説明

SSZ−74の製造方法

本発明は、SSZ−74結晶構造を有する合成結晶質物質を、フッ化物イオン源の非存在下に製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成結晶質(又は結晶性)物質の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、SSZ−74の構造タイプを有する合成結晶質物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
それらの独特のふるい特性、ならびにそれらの触媒特性から、結晶質モレキュラーシーブおよびゼオライトは、特に、炭化水素の転化、ガスの乾燥、および分離などの用途で有用である。
【0003】
近年、Zonesらは、多次元10−環チャネル系SSZ−74の製造、ならびに種々の炭化水素の転化および分離プロセスにおけるその使用を報告した(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、および非特許文献1を参照されたい)。SSZ−74は、ケイ素欠損を有する3次元中細孔(又は中間孔:medium pore)ゼオライトである。現在までに、SSZ−74の製造方法は、結晶化条件下に、(1)酸化ケイ素源、(2)酸化アルミニウム、酸化インジウム、およびそれらの混合物の源、(3)フッ化物イオン、(4)次の構造を有する1,1’−(へキサン−1,6−ジイル)ビス(1−メチルピロリジニウム)ジカチオンを含む構造指向剤(structure directing agent)、を接触させる工程を含む。
【化1】

【0004】
SSZ−74結晶構造を製造するために効果的であるが、この方法は、製造中に、潜在的な安全および健康問題を引き起すフッ化物イオン源を用いることを必要とする。大規模にゼオライト反応ゲルにフッ化物を用いることは、含まれる潜在的な危険性から望ましくない。無水または水性フッ化水素は、痛みを伴う激しい火傷、および死さえももたらすことがあり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO 2007/079038
【特許文献2】US 7,422,732
【特許文献3】US 7,357,904
【特許文献4】US 7,348,295
【特許文献5】US 2007/0144939
【特許文献6】US 2007/0148067
【特許文献7】US 2007/0148086
【特許文献8】US 2007/0149778
【特許文献9】US 2007/0149789
【特許文献10】US 2007/0149824
【特許文献11】US 2007/0149837
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Baerlocher et al. "Ordered silicon vacancies in the framework structure of the zeolite catalyst SSZ-74",Nature Materials,2008 Aug.;7(8):631-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、フッ化物源の必要性を排除し、しかも物質の高純度収率を保持する合成結晶質物質を合成する方法に対する必要性がある。
【0008】
本発明は、これらの方法を提供する。より詳しくは、本発明は、SSZ−74結晶構造を有する合成結晶質物質を、フッ化物イオン源の非存在下に製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、合成結晶質物質の製造方法、特に、SSZ−74の構造タイプを有する合成結晶質物質の製造方法に関する。この方法は、結晶化条件下に、少なくとも一種の三価元素X源と、シリカ源と、構造指向剤(SDA)としての1,1’−(へキサン−1,6−ジイル)ビス(1−メチルピロリジニウム)ジカチオンとを含む反応混合物を接触させる工程を含み、反応混合物は、フッ化物イオン源を含まない。場合により、反応混合物は、アルカリ金属カチオンを含む。
【0010】
本発明の他の態様および利点は、次の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の生成物(SSZ−74ゼオライト)の粉末X線回折(XRD)パターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、SSZ−74結晶構造を有する合成結晶質物質の合成が、フッ化物イオン源を必要とすることなく達成されることができることが見出されている。これは、フッ化水素を用いることの健康および安全への影響を排除する。
【0013】
一般に、SSZ−74は、少なくとも一種のシリカ源と少なくとも一種の三価元素X源(Xは、アルミニウム、ガリウム、鉄、チタン、インジウム、ホウ素、またはそれらの混合物である)とを含む反応混合物を、フッ化物イオンの非存在下に、1,1’−(ヘキサン−1,6−ジイル)ビス(1−メチルピロリジニウム)ジカチオンSDAと接触させることによって製造される。場合により、反応混合物は、さらに、アルカリ金属カチオンを含む。
【0014】
反応混合物は、次の組成を有する。これは、モル比で表される。
【0015】
【表1】

【0016】
表中、Xは、アルミニウム、ガリウム、鉄、チタン、インジウム、ホウ素、およびそれらの混合物であり、Yはアルカリ金属カチオンであり、SDAは1,1’−(ヘキサン−1,6−ジイル)ビス(1−メチルピロリジニウム)ジカチオンである。
【0017】
シリカ源は、ゼオライト合成で用いるのに適切な任意のシリカ源であってもよい。その例には、シリケート(アルカリ金属シリケート、テトラアルキルオルトシリケートなど)、もしくは高表面積シリカ(例えば、商品名AerosilまたはUltrasilでDegussaによって販売されるもの)、または好ましくはシリカの水性コロイド懸濁液(例えば、商品名LudoxでE.I.du Pont de Nemoursによって販売されるもの)が含まれるが、限定するものではない。好ましくはシリカ源は無機であり、好都合にはシリカの水性コロイド懸濁液である。
【0018】
三価元素Xは、ゼオライト合成で用いるのに適切な任意の元素X源であってもよい。好ましくは、三価元素Xは、アルミニウム、ホウ素、またはそれらの混合物、最も好ましくはアルミニウムである。アルミニウム源は、好ましくは、硝酸アルミニウムまたは水和アルミナである。他のアルミニウム源には、例えば、他の水溶性アルミニウム塩、アルミン酸ナトリウム、またはアルコキシド(例えば、アルミニウムイソプロポキシド)、もしくはアルミニウム金属(例えば、小片の形態)が含まれる。好ましいホウ素源の例は、ホウ酸であり、好ましくは水溶液として用いられるが、限定するものではない。
【0019】
用いられる場合には、アルカリ金属源は、好ましくは、カリウムまたはナトリウムである。その源には、臭化ナトリウム、臭化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、沃化ナトリウム、沃化カリウム、水酸化ナトリウムまたはアルミン酸ナトリウム、もしくはSSZ−74の形成に有害でない任意の他の水溶性ナトリウムおよびカリウム塩が含まれる。
【0020】
上記される合成の直接生成物は、固有XRDパターンを有する。その本質的な反射は、実質的に、表1に示す通りである。
【0021】
【表2】

【0022】
合成されたままの物質は、焼成され、カチオン交換され、さもなければ技術的に知られるように処理される。調製されたままの、または焼成された形態のアルカリ金属カチオンは、例えば、濃酸(例えば、HCl)または不安定塩基(例えば、アンモニウム化合物)による処理によって除去されて、その水素型の物質が得られてもよい。
【0023】
焼成後、生成物は、固有XRDパターンを有する。その本質的な反射は、実質的に、表2に示す通りである。
【0024】
【表3】

【0025】
本発明の生成物は、必要に応じてカチオン交換および/または焼成後に、触媒前駆体、触媒、ならびに分離および吸着媒体として有用である。それらは、基本的には、多数の有機(例えば炭化水素)化合物の転化、分離、および吸着で有用である。それらは、単独で、または他のモレキュラーシーブとの混合物で、微粒子形態(担持または未担持)で、もしくは担持層の形態で用いられてもよい。これらの使用例は、WO 2007/079038、US 7,422,732、US 7,357,904、US 7,348,295、US 2007/0144939、US 2007/0148067、US 2007/0148086、US 2007/0149778、US 2007/0149789、US 2007/0149824、US 2007/0149837に開示される。これは、参照により本明細書に含まれる。
【0026】
実際に、SSZ−74結晶構造を有する合成結晶質物質は、液体媒体中(好ましくは水中)で、少なくとも一種のシリカ源と、少なくとも一種の三価元素X源(Xは、アルミニウム、ガリウム、鉄、ホウ素、チタン、インジウム、およびそれらの混合物である)と、1,1’−(ヘキサン−1,6−ジイル)ビス(1−メチルピロリジニウム)ジカチオン(SSZ−74の形成に有害ではないアニオン性対イオンを有する)とを組み合せることによって製造される。場合により、反応混合物は、アルカリ金属カチオンを含む。反応混合物は、フッ化物イオン源を全く含まない。
【0027】
水溶液は、SSZ−74の結晶を形成するのに十分な条件下に保持される。一般に、反応混合物は、SSZ−74の結晶が形成されるまで、高い温度で保持される。反応混合物中の水は、気化されて除かれてもよいが、その必要はない。結晶化は、オートクレーブ中で、自己圧下に、温度160℃未満、好ましくは120℃〜160℃、より好ましくは130℃〜150℃の間で行われる。結晶化時間は、典型的には、1日超、好ましくは約3日〜約28日である。反応混合物におけるSi/X比は、好ましくは40〜160、より好ましくは40〜100、最も好ましくは約40である。
【0028】
SSZ−74種結晶が、場合により用いられてもよい。種結晶は、しばしば、結晶化時間を低減することができ、結晶サイズおよび形態をさらに変えてもよい。
【0029】
結晶化は、撹拌して、または撹拌なしに行われてもよい。
【0030】
結晶が形成されると、生成物は、標準的な分離技術(例えば、遠心分離または傾斜)によって反応混合物から分離される。分離された物質は、次いで、水で洗浄され、場合により乾燥される。分離された物質は、減圧乾燥、空気乾燥、または他の適切な手段によって乾燥されてもよい。用いられる乾燥技術によって、乾燥は、典型的には、約数分(例えば2〜10分)〜数時間(例えば24〜48時間)、周囲温度〜300℃で行われてもよい。
【0031】
次の実施例は、本発明を例証するために提供するが、本発明を限定するものではない。フッ化水素または他のフッ化物源を、全く用いなかった。先行技術で典型的に用いる水気化工程は、省略した。
【実施例】
【0032】
実施例1
ゲルを、脱イオン水21.5mg、Ludox LS−30(30%SiO)141.2mg、25.8%1,1’−(へキサン−1,6−ジイル)ビス(1−メチルピロリジニウム)177.9mg、20%NaBr溶液109.3mg、および15%Al(NO溶液50.2mgを、1.5mlのステンレスチール容器中で組み合わせることによって調製した。
【0033】
出発ゲルは、モル比で次の組成を有した。
【0034】
【表4】

【0035】
混合物を、均質になるまで撹拌し、次いで空気オーブン中で、自己圧下に温度120℃で28日間反応させた。生成物を、遠心分離によって反応混合物から分離し、実質量の脱イオン水で洗浄し、次いで粉末X線回折(XRD)へ付した。X線回折パターンの分析では、生成物が、純粋のSSZ−74ゼオライトであることが示された。これを、図1に示す。
【0036】
実施例2
ゲルを、脱イオン水51.7mg、Ludox LS−30(30%SiO)143.4mg、25.8%1,1’−(へキサン−1,6−ジイル)ビス(1−メチルピロリジニウム)151.1mg、20%KBr溶液138.3mg、および15%Al(NO溶液25.5mgを、1.5mlのステンレスチール容器中で組み合わせることによって調製した。
【0037】
出発ゲルは、モル比で次の組成を有した。
【0038】
【表5】

【0039】
混合物を、均質になるまで撹拌し、次いで空気オーブン中で、自己圧下に160℃で7日間反応させた。生成物を、遠心分離によって反応混合物から分離し、実質量の脱イオン水で洗浄し、次いで粉末X線回折(XRD)へ付した。X線回折パターンの分析では、生成物が、純粋のSSZ−74ゼオライトであることが示された。
【0040】
実施例3
ゲルを、脱イオン水、Ludox LS−30(30%SiO)154.7mg、25.8%1,1’−(へキサン−1,6−ジイル)ビス(1−メチルピロリジニウム)130.1mg、および3%ホウ酸溶液24mgを、1.5mlのステンレスチール容器中で組み合わせることによって調製した。アルカリ金属は、反応混合物中に全く存在しなかった。
【0041】
出発ゲルは、モル比で次の組成を有した。
【0042】
【表6】

【0043】
混合物を、均質になるまで撹拌し、次いで空気オーブン中で、自己圧下に160℃で7日間反応させた。生成物を、遠心分離によって反応混合物から分離し、実質量の脱イオン水で洗浄し、次いで粉末X線回折(XRD)へ付した。X線回折パターンの分析では、生成物が、純粋のSSZ−74ゼオライトであることが示された。
【0044】
実施例4〜18
一連のゲルを、上記の実施例1〜3に類似の方法で調製した。しかし、これは、次に示されるモル比の組成を有し、かつ示される温度および時間で反応された。
【0045】
【表7】

【0046】
生成物を、遠心分離によって、それらの反応混合物から分離し、実質量の脱イオン水で洗浄し、次いで粉末X線回折(XRD)へ付した。X線回折パターンの分析では、生成物が、純粋のSSZ−74ゼオライトであることが示された。
【0047】
実施例19〜22
次の実施例は、結晶化温度、シリカ/アルミナ比、およびアルカリ金属カチオンの存在を変えることによって、異なる生成物が得られたことを示す。
【0048】
【表8】

【0049】
不純物を最小にするためには、運転条件(例えば、Si/X比および温度)を変えることが有利である。例えば、前述の実施例に示されるように、アルカリ金属の非存在下およびSi/X比の増大で、不純物は、温度200℃未満(好ましくは、温度は、約120℃〜160℃の範囲である)で最小にされることが観察されている。アルカリ金属の存在下およびSi/X比の増大では、温度約160℃未満(好ましくは約140℃未満)で運転することが有利である。
【0050】
ある種の変更が、本発明を実行するに際して、本発明の精神および範囲を逸脱することなくなされてもよいことは理解されるであろう。本説明に含まれ、および本図面に示される全ての事項は、例証として解釈されるものであり、限定する意味で解釈されるものでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SSZ−74の結晶構造を有する合成結晶質物質の製造方法であって、
結晶化条件下に、少なくとも一種の三価元素X源と、少なくとも一種のシリカ源と、構造指向剤(SDA)源としての1,1’−(へキサン−1,6−ジイル)ビス(1−メチルピロリジニウム)ジカチオンとを含む反応混合物を接触させる工程を含み、
前記反応混合物は、フッ化物イオン源を含まず、かつ
前記反応混合物は、場合により、少なくとも一種のアルカリ金属カチオンY源を含む、SSZ−74の結晶構造を有する合成結晶質物質の製造方法。
【請求項2】
前記三価元素Xは、アルミニウム、ホウ素、およびそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Xは、アルミニウムであり、アルミニウム源は、硝酸アルミニウムまたは水和アルミナである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
Xは、ホウ素であり、ホウ素源は、ホウ酸溶液である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記シリカ源は、無機シリカである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記無機シリカは、コロイドシリカである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記結晶化条件は、温度約120℃〜160℃を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記反応混合物は、モル比で示される次の組成を有する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【表1】

[表中、SDAは、1,1’−(へキサン−1,6−ジイル)ビス(1−メチルピロリジニウム)ジカチオンであり、Xはアルミナ、ホウ素、またはそれらの混合物であり、Yはアルカリ金属カチオンである]
【請求項9】
前記反応混合物は、Y/Siモル比0.15〜0.35を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項10】
前記反応混合物は、モル比で示される次の組成を有する、請求項9に記載の方法。
【表2】


【図1】
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【公表番号】特表2012−501957(P2012−501957A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526865(P2011−526865)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【国際出願番号】PCT/US2009/005116
【国際公開番号】WO2010/030386
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】