説明

Sr含有水の処理方法及び処理装置

【課題】高濃度Sr含有水や大量のSr含有水であっても、低コストで効率的に水中のSrを分解除去することができる方法を提供する。
【解決手段】Sr含有水にアルカリ条件下で炭酸塩を添加して凝集、固液分離する。水中のSrは、アルカリ条件下で炭酸塩と反応して炭酸ストロンチウムの沈殿を生成するため、凝集、固液分離でSrを効率的に処理することができる。該アルカリ条件は、pH10〜13.5であることが好ましく、炭酸塩としてはアルカリ金属の炭酸塩が好ましい。Srを含む海水の処理に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Sr含有水の処理方法及び処理装置に関する。詳しくは、SrとCa2+,Mg2+等の陽イオンを含有する水を凝集、固液分離により処理する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性ストロンチウム90Srは、放射性Csと同様に、半減期が長く、また、水への拡散性が高い核分裂生成物であり、放射性Csと同様、放射性Srにより汚染された水についても、その水処理システムの改良が望まれている。
【0003】
従来、水中の放射性Srの処理には、オルトチタン酸で吸着除去する方法が適用されており(非特許文献1)、従来において、凝集処理は行われていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】久保田益光ほか“群分離法の開発:無機イオン交換体カラム法による90Sr及び134Csを含む廃液の処理法の開発”JAERI−M82−144(1982)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
オルトチタン酸等の吸着材を用いてSrを吸着除去する従来法では、次のような問題があった。
(1) 放射性Srで汚染された海水など、放射性Sr含有水は、通常、放射性Sr以外の陽イオンを多く含有するため、これら陽イオンが放射性Srの吸着を妨害し、放射性Srのみを選択的に吸着材で吸着除去することができない。このため、放射性Sr含有水の吸着処理に当っては、予め他の陽イオンを除去するための前処理が必要となる。
(2) 高濃度Sr含有水の処理では、吸着材の交換頻度が高く、ランニングコストが嵩む。
(3) 大量のSr含有水の処理には、処理効率が悪く、不適当である。
【0006】
本発明は、高濃度Sr含有水や大量のSr含有水であっても、低コストで効率的に水中のSrを分解除去することができるSr含有水の処理方法及び処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、水中のSrは、アルカリ条件下で炭酸塩と反応して炭酸ストロンチウムの沈殿を生成すること、従って、Sr含有水の処理に、凝集、固液分離を適用することができることを見出した。
【0008】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] Sr含有水にアルカリ条件下で炭酸塩を添加して凝集、固液分離することを特徴とするSr含有水の処理方法。
【0010】
[2] [1]において、前記アルカリ条件がpH9〜13.5であることを特徴とするSr含有水の処理方法。
【0011】
[3] [1]又は[2]において、前記炭酸塩がアルカリ金属の炭酸塩であることを特徴とするSr含有水の処理方法。
【0012】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記Sr含有水がSrとSr以外の陽イオンを含むことを特徴とするSr含有水の処理方法。
【0013】
[5] [4]において、前記Sr含有水がSrを含む海水であることを特徴とするSr含有水の処理方法。
【0014】
[6] Sr含有水に炭酸塩を添加する炭酸塩添加手段と、Sr含有水をpHアルカリ性に調整するpH調整手段と、該炭酸塩添加手段とpH調整手段を経たSr含有水を凝集、固液分離する手段とを有することを特徴とするSr含有水の処理装置。
【0015】
[7] [6]において、前記pH調整手段によりSr含有水をpH9〜13.5に調整することを特徴とするSr含有水の処理装置。
【0016】
[8] [6]又は[7]において、前記炭酸塩がアルカリ金属の炭酸塩であることを特徴とすることを特徴とするSr含有水の処理装置。
【0017】
[9] [6]ないし[8]のいずれかにおいて、前記Sr含有水がSrとSr以外の陽イオンを含むことを特徴とするSr含有水の処理装置。
【0018】
[10] [9]において、前記Sr含有水がSrを含む海水であることを特徴とするSr含有水の処理装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、Sr含有水にアルカリ条件下で炭酸塩を添加することにより、水中のSrを以下の反応で炭酸ストロンチウムとして効率的に析出、沈殿させ、これを凝集、固液分離することにより、効率的に除去することができる。
Sr2++CO2−→SrCO↓ ・・・(1)
【0020】
また、Sr含有水がCa2+,Mg2+などのSr以外の他の陽イオンを含む場合、以下のように、例えば、Ca2+は、炭酸カルシウムとして析出、沈殿させて除去することができ、また、Mg2+もpH12以上で水酸化マグネシウムとして析出させて除去することができる。
Ca2++CO2−→CaCO↓ ・・・(2)
Mg2+2OH→Mg(OH)↓ ・・・(3)
特に、Sr含有水にCa2+が含まれる場合、CaCOとSrCOとが共沈することで、沈殿物が高密度となり、汚泥の沈降性、固液分離性が良好となる。
【0021】
本発明によれば、Sr含有水に凝集処理を適用することが可能となり、大量のSr含有水であっても容易かつ効率的に安価に処理することができる。しかも、海水のように高塩類濃度のSr含有水であっても、凝集処理であれば、容易かつ効率的に安価に処理することができる。
【0022】
本発明において、炭酸塩添加時のアルカリ条件は、pH9〜13.5の範囲、特にpH10〜13の範囲が好ましく(請求項2,7)、炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩が好ましい(請求項3,8)。
【0023】
このような本発明によるSr含有水の処理は、特にSr以外のCa2+,Mg2+等の陽イオンを含むSr含有水に有効であり、例えば、Srを含む海水、とりわけ放射性Srを含む海水の処理に好適である(請求項4,5,9,10)。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のSr含有水の処理方法及び処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであって、何ら本発明を限定するものではなく、本発明はその要旨を超えない範囲において、以下の実施形態に開示される各要素を種々変更して実施することができる。
【0026】
図1は、本発明のSr含有水の処理方法及び処理装置の実施の形態を示す系統図である。
【0027】
図1に示す実施形態では、Sr含有水(原水)を反応槽1に導入して攪拌下に炭酸塩を添加すると共にpH調整剤を添加してアルカリ条件下に反応させる。
【0028】
原水に添加する炭酸塩としては、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)等のアルカリ金属の炭酸塩が好適に用いられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、これらの炭酸塩を含む排水を用いることもできる。
【0029】
炭酸塩の添加量は、少な過ぎると原水中のSrやその他の共存陽イオンを十分に除去することができず、多過ぎても添加量に見合う除去効果は得られなくなることから、原水中のSrやその他の陽イオンの濃度に応じて反応当量に見合うように適宜決定される。前記の(1)及び(2)式から、原水中のSrとCaの濃度がわかれば必要な炭酸塩の添加量を算出できる。但し、反応に寄与しない炭酸塩もあるので、理論必要量の1〜4倍当量の炭酸塩を添加することが好ましい。
【0030】
Srは、pH9〜13.5のアルカリ条件下でSrCOとして析出するため、pH調整剤として、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等のアルカリを添加して、原水をpH9〜13.5に調整する。特に、原水がMg2+を含む場合には、前述の如く、Mg2+はpH12以上でMg(OH)として析出するため、この場合にはpH10〜13.5に調整することが好ましい。なお、pH調整に用いるアルカリとしては、アルカリ排水を用いてもよい。
【0031】
反応槽1では、原水中のSr、その他の陽イオンと炭酸塩とを十分に反応させて析出物を得るべく、1〜30分程度の滞留時間(反応時間)が得られるように設計することが好ましい。
【0032】
反応槽1の流出液は、次いで凝集槽2で高分子凝集剤(図1ではアニオン性高分子凝集剤(アニオンポリマー))が添加されて撹拌下に凝集処理される。
【0033】
炭酸ストロンチウム及び炭酸カルシウムは、沈降性に優れた良好な凝集フロックを形成するが、水酸化マグネシウムは沈降性が悪くかさ高いフロックである。水酸化マグネシウムは表面電荷がやや正に帯電しているのでアニオンポリマーを添加することで粗大フロックとなり、沈降性を改善することができる。
【0034】
アニオンポリマーとしては、特に限定されないが、例えばポリアクリルアミドの部分加水分解物、ポリアクリルアミドとアクリル酸ナトリウムとの共重合物、アクリルアミドとビニルスルホン酸ナトリウムとの共重合物、及びアクリルアミドとアクリル酸ナトリウムと2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウムとの三元共重合物などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0035】
アニオンポリマーの添加量は、少な過ぎると十分な凝集効果を得ることができず、多過ぎると凝集不良を引き起こす恐れがあることから、0.5〜5mg/L程度とすることが好ましい。
【0036】
なお、凝集槽2において、凝集フロックを十分に粗大化させるために、凝集槽2は、滞留時間(反応時間)が1〜30分となるように設計することが好ましい。
【0037】
凝集槽2の凝集処理液は、次いで沈殿槽3に導入されて固液分離される。沈殿槽3の分離液は更に濾過器4で濾過されることにより、Srが除去された処理水を得ることができる。
【0038】
なお、図1は、本発明の実施の形態の一例を示すものであって、本発明はその要旨を超えない限り、何ら図1の形態に限定されるものではない。
【0039】
例えば、炭酸塩やpH調整剤は、反応槽1に添加する他、反応槽1への原水の導入配管に添加してもよく、アニオンポリマーについても反応槽1の流出液を凝集槽2に導入する配管に添加してもよい。
また、炭酸塩を添加する第1反応槽と、第1反応槽からの流出液にpH調整剤を添加する第2反応槽とに分けて各々の薬剤を添加してもよい。凝集槽2と沈殿槽3は省いてもよい。濾過器4は膜濾過装置でもよい。
【0040】
このような本発明のSr含有水の処理方法は、Srの他にCa2+,Mg2+等の陽イオンを高濃度で含む水の処理に好適であり、適用される原水の水質としては、例えば、導電率100〜5000mS/m、Ca1〜500mg/L、Mg1〜1500mg/L、Sr1〜10mg/L、pH5〜9の水が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0042】
[実施例1]
本発明に従って、以下の水質の模擬海水を処理した。
<模擬海水水質>
導電率:4420mS/m
Ca:417mg/L
Mg:1260mg/L
Sr:4.28mg/L
pH:8.2
【0043】
模擬海水に炭酸塩としてNaCOを1200mg/L添加すると共にNaOHを添加してpH12に調整して10分間反応させた後、凝集槽2にてアニオンポリマー(栗田工業(株)製「クリフロックPA823」(アクリル酸系ポリマー))を3mg/L添加して5分間凝集処理し、その後30分間静置して沈降分離した。上澄水を孔径0.45μmのフィルターで濾過し、濾液を分析し、結果を表1に示した。
【0044】
[比較例1]
実施例1において、模擬海水にNaCOを添加しなかったこと以外は同様にして処理を行い、結果を表1に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
表1より、本発明によれば、模擬海水中のSrをCa,Mgと共に効率的に除去することができることが分かる。一方、炭酸塩を添加していない比較例1では、pH12としたことにより、Mgが除去され、またCaについても一部除去されたが、Srは殆ど除去されなかった。
【0047】
実施例1で得られた処理水は、これをイオン交換樹脂やオルトチタン酸などの吸着材で処理することにより、更にSrを高度に除去することができ、この場合において、被吸着処理水のSr濃度が十分に低減されており、また、他の陽イオン濃度も低いため、吸着材を頻繁に交換することなく、効率的な高度処理が可能となる。
【符号の説明】
【0048】
1 反応槽
2 凝集槽
3 沈殿槽
4 濾過器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr含有水にアルカリ条件下で炭酸塩を添加して凝集、固液分離することを特徴とするSr含有水の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記アルカリ条件がpH9〜13.5であることを特徴とするSr含有水の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記炭酸塩がアルカリ金属の炭酸塩であることを特徴とするSr含有水の処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記Sr含有水がSrとSr以外の陽イオンを含むことを特徴とするSr含有水の処理方法。
【請求項5】
請求項4において、前記Sr含有水がSrを含む海水であることを特徴とするSr含有水の処理方法。
【請求項6】
Sr含有水に炭酸塩を添加する炭酸塩添加手段と、Sr含有水をpHアルカリ性に調整するpH調整手段と、該炭酸塩添加手段とpH調整手段を経たSr含有水を凝集、固液分離する手段とを有することを特徴とするSr含有水の処理装置。
【請求項7】
請求項6において、前記pH調整手段によりSr含有水をpH9〜13.5に調整することを特徴とするSr含有水の処理装置。
【請求項8】
請求項6又は7において、前記炭酸塩がアルカリ金属の炭酸塩であることを特徴とすることを特徴とするSr含有水の処理装置。
【請求項9】
請求項6ないし8のいずれか1項において、前記Sr含有水がSrとSr以外の陽イオンを含むことを特徴とするSr含有水の処理装置。
【請求項10】
請求項9において、前記Sr含有水がSrを含む海水であることを特徴とするSr含有水の処理装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−104723(P2013−104723A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247494(P2011−247494)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】