説明

Si−ハロゲン化合物へのSi−H化合物の転化法

本発明の対象は、Si−ハロゲン結合を有するケイ素化合物(Cl)へのSi−H結合を有するケイ素化合物(H)の転化法であって、ケイ素化合物(H)を気相中でハロゲン化水素と、(a)テトラオルガノホスホニウムハロゲン化物、(b)テトラオルガノアンモニウムハロゲン化物及び(c)ヘテロ原子上で有機置換されたヘテロ環式化合物のイオン性ハロゲン化物から選択される触媒の存在で反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相中でのハロゲン化水素を用いるSi−ハロゲン化合物へのSi−H化合物の転化法に関する。
【0002】
ハロゲンシラン又はオルガノハロゲンシランを製造する際に、Si−H含有シランも含有する混合物がしばしば生じる。これらのシランは、望まれうるものであり、かつ前記混合物から純粋単離されることができる。これらは、しかしまた望まれうるものではなく、故に除去されなければならない。最も一般に使われるシラン混合物を分離する方法は蒸留である。ところでSi−H含有シラン及びその他の1つ又はそれ以上のシランの沸点が、かなり近くに存在するか又はそれどころかアゼオトロープが形成される場合には、蒸留は費用がかかり、かつ費用集約的になる。
【0003】
米国特許(US-A)第5336799号明細書には、Si−H含有化合物を、Pt触媒又はPd触媒上での有機ハロゲン化物との反応により、相応するオルガノシランへ転化させることが記載されている。前記反応速度は、ゆっくりであり、かつ比較的高価な有機ハロゲン化物が必要である。
【0004】
欧州特許出願公開(EP-A)第423948号明細書には、Pd、Pt、Niのような金属触媒上でSi−Hを有するオルガノシランとハロゲン化水素とを反応させてオルガノハロゲンシランに変換することが記載されている。前記触媒は高価であり、かつ金属ハロゲン化物へのゆっくりとした酸化によって触媒の失活が行われる。
【0005】
米国特許(US-A)第5302736号明細書には、そのためのAg触媒又はAu触媒が記載されているが、しかし前記反応の進行は遅すぎる。
【0006】
米国特許(US-A)第3754077号明細書には、1つ又はそれ以上のSi−H結合を有するハロゲンシランを、気相中でハロゲン化水素を用いて活性炭、Al23又はSiO2のような固体触媒上で、テトラハロゲンシランへ転化させることが記載されている。前記方法は、有機基を有しないシランについてのみ開発されており、200℃以上の温度を必要とする。
【0007】
本発明の課題は、Si−H含有シランを、変化した沸点を有するシランへ変換するために改善された方法を提供することである。
【0008】
本発明の対象は、Si−ハロゲン結合を有するケイ素化合物(Cl)へのSi−H結合を有するケイ素化合物(H)の転化法であって、ケイ素化合物(H)を気相中でハロゲン化水素と、
(a)テトラオルガノホスホニウムハロゲン化物、
(b)テトラオルガノアンモニウムハロゲン化物及び
(c)ヘテロ原子上で有機置換されたヘテロ環式化合物のイオン性ハロゲン化物
から選択される触媒の存在で、反応させる。
【0009】
本方法は、低い温度で進行し、かつSi−H結合を有する全ての蒸発可能なケイ素化合物(H)に適している。前記触媒は、極めて長い耐用時間を有し、かつ極めて簡単に取り扱うことができる。
【0010】
Si−H結合を有する好ましいケイ素化合物(H)は、オルガノポリシロキサン、オルガノポリシラン及び特にモノシランである。
【0011】
シラン(H)は、好ましくは、一般式1
xSiH4-x (1)
を有し、ここで、
Rは、ハロゲン基で置換されているか又は置換されていない一価のC1〜C18−炭化水素基を表すか又はハロゲン基を表し、かつ
xは値1、2又は3を表す。
【0012】
好ましくは、C1〜C18−炭化水素基Rは、フェニル基又はC1〜C6−アルキル基、ビニル基又はアリル基、特にメチル基又はエチル基である。R上のハロゲン置換基は、好ましくはフッ素、塩素及び臭素、特に塩素である。
【0013】
ハロゲン基Rは、好ましくはフッ素、塩素及び臭素、特に塩素である。
【0014】
本発明による方法は、メチルクロロシラン類、特に、副生物としてケイ素化合物(H)、特にEtHSiCl2及び場合により別の副生物を含有するメチルクロロシラン類の直接合成からの粗生成物及び予備精製された生成物を精製する際の使用に適している。
【0015】
前記メチルクロロシラン類中のケイ素化合物(H)の好ましい濃度は、10〜5000ppmである。
【0016】
使用されるハロゲン化水素は、好ましくは塩化水素又は臭化水素、特に塩化水素である。
【0017】
好ましくは、ケイ素化合物(H)の水素1molあたりハロゲン化水素1.5〜50mol、特に3〜10molが使用される。
【0018】
触媒(a)及び(b)として、好ましくは、
(a)一般式2
14PX1 (2)
で示されるテトラオルガノホスホニウムハロゲン化物及び
(b)一般式3
24NX2 (3)
で示されるテトラオルガノアンモニウムハロゲン化物が使用され、ここで、
1及びR2は、ハロゲン置換されていない又はハロゲン置換された、ヘテロ原子を有するか又は有しないC1〜C18−炭化水素基を表し、かつ
1及びX2は、ハロゲン原子を表す。
【0019】
1及びR2は、例えば分枝鎖状の、非分枝鎖状の又は環式のアルキル基及び多重結合系、例えばアリール基、アルカリール基、並びにアラルキル基であってよい。好ましくは、基R1及びR2は、炭素原子1〜10個を有し、特に、基R1及びR2は、炭素原子2〜8個を有するアルキル基である。
【0020】
ハロゲン原子X1及びX2は、好ましくは塩素、臭素又はヨウ素、特に塩素である。
【0021】
(n−ブチル)4PCl及び(n−ブチル)3(n−オクチル)PClが好ましい。ハロゲン化アルキルでの第三級ホスフィンのアルキル化によるこの種の均一系触媒の製造は、例えばHouben-Weyl, Georg Thieme Verlag, XII/1巻, p.79-90, 1963に記載されている。
【0022】
触媒(c)として、好ましくは
窒素原子又はリン原子が有機置換されており、正に帯電したヘテロ環式化合物のハロゲン化物塩
が使用される。
【0023】
好ましい正に帯電したヘテロ環式化合物は、イミダゾリウム塩及びピリジニウム塩、特に
一般式4
【化1】

で示されるイミダゾリウム塩及び一般式5
【化2】

で示されるピリジニウム塩であり、ここで、
8は、水素及びR1及びR2の意味を有し、
7、R9及びR10は、R1及びR2の意味を有し、かつ
3及びX4は、X1及びX2の意味を有する。
【0024】
好ましくは、使用されるハロゲン化水素のハロゲンは、X1、X2、X3及びX4のハロゲンに相応する。特に、X1、X2、X3及びX4は塩化水素である。
【0025】
好ましい一実施態様において、触媒(c)は、イオン性液体、すなわち低融点の塩である。それらの好ましい融点は、本方法のためには、1barで高くとも150℃、好ましくは高くとも100℃である。イオン性液体のカチオンの基は、好ましくは前記の基R1及びR2に相応する。
【0026】
純粋な触媒(a)、(b)もしくは(c)又は触媒(a)、(b)及び(c)から選択される触媒の混合物が使用されることができる。
【0027】
使用されるハロゲン化水素は、好ましくは塩素水素又は臭化水素、特に塩化水素である。
【0028】
触媒(a)、(b)、及び(c)は、好ましくは純物質で、又は好ましくは高沸点の不活性有機溶剤、好ましくは炭化水素、例えばテトラリン又はデカリン中に溶解されて、使用される。触媒(a)、(b)、及び(c)は、固体担体上でも使用されることができる。
【0029】
圧力及び温度は、幅広い範囲内で変更可能であり、かつ好ましくは前接続された塔の条件に適合され、ここで前記塔は、豊富化されたケイ素化合物(H)、特にEtHSiCl2を有する留分を提供する。
【0030】
本発明による方法は、好ましくは、ケイ素化合物(Cl)が液体である温度で実施される。特に、本発明による方法は、少なくとも30℃、特に少なくとも70℃及び好ましくは高くとも160℃、特に高くとも120℃の温度で実施される。
【0031】
本発明による方法は、好ましくは管形反応器中で実施され、その際に前記混合物は好ましくは蒸気状で供給される。
【0032】
前記の式の前記の全ての符号は、それらの意味をそれぞれ互いに独立して有する。
【0033】
以下の例において、それぞれ他に記載されない限り、全ての量及びパーセントの記載は質量に基づいており、全ての圧力は0.10MPa (abs)であり、かつ全ての温度は20℃である。
【実施例】
【0034】
熱媒体で加熱された内径20mm及び長さ600mmの管形反応器に、テトラブチルホスホニウムクロリド80gが充填されている。エチルジクロロシラン360ppm及びC7〜C8−炭化水素1300ppmを有するガス状メチルクロロシラン留分230g/hを、90℃の熱媒体温度及び10mbarの超過圧で塩化水素1l/hと共に前記触媒に導通させる。気泡塔の高さは、約500mmに調節される。軽い還流を伴う30cmの長さの充填塔を経て凝縮された生成物を、GCを用いて分析する。前記生成物は、エチルジクロロシラン20ppmを含有し、前記C7〜C8−炭化水素は分解されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si−ハロゲン結合を有するケイ素化合物(Cl)へのSi−H結合を有するケイ素化合物(H)の転化法であって、
ケイ素化合物(H)を気相中でハロゲン化水素と、
(a)テトラオルガノホスホニウムハロゲン化物、
(b)テトラオルガノアンモニウムハロゲン化物及び
(c)ヘテロ原子上で有機置換されたヘテロ環式化合物のイオン性ハロゲン化物
から選択される触媒の存在で反応させることを特徴とする、
ケイ素化合物(Cl)へのケイ素化合物(H)の転化法。
【請求項2】
ケイ素化合物(H)は、一般式1
xSiH4-x (1)
で示されるシランであり、ここで、
Rは、ハロゲン基で置換されているか又はハロゲン基で置換されていない一価のC1〜C18−炭化水素基であるか、又はハロゲン基であり、かつ
xは、値1、2又は3を意味する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
使用されるハロゲン化水素が塩化水素である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
触媒(a)及び(b)として、
(a)一般式2
14PX1 (2)
で示されるテトラオルガノホスホニウムハロゲン化物、
(b)一般式3
24NX2 (3)
で示されるテトラオルガノアンモニウムハロゲン化物を使用し、ここで、
1及びR2は、ハロゲン置換されているか又はハロゲン置換されていない、ヘテロ原子を有するか又は有しないC1〜C18−炭化水素基を表し、かつ
1及びX2は、ハロゲン原子を表す、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
触媒(c)として、
一般式4
【化1】

で示されるイミダゾリウム塩又は一般式5
【化2】

で示されるピリジニウム塩を使用し、ここで、
1は、水素及び請求項4記載のR1及びR2の意味を有し、
7、R8及びR9は、請求項4記載のR1及びR2の意味を有し、かつ
3及びX4は、請求項4記載のX1及びX2の意味を有する、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2010−531833(P2010−531833A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513837(P2010−513837)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057257
【国際公開番号】WO2009/003806
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】