Staphylococcibacteriaに対する活性を有するキメラバクテリオファージ溶解素
本開示は、ブドウ球菌集団の同定および/または減少に有用なキメラバクテリオファージ溶解素に関する。例えば、キメラバクテリオファージ溶解素を設計し、抗生物質耐性メチシリン耐性黄色ブドウ球菌およびVISAを含有する、試験された全てのブドウ球菌の菌株を有効に殺すことを示した。1つの例において、ClySと呼ばれる新規キメラ溶解素(ブドウ球菌に対するキメラ溶解素)の遺伝子組み換え技術が記載される。ClySは、感受性かつ薬剤耐性のブドウ球菌に対して特異的に活性であり、ブドウ球菌特異的ファージ溶解素の触媒ドメインを、既知のホモログを有しない他のブドウ球菌特異的ファージ溶解素由来の固有の結合ドメインと融合させることによって構築された。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
この出願は、2008年7月3日に出願された米国仮特許出願番号61/078,277の利益を主張し、上記米国仮特許出願は、その全容が参照によって本明細書に援用される。
【0002】
(連邦政府によって支援された研究および開発)
本発明は、国立衛生研究所(NIH)によって与えられた助成金番号AI11822のもとで政府支援によってなされた。米国政府は本発明に対し一定の権利を保有し得る。
【0003】
(技術分野)
本開示は、特定の抗生物質耐性黄色ブドウ球菌細菌株を包含する、ブドウ球菌細菌を迅速かつ特異的に検出し殺すためのキメラ溶解酵素の同定および使用に関する。
【背景技術】
【0004】
黄色ブドウ球菌は、ヒト皮膚および粘膜に生息する、日和見病原菌である。黄色ブドウ球菌は、ヒトにおける様々な皮膚および軟組織感染、ならびに肺炎、髄膜炎、心内膜炎、および骨髄炎等の重篤感染症の原因物質である。また、黄色ブドウ球菌の外毒素は、水疱性膿痂疹、熱傷様皮膚症候群、および毒素性ショック症候群等の疾患症候群をも引き起こす。加えて、ブドウ球菌は、アメリカ合衆国における食物が媒介する疾病の最も多くみられる原因の1つでもある(非特許文献1)。また、黄色ブドウ球菌は、市中感染および病院内(院内)感染の主要な原因でもある。アメリカ合衆国における200万近くの院内感染症例の原因のうち、およそ230,000例が黄色ブドウ球菌によって引き起こされている(NNIS.2003.NNIS report,data summary from January 1992 through June 2003,issued August 2003.American Journal of Infection Control 31:481−498.)。
【0005】
メチシリンおよびバンコマイシン耐性の黄色ブドウ球菌臨床分離株の世界的規模での出現は、深刻な懸念となっている。現在のところ、黄色ブドウ球菌の院内感染の40〜60%はオキサシリンに耐性であり(非特許文献2)、60%を超える単離株がメチシリン耐性である(非特許文献3)。薬剤耐性黄色ブドウ球菌によって引き起こされた感染症の処置は、ますます困難になってきており、従って医療関係者の間で大きな懸案事項となっている。この課題に立ち向かうため、異なる種類に属する新規かつ有効な抗生物質の開発が積極的に進められている。リネゾリド、キヌプリスチン−ダルホプリスチン、ダプトマイシン、チゲサイクリン、新たなグリコペプチドおよびセフトビプロール等の多数の新たな抗微生物剤が導入されているか、または臨床開発中である(非特許文献4)。しかしながら、これらの新種の抗生物質に対して耐性を有するMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の臨床単離株が、すでに報告されている(非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7)。このため、MRSAに対する新規の治療剤または抗生物質にかわるものの開発が急務である。
【0006】
バクテリオファージエンドリシン(溶解素)は、細菌感染症の予防的および治療的処置のための新規な薬剤として浮上している、そのような種類の新規な抗微生物剤の1つである。溶解素は、子孫ウイルス粒子の放出を可能にする、二本鎖DNAバクテリオファージ(またはファージ)の感染サイクルの間に産生される細胞壁加水分解酵素である。典型的には、溶解素は、ペプチドグリカンの加水分解のための触媒ドメインと、細菌の細胞壁上の表面部分を認識するための結合ドメインからなる2つの区別できる機能的ドメインを有する。触媒ドメインは溶解素間で比較的保存されている。溶解素の活性は、ペプチドグリカン内の結合特異性に基づいて2つの群に分類することができる。すなわち、アミノ糖部分内の結合を加水分解するグリコシダーゼと、架橋幹ペプチドのアミド結合を加水分解するアミダーゼである。結合ドメインは、しかしながら、溶解素間で保存されていない。それゆえに、結合ドメインは、種および株特異性を付与する。なぜなら、結合標的(しばしばペプチドグリカンと結び付いた糖質)は、種または株特異的な分布を呈するからである(非特許文献8)。溶解素のモジュール方式は、抗微生物剤としてのそれらの開発に関して重要な特徴である。これは、溶解素ドメインを交換することによるキメラの創造を可能にし、それによって結合特異性もしくは酵素活性またはその両方を改変する(非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12)。
【0007】
外部から適用された場合、野生型または組換え型溶解素は、感受性の細菌の細胞壁を分解することが可能であり、急速な細胞溶解を引き起こした(Nelson D,Loomis L,Fischetti VA.2001.Prevention and elimination of upper respiratory colonization of mice by group A streptococci by using a bacteriophage lytic enzyme.Proc Natl Acad Sci U S A 98(7):4107−12)。溶解素は、A群連鎖球菌(Nelson D,Loomis L,Fischetti VA.2001.Prevention and elimination of upper respiratory colonization of mice by group A streptococci by using a bacteriophage lytic enzyme.Proc Natl Acad Sci U S A 98(7):4107−12)、肺炎連鎖球菌(Loeffler JM,Nelson D,Fischetti VA.2001.Rapid killing of Streptococcus pneumoniae with a bacteriophage cell wall hydrolase.Science 294(5549):2170−2)、炭疽菌(Schuch R,Nelson D,Fischetti VA.2002.A bacteriolytic agent that detects and kills Bacillus anthracis.Nature 418(6900):884−9)、腸球菌(Yoong P,Schuch R,Nelson D,Fischetti VA.2004.Identification of a broadly active phage lytic enzyme with lethal activity against antibiotic−resistant Enterococcus faecalis and Enterococcus faecium.J Bacteriol 186(14):4808−12)、B群連鎖球菌(Cheng Q,Nelson D,Zhu S,Fischetti VA.2005.Removal of group B streptococci colonizing the vagina and oropharynx of mice with a bacteriophage lytic enzyme.Antimicrob Agents Chemother 49(1):111−7)、および黄色ブドウ球菌(Rashel M,Uchiyama J,Ujihara T,Uehara Y,Kuramoto S,Sugihara S,Yagyu K,Muraoka A,Sugai M,Hiramatsu K他.2007.Efficient elimination of multidrug−resistant Staphylococcus aureus by cloned lysin derived from bacteriophage phi MR11.J Infect Dis 196(8):1237−47)を包含する多数のグラム陽性病原菌に対して開発されてきた。大部分のこれらの溶解素の活性は、in vitroおよびin vivoモデルにおいて立証されてきた。いくつかの溶解素特有の特徴が、それらをグラム陽性病原菌に対する抗菌物質の魅力的な候補にしている。これらは、i)in vitroおよびin vivoの両方における迅速な抗菌活性;ii)非常に狭い(種および株特異的)溶解スペクトラム;iii)非常に強い結合親和性(主としてナノモル範囲);iv)結合エピトープが生存に必須であるため、耐性を生み出す可能性が非常に低いこと;v)安全;およびvi)遺伝子組み換え技術による改変が相対的に容易であること(非特許文献8)を含む。
【0008】
溶解素は、多数のグラム陽性病原菌に対して開発されてきたが、黄色ブドウ球菌特異的溶解素の必要性が残されている。様々な研究所がブドウ球菌溶解素を得ようと試みたがうまくいかなかった。多様な技術を用いて20を超える異なるブドウ球菌溶解素の発現が試みられたが成功しなかった。これらは、異なる発現ベクターおよび条件を用いた大腸菌における溶解素遺伝子の発現、バチルス、酵母および哺乳動物系における発現、シャペロンの存在下での発現、切断型の発現等を包含する。本発明者らの知る限りでは、MV−Lと呼ばれる黄色ブドウ球菌特異的溶解素の開発に成功した報告が1つだけある(Rashel M,Uchiyama J,Ujihara T,Uehara Y,Kuramoto S,Sugihara S,Yagyu K, Muraoka A,Sugai M,Hiramatsu K他.2007.Efficient elimination of multidrug−resistant Staphylococcus aureus by cloned lysin derived from bacteriophage phi MR11.J Infect Dis 196(8):1237−47)。MV−L溶解素は、結合ドメインの一種である単一の細胞壁標的(CWT)ドメインに連結された2つの触媒ドメイン(エンドペプチダーゼおよびアミダーゼドメイン)を含む。他に指定のない限り、本明細書における「結合ドメイン」への言及は、CWTドメインを包含する。ブドウ球菌溶解酵素リソスタフィンのようなMV−L CWTドメインは、SH3b様ドメインに対する相同性を呈する。SH3b様ドメインは、ブドウ球菌の細胞壁中のペプチド架橋(ペンタグリシン)に結合する。それらのペプチド架橋を改変することによって10−6の頻度でリソスタフィンに耐性を生み出すブドウ球菌株の報告がある。従って、本発明者らはブドウ球菌がMV−Lを包含するSH3b様CWTドメインを含有する溶解素に対して、より高い頻度で耐性を生み出すことを期待する。例えばSH3b様CWTドメインを伴わない黄色ブドウ球菌特異的溶解素といった、望ましくない高い頻度でリソスタフィン耐性を有することなく、ブドウ球菌細菌に特異的に結合することが可能な溶解酵素が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Fischetti VA,Novick,R.P.,Ferretti,J.J.,Portnoy,D.A.およびRood,J.I.,編集者、Gram−positive pathogens.第2版:ASM Press(2006)
【非特許文献2】Massey RC,Horsburgh MJ,Lina G,Hook M,Recker M.、The evolution and maintenance of virulence in Staphylococcus aureus:a role for host−to−host transmission? Nat Rev Microbiol(2006)4(12):953〜8
【非特許文献3】Gill SR,Fouts DE,Archer GL,Mongodin EF,Deboy RT,Ravel J,Paulsen IT,Kolonay JF,Brinkac L,Beanan M他、Insights on evolution of virulence and resistance from the complete genome analysis of an early methicillin−resistant Staphylococcus aureus strain and a biofilm−producing methicillin−resistant Staphylococcus epidermidis strain.J Bacteriol(2005)187(7):2426〜38
【非特許文献4】Aksoy DY,Unal S.、New antimicrobial agents for the treatment of Gram−positive bacterial infections.Clin Microbiol Infect(2008)14(5):411〜20
【非特許文献5】Tsiodras S,Gold HS,Sakoulas G,Eliopoulos GM,Wennersten C,Venkataraman L,Moellering RC,Ferraro MJ.、Linezolid resistance in a clinical isolate of Staphylococcus aureus.Lancet(2001)358(9277):207〜8
【非特許文献6】Mangili A,Bica I,Snydman DR,Hamer DH.、Daptomycin−resistant,methicillin−resistant Staphylococcus aureus bacteremia.Clin Infect Dis(2005)40(7):1058〜60
【非特許文献7】Skiest DJ.、Treatment failure resulting from resistance of Staphylococcus aureus to daptomycin.J Clin Microbiol(2006)44(2):655〜6
【非特許文献8】Fischetti VA,Nelson D,Schuch R.、Reinventing phage therapy:are the parts greater than the sum? Nat Biotechnol(2006)24(12):1508〜11
【非特許文献9】Sheehan MM,Garcia JL,Lopez R,Garcia P.、Analysis of the catalytic domain of the lysin of the lactococcal bacteriophage Tuc2009 by chimeric gene assembling.FEMS Microbiol Lett(1996)140(1):23〜8
【非特許文献10】Lopez R GE,Garcia P,Garcia JL.、The pneumococcal cell wall degrading enzymes:a modular design to create new lysins? Microb Drug Res(1997)3:199〜211
【非特許文献11】Croux C,Ronda C,Lopez R,Garcia JL.、Interchange of functional domains switches enzyme specificity: construction of a chimeric pneumococcal−clostridial cell wall lytic enzyme.Mol Microbiol(1993)9(5):1019〜25
【非特許文献12】Donovan DM, Dong S,Garrett W,Rousseau GM,Moineau S,Pritchard DG.、Peptidoglycan hydrolase fusions maintain their parental specificities.Appl Environ Microbiol(2006)72(4):2988〜96
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
概要
本開示は、新規のブドウ球菌溶解素のほか、該溶解素の製造方法および使用を記載する。1つの例において、ClySと呼ばれる新規キメラ溶解素(ブドウ球菌に対するキメラ溶解素)の遺伝子組み換え技術が記載される。ClySは、感受性かつ薬剤耐性のブドウ球菌に対して特異的に活性であり、ブドウ球菌特異的ファージ溶解素の触媒ドメインを、既知のホモログを有しない他のブドウ球菌特異的ファージ溶解素由来の固有の結合ドメインと融合させることによって構築された。ClySは、SH3b様CWTドメインを伴わない可溶性のブドウ球菌特異的溶解素であるが、ブドウ球菌特異的表面糖質を認識すると考えられるCWTドメインを含有する。そのため、ブドウ球菌株がClySに対する耐性を生み出すであろう頻度は低減され得る。加えて、ClySの生化学的特徴づけによって、ClySのpHおよび塩スペクトラムが従来の溶解素とは非常に異なっており、それにより、このキメラ溶解素に固有の特性をもたらすことが明らかになった。
【0011】
また、診断目的で結合ドメインを使用する方法も本発明の範囲内に包含され、該方法は、試料を、配列番号1のアミノ酸配列を含む細胞壁標的ドメインを含むレポーター分子、およびそれに結合した蛍光レポーティング(fluorescent reporting)部分と接触させる工程;ならびに、その後試料内でブドウ球菌細菌に結合したレポーター分子の存在を検出する工程を含む。特定の実施態様において、レポーター分子は緑色蛍光タンパク質である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、推定されるCHAP(「システインおよびヒスチジン依存性アミド加水分解酵素/ペプチダーゼ」)およびCWTドメインを示す、phiNM3溶解素の概略図である。数字は、アミノ酸の位置およびドメインの端を意味する。ClySのCWTドメインは、図中に示される。
【図2A】図2Aは、phiNM3 CWTの精製を示すゲルである。陰イオン交換クロマトグラフィーにより精製されたphiNM3 CWTのSDS−PAGEおよびクマシーブルー染色されたゲルは、「CWT」と印づけられたレーンに図示される。キロダルトン(kDa)単位でのタンパク質の分子量マーカーは、「M」と印づけられたレーンに示される。
【図2B】図2Bは、phiNM3 CWTタンパク質(配列番号1)のアミノ酸配列を示す。
【図3】図3は、ブドウ球菌に特異的に結合したPhiNM3 CWTを示す一連の顕微鏡写真を示す。精製されたphiNM3 CWTをFITCで標識し、1)黄色ブドウ球菌;2)セレウス菌;3)表皮ブドウ球菌;4)大腸菌;5)A群連鎖球菌および6)黄色ブドウ球菌とセレウス菌細胞の混合懸濁液に暴露した。「P」は位相コントラスト画像を示し、「F」は蛍光画像を示す。
【図4】図4は、キメラ溶解素開発を図解する概略図である。具体的には、図4は、それらの対応するドメイン、タンパク質の対応する発現および溶解度、および黄色ブドウ球菌細胞に対する活性を示す、様々なキメラ溶解素の概略図を提供する。類似するドメインは、同じ陰影で図示され標識される。PlyB−catはバチルス特異的溶解素PlyBの触媒ドメインを指し(そして図中「4」で印づけられる);Sa−aaはブドウ球菌溶解素に特異的な16アミノ酸残基を指し(そして図中「5」で印づけられる);PlyB−CWTはPlyBのCWTドメインを指し(そして図中「6」で印づけられる);Twort−CWTは黄色ブドウ球菌ファージTwort溶解素のCWTドメインを指し(そして図中「8」で印づけられる);リソスタフィンCWtはリソスタフィンのCWTドメインを指し(そして図中「10」で印づけられる);そしてSe自己溶解素アミダーゼは表皮ブドウ球菌自己溶解素のアミダーゼドメインを指す(そして図中「12」で印づけられる)。
【図5A】図5Aは、ClySタンパク質配列を示す。キメラタンパク質ClySの予測されたタンパク質配列は、Twortエンドペプチダーゼ触媒ドメインおよびphiNM3 CWTドメインを示す。
【図5B】図5Bは、図4について記載される、AD127キメラ分子のアミノ酸配列を示す。
【図5C】図5Cは、野生型(非修飾)Twort溶解素(配列番号12)のアミノ酸配列を示す。
【図6】図6は、ClySの精製を示すゲルである。ClySを大腸菌DH5α細胞において発現させ、陽イオン交換クロマトグラフィーで精製した後ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによって精製した。精製された試料(10マイクログラム)をSDS−PAGEにより分離し、クマシーブルーにより染色した(右側レーン)。キロダルトン(kDa)単位でのタンパク質の分子量マーカーは、左側レーンに示される。
【図7】図7は、in vitroでの黄色ブドウ球菌に対するClySの活性を示すグラフである。黄色ブドウ球菌株8325−4細胞を20mMのリン酸緩衝液(pH7.4)に再懸濁させ、50UのClySおよびOD600と共にインキュベートし(塗りつぶされた三角)、分光光度計で観測した。コントロール試験(塗りつぶされた四角)を緩衝液単独で同条件下で行った。コロニー形成単位/mlとして示される細胞の生存率(塗りつぶされた菱形)を、細胞を段階的に希釈し播種することによって決定した。
【図8】図8は、ClySが8325−4細胞の細胞壁を崩壊させ、最終的に溶解させることを示す一連の顕微鏡写真である。図8A〜8C(A〜C)は、50UのClySに暴露された3分後の黄色ブドウ球菌の薄片透過型電子顕微鏡写真である(バー、200nm)。矢印は、ClySにより細胞壁に作られた穴からの細胞膜がはみ出している状態を指す。最終的な溶解は、細胞質の内容物が失われた後の「セル・ゴースト(cell−ghosts)」(D)を結果として生じる(バー、500nm)。
【図9】図9Aおよび9Bは、様々なpHおよび塩濃度条件におけるClySの活性を示すグラフである。図9Aは、15分のアッセイにおけるpH値が4〜10の範囲の緩衝液中での黄色ブドウ球菌株8325−4に対して試験されたClyS(50U)の活性のグラフである。光学濃度(塗りつぶされた四角)および生存率(塗りつぶされた菱形)を、図6の説明文に記載されるように測定した。生存率アッセイにおける殺傷倍数(fold killing)を、特定のpHでの緩衝液処理の後の生存細菌の数を、同じpHでClyS酵素に暴露した後の数で割ることにより算出した。各反応でのpHの最終測定値をx軸に記録する。図9Bは、異なるNaCl濃度の存在下において20mMリン酸緩衝液(pH7.4)中で黄色ブドウ球菌8325−4に対して試験されたClyS(50U)の活性を示すグラフである。15分後に、試料を上記の光学濃度および生存率算出のためアッセイした。
【図10】図10は、ClySがブドウ球菌の特異的殺菌を行うことを示す棒グラフである。異なる細菌の対数期培養物を15分間、50UのClySに暴露した。殺傷倍数を図8の説明文に記載されるように算出した。
【図11】図11は、リン酸緩衝生理食塩水pH7.3(コントロール)またはClyS(630μg)の投与を受けた後の、個別のMRSA感染マウス由来MRSAのCFUのグラフを図示する。
【図12】図12は、リン酸緩衝液コントロールと比較したMRSAを注射されたマウスにおける死亡を防止するClySの効果を示すカプラン・マイヤー生存曲線を図示する。
【図13】図13は、ClyS量の増加に伴う、VISA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)に対するバンコマイシン、またはMRSAに対するオキサシリンの効果のチェッカーボード微量液体希釈法のアイソボログラムを図示する。
【図14】図14は、オキサシリン単独またはClySとの併用の効果を示すカプラン・マイヤー生存曲線を図示する。
【図15】図15は、5mM DTTの非存在(左上のゲル)または存在(右上のゲル)でのClyS、および5mM DTTの非存在(左下のゲル)または存在(右下のゲル)でのpClySの21℃における5日間の経時変化のクマシーブルー染色SDS−PAGEゲルの写真を図示する。約20マイクログラムのタンパク質を、ゲルの各レーンに載せた。右下のゲルは、5日後の5mM DTT存在での完全なClySに比べ、5日後の5mM DTT存在ではるかに多い量の完全なpClySを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
他に指定のない限り、本明細書中で使用される特定の用語およびそれらの本開示への適用性は以下に定義される。
【0014】
用語「単離された」は、出発材料から少なくとも部分的に精製されたことを意味する。用語「精製された」は、生物学的材料が、カラムクロマトグラフィー、HPLC、沈殿、電気泳動等を包含するが、それらに限定されないいずれかの精製過程によって部分的、実質的または完全に、その材料の調製に関与する前駆体またはその他の化学物質等の不純物を除去され、濃度がある程度まで増加していることを意味する。それゆえに、均質な、または実質的に均質な材料(例えば、電気泳動またはクロマトグラフィー等の分離手順において単一のタンパク質シグナルを生じる)は、単離された、および精製されたの意味に包含される。当業者は、必要な精製量は材料の使用に依存することを理解するであろう。例えば、ヒトへの投与が意図された組成物は、普通、規制基準に従って高度に精製されなければならない。
【0015】
用語「バクテリオファージによって遺伝的にコードされた溶解酵素」は、宿主細菌に対して少なくともいくらかの溶解活性を有するポリペプチドをいう。
【0016】
「キメラバクテリオファージ溶解素」の改変体は、キメラバクテリオファージ溶解素の定義に包含され、本明細書に記載される配列と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、さらには少なくとも99.5%のアミノ酸配列同一性を有する黄色ブドウ球菌に対する殺活性(killing activity)を有する機能的に活性なキメラバクテリオファージ溶解素を包含する。例えば、本発明は、配列番号2のポリペプチド配列と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、さらには少なくとも99.5%のアミノ酸配列同一性を有するキメラのバクテリオファージ溶解素を包含する。
【0017】
ここで同定される溶解酵素ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)ポリペプチド配列同一性」は、必要に応じて、最大のパーセント配列同一性を達成するため、配列の整列およびギャップ導入の後、配列同一性の一貫としていかなる同類置換も考慮することなく、特定の溶解酵素ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一の候補配列におけるアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的での整列方法を以下に記載する。
【0018】
ブドウ球菌溶解素
黄色ブドウ球菌に対する殺活性を有するキメラバクテリオファージ溶解素を、本明細書に記載する。溶解素は、一般的にモジュール構造で存在する。図1は、推定されるCHAPドメイン110およびCWTドメイン120を示すphiNM3溶解素の概略図である。数字はアミノ酸位置およびドメイン端を意味する。ClySのCWTドメインは影付きの長方形120で示される。N末端モジュールは、特定の細菌の細菌細胞壁を崩壊させる能力を保有すると考えられている触媒ドメインからなる。触媒ドメインとしばしば関連付けられる酵素活性は、アミダーゼ、エンドペプチダーゼ、グルコサミダーゼ(glucosamidases)およびムラミダーゼである。C末端モジュールは、標的細菌細胞壁上の糖質エピトープに対して親和性を有すると考えられている結合ドメインからなる。この結合ドメインは、溶解素の特異性を決定づけると考えられている。ブドウ球菌ペプチドグリカン内のペプチド架橋は、リソスタフィン(Staphylococcus simulansにより産生されるブドウ球菌溶解酵素)のCWTドメインに対する受容体として機能すると考えられている。リソスタフィンのCWTドメインは、SH3bドメインと相同性を有し、そのような溶解素はその受容体としてペプチド架橋を利用する可能性があることも示唆されている。
【0019】
1つの実施態様において、いかなる既知のドメインホモログも有しない、ブドウ球菌溶解素内にCWTドメインを含むブドウ球菌特異的結合分子が提供される。いくつかの実施態様において、結合分子は溶解素である。他の実施態様において、結合分子を、例えばブドウ球菌細菌の存在を同定するためといった診断用ツールとして使用することができる。好ましくは、そのようなCWTドメインは、ブドウ球菌細胞壁中のペプチド架橋に代えて細胞壁結合糖質等の異なるエピトープを認識するために提供される。
【0020】
さらなる実施態様において、ClyS溶解素を、黄色ブドウ球菌細菌株の細胞壁を消化するために使用することができ、それは、内因性DNAおよびRNA等の遺伝的および細胞質材料への接近を可能にし、さらに黄色ブドウ球菌細菌株の同定および配列決定を可能にするであろう。また、診断目的で、膜結合分子および壁結性分子を放出する(release)であろう。
【0021】
最も好ましくは、結合分子は配列番号1(phiNM3 CWTドメイン)等の黄色ブドウ球菌に特異的な結合を提供するアミノ酸配列を包含するポリペプチドを含む細菌溶解素の可溶性結合ドメインである。例えば、溶解素は、好ましくは黄色ブドウ球菌ファージphiNM3溶解素(配列番号1)(タンパク質アクセッション番号YP_908849)のポリペプチド配列を包含する。アミノ酸残基158−251に相当するphiNM3溶解素CWTドメイン(配列番号1)を、クローニングし発現させた。およそ10kDaの配列番号1のタンパク質は可溶性が高く、一段の陽イオン交換クロマトグラフィーにより均質になるまで精製された。図2Aは、第1カラムにおけるマーカータンパク質セットの隣の第2カラムにおける配列番号1のタンパク質を示す陽イオン交換ゲルである。図2Bは、配列番号1のアミノ酸配列を示す。配列番号1のペプチドドメインがブドウ球菌特異的結合を呈するかどうかを決定するため、精製タンパク質をFITCで標識し、対数相黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌および黄色ブドウ球菌とバチルスとの混合集団に暴露した。A群連鎖球菌、大腸菌およびセレウス菌をコントロールとして使用した。より好ましくは、FITC標識phiNM3 CWTドメインは、黄色ブドウ球菌(図3−1)および表皮ブドウ球菌(図3−3)細胞が単独または混合集団(図3−6)で存在する場合に特異的に結合したが、連鎖球菌(図3−5)、バチルス(図3−2)または大腸菌(図3−4)への結合は観察されなかった。phiNM3溶解素は、黄色ブドウ球菌(図3−1)および表皮ブドウ球菌(図3−2)細胞が単独または混合集団(図3−3)で存在している場合に特異的に結合したが、連鎖球菌(図3−4)、バチルス(図3−5)または大腸菌(図3−6)への結合は観察されなかった。
【0022】
1つの実施態様において、結合分子は、ブドウ球菌細菌に結合する結合分子の存在を同定するための検出可能なレポーティングタンパク質に付着した、配列番号1のアミノ酸配列等のCWT結合ドメインを含む。例えば、結合分子は、蛍光レポーター群、放射性レポーター群、または蛍光レポーターに結合するように適合された異種タグに結合した配列番号1のアミノ酸配列を包含してもよい。phiNM3(配列番号1)CWTドメインを、ブドウ球菌細菌の同定のための診断ツールとして使用してもよい。高親和性結合部位を、黄色ブドウ球菌検出のために幅広いアッセイ技術において使用してもよい。そのようなアッセイ法は、放射性免疫アッセイ、金ゾル放射性免疫アッセイ、競合的結合アッセイ、ウェスタンブロットアッセイおよびELISAアッセイを包含する。そのような検出アッセイは、不均一形式(heterogeneous format)を有効に利用し、ここでは、(配列番号1)を含む複合体結合剤と検体との間に結合反応(配列番号1)が起こり、次いで結合していない複合体結合剤を除去するための洗浄工程が続く。例えば、金ゾル粒子を、粒子表面上に固定された結合タンパク質を伴う結合領域を含むタンパク質により調製してもよい。タンパク質と(ブドウ球菌)細菌との間に結合が起こると、粒子が合体して着色産物を形成する。同様に、結合タンパク質はコンプレックス化されていてもよく、好ましくはベータガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、またはセイヨウワサビペルオキシダーゼ等の酵素と共有結合的にコンプレックス化されていてもよい。洗浄の後、残された結合した酵素を、蛍光性または化学発光性基質等の基質を添加することによって検出することができる。結合タンパク質は、時間分解(time resolved)蛍光により検出される希土類蛍石、放射性活性の測定により検出される放射性材料、蛍光によって検出される緑色蛍光タンパク質(GFP)または他の蛍光タグ等のシグナルを生み出すことが可能な他のいかなる試薬とコンプレックス化されていてもよい。
【0023】
比較のため、図5Bは、図4について説明されたAD119試料である配列番号3のアミノ酸配列を提供する。AD119(配列番号3)は、リソスタフィンCWTドメインに結合したTwortエンドペプチダーゼドメインを含む。Twortエンドペプチダーゼドメインを共有するが、リソスタフィンCWTドメインのかわりにphiNM3 CWTドメイン(配列番号1)を有する配列番号2(AD127)のキメラ化合物と対照的に、AD127化合物は、不溶であり、黄色ブドウ球菌に対する殺活性をほとんどまたは全く示さなかった。
【0024】
検出可能なタグを伴う結合領域の複合体化を、合成化学または生物学的手法によって実行してもよい。例えば、配列番号1、または配列番号2の全溶解素の結合領域をコードするDNA配列を、緑色蛍光タンパク質(GFP)等の検出可能なマーカーまたはアルカリフォスファターゼ等の酵素をコードする遺伝的情報に連結することが可能である。これは、N末端触媒ドメインを除去して緑色蛍光タンパク質(GFP)等の指標分子とフレーム単位で置き換えることによって、結合ドメインについてDNAを分離し、そして黄色ブドウ球菌の同定のために発現した融合分子を精製することによって達成される。結合ドメインが免疫グロブリンG分子と同様の結合親和性を有することから、印づけられた結合ドメインは偽陽性活性をほとんど伴わずに効果的に黄色ブドウ球菌を同定するであろう。また、必要に応じて溶解素酵素全体の5’末端にGFP分子または酵素を融合させることができ、そのようにすることによって、酵素ドメインは少なくとも部分的に非活性化されるであろうが、なおも結合ドメインはバチルスの細胞壁中の基質に結合するように機能することが可能である。任意に、単離された配列番号1の結合ドメインを配列番号2の触媒ドメインから分離して発現、精製し、蛍光イソチオシアネート、ローダミンイソチオシアネートや、その他当業者に公知の多数の蛍光分子を用いて標識してもよい。結合ドメインは、同定のために黄色ブドウ球菌に結合領域が接着した後、ビオチン−アビジンコンプレックスを形成させるためにビオチンで修飾されていてもよい。
【0025】
別の実施態様において、溶解素はphiNM3 CWTドメイン(配列番号1)の黄色ブドウ球菌Twort溶解素上流のエンドぺプチダーゼドメインを含むキメラタンパク質である。キメラポリペプチドは、好ましくはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対して十分に可溶性である。キメラ溶解素のPBS中での好ましい溶解度レベルは、少なくとも約1mg/mlであり、好ましくはPBSに対して少なくとも約3mg/mlである。典型的には、野生型ブドウ球菌バクテリオファージ溶解素がPBSに不溶性であるのに対し、配列番号1のCWTドメインに結合した第1溶解素(例えば、Twort黄色ブドウ球菌溶解素)のエンドペプチダーゼドメインを含むキメラ溶解素は、驚いたことにPBSに対して可溶である(例えば、少なくとも約1mg/ml、典型的には約3mg/ml以上)。そのような溶解素の一例は、図5Aに示される配列番号2(AD127)において提供され、phiNM3 CWTドメイン(配列番号1)に付着したTwort溶解素エンドペプチダーゼドメインからなる。配列番号2(AD127)の単離されたポリペプチドを、表皮ブドウ球菌自己溶解素アミダーゼとphiNM3 CWTドメインのTwort溶解素エンドペプチダーゼドメイン上流とをそれぞれ設計することにより構築した。キメラAD126は全く発現せず活性も示さなかったが、AD127は可溶性であり非常に高い活性を有していたものの、低発現であった。AD127コンストラクトの低発現を克服するため、pAD138を作出するために全キメラ遺伝子を発現ベクターpJML6へクローニングした。pAD138コンストラクト由来のAD127の発現、溶解度および活性は非常に高かった。従って、このキメラをブドウ球菌に対するキメラ溶解素として「ClyS」と名付けた(図5A)。
【0026】
ClyS(配列番号2)は、31956Daの推定される分子量および理論上の等電点9.17を伴う280アミノ酸残基を含有し、2段のカラムクロマトグラフィーにより>90%均質性まで精製された。ClySは、ゲル濾過クロマトグラフィーによって確認された、SDS/PAGE(図6)によるおよそ31kDaの分子量を有しており、このタンパク質がモノマーとして存在し、タンパク質分解的に加工されたものではないことを示唆している(データ示さず)。
【0027】
ClySの単位活性を、ClySの連続希釈物を添加して黄色ブドウ球菌8325−4細胞の濁度の分光光度喪失(細胞溶解の指標)を測定することにより決定した。本発明者らのアッセイにおいて、5マイクログラムのClySは1Uの溶解活性に相当した。50UのClySを指数関数的に増殖している8325−4細胞に添加した場合、OD600は5分以内に基準値まで低下した(図7)。観察された細胞溶解が細胞死に相当するものであることを確認するため、ブドウ球菌生存率を様々な時点での溶解反応由来の列挙されたアリコート(enumerating aliquots)によって決定した。およそ3ログの生存率の低下が30分以内に観察された(図7)。
【0028】
50UのClySに1〜3分暴露された黄色ブドウ球菌8325−4細胞に対する溶解効果を透過型電子顕微鏡検査によって可視化した。以前に観察された溶解素活性の典型である細胞壁の局部的な分解が、単一部位(図8A)または複数部位(図8B)で観察された。しかしながら、他の溶解素とは異なり、細胞上の分解部位は中隔または極位置に制限されず、不規則に分布していた。これは、結果として、細胞膜のはみ出しおよび破裂(図8C)、その後の細胞質内容物の喪失およびセル・ゴースト(cell−ghosts)の形成(図8D)を生じた。
【0029】
ClySの活性に対するpHの影響を、OD600の低下または異なるpH値での細胞生存率を測定することにより決定した。本発明者らは、ClySが、幅広いpH値の範囲を通して活性であったが、pH9〜10の間で最も活性であることを観察した。しかしながら、ClySは生理学的pHであっても部分的ではあるが顕著な活性を維持した(図9A)。同様に、ClySの活性に対する塩濃度の影響も決定した。ClySは幅広い塩濃度で活性を呈した(図9B)。その活性は400mM NaClを超えると減弱したが、生理学的濃度においてClySは良く機能した。
【0030】
ClySの分解活性(muralytic activity)を、多様な種を代表する多数の細菌株についてセットに分けて試験した(表1および図10)。セットIはメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)およびMRSAを包含する黄色ブドウ球菌株からなった。黄色ブドウ球菌株間での相違が観察されたが、ClySはMSSAおよびMRSAに対して活性であった。セットIIは、表皮ブドウ球菌、S.simulansおよびS.sciuriを包含するブドウ球菌の異なる種からなった。ClySはバイオフィルム形成株RP62Aを包含する表皮ブドウ球菌のみならず、S.simulansおよびS.sciuriに対しても活性であり、ClySが全てのブドウ球菌細胞に存在する細胞壁におけるエピトープを認識することを示唆した。セットIIIは、A、B、C、およびE群連鎖球菌の代表、乳房連鎖球菌、セレウス菌、緑膿菌および大腸菌と同様に、S.gordonii、およびS.salivariusを包含する経口連鎖球菌種を包含するグラム陽性およびグラム陰性細菌の混合物からなった。ClySはこれらのいかなる生物に対しても活性を示さなかった。
【0031】
別の実施態様において、キメラペプチドは、リソスタフィンCWTドメインの黄色ブドウ球菌Twort溶解素上流のエンドペプチダーゼドメインを含む単離されたポリペプチドを含む。そのような溶解素の一例は配列番号3(AD119)に提示される。
【0032】
別の実施態様において、溶解組成物は2以上の溶解素の混合物を含んでもよい。この混合物は、第1ポリペプチドおよび第2ペプチドを包含してもよく、一方または両方のポリペプチドは所望のレベルの溶解活性を欠如していてもよいが、この混合物は関心を持たれている細菌に対する所望の特異的かつ有効な溶解活性を提供する。例えば、組成物は、リソスタフィンCWTドメインの黄色ブドウ球菌Twort溶解素上流のエンドペプチダーゼドメインを含む単離された第1ポリペプチドと、リソスタフィンCWTドメインの表皮ブドウ球菌自己溶解素アミダーゼドメイン上流を含む第2単離ポリペプチドとを組み合わせて包含してもよい。そのような組成物の一例として、配列番号3(AD119)と配列番号4(AD112)との混合物が挙げられる。
【0033】
いくつかの実施例において、本開示は、黄色ブドウ球菌細菌に暴露された可能性のある人々の感染を防止するための予防的処置として、または感染からすでに発病した人々の治療的処置としての溶解酵素に関係する。ここに記載されるファージ結合溶解酵素は、黄色ブドウ球菌細菌に特異的であり、好ましくは黄色ブドウ球菌細菌の細胞壁を効果的かつ効率的に破壊する。
【0034】
ここに記載されるキメラ溶解酵素ポリペプチドを、治療剤として採用してもよい。本発明の溶解酵素ポリペプチドを、薬学的に有用な組成物を調製するために、既知の方法に従って作製することができ、この溶解酵素産物を薬学的に許容される担体ビヒクルと混合することができる。黄色ブドウ球菌細菌感染の予防的および治療的処置に使用することができる組成物は、酵素が粘膜内層に到達させるための担体システムまたは経口輸送様式におかれるように、シャッフルされた(shuffled)酵素および/またはキメラ酵素ならびに口内および鼻腔の粘膜内層への適用手段(担体システムまたは経口輸送様式等)をも包含する。
【0035】
1つの好ましい実施態様において、配列番号2の溶解素(ClyS)等のブドウ球菌キメラ溶解素は、好適な薬学的担体と併用して抗菌性組成物として投与される。特定の実施態様において、存在するキメラバクテリオファージ溶解素の量は、治療的有効量である。ここで使用される「担体」は、採用された用量および濃度にて担体に暴露された細胞または哺乳動物に非毒性である薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤を包含する。しばしば、生理学的に許容される担体は水性pH緩衝液である。生理学的に許容される担体の例として、リン酸、クエン酸、および他の有機酸等の緩衝剤;アスコルビン酸を包含する抗酸化剤;低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリシン等のアミノ酸;単糖、二糖、およびグルコース、マンノース、またはデキストリンを包含する他の糖質;EDTA等のキレート剤;マンニトールまたはソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;ならびに/またはTWEENTM、ポリエチレングリコール(PEG)、およびPLURONICSTM等の非イオン界面活性剤を包含する。これらの抗微生物/医薬組成物を、局部的または全身的に投与することができる。
【0036】
投与経路は、局所、眼、鼻、肺、頬、非経口(静脈内、皮下、および筋肉内)、口腔、非経口、膣および直腸を包含する。また、インプラント(implants)からの投与も可能である。本発明の化合物を、皮膚または粘膜に局所的に、すなわち皮膚に投与するかまたは経皮的に投与してもよい。この目的の典型的な処方は、ゲル、ハイドロゲル、ローション、溶液、クリーム、軟膏、散布剤、包帯剤、気泡、フィルム、皮膚パッチ、ウエハー、インプラント、スポンジ、繊維、救急絆およびマイクロエマルジョンを包含する。また、リポソームを使用してもよい。典型的な担体は、アルコール、水、ミネラルオイル、流動ワセリン、白色ワセリン、グリセリン、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールを包含する。浸透促進剤を組み込んでもよい[例えば、FinninおよびMorganによるJ Pharm Sci,88(10),955−958(1999年10月)を参照]。
【0037】
本発明の化合物は、血流、筋肉、または内臓器官に直接的に投与することもできる。非経口投与の好適な手段は、静脈内、動脈内、腹腔内、気管内、脳室内(intraventricular)、尿道内、胸骨内(intrasternal)、頭蓋内、筋肉内および皮下を包含する。非経口投与の好適な機器は、針(極微針を包含する)注射器、無針注射器および点滴技術を包含する。本発明の化合物は、典型的にはエアロゾルの形態で吸入によって鼻腔内または経口投与されてもよい。
【0038】
好適な抗微生物製剤の形態は、例えば、顆粒、粉末、錠剤、コーティング剤、(マイクロ)カプセル、坐剤、シロップ、乳化剤、(水、油および界面活性剤からなる光学的等方性の熱力学的に安定な系と定義される)マイクロエマルジョン、(短距離無秩序ではなく長距離秩序によって特徴づけられる系として定義される)液晶相(ラメラ相、六角形相および立方体相、水分散および油分散のいずれもが例示される)、またはそれらの分散した対応物、ゲル、軟膏、分散剤、懸濁剤、クリーム、エアロゾル、液滴もしくはアンプル形態の注射溶液、また活性な化合物の持続放出性を伴う製剤であって、その製剤において上述のような賦形剤、希釈剤、アジュバントもしくは担体が通例使用される。医薬組成物は、救急絆または縫合糸等の形態で提供することもできる。
【0039】
多くの整形外科医が、人工関節を備えたヒトについて抗生物質の予防的投与を検討すべきであると考えている。黄色ブドウ球菌による晩期深部感染は、時に人工関節の喪失を導く重篤な合併症であり、顕著な罹患率および死亡率を伴って起こる。従って、この状況において、本明細書に記載されるキメラバクテリオファージ溶解素(例えば配列番号2)の使用を予防的抗生物質の代わり、またはこれとの併用に拡大することもできる可能性がある。キメラバクテリオファージ溶解素を、感染を取り除くためにin situで整形外科的機器の部位に直接的に、または移植前に機器の表面上に好適な担体と共に注射により投与してもよい。皮下、筋肉内、または腹腔内等の他の注射経路を使用することができる。投与の他の手段は、胆汁塩またはフシジン酸、他の浄化剤等の浸透剤を用いた経粘膜および経皮的投与を包含する。加えて、本発明のポリペプチドまたは他の化合物は、腸溶性またはカプセル処方として作製することができ、経口投与も可能である。これらの化合物の投与も、局所および/または局部であってもよく、軟膏、ペースト剤、ゲル等の形態であってもよい。
【0040】
酵素が担体システムまたは経口輸送様式におかれる前またはその時、本明細書に記載されるキメラペプチドは、pH範囲を約5.0〜約7.5に保持して滅菌緩衝環境において投与または作製されることが望ましい。キメラぺチドが担体システムまたは経口輸送様式におかれる前またはその時、酵素は、好適なpH範囲がpH約5.0、6.0、7.0、8.0またはその間の0.05間隔のpHを包含し、またはpH値5.2、6.5、7.4、7.5および8.5、またはその間の0.05の倍数である間隔を包含する、約5.0〜約8.0等に保持された滅菌緩衝環境にあってもよい。
【0041】
細菌感染症の処置に溶解酵素を使用することには多くの利点がある。それらの区別できる触媒および結合ドメインによる溶解素のモジュール配置は、細菌特異性および触媒活性を向上させ、または別の病原菌に対する使用のため適合させることができるドメイン交換実験についてそれらを理想的なものにする。溶解素の触媒および結合標的(それぞれペプチドグリカンおよび結合糖質)が生存能力に大いに不可欠であることから、溶解素耐性は希少であろう。
【0042】
「処置」は、治療的処置および予防または防止方策の両方に言及し、ここでその目的は、標的とする病態または疾患の防止または減速(緩和)である。処置を必要とする者には、罹患している者のほか、疾患にかかりやすい者、または疾患を防止しなければいけない者も包含される。
【0043】
処置の目的に関する「哺乳動物」は、ヒト、飼いならされた(domestic)動物および家畜、ならびに動物園、スポーツ用またはペット用の動物(例えば、犬、猫、畜牛、馬、羊、豚、ヤギ、ウサギ等)等を包含する、哺乳動物に分類されるいかなる動物にも言及する。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0044】
in vivo投与に使用される処方は、好ましくは無菌である。これは、凍結乾燥および再構成の前または後の無菌の濾過膜を通す濾過により容易に達成される。ここで、治療用組成物は、一般に、例えば皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈溶液バッグまたはバイアルといった、無菌のアクセスポートを有する容器内におかれる。
【0045】
投与経路は、既知の方法、例えば静脈内、腹腔内、脳内、筋肉内、眼内、動脈内または病巣内経路による注射もしくは点滴、局所投与、または徐放システム等に従う。細菌暴露または感染症の処置の場合、非経口または口腔もしくは鼻腔経由を包含する、あらゆる好適な様式で溶解酵素を投与することができる。
【0046】
本発明の医薬組成物の用量および所望の薬物濃度は、想定される個別の使用により変化し得る。適切な用量または投与経路の決定は、十分に一般的な医師の技術の範囲内である。動物実験は、ヒト治療のための有効用量の決定のために信頼性のある助言を提供する。有効用量の生物種間のスケーリングを、Mordenti,J.およびChappell,W.により著された原理”The use of interspecies scaling in toxicokinetics” In Toxicokinetics and New Drug Development,Yacobiら編,Pergamon Press,New York 1989,pp.42−96に従って実施できる。
【0047】
キメラペプチド溶解素のin vivo投与が採用された場合、投与経路により、標準的な投与量は、哺乳動物の体重1kgにつき、1日あたり約10ng/kgから1000mg/kgまで、あるいはそれ以上、または約1μg/kg/日から10000mg/kg/日まで変化し得る。また、個別の用量および輸送の方法についての助言は、文献の他に以下にも提供される。異なる処方が異なる処置化合物および異なる疾患に有効であると予測され、例えば、ある臓器または組織を標的とする投与は、他の臓器または組織の場合とは異なる輸送方法を必要とするかもしれない。
【0048】
非経口投与のためのキメラペプチドの有効用量率または有効量、および処置期間は、感染症の重症度、患者の体重、レシピエントが感染性細菌に暴露されていた期間、感染症の重症度、および多数の他の変数にある程度依存する。本発明の組成物は、1日1回から数回、どこにでも適用することができ、これより短期間または長期間に亘って適用することができる。この用法は数日または数週間続けてもよい。採用されるいかなる投与形態も1回の最小量に対して最小単位数を提供するべきである。有効量または有効用量の酵素を提供すると考えられるキメラペプチドの活性単位の濃度は、組成物中、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100単位/mlから約10,000,000単位/mlの範囲、約1000単位/mlから約10,000,000単位/mlの範囲、および約10,000から10,000,000単位/mlの範囲であり得る。
【0049】
加えて、この酵素の細胞壁を通した輸送を助けるために、多数の方法を使用することができる。既知の技術によってリポソーム中に酵素を「挿入」して、酵素をリポソームで輸送することができる。同様に、酵素を逆ミセルとしてもよい。また、酵素の非活性部位にポリエチレングリコールを付着させて酵素をペグ化してもよい。あるいは、細胞膜を通して酵素を輸送するために疎水性分子を使用してもよい。最後に、細胞膜上の標的特異的内在性受容体に対して、酵素のグリコシル化を使用することもできる。
【0050】
別の好ましい実施態様は、例えば布地、カーペット等の多孔性表面を衛生化または浄化するために有用な他の溶解酵素と共に、配列番号2(ClyS)の溶解素等のブドウ球菌キメラ溶解素細菌結合タンパク質を含む組成物を提供する。さらに、静菌または殺菌活性の影響を受けやすい感染性生物を寄生させると考えられ得るようなエリアである、獣医の外科的エリアまたは実験エリアを浄化するためにこの溶解酵素の組成物を使用してもよい。
【0051】
さらなる好ましい実施態様において、配列番号2(ClyS)の溶解素のようなブドウ球菌キメラ溶解素を、感染性細菌を含有する疑いのある無生物固体表面の浄化、または多孔質表面の浄化に有用な他の静菌剤または殺菌剤と組み合わせてもよい。
【実施例】
【0052】
実施例1:特異的結合ペプチドの同定およびキメラ溶解素の開発
本発明者らは、全米バイオテクノロジー情報センターデータベースでブドウ球菌特異的ファージおよびプロファージ溶解素タンパク質配列の保存ドメイン検索を行った。溶解素をデータベース中の既知のドメインに対する相同性に基づいて分類した。本発明者らは、互いに100%の配列同一性を共有し、それらの触媒ドメイン内に保存CHAPドメインを有する、黄色ブドウ球菌ファージphiNM3溶解素(タンパク質アクセッション番号YP_908849)、黄色ブドウ球菌プロファージphi13アミダーゼ(アクセッション番号NP_803402)、黄色ブドウ球菌プロファージMW2アミダーゼ(アクセッション番号NP_646703.1)等を包含するいくつかの溶解素を同定した。しかしながら、これらの溶解素のC末端ドメインは、データベース中のいかなる既知のドメインに対しても相同性を呈さなかった(図1)。
【0053】
野生型のブドウ球菌溶解素を発現させる試みが失敗に終わったため、本発明者らは、溶解素のモジュール特性を利用することによりキメラ溶解素を開発することを決めた。伝統的に、バチルス特異的溶解素は、大腸菌において高レベルで発現し、大腸菌に可溶性である。従って、本発明者らの最初の試みは、いくつかの黄色ブドウ球菌特異的溶解素に保存されている16アミノ酸ペプチド(4)を設計することであった(Lu JZ,Fujiwara T,Komatsuzawa H,Sugai M,Sakon J.2006.Cell wall−targeting domain of glycylglycine endopeptidase distinguishes among peptidoglycan cross−bridges.(Lueら(2006)J.Biol.Chem.281(1):549−58)。バチルス特異的溶解素PlyBの触媒ドメインを、キメラAD103(図4)(配列番号13)を作出するために使用した。キメラを発現、溶解度および活性について試験した。その後、AD105(配列番号14)を得るために、PlyBの全C末端CWTドメイン(6)を黄色ブドウ球菌ファージTwort溶解素(8)の推定上のC末端ドメインと置き換えた。このキメラは活性ではなく、そこで本発明者らはAD107(配列番号15)を得るためにPlyB触媒ドメイン(2)のリソスタフィンCWTドメイン(10)下流を設計した。このキメラは発現したが、溶解度が乏しく、活性はなかった。次の段階は、リソスタフィンCWTドメイン(10)の表皮ブドウ球菌自己溶解素アミダーゼドメイン(12)上流の設計であり、結果としてAD112(配列番号4)を生じた。AD112は非常によく発現し、このタンパク質は非常に可溶性が高かったが、溶解活性がなかった。しかしながら、本発明者らは、黄色ブドウ球菌細胞はAD112に暴露された場合、凝集することを観察した。AD112のリソスタフィン触媒ドメイン(アミダーゼ)(10)が細菌系であったため、本発明者らは、リソスタフィンCWTのファージ由来触媒ドメイン上流を設計することを試みた。このため、Twort溶解素(14)のエンドぺプチダーゼドメインを、キメラAD119(配列番号3)を構築するために使用した。本発明者らは、AD119の乏しい発現を観察したが、このキメラは可溶であった。本発明者らのAD119単独の溶解アッセイにおいて顕著な活性は示されなかったものの、キメラAD112と組み合わせた場合、活性は顕著に増強された。本発明者らは、本発明者らの保存ドメイン検索からphiNM3 CWTドメインを同定し、phiNM3 CWTがブドウ球菌特異的結合を示すことを観察したことから、本発明者らは、phiNM3 CWTドメイン(2)(配列番号1)の表皮ブドウ球菌自己溶解素アミダーゼ(12)およびTwort溶解素エンドペプチダーゼ(14)ドメイン上流をそれぞれ設計することにより、キメラAD126(配列番号16)およびAD127(配列番号2)を構築した。キメラAD126は発現せず活性も有していなかったが、AD127は可溶であり、非常に高い活性を有していたものの発現は低かった(図4)。AD127コンストラクトの低い発現を克服するため、全キメラ遺伝子をpAD138を作出するために発現ベクターpJML6にクローニングした。pAD138コンストラクト由来AD127の発現、溶解度および活性は、非常に高かった。従って、このキメラをブドウ球菌に対するキメラ溶解素として「ClyS」と名付けた。ClyS(すなわち配列番号2)のアミノ酸配列は図5Aに提示される。
【0054】
実施例2:ClySキメラ溶解素の構築
細菌株(表1)を、37℃で通常どおり培養し−80℃で保存した。本研究で使用されたブドウ球菌株を、トリプチケースソイブロス(TSB)培地で培養し、連鎖球菌株をTHY(トッド・ヒューイットブロス、1%wt/vol酵母抽出物)培地で培養し、セレウス菌および緑膿菌をBHI(ブレイン・ハートインフュージョン)培地で培養し、一方、大腸菌はLB(ルリア・ベルターニ)培地で育成した。
【0055】
キメラ溶解素を、それぞれの遺伝子由来の個別のドメインを増幅および結合することによって構築した。このため、Twortエンドペプチダーゼドメインを、プライマー
【0056】
【化1】
を用いて、全溶解素(plyTW)遺伝子を含有するプラスミドpCR2.1plyTWからPCR増幅した。細胞壁標的(CWT)ドメインを、プライマー
【0057】
【化2】
を用いて黄色ブドウ球菌株8325ゲノムDNAからPCR増幅した。2つのPCR単位複製配列を、PstI制限酵素部位を用いて結合した。結合産物を、組換え型プラスミドpAD127を作出するためにNcol−HindIIIクローニング部位を用いてpBAD24ベクターへクローニングした。第2段階において、clySに相当する全DNA断片を、プライマー
【0058】
【化3】
およびプライマーNM3−CBD−Hind−R(配列番号8)を用いてpAD124からPCR増幅した。PCR産物を、pAD138を作出するために発現ベクターpJML6へクローニングした。ClySの配列を、配列決定により確認した。組換え型プラスミドpAD138を、大腸菌DH5α細胞へ形質転換した。
【0059】
実施例3:ClySの過剰発現および精製
ClySを、30℃にてラクトース(10g/500ml最終濃度)と共に大腸菌DH5α(pAD138)細胞から一晩誘導した。細胞を遠心分離によって回収し、緩衝液A(20mMリン酸緩衝液(PB)、1mM DTT(ジチオスレイトール))に再懸濁させ、そして400CでEmulsiFlex−C5高圧ホモジナイザー(Avestin)により溶解させた。溶解物を4℃、30分間の遠心分離(2×50,000×g)によって不純物を除去し(cleared)、上清をCMセファロースカラム(Amersham Pharmacia,ピスカタウェイ、ニュージャージー州)に適用した。ClySを、15カラム容量中0〜50%Bの直線勾配を用いた緩衝液A+1M NaClで溶出した。前述(Danielら、2001)される通りに溶解活性について画分を解析した。溶解活性を呈する画分を貯蔵し、緩衝液B(PB、1mM DTT、50mM NaCl)に対して一晩透析した。透析試料を、ハイドロキシアパタイト(MacroPrep TypeII 40μm、BioRad)カラムに適用し、20カラム容量中0〜100%Bの直線勾配を用いた溶出緩衝液(500mM PB+50mM NaCl+1mM DTT)で溶出した。画分を、SDS−PAGEにより解析し、そして溶出活性について解析した。ClySの活性できれいな(clean)画分を貯蔵し、緩衝液Bに対して透析した。タンパク質濃度を、BCA法(Sigma、セントルイス、ミズーリ州)で決定した。
【0060】
実施例4:ClyS活性の定量
ClyS活性を前述(Danielら、2001)のとおり、いくつかの変更を加えて測定した。簡単には、黄色ブドウ球菌株8325−4をOD600で0.25〜0.3まで培養し、遠心分離し、そして最終OD600で0.8〜1.0までPBに再懸濁させた。精製ClyS(100μl)の2倍の連続希釈を、96ウェルプレート(Costar)中の100μlの細菌懸濁液に添加し、OD600中での減少を37℃で30分間Spectramax Plus384分光光度計(Molecular Devices)によって観測した。1ミリリットルあたりの単位のClyS活性を、15分間に50%までに吸光度を減少させる、溶解素の最も高い希釈の逆数として定義した。
【0061】
実施例5:in vitro ClyS活性の測定
ClySの生存率アッセイを前述の通り(Nelsonら、2001)に試験した。簡単には、黄色ブドウ球菌株8325−4の対数相培養物をOD600で0.8〜1.0までPB中に再懸濁させた。50UのClySまたは相当する容量のPBを細菌細胞に添加し、アリコートを除去して、連続希釈し、そして処理された細胞とコントロール細胞の生存率を評価するために、1、5、10、30および60分で播種した。全ての実験を3回行った。様々な細菌株に対するClyS活性を前述の通り(Schuchら、2002)試験した。簡単には、対数相細菌細胞を、15分間37℃で50UのClySで処理した。試料を連続希釈して播種した。コントロール実験を、リン酸緩衝液(pH7.0)を加えて同条件下で実施した。
【0062】
実施例6:pHおよび塩プロファイルの関数としてのClyS活性の測定
ClyS活性に対するpHの影響を、ユニバーサル緩衝系pH4〜10(Yoongら)を用いて前述のとおり決定した。簡単には、対数相8325−4細胞をユニバーサル緩衝系に再懸濁させ、15分間50UのClySと共にインキュベートした。各反応の最終pHをpH紙で検査した。試料を連続希釈して播種した。コントロールにおいて、ClySをPBと置き換えた。
【0063】
同様に、ClySの溶解活性に対する塩濃度の影響を、15分間、最終濃度25〜500mMでNaClを含有するPBにおいて、対数相8325−4細胞と50UのClySとをインキュベートすることにより決定した。試料を、生存率を決定するために連続希釈して播種した。
【0064】
実施例7:ClySの顕微鏡検査
黄色ブドウ球菌株8325−4を対数相で培養し、遠心分離し、そして600nmで1.0の吸光度までPBSに再懸濁させた。細菌懸濁液を室温で50UのClySと共にインキュベートした。グルタルアルデヒド(最終濃度2.5%)を添加することにより1分および5分後に溶解反応を停止した。懸濁液を遠心分離によってペレット化し、0.1Mカコジル酸緩衝液(pH7.4)中2.5%のグルタルアルデヒドをかぶせた(overlaid)。その後、試料を、1%オスミウムテトロキサイドで後固定し、酢酸ウラニルでブロック染色し、そしてロックフェラー大学電子顕微鏡サービスによる標準手順に従って現像した。
【0065】
蛍光標識および結合解析を、phiNM3 CWTについて行った。プライマー
【0066】
【化4】
を用い、phiNM3溶解素の推定CWTを増幅するために黄色ブドウ球菌株8325−4ゲノムDNAを使用した。結果として得られた単位複製配列をアラビノース誘導性発現ベクターpBAD24へクローニングした。インサートを含有する陽性クローンを配列決定によって確認した。およそ10kDA phiNM3 CWTタンパク質が発現し、このタンパク質を陽イオン交換クロマトグラフィーによって一工程で精製した。精製されたタンパク質(1mg/ml)を10μlのFITC(1mg/ml)と共に1時間インキュベートした。過剰のFITCを脱塩カラム上で除去した。標識タンパク質(50μg)を細菌細胞と10分間インキュベートし、リン酸緩衝食塩水(pH7.4)で3回洗浄し、そして蛍光顕微鏡下で観察した。
【0067】
実施例8:ClySのin vivo活性の測定
MRSA株を、対数相まで培養し、遠心分離して、約1010cfu/mlの所定のタイターまで再懸濁するであろう。鼻腔内感染のため、6週齢の雌のC57BL/6J、非近交系(outbread)SwissまたはBALB/cマウス(体重範囲22〜24g、Charles River Laboratories、ウィルミントン、マサチューセッツ州)を、ケタミン(Fort Dodge Animal Health、フォートドッジ、アイオワ州、1.2mg/動物)とキシラジン(Miles Inc.、シャウニー・ミッション、カンザス州、0.25mg/動物)との混合物で麻酔し、そして鼻孔(n=10)ごとに15μlの細菌懸濁液を接種するであろう。その動物を2群に分け、感染後6時間、およびその後3日間に亘って6時間毎に腹腔内に様々な濃度のClySまたは滅菌生理食塩水を投与するであろう。各群の生存率を、感染後7日間まで観察するであろう。腹腔内感染のため、マウスを100μlの細菌懸濁液で腹腔内に感染させるであろう(n=10)。その動物を2群に分け、感染後6時間、およびその後3日間に亘って6時間毎に腹腔内に様々な濃度のClySまたは滅菌生理食塩水を投与するであろう。各群の生存曲線を、感染後7日間まで観察するであろう。
【0068】
実施例9:リンカー領域そのものはキメラに溶解性を付与しない。
【0069】
ClySコンストラクトは可溶性が高く、ブドウ球菌に対して活性であった唯一のキメラであったため、本発明者らは、ClySのアミノ酸残基142から185を含むリンカー領域が溶解性に極めて重要であろうと仮定した。本発明者らは、予め野生型phiNM3溶解素をクローニングして発現させ、そのタンパク質が非可溶性であることを観察した。この仮説を試験するために、本発明者らは、ClySのエンドペプチダーゼドメインをClyS(アミ−リンクClyS)のリンカー領域の上流のphiNM3溶解素のアミダーゼドメインで置き換え、キメラを発現した(データ示さず)。本発明者らは、野生型phiNM3溶解素と同様、アミ−リンクClySキメラは非可溶性であり、インクルージョンボディとして発現することを観察した。また、本発明者らは、ブドウ球菌に対する活性についてアミ−リンクClySの溶解物も試験したが、いかなる溶解活性も観察されず、そのタンパク質は非可溶性であり、そのため非活性であることを確認した。従って、本特許の主題であり、可溶性コンプレックスを発生させることを可能にし、本明細書に記載されるように作用するのは、NおよびC末端ドメインの固有の組み合わせである。
【0070】
実施例10:ClySによるMRSAのin vivo鼻腔除菌
ヒト前鼻腔におけるMSSAおよびMRSAの両方の保菌は、黄色ブドウ球菌感染の主要な感染源である。研究は、ほぼ80%の人々が黄色ブドウ球菌に経鼻的にコロニー形成(colonized)している可能性があり、コロニー形成は他のさらに重篤な黄色ブドウ球菌感染を発症するさらなるリスク因子となり得ることを示している(Kluytmans,J.,A.van Belkum.1997.Nasal carriage of Staphylococcus aureus:epidemiology,underlying mechanisms,and associated risks.Clin Microbiol Rev 10(3):505−20.)。地域または病院における鼻腔保菌の撲滅は、従って、感染の危険を低減し薬剤耐性黄色ブドウ球菌の蔓延を減速し得る可能性があった(Kluytmansら、(1997))。ClySが鼻粘膜のMRSAのコロニー形成を低減する可能性を研究するため、C57BL/6Jマウスに、約2×107のMRSAの自発性(spontaneously)ストレプトマイシン耐性株(191SMR)を鼻腔内接種した。感染後24時間のマウスに、鼻腔内にリン酸緩衝生理食塩水(コントロール)またはClyS(960μg)のいずれかを毎時間3回投与した。最終処置の1時間後、マウスを屠殺し、細菌コロニーをスペクトルMRSA寒天(MRSAの鼻腔コロニー形成を診断的に検出するために開発された選択的発色培地)およびコロンビア血液寒天上で数え上げた。スペクトルMRSA寒天またはコロンビア血液寒天への播種間でCFUにおいて顕著な相違は得られなかった(データ示さず)。各処置群について合計20匹のマウスを評価するために、3つの独立した実験を行った(図11)。緩衝液単独コントロールに比べ(平均12,273CFU/窩洞)、ClyS処置(平均1198CFU/窩洞)は、鼻腔粘膜状の平均CFUを顕著に(P<0.001)減少させた。
【0071】
実施例11:全身性MRSA感染のClyS処置 ClyS処置が全身性MRSA感染症に起因する死を防止することが可能かどうかを評価するために、4週齢FVB/NJマウスに5%ムチン中約5×105CFUの市中感染性MRSA株MW2を腹腔内投与した。予備実験は、5×105CFUが24時間の期間について10×LD100用量であることを決定した。さらに、IP注射の3時間以内にMRSA感染は全身性であり、すなわち、MRSAが心臓、肝臓、脾臓、および腎臓から高い数値で回収された(データ示さず)。感染後3時間に、20mMリン酸緩衝液または20mMリン酸緩衝液中1mgのClySのいずれかをIP(腹腔内)注射することで処置を行った。マウスを、その後10日間に亘って、生存について観測した。3つの独立した実験からの結果(ClyS処置、n=16;緩衝液処置、n=14)を合わせ、カプラン・マイヤー生存曲線にマウス生存データをプロットした(図12)。24時間以内に全てのコントロールマウスが細菌性敗血症が原因で死亡したが、ClyS処置マウスは2/16のみが48時間後に死亡し、残りのマウス(14/16、88%)は実験を通して生存した(図12)。
【0072】
実施例12:ClySはバンコマイシンおよびオキサシリンとの相乗的相互作用を示した。本発明者らは、ClySとバンコマイシンおよびオキサシリンとの相互作用を試験するためにチェッカーボード微量液体希釈法を使用した。VISA株Mu50に対するバンコマイシンMICは8μg/mlおよびMRSA株COLに対するオキサシリンMICは32μg/mlであったが、試験した両方の株(それぞれ、Mu50およびCOL)に対してClyS MICは6および8U/mlであった。マイクロタイタープレート上の抑制線に沿って酵素濃度を転写(transcribing)することによって、バンコマイシンとのClySおよびオキサシリンとのClySのアイソボログラムをx/yプロットにプロットした。両方の相互作用に関する曲線の形は、相乗的相互作用の特徴であり(図13)、両方の相互作用に対するΣFICl(<0.5であった)を計算することによってさらに確認した。
【0073】
実施例13:全身性MRSA感染症の処置におけるオキサシリンおよびClySのin vivo相乗効果 In vitro実験は、ClySがオキサシリンと相乗的に作用したことを示した(図14)。この効果が本発明者らの全身性MRSA感染症モデルにおいても認められるかどうか決定するために、FVB/NJマウスに約5×105CFUの上記MRSA株MW2を腹腔内注射した。感染の3時間後のマウスを同時に、低いIP用量である130μg/マウスのClySと異なる濃度のオキサシリン(10〜100μg/マウス)との併用、または緩衝液単独コントロールで処置した。予備実験は、ED30用量のClyS(130μg/マウス)がオキサシリンとの併用処置の効果を検証するための最小有効性を有することを決定した(データ示さず)。マウスを、生存について10日間観測し、5つの独立した実験の結果を合わせてカプラン・マイヤー生存曲線にプロットした(図14)。130μg/マウスのClySまたは100μg/マウスのオキサシリンのいずれか一方の個別の処置で、それぞれ、30%(6/20生存)から35%(8/23生存)のみのマウスが生存したが、いずれも緩衝液単独コントロールの生存率(13%(2/15生存))と顕著に異ならなかった。逆に、腹腔内注射されたClyS(130μg)と0μgまたは50μgのいずれかの筋肉内注射されたオキサシリンの併用処置の単回投与は、個別の処置および緩衝液単独に比べ、顕著にマウスの生存率を増加させた(それぞれ、80%、8/10生存、82%、18/22生存)(図14)。
【0074】
実施例16:ClySの修飾 ClyS(配列番号2)のG166残基を部位特異的変異誘発によりプロリンに変えた(pClySの創出)。精製pClyS分子(配列番号17)を21℃で5日間の安定性研究に供した場合、pClySは、DTT有りまたはなしの野生型ClySよりも、5mM DTTの存在下においてより顕著に安定であることが見出された(図15)。
【0075】
本発明は、本明細書において様々な特定の材料、手順、および例を参照することによって記載および解説されているが、本発明はその目的のために選択された特段の材料、材料の組み合わせ、および手順に制限されないことが理解される。そのような詳細の数々の変化が言外に示され得、当業者によって十分理解されるであろう。
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
この出願は、2008年7月3日に出願された米国仮特許出願番号61/078,277の利益を主張し、上記米国仮特許出願は、その全容が参照によって本明細書に援用される。
【0002】
(連邦政府によって支援された研究および開発)
本発明は、国立衛生研究所(NIH)によって与えられた助成金番号AI11822のもとで政府支援によってなされた。米国政府は本発明に対し一定の権利を保有し得る。
【0003】
(技術分野)
本開示は、特定の抗生物質耐性黄色ブドウ球菌細菌株を包含する、ブドウ球菌細菌を迅速かつ特異的に検出し殺すためのキメラ溶解酵素の同定および使用に関する。
【背景技術】
【0004】
黄色ブドウ球菌は、ヒト皮膚および粘膜に生息する、日和見病原菌である。黄色ブドウ球菌は、ヒトにおける様々な皮膚および軟組織感染、ならびに肺炎、髄膜炎、心内膜炎、および骨髄炎等の重篤感染症の原因物質である。また、黄色ブドウ球菌の外毒素は、水疱性膿痂疹、熱傷様皮膚症候群、および毒素性ショック症候群等の疾患症候群をも引き起こす。加えて、ブドウ球菌は、アメリカ合衆国における食物が媒介する疾病の最も多くみられる原因の1つでもある(非特許文献1)。また、黄色ブドウ球菌は、市中感染および病院内(院内)感染の主要な原因でもある。アメリカ合衆国における200万近くの院内感染症例の原因のうち、およそ230,000例が黄色ブドウ球菌によって引き起こされている(NNIS.2003.NNIS report,data summary from January 1992 through June 2003,issued August 2003.American Journal of Infection Control 31:481−498.)。
【0005】
メチシリンおよびバンコマイシン耐性の黄色ブドウ球菌臨床分離株の世界的規模での出現は、深刻な懸念となっている。現在のところ、黄色ブドウ球菌の院内感染の40〜60%はオキサシリンに耐性であり(非特許文献2)、60%を超える単離株がメチシリン耐性である(非特許文献3)。薬剤耐性黄色ブドウ球菌によって引き起こされた感染症の処置は、ますます困難になってきており、従って医療関係者の間で大きな懸案事項となっている。この課題に立ち向かうため、異なる種類に属する新規かつ有効な抗生物質の開発が積極的に進められている。リネゾリド、キヌプリスチン−ダルホプリスチン、ダプトマイシン、チゲサイクリン、新たなグリコペプチドおよびセフトビプロール等の多数の新たな抗微生物剤が導入されているか、または臨床開発中である(非特許文献4)。しかしながら、これらの新種の抗生物質に対して耐性を有するMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の臨床単離株が、すでに報告されている(非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7)。このため、MRSAに対する新規の治療剤または抗生物質にかわるものの開発が急務である。
【0006】
バクテリオファージエンドリシン(溶解素)は、細菌感染症の予防的および治療的処置のための新規な薬剤として浮上している、そのような種類の新規な抗微生物剤の1つである。溶解素は、子孫ウイルス粒子の放出を可能にする、二本鎖DNAバクテリオファージ(またはファージ)の感染サイクルの間に産生される細胞壁加水分解酵素である。典型的には、溶解素は、ペプチドグリカンの加水分解のための触媒ドメインと、細菌の細胞壁上の表面部分を認識するための結合ドメインからなる2つの区別できる機能的ドメインを有する。触媒ドメインは溶解素間で比較的保存されている。溶解素の活性は、ペプチドグリカン内の結合特異性に基づいて2つの群に分類することができる。すなわち、アミノ糖部分内の結合を加水分解するグリコシダーゼと、架橋幹ペプチドのアミド結合を加水分解するアミダーゼである。結合ドメインは、しかしながら、溶解素間で保存されていない。それゆえに、結合ドメインは、種および株特異性を付与する。なぜなら、結合標的(しばしばペプチドグリカンと結び付いた糖質)は、種または株特異的な分布を呈するからである(非特許文献8)。溶解素のモジュール方式は、抗微生物剤としてのそれらの開発に関して重要な特徴である。これは、溶解素ドメインを交換することによるキメラの創造を可能にし、それによって結合特異性もしくは酵素活性またはその両方を改変する(非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11;非特許文献12)。
【0007】
外部から適用された場合、野生型または組換え型溶解素は、感受性の細菌の細胞壁を分解することが可能であり、急速な細胞溶解を引き起こした(Nelson D,Loomis L,Fischetti VA.2001.Prevention and elimination of upper respiratory colonization of mice by group A streptococci by using a bacteriophage lytic enzyme.Proc Natl Acad Sci U S A 98(7):4107−12)。溶解素は、A群連鎖球菌(Nelson D,Loomis L,Fischetti VA.2001.Prevention and elimination of upper respiratory colonization of mice by group A streptococci by using a bacteriophage lytic enzyme.Proc Natl Acad Sci U S A 98(7):4107−12)、肺炎連鎖球菌(Loeffler JM,Nelson D,Fischetti VA.2001.Rapid killing of Streptococcus pneumoniae with a bacteriophage cell wall hydrolase.Science 294(5549):2170−2)、炭疽菌(Schuch R,Nelson D,Fischetti VA.2002.A bacteriolytic agent that detects and kills Bacillus anthracis.Nature 418(6900):884−9)、腸球菌(Yoong P,Schuch R,Nelson D,Fischetti VA.2004.Identification of a broadly active phage lytic enzyme with lethal activity against antibiotic−resistant Enterococcus faecalis and Enterococcus faecium.J Bacteriol 186(14):4808−12)、B群連鎖球菌(Cheng Q,Nelson D,Zhu S,Fischetti VA.2005.Removal of group B streptococci colonizing the vagina and oropharynx of mice with a bacteriophage lytic enzyme.Antimicrob Agents Chemother 49(1):111−7)、および黄色ブドウ球菌(Rashel M,Uchiyama J,Ujihara T,Uehara Y,Kuramoto S,Sugihara S,Yagyu K,Muraoka A,Sugai M,Hiramatsu K他.2007.Efficient elimination of multidrug−resistant Staphylococcus aureus by cloned lysin derived from bacteriophage phi MR11.J Infect Dis 196(8):1237−47)を包含する多数のグラム陽性病原菌に対して開発されてきた。大部分のこれらの溶解素の活性は、in vitroおよびin vivoモデルにおいて立証されてきた。いくつかの溶解素特有の特徴が、それらをグラム陽性病原菌に対する抗菌物質の魅力的な候補にしている。これらは、i)in vitroおよびin vivoの両方における迅速な抗菌活性;ii)非常に狭い(種および株特異的)溶解スペクトラム;iii)非常に強い結合親和性(主としてナノモル範囲);iv)結合エピトープが生存に必須であるため、耐性を生み出す可能性が非常に低いこと;v)安全;およびvi)遺伝子組み換え技術による改変が相対的に容易であること(非特許文献8)を含む。
【0008】
溶解素は、多数のグラム陽性病原菌に対して開発されてきたが、黄色ブドウ球菌特異的溶解素の必要性が残されている。様々な研究所がブドウ球菌溶解素を得ようと試みたがうまくいかなかった。多様な技術を用いて20を超える異なるブドウ球菌溶解素の発現が試みられたが成功しなかった。これらは、異なる発現ベクターおよび条件を用いた大腸菌における溶解素遺伝子の発現、バチルス、酵母および哺乳動物系における発現、シャペロンの存在下での発現、切断型の発現等を包含する。本発明者らの知る限りでは、MV−Lと呼ばれる黄色ブドウ球菌特異的溶解素の開発に成功した報告が1つだけある(Rashel M,Uchiyama J,Ujihara T,Uehara Y,Kuramoto S,Sugihara S,Yagyu K, Muraoka A,Sugai M,Hiramatsu K他.2007.Efficient elimination of multidrug−resistant Staphylococcus aureus by cloned lysin derived from bacteriophage phi MR11.J Infect Dis 196(8):1237−47)。MV−L溶解素は、結合ドメインの一種である単一の細胞壁標的(CWT)ドメインに連結された2つの触媒ドメイン(エンドペプチダーゼおよびアミダーゼドメイン)を含む。他に指定のない限り、本明細書における「結合ドメイン」への言及は、CWTドメインを包含する。ブドウ球菌溶解酵素リソスタフィンのようなMV−L CWTドメインは、SH3b様ドメインに対する相同性を呈する。SH3b様ドメインは、ブドウ球菌の細胞壁中のペプチド架橋(ペンタグリシン)に結合する。それらのペプチド架橋を改変することによって10−6の頻度でリソスタフィンに耐性を生み出すブドウ球菌株の報告がある。従って、本発明者らはブドウ球菌がMV−Lを包含するSH3b様CWTドメインを含有する溶解素に対して、より高い頻度で耐性を生み出すことを期待する。例えばSH3b様CWTドメインを伴わない黄色ブドウ球菌特異的溶解素といった、望ましくない高い頻度でリソスタフィン耐性を有することなく、ブドウ球菌細菌に特異的に結合することが可能な溶解酵素が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Fischetti VA,Novick,R.P.,Ferretti,J.J.,Portnoy,D.A.およびRood,J.I.,編集者、Gram−positive pathogens.第2版:ASM Press(2006)
【非特許文献2】Massey RC,Horsburgh MJ,Lina G,Hook M,Recker M.、The evolution and maintenance of virulence in Staphylococcus aureus:a role for host−to−host transmission? Nat Rev Microbiol(2006)4(12):953〜8
【非特許文献3】Gill SR,Fouts DE,Archer GL,Mongodin EF,Deboy RT,Ravel J,Paulsen IT,Kolonay JF,Brinkac L,Beanan M他、Insights on evolution of virulence and resistance from the complete genome analysis of an early methicillin−resistant Staphylococcus aureus strain and a biofilm−producing methicillin−resistant Staphylococcus epidermidis strain.J Bacteriol(2005)187(7):2426〜38
【非特許文献4】Aksoy DY,Unal S.、New antimicrobial agents for the treatment of Gram−positive bacterial infections.Clin Microbiol Infect(2008)14(5):411〜20
【非特許文献5】Tsiodras S,Gold HS,Sakoulas G,Eliopoulos GM,Wennersten C,Venkataraman L,Moellering RC,Ferraro MJ.、Linezolid resistance in a clinical isolate of Staphylococcus aureus.Lancet(2001)358(9277):207〜8
【非特許文献6】Mangili A,Bica I,Snydman DR,Hamer DH.、Daptomycin−resistant,methicillin−resistant Staphylococcus aureus bacteremia.Clin Infect Dis(2005)40(7):1058〜60
【非特許文献7】Skiest DJ.、Treatment failure resulting from resistance of Staphylococcus aureus to daptomycin.J Clin Microbiol(2006)44(2):655〜6
【非特許文献8】Fischetti VA,Nelson D,Schuch R.、Reinventing phage therapy:are the parts greater than the sum? Nat Biotechnol(2006)24(12):1508〜11
【非特許文献9】Sheehan MM,Garcia JL,Lopez R,Garcia P.、Analysis of the catalytic domain of the lysin of the lactococcal bacteriophage Tuc2009 by chimeric gene assembling.FEMS Microbiol Lett(1996)140(1):23〜8
【非特許文献10】Lopez R GE,Garcia P,Garcia JL.、The pneumococcal cell wall degrading enzymes:a modular design to create new lysins? Microb Drug Res(1997)3:199〜211
【非特許文献11】Croux C,Ronda C,Lopez R,Garcia JL.、Interchange of functional domains switches enzyme specificity: construction of a chimeric pneumococcal−clostridial cell wall lytic enzyme.Mol Microbiol(1993)9(5):1019〜25
【非特許文献12】Donovan DM, Dong S,Garrett W,Rousseau GM,Moineau S,Pritchard DG.、Peptidoglycan hydrolase fusions maintain their parental specificities.Appl Environ Microbiol(2006)72(4):2988〜96
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
概要
本開示は、新規のブドウ球菌溶解素のほか、該溶解素の製造方法および使用を記載する。1つの例において、ClySと呼ばれる新規キメラ溶解素(ブドウ球菌に対するキメラ溶解素)の遺伝子組み換え技術が記載される。ClySは、感受性かつ薬剤耐性のブドウ球菌に対して特異的に活性であり、ブドウ球菌特異的ファージ溶解素の触媒ドメインを、既知のホモログを有しない他のブドウ球菌特異的ファージ溶解素由来の固有の結合ドメインと融合させることによって構築された。ClySは、SH3b様CWTドメインを伴わない可溶性のブドウ球菌特異的溶解素であるが、ブドウ球菌特異的表面糖質を認識すると考えられるCWTドメインを含有する。そのため、ブドウ球菌株がClySに対する耐性を生み出すであろう頻度は低減され得る。加えて、ClySの生化学的特徴づけによって、ClySのpHおよび塩スペクトラムが従来の溶解素とは非常に異なっており、それにより、このキメラ溶解素に固有の特性をもたらすことが明らかになった。
【0011】
また、診断目的で結合ドメインを使用する方法も本発明の範囲内に包含され、該方法は、試料を、配列番号1のアミノ酸配列を含む細胞壁標的ドメインを含むレポーター分子、およびそれに結合した蛍光レポーティング(fluorescent reporting)部分と接触させる工程;ならびに、その後試料内でブドウ球菌細菌に結合したレポーター分子の存在を検出する工程を含む。特定の実施態様において、レポーター分子は緑色蛍光タンパク質である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、推定されるCHAP(「システインおよびヒスチジン依存性アミド加水分解酵素/ペプチダーゼ」)およびCWTドメインを示す、phiNM3溶解素の概略図である。数字は、アミノ酸の位置およびドメインの端を意味する。ClySのCWTドメインは、図中に示される。
【図2A】図2Aは、phiNM3 CWTの精製を示すゲルである。陰イオン交換クロマトグラフィーにより精製されたphiNM3 CWTのSDS−PAGEおよびクマシーブルー染色されたゲルは、「CWT」と印づけられたレーンに図示される。キロダルトン(kDa)単位でのタンパク質の分子量マーカーは、「M」と印づけられたレーンに示される。
【図2B】図2Bは、phiNM3 CWTタンパク質(配列番号1)のアミノ酸配列を示す。
【図3】図3は、ブドウ球菌に特異的に結合したPhiNM3 CWTを示す一連の顕微鏡写真を示す。精製されたphiNM3 CWTをFITCで標識し、1)黄色ブドウ球菌;2)セレウス菌;3)表皮ブドウ球菌;4)大腸菌;5)A群連鎖球菌および6)黄色ブドウ球菌とセレウス菌細胞の混合懸濁液に暴露した。「P」は位相コントラスト画像を示し、「F」は蛍光画像を示す。
【図4】図4は、キメラ溶解素開発を図解する概略図である。具体的には、図4は、それらの対応するドメイン、タンパク質の対応する発現および溶解度、および黄色ブドウ球菌細胞に対する活性を示す、様々なキメラ溶解素の概略図を提供する。類似するドメインは、同じ陰影で図示され標識される。PlyB−catはバチルス特異的溶解素PlyBの触媒ドメインを指し(そして図中「4」で印づけられる);Sa−aaはブドウ球菌溶解素に特異的な16アミノ酸残基を指し(そして図中「5」で印づけられる);PlyB−CWTはPlyBのCWTドメインを指し(そして図中「6」で印づけられる);Twort−CWTは黄色ブドウ球菌ファージTwort溶解素のCWTドメインを指し(そして図中「8」で印づけられる);リソスタフィンCWtはリソスタフィンのCWTドメインを指し(そして図中「10」で印づけられる);そしてSe自己溶解素アミダーゼは表皮ブドウ球菌自己溶解素のアミダーゼドメインを指す(そして図中「12」で印づけられる)。
【図5A】図5Aは、ClySタンパク質配列を示す。キメラタンパク質ClySの予測されたタンパク質配列は、Twortエンドペプチダーゼ触媒ドメインおよびphiNM3 CWTドメインを示す。
【図5B】図5Bは、図4について記載される、AD127キメラ分子のアミノ酸配列を示す。
【図5C】図5Cは、野生型(非修飾)Twort溶解素(配列番号12)のアミノ酸配列を示す。
【図6】図6は、ClySの精製を示すゲルである。ClySを大腸菌DH5α細胞において発現させ、陽イオン交換クロマトグラフィーで精製した後ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィーによって精製した。精製された試料(10マイクログラム)をSDS−PAGEにより分離し、クマシーブルーにより染色した(右側レーン)。キロダルトン(kDa)単位でのタンパク質の分子量マーカーは、左側レーンに示される。
【図7】図7は、in vitroでの黄色ブドウ球菌に対するClySの活性を示すグラフである。黄色ブドウ球菌株8325−4細胞を20mMのリン酸緩衝液(pH7.4)に再懸濁させ、50UのClySおよびOD600と共にインキュベートし(塗りつぶされた三角)、分光光度計で観測した。コントロール試験(塗りつぶされた四角)を緩衝液単独で同条件下で行った。コロニー形成単位/mlとして示される細胞の生存率(塗りつぶされた菱形)を、細胞を段階的に希釈し播種することによって決定した。
【図8】図8は、ClySが8325−4細胞の細胞壁を崩壊させ、最終的に溶解させることを示す一連の顕微鏡写真である。図8A〜8C(A〜C)は、50UのClySに暴露された3分後の黄色ブドウ球菌の薄片透過型電子顕微鏡写真である(バー、200nm)。矢印は、ClySにより細胞壁に作られた穴からの細胞膜がはみ出している状態を指す。最終的な溶解は、細胞質の内容物が失われた後の「セル・ゴースト(cell−ghosts)」(D)を結果として生じる(バー、500nm)。
【図9】図9Aおよび9Bは、様々なpHおよび塩濃度条件におけるClySの活性を示すグラフである。図9Aは、15分のアッセイにおけるpH値が4〜10の範囲の緩衝液中での黄色ブドウ球菌株8325−4に対して試験されたClyS(50U)の活性のグラフである。光学濃度(塗りつぶされた四角)および生存率(塗りつぶされた菱形)を、図6の説明文に記載されるように測定した。生存率アッセイにおける殺傷倍数(fold killing)を、特定のpHでの緩衝液処理の後の生存細菌の数を、同じpHでClyS酵素に暴露した後の数で割ることにより算出した。各反応でのpHの最終測定値をx軸に記録する。図9Bは、異なるNaCl濃度の存在下において20mMリン酸緩衝液(pH7.4)中で黄色ブドウ球菌8325−4に対して試験されたClyS(50U)の活性を示すグラフである。15分後に、試料を上記の光学濃度および生存率算出のためアッセイした。
【図10】図10は、ClySがブドウ球菌の特異的殺菌を行うことを示す棒グラフである。異なる細菌の対数期培養物を15分間、50UのClySに暴露した。殺傷倍数を図8の説明文に記載されるように算出した。
【図11】図11は、リン酸緩衝生理食塩水pH7.3(コントロール)またはClyS(630μg)の投与を受けた後の、個別のMRSA感染マウス由来MRSAのCFUのグラフを図示する。
【図12】図12は、リン酸緩衝液コントロールと比較したMRSAを注射されたマウスにおける死亡を防止するClySの効果を示すカプラン・マイヤー生存曲線を図示する。
【図13】図13は、ClyS量の増加に伴う、VISA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)に対するバンコマイシン、またはMRSAに対するオキサシリンの効果のチェッカーボード微量液体希釈法のアイソボログラムを図示する。
【図14】図14は、オキサシリン単独またはClySとの併用の効果を示すカプラン・マイヤー生存曲線を図示する。
【図15】図15は、5mM DTTの非存在(左上のゲル)または存在(右上のゲル)でのClyS、および5mM DTTの非存在(左下のゲル)または存在(右下のゲル)でのpClySの21℃における5日間の経時変化のクマシーブルー染色SDS−PAGEゲルの写真を図示する。約20マイクログラムのタンパク質を、ゲルの各レーンに載せた。右下のゲルは、5日後の5mM DTT存在での完全なClySに比べ、5日後の5mM DTT存在ではるかに多い量の完全なpClySを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
他に指定のない限り、本明細書中で使用される特定の用語およびそれらの本開示への適用性は以下に定義される。
【0014】
用語「単離された」は、出発材料から少なくとも部分的に精製されたことを意味する。用語「精製された」は、生物学的材料が、カラムクロマトグラフィー、HPLC、沈殿、電気泳動等を包含するが、それらに限定されないいずれかの精製過程によって部分的、実質的または完全に、その材料の調製に関与する前駆体またはその他の化学物質等の不純物を除去され、濃度がある程度まで増加していることを意味する。それゆえに、均質な、または実質的に均質な材料(例えば、電気泳動またはクロマトグラフィー等の分離手順において単一のタンパク質シグナルを生じる)は、単離された、および精製されたの意味に包含される。当業者は、必要な精製量は材料の使用に依存することを理解するであろう。例えば、ヒトへの投与が意図された組成物は、普通、規制基準に従って高度に精製されなければならない。
【0015】
用語「バクテリオファージによって遺伝的にコードされた溶解酵素」は、宿主細菌に対して少なくともいくらかの溶解活性を有するポリペプチドをいう。
【0016】
「キメラバクテリオファージ溶解素」の改変体は、キメラバクテリオファージ溶解素の定義に包含され、本明細書に記載される配列と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、さらには少なくとも99.5%のアミノ酸配列同一性を有する黄色ブドウ球菌に対する殺活性(killing activity)を有する機能的に活性なキメラバクテリオファージ溶解素を包含する。例えば、本発明は、配列番号2のポリペプチド配列と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%、さらには少なくとも99.5%のアミノ酸配列同一性を有するキメラのバクテリオファージ溶解素を包含する。
【0017】
ここで同定される溶解酵素ポリペプチド配列に関する「パーセント(%)ポリペプチド配列同一性」は、必要に応じて、最大のパーセント配列同一性を達成するため、配列の整列およびギャップ導入の後、配列同一性の一貫としていかなる同類置換も考慮することなく、特定の溶解酵素ポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一の候補配列におけるアミノ酸残基のパーセントとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的での整列方法を以下に記載する。
【0018】
ブドウ球菌溶解素
黄色ブドウ球菌に対する殺活性を有するキメラバクテリオファージ溶解素を、本明細書に記載する。溶解素は、一般的にモジュール構造で存在する。図1は、推定されるCHAPドメイン110およびCWTドメイン120を示すphiNM3溶解素の概略図である。数字はアミノ酸位置およびドメイン端を意味する。ClySのCWTドメインは影付きの長方形120で示される。N末端モジュールは、特定の細菌の細菌細胞壁を崩壊させる能力を保有すると考えられている触媒ドメインからなる。触媒ドメインとしばしば関連付けられる酵素活性は、アミダーゼ、エンドペプチダーゼ、グルコサミダーゼ(glucosamidases)およびムラミダーゼである。C末端モジュールは、標的細菌細胞壁上の糖質エピトープに対して親和性を有すると考えられている結合ドメインからなる。この結合ドメインは、溶解素の特異性を決定づけると考えられている。ブドウ球菌ペプチドグリカン内のペプチド架橋は、リソスタフィン(Staphylococcus simulansにより産生されるブドウ球菌溶解酵素)のCWTドメインに対する受容体として機能すると考えられている。リソスタフィンのCWTドメインは、SH3bドメインと相同性を有し、そのような溶解素はその受容体としてペプチド架橋を利用する可能性があることも示唆されている。
【0019】
1つの実施態様において、いかなる既知のドメインホモログも有しない、ブドウ球菌溶解素内にCWTドメインを含むブドウ球菌特異的結合分子が提供される。いくつかの実施態様において、結合分子は溶解素である。他の実施態様において、結合分子を、例えばブドウ球菌細菌の存在を同定するためといった診断用ツールとして使用することができる。好ましくは、そのようなCWTドメインは、ブドウ球菌細胞壁中のペプチド架橋に代えて細胞壁結合糖質等の異なるエピトープを認識するために提供される。
【0020】
さらなる実施態様において、ClyS溶解素を、黄色ブドウ球菌細菌株の細胞壁を消化するために使用することができ、それは、内因性DNAおよびRNA等の遺伝的および細胞質材料への接近を可能にし、さらに黄色ブドウ球菌細菌株の同定および配列決定を可能にするであろう。また、診断目的で、膜結合分子および壁結性分子を放出する(release)であろう。
【0021】
最も好ましくは、結合分子は配列番号1(phiNM3 CWTドメイン)等の黄色ブドウ球菌に特異的な結合を提供するアミノ酸配列を包含するポリペプチドを含む細菌溶解素の可溶性結合ドメインである。例えば、溶解素は、好ましくは黄色ブドウ球菌ファージphiNM3溶解素(配列番号1)(タンパク質アクセッション番号YP_908849)のポリペプチド配列を包含する。アミノ酸残基158−251に相当するphiNM3溶解素CWTドメイン(配列番号1)を、クローニングし発現させた。およそ10kDaの配列番号1のタンパク質は可溶性が高く、一段の陽イオン交換クロマトグラフィーにより均質になるまで精製された。図2Aは、第1カラムにおけるマーカータンパク質セットの隣の第2カラムにおける配列番号1のタンパク質を示す陽イオン交換ゲルである。図2Bは、配列番号1のアミノ酸配列を示す。配列番号1のペプチドドメインがブドウ球菌特異的結合を呈するかどうかを決定するため、精製タンパク質をFITCで標識し、対数相黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌および黄色ブドウ球菌とバチルスとの混合集団に暴露した。A群連鎖球菌、大腸菌およびセレウス菌をコントロールとして使用した。より好ましくは、FITC標識phiNM3 CWTドメインは、黄色ブドウ球菌(図3−1)および表皮ブドウ球菌(図3−3)細胞が単独または混合集団(図3−6)で存在する場合に特異的に結合したが、連鎖球菌(図3−5)、バチルス(図3−2)または大腸菌(図3−4)への結合は観察されなかった。phiNM3溶解素は、黄色ブドウ球菌(図3−1)および表皮ブドウ球菌(図3−2)細胞が単独または混合集団(図3−3)で存在している場合に特異的に結合したが、連鎖球菌(図3−4)、バチルス(図3−5)または大腸菌(図3−6)への結合は観察されなかった。
【0022】
1つの実施態様において、結合分子は、ブドウ球菌細菌に結合する結合分子の存在を同定するための検出可能なレポーティングタンパク質に付着した、配列番号1のアミノ酸配列等のCWT結合ドメインを含む。例えば、結合分子は、蛍光レポーター群、放射性レポーター群、または蛍光レポーターに結合するように適合された異種タグに結合した配列番号1のアミノ酸配列を包含してもよい。phiNM3(配列番号1)CWTドメインを、ブドウ球菌細菌の同定のための診断ツールとして使用してもよい。高親和性結合部位を、黄色ブドウ球菌検出のために幅広いアッセイ技術において使用してもよい。そのようなアッセイ法は、放射性免疫アッセイ、金ゾル放射性免疫アッセイ、競合的結合アッセイ、ウェスタンブロットアッセイおよびELISAアッセイを包含する。そのような検出アッセイは、不均一形式(heterogeneous format)を有効に利用し、ここでは、(配列番号1)を含む複合体結合剤と検体との間に結合反応(配列番号1)が起こり、次いで結合していない複合体結合剤を除去するための洗浄工程が続く。例えば、金ゾル粒子を、粒子表面上に固定された結合タンパク質を伴う結合領域を含むタンパク質により調製してもよい。タンパク質と(ブドウ球菌)細菌との間に結合が起こると、粒子が合体して着色産物を形成する。同様に、結合タンパク質はコンプレックス化されていてもよく、好ましくはベータガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、またはセイヨウワサビペルオキシダーゼ等の酵素と共有結合的にコンプレックス化されていてもよい。洗浄の後、残された結合した酵素を、蛍光性または化学発光性基質等の基質を添加することによって検出することができる。結合タンパク質は、時間分解(time resolved)蛍光により検出される希土類蛍石、放射性活性の測定により検出される放射性材料、蛍光によって検出される緑色蛍光タンパク質(GFP)または他の蛍光タグ等のシグナルを生み出すことが可能な他のいかなる試薬とコンプレックス化されていてもよい。
【0023】
比較のため、図5Bは、図4について説明されたAD119試料である配列番号3のアミノ酸配列を提供する。AD119(配列番号3)は、リソスタフィンCWTドメインに結合したTwortエンドペプチダーゼドメインを含む。Twortエンドペプチダーゼドメインを共有するが、リソスタフィンCWTドメインのかわりにphiNM3 CWTドメイン(配列番号1)を有する配列番号2(AD127)のキメラ化合物と対照的に、AD127化合物は、不溶であり、黄色ブドウ球菌に対する殺活性をほとんどまたは全く示さなかった。
【0024】
検出可能なタグを伴う結合領域の複合体化を、合成化学または生物学的手法によって実行してもよい。例えば、配列番号1、または配列番号2の全溶解素の結合領域をコードするDNA配列を、緑色蛍光タンパク質(GFP)等の検出可能なマーカーまたはアルカリフォスファターゼ等の酵素をコードする遺伝的情報に連結することが可能である。これは、N末端触媒ドメインを除去して緑色蛍光タンパク質(GFP)等の指標分子とフレーム単位で置き換えることによって、結合ドメインについてDNAを分離し、そして黄色ブドウ球菌の同定のために発現した融合分子を精製することによって達成される。結合ドメインが免疫グロブリンG分子と同様の結合親和性を有することから、印づけられた結合ドメインは偽陽性活性をほとんど伴わずに効果的に黄色ブドウ球菌を同定するであろう。また、必要に応じて溶解素酵素全体の5’末端にGFP分子または酵素を融合させることができ、そのようにすることによって、酵素ドメインは少なくとも部分的に非活性化されるであろうが、なおも結合ドメインはバチルスの細胞壁中の基質に結合するように機能することが可能である。任意に、単離された配列番号1の結合ドメインを配列番号2の触媒ドメインから分離して発現、精製し、蛍光イソチオシアネート、ローダミンイソチオシアネートや、その他当業者に公知の多数の蛍光分子を用いて標識してもよい。結合ドメインは、同定のために黄色ブドウ球菌に結合領域が接着した後、ビオチン−アビジンコンプレックスを形成させるためにビオチンで修飾されていてもよい。
【0025】
別の実施態様において、溶解素はphiNM3 CWTドメイン(配列番号1)の黄色ブドウ球菌Twort溶解素上流のエンドぺプチダーゼドメインを含むキメラタンパク質である。キメラポリペプチドは、好ましくはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対して十分に可溶性である。キメラ溶解素のPBS中での好ましい溶解度レベルは、少なくとも約1mg/mlであり、好ましくはPBSに対して少なくとも約3mg/mlである。典型的には、野生型ブドウ球菌バクテリオファージ溶解素がPBSに不溶性であるのに対し、配列番号1のCWTドメインに結合した第1溶解素(例えば、Twort黄色ブドウ球菌溶解素)のエンドペプチダーゼドメインを含むキメラ溶解素は、驚いたことにPBSに対して可溶である(例えば、少なくとも約1mg/ml、典型的には約3mg/ml以上)。そのような溶解素の一例は、図5Aに示される配列番号2(AD127)において提供され、phiNM3 CWTドメイン(配列番号1)に付着したTwort溶解素エンドペプチダーゼドメインからなる。配列番号2(AD127)の単離されたポリペプチドを、表皮ブドウ球菌自己溶解素アミダーゼとphiNM3 CWTドメインのTwort溶解素エンドペプチダーゼドメイン上流とをそれぞれ設計することにより構築した。キメラAD126は全く発現せず活性も示さなかったが、AD127は可溶性であり非常に高い活性を有していたものの、低発現であった。AD127コンストラクトの低発現を克服するため、pAD138を作出するために全キメラ遺伝子を発現ベクターpJML6へクローニングした。pAD138コンストラクト由来のAD127の発現、溶解度および活性は非常に高かった。従って、このキメラをブドウ球菌に対するキメラ溶解素として「ClyS」と名付けた(図5A)。
【0026】
ClyS(配列番号2)は、31956Daの推定される分子量および理論上の等電点9.17を伴う280アミノ酸残基を含有し、2段のカラムクロマトグラフィーにより>90%均質性まで精製された。ClySは、ゲル濾過クロマトグラフィーによって確認された、SDS/PAGE(図6)によるおよそ31kDaの分子量を有しており、このタンパク質がモノマーとして存在し、タンパク質分解的に加工されたものではないことを示唆している(データ示さず)。
【0027】
ClySの単位活性を、ClySの連続希釈物を添加して黄色ブドウ球菌8325−4細胞の濁度の分光光度喪失(細胞溶解の指標)を測定することにより決定した。本発明者らのアッセイにおいて、5マイクログラムのClySは1Uの溶解活性に相当した。50UのClySを指数関数的に増殖している8325−4細胞に添加した場合、OD600は5分以内に基準値まで低下した(図7)。観察された細胞溶解が細胞死に相当するものであることを確認するため、ブドウ球菌生存率を様々な時点での溶解反応由来の列挙されたアリコート(enumerating aliquots)によって決定した。およそ3ログの生存率の低下が30分以内に観察された(図7)。
【0028】
50UのClySに1〜3分暴露された黄色ブドウ球菌8325−4細胞に対する溶解効果を透過型電子顕微鏡検査によって可視化した。以前に観察された溶解素活性の典型である細胞壁の局部的な分解が、単一部位(図8A)または複数部位(図8B)で観察された。しかしながら、他の溶解素とは異なり、細胞上の分解部位は中隔または極位置に制限されず、不規則に分布していた。これは、結果として、細胞膜のはみ出しおよび破裂(図8C)、その後の細胞質内容物の喪失およびセル・ゴースト(cell−ghosts)の形成(図8D)を生じた。
【0029】
ClySの活性に対するpHの影響を、OD600の低下または異なるpH値での細胞生存率を測定することにより決定した。本発明者らは、ClySが、幅広いpH値の範囲を通して活性であったが、pH9〜10の間で最も活性であることを観察した。しかしながら、ClySは生理学的pHであっても部分的ではあるが顕著な活性を維持した(図9A)。同様に、ClySの活性に対する塩濃度の影響も決定した。ClySは幅広い塩濃度で活性を呈した(図9B)。その活性は400mM NaClを超えると減弱したが、生理学的濃度においてClySは良く機能した。
【0030】
ClySの分解活性(muralytic activity)を、多様な種を代表する多数の細菌株についてセットに分けて試験した(表1および図10)。セットIはメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)およびMRSAを包含する黄色ブドウ球菌株からなった。黄色ブドウ球菌株間での相違が観察されたが、ClySはMSSAおよびMRSAに対して活性であった。セットIIは、表皮ブドウ球菌、S.simulansおよびS.sciuriを包含するブドウ球菌の異なる種からなった。ClySはバイオフィルム形成株RP62Aを包含する表皮ブドウ球菌のみならず、S.simulansおよびS.sciuriに対しても活性であり、ClySが全てのブドウ球菌細胞に存在する細胞壁におけるエピトープを認識することを示唆した。セットIIIは、A、B、C、およびE群連鎖球菌の代表、乳房連鎖球菌、セレウス菌、緑膿菌および大腸菌と同様に、S.gordonii、およびS.salivariusを包含する経口連鎖球菌種を包含するグラム陽性およびグラム陰性細菌の混合物からなった。ClySはこれらのいかなる生物に対しても活性を示さなかった。
【0031】
別の実施態様において、キメラペプチドは、リソスタフィンCWTドメインの黄色ブドウ球菌Twort溶解素上流のエンドペプチダーゼドメインを含む単離されたポリペプチドを含む。そのような溶解素の一例は配列番号3(AD119)に提示される。
【0032】
別の実施態様において、溶解組成物は2以上の溶解素の混合物を含んでもよい。この混合物は、第1ポリペプチドおよび第2ペプチドを包含してもよく、一方または両方のポリペプチドは所望のレベルの溶解活性を欠如していてもよいが、この混合物は関心を持たれている細菌に対する所望の特異的かつ有効な溶解活性を提供する。例えば、組成物は、リソスタフィンCWTドメインの黄色ブドウ球菌Twort溶解素上流のエンドペプチダーゼドメインを含む単離された第1ポリペプチドと、リソスタフィンCWTドメインの表皮ブドウ球菌自己溶解素アミダーゼドメイン上流を含む第2単離ポリペプチドとを組み合わせて包含してもよい。そのような組成物の一例として、配列番号3(AD119)と配列番号4(AD112)との混合物が挙げられる。
【0033】
いくつかの実施例において、本開示は、黄色ブドウ球菌細菌に暴露された可能性のある人々の感染を防止するための予防的処置として、または感染からすでに発病した人々の治療的処置としての溶解酵素に関係する。ここに記載されるファージ結合溶解酵素は、黄色ブドウ球菌細菌に特異的であり、好ましくは黄色ブドウ球菌細菌の細胞壁を効果的かつ効率的に破壊する。
【0034】
ここに記載されるキメラ溶解酵素ポリペプチドを、治療剤として採用してもよい。本発明の溶解酵素ポリペプチドを、薬学的に有用な組成物を調製するために、既知の方法に従って作製することができ、この溶解酵素産物を薬学的に許容される担体ビヒクルと混合することができる。黄色ブドウ球菌細菌感染の予防的および治療的処置に使用することができる組成物は、酵素が粘膜内層に到達させるための担体システムまたは経口輸送様式におかれるように、シャッフルされた(shuffled)酵素および/またはキメラ酵素ならびに口内および鼻腔の粘膜内層への適用手段(担体システムまたは経口輸送様式等)をも包含する。
【0035】
1つの好ましい実施態様において、配列番号2の溶解素(ClyS)等のブドウ球菌キメラ溶解素は、好適な薬学的担体と併用して抗菌性組成物として投与される。特定の実施態様において、存在するキメラバクテリオファージ溶解素の量は、治療的有効量である。ここで使用される「担体」は、採用された用量および濃度にて担体に暴露された細胞または哺乳動物に非毒性である薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤を包含する。しばしば、生理学的に許容される担体は水性pH緩衝液である。生理学的に許容される担体の例として、リン酸、クエン酸、および他の有機酸等の緩衝剤;アスコルビン酸を包含する抗酸化剤;低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリシン等のアミノ酸;単糖、二糖、およびグルコース、マンノース、またはデキストリンを包含する他の糖質;EDTA等のキレート剤;マンニトールまたはソルビトール等の糖アルコール;ナトリウム等の塩形成対イオン;ならびに/またはTWEENTM、ポリエチレングリコール(PEG)、およびPLURONICSTM等の非イオン界面活性剤を包含する。これらの抗微生物/医薬組成物を、局部的または全身的に投与することができる。
【0036】
投与経路は、局所、眼、鼻、肺、頬、非経口(静脈内、皮下、および筋肉内)、口腔、非経口、膣および直腸を包含する。また、インプラント(implants)からの投与も可能である。本発明の化合物を、皮膚または粘膜に局所的に、すなわち皮膚に投与するかまたは経皮的に投与してもよい。この目的の典型的な処方は、ゲル、ハイドロゲル、ローション、溶液、クリーム、軟膏、散布剤、包帯剤、気泡、フィルム、皮膚パッチ、ウエハー、インプラント、スポンジ、繊維、救急絆およびマイクロエマルジョンを包含する。また、リポソームを使用してもよい。典型的な担体は、アルコール、水、ミネラルオイル、流動ワセリン、白色ワセリン、グリセリン、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールを包含する。浸透促進剤を組み込んでもよい[例えば、FinninおよびMorganによるJ Pharm Sci,88(10),955−958(1999年10月)を参照]。
【0037】
本発明の化合物は、血流、筋肉、または内臓器官に直接的に投与することもできる。非経口投与の好適な手段は、静脈内、動脈内、腹腔内、気管内、脳室内(intraventricular)、尿道内、胸骨内(intrasternal)、頭蓋内、筋肉内および皮下を包含する。非経口投与の好適な機器は、針(極微針を包含する)注射器、無針注射器および点滴技術を包含する。本発明の化合物は、典型的にはエアロゾルの形態で吸入によって鼻腔内または経口投与されてもよい。
【0038】
好適な抗微生物製剤の形態は、例えば、顆粒、粉末、錠剤、コーティング剤、(マイクロ)カプセル、坐剤、シロップ、乳化剤、(水、油および界面活性剤からなる光学的等方性の熱力学的に安定な系と定義される)マイクロエマルジョン、(短距離無秩序ではなく長距離秩序によって特徴づけられる系として定義される)液晶相(ラメラ相、六角形相および立方体相、水分散および油分散のいずれもが例示される)、またはそれらの分散した対応物、ゲル、軟膏、分散剤、懸濁剤、クリーム、エアロゾル、液滴もしくはアンプル形態の注射溶液、また活性な化合物の持続放出性を伴う製剤であって、その製剤において上述のような賦形剤、希釈剤、アジュバントもしくは担体が通例使用される。医薬組成物は、救急絆または縫合糸等の形態で提供することもできる。
【0039】
多くの整形外科医が、人工関節を備えたヒトについて抗生物質の予防的投与を検討すべきであると考えている。黄色ブドウ球菌による晩期深部感染は、時に人工関節の喪失を導く重篤な合併症であり、顕著な罹患率および死亡率を伴って起こる。従って、この状況において、本明細書に記載されるキメラバクテリオファージ溶解素(例えば配列番号2)の使用を予防的抗生物質の代わり、またはこれとの併用に拡大することもできる可能性がある。キメラバクテリオファージ溶解素を、感染を取り除くためにin situで整形外科的機器の部位に直接的に、または移植前に機器の表面上に好適な担体と共に注射により投与してもよい。皮下、筋肉内、または腹腔内等の他の注射経路を使用することができる。投与の他の手段は、胆汁塩またはフシジン酸、他の浄化剤等の浸透剤を用いた経粘膜および経皮的投与を包含する。加えて、本発明のポリペプチドまたは他の化合物は、腸溶性またはカプセル処方として作製することができ、経口投与も可能である。これらの化合物の投与も、局所および/または局部であってもよく、軟膏、ペースト剤、ゲル等の形態であってもよい。
【0040】
酵素が担体システムまたは経口輸送様式におかれる前またはその時、本明細書に記載されるキメラペプチドは、pH範囲を約5.0〜約7.5に保持して滅菌緩衝環境において投与または作製されることが望ましい。キメラぺチドが担体システムまたは経口輸送様式におかれる前またはその時、酵素は、好適なpH範囲がpH約5.0、6.0、7.0、8.0またはその間の0.05間隔のpHを包含し、またはpH値5.2、6.5、7.4、7.5および8.5、またはその間の0.05の倍数である間隔を包含する、約5.0〜約8.0等に保持された滅菌緩衝環境にあってもよい。
【0041】
細菌感染症の処置に溶解酵素を使用することには多くの利点がある。それらの区別できる触媒および結合ドメインによる溶解素のモジュール配置は、細菌特異性および触媒活性を向上させ、または別の病原菌に対する使用のため適合させることができるドメイン交換実験についてそれらを理想的なものにする。溶解素の触媒および結合標的(それぞれペプチドグリカンおよび結合糖質)が生存能力に大いに不可欠であることから、溶解素耐性は希少であろう。
【0042】
「処置」は、治療的処置および予防または防止方策の両方に言及し、ここでその目的は、標的とする病態または疾患の防止または減速(緩和)である。処置を必要とする者には、罹患している者のほか、疾患にかかりやすい者、または疾患を防止しなければいけない者も包含される。
【0043】
処置の目的に関する「哺乳動物」は、ヒト、飼いならされた(domestic)動物および家畜、ならびに動物園、スポーツ用またはペット用の動物(例えば、犬、猫、畜牛、馬、羊、豚、ヤギ、ウサギ等)等を包含する、哺乳動物に分類されるいかなる動物にも言及する。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0044】
in vivo投与に使用される処方は、好ましくは無菌である。これは、凍結乾燥および再構成の前または後の無菌の濾過膜を通す濾過により容易に達成される。ここで、治療用組成物は、一般に、例えば皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈溶液バッグまたはバイアルといった、無菌のアクセスポートを有する容器内におかれる。
【0045】
投与経路は、既知の方法、例えば静脈内、腹腔内、脳内、筋肉内、眼内、動脈内または病巣内経路による注射もしくは点滴、局所投与、または徐放システム等に従う。細菌暴露または感染症の処置の場合、非経口または口腔もしくは鼻腔経由を包含する、あらゆる好適な様式で溶解酵素を投与することができる。
【0046】
本発明の医薬組成物の用量および所望の薬物濃度は、想定される個別の使用により変化し得る。適切な用量または投与経路の決定は、十分に一般的な医師の技術の範囲内である。動物実験は、ヒト治療のための有効用量の決定のために信頼性のある助言を提供する。有効用量の生物種間のスケーリングを、Mordenti,J.およびChappell,W.により著された原理”The use of interspecies scaling in toxicokinetics” In Toxicokinetics and New Drug Development,Yacobiら編,Pergamon Press,New York 1989,pp.42−96に従って実施できる。
【0047】
キメラペプチド溶解素のin vivo投与が採用された場合、投与経路により、標準的な投与量は、哺乳動物の体重1kgにつき、1日あたり約10ng/kgから1000mg/kgまで、あるいはそれ以上、または約1μg/kg/日から10000mg/kg/日まで変化し得る。また、個別の用量および輸送の方法についての助言は、文献の他に以下にも提供される。異なる処方が異なる処置化合物および異なる疾患に有効であると予測され、例えば、ある臓器または組織を標的とする投与は、他の臓器または組織の場合とは異なる輸送方法を必要とするかもしれない。
【0048】
非経口投与のためのキメラペプチドの有効用量率または有効量、および処置期間は、感染症の重症度、患者の体重、レシピエントが感染性細菌に暴露されていた期間、感染症の重症度、および多数の他の変数にある程度依存する。本発明の組成物は、1日1回から数回、どこにでも適用することができ、これより短期間または長期間に亘って適用することができる。この用法は数日または数週間続けてもよい。採用されるいかなる投与形態も1回の最小量に対して最小単位数を提供するべきである。有効量または有効用量の酵素を提供すると考えられるキメラペプチドの活性単位の濃度は、組成物中、約10、20、30、40、50、60、70、80、90、または100単位/mlから約10,000,000単位/mlの範囲、約1000単位/mlから約10,000,000単位/mlの範囲、および約10,000から10,000,000単位/mlの範囲であり得る。
【0049】
加えて、この酵素の細胞壁を通した輸送を助けるために、多数の方法を使用することができる。既知の技術によってリポソーム中に酵素を「挿入」して、酵素をリポソームで輸送することができる。同様に、酵素を逆ミセルとしてもよい。また、酵素の非活性部位にポリエチレングリコールを付着させて酵素をペグ化してもよい。あるいは、細胞膜を通して酵素を輸送するために疎水性分子を使用してもよい。最後に、細胞膜上の標的特異的内在性受容体に対して、酵素のグリコシル化を使用することもできる。
【0050】
別の好ましい実施態様は、例えば布地、カーペット等の多孔性表面を衛生化または浄化するために有用な他の溶解酵素と共に、配列番号2(ClyS)の溶解素等のブドウ球菌キメラ溶解素細菌結合タンパク質を含む組成物を提供する。さらに、静菌または殺菌活性の影響を受けやすい感染性生物を寄生させると考えられ得るようなエリアである、獣医の外科的エリアまたは実験エリアを浄化するためにこの溶解酵素の組成物を使用してもよい。
【0051】
さらなる好ましい実施態様において、配列番号2(ClyS)の溶解素のようなブドウ球菌キメラ溶解素を、感染性細菌を含有する疑いのある無生物固体表面の浄化、または多孔質表面の浄化に有用な他の静菌剤または殺菌剤と組み合わせてもよい。
【実施例】
【0052】
実施例1:特異的結合ペプチドの同定およびキメラ溶解素の開発
本発明者らは、全米バイオテクノロジー情報センターデータベースでブドウ球菌特異的ファージおよびプロファージ溶解素タンパク質配列の保存ドメイン検索を行った。溶解素をデータベース中の既知のドメインに対する相同性に基づいて分類した。本発明者らは、互いに100%の配列同一性を共有し、それらの触媒ドメイン内に保存CHAPドメインを有する、黄色ブドウ球菌ファージphiNM3溶解素(タンパク質アクセッション番号YP_908849)、黄色ブドウ球菌プロファージphi13アミダーゼ(アクセッション番号NP_803402)、黄色ブドウ球菌プロファージMW2アミダーゼ(アクセッション番号NP_646703.1)等を包含するいくつかの溶解素を同定した。しかしながら、これらの溶解素のC末端ドメインは、データベース中のいかなる既知のドメインに対しても相同性を呈さなかった(図1)。
【0053】
野生型のブドウ球菌溶解素を発現させる試みが失敗に終わったため、本発明者らは、溶解素のモジュール特性を利用することによりキメラ溶解素を開発することを決めた。伝統的に、バチルス特異的溶解素は、大腸菌において高レベルで発現し、大腸菌に可溶性である。従って、本発明者らの最初の試みは、いくつかの黄色ブドウ球菌特異的溶解素に保存されている16アミノ酸ペプチド(4)を設計することであった(Lu JZ,Fujiwara T,Komatsuzawa H,Sugai M,Sakon J.2006.Cell wall−targeting domain of glycylglycine endopeptidase distinguishes among peptidoglycan cross−bridges.(Lueら(2006)J.Biol.Chem.281(1):549−58)。バチルス特異的溶解素PlyBの触媒ドメインを、キメラAD103(図4)(配列番号13)を作出するために使用した。キメラを発現、溶解度および活性について試験した。その後、AD105(配列番号14)を得るために、PlyBの全C末端CWTドメイン(6)を黄色ブドウ球菌ファージTwort溶解素(8)の推定上のC末端ドメインと置き換えた。このキメラは活性ではなく、そこで本発明者らはAD107(配列番号15)を得るためにPlyB触媒ドメイン(2)のリソスタフィンCWTドメイン(10)下流を設計した。このキメラは発現したが、溶解度が乏しく、活性はなかった。次の段階は、リソスタフィンCWTドメイン(10)の表皮ブドウ球菌自己溶解素アミダーゼドメイン(12)上流の設計であり、結果としてAD112(配列番号4)を生じた。AD112は非常によく発現し、このタンパク質は非常に可溶性が高かったが、溶解活性がなかった。しかしながら、本発明者らは、黄色ブドウ球菌細胞はAD112に暴露された場合、凝集することを観察した。AD112のリソスタフィン触媒ドメイン(アミダーゼ)(10)が細菌系であったため、本発明者らは、リソスタフィンCWTのファージ由来触媒ドメイン上流を設計することを試みた。このため、Twort溶解素(14)のエンドぺプチダーゼドメインを、キメラAD119(配列番号3)を構築するために使用した。本発明者らは、AD119の乏しい発現を観察したが、このキメラは可溶であった。本発明者らのAD119単独の溶解アッセイにおいて顕著な活性は示されなかったものの、キメラAD112と組み合わせた場合、活性は顕著に増強された。本発明者らは、本発明者らの保存ドメイン検索からphiNM3 CWTドメインを同定し、phiNM3 CWTがブドウ球菌特異的結合を示すことを観察したことから、本発明者らは、phiNM3 CWTドメイン(2)(配列番号1)の表皮ブドウ球菌自己溶解素アミダーゼ(12)およびTwort溶解素エンドペプチダーゼ(14)ドメイン上流をそれぞれ設計することにより、キメラAD126(配列番号16)およびAD127(配列番号2)を構築した。キメラAD126は発現せず活性も有していなかったが、AD127は可溶であり、非常に高い活性を有していたものの発現は低かった(図4)。AD127コンストラクトの低い発現を克服するため、全キメラ遺伝子をpAD138を作出するために発現ベクターpJML6にクローニングした。pAD138コンストラクト由来AD127の発現、溶解度および活性は、非常に高かった。従って、このキメラをブドウ球菌に対するキメラ溶解素として「ClyS」と名付けた。ClyS(すなわち配列番号2)のアミノ酸配列は図5Aに提示される。
【0054】
実施例2:ClySキメラ溶解素の構築
細菌株(表1)を、37℃で通常どおり培養し−80℃で保存した。本研究で使用されたブドウ球菌株を、トリプチケースソイブロス(TSB)培地で培養し、連鎖球菌株をTHY(トッド・ヒューイットブロス、1%wt/vol酵母抽出物)培地で培養し、セレウス菌および緑膿菌をBHI(ブレイン・ハートインフュージョン)培地で培養し、一方、大腸菌はLB(ルリア・ベルターニ)培地で育成した。
【0055】
キメラ溶解素を、それぞれの遺伝子由来の個別のドメインを増幅および結合することによって構築した。このため、Twortエンドペプチダーゼドメインを、プライマー
【0056】
【化1】
を用いて、全溶解素(plyTW)遺伝子を含有するプラスミドpCR2.1plyTWからPCR増幅した。細胞壁標的(CWT)ドメインを、プライマー
【0057】
【化2】
を用いて黄色ブドウ球菌株8325ゲノムDNAからPCR増幅した。2つのPCR単位複製配列を、PstI制限酵素部位を用いて結合した。結合産物を、組換え型プラスミドpAD127を作出するためにNcol−HindIIIクローニング部位を用いてpBAD24ベクターへクローニングした。第2段階において、clySに相当する全DNA断片を、プライマー
【0058】
【化3】
およびプライマーNM3−CBD−Hind−R(配列番号8)を用いてpAD124からPCR増幅した。PCR産物を、pAD138を作出するために発現ベクターpJML6へクローニングした。ClySの配列を、配列決定により確認した。組換え型プラスミドpAD138を、大腸菌DH5α細胞へ形質転換した。
【0059】
実施例3:ClySの過剰発現および精製
ClySを、30℃にてラクトース(10g/500ml最終濃度)と共に大腸菌DH5α(pAD138)細胞から一晩誘導した。細胞を遠心分離によって回収し、緩衝液A(20mMリン酸緩衝液(PB)、1mM DTT(ジチオスレイトール))に再懸濁させ、そして400CでEmulsiFlex−C5高圧ホモジナイザー(Avestin)により溶解させた。溶解物を4℃、30分間の遠心分離(2×50,000×g)によって不純物を除去し(cleared)、上清をCMセファロースカラム(Amersham Pharmacia,ピスカタウェイ、ニュージャージー州)に適用した。ClySを、15カラム容量中0〜50%Bの直線勾配を用いた緩衝液A+1M NaClで溶出した。前述(Danielら、2001)される通りに溶解活性について画分を解析した。溶解活性を呈する画分を貯蔵し、緩衝液B(PB、1mM DTT、50mM NaCl)に対して一晩透析した。透析試料を、ハイドロキシアパタイト(MacroPrep TypeII 40μm、BioRad)カラムに適用し、20カラム容量中0〜100%Bの直線勾配を用いた溶出緩衝液(500mM PB+50mM NaCl+1mM DTT)で溶出した。画分を、SDS−PAGEにより解析し、そして溶出活性について解析した。ClySの活性できれいな(clean)画分を貯蔵し、緩衝液Bに対して透析した。タンパク質濃度を、BCA法(Sigma、セントルイス、ミズーリ州)で決定した。
【0060】
実施例4:ClyS活性の定量
ClyS活性を前述(Danielら、2001)のとおり、いくつかの変更を加えて測定した。簡単には、黄色ブドウ球菌株8325−4をOD600で0.25〜0.3まで培養し、遠心分離し、そして最終OD600で0.8〜1.0までPBに再懸濁させた。精製ClyS(100μl)の2倍の連続希釈を、96ウェルプレート(Costar)中の100μlの細菌懸濁液に添加し、OD600中での減少を37℃で30分間Spectramax Plus384分光光度計(Molecular Devices)によって観測した。1ミリリットルあたりの単位のClyS活性を、15分間に50%までに吸光度を減少させる、溶解素の最も高い希釈の逆数として定義した。
【0061】
実施例5:in vitro ClyS活性の測定
ClySの生存率アッセイを前述の通り(Nelsonら、2001)に試験した。簡単には、黄色ブドウ球菌株8325−4の対数相培養物をOD600で0.8〜1.0までPB中に再懸濁させた。50UのClySまたは相当する容量のPBを細菌細胞に添加し、アリコートを除去して、連続希釈し、そして処理された細胞とコントロール細胞の生存率を評価するために、1、5、10、30および60分で播種した。全ての実験を3回行った。様々な細菌株に対するClyS活性を前述の通り(Schuchら、2002)試験した。簡単には、対数相細菌細胞を、15分間37℃で50UのClySで処理した。試料を連続希釈して播種した。コントロール実験を、リン酸緩衝液(pH7.0)を加えて同条件下で実施した。
【0062】
実施例6:pHおよび塩プロファイルの関数としてのClyS活性の測定
ClyS活性に対するpHの影響を、ユニバーサル緩衝系pH4〜10(Yoongら)を用いて前述のとおり決定した。簡単には、対数相8325−4細胞をユニバーサル緩衝系に再懸濁させ、15分間50UのClySと共にインキュベートした。各反応の最終pHをpH紙で検査した。試料を連続希釈して播種した。コントロールにおいて、ClySをPBと置き換えた。
【0063】
同様に、ClySの溶解活性に対する塩濃度の影響を、15分間、最終濃度25〜500mMでNaClを含有するPBにおいて、対数相8325−4細胞と50UのClySとをインキュベートすることにより決定した。試料を、生存率を決定するために連続希釈して播種した。
【0064】
実施例7:ClySの顕微鏡検査
黄色ブドウ球菌株8325−4を対数相で培養し、遠心分離し、そして600nmで1.0の吸光度までPBSに再懸濁させた。細菌懸濁液を室温で50UのClySと共にインキュベートした。グルタルアルデヒド(最終濃度2.5%)を添加することにより1分および5分後に溶解反応を停止した。懸濁液を遠心分離によってペレット化し、0.1Mカコジル酸緩衝液(pH7.4)中2.5%のグルタルアルデヒドをかぶせた(overlaid)。その後、試料を、1%オスミウムテトロキサイドで後固定し、酢酸ウラニルでブロック染色し、そしてロックフェラー大学電子顕微鏡サービスによる標準手順に従って現像した。
【0065】
蛍光標識および結合解析を、phiNM3 CWTについて行った。プライマー
【0066】
【化4】
を用い、phiNM3溶解素の推定CWTを増幅するために黄色ブドウ球菌株8325−4ゲノムDNAを使用した。結果として得られた単位複製配列をアラビノース誘導性発現ベクターpBAD24へクローニングした。インサートを含有する陽性クローンを配列決定によって確認した。およそ10kDA phiNM3 CWTタンパク質が発現し、このタンパク質を陽イオン交換クロマトグラフィーによって一工程で精製した。精製されたタンパク質(1mg/ml)を10μlのFITC(1mg/ml)と共に1時間インキュベートした。過剰のFITCを脱塩カラム上で除去した。標識タンパク質(50μg)を細菌細胞と10分間インキュベートし、リン酸緩衝食塩水(pH7.4)で3回洗浄し、そして蛍光顕微鏡下で観察した。
【0067】
実施例8:ClySのin vivo活性の測定
MRSA株を、対数相まで培養し、遠心分離して、約1010cfu/mlの所定のタイターまで再懸濁するであろう。鼻腔内感染のため、6週齢の雌のC57BL/6J、非近交系(outbread)SwissまたはBALB/cマウス(体重範囲22〜24g、Charles River Laboratories、ウィルミントン、マサチューセッツ州)を、ケタミン(Fort Dodge Animal Health、フォートドッジ、アイオワ州、1.2mg/動物)とキシラジン(Miles Inc.、シャウニー・ミッション、カンザス州、0.25mg/動物)との混合物で麻酔し、そして鼻孔(n=10)ごとに15μlの細菌懸濁液を接種するであろう。その動物を2群に分け、感染後6時間、およびその後3日間に亘って6時間毎に腹腔内に様々な濃度のClySまたは滅菌生理食塩水を投与するであろう。各群の生存率を、感染後7日間まで観察するであろう。腹腔内感染のため、マウスを100μlの細菌懸濁液で腹腔内に感染させるであろう(n=10)。その動物を2群に分け、感染後6時間、およびその後3日間に亘って6時間毎に腹腔内に様々な濃度のClySまたは滅菌生理食塩水を投与するであろう。各群の生存曲線を、感染後7日間まで観察するであろう。
【0068】
実施例9:リンカー領域そのものはキメラに溶解性を付与しない。
【0069】
ClySコンストラクトは可溶性が高く、ブドウ球菌に対して活性であった唯一のキメラであったため、本発明者らは、ClySのアミノ酸残基142から185を含むリンカー領域が溶解性に極めて重要であろうと仮定した。本発明者らは、予め野生型phiNM3溶解素をクローニングして発現させ、そのタンパク質が非可溶性であることを観察した。この仮説を試験するために、本発明者らは、ClySのエンドペプチダーゼドメインをClyS(アミ−リンクClyS)のリンカー領域の上流のphiNM3溶解素のアミダーゼドメインで置き換え、キメラを発現した(データ示さず)。本発明者らは、野生型phiNM3溶解素と同様、アミ−リンクClySキメラは非可溶性であり、インクルージョンボディとして発現することを観察した。また、本発明者らは、ブドウ球菌に対する活性についてアミ−リンクClySの溶解物も試験したが、いかなる溶解活性も観察されず、そのタンパク質は非可溶性であり、そのため非活性であることを確認した。従って、本特許の主題であり、可溶性コンプレックスを発生させることを可能にし、本明細書に記載されるように作用するのは、NおよびC末端ドメインの固有の組み合わせである。
【0070】
実施例10:ClySによるMRSAのin vivo鼻腔除菌
ヒト前鼻腔におけるMSSAおよびMRSAの両方の保菌は、黄色ブドウ球菌感染の主要な感染源である。研究は、ほぼ80%の人々が黄色ブドウ球菌に経鼻的にコロニー形成(colonized)している可能性があり、コロニー形成は他のさらに重篤な黄色ブドウ球菌感染を発症するさらなるリスク因子となり得ることを示している(Kluytmans,J.,A.van Belkum.1997.Nasal carriage of Staphylococcus aureus:epidemiology,underlying mechanisms,and associated risks.Clin Microbiol Rev 10(3):505−20.)。地域または病院における鼻腔保菌の撲滅は、従って、感染の危険を低減し薬剤耐性黄色ブドウ球菌の蔓延を減速し得る可能性があった(Kluytmansら、(1997))。ClySが鼻粘膜のMRSAのコロニー形成を低減する可能性を研究するため、C57BL/6Jマウスに、約2×107のMRSAの自発性(spontaneously)ストレプトマイシン耐性株(191SMR)を鼻腔内接種した。感染後24時間のマウスに、鼻腔内にリン酸緩衝生理食塩水(コントロール)またはClyS(960μg)のいずれかを毎時間3回投与した。最終処置の1時間後、マウスを屠殺し、細菌コロニーをスペクトルMRSA寒天(MRSAの鼻腔コロニー形成を診断的に検出するために開発された選択的発色培地)およびコロンビア血液寒天上で数え上げた。スペクトルMRSA寒天またはコロンビア血液寒天への播種間でCFUにおいて顕著な相違は得られなかった(データ示さず)。各処置群について合計20匹のマウスを評価するために、3つの独立した実験を行った(図11)。緩衝液単独コントロールに比べ(平均12,273CFU/窩洞)、ClyS処置(平均1198CFU/窩洞)は、鼻腔粘膜状の平均CFUを顕著に(P<0.001)減少させた。
【0071】
実施例11:全身性MRSA感染のClyS処置 ClyS処置が全身性MRSA感染症に起因する死を防止することが可能かどうかを評価するために、4週齢FVB/NJマウスに5%ムチン中約5×105CFUの市中感染性MRSA株MW2を腹腔内投与した。予備実験は、5×105CFUが24時間の期間について10×LD100用量であることを決定した。さらに、IP注射の3時間以内にMRSA感染は全身性であり、すなわち、MRSAが心臓、肝臓、脾臓、および腎臓から高い数値で回収された(データ示さず)。感染後3時間に、20mMリン酸緩衝液または20mMリン酸緩衝液中1mgのClySのいずれかをIP(腹腔内)注射することで処置を行った。マウスを、その後10日間に亘って、生存について観測した。3つの独立した実験からの結果(ClyS処置、n=16;緩衝液処置、n=14)を合わせ、カプラン・マイヤー生存曲線にマウス生存データをプロットした(図12)。24時間以内に全てのコントロールマウスが細菌性敗血症が原因で死亡したが、ClyS処置マウスは2/16のみが48時間後に死亡し、残りのマウス(14/16、88%)は実験を通して生存した(図12)。
【0072】
実施例12:ClySはバンコマイシンおよびオキサシリンとの相乗的相互作用を示した。本発明者らは、ClySとバンコマイシンおよびオキサシリンとの相互作用を試験するためにチェッカーボード微量液体希釈法を使用した。VISA株Mu50に対するバンコマイシンMICは8μg/mlおよびMRSA株COLに対するオキサシリンMICは32μg/mlであったが、試験した両方の株(それぞれ、Mu50およびCOL)に対してClyS MICは6および8U/mlであった。マイクロタイタープレート上の抑制線に沿って酵素濃度を転写(transcribing)することによって、バンコマイシンとのClySおよびオキサシリンとのClySのアイソボログラムをx/yプロットにプロットした。両方の相互作用に関する曲線の形は、相乗的相互作用の特徴であり(図13)、両方の相互作用に対するΣFICl(<0.5であった)を計算することによってさらに確認した。
【0073】
実施例13:全身性MRSA感染症の処置におけるオキサシリンおよびClySのin vivo相乗効果 In vitro実験は、ClySがオキサシリンと相乗的に作用したことを示した(図14)。この効果が本発明者らの全身性MRSA感染症モデルにおいても認められるかどうか決定するために、FVB/NJマウスに約5×105CFUの上記MRSA株MW2を腹腔内注射した。感染の3時間後のマウスを同時に、低いIP用量である130μg/マウスのClySと異なる濃度のオキサシリン(10〜100μg/マウス)との併用、または緩衝液単独コントロールで処置した。予備実験は、ED30用量のClyS(130μg/マウス)がオキサシリンとの併用処置の効果を検証するための最小有効性を有することを決定した(データ示さず)。マウスを、生存について10日間観測し、5つの独立した実験の結果を合わせてカプラン・マイヤー生存曲線にプロットした(図14)。130μg/マウスのClySまたは100μg/マウスのオキサシリンのいずれか一方の個別の処置で、それぞれ、30%(6/20生存)から35%(8/23生存)のみのマウスが生存したが、いずれも緩衝液単独コントロールの生存率(13%(2/15生存))と顕著に異ならなかった。逆に、腹腔内注射されたClyS(130μg)と0μgまたは50μgのいずれかの筋肉内注射されたオキサシリンの併用処置の単回投与は、個別の処置および緩衝液単独に比べ、顕著にマウスの生存率を増加させた(それぞれ、80%、8/10生存、82%、18/22生存)(図14)。
【0074】
実施例16:ClySの修飾 ClyS(配列番号2)のG166残基を部位特異的変異誘発によりプロリンに変えた(pClySの創出)。精製pClyS分子(配列番号17)を21℃で5日間の安定性研究に供した場合、pClySは、DTT有りまたはなしの野生型ClySよりも、5mM DTTの存在下においてより顕著に安定であることが見出された(図15)。
【0075】
本発明は、本明細書において様々な特定の材料、手順、および例を参照することによって記載および解説されているが、本発明はその目的のために選択された特段の材料、材料の組み合わせ、および手順に制限されないことが理解される。そのような詳細の数々の変化が言外に示され得、当業者によって十分理解されるであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のブドウ球菌特異的ファージ溶解素の触媒ドメインと、第2のブドウ球菌特異的ファージ溶解素の結合ドメインとを含む、キメラバクテリオファージ溶解素。
【請求項2】
前記キメラバクテリオファージ溶解素が黄色ブドウ球菌に対する殺活性を有する、請求項1に記載のキメラ溶解素。
【請求項3】
前記キメラ溶解素が、前記結合ドメインのN末端に結合している触媒ドメインからなる、請求項2に記載のキメラ溶解素。
【請求項4】
前記結合ドメインが配列番号1のポリペプチド配列を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項5】
前記触媒ドメインがTwortエンドペプチダーゼドメインである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項6】
前記バクテリオファージ溶解素が配列番号2のポリペプチド配列を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項7】
前記バクテリオファージ溶解素が配列番号2の単離されたポリペプチド配列からなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項8】
前記バクテリオファージ溶解素が黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性株およびメチシリン感受性株に対して殺活性を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項9】
複数のブドウ球菌種に対して殺活性を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項10】
前記溶解素が表皮ブドウ球菌を殺す、請求項1〜9のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項11】
pH範囲約4〜10にわたりブドウ球菌細菌に対する殺活性を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項12】
前記溶解素が、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で少なくとも約3mg/mLの溶解度を有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項13】
請求項1に記載のキメラバクテリオファージ溶解素による、ブドウ球菌感染を有する哺乳動物の処置方法。
【請求項14】
請求項1に記載のキメラバクテリオファージ溶解素による、ブドウ球菌がコロニー形成した哺乳動物の感染症の予防方法。
【請求項15】
ブドウ球菌細菌に特異的に結合する配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドを試料と接触させて、前記試料中の前記ペプチドを検出する工程を含む、ブドウ球菌細菌の存在を検出する方法。
【請求項16】
前記ペプチドがGFP蛍光レポーティング融合タンパク質である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ペプチドが、リン酸緩衝生理食塩水中で少なくとも約1mg/mLの溶解度を有する、請求項12〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記ペプチドが、大腸菌、セレウス菌および緑膿菌からなる群より選択される1以上のさらなる細菌の存在下においてブドウ球菌細菌に選択的に結合する、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記ペプチドが、第1のブドウ球菌特異的ファージ溶解素の触媒ドメインと、配列番号1の結合ドメインとを含む可溶性キメラバクテリオファージ溶解素である、請求項12〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記ペプチドが配列番号2(ClyS)のアミノ酸配列を含む、請求項12〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記ペプチドが配列番号2(ClyS)のアミノ酸配列からなる、請求項12〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
請求項1に記載のキメラバクテリオファージ溶解素を含む、多孔質または非多孔質表面の衛生化または浄化するための抗微生物組成物。
【請求項23】
感染性細菌を含有する疑いのある非生物表面を浄化するための方法であって、殺菌的または静菌的に有効な量の請求項22に記載の組成物による前記表面の処理を含む、方法。
【請求項1】
第1のブドウ球菌特異的ファージ溶解素の触媒ドメインと、第2のブドウ球菌特異的ファージ溶解素の結合ドメインとを含む、キメラバクテリオファージ溶解素。
【請求項2】
前記キメラバクテリオファージ溶解素が黄色ブドウ球菌に対する殺活性を有する、請求項1に記載のキメラ溶解素。
【請求項3】
前記キメラ溶解素が、前記結合ドメインのN末端に結合している触媒ドメインからなる、請求項2に記載のキメラ溶解素。
【請求項4】
前記結合ドメインが配列番号1のポリペプチド配列を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項5】
前記触媒ドメインがTwortエンドペプチダーゼドメインである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項6】
前記バクテリオファージ溶解素が配列番号2のポリペプチド配列を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項7】
前記バクテリオファージ溶解素が配列番号2の単離されたポリペプチド配列からなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項8】
前記バクテリオファージ溶解素が黄色ブドウ球菌のメチシリン耐性株およびメチシリン感受性株に対して殺活性を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項9】
複数のブドウ球菌種に対して殺活性を有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項10】
前記溶解素が表皮ブドウ球菌を殺す、請求項1〜9のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項11】
pH範囲約4〜10にわたりブドウ球菌細菌に対する殺活性を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項12】
前記溶解素が、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で少なくとも約3mg/mLの溶解度を有する、請求項1〜11のいずれか1項に記載のキメラ溶解素。
【請求項13】
請求項1に記載のキメラバクテリオファージ溶解素による、ブドウ球菌感染を有する哺乳動物の処置方法。
【請求項14】
請求項1に記載のキメラバクテリオファージ溶解素による、ブドウ球菌がコロニー形成した哺乳動物の感染症の予防方法。
【請求項15】
ブドウ球菌細菌に特異的に結合する配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドを試料と接触させて、前記試料中の前記ペプチドを検出する工程を含む、ブドウ球菌細菌の存在を検出する方法。
【請求項16】
前記ペプチドがGFP蛍光レポーティング融合タンパク質である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ペプチドが、リン酸緩衝生理食塩水中で少なくとも約1mg/mLの溶解度を有する、請求項12〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記ペプチドが、大腸菌、セレウス菌および緑膿菌からなる群より選択される1以上のさらなる細菌の存在下においてブドウ球菌細菌に選択的に結合する、請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記ペプチドが、第1のブドウ球菌特異的ファージ溶解素の触媒ドメインと、配列番号1の結合ドメインとを含む可溶性キメラバクテリオファージ溶解素である、請求項12〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記ペプチドが配列番号2(ClyS)のアミノ酸配列を含む、請求項12〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記ペプチドが配列番号2(ClyS)のアミノ酸配列からなる、請求項12〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
請求項1に記載のキメラバクテリオファージ溶解素を含む、多孔質または非多孔質表面の衛生化または浄化するための抗微生物組成物。
【請求項23】
感染性細菌を含有する疑いのある非生物表面を浄化するための方法であって、殺菌的または静菌的に有効な量の請求項22に記載の組成物による前記表面の処理を含む、方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図6】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図12】
【図13】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【図15】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図6】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図12】
【図13】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2011−526920(P2011−526920A)
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516843(P2011−516843)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/049349
【国際公開番号】WO2010/002959
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(591197334)ザ ロックフェラー ユニバーシティ (9)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/049349
【国際公開番号】WO2010/002959
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(591197334)ザ ロックフェラー ユニバーシティ (9)
【Fターム(参考)】
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