説明

SMDチョークコイル

【課題】本発明は低電圧、大電流に対応したパソコン、グラフィックカード、高周波電源等に使用される磁性素子用金属磁性材料及びSMDパワーチョークコイルを提供する。
【解決手段】本発明の磁性素子用金属磁性材料は、アトマイズ製法で得られたFe−Si−Al系合金センダストで平均粒径が10〜70μmからなる磁性粉末を大気中又は酸化性雰囲気にて600℃〜1000℃で焼成し、この焼成粉末の50〜90wt%に平均粒径1〜10μmのカーボニル鉄粉を5〜45wt%,Feー0.3〜4wt%Cr合金粉末を5〜45wt%、但しカーボニル鉄粉,Feー0.3〜4wt%Cr合金粉末は合わせて10〜50wt%混合してなるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低電圧、大電流対応したパソコン、グラフィックカード、高周波電源等に使用される磁性素子用金属磁性材料及びSMDパワーチョークコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低電圧、大電流に対応したコイル内装一体型SMDパワーチョークコイルは、DCバイアスに対して安定したインダクタンス値を得るには、初透磁率μが小さく飽和磁束密度が高いこと及び、金属磁性粉末自体の高い絶縁性が要求され、母体がカーボニル鉄粉以外は困難であった。
【0003】
埋め込み型SMDパワーチョークコイルに用いられる材料は、フェライトに替わり飽和磁束密度の高い金属磁性粉末、すなわちパーマロイ粉末、カーボニル鉄粉、センダスト粉末が用いられてきた。
しかしながら、パーマロイ粉末はFe-Ni系で原料が高く、カーボニル鉄粉は工法上鉄が主成分ながら、価格が鉄粉の数倍と高く、且つ粒径も15μm以下と微粉末で、金属粉間の絶縁と流動性の良い材料を作る事が非常に困難であった。また、製法上その形状を整える事は困難である。
鉄粉自体は安価であるが損失が大きく、且つDCバイアス特性に対して、パーマロイ、カーボニル鉄粉、センダストに比し格段に悪い。
【0004】
これに対しセンダストはFe−Si−Al系で材料費が比較的安く、又粒径も微粒(平均粒径10μm近辺)、中粒(平均粒径30μm近辺)、粗粒(平均粒径70μm近辺)と選択巾が広い。
センダスト粉末は大気中で焼成することにより、表面酸化で合金粒子の表面の絶縁抵抗と透磁率の制御が出来、コイル埋め込み型SMDパワーチョーク用金属磁性材料として製造上の粒子間絶縁が容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3149212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は低電圧、大電流に対応したパソコン、グラフィックカード、高周波電源等に使用される磁性素子用金属磁性材料及びSMDパワーチョークコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の磁性素子用金属磁性材料は、アトマイズ製法で得られたFe−Si−Al系合金センダストで平均粒径が10〜70μmからなる磁性粉末を大気中又は酸化性雰囲気にて600℃〜1000℃で焼成し、この焼成粉末の50〜90wt%に平均粒径1〜10μmのカーボニル鉄粉を5〜45wt%,Feー0.3〜4wt%Cr合金粉末を5〜45wt%、但しカーボニル鉄粉,Feー0.3〜4wt%Cr合金粉末は合わせて10〜50wt%混合してなるものである。
【0008】
本発明の磁性素子用金属磁性材は、正方形又は長方形状で一辺が3mm〜13mm、高さ1〜7mmのコイル埋め込み型SMDパワーチョークコイルに使用されるものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、コイル埋め込み型SMDパワーチョークコイルの製造上の難点とされていた母体金属粉末の初透磁率μを制御し、正方形又は長方形状で一辺の長さ3mm〜13mm、高さ1mm〜7mmのコイル埋め込み型パワーチョークコイルの磁性コアーで、母体原料となるセンダストの初透磁率μをカーボニル鉄粉の初透磁率μ以下に低下させた後、センダストの50〜90wt%にカーボニル鉄粉、Fe−Cr合金粉末をそれぞれ5〜45wt%、合わせて10〜50wt%の範囲内で混合比を制御することにより市場より要求されるコイル埋め込み型SMDパワーチョークコイルの形状、インダクタンス、DCバイアスの要求特性等を任意に制御した製品を可能とした。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、コイル埋め込み型パワーチョークコイル材料を、主原料であるセンダスト粉末とカーボニル鉄粉、Feー0.3〜4wt%Cr合金粉末を複合化することにより、優れたDCバイアスと高い絶縁性を有し、センダストの焼成条件の様々な設定で初透磁率μのコントロールとカーボニル鉄粉、Feー0.3〜5wt%Cr合金粉末の混合割合を自在に変えることで、多種のSMDパワーチョークコイルの特性制御を可能とするものである。
磁性材料の初透磁率μを目的に合わせて制御することによりパワーチョークコイルとして必要とされる大電流と高いDCバイアス、インダクタンスを持つ目的にあった製品を提供できる。
本発明では磁性粉末成形体の磁気特性・初透磁率μが20前後でDCバイアスが87%以上の製品を得ることを目的とする。
この特性は大気中熱処理により表面酸化したセンダストと成形性の良いカーボニル鉄粉、鉄粉より若干高硬度のFeー0.3〜4wt%Cr合金粉末の混合体により得られることを見出した。
ここでセンダストは焼成を行うと初透磁率μは低くなる。
この低くなった初透磁率μをカーボニル鉄粉、Feー0.3〜4wt%Cr合金粉末との混合により回復させようとするものである。
ここでカーボニル鉄粉の初透磁率μは焼成を行ったセンダストの初透磁率μより高いことが望ましい。
【0011】
センダストとはFe−9.6Si−5.4Al合金で通常Siは8.3〜11.5wt%,Alは4.5〜6.5wt%の範囲である。その粒度は粒径5〜90μmのものを用意した。
カーボニル鉄粉とは鉄カーボニルから化学的に作られた微細な球状の高純度鉄である。その不純物範囲はC(炭素)0.01wt%以下、O(酸素)0.01wt%以下である。
製法が違っても同一純度、同一形状であればその効果は同じである。粒径0.3〜15μmのサンプルを準備し実験に供した。
FeーCr合金は高Cr領域(Cr12%以上)合金はアルファ型ステンレスとして知られている。
低クロム域では高温域でオーステナイト域を持っている。このためクロム含有量如何によっては球状粉を作る為アトマイズ法を用いると残留オーステナイトが出来やすくなる。 Cr量は変態の可能性とその効果を考え0.3〜5wt%の範囲で実験に供した。
【0012】
本発明ではセンダストを大気中あるいは酸化性雰囲気中で高温加熱し、磁気特性(初透磁率)の調整を行う。
また、同時にセンダスト粉末の表面にアルミ酸化物(Al23)を主とする適切な絶縁性皮膜をつける。センダスト粉末を大気中で加熱し適切な磁気特性、絶縁性を得る最低加熱温度を測定した。その結果を表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
表1の評価で○は使用に問題なし、×は使用に問題があることを表す。
磁気特性は初透磁率μの25を得られる温度を参考までに示し、絶縁性は絶縁抵抗1.0E+8(Ω)が得られる条件でもって判断した。
センダスト粉末は平均粒径が10μm未満だと焼成で燃えやすく、平均粒径5μmでは良好な絶縁性を得るための焼成温度600℃で大気中加熱すると過酸化となり特性が得られない。平均粒径70μmを超えると適切な磁気特性(初透磁率)範囲を得るに焼成温度は1100℃と高くなり、通常の生産に適さない。
表面絶縁性を得るにはいずれの粒度でも大気中600℃以上の加熱が必要である。
絶縁性は高温で加熱するほど高い値が得られるが、工業的に生産するには1000℃以下が望ましい。
この結果からセンダストの適切な平均粒径は10μm以上、70μm以下となる。
カーボニル鉄粉は平均粒径0.3〜15μmの範囲でセンダスト、Feー0.3〜5wt%Cr合金粉末との混合性、プレスによる成形性のテストを行った。この結果を表2に示す。
【0015】
【表2】

【0016】
表2の混合、成形性で○は特性良好な事をあらわす。
カーボニル鉄粉にはセンダスト、FeーCr合金粉末との組合せからその初透磁率μは20以上ある事が望ましい。
平均粒径0.3μmでは混合性、初透磁率μは20以下で使用に耐えず、また平均粒径15μmになるとカーボニル鉄粉粒子がセンダスト、FeーCr合金粉末粒子間に上手く入り込めず成形性が悪い。表2の結果からカーボニル鉄粉の適切な平均粒径の範囲は1μm以上、10μm以下となる。
また、その初透磁率μも必然的に下限は20、上限は35が望ましい。
FeーCr合金粉末は全体の成形性を上げ、充填密度を上げ、良好な特性を引き出す為に添加する。
磁気特性は純鉄並みで、形状は球状でその平均粒径は2〜30μm、クロム含有量は0.3〜4wtが適切である。
表3にカーボニル鉄粉とFeーCr合金粉末の強度比較を示す。
【0017】
【表3】

【0018】
この強度比較は粉末を圧縮し同一変形する強度比から求めた。
この合金の強度はCr0.3wt%でカーボニル鉄粉の1.1倍、4wt%で2倍に達する。
5wt%添加では2.5倍となる。この値は硬度換算でHV60〜150に相当する。 センダスト、カーボニル鉄粉とこのFeーCr合金を混合しプレス成型した時、カーボニル鉄粉とこのFeーCr合の強度差により嵩密度が上がり良好な磁気特性が得られることを見出した。
Cr量が0.2wt%未満では強度は純鉄と余り変わらずその添加効果は薄く、4wt%を越すと硬くなりすぎ又残留オーステナイトの出る可能性も高くなり好ましくない。
反って嵩密度を落とす事になる。
平均粒径2μm未満ではその効果は鈍く、30μmを超えると返って成形性が悪くなる。Fe−Cr合金のオーステナイト域は合金中の炭素量が多くなると広くなる事が知られている。
Fe−Cr合金中の炭素量は0.1wt%以下であることが求められる。0.1wt%を超えると合金の硬度が必要以上に上がり、残留オーステナイト量も増え、磁気特性も落ちる。
【0019】
以下に実施サンプルの製作例を示す。
センダストは適切な平均粒径10μm以上、70μm以下の内で、カーボニル鉄粉は適切な平均粒径の範囲1μm以上、10μm以下の内で、Fe−Cr合金粉末はCr含有量は0.3〜4wt%、平均粒径2〜30μmの範囲内で製作した。参考の為、その領域外のサンプルも製作し実験に供した。
ここでその一例として素材の磁気特性を示すが平均粒径40μmのセンダスト粉末の初透磁率μは37.2、平均粒径60μmのセンダスト粉末の初透磁率μは39.1であった。平均粒径5μmのカーボニル鉄粉の初透磁率μは26.44であった。
前記センダスト粉末は、たとえば初透磁率μが26.44のカーボニル鉄粉に対しては、それより低い初透磁率μ即ち10〜25になるように大気中又は酸化性雰囲気中で焼成した後、前記カーボニル鉄粉と混合調整する。嵩密度を上げることを目的にFe−Cr合金粉末をも合わせて加える。
磁性素子用金属磁性材はこの混合調整材料に、さらに成形性、絶縁性向上のため粉末エポキシ1〜3wt%、タルク1〜3wt%、エポキシ系ワニスを2〜4wt%の範囲で添加した。
【0020】
本発明の磁性素子用金属磁性材料について、以下に詳細に説明する。
平均粒径5〜90μmのセンダスト粉末を大気中で600℃〜1100℃、安定時間15分で焼成した後、355μmの網で篩い解砕した。
これらの焼成粉末と焼成なしの粉末について、それぞれの初透磁率μと絶縁抵抗、成型密度を調べた。
この結果、平均粒径5μm未満、70μmを超えるものは表1で表したとおり不適であった。
平均粒径5〜70μmの範囲で焼成した一例として40μm,60μmの例を図4に示す。
【0021】
【表4】

【0022】
初透磁率μと絶縁抵抗の測定試料は、次のようにして得た。
焼成済みセンダスト粉末100wt%に対しエポキシ粉末2wt%を加え、2分攪拌混合し、さらにエポキシワニス1wt%を添加し30分攪拌混合した。
この混合材料を70℃〜80℃のオーブンで300分乾燥した後、355μmの網を通して顆粒を作成した。
この顆粒をトロイダル形状で、外形Φ10mm×内径Φ55mm、重量1g、成型圧力5ton/cmで成型し、170℃で30分間硬化させ測定試料とした。
最初に成型密度と絶縁抵抗を測定した後、このトロイダルにΦ0.4mmのワイヤーを10回巻線して、LCRメーターでインダクタンスを測定し初透磁率μを算出した。
センダストの初透磁率μは、平均粒径40μm時で7000℃以上、平均粒径60μm時で800℃以上の温度で焼成することにより、例えば粒径5μmカーボニル鉄粉の初透磁率μの26より小さくすることができ、より特性を上げることができた。
平均粒径10μmのセンダストを1000℃で焼成した時その初透磁率μは10であった。
これが使用できる最低限の値である。
センダストの平均粒径が小さければ、センダストの初透磁率μは低下しやすかった。
焼成センダストは温度が上がるほど密度と初透磁率μが低下し、強度も弱くなる。
初透磁率μが小さいほど、DCバイアス特性が向上することは一般的に知られているが、逆にインダクタンスの低下が起こるため、双方の利点・欠点を補える材料が必要となってくる。
インダクタンスの低下を補うため、コイルの巻数を増やそうとすれば、直流抵抗が増大し発熱が大きくなるため、大きな電流が流せなくなってしまう。
そこで、カーボニル鉄粉より低い初透磁率μを持たせたセンダスト粉末に、カーボニル鉄粉を混合し、密度を上げることで、多くの磁性粉を閉じ込めてインダクタンスを回復させ、同時にDCバイアスを向上させることを試みた。
【0023】
センダスト粉末とカーボニル鉄粉、Fe−Cr合金粉末を混合した配合材料の詳細を説明する。
センダストとカーボニル鉄粉、FeーCr合金粉末にタルクを加えた合計重量部を100wt%とし、カーボニル鉄粉を5〜45wt%の範囲内で、FeーCr合金粉末を5〜45wt%の範囲内で、カーボニル鉄粉とFeーCr合金粉末合わせて10〜50wt%の範囲内の組み合わせで混合した13種類の配合材を作成した。
また、Cr、混合比を幅広くとった試料も参考の為製作した。
タルクは加熱硬化後の強度向上と、絶縁性を安定させるため0〜3wt%の添加が良好であった。
ここでタルクは必ずしも加えなくとも、替わりにエポキシ粉末、ワニスを増やしても良い。
各々の混合粉材料の合計重量部に対し、エポキシ粉末をさらに1〜5wt%の範囲で秤量して加え、約2分間混合攪拌する。
さらに、前記合計重量部に対しエポキシワニス1〜5wt%、オクチックス錫0.3wt%、MEK2.5vol%を秤量して加え、60分攪拌した。
オクチックス錫は材料の保湿調整のためであり、材料が短期間に使用されるのであれば必ずしも必要とはしない。
こうして得られた配合材料を、250μmの篩を通した後、流動性の改善を行うために80℃で2Hr乾燥させた。
この乾燥させた混合粉をさらに355μmの網を通しながら揉み解し、磁性素子用金属磁性材料の配合材顆粒を完成させた。
【0024】
配合材料の測定結果から導き出された、最適な焼成センダストの初透磁率μとカーボニル混合量の関係を調べた結果を説明する。
試料の形状は(10mm×10mm角)×高さ4mmとし、平角線の幅1.8mm×厚0.5mmを3.5Ts巻いたコイルを5ton/cmの成型圧で一体成型した。
成型した後、170℃で60分加熱硬化し測定用試料を作成した。
センダストの焼成温度とカーボニルの混合量を変化させることで容易にその初透磁率μを制御することが可能であり、センダストの初透磁率μをカーボニル鉄粉の初透磁率μより低くする組み合わせは自在に行うことができる。
例えば、粒径40μmのセンダストとカーボニル鉄粉、FeーCr合金粉末混合材ではその初透磁率μは12.5から26.1であり、センダストの粒径60μmではその初透磁率μは14.5から26.2であった。
ここで、焼成上がりでセンダストの初透磁率μを管理する目的は製品のDCバイアスを管理するためであり、配合材料の初透磁率μは工程管理上、インダクタンスの管理にも用いるものである。
センダストにカーボニル鉄粉、FeーCr合金粉末を添加する事によりDCバイアスを改善するが、それを初透磁率μで管理する。添加するカーボニル鉄粉の初透磁率μがセンダストのそれと等しいかもしくは越えていることが大切である。
言い換えるとセンダストの初透磁率μはカーボニル鉄粉のそれ以下であることである
センダストの初透磁率μがカーボニル鉄粉のそれを越えていると適切なDCバイアスを
得ることは出来ない。
高い初透磁率μをもつセンダストは大きなインダクタンスが得られるが、反面DCバイ
アスは悪化する。
初透磁率μの高いセンダストでインダクタンスを市場要求値に合わせるためには、無機
物や有機物の絶縁物質を加えたり、コイルの巻数を減らしたり、成型圧を下げたりするが
、初透磁率μの高いセンダストのDCバイアスは80%に達しない。
そこで、最初から焼成によってセンダストの初透磁率μを低下させると初透磁率μが10〜25の小さな領域でDCバイアスは上昇するが、逆にインダクタンスが市場要求値に未達となる。
【0025】
ここでインダクタンスを上げることが必要になってくるが、そのためには焼成センダス
トの初透磁率μをさらに下げることなく同等以上の高い初透磁率μをもち、且つセンダス
トの粒子空隙に入り込み密度が上げられる微粒子のカーボニル鉄粉の混合が必要になって
くる。強度がカーボニル鉄粉より高く、センダストより低いFe−Cr合金粉末の添加に
より更に嵩密度を上げる事ができ、所望のインダクタンス下で高いDCバイアスが得られ
ることを見出した。
カーボニル鉄粉を混合すると絶縁抵抗が下がるのでセンダストの焼成によって得られる
表4の絶縁抵抗は1.0E+8Ω以上、望ましくは1.0E+10(Ω)以上あれば良い。
センダストは焼成温度が高いほど成型密度が低下するが、カーボニル鉄粉、FeーCr
合金粉末を混合することで、密度が上昇し所望の良特性が得られた。
すなわち、センダスト、カーボニル鉄粉、FeーCr合金粉末の混合により嵩密度が上
がり、多くの磁性粉を閉じ込めることが出来るので、センダストの初透磁率μが小さくて
もインダクタンスを上昇させることが可能となる。
インダクタンスを上げるためには焼成センダストの初透磁率μをさらに下げることなく同等以上の高い初透磁率μをもち、且つセンダストの粒子空隙に入り込み密度が上げられる微粒子のカーボニル鉄粉、Fe−Cr合金粉末の混合
が必要になってくる。
絶縁抵抗は1.0E+6Ω以上を目標とすればカーボニル鉄粉、FeーCr合金粉末混合材は合わせて最大50wt%まで混合することが可能である。
【0026】
【表5】

【0027】
表5の結果から好ましいDCバイアス87以上を得るにはNo,1〜No,13の粒径10〜70μmのセンダストを基幹とし、粒径1〜10μmのカーボニル鉄粉5〜45wt%、粒径2〜30μmでCr含有量0.3〜4wt%のFe−Cr合金粉末を5〜45wt%混合してなる試料は最も適していることが分かる。但しカーボニル鉄粉とFe−Cr合金粉末は合わせて全体の50%以下であることが必要である。
またセンダストの使用範囲は平均粒径10〜70μm、熱処理温度600〜1000℃の範囲であれば平均粒径1〜10μmのカーボニル鉄粉3〜45wt%の添加で所要の特性を得ることが出来た。
カーボニル鉄粉の添加料は3wt%以下、45wt%を超えるといずれも良好な特性を得ることが出来なかった。
ここで配合材の初透磁率μに着目すると、インダクタンスが0.5μH一定なら初透磁率μも一定と思われたが、カーボニル鉄粉,Fe−Cr合金の混合量が増えるにつれて、次第に低下した。
平均粒径とは無関係に焼成センダストの初透磁率μを合わせればよい。
焼成センダストの初透磁率μは、焼成温度、雰囲気、時間、粒径で変化するため、必ずしも一つの温度で焼成すればよいとは限らず、目標とする初透磁率μが得られる焼成方法をとればよい。
表5の試料でインダクタンス0.3〜0.6μHでの使用想定時、直流電流1〜30Aで、初期値にたいし、そのインダクタンス低下率は20%以下で良好であった。
【0028】
この方法で得られる材料が他のSMDパワーチョークコイルの形状や、インダクタンス値に対し優れたDCバイアスを示すかテストした結果の一例が表6である。
ここでは形状固有の差が生じ、6.5mm□(6.5mm×6.5mm角)×高さ3mmに対してはセンダストの焼成後の初透磁率μの14に対しカーボニル鉄粉、FeーCr合金粉末の混合量を40wt%とした配合材を使用した。
【0029】
【表6】

【0030】
電流値は、既存品ではインダクタンスに対し、Dcバイアス75〜85%が最高特性の値である。
しかしながら、焼成センダストとカーボニル鉄粉、FeーCr合金粉末の混合材は、表6に示すようにこの限界点を超えている。
このように、形状固有の差やインダクタンス値の違いに対しては、センダストの焼成によりその初透磁率μとカ−ボニル鉄粉、Fe−Cr合金の混合量を組みかえることで、自在に目標のDCバイアスに対応できる。
例えば40μmのセンダストを600℃で熱処理した場合は粒径5μmのカーボニル鉄粉では不適であるが、粒径10μmのカーボニル鉄粉を使用すればその初透磁率の大小関係は良好となり目的の特性を得ることが出来る。
600〜1000℃で熱処理した平均粒径10〜70μmのセンダスト50〜90wt%と平均粒径1〜10μmのカーボニル鉄粉、平均粒径2〜30μmでCrを0.3〜4wt%含むFe−Cr合金をそれぞれ5〜45wt%、両合金合わせて10〜50wt%の範囲内で適宜組あわせることにより所要の磁性特性を得ることが出来た。
【0031】
本発明は種々の形状のSMDパワーチョークコイルで、従来困難とされていた大電流でのDCバイアスを87%以上にすることを可能にした。
磁気特性改善の主な技術的な根拠として概ね次のことが推定される。
即ち、主原料であるFe−Si−Al系センダストを大気中、又は酸化雰囲気中で酸化処理し合金を形成している各々の金属を酸化させることにより合金粒子の表面抵抗を大幅に増加させるが、副次的な影響として磁気特性が低下する。センダストを大気中高温酸化すると
Al23、SiO2、Fe34、Fe2OO3などの酸化物が生成するが、絶縁性向上にはAl23、SiO2が主に貢献している。
酸化処理前の初透磁率μの初期値が35以上あったものを、25以下になるまで焼成し、酸化反応させることによりDCバイアス特性が改善されセンダスト合金粒子の表面抵抗も大幅に上昇する。
しかし、初透磁率μとプレス上がりの密度が小さいことでインダクタンスの低下を招くが、SMDパワーチョークコイルにおいてはこの欠点をカーボニル鉄粉で、Fe−Cr合金の添加でで補い密度を上げることで優れたDCバイアスを保持したままインダクタンスが回復すると考えられる。
通常は、金属粉末粒子の絶縁抵抗を上げるためにエポキシ樹脂等でコーティングするが、センダストの焼成によってセンダスト粉末の表面抵抗が大きく上昇した結果、樹脂コーティングに頼っていた絶縁性能はそれほど重要ではなく、カ−ボニル鉄粉,Fe−Cr合金は未処理でその初透磁率μを下げることなく混合できるので充分なインダクタンスと絶縁抵抗が確保出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトマイズ製法で得られたFe−Si−Al系合金センダストで平均粒径が10〜70μmからなる粉末を大気中又は酸化性雰囲気にて600℃〜1000℃で焼成し、この焼成されたセンダストの50〜90wt%に、平均粒径1〜10μmで初透磁率μが20〜35のカーボニル鉄粉と平均粒径2〜30μmでクロムを0.3〜4wt%含有するFeーCr合金をそれぞれを5〜45wt%、両合金合わせて10〜50wt%混合してなることを特徴とする磁性素子用金属磁性材料。
【請求項2】
初透磁率μが20〜35の範囲のカーボニル鉄粉に対し、センダストの初透磁率μはカーボニル鉄粉のそれ以下、10以上になるように、センダストを大気中又は酸化性雰囲気中で焼成し、前記カーボニル鉄粉とFeーCr合金を混合調整して得られたことを特徴とする請求項1記載の磁性素子用金属磁性材料。
【請求項3】
FeーCr合金粉末の圧縮強さはカーボニル鉄粉の圧縮強さの1.1〜2.0倍であることを特徴とする請求項1の磁性素子用金属磁性材料。
【請求項4】
請求項1の磁性素子用金属磁性材料に粉末エポキシ1〜3wt%、タルク1〜3wt%、エポキシ系ワニスを2〜4wt%添加し、形状は正方形又は長方形状で一辺の長さが3mm〜13mmで高さ1mm〜7mmに仕上げたことを特徴とするSMDパワーチョークコイル。

【公開番号】特開2012−142433(P2012−142433A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−294012(P2010−294012)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【特許番号】特許第4806099号(P4806099)
【特許公報発行日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(500470622)積進工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】