説明

SARSコロナウイルスの検出法

【課題】 重症急性呼吸器症候群の診断のために、その病原ウイルスであるSARSコロナウイルスを高感度かつ迅速に検出する方法を提供すること。
【解決手段】 SARSコロナウイルスのRNAポリメラーゼの塩基配列から設計された任意の塩基配列と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマー、該プライマーを用いた核酸増幅法、核酸増幅の検出によるSARSコロナウイルス感染の診断方法、並びに重症急性呼吸器症候群診断用キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARSコロナウイルスの検出方法に関し、さらに詳しくは遺伝子の、高感度な検出法を利用した重症急性呼吸器症候群の診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重症急性呼吸器症候群(SARSと略す)は、2002年11月から中国広東省に端を発し、香港、台湾、カナダなどの国で爆発的な感染を引き起こした感染症である。世界保健機関(WHO)によると、SARS感染者の死亡率は平均15%、65歳以上の高齢者では50%以上と推計されている。SARSの病原ウイルスであるSARSコロナウイルスは、1本鎖RNAウイルスである(例えば、非特許文献1参照)。またこのウイルスは、ヒト以外の動物でも感染する事が知られている。
【0003】
SARSの主な臨床症状は38℃以上の発熱、咳、呼吸困難等の呼吸器症状であり、ほかに頭痛、悪寒戦慄、食欲不振、全身倦怠感、下痢、意識混濁などの症状が見られることもある。しかしこれらの症状は、他の呼吸器疾患、例えばインフルエンザなどとほとんど同じで、症状のみから他の疾患と鑑別する事は難しい。
【0004】
臨床検査法として免疫学的方法が知られている。これは血液、血清、尿あるいは唾液中のウイルスの抗原に対する抗体の存在を調べるもので、SARSコロナウイルスでは酵素免疫測定法(ELISA)と免疫蛍光法(IFA)の二つの方法が知られている。しかし、これらはいずれも発病初期には検出されず、ELISAでは発病後20日以降、IFAでは発病後10日以降でないと抗体が検出されない(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
この他にウイルスの遺伝子をPCR法で増幅する事で検出する方法も知られている。しかしこの方法は、増幅と検出に1時間以上必要であり、検出感度が低いという問題が示唆されていた。そこで、迅速かつ高感度にSARSコロナウイルスを検出できる検査法が望まれていた。(例えば、非特許文献3、4参照)
【0006】
本発明者らは、現在知られている方法、免疫学的測定法やPCR法より高感度で特異的かつ所要時間が短い検出方法、すなわちLAMP法を用いることで、本発明の目的を達成できた。
【0007】
【非特許文献1】World Health Organization Update 49−SARS case fatality ratio,incubation period 7 May 2003 Case fatality ratio 平成15年6月24日検索、インターネット<URL:http://www.who.int/csr/sars/archive/2003_05_07a/en/>
【非特許文献2】国立感染症研究所感染症情報センター、SARS:診断検査法(4月29日 4訂−1)平成15年6月24日検索、インターネット<URL:http://idsc.nih.go.jp/others/urgent/update41−No1.html>
【非特許文献3】Drosten C.,et al.「New Eng.J.Med.」2003年、348巻、P.1967−1976
【非特許文献4】国立感染症研究所感染症情報センター、国立感染症研究所ウイルス第三部第1室 RT−PCR法によるSARSコロナウイルス遺伝子の検出(2003年5月16日更新)平成15年6月24日検索、インターネット<URL:http://idsc.nih.go.jp/others/urgent/update56−b.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、SARSの早期診断のために、その病原ウイルスであるSARSコロナウイルスを高感度に検出させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、SARSコロナウイルスに特異的な塩基配列と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを作製し、LAMP法によりSARSコロナウイルスに特異的な塩基配列を増幅することで、SARSコロナウイルスを高感度に検出できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
(1)配列番号1で示されるSARSコロナウイルスのRNAポリメラーゼ塩基配列の、41番〜256番の塩基配列から選ばれた任意の塩基配列、又はそれらと相補的な塩基配列から設計されたオリゴヌクレオチドプライマー。
(2)SARSコロナウイルスのRNAポリメラーゼ塩基配列から選ばれた配列番号2〜13で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列から選ばれた、少なくとも連続する15塩基を含む(1)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(3)SARSコロナウイルスの標的核酸上の3’末端側からF3c、F2c、F1cという塩基配列領域を、5’末端側からR3、R2、R1という塩基配列領域を選択し、それぞれの相補的塩基配列をF3、F2、F1、そしてR3c、R2c、R1cとしたときに、以下の(a)〜(d)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする(1)〜(2)記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)標的核酸のF2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的核酸のF1c領域を有する塩基配列。
(b)標的核酸のF3領域を有する塩基配列。
(c)標的核酸のR2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的核酸のR1c領域を有する塩基配列。
(d)標的核酸のR3領域を有する塩基配列。
(4)SARSコロナウイルスに特異的な塩基配列を増幅でき、5’末端から3’末端に向かい以下の(e)〜(h)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする(1)〜(3)記載のオリゴヌクレオチプライマー。
(e)5’−(配列番号2の塩基配列に相補的な塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号3の塩基配列)−3’
(f)5’−(配列番号5の塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号6の塩基配列に相補的な塩基配列)−3’
(g)5’−(配列番号8の塩基配列に相補的な塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号9の塩基配列)−3’
(h)5’−(配列番号11の塩基配列)〜(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号12の塩基配列に相補的な塩基配列)−3’
(5)(1)〜(4)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、SARSコロナウイルスの標的核酸領域の増幅反応を行うことを特徴とするSARSコロナウイルスの検出方法。
(6)SARSコロナウイルスの標的核酸領域の増幅反応がLAMP法であることを特徴とする(5)記載のSARSコロナウイルスの検出方法。
(7)(1)〜(4)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてSARSコロナウイルスの標的核酸領域の増幅を検出することにより、SARSコロナウイルス感染の有無を診断することを特徴とする重症急性呼吸器症候群の診断方法。
(8)重症急性呼吸器症候群の診断方法において、(1)〜(4)記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とするキット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、SARSコロナウイルスに特異的な塩基配列と選択的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを作製し、LAMP法によりSARSコロナウイルスに特異的な塩基配列を増幅することで、SARSコロナウイルスを高感度かつ迅速に検出することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明において使用される試料としては、SARS感染を疑われる人間あるいは他の動物の生体由来の検体、例えば喀痰、気管支肺胞洗浄液、鼻汁、鼻腔吸引液、鼻腔洗浄液、鼻腔拭い液、咽頭拭い液、うがい液、唾液、血液、血清、血漿、髄液、尿、糞便、組織などが挙げられる。また、感染実験などに用いられた細胞やその培養液、あるいは生体由来の検体や培養細胞などから分離したウイルスを含む検体なども試料となりうる。これらの試料は分離、抽出、濃縮、精製などの前処理を行っても良い。
【0013】
このような核酸の増幅は、納富らが開発した、PCR法で不可欠とされる温度制御が不要な新しい核酸増幅法:LAMP(Loop−mediated Isothermal Amplification)法と呼ばれるループ媒介等温増幅法(特許公報国際公開第00/28082号パンフレット)で達成される。この方法は、鋳型となるヌクレオチドに自身の3’末端をアニールさせて相補鎖合成の起点とするとともに、このとき形成されるループにアニールするプライマーを組み合わせることにより、等温での相補鎖合成反応を可能とした核酸増幅法である。また、LAMP法では、プライマーの3’末端が常に試料に由来する領域に対してアニールするために、塩基配列の相補的結合によるチェック機構が繰り返し機能するため、その結果として、高感度にかつ特異性の高い核酸増幅反応を可能としている。
【0014】
LAMP反応で使用されるオリゴヌクレオチドプライマーは、鋳型核酸の塩基配列の計6領域、すなわち3’末端側からF3c、F2c、F1cという領域と、5’末端側からR3、R2、R1という領域の塩基配列を認識する少なくとも4種類のプライマーであって、各々インナープライマーF及びRとアウタープライマーF及びRと呼ぶ。また、F1c、F2c、F3cの相補配列をそれぞれF1、F2、F3、またR1、R2、R3の相補鎖をR1c、R2c、R3cと呼ぶ。インナープライマーとは、標的塩基配列上の「ある特定のヌクレオチド配列領域」を認識し、かつ合成起点を与える塩基配列を3’末端に有し、同時にこのプライマーを起点とする核酸合成反応生成物の任意の領域に対して相補的な塩基配列を5’末端に有するオリゴヌクレオチドである。ここで、「F2より選ばれた塩基配列」及び「F1cより選ばれた塩基配列」を含むプライマーをインナープライマーF(以下IPF)、そして「R2より選ばれた塩基配列」と「R1cより選ばれた塩基配列」を含むプライマーをインナープライマーR(以下IPR)と呼ぶ。一方、アウタープライマーとは、標的塩基配列上の『「ある特定のヌクレオチド配列領域」の3’末端側に存在するある特定のヌクレオチド配列領域』を認識かつ合成起点を与える塩基配列を有するオリゴヌクレオチドである。ここで、「F3より選ばれた塩基配列」を含むプライマーをアウタープライマーF(以下OPF)、「R3より選ばれた塩基配列」を含むプライマーをアウタープライマーR(以下OPR)と呼ぶ。ここで、各プライマーにおけるFとは、標的塩基配列のセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマー表示であり、一方Rとは、標的塩基配列のアンチセンス鎖と相補的に結合し、合成起点を提供するプライマー表示である。ここで、プライマーとして用いられるオリゴヌクレオチドの長さは、10塩基以上、好ましくは15塩基以上で、化学合成あるいは天然のどちらでも良く、各プライマーは単一のオリゴヌクレオチドであってもよく、複数のオリゴヌクレオチドの混合物であってもよい。
【0015】
LAMP法においては、インナープライマーとアウタープライマーに加え、さらにこれとは別のプライマー、すなわちループプライマーを用いる事ができる。ループプライマー(Loop Primer)は、ダンベル構造の5’末端側のループ構造の一本鎖部分の塩基配列に相補的な塩基配列を持つプライマーである。このプライマーを用いると、核酸合成の起点が増加し、反応時間の短縮と検出感度の上昇が可能となる(特許文献国際公開第02/24902号パンフレット)。ループプライマーの塩基配列は上述のダンベル構造の5’末端側のループ構造の一本鎖部分の塩基配列に相補的であれば、標的遺伝子の塩基配列あるいはその相補鎖から選ばれても良く、他の塩基配列でも良い。また、ループプライマーは1種類でも2種類でも良い。
【0016】
SARSコロナウイルスはRNAウイルスである。LAMP法は鋳型がRNAの場合には、鋳型がDNAの場合の反応液に逆転写酵素を添加する事で、同様に核酸増幅反応を進めることができる(RT−LAMP法)。
【0017】
本発明者らはSARSコロナウイルスに特異的な塩基配列を迅速に増幅できるLAMP法のプライマーの塩基配列とその組み合わせを鋭意研究した結果、SARSコロナウイルスのRNAポリメラーゼの塩基配列(非特許文献3)より配列番号1で示される塩基配列から、プライマーセットとして次のA、Bの2組を選定した。
(プライマーセットA)
IPF−A:5’−TACATCAAAGCCAATCCACGCAATATGTTTATCACCCGCGAAGA−3’ (配列番号14)
OPF−A:5’−ACCAAGTCAATGGTTACCCT−3’ (配列番号4)
IPR−A:5’−
GCTGTCATGCAACTAGAGATGCTACAGCTACTAAGTTAACACCTG−3’ (配列番号15)
OPR−A:5’−GTGTCAACATAACCAGTCGG−3’ (配列番号16)
LPF−A:5’−ACGAACGTGACGAATAGCT−3’ (配列番号20)
LPR−A:5’−GTACTAACCTACCTCTCCAGC−3’ (配列番号21)
(プライマーセットB)
IPF−B:5’−TGCATGACAGCCCTCGAAGAAGCTATTCGTCAC−3’ (配列番号17)
OPF−B:5’−CTAATATGTTTATCACCCGC−3’ (配列番号10)
IPR−B:5’−GCTGTGGGTACTAACCTACCTGTCAACATAACCAGTCGG−3’ (配列番号18)
OPR−B:5’−CTCTGGTGAATTCTGTGTT−3’ (配列番号19)
LPF−B:5’−AAAGCCAATCCACGC−3’ (配列番号22)
LPR−B:5’−CCAGCTAGGATTTTCTACAGG−3’ (配列番号23)
【0018】
核酸合成で使用する酵素は、鎖置換活性を有する鋳型依存性核酸合成酵素であれば特に限定されない。このような酵素としては、Bst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)、Bca(exo−)DNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント等が挙げられ、好ましくはBst DNAポリメラーゼ(ラージフラグメント)が挙げられる。
【0019】
RT−LAMP法に用いる逆転写酵素としては、RNAを鋳型としてDNAを合成する活性を有する酵素であれば特に限定されない。このような酵素としては、AMV、Cloned AMV、MMLVの逆転写酵素、SuperscriptII、ReverTraAce、Thermoscript等が挙げられ、好ましくは、AMVあるいはCloned AMV逆転写酵素が挙げられる。またBca DNAポリメラーゼのように、逆転写酵素活性とDNAポリメラーゼ活性の両活性を有する酵素を用いると、RT−LAMP反応を1つの酵素で行う事ができる。
核酸合成で使用する酵素や逆転写酵素は、ウイルスや細菌などから精製されたものでも良く、遺伝子組み換え技術によって作製されたものでも良い。またこれらの酵素はフラグメント化やアミノ酸の置換などの改変をされたものでも良い。
【0020】
LAMP反応後の核酸増幅産物の検出には公知の技術が適用できる。例えば、増幅された塩基配列を特異的に認識する標識オリゴヌクレオチドや蛍光性インターカレーター法(特許文献特開2001−242169号公報)を用いたり、あるいは反応終了後の反応液をそのままアガロースゲル電気泳動にかけても容易に検出できる。アガロースゲル電気泳動では、LAMP増幅産物は、塩基長の異なる多数のバンドがラダー(はしご)状に検出される。また、LAMP法では核酸の合成により基質が大量に消費され、副産物であるピロリン酸が、共存するマグネシウムと反応してピロリン酸マグネシウムとなり、反応液が肉眼でも確認できる程に白濁する。したがって、この白濁を、反応終了後あるいは反応中の濁度上昇を経時的に光学的に観察できる測定機器、例えば400nmの吸光度変化を通常の分光光度計を用いて確認することで、核酸増幅反応を検出することも可能である(特許文献国際公開第01/83817号パンフレット)。
【0021】
本発明のプライマーを用いて核酸増幅の検出を行う際に必要な各種の試薬類は、あらかじめパッケージングしてキット化する事ができる。具体的には、本発明のプライマーあるいはループプライマーとして必要な各種のオリゴヌクレオチド、核酸合成の基質となる4種類のdNTP、核酸合成を行うDNAポリメラーゼ、逆転写活性を持つ酵素、酵素反応に好適な条件を与える緩衝液や塩類、酵素や鋳型を安定化する保護剤、さらに必要に応じて反応生成物の検出に必要な試薬類がキットとして提供される。
【実施例】
【0022】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
実施例1.検出感度の確認
LAMP法と、PCR法との検出感度の比較を行った。
1.試料及び試薬の調製
1)試料
SARSコロナウイルスのRNAポリメラーゼの配列より選ばれた配列番号1のRNAをYeast RNA(Ambion社製)溶液(50ng/μL)に溶解し、1μLあたり10コピーから10コピーまでの希釈液と、2.5、5、10コピーの希釈液を作製し、試料溶液とした。また同Yeast RNA溶液を0コピーの試料溶液とした。
【0023】
2)PCR法に用いる試薬組成及び濃度
PCR法で使用するSARSコロナウイルス検出用プライマーとして、RNAポリメラーゼゲノムの195bpを増幅する配列番号24および25で示される塩基配列からなる2種類のプライマーを使用した、非特許文献4記載の方法に準じて行った。
cDNAの合成反応溶液組成
・5×First Strand Buffer(Invitrogen) 4μL
・10mM dNTPs 1μL
・0.1M DTT 2μL
・Random primer(50ng/μl,TAKARA) 1μL
・RNase Inhibitor(40U/μl,Invitrogen) 1μL
・SuperScriptII(200U/μl,Invitrogen) 1μL
・Distilled water 5μL
・試料溶液 5μL
PCR反応溶液組成
・10×Ex Taq buffer(Mg free)(TAKARA) 5μL
・25mM MgCl 4μL
・2.5mM dNTPs 4μL
・10pmol/μLプライマー 各1μL
・Ex Taq(5U/μL,TAKARA) 0.5μL
・Distilled water 33.5μL
・cDNA合成溶液 1μL
【0024】
3)LAMP法に用いる試薬組成及び濃度
プライマーセットAを用いたLAMP法による増幅のため、最終反応溶液25μL中の各試薬濃度が下記になるよう調製した。
反応溶液組成
・20mM Tris−HCl pH8.8
・10mM KCl
・8mM MgSO
・1.4mM dNTPs
・10mM(NHSO
・0.8M Betaine(Sigma)
・0.1% Tween20
・1.6μM IPF及びIPR
・0.2μM OPF及びOPR
・0.8μM LPF及びLPR
・AMV Reverse Transcriptase 0.625U(Invitrogen)
・Bst DNA polymerase 8U(New England Biolabs)
・0.25μg/mL EtBr(ニッポンジーン)
プライマーセットBを用いた反応ではAMV Reverse Transcriptase 0.625Uに代えてCloned AMV Reverse Transcriptase(Invitrogen)2Uを用いた。
【0025】
2.核酸増幅法による反応
1)PCR法による反応
cDNA合成反応は、標的配列0または10〜10コピーを含む試料溶液5μLを上記のcDNA合成反応溶液に加え、42℃50分その後70℃15分で行った。PCR反応は、上記PCR反応溶液に、cDNA合成した溶液1μLを加え、最終反応溶液50μLとし、0.2mLの専用チューブ内でサーマルサイクラーPTC−200(MJリサーチ社製)を用い、熱変性95℃30秒、アニーリング56℃30秒、ポリメラーゼ伸長反応72℃30秒を1サイクルとして計40サイクル行った。所要時間は約1時間だった。反応終了後の反応溶液5μLを2%アガロースゲルで電気泳動を行った。
2)LAMP法による反応
プライマーセットAを用いたLAMP用試薬に、標的配列0または10〜10コピーを含む試料溶液1μLを加え、最終反応溶液25μLとし、0.2mLの専用チューブ内で、63℃で60分LAMP反応を行った。反応終了後の反応溶液5μLを2%アガロースゲルで電気泳動を行った。
3.電気泳動法による各増幅反応の検出感度の比較結果
PCR法の電気泳動の結果を図1に、プライマーセットAを用いたLAMP法の電気泳動の結果を図2に示す。その結果、PCR法、LAMP法とも増幅産物の確認ができた。PCR法では、10コピーまでは195bpの特異的バンドが明瞭に認められたが、10コピーでは薄いバンドとして観察された。これに対しLAMP法では、10コピーまで特異的増幅のラダー状のバンドを確認することができた。
【0026】
実施例2.LAMP法のリアルタイム測定法による検出時間の検討
プライマーセットAを用いたLAMP法の検出時間の検討は、実施例1.のLAMP法の組成25μLを用い、リアルタイム蛍光測定装置PRISM 7700(Applied Biosystems社製)によって反応温度を63℃に固定して行った。図3に結果を示す。
この結果、0コピーでは60分でも蛍光の増加は見られず、10コピー以上では20分以内に蛍光の増加が確認され、20分で10コピーの存在を検出できた。
プライマーセットBを用いたLAMP法の検出時間の検討は、リアルタイム濁度測定装置LA−200(テラメックス社製)を用いてリアルタイム濁度測定法によって行った。実施例1.のLAMP法の組成25μLを用い、反応温度を63℃に固定して行った。図4に結果を示す。
この結果、0コピーでは60分でも濁度の増加は見られず、2.5コピー以上では35分以内に濁度の増加が確認され、35分で2.5コピーの存在を検出できた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】電気泳動法によるPCR法の検出感度を示す。レーン1と7はマーカーレーン2は試薬ブランクレーン3は0コピーレーン4は10コピーレーン5は10コピーレーン6は10コピー
【図2】電気泳動法によるプライマーセットAを用いたLAMP法の検出感度を示す。レーン1は0コピーレーン2は10コピーレーン3は10コピーレーン4は10コピーレーン5は10コピーレーン6はマーカー
【図3】プライマーセットAを用いたリアルタイム蛍光測定法の検出時間を示す。
【図4】プライマーセットBを用いたリアルタイム濁度測定法の検出時間を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1で示されるSARSコロナウイルスのRNAポリメラーゼ塩基配列の、41番〜256番の塩基配列から選ばれた任意の塩基配列、又はそれらと相補的な塩基配列から設計されたオリゴヌクレオチドプライマー。
【請求項2】
SARSコロナウイルスのRNAポリメラーゼ塩基配列から選ばれた配列番号2〜13で示される塩基配列又はそれらと相補的な塩基配列から選ばれた、少なくとも連続する15塩基を含む請求項1記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
【請求項3】
SARSコロナウイルスの標的核酸上の3’末端側からF3c、F2c、F1cという塩基配列領域を、5’末端側からR3、R2、R1という塩基配列領域を選択し、それぞれの相補的塩基配列をF3、F2、F1、そしてR3c、R2c、R1cとしたときに、以下の(a)〜(d)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする請求項1〜2記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(a)標的核酸のF2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的核酸のF1c領域を有する塩基配列。
(b)標的核酸のF3領域を有する塩基配列。
(c)標的核酸のR2領域を3’末端側に有し、5’末端側に標的核酸のR1c領域を有する塩基配列。
(d)標的核酸のR3領域を有する塩基配列。
【請求項4】
SARSコロナウイルスに特異的な塩基配列を増幅でき、5’末端から3’末端に向かい以下の(e)〜(h)から選ばれた塩基配列から成ることを特徴とする請求項1〜3記載のオリゴヌクレオチドプライマー。
(e)5’−(配列番号2の塩基配列に相補的な塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)〜(配列番号3の塩基配列)−3’
(f)5’−(配列番号5の塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号6の塩基配列に相補的な塩基配列)−3’
(g)5’−(配列番号8の塩基配列に相補的な塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号9の塩基配列)−3’
(h)5’−(配列番号11の塩基配列)−(塩基数0〜50の任意の塩基配列)−(配列番号12の塩基配列に相補的な塩基配列)−3’
【請求項5】
請求項1〜4記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いて、SARSコロナウイルスの標的核酸領域の増幅反応を行うことを特徴とするSARSコロナウイルスの検出方法。
【請求項6】
SARSコロナウイルスの標的核酸領域の増幅反応がLAMP法であることを特徴とする請求項5記載のSARSコロナウイルスの検出方法。
【請求項7】
請求項1〜4記載のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてSARSコロナウイルスの標的核酸領域の増幅を検出することにより、SARSコロナウイルス感染の有無を診断することを特徴とする重症急性呼吸器症候群の診断方法。
【請求項8】
重症急性呼吸器症候群の診断方法において、請求項1〜4記載のオリゴヌクレオチドプライマーを含むことを特徴とするキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【国際公開番号】WO2005/001097
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【発行日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−510995(P2005−510995)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008355
【国際出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000120456)栄研化学株式会社 (67)
【Fターム(参考)】