説明

TCNQ錯体導電性膜の形成方法

【発明の詳細な説明】
〔概 要〕
7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)電荷移動錯体導電性膜の形成方法に関し、 ベーク工程でTCNQ錯体が分解して所期の導電性が得られない問題を解決することを目的とし、 ベーク工程に先立って、TCNQ錯体塗膜を湿式塗布後、乾燥させてTCNQ錯体の結晶を成長させる工程を含めるように構成する。
〔産業上の利用分野〕
本発明は、TCNQ(7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン)錯体導電性膜の形成方法に係る。
〔従来の技術〕
TCNQは下記式で表わされる化合物である。


この化合物は電気供与性化合物と錯体を形成する。電子を受容すると、次々とTCNQ間で電子の受け渡しを行いながら、電子を容易に移動させる性質がある。すなわち、電荷移動錯体の電子受動体として働く。このTCNQ錯体の高い導電性を利用して導電性膜の利用が考えられている。
例えば、電子線リソグラフィーにおいてレジストの帯電防止材料として適用するために、(1)適切なドナーを選んだTCNQ錯体をレジストに混入する、(2)適切なドナーを選んだTCNQ錯体を適当なポリマーとあわせて溶剤に溶解させたものをレジストの上に(直後、または中間層を介して)形成する方法が考えられる。
〔発明が解決しようとする課題〕
しかしながら、上記の如きレジストの帯電防止材料としての利用では、レジストをプリベークする必要がある。一般的にレジストのベークに必要とされる温度は70〜200℃であるが、このような高温ではTCNQが劣化し、分解して導電性が低下してしまうという問題がある。
そのため、TCNQ錯体はこのようなレジストプロセスに利用できないという不都合がある。高温でのベークができないと、レジストのプリベークができない問題、また真空中にウェーハを設置することができる程度まで脱水、脱ガスできない問題がある。
そこで、本発明は、TCNQ錯体を含む膜の高温ベークを可能にする方法を提供することを目的とする。
〔課題を解決するための手段〕
本発明は、上記目的を実現するために、TCNQ電荷移動錯体を単数または複数種含む溶液を塗布した後、該塗膜を該TCNQの溶液状態での分解温度以上の温度でベークする工程を有するTCNQ錯体導電性膜の形成方法において、該ベークに先立って、上記分解温度より低い温度で上記TCNQ電荷移動錯体塗膜を乾燥させる工程をさらに含むことを特徴とするTCNQ錯体導電性膜の形成方法を提供する。
TCNQ錯体塗膜を乾燥する方法としては、例えば、溶液状態でのTCNQ錯体の分解温度より低い温度、典型的には70℃以下、より好ましくは50℃以下の温度で熱処理(ベーク)又は放置するとか、塗布時のスピンコート条件又は風乾条件を選択して乾燥を促進するなどの方法によることができる。乾燥の程度は、要するに、TCNQ錯体が少なくとも主要部分において結晶化して、耐熱性が向上する程度にということができるが、典型的には塗膜中の溶剤の70%以上、より好ましくは80%以上が蒸発するまで乾燥させる。
本発明により結晶化されたTCNQ錯体は、錯体の種類にもよるが、70℃以上の高温、さらには80℃〜200℃の温度で高温ベークすることを許容する。
〔作 用〕
TCNQ錯体は溶液状態では耐熱性が低く、ベークによって劣化、分解するが、乾燥させて結晶化させると耐熱性が向上することが見い出された。
〔実施例〕
実施例1 TCNQ錯体をレジストに混入し、電子線リングラフィーにおいてのレジストの帯電を防止する。
■ 下記TCNQ錯体を1wt%混入したPMMAレジスト溶液をウェーハ基板上に1.5μm膜厚狙いでスピンコートする。


(式中、R=アルキル基、m≧0)
■ 膜を乾燥させ結晶を固めるために60℃100秒(ホットプレート)でベーグする。
■ PMMAレジストのベークとして170℃100秒(ホットプレート)でベークする。
■ EB露光、現像する。
実施例2 レジスト上にTCNQ錯体の結晶層を形成し、EB露光中のレジストのチャージアップを防止する。
■ ウェーハ基板上に熱架橋型ERポジレジスト、たとえばPMMA−co−メタクリル酸と、PMMA−co−メタクリル酸クロライドの混合溶液をウェーハ上にスピンコートで1.20μm形成し180℃100秒(ホットプレート)でベークする。
■ 下記TCNQ錯体とポリマーを溶解させた溶液を0.2μmレジストの上にスピンコートする。


(式中、R=アルキル基、m≧0)
充分に溶剤を蒸発させるため4000rpm,50secの条件をえらんだ。溶液中の溶剤のうち80%以上を蒸発させた。
■ 80℃でベークする。
■ EB露光を行う。
実施例3 レジスト上にTCNQ錯体の結晶層を形成し、EB露光中のレジストのチャージアップを防止する。
■ ウェーハ基板上に熱架橋型EBポジレジスト、たとえばPMMA−co−メタクリル酸と、PMMA−co−メタクリル酸クロライドの混合溶液をウェーハ上にスピンコートで1.20μm形成し180℃100秒(ホットプレート)でベークする。
■ 複数種のTCNQ錯体、たとえば

のうちから2種とポリマーを溶解させた溶液を0.2μmレジストの上にスピンコートする。充分に溶剤を蒸発させるため4000rpm,50secの条件をえらんだ。溶液中の溶剤のうち80%以上を蒸発させた。
■ 90℃でベークする。
■ EB露光を行う。
実施例4 TCNQ錯体をレジストに混入し、電子線リソグラフィーにおいてのレジストの帯電を防止する。
■ 下記のTCNQ錯体を1wt%混入したPMMAレジスト溶液をウェーハ基板上に1.5μm膜厚狙いでスピンコートする。


(式中、R=アルキル基、m≧0)
■ 膜を乾燥させ結晶を固めるために真空中に30分間放置し、溶剤を脱水する。
■ PMMAレジストのベークとして170℃100秒(ホットプレート)でベークる。
■ EB露光、現像する。
効果確認例1 実施例1にもとづき、TCNQ錯体を混入したPMMAレジスト溶液をSi基板上に膜厚1.50μmねらいで塗布し、 ホットプレート60℃100secで膜を乾燥させた後、170℃100secのレジストプリベークを行った場合と、 スピンコート後ただちに170℃100secのレジストプリベークを行った場合(比較例1)のレジストチャージアップ量を比較した。
チャージアップの比較は、電子ビーム露光に際し、レジストに9mm×9mmのチップ内を、チップ50%にあたる面積をぬりつぶす走査(加速電圧30KV,露光量10-5C/cm2)、を行った後のチップコーナーでのズレ量の測定により行った。
結果を示す。比較例では0.6μmのズレ量があったが本実施例では0.10μmのズレ量に減少している。
効果確認例2 実施例2にもとづき、レジスト上のTCNQ帯電防止膜層をスピンコート時に4000rpm,50秒,溶剤蒸発率80%以上と80℃ベークの処理をした場合と、4000rpm,10秒,溶剤蒸発率40%以下で80℃ベークをした場合(比較例2)でのレジストチャージアップ量を比較した。
チャージアップ量の測定は、電子ビーム露光に際し、レジストに対し6mm×6mmのチップを50%ぬりつぶす走査(20KV,6.0×10-5C/cm2)を行なった後の、チップのコーナー部でのズレ量を測定した。
結果を第1図に示す。比較例で0.73μmのズレ量があったものが、本実施例では0.07μmのズレ量に減少している。
効果確認例3 実施例3にもとづき、レジスト上のTCNQ帯電防止膜層をスピンコート時に4000rpm,50秒,溶剤蒸発率80%以上とした後、ホットプレートにて90℃,100秒の処理をした場合と4000rpm,10秒,溶剤蒸発率40%以下の後90℃,100秒のベークをした場合(比較例3)でのレジストのチャージアップ量の比較を行った。
チャージアップの比較は、電子ビーム露光に際し、レジストに9mm×9mmのチップ内を、チップ50%にあたる面積をぬりつぶす走査(加速電圧30KV,露光量10-5C/cm2)、を行った後のチップコーナーでのズレ量の測定により行った。
結果を示す。比較例では0.30μmのズレ量があったが本実施例では0.07μmのズレ量に減少している。
効果確認例4 実施例4にもとづき、TCNQ錯体を混入したPMMAレジスト溶液をSi基板上に膜厚1.50μmねらいで塗布し、 真空(0.1torrより良い)中で膜を乾燥させた後、170℃100secのレジストプリベークを行った場合と、 スピンコート後ただちに170℃100secのレジストプリベークを行った場合(比較例4)のレジストチャージアップ量を比較した。
チャージアップの比較は、電子ビーム露光に際し、レジストに6mm×6mmのチップ内を、チップ50%にあたる面積をぬりつぶす走査(加速電圧20KV,露光量10-5C/cm2)、を行った後のチップコーナーでのズレ量の測定により行った。
結果を示す。比較例では0.8μmのズレ量があったが本実施例では0.10μmのズレ量に減少している。
〔発明の効果〕
本発明により、ベーク工程でTCNQを劣化させることなく、高い導電性のTCNQ錯体膜が形成できる。なお、本発明はレジストのEB露光への適用に限定されるものではなく、高温工程を伴なうTCNQ錯体膜の製法一般に広く適用できることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
第1図は実施例のTCNQ錯体導電性膜のチャージアップ量を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)電荷移動錯体を単数または複数種含む溶液を塗布した後、該塗膜を該TCNQの溶液状態での分解温度以上の温度でベークする工程を有するTCNQ錯体導電性膜の形成方法において、該ベークに先立って、上記分解温度より低い温度で上記TCNQ電荷移動錯体塗膜を乾燥させる工程をさらに含むことを特徴とするTCNQ錯体導電性膜の形成方法。

【第1図】
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【特許番号】第2842449号
【登録日】平成10年(1998)10月23日
【発行日】平成11年(1999)1月6日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−28233
【出願日】平成2年(1990)2月9日
【公開番号】特開平3−233458
【公開日】平成3年(1991)10月17日
【審査請求日】平成9年(1997)2月6日
【出願人】(999999999)富士通株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭62−113139(JP,A)
【文献】特開 昭62−113136(JP,A)
【文献】特開 平1−227144(JP,A)
【文献】特開 平3−87743(JP,A)
【文献】特許2516968(JP,B2)
【文献】特許2694834(JP,B2)