知られるタンパク質のファミリーは、メチル化を介する転写サイレンシングにおいて重要な役割を担っていると考えられる。MeCP2は、このファミリーで最初に同定されたメンバーであり、メチル化CpG結合ドメイン(MBD)および転写抑制ドメイン(TRD)を含有し、これは、メチル化DNAとの相互作用を促進し、およびSin3A/HDAC複合体をメチル化DNAへ標的化する。MeCP2と同様に、MBD1、MBD2、およびMBD3は、強力な転写抑制因子であることが示されている。MBD4はDNAグリコシラーゼであり、G:Tミスマッチを修復する。このファミリーの各メンバーは、MBD3を除いて、哺乳類細胞内にてメチル化DNAと複合体を形成し、MBD1およびMBD4以外はすべて、公知のクロマチンリモデリング複合体中に配置される。Mi‐2複合体などのいくつかのタンパク質およびタンパク質複合体は、DNAメチル化をクロマチンリモデリングおよびヒストン脱アセチル化に連結させる。
【0012】
エピジェネティック制御に関与するタンパク質の別のグループは、ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT)であり、これは、補助因子S‐アデノシルメチオニンからヒストンタンパク質のリジンおよびアルギニン残基への1から3個のメチル基の転移を触媒する酵素、ヒストン‐リジンN‐メチルトランスフェラーゼおよびヒストン‐アルギニンN‐メチルトランスフェラーゼである。メチル化ヒストンは、DNAとより強く結合し、転写を阻害する。
【0013】
クロマチンの構造は、クロマチンリモデリング複合体として知られる巨大分子集合体の作用を通しても変化し得る。例えば、Cairns(1998)Trends Biochem.Sci.23:20 25;Workman et al.(1998)Ann.Rev.Biochem.67:545 579;Kingston et al.(1999)Genes Devel.13:2339 2352およびMurchardt et al.(1999)J.Mol.Biol.293:185 197を参照されたい。クロマチンリモデリング複合体は、ヌクレオソームアレイの分裂および再編成に関与しており、転写、DNA複製、およびDNA修復の調節をもたらす(Bochar et al.(2000)PNAS USA 97(3):1038 43)。これらのクロマチンリモデリング複合体の多くはサブユニット組成が異なるが、リモデリング活性はすべてATPアーゼに依存している。インビボにおける遺伝子活性化に対するクロマチンリモデリング複合体の活性についての必要条件の例もいくつか存在する。
【0014】
多能性または全能性細胞の分化し特殊化した表現型への発達は、発達の過程で発現される特定の遺伝子セットによって特定される。遺伝子発現は、正または負の制御を行うことができる遺伝子制御タンパク質の配列特異的結合によって直接媒介される。しかし、これらのいずれの制御タンパク質についても、遺伝子発現を直接媒介するその能力は、少なくとも部分的には、細胞DNA中にある結合部位への接近のしやすさに依存する。上記で考察したように、細胞DNA中の配列への接近のしやすさは、内部に細胞DNAがパッケージされている細胞クロマチンの構造に依存する場合が多い。
【0015】
従って、転写の抑制に関与する遺伝子の活性、発現、または活性と発現の両方を阻害することができる方法、組成物、およびキットを含む多能性のために必要である遺伝子の発現を誘発することができる方法、組成物、およびキットを識別することは有用であろう。
【発明の概要】
【0016】
本発明は、細胞の再プログラミングのための方法、組成物、およびキットに関する。本発明の態様は、多能性または多分化能性(multipotent)遺伝子の発現を誘発することを含む方法に関する。さらに別の態様では、本発明はさらに、再プログラムされた細胞を作製することを含む方法に関する。なおさらに別の態様では、本発明は、転写抑制に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を阻害することを含む方法に関する。この方法は、多能性または多分化能性遺伝子の発現を誘発すること、および細胞を再プログラムすることをさらに含む。
【0017】
本発明の態様は、細胞、細胞の集団、細胞培養物、細胞培養物からの細胞のサブセット、均一細胞培養物、または不均一細胞培養物を、転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を妨害する剤と接触させること、多能性または多分化能性遺伝子の発現を誘発すること、および細胞を再プログラムすること、を含む、細胞を再プログラムするための方法にも関する。この方法はさらに、再プログラムされた細胞を再分化させることも含む。
【0018】
転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を妨害する剤としては、これらに限定されないが、shRNA分子、shRNAmir分子、shRNA分子の組み合わせ、shRNAmir分子の組み合わせ、ならびにshRNA分子およびshRNAmir分子の組み合わせ、が挙げられる。
【0019】
転写抑制に関与するタンパク質をコードするいずれの遺伝子も、本発明の方法によって阻害することができ、そのような遺伝子としては、これらに限定されないが、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、リジンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、リジンデメチラーゼ、サーチュイン、サーチュイン活性化因子、メチル結合ドメインタンパク質、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、SWI/SNF複合体の構成成分、NuRD複合体の構成成分、およびINO80複合体の構成成分、をコードする遺伝子が挙げられる。本発明の方法によって単一の遺伝子または2個以上の遺伝子を阻害することができ、これらに限定されないが、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11〜20、21〜30、31〜40、41〜50、および50個超を含む数の遺伝子を阻害することができる。
【0020】
別の態様では、本発明は、制御タンパク質をコードする遺伝子の発現に干渉するshRNAコンストラクトに細胞を接触させること、多能性または多分化能性遺伝子の発現を誘発すること;および細胞を選別すること、を含む再プログラミングのための方法に関し、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、制御タンパク質をコードする遺伝子の発現に干渉するshRNAコンストラクトに第一の表現型を有する細胞を接触させること;この細胞の第一の表現型を、前記のshRNAコンストラクトに細胞を接触後に得られた表現型と比較すること、および再プログラムされた細胞を選別すること、を含む方法に関する。さらに別の態様では、この方法は、前記shRNAコンストラクトへ細胞を接触させる前の細胞の遺伝子型を、前記shRNAコンストラクトへ前記細胞を接触させた後に得られた細胞の遺伝子型と比較することを含む。なお、さらに別の態様では、この方法は、shRNAコンストラクトへ細胞を接触させる前の細胞の表現型および遺伝子型を、前記shRNAコンストラクトへ細胞を接触させた後の細胞の表現型および遺伝子型と比較することを含む。
【0022】
さらに別の態様では、この方法は、選別された細胞を培養または増大して細胞の集団とすることを含む。さらに別の態様では、この方法は、多能性もしくは多分化能性遺伝子によってコードされるタンパク質と結合する抗体、またはSSEA3、SSEA4、Tra‐1‐60、およびTra‐1‐81を含むがこれらに限定されない多分化能性マーカーもしくは多能性マーカーと結合する抗体を用いて細胞を単離することを含む。細胞はまた、細胞の単離に有効であるいかなる方法を用いて単離してもよく、これらに限定されないが、蛍光励起セルソーター、免疫組織化学的検査、およびELISAが挙げられる。別の態様では、この方法は、元々の細胞よりも分化状態が低い細胞を選別することを含む。
【0023】
さらに別の態様では、本発明は、前記のshRNAコンストラクトに接触させる前の多能性または多分化能性遺伝子のクロマチン構造を、前記の剤に接触させた後に得られたクロマチン構造と比較することをさらに含む。
【0024】
別の態様では、本発明は、第一の転写パターンを有する細胞をshRNAコンストラクトへ接触させること;多能性または多分化能性遺伝子の発現を誘発すること;細胞の第一の転写パターンを、前記shRNAコンストラクトへの接触後に得られた転写パターンと比較すること、および細胞を選別すること、を含む細胞を再プログラムするための方法に関し、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される。
【0025】
さらに別の態様では、細胞の選別は、胚性幹細胞の分析された転写パターンに対する類似性が少なくとも5〜10%、10〜20%、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、70〜80%、80〜90%、90〜94%、95%、または95〜99%である転写パターンを有する細胞を識別することを含む。胚性幹細胞の転写パターン全体を比較してもよいが、その必要はない。その代わりに、胚性遺伝子のサブセットを比較してよく、その数としてはこれらに限定されないが、1〜5、5〜10、10〜25、25〜50、50〜100、100〜200、200〜500、500〜1,000、1,000〜2,000、2,000〜2,500、2,500〜5,000、5,000〜10,000、および10,000超の遺伝子が挙げられる。転写パターンは、2元型の比較を行ってよく、すなわち、この比較によって遺伝子が転写されるのか転写されないのかを判定する。別の態様では、各遺伝子もしくは遺伝子のサブセットの転写の割合および/または程度を比較してよい。転写パターンの測定は、本技術分野にて公知のいかなる方法を用いて行ってもよく、これらに限定されないが、RT‐PCR、定量的PCR、マイクロアレイ、サザンブロット、およびハイブリダイゼーションが挙げられる。
【0026】
さらに別の態様では、少なくとも1つのshRNAまたはshRNAmir配列を用いて、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、メチル結合ドメインタンパク質、またはヒストンメチルトランスフェラーゼの発現を阻害することができる。なおさらに別の態様では、2つ以上のshRNAまたはshRNAmirを用いて、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、メチル結合ドメインタンパク質、またはヒストンメチルトランスフェラーゼを含むがこれらに限定されない転写抑制に関与する2つ以上のタンパク質の発現を阻害することができる。
【0027】
さらに別の態様では、本発明は、第一の制御タンパク質をコードする遺伝子の発現に干渉するshRNAコンストラクトへの細胞の接触;第二の制御タンパク質の活性、発現、または発現および活性を阻害する第二の剤への前記細胞の接触であって、ここで、前記第二の制御タンパク質は、第一の制御タンパク質とは異なる機能を有する、接触、多能性または多分化能性遺伝子の発現の誘発、および細胞の選別、を含む、細胞を再プログラムするための方法に関し、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される。別の態様では、細胞または細胞の集団を、第一および第二の剤へ同時にまたは順次に接触させてよい。第二の剤としては、これらに限定されないが、小分子、小分子阻害剤、小分子活性化剤、核酸配列、およびshRNAコンストラクトが挙げられる。
【0028】
本発明の態様はまた、本明細書にて開示される方法に従って作製された再プログラムされた細胞を用いて種々の疾患を治療するための方法も含む。さらに別の態様では、本発明はまた、再プログラムされた細胞、および再分化された再プログラムされた細胞の治療的使用にも関する。
【0029】
本発明の態様はまた、細胞の再プログラミングに関与する遺伝子をスクリーニングすることを含む方法にも関する。さらに別の態様では、この方法は、転写を阻害するタンパク質をコードする遺伝子をスクリーニングすることをさらに含む。なおさらに別の態様では、この方法は、細胞が多能性または多分化能性であることに寄与する遺伝子をスクリーニングすることを含む。このスクリーニングは、shRNAライブラリまたはshRNAmirライブラリを含むがこれらに限定されない適切なスクリーニング試薬を用いて実施することができる。
【0030】
本発明の態様はまた、本発明の方法によって作製された再プログラムされた細胞にも関する。再プログラムされた細胞は、単一の系列または2種類以上の系列へ再分化することができる。再プログラムされた細胞は、多分化能性または多能性であってよい。
【0031】
さらに別の態様では、本発明は、多能性または多分化能性遺伝子の発現を誘発するshRNAコンストラクトへ細胞を接触させる工程;および細胞を選別する工程であって、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される、工程、および前記の選別された細胞を培養して細胞の集団を作製する工程、を含む方法に従って作製された再プログラムされた細胞の濃縮された集団に関する。さらに別の態様では、再プログラムされた細胞は、SSEA3、SSEA4、Tra‐1‐60、およびTra‐1‐81から成る群より選択される細胞表面マーカーを発現する。さらに別の態様では、再プログラムされた細胞は、Oct‐3/4、Sox‐2、Nanog、およびKlf4を含むがこれらに限定されない多能性または多分化能性遺伝子からのタンパク質の発現を通して選別することができる。さらに別の態様では、再プログラムされた細胞は、濃縮された細胞の集団の少なくとも5〜10%、10〜20%、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、70〜80%、80〜90%、90〜95%、96〜98%、または少なくとも99%を占める。
【0032】
本発明の態様はまた、本発明の方法および組成物を作製するためのキットにも関する。このキットは、中でも、細胞の再プログラミング、ならびにES様細胞および幹細胞様細胞の作製に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1Aは、DNMT1 shRNAを感染させた細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。図1Bは、DNMT1 shRNAを感染させ、hES培地中にて培養した細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。
【図2】図2Aは、DNMT1のshRNAノックダウン後に形成された胚様体(embryonic−like body)の写真である。図2Bは、図2Aに示す胚様体内に存在する細胞内におけるGFP局在化を示す写真であり、レンチウィルス感染が確認される。図2Cは、DNMT1のshRNAノックダウン後に形成された胚様体の写真である。図2Dは、図2Cに示す胚様体内におけるDNMT1のshRNAノックダウンによって誘発されたSox2タンパク質の発現を示す写真である。図2Eは、DNMT1のshRNAノックダウン後に形成された胚様体の写真である。図2Fは、図2Eに示す胚様体内におけるDNMT1のshRNAノックダウンによって誘発されたOct4タンパク質の発現を示す写真である。図2Gは、培養によって成長する線維芽細胞の写真である。図2Hは、図2Gに示す胚様体内におけるDNMT1のshRNAノックダウンによって誘発されたSSEA4タンパク質の発現を示す写真である。
【図3】図3Aは、DNMT1 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。図3Bは、DNMT1 shRNAを感染させ、ピューロマイシンの存在下で培養したヒト胎児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。図3Cは、DNMT1 shRNAを感染させ、ピューロマイシンおよびhES培地の存在下で培養したヒト胎児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。
【図4】図4Aは、DNMT1 shRNAを感染させたヒト新生児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。図4Bは、DNMT1 shRNAを感染させ、ピューロマイシンの存在下で培養したヒト新生児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。図4Cは、DNMT1 shRNAを感染させ、ピューロマイシンおよびhES培地の存在下で培養したヒト新生児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。
【図5】図5Aは、HDAC7aおよびHDAC11 shRNAの存在下、ヒト成人皮膚線維芽細胞におけるOct‐4 mRNAの発現の増加を示すグラフである。図5Bは、HDAC7aおよびHDAC11 shRNAの存在下、ヒト新生児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4 mRNAの発現の増加を示すグラフである。図5Cは、HDAC7aおよびHDAC11 shRNAの存在下、ヒト胎児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4 mRNAの発現の増加を示すグラフである。
【図6】図6Aは、HDAC7aおよびHDAC11 shRNAの存在下、ヒト成人皮膚線維芽細胞におけるNanog mRNAの発現の増加を示すグラフである。図6Bは、HDAC7aおよびHDAC11 shRNAの存在下、ヒト新生児皮膚線維芽細胞におけるNanog mRNAの発現の増加を示すグラフである。図6Cは、HDAC7aおよびHDAC11 shRNAの存在下、ヒト胎児皮膚線維芽細胞におけるNanog mRNAの発現の増加を示すグラフである。
【図7】図7Aは、ヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図7Bは、DNMT1 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図7Cは、HDAC7 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図7Dは、DNMT1およびHDAC7 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図7Eは、DNMT1およびHDAC11 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図7Fは、HDAC11およびHDAC7 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図7Gは、ヒト胚性幹細胞の写真である。
【図8】図8Aは、ヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図8Bは、DNMT1 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図8Cは、DNMT1およびHDAC7 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図8Dは、DNMT1およびHDAC11 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図8Eは、HDAC7 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図8Fは、HDAC11およびHDAC7 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図8Gは、ヒト胚性幹細胞の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[定義]
本開示における数字の範囲はおおよそのものであり、従って、特に断りのない限り、その範囲外の数値も含む。数字の範囲は、低い方の値から高い方の値までの1単位ずつの値を、これらの値自体と共にすべて含むが、ただし、いずれかの低い方の値およびいずれかの高い方の値の間が少なくとも2単位分離れていることが条件である。例えば、分子量、粘度などを例とする、組成、物理的、またはその他の性質が100から1000である場合、100、101、102などの個々の値すべて、ならびに100から144、155から170、197から200などのサブ範囲が明確に挙げられることを意図している。1未満の値を含む範囲、または1より大きい小数(例:1.1、1.5など)を含む範囲の場合、1単位は適宜0.0001、0.001、0.01、または0.1と見なされる。10未満の一桁の数字を含む範囲の場合(例:1から5)、1単位は通常0.1と見なされる。これらは具体的に意図されているものの例に過ぎず、列挙される最小値と最大値との間の数値のすべての可能な組み合わせが、本開示の中で明確に述べられていると見なされるべきである。本開示内の数値の範囲は、中でも、混合物中の成分の相対量、ならびに方法において列挙される種々の温度およびその他のパラメータの範囲に対して提供される。
【0035】
特にそれに反する限定がされていない限りにおいて、「細胞」または「複数の細胞」は、いずれの体細胞、胚性幹(ES)細胞、成人幹細胞、臓器特異的幹細胞、核移植(NT)ユニット(nuclear transfer units)、および幹様細胞をも含む。1もしくは複数の細胞は、いずれの臓器または組織から入手してもよい。1もしくは複数の細胞は、ヒトのものでもその他の動物のものであってもよい。例えば、細胞は、マウス、モルモット、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどのものであってよい。細胞はまた、非ヒト霊長類由来であってもよい。
【0036】
「培地」または「成長培地」とは、細胞の成長を支援する能力を有する適切な媒体を意味する。
【0037】
「分化」とは、胚発生の過程で細胞が構造的および機能的に特殊化するプロセスを意味する。
【0038】
「DNAメチル化」とは、シトシンへのメチル基(−CH3基)の結合を意味する。これは、外来DNAを破壊するために産生された酵素および化学物質から自己DNAを保護するための方法として、ならびにDNA内の遺伝子の転写を制御するための方法として、日々行なわれているものである。
【0039】
「エピジェネティックス」とは、ヌクレオチド配列の変化を伴わない機能の遺伝性変化に関するDNAの状態を意味する。エピジェネティック変化は、メチル化および脱メチル化によるものなどのDNAの修飾により、DNAのヌクレオチド配列がまったく変化しない状態で引き起こすことができる。
【0040】
「ヒストン」とは、核内に収まるようにDNAを十分に小さくする役目を担う、染色体中に見られるタンパク質分子のクラスを意味する。
【0041】
「遺伝子の発現を阻害または干渉する」とは、遺伝子の発現を低下させることを意味する。ある態様では、遺伝子発現のこのような低下は、少なくとも約5〜25%であり、より好ましくは少なくとも約50%、さらにより好ましくは少なくとも約75%、そしてなおさらにより好ましくは少なくとも約90%である。他の態様では、遺伝子発現は少なくとも95%低下され、さらに別の態様では、遺伝子発現は少なくとも99%低下される。
【0042】
「ノックダウン」とは、遺伝子特異的な形で遺伝子の発現を抑制することを意味する。1もしくは2つ以上の「ノックダウン」遺伝子を有する細胞は、ノックダウン生物、または単に「ノックダウン」と称される。
【0043】
「多能性」とは、三胚葉性の細胞型または一次組織型に分化する能力を有することを意味する。
【0044】
「多能性遺伝子」とは、細胞が多能性であることに寄与する遺伝子を意味する。
【0045】
「多能性細胞培養物」は、胎児または成人由来の分化した細胞と明らかに区別されるモルフォロジーを提示する場合、「実質的に未分化」であると考えられる。多能性細胞は、通常、高い核/細胞質比、明瞭な核小体、および認識し難い細胞結合を持つコンパクトなコロニー形成を有し、当業者によって容易に識別される。未分化細胞のコロニーは、分化された隣接する細胞によって囲まれている場合があることが分かっている。しかしながら、適切な条件下で培養すると、実質的に未分化であるコロニーは存続し、未分化細胞は、培養細胞の分割後に増殖する細胞の突出した割合を構成する。本開示で述べる有用な細胞集団には、これらの基準を持つ実質的に未分化である多能性細胞がいかなる割合で含まれていてもよい。実質的に未分化である細胞培養物は、少なくとも約20%、40%、60%、またはさらには80%の未分化多能性細胞を含んでいてよい(集団中の全細胞に対するパーセントで)。
【0046】
「制御タンパク質」とは、正および負の方向の制御を含む、生物学的プロセスを制御するいずれのタンパク質をも意味する。制御タンパク質は、生物学的プロセスに対して直接または間接的な影響を有していてよく、直接に、または複合体内での関与を通して影響を及ぼしてよい。
【0047】
「再プログラミング」とは、核内のエピジェネティック標識を除去し、続いて異なるセットのエピジェネティック標識を確立することを意味する。多細胞生物の発生の過程では、異なる細胞および組織が、遺伝子発現の異なるプログラムを獲得する。このような独特の遺伝子発現パターンは、DNAメチル化、ヒストン修飾、およびその他のクロマチン結合タンパク質などのエピジェネティック修飾によって実質的に制御されると考えられる。従って、多細胞生物内の各細胞型は、細胞が分化するかまたは細胞周期からはずれると「固定」されて不変となると従来から考えられている特有のエピジェネティックサインを有する。しかし、細胞の中には、正常な発生または特定の疾患状況の過程で、重要なエピジェネティック「再プログラミング」を起こすものもある。
【0048】
「全能性」とは、完全な胚または臓器へ発生する能力を有することを意味する。
【0049】
本発明の態様は、細胞が多能性または多分化能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘発することを含む方法に関する。別の態様では、本発明は、細胞が多分化能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘発することを含む方法に関する。ある態様では、この方法は、細胞が多能性または多分化能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘発すること、および多能性または多分化能性であり、複数の系列への指向された分化を行う能力を有する再プログラムされた細胞を作製することを含む。
【0050】
本発明の態様はさらに、クロマチン構造を修飾すること、および細胞を再プログラムして多能性または多分化能性とすることを含む方法にも関する。さらに別の態様では、クロマチン構造の修飾は、抑制複合体(repression complex)に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を阻害することを含む。
【0051】
別の態様では、この方法は、転写抑制に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を阻害すること、および細胞が多能性または多分化能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘発することを含む。さらに別の態様では、この方法は、転写抑制に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を阻害すること、および再プログラムされた細胞を作製することを含む。本発明の方法は、いずれの種類の抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現も阻害することができ、これらに限定されないが、活性抑制因子(active repressors)、基礎転写装置を修飾する抑制因子、構造を修飾して抑制因子を補充するタンパク質、抑制因子を補充するタンパク質、ヌクレオソームまたはクロマチン構造を修飾するタンパク質、ヒストンを修飾するタンパク質、DNAを修飾するタンパク質、およびクロマチンリモデリング複合体に関与するタンパク質が挙げられる。
【0052】
さらに別の態様では、本発明は:制御タンパク質をコードする遺伝子の発現に干渉するshRNAコンストラクトに細胞を接触させること、多能性または多分化能性遺伝子の発現を誘発すること;および細胞を選別することを含む細胞を再プログラムするための方法に関し、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される。多能性または多分化能性遺伝子の発現の誘発はいかなる倍率での増加であってもよく、これらに限定されないが、0.25〜0.5、0.5〜1、1.0〜2.5、2.5〜5、5〜10、10〜15、15〜20、20〜40、40〜50、50〜100、100〜200、200〜500倍、および500倍超が挙げられる。別の態様では、この方法は、分化した細胞を播種すること、制御タンパク質をコードする遺伝子の発現に干渉するshRNAコンストラクトに前記分化した細胞を接触させること、前記細胞を培養すること、および再プログラムされた細胞を識別することを含む。制御タンパク質の発現のshRNAコンストラクトによる干渉はいかなる量であってもよく、これらに限定されないが、1〜5%、5〜10%、10〜20%、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、70〜80%、80〜90%、90〜95%、および95〜99%、99〜200%、200〜300%、300〜400%、400〜500%、および500%超が挙げられる。
【0053】
さらに別の態様では、この方法は多能性もしくは多分化能性遺伝子によってコードされるタンパク質またはタンパク質の断片、または、多能性もしくは多分化能性表面マーカーに対して指向される抗体を用いて細胞を選別することをさらに含む。いかなる種類の抗体を用いてもよく、これらに限定されないが、モノクローナル、ポリクローナル、抗体の断片、ペプチド模倣体、活性領域に対する抗体、およびタンパク質の保存領域に対する抗体が挙げられる。さらに別の態様では、この方法は、細胞を選別すること、および前記細胞を増大または培養して多能性細胞培養物または多分化能性細胞培養物とすることを含む。
【0054】
さらに別の態様では、この方法は、多能性もしくは多分化能性遺伝子または多能性もしくは多分化能性表面マーカーによって動かされるレポーターを用いて細胞を選別することをさらに含む。いかなる種類のレポーターを用いてもよく、これらに限定されないが、蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、細菌ルシフェラーゼ、クラゲエクオリン(jellyfish aequorin)、高感度緑色蛍光タンパク質、ターボGFP(turbo GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、dsRED、β‐ガラクトシダーゼ、およびアルカリホスファターゼが挙げられる。
【0055】
さらに別の態様では、この方法は、選択可能なマーカーとして耐性を用いて細胞を選別することをさらに含み、これらに限定されないが、抗生物質、殺真菌剤、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、チミジンキナーゼに対する耐性、ネオマイシン耐性(neo)、G418耐性、ミコフェノール酸耐性(gpt)、ゼオシン(zeocin)耐性タンパク質、およびストレプトマイシンが挙げられる。
【0056】
さらに別の態様では、この方法は、細胞の多能性もしくは多分化能性遺伝子のクロマチン構造を、前記細胞をshRNAコンストラクトへ接触させる前のそれと、前記shRNAコンストラクトで処理した後に得られた多能性もしくは多分化能性遺伝子のクロマチン構造と比較することをさらに含む。クロマチン構造のいずれの側面を比較してもよく、これらに限定されないが、ユークロマチン、ヘテロクロマチン、ヒストンアセチル化、ヒストンメチル化、ヒストンもしくはヒストン成分の存在および非存在、ヒストンの位置、ヒストンの配置、ならびにクロマチンに関連する制御タンパク質の存在もしくは非存在が挙げられる。遺伝子のいずれの領域のクロマチン構造を比較してもよく、これらに限定されないが、エンハンサーエレメント、アクチベーターエレメント(activator element)、プロモーター、TATAボックス、転写開始部位の上流領域、転写開始部位の下流領域、エクソン、およびイントロンが挙げられる。
【0057】
転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現の阻害は、適切ないかなる機構によって達成されてもよく、これに限定されないが、RNA干渉(RNAi)が挙げられる。RNAiは、配列特異的な形での標的mRNAの分解による広範な機構を介して遺伝子の発現を制御する。低分子干渉RNA鎖(siRNA)がRNAiプロセスの基礎となるものであり、これは、標的RNA鎖に対して相補的なヌクレオチド配列を有している。特定のRNAi経路タンパク質が、siRNAによって標的メッセンジャーRNA(mRNA)へと誘導され、ここで、この標的を「開裂」させ、タンパク質への翻訳が不可能である小部分へ分解する。
【0058】
さらに別の態様では、この方法は、細胞を低分子ヘアピンRNA(shRNA)と接触させること、および転写抑制に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を阻害することを含む。さらに別の態様では、この方法は、再プログラムされた細胞を作製することをさらに含む。再プログラムされた細胞は、多能性もしくは多分化能性であってよい。
【0059】
shRNAは、遺伝子発現のサイレンシングに用いることができる急なヘアピン型の折り返しを形成するRNAの配列であり;shRNAの使用は、RNA干渉を達成するための1つの手法である。ある態様では、shRNAは、U6プロモーターが挙げられるがこれに限定されないプロモーターを有するベクターへ組み込み、確実にshRNAを発現させることができる。ベクターは通常、娘細胞へと伝えられ、それによって遺伝子サイレンシングが受け継がれることが可能となる。shRNAのヘアピン構造は、細胞装置によって低分子干渉RNAへと開裂され、これは次に、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)へ結合される。この複合体は、それに結合したsiRNAとマッチするmRNAと結合し、これを開裂する。
【0060】
shRNAは、レンチウィルスコンストラクトに組み込むことができる。レンチウィルスは、レトロウィルス(Retroviridae)ファミリーのスローウィルスの属であり、長い潜伏期間を特徴とする。レンチウィルスは、宿主細胞のDNAへ多大な量の遺伝子情報を送達することができ、従って、遺伝子送達ベクターの効率的な方法である。
【0061】
別の態様では、shRNAライブラリを本発明の方法と共に用いて、転写抑制に関与する因子、クロマチンリモデリングに関与する因子、および細胞が多能性もしくは多分化能性であることに寄与する因子を識別することができる。さらに別の態様では、shRNAライブラリは、RNAiコンソーシアム(The RNAi Consortium)(TRC)からのものであってよく、これは、そのミッションが機能ゲノミクス研究のための包括的なツールを創出してそれを世界中の科学者に対して広く利用可能とすることである、世界的な11の学術および企業ライフサイエンス研究グループが集まった共同研究グループである。Broad Institute of MIT and Harvardで開発されたTRCの現時点でのコレクションは、16,000のアノテートされたヒト遺伝子を標的とする予めクローン化された159,000のshRNAコンストラクトから構成されている。
【0062】
shRNAコンストラクト、ライブラリ、およびベクターは、オーダーメイドのものであっても、または販売元から購入したものであってもよく、これらに限定されないが、ダーマコンRNAiテクノロジーズ(Dharmacon RNAi technologies)(サーモサイエンティフィック,ラフィエット,コロラド州)より入手可能であるSMARTベクターshRNAレンチウィルステクノロジー、シグマアルドリッチ(セントルイス,ミズーリ州)より入手可能であるMISSION(商標)TRC shRNA、オープンバイオシステムズ(ハンツビル,アラバマ州)より入手可能であるTRCレンチウィルスshRNAライブラリ、構成的または誘導性プロモーター、種々の選択マーカー、およびウィルス送達オプションを特徴とする、レンチウィルスおよびアデノウィルスベクターと共に入手可能であるBLOCK‐iT(商標)RNAiベクター(インビトロジェン,カールスバッド、カリフォルニア州)が挙げられる。
【0063】
さらに、特定の標的に対して指向されるshRNA分子も、オリジーン(OriGene)(ロックビル,メリーランド州)およびサンタクルーズバイオテクノロジー(サンタクルーズ,カリフォルニア州)などの販売元から入手可能である。誘導性shRNAも、クローンテック(マウンテンビュー,カリフォルニア州)から入手可能である。ノックアウト誘導性RNAi系は、哺乳類細胞中の機能性低分子ヘアピンRNA(shRNA)の発現を、標的遺伝子を抑制する目的で強く制御する。ノックアウト誘導性RNAi系は、遺伝子の抑制が致命的である可能性があり、その分析ができなくなる場合に有用である。次のようないくつかのバージョンが入手可能である:Knockout Single Vector Inducible RNAi system、ならびにKnockout Tet RNAi System HおよびP。
【0064】
別の態様では、この方法は、細胞をshRNAmirと接触させること、および転写抑制に関与する少なくとも1つの遺伝子の発現を阻害することを含む。さらに別の態様では、この方法は、再プログラムされた細胞を作製することをさらに含む。再プログラムされた細胞は、多能性もしくは多分化能性であってよい。
【0065】
マイクロRNA(miRNA)は、長さが約21〜23ヌクレオチドの一本鎖RNA分子であり、遺伝子の発現を制御する。miRNAは、DNAから転写される遺伝子によってコードされるが、タンパク質へは翻訳されず(非コードRNA);その代わり、pri‐miRNAとして知られる一次転写物からpre‐miRNAと称される低分子ステムループ構造へとプロセッシングされ、最後に機能性miRNAとなる。成熟したmiRNA分子は、1もしくは2つ以上のメッセンジャーRNA(mRNA)分子に対して部分的に相補的であり、その主たる機能は、遺伝子の発現を下方制御することである。
【0066】
哺乳類RNAiのshRNAmirによる誘発は、内在性マイクロRNAバイオジェネシス経路に関する現在の知識に基づいている。shRNAmirコンストラクトは、自然のマイクロRNA一次転写物を模倣するように設計されており、それによって、内在性RNAi経路による特異的なプロセッシングが可能となり、効果的な遺伝子ノックダウンが作出される。ゲノム規模でのshRNAmirライブラリには、遺伝子ノックダウンの効率性および特異性を高め、多様なRNAiアプリケーションに対するソリューションを提供することを目的とするいくつかの特徴が組み込まれている。
【0067】
shRNAmirライブラリを、本発明の方法と共に用いることができる。さらに別の態様では、shRNAmirライブラリは、RNAiコンソーシアム(TRC)からのものであってよい。
【0068】
shRNAmirおよびshRNAmirライブラリは、オーダーメイドのものであっても、または販売元から購入したものであってもよい。例えば、Expression Arrest(商標)マイクロRNA適合(microRNA−adapted)shRNA(shRNAmirライブラリ)、レトロウィルスshRNAmirライブラリ、レンチウィルスshRNAmirライブラリ、TRIPzレンチウィルス誘導性shRNAmirライブラリ、pSM2レトロウィルスshRNAmirライブラリであり、これらはすべてオープンバイオシステムズ(ハンツビル,アラバマ州)より入手可能である。
【0069】
別の態様では、本発明の方法は、細胞をshRNA、shRNAライブラリ、shRNAmir、shRNAmirライブラリ、またはshRNAコンストラクトの組み合わせと接触させること、転写抑制に関与する少なくとも1つの遺伝子の発現または活性を阻害すること、ならびに阻害された前記遺伝子を識別することをさらに含む。
【0070】
単一のshRNAもしくはshRNAmirを用いて、単一の遺伝子の阻害を標的としてもよく、または2つ以上のshRNAもしくはshRNAmirを用いて、単一の遺伝子の阻害を標的としてもよい。さらに別の態様では、単一のshRNAもしくはshRNAmirを用いて、2つ以上の遺伝子の阻害を標的としてよい。なおさらに別の態様では、2つ以上のshRNAもしくは2つ以上のshRNAmirを用いて、2つ以上の遺伝子の阻害を標的としてよい。shRNAコンストラクトおよびshRNAmirコンストラクトの混合物を用いてもよい。本発明の方法により、単一の遺伝子または2つ以上の遺伝子を阻害することができ、その数はこれらに限定されないが、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11〜20、21〜30、31〜40、41〜50、および50超の遺伝子が挙げられる。
【0071】
遺伝子発現の抑制に関与するタンパク質をコードするいずれの遺伝子も、本発明の方法によって阻害することができ、これらに限定されないが、ヒストンデアセチラーゼ、メチル結合ドメインタンパク質、メチルアデノシルトランスフェラーゼ、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、およびメチルサイクル酵素(methyl cycle enzyme)、核内受容体、オーファン核内受容体、Esrrβ、およびEssRγが挙げられる。本発明の方法によって阻害することができる代表的な遺伝子のリストを表Iに示す。
【0072】
例えば、MeCP2を例とするメチル結合ドメインタンパク質は、メチル化シトシンと結合し、次にヒストンタンパク質を脱アセチル化するヒストンデアセチラーゼを補充し、その結果、凝縮クロマチン構造が得られ、これが転写を阻害する。本発明の方法は、抑制複合体中のタンパク質をコードする遺伝子の発現を阻害することができ、それによって、多能性遺伝子の転写を誘発することができる。
【0073】
【0074】
例えば、shRNAmirを用いてMeCP2の発現を阻害し、それによって、HDACのクロマチン構造への補充を著しく低減させることができる。このことは、細胞が多能性もしくは多分化能性であるために不可欠である遺伝子の上方制御を引き起こし、それによって体細胞の分化能(differentiation capacity)を高めることができる。同様に、shRNAmirを用いてHDACを阻害することができ、このことは、同様に、多能性に不可欠である遺伝子の上方制御を引き起こす。さらに、DNAメチルトランスフェラーゼに対して指向されたshRNAmir、メチル結合タンパク質に対して指向されたshRNAmir、およびHDACに対して指向されたshRNAmirを同時にまたは順次に用いて、抑制複合体中のタンパク質をコードする遺伝子の発現を阻害することができる。上記の考察は、説明の目的を意図するのみであり、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0075】
クロマチンリモデリングに関与するその他の複合体中のタンパク質をコードする遺伝子も、本発明の方法で阻害することができ、これらに限定されないが、SWI/SNF複合体、NuRD複合体、Mi‐2複合体、Sin3複合体、およびINO80が挙げられる。hSWI/SNF複合体は、クロマチンへの接近のしやすさの制御において重要な役割を果たしていることが公知である多サブユニットタンパク質複合体である。hSWI/SNF複合体のいずれの成分も本発明の方法によって阻害することができ、これらに限定されないが、SNF5/INI1、BRG1、BRM、BAF155、およびBAF170が挙げられる。SWI/SNFは、元々は、種々の遺伝子の活性化に要するものとして、酵母菌から識別された。hSWI/SNF複合体は、いくつかの発生特異的である(developmentally specific)遺伝子発現プログラムの制御にとって極めて重要であることが示されている。
【0076】
Sin3複合体のいずれの成分も本発明の方法によって阻害することができ、これらに限定されないが、HDAC1、HDAC2、RbAp46、RbAp48、Sin3A、SAP30、およびSAP18が挙げられる。
【0077】
NuRD複合体のいずれの成分も本発明の方法によって阻害することができ、これらに限定されないが、Mi2、p70、およびp32が挙げられる。
【0078】
INO80複合体のいずれの成分も本発明の方法によって阻害することができ、これらに限定されないが、Tip49A、Tip49B、SNF2ファミリーヘリカーゼIno80、アクチン関連タンパク質ARP4、ARP5、およびArp8、YEATSドメインファミリーメンバーTaf14、HMG‐ドメインタンパク質、Nhp10、ならびにIes1〜6と称するさらなる6つのタンパク質が挙げられる。
【0079】
細胞が多能性もしくは多分化能性であることに寄与する遺伝子の発現の誘発に用いることができるshRNAまたはshRNAmir配列はいずれの数であってもよく、これらに限定されないが、1〜5、6〜10、11〜15、16〜20、21〜25、26〜30、31〜35、36〜40、41〜45、46〜50、および50超のshRNAまたはshRNAmir配列が挙げられる。
【0080】
本発明の方法によって作製された再プログラムされた細胞は、多能性もしくは多分化能性であってよい。本発明の方法によって産生された再プログラムされた細胞は、胚性幹細胞様の性質を含む種々の異なる性質を有することができる。例えば、再プログラムされた細胞は、未分化の状態にて、少なくとも10、15、20、30、またはこれを超える継代数で増殖する能力を有し得る。他の形態では、再プログラムされた細胞は、分化することなく1年を超える間増殖することができる。再プログラムされた細胞は、増殖および/または分化を行う間、正常な核型を維持することもできる。ある再プログラムされた細胞は、未分化の状態でインビトロにて無限に増殖する能力を有する細胞であり得る。ある再プログラムされた細胞は、長期間の培養を通して正常な核型を維持することができる。ある再プログラムされた細胞は、長期間の培養後であっても、3つすべての胚性胚葉(embryonic germ layers)(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)の誘導体へと分化する潜在能を維持することができる。ある再プログラムされた細胞は、生物内のいずれの細胞型も形成することができる。ある再プログラムされた細胞は、未分化成長を維持しない培地上での成長など、特定の条件下にて胚様体を形成することができる。ある再プログラムされた細胞は、例えば、胚盤胞との融合を介してキメラを形成することができる。
【0081】
再プログラムされた細胞は、種々のマーカーで同定することができる。例えば、ある再プログラムされた細胞は、アルカリホスファターゼを発現する。ある再プログラムされた細胞は、SSEA‐1、SSEA‐3、SSEA‐4、TRA‐1‐60、および/またはTRA‐1‐81を発現する。ある再プログラムされた細胞は、Oct4、Sox2、およびNanogを発現する。ある再プログラムされた細胞は、これらをmRNAレベルで発現し、さらに別のものは、例えば細胞表面または細胞内部にて、これらのタンパク質レベルでの発現も行うことは理解される。
【0082】
再プログラムされた細胞は、本明細書で考察する再プログラムされた細胞のいかなる性質、またはカテゴリー、または複数のカテゴリーおよび性質のいかなる組み合わせを有していてもよい。例えば、再プログラムされた細胞は、アルカリホスファターゼを発現することができるがSSEA‐1は発現せず、少なくとも20継代の間増殖することができ、いかなる細胞型へも分化する能力を持ち得る。例えば、別の再プログラムされた細胞は、細胞表面上でSSEA‐1を発現することができ、内胚葉、中胚葉、および外胚葉組織を形成する能力を持ち得、分化することなく1年間を超えて培養することができる。
【0083】
再プログラムされた細胞は、アルカリホスファターゼ(AP)陽性、SSEA‐1陽性、およびSSEA‐4陰性であってよい。再プログラムされた細胞は、Nanog陽性、Sox2陽性、およびOct‐4陽性であってもよい。再プログラムされた細胞は、Tcl1陽性およびTbx3陽性であってもよい。再プログラムされた細胞は、Cripto陽性、ステラー(Stellar)陽性、Dazl陽性、またはフラジリス(Fragilis)陽性であってもよい。再プログラムされた細胞は、モノクローナル抗体TRA‐1‐60(ATCC HB‐4783)およびTRA‐1‐81(ATCC HB‐4784)の結合特異性を有する抗体と結合する細胞表面抗原を発現することができる。さらに、本明細書で開示されるように、再プログラムされた細胞は、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、20〜25、26〜30、31〜40、41〜50、51〜60、61〜70、71〜80、81〜90、91〜100継代の間、または1年を超える間、支持細胞層なしに維持することができる。
【0084】
再プログラムされた細胞は、線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、骨格筋、内皮、間質、平滑筋、心筋、神経系細胞、造血細胞、膵島、または実質的に身体のいかなる細胞をも含む種々の系列の非常に様々な細胞型へ分化する潜在能を有することができる。再プログラムされた細胞は、1、2、3、4、5、6〜10、11〜20、21〜30、および30超の系列を含むいかなる数の系列へも分化する潜在能を有することができる。
【0085】
細胞が多能性もしくは多分化能性であることに寄与するいずれの遺伝子も、本発明の方法によって誘発することができ、これらに限定されないが、グリシンN‐メチルトランスフェラーゼ(Gnmt)、オクタマー‐4(Oct4)、Nanog、SRY(性決定領域Y)‐ボックス2(Sox2としても知られる)、Myc、REX‐1(Zfp‐42としても知られる)、インテグリンα‐6、Rox‐1、LIF‐R、TDGF1(CRIPTO)、フラジリス、SALL4(sal‐様4(sal‐like 4))、GABRB3、LEFTB、NR6A1、PODXL、PTEN、白血球由来ケモタキシン1(LECT1)、BUB1、ならびにKlf4およびKlf5などのクルッペル様因子(Klf)が挙げられる。細胞が多能性もしくは多分化能性であることに寄与するいずれの数の遺伝子も本発明の方法によって誘発することができ、これらに限定されないが、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11〜20、21〜30、31〜40、41〜50、および50超の数の遺伝子が挙げられる。
【0086】
さらに、Ramalho−Santos et al.(Science 298,597(2002)),Ivanova et al.(Science 298,601(2002))、およびFortunel et al.(Science 302,393b(2003))は、各々、3種類の幹細胞を比較し、共通して発現された「幹細胞性」遺伝子のリストを明らかにして、これらが幹細胞への機能的特徴の付与に重要であることを提言した(上記で引用した文献はすべてその全体が参照することで組み入れられる)。上述の研究で識別されたいずれの遺伝子も、本発明の方法で誘発することができる。幹細胞への機能的特徴の付与に関与していると考えられる遺伝子のリストを表IIに示す。表IIに挙げた遺伝子に加えて、既知の遺伝子との相同性がほとんどもしくはまったくない93の発現配列タグ(EST)クラスターも、Ramalho−Santos et al.およびIvanova et al.によって識別されており、これらは、本発明の方法の範囲内に含まれる。
【0087】
【0088】
本発明の態様はまた、本明細書で開示される方法に従って作製された再プログラムされた細胞を用いた種々の疾患の治療方法も含む。当業者であれば、本明細書で提供される開示事項に基づいて、心疾患、糖尿病、皮膚疾患および皮膚移植、脊髄損傷、パーキンソン病、多発性硬化症、およびアルツハイマー病などを含むがこれらに限定されない非常に多くの疾患の治療において再生医療の持つ価値および可能性が理解されるであろう。本発明は、損傷を受けていない新しい細胞の導入が何らかの形での治療的軽減をもたらす場合に、疾患を治療するためにヒトを含む動物へ再プログラムされた細胞を投与するための方法を包含する。
【0089】
当業者であれば、再プログラムされた細胞は、ニューロンを例とする再分化した細胞として動物へ投与することができ、動物中の疾患または損傷ニューロンとの置換に有用であることは容易に理解されるであろう。さらに、再プログラムされた細胞は、動物へ投与することができ、周囲環境からのシグナルおよび指令(cues)を受けると、近隣の細胞環境によって決定される所望の細胞型へと再分化することができる。別の選択肢として、この細胞はインビトロで再分化することができ、この分化細胞を、それを必要とする哺乳類へ投与することができる。
【0090】
再プログラムされた細胞は、移植用に作製して、インビボ環境中で長期間生存することを確実にすることができる。例えば、細胞の成長、維持のための前駆細胞用培地(progenitor medium)などの適切な培地中で細胞を増殖させ、コンフルーエントまで成長させることができる。この細胞を、例えば、0.05%のトリプシンを含有して1mg/mlのグルコース;0.1mg/mlのMgCl2、0.1mg/mlのCaCl2が添加されたリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(完全PBS)に5%血清を加えてトリプシンを不活性化したものなどの緩衝溶液を用いて、培養基材から取り出す。この細胞は、遠心分離を用いてPBSで洗浄してよく、次にトリプシンを含まない完全PBS中へ選択された密度で再懸濁させて注射液とする。
【0091】
腹膜投与に適する医薬組成物の製剤は、滅菌水または滅菌等張生理食塩水などの薬理学的に許容されるキャリアと組み合わせられた活性成分を含む。そのような製剤は、ボーラス投与もしくは連続投与に適する形態で作製、パッケージ、または販売することができる。注射用製剤は、アンプル、もしくは保存剤を含有するマルチドーズ容器(multi−dose containers)などに入った単位剤形として作製、パッケージ、または販売することができる。腹膜投与用の製剤としては、これらに限定されないが、懸濁液、溶液、油性もしくは水性媒体中のエマルジョン、ペースト、および埋め込み型の徐放性もしくは生分解性製剤が挙げられる。そのような製剤は、懸濁剤、安定化剤、または分散剤を含むがこれらに限定されない1もしくは2つ以上の追加の成分をさらに含んでいてよい。
【0092】
本発明はまた、その他の治療手順と組み合わせて再プログラムされた細胞を移植することによって、CNS、PNS、皮膚、肝臓、腎臓、心臓、および膵臓などを含む身体の疾患または外傷を治療することも包含する。従って、本発明の再プログラムされた細胞は、副腎からのクロマフィン細胞、胎児脳組織細胞、および胎盤細胞など、遺伝子組換え細胞および非遺伝子組換え細胞のいずれであっても、患者に有益な効果をもたらすその他の細胞と共に移植してよい。従って、本明細書で提供される教示事項を身につけた当業者であれば理解されるように、本明細書で開示される方法は、その他の治療手順と組み合わせることができる。
【0093】
本発明の再プログラムされた細胞は、各々が参照することで本明細書に組み入れられる米国特許第5,082,670号および同第5,618,531号に記載のものなど本技術分野で公知の技術を用いて、患者へ、または身体の他の適切ないずれの部位へも「単独で(naked)」移植することができる。
【0094】
再プログラムされた細胞は、単一の細胞を含む混合物/溶液として、または細胞凝集体の懸濁液を含む溶液として移植することができる。そのような凝集体は、直径がおよそ10〜500マイクロメートル、より好ましくは直径が約40〜50マイクロメートルであってよい。再プログラムされた細胞の凝集体は、一粒子あたり約5〜100個、より好ましくは約5〜20個の細胞を含んでいてよい。移植された細胞の密度は、マイクロリットルあたり約10,000から1,000,000個の細胞、より好ましくはマイクロリットルあたり約25,000から500,000個の細胞の範囲であってよい。
【0095】
本発明の再プログラムされた細胞の移植は、本技術分野で公知の技術、ならびに将来開発される技術を用いて達成することができる。本発明は、動物、好ましくはヒトへの再プログラムされた細胞の移植(transplanting)、移植(grafting)、注入(infusing)、またはそれ以外の導入を行うための方法を含む。
【0096】
再プログラムされた細胞はまた、マイクロカプセル化(例えば、参照することで本明細書に組み入れられる米国特許第4,352,883号;同第4,353,888号;および同第5,084,350号参照)、またはマクロカプセル化(例えば、すべて参照することで本明細書に組み入れられる米国特許第5,284,761号;同第5,158,881号;同第4,976,859号;および同第4,968,733号;ならびに国際公開第92/19195号;同第95/05452号参照)を含む公知のカプセル化技術に従ってカプセル化し、生物活性分子の送達に用いることもできる。マクロカプセル化に関しては、デバイス内の細胞数は様々であってよく;好ましくは各デバイスが103〜109個の細胞を含有し、最も好ましくは約105から107個の細胞である。複数のマクロカプセル化デバイスを患者内に埋め込むことができる。細胞のマクロカプセル化および埋め込みの方法は、本技術分野で公知であり、例えば、米国特許第6,498,018号に記載されている。
【0097】
本発明の再プログラムされた細胞はまた、これらを用いて、治療目的のために、またはこれらの患者組織内での一体化および分化を追跡する方法のために、外来性タンパク質または分子を発現させることもできる。従って、本発明は、発現ベクター、ならびに外来性DNAを再プログラムされた細胞に導入し、同時にこの外来性DNAを再プログラムされた細胞内で発現させるための方法を包含し、例えば、Sambrook et al.(1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)、およびAusubel et al.(1997,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New York)に記載のものなどである。
【0098】
本発明の態様はまた、本発明の方法によって作製された細胞を含む組成物にも関する。別の態様では、本発明は、転写抑制に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を阻害することによって再プログラムされた細胞を含む組成物に関する。さらに別の態様では、本発明は、細胞が多能性もしくは多分化能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘発することによって再プログラムされた細胞を含む組成物に関する。
【0099】
本発明の態様はまた、細胞を、転写抑制に関与する少なくとも1つの遺伝子に対して指向される少なくとも1つのshRNAまたはshRNAmirと接触させることによって作製された再プログラムされた細胞にも関する。
【0100】
本発明の態様はまた、本発明の方法および組成物を作製するためのキットにも関する。このキットは、中でも、細胞の再プログラミングによる作製ならびにES様細胞および幹細胞様細胞の作製、細胞が多能性もしくは多分化能性であることに寄与する遺伝子の発現の誘発、ならびに転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現の阻害、に用いることができる。このキットは、転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子に対して指向される少なくとも1つのshRNAまたはshRNAmirを含んでよい。このキットは、複数のshRNAもしくはshRNAmirの配列またはコンストラクトを含んでよい。shRNAもしくはshRNAmirコンストラクトは、単一の容器内でも、または複数の容器内で提供されてもよい。
【0101】
キットはまた、細胞が再プログラムされたかどうかを判定するために必要である試薬も含んでよく、これらに限定されないが、細胞が多能性もしくは多分化能性であることに寄与する遺伝子の誘発を試験するための試薬、転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の阻害を試験するための試薬、およびクロマチン構造のリモデリングを試験するための試薬が挙げられる。
【0102】
キットはまた、再プログラムされた細胞を、ニューロン、骨芽細胞、筋肉細胞、上皮細胞、および肝細胞が挙げられるがこれらに限定されない特定の系列または複数の系列へ分化させるために用いることができる試薬も含んでよい。
【0103】
キットはまた、キットに備えられている構成成分の使用について述べる説明資料も含んでいてよい。本明細書で用いる「説明資料」には、中でも分化細胞の再プログラミングを行う際のこのキットにおける本発明の方法の有用性を伝えるために用いることができる、刊行物、記録物、図、またはその他のいかなる表現媒体をも含まれる。所望される場合は含んでよいものとして、または別の選択肢として、説明資料は、本発明の細胞を再分化および/または分化転換する1もしくは2つ以上の方法を説明していてもよい。本発明のキットの説明資料は、例えば、本発明のshRNAもしくはshRNAmirまたはこれらの成分を収容する容器に貼り付けてよい。別の選択肢として、説明資料とshRNAもしくはshRNAmirまたはこれらの成分とを、受取った人が協同的に用いることを意図して、説明資料を容器とは別に発送してもよい。
【0104】
ここで、本発明を以下の実施例を参照して説明する。これらの実施例は、説明のみの目的で提供されるものあり、本発明は、これらの実施例に限定されるものとして解釈されるべきではまったくなく、むしろ、本明細書で提供される教示事項の結果として明らかとなるすべての変形を包含するものと解釈されるべきである。米国特許、許可された米国特許出願、または公開された米国特許出願を含むがこれらに限定されないすべての参考文献は、その全体が参照することで本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0105】
以下の実施例は、説明のためだけのものであり、請求項によって定められる本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0106】
DNAメチル化、ヒストン脱アセチル化、およびヒストンメチル化に寄与するエピジェネティック制御成分のサイレンシングのためのSMARTベクター shRNA‐GFP‐レンチウィルスを(表I参照)、ヒト初代およびBJ線維芽細胞培養物へ導入する。しかし、本発明の方法を用いていかなる制御成分も標的とすることができることは理解されるべきである。主たるエピジェネティック制御成分の単一および相乗的な効果を、shRNAを単独で、ならびに2、3、4、および5を含むがこれらに限定されない組み合わせで導入することによって試験する。ピューロマイシンに基づく選別の後、標的shRNAを構成的に発現する細胞を回収し、定量的リアルタイムRT‐PCRにより標的遺伝子のサイレンシングを確認する。
【0107】
方法
細胞培養: ヒト初代線維芽細胞(継代1)、およびヒトBJ線維芽細胞は、それぞれ、セルアプリケーションズ(Cell Applications,Inc.)(サンディエゴ,カリフォルニア州)、およびアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)(マナサス,バージニア州)より購入し、10%ウシ胎仔血清(FBS、Hyclone)ならびに0.5%ペニシリンおよびストレプトマイシンを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Hyclone)中にて、37℃、湿度95%、および5%CO2にて維持する。細胞を成長させ、トリプシン処理し、カウントし、次に上記の標準成長培地中に希釈して、shRNAを導入する前に適切な播種密度を得る。
【0108】
shRNAレンチウィルスの作製および感染: 表Iに概略を示した成分の不活性化のための高タイター(High tittered)SMARTベクターshRNAレンチウィルス(≧108トランスフェクションユニット/ml)は、ダーマコン(サーモフィッシャーサイエンティフィック,www.dharmacon.com)より入手する。ダーマコンからの高機能長期遺伝子サイレンシング技術(highly functional long−term gene silencing technology)を利用し、これは、記載の緑色蛍光タンパク質(turboGFP(商標))可視化およびピューロマイシン選別用に設計されている。shRNAレンチウィルス感染の前日に、ヒト線維芽細胞を2×105細胞/mlの密度で播種する。翌日、培地を、3ug/mlのポリブレン(Sigma)およびSMARTベクターshRNAレンチウィルス(25MOI)を含有する予め加温した培地に置換する。感染の18時間後に培地を新しい培地に置換し、蛍光顕微鏡法によってTurboGFP発現について細胞を評価し、感染効率を測定する。感染の3日後、ピューロマイシンを培地へ添加し、ピューロマイシン選別を開始する。選別された細胞を回収し、定量的リアルタイムRT‐PCRを用いて遺伝子発現レベルを測定することにより、標的遺伝子のサイレンシングを確認する。
【0109】
定量的RT‐PCR: shRNAが標的とする遺伝子の発現は、リアルタイムRT‐PCRによって定量する。簡潔に述べると、トリゾール試薬(ライフテクノロジー(Life Technology))およびRNeasyミニキット(キアゲン(Qiagen))を用い、製造元のプロトコルに従うデオキシリボヌクレアーゼI消化により、培養物から全RNAを調製する。各サンプルからの全RNA(1μg)をオリゴ(dT)プライムド逆転写(oligo(dT)−primed reverse transcription)(インビトロジェン)にかける。PCRマスターミックスを用い、7300リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステム)上にてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルに対して、PCR反応におけるテンプレートとして1μlの希釈cDNA(1:10)を添加する。発現レベルを、シクロフィリンに対して、未処理のコントロール細胞における発現と比較する。
【0110】
抑制複合体内の成分の発現を阻害するshRNA配列およびコンストラクトを識別する。上述の方法を用いて、shRNA配列およびコンストラクトの様々な組み合わせを試験し、最適化することができる。さらに、shRNAmir配列およびコンストラクトを用いることもできる。shRNAライブラリおよびshRNAmirライブラリを用いて、抑制複合体内の成分の発現を阻害する配列をスクリーニングすることができる。
【実施例2】
【0111】
多能性遺伝子は、DNAメチル化、ヒストン脱アセチル化、およびヒストンメチル化に寄与するタンパク質を含むがこれらに限定されない抑制エピジェネティック制御成分(repressive epigenetic regulatory components)により、体細胞内にて転写サイレンシングを受ける。shRNAによってこれらの成分を阻害し、DNA脱メチル化、ヒストンアセチル化、およびヒストン脱メチル化を誘発することにより、クロマチン構造を変化させ、多能性遺伝子の転写を可能とすることができる。
【0112】
実施例1で識別されたものなどのエピジェネティック抑制複合体標的を、クロマチン修飾について分析する。さらに、構成的に標的shRNAを発現し、標的遺伝子発現の著しいノックダウンまたはサイレンシングを示すヒト体細胞を、多能性遺伝子の上方制御について分析する。
【0113】
以下で概説する方法を用いて、全体の、そして多能性転写物特異的(pluripotency transcript−specific)なDNA脱メチル化、ヒストンアセチル化、および/またはヒストン脱メチル化を、未処理コントロール細胞と比較して確認する。さらに、定量的リアルタイムRT‐PCRを用いて、多能性遺伝子、Oct4、Nanog、およびSox2(およびその他の幹細胞性関連遺伝子)に対する発現の上方制御を、未処理コントロール細胞および連邦政府認可の(federally−approved)ヒト胚性幹細胞と比較して確認する。
【0114】
全体のDNAメチル化、ヒストンアセチル化、およびヒストンメチル化の定量: 全体のDNAメチル化、ヒストンアセチル化、およびヒストンメチル化のレベルを、それぞれ、エピジェンテック(Epigentek)(ブルックリン,ニューヨーク州)のMethylamp(商標)全体DNAメチル化定量(Global DNA Methylation Quantification)、EpiQuick(商標)全体ヒストンアセチル化(Global Histone Acetylation)、およびEpiQuick(商標)全体ヒストンメチル化(Global Histone Methylation)アッセイキットにより定量する。簡潔に述べると、5‐メチルシトシンのレベルの測定のために、細胞培養物からのゲノムDNA(200ng)を、37℃で2時間、続いて60℃で30分間インキュベートすることによってアッセイウェル上に固定化し、次に、ブロッキングバッファーを添加することによってブロックする。DNAメチル化の量は、高親和性メチルシトシン抗体およびHRP結合二次抗体をそれぞれ製造元のプロトコルに従って用いたELISAに基づく反応からのOD強度によって測定する。
【0115】
全体のヒストンアセチル化のレベルの測定のためには、抽出したヒストンを、製造元のプロトコルに従ってアッセイウェル上に安定にスポットする。アセチル化ヒストンH3またはH4に対する抗体と共にインキュベートした後、アセチル化ヒストンの量を、HRP結合二次抗体発色により、ELISAリーダー(BioRad,ハーキュリーズ,カリフォルニア州)上で定量する。
【0116】
全体のヒストンH3‐K27メチル化レベルの測定のためには、抽出したヒストンタンパク質を、製造元のプロトコルに従ってアッセイストリップウェル上に安定にスポットする。メチル化H3‐K27に特異的な抗体と共にインキュベートした後、メチル化H3‐K27の量を、HRP結合二次抗体発色により、ELISAリーダー(バイオラッド(BioRad),ハーキュリーズ,カリフォルニア州)上で定量する。
【0117】
転写物特異的メチル化の重亜硫酸塩シークエンシング分析: 多能性遺伝子プロモーターのメチル化を、重亜硫酸塩シークエンシングによって分析する。簡潔に述べると、DNAを、フェノール クロロホルム‐イソアミルアルコール抽出によって精製する。重亜硫酸塩による変換は、製造元のプロトコルに従ってEZ DNAメチル化キット(ザイモリサーチ(Zymo Research))を用いて行い;非CpGジヌクレオチドの全シトシンのウラシルへの変換率は100%である。変換されたDNAは、ヒトOct3/4、Nanog、およびSOX2に対するプライマーを用いたPCRによって増幅する。PCR産物を、TOPO TAクローン化キット(インビトロジェン,カールスバッド,カリフォルニア州)により大腸菌内へクローン化する。各サンプルの10個のクローンを、SP6およびおT7プライマーによるシークエンシングによって確認する。対象である各プロモーターに対する全体のメチル化パーセント、および任意のCpGに対するメチル化シトシンの数を、対応t検定を用いて細胞集団間で比較する。
【0118】
ヒストン修飾のQ2ChIP分析: クロマチン免疫沈降を、実質的にDahl and Collas(Stem Cells:25(4):1037−46,2007)の記載に従って行う。多能性遺伝子の5’制御領域上でのヒストンH3修飾における変化を、Q2ChIPを用いてモニタリングする。簡潔に述べると、抗体‐ビーズ複合体を作製するために、常磁性ビーズ(Dynabeads protein A;ダイナルバイオテック(Dynal Biotech),オスロ,ノルウェー)を放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)バッファーで洗浄し、その後RIPAバッファー中に再懸濁させる。2.4μgの一次抗体を含有するRIPAバッファーへビーズを添加し、次に4℃で2時間、ローテーター上にてインキュベートする。DNA‐タンパク質架橋のために、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤である酪酸ナトリウム20mMを回収の直前に細胞へ添加する(およびその後のすべての溶液へ)。細胞は、1〜2×106細胞/mlにて、1%ホルムアルデヒドにより懸濁液中で固定する。架橋された細胞をPBS/20mM酪酸塩中で洗浄し、酪酸塩を含有する溶解バッファー中に溶解する。アリコートを超音波処理して約500塩基対のクロマチンフラグメントを作製する。ライセートを沈澱させ、上清を回収し、希釈アリコートからA260によりクロマチン濃度を測定する。RIPAバッファー/酪酸塩中のクロマチンを、抗体‐ビーズ複合体(上記参照)を収容したチューブへ移し、このサンプルを上記のようにしてインキュベートする。免疫複合体をRIPAバッファー中にて、次にTEバッファー中にて洗浄する。このChIP物を、1%SDSおよび50μg/mlプロテイナーゼKを含有する溶離バッファー中でインキュベートし、1300rpmのサーモミキサー上にて、68℃で2時間インキュベートする。溶離バッファーを回収し、ChIP物を再抽出し、両方の上清をプールする。DNAを、フェノール‐クロロフォルム イソアミルアルコールで1回、クロロフォルム イソアミルアルコールで1回抽出し、次にエタノールで沈澱させる。免疫沈降DNAを、5μlのDNAから開始するリアルタイムPCRにより、3つの反復サンプルで分析する。
【0119】
多能性遺伝子発現分析のための定量的RT‐PCR: Oct4、Nanog、SOX2、グリシンN‐メチルトランスフェラーゼ(Gnmt)、REX‐1(Zfp‐42としても知られる)、インテグリンα‐6、Rox‐1、LIF‐R、TDGF1(CRIPTO)、SALL4(sal‐様4)、LECT1、BUB1、Klf4、およびKlf5などの多能性遺伝子の発現を、リアルタイムRT‐PCRによって定量する。発現レベルを、シクロフィリンに対して、未処理のコントロール細胞および連邦政府認可のヒト胚性幹細胞(ATCC)における発現と比較する。
【0120】
Taqman低密度アレイ分析(TLDA): 胚性幹細胞および発生遺伝子を含むTLDAを用いて定量的リアルタイムRT‐PCRを行い、多能性およびその他の幹細胞性関連遺伝子に対する相対発現レベルを定量する。90の胚性幹細胞および発生遺伝子、ならびに6の内在性コントロール遺伝子を含むアプライドバイオシステムズ ヒト胚Taqman(商標)低密度アレイ(ヒト胚TLDA)を用いて定量的リアルタイムRT‐PCRを行う。簡潔に述べると、ABIハイキャパシティcDNA逆転写キット(アプライドバイオシステムズ,フォスターシティ,カリフォルニア州)を用いたRNAの逆転写に続いて、50μlのヌクレアーゼフリー水および50μlのABIユニバーサルTaqman2XPCRマスターミックス中のサンプルcDNA150ngをヒト胚TLDAマイクロ流体カードの各ポートにピペッティングし、ABI 7900HTファストリアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ,フォスターシティ,カリフォルニア州)上にて分析する。ΔΔCT法を用いて、未処理のコントロール細胞および連邦政府認可のヒト胚性幹細胞と比較した、処理細胞中での遺伝子発現レベルの相対量(変化の倍率数)を算出する。
【0121】
ウェスタンブロッティング: 多能性遺伝子発現の翻訳は、タンパク質発現に対するウェスタンブロットによって確認する。簡潔に述べると、プロテアーゼ阻害剤カクテルを添加したRIPAバッファー(シグマ,セントルイス,ミズーリ州)を細胞培養物へ加えることによって、全細胞ライセートを調製する。アブカム(ケンブリッジ,マサチューセッツ州)からのMEL‐1 hES細胞ライセートをポジティブコントロールとして用いる。細胞ライセート(50μg)を電気泳動で分離し、PVDF膜(Millipore,ビルリカ,マサチューセッツ州)へ移す。ブロットをブロッキングバッファー(リコーバイオサイエンス(Licor Bioscience),リンカン,ネブラスカ州)で1時間ブロックし、洗浄し、一次抗体と共に4℃にて一晩インキュベートする。Odysseyイメージングシステム(リコーバイオサイエンス,リンカン,ネブラスカ州)を用い、IRDye800(商標)またはCy5.5(ロックランド,フィラデルフィア,ペンシルベニア州)などの蛍光標識二次抗体により、製造元のプロトコルに従ってバンドを可視化する。ウェスタンブロッティング用の抗体は、複数の製造元から入手する:Oct3/4(サンタクルーズバイオテクノロジー,サンタクルーズ,カリフォルニア州);Sox2(ケミコン,テメキュラ,カリフォルニア州);β‐アクチン、ローディングコントロール(BDバイオサイエンスイズ(BD Biosciences),サンノゼ,カリフォルニア州);Alexa結合抗マウスおよびヤギIgG(Molecular Probes,インビトロジェン,カールスバッド,カリフォルニア州);IRDye800(商標)結合抗ウサギIgG(ロックランド,フィラデルフィア,ペンシルベニア州);およびNanog(R&Dシステムズ,ミネアポリス,ミネソタ州)。
【実施例3】
【0122】
抑制エピジェネティック標的は、ヒトES細胞培養条件下でのコロニーユニット形成能、ならびに、多能性遺伝子(すなわち、Oct4、Nanog、Sox2、および/またはその他の幹細胞性関連遺伝子)の上方制御を示す標的shRNAを構成的に発現するピューロマイシン選別されたヒト体細胞中におけるインビトロおよびインビボでの分化能を評価することによって分析する。これを達成するために、ヒト(ES)細胞培養条件下にて細胞を培養し、胚性幹細胞様コロニー形成を定量する。次に細胞を回収し、以下に概説するカクテルを用いて、複数の系列への指向されたインビトロでの分化を行う。さらに、コロニー細胞を免疫欠損ヌードマウスへ注射し、インビボでのテラトーマ形成能を評価する。記載のようにして評価した表現型を、未処理のコントロール細胞および連邦政府認可のヒト胚性幹細胞と比較する。
【0123】
コロニーユニット形成のためのヒトES細胞培養: 抑制複合体の成分へ指向されるshRNAを構成的に発現しピューロマイシン選別された体細胞を、4ng/mlのbFGFを含有するヒトES細胞用培地中(hESC培地;インビトロジェン,カールスバッド,カリフォルニア州)で樹立し、維持する。マウス胚性線維芽細胞(MEF、CF1株)をATCC(マナサス,バージニア州)より購入し、10μg/mlのマイトマイシンC(ロシェ,バーゼル,スイス)で処理することによって有糸分裂の不活性化を行う。これらの細胞の播種の直前に、MEFをPBSで2回洗浄する。継代可能な状態となるまで細胞を毎日供給し、それはコロニーのサイズおよび数によって判定される。細胞の継代を行うには、PBSで細胞を2回洗浄し、フィルター滅菌したDMEM/F12中の1mg/mlのコラゲナーゼIVと共に10分間インキュベートする。コロニーが遊離を始めたところでこれを回収し、適切な体積の培地で洗浄する。細胞の継代は、4日から7日ごとに1:3から1:6の比率で行う。
【0124】
インビトロでの指向された分化:
1.ニューロン/グリア分化: ニューロン分化を誘発するために、本技術分野で公知の誘発剤のカクテルに処理細胞を接触させる。簡潔に述べると、第2〜5継代を例とする継代からの脱分化細胞を80%コンフルーエンスまで成長させ、PBSで素早く洗浄した後、ニューロン誘発培地(neuronal induction media)(NIM)を添加する。NIMは、ブチル化ヒドロキシアニソール(200μM)、KCL(5nM)、バルプロ酸(2mM)、ホルスコリン(10μM)、ヒドロコルチゾン(1μM)、およびインスリン(5μg/ml)を添加した血清を含まないアルファ‐MEMから構成される。実験は、ニューロン誘発培地への接触後5時間から15日間以内に行う。
【0125】
ニューロン分化アッセイ:
A.生存率アッセイ: 脱分化細胞の生存率を測定するために、ニューロン誘発培地への接触後、色素排除アッセイを用いる。誘発後の1〜5日間の毎日の時間点にて、ヘキスト色素(200μg/ml)(インタージェン(Intergen);パーチェス,ニューヨーク州)を培養中の細胞へ添加する。ニューロン誘発細胞との比較のために、コントロール培地で成長した細胞の生存率を測定する。生存率は、位相顕微鏡法を用いて、重ならないフィールド、例えば3つの重ならないフィールドで生存細胞をカウントすることで測定する。コントロール細胞と誘発細胞との間の違いを、スチューデントt検定を用いて比較する。これは、すべての分化誘発処理に対する標準となるアッセイである。
【0126】
B.NMDA誘発興奮毒性アッセイ: 脱メチル化細胞のグルタミン酸アンタゴニストN‐メチル‐D‐アスパラギン酸(NMDA)に対する反応を測定するために、細胞生存率に対するNMDAの影響を定量する。細胞培養物の3つの反復サンプルをコントロールまたは誘発培地中にて24時間成長させる。この細胞を500〜1000μMのNMDAに30分間接触させる。コントロールとして、細胞の1つのグループを1000μMのNMDAおよびNMDAアンタゴニスト、ジゾシルピン(MK‐801)(10μM)の両方に30分間接触させる。細胞の生存率の測定は、NMDAとの接触後、細胞をヘキスト色素と共にインキュベートし、位相顕微鏡法を用いて、重ならないフィールド、例えば3つの重ならないフィールドで生存細胞をカウントすることで行い、測定値は±SDとして表す。
【0127】
C.免疫細胞化学分析: 表現型を決定するために、細胞をコントロールまたは誘発条件下にて、チャンバースライド(ラブテック(LabTek),ナパービル,イリノイ州)上で成長させる。ニューロン誘発後の種々の時間点にて(5時間から15日間)、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定する。固定後、細胞を以下に示すニューロンおよびグリア細胞のマーカーに対して指向される特異的モノクローナル抗体と共にインキュベートする:ネスチン、GFAP、S‐100、NeuN、MAP2、β‐チューブリンIII、タウ、NMDAR‐1、g‐アミノ酪酸(GABA)、5HTP、TH、DDC、GAP‐43、シナプシンI、パンα‐1(pan α−1)電位開口型カルシウムチャネル(すべてケミコン(Chemicon,Inc.);テメキュラ,カリフォルニア州、より入手)、およびNMDAR‐2(サンタクルーズバイオテクノロジー)。すべての抗体と共にABC増幅キット(ベクターラボラトリーズ(Vector Laboratories),バーリンゲーム,カリフォルニア州、およびサンタクルーズバイオテクノロジー)を用いる。NeuNおよびGFAP、またはMAP2およびタウの共発現を識別するために、細胞を各抗体と共に順にインキュベートする。テキサスレッドおよびフルオレセインアビジン(ベクターラボラトリーズおよびサンタクルーズバイオテクノロジー)と共にアビジン/ビオチンブロッキングキットを用いて抗体の標識を行う。ニューロン誘発後の1〜15日の間の時間点にて、明視野および位相差顕微鏡法を用いてモルフォロジーを調べ、撮影する。少なくとも3つの異なる実験からの培養物を用い、ランダムな重ならない視野における視野ごとの陽性細胞のパーセントを2人の別々の研究員がカウントする。
【0128】
ウェスタンブロット: ニューロン誘発後のタンパク質発現を確認するために、コントロールおよび実験条件下で成長させた細胞をニューロン誘発後の1〜15日に回収し、実質的には上述のものと同じ手順に従ってウェスタンブロット分析を行う。マウス脳抽出物をポジティブコントロールとして、アクチンを内部コントロールのタンパク質として用いる。
【0129】
リアルタイムTaqMan RT‐PCR: さらに、ネスチン、中間径フィラメントMおよびNeu N、S‐100、MAP2、β‐IIIチューブリン、ならびにグルタミン酸受容体サブユニットNR‐1およびNR‐2などのニューロン関連マーカーを、実質的に既述のようにしてリアルタイムTaqmanPCRによりスクリーニングする。
【0130】
2.骨形成分化: 脱メチル化細胞が骨芽細胞様細胞へ分化する能力を測定するために、コンフルーエントな細胞(コントロールおよび実験用)を、10% FBS、200μM アスコルビン酸‐2‐リン酸、100nM デキサメタゾン、7mM β‐グリセロリン酸、および1nM 1α,25‐ジヒドロキシビタミンD3を添加したDMEM‐F12中にて20日間成長させる。インキュベーション後、細胞は細胞外マトリックスのインビトロでのミネラル化の証拠を示し始め、表現型と関連する遺伝子およびタンパク質を発現する。アルファ1(I)‐プロコラーゲン、オステオカルシン、オステオポンチン、骨シアロタンパク質、ALP、およびcbfa1を含むがこれらに限定されない骨形成分化を示すマーカーを、実質的に既述の方法を用いてリアルタイムTaqManPCRおよび免疫化学分析によって評価する。さらに、細胞を10%緩衝ホルマリン中にて固定し、Sigma診断キット85を製造元のプロトコル(シグマ,セントルイス,ミズーリ州)に従って用いてアルカリホスファターゼ組織化学分析を行い、骨芽細胞を検出する。
【0131】
3.筋分化: コントロールおよび実験細胞の筋肉様系列への分化を、10%ウマ血清添加DMEM‐F12で誘発する。筋マーカーであるMyoD、ミオゲニン、トロポニンT、タイチン、およびミオシンを、実質的に既述の方法を用いて評価する。
【0132】
4.肝分化: 肝分化は、Talens−Visconti et al.(World J Gastroenterol.,Sep 28;12(36):5834−45,2006)に記載のように、成長因子およびサイトカインを順に添加する2段階プロトコルを用いて実施する。簡潔に述べると、肝分化の誘発の前に、細胞(85%コンフルーエンス)を、20ng/ml EGFおよび10ng/ml bFGFを添加した血清除去DMEM中で培養して細胞の増殖を停止させる。2日後、以下に示すように2段階分化プロトコルを実施する:ステップ1として、20ng/ml HGF、10ng/ml bFGF、および4.9μM/L ニコチンアミドを添加したDMEMから成る分化培地で7日間、続いてステップ2として、20ng/ml オンコスタチンM(OMS)、1μM/L デキサメタゾン、および10μL/ml インスリン/トランスフェリン/セレニウム(ITS、シグマ,セントルイス,ミズーリ州)+プレミックス(最終濃度:100μM/L インスリン、6.25μg/ml トランスフェリン、3.6μM/L 亜セレン酸、1.25mg/ml BSA、および190μM/L リノール酸)を添加したDMEMから成る分化培地で細胞を成熟させるために最大21日間。培地は週2回交換し、肝分化は、肝関連遺伝子(C/EBP、HNF4、CYP3A4)に対するRT‐PCRにより既述のようにして評価する。
【0133】
インビボでのテラトーマ形成: 標的shRNAを構成的に発現するピューロマイシン選別されたヒト体細胞から樹立されるコロニー細胞、未処理のコントロール細胞、および連邦政府認可のヒトES細胞を、250μlの滅菌BDマトリゲル(BDバイオサイエンスイズ,サンノゼ,カリフォルニア州)中へおよそ1000万細胞/mlの濃度で再懸濁させ、6週齢のメス免疫欠損胸腺欠損ヌードマウス(チャールズリバー(Charles River);25体/グループ)へ注射し;マウスのさらなるサブセットにマトリゲルのみを注射して媒体コントロールグループとする。イソフルラン麻酔下の間に、通常の皮下挿入の後に針先を右左に動かして皮下ポケットを形成することでマウスに細胞懸濁液を注射し、次に、製造元の推奨事項に従ってマトリゲル細胞懸濁液をこのポケットへ注射する。注射部位は定期的に検査し、注射後2、4、6、8、および12週にて、各グループから5体のマウスを安楽死させる。安楽死の後、注射部位およびいずれの明らかな集合体(masses)をも切開し、固定して組織学的検査を施し、系列特異的および組織特異的染色によって明示される複数の分化細胞型ならびに系列特異的組織を含有するテラトーマを確認する。
【0134】
培養物中の細胞では、1〜5%、5〜10%、10〜20%、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、70〜80%、80〜90%、90〜95%、および95〜100%を含むがこれらに限定されない割合を多能性細胞が占めていてよい。培養物中の細胞では、1〜5%、5〜10%、10〜20%、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、70〜80%、80〜90%、90〜95%、および95〜100%を含むがこれらに限定されない割合を多分化能性細胞が占めていてよい。培養物中の細胞は、様々な細胞集団であってよく、これらに限定されないが、多能性細胞、多分化能性細胞、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11〜20、21〜30、および30超の系列へ分化する能力を有する細胞が挙げられる。多能性もしくは多分化能性と関連する細胞表面マーカーの発現に基づいて細胞を分離するFACSを用いたプロトコルにより、その潜在能が回復している細胞を濃縮することができる。
【0135】
ある態様では、本明細書の方法を用いて、抑制エピジェネティック標的を識別することができる。さらに別の態様では、タンパク質を例とする抑制エピジェネティック成分の阻害により、DNA脱メチル化、ヒストンアセチル化、および/またはヒストン脱メチル化を含むがこれらに限定されないエピジェネティック変化を誘発し、細胞が再分化する能力を有するすべての系列の識別へ繋げることができる。さらに別の態様では、本明細書で述べる方法は、クロマチン構造の修飾を可能とし、体細胞への潜在的分化能を回復させることができる。
【実施例4】
【0136】
DNMT1へ指向されるshRNAコンストラクトを分析して、多能性遺伝子の発現に対するその影響を測定した。この実験では、shRNAをDNAメチルトランスフェラーゼへ指向させたが、少なくとも1つの遺伝子の発現を上昇させるものであればいかなるshRNAコンストラクトをも用いることができる。
【0137】
方法
細胞培養: ヒト成人皮膚線維芽細胞をセルアプリケーションズ(サンディエゴ,カリフォルニア州)から購入し、線維芽細胞成長培地(セルアプリケーションズ,サンディエゴ,カリフォルニア州)中、37℃、湿度95%、5%CO2にて維持した。
【0138】
レンチウィルス感染: ヒト成人皮膚線維芽細胞を、DNMT1に指向されたshRNAレンチウィルスで感染させた。レンチウィルスコンストラクトは、ターボGFPレポーターを含有していた。shRNAコンストラクトは、ダーマコンより入手し、以下の配列を有していた:
配列番号1:GTCTACCAGATCTTCGATA
【0139】
ヒト皮膚線維芽細胞を、製造元の説明書に従ってshRNAに感染させた。HDFは、ピューロマイシン選別およびhES培養条件(mTeSR培地、ステムセルテクノロジー(Stem Cell Technology),バンクーバー,ブリティッシュコロンビア州,カナダ)有りならびに無しにてマトリゲル(BDバイオサイエンスイズ,サンノゼ,カリフォルニア州)上で培養した。
【0140】
定量的RT‐PCR: Oct‐4およびDNMT1の発現を、リアルタイムRT‐PCRで測定した。簡潔に述べると、トリゾール試薬(ライフテクノロジー,ゲイサーズバーグ,メリーランド州)およびRNeasyミニキット(キアゲン;バレンシア,カリフォルニア州)を用い、製造元のプロトコルに従うデオキシリボヌクレアーゼI消化により、培養物から全RNAを調製した。各サンプルからの全RNA(1μg)をオリゴ(dT)プライムド逆転写(インビトロジェン;カールスバッド,カリフォルニア州)にかけた。PCRマスターミックスを用い、7300リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ;フォスターシティ,カリフォルニア州)上にてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルに対して、PCR反応におけるテンプレートとして1μlの希釈cDNA(1:10)を添加する。Oct‐4およびDNMT1の発現レベルを、グリセルアルデヒド‐3‐リン酸‐デヒドロゲナーゼ(GAPD)に対して標準化した。
【0141】
免疫組織化学分析: 免疫組織化学分析に関しては、標的shRNA感染細胞およびコントロール細胞をチャンバースライド(ラブテック,ナパービル,イリノイ州)上で成長させた。次に、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、製造元のプロトコルに従って、多能性マーカー(Oct3/4、Nanog、Sox2、およびSSEA4、アブカム,ケンブリッジ,マサチューセッツ州より)に対して指向された特異的抗体と共にインキュベートした。細胞は緑色蛍光で顕微鏡観察した(ニコン,東京,日本)。
【0142】
結果
図1Aに示すように、Oct‐4の発現は、DNMT1 shRNAを感染させたHDFにおいて増加した。逆に、DNMT1の発現は、DNMT1 shRNAを感染させたHDFにおいて減少した。Oct‐4の発現の増加のピークは、トランスフェクションの5日後であると思われる。
【0143】
図1Bは、DNMT1 shRNAを感染させ、ピューロマイシンの存在下で培養したHDFからのデータを示す。Oct‐4の発現は増加し、実験の期間中維持された。DNMT1の発現は、DNMT1 shRNAの存在下で減少した。
【0144】
コロニー中でのターボGFP、Oct4、Sox‐2、およびSSEA4の発現は、特異的抗体および緑色蛍光顕微鏡観察を用いた免疫組織学的分析によって可視化した。図2Aは、DNMT1のshRNAノックダウン後に形成された胚様体の写真である。図2Bは、図2Aに示す胚様体内に存在する細胞内におけるGFP局在化を示す写真であり、レンチウィルス感染が確認される。図2Cは、DNMT1のshRNAノックダウン後に形成された胚様体の写真である。図2Dは、図2Cに示す胚様体内におけるDNMT1のshRNAノックダウンによって誘発されたSox2タンパク質の発現を示す写真である。図2Eは、DNMT1のshRNAノックダウン後に形成された胚様体の写真である。図2Fは、図2Eに示す胚様体内におけるDNMT1のshRNAノックダウンによって誘発されたOct4タンパク質の発現を示す写真である。図2Gは、培養によって成長する線維芽細胞の写真である。図2Hは、図2Gに示す胚様体内におけるDNMT1のshRNAノックダウンによって誘発されたSSEA4タンパク質の発現を示す写真である。
【0145】
これらのデータは、shRNAレンチウィルス感染を用いたDNMT1 mRNA干渉により、oct‐4、Sox2、およびSSEA4抗体で陽染される胚様体を産生させることができることを示している。DNMT shRNA感染の後、ヒト皮膚線維芽細胞からのいくつかのコロニーが観察された。緑色蛍光タンパク質をshRNA発現マーカーとして用いた。
【実施例5】
【0146】
方法
細胞培養: ヒト胎児および新生児皮膚線維芽細胞をセルアプリケーションズ(サンディエゴ,カリフォルニア州)から購入し、線維芽細胞成長培地(セルアプリケーションズ,サンディエゴ,カリフォルニア州)中、37℃、湿度95%、5%CO2にて維持した。
【0147】
レンチウィルス感染: ヒト成人皮膚線維芽細胞を、DNMT1に指向されたshRNAレンチウィルスで感染させた。shRNAコンストラクトは、ダーマコンより入手し、以下の配列を有していた:
配列番号1:GTCTACCAGATCTTCGATA
【0148】
ヒト皮膚線維芽細胞を、製造元の説明書に従ってshRNAに感染させた。HDFは、ピューロマイシン選別およびhES培養条件(mTeSR培地、ステムセルテクノロジー,バンクーバー,ブリティッシュコロンビア州,カナダ)有りならびに無しにてマトリゲル(BDバイオサイエンスイズ,サンノゼ,カリフォルニア州)上で培養した。
【0149】
定量的RT‐PCR: Oct‐4、DNMT1、およびSox‐2の発現を、リアルタイムRT‐PCRで測定した。簡潔に述べると、トリゾール試薬(ライフテクノロジー,ゲイサーズバーグ,メリーランド州)およびRNeasyミニキット(キアゲン;バレンシア,カリフォルニア州)を用い、製造元のプロトコルに従うデオキシリボヌクレアーゼI消化により、培養物から全RNAを調製した。各サンプルからの全RNA(1μg)をオリゴ(dT)プライムド逆転写(インビトロジェン;カールスバッド,カリフォルニア州)にかけた。PCRマスターミックスを用い、7300リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ;フォスターシティ,カリフォルニア州)上にてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルに対して、PCR反応におけるテンプレートとして1μlの希釈cDNA(1:10)を添加する。Oct‐4およびDNMT1の発現レベルを、グリセルアルデヒド‐3‐リン酸‐デヒドロゲナーゼ(GAPD)に対して標準化した。
【0150】
結果
図3Aに示すように、Oct‐4の発現は、DNMT1 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞(HDFf)において増加した。Oct‐4の発現のピークは、およそ第2日であった。DNMT1の発現は、DNMT1 shRNAを感染させた細胞において減少した。Oct‐4の発現は、ピューロマイシンの存在下で成長させたDNMT1 shRNAを感染させた細胞(図3B)、およびピューロマイシンおよびhES培地中で成長させた細胞(図3C)において増加した。すべての培養条件下にて、DNMT1の発現は減少した(図3A〜3C)。
【0151】
shRNAレンチウィルスのヒト皮膚線維芽細胞への最初の感染効率は約70〜80%であった。ピューロマイシン含有培地で細胞を培養することにより、shRNAコンストラクトがピューロマイシン耐性遺伝子を持つことから、shRNAレンチウィルスに感染した細胞のみを選別することができる。hES細胞培養条件で培養することは、細胞の再プログラミングおよび細胞への潜在的分化能の回復の効率および効力に寄与する。
【0152】
Oct‐4の発現は、DNMT1 shRNAを感染させたその他の細胞型でも増加した。例えば、Oct‐4の発現は、DNMT1 shRNAを感染させたヒト新生児皮膚線維芽細胞(HDFn)で増加した(図4A〜4C参照)。Oct‐4の発現の増加は、ピューロマイシンおよびhES培地の存在下で培養したHDFn細胞においてOct‐4発現が中程度に増加したことで示されるように、培養条件によって様々であった。感染HDFn細胞について実験したすべての培養条件下にて、DNMT1の発現は減少した。
【0153】
これらの結果は、多能性遺伝子のサイレンシングに関与する、および/または転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を干渉するshRNAコンストラクトを用いることで、多能性遺伝子の発現を増加させることができることを示している。DNAメチルトランスフェラーゼに対して指向されたshRNAコンストラクトは、多能性遺伝子の発現を増加させた。この方法を用いて細胞を再プログラムし、潜在的分化能を細胞へ回復させることができる。制御タンパク質をコードする遺伝子の発現を干渉するいずれのshRNAコンストラクトも用いることができる。当業者であれば、本実施例の方法をDNMT1を超えて発展させ、いずれの制御タンパク質または制御タンパク質ファミリーメンバーに対しても用いることができることは理解されるであろう。
【実施例6】
【0154】
制御タンパク質をコードする遺伝子に対して指向されたshRNAコンストラクトの、多能性遺伝子の発現を増加させる能力について調べた。本実施例では、Oct‐4およびNanogについて分析した。当業者であれば、この方法を用いて、再プログラミングおよび/または細胞の潜在的分化能の回復に関与するいずれの遺伝子の発現をも増加させることができることは理解されるであろう。
【0155】
方法
細胞培養: ヒト成人、胎児、および新生児皮膚線維芽細胞をセルアプリケーションズ(サンディエゴ,カリフォルニア州)から購入し、線維芽細胞成長培地(セルアプリケーションズ,サンディエゴ,カリフォルニア州)中、37℃、湿度95%、5%CO2にて維持した。
【0156】
レンチウィルス感染: ヒト成人皮膚線維芽細胞を、HDAC7aまたはHDAC11に指向されたshRNAレンチウィルスで感染させた。shRNAコンストラクトは、ダーマコンより入手した。HDAC7aに対して指向されたshRNAコンストラクトは、以下の配列を有していた:
配列番号2:GCTTTCAGGATAGTCGTGA
【0157】
HDAC11に対して指向されたのは以下の配列を有するshRNAコンストラクトであった:
配列番号3:AGCGAGACTTCATGGACGA
【0158】
さらに、HDAC11に対して指向されたのは以下の配列を有するshRNAコンストラクトであった:
配列番号4:TGGTGGTATACAATGCAGG
【0159】
ヒト皮膚線維芽細胞を、製造元の説明書に従ってshRNAで感染させた。HDFは、ピューロマイシン有りおよび無しで培養した。
【0160】
定量的RT‐PCR: Oct‐3/4およびNanogの発現を、リアルタイムRT‐PCRで測定した。簡潔に述べると、トリゾール試薬(ライフテクノロジー,ゲイサーズバーグ,メリーランド州)およびRNeasyミニキット(キアゲン;バレンシア,カリフォルニア州)を用い、製造元のプロトコルに従うデオキシリボヌクレアーゼI消化により、培養物から全RNAを調製した。各サンプルからの全RNA(1μg)をオリゴ(dT)プライムド逆転写(インビトロジェン;カールスバッド,カリフォルニア州)にかけた。PCRマスターミックスを用い、7300リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ;フォスターシティ,カリフォルニア州)上にてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルに対して、PCR反応におけるテンプレートとして1μlの希釈cDNA(1:10)を添加する。Oct‐3/4およびNanogの発現レベルを、グリセルアルデヒド‐3‐リン酸‐デヒドロゲナーゼ(GAPD)に対して標準化した。
【0161】
結果
2つの異なるヒストンデアセチラーゼに対して指向されたshRNAコンストラクトについて調べた。図5Aに示すように、Oct3/4の発現は、HDAC7またはHDAC11 shRNAを感染させたヒト成人皮膚線維芽細胞において約2倍に増加した。ピューロマイシンの存在下、HDAC7a shRNAと共に培養した細胞では、発現の増加はあまり大きくなかった。ピューロマイシンの存在下および非存在下で培養したヒト新生児皮膚線維芽細胞でも同様の結果が見られた(図5B)。Oct‐4の発現の増加は、ヒト胎児皮膚線維芽細胞において特にあまり大きくなく(図5C)、これは、ヒト胎児皮膚線維芽細胞が、ヒト成人および新生児皮膚線維芽細胞と比べて約4倍のOct‐4の基底発現を示すことに起因し得る。
【0162】
Nanogの発現は、HDAC7aまたはHDAC11 shRNAを感染させたヒト成人皮膚線維芽細胞において増加した(図6A)。発現の増加は、ピューロマイシンの存在下および非存在下で培養した細胞で観察された。ピューロマイシンの存在下および非存在下で培養したヒト新生児皮膚線維芽細胞でも同様の結果が観察された(図6B)。Nanogの発現はヒト胎児皮膚線維芽細胞でも増加したが、実験したその他の細胞型ほど劇的ではなかった。ヒト胎児皮膚線維芽細胞では、HDAC7a shRNAおよびHDAC11 shRNAのいずれもNanogの発現の増加を引き起こしたが、shRNA HDAC11と比較してHDAC7aに対して指向されたshRNAの方がより強い効果を示した。
【0163】
本明細書で示すデータによって裏付けられるように、HDACに対して指向されるshRNAコンストラクトは、多能性遺伝子の発現の増加をもたらす。Oct‐3/4およびNanogは共に、HDAC7aおよびHDAC11に対して指向されたshRNAコンストラクトを感染させた細胞で増加した。これらの結果は、正および負の制御因子いずれであっても、制御タンパク質をコードする遺伝子に対して指向されたshRNAコンストラクトを用いて、細胞を再プログラムし、細胞の潜在的分化能を回復させることができることを示している。
【実施例7】
【0164】
HDAC7、HDAC11、またはDNMT1に対して指向されたレンチウィルスshRNAを感染させた細胞を、多能性遺伝子の発現のために染色し、可視化した。本実施例では、Oct‐4およびSox‐2のタンパク質発現について分析したが、当業者であれば、本発明の方法を用いて、再プログラミングまたは細胞の潜在的分化能の回復に関与するいずれの遺伝子の発現をも増加させることができることは理解されるであろう。
【0165】
方法
細胞培養: ヒト胎児皮膚線維芽細胞をセルアプリケーションズ(サンディエゴ,カリフォルニア州)から購入し、線維芽細胞成長培地(セルアプリケーションズ,サンディエゴ,カリフォルニア州)中、37℃、湿度95%、5%CO2にて維持した。
【0166】
レンチウィルス感染: ヒト胎児皮膚線維芽細胞を、以下の組成物のうちの1つで感染させた:(1)DNMT1に指向されたshRNAレンチウィルス;(2)HDAC7に対して指向されたshRNAレンチウィルス;(3)DNMT1およびHDAC7に対して指向されたshRNAレンチウィルス;ならびに(4)HDAC7aおよびHDAC11に対して指向されたshRNAレンチウィルス。shRNAコンストラクトは、Dharmaconより入手した。DNMT1に対して指向されたshRNAコンストラクトは、以下の配列を有していた:
配列番号1:GTCTACCAGATCTTCGATA
【0167】
HDAC7aに対して指向されたshRNAコンストラクトは、以下の配列を有していた:
配列番号2:GCTTTCAGGATAGTCGTGA
【0168】
HDAC11に対して指向されたのは以下の配列を有するshRNAコンストラクトであった:
配列番号3:AGCGAGACTTCATGGACGA
【0169】
さらに、HDAC11に対して指向されたのは以下の配列を有するshRNAコンストラクトであった:
配列番号4:TGGTGGTATACAATGCAGG
【0170】
ヒト皮膚線維芽細胞を、製造元の説明書に従ってshRNAに感染させた。HDFは、ピューロマイシン選別およびhES培養条件(mTeSR培地、ステムセルテクノロジー,バンクーバー,ブリティッシュコロンビア州,カナダ)有りならびに無しにてマトリゲル(BDバイオサイエンスイズ,サンノゼ,カリフォルニア州)上で培養した。
【0171】
免疫組織化学分析: 免疫組織化学分析に関しては、標的shRNA感染細胞およびコントロール細胞をチャンバースライド(ラブテック,ナパービル,イリノイ州)上で成長させた。次に、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、製造元のプロトコルに従って、多能性マーカーOct3/4(アブカム,ケンブリッジ,マサチューセッツ州)に対して指向された特異的抗体と共にインキュベートした。Oct3/4の染色は赤色で可視化した。核はDAPI染色(Vectorshield)で可視化し、これは青色を発色した。
【0172】
結果
Oct‐4タンパク質の発現は、shRNA干渉により、ヒト胎児皮膚線維芽細胞(HDFf)において増加した。図7Aは、感染なしのHDFf(ネガティブコントロール)の写真であり、図7Gは、ヒト胚性幹細胞(ポジティブコントロール)の写真である。ネガティブコントロールでは、Oct‐4タンパク質の発現はほとんど検出されなかった。図7Bは、DNMT1に対して指向されたshRNAを感染させたHDFf細胞の写真である。Oct‐4タンパク質の発現は、細胞をDNMT1 shRNAに接触させた場合に、明らかに増加している。HDAC7 shRNAを感染させたHDFf細胞が示すOct‐4タンパク質の検出は非常に小さい(図7C)。これは、この特定のサンプルの処理に起因するものであり得る。
【0173】
DNMT1およびHDAC7 shRNAを感染させた細胞は、Oct‐4タンパク質の発現の劇的な増加を示した(図7D)。DNMT1およびHDAC7 shRNAの両方で処理した細胞は、ヒト胚性幹細胞(インビトロジェン,カールスバッド、カリフォルニア州)に非常に類似の発現パターンを見せた(図7G)。これらのデータは、Oct‐4遺伝子発現の増加がOct‐4タンパク質発現の増加を引き起こすという本明細書で示すデータを裏付けるものである。DNMTおよびHDAC11は、転写およびクロマチンリモデリングの制御に関して、まったく異なる機能を有する。2つの別々の制御グループからのメンバーを阻害することで、Oct‐4の発現の劇的な増加が見られた。Oct‐4タンパク質発現は、DNMT1およびHDAC11を感染させた細胞においても増加した(図7E)。DNMT1および複数のHDACを阻害することで、Oct‐4タンパク質の発現が増加した。
【0174】
HDAC7およびHDAC11 shRNAを感染させた細胞では、Oct‐4の発現の増加は検出されなかった(図7F)。これは、実験システムの限界によるものであり得る。または別の選択肢として、この結果は、多能性遺伝子の発現の最適な増加を得るには、複数の経路を阻害すべきであることを示唆するものであり得る。まったく異なる制御複合体中で機能するタンパク質をコードする遺伝子の発現を阻害することにより、多能性遺伝子の発現レベルが高まり得る。いずれの制御複合体のいずれのメンバーを阻害してもよい。
【0175】
Sox‐2タンパク質の発現は、shRNA干渉により、ヒト胎児皮膚線維芽細胞(HDFf)において増加した。図8Aは、感染なしのHDFf(ネガティブコントロール)の写真であり、図8Gは、ヒト胚性幹細胞(ポジティブコントロール)の写真である。ネガティブコントロールでは、Sox‐2タンパク質の発現はほとんど検出されなかった。図8Bは、DNMT1に対して指向されたshRNAを感染させたHDFf細胞の写真である。核染色は視認されたが、比較的少ない量のSox‐2タンパク質しか検出されなかった。HDAC7およびDNMT1 shRNAを感染させたHDFf細胞が示すSox‐2タンパク質の検出は非常に小さかった(図8C)。これは、この特定のサンプルの処理に起因するものであり得る。
【0176】
DNMT1およびHDAC11 shRNAを感染させた細胞は、Sox‐2タンパク質の発現の劇的な増加を示した(図8D)。2つの別々の制御グループからのメンバーを阻害することで、Sox‐2の発現の劇的な増加が見られた。HDAC7 shRNAを感染させた細胞が示すSox‐2のタンパク質発現は、非常に小さいものであった(図8E)。Sox‐2タンパク質発現は、HDAC7およびHDAC11を感染させた細胞においても増加した(図8F)。DNMT1および複数のHDACを阻害することで、Sox‐2タンパク質の発現が増加した。
【0177】
特定の態様について本明細書で例証し、説明してきたが、当業者であれば、同一の目的を達成するとことが意図されるいかなる設定も、示した特定の態様と置換することができることは理解されるであろう。本願は、説明した本発明の原理に従って作用するいかなる適応または変形をも包含することを意図している。従って、本発明は、請求項およびその均等物によってのみ限定されることを意図している。本願中で引用した特許、参考文献、および刊行物の開示事項は、参照することで本明細書に組み入れられる。
【技術分野】
【0001】
[関連特許出願の相互参照]
本願は、2005年8月1日に出願された米国特許仮出願第60/704,465号の利益を米国特許法第119条(e)に基づいて主張し、ならびに2008年4月7日に出願された米国特許仮出願第61/042,890号;2008年4月7日に出願された米国特許仮出願第61/043,066号;2008年4月7日に出願された米国特許仮出願第61/042,995号;および2008年11月12日に出願された米国特許仮出願第61/113,971号の利益も米国特許法第119条(e)に基づいて主張する、2006年8月1日出願の米国特許出願第11/497,064号の一部継続出願であり、これらの出願の各々は、その全文が記載されているかのごとく、参照することで本明細書に組み入れられる。
【0002】
[技術分野]
本発明の態様は、細胞生物学、幹細胞、細胞分化、体細胞核移植、および細胞治療学に関する。より詳細には、本発明の態様は、細胞の再プログラミングおよび細胞治療学のための方法、組成物、ならびにキットに関する。
【背景技術】
【0003】
再生医療は、ヒトの多くの病気に対する治療法として非常に有望であるが、同時に現代科学の研究が遭遇した最も困難な技術的課題のうちのいくつかを伴ってもいる。再生医療に対する技術的課題としては、低いクローン化効率、多能性(pluripotent)である可能性のある組織の少ない供給、ならびに、細胞分化を制御する方法、および選択された治療法に対して用いることができる胚性幹細胞の種類に関する知識の全般的な不足、が挙げられる。ES細胞は非常に高い適応性を有するものの、未分化ES細胞は、様々な組織型を含むテラトーマ(良性腫瘍)を形成し得る。さらに、1つのソースから別のソースへのES細胞の移植を行う場合、新しい細胞の拒絶を予防するために薬物を投与する必要のある可能性がある。
【0004】
胎児由来ではない組織から幹細胞を作り出すための新たな手段を見出す試みが行われてきた。1つの手法は、自己成人幹細胞の操作を含む。再生医療に自己成人幹細胞を用いることは、それらが誘導された同一の患者へ戻され、従って免疫性拒絶を起こしにくいという事実に利点がある。欠点は、このような細胞がES細胞の適応性および多能性に欠けるために、その潜在能が不確定であることである。別の手法は、成人組織からの体細胞を再プログラムして多能性ES様細胞を作り出すことを目的とするものである。しかし、多細胞生物内の各細胞型が、細胞が分化するかまたは細胞周期からはずれると固定されると考えられる特有のエピジェネティックサイン(epigenetic signature)を有することから、この手法は困難である。
【0005】
細胞DNAはクロマチンの形態で存在することが一般的であり、これは、核酸およびタンパク質を含む複合体である。実際には、ほとんどの細胞RNA分子も核タンパク質複合体の形態で存在している。クロマチンの核タンパク質構造は、当業者に公知であるように、広く研究されてきているテーマである。一般に、染色体DNAはヌクレオソーム内にパッケージされる。ヌクレオソームはコアおよびリンカーを含む。ヌクレオソームのコアはコアヒストンの八量体(H2A、H2B、H3、およびH4が2つずつ)を含み、その周りにおよそ150塩基対の染色体DNAが巻きついている。さらに、およそ50塩基対のリンカーDNAセグメントが、リンカーヒストンH1と会合する。ヌクレオソームは組織化されて高次のクロマチン繊維となり、クロマチン繊維が組織化されて染色体となる。例えば、Wolffe“Chromatin:Structure and Function”3rd.Ed.,Academic Press,San Diego,1998を参照されたい。
【0006】
クロマチン構造は固定的なものではなく、集合的にクロマチンリモデリングとして知られるプロセスによる修飾を受けやすい。クロマチンリモデリングは、例えば、DNA領域からのヌクレオソームの除去、あるDNA領域から別の領域へのヌクレオソームの移動、ヌクレオソーム間のスペーシングの変化、または染色体内のDNA領域へのヌクレオソームの付加といった機能を果たし得る。クロマチンリモデリングはまた、高次構造の変化ももたらし、それによって転写活性クロマチン(オープンクロマチン(open chromatin)またはユークロマチン)と転写不活性クロマチン(クローズドクロマチン(closed chromatin)またはヘテロクロマチン)との間のバランスに影響を与え得る。
【0007】
染色体タンパク質は、数多くの種類の化学修飾を受けやすい。これらのコアヒストンの翻訳後修飾の1つの機構は、保存高塩基性N末端リジン残基(conserved highly basic N−terminal lysine residues)のイプシロン‐アミノ基の可逆的アセチル化である。ヒストンアセチル化の定常状態は、競合する1もしくは複数のヒストンアセチルトランスフェラーゼと、本明細書にてHDACと称する1もしくは複数のヒストンデアセチラーゼとの間の動的平衡によって確立される。ヒストンのアセチル化および脱アセチル化は、かなり以前から転写制御と関連付けられている。ヒストンの可逆的アセチル化は、クロマチンのリモデリングをもたらす可能性があり、それ自体は遺伝子転写に対する制御機構として作用し得る。一般に、ヒストンの過剰アセチル化は遺伝子発現を促進し、一方ヒストンの脱アセチル化は転写抑制と相関している。ヒストンアセチルトランスフェラーゼは転写共役因子として作用することが示され、一方デアセチラーゼは転写抑制経路に属することが見出された。
【0008】
ヒストンのアセチル化と脱アセチル化との間の動的平衡は、正常な細胞成長に不可欠である。ヒストンの脱アセチル化を阻害すると、細胞周期停止、細胞分化、アポトーシス、および形質転換された表現型の逆転(reversal of the transformed phenotype)が発生する。
【0009】
遺伝子発現の制御に関与する別のグループのタンパク質は、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)であり、これは、転写サイレンシングを誘発するゲノムメチル化パターンの発生を担っている。DNAメチル化は、胚発生、X染色体不活性化、ゲノムインプリンティング、および遺伝子発現の制御を含む哺乳類の多くのプロセスの中心を成している。哺乳類におけるDNAメチル化は、S‐アデノシル‐メチオニンからシトシンのC5位へのメチル基の転移によって行われる。この反応はDNAメチルトランスフェラーゼによって触媒され、CpGジヌクレオチドのシトシンに特異的である。ヒトゲノムにおけるCpGジヌクレオチド中の全シトシンの70パーセントがメチル化されていて脱アミノ化を起こしやすく、その結果シトシンがチミンへ遷移する。このプロセスにより、グアニンおよびシトシンの頻度が全体として全ヌクレオチドの約40%まで低下し、さらにCpGジヌクレオチドの頻度が想定される頻度の約4分の1まで低下する。
【0010】
哺乳類には4種類の活性なDNAメチルトランスフェラーゼが識別されており:DNMT1、DNMT2、DNMT3A、およびDNMT3Bである。さらに、DNMT3Lは、DNMT3AおよびDNMT3Bと構造的に密接に関連し、DNAメチル化に不可欠であるタンパク質であるが、それ単独では不活性であると思われる。CpGアイランドを含むプロモーター領域におけるシトシンのメチル化は、脊椎動物細胞における下流コード配列の転写不活性化を引き起こす。
【0011】
メチル化CpG結合タンパク質(MBD1から4)として知られるタンパク質のファミリーは、メチル化を介する転写サイレンシングにおいて重要な役割を担っていると考えられる。MeCP2は、このファミリーで最初に同定されたメンバーであり、メチル化CpG結合ドメイン(MBD)および転写抑制ドメイン(TRD)を含有し、これは、メチル化DNAとの相互作用を促進し、およびSin3A/HDAC複合体をメチル化DNAへ標的化する。MeCP2と同様に、MBD1、MBD2、およびMBD3は、強力な転写抑制因子であることが示されている。MBD4はDNAグリコシラーゼであり、G:Tミスマッチを修復する。このファミリーの各メンバーは、MBD3を除いて、哺乳類細胞内にてメチル化DNAと複合体を形成し、MBD1およびMBD4以外はすべて、公知のクロマチンリモデリング複合体中に配置される。Mi‐2複合体などのいくつかのタンパク質およびタンパク質複合体は、DNAメチル化をクロマチンリモデリングおよびヒストン脱アセチル化に連結させる。
【0012】
エピジェネティック制御に関与するタンパク質の別のグループは、ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMT)であり、これは、補助因子S‐アデノシルメチオニンからヒストンタンパク質のリジンおよびアルギニン残基への1から3個のメチル基の転移を触媒する酵素、ヒストン‐リジンN‐メチルトランスフェラーゼおよびヒストン‐アルギニンN‐メチルトランスフェラーゼである。メチル化ヒストンは、DNAとより強く結合し、転写を阻害する。
【0013】
クロマチンの構造は、クロマチンリモデリング複合体として知られる巨大分子集合体の作用を通しても変化し得る。例えば、Cairns(1998)Trends Biochem.Sci.23:20 25;Workman et al.(1998)Ann.Rev.Biochem.67:545 579;Kingston et al.(1999)Genes Devel.13:2339 2352およびMurchardt et al.(1999)J.Mol.Biol.293:185 197を参照されたい。クロマチンリモデリング複合体は、ヌクレオソームアレイの分裂および再編成に関与しており、転写、DNA複製、およびDNA修復の調節をもたらす(Bochar et al.(2000)PNAS USA 97(3):1038 43)。これらのクロマチンリモデリング複合体の多くはサブユニット組成が異なるが、リモデリング活性はすべてATPアーゼに依存している。インビボにおける遺伝子活性化に対するクロマチンリモデリング複合体の活性についての必要条件の例もいくつか存在する。
【0014】
多能性または全能性細胞の分化し特殊化した表現型への発達は、発達の過程で発現される特定の遺伝子セットによって特定される。遺伝子発現は、正または負の制御を行うことができる遺伝子制御タンパク質の配列特異的結合によって直接媒介される。しかし、これらのいずれの制御タンパク質についても、遺伝子発現を直接媒介するその能力は、少なくとも部分的には、細胞DNA中にある結合部位への接近のしやすさに依存する。上記で考察したように、細胞DNA中の配列への接近のしやすさは、内部に細胞DNAがパッケージされている細胞クロマチンの構造に依存する場合が多い。
【0015】
従って、転写の抑制に関与する遺伝子の活性、発現、または活性と発現の両方を阻害することができる方法、組成物、およびキットを含む多能性のために必要である遺伝子の発現を誘発することができる方法、組成物、およびキットを識別することは有用であろう。
【発明の概要】
【0016】
本発明は、細胞の再プログラミングのための方法、組成物、およびキットに関する。本発明の態様は、多能性または多分化能性(multipotent)遺伝子の発現を誘発することを含む方法に関する。さらに別の態様では、本発明はさらに、再プログラムされた細胞を作製することを含む方法に関する。なおさらに別の態様では、本発明は、転写抑制に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を阻害することを含む方法に関する。この方法は、多能性または多分化能性遺伝子の発現を誘発すること、および細胞を再プログラムすることをさらに含む。
【0017】
本発明の態様は、細胞、細胞の集団、細胞培養物、細胞培養物からの細胞のサブセット、均一細胞培養物、または不均一細胞培養物を、転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を妨害する剤と接触させること、多能性または多分化能性遺伝子の発現を誘発すること、および細胞を再プログラムすること、を含む、細胞を再プログラムするための方法にも関する。この方法はさらに、再プログラムされた細胞を再分化させることも含む。
【0018】
転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を妨害する剤としては、これらに限定されないが、shRNA分子、shRNAmir分子、shRNA分子の組み合わせ、shRNAmir分子の組み合わせ、ならびにshRNA分子およびshRNAmir分子の組み合わせ、が挙げられる。
【0019】
転写抑制に関与するタンパク質をコードするいずれの遺伝子も、本発明の方法によって阻害することができ、そのような遺伝子としては、これらに限定されないが、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、リジンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、リジンデメチラーゼ、サーチュイン、サーチュイン活性化因子、メチル結合ドメインタンパク質、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、SWI/SNF複合体の構成成分、NuRD複合体の構成成分、およびINO80複合体の構成成分、をコードする遺伝子が挙げられる。本発明の方法によって単一の遺伝子または2個以上の遺伝子を阻害することができ、これらに限定されないが、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11〜20、21〜30、31〜40、41〜50、および50個超を含む数の遺伝子を阻害することができる。
【0020】
別の態様では、本発明は、制御タンパク質をコードする遺伝子の発現に干渉するshRNAコンストラクトに細胞を接触させること、多能性または多分化能性遺伝子の発現を誘発すること;および細胞を選別すること、を含む再プログラミングのための方法に関し、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される。
【0021】
さらに別の態様では、本発明は、制御タンパク質をコードする遺伝子の発現に干渉するshRNAコンストラクトに第一の表現型を有する細胞を接触させること;この細胞の第一の表現型を、前記のshRNAコンストラクトに細胞を接触後に得られた表現型と比較すること、および再プログラムされた細胞を選別すること、を含む方法に関する。さらに別の態様では、この方法は、前記shRNAコンストラクトへ細胞を接触させる前の細胞の遺伝子型を、前記shRNAコンストラクトへ前記細胞を接触させた後に得られた細胞の遺伝子型と比較することを含む。なお、さらに別の態様では、この方法は、shRNAコンストラクトへ細胞を接触させる前の細胞の表現型および遺伝子型を、前記shRNAコンストラクトへ細胞を接触させた後の細胞の表現型および遺伝子型と比較することを含む。
【0022】
さらに別の態様では、この方法は、選別された細胞を培養または増大して細胞の集団とすることを含む。さらに別の態様では、この方法は、多能性もしくは多分化能性遺伝子によってコードされるタンパク質と結合する抗体、またはSSEA3、SSEA4、Tra‐1‐60、およびTra‐1‐81を含むがこれらに限定されない多分化能性マーカーもしくは多能性マーカーと結合する抗体を用いて細胞を単離することを含む。細胞はまた、細胞の単離に有効であるいかなる方法を用いて単離してもよく、これらに限定されないが、蛍光励起セルソーター、免疫組織化学的検査、およびELISAが挙げられる。別の態様では、この方法は、元々の細胞よりも分化状態が低い細胞を選別することを含む。
【0023】
さらに別の態様では、本発明は、前記のshRNAコンストラクトに接触させる前の多能性または多分化能性遺伝子のクロマチン構造を、前記の剤に接触させた後に得られたクロマチン構造と比較することをさらに含む。
【0024】
別の態様では、本発明は、第一の転写パターンを有する細胞をshRNAコンストラクトへ接触させること;多能性または多分化能性遺伝子の発現を誘発すること;細胞の第一の転写パターンを、前記shRNAコンストラクトへの接触後に得られた転写パターンと比較すること、および細胞を選別すること、を含む細胞を再プログラムするための方法に関し、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される。
【0025】
さらに別の態様では、細胞の選別は、胚性幹細胞の分析された転写パターンに対する類似性が少なくとも5〜10%、10〜20%、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、70〜80%、80〜90%、90〜94%、95%、または95〜99%である転写パターンを有する細胞を識別することを含む。胚性幹細胞の転写パターン全体を比較してもよいが、その必要はない。その代わりに、胚性遺伝子のサブセットを比較してよく、その数としてはこれらに限定されないが、1〜5、5〜10、10〜25、25〜50、50〜100、100〜200、200〜500、500〜1,000、1,000〜2,000、2,000〜2,500、2,500〜5,000、5,000〜10,000、および10,000超の遺伝子が挙げられる。転写パターンは、2元型の比較を行ってよく、すなわち、この比較によって遺伝子が転写されるのか転写されないのかを判定する。別の態様では、各遺伝子もしくは遺伝子のサブセットの転写の割合および/または程度を比較してよい。転写パターンの測定は、本技術分野にて公知のいかなる方法を用いて行ってもよく、これらに限定されないが、RT‐PCR、定量的PCR、マイクロアレイ、サザンブロット、およびハイブリダイゼーションが挙げられる。
【0026】
さらに別の態様では、少なくとも1つのshRNAまたはshRNAmir配列を用いて、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、メチル結合ドメインタンパク質、またはヒストンメチルトランスフェラーゼの発現を阻害することができる。なおさらに別の態様では、2つ以上のshRNAまたはshRNAmirを用いて、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、メチル結合ドメインタンパク質、またはヒストンメチルトランスフェラーゼを含むがこれらに限定されない転写抑制に関与する2つ以上のタンパク質の発現を阻害することができる。
【0027】
さらに別の態様では、本発明は、第一の制御タンパク質をコードする遺伝子の発現に干渉するshRNAコンストラクトへの細胞の接触;第二の制御タンパク質の活性、発現、または発現および活性を阻害する第二の剤への前記細胞の接触であって、ここで、前記第二の制御タンパク質は、第一の制御タンパク質とは異なる機能を有する、接触、多能性または多分化能性遺伝子の発現の誘発、および細胞の選別、を含む、細胞を再プログラムするための方法に関し、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される。別の態様では、細胞または細胞の集団を、第一および第二の剤へ同時にまたは順次に接触させてよい。第二の剤としては、これらに限定されないが、小分子、小分子阻害剤、小分子活性化剤、核酸配列、およびshRNAコンストラクトが挙げられる。
【0028】
本発明の態様はまた、本明細書にて開示される方法に従って作製された再プログラムされた細胞を用いて種々の疾患を治療するための方法も含む。さらに別の態様では、本発明はまた、再プログラムされた細胞、および再分化された再プログラムされた細胞の治療的使用にも関する。
【0029】
本発明の態様はまた、細胞の再プログラミングに関与する遺伝子をスクリーニングすることを含む方法にも関する。さらに別の態様では、この方法は、転写を阻害するタンパク質をコードする遺伝子をスクリーニングすることをさらに含む。なおさらに別の態様では、この方法は、細胞が多能性または多分化能性であることに寄与する遺伝子をスクリーニングすることを含む。このスクリーニングは、shRNAライブラリまたはshRNAmirライブラリを含むがこれらに限定されない適切なスクリーニング試薬を用いて実施することができる。
【0030】
本発明の態様はまた、本発明の方法によって作製された再プログラムされた細胞にも関する。再プログラムされた細胞は、単一の系列または2種類以上の系列へ再分化することができる。再プログラムされた細胞は、多分化能性または多能性であってよい。
【0031】
さらに別の態様では、本発明は、多能性または多分化能性遺伝子の発現を誘発するshRNAコンストラクトへ細胞を接触させる工程;および細胞を選別する工程であって、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される、工程、および前記の選別された細胞を培養して細胞の集団を作製する工程、を含む方法に従って作製された再プログラムされた細胞の濃縮された集団に関する。さらに別の態様では、再プログラムされた細胞は、SSEA3、SSEA4、Tra‐1‐60、およびTra‐1‐81から成る群より選択される細胞表面マーカーを発現する。さらに別の態様では、再プログラムされた細胞は、Oct‐3/4、Sox‐2、Nanog、およびKlf4を含むがこれらに限定されない多能性または多分化能性遺伝子からのタンパク質の発現を通して選別することができる。さらに別の態様では、再プログラムされた細胞は、濃縮された細胞の集団の少なくとも5〜10%、10〜20%、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、70〜80%、80〜90%、90〜95%、96〜98%、または少なくとも99%を占める。
【0032】
本発明の態様はまた、本発明の方法および組成物を作製するためのキットにも関する。このキットは、中でも、細胞の再プログラミング、ならびにES様細胞および幹細胞様細胞の作製に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1Aは、DNMT1 shRNAを感染させた細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。図1Bは、DNMT1 shRNAを感染させ、hES培地中にて培養した細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。
【図2】図2Aは、DNMT1のshRNAノックダウン後に形成された胚様体(embryonic−like body)の写真である。図2Bは、図2Aに示す胚様体内に存在する細胞内におけるGFP局在化を示す写真であり、レンチウィルス感染が確認される。図2Cは、DNMT1のshRNAノックダウン後に形成された胚様体の写真である。図2Dは、図2Cに示す胚様体内におけるDNMT1のshRNAノックダウンによって誘発されたSox2タンパク質の発現を示す写真である。図2Eは、DNMT1のshRNAノックダウン後に形成された胚様体の写真である。図2Fは、図2Eに示す胚様体内におけるDNMT1のshRNAノックダウンによって誘発されたOct4タンパク質の発現を示す写真である。図2Gは、培養によって成長する線維芽細胞の写真である。図2Hは、図2Gに示す胚様体内におけるDNMT1のshRNAノックダウンによって誘発されたSSEA4タンパク質の発現を示す写真である。
【図3】図3Aは、DNMT1 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。図3Bは、DNMT1 shRNAを感染させ、ピューロマイシンの存在下で培養したヒト胎児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。図3Cは、DNMT1 shRNAを感染させ、ピューロマイシンおよびhES培地の存在下で培養したヒト胎児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。
【図4】図4Aは、DNMT1 shRNAを感染させたヒト新生児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。図4Bは、DNMT1 shRNAを感染させ、ピューロマイシンの存在下で培養したヒト新生児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。図4Cは、DNMT1 shRNAを感染させ、ピューロマイシンおよびhES培地の存在下で培養したヒト新生児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4の発現の増加とDNMT1の発現の減少を示すグラフである。
【図5】図5Aは、HDAC7aおよびHDAC11 shRNAの存在下、ヒト成人皮膚線維芽細胞におけるOct‐4 mRNAの発現の増加を示すグラフである。図5Bは、HDAC7aおよびHDAC11 shRNAの存在下、ヒト新生児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4 mRNAの発現の増加を示すグラフである。図5Cは、HDAC7aおよびHDAC11 shRNAの存在下、ヒト胎児皮膚線維芽細胞におけるOct‐4 mRNAの発現の増加を示すグラフである。
【図6】図6Aは、HDAC7aおよびHDAC11 shRNAの存在下、ヒト成人皮膚線維芽細胞におけるNanog mRNAの発現の増加を示すグラフである。図6Bは、HDAC7aおよびHDAC11 shRNAの存在下、ヒト新生児皮膚線維芽細胞におけるNanog mRNAの発現の増加を示すグラフである。図6Cは、HDAC7aおよびHDAC11 shRNAの存在下、ヒト胎児皮膚線維芽細胞におけるNanog mRNAの発現の増加を示すグラフである。
【図7】図7Aは、ヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図7Bは、DNMT1 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図7Cは、HDAC7 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図7Dは、DNMT1およびHDAC7 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図7Eは、DNMT1およびHDAC11 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図7Fは、HDAC11およびHDAC7 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図7Gは、ヒト胚性幹細胞の写真である。
【図8】図8Aは、ヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図8Bは、DNMT1 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図8Cは、DNMT1およびHDAC7 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図8Dは、DNMT1およびHDAC11 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図8Eは、HDAC7 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図8Fは、HDAC11およびHDAC7 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞の写真である。図8Gは、ヒト胚性幹細胞の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
[定義]
本開示における数字の範囲はおおよそのものであり、従って、特に断りのない限り、その範囲外の数値も含む。数字の範囲は、低い方の値から高い方の値までの1単位ずつの値を、これらの値自体と共にすべて含むが、ただし、いずれかの低い方の値およびいずれかの高い方の値の間が少なくとも2単位分離れていることが条件である。例えば、分子量、粘度などを例とする、組成、物理的、またはその他の性質が100から1000である場合、100、101、102などの個々の値すべて、ならびに100から144、155から170、197から200などのサブ範囲が明確に挙げられることを意図している。1未満の値を含む範囲、または1より大きい小数(例:1.1、1.5など)を含む範囲の場合、1単位は適宜0.0001、0.001、0.01、または0.1と見なされる。10未満の一桁の数字を含む範囲の場合(例:1から5)、1単位は通常0.1と見なされる。これらは具体的に意図されているものの例に過ぎず、列挙される最小値と最大値との間の数値のすべての可能な組み合わせが、本開示の中で明確に述べられていると見なされるべきである。本開示内の数値の範囲は、中でも、混合物中の成分の相対量、ならびに方法において列挙される種々の温度およびその他のパラメータの範囲に対して提供される。
【0035】
特にそれに反する限定がされていない限りにおいて、「細胞」または「複数の細胞」は、いずれの体細胞、胚性幹(ES)細胞、成人幹細胞、臓器特異的幹細胞、核移植(NT)ユニット(nuclear transfer units)、および幹様細胞をも含む。1もしくは複数の細胞は、いずれの臓器または組織から入手してもよい。1もしくは複数の細胞は、ヒトのものでもその他の動物のものであってもよい。例えば、細胞は、マウス、モルモット、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどのものであってよい。細胞はまた、非ヒト霊長類由来であってもよい。
【0036】
「培地」または「成長培地」とは、細胞の成長を支援する能力を有する適切な媒体を意味する。
【0037】
「分化」とは、胚発生の過程で細胞が構造的および機能的に特殊化するプロセスを意味する。
【0038】
「DNAメチル化」とは、シトシンへのメチル基(−CH3基)の結合を意味する。これは、外来DNAを破壊するために産生された酵素および化学物質から自己DNAを保護するための方法として、ならびにDNA内の遺伝子の転写を制御するための方法として、日々行なわれているものである。
【0039】
「エピジェネティックス」とは、ヌクレオチド配列の変化を伴わない機能の遺伝性変化に関するDNAの状態を意味する。エピジェネティック変化は、メチル化および脱メチル化によるものなどのDNAの修飾により、DNAのヌクレオチド配列がまったく変化しない状態で引き起こすことができる。
【0040】
「ヒストン」とは、核内に収まるようにDNAを十分に小さくする役目を担う、染色体中に見られるタンパク質分子のクラスを意味する。
【0041】
「遺伝子の発現を阻害または干渉する」とは、遺伝子の発現を低下させることを意味する。ある態様では、遺伝子発現のこのような低下は、少なくとも約5〜25%であり、より好ましくは少なくとも約50%、さらにより好ましくは少なくとも約75%、そしてなおさらにより好ましくは少なくとも約90%である。他の態様では、遺伝子発現は少なくとも95%低下され、さらに別の態様では、遺伝子発現は少なくとも99%低下される。
【0042】
「ノックダウン」とは、遺伝子特異的な形で遺伝子の発現を抑制することを意味する。1もしくは2つ以上の「ノックダウン」遺伝子を有する細胞は、ノックダウン生物、または単に「ノックダウン」と称される。
【0043】
「多能性」とは、三胚葉性の細胞型または一次組織型に分化する能力を有することを意味する。
【0044】
「多能性遺伝子」とは、細胞が多能性であることに寄与する遺伝子を意味する。
【0045】
「多能性細胞培養物」は、胎児または成人由来の分化した細胞と明らかに区別されるモルフォロジーを提示する場合、「実質的に未分化」であると考えられる。多能性細胞は、通常、高い核/細胞質比、明瞭な核小体、および認識し難い細胞結合を持つコンパクトなコロニー形成を有し、当業者によって容易に識別される。未分化細胞のコロニーは、分化された隣接する細胞によって囲まれている場合があることが分かっている。しかしながら、適切な条件下で培養すると、実質的に未分化であるコロニーは存続し、未分化細胞は、培養細胞の分割後に増殖する細胞の突出した割合を構成する。本開示で述べる有用な細胞集団には、これらの基準を持つ実質的に未分化である多能性細胞がいかなる割合で含まれていてもよい。実質的に未分化である細胞培養物は、少なくとも約20%、40%、60%、またはさらには80%の未分化多能性細胞を含んでいてよい(集団中の全細胞に対するパーセントで)。
【0046】
「制御タンパク質」とは、正および負の方向の制御を含む、生物学的プロセスを制御するいずれのタンパク質をも意味する。制御タンパク質は、生物学的プロセスに対して直接または間接的な影響を有していてよく、直接に、または複合体内での関与を通して影響を及ぼしてよい。
【0047】
「再プログラミング」とは、核内のエピジェネティック標識を除去し、続いて異なるセットのエピジェネティック標識を確立することを意味する。多細胞生物の発生の過程では、異なる細胞および組織が、遺伝子発現の異なるプログラムを獲得する。このような独特の遺伝子発現パターンは、DNAメチル化、ヒストン修飾、およびその他のクロマチン結合タンパク質などのエピジェネティック修飾によって実質的に制御されると考えられる。従って、多細胞生物内の各細胞型は、細胞が分化するかまたは細胞周期からはずれると「固定」されて不変となると従来から考えられている特有のエピジェネティックサインを有する。しかし、細胞の中には、正常な発生または特定の疾患状況の過程で、重要なエピジェネティック「再プログラミング」を起こすものもある。
【0048】
「全能性」とは、完全な胚または臓器へ発生する能力を有することを意味する。
【0049】
本発明の態様は、細胞が多能性または多分化能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘発することを含む方法に関する。別の態様では、本発明は、細胞が多分化能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘発することを含む方法に関する。ある態様では、この方法は、細胞が多能性または多分化能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘発すること、および多能性または多分化能性であり、複数の系列への指向された分化を行う能力を有する再プログラムされた細胞を作製することを含む。
【0050】
本発明の態様はさらに、クロマチン構造を修飾すること、および細胞を再プログラムして多能性または多分化能性とすることを含む方法にも関する。さらに別の態様では、クロマチン構造の修飾は、抑制複合体(repression complex)に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を阻害することを含む。
【0051】
別の態様では、この方法は、転写抑制に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を阻害すること、および細胞が多能性または多分化能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘発することを含む。さらに別の態様では、この方法は、転写抑制に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を阻害すること、および再プログラムされた細胞を作製することを含む。本発明の方法は、いずれの種類の抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現も阻害することができ、これらに限定されないが、活性抑制因子(active repressors)、基礎転写装置を修飾する抑制因子、構造を修飾して抑制因子を補充するタンパク質、抑制因子を補充するタンパク質、ヌクレオソームまたはクロマチン構造を修飾するタンパク質、ヒストンを修飾するタンパク質、DNAを修飾するタンパク質、およびクロマチンリモデリング複合体に関与するタンパク質が挙げられる。
【0052】
さらに別の態様では、本発明は:制御タンパク質をコードする遺伝子の発現に干渉するshRNAコンストラクトに細胞を接触させること、多能性または多分化能性遺伝子の発現を誘発すること;および細胞を選別することを含む細胞を再プログラムするための方法に関し、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される。多能性または多分化能性遺伝子の発現の誘発はいかなる倍率での増加であってもよく、これらに限定されないが、0.25〜0.5、0.5〜1、1.0〜2.5、2.5〜5、5〜10、10〜15、15〜20、20〜40、40〜50、50〜100、100〜200、200〜500倍、および500倍超が挙げられる。別の態様では、この方法は、分化した細胞を播種すること、制御タンパク質をコードする遺伝子の発現に干渉するshRNAコンストラクトに前記分化した細胞を接触させること、前記細胞を培養すること、および再プログラムされた細胞を識別することを含む。制御タンパク質の発現のshRNAコンストラクトによる干渉はいかなる量であってもよく、これらに限定されないが、1〜5%、5〜10%、10〜20%、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、70〜80%、80〜90%、90〜95%、および95〜99%、99〜200%、200〜300%、300〜400%、400〜500%、および500%超が挙げられる。
【0053】
さらに別の態様では、この方法は多能性もしくは多分化能性遺伝子によってコードされるタンパク質またはタンパク質の断片、または、多能性もしくは多分化能性表面マーカーに対して指向される抗体を用いて細胞を選別することをさらに含む。いかなる種類の抗体を用いてもよく、これらに限定されないが、モノクローナル、ポリクローナル、抗体の断片、ペプチド模倣体、活性領域に対する抗体、およびタンパク質の保存領域に対する抗体が挙げられる。さらに別の態様では、この方法は、細胞を選別すること、および前記細胞を増大または培養して多能性細胞培養物または多分化能性細胞培養物とすることを含む。
【0054】
さらに別の態様では、この方法は、多能性もしくは多分化能性遺伝子または多能性もしくは多分化能性表面マーカーによって動かされるレポーターを用いて細胞を選別することをさらに含む。いかなる種類のレポーターを用いてもよく、これらに限定されないが、蛍光タンパク質、緑色蛍光タンパク質、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、細菌ルシフェラーゼ、クラゲエクオリン(jellyfish aequorin)、高感度緑色蛍光タンパク質、ターボGFP(turbo GFP)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、dsRED、β‐ガラクトシダーゼ、およびアルカリホスファターゼが挙げられる。
【0055】
さらに別の態様では、この方法は、選択可能なマーカーとして耐性を用いて細胞を選別することをさらに含み、これらに限定されないが、抗生物質、殺真菌剤、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、チミジンキナーゼに対する耐性、ネオマイシン耐性(neo)、G418耐性、ミコフェノール酸耐性(gpt)、ゼオシン(zeocin)耐性タンパク質、およびストレプトマイシンが挙げられる。
【0056】
さらに別の態様では、この方法は、細胞の多能性もしくは多分化能性遺伝子のクロマチン構造を、前記細胞をshRNAコンストラクトへ接触させる前のそれと、前記shRNAコンストラクトで処理した後に得られた多能性もしくは多分化能性遺伝子のクロマチン構造と比較することをさらに含む。クロマチン構造のいずれの側面を比較してもよく、これらに限定されないが、ユークロマチン、ヘテロクロマチン、ヒストンアセチル化、ヒストンメチル化、ヒストンもしくはヒストン成分の存在および非存在、ヒストンの位置、ヒストンの配置、ならびにクロマチンに関連する制御タンパク質の存在もしくは非存在が挙げられる。遺伝子のいずれの領域のクロマチン構造を比較してもよく、これらに限定されないが、エンハンサーエレメント、アクチベーターエレメント(activator element)、プロモーター、TATAボックス、転写開始部位の上流領域、転写開始部位の下流領域、エクソン、およびイントロンが挙げられる。
【0057】
転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現の阻害は、適切ないかなる機構によって達成されてもよく、これに限定されないが、RNA干渉(RNAi)が挙げられる。RNAiは、配列特異的な形での標的mRNAの分解による広範な機構を介して遺伝子の発現を制御する。低分子干渉RNA鎖(siRNA)がRNAiプロセスの基礎となるものであり、これは、標的RNA鎖に対して相補的なヌクレオチド配列を有している。特定のRNAi経路タンパク質が、siRNAによって標的メッセンジャーRNA(mRNA)へと誘導され、ここで、この標的を「開裂」させ、タンパク質への翻訳が不可能である小部分へ分解する。
【0058】
さらに別の態様では、この方法は、細胞を低分子ヘアピンRNA(shRNA)と接触させること、および転写抑制に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を阻害することを含む。さらに別の態様では、この方法は、再プログラムされた細胞を作製することをさらに含む。再プログラムされた細胞は、多能性もしくは多分化能性であってよい。
【0059】
shRNAは、遺伝子発現のサイレンシングに用いることができる急なヘアピン型の折り返しを形成するRNAの配列であり;shRNAの使用は、RNA干渉を達成するための1つの手法である。ある態様では、shRNAは、U6プロモーターが挙げられるがこれに限定されないプロモーターを有するベクターへ組み込み、確実にshRNAを発現させることができる。ベクターは通常、娘細胞へと伝えられ、それによって遺伝子サイレンシングが受け継がれることが可能となる。shRNAのヘアピン構造は、細胞装置によって低分子干渉RNAへと開裂され、これは次に、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)へ結合される。この複合体は、それに結合したsiRNAとマッチするmRNAと結合し、これを開裂する。
【0060】
shRNAは、レンチウィルスコンストラクトに組み込むことができる。レンチウィルスは、レトロウィルス(Retroviridae)ファミリーのスローウィルスの属であり、長い潜伏期間を特徴とする。レンチウィルスは、宿主細胞のDNAへ多大な量の遺伝子情報を送達することができ、従って、遺伝子送達ベクターの効率的な方法である。
【0061】
別の態様では、shRNAライブラリを本発明の方法と共に用いて、転写抑制に関与する因子、クロマチンリモデリングに関与する因子、および細胞が多能性もしくは多分化能性であることに寄与する因子を識別することができる。さらに別の態様では、shRNAライブラリは、RNAiコンソーシアム(The RNAi Consortium)(TRC)からのものであってよく、これは、そのミッションが機能ゲノミクス研究のための包括的なツールを創出してそれを世界中の科学者に対して広く利用可能とすることである、世界的な11の学術および企業ライフサイエンス研究グループが集まった共同研究グループである。Broad Institute of MIT and Harvardで開発されたTRCの現時点でのコレクションは、16,000のアノテートされたヒト遺伝子を標的とする予めクローン化された159,000のshRNAコンストラクトから構成されている。
【0062】
shRNAコンストラクト、ライブラリ、およびベクターは、オーダーメイドのものであっても、または販売元から購入したものであってもよく、これらに限定されないが、ダーマコンRNAiテクノロジーズ(Dharmacon RNAi technologies)(サーモサイエンティフィック,ラフィエット,コロラド州)より入手可能であるSMARTベクターshRNAレンチウィルステクノロジー、シグマアルドリッチ(セントルイス,ミズーリ州)より入手可能であるMISSION(商標)TRC shRNA、オープンバイオシステムズ(ハンツビル,アラバマ州)より入手可能であるTRCレンチウィルスshRNAライブラリ、構成的または誘導性プロモーター、種々の選択マーカー、およびウィルス送達オプションを特徴とする、レンチウィルスおよびアデノウィルスベクターと共に入手可能であるBLOCK‐iT(商標)RNAiベクター(インビトロジェン,カールスバッド、カリフォルニア州)が挙げられる。
【0063】
さらに、特定の標的に対して指向されるshRNA分子も、オリジーン(OriGene)(ロックビル,メリーランド州)およびサンタクルーズバイオテクノロジー(サンタクルーズ,カリフォルニア州)などの販売元から入手可能である。誘導性shRNAも、クローンテック(マウンテンビュー,カリフォルニア州)から入手可能である。ノックアウト誘導性RNAi系は、哺乳類細胞中の機能性低分子ヘアピンRNA(shRNA)の発現を、標的遺伝子を抑制する目的で強く制御する。ノックアウト誘導性RNAi系は、遺伝子の抑制が致命的である可能性があり、その分析ができなくなる場合に有用である。次のようないくつかのバージョンが入手可能である:Knockout Single Vector Inducible RNAi system、ならびにKnockout Tet RNAi System HおよびP。
【0064】
別の態様では、この方法は、細胞をshRNAmirと接触させること、および転写抑制に関与する少なくとも1つの遺伝子の発現を阻害することを含む。さらに別の態様では、この方法は、再プログラムされた細胞を作製することをさらに含む。再プログラムされた細胞は、多能性もしくは多分化能性であってよい。
【0065】
マイクロRNA(miRNA)は、長さが約21〜23ヌクレオチドの一本鎖RNA分子であり、遺伝子の発現を制御する。miRNAは、DNAから転写される遺伝子によってコードされるが、タンパク質へは翻訳されず(非コードRNA);その代わり、pri‐miRNAとして知られる一次転写物からpre‐miRNAと称される低分子ステムループ構造へとプロセッシングされ、最後に機能性miRNAとなる。成熟したmiRNA分子は、1もしくは2つ以上のメッセンジャーRNA(mRNA)分子に対して部分的に相補的であり、その主たる機能は、遺伝子の発現を下方制御することである。
【0066】
哺乳類RNAiのshRNAmirによる誘発は、内在性マイクロRNAバイオジェネシス経路に関する現在の知識に基づいている。shRNAmirコンストラクトは、自然のマイクロRNA一次転写物を模倣するように設計されており、それによって、内在性RNAi経路による特異的なプロセッシングが可能となり、効果的な遺伝子ノックダウンが作出される。ゲノム規模でのshRNAmirライブラリには、遺伝子ノックダウンの効率性および特異性を高め、多様なRNAiアプリケーションに対するソリューションを提供することを目的とするいくつかの特徴が組み込まれている。
【0067】
shRNAmirライブラリを、本発明の方法と共に用いることができる。さらに別の態様では、shRNAmirライブラリは、RNAiコンソーシアム(TRC)からのものであってよい。
【0068】
shRNAmirおよびshRNAmirライブラリは、オーダーメイドのものであっても、または販売元から購入したものであってもよい。例えば、Expression Arrest(商標)マイクロRNA適合(microRNA−adapted)shRNA(shRNAmirライブラリ)、レトロウィルスshRNAmirライブラリ、レンチウィルスshRNAmirライブラリ、TRIPzレンチウィルス誘導性shRNAmirライブラリ、pSM2レトロウィルスshRNAmirライブラリであり、これらはすべてオープンバイオシステムズ(ハンツビル,アラバマ州)より入手可能である。
【0069】
別の態様では、本発明の方法は、細胞をshRNA、shRNAライブラリ、shRNAmir、shRNAmirライブラリ、またはshRNAコンストラクトの組み合わせと接触させること、転写抑制に関与する少なくとも1つの遺伝子の発現または活性を阻害すること、ならびに阻害された前記遺伝子を識別することをさらに含む。
【0070】
単一のshRNAもしくはshRNAmirを用いて、単一の遺伝子の阻害を標的としてもよく、または2つ以上のshRNAもしくはshRNAmirを用いて、単一の遺伝子の阻害を標的としてもよい。さらに別の態様では、単一のshRNAもしくはshRNAmirを用いて、2つ以上の遺伝子の阻害を標的としてよい。なおさらに別の態様では、2つ以上のshRNAもしくは2つ以上のshRNAmirを用いて、2つ以上の遺伝子の阻害を標的としてよい。shRNAコンストラクトおよびshRNAmirコンストラクトの混合物を用いてもよい。本発明の方法により、単一の遺伝子または2つ以上の遺伝子を阻害することができ、その数はこれらに限定されないが、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11〜20、21〜30、31〜40、41〜50、および50超の遺伝子が挙げられる。
【0071】
遺伝子発現の抑制に関与するタンパク質をコードするいずれの遺伝子も、本発明の方法によって阻害することができ、これらに限定されないが、ヒストンデアセチラーゼ、メチル結合ドメインタンパク質、メチルアデノシルトランスフェラーゼ、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンメチルトランスフェラーゼ、およびメチルサイクル酵素(methyl cycle enzyme)、核内受容体、オーファン核内受容体、Esrrβ、およびEssRγが挙げられる。本発明の方法によって阻害することができる代表的な遺伝子のリストを表Iに示す。
【0072】
例えば、MeCP2を例とするメチル結合ドメインタンパク質は、メチル化シトシンと結合し、次にヒストンタンパク質を脱アセチル化するヒストンデアセチラーゼを補充し、その結果、凝縮クロマチン構造が得られ、これが転写を阻害する。本発明の方法は、抑制複合体中のタンパク質をコードする遺伝子の発現を阻害することができ、それによって、多能性遺伝子の転写を誘発することができる。
【0073】
【0074】
例えば、shRNAmirを用いてMeCP2の発現を阻害し、それによって、HDACのクロマチン構造への補充を著しく低減させることができる。このことは、細胞が多能性もしくは多分化能性であるために不可欠である遺伝子の上方制御を引き起こし、それによって体細胞の分化能(differentiation capacity)を高めることができる。同様に、shRNAmirを用いてHDACを阻害することができ、このことは、同様に、多能性に不可欠である遺伝子の上方制御を引き起こす。さらに、DNAメチルトランスフェラーゼに対して指向されたshRNAmir、メチル結合タンパク質に対して指向されたshRNAmir、およびHDACに対して指向されたshRNAmirを同時にまたは順次に用いて、抑制複合体中のタンパク質をコードする遺伝子の発現を阻害することができる。上記の考察は、説明の目的を意図するのみであり、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【0075】
クロマチンリモデリングに関与するその他の複合体中のタンパク質をコードする遺伝子も、本発明の方法で阻害することができ、これらに限定されないが、SWI/SNF複合体、NuRD複合体、Mi‐2複合体、Sin3複合体、およびINO80が挙げられる。hSWI/SNF複合体は、クロマチンへの接近のしやすさの制御において重要な役割を果たしていることが公知である多サブユニットタンパク質複合体である。hSWI/SNF複合体のいずれの成分も本発明の方法によって阻害することができ、これらに限定されないが、SNF5/INI1、BRG1、BRM、BAF155、およびBAF170が挙げられる。SWI/SNFは、元々は、種々の遺伝子の活性化に要するものとして、酵母菌から識別された。hSWI/SNF複合体は、いくつかの発生特異的である(developmentally specific)遺伝子発現プログラムの制御にとって極めて重要であることが示されている。
【0076】
Sin3複合体のいずれの成分も本発明の方法によって阻害することができ、これらに限定されないが、HDAC1、HDAC2、RbAp46、RbAp48、Sin3A、SAP30、およびSAP18が挙げられる。
【0077】
NuRD複合体のいずれの成分も本発明の方法によって阻害することができ、これらに限定されないが、Mi2、p70、およびp32が挙げられる。
【0078】
INO80複合体のいずれの成分も本発明の方法によって阻害することができ、これらに限定されないが、Tip49A、Tip49B、SNF2ファミリーヘリカーゼIno80、アクチン関連タンパク質ARP4、ARP5、およびArp8、YEATSドメインファミリーメンバーTaf14、HMG‐ドメインタンパク質、Nhp10、ならびにIes1〜6と称するさらなる6つのタンパク質が挙げられる。
【0079】
細胞が多能性もしくは多分化能性であることに寄与する遺伝子の発現の誘発に用いることができるshRNAまたはshRNAmir配列はいずれの数であってもよく、これらに限定されないが、1〜5、6〜10、11〜15、16〜20、21〜25、26〜30、31〜35、36〜40、41〜45、46〜50、および50超のshRNAまたはshRNAmir配列が挙げられる。
【0080】
本発明の方法によって作製された再プログラムされた細胞は、多能性もしくは多分化能性であってよい。本発明の方法によって産生された再プログラムされた細胞は、胚性幹細胞様の性質を含む種々の異なる性質を有することができる。例えば、再プログラムされた細胞は、未分化の状態にて、少なくとも10、15、20、30、またはこれを超える継代数で増殖する能力を有し得る。他の形態では、再プログラムされた細胞は、分化することなく1年を超える間増殖することができる。再プログラムされた細胞は、増殖および/または分化を行う間、正常な核型を維持することもできる。ある再プログラムされた細胞は、未分化の状態でインビトロにて無限に増殖する能力を有する細胞であり得る。ある再プログラムされた細胞は、長期間の培養を通して正常な核型を維持することができる。ある再プログラムされた細胞は、長期間の培養後であっても、3つすべての胚性胚葉(embryonic germ layers)(内胚葉、中胚葉、および外胚葉)の誘導体へと分化する潜在能を維持することができる。ある再プログラムされた細胞は、生物内のいずれの細胞型も形成することができる。ある再プログラムされた細胞は、未分化成長を維持しない培地上での成長など、特定の条件下にて胚様体を形成することができる。ある再プログラムされた細胞は、例えば、胚盤胞との融合を介してキメラを形成することができる。
【0081】
再プログラムされた細胞は、種々のマーカーで同定することができる。例えば、ある再プログラムされた細胞は、アルカリホスファターゼを発現する。ある再プログラムされた細胞は、SSEA‐1、SSEA‐3、SSEA‐4、TRA‐1‐60、および/またはTRA‐1‐81を発現する。ある再プログラムされた細胞は、Oct4、Sox2、およびNanogを発現する。ある再プログラムされた細胞は、これらをmRNAレベルで発現し、さらに別のものは、例えば細胞表面または細胞内部にて、これらのタンパク質レベルでの発現も行うことは理解される。
【0082】
再プログラムされた細胞は、本明細書で考察する再プログラムされた細胞のいかなる性質、またはカテゴリー、または複数のカテゴリーおよび性質のいかなる組み合わせを有していてもよい。例えば、再プログラムされた細胞は、アルカリホスファターゼを発現することができるがSSEA‐1は発現せず、少なくとも20継代の間増殖することができ、いかなる細胞型へも分化する能力を持ち得る。例えば、別の再プログラムされた細胞は、細胞表面上でSSEA‐1を発現することができ、内胚葉、中胚葉、および外胚葉組織を形成する能力を持ち得、分化することなく1年間を超えて培養することができる。
【0083】
再プログラムされた細胞は、アルカリホスファターゼ(AP)陽性、SSEA‐1陽性、およびSSEA‐4陰性であってよい。再プログラムされた細胞は、Nanog陽性、Sox2陽性、およびOct‐4陽性であってもよい。再プログラムされた細胞は、Tcl1陽性およびTbx3陽性であってもよい。再プログラムされた細胞は、Cripto陽性、ステラー(Stellar)陽性、Dazl陽性、またはフラジリス(Fragilis)陽性であってもよい。再プログラムされた細胞は、モノクローナル抗体TRA‐1‐60(ATCC HB‐4783)およびTRA‐1‐81(ATCC HB‐4784)の結合特異性を有する抗体と結合する細胞表面抗原を発現することができる。さらに、本明細書で開示されるように、再プログラムされた細胞は、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、20〜25、26〜30、31〜40、41〜50、51〜60、61〜70、71〜80、81〜90、91〜100継代の間、または1年を超える間、支持細胞層なしに維持することができる。
【0084】
再プログラムされた細胞は、線維芽細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、骨格筋、内皮、間質、平滑筋、心筋、神経系細胞、造血細胞、膵島、または実質的に身体のいかなる細胞をも含む種々の系列の非常に様々な細胞型へ分化する潜在能を有することができる。再プログラムされた細胞は、1、2、3、4、5、6〜10、11〜20、21〜30、および30超の系列を含むいかなる数の系列へも分化する潜在能を有することができる。
【0085】
細胞が多能性もしくは多分化能性であることに寄与するいずれの遺伝子も、本発明の方法によって誘発することができ、これらに限定されないが、グリシンN‐メチルトランスフェラーゼ(Gnmt)、オクタマー‐4(Oct4)、Nanog、SRY(性決定領域Y)‐ボックス2(Sox2としても知られる)、Myc、REX‐1(Zfp‐42としても知られる)、インテグリンα‐6、Rox‐1、LIF‐R、TDGF1(CRIPTO)、フラジリス、SALL4(sal‐様4(sal‐like 4))、GABRB3、LEFTB、NR6A1、PODXL、PTEN、白血球由来ケモタキシン1(LECT1)、BUB1、ならびにKlf4およびKlf5などのクルッペル様因子(Klf)が挙げられる。細胞が多能性もしくは多分化能性であることに寄与するいずれの数の遺伝子も本発明の方法によって誘発することができ、これらに限定されないが、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11〜20、21〜30、31〜40、41〜50、および50超の数の遺伝子が挙げられる。
【0086】
さらに、Ramalho−Santos et al.(Science 298,597(2002)),Ivanova et al.(Science 298,601(2002))、およびFortunel et al.(Science 302,393b(2003))は、各々、3種類の幹細胞を比較し、共通して発現された「幹細胞性」遺伝子のリストを明らかにして、これらが幹細胞への機能的特徴の付与に重要であることを提言した(上記で引用した文献はすべてその全体が参照することで組み入れられる)。上述の研究で識別されたいずれの遺伝子も、本発明の方法で誘発することができる。幹細胞への機能的特徴の付与に関与していると考えられる遺伝子のリストを表IIに示す。表IIに挙げた遺伝子に加えて、既知の遺伝子との相同性がほとんどもしくはまったくない93の発現配列タグ(EST)クラスターも、Ramalho−Santos et al.およびIvanova et al.によって識別されており、これらは、本発明の方法の範囲内に含まれる。
【0087】
【0088】
本発明の態様はまた、本明細書で開示される方法に従って作製された再プログラムされた細胞を用いた種々の疾患の治療方法も含む。当業者であれば、本明細書で提供される開示事項に基づいて、心疾患、糖尿病、皮膚疾患および皮膚移植、脊髄損傷、パーキンソン病、多発性硬化症、およびアルツハイマー病などを含むがこれらに限定されない非常に多くの疾患の治療において再生医療の持つ価値および可能性が理解されるであろう。本発明は、損傷を受けていない新しい細胞の導入が何らかの形での治療的軽減をもたらす場合に、疾患を治療するためにヒトを含む動物へ再プログラムされた細胞を投与するための方法を包含する。
【0089】
当業者であれば、再プログラムされた細胞は、ニューロンを例とする再分化した細胞として動物へ投与することができ、動物中の疾患または損傷ニューロンとの置換に有用であることは容易に理解されるであろう。さらに、再プログラムされた細胞は、動物へ投与することができ、周囲環境からのシグナルおよび指令(cues)を受けると、近隣の細胞環境によって決定される所望の細胞型へと再分化することができる。別の選択肢として、この細胞はインビトロで再分化することができ、この分化細胞を、それを必要とする哺乳類へ投与することができる。
【0090】
再プログラムされた細胞は、移植用に作製して、インビボ環境中で長期間生存することを確実にすることができる。例えば、細胞の成長、維持のための前駆細胞用培地(progenitor medium)などの適切な培地中で細胞を増殖させ、コンフルーエントまで成長させることができる。この細胞を、例えば、0.05%のトリプシンを含有して1mg/mlのグルコース;0.1mg/mlのMgCl2、0.1mg/mlのCaCl2が添加されたリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(完全PBS)に5%血清を加えてトリプシンを不活性化したものなどの緩衝溶液を用いて、培養基材から取り出す。この細胞は、遠心分離を用いてPBSで洗浄してよく、次にトリプシンを含まない完全PBS中へ選択された密度で再懸濁させて注射液とする。
【0091】
腹膜投与に適する医薬組成物の製剤は、滅菌水または滅菌等張生理食塩水などの薬理学的に許容されるキャリアと組み合わせられた活性成分を含む。そのような製剤は、ボーラス投与もしくは連続投与に適する形態で作製、パッケージ、または販売することができる。注射用製剤は、アンプル、もしくは保存剤を含有するマルチドーズ容器(multi−dose containers)などに入った単位剤形として作製、パッケージ、または販売することができる。腹膜投与用の製剤としては、これらに限定されないが、懸濁液、溶液、油性もしくは水性媒体中のエマルジョン、ペースト、および埋め込み型の徐放性もしくは生分解性製剤が挙げられる。そのような製剤は、懸濁剤、安定化剤、または分散剤を含むがこれらに限定されない1もしくは2つ以上の追加の成分をさらに含んでいてよい。
【0092】
本発明はまた、その他の治療手順と組み合わせて再プログラムされた細胞を移植することによって、CNS、PNS、皮膚、肝臓、腎臓、心臓、および膵臓などを含む身体の疾患または外傷を治療することも包含する。従って、本発明の再プログラムされた細胞は、副腎からのクロマフィン細胞、胎児脳組織細胞、および胎盤細胞など、遺伝子組換え細胞および非遺伝子組換え細胞のいずれであっても、患者に有益な効果をもたらすその他の細胞と共に移植してよい。従って、本明細書で提供される教示事項を身につけた当業者であれば理解されるように、本明細書で開示される方法は、その他の治療手順と組み合わせることができる。
【0093】
本発明の再プログラムされた細胞は、各々が参照することで本明細書に組み入れられる米国特許第5,082,670号および同第5,618,531号に記載のものなど本技術分野で公知の技術を用いて、患者へ、または身体の他の適切ないずれの部位へも「単独で(naked)」移植することができる。
【0094】
再プログラムされた細胞は、単一の細胞を含む混合物/溶液として、または細胞凝集体の懸濁液を含む溶液として移植することができる。そのような凝集体は、直径がおよそ10〜500マイクロメートル、より好ましくは直径が約40〜50マイクロメートルであってよい。再プログラムされた細胞の凝集体は、一粒子あたり約5〜100個、より好ましくは約5〜20個の細胞を含んでいてよい。移植された細胞の密度は、マイクロリットルあたり約10,000から1,000,000個の細胞、より好ましくはマイクロリットルあたり約25,000から500,000個の細胞の範囲であってよい。
【0095】
本発明の再プログラムされた細胞の移植は、本技術分野で公知の技術、ならびに将来開発される技術を用いて達成することができる。本発明は、動物、好ましくはヒトへの再プログラムされた細胞の移植(transplanting)、移植(grafting)、注入(infusing)、またはそれ以外の導入を行うための方法を含む。
【0096】
再プログラムされた細胞はまた、マイクロカプセル化(例えば、参照することで本明細書に組み入れられる米国特許第4,352,883号;同第4,353,888号;および同第5,084,350号参照)、またはマクロカプセル化(例えば、すべて参照することで本明細書に組み入れられる米国特許第5,284,761号;同第5,158,881号;同第4,976,859号;および同第4,968,733号;ならびに国際公開第92/19195号;同第95/05452号参照)を含む公知のカプセル化技術に従ってカプセル化し、生物活性分子の送達に用いることもできる。マクロカプセル化に関しては、デバイス内の細胞数は様々であってよく;好ましくは各デバイスが103〜109個の細胞を含有し、最も好ましくは約105から107個の細胞である。複数のマクロカプセル化デバイスを患者内に埋め込むことができる。細胞のマクロカプセル化および埋め込みの方法は、本技術分野で公知であり、例えば、米国特許第6,498,018号に記載されている。
【0097】
本発明の再プログラムされた細胞はまた、これらを用いて、治療目的のために、またはこれらの患者組織内での一体化および分化を追跡する方法のために、外来性タンパク質または分子を発現させることもできる。従って、本発明は、発現ベクター、ならびに外来性DNAを再プログラムされた細胞に導入し、同時にこの外来性DNAを再プログラムされた細胞内で発現させるための方法を包含し、例えば、Sambrook et al.(1989,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)、およびAusubel et al.(1997,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,New York)に記載のものなどである。
【0098】
本発明の態様はまた、本発明の方法によって作製された細胞を含む組成物にも関する。別の態様では、本発明は、転写抑制に関与するタンパク質をコードする少なくとも1つの遺伝子の発現を阻害することによって再プログラムされた細胞を含む組成物に関する。さらに別の態様では、本発明は、細胞が多能性もしくは多分化能性であることに寄与する少なくとも1つの遺伝子の発現を誘発することによって再プログラムされた細胞を含む組成物に関する。
【0099】
本発明の態様はまた、細胞を、転写抑制に関与する少なくとも1つの遺伝子に対して指向される少なくとも1つのshRNAまたはshRNAmirと接触させることによって作製された再プログラムされた細胞にも関する。
【0100】
本発明の態様はまた、本発明の方法および組成物を作製するためのキットにも関する。このキットは、中でも、細胞の再プログラミングによる作製ならびにES様細胞および幹細胞様細胞の作製、細胞が多能性もしくは多分化能性であることに寄与する遺伝子の発現の誘発、ならびに転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現の阻害、に用いることができる。このキットは、転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子に対して指向される少なくとも1つのshRNAまたはshRNAmirを含んでよい。このキットは、複数のshRNAもしくはshRNAmirの配列またはコンストラクトを含んでよい。shRNAもしくはshRNAmirコンストラクトは、単一の容器内でも、または複数の容器内で提供されてもよい。
【0101】
キットはまた、細胞が再プログラムされたかどうかを判定するために必要である試薬も含んでよく、これらに限定されないが、細胞が多能性もしくは多分化能性であることに寄与する遺伝子の誘発を試験するための試薬、転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の阻害を試験するための試薬、およびクロマチン構造のリモデリングを試験するための試薬が挙げられる。
【0102】
キットはまた、再プログラムされた細胞を、ニューロン、骨芽細胞、筋肉細胞、上皮細胞、および肝細胞が挙げられるがこれらに限定されない特定の系列または複数の系列へ分化させるために用いることができる試薬も含んでよい。
【0103】
キットはまた、キットに備えられている構成成分の使用について述べる説明資料も含んでいてよい。本明細書で用いる「説明資料」には、中でも分化細胞の再プログラミングを行う際のこのキットにおける本発明の方法の有用性を伝えるために用いることができる、刊行物、記録物、図、またはその他のいかなる表現媒体をも含まれる。所望される場合は含んでよいものとして、または別の選択肢として、説明資料は、本発明の細胞を再分化および/または分化転換する1もしくは2つ以上の方法を説明していてもよい。本発明のキットの説明資料は、例えば、本発明のshRNAもしくはshRNAmirまたはこれらの成分を収容する容器に貼り付けてよい。別の選択肢として、説明資料とshRNAもしくはshRNAmirまたはこれらの成分とを、受取った人が協同的に用いることを意図して、説明資料を容器とは別に発送してもよい。
【0104】
ここで、本発明を以下の実施例を参照して説明する。これらの実施例は、説明のみの目的で提供されるものあり、本発明は、これらの実施例に限定されるものとして解釈されるべきではまったくなく、むしろ、本明細書で提供される教示事項の結果として明らかとなるすべての変形を包含するものと解釈されるべきである。米国特許、許可された米国特許出願、または公開された米国特許出願を含むがこれらに限定されないすべての参考文献は、その全体が参照することで本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0105】
以下の実施例は、説明のためだけのものであり、請求項によって定められる本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0106】
DNAメチル化、ヒストン脱アセチル化、およびヒストンメチル化に寄与するエピジェネティック制御成分のサイレンシングのためのSMARTベクター shRNA‐GFP‐レンチウィルスを(表I参照)、ヒト初代およびBJ線維芽細胞培養物へ導入する。しかし、本発明の方法を用いていかなる制御成分も標的とすることができることは理解されるべきである。主たるエピジェネティック制御成分の単一および相乗的な効果を、shRNAを単独で、ならびに2、3、4、および5を含むがこれらに限定されない組み合わせで導入することによって試験する。ピューロマイシンに基づく選別の後、標的shRNAを構成的に発現する細胞を回収し、定量的リアルタイムRT‐PCRにより標的遺伝子のサイレンシングを確認する。
【0107】
方法
細胞培養: ヒト初代線維芽細胞(継代1)、およびヒトBJ線維芽細胞は、それぞれ、セルアプリケーションズ(Cell Applications,Inc.)(サンディエゴ,カリフォルニア州)、およびアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection)(マナサス,バージニア州)より購入し、10%ウシ胎仔血清(FBS、Hyclone)ならびに0.5%ペニシリンおよびストレプトマイシンを含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Hyclone)中にて、37℃、湿度95%、および5%CO2にて維持する。細胞を成長させ、トリプシン処理し、カウントし、次に上記の標準成長培地中に希釈して、shRNAを導入する前に適切な播種密度を得る。
【0108】
shRNAレンチウィルスの作製および感染: 表Iに概略を示した成分の不活性化のための高タイター(High tittered)SMARTベクターshRNAレンチウィルス(≧108トランスフェクションユニット/ml)は、ダーマコン(サーモフィッシャーサイエンティフィック,www.dharmacon.com)より入手する。ダーマコンからの高機能長期遺伝子サイレンシング技術(highly functional long−term gene silencing technology)を利用し、これは、記載の緑色蛍光タンパク質(turboGFP(商標))可視化およびピューロマイシン選別用に設計されている。shRNAレンチウィルス感染の前日に、ヒト線維芽細胞を2×105細胞/mlの密度で播種する。翌日、培地を、3ug/mlのポリブレン(Sigma)およびSMARTベクターshRNAレンチウィルス(25MOI)を含有する予め加温した培地に置換する。感染の18時間後に培地を新しい培地に置換し、蛍光顕微鏡法によってTurboGFP発現について細胞を評価し、感染効率を測定する。感染の3日後、ピューロマイシンを培地へ添加し、ピューロマイシン選別を開始する。選別された細胞を回収し、定量的リアルタイムRT‐PCRを用いて遺伝子発現レベルを測定することにより、標的遺伝子のサイレンシングを確認する。
【0109】
定量的RT‐PCR: shRNAが標的とする遺伝子の発現は、リアルタイムRT‐PCRによって定量する。簡潔に述べると、トリゾール試薬(ライフテクノロジー(Life Technology))およびRNeasyミニキット(キアゲン(Qiagen))を用い、製造元のプロトコルに従うデオキシリボヌクレアーゼI消化により、培養物から全RNAを調製する。各サンプルからの全RNA(1μg)をオリゴ(dT)プライムド逆転写(oligo(dT)−primed reverse transcription)(インビトロジェン)にかける。PCRマスターミックスを用い、7300リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステム)上にてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルに対して、PCR反応におけるテンプレートとして1μlの希釈cDNA(1:10)を添加する。発現レベルを、シクロフィリンに対して、未処理のコントロール細胞における発現と比較する。
【0110】
抑制複合体内の成分の発現を阻害するshRNA配列およびコンストラクトを識別する。上述の方法を用いて、shRNA配列およびコンストラクトの様々な組み合わせを試験し、最適化することができる。さらに、shRNAmir配列およびコンストラクトを用いることもできる。shRNAライブラリおよびshRNAmirライブラリを用いて、抑制複合体内の成分の発現を阻害する配列をスクリーニングすることができる。
【実施例2】
【0111】
多能性遺伝子は、DNAメチル化、ヒストン脱アセチル化、およびヒストンメチル化に寄与するタンパク質を含むがこれらに限定されない抑制エピジェネティック制御成分(repressive epigenetic regulatory components)により、体細胞内にて転写サイレンシングを受ける。shRNAによってこれらの成分を阻害し、DNA脱メチル化、ヒストンアセチル化、およびヒストン脱メチル化を誘発することにより、クロマチン構造を変化させ、多能性遺伝子の転写を可能とすることができる。
【0112】
実施例1で識別されたものなどのエピジェネティック抑制複合体標的を、クロマチン修飾について分析する。さらに、構成的に標的shRNAを発現し、標的遺伝子発現の著しいノックダウンまたはサイレンシングを示すヒト体細胞を、多能性遺伝子の上方制御について分析する。
【0113】
以下で概説する方法を用いて、全体の、そして多能性転写物特異的(pluripotency transcript−specific)なDNA脱メチル化、ヒストンアセチル化、および/またはヒストン脱メチル化を、未処理コントロール細胞と比較して確認する。さらに、定量的リアルタイムRT‐PCRを用いて、多能性遺伝子、Oct4、Nanog、およびSox2(およびその他の幹細胞性関連遺伝子)に対する発現の上方制御を、未処理コントロール細胞および連邦政府認可の(federally−approved)ヒト胚性幹細胞と比較して確認する。
【0114】
全体のDNAメチル化、ヒストンアセチル化、およびヒストンメチル化の定量: 全体のDNAメチル化、ヒストンアセチル化、およびヒストンメチル化のレベルを、それぞれ、エピジェンテック(Epigentek)(ブルックリン,ニューヨーク州)のMethylamp(商標)全体DNAメチル化定量(Global DNA Methylation Quantification)、EpiQuick(商標)全体ヒストンアセチル化(Global Histone Acetylation)、およびEpiQuick(商標)全体ヒストンメチル化(Global Histone Methylation)アッセイキットにより定量する。簡潔に述べると、5‐メチルシトシンのレベルの測定のために、細胞培養物からのゲノムDNA(200ng)を、37℃で2時間、続いて60℃で30分間インキュベートすることによってアッセイウェル上に固定化し、次に、ブロッキングバッファーを添加することによってブロックする。DNAメチル化の量は、高親和性メチルシトシン抗体およびHRP結合二次抗体をそれぞれ製造元のプロトコルに従って用いたELISAに基づく反応からのOD強度によって測定する。
【0115】
全体のヒストンアセチル化のレベルの測定のためには、抽出したヒストンを、製造元のプロトコルに従ってアッセイウェル上に安定にスポットする。アセチル化ヒストンH3またはH4に対する抗体と共にインキュベートした後、アセチル化ヒストンの量を、HRP結合二次抗体発色により、ELISAリーダー(BioRad,ハーキュリーズ,カリフォルニア州)上で定量する。
【0116】
全体のヒストンH3‐K27メチル化レベルの測定のためには、抽出したヒストンタンパク質を、製造元のプロトコルに従ってアッセイストリップウェル上に安定にスポットする。メチル化H3‐K27に特異的な抗体と共にインキュベートした後、メチル化H3‐K27の量を、HRP結合二次抗体発色により、ELISAリーダー(バイオラッド(BioRad),ハーキュリーズ,カリフォルニア州)上で定量する。
【0117】
転写物特異的メチル化の重亜硫酸塩シークエンシング分析: 多能性遺伝子プロモーターのメチル化を、重亜硫酸塩シークエンシングによって分析する。簡潔に述べると、DNAを、フェノール クロロホルム‐イソアミルアルコール抽出によって精製する。重亜硫酸塩による変換は、製造元のプロトコルに従ってEZ DNAメチル化キット(ザイモリサーチ(Zymo Research))を用いて行い;非CpGジヌクレオチドの全シトシンのウラシルへの変換率は100%である。変換されたDNAは、ヒトOct3/4、Nanog、およびSOX2に対するプライマーを用いたPCRによって増幅する。PCR産物を、TOPO TAクローン化キット(インビトロジェン,カールスバッド,カリフォルニア州)により大腸菌内へクローン化する。各サンプルの10個のクローンを、SP6およびおT7プライマーによるシークエンシングによって確認する。対象である各プロモーターに対する全体のメチル化パーセント、および任意のCpGに対するメチル化シトシンの数を、対応t検定を用いて細胞集団間で比較する。
【0118】
ヒストン修飾のQ2ChIP分析: クロマチン免疫沈降を、実質的にDahl and Collas(Stem Cells:25(4):1037−46,2007)の記載に従って行う。多能性遺伝子の5’制御領域上でのヒストンH3修飾における変化を、Q2ChIPを用いてモニタリングする。簡潔に述べると、抗体‐ビーズ複合体を作製するために、常磁性ビーズ(Dynabeads protein A;ダイナルバイオテック(Dynal Biotech),オスロ,ノルウェー)を放射性免疫沈降アッセイ(RIPA)バッファーで洗浄し、その後RIPAバッファー中に再懸濁させる。2.4μgの一次抗体を含有するRIPAバッファーへビーズを添加し、次に4℃で2時間、ローテーター上にてインキュベートする。DNA‐タンパク質架橋のために、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤である酪酸ナトリウム20mMを回収の直前に細胞へ添加する(およびその後のすべての溶液へ)。細胞は、1〜2×106細胞/mlにて、1%ホルムアルデヒドにより懸濁液中で固定する。架橋された細胞をPBS/20mM酪酸塩中で洗浄し、酪酸塩を含有する溶解バッファー中に溶解する。アリコートを超音波処理して約500塩基対のクロマチンフラグメントを作製する。ライセートを沈澱させ、上清を回収し、希釈アリコートからA260によりクロマチン濃度を測定する。RIPAバッファー/酪酸塩中のクロマチンを、抗体‐ビーズ複合体(上記参照)を収容したチューブへ移し、このサンプルを上記のようにしてインキュベートする。免疫複合体をRIPAバッファー中にて、次にTEバッファー中にて洗浄する。このChIP物を、1%SDSおよび50μg/mlプロテイナーゼKを含有する溶離バッファー中でインキュベートし、1300rpmのサーモミキサー上にて、68℃で2時間インキュベートする。溶離バッファーを回収し、ChIP物を再抽出し、両方の上清をプールする。DNAを、フェノール‐クロロフォルム イソアミルアルコールで1回、クロロフォルム イソアミルアルコールで1回抽出し、次にエタノールで沈澱させる。免疫沈降DNAを、5μlのDNAから開始するリアルタイムPCRにより、3つの反復サンプルで分析する。
【0119】
多能性遺伝子発現分析のための定量的RT‐PCR: Oct4、Nanog、SOX2、グリシンN‐メチルトランスフェラーゼ(Gnmt)、REX‐1(Zfp‐42としても知られる)、インテグリンα‐6、Rox‐1、LIF‐R、TDGF1(CRIPTO)、SALL4(sal‐様4)、LECT1、BUB1、Klf4、およびKlf5などの多能性遺伝子の発現を、リアルタイムRT‐PCRによって定量する。発現レベルを、シクロフィリンに対して、未処理のコントロール細胞および連邦政府認可のヒト胚性幹細胞(ATCC)における発現と比較する。
【0120】
Taqman低密度アレイ分析(TLDA): 胚性幹細胞および発生遺伝子を含むTLDAを用いて定量的リアルタイムRT‐PCRを行い、多能性およびその他の幹細胞性関連遺伝子に対する相対発現レベルを定量する。90の胚性幹細胞および発生遺伝子、ならびに6の内在性コントロール遺伝子を含むアプライドバイオシステムズ ヒト胚Taqman(商標)低密度アレイ(ヒト胚TLDA)を用いて定量的リアルタイムRT‐PCRを行う。簡潔に述べると、ABIハイキャパシティcDNA逆転写キット(アプライドバイオシステムズ,フォスターシティ,カリフォルニア州)を用いたRNAの逆転写に続いて、50μlのヌクレアーゼフリー水および50μlのABIユニバーサルTaqman2XPCRマスターミックス中のサンプルcDNA150ngをヒト胚TLDAマイクロ流体カードの各ポートにピペッティングし、ABI 7900HTファストリアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ,フォスターシティ,カリフォルニア州)上にて分析する。ΔΔCT法を用いて、未処理のコントロール細胞および連邦政府認可のヒト胚性幹細胞と比較した、処理細胞中での遺伝子発現レベルの相対量(変化の倍率数)を算出する。
【0121】
ウェスタンブロッティング: 多能性遺伝子発現の翻訳は、タンパク質発現に対するウェスタンブロットによって確認する。簡潔に述べると、プロテアーゼ阻害剤カクテルを添加したRIPAバッファー(シグマ,セントルイス,ミズーリ州)を細胞培養物へ加えることによって、全細胞ライセートを調製する。アブカム(ケンブリッジ,マサチューセッツ州)からのMEL‐1 hES細胞ライセートをポジティブコントロールとして用いる。細胞ライセート(50μg)を電気泳動で分離し、PVDF膜(Millipore,ビルリカ,マサチューセッツ州)へ移す。ブロットをブロッキングバッファー(リコーバイオサイエンス(Licor Bioscience),リンカン,ネブラスカ州)で1時間ブロックし、洗浄し、一次抗体と共に4℃にて一晩インキュベートする。Odysseyイメージングシステム(リコーバイオサイエンス,リンカン,ネブラスカ州)を用い、IRDye800(商標)またはCy5.5(ロックランド,フィラデルフィア,ペンシルベニア州)などの蛍光標識二次抗体により、製造元のプロトコルに従ってバンドを可視化する。ウェスタンブロッティング用の抗体は、複数の製造元から入手する:Oct3/4(サンタクルーズバイオテクノロジー,サンタクルーズ,カリフォルニア州);Sox2(ケミコン,テメキュラ,カリフォルニア州);β‐アクチン、ローディングコントロール(BDバイオサイエンスイズ(BD Biosciences),サンノゼ,カリフォルニア州);Alexa結合抗マウスおよびヤギIgG(Molecular Probes,インビトロジェン,カールスバッド,カリフォルニア州);IRDye800(商標)結合抗ウサギIgG(ロックランド,フィラデルフィア,ペンシルベニア州);およびNanog(R&Dシステムズ,ミネアポリス,ミネソタ州)。
【実施例3】
【0122】
抑制エピジェネティック標的は、ヒトES細胞培養条件下でのコロニーユニット形成能、ならびに、多能性遺伝子(すなわち、Oct4、Nanog、Sox2、および/またはその他の幹細胞性関連遺伝子)の上方制御を示す標的shRNAを構成的に発現するピューロマイシン選別されたヒト体細胞中におけるインビトロおよびインビボでの分化能を評価することによって分析する。これを達成するために、ヒト(ES)細胞培養条件下にて細胞を培養し、胚性幹細胞様コロニー形成を定量する。次に細胞を回収し、以下に概説するカクテルを用いて、複数の系列への指向されたインビトロでの分化を行う。さらに、コロニー細胞を免疫欠損ヌードマウスへ注射し、インビボでのテラトーマ形成能を評価する。記載のようにして評価した表現型を、未処理のコントロール細胞および連邦政府認可のヒト胚性幹細胞と比較する。
【0123】
コロニーユニット形成のためのヒトES細胞培養: 抑制複合体の成分へ指向されるshRNAを構成的に発現しピューロマイシン選別された体細胞を、4ng/mlのbFGFを含有するヒトES細胞用培地中(hESC培地;インビトロジェン,カールスバッド,カリフォルニア州)で樹立し、維持する。マウス胚性線維芽細胞(MEF、CF1株)をATCC(マナサス,バージニア州)より購入し、10μg/mlのマイトマイシンC(ロシェ,バーゼル,スイス)で処理することによって有糸分裂の不活性化を行う。これらの細胞の播種の直前に、MEFをPBSで2回洗浄する。継代可能な状態となるまで細胞を毎日供給し、それはコロニーのサイズおよび数によって判定される。細胞の継代を行うには、PBSで細胞を2回洗浄し、フィルター滅菌したDMEM/F12中の1mg/mlのコラゲナーゼIVと共に10分間インキュベートする。コロニーが遊離を始めたところでこれを回収し、適切な体積の培地で洗浄する。細胞の継代は、4日から7日ごとに1:3から1:6の比率で行う。
【0124】
インビトロでの指向された分化:
1.ニューロン/グリア分化: ニューロン分化を誘発するために、本技術分野で公知の誘発剤のカクテルに処理細胞を接触させる。簡潔に述べると、第2〜5継代を例とする継代からの脱分化細胞を80%コンフルーエンスまで成長させ、PBSで素早く洗浄した後、ニューロン誘発培地(neuronal induction media)(NIM)を添加する。NIMは、ブチル化ヒドロキシアニソール(200μM)、KCL(5nM)、バルプロ酸(2mM)、ホルスコリン(10μM)、ヒドロコルチゾン(1μM)、およびインスリン(5μg/ml)を添加した血清を含まないアルファ‐MEMから構成される。実験は、ニューロン誘発培地への接触後5時間から15日間以内に行う。
【0125】
ニューロン分化アッセイ:
A.生存率アッセイ: 脱分化細胞の生存率を測定するために、ニューロン誘発培地への接触後、色素排除アッセイを用いる。誘発後の1〜5日間の毎日の時間点にて、ヘキスト色素(200μg/ml)(インタージェン(Intergen);パーチェス,ニューヨーク州)を培養中の細胞へ添加する。ニューロン誘発細胞との比較のために、コントロール培地で成長した細胞の生存率を測定する。生存率は、位相顕微鏡法を用いて、重ならないフィールド、例えば3つの重ならないフィールドで生存細胞をカウントすることで測定する。コントロール細胞と誘発細胞との間の違いを、スチューデントt検定を用いて比較する。これは、すべての分化誘発処理に対する標準となるアッセイである。
【0126】
B.NMDA誘発興奮毒性アッセイ: 脱メチル化細胞のグルタミン酸アンタゴニストN‐メチル‐D‐アスパラギン酸(NMDA)に対する反応を測定するために、細胞生存率に対するNMDAの影響を定量する。細胞培養物の3つの反復サンプルをコントロールまたは誘発培地中にて24時間成長させる。この細胞を500〜1000μMのNMDAに30分間接触させる。コントロールとして、細胞の1つのグループを1000μMのNMDAおよびNMDAアンタゴニスト、ジゾシルピン(MK‐801)(10μM)の両方に30分間接触させる。細胞の生存率の測定は、NMDAとの接触後、細胞をヘキスト色素と共にインキュベートし、位相顕微鏡法を用いて、重ならないフィールド、例えば3つの重ならないフィールドで生存細胞をカウントすることで行い、測定値は±SDとして表す。
【0127】
C.免疫細胞化学分析: 表現型を決定するために、細胞をコントロールまたは誘発条件下にて、チャンバースライド(ラブテック(LabTek),ナパービル,イリノイ州)上で成長させる。ニューロン誘発後の種々の時間点にて(5時間から15日間)、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定する。固定後、細胞を以下に示すニューロンおよびグリア細胞のマーカーに対して指向される特異的モノクローナル抗体と共にインキュベートする:ネスチン、GFAP、S‐100、NeuN、MAP2、β‐チューブリンIII、タウ、NMDAR‐1、g‐アミノ酪酸(GABA)、5HTP、TH、DDC、GAP‐43、シナプシンI、パンα‐1(pan α−1)電位開口型カルシウムチャネル(すべてケミコン(Chemicon,Inc.);テメキュラ,カリフォルニア州、より入手)、およびNMDAR‐2(サンタクルーズバイオテクノロジー)。すべての抗体と共にABC増幅キット(ベクターラボラトリーズ(Vector Laboratories),バーリンゲーム,カリフォルニア州、およびサンタクルーズバイオテクノロジー)を用いる。NeuNおよびGFAP、またはMAP2およびタウの共発現を識別するために、細胞を各抗体と共に順にインキュベートする。テキサスレッドおよびフルオレセインアビジン(ベクターラボラトリーズおよびサンタクルーズバイオテクノロジー)と共にアビジン/ビオチンブロッキングキットを用いて抗体の標識を行う。ニューロン誘発後の1〜15日の間の時間点にて、明視野および位相差顕微鏡法を用いてモルフォロジーを調べ、撮影する。少なくとも3つの異なる実験からの培養物を用い、ランダムな重ならない視野における視野ごとの陽性細胞のパーセントを2人の別々の研究員がカウントする。
【0128】
ウェスタンブロット: ニューロン誘発後のタンパク質発現を確認するために、コントロールおよび実験条件下で成長させた細胞をニューロン誘発後の1〜15日に回収し、実質的には上述のものと同じ手順に従ってウェスタンブロット分析を行う。マウス脳抽出物をポジティブコントロールとして、アクチンを内部コントロールのタンパク質として用いる。
【0129】
リアルタイムTaqMan RT‐PCR: さらに、ネスチン、中間径フィラメントMおよびNeu N、S‐100、MAP2、β‐IIIチューブリン、ならびにグルタミン酸受容体サブユニットNR‐1およびNR‐2などのニューロン関連マーカーを、実質的に既述のようにしてリアルタイムTaqmanPCRによりスクリーニングする。
【0130】
2.骨形成分化: 脱メチル化細胞が骨芽細胞様細胞へ分化する能力を測定するために、コンフルーエントな細胞(コントロールおよび実験用)を、10% FBS、200μM アスコルビン酸‐2‐リン酸、100nM デキサメタゾン、7mM β‐グリセロリン酸、および1nM 1α,25‐ジヒドロキシビタミンD3を添加したDMEM‐F12中にて20日間成長させる。インキュベーション後、細胞は細胞外マトリックスのインビトロでのミネラル化の証拠を示し始め、表現型と関連する遺伝子およびタンパク質を発現する。アルファ1(I)‐プロコラーゲン、オステオカルシン、オステオポンチン、骨シアロタンパク質、ALP、およびcbfa1を含むがこれらに限定されない骨形成分化を示すマーカーを、実質的に既述の方法を用いてリアルタイムTaqManPCRおよび免疫化学分析によって評価する。さらに、細胞を10%緩衝ホルマリン中にて固定し、Sigma診断キット85を製造元のプロトコル(シグマ,セントルイス,ミズーリ州)に従って用いてアルカリホスファターゼ組織化学分析を行い、骨芽細胞を検出する。
【0131】
3.筋分化: コントロールおよび実験細胞の筋肉様系列への分化を、10%ウマ血清添加DMEM‐F12で誘発する。筋マーカーであるMyoD、ミオゲニン、トロポニンT、タイチン、およびミオシンを、実質的に既述の方法を用いて評価する。
【0132】
4.肝分化: 肝分化は、Talens−Visconti et al.(World J Gastroenterol.,Sep 28;12(36):5834−45,2006)に記載のように、成長因子およびサイトカインを順に添加する2段階プロトコルを用いて実施する。簡潔に述べると、肝分化の誘発の前に、細胞(85%コンフルーエンス)を、20ng/ml EGFおよび10ng/ml bFGFを添加した血清除去DMEM中で培養して細胞の増殖を停止させる。2日後、以下に示すように2段階分化プロトコルを実施する:ステップ1として、20ng/ml HGF、10ng/ml bFGF、および4.9μM/L ニコチンアミドを添加したDMEMから成る分化培地で7日間、続いてステップ2として、20ng/ml オンコスタチンM(OMS)、1μM/L デキサメタゾン、および10μL/ml インスリン/トランスフェリン/セレニウム(ITS、シグマ,セントルイス,ミズーリ州)+プレミックス(最終濃度:100μM/L インスリン、6.25μg/ml トランスフェリン、3.6μM/L 亜セレン酸、1.25mg/ml BSA、および190μM/L リノール酸)を添加したDMEMから成る分化培地で細胞を成熟させるために最大21日間。培地は週2回交換し、肝分化は、肝関連遺伝子(C/EBP、HNF4、CYP3A4)に対するRT‐PCRにより既述のようにして評価する。
【0133】
インビボでのテラトーマ形成: 標的shRNAを構成的に発現するピューロマイシン選別されたヒト体細胞から樹立されるコロニー細胞、未処理のコントロール細胞、および連邦政府認可のヒトES細胞を、250μlの滅菌BDマトリゲル(BDバイオサイエンスイズ,サンノゼ,カリフォルニア州)中へおよそ1000万細胞/mlの濃度で再懸濁させ、6週齢のメス免疫欠損胸腺欠損ヌードマウス(チャールズリバー(Charles River);25体/グループ)へ注射し;マウスのさらなるサブセットにマトリゲルのみを注射して媒体コントロールグループとする。イソフルラン麻酔下の間に、通常の皮下挿入の後に針先を右左に動かして皮下ポケットを形成することでマウスに細胞懸濁液を注射し、次に、製造元の推奨事項に従ってマトリゲル細胞懸濁液をこのポケットへ注射する。注射部位は定期的に検査し、注射後2、4、6、8、および12週にて、各グループから5体のマウスを安楽死させる。安楽死の後、注射部位およびいずれの明らかな集合体(masses)をも切開し、固定して組織学的検査を施し、系列特異的および組織特異的染色によって明示される複数の分化細胞型ならびに系列特異的組織を含有するテラトーマを確認する。
【0134】
培養物中の細胞では、1〜5%、5〜10%、10〜20%、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、70〜80%、80〜90%、90〜95%、および95〜100%を含むがこれらに限定されない割合を多能性細胞が占めていてよい。培養物中の細胞では、1〜5%、5〜10%、10〜20%、20〜30%、30〜40%、40〜50%、50〜60%、60〜70%、70〜80%、80〜90%、90〜95%、および95〜100%を含むがこれらに限定されない割合を多分化能性細胞が占めていてよい。培養物中の細胞は、様々な細胞集団であってよく、これらに限定されないが、多能性細胞、多分化能性細胞、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11〜20、21〜30、および30超の系列へ分化する能力を有する細胞が挙げられる。多能性もしくは多分化能性と関連する細胞表面マーカーの発現に基づいて細胞を分離するFACSを用いたプロトコルにより、その潜在能が回復している細胞を濃縮することができる。
【0135】
ある態様では、本明細書の方法を用いて、抑制エピジェネティック標的を識別することができる。さらに別の態様では、タンパク質を例とする抑制エピジェネティック成分の阻害により、DNA脱メチル化、ヒストンアセチル化、および/またはヒストン脱メチル化を含むがこれらに限定されないエピジェネティック変化を誘発し、細胞が再分化する能力を有するすべての系列の識別へ繋げることができる。さらに別の態様では、本明細書で述べる方法は、クロマチン構造の修飾を可能とし、体細胞への潜在的分化能を回復させることができる。
【実施例4】
【0136】
DNMT1へ指向されるshRNAコンストラクトを分析して、多能性遺伝子の発現に対するその影響を測定した。この実験では、shRNAをDNAメチルトランスフェラーゼへ指向させたが、少なくとも1つの遺伝子の発現を上昇させるものであればいかなるshRNAコンストラクトをも用いることができる。
【0137】
方法
細胞培養: ヒト成人皮膚線維芽細胞をセルアプリケーションズ(サンディエゴ,カリフォルニア州)から購入し、線維芽細胞成長培地(セルアプリケーションズ,サンディエゴ,カリフォルニア州)中、37℃、湿度95%、5%CO2にて維持した。
【0138】
レンチウィルス感染: ヒト成人皮膚線維芽細胞を、DNMT1に指向されたshRNAレンチウィルスで感染させた。レンチウィルスコンストラクトは、ターボGFPレポーターを含有していた。shRNAコンストラクトは、ダーマコンより入手し、以下の配列を有していた:
配列番号1:GTCTACCAGATCTTCGATA
【0139】
ヒト皮膚線維芽細胞を、製造元の説明書に従ってshRNAに感染させた。HDFは、ピューロマイシン選別およびhES培養条件(mTeSR培地、ステムセルテクノロジー(Stem Cell Technology),バンクーバー,ブリティッシュコロンビア州,カナダ)有りならびに無しにてマトリゲル(BDバイオサイエンスイズ,サンノゼ,カリフォルニア州)上で培養した。
【0140】
定量的RT‐PCR: Oct‐4およびDNMT1の発現を、リアルタイムRT‐PCRで測定した。簡潔に述べると、トリゾール試薬(ライフテクノロジー,ゲイサーズバーグ,メリーランド州)およびRNeasyミニキット(キアゲン;バレンシア,カリフォルニア州)を用い、製造元のプロトコルに従うデオキシリボヌクレアーゼI消化により、培養物から全RNAを調製した。各サンプルからの全RNA(1μg)をオリゴ(dT)プライムド逆転写(インビトロジェン;カールスバッド,カリフォルニア州)にかけた。PCRマスターミックスを用い、7300リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ;フォスターシティ,カリフォルニア州)上にてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルに対して、PCR反応におけるテンプレートとして1μlの希釈cDNA(1:10)を添加する。Oct‐4およびDNMT1の発現レベルを、グリセルアルデヒド‐3‐リン酸‐デヒドロゲナーゼ(GAPD)に対して標準化した。
【0141】
免疫組織化学分析: 免疫組織化学分析に関しては、標的shRNA感染細胞およびコントロール細胞をチャンバースライド(ラブテック,ナパービル,イリノイ州)上で成長させた。次に、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、製造元のプロトコルに従って、多能性マーカー(Oct3/4、Nanog、Sox2、およびSSEA4、アブカム,ケンブリッジ,マサチューセッツ州より)に対して指向された特異的抗体と共にインキュベートした。細胞は緑色蛍光で顕微鏡観察した(ニコン,東京,日本)。
【0142】
結果
図1Aに示すように、Oct‐4の発現は、DNMT1 shRNAを感染させたHDFにおいて増加した。逆に、DNMT1の発現は、DNMT1 shRNAを感染させたHDFにおいて減少した。Oct‐4の発現の増加のピークは、トランスフェクションの5日後であると思われる。
【0143】
図1Bは、DNMT1 shRNAを感染させ、ピューロマイシンの存在下で培養したHDFからのデータを示す。Oct‐4の発現は増加し、実験の期間中維持された。DNMT1の発現は、DNMT1 shRNAの存在下で減少した。
【0144】
コロニー中でのターボGFP、Oct4、Sox‐2、およびSSEA4の発現は、特異的抗体および緑色蛍光顕微鏡観察を用いた免疫組織学的分析によって可視化した。図2Aは、DNMT1のshRNAノックダウン後に形成された胚様体の写真である。図2Bは、図2Aに示す胚様体内に存在する細胞内におけるGFP局在化を示す写真であり、レンチウィルス感染が確認される。図2Cは、DNMT1のshRNAノックダウン後に形成された胚様体の写真である。図2Dは、図2Cに示す胚様体内におけるDNMT1のshRNAノックダウンによって誘発されたSox2タンパク質の発現を示す写真である。図2Eは、DNMT1のshRNAノックダウン後に形成された胚様体の写真である。図2Fは、図2Eに示す胚様体内におけるDNMT1のshRNAノックダウンによって誘発されたOct4タンパク質の発現を示す写真である。図2Gは、培養によって成長する線維芽細胞の写真である。図2Hは、図2Gに示す胚様体内におけるDNMT1のshRNAノックダウンによって誘発されたSSEA4タンパク質の発現を示す写真である。
【0145】
これらのデータは、shRNAレンチウィルス感染を用いたDNMT1 mRNA干渉により、oct‐4、Sox2、およびSSEA4抗体で陽染される胚様体を産生させることができることを示している。DNMT shRNA感染の後、ヒト皮膚線維芽細胞からのいくつかのコロニーが観察された。緑色蛍光タンパク質をshRNA発現マーカーとして用いた。
【実施例5】
【0146】
方法
細胞培養: ヒト胎児および新生児皮膚線維芽細胞をセルアプリケーションズ(サンディエゴ,カリフォルニア州)から購入し、線維芽細胞成長培地(セルアプリケーションズ,サンディエゴ,カリフォルニア州)中、37℃、湿度95%、5%CO2にて維持した。
【0147】
レンチウィルス感染: ヒト成人皮膚線維芽細胞を、DNMT1に指向されたshRNAレンチウィルスで感染させた。shRNAコンストラクトは、ダーマコンより入手し、以下の配列を有していた:
配列番号1:GTCTACCAGATCTTCGATA
【0148】
ヒト皮膚線維芽細胞を、製造元の説明書に従ってshRNAに感染させた。HDFは、ピューロマイシン選別およびhES培養条件(mTeSR培地、ステムセルテクノロジー,バンクーバー,ブリティッシュコロンビア州,カナダ)有りならびに無しにてマトリゲル(BDバイオサイエンスイズ,サンノゼ,カリフォルニア州)上で培養した。
【0149】
定量的RT‐PCR: Oct‐4、DNMT1、およびSox‐2の発現を、リアルタイムRT‐PCRで測定した。簡潔に述べると、トリゾール試薬(ライフテクノロジー,ゲイサーズバーグ,メリーランド州)およびRNeasyミニキット(キアゲン;バレンシア,カリフォルニア州)を用い、製造元のプロトコルに従うデオキシリボヌクレアーゼI消化により、培養物から全RNAを調製した。各サンプルからの全RNA(1μg)をオリゴ(dT)プライムド逆転写(インビトロジェン;カールスバッド,カリフォルニア州)にかけた。PCRマスターミックスを用い、7300リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ;フォスターシティ,カリフォルニア州)上にてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルに対して、PCR反応におけるテンプレートとして1μlの希釈cDNA(1:10)を添加する。Oct‐4およびDNMT1の発現レベルを、グリセルアルデヒド‐3‐リン酸‐デヒドロゲナーゼ(GAPD)に対して標準化した。
【0150】
結果
図3Aに示すように、Oct‐4の発現は、DNMT1 shRNAを感染させたヒト胎児皮膚線維芽細胞(HDFf)において増加した。Oct‐4の発現のピークは、およそ第2日であった。DNMT1の発現は、DNMT1 shRNAを感染させた細胞において減少した。Oct‐4の発現は、ピューロマイシンの存在下で成長させたDNMT1 shRNAを感染させた細胞(図3B)、およびピューロマイシンおよびhES培地中で成長させた細胞(図3C)において増加した。すべての培養条件下にて、DNMT1の発現は減少した(図3A〜3C)。
【0151】
shRNAレンチウィルスのヒト皮膚線維芽細胞への最初の感染効率は約70〜80%であった。ピューロマイシン含有培地で細胞を培養することにより、shRNAコンストラクトがピューロマイシン耐性遺伝子を持つことから、shRNAレンチウィルスに感染した細胞のみを選別することができる。hES細胞培養条件で培養することは、細胞の再プログラミングおよび細胞への潜在的分化能の回復の効率および効力に寄与する。
【0152】
Oct‐4の発現は、DNMT1 shRNAを感染させたその他の細胞型でも増加した。例えば、Oct‐4の発現は、DNMT1 shRNAを感染させたヒト新生児皮膚線維芽細胞(HDFn)で増加した(図4A〜4C参照)。Oct‐4の発現の増加は、ピューロマイシンおよびhES培地の存在下で培養したHDFn細胞においてOct‐4発現が中程度に増加したことで示されるように、培養条件によって様々であった。感染HDFn細胞について実験したすべての培養条件下にて、DNMT1の発現は減少した。
【0153】
これらの結果は、多能性遺伝子のサイレンシングに関与する、および/または転写抑制に関与するタンパク質をコードする遺伝子の発現を干渉するshRNAコンストラクトを用いることで、多能性遺伝子の発現を増加させることができることを示している。DNAメチルトランスフェラーゼに対して指向されたshRNAコンストラクトは、多能性遺伝子の発現を増加させた。この方法を用いて細胞を再プログラムし、潜在的分化能を細胞へ回復させることができる。制御タンパク質をコードする遺伝子の発現を干渉するいずれのshRNAコンストラクトも用いることができる。当業者であれば、本実施例の方法をDNMT1を超えて発展させ、いずれの制御タンパク質または制御タンパク質ファミリーメンバーに対しても用いることができることは理解されるであろう。
【実施例6】
【0154】
制御タンパク質をコードする遺伝子に対して指向されたshRNAコンストラクトの、多能性遺伝子の発現を増加させる能力について調べた。本実施例では、Oct‐4およびNanogについて分析した。当業者であれば、この方法を用いて、再プログラミングおよび/または細胞の潜在的分化能の回復に関与するいずれの遺伝子の発現をも増加させることができることは理解されるであろう。
【0155】
方法
細胞培養: ヒト成人、胎児、および新生児皮膚線維芽細胞をセルアプリケーションズ(サンディエゴ,カリフォルニア州)から購入し、線維芽細胞成長培地(セルアプリケーションズ,サンディエゴ,カリフォルニア州)中、37℃、湿度95%、5%CO2にて維持した。
【0156】
レンチウィルス感染: ヒト成人皮膚線維芽細胞を、HDAC7aまたはHDAC11に指向されたshRNAレンチウィルスで感染させた。shRNAコンストラクトは、ダーマコンより入手した。HDAC7aに対して指向されたshRNAコンストラクトは、以下の配列を有していた:
配列番号2:GCTTTCAGGATAGTCGTGA
【0157】
HDAC11に対して指向されたのは以下の配列を有するshRNAコンストラクトであった:
配列番号3:AGCGAGACTTCATGGACGA
【0158】
さらに、HDAC11に対して指向されたのは以下の配列を有するshRNAコンストラクトであった:
配列番号4:TGGTGGTATACAATGCAGG
【0159】
ヒト皮膚線維芽細胞を、製造元の説明書に従ってshRNAで感染させた。HDFは、ピューロマイシン有りおよび無しで培養した。
【0160】
定量的RT‐PCR: Oct‐3/4およびNanogの発現を、リアルタイムRT‐PCRで測定した。簡潔に述べると、トリゾール試薬(ライフテクノロジー,ゲイサーズバーグ,メリーランド州)およびRNeasyミニキット(キアゲン;バレンシア,カリフォルニア州)を用い、製造元のプロトコルに従うデオキシリボヌクレアーゼI消化により、培養物から全RNAを調製した。各サンプルからの全RNA(1μg)をオリゴ(dT)プライムド逆転写(インビトロジェン;カールスバッド,カリフォルニア州)にかけた。PCRマスターミックスを用い、7300リアルタイムPCRシステム(アプライドバイオシステムズ;フォスターシティ,カリフォルニア州)上にてリアルタイムPCR反応を行う。各サンプルに対して、PCR反応におけるテンプレートとして1μlの希釈cDNA(1:10)を添加する。Oct‐3/4およびNanogの発現レベルを、グリセルアルデヒド‐3‐リン酸‐デヒドロゲナーゼ(GAPD)に対して標準化した。
【0161】
結果
2つの異なるヒストンデアセチラーゼに対して指向されたshRNAコンストラクトについて調べた。図5Aに示すように、Oct3/4の発現は、HDAC7またはHDAC11 shRNAを感染させたヒト成人皮膚線維芽細胞において約2倍に増加した。ピューロマイシンの存在下、HDAC7a shRNAと共に培養した細胞では、発現の増加はあまり大きくなかった。ピューロマイシンの存在下および非存在下で培養したヒト新生児皮膚線維芽細胞でも同様の結果が見られた(図5B)。Oct‐4の発現の増加は、ヒト胎児皮膚線維芽細胞において特にあまり大きくなく(図5C)、これは、ヒト胎児皮膚線維芽細胞が、ヒト成人および新生児皮膚線維芽細胞と比べて約4倍のOct‐4の基底発現を示すことに起因し得る。
【0162】
Nanogの発現は、HDAC7aまたはHDAC11 shRNAを感染させたヒト成人皮膚線維芽細胞において増加した(図6A)。発現の増加は、ピューロマイシンの存在下および非存在下で培養した細胞で観察された。ピューロマイシンの存在下および非存在下で培養したヒト新生児皮膚線維芽細胞でも同様の結果が観察された(図6B)。Nanogの発現はヒト胎児皮膚線維芽細胞でも増加したが、実験したその他の細胞型ほど劇的ではなかった。ヒト胎児皮膚線維芽細胞では、HDAC7a shRNAおよびHDAC11 shRNAのいずれもNanogの発現の増加を引き起こしたが、shRNA HDAC11と比較してHDAC7aに対して指向されたshRNAの方がより強い効果を示した。
【0163】
本明細書で示すデータによって裏付けられるように、HDACに対して指向されるshRNAコンストラクトは、多能性遺伝子の発現の増加をもたらす。Oct‐3/4およびNanogは共に、HDAC7aおよびHDAC11に対して指向されたshRNAコンストラクトを感染させた細胞で増加した。これらの結果は、正および負の制御因子いずれであっても、制御タンパク質をコードする遺伝子に対して指向されたshRNAコンストラクトを用いて、細胞を再プログラムし、細胞の潜在的分化能を回復させることができることを示している。
【実施例7】
【0164】
HDAC7、HDAC11、またはDNMT1に対して指向されたレンチウィルスshRNAを感染させた細胞を、多能性遺伝子の発現のために染色し、可視化した。本実施例では、Oct‐4およびSox‐2のタンパク質発現について分析したが、当業者であれば、本発明の方法を用いて、再プログラミングまたは細胞の潜在的分化能の回復に関与するいずれの遺伝子の発現をも増加させることができることは理解されるであろう。
【0165】
方法
細胞培養: ヒト胎児皮膚線維芽細胞をセルアプリケーションズ(サンディエゴ,カリフォルニア州)から購入し、線維芽細胞成長培地(セルアプリケーションズ,サンディエゴ,カリフォルニア州)中、37℃、湿度95%、5%CO2にて維持した。
【0166】
レンチウィルス感染: ヒト胎児皮膚線維芽細胞を、以下の組成物のうちの1つで感染させた:(1)DNMT1に指向されたshRNAレンチウィルス;(2)HDAC7に対して指向されたshRNAレンチウィルス;(3)DNMT1およびHDAC7に対して指向されたshRNAレンチウィルス;ならびに(4)HDAC7aおよびHDAC11に対して指向されたshRNAレンチウィルス。shRNAコンストラクトは、Dharmaconより入手した。DNMT1に対して指向されたshRNAコンストラクトは、以下の配列を有していた:
配列番号1:GTCTACCAGATCTTCGATA
【0167】
HDAC7aに対して指向されたshRNAコンストラクトは、以下の配列を有していた:
配列番号2:GCTTTCAGGATAGTCGTGA
【0168】
HDAC11に対して指向されたのは以下の配列を有するshRNAコンストラクトであった:
配列番号3:AGCGAGACTTCATGGACGA
【0169】
さらに、HDAC11に対して指向されたのは以下の配列を有するshRNAコンストラクトであった:
配列番号4:TGGTGGTATACAATGCAGG
【0170】
ヒト皮膚線維芽細胞を、製造元の説明書に従ってshRNAに感染させた。HDFは、ピューロマイシン選別およびhES培養条件(mTeSR培地、ステムセルテクノロジー,バンクーバー,ブリティッシュコロンビア州,カナダ)有りならびに無しにてマトリゲル(BDバイオサイエンスイズ,サンノゼ,カリフォルニア州)上で培養した。
【0171】
免疫組織化学分析: 免疫組織化学分析に関しては、標的shRNA感染細胞およびコントロール細胞をチャンバースライド(ラブテック,ナパービル,イリノイ州)上で成長させた。次に、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、製造元のプロトコルに従って、多能性マーカーOct3/4(アブカム,ケンブリッジ,マサチューセッツ州)に対して指向された特異的抗体と共にインキュベートした。Oct3/4の染色は赤色で可視化した。核はDAPI染色(Vectorshield)で可視化し、これは青色を発色した。
【0172】
結果
Oct‐4タンパク質の発現は、shRNA干渉により、ヒト胎児皮膚線維芽細胞(HDFf)において増加した。図7Aは、感染なしのHDFf(ネガティブコントロール)の写真であり、図7Gは、ヒト胚性幹細胞(ポジティブコントロール)の写真である。ネガティブコントロールでは、Oct‐4タンパク質の発現はほとんど検出されなかった。図7Bは、DNMT1に対して指向されたshRNAを感染させたHDFf細胞の写真である。Oct‐4タンパク質の発現は、細胞をDNMT1 shRNAに接触させた場合に、明らかに増加している。HDAC7 shRNAを感染させたHDFf細胞が示すOct‐4タンパク質の検出は非常に小さい(図7C)。これは、この特定のサンプルの処理に起因するものであり得る。
【0173】
DNMT1およびHDAC7 shRNAを感染させた細胞は、Oct‐4タンパク質の発現の劇的な増加を示した(図7D)。DNMT1およびHDAC7 shRNAの両方で処理した細胞は、ヒト胚性幹細胞(インビトロジェン,カールスバッド、カリフォルニア州)に非常に類似の発現パターンを見せた(図7G)。これらのデータは、Oct‐4遺伝子発現の増加がOct‐4タンパク質発現の増加を引き起こすという本明細書で示すデータを裏付けるものである。DNMTおよびHDAC11は、転写およびクロマチンリモデリングの制御に関して、まったく異なる機能を有する。2つの別々の制御グループからのメンバーを阻害することで、Oct‐4の発現の劇的な増加が見られた。Oct‐4タンパク質発現は、DNMT1およびHDAC11を感染させた細胞においても増加した(図7E)。DNMT1および複数のHDACを阻害することで、Oct‐4タンパク質の発現が増加した。
【0174】
HDAC7およびHDAC11 shRNAを感染させた細胞では、Oct‐4の発現の増加は検出されなかった(図7F)。これは、実験システムの限界によるものであり得る。または別の選択肢として、この結果は、多能性遺伝子の発現の最適な増加を得るには、複数の経路を阻害すべきであることを示唆するものであり得る。まったく異なる制御複合体中で機能するタンパク質をコードする遺伝子の発現を阻害することにより、多能性遺伝子の発現レベルが高まり得る。いずれの制御複合体のいずれのメンバーを阻害してもよい。
【0175】
Sox‐2タンパク質の発現は、shRNA干渉により、ヒト胎児皮膚線維芽細胞(HDFf)において増加した。図8Aは、感染なしのHDFf(ネガティブコントロール)の写真であり、図8Gは、ヒト胚性幹細胞(ポジティブコントロール)の写真である。ネガティブコントロールでは、Sox‐2タンパク質の発現はほとんど検出されなかった。図8Bは、DNMT1に対して指向されたshRNAを感染させたHDFf細胞の写真である。核染色は視認されたが、比較的少ない量のSox‐2タンパク質しか検出されなかった。HDAC7およびDNMT1 shRNAを感染させたHDFf細胞が示すSox‐2タンパク質の検出は非常に小さかった(図8C)。これは、この特定のサンプルの処理に起因するものであり得る。
【0176】
DNMT1およびHDAC11 shRNAを感染させた細胞は、Sox‐2タンパク質の発現の劇的な増加を示した(図8D)。2つの別々の制御グループからのメンバーを阻害することで、Sox‐2の発現の劇的な増加が見られた。HDAC7 shRNAを感染させた細胞が示すSox‐2のタンパク質発現は、非常に小さいものであった(図8E)。Sox‐2タンパク質発現は、HDAC7およびHDAC11を感染させた細胞においても増加した(図8F)。DNMT1および複数のHDACを阻害することで、Sox‐2タンパク質の発現が増加した。
【0177】
特定の態様について本明細書で例証し、説明してきたが、当業者であれば、同一の目的を達成するとことが意図されるいかなる設定も、示した特定の態様と置換することができることは理解されるであろう。本願は、説明した本発明の原理に従って作用するいかなる適応または変形をも包含することを意図している。従って、本発明は、請求項およびその均等物によってのみ限定されることを意図している。本願中で引用した特許、参考文献、および刊行物の開示事項は、参照することで本明細書に組み入れられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を再プログラムするための方法であって、細胞を、制御タンパク質をコードする遺伝子の発現に干渉するshRNAコンストラクトへ接触させること、多能性遺伝子の発現を誘発すること、および細胞を選別すること、を含み、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される、方法。
【請求項2】
前記細胞の前記選別が、前記shRNAコンストラクトへの接触の前および後に、前記細胞の表現型を比較すること、ならびに回復された潜在的分化能と一致する表現型を有する細胞を識別することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記選別された細胞を細胞の集団まで増大させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
細胞の前記選別が、多能性遺伝子によってコードされるタンパク質または細胞表面マーカーに指向される抗体を用いて細胞を単離することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞表面マーカーが、SSEA3、SSEA4、Tra‐1‐60、およびTra‐1‐81から成る群より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞を選別する前に、前記shRNAコンストラクトへ接触させる前の前記多能性遺伝子のクロマチン構造を、shRNAコンストラクトへ接触させた後に得られたクロマチン構造と比較することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
制御タンパク質をコードする前記遺伝子が、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、リジンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、リジンデメチラーゼ、サーチュイン、メチル結合ドメインタンパク質、ヒストンメチルトランスフェラーゼから成る群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記多能性遺伝子が、Oct‐4、Sox‐2、およびNanogから成る群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
細胞を再プログラムするための方法であって、第一の転写パターンを有する細胞を低分子阻害剤と接触させること、多能性遺伝子の発現を誘発すること;前記細胞の前記第一の転写パターンを前記阻害剤への接触後に得られた転写パターンと比較すること;および細胞を選別することを含み、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される、方法。
【請求項10】
前記阻害剤への接触後の前記転写パターンが、胚性幹細胞から分析された遺伝子の転写パターンと少なくとも50%の類似性を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記転写パターンを比較する前に、前記shRNAコンストラクトへの接触の前後での前記細胞の表現型が比較される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記選別された細胞を細胞の集団まで増大させることをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞の選別が、多能性遺伝子から発現されるタンパク質または多能性マーカーに指向される抗体を用いて細胞を単離することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞の選別が、レポーター分子または選別可能マーカーに対する耐性を用いて細胞を単離することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記多能性遺伝子が、Oct‐4、Sox‐2、およびNanogから成る群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
細胞を、制御タンパク質をコードする遺伝子の発現に干渉するshRNAコンストラクトへ接触させる工程;多能性遺伝子の発現を誘発する工程、および細胞を選別する工程を含み、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される方法に従って作製された再プログラムされた細胞の濃縮された集団。
【請求項17】
前記再プログラムされた細胞が、SSEA3、SSEA4、Tra‐1‐60、およびTra‐1‐81から成る群より選択される細胞表面マーカーを発現する、請求項16に記載の再プログラムされた細胞の濃縮された集団。
【請求項18】
前記多能性遺伝子が、Oct‐4、Nanog、およびSox‐2から成る群より選択される、請求項16に記載の再プログラムされた細胞の濃縮された集団。
【請求項19】
前記再プログラムされた細胞が前記集団の少なくとも60%を占める、請求項16に記載の再プログラムされた細胞の濃縮された集団。
【請求項1】
細胞を再プログラムするための方法であって、細胞を、制御タンパク質をコードする遺伝子の発現に干渉するshRNAコンストラクトへ接触させること、多能性遺伝子の発現を誘発すること、および細胞を選別すること、を含み、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される、方法。
【請求項2】
前記細胞の前記選別が、前記shRNAコンストラクトへの接触の前および後に、前記細胞の表現型を比較すること、ならびに回復された潜在的分化能と一致する表現型を有する細胞を識別することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記選別された細胞を細胞の集団まで増大させることをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
細胞の前記選別が、多能性遺伝子によってコードされるタンパク質または細胞表面マーカーに指向される抗体を用いて細胞を単離することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞表面マーカーが、SSEA3、SSEA4、Tra‐1‐60、およびTra‐1‐81から成る群より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞を選別する前に、前記shRNAコンストラクトへ接触させる前の前記多能性遺伝子のクロマチン構造を、shRNAコンストラクトへ接触させた後に得られたクロマチン構造と比較することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
制御タンパク質をコードする前記遺伝子が、DNAメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデアセチラーゼ、リジンメチルトランスフェラーゼ、ヒストンデメチラーゼ、リジンデメチラーゼ、サーチュイン、メチル結合ドメインタンパク質、ヒストンメチルトランスフェラーゼから成る群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記多能性遺伝子が、Oct‐4、Sox‐2、およびNanogから成る群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
細胞を再プログラムするための方法であって、第一の転写パターンを有する細胞を低分子阻害剤と接触させること、多能性遺伝子の発現を誘発すること;前記細胞の前記第一の転写パターンを前記阻害剤への接触後に得られた転写パターンと比較すること;および細胞を選別することを含み、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される、方法。
【請求項10】
前記阻害剤への接触後の前記転写パターンが、胚性幹細胞から分析された遺伝子の転写パターンと少なくとも50%の類似性を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記転写パターンを比較する前に、前記shRNAコンストラクトへの接触の前後での前記細胞の表現型が比較される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記選別された細胞を細胞の集団まで増大させることをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞の選別が、多能性遺伝子から発現されるタンパク質または多能性マーカーに指向される抗体を用いて細胞を単離することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞の選別が、レポーター分子または選別可能マーカーに対する耐性を用いて細胞を単離することを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記多能性遺伝子が、Oct‐4、Sox‐2、およびNanogから成る群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
細胞を、制御タンパク質をコードする遺伝子の発現に干渉するshRNAコンストラクトへ接触させる工程;多能性遺伝子の発現を誘発する工程、および細胞を選別する工程を含み、ここで、前記細胞の潜在的分化能が回復される方法に従って作製された再プログラムされた細胞の濃縮された集団。
【請求項17】
前記再プログラムされた細胞が、SSEA3、SSEA4、Tra‐1‐60、およびTra‐1‐81から成る群より選択される細胞表面マーカーを発現する、請求項16に記載の再プログラムされた細胞の濃縮された集団。
【請求項18】
前記多能性遺伝子が、Oct‐4、Nanog、およびSox‐2から成る群より選択される、請求項16に記載の再プログラムされた細胞の濃縮された集団。
【請求項19】
前記再プログラムされた細胞が前記集団の少なくとも60%を占める、請求項16に記載の再プログラムされた細胞の濃縮された集団。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図7G】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図8G】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図2H】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図7F】
【図7G】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図8E】
【図8F】
【図8G】
【公表番号】特表2011−522514(P2011−522514A)
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503980(P2011−503980)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/002161
【国際公開番号】WO2009/126250
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(510267052)ニューポテンシャル,インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】NUPOTENTIAL,INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【国際出願番号】PCT/US2009/002161
【国際公開番号】WO2009/126250
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(510267052)ニューポテンシャル,インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】NUPOTENTIAL,INC.
【Fターム(参考)】
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