説明

SPRおよび/または電気化学法による検出のために少なくとも一つの金属膜と少なくとも一つの透明導電性酸化物層で覆われた固体支持体

本発明の一つの主題は、SPRおよび電気化学法による検出のために同時にまたは独立して用いられる固体支持体を形成するために、金属の少なくとも一つの層と、透明導電性酸化物(TCO)、特にスズドープ酸化インジウム(ITO)の少なくとも一つの層で覆われた、透明固体支持体に関する。本発明は、特に高周波(RF)発生器を含んでなるデバイスを用いたカソードスパッタリングにより、このような支持体を作製するための方法に関し、このデバイスも本発明に含まれる。本発明のもう一つの主題は、このような支持体を含んでなるまたは用いる、表面プラズモン共鳴(SPR)および/または電気化学プラズモン共鳴による有機または無機化合物の検出または同定のためのキットおよび方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SPRおよび電気化学法による検出のために同時にまたは独立して用いられる固体支持体を形成するために、金属の少なくとも一つの層と、透明導電性酸化物(TCO)、特にスズドープ酸化インジウム(ITO)の少なくとも一つの層で覆われた、透明固体支持体に関する。本発明は、特に高周波(RF)発生器を含んでなるデバイスを用いたカソードスパッタリングで薄膜を堆積させることにより、このような支持体を作製するための方法に関し、このデバイスも本発明に含まれる。本発明は、このような支持体を含んでなるまたは用いる、表面プラズモン共鳴(SPR)および/または電気化学プラズモン共鳴による有機または無機化合物の検出または同定のためのキットおよび方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
表面プラズモン共鳴(SPR)は、界面方法をモニターするための、または薄膜を特徴づけるための分析ツールとしてその有用性を証明してきた、高感度分光測定技術である(1〜3)。SPR技術はマーキングなしに検出を行える。該方法の感度は、生じる表面プラズモンに起因して、金属‐誘電体界面における電磁場の刺激からきている。全反射が調整されるプリズムを介して、偏光pが金属/誘電体界面を照射し、ある角度から入射光を表面プラズモンモードとカップリングさせたときに、これらの表面プラズモンが金属表面(例えば、金)で励起される。プラズモンの形成は、ある入射角値θ、即ち共鳴角θSPRで(フォトダイオードで測定される)反射光の強度の著しい減衰により示される。このピークθSPRの位置、その最小反射因子Rminと、中間高さにおけるその幅(即ち、“半値全幅”のFWHM)は、隣接媒体の屈折率(n)と光学的深さに関するいかなる変動にも極めて敏感である。
【0003】
誘電媒体と接触する金属膜の選択は重要なパラメーターである。金属膜は作動波長のとき吸収媒体であるため、金属層の屈折率はプラズモン曲線の吸収ピークの特徴に著しい影響を与える(4〜7)。適切な金属としては、特に銀、金、銅およびアルミニウムがある(4,8,9)。銀は金の場合よりかなり狭いまたは鋭いSPRシグナルを発する(半値全幅は空気中において金で10.67°および銀で0.71°である(10))。この結果の原因は、金属の屈折率n(n=n′+in″)の実数部n′の低い値と虚数部n″の高い値である。銀は、金と比較して屈折率および光学的深さの変動に高い感受性を有している、としても記載されている(7,9〜11)。更に、50nm厚の金膜により生じるエバネッセント波の侵入長はλ=630nmに調整された光源のとき164nmであるが、銀膜の場合は同深さのとき219nmである(12)。銀はSPRチップにおける金属膜として理想的候補のようだが、金はそれより多く用いられており、それが銀の場合と比較して安定な化学的および光学的性質を有しているからである。確かに、銀の表面は反応性媒体中で化学的に不安定である。空気に曝されると銀は急速に酸化し、この酸化は水溶液中で加速される。こういう訳で、銀界面/隣接媒体の使用は、反応および生物学的相互作用のモニタリングに不可欠な光学測定に際して、長続きするとも考えられないのである(13)。銀膜の使用は、したがって、その有利な光学的性質を保つために、その表面が均一な保護層で覆われることを含意している。異なるアプローチがこの保護について考えられてきた;例えば:ポリイオネン(14)またはトリス(8‐ヒドロキシキノリン)アルミニウム(15)の場合のように、有機単膜の追加堆積は、イオン‐H相互作用に敏感な界面を得られて、近傍場カップリングを可能にする。
【0004】
今日では、SPR測定技術は分子および生体分子現象のリアルタイム検出、例えばタンパク質‐DNA相互作用、DNA‐DNA相互作用、細胞接着、DNAハイブリダイゼーション反応の研究に広く用いられている。
【0005】
チップ(またはSPR支持体)の金膜の表面へ生物学的成分を固定するために用いられる化学は、主に、チオール化化合物(16〜21)、導電性ポリマー(22〜24)または機能性デキストラン(Biacore system)の単層(25)の使用に基づいている。ある者は、生体分子の固定を行える、酸化物で用いられるシランのカップリング化学についても挙げられる。該方法は、金のような貴金属を酸化ケイ素SiOxの純良層で覆うことからなる。ある者は、プラズマ増強化学蒸着(PECVD)技術を用いて、均一かつ安定な深さのSiOxの層が堆積されている、金の層で覆われた固体支持体を製造するための方法を特に挙げられる(26〜27)。SiOxのこれらの膜は電気化学測定のために興味深いが、それにもかかわらず非常に抵抗が残されたままである。
【発明の概要】
【0006】
このように、前記からみて、常用される電気活性ウィンドウを広げながら電気化学測定にも用いられる固体支持体を得る目的で、SPR測定に適応した固体支持体に改良しうる方法を有することができれば、望ましいであろう。好ましくは、この支持体が、例えば、金の場合と比較してその有利な光学的性質(例えば:反応媒体で倍増される分析深さ;隣接媒体の屈折率の測定ウィンドウΔnの増大)も保ちながら、銀または銅金属膜で提供されたならば、その界面の安定性も有意に改善しうることは、SPR支持体へ加えられるこの変更にとり有利であろう。しかも好ましくは、その表面で有機化合物の共有結合を促進しうることも、SPR支持体へ加えられるこの変更にとり有利であろう。
【0007】
これが、本発明の目的である。
【0008】
金、銀または銅の金属層を表面上に有するSPR検出用に適応させた支持体へ、透明導電性酸化物(TCO)、例えばスズドープ酸化インジウム(ITO)の薄膜を堆積させると、SPRおよび電気化学法による検出のために同時にまたは独立して用いられるこのような支持体を得ることができた、と本発明者らは示していた。
【0009】
薄層で堆積されたITOは、電流に導電性でかつ可視および近赤外領域で透明な電極として広く用いられることが知られている。これらの薄層は、液晶ディスプレイ(LCD)、有機発光デバイス(OLED)、太陽電池、検出器、ウィンドウ、ミラーまたはレンズ加熱デバイス、熱吸収反射層、エレクトロクロムデバイスなどのようなデバイスで用いられる。
【0010】
ITOはn型縮退半導体である。その広い禁制帯(>3.5eV)が可視領域におけるその透明性を説明している。ITOの導電性は、一方で酸素ホールを生み出し、他方で結晶構造中スズイオンによるインジウムイオンの置換により、伝導帯のボトムに近いレベルにおけるロードキャリア(電子)の関与に起因している。
【0011】
このように、第一面において、本発明は、
‐SPRによる検出に使用可能な固体支持体を形成するための、少なくとも一種の金属の少なくとも一つの層、
‐透明導電性酸化物(TCO)の少なくとも一つの層、
‐および、適宜に、接着層
で部分的にまたは全部覆われた透明固体支持体を含んでなることで特徴づけられる、固体支持体に関する。
【0012】
好ましくは、本発明による固体支持体において、上記TCO層は、SPRによる検出および/または電気化学的検出に使用可能な固体支持体を形成すること、しかも好ましくはSPRによる検出および電気化学的検出に使用可能な固体支持体を形成することを可能としている。
【0013】
このように、上記TCO層がこの導電性を有するためには、それは好ましくは0<x<3のIn3−x、0<x<1のZnO1−x、0<x<2のSnO2−x、0<x<1のCdO1−x、0<x<3のGa3−x、0<x<3のTl3−x、0<x<2のPbO2−x、0<x<5のSb5−x、0<x<1のMgO1−xおよび0<x<2のTiO2−xからなる化合物の群の中から選択され、区間xの値は、この酸化物層の透明性に加えて、良いまたは一層良いコンダクタンスを得られるようにさせるものである。
【0014】
透明物質は、該物質を通過する光強度と該物質への入射光強度との比率が波長の少なくとも一つの範囲においてゼロではない物質である。
【0015】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記の透明導電性酸化物(TCO)層が規定の安定な深さを有することで特徴づけられる。
【0016】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記TCO層が、好ましくはIn、ZnO、SnO、CdO、Ga、Tl、PbO、Sb、MgO、TiOの群から選択される少なくとも一種の透明導電性酸化物を含んでなることで特徴づけられる。
【0017】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記TCO層が少なくとも二種の二元酸化物の組合せからなる少なくとも一種の透明導電性酸化物を含んでなることで特徴づけられる。
【0018】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記TCO層がTCOをドープ可能な成分も含んでなることで特徴づけられる。
【0019】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記TCO層が酸化インジウムInを含んでなる層であることで特徴づけられる。
【0020】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記TCO層が、好ましくは質量で90%Inおよび10%SnOの混合物からなるターゲット物質から合成された、スズドープ酸化インジウム(ITO)を含んでなる層であることで特徴づけられる。
【0021】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記TCO層が大気温度でかつ主として非晶質の構造で堆積されたスズドープ酸化インジウム(ITO)を含んでなる層であることで特徴づけられる。
【0022】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記TCO層が3nm〜200nmの深さを有し、好ましくは深さが2nm〜20nmであり、4nm〜10nmが最も好ましい値であることで特徴づけられる。例えば:少なくとも一つの金膜で構成されて、SPRおよび/または電気化学法による検出に使用可能なSPR支持体では、4nmが最も好ましい値である;少なくとも一つの銀膜で構成されて、SPRによる検出に使用可能なSPR支持体では、4nmが最も好ましい値である;少なくとも一つの銀膜で構成されて、SPRおよび/または電気化学法による検出に使用可能なSPR支持体では、10nmが最も好ましい値である。
【0023】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、少なくとも一種の金属で構成される上記層が、該金属が金、銀、銅およびアルミニウム、またはこれら金属のいずれかの組合せまたはそれら各々の合金からなる群で選択される層であることで特徴づけられる。
【0024】
一つの好ましい態様において、少なくとも一種の金属の上記層は、好ましくは直径が2.5nm〜100nmである、金属ナノ粒子で構成されているかまたはそれを含んでなる。
【0025】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、少なくとも一種の金属で構成される上記層が10nm〜200nm、好ましくは30nm〜50nmの深さを有することで特徴づけられる。
【0026】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記層が少なくとも一種の金属で構成される前に、好ましくは深さ1nm〜10nmの接着層で上記固体支持体が覆われ、5nm±1nmが好ましい深さであることで特徴づけられる。
【0027】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記接着層が金属層であり、該金属がチタン、クロム、ニッケル、タンタル、モリブデン、トリウム、銅、アルミニウムまたはスズ、またはこれら金属のいずれかの組合せまたはそれら各々の合金、酸化物および/または水酸化物からなる群から選択されることで特徴づけられる。
【0028】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記接着層が酸素勾配のある金属酸化物MOx層であり、Mが金、銀、銅およびアルミニウム、またはこれら金属のいずれかの組合せまたはそれら各々の合金の群から選択される少なくとも一種の金属を表わすことで特徴づけられる。
【0029】
一つの特に好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記接着層が好ましくはチタンの層であることで特徴づけられる。
【0030】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記固体支持体が少なくとも一種の有機または無機透明物質または透明物質の組合せ、例えばガラスまたは透明固体ポリマー、例えばポリメチルペンテン(TPX)、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネートで構成されていることで特徴づけられる。
【0031】
上記固体支持体は、好ましくはガラスで選択される。
【0032】
一つの具体的な態様において、本発明による固体支持体は、SPRによる検出に使用可能な固体支持体を形成するための少なくとも一種の金属の上記層が、好ましくは図20および21で示された支持体の中から選択される、金属ナノ粒子で構成された層であることで特徴づけられる。
【0033】
一つの具体的な態様において、上記金属ナノ粒子、好ましくは金または銀を含んでなる金属膜は、蒸着により得られる。
【0034】
もう一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記の透明導電性酸化物(TCO)層が、好ましくは図17で示されているように、金属ナノ粒子で構成された層で覆われ、好ましくは金属粒子が金または銀であることで特徴づけられる。しかも好ましくは、これらの金属ナノ粒子を含んでなるこの金属膜は、TCO層に金属ナノ粒子を形成させるために第二金属膜の蒸着により得られ、好ましくは上記の第二金属膜は10nm未満、好ましくは5nm未満の深さを有する(金属ナノ粒子の金属膜の実現に関する、No.WO2007/036544で公開されたBoukherroubらのPCT特許出願も参照)。
【0035】
更にもう一つの具体的な態様において、本発明による固体支持体は、上記の透明導電性酸化物(TCO)層が金属ナノ粒子で構成された層で覆われ、後者の金属ナノ粒子の層自体が、好ましくは図18または19で示されているように、TCO層で覆われていることで特徴づけられる(図19における積層数nは好ましくは2〜10(含む)であり、更に好ましくは2、3、4または5である)。
【0036】
金属ナノ粒子、好ましくは金または銀で構成されたまたはそれを含んでなる金属膜を固体支持体上に得ることは当業者に周知であり、ここでは展開されない。非制限的に、ある者は、例えば、ガラスまたは金属酸化物表面への、好ましくは直径2.5nm〜100nmの市販金属ナノ粒子の直接堆積を挙げられる(ガラス表面は、(一般的には、単分散形で負電荷を帯びて供与される)それら粒子の良い固定化のために正電荷の群を最終的に供与しうるように、予めシラン処理しておける)。ある者は、熱的に(小さな深さで金属膜の蒸着/硬化)またはITO型伝導膜上への電気化学的堆積により、このような層を得ることについても挙げられる。
【0037】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、少なくとも一つのTCO層がヒドロキシル基を有していることで特徴づけられる。
【0038】
好ましくは、ヒドロキシル基は、シラン類のような反応基へ共有結合で結合しうるように化学的に活性化され、適宜に、これらのシラン基自体はチオール、アミン、酸、シアニド、アルデヒド基、電気化学的に活性な、光活性化しうるなどの基から選択される基により、但しヒドロキシル基に活性な官能基を運ぶ他の分子(酸、アミンなど)でも官能基化される。
【0039】
活性化されたヒドロキシル基を有するTCO表面、特にITOは、チオール基で官能基化されたシラン化合物の、共有結合による固定化に使用可能である。これらのチオール基は次いで、(例えば、2‐(2‐ピリジニルジチオ)エタンアミン塩酸塩化合物との反応により)チオール官能基および末端アミン官能基を有する二官能性試薬とジスルフィド架橋を容易に形成しうる。このアミン基は次いでそこに硬化剤(架橋剤)を固定するために用いられ、後者は所定の検出法のために選択されたプローブ、例えばDNAまたはタンパク質を固定しうるように選択される。ジスルフィド架橋の存在の利点は、還元反応によりプローブを除去した後で、支持体を再使用またはリサイクルしうることである(28)。
【0040】
活性化されたヒドロキシル基を有するITO層にタンパク質または核酸のような生体分子をグラフトすることを可能にさせる表面化学のために、ある者は、N‐エチル‐N′‐(3‐ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドおよびN‐ヒドロキシスクシンイミド(EDC/NSH)の化学を用いて、少なくとも一つのITO層で被覆されたガラス支持体にN‐(2‐アミノエチル)‐3‐アミノプロピル‐トリメトキシシラン(AEAPTS)の堆積を行う方法も挙げられる(29)。核酸(RNAまたはDNA)のグラフト化のために、ある者はこれら核酸の末端の一つに予めアミノ基をグラフトして、この同タイプの試薬(EDC/NHS)を用いることに戻ることができる。
【0041】
一つの好ましい態様において、本発明による固体支持体は、上記のヒドロキシル基および/または該ヒドロキシル基と反応した官能基が、紫外線への暴露または化学的還元により上記のTCO層から脱着されうることで特徴づけられる。
【0042】
第二面において、本発明は、表面プラズモン共鳴(SPR)および電気化学法による検出のための固体支持体の製造方法であって、
‐固体支持体の少なくとも同一表面において、重ね合わせで、
‐SPRによる検出に使用可能な固体支持体を形成するために、少なくとも一種の金属で構成された少なくとも一つの層、および
‐少なくとも一つの透明導電性酸化物(TCO)層(好ましくは、該TCO層は、SPRによる検出および/または電気化学的検出に使用可能な、好ましくはSPRによる検出および電気化学的検出に使用可能な固体支持体を形成するために、少なくとも一つの透明導電性酸化物(TCO)層で構成されている)、
を堆積するステップを含んでなることで特徴づけられる方法に関する。
【0043】
透明導電性酸化物(TCO)層は、(i)有機化合物の共有結合グラフト化を促進するために、(ii)電気化学測定にも用いられる固体支持体を形成するために、(iii)必要であれば、あらゆる外部攻撃から金属層を防ぐために、ここでは堆積される。
【0044】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、好ましくは10−5〜10−7mbar以下の残圧を付与された、真空チャンバ中でTCO層の堆積が行われることで特徴づけられる。
【0045】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、TCO層の堆積が少なくとも一種の希ガス、好ましくはアルゴンの存在下、または希ガス(好ましくはアルゴン)および酸素元素含有ガス(好ましくは酸素分子)の混合物の存在下、好ましくは約5.1.10−4のpO2/pAr比で、好ましくは約0.009torrの希ガス/酸素分子混合物の存在下、部分真空中において行われることで特徴づけられる。
【0046】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、TCO層がカソードスパッタリングで固体支持体に堆積され、その際にカソードスパッタリングハウジングが少なくとも一つの発生器、好ましくは高周波(RF)発生器を含んでなり、堆積に用いられる高周波電力がターゲット表面(TCO層の原料物質)の面積、ターゲットを固体支持体(基板)から隔てる距離の関数として計算され、好ましくは10mm〜150mmの距離で0.1W/cm〜4W/cm、好ましくは78mmのターゲット‐基板距離で0.86W/cmであることで特徴づけられる。
【0047】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、上記TCO層の深さが、好ましくは78mmのターゲット/基板距離で0.86W/cmのとき0.6nm/minの速度で、堆積の時間によりコントロールされることで特徴づけられる。
【0048】
カソードスパッタリングによる堆積(図1)がこのような層の合成向けに選択の方法であったことが示されていた。それらの合成は、一般的に、堆積中に基板を加熱することにより、または堆積後に制御雰囲気下で硬化を行うことにより、多結晶層を作製する高温処理(≒400℃)を伴う。これは、本発明の態様の目的ではない。
【0049】
対照的に、我々は、小さな高周波または超高周波損失を有するプラスチック膜のような温度脆性基板、例えばZeonex(R)(日本ゼオン製のコポリオレフィン)、ポリメチルペンテン(TPX)、Transphan(R)(Lofo High Tech Film,GMBH,Germany市販の、高いガラス転移点を有する環状オレフィンポリマー)またはArton G(R)またはArtong(R)(日本合成ゴム,東京,日本製)のような透明プラスチックポリマーに、このような透明導電性層を大気温度で堆積させうる可能性を最近になり示していた。
【0050】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、上記TCO層が、0<x<3のIn3−x、0<x<1のZnO1−x、0<x<2のSnO2−x、0<x<1のCdO1−x、0<x<3のGa3−x、0<x<3のTl3−x、0<x<2のPbO2−x、0<x<5のSb5−x、0<x<1のMgO1−xおよび0<x<2のTiO2−xからなる群から選択される、好ましくはIn、ZnO、SnO、CdO、Ga、Tl、PbO、Sb、MgO、TiOの中から選択される、少なくとも一種の透明導電性酸化物を含んでなることで特徴づけられる。
【0051】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、上記TCO層が少なくとも二種の二元酸化物の組合せからなる少なくとも一種の酸化物を含んでなることで特徴づけられる。
【0052】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、上記TCO層が、InのためにSnのような、それらTCOをドープ可能な成分とのTCOの組合せを含んでなることで特徴づけられる。
【0053】
一つの特に好ましい態様において、本発明による方法は、上記TCO層が酸化インジウムInを含んでなる層であることで特徴づけられる。
【0054】
一つの更に一層特に好ましい態様において、本発明による方法は、上記TCO層が、好ましくは質量で90%Inおよび10%SnOの混合物からなるターゲット物質から合成された、スズドープ酸化インジウム(ITO)を含んでなる層であることで特徴づけられる。
【0055】
更にもう一つの好ましい態様において、本発明による方法は、上記TCO層が大気温度でかつ主として非晶質の構造で堆積されたスズドープ酸化インジウム(ITO)を含んでなる層であることで特徴づけられる。
【0056】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、上記TCO層が3nm〜200nmの深さを有し、好ましくは深さが3nm〜20nmであり、4nm〜10nmが最も好ましい値であることで特徴づけられる。例えば:少なくとも一つの金膜で構成されて、SPRおよび/または電気化学法による検出に使用可能なSPR支持体では、4nmが最も好ましい値である;少なくとも一つの銀膜で構成されて、SPRによる検出に使用可能なSPR支持体では、4nmが最も好ましい値である;少なくとも一つの銀膜で構成されて、SPRおよび/または電気化学法による検出に使用可能なSPR支持体では、10nmが最も好ましい値である。
【0057】
カソードスパッタリングにより、基板を加熱することなく、我々は主として非晶質のITO層を合成したが、それは多結晶ITO層の場合に匹敵する導電性および透明性特徴を有していた(30,31)。高圧、連続電流(DC)または適度の高周波(RF)、および大きなターゲット‐基板距離を含んでなる一連のスパッタリング条件の選択は、基板に到達する原子の熱化に有利であり、したがって非晶質層の獲得に有利である(31〜33)。
【0058】
更に、スズが非晶質ITOでキャリアの形成に関与せず、そのため非晶質ITOについて言われたことは純粋かつ非晶質Inにも当てはまることが示されていた(34〜36)。
【0059】
Inまたは非晶質ITOの最良特性を得るために、作動雰囲気下の酸素分圧は重要である(図2)。それは他のスパッタリングパラメーター(ターゲットの性質、マグネトロンの使用、DCまたはRF電力、ターゲット/基板距離など)に依存する。それは実験で求められていた(30)。これらの条件下で小さな深さdのとき、各層は非晶質または非常にわずかな多結晶構造(図3)、滑らかな表面(図4)を有し、それらの抵抗率ρは深さdの関数として一定である(図5)。
【0060】
得られる層はエンクロージャから取り出された後にいかなる処理も要せず、それらは約125〜180℃の温度まで環境下で安定であり、その温度以上のときそれらは我々の実験と様々な著者らによると著しい速度で結晶化し始める(35,37,38)。特に基板が有機物で、したがってそれ自体が温度脆性であるときに、この閾値温度は多くの用途に適合しうる。更に、硬化の不在が酸化物の表面再構築現象を抑制し(39)、それが特に分子グラフト化タイプの用途に有用な良い反応性を保持しているらしい。更に、ITOが準化学量論的酸化物であるため、分子グラフト化は(i)貴金属(Au)または半貴金属(Ag,…)で構成された表面と比較してずっと簡単であり、(ii)化学吸着(例えば、電気活性有機層を用いる化学的表面構築)のための新たな路を開いている。
【0061】
(表面プラズモン検出と並行して)電気化学測定または検出が考えられたときに、堆積された酸化物の良いコンダクタンスは積層での電気的接触にも重要である。
【0062】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、少なくとも一種の金属で構成される上記層が、該金属が金、銀、銅およびアルミニウム、またはこれら金属のいずれかの組合せまたはそれら各々の合金からなる群で選択される層であることで特徴づけられ、金、銀および銅が最も好ましい。
【0063】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、少なくとも一種の金属で構成される上記層が10nm〜200nm、好ましくは30nm〜50nmの深さを有することで特徴づけられる。
【0064】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、上記固体支持体が最初に接着層で覆われることで特徴づけられる。
【0065】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、少なくとも一種の金属で構成される上記層の堆積前に、上記接着層が1nm〜10nmの深さ、好ましくは5nm±1nmの深さを有することで特徴づけられる。
【0066】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、上記接着層が金属層であり、該金属がチタン、クロム、ニッケル、タンタル、モリブデン、トリウム、銅、アルミニウム、スズ、またはこれら金属のいずれかの組合せまたはそれら各々の合金、酸化物および/または水酸化物からなる群から選択されることで特徴づけられる。
【0067】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、上記接着層が酸素勾配のある金属酸化物MOxの層であり、Mが金、銀、銅およびアルミニウム、またはこれら金属のいずれかの組合せまたはそれら各々の合金からなる群で選択される少なくとも一種の金属を表わすことで特徴づけられる。
【0068】
一つの特に好ましい態様において、本発明による方法は、上記接着層がチタンの層であることで特徴づけられる。
【0069】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、上記TCO層の堆積前に、上記固体支持体が最初に接着層と少なくとも一種の金属で構成される上記層で覆われることで特徴づけられる。
【0070】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、必要であれば、上記接着層と少なくとも一種の金属で構成される上記層もカソードスパッタリングで堆積されることで特徴づけられる。
【0071】
本発明の興味はITO/金属/...層の温度転移の不在にもあり、各層間の拡散および/または剥離の問題が避けられるが、それらは特に多結晶ITOに基づく積層の場合に遭遇するものである(40〜42)。
【0072】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、必要であれば、上記接着層、少なくとも一種の金属で構成される上記層および上記TCO層が、一方が少なくとも一種の金属からなる上記層を成長させるために用いられる金属または合金で構成され、他方が上記TCO層を成長させるために用いられる物質で構成されている、少なくとも2つのターゲットと、適宜に、上記接着層を成長させるために用いられる金属または合金で構成されたターゲットと、必要であれば、いずれか有用なターゲットの系を備えたエンクロージャを含んでなる同一デバイス内でのカソードスパッタリングにより、上記の固体支持体へ連続的に堆積され、上記のデバイスが、エンクロージャで部分真空を作るために少なくとも一つの真空ポンプと、希ガス、好ましくはアルゴンのための少なくとも一つの制御入口と、必要であれば反応性ガス、好ましくは酸素元素、好ましくは酸素分子のキャリアガスのための追加制御入口、および/または希ガスおよび反応性ガス、好ましくは酸素元素、好ましくは酸素分子のキャリアガスの既確立混合物のための少なくとも一つの制御入口を備えていることで特徴づけられる。
【0073】
一つの好ましい態様において、本発明による方法は、上記の固体支持体が少なくとも一種の有機または無機透明物質または透明物質の組合せで構成されていることで特徴づけられる。
【0074】
好ましくは、特に製造法が大気温度でカソードスパッタリング技術を用いる場合に、上記の透明物質はガラスまたは透明固体ポリマー、例えばポリメチルペンテン(TPX)、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネートの中から選択され、ガラスが最も好ましい固体支持体である。
【0075】
第三面において、本発明は、本発明によるまたは本発明による方法で得られる固体支持体を用いることで特徴づけられる、サンプルで少なくとも一種の有機または無機化合物を調べるための、あるいはSPRおよび/または電気化学的検出により複合混合物で少なくとも一つの反応をモニターするための方法に関する。
【0076】
本発明は、特にポリマーまたは重金属を含んでなる化学または無機化合物、特に核酸、ポリペプチドまたはタンパク質、炭水化物、有機粒子、例えばリポソームまたは小胞、無機粒子(例えば、マイクロまたはナノ粒子、細胞内小器官または細胞)を含んでなる有機または生物学的化合物または構造のサンプル中における検出のための、本発明によるまたは本発明による方法で得られる支持体の使用にも関する。
【0077】
第四面において、本発明は、本発明によるまたは本発明による方法で得られる支持体を含んでなることで特徴づけられる、SPRおよび/または電気化学によりサンプルで少なくとも一種の化合物の存在および/または量を調べるための、あるいは少なくとも一つの反応をモニターするためのキットまたはサプライに関する。
【0078】
最後の面において、本発明は、本発明によるまたは本発明による方法を用いて得られる支持体を含んでなる、診断または分析デバイスに関する。
【0079】
上記のデバイスは、好ましくは、一方が少なくとも一種の金属からなる上記層を成長させるために用いられる金属または合金で構成され、他方が上記TCO層を合成するために用いられる物質で構成されている、少なくとも2つのターゲットと、必要であれば、上記接着層を成長させるために用いられる金属または合金で構成されたターゲットと、必要であれば、本発明による請求項の一つで規定されているようないずれか有用なターゲットの系を備えたエンクロージャを含んでなり、上記のデバイスは、エンクロージャで部分真空を作るために少なくとも一つの真空ポンプと、希ガス、好ましくはアルゴンのための少なくとも一つの制御取入口と、必要であれば反応性ガス、好ましくは酸素元素、好ましくは酸素分子のキャリアガスのための追加制御取入口、および/または希ガスおよび反応性ガス、好ましくは酸素元素、好ましくは酸素分子のキャリアガスの既確立混合物のための少なくとも一つの制御取入口を備えている。
【0080】
本発明の他の特徴および利点は例および図による説明の継続で明らかになるであろうが、その解説は以下で示されている。
【0081】
以下の例で挙げられた条件が本発明の興味に不利となることなく(特に装置に依存して)変動しうることは、薄層の開発に従事した全実施者により理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】RFカソードスパッタリングハウジング。 図1は、酸化物の層および/または金属層を堆積するために用いられる、カソードスパッタリングハウジングの原理図である。 ターゲットへの高周波電圧(ここで示されているようなもの、またはDC高電圧)の供給は、ターゲット(カソード)とアノードとの間で放電してプラズマを形成させる。Arイオンによるターゲットの表面のスパッタリングは、後者から成分原子を放出させる。元素がこうしてエンクロージャへ放出され、一部が反対側に置かれた基板で凝縮する。 我々は1枚のITOターゲットのみを示したが、ハウジングは有利には、異なる性質の膜の連続堆積間で真空破壊を避けるために、多数のターゲットを有している。
【図2】ITO堆積時にプラズマへ注入された酸素の割合の関数としての抵抗率ρの展開。
【図3】400℃で硬化前(非晶質状態)および後(多結晶状態)における、ガラス基板に堆積されたITO層のX線回折図。 硬化前に得られた下図は、2θ≒25°のときガラス基板の非晶質状態に起因して拡散ピークを示し、2θ≒31°のときは、非晶質状態で酸化インジウムに特徴的な他の拡散ピークが呈示されている。ある者は2θ≒30.3°;35.2°;50.5°および60.2°で非常に低い強度のいくつかのピークの存在に注目しており、これは(極めて小さな量で)多結晶状態における酸化インジウムの劈開面の回折に起因するものである。 この同サンプルの硬化後に得られた上図は、良く読み取れるように上方へずらせておいた。基板の拡散ピークがなお存在し、31°付近におけるInの拡散ピークは完全に消失し、劈開面の拡散ピークが強められている。 これらの図は、硬化が、優先配向なしに、本質的に非晶質堆積の未処理ITO層を多結晶層へ完全に変換していたことを証明している。
【図4】深さ200nmのITO層の表面状態のSEM検査。 ITOの非晶質状態にも関連した、表面形態の非常に滑らかな外観に注目せよ。
【図5】深さdの関数としてITO層の平方当たりのコンダクタンスG°=d/ρ 図5は、深さの関数として、異なるITO層で測定された平方当たりのいくつかのコンダクタンス値を示している。約200nmの深さまで、コンダクタンスは深さと比例している(四角点)。
【図6】ロードロックおよびRFカソードスパッタリング堆積エンクロージャ(上面図)。堆積エンクロージャは積層構造をとる:ITO‐Cu‐Ti。
【図7】ITO層で覆われたまたは覆われていないSPRチップの透過率の比較。ITO層により起きる反射防止効果に注目せよ。
【図8】積層構造:ITO‐Ag‐Tiにおける堆積エンクロージャの内側。
【図9】水に浸漬された異なるSPR支持体における入射角θの関数としての反射率:(A)Ag(38nm)/Ti(5nm)(黒色),(B)ITO(4nm)/Ag(38nm)/Ti(5nm)(灰色),(C)Au(50nm)/Ti(5nm)(青色),(D)ITO(4nm)/Au(40nm)/Ti(5nm)(緑色),実験曲線:点線,理論SPR曲線:実線;理論曲線に用いられるパラメーター:表3Aおよび3B参照。
【図10】大気温度で水に2時間浸漬された4SPR支持体における共鳴角の変動(ΔθSPR):(A)Ag(38nm)/Ti(5nm),(B)ITO(4nm)/Ag(38nm)/Ti(5nm),(C)Au(50nm)/Ti(5nm),(D)ITO(4nm)/Au(40nm)/Ti(5nm)。
【図11A】異なるSPR支持体における入射角θの関数としての反射率:(A)ITO(4nm)/Ag(38nm)/Ti(5nm);実験曲線:点線,理論SPR曲線:実線;理論曲線に用いられるパラメーター:表3Aおよび3B参照:水(黒色),エタノール(青色),ヘキサン(赤色),1‐ブタノール(緑色),2‐ペンタノール(灰色),1‐ヘキサノール(橙色),1,3‐プロパンジオール(紫色)。
【図11B】異なるSPR支持体における入射角θの関数としての反射率:(B)Au(50nm)/Ti(5nm);実験曲線:点線,理論SPR曲線:実線;理論曲線に用いられるパラメーター:表3Aおよび3B参照:水(黒色),エタノール(青色),ヘキサン(赤色),1‐ブタノール(緑色),2‐ペンタノール(灰色),1‐ヘキサノール(橙色),1,3‐プロパンジオール(紫色)。
【図11C】異なるSPR支持体における入射角θの関数としての反射率:(C)ITO(4nm)/Au(40nm)/Ti(5nm);実験曲線:点線,理論SPR曲線:実線;理論曲線に用いられるパラメーター:表3Aおよび3B参照:水(黒色),エタノール(青色),ヘキサン(赤色),1‐ブタノール(緑色),2‐ペンタノール(灰色),1‐ヘキサノール(橙色),1,3‐プロパンジオール(紫色)。
【図11D】異なるSPR支持体における入射角θの関数としての反射率:(D)ITO(4nm)/Cu(44nm)/Ti(5nm);実験曲線:点線,理論SPR曲線:実線;理論曲線に用いられるパラメーター:表3Aおよび3B参照:水(黒色),エタノール(青色),ヘキサン(赤色),1‐ブタノール(緑色),2‐ペンタノール(灰色),1‐ヘキサノール(橙色),1,3‐プロパンジオール(紫色)。
【図12】屈折率の関数として5SPR支持体の共鳴角θSPRの展開:ITO(4nm)/Ag(38nm)/Ti(5nm)(黒丸),Au(50nm)/Ti(5nm)(黒四角)およびITO(4nm)/Au(40nm)/Ti(5nm)(白四角);Ag(38nm)/Ti(5nm)(白丸)およびITO(4nm)/Cu(44nm)/Ti(5nm)(黒三角)の、“Windspall”ソフトウェアで求められた理論値を、比較のために加えた。
【図13A】異なる濃度のNiSOの水溶液(0.4.10−3mol/L〜50.10−3mol/L)と接触しているITO/Ag/Ti支持体の共鳴角の変動(ΔθSPR)。
【図13B】異なるSPR支持体:ITO/Ag/Ti(白四角),Au/Ti(白丸),ITO/Au/Ti(黒丸)におけるNiSO中の濃度の関数として共鳴角の変動ΔθSPR
【図14】濃度0.1mol/LのKClの溶液中50mV/sの走査速度で参照電極Ag/AgCl装備のAutolab 30装置で記録されたボルタモグラム。支持体:Au(50nm)/Ti(5nm)(黒色);ITO(4nm)/Au(40nm)/Ti(5nm)(青色)で行われた測定。Au/Ti支持体の表面へのチオール基のグラフト化が、矢印の個所で局在ピーク(−0.5V)を示すようになる。
【図15】濃度10−2mol/Lの〔Fe(CN)4−および濃度0.1mol/LのKClの混合物を含有した水溶液中50mV/sの走査速度で参照電極Ag/AgCl装備のAutolab 30装置で記録されたボルタモグラム。支持体:Au(50nm)/Ti(5nm)(黒色);ITO(4nm)/Au(38nm)/Ti(5nm)(灰色);ITO(10nm)/Ag(38nm)/Ti(5nm)(灰色点線)で行われた測定。
【図16】ポリピロールの5nmの膜の電気化学的堆積により改変された支持体における入射角θの関数としての反射率:ITO(4nm)/Ag(38nm)/Ti(5nm)(黒色),Au(50nm)/Ti(5nm)(赤色)および(c)ITO(4nm)/Au(40nm)/Ti(5nm)(青色)。濃度0.1mol/LのLiClOの溶液中で行われた測定。実験曲線:点線;理論SPR曲線:実線;理論曲線に用いられるパラメーター:表3Aおよび3B参照。
【図17】TCO層上で金属ナノ粒子の堆積により作られた支持体を示した図である。堆積は、(同一ハウジング中で)カソードスパッタリングにより;化学的または電気化学的な熱蒸着により行える。
【図18】金属ナノ粒子上でTCO層の堆積により実現された支持体を示した図である。堆積は、カソードスパッタリング、PECVD、化学的または電気化学的な熱蒸着により行える。
【図19】金属ナノ粒子およびTCOの一層毎の積層堆積により実現された支持体を示した図である。
【図20】ガラス上で金属ナノ粒子の堆積により実現された支持体を示した図である。堆積は、カソードスパッタリング、化学的または電気化学的な熱蒸着により行える。
【図21】金属ナノ粒子およびTCOの一層毎の積層堆積により実現された支持体を示した図である。
【実施例】
【0083】
例1:物質
塩化カリウム(KCl)、カリウムヘキサシアノフェリシアニド(Fe(CN)−4)、ピロール、メタノール、エタノール、ヘキサン、1‐ブタノール、2‐プロパノール、1‐ヘキサノール、1,3‐プロパンジオールはAldrichから入手し、追加の精製なしに用いる。
【0084】
例2:Au(40nm)/Ti(5nm)二層(IEMNで蒸着により合成された二層)上のITO堆積
当業界の規則に従い、新たに洗浄および脱気されたエンクロージャ中において、直径75mmのITOセラミックターゲット(純度=99.999%および組成≒質量で90%In‐10%SnO)からRFカソードスパッタリングにより大気温度でITOの薄膜を堆積させる。ポンピングはターボ分子ポンプにより行い、エンクロージャ中の閾値圧Pは5.10−7mbarより良い。方法ガスArおよびOは、純粋ガスボトルから、マスフローメーター装備の2ガスラインにより堆積時に導入する(図1)。
【0085】
二層は、装填後に、基板ホルダ上に直接置かれる。それはいかなる前処理もうけない。次いでロードロックを経て堆積エンクロージャへそれを導入する(図6)。
【0086】
P≦10−6mbarへポンピング後、ITOターゲットは、先行堆積に関連したターゲットの表面のいかなる記憶効果もそれ自体から消すために、30分間にわたりプレスパッタリングをうける(表1にまとめられたパラメーター)。二層上におけるITO物質の堆積を次いで行う(表2にまとめられたパラメーター)。堆積速度を決めた後で、ITO膜の深さを堆積時間により制御する。
【表1】

【表2】

【0087】
大気温度でITO膜を成長させるための技術は、特別な表面調製なしに、他の技術(この場合は蒸着)を用いて、前合成された二層上で堆積を行うことができる。金上におけるITOの機械抵抗が実証されてきた。3物質間で剥離または相互拡散効果は現れなかった。これらサンプルのプラズモン応答も実証された。
【0088】
この例において、ITO層は以下のために合成される:
‐有機化合物の共有結合グラフト化を促進するため;
‐電気化学測定を行うため;
‐電気化学測定で金の使用のために電気化学ウィンドウを広げるため(例6;C.電気化学測定;ポイントC.参照);
‐機械的攻撃から金の純良層を防ぐため;
‐波長の関数として透過率の光学的適用(43)、例えば:反射防止の役割(図7)または干渉フィルターに用いるため。スタックの光学的性質は実験で最適化しても、または例えばMacleodによるクラスワークで記載された方法を用いて計算しても(44)、または同原理に基づく市販ソフトウェアで計算してもよい。
【0089】
例3:ITO/Ag/Ti三層合成
屈折率n(n=n′+in″)の強い値n″と共に低い値n′の金属を用いることにより、非常に狭いSPRピークが得られる。“銀”SPRチップはしたがって、以前に製造されたように、“金”チップより良い理論感度を有することになる(表3A)。しかしながら、銀は外気中にあるかまたは分析される溶液への浸漬で自然に酸化および/またはスルホン化するため、このタイプのチップ(Ag/Ti)はしたがって、保護層が銀の層の表面に堆積されていないかぎり使用、ひいては市販できない。
【0090】
表3:(A)試験される異なるSPR支持体を製造するために用いられる物質の複合屈折率。(B)用いられ異なる誘電媒体の屈折率。屈折率はλ=670nmで示されている。
【表3A】

【表3B】

【0091】
この場合に、我々は例2で用いられた同一の堆積ハウジングを用いたが、これは実際のところ1回のランで別々の3物質の堆積を行えるマルチターゲットエンクロージャ(図8)である(サンプルはその成長期中ずっとエンクロージャの内側に留まる)。
【0092】
ITO/Ag/Ti三層の合成は、下記ステップを含んでなる方法を用いて行われる:
‐ロードロックを介して、堆積ハウジングへ透明固体支持体の挿入;
‐ITOターゲット(表1)、銀ターゲット(表4)、次いでチタンターゲット(表4)のプレスパッタリング;
‐チタン堆積(表5)
‐銀堆積(表5) 堆積時間により制御される膜の深さ
‐ITO堆積(表2)
‐SPRチップの回収、次いで使用準備。
【表4】

【表5】

【0093】
付加サブ層の深さは好ましくは約5nmであり、その深さのとき第一Tiアイランドのパーコレーションがあり、そのことが銀の上層の効果的接着を確実にさせうる。
【0094】
この例において、ITO層は以下のために合成される:
‐有機化合物の共有結合グラフト化を促進するため;
‐機械的攻撃(スクラッチング、…)および/または化学的攻撃(酸化、スルフィド化、…)から金の純良層を防ぐため;
‐電気化学測定を行うため;
‐電気化学測定で銀の使用のために電気化学ウィンドウを広げるため(例6;C.電気化学測定;ポイントC.参照);
‐波長の関数として透過率の光学的適用(43)、例えば:反射防止の役割(図7)または干渉フィルターに用いるため。
【0095】
例4:ITO/Cu/Ti三層の合成
“銅”SPRチップは、したがって、銅の屈折率nの虚数部n″の高数値の結果として、“金”SPRチップの場合より大きな理論感度を有している(表3A)。しかしながら、この場合も、銅は外気中にあるかまたは分析される溶液への浸漬で自然に酸化するため、このタイプのチップはしたがって、TCOの層がその表面に堆積されていないと市販できない(この例ではITO)。
【0096】
この場合に、我々は例3で用いられた同一の堆積ハウジングを用い、銀ターゲットを銅ターゲットで置き換える(図6)。ITO/Cu/Ti三層の合成は例2と同様の方法に従い行われる(cf.表1、2、4および5)
【0097】
銅の表面におけるITO堆積の利点は、例3で成長させた場合に相当する。
【0098】
例5:これらの好ましい態様に代わる合成
A)接着層に用いられる物質の置換え
a)Tiの付加サブ層の代わりに、Cr、Ni‐Cr、Al、TaまたはThのような他の物質へ置き換えられる。
b)Tiの付加サブ層の代わりに、プラズモン共鳴に用いられる金属の酸化物、即ちAuOx、AgOx、AlOxおよび/またはCuOxに置き換えられる。
実際には、以下で金属層に酸素濃度勾配を形成することによる:
‐基板の表面と接触しているゾーンで最大x(>0):そのとき基板を作製する酸化物(例えば、シリカSiO)と共有結合を生じさせうる;
‐プラズモン表面活性ゾーンでx=0;
【0099】
B)金、銀、銅またはアルミニウムを覆う透明導電性酸化物層
この層はTCO(透明導電性酸化物)ファミリーに属するいかなる物質から作製してもよい(45〜50)。
【0100】
C)固体支持体でガラスの置換え
大気温度でSPRチップを成長させるこの技術は、脆性または温度感受性有機基板、例えばZeonex(R)透明ポリマー(日本ゼオン製のコポリオレフィン)、ポリメチルペンテン(TPX)、Transphan(R)(Lofo High Tech Film,GMBH,Germany市販の、高いガラス転移点を有する環状オレフィンポリマー)またはArton G(R)またはArtong(R)(日本合成ゴム,東京,日本製)でこれらのチップを作製することも可能にする(51)。
【0101】
例6:計測
A)組合せSPRおよび電気化学計測
電気化学測定はAutolab 30ポテンシオスタット(Eco Chemie,Utrecht,The Netherlands)を用いて行った。用いられた電極セルは従来の3電極型ではなく、同時電気化学測定およびSPR検出を可能にしたAutolab SPRINGLE装置(Eco Chemie,Utrecht,The Netherlands)の2チャンネルのものである。この装置の構成はリファレンス52および53で記載されている。要約すると、プリズム(屈折率n=1.52のBK7型)に置かれた半球形レンズを介して偏光レーザービーム(λ=670nm)がセンサーの裏面を照射する。反射光がフォトダイオードで検出される。測定される入射角は44Hzの周波数でミラー発振の使用により修正される。SPR曲線は前方から後部へのミラーの移動で記録される。最小反射率が測定され、次いで平均化される。
【0102】
測定装置はキャパシティ20〜150μLのオープンタンクを装備し、そこにはAg/AgCl参照電極、白金補助電極およびSPR支持体がサンプルの表面と電気的接触しながら浸されている。電極の活性表面は0.07cmである。
【0103】
B)結果
a)SPRシグナルの形状に及ぼす金属(金、銀または銅)の性質の影響
SPRシグナルの質は主にいくつかのパラメーターに、本質的には金属層の屈折率およびその深さに依存する。金属層の屈折率n(n=n′+in″のように、その実数部n′とその虚数部n″の値で特徴づけられる)は、(i)共鳴ピークの最小の角度値(θSPR);(ii)この共鳴ピークの半値全幅(FWHM);(iii)各々、θSPR付近における共鳴ピークの傾斜SおよびS、シグナルヘッド傾斜およびシグナルテール傾斜;(iiii)共鳴角θSPRにおける最小反射率(Rmin)に対して、その深さとほぼ同様に重要な影響を有する(4)。
【0104】
SPR検出に際して、角度スケールで角度θSPRの変動(ΔθSPR)が測定される。所定波長の光線および固定プリズムには、共鳴ピークRminの強度が最小となる膜の最良深さと、角度位置θSPRの非常に鋭敏な検出を行える最狭の半値全幅FWHMがある。これらの値は、(i)プリズムの;(ii)金属膜の;(iiii)金属膜の表面に置かれた層の屈折率と、もちろんこれら層の各々の深さに依存する。しかしながら、酸化物(例えば、ガラス)の表面への貴または半貴金属の膜の低接着には、ガラスの表面と金属層との間に置かれた接着層(例えば、チタンの膜)の使用を要する。この接着層は、金属層の最良接着も確実化しながら、プラズモンシグナルの破壊を最小で済ませるために、できるだけ純良でなければならない。
【0105】
我々の作動波長(λ=670nm)のとき、率n=1.52のBK7プリズムでは、SPR検出に用いられる金属膜の最良深さdminは、Au(40nm);Ag(38nm);Cu(44nm);Ti(5nm)である。それらの各複合屈折率が表3Aに掲載されている。dminより大きな金属層深さdが用いられるならば、入射光ビームの反射に起因してエバネッセント場の強度の減衰があるだろう。Rminは、dが増すに従い、1に近づきやすい。並行して、半値全幅FWHMと傾斜SおよびSも変化するであろう。
【0106】
図9は積層Au/Ti; Ag/Ti;ITO/Au/TiおよびITO/Ag/Tiで構成されたチップの水(n=1.33)中浸漬時に得られた実験および理論SPRシグナルを示している。予想通りに、最狭SPRピークが銀で得られる(FWHM=2.31°;表6)。Ag/Tiチップの使用に及ぼす主な制約は経時的なその化学的不安定性であり、特にそれが水溶液へ浸漬されたときである。測定はHO/Ag/Ti界面で行われた。我々がみられるように、θSPRシグナルはチップの浸漬の2時間中に高い値の方へ自然に展開する(図10)。これは酸化銀AgOxおよび/または水酸化銀Ag(OH)の表面形成の結果である。
表6:異なる支持体における理論および実験共鳴角θSPRとSPRピークの半値全幅(FWHM)の値(λ=670nm,nprism=1.52,誘電体=水)
【表6】

【0107】
どのような分解からも、この場合には化学的なものから銀膜を保護することが、結果的に必要である。ITOの純良層の堆積が一つの解決法である(例3参照)。図9はITO/Ag/Tiヘテロ構造で得られたSPRシグナルを掲載している。ITO4nm深さの保護膜の存在にもかかわらず、SPRピークの狭さが観察される(表6)。シグナルθSPRの位置は1.5°ずれている。しかしながら、こうして製造されたチップの水中安定性は優れている(図10):θSPRの値の有意な変動は2時間の浸漬時に検出されなかった。
【0108】
このITO堆積はAuチップでも行われ、そこでは特別な保護を要しない。この場合には、Au/Ti二層と比較してSPRシグナルの広域化(ΔFWHM=2.8°)とずれ(ΔθSPR=2.3°)が観察される(表6)。新ITO/Au/Tiヘテロ構造の化学的安定性は銀の場合に匹敵する。
【0109】
b)SPRチップの感度
多くの表面プラズモン測定装置は角度位置θSPRの値の検出および決定に基づいている。この場合に、測定の精度はSPRピークの狭さに直接依存している。そのため、(i)SPRピークの極端な鋭敏さ、(ii)急なSおよびS傾斜、(iii)大きな化学的安定性を併せもつITO/Ag/Tiヘテロ構造は理想的なチップであろう。
【0110】
しかしながら、他の装置では、それらの感度に関して、反応性媒体の屈折率の変動の関数として、角度θSPRの変動の幅のような他のパラメーターを組み入れている。したがって、シグナルの感度を決めるのは、SPRピークの鋭敏さとその変動幅との組合せである。図11A、11Bおよび11Cは、屈折率漸増の異なる溶液と接触しているときにおける、試験3チップ:ITO/Ag/Ti、Au/TiおよびITO/Au/TiのSPRシグナルの展開を掲載している(表3B)。チップの各々における角度θSPRの位置、SPRピークの幅およびその最小Rminの展開が表7で報告されている。図11DはITO(4nm)/Cu(44nm)/Ti(5nm)チップのSPRシグナルの理論的展開を示している;結果は“Windspall”ソフトウェアで求められた。Au/TiおよびITO/Au/Tiデバイスの場合に、ある者は有意なθSPR変動幅に注目しうるが、ピークの半値全幅の広域化およびその最小反射率Rminの劣化という損失もある。試験溶液の屈折率の測定範囲はしたがって減少する(最良でn=1.42)。一方、ITO/Ag/Tiチップでは、より減少したθSPR変動幅とSPRシグナルの幅(FWHM)およびRminの低い展開が、1.42より大きな溶液の屈折率を正確に測定させている(図12)。更に、試験溶液におけるエバネッセント場の侵入深さは金バイオチップの場合と比較して2倍である。バット中における反応性媒体の分析ゾーンはこのように広いため、上記支持体の表面へグラフトされた高分子の特徴づけを可能にする。
表7:異なる誘電媒体の関数として異なる支持体の共鳴角θSPR、SPRピークの半値全幅(FWHM)およびθSPRにおける最小反射率Rminの展開
【表7】

【0111】
これらバイオチップの感度のもう一つの面は、(例えば、ナノメートルスケールで生物学的用途の場合)10−5もの低い反射率変動を検出しうるそれらの能力である。図13Aは試験されるNiSO溶液の濃度(250.10−6mol/L〜50.10−3mol/Lのモル濃度)の関数として共鳴角θSPRの変動幅(ΔθSPR)を示しており、用いられた支持体はITO/Ag/Tiヘテロ構造である。50.10−3mol/Lの溶液は0.32°のθSPR角度の変動に至り、それは2.5.10−3の屈折率の変動幅Δnに相当する。検出限界は濃度400.10−6mol/Lの溶液で得られ、そのときΔn=5,6.10−5である。Au/TiおよびITO/Au/Tiヘテロ構造で得られる検出限界も同一である(図13B)。
【0112】
c)電気化学測定
電気化学測定は、濃度0.1mol/LのKClの溶液中50mV/sの走査速度で、Autolab 30ポテンシオスタット(Ag/AgCl参照電極)を用いて行った。
【0113】
Au‐Ti支持体の電気活性ウィンドウは−1.5V<E<+1.2Vである(図14)。+1.2Vの電位を超えると、金属Au(酸化度0)はAu(酸化度+1)に酸化され、次いで溶液中へ入り、支持体の破壊をもたらす。この支持体の表面へチオール基のグラフト化の場合には、電気活性ウィンドウは減少する:−0.5V<E<+1.2V。実際に、チオール基との結合は、それらが−0.5V未満のカソード電位へ付されたときに壊される(図14)(54)。
【0114】
Au/TiチップにおけるITOの4nmの堆積は:
‐アノード電位で分極を増すことにより:図14のボルタモグラムで示されているように、ITO層はAuの溶液中への通過を妨げる;
‐カソード電位で分極を増すことにより:ITO層はシラン官能基のグラフト化を行わせるため、0.5V未満のカソード電位での測定がしたがって可能である(55);
製造された新バイオチップの電気活性ウィンドウを広げられる:−1.5V<E<+1.9V。
【0115】
バイオチップ:ITO/Ag/Ti
作動電極としてITO(4nm)/Ag(38nm)/Ti(5nm)支持体で得られたボルタモグラムは、Au(50nm)/Ti(4nm)支持体で得られたものと比較して変形している(図15)。この変化はITO/Ag/Ti界面の有意な電気抵抗に起因している。この欠点は堆積ITO層の深さを増すことで容易に解決される。確かに、ITO(10nm)/Ag(38nm)/Ti(5nm)支持体で得られたボルタモグラムの質(図15)は古典的Au(50nm)/Ti(4nm)支持体の場合と同一であるばかりか、作動電気活性ウィンドウも広げられる:−1.5V<E<+1.9V。
【0116】
d)好ましいバイオチップへの拡張:ポリピロール/ITO/Ag/Tiヘテロ構造
Au/Ti、Ag/TiまたはCu/Ti支持体の表面におけるTCO膜の堆積により、それらの表面で導電性ポリマーの純良層の電気化学的堆積を行える。そのため、リファレンス56で記載された方法を用いて、5nmのポリピロールの膜を3ヘテロ構造:ITO/Ag/Ti、Au/TiおよびITO/Au/Tiに堆積させた。図16は、濃度0.1mol/LのLiClOの溶液に浸された支持体の各々について、シミュレートおよび測定されたSPRピークを示している。ある者は、ポリピロール/Au/Tiおよびポリピロール/ITO/Au/Ti支持体について7.06°および8.42°とSPRピークの半値全幅で増加をみることができ、一方それはポリピロール/ITO/Ag/Ti支持体でわずか4.5°である。結果的に、このヘテロ構造は反応を検出および/またはモニターする上で測定に最も適しており、それが明らかに歪みの少ないSPRシグナルを呈するからである。
【0117】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
‐SPRによる検出に使用可能な固体支持体を形成するための、少なくとも一種の金属の少なくとも一つの層;
‐少なくとも一つの透明導電性酸化物(TCO)層、
‐および、必要であれば、接着層、
で部分的にまたは完全に覆われた透明固体支持体を含んでなることで特徴づけられる、固体支持体。
【請求項2】
TCO層が、少なくとも一つの透明導電性酸化物(TCO)層により形成されて、SPRによる検出および/または電気化学的検出に使用可能な固体支持体を形成する、請求項1に記載の固体支持体。
【請求項3】
TCO層が、0<x<3のIn3−x、0<x<1のZnO1−x、0<x<2のSnO2−x、0<x<1のCdO1−x、0<x<3のGa3−x、0<x<3のTl3−x、0<x<2のPbO2−x、0<x<5のSb5−x、0<x<1のMgO1−xおよび0<x<2のTiO2−xからなる群から選択される少なくとも一種の透明導電性酸化物を含んでなる、請求項1または2に記載の固体支持体。
【請求項4】
TCO層が、In、ZnO、SnO、CdO、Ga、Tl、PbO、Sb、MgOおよびTiOからなる群から選択される少なくとも一種の透明導電性酸化物を含んでなる、請求項3に記載の固体支持体。
【請求項5】
TCO層が、少なくとも二種の二元酸化物の組合せからなる少なくとも一種の透明導電性酸化物を含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項6】
TCO層がTCOをドープ可能な成分も含んでなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項7】
TCO層が酸化インジウムInを含んでなる層である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項8】
TCO層が、好ましくは質量で90%Inおよび10%SnOの混合物からなるターゲット物質から合成された、スズドープ酸化インジウム(ITO)を含んでなる層である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項9】
TCO層が、大気温度でかつ主として非晶質の構造で堆積されたスズドープ酸化インジウム(ITO)を含んでなる層である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項10】
TCO層が3nm〜200nmの深さを有している、請求項1〜9のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項11】
TCO層が4nm〜10nmの深さを有している、請求項10に記載の固体支持体。
【請求項12】
少なくとも一種の金属で構成される層が、該金属が金、銀、銅およびアルミニウム、またはこれら金属のいずれかの組合せまたはそれら各々の合金からなる群から選択される層である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項13】
少なくとも一種の金属で構成される層が10nm〜200nm、好ましくは30nm〜50nmの深さを有している、請求項1〜12のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項14】
層が少なくとも一種の金属で構成される前に、好ましくは深さ1nm〜10nmの接着層で固体支持体が覆われ、5nm±1nmが好ましい深さである、請求項1〜13のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項15】
接着層が金属層であり、その金属がチタン、クロム、ニッケル、タンタル、モリブデン、トリウム、銅、アルミニウムまたはスズ、またはこれら金属のいずれかの組合せまたはそれら各々の合金、酸化物および/または水酸化物からなる群から選択される、請求項14に記載の固体支持体。
【請求項16】
接着層が酸素勾配のある金属酸化物MOx層であり、Mが金、銀、銅およびアルミニウム、またはこれら金属のいずれかの組合せまたはそれら各々の合金の群から選択される少なくとも一種の金属を表わす、請求項14に記載の固体支持体。
【請求項17】
接着層が好ましくはチタンの層である、請求項14〜16のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項18】
固体支持体が、少なくとも一種の有機または無機透明物質で構成されるか、または透明物質、例えばガラスまたは透明固体ポリマー、例えばポリメチルペンテン(TPX)、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、好ましくはガラス、の組合せで構成されている、請求項1〜17のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項19】
SPRによる検出に使用可能な固体支持体を形成するための少なくとも一種の金属の層が、金属ナノ粒子で構成された層である、請求項1〜18のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項20】
図20および21で示された支持体の中から選択可能な、請求項19に記載の固体支持体。
【請求項21】
透明導電性酸化物(TCO)層が、好ましくは図17で示されているように、金属ナノ粒子で構成された層で覆われている、請求項1〜19のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項22】
透明導電性酸化物(TCO)層が金属ナノ粒子で構成された層で覆われ、後者の金属ナノ粒子の層自体が、好ましくは図18で示されているように、TCO層で覆われている、請求項1〜19のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項23】
図19で示されているように、nが2〜5(含む)である、請求項22に記載の固体支持体。
【請求項24】
少なくとも一つのTCO層、好ましくは支持体が数層を含むならば堆積された最後のTCO層が、必要に応じて化学的に活性な、ヒドロキシル基を有している、請求項1〜16のいずれか一項に記載の固体支持体。
【請求項25】
ヒドロキシル基および/または該ヒドロキシル基と反応した官能基が、紫外線への暴露によりTCO層から脱着可能な、請求項24に記載の固体支持体。
【請求項26】
表面プラズモン共鳴(SPR)および/または電気化学法による検出のための固体支持体の製造方法であって、
‐固体支持体の少なくとも同一表面において、重ね合わせで、
‐SPRによる検出に使用可能な固体支持体を形成するために、少なくとも一種の金属で構成された少なくとも一つの層、および
‐少なくとも一つの透明導電性酸化物(TCO)層(好ましくは、該TCO層は、SPRによる検出および/または電気化学的検出に使用可能な固体支持体を形成するために、少なくとも一つの透明導電性酸化物(TCO)層で構成されている)、
を堆積するステップを含んでなることで特徴づけられる方法。
【請求項27】
TCO層の堆積が、好ましくは10−5〜10−7mbar以下の残圧を付与された、真空チャンバ中で行われる、請求項26に記載の製造方法。
【請求項28】
TCO層の堆積が、少なくとも一種の希ガス、好ましくはアルゴンの存在下、または希ガス(好ましくはアルゴン)および酸素元素含有ガス(好ましくは酸素分子)の混合物の存在下、好ましくは約5.1.10−4のpO2/pAr比で、好ましくは約0.012mbarの希ガス/酸素分子混合物の存在下、部分真空中において行われる、請求項26または27に記載の製造方法。
【請求項29】
カソードスパッタリングハウジングが少なくとも一つの発生器、好ましくは高周波器(RF)を含んでなり、堆積に用いられる高周波電力が、好ましくは10mm〜150mmのターゲット‐基板距離で0.1W/cm〜4W/cmである、請求項26〜28のいずれか一項に記載のカソードスパッタリングを用いる製造方法。
【請求項30】
TCO層の深さが、好ましくは78mmのターゲット/基板距離で0.86W/cmの電力のとき0.6nm/minの速度で、堆積時間によりコントロールされる、請求項26〜29のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項31】
TCO層が、0<x<3のIn3−x、0<x<1のZnO1−x、0<x<2のSnO2−x、0<x<1のCdO1−x、0<x<3のGa3−x、0<x<3のTl3−x、0<x<2のPbO2−x、0<x<5のSb5−x、0<x<1のMgO1−xおよび0<x<2のTiO2−xからなる群から選択される、好ましくはIn、ZnO、SnO、CdO、Ga、Tl、PbO、Sb、MgO、TiOの中から選択される、少なくとも一種の透明導電性酸化物を含んでなる、請求項26〜30のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項32】
TCO層が、少なくとも二種の二元酸化物の組合せからなる少なくとも一種の酸化物を含んでなる、請求項26〜31のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項33】
TCO層が、InのためにSnのような、該TCOをドープ可能な成分とのTCOの組合せを含んでなる、請求項26〜32のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項34】
TCO層が酸化インジウムInを含んでなる層である、請求項26〜33のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項35】
TCO層が、好ましくは質量で90%Inおよび10%SnOの混合物からなるターゲット物質から合成された、スズドープ酸化インジウム(ITO)を含んでなる層である、請求項26〜34のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項36】
TCO層が、大気温度でかつ主として非晶質の構造で堆積されたスズドープ酸化インジウム(ITO)を含んでなる層である、請求項26〜35のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項37】
TCO層が3nm〜200nmの深さ、好ましくは4nm〜10nmの深さを有している、請求項26〜36のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項38】
少なくとも一種の金属で構成される層が、該金属が金、銀、銅およびアルミニウム、またはこれら金属のいずれかの組合せまたはそれら各々の合金からなる群から選択される層である、請求項26〜37のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項39】
少なくとも一種の金属で構成される層が10nm〜200nm、好ましくは30〜50nmの深さを有している、請求項26〜38のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項40】
固体支持体が事前に接着層で覆われる、請求項26〜39のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項41】
接着層が金属層であり、その金属がチタン、クロム、ニッケル、タンタル、モリブデン、トリウム、銅、アルミニウム、スズ、またはこれら金属のいずれかの組合せまたはそれら各々の合金、酸化物および/または水酸化物からなる群から選択される、請求項40に記載の製造方法。
【請求項42】
接着層が酸素勾配のある金属酸化物MOxの層であり、Mが金、銀、銅およびアルミニウム、またはこれら金属のいずれかの組合せまたはそれら各々の合金からなる群で選択される少なくとも一種の金属を表わす、請求項40に記載の製造方法。
【請求項43】
接着層がチタンの層である、請求項40〜42のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項44】
少なくとも一種の金属で構成される層の堆積前に、接着層が1nm〜10nmの深さ、好ましくは5nm±1nmの深さを有している、請求項40〜43のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項45】
TCO層の堆積前に、固体支持体が事前に接着層と少なくとも一種の金属で構成される層で覆われる、請求項40〜44のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項46】
必要であれば、接着層と少なくとも一種の金属で構成される層も、カソードスパッタリングにより堆積される、請求項40〜45のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項47】
必要であれば、接着層、少なくとも一種の金属で構成される層およびTCO層が、一方が少なくとも一種の金属からなる上記層を成長させるために用いられる金属または合金で構成され、他方が上記TCO層を成長させるために用いられる物質で構成されている、少なくとも2つのターゲットと、適宜に、上記接着層を成長させるために用いられる金属または合金で構成されたターゲットと、必要であれば、いずれか有用なターゲットの系を備えたエンクロージャを含んでなる同一デバイス内でのカソードスパッタリングにより、固体支持体へ連続的に堆積され、該デバイスが、エンクロージャで部分真空を作るために少なくとも一つの真空ポンプと、希ガス、好ましくはアルゴンのための少なくとも一つの制御入口と、必要であれば反応性ガス、好ましくは酸素元素、好ましくは酸素分子のキャリアガスのための追加制御入口、および/または希ガスおよび反応性ガス、好ましくは酸素元素、好ましくは酸素分子のキャリアガスの既確立混合物のための少なくとも一つの制御入口を備えている、請求項46に記載の製造方法。
【請求項48】
固体支持体が少なくとも一種の有機または無機透明物質で構成されるかまたは透明物質の組合せで構成されている、請求項26〜47のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項49】
固体支持体が、ガラスまたは透明固体ポリマー、例えばポリメチルペンテン(TPX)、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、好ましくはガラスの中から選択される、請求項48に記載の製造方法。
【請求項50】
サンプルで少なくとも一種の有機または無機化合物の決定のための、あるいはSPRおよび/または電気化学的検出による複合混合物で少なくとも一つの反応のモニタリングのための、請求項1〜25のいずれか一項に記載の、または請求項26〜49のいずれか一項に記載の方法を用いて得られる支持体の使用。
【請求項51】
特にポリマーまたは重金属を含んでなる化学または無機化合物、特に核酸、ポリペプチドまたはタンパク質、炭水化物、有機粒子、例えばリポソームまたは小胞、無機粒子(例えば、マイクロまたはナノ粒子、細胞内小器官または細胞)を含んでなる有機または生物学的化合物または構造のサンプル中における検出のための、請求項50に記載の支持体の使用。
【請求項52】
請求項1〜25のいずれか一項に記載の支持体、または請求項26〜49のいずれか一項に記載の方法を用いて得られる支持体を含んでなることで特徴づけられる、SPRおよび/または電気化学によりサンプルで少なくとも一種の化合物の存在および/または量の決定のための、あるいは少なくとも一つの反応のモニタリングのためのキット。
【請求項53】
請求項1〜25のいずれか一項に記載の、または請求項26〜49のいずれか一項に記載の方法を用いて得られる支持体を含んでなる、診断または分析デバイス。
【請求項54】
一方が少なくとも一種の金属からなる層を成長させるために用いられる金属または合金で構成され、他方がTCO層を成長させるために用いられる物質で構成されている、少なくとも2つのターゲットと、適宜に、接着層を成長させるために用いられる金属または合金で構成されたターゲットと、必要であれば、請求項1〜49の一つで規定されているようないずれか有用なターゲットの系を備えたエンクロージャを含んでなり、エンクロージャで部分真空を作るために少なくとも一つの真空ポンプと、希ガス、好ましくはアルゴンのための少なくとも一つの制御入口と、必要であれば反応性ガス、好ましくは酸素元素、好ましくは酸素分子のキャリアガスのための追加制御入口、および/または希ガスおよび反応性ガス、好ましくは酸素元素、好ましくは酸素分子のキャリアガスの既確立混合物のための少なくとも一つの制御入口を備えている、デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図12】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−506945(P2011−506945A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537454(P2010−537454)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067356
【国際公開番号】WO2009/074660
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(594016872)サントル、ナショナール、ド、ラ、ルシェルシュ、シアンティフィク、(セーエヌエルエス) (83)
【出願人】(507402635)ユニベルシテ・デ・シヤーンス・エ・テクノロジー・ドゥ・リル (3)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DES SCIENCES ET TECHNOLOGIES DELILLE
【出願人】(509252265)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT POLYTECHNIQUE DE GRENOBLE
【出願人】(503261111)ユニヴェルシテ・ドゥ・レンヌ・1 (9)
【Fターム(参考)】