説明

SARSなどのウイルス疾患の酵素による診断試験法

本発明は、試料中のウイルスを試験するための方法、組成物及びキットに関する。前記方法はウイルス酵素によって開裂されてペプチド化合物フラグメントを生成できるペプチド化合物を試料と接触させることによってウイルス酵素の存在を決定する。ペプチド化合物フラグメントの検出はウイルスの存在を確認する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願
本願は、2003年6月23日付けで出願された米国仮特許願第60/480,605号の優先権を主張するものである。なお、この仮特許願の全内容は、本願に完全に援用するものである。
【0002】
本発明は、試験試料中のウイルスを検出する方法、試薬及びキットを提供する。本発明の方法は、ウイルスの複製中に、ウイルスの核酸がコードする酵素を検出する。本発明は、一実施態様において、試料中の重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスの検出方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
ウイルス疾患の検出のための迅速で高感度の方法が、継続的に要望されている。ウイルス病原体を迅速に検出し同定することは、ウイルス疾患の伝染と伝播を抑制しかつ治療法を監視するのに不可欠である。このような方法が必要であることは、SARSの発生を取り巻く状況で例証できる。
【0004】
SARSは、SARS随伴コロナウイルス(SARS−CoV)が起こすウイルスによる呼吸器の病気である。SARSは、2003年2月に、アジアで初めて報告された。続く数ヶ月のうちに、この病気は北米、南米、ヨーロッパ及びアジアの2ダースを超える国に伝播して、2003年のSARSの地球規模の発生を封じ込めることはできなかった。SARSの症状には、高熱、乾性咳などの肺炎まで進行することがあるインフルエンザ様の症状がある。感染した患者の約15%が死亡した。アジアのいくつもの国でのSARSの伝染性とその迅速な伝播は、世界中に大きな関心を呼んだ。
【0005】
SARSのコロナウイルスは、普通感冒を起こすウイルスと類似のウイルス群に属している。SARSウイルスは、ヒトとヒトの密接な接触で伝播し、感染したヒトが咳をしたりくしゃみをしたときに生じる呼吸飛沫で最も容易に伝達されると考えられる。飛沫による伝播は、感染したヒトから、飛沫が、空気を通じて、短距離(一般に3フィートまで)噴射されて、近くのヒトの粘膜に沈着すると起こる。このウイルスは、ヒトが伝染性の飛沫で汚染された表面に触れ、次にそのヒトの口、鼻又は眼に触れたときにも伝染することがある。
【0006】
ほとんどの場合、SARSの症状は、そのウイルスに暴露されてから2〜5日後に初めて起こる。しかし2週間もの潜伏期間があることがある。潜伏期間がこのように長いから、SARSウイルスに感染した患者が、感染していないヒトから隔離されていないことがある。その結果、感染していないヒト及び医療職員がSARSウイルスに暴露されてSARSの症状を起こすことがある。
【0007】
SARSは、容易に伝播しかつ潜伏期間が長いので、SARSに感染していると考えられる患者にそのウイルスが存在することを高い信頼度で確認することが極めて重要である。このような試験法は、そのウイルスを、感染の早い段階で検出するため充分高感度であることが理想的である。また、その試験法は、特異的で、かつ偽陽性及び偽陰性の試験結果の発生が少なくなければならない。
【0008】
SARS感染の早い段階で使用できる信頼性の高い試験法が無ければ、医師と健康管理チームは消去法によって、重篤な肺炎の他の既知の原因を消去してからSARSと診断する。しかし他の呼吸器病原体に対して陽性の試験結果が出たからといって、SARSウイルスによる感染が完全に打ち消されるわけではない。患者は、SARSウイルスと他の呼吸器病原体の両方に同時に感染することがある。
【0009】
現在、2種の試験法によって、SARSウイルスの存在が検出されている。これら試験法の一方の方法は、SARSに対する血清抗体を検出する酵素免疫検定法(EIA)である。もう一つの試験法は、ウイルスの遺伝物質を検出するポリマー連鎖反応(PCR)試験法である。
【0010】
SARSウイルスに感染する過程で、血液中の特異的な抗ウイルス抗体のレベルが増大する。SARSを診断するのに現在利用できる試験法の多くは、このような抗体を検出することに基づいている。このような試験法は、一般に、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA法)又は免疫蛍光検定法(IFA)である。ELISA法では、抗体は、感染してから約20日後まで検出できない。IFA法は、最初に感染してから約10日後に、抗体を検出できる。しかし、これらの検定法は比較的時間がかかり、細胞培養でウイルスを増殖させる必要がある。
【0011】
SARSのようなウイルスを検出する抗体試験法の有用性は、いくつものウイルスの突然変異速度(mutation rate)が速いため、さらに限定される。カナダの研究では、SARSに感染した患者の60%にしかSARSウイルスが検出されていない。このような試験結果は、SARSウイルスが不安定で迅速に変異することを示唆している。このことは、コロナウイルスがその外表面抗原を迅速に変えること(抗原ドリフトと呼称されるプロセス)は広く知られているので、予想外のことではない。
【0012】
ポリマー連鎖反応(PCR)法のような方法は、ウイルスの遺伝物質を直接検出できるので、理論的には、非常に早い段階で感染を検出できる。多くのPCR試験法は、ウイルスを、咽頭スワブ、痰又は糞便によって検出するオリゴヌクレオチドマイクロチップ法を利用する。これらの試験法は、一般に、実施するのに数時間かかりかつ比較的高価である。その上、現在利用できるPCR法は、試験結果の40%が偽陽性と偽陰性であるので、この方法は有効でない。
【0013】
現在利用できる試験法は欠陥があるので、SARSウイルスのようなウイルスの存在を、感染の早い段階で正確に検出できる改良された試験法が要望されている。このような試験法は、SARSの症状を示すヒトにとって、その感染とこれに続く回復の過程を監視できるので有益である。その上、迅速で有効な試験法は、前記疾患に冒されている疑いのあるヒトにとって、感染していないヒトを隔離から解放できるので有効である。
【0014】
手動操作を介入させる必要性を回避する自動試験法も要求されている。このような試験法は、試験を行っている間の感染によって疾患が伝播するのを防止する。
【発明の開示】
【0015】
本発明の一実施態様によって、試料中のウイルスの検出法が提供される。この方法は、酵素によって開裂点で開裂されて、第一ペプチド化合物フラグメントと第二ペプチド化合物フラグメントを生成できるペプチド化合物を、試料と接触させるステップを含む。その酵素は、ウイルスの複製中に、ウイルスの核酸によってコードされ、そのウイルスの核酸によってコードされているポリタンパク質を開裂する。シグナル発信部分が、前記第一ペプチド化合物フラグメントを生成する前記ペプチド化合物の部分に連結されている。そのウイルスが試料中に存在すると、そのウイルスの生成する酵素が前記ペプチド化合物を開裂する。そのウイルスは、前記シグナル発信部分からのシグナルを観察することによって検出される。
【0016】
別の実施態様では、クエンチング部分が、前記第二ペプチド化合物フラグメント中に存在する前記ペプチド化合物の部分に連結されている。そのシグナル発信部分とクエンチング部分は、前記ペプチド化合物が開裂点で開裂されない限り、クエンチング部分がシグナル発信部分のシグナルをクエンチするように相対的位置で前記ペプチド化合物に連結されている。
【0017】
他の実施態様で、検出されるウイルスは、ニドウイルス(Nidovirus)科又はピコルナウイルス科由来のウイルスである。一実施態様で、ウイルスはSARSウイルスである。別の実施態様で、ウイルスはライノウイルスである。
【0018】
本発明の別の側面は、試料中のウイルスの存在を検出するキットを提供する。このキットは、ウイルスの核酸がコードする酵素によって、開裂点で開裂されて、第一ペプチド化合物フラグメントと第二ペプチド化合物フラグメントを生成できるペプチド化合物を含有する試薬を含んでいる。シグナル発信部分が、前記第一ペプチド化合物フラグメントを生成する前記ペプチド化合物の部分に連結されている。
【0019】
本発明の別の側面で、試料中のウイルスを検出するために使用する組成物が提供される。その組成物は、ウイルスがコードする酵素によって、開裂点で開裂されて、第一ペプチド化合物フラグメントと第二ペプチド化合物フラグメントを生成できるペプチド化合物を含有している。シグナル発信部分が、前記第一ペプチド化合物フラグメントを生成する前記ペプチド化合物の部分に連結され、かつクエンチング部分が、前記第二ペプチド化合物フラグメントを生成する前記ペプチド化合物の部分に連結されている。そのシグナル発信部分とクエンチング部分は、前記ペプチド化合物が開裂点で開裂されない限り、前記クエンチング部分が前記シグナル発信部分のシグナルをクエンチするように対応する位置で前記ペプチド化合物に連結されている。
図面の簡単な記述
【0020】
図1はウイルスを検出するホモジニアスな検定法の模式図である。
【0021】
図2(A)はピコルナウイルス類の選択された種のポリタンパク質の開裂部位を示す表である。HRV14:ヒトライノウイルス14;HRVb:ヒトライノウイルスb;HRV16:ヒトライノウイルス16;Cxa21:コクザッキーウイルスA21。
【0022】
図2(B)はピコルナウイルス類の選択された種のポリタンパク質の開裂部位を示す表である。HRV14:ヒトライノウイルス14;HRVb:ヒトライノウイルスb;HRV16:ヒトライノウイルス16;Cxa21:コクザッキーウイルスA21。
【0023】
図2(C)はピコルナウイルス類の選択された種のポリタンパク質の開裂部位を示す表である。HRV14:ヒトライノウイルス14;HRVb:ヒトライノウイルスb;HRV16:ヒトライノウイルス16;Cxa21:コクザッキーウイルスA21。
【0024】
図2(D)はピコルナウイルス類の選択された種の高い加水分解速度を有するポリタンパク質の三つの開裂部位を示す表である。HRV14:ヒトライノウイルス14;HRVb:ヒトライノウイルスb;HRV16:ヒトライノウイルス16;Cxa21:コクザッキーウイルスA21。共通配列も示してある。
【0025】
図3(A)はニドウイルス類の選択された種のポリタンパク質の開裂部位を示す表である。SARS:ヒトの重症急性呼吸器症候群ウイルス;BCov:ウシコロナウイルス;HCov:ヒトコロナウイルス。
【0026】
図3(B)はニドウイルス類の選択された種のポリタンパク質の開裂部位を示す表である。SARS:ヒトの重症急性呼吸器症候群ウイルス;BCov:ウシコロナウイルス;HCov:ヒトコロナウイルス。
【0027】
図3(C)はニドウイルス類の選択された種のポリタンパク質の開裂部位を示す表である。SARS:ヒトの重症急性呼吸器症候群ウイルス;BCov:ウシコロナウイルス;HCov:ヒトコロナウイルス。
【0028】
図3(D)はニドウイルス類の選択された種のポリタンパク質の開裂部位を示す表である。SARS:ヒトの重症急性呼吸器症候群ウイルス;BCov:ウシコロナウイルス;HCov:ヒトコロナウイルス。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の一実施態様は、ウイルスの検出法を提供する。この本発明の方法は、ウイルスの複製中に存在するウイルス酵素を検出することによってウイルスの存在を示すタンパク質分解酵素検定法に基づいている。
【0030】
ウイルスポリタンパク質の開裂
SARSウイルス、ヒトの免疫不全ウイルス、ヒトのパピローマウイルス、ヘルペスウイルス、ライノウイルス、ピコルナウイルス、コロナウイルス、C型肝炎ウイルスなどの多くのウイルスの複製中に、ウイルスの遺伝物質が転写されて、ポリタンパク質を生成し、そのポリタンパク質は、最終的に、二つ以上の生物学的に活性のタンパク質に開裂される。
【0031】
ウイルスのポリタンパク質が個々のタンパク質に開裂することは、ウイルスの生活環の重要な部分である。アデノウイルス科、バキュロウイルス科、コモウイルス科、ピコルナウイルス科、レトロウイルス科及びトガウイルス科のウイルスを含む多くのウイルスは、ウイルスのポリタンパク質を、それらの特定の開裂位置で開裂して、ウイルスが複製するのに必要な活性タンパク質を生成するプロテアーゼをコードしている。例えば、Cocksfoot mottle virus(Sobemovirus属)の複製中のポリタンパク質のプロセシングは、Makinen,K.et al.,J.Gen.Virol.vol.81,pp 2783−89(2000)に記載されている。なお、この文献の内容は本願に援用するものである。
【0032】
本発明で使用する用語「プロテアーゼ」は、ペプチド結合の加水分解反応を触媒する酵素を意味する。プロテアーゼは、加水分解酵素のクラスの酵素の一部であり、以下の一般反応式を有する酵素のクラスから選択される。
R−CONHR’+酵素+HO→RCOOH+R’NH
【0033】
ウイルスがコードするいくつかのプロテアーゼは、特定のウイルスのポリタンパク質のみを開裂する。ウイルスがコードするその外のプロテアーゼは、二種以上のウイルスのポリタンパク質を開裂する。プロテアーゼの作用のこの特異性は、ポリタンパク質の一つ又は複数の開裂領域でのプロテアーゼの相互作用の性質から生じる。所定のプロテアーゼは、ポリタンパク質を、特定の定義されたアミノ酸配列を有する領域でのみ開裂する。例えば、ライノウイルスHRV14 3Cのプロテアーゼは、ポリタンパク質を、Glu−Gly、Glu−Ala又はGlu−Glyのジペプチド配列にて開裂する。その上に、これらの位置における開裂速度は、その開裂位置の周囲のポリタンパク質のペプチド配列によって変化する。
【0034】
したがって、ウイルスがコードするプロテアーゼは、ウイルスのポリタンパク質内の多数の異なる位置のアミノ酸配列が、開裂反応の起こるような配列であれば、そのウイルスのポリタンパク質を、多数の異なる位置で開裂できる。同様に、このような配列が、多数の異なるウイルスにわたって保持されていれば、単一のプロテアーゼがこれらウイルスのポリタンパク質を開裂できる。本発明の方法は、この特異性を利用して、一種のウイルス型又は二種以上のウイルス型に対する特異的な検出法を提供する。
【0035】
特定のウイルスの複製中に、ウイルスがコードするプロテアーゼが、そのウイルスの複製過程の早い段階にウイルスのポリタンパク質から自動開裂されると考えられているが、本発明では、この考えに基づいているわけではない。例えば、ピコルナウイルス科のウイルスのポリタンパク質は、ウイルス3Cプロテアーゼによってプロセスされて個々のタンパク質生成物になる。このプロテアーゼは、それ自体がそのウイルスのポリタンパク質の一部であるポリペプチド配列に由来している。このプロテアーゼがウイルスのポリタンパク質から開裂されるようになる機序は、Khan,A.R.et al.,“Structual aspects of activation pathways of aspartic protease zymogens and viral 3C protease precursors”,Proc.Nat’l.Acad.Sci.,Vol.96,No.20,pp.10968−75(1999)に記載されている。なお、この文献の内容は本願に援用するものである。他のウイルスの場合、ポリタンパク質の開裂に関与するウイルスプロテアーゼは、ポリタンパク質とは別個にコードされていることがある。
【0036】
本発明の一実施態様は、ウイルスに感染した疑いがある患者から得た試料中のウイルスを検出する方法を提供する。この方法は、ウイルスのポリタンパク質を開裂する、ウイルスがコードするプロテアーゼを産生する広範囲のウイルスを検出するのに適用できる。本発明の場合、「ウイルスがコードするプロテアーゼ」又は「ウイルスプロテアーゼ」は、ウイルスの遺伝物質からコードされて、ウイルスの複製中、ウイルスのポリタンパク質中のペプチド結合を開裂するプロテアーゼと定義する。
【0037】
ウイルスがコードするプロテアーゼは、ニドウイルス科、ヘルペスウイルス科、アデノウイルス科、レトロウイルス科、ピコルナウイルス科及びポチウイルス(Potyvirus)科を含む広範囲のウイルス科のポリタンパク質を開裂する(Rao,M.B.et al.,“Molecular and Biotechnological Aspects of Microbial Proteases”,Microbiol.and Mol.Biology Rev.,Vol.62,No.3,p.597−635(1998)。この文献の内容は本願に援用するものである。)。表1は、動物や植物の各種疾患に関連するウイルスのポリタンパク質開裂に関与するプロテアーゼのいくつかの例を示す。このようなプロテアーゼの追加の例は、下記の諸文献すなわち、Corbalenya,A.E.and Snijder,E.J.,“Viral cysteine proteinases,Perspectives in Drug Discovery and Design”6:pp.64−86(1996);Dougherby,W.G.and Semler,B.L.,“Expression of virus−encoded Protonases:functional and structural similarities with celluler enzymes”,Microbiol.Rev.57,pp781−822(1993);及びJohn Ziebuhr et al.,“Virus−encoded Proteinases and Proteolytic processing in the Nidovirales”,J.Gen.Vir.,Vol.81,pp.853−79(2000)に記載されている。なお、これら文献の内容は本願に援用するものである。


出典
1) Gorbalenya,A.E.and Snijder,E.J.,“Viral cysteine proteinases,Perspectives in Drug Discovery and Design”6:pp.64−86(1996)
2) Dougherby,W.G.and Semler,B.L.,“Expression of virus−encoded Protonases:functional and structural similarities with cellular enzymes”,Microbiol.Rev.,Vol.57,pp781−822(1993)
【0038】
プロテアーゼ類は、それらの作用部位によって二つの主要な群に細分される。エキソペプチダーゼは、基質のアミノ末端とカルボキシ末端の近くのペプチド結合を開裂するが、一方エンドペプチダーゼは、基質のこれら末端から離れて位置するペプチド結合を開裂する。プロテアーゼ類は、その活性部位に存在する官能基に基づいて、さらに四つの重要なサブグループに分類される。これらのプロテアーゼは、セリンプロテアーゼ類、アスパラギン酸プロテアーゼ類、システインプロテアーゼ類及びメタロプロテアーゼ類である。
【0039】
ウイルスは、上記クラスのメンバーを含む多種類のプロテアーゼを産生する。例えば、C型肝炎ウイルスのゲノムは、特定のセリンプロテアーゼとメタロプロテアーゼ(NS2とNS3)をコードし、そしてライノウイルスのゲノムは、システインプロテアーゼ(3Cと2A)をコードしている。SARSゲノムはシステインプロテアーゼ(3CL)をコードしている(Anand K.et al.,“Coronavirus Main Protease(3CLpro) Structure:Basis of Design of Anti−SARS Drug”,Science,Vol.30,pp.1763−67(2003)。この文献の内容は本願に援用するものである)。さらに、SARSゲノムは、PL1とPL2の主要プロテアーゼをコードしている。ヘルペスウイルス科の各メンバーは、特異的な(unique)なセリンプロテアーゼである。アデノウイルス類は、ウイルスがコードする幾種類もの前駆タンパク質中の選択されたGly−Ala結合に対して特異的な、セリンが中心に位置している中性プロテアーゼをコードしている。レトロウイルス類はアスパルチルプロテアーゼをコードし、このプロテアーゼは、gagとpolのポリタンパク質前駆体を、成熟ウイルスの構造タンパク質にするプロセシングに関与している。
【0040】
ウイルスがコードする酵素
ポリタンパク質が開裂されて機能性のウイルスタンパク質を産生するステップは、ウイルスが成熟する過程における重要なステップである。この開裂ステップは、ウイルスの複製サイクルの早期段階で起こる。これには、この過程に関与している、ウイルスのコードするプロテアーゼ自体が複製の早期段階に存在している必要がある。このプロテアーゼは、感染サイクルの早い段階で存在しているので、これを検出すると、ウイルスの感染を早い段階で確認できる。
【0041】
ウイルスに感染した組織は、ウイルス粒子の成分のみならず完全に集合したウイルス粒子を含有している。これら成分は活性プロテアーゼを含んでいる(Sosnovtsev,S.V.et al.,“Cleavage of the feline calicivirus capsid Precursor is mediated by a virus−encoded proteinase”,J.Virol.,Vol.72,pp.3051−59(1998)参照。なお、この文献の内容は本願に援用するものである)。特定のウイルス、例えば、インフルエンザのA型とB型のウイルスは、ノイラミニダーゼ活性を有する表面糖タンパク質を産生するので、これが存在することはそのウイルスが感染していることを証明していることも知られている(ZSTATFLU(登録商標)Product Package Insert(ZymeTx,Inc.,Oklahoma City,OK 73104))。
【0042】
ポリタンパク質を開裂するプロテアーゼの検出
本発明の一実施態様では、ウイルスに関連する、ウイルスのコードするプロテアーゼの存在は、そのプロテアーゼに対する特異的開裂部位を有するペプチド化合物の開裂を観察することによって検出される。この開裂反応の特異性は、その開裂部位のアミノ酸配列によって決まる。ウイルスがコードする多くのプロテアーゼに対する特異的開裂部位が同定されている(例えば、John Ziebuhr et al.,“Virus−encoded Proteinases and Proteolytic processing in the Nidovirales”,J.Gen.Vir.,Vol.81,pp.853−79(2000)参照。なお、この文献の内容は本願に援用するものである。)。そのウイルスの開裂部位は、それらウイルスの開裂が、検出すべきウイルスのタイプに対して特異的であるように選択される。表2は、いくつかのウイルスのプロテアーゼとそのプロテアーゼによって特異的に開裂されるペプチドの例を示す。

【0043】
本発明において、検出すべきプロテアーゼに対する開裂部位を含有しているウイルスポリタンパク質の領域は、ペプチド化合物によって模倣される。本発明で使用する場合、用語「ペプチド化合物」は、検出すべき単一又は複数のウイルスによってコードされているプロテアーゼに対する開裂部位を含有する化合物を意味する。適当な条件下で、このプロテアーゼはペプチド化合物を開裂して「第一ペプチド化合物フラグメント」と「第二ペプチド化合物フラグメント」を生成する。酵素によるこのような開裂反応を実施するのに必要な条件は、当業者にはよく知られている。
【0044】
前記ペプチド化合物フラグメントの一方を生成するペプチド化合物の領域には、そのフラグメントを検出できるようにするシグナル発信部分を直接的に又は間接的に連結することによって標識を付ける。本発明で使用する場合、用語「シグナル発信部分」は検出可能なシグナルを生成するラベルを意味する。例えば、そのシグナル発信部分は、蛍光、化学発光又は比色のシグナルを発する検出可能なラベルを意味する。
【0045】
一実施態様では、その開裂部位は単一のウイルスに対して特異的である。これによって、このウイルスを検出して他のウイルスに対する交差反応性が低いことを示す特異的試験法が可能になる。別の実施態様では、その開裂部位は、2種以上のウイルスに保存されている。このことによって、2種以上のウイルスを検出する単一試験法が可能になる。
【0046】
ポリタンパク質を開裂するプロテアーゼは、ウイルスの表面に存在しないから、ウイルスコートタンパク質より突然変異することが少ないと考えられているが、本発明の場合はこの考えに基づいているわけではない。また、これらのプロテアーゼは、ウイルスの生活環で重要な役割を持っているので、有意な突然変異は起こりそうもない。
【0047】
本発明の方法は、ウイルスに汚染された試料中のウイルスの存在を試験するのに使用できる。一実施態様では、試料を生物から採取する。例えば、その方法は、動物又は植物の宿主から採取した試料中のウイルスについて試験することができる。一実施態様では、この方法は、ヒトの患者から採取した試料中のウイルスについて試験する。その試料は、粘膜、唾液、うがい液、血液、血清、血漿、尿、脊髄液、痰、組織生検試料、気管支肺胞液、膣液、涙液などの生物試料でもよい。例えば、SARSウイルスは、唾液中に存在することが知られている(Wang,W−K“Detection of SARS−assosiated Coronavirus in Throat Wash and Saliva in Early Diagonosis”,Emerg Infect Dis[serial on the Internet](June 2004))。これはhttp://www.cdc.gov/ncidod/EID/vol10no7/03−1113.htmから入手できる。本発明は、試料を処理して細胞を破壊し、プロテアーゼを含むウイルスの成分を例えば超音波処理で放出させる方法を含んでいる。ウイルスの存在は、ウイルスが産生するウイルスプロテアーゼを検出することによって確認される。一実施態様では、プロテアーゼのレベルが、ウイルスの複製又はウイルスの負荷(viral load)と関連がある。
【0048】
本発明の一実施態様では、ペプチド化合物は、プロテアーゼ開裂部位を含めて、ポリタンパク質開裂部位の領域中の配列由来の少なくとも4個のアミノ酸残基を含んでいる。別の実施態様では、ペプチド化合物は、プロテアーゼ開裂部位由来の少なくとも7個のアミノ酸残基を含んでいる。別の実施態様では、ペプチド化合物は、プロテアーゼ開裂部位由来の少なくとも10個のアミノ酸残基を含んでいる。さらに別の実施態様では、ペプチド化合物は、2種以上のウイルスの開裂部位の配列の共通配列である配列由来の少なくとも4個のアミノ酸を含んでいる。他の実施態様では、ペプチド化合物は、2種以上のウイルスの開裂部位の共通配列由来の、少なくとも7個又は少なくとも10個のアミノ酸を含んでいる。
【0049】
別の実施態様では、ペプチド化合物中に存在する1個以上のアミノ酸が類似体で修飾されるか又は置換される。類似体は、天然の化合物に類似しているが特定の成分又は側鎖が異なっている構造を有するアミノ酸である。
【0050】
あるいは、1個以上のアミノ酸を、類似のペプチド化合物の開裂特性を変えることなく、模擬(mimic)アミノ酸で置換してもよい。有用な保存的置換を表3「好ましい置換」に示した。1クラスのアミノ酸を同じタイプの別のアミノ酸で置換する保存的置換は、その置換によって、ペプチド化合物の開裂特性が実質的に変化しない限り、本発明の範囲内に入っている。このような置換は、実施例5に記載されているような方法を使って試験し、その置換が開裂特性を変えるかどうかを確認できる。


【0051】
特定のポリタンパク質の開裂部位に似せるように、ペプチド化合物を選択することによって、本発明の方法は、広範囲のウイルスを試験するのに使用できる。一実施態様では、検出されるウイルスはピコルナウイルス科由来のウイルスである。この科のウイルスには、ヒトのライノウイルス及びコクザッキーウイルスが含まれている。図2A−Dは、いくつかのかようなウイルスがコードするポリタンパク質中の既知開裂位置の回りの配列を示す。提示したウイルスは、ヒトのライノウイルス 14(HRV14)、ヒトのライノウイルス b(HRVb)、ヒトのライノウイルス 16(HRV16)及びコクザッキーウイルス A21(Cxa21)である。これらの図は、ウイルスの開裂部位と共通ペプチド配列の間の配列のアラインメントも示している。配列のアラインメントは、CLUSTAL W(1.82)汎用配列分析プログラム(European Bioinformatics Institute,www.ebi.ac.uk/clustalwで入手できる)を使って実施した。
【0052】
特定のウイルスの試験法において、一つのポリペプチド開裂部位を含むアミノ酸配列を含有するペプチド化合物のプロテアーゼによる開裂が検出される。類似のウイルス中に存在する配列に対して低い相同性を示すペプチド化合物を選択することによって、そのウイルスに対して特異的な試験を実施できる。本発明は、2種以上のペプチド化合物を、単一のプロテアーゼ又は異なるプロテアーゼによって開裂する方法も含んでいる。
【0053】
別の実施態様では、検出されるウイルスはニドウイルスである。このクラスのウイルスとしては、SARSウイルス、ウシのコロナウイルス及びヒトのコロナウイルスがある。SARSのゲノムは、M.Marra et al.,http://www.bcgsc.ca/bioinfo/SARSで入手できる。そのゲノムは、コロナウイルスのゲノムと44%を超える相同性を示し、コロナウイルスのゲノムと同様に、3CLプロテアーゼをコードしている(配列相同性の試験は、EMBL(European Bioinformatics Institute,http://www.ebi.ac.uk/embl/index.html)で入手できるソフトウェア・パッケージを使って行った)。
【0054】
図3A−Dは、これらウイルスがコードするポリタンパク質中の既知の開裂位置の回りのアミノ酸配列を示す。3種のウイルスの開裂部位と共通配列の間の配列アラインメントも示してある。配列アラインメントも、やはりCLUSTAL W(1.82)配列分析プログラムを使って実施した。図3(A)は、例えばSARSのポリタンパク質の180位置又は818位置の中心に位置する開裂領域が、ヒト又はウシのコロナウイルスのポリタンパク質とほとんど相同性を示さないことを示している。これら開裂位置のうちの一つの配列に似せたペプチド配列を選択することによって、SARSウイルスに対する特異的試験を実施できる。同様に、SARS又はウシのコロナウイルスのポリタンパク質に対して低い相同性を示すヒトのコロナウイルスのポリタンパク質を選択することによって、ヒトのコロナウイルスに対する特異的試験を実施できる。
【0055】
プロテアーゼの開裂活性の検定法
本発明の一実施態様は、ウイルスを検出するホモジナスな検定法(homogenous assay)を提供する。選択されたペプチド化合物を合成して、開裂領域の一方の側のシグナル発信部分及び開裂領域のもう一つの側のクエンチャー部分に連結する。「ホモジナスな検定法」は、シグナル発信部分を他の検定成分から分離する必要のない検定法を意味する。
【0056】
本発明で使用する場合、用語「クエンチング部分」又は「クエンチャー部分」は、シグナル発信部分が発するシグナルを減らすか又は除くことができる物質を意味する。例えば、クエンチャー部分は、シグナル発信部分が発するシグナルを吸収することによって又はエネルギー転移機構によって作動できる。シグナル発信部分とクエンチャー部分の間の距離は、ペプチド化合物がシグナル発信部分とクエンチャー部分を分離させる位置で開裂されない限り、クエンチャー部分の存在が、シグナル発信部分から発するシグナルを実質的に低下させるか又は除くような距離である。
【0057】
一実施態様では、シグナル発信部分とクエンチャー部分は、僅か5個のアミノ酸残基で分離されている。別の一実施態様では、シグナル発信部分とクエンチャー部分が、僅か10個のアミノ酸残基で分離される。さらに別の実施態様では、シグナル発信部分とクエンチャー部分は、僅か15個のアミノ酸残基で分離される。さらに別の実施態様では、シグナル発信部分とクエンチャー部分は、僅か20個のアミノ酸残基で分離される。
【0058】
ペプチド化合物を、ウイルスの存在について試験される試料と接触させる。ウイルスが試料中に存在すると、ウイルスのプロテアーゼも存在する。このプロテアーゼは、ペプチド化合物を開裂するので、シグナル発信部分からのシグナルの変化を観察できる。図1は開裂反応を表現している。このようなホモジナスな蛍光検定法又は比色検定法は、当業者には知られている(例えば、Biochemistry,Allinger,Wang Q.M.et al.,“A continuous colorimetric assay for rhinovirus−14 3C protease using peptide p−nitroanilides as substrates” Anal.Biochem.Vol.252,pp.238−45(1997)及びBasak S.et al.,“In vitro elucidation of substrate specificity and bioassay of proprotein convertase 4 using intramolecularly quenched fluorogenic peptides”,Biochem.J.Vol.380,pp.505−14(2004)参照)。これら文献の内容は本願に援用するものである。しかし、このような方法は、これまで、ウイルス疾患を診断するのに利用されていなかったと考えられる。
【0059】
本発明の別の実施態様では、シグナル発信部分が化学発光シグナル発信部分である。その化学発光シグナル発信部分はペプチド化合物の開裂領域の一方の側に連結され、蛍光を受け取るクエンチャー部分は開裂領域のもう一つの側に連結されている。米国特許第6,243,980号に、シグナル発信部分として、化学発光性の1,2−ジオキセタン化合物を使う検出システムが記載されている。なお、この特許文献の内容は本願に援用するものである。ウイルスのプロテアーゼが試料中に存在していないと、ペプチド化合物の開裂は起こらない。1,2−ジオキセタンの分解によるエネルギーが蛍光を受け取る部分に転移して、1,2−ジオキセタンの発光スペクトルと異なる波長の光を発する。ペプチド化合物が開裂されると、蛍光を受け取る部分が1,2−ジオキセタンから分離して、そのジオキセタン化合物から発する化学発光が観察される。
【0060】
別の実施態様では、シグナル発信部分は蛍光化合物であり、クエンチャー部分は、シグナル発信部分の発光スペクトルにオーバーラップする励起スペクトルを有する蛍光化合物である。この場合、これら二つの部分は、蛍光共鳴エネルギーの輸送と一致する距離を隔てて分離されて、その蛍光部分は共鳴エネルギーのドナーとして作用できる。
【0061】
別の実施態様では、非蛍光吸収色素などのクエンチング基を、蛍光を受け取るクエンチング部分の代わりに使用する。適切なクエンチング基は、米国特許第6,243,980号に記載されている。なお、この特許文献の内容は本願に援用するものである。
【0062】
このような試験法では、試験試料を、ウイルスがその試料中に存在している場合、プロテアーゼによってペプチド化合物を開裂できる条件下で、ペプチド化合物に接触させる。一実施態様では、温度制御がなされる。例えば、温度を37℃に制御して、酵素反応に最適の条件を提供できる。次いで、開裂されたペプチド化合物フラグメントからのシグナルを、使用されたラベルに適した検出装置を使って検出する。
【0063】
本発明の別の実施態様は、ウイルスを検出するヘテロジニアスな検定法(heterogeneous assay)を提供する。そのヘテロジニアスな方法の一実施態様では、第一結合対の第一メンバーは、ペプチド化合物の開裂領域の一方の側に連結される。第二結合対の第一メンバー又はシグナル発信部分はペプチド化合物の開裂領域のもう一方の側に連結される。第一結合対の第二メンバーは固相に連結される。あるいは、前記ペプチドの一方の側は、前記固相に直接連結されてもよい。「ヘテロジニアスな検定法」は、前記固相が、検定中、別の検定法のコンポーネントから分離されている検定法を意味する。
【0064】
そのペプチド化合物を、前記固相およびウイルスの存在について試験されている試料とともにインキュベートする。そのインキュベーション条件は、前記第一結合対の第一と第二のメンバーの間の結合が起こるような条件である。ペプチド化合物を開裂部位で開裂できるプロテアーゼが、患者の試料中に存在していると、ペプチド化合物は、開裂されて、ペプチド化合物のフラグメントが、第二結合対の第一メンバー又は前記シグナル発信部分に結合して、固相から脱離する。
【0065】
次に、固相と液相を分離する。もしシグナル発信部分がペプチド化合物に連結されているなら、前記固相又は液相のシグナル発信部分の量が測定されて、試料中のプロテアーゼの存在が確認され、したがってウイルスの存在が確認される。もし第二結合対の第一メンバーがペプチド化合物に連結されているなら、シグナル発信部分に連結された第二結合対の第二メンバーを、第二結合対の第一と第二のメンバーの間に結合が起こるような条件下で、ペプチド化合物と共にインキュベートする。次いで、ウイルスの存在を、上記のようにして検出する。
【0066】
上記ステップは、本発明の方法から逸脱することなく変更したり又は組み合わせることができる。例えば、ヘテロジニアスな検定法では、シグナル発信部分に連結された第二結合対の第二メンバーを、固相をペプチド化合物に接触させる前か又は接触させるのと同時に、ペプチド化合物に接触させてもよいことは、当業者には分かるであろう。
【0067】
多くの異なる結合対を、第一と第二の結合対として使用できる。しかし、これら結合対は、第一結合対が第二結合対と相互に作用しないように選択しなければならない。このような結合対の例は当業者にはよく知られており、その例としては、ビオチン/アビジン、ビオチン/ストレプトアビジン、抗体/抗原、抗体/ハプテン、結合タンパク質/結合分子及び相補的核酸配列がある。各結合対の第一メンバー又はシグナル発信部分は、共有結合でペプチドに直接結合させてもよく、又は各末端に連結官能基を有するスペーサー分子を通じて間接的に結合させてもよい。このようなリンカーの例としては、アルキル、グリコール、エーテル、ポリエーテル、ポリヌクレオチド及びポリペプチドの分子がある。
【0068】
ヘテロジニアスな検定法に使うのに適切な固相としては、限定されないが、試験管、マイクロタイタープレート、マイクロタイターウエル、ビーズ、計量棒、ポリマー微粒子、磁気微粒子、ニトロセルロース、チップアレイ(chip arry)及び当業者にはよく知られているその外の固相がある。ヘテロジニアスな検定法に使うシグナル発信部分は、当業者に知られているラベルでよい。このようなラベルとしては、放射性、比色用、蛍光及び発光のラベルがある。
【0069】
プロテアーゼ検出用のヘテロジニアスな化学発光検定法は、米国特許第6,243,980号に記載されている。なお、この特許文献の内容は本願に援用するものである。この場合、第二結合対の第二メンバーが、1,2−ジオキセタンをトリガーして化学発光シグナルを発信させるアルカリホスファターゼなどの酵素と接合している。
【0070】
一実施態様では、本発明のホモジニアス又はヘテロジニアスな検定法は、医療スタッフが、試験中のウイルス疾患に感染していると考えられる患者に暴露される必要なしに、試験結果が得られるように自動化されている。例えば、その患者は、クリーンルーム(例えば限定されないがP3タイプのクリーンルーム)内で試験できる。患者は、クリーンルームに入る前に、診断キットを入手することができ、そのキットには、先に考察したタイプの標識付きペプチドでコートされた固相が入っている。例えば、その固相は、予めペプチドに浸漬された組織又は妊娠を試験するために使うタイプ由来のものでもよい試験スティックでもよい。患者は、唾液の試料などの試料を、固相上の予め用意したスポットに提供できる。
【0071】
次に、試料を含む固相をインキュベートして酵素反応を起こさせる。一実施態様では、その反応温度は37℃に制御して酵素反応の最適条件を提供する。そのインキュベーションが完了すると、被検試料は、クリーンルームの外側から手動で操作される遠隔制御装置又は機械システムを使って、分光光度計で測定できる。試料は、定性着色試験又はUV検出試験を行うこともできる。試験後、試料は、試料を破壊する自動装置又は遠隔操作されるハンドルで廃棄できる。
【0072】
新興ウイルス疾患の検出
別の実施態様では、本発明は、新興ウイルスを検出する検定法を開発する方法を提供する。新興ウイルスのゲノムが同定されてその複製のシステムが分かると、ウイルスのプロテアーゼ、及びそのプロテアーゼで開裂されるウイルスのポリタンパク質の領域は、新興ウイルスの配列と既知ウイルスの配列の間の配列相同性を検査することによって決定できる。次に前記プロテアーゼで開裂された領域を架橋する特異的な類似ペプチド化合物を調製し、次いで、試験して、各ペプチドに対する、ポリタンパク質開裂プロテアーゼの活性を測定する。一実施態様では、最高の開裂速度を示すペプチドを選択して、ウイルスの試験に使う製剤に使用する。このような化合物の開裂速度は、Orr D.C.et al.,“Hydrolysis of a series of synthetic peptide substrates by the human rhinovirus 14 3C proteinase,cloned and expressed in E.coli”,J.Gen.Vir.Vol.70,pp.2931−42(1989)に記載されているような方法を使って測定できる。なお、この文献の内容は本願に援用するものである。
【0073】
新興ウイルス疾患に対する前記方法が有効であるのは、タンパク質分解活性の基本的機能がそのウイルスの成熟の全機構で維持されているからである。新興ウイルスのゲノムが同定されたならば、特異的なプロテアーゼは迅速に分析できる。したがって、新興ウイルス由来の新プロテアーゼが、同じ科由来の類似の既知ウイルス由来の鋳型に基づいて構築される。各ウイルスの科について、ペプチドのライブラリーを合成して、プロテアーゼによる開裂速度を測定できる。これらの試験結果に基づいて、ライノウイルスについて実施例5に示したようにして、共通ペプチドを選択する。
【0074】
タンパク質分解クラスの酵素は、文献のデータを使って分類できる。酵素がその指定されたクラスに属しているとき、その酵素に関する大量の情報を含むいくつものデータベース、例えば、http://kr.expasy.org/enzymeのSwiss−Prot Enzyme nomenclature database又はhttp://www−biol.paisley.ac.uk/marco/enzyme_electrode/Chapter1/page1a.htmの酵素の分類がある。酵素は、さらに、その酵素の配列を決定して、その酵素の他の酵素に対する相同性を比較することによって分類できる。酵素の配列は、しばしば、すでに決定されていて文献やデータベース(例えば、Genbank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Genbank/)又はUniProt/Swiss−Prot Protein Knowledgebase(European Bioinformatics Institute at http://www.ebi.ac.uk/swissprot/)又はGOR IV Secondary Structure Prediction Method(例えば、http://npsa−pbil.ibcp.fr/cgi−bin/npsa_automat.p1?page=/NPSA/npsa_server.html))に見つけることができる。酵素の配列が同定されていない場合は、その酵素は、当業者に知られている各種の方法で単離できる。その上、その酵素は、分子生物学の分野で活動している科学者に普通知られている組換えDNA法を使って合成できる(Short Protocolsin Molecular Biology,2d.ed.,John Wiley & Sons(1992)参照。この文献は本願に援用するものである。)。
【0075】
標的タンパク質の配列決定は、当該技術分野の当業者に知られている方法を使って、アミノ酸レベル及び/又はDNAレベルで実施できる。標的タンパク質のDNA配列を決定するため、Wilhelm Arrange,DNA sequencing strategies,Automated and Advanced Approaches,15 BN 0971136832(S.Zimmerman,ed)(この文献は本願に援用するものである)で考察されている方法を利用できる。酵素の決定された配列は、同定された三次構造又は好ましくは四次構造を有する、分類された酵素の他の既知の配列に対する相同性について比較できる。このような酵素に関する情報は、Brookhaven Crystllographic Data Bank(http://pdb.pdb.bnl.gov)などのデータベースに入っている。
【0076】
酵素が受ける化学反応を分類した後、ウイルスのポリタンパク質の開裂領域における特定のペプチド配列を、そのゲノム配列を相同ゲノムと比較することによって決定する。次いで、模擬ペプチド化合物を、先に述べたようにして調製する。一実施態様では、そのペプチド化合物は、前記開裂領域由来の6−15個のアミノ酸を有するペプチドを含有している。このような化合物のライブラリーを調製し、次いで、決定された各化合物について、開裂速度を測定する。次いで、高い開裂速度を有するペプチド化合物を選択して、ウイルスの試験に使用する。
【0077】
ウイルス疾患を検出するのに使うキット、組成物及び試薬
本発明は、ウイルス疾患検出用のキットも提供する。一実施態様では、そのキットには、一つのパッケージ又はコンテナーに入れた、前記模擬ペプチド化合物のうちの一種と緩衝剤を含有する試薬が、少なくとも入っている。一実施態様では、シグナル発信部分が、一方のペプチド化合物フラグメント中に存在するペプチド化合物の部分に連結されている。別の実施態様では、クエンチャー部分が、もう一方のペプチド化合物フラグメント中に存在するペプチド化合物の部分に連結されている。このシグナル発信部分とクエンチャー部分は、ペプチド化合物が開裂点で開裂されない限り、クエンチャー分子がレポーター分子のシグナルをクエンチするような相対的位置でペプチド化合物に連結されている。
【0078】
別の実施態様では、キットに、一つ以上のパッケージ又はコンテナーに入れた次のものすなわち(a)(i)酵素によって開裂されて二つのペプチド化合物フラグメントを生成できるペプチド化合物、(ii)一方のペプチドフラグメント中に存在するペプチド化合物の部分に連結される第一結合対の第一メンバー、及び(iii)もう一方のペプチドフラグメント中に存在するペプチド化合物の部分に連結される第二結合対の第一メンバーを含む構造試薬(construct reagent);(b)固相に連結される第一結合対の第二メンバーを含む固相試薬;並びに(c)シグナル発信部分に連結される第二結合対の第二メンバーを含むシグナル発信試薬が入っている。
【0079】
さらに別の実施態様では、キットに、一つ以上のパッケージ又はコンテナーに入れた次のものすなわち(a)(i)酵素によって開裂されて二つのペプチド化合物フラグメントを生成できるペプチド化合物、(ii)一方のペプチドフラグメント中に存在するペプチド化合物の部分に連結される第一結合対の第一メンバー、及び(iii)もう一方のペプチドフラグメント中に存在するペプチド化合物の部分に連結されるシグナル発信部分;並びに(b)固相に連結される第一結合対の第二メンバーを含む固相試薬が入っている。
【0080】
キットを供給するとき、異なる成分は、別個のコンテナーに入れて包装し、使用する直前に混合してもよい。このように成分を別個にパッケージすると、活性成分の機能を失うことなく長期間貯蔵できる。2種以上の成分(a)−(c)が同じコンテナー中に見られる実施態様も考えられる。
【0081】
別の実施態様では、上記キットには、さらに、1種又は2種以上の以下の試薬、すなわち
(a)ヘテロジニアス検定法を利用するときに使用する洗浄緩衝試薬;
(b)前記構造試薬を開裂できるプロテアーゼを含有していない負の対照試薬;
(c)前記構造試薬を開裂できるプロテアーゼを含有している正の対照試薬;
(d)シグナル発信部分から検出可能なシグナルを生成させるシグナル生成試薬;及び
(e)シリンジ、咽頭スワブおよびそのほかの試料収集器具などの試料収集手段
が入っている。
【0082】
これらキットに入っている試薬は、異なる成分の寿命が保持されかつそれら成分がコンテナーの材料によって吸着されたり又は変質したりしないような種類のコンテナーに入れて供給できる。例えば、シールされたガラスアンプルには、凍結乾燥された試薬、又は中性の非反応性ガス例えば窒素の雰囲気下でパッケージされた緩衝剤を入れることができる。アンプルは、適切な材料、例えばガラス;ポリカーボネート、ポリスチレンなどの有機ポリマー;セラミック;金属;又は類似の試薬を保持するのに一般に採用されるその外の材料からなっていればよい。適切なコンテナーの他の例としては、アンプルと類似の物質で製造できるシンプルボトル(simple bottle)及びアルミニウムもしくは合金のホイルを内張りしたエンベロープがある。他のコンテナーとしては、試験管、バイアル、フラスコ、ボトルなどがある。コンテナーは、皮下注射針を貫通させることができる蓋を有するボトルなどの滅菌アクセスポート(access port)を備えていてもよい。別のコンテナーは、取り外すと、成分を混合できる、容易に取り外せる膜で隔てられている二つのコンパートメントを備えていてもよい。取り外せる膜は、ガラス、プラスチック、ゴムなどでよい。
【0083】
また、キットは、説明資料と共に供給されることもある。その説明は、紙又は他の基体に印刷してもよく、及び/又はフロッピーディスク、CD−ROM、DVD−ROM、Zipディスク、ビデオテープ、オーディオテープなど電子読取り可能な媒体として供給できる。詳細な説明は、キットに物理的に連結される必要はない。代わりに、ユーザーは、キットの製造業者又は配給業者が詳細に記載しているインターネットウエブサイトに案内されるか又は電子メールとして供給されることができる。
【0084】
別の実施態様では、本発明は試料中のウイルスを検出するための組成物を提供する。その組成物は緩衝剤と、ウイルスが生成するプロテアーゼによって開裂点で開裂されて、第一ペプチド化合物フラグメント及び第二ペプチド化合物フラグメントを生成できる模擬ペプチド化合物とを含んでいる。シグナル発信部分は前記第一ペプチド化合物フラグメント中に存在するペプチド化合物の部分に連結され、クエンチング部分は前記第二ペプチド化合物フラグメント中に存在するペプチド化合物の部分に連結されている。シグナル発信部分とクエンチング部分は、クエンチング部分がシグナル発信部分のシグナルをクエンチするように、ペプチド化合物に相対的位置で連結されている。
【0085】
一実施態様では、ウイルスはライノウイルスである。この実施態様では、組成物は、ライノウイルスのポリタンパク質の開裂部位のうちの一つに存在するアミノ酸配列を含むペプチド化合物を含んでいてもよい。例えば、そのアミノ酸配列は表2に列挙されているライノウイルスの配列中の配列でよい。
【0086】
別の実施態様では、ウイルスはSARSウイルスである。この実施態様では、組成物はSARSウイルスのポリタンパク質の開裂部位のうちの一つに存在するアミノ酸配列を含むペプチド化合物を含んでいてもよい。例えば、そのアミノ酸配列は表2に列挙されているSARSウイルスの配列中の配列でよい。
【0087】
以下の具体的な実施例を参照することによって、本発明を一層完全に理解することができる。これら実施例は、例示することだけを目的として記載されており、本発明を限定しようとするものではない。状況が好都合になったり好都合を示唆した場合、形態の変更や均等物の置換が図られる。本願では、特定の用語が採用されているが、このような用語は説明することを目的としており、限定することが目的ではない。先に記載したような本発明の変形と変更は、本発明の精神と範囲を逸脱することなく行えるので、このような限定は、本願の特許請求の範囲に示されている場合のみ、実施すべきである。
【実施例】
【0088】
実施例1−プロテアーゼの活性の検出
3Cプロテアーゼの酵素活性は、Wang Q.M.et al.,“A continuous colorimetric assay for rhinovirus−14 3C protease using peptide p−nitroanilides as substrates”Anal.Biochem.Vol.252,pp.238−45(1997)(この文献の内容は本願に援用するものである)に記載されているように、色素産生性の基質を使って検出できる。標識を付けた基質を使って、プロテアーゼの開裂性能を測定する。使用される第一ペプチド基質に、p−ニトロアニリンを使って標識を付ける。p−ニトロアニリンがペプチドから開裂されると、シグナルが発生する。この開裂によって、芳香族のπ電子系が形成され、それが存在すると、電磁スペクトルの405nmの範囲に吸収が見られる。開裂されたp−ニトロアニリンのナノモル消光係数(nanomolar extinction coefficient)は10 mole−1cm−1である。
【0089】
あるいは、一方の末端に蛍光の標識を付けそしてもう一方の末端にクエンチャーをつけた基質を構築する。そのペプチドが開裂されたときに蛍光を検出する。その外の標識は、発色反応を使って類似の原理を利用する。
【0090】
実施例2−3Cプロテアーゼのホモジナスな蛍光共鳴エネルギー移動検定法
ヒトライノウイルスのセロタイプ 1A(ATCC)を使って、3C プロテアーゼを発現ベクターpET16−b中にクローン化し、次いで産生するため、E.コリ株 BL21−DE3−pLys−S中に形質転換させる。3C プロテアーゼの発現は、25℃にて1mMのIPTGで誘導され、次いでその可溶性タンパク質抽出物から、SourceQ(Pharmacia)のクロマトグラフィー及びこれに続くゲル濾過によって精製される。HRV 3CPの活性を、Km値が16.8μMである二修飾(dimodified)デカペプチドの基質:MOC−Arg−Ala−Glu−Leu−Gln−Gly−Pro−Tyr−Asp−Lys−DNP−NH(配列番号:113)(7−メトキシクマリン−4−酢酸の蛍光色素及びジニトロフェノールのクエンチャー)を使って蛍光共鳴エネルギー転移法で測定した。阻害性を、阻害剤(I)の濃度と基質(S)の濃度の関数としての初期速度(V0)の変化として測定した。
【0091】
25mM トリスHCl pH 8.0、150mM NaCl、1mM EDTA pH 8.0、6mM DTT、2−6μM 基質、2% DMSO、416nM 3CP及び必要に応じて阻害剤を含有する、30℃の96ウエルフォーマットの100μl容積中で、検定を実施した。328nmで励起し、10nmのカットオフによる393nmでの発光で監視した。下記式を使って非線形回帰分析プログラムEnzFitter(Biosoft)で、データを分析した。
=(I/((VmaxxS)/V)K)−I−S
使用した基質の濃度は、その基質のKm(16.8μM)より低いので、S/K項の修正は行わなかった。
【0092】
実施例3−CELLSCAN(登録商標)サイトメーター(cytometer)を使って行うプロテアーゼの活性の検出
CELLSCAN(登録商標)(Medis Technologies Ltd.,New York,NY)は、個々の非付着性生細胞内の蛍光プローブを使って、蛍光の強度と偏光を監視することができ、かつプロテアーゼの活性を検出するのに使うこともできるサイトメーターである。CELLSCANの心臓部は10,000個までのウエルを有するCell carrierである。CELLSCANサイトメーターの説明書及び癌や自己免疫疾患を診断するその別の用途はwww.medisel.comで入手できる。
【0093】
CELLSCANのプローブには、特定のペプチド化合物を負荷する。例えば、そのペプチド化合物はSARSに対して特異的なペプチドを含有していてもよい。そのペプチド化合物には、その開裂領域の一方の側に蛍光基の標識を付け、もう一方の側にはクエンチャーの標識を付ける。被検試料の例えば唾液又は粘膜をプローブに負荷する。
【0094】
活性プロテアーゼが存在していると、CELLSCANはその開裂されたペプチドが生じる蛍光を検出する。唾液中に活性プロテアーゼが存在していることとその濃度は、活性ウイルスの指標であるので、患者の接触感染状態の指標として有用である。
【0095】
実施例4−SARS検出用の紙−ティッシュベースの自動システム
3Cl−SARSプロテアーゼに特異的な色の標識をつけたペプチド化合物の溶液を調製する。そのペプチドは、ミリモル濃度で、pH 7.0の緩衝溶液として調製する。ティッシュ(ウェットワイプティッシュ)を、前記ペプチド化合物の溶液に浸漬し湿った状態に保持する。SARSウイルスを含有している疑いのある唾液又は粘膜の試料を、前記ティッシュに接触させる。SARSウイルスが存在すると、3CL SARSプロテアーゼが、前記標識を付けたペプチド配列を開裂して、発色反応が起こる。
【0096】
その発色反応の生成物を検出するのにいくつもの方法が考えられる。定性分析の場合、発色反応は視覚で検出できる。定量分析の場合、ティッシュは、蛍光又は色を検出するため分光光度分析機に移す。そのプロセスは、前記ティッシュを、感染しないように保護するため、自動化することができる。
【0097】
実施例5−ライノウイルス検定に使用する最適のペプチド配列の決定
ライノウイルスHRV14 3Cプロテアーゼの開裂部位は、表4に示すようにアラインメントされている。表4は、HRV14の一次配列中に現れるQGジペプチドを示し、これは開裂される6個の部位を示している。QAとEGのジペプチドの部位も示してある。これら各部位のうちの一つが開裂されることが分かっている。


【0098】
開裂部位をライノウイルスに似せた開裂ペプチドを構築して、表5に示した。

【0099】
次に、各ペプチド化合物の加水分解速度を測定する。利用した検定法は、蛍光検定法又はHPLCベースもしくはUVベースの検定法である。このような検定法は、当業者にはよく知られている。このような方法の一つは、Orr D.C.et al.,“Hydrolysis of a series of synthetic peptide substrates by the human rhinovirus 14 3C proteinase,cloned and expressed in E.coli”,J.Gen.Vir.Vol.70,pp.2931−42(1989)に記載されている。表6は、HRV14 3Cの開裂部位に似せた合成ペプチドの、開裂の相対加水分解速度を示す。

【0100】
最良の基質を、上記反応速度に基づいて選択する。得られた試験結果に基づいて、異なる大きさのペプチドのライブラリーを構築して同じ検定法で分析する。ライノウイルスの場合、最良のペプチドは、Arg−Pro−Val−Val−Val−Gln−Gly−Pro−Asnである。
【0101】
実施例6−ピコルナウイルス及びコクザッキーウイルスからの開裂ペプチドの選択
表7は、種々のピコルナウイルスとコクザッキーウイルスの2A.1C開裂部位におけるアミノ酸配列の列を示す。その開裂部位はQGジペプチドにおける開裂部位である。これらの配列は、高度の等質性を示している。このような等質性は、そのウイルス科の他のメンバーの開裂部位が同定されているならば、特定のウイルスの開裂部位を同定するのに利用できる。
【0102】
高い開裂速度を示す開裂部位が、あるウイルス科の特定のメンバーと同定されたならば、その開裂部位の配列は、これら配列の等質性に基づいて、類縁ウイルスと同定できる。


【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】ウイルスを検出するホモジニアスな検定法の模式図である。
【図2A】ピコルナウイルス類の選択された種のポリタンパク質の開裂部位を示す表である。
【図2B】ピコルナウイルス類の選択された種のポリタンパク質の開裂部位を示す表である。
【図2C】ピコルナウイルス類の選択された種のポリタンパク質の開裂部位を示す表である。
【図2D】ピコルナウイルス類の選択された種の高い加水分解速度を有するポリタンパク質の三つの開裂部位を示す表である。
【図3A】ニドウイルス類の選択された種のポリタンパク質の開裂部位を示す表である。
【図3B】ニドウイルス類の選択された種のポリタンパク質の開裂部位を示す表である。
【図3C】ニドウイルス類の選択された種のポリタンパク質の開裂部位を示す表である。
【図3D】ニドウイルス類の選択された種のポリタンパク質の開裂部位を示す表である。
【配列表フリーテキスト】
【0104】
配列番号1,5,9,13,17,21,25,29,33,37,87〜112,133はヒトライノウイルス14の配列である。
配列番号2,6,10,14,18,22,26,30,34,38はヒトライノウイルス16の配列である。
配列番号3,7,11,15,19,23,27,31,35,39はヒトライノウイルスbの配列である。
配列番号4,8,12,16,20,24,28,32,36,40はコクザッキーウイルスA21の配列である。
配列番号41,44,47,50,53,56,59,62,65,68,71,74,77,80,85,86はSARS:ヒト重症急性呼吸器症候群ウイルスの配列である。
配列番号42,45,48,51,54,57,60,63,66,69,72,75,78,81はウシコロナウイルスの配列である。
配列番号43,46,49,52,55,58,61,64,67,70,73,76,79,82,84はヒトコロナウイルスの配列である。
配列番号83はヒトライノウイルスの配列である。
配列番号113はヒトライノウイルス1Aの配列である。
配列番号114はヒトポリオウイルス−POLIMの配列である。
配列番号115はヒトポリオウイルス−POLISの配列である。
配列番号116はヒトポリオウイルス−POL32の配列である。
配列番号117はヒトポリオウイルス−POL3Lの配列である。
配列番号118はヒトコクザッキーウイルス−COXA2の配列である。
配列番号119はヒトコクザッキーウイルス−COXA4の配列である。
配列番号120はウシエンテロウイルスの配列である。
配列番号121はヒトコクザッキーウイルス−COXA9の配列である。
配列番号122はヒトコクザッキーウイルス−COXB1の配列である。
配列番号123はヒトコクザッキーウイルス−COXB5の配列である。
配列番号124はヒトエコーウイルスEC11Gの配列である。
配列番号125はヒトコクザッキーウイルス−COXB4の配列である。
配列番号126はブタ小疱病ウイルスSVDVHの配列である。
配列番号127はブタ小疱病ウイルスSVDVUの配列である。
配列番号128はヒトコクザッキーウイルス−COXB3の配列である。
配列番号129はヒトエンテロウイルスHUEV7の配列である。
配列番号130はヒトライノウイルス1Bの配列である。
配列番号131はヒトライノウイルス2の配列である。
配列番号132はヒトライノウイルス89の配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを含む、試料中のウイルスの存在を検出する方法:
酵素によって開裂点で開裂されて、第一ペプチド化合物フラグメントと第二ペプチド化合物フラグメントを生成できるペプチド化合物を、試料と接触させ、ここでシグナル発信部分が、前記第一ペプチド化合物フラグメントを生成する前記ペプチド化合物の部分に連結されており、前記酵素はウイルスの核酸によってコードされるプロテアーゼであり;そして
第一ペプチド化合物ブラグメントの存在について前記観察することによってウイルスの存在を検出し、ここで、もし第一ペプチド化合物フラグメントが存在していればウイルスは存在する。
【請求項2】
クエンチング部分が、前記第二ペプチド化合物フラグメントを生成する前記ペプチド化合物の部分に連結されており、前記シグナル発信部分と前記クエンチング部分は、クエンチング部分がシグナル発信部分のシグナルをクエンチするように相対的位置で前記ペプチド化合物に連結されている請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第二酵素によって開裂点で開裂されることができる第二ぺプチド化合物を、試料と接触させるステップをさらに含み、ここで前記第二酵素はウイルスの核酸によってコードされるプロテアーゼである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
プロテアーゼがセリンプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、システインプロテアーゼ及びメタロプロテアーゼからなる群から選択される請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
シグナル発信部分が蛍光シグナルを発信する部分、比色シグナルを発信する部分及び化学蛍光シグナルを発信する部分からなる群から選択される請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
シグナル発信部分が蛍光シグナルを発信する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
プロテアーゼがウイルスの複製中にウイルスのポリタンパク質を開裂する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ウイルスの存在が動物からの試料中で決定される請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
動物がヒトである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
試料が粘膜、唾液、うがい液、血液、血清、血漿、尿、脊髄液、痰、組織生検試料、気管支肺胞液、膣液及び涙液からなる群から選択される請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
ウイスルがニドウイルス科、ヘルペスウイルス科、アデノウイルス科、レトロウイルス科、ピコルナウイルス科及びポチウイルス科からなる群から選択される請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ウイルスが重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスである請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ウイルスがライノウイルスである請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
方法がホモジナスな検定法である請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
方法がヘテロジニアスな検定法である請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
試料中のウイルスの存在を検出するためのキットであって、前記キットは、酵素によって開裂点で開裂されて、第一ペプチド化合物フラグメントと第二ペプチド化合物フラグメントを生成できるペプチド化合物を含む試薬を含み、ここでシグナル発信部分が、前記第一ペプチド化合物フラグメントを生成する前記ペプチド化合物の部分に連結されており、前記酵素はウイルスの核酸によってコードされるプロテアーゼであるキット。
【請求項17】
クエンチング部分が、前記第二ペプチド化合物フラグメントを生成する前記ペプチド化合物の部分に連結されており、前記シグナル発信部分と前記クエンチング部分は、クエンチング部分がシグナル発信部分のシグナルをクエンチするように相対的位置で前記ペプチド化合物に連結されている請求項16に記載のキット。
【請求項18】
第二酵素によって開裂点で開裂されることができる第二ぺプチド化合物をさらに含み、ここで前記第二酵素はウイルスの核酸によってコードされるプロテアーゼである請求項16又は17に記載のキット。
【請求項19】
シグナル発信部分が蛍光シグナルを発信する部分、比色シグナルを発信する部分及び化学蛍光シグナルを発信する部分からなる群から選択される請求項16〜18のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
ウイスルがニドウイルス科、ヘルペスウイルス科、アデノウイルス科、レトロウイルス科、ピコルナウイルス科及びポチウイルス科からなる群から選択される請求項16〜19のいずれか一項に記載のキット。
【請求項21】
ウイルスが重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスである請求項20に記載のキット。
【請求項22】
ウイルスがライノウイルスである請求項20に記載のキット。
【請求項23】
以下のものを含む、試料中のウイルスを検出するための組成物:
ウイルスによってコードされる酵素によって開裂点で開裂されて、第一ペプチド化合物フラグメントと第二ペプチド化合物フラグメントを生成できるペプチド化合物であって、シグナル発信部分が、前記第一ペプチド化合物フラグメントを生成する前記ペプチド化合物の部分に連結されており、クエンチング部分が、前記第二ペプチド化合物フラグメントを生成する前記ペプチド化合物の部分に連結されており、シグナル発信部分とクエンチング部分が、クエンチング部分がシグナル発信部分のシグナルをクエンチするように、相対的位置で前記ペプチド化合物に連結されており、前記ウイルスはライノウイルス及び重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスからなる群から選択されるペプチド化合物、及び
緩衝剤。
【請求項24】
以下のステップを含む、ウイルスの検出に有用なペプチド化合物を同定する方法:
ウイルスの核酸によってコードされるポリタンパク質上に開裂点を各々含有する複数のアミノ酸配列を同定し、ここで前記ポリタンパク質はウイルスの核酸によってコードされるプロテアーゼによって各々の開裂点で開裂され;
複数の試験ペプチド化合物を調製し、ここで各々の試験ペプチド化合物はポリタンパク質上に開裂点を規定する複数のアミノ酸配列の一つを含み;
プロテアーゼによって複数の試験ペプチド化合物の開裂の反応速度を決定し、そして
プロテアーゼによる開裂の反応速度に基づいてペプチド化合物を選択し、ここで選択されたペプチド化合物はウイルスの検出に有用なものである。
【請求項25】
開裂点を各々規定するアミノ酸配列は、開裂点を含有することが知られているウイルスアミノ酸配列に対する相同性によって同定される請求項24に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【公表番号】特表2007−524387(P2007−524387A)
【公表日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−517512(P2006−517512)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【国際出願番号】PCT/US2004/019897
【国際公開番号】WO2005/017191
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.フロッピー
【出願人】(505475172)エヌエルシーファーマ, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】