説明

STC波形設定装置及びSTC波形設定方法

【課題】各現場に合わせて最適なSTC波形を簡単に設定することができるSTC波形設定装置及び方法を提供する。
【解決手段】物標までの距離即ち受信時間の区間と対応づけられるアドレスを設定するアドレス設定部34と、直流信号を出力して、該直流信号の強度によりレーダ装置の受信電力を制御可能となった利得可変増幅部38と、該利得可変増幅部38の直流信号の強度を調整する利得調整部40と、利得可変増幅部38からの直流信号をデジタル値にA/D変換するA/D変換部44と、アドレス設定部34で設定されたアドレスに対応づけて前記デジタル値を格納する記憶部46と、を備え、該デジタル値をSTC波形の設定値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置、例えば、陸上設置の海上監視レーダシステムに使用されるレーダ装置の受信電力の制御を行なうSTC信号の波形を設定するSTC波形設定装置及び方法並びに、そのSTC波形設定装置で設定されたSTC波形を用いてレーダ装置の運用を行なうSTC波形運用装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダにおける海面反射受信電力は、近距離では強いため、海面反射信号に必要とする信号が埋もれてしまい、信号の識別が難しくなるという問題がある。これを回避するためにSTC信号を発生させ、STC信号で海面反射の受信電力をレーダ受信機において減衰制御させることが一般的に行われている。
【0003】
従来のSTC発生装置としては、特許文献1ないし特許文献4に記載されたものが知られている。
【0004】
特許文献1では、STC回路の出力であるSTC信号を、距離の2乗、3乗、4乗にそれぞれ反比例する数種の段階的固定パターン信号とし、メモリにあらかじめ距離に応じた特有のSTC減衰量を与えるようディジタル・データを記憶させておき、その距離情報に対応したディジタル・データを読み出しD/A変換して、STC信号としている。そして、外部制御信号により、特有の特性、即ち、距離の2乗、3乗、4乗にそれぞれ反比例する特性を持つ固定パターン信号を切り換えて所望のSTC信号を得るようにしている。
【0005】
特許文献2では、−4乗特性、−2乗特性といった種類のSTC制御電圧を発生し、所定の距離及び方位に対応した切換信号が発生されたときに、その時点における現在のSTC制御電圧と、切換後の他のSTC制御電圧との差電圧を求めて、その差電圧を切換後の他のSTC制御電圧に加算または減算することにより、STC制御電圧の切換を滑らかに行うようにしている。
【0006】
特許文献3では、メモリに予め距離の4乗または3乗に反比例するSTC信号波形を記憶させておき、このメモリに記憶されているデータを読み出して、D/A変換するようにしている。
【0007】
特許文献4では、カウンタでクロックCK2を計数し、プリセット分周器で、カウンタの係数値を分周比データとし、クロックCK2よりも高い周波数のクロックCK1を分周し、減算器が、初期値に対してプリセット分周器の出力分周器ごとに1を減じたものをSTC制御信号としている。
【0008】
【特許文献1】特開昭58−000780号公報
【特許文献2】特開昭58−180969号公報
【特許文献3】特開昭60−195470号公報
【特許文献4】特許第2614157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、特許文献1ないし4に示されたものは、距離の2乗、3乗、4乗に反比例する固定パターン信号を予めメモリに格納するか、または予め決められた固定パターンのSTC波形を生成して出力するようにしている。しかしながら、実際には、理想的な固定パターンの特性に従うとは限らず、現地環境によって様々な特性を示すことが多い。例えば、場所によっては滑らかに海面反射が減っていくのではなく、あるエリア内で海面反射が強くでることもある。従って、予め決められた固定パターンで、全ての現場に最適なSTC波形とすることは困難であるという問題がある。
【0010】
このため現状では、各現場の海域に合わせてSTC波形を最適なものとするようにカットアンドトライで作業しており、各現場で、観測範囲にわたる全体的な最適波形を得るために非常な労力を要し、あるところで妥協しなければならない、という問題がある。
【0011】
本発明はかかる課題に鑑みなされたもので、その目的は各現場に合わせて最適なSTC波形を簡単に設定することができるSTC波形設定装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するために、本発明の請求項1記載の発明は、電波を送信して物標からの反射波を受信するレーダ装置の受信電力の制御を行なうSTC信号の波形を設定するSTC波形設定装置であって、
物標までの距離即ち受信時間の区間と対応づけられるアドレスを設定するアドレス設定部と、
直流信号を出力して、該直流信号の強度によりレーダ装置の受信電力を制御可能となった直流信号出力部と、
前記直流信号出力部の直流信号の強度を調整する強度調整部と、
前記直流信号出力部からの直流信号をデジタル値にA/D変換するA/D変換部と、
アドレス設定部で設定されたアドレスに対応づけて前記デジタル値を格納する記憶部と、
を備え、該デジタル値をSTC波形の設定値とすることを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のSTC波形設定装置が、電波送信トリガ信号と同期したクロック信号を出力する発振部と、
前記発振部からのクロック信号に基づき、前記アドレス設定部によって設定されたアドレスに対応する受信時間の区間に発生する信号を生成する区間選択部をさらに備え、
前記直流信号出力部は、前記区間選択部で生成された信号に対して増幅を行うものであり、前記強度調整部は、前記直流信号出力部の利得を調整するものであることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の前記区間選択部が、前記アドレス設定部によって設定されたアドレスに対応する受信時間の区間から、少なくとも隣接するアドレスに対応する受信時間の区間の少なくとも一部まで継続する信号を生成することを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のものにおいて、前記アドレス設定部で設定されていないアドレスがある場合に、設定されなかったアドレスに対応するデジタル値を演算する演算部を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の前記演算部が、設定されなかったアドレスに対してそのアドレスの前後で設定されたアドレスに対するデジタル値を読み取り、該デジタル値から設定されなかったアドレスに対するデジタル値を補間することを特徴とする。
【0017】
請求項6記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の前記STC波形設定装置によって設定されるSTC波形を用いてレーダ装置の運用を行なうSTC波形運用装置であって、
前記STC波形設定装置で設定された設定値であるデジタル値を、順次、読み出す設定値読み出し部と、
設定値読み出し部で読み出されたデジタル値のD/A変換を行うD/A変換部と、
D/A変換された信号の波形整形をしてSTC信号を作成する波形整形部と
を備え、該STC信号によりレーダ装置の受信電力を制御することを特徴とする。
【0018】
請求項7記載の発明は、請求項6記載のものにおいて、前記STC波形設定装置の記憶部に格納されたデジタル値がデータ転送されて格納された記憶部をさらに備えることを特徴とする。
【0019】
請求項8記載の発明は、請求項6または7記載のものにおいて、前記STC信号の全体の強度を調整するSTC深さ調整部をさらに備え、該深さ調整部を遠隔調整可能としたことを特徴とする。
【0020】
請求項9記載の発明は、請求項6ないし8のいずれか1項に記載のものにおいて、前記STC信号のMBS調整を行うMBS調整部をさらに備え、該MBS調整部を遠隔調整可能としたことを特徴とする。
【0021】
請求項10記載の発明は、電波を送信して物標からの反射波を受信するレーダ装置の受信電力の制御を行なうSTC信号の波形を設定するSTC波形設定方法であって、
物標までの距離即ち受信時間の区間と対応づけられるアドレスを設定し、
直流信号を出力して、該直流信号の強度によりレーダ装置の受信電力の強度を調整し、
前記直流信号の強度を制御し、
前記直流信号をデジタル値にA/D変換し、
前記設定されたアドレスに対応づけて前記デジタル値を記憶部に格納する
手順を順次アドレスを変更して繰り返し、前記デジタル値をSTC波形設定値とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、距離即ち受信時間をアドレスに対応づけて、各アドレスに対して、最適なレーダ装置の受信電力の強度とする直流信号の強度を調整し、この直流信号のデジタル値をSTC波形の設定値とする。これによって、各アドレス即ち距離毎に、適切なSTC波形の設定値を決めることができるので、レーダ装置が設置される環境に左右されずに、レーダ受信機の利得特性にも左右されずに自由に適切に且つ容易にSTC波形の設定を行なうことができる。
【0023】
請求項2記載の発明によれば、区間選択部によって設定中のアドレスに対応する受信時間に発生される信号の利得を制御して調整することにより、PPI映像を見ながら設定を行ったときに、設定中の区間のみがPPI映像にて表わされるので、設定が分かりやすく、容易に設定を行うことができるようになる。
【0024】
請求項3記載の発明によれば、設定中の区間が拡大されてPPI映像にて表わされるので、設定が分かりやすく、容易に設定を行うことができるようになる。
【0025】
請求項4及び5記載の発明によれば、全てのアドレス、即ち、STC制御を行なうべき全ての距離即ち受信時間の区間に対して設定を行わなくてもよく、設定を行わずに飛ばしたアドレスについては演算部で演算にてデジタル値を決めることにより、設定の時間を短縮して、効率的に設定作業を行うことができるようになる。
【0026】
請求項6記載の発明によれば、デジタル値で離散的に設定されたSTC波形を、アナログのSTC信号として再現して運用することができる。
【0027】
請求項7記載の発明によれば、STC波形設定装置の記憶部とSTC波形運用装置の記憶部を別部品とすることにより、運用中のSTC波形を修正しようとする場合に、元の設定値を残したままで修正を行うことができ、任意に元の設定値に戻すこともできる。
【0028】
請求項8記載の発明によれば、STC波形設定装置で設定されたSTC波形に対して、環境の変化に応じて、運用中にその強度を微調整することができるようになる。また、遠隔で調整可能とすることにより、STC波形運用装置は基本的に無人にて運用することができる。
【0029】
請求項9記載の発明によれば、STC波形設定装置で設定されたSTC波形に対して、環境の変化に応じて、運用中にMBSの強度を微調整することができるようになる。また、遠隔で調整可能とすることにより、STC波形運用装置は基本的に無人にて運用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
(第1実施形態)
図1は本発明のSTC波形設定方法が適用されるSTC波形設定装置12と、そのSTC波形設定装置で設定されたSTC波形を用いて運用を行なうSTC波形運用装置14とを含む全体のSTC波形発生装置10の第1実施形態の構成を示すブロック図である。
【0031】
STC波形設定装置12とSTC波形運用装置14とは共通の発振部16に基づき動作するよう並列に設けられており、設定/運用選択スイッチ18によって、STC波形設定装置12及びSTC波形運用装置14のいずれかの装置が選択されて、選択された装置からの信号が出力される。
【0032】
発振部16は、クロック信号を出力する発振器20と、発振器20で出力されるクロック信号の周波数を変化させるための周波数制御回路22と、周波数設定部24と、を備える。
【0033】
発振器20からはレーダ装置からの電波送信トリガ信号に同期したクロック信号が出力される。レーダ装置の電波送信トリガ信号でPLLを構成するか、またはレーダ装置のトリガ発信源と同期を取るなどして実現することができる。クロック信号の周波数は、後述のSTC波形を複数の区間に分けて区間ごとに設定するときのその区間幅に対応する。
【0034】
周波数設定部24は、例えばディップスイッチを含むことができ、ディップスイッチで設定された値をD/A変換し、その値に応じた直流電圧を発振器20のICのコントロールモード端子に加えるように構成することができる。
【0035】
STC波形設定装置12は、区間選択部32と、アドレス設定部34と、直流信号出力部としての利得可変増幅部38と、強度調整部としての利得調整部40と、サンプルホールド部42と、A/D変換部44と、記憶部46と、データ転送部48とを、備える。
【0036】
区間選択部32は、発振器20からのクロック信号に対して、設定された区間に相当する信号をピックアップすると共にそのパルス幅を拡大するものである。このため、区間選択部32は、カウンタ32Aと、コンパレータ32Bと、パルス幅拡大回路32Cとを備える。カウンタ32Aは、電波送信トリガ信号によってリセットされ、クロック信号を計数するものである。コンパレータ32Bは、アドレススイッチを含むアドレス設定部34で設定されたアドレス値とカウンタ32Aのカウンタ値とが同じになったときに、比較出力信号を出力するものであり、パルス幅拡大回路32Cは、その比較出力信号を所定のパルス幅を持つ信号に変換するものである。
【0037】
利得可変増幅部38は、区間選択部32からの信号を増幅して、直流信号を出力するものである。その利得は、利得調整部40によって調整可能となっており、直流信号の強度が調整される。利得可変増幅部38がOPアンプで構成される場合、入力抵抗にトランジスタを直列に接続したもので構成することができ、利得調整部40は、トランジスタのベースに直流電圧を加えることで、利得を変更することができる。
【0038】
利得可変増幅部38からの直流信号は、設定/運用選択スイッチ18とサンプルホールド部42へと送られる。そして、設定/運用選択スイッチ18を介して送られた利得可変増幅部38からの直流信号に従って、レーダ装置の受信信号の強度が調整される。
【0039】
サンプルホールド部42は、利得可変増幅部38からの直流信号のピーク値をホールドし、A/D変換部44はそのホールドされたアナログ信号をデジタル値に変換する。
【0040】
記憶部46は、アドレス設定部34で設定されたアドレスに対応するアドレスに、A/D変換部44からのデジタル値を格納するものである。
【0041】
以上のように構成されるSTC波形設定装置12の作用を、図2を参照しながら説明する。尚、設定時、設定/運用選択スイッチ18はSTC波形設定装置12からの出力を選択してレーダ装置に送出している。
【0042】
まず、設定者は、初期設定としてクロック信号の周波数を決定して周波数設定部24の設定を行なう。この周波数は、設定の細かさに対応するものであり、周波数が高ければそれだけ設定されたSTC波形が滑らかになるが、設定時間がかかることになる。両者のトレードオフによって適度な周波数が選択される。
【0043】
発振器20からは図2(a)の電波送信トリガ信号に同期し、周波数設定部24にて設定された周波数のクロック信号が出力される(図2(b))。
【0044】
次いで、設定者は、アドレス設定部34でアドレス設定を行なう。設定するアドレスの順番は任意であるが、基本的には最小値から順次行なうことができる。アドレスは、物標までの距離即ち受信時間の区間と対応づけられ、図3(a)に示すように、1つのアドレスは、PPI映像のリング形状に対応する。
【0045】
図2において、アドレス設定部34で設定されたアドレスが「2」であるとすると、区間選択部32は、クロック信号の2個目のパルス信号に相当し、且つそのパルス幅が拡大された信号を出力する(図2(c))。パルス幅の拡大は、PPI映像において設定者が視認しやすい幅に拡大するためのものであり、少なくとも隣接するアドレスに対応する区間の少なくとも一部まで広がる幅とするとよい。
【0046】
この拡大されたパルス幅信号は、利得可変増幅部38で増幅されて(図2(d))、設定/運用選択スイッチ18を介してレーダ装置へと出力される。レーダ装置では、この利得可変増幅部38からの直流信号に応じて受信信号が増幅されて、PPI映像が表示される。即ち、このPPI映像は、図3(b)に示すように、選択したアドレスに対応する距離の区間の拡大された部分だけが増幅されて表示された映像となる。設定者は、この映像を見ながら、利得調整部40の調整を行い、利得可変増幅部38の利得を変化させて、海面反射信号が適度になる利得を視覚的に確認する。
【0047】
この利得可変増幅器38の信号は、サンプルホールド部42及びA/D変換部44を経てデジタル値となり、記憶部46にアドレス設定部34で設定されたアドレスに対応して格納される。
【0048】
適度な利得に調整できると、設定者はアドレス設定部34の設定アドレスを次のアドレス(通常は+1)に変更する。例えば、アドレス設定部34で設定されたアドレスが「3」に変更されると、図2(e)に示したように、区間選択部32は、クロック信号の3個目の信号のパルス幅を拡大した信号を出力する。PPI映像には、図3(c)に示すように、そのアドレスに対応する距離の区間だけが増幅されて表示された映像となるので、順次、同様の手順により、その部分に適切な利得を利得調整部40で調整する(図2(f))。
【0049】
以上の手順でアドレス設定部34の設定アドレスを変えていきながら、STC制御が必要な区間について設定を行なう。また、修正を加える場合にもアドレス設定部34でその区間に対応するアドレスを設定して、適宜修正を行なう。
【0050】
こうして、記憶部46に格納されたデータはSTC波形のデジタル値となる。このように設定されたSTC波形のデジタル値は、それぞれの区間ごとに適した設定値になっており、必ずしも距離のn乗に反比例した値ではなく、レーダ装置が設置された現場ごとに固有で且つその現場に最適な値となっている。
【0051】
次に、必要な区間についての設定が終了した後、データ転送部48により記憶部46からSTC波形運用装置14の記憶部50へのデータの転送が行われる。
【0052】
STC波形運用装置14は、記憶部50と、タイミング制御部52と、シフトレジスタ部54と、D/A変換部56と、波形整形部58と、STC深さ調整部60と、MBS調整部62と、を備える。
【0053】
運用時、設定/運用選択スイッチ18はSTC波形運用装置14からの出力を選択してレーダ装置に送出している。
【0054】
記憶部50には、データ転送によりSTC波形設定装置12の記憶部46と同じ内容のデータが格納される。記憶部46と記憶部50は、それぞれ設定用メモリと運用用メモリとして機能しており、1つの共通部品とすることも可能であるが、別部品で構成されると好ましい。別部品とすることにより、運用中のSTC波形を修正しようとする場合に、元のデータを残したままで修正を行うことができ、任意に元のデータに戻すこともできるからである。
【0055】
タイミング制御部52は、電波送信トリガ信号をトリガとし且つ発振器20からのクロック信号のタイミングで順次アドレス信号を生成して記憶部50へと送出するとともに、シフトレジスタ部54へとタイミング信号を送出する。シフトレジスタ部54は、記憶部50からのデータを順次受け取るものである。このタイミング制御部52とシフトレジスタ部54は、設定値読み出し部を構成する。
【0056】
D/A変換部56は記憶部50に格納されているデジタル値をアナログ信号として出力する。波形整形部58は、具体的には積分回路で構成することができ、D/A変換部56からのアナログ信号を円滑化する。これによって、記憶部50から読み取った階段状の波形を滑らかに整形する。
【0057】
滑らかに整形されたSTC信号は、STC深さ調整部60及びMBS調整部62による微調整を経て、設定/運用選択スイッチ18からレーダ装置へと送られて、レーダ装置の受信電力の制御を行なう。
【0058】
STC深さ調整部60は、STC信号の全体の強度(深さ)を微調整するものであり、利得可変増幅部60Aと、利得調整部60Bとから構成される。利得可変増幅器60A及び利得調整部60Bは、利得可変増幅器38及び利得調整部40と同じ構成とすることができる。
【0059】
MBS調整部62は、MBS(Main Bang Suppression)微調整を行うものであり、MBS波形生成部62Aと、利得調整部62Bと、加算部62Cとから構成される。
【0060】
また、周波数設定部24にて周波数を微調整することにより、STC信号の全体の幅を微調整することもできる。
【0061】
利得調整部60B、利得調整部62B及び周波数設定部24は、外部からの遠隔操作にて調整を行なうことができるようにするとよく、遠隔操作部からの制御信号を入力する回路を備えることができる。運用時に遠隔操作で微調整を行なうことにより、STC波形運用装置及びレーダ装置の近辺の無人化を図ることができる。
【0062】
以上のようにこの実施形態によれば、STC波形を適宜の区画に分割して、それぞれの区画で適切に調整して設定値を決定し、運用時には、区画ごとの設定値を合わせて波形を作成するので、レーダ装置が設置される環境及びレーダ受信機の利得特性に適し、自由に、適切且つ容易にSTC波形の設定を行なうことができる。
【0063】
(第2実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態を表すブロック図である。第1実施形態と同じ部材については同じ符号を付して、詳細説明を省略する。
この実施形態では、第1実施形態の構成に加えて新たに演算部49が設けられている。
【0064】
第1実施形態では、アドレス設定部34において、基本的に1つずつアドレスをインクリメントさせながらSTC制御を要する範囲の全てのアドレスについての設定をPPI映像を見ながら行なうようにしていたが、そうすると長い設定時間が必要になる。しかしながら、実際には、隣接する区間において、大きくSTC波形の値が変化することはないので、必ずしも全てのアドレスについてPPI映像を見ながら利得調整を行なわなくても、大きな不都合が発生することはない。このため、本実施形態では、アドレス設定部34において、複数のアドレスを飛ばしながらの設定を可能とし、演算部49で、設定されなかったアドレスに対してそのアドレスの前後で設定されたアドレスに対するデジタル値を読み取り、該デジタル値から設定されなかったアドレスに対するデジタル値を補間するようにしている。
【0065】
演算部49で行うフローチャートの一例を図5に示す。演算部49は、アドレス設定部34で設定されたアドレスADを受け取り、アドレス設定部34で前回設定されたアドレスAD0との差が1より大きい場合に、記憶部46に格納されている前のアドレスAD0のデータD0と、現在のアドレスADのデータDを読み取り、その間のアドレスADn(=AD0+n)について補間を行う。基本的には比例になるように補間する。即ち、
【0066】
【数1】

ここで、n=1,・・・,(AD−AD0−1)
として、ADとAD0間のデータについて求めて、記憶部46に書き込む。
【0067】
但し、補間方法は比例に限らず、例えば加重平均などの特殊演算とすることも可能である。
この実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用・効果を有しつつ、設定の時間を短縮して、効率的に設定作業を行うことができるようになる。
【0068】
(第3実施形態)
図6は、本発明の第3実施形態を表すブロック図である。前実施形態と同じ部材については同じ符号を付して、詳細説明を省略する。
【0069】
この実施形態では、第1実施形態の構成をより簡素化したものであり、区間選択部32が省略されている。第1実施形態では、現在設定中の区間だけを増幅してPPI映像に表して設定者の設定を容易にしていたが、記憶部46でデータを格納するアドレスと区間との関係が予め設定者に明確であれば、必ずしも、現在設定中の区間のPPI映像のみならず全ての区間のPPI映像が表示されていてもよい。
【0070】
今、1アドレスと1区間の距離との関係が予め1アドレス=L(m)と決められているとし、設定者は、アドレス設定部34のアドレス設定を行う。アドレス設定の順番は任意であるが、基本的には最小値から順次行なうことができる。
【0071】
例えば、設定者は、アドレス設定部34でアドレス「6」を設定すると、設定者は、図3(a)に示すように距離5L(m)〜6L(m)のリング状の区間にあるPPI映像を見ながら、利得調整部40の調整を行い、利得可変増幅部38の利得を変化させて、海面反射信号が適度になる利得を視覚的に確認する。利得可変増幅部38を変化させることにより、全ての区間のPPI映像は変化するが、前記所定の区間にあるPPI映像だけを見ながら、調整を行う。
【0072】
順次、アドレス設定部34でアドレス「n」を設定すると、設定者は、距離(n−1)(m)〜nL(m)の区間にあるPPI映像を見ながら利得調整部40の調整を行い、適度な利得に調整すると、順次アドレスを変更していく。
【0073】
記憶部46は、アドレス設定部34で設定されたアドレスに、調整された利得可変増幅部38の直流信号のデジタル値を格納していく。こうして、第1実施形態と同様に記憶部46にそれぞれの区間ごとに適した設定値が格納される。
【0074】
運用時、タイミング制御部52による記憶部50のデータを読み出すタイミングが、予め決められた前記アドレスと区間の距離との関係をほぼ満足するように、周波数設定部24でクロック信号の周波数を調整すれば、生成されたSTC信号は、設定時と同じ関係を持って運用されることになる。
この実施形態によれば、回路を簡素化することができ、STC波形設定装置12を低コストで構成することができる。
【0075】
(第4実施形態)
図7は、本発明の第4実施形態を表すブロック図である。前実施形態と同じ部材については同じ符号を付して、詳細説明を省略する。
【0076】
この実施形態では、第3実施形態の構成に加えて新たに演算部49が設けられており、第2実施形態と同様に、アドレス設定部34によるアドレスを飛ばしながら、設定を行うことができるようにしたものであり、飛ばされたアドレスについての設定を演算部49の演算により補間するようにしたものである。
【0077】
この実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用・効果を有しつつ、第2実施形態と同様に設定の時間を短縮して、効率的に設定作業を行うことができるようになると共に、第3実施形態と同様に回路を簡素化して低コストとすることができる。
【0078】
尚、第2及び第4実施形態の補間において、予め理想的なSTC波形のモデルを演算器49に内蔵しておき、その波形に合致するように、飛ばされたアドレスについて、デジタル値を演算することも可能である。
【0079】
また、上記実施形態で説明したSTC波形設定装置12は、STC波形発生装置10に一体に組み込まれたものとなっていたが、STC波形発生装置10から分離可能な装置とし、STC波形の新規設定または再設定時にのみSTC波形発生装置10に適宜接続されるユニットとして構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明のSTC波形設定方法が適用されるSTC波形設定装置と、そのSTC波形設定装置で設定されたSTC波形を生成するSTC波形運用装置とを含む全体のSTC波形発生装置の第1実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】図1のSTC波形設定装置におけるタイムチャート図である。
【図3】PPI映像の具体例であり、(a)は区間選択を行なっていない状態、(b)(c)は区間選択を行なっている状態を表す。
【図4】本発明の第2の実施形態を表すブロック図である。
【図5】図4の演算部のフローチャートの一例である。
【図6】本発明の第3実施形態を表すブロック図である。
【図7】本発明の第4実施形態を表すブロック図である。
【符号の説明】
【0081】
12 STC波形設定装置
14 STC波形運用装置
16 発振部
32 区間選択部
34 アドレス設定部
38 利得可変増幅部(直流信号出力部)
40 利得調整部(強度調整部)
44 A/D変換部
46 記憶部
49 演算部
52 タイミング制御部(設定値読み出し部)
54 シフトレジスタ部(設定値読み出し部)
56 D/A変換部
58 波形整形部
60 STC深さ調整部
62 MBS調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波を送信して物標からの反射波を受信するレーダ装置の受信電力の制御を行なうSTC信号の波形を設定するSTC波形設定装置であって、
物標までの距離即ち受信時間の区間と対応づけられるアドレスを設定するアドレス設定部と、
直流信号を出力して、該直流信号の強度によりレーダ装置の受信電力を制御可能となった直流信号出力部と、
前記直流信号出力部の直流信号の強度を調整する強度調整部と、
前記直流信号出力部からの直流信号をデジタル値にA/D変換するA/D変換部と、
アドレス設定部で設定されたアドレスに対応づけて前記デジタル値を格納する記憶部と、
を備え、該デジタル値をSTC波形の設定値とすることを特徴とするSTC波形設定装置。
【請求項2】
電波送信トリガ信号と同期したクロック信号を出力する発振部と、
前記発振部からのクロック信号に基づき、前記アドレス設定部によって設定されたアドレスに対応する受信時間の区間に発生する信号を生成する区間選択部をさらに備え、
前記直流信号出力部は、前記区間選択部で生成された信号に対して増幅を行うものであり、前記強度調整部は、前記直流信号出力部の利得を調整するものであることを特徴とする請求項1記載のSTC波形設定装置。
【請求項3】
前記区間選択部は、前記アドレス設定部によって設定されたアドレスに対応する受信時間の区間から、少なくとも隣接するアドレスに対応する受信時間の区間の少なくとも一部まで継続する信号を生成することを特徴とする請求項2記載のSTC波形設定装置。
【請求項4】
前記アドレス設定部で設定されていないアドレスがある場合に、設定されなかったアドレスに対応するデジタル値を演算する演算部を備えることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のSTC波形設定装置。
【請求項5】
前記演算部は、設定されなかったアドレスに対してそのアドレスの前後で設定されたアドレスに対するデジタル値を読み取り、該デジタル値から設定されなかったアドレスに対するデジタル値を補間することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のSTC波形設定装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載の前記STC波形設定装置によって設定されるSTC波形を用いてレーダ装置の運用を行なうSTC波形運用装置であって、
前記STC波形設定装置で設定された設定値であるデジタル値を、順次、読み出す設定値読み出し部と、
設定値読み出し部で読み出されたデジタル値のD/A変換を行うD/A変換部と、
D/A変換された信号の波形整形をしてSTC信号を作成する波形整形部と
を備え、該STC信号によりレーダ装置の受信電力を制御することを特徴とするSTC波形運用装置。
【請求項7】
前記STC波形設定装置の記憶部に格納されたデジタル値がデータ転送されて格納された記憶部をさらに備えることを特徴とする請求項6記載のSTC波形運用装置。
【請求項8】
前記STC信号の全体の強度を調整するSTC深さ調整部をさらに備え、該深さ調整部を遠隔調整可能としたことを特徴とする請求項6または7記載のSTC波形運用装置。
【請求項9】
前記STC信号のMBS調整を行うMBS調整部をさらに備え、該MBS調整部を遠隔調整可能としたことを特徴とする請求項6ないし8のいずれか1項に記載のSTC波形運用装置。
【請求項10】
電波を送信して物標からの反射波を受信するレーダ装置の受信電力の制御を行なうSTC信号の波形を設定するSTC波形設定方法であって、
物標までの距離即ち受信時間の区間と対応づけられるアドレスを設定し、
直流信号を出力して、該直流信号の強度によりレーダ装置の受信電力の強度を調整し、
前記直流信号の強度を制御し、
前記直流信号をデジタル値にA/D変換し、
前記設定されたアドレスに対応づけて前記デジタル値を記憶部に格納する
手順を順次アドレスを変更して繰り返し、前記デジタル値をSTC波形設定値とすることを特徴とするSTC波形設定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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