説明

TGF−β活性化反応阻害物質

【課題】TGF-β活性化反応を阻害できる物質、特にはTGF-β活性化反応を阻害できるペプチドを提供すること。
【解決手段】Gln-Ile-Leu-Ser-X1-X2-X3-X4-Ala-Ser-Pro (式中、X1からX4は各々独立に任意のアミノ酸残基を示すが、X1-X2-X3-X4はLys-Leu-Arg-Leu以外であり、かつプロテアーゼによって切断されない配列を示す) で表されるアミノ酸配列を含む、11から50アミノ酸残基からなるペプチド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TGF-β活性化反応を阻害する物質に関する。
【背景技術】
【0002】
Transforming Growth Factor (TGF)-βは、間葉系細胞の細胞外マトリックス産生を強力に促すとともに上皮系細胞の増殖を抑制することにより、肝線維化/肝硬変、動脈硬化、肺線維症、強皮症、腎不全(糸球体腎炎)、骨髄線維症などの硬化性疾患や関節リウマチ、増殖性硝子体網膜症の病態を形成する一方、皮膚角化細胞の増殖や機能を抑制してアポトーシスを誘導することから脱毛に深く関与し、免疫担当細胞の働きを抑制するなど、多彩な生物活性を示す分子量25 kDのホモダイマー多機能サイトカインである。TGF-βに対する中和抗体を用いた動物モデルでの検討から、TGF-βの働きを抑制することによって硬化性疾患を予防・治療できることがわかっている。例えば、TGF-βの中和抗体やTGF-β受容体に対する抗体を用いた抗体療法、もしくはドミナントネガティブTGF-β受容体遺伝子や可溶性TGF-β受容体遺伝子を用いた遺伝子治療によってTGF-βの作用を入り口で止める方法が報告されている(特開2004−121001号公報;Schuppan et al. Digestion 59:385-390, 1998;Qi et al. Proc Natl Acad Sci USA 96:2345-2349, 1999;Ueno et al. Hum Gene Ther 11:33-42, 2000)。しかしながら、抗体療法や遺伝子治療では、必要量や投与法の観点で問題が残っており、すぐには臨床応用できず、TGF-βの作用機序に基づいた低分子阻害剤の開発がなされている。
【0003】
本発明者らは、低分子化合物であるサイトキサゾンがTGF-βの情報伝達経路を阻害することによって肝疾患の病態形成を抑制することを動物モデルで示したが(国際公開WO2005/039570号公報)、サイトキサゾンが直接作用する標的タンパク質はまだ同定されていない。
【0004】
一方、TGF-βが潜在型不活性型分子として産生され、プロテアーゼによって活性型分子に変換される点(TGF-βの活性化反応)に注目し、低分子合成プロテアーゼ阻害剤(Okuno et al. Gastroenterology 120:18784-1800, 2001)や抗体(特開2003−252792号公報;Akita et al. Gastroenterology 123:352-364, 2002)を用いてTGF-β活性化反応を阻害することによって、病気を防ぐことができる可能性を動物モデルで示したが、現状のプロテアーゼ阻害剤では、阻害スペクトラムが広いので、ヒトに応用する際に副作用が懸念される。また、現状の抗体では、有効濃度が比較的高いので、ヒトに応用する際に抗体を大量精製する必要からコストがかかることが懸念される。
【0005】
また、本発明者らは、上記のTGF-β活性化反応の際に切断される部位を同定し、その切断面を認識する抗体の作製に成功し、同抗体を用いてヒト肝疾患においてプロテアーゼ依存TGF-β活性化反応が働いていることを世界で初めて示した(国際公開WO2005/023870号公報)。
【0006】
過去に、不死化毛乳頭細胞株におけるTGF-βの産生を抑制する8〜17アミノ酸よりなるペプチドが報告されているが(特開2005−239695号公報)、遺伝子発現を抑制しているのか否か、並びに活性化反応を抑制しているか否かを含む作用機序、並びにin vivoでの有効性は示されていない。
【0007】
さらに、米国アラバマ大学のMurphy-Ullrichのグループが、糖タンパク質トロンボスポンジン1による接着型TGF-β活性化反応について解析し、トロンボスポンジン1の412〜415番目の配列であるKRFKとLAPの54〜57番目の配列であるLSKLとが結合することによって、活性化が引き起こされること、そして合成ペプチドKRFKはTGF-βを活性化し、逆に合成ペプチドLSKLがTGF-β活性化反応を阻害することを報告している(Schultz-Cherry et al. J. Biol. Chem. 270:7304-7310, 1995; Crawford et al. Cell 93:1159-1170, 1998; Ribeiro et al. J. Biol. Chem. 274:13586-13593, 1999; Murphy-Ullrich and Poczatek Cytokine & Growth Factor Reviews 11:59-69, 2000)。このLAPの54〜57番目の配列であるLSKLは、本発明者らが同定したプラスミン切断部位K56-L57と一致しており、トロンボスポンジン1は、この部分と結合することによって、また、プロテアーゼは、この部分を切断することによって、この部分と活性型TGF-β1分子との間の非共有結合を阻害し、その結果、活性型TGF-β1分子が潜在型複合体から放出される、すなわち、TGF-β1の活性化反応が引き起こされるものと考えられる。しかしながら、本発明者らの追試によれば、合成ペプチドKRFKによるTGF-β活性化反応の誘導、合成ペプチドLSKLによるTGF-β活性化反応の阻害とも再現できなかった。Murphy-Ullrichらは肺や膵臓における病態形成へのトロンボスポンジン1依存接着型TGF-β活性化反応の関与を示しており、肝疾患との関係については検討していない。
【0008】
【非特許文献1】Schuppan et al. Digestion 59:385-390, 1998
【非特許文献2】Qi et al. Proc Natl Acad Sci USA 96:2345-2349, 1999
【非特許文献3】Ueno et al. Hum Gene Ther 11:33-42, 2000
【非特許文献4】Okuno et al. Gastroenterology 120:18784-1800, 2001
【非特許文献5】Akita et al. Gastroenterology 123:352-364, 2002
【非特許文献6】Schultz-Cherry et al. J. Biol. Chem. 270:7304-7310, 1995
【非特許文献7】Crawford et al. Cell 93:1159-1170, 1998
【非特許文献8】Ribeiro et al. J. Biol. Chem. 274:13586-13593, 1999
【非特許文献9】Murphy-Ullrich and Poczatek Cytokine & Growth Factor Reviews 11:59-69, 2000
【特許文献1】特開2004−121001号公報
【特許文献2】国際公開WO2005/039570号公報
【特許文献3】特開2003−252792号公報
【特許文献4】国際公開WO2005/023870号公報
【特許文献5】特開2005−239695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、TGF-β活性化反応を阻害できる物質、特にはTGF-β活性化反応を阻害できるペプチドを提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、TGF-βが肝臓においてはプラスミンや血漿カリクレインといったプロテアーゼにより活性化されて、はじめて生物活性を発現するという本発明者らの過去の知見に基づいて、プラスミン/血漿カリクレイン依存TGF-β活性化反応を低濃度で安定的に阻害できるペプチドを合成することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) Gln-Ile-Leu-Ser-X1-X2-X3-X4-Ala-Ser-Pro (式中、X1からX4は各々独立に任意のアミノ酸残基を示すが、X1-X2-X3-X4はLys-Leu-Arg-Leu以外であり、かつプロテアーゼによって切断されない配列を示す) で表されるアミノ酸配列を含む、11から50アミノ酸残基からなるペプチド。
(2) X1及びX3が、塩基性アミノ酸以外のアミノ酸残基である、(1)に記載のペプチド。
(3) 下記の(i)から(iv)の何れかのアミノ酸配列を含む、11から50アミノ酸残基からなるペプチド。
Gln-Ile-Leu-Ser-Ala-Ala-Ala-Ala-Ala-Ser-Pro (i)
Gln-Ile-Leu-Ser-Ala-Leu-Ala-Leu-Ala-Ser-Pro (ii)
Gln-Ile-Leu-Ser-Gln-Gln-Gln-Gln-Ala-Ser-Pro (iii)
Gln-Ile-Leu-Ser-Gln-Leu-Gln-Leu-Ala-Ser-Pro (iv)
(4) 長さが11から20アミノ酸残基である、(1)から(3)の何れかに記載のペプチド。
(5) Gln-Ile-Leu-Ser-X1-X2-X3-X4-Ala-Ser-Pro (式中、X1からX4は各々独立に任意のアミノ酸残基を示すが、X1-X2-X3-X4はLys-Leu-Arg-Leu以外であり、かつプロテアーゼによって切断されない配列を示す) で表されるアミノ酸配列からなる、ペプチド。
(6) (1)から(5)の何れかに記載のペプチドを含む、活性型TGF-β生成抑制剤。
(7) (1)から(5)の何れかに記載のペプチドを含む、TGF-βが関わる病態の治療及び/又は予防のための医薬。
(8) (1)から(5)の何れかに記載のペプチドを含む、肝再生促進剤又は肝線維化抑制剤。
【発明の効果】
【0012】
TGF-βは生体内、特に肝疾患の病態形成過程ではプロテアーゼにより、特定の部分が切断され、活性型TGF-βが放出される。活性型TGF-βは肝線維化/肝硬変を誘導し、肝細胞の増殖、すなわち肝再生を抑制する。本発明のペプチドは当該切断部位に作用するプロテアーゼに対してデコイとして働き、競合的にTGF-β活性化反応を抑制し、効率良くTGF-βが関わる病態形成を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
Transforming Growth Factor (TGF)-βは、様々な硬化性疾患や、関節リウマチ、増殖性硝子体網膜症の病態形成を担い、脱毛に深く関与し、免疫担当細胞の働きを抑制する一方、プロテアーゼの過剰産生を抑制することによって肺組織が分解され肺気腫に陥るのを防ぎ、癌細胞の増殖を抑制するなど、多彩な生物活性を示す分子量25 kDのホモダイマー多機能性サイトカインである。ヒトでは、TGF-β1〜β3までの3つのアイソフォームが存在する。TGF-βは受容体に結合できない分子量約300 kDの不活性な潜在型として産生され、標的細胞表面やその周囲において活性化されて受容体に結合できる活性型となり、その作用を発揮する。
【0014】
標的細胞におけるTGF-βの作用はSmadという情報伝達を担う一連のタンパク質のリン酸化経路によって伝達される。まず、活性型TGF-βが標的細胞表面に存在するII型TGF-β受容体に結合すると、II型受容体2分子とI型TGF-β受容体2分子からなる受容体複合体が形成され、II型受容体がI型受容体をリン酸化する。次に、リン酸化I型受容体は、Smad2もしくはSmad3をリン酸化すると、リン酸化されたSmad2やSmad3はSmad4と複合体を形成して核に移行し、標的遺伝子プロモーター領域に存在するCAGA boxと呼ばれる標的配列に結合し、コアクチベーターとともに標的遺伝子の転写発現を誘導する。
【0015】
本発明者らは、潜在型TGF-βが肝臓においてはプロテアーゼによる切断活性化を受け、強力な線維形成誘導能や肝細胞増殖抑制能を発揮することが原因となり肝線維化/肝硬変や肝再生不全を引き起こすことを発見し、プロテアーゼインヒビターを用いてTGF-βの活性化を阻害してやると病態形成を抑制できることを報告した(Okuno M他、Gastroenterology 2001;120:1784-1800; Akita K他、Gastroenterology 2002;123:352-364)。これらの知見に基づき、プロテアーゼに対する抗体を用いた治療法を報告している(特開2003−252792号公報)。続いて、TGF-βの情報伝達抑制物質とTGF-βの活性化を抑えるプロテアーゼ阻害剤を併用することによって相乗的に病態形成抑制効果が得られることを期待して、TGF-β情報伝達抑制物質のスクリーニングを行った。その結果、オキサゾリジノン環を有するサイトキサゾンを見出だし、サイトキサゾンを用いたTGF-β情報伝達経路阻害に基づくTGF-β関連疾患の治療法・予防法を報告している(国際公開WO2005/039570号公報)。
【0016】
一方、プロテアーゼ依存TGF-β活性化反応の過程で、プラスミンや血漿カリクレインで切断されるサイトが、潜在型TGF-β1分子のN末端側LAP(Latency associated protein)配列のLys56とLeu57の間、並びにArg58とLeu59の間であることを同定し、切断面を特異的に認識する抗体、すなわち病態・組織・アイソフォーム特異的活性化反応認識抗体の作製にも成功している(国際公開WO2005/023870号公報)。本発明においては、潜在型TGF-β1分子中のプラスミンや血漿カリクレインの切断サイトであるLys56とLeu57、並びにArg58とLeu59を含むGln52からPro62までの11アミノ酸からなる配列の合成ペプチド(これをQPペプチドと呼ぶ)、さらには、Lys56とLeu57、並びにArg58とLeu59をすべてAlaに置換し、プロテアーゼによる切断を受けなくなるように工夫した変異ペプチド(これをQPAペプチドと呼ぶ)、Lys56とLeu57、並びにArg58とLeu59をすべてGlnに置換し、プロテアーゼによる切断を受けなくなるように工夫した変異ペプチド(これをQPQペプチドと呼ぶ)が、プラスミン/血漿カリクレイン依存TGF-β活性化反応を競争阻害することにより、低濃度で安定的に活性型TGF-βの生成を抑え、肝疾患の病態形成を抑制することを確認し、TGF-β活性化反応の特異的阻害に基づくTGF-β関連疾患の治療法・予防法開発の基盤を築いた。
【0017】
本発明のペプチドは、Gln-Ile-Leu-Ser-X1-X2-X3-X4-Ala-Ser-Proで表されるアミノ酸配列を含む、11から50アミノ酸残基からなるペプチドである。上記の式中、X1からX4は各々独立に任意のアミノ酸残基を示し、天然型アミノ酸20種類(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リシン、アルギニン、シスチン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、プロリン)を挙げることができる。ただし、X1-X2-X3-X4はLys-Leu-Arg-Leu以外であり、かつプロテアーゼによって切断されない配列を示す。
【0018】
TGF-β活性化プロテアーゼによる活性を受けづらくするため、X1及びX3は、塩基性アミノ酸以外のアミノ酸残基であることが好ましい。ここで、塩基性アミノ酸とはリシン、アルギニン、ヒスチジンを示すことを付記する。
【0019】
本発明のペプチドの長さは、11から50アミノ酸残基であれば特に限定されないが、好ましくは11から30アミノ酸残基であり、さらに好ましくは11から20アミノ酸残基であり、さらに好ましくは11から15アミノ酸残基であり、特に好ましくは11アミノ酸残基である。
【0020】
本発明のペプチドが11アミノ酸より長い場合は、Gln-Ile-Leu-Ser-X1-X2-X3-X4-Ala-Ser-Proで表されるアミノ酸配列のN末端側及び/又はC末端側にアミノ酸配列が付加されている。付加されるアミノ酸配列としては、以下に記載するTGF-β1、TGF-β2、又はTGF-β3の下線を付したアミノ酸配列のN末端側及び/又はC末端側のアミノ酸配列またはその一部を選択することができる。例えば、TGF-β1の場合は、Gln-Ile-Leu-Ser-X1-X2-X3-X4-Ala-Ser-Proで表されるアミノ酸配列のN末端側には、G、RG、IRG、AIRG、EAIRG、IEAIRG、RIEAIRG、KRIEAIRG、RKRIEAIRG、KRKRIEAIRG、VKRKRIEAIRG、LVKRKRIEAIRG、ELVKRKRIEAIRG、MELVKRKRIEAIRG、DMELVKRKRIEAIRG、IDMELVKRKRIEAIRG、TIDMELVKRKRIEAIRG、KTIDMELVKRKRIEAIRG、CKTIDMELVKRKRIEAIRG、又はTCKTIDMELVKRKRIEAIRGで表されるアミノ酸配列を付加することができる。同様に、TGF-β1の場合は、Gln-Ile-Leu-Ser-X1-X2-X3-X4-Ala-Ser-Proで表されるアミノ酸配列のC末端側には、P、PS、PSQ、PSQG、PSQGE、PSQGEV、PSQGEVP、PSQGEVPP、PSQGEVPPG、PSQGEVPPGP、PSQGEVPPGPL、PSQGEVPPGPLP、PSQGEVPPGPLPE、PSQGEVPPGPLPEA、PSQGEVPPGPLPEAV、PSQGEVPPGPLPEAVL、PSQGEVPPGPLPEAVLA、PSQGEVPPGPLPEAVLAL、PSQGEVPPGPLPEAVLALY、PSQGEVPPGPLPEAVLALYNで表されるアミノ酸配列を付加することができる。TGF-β2、又はTGF-β3の場合も、下記のアミノ酸配列に基づいて、同様にアミノ酸配列を付加することができる。
【0021】
TGF-β1
(N末端)-TCKTIDMELVKRKRIEAIRG-QILSKLRLASP-PSQGEVPPGPLPEAVLALYN-(C末端)(配列番号6)
TGF-β2
(N末端)-TCSTLDMDQFMRKRIEAIRG-QILSKLKLTSP-PEDYPEPEEVPPEVISIYNS-(C末端)(配列番号7)
TGF-β3
(N末端)-TCTTLDFGHIKKKRVEAIRG-QILSKLRLTSP-PEPTVMTHVPYQVLALYNST-(C末端)(配列番号8)
【0022】
本発明のペプチドにおけるアミノ酸残基の種類は特に限定されず、天然型アミノ酸残基、非天然型アミノ酸残基、又はそれらの誘導体の何れでもよい。即ち、アミノ酸としてはL−アミノ酸であってもよいし、D−アミノ酸であってもよいし、これらの混合物でもよい。また、アミノ酸の種類としては、α−アミノ酸、β−アミノ酸、γ−アミノ酸、δ−アミノ酸の何れでもよいが、天然型アミノ酸であるα−アミノ酸が好ましい。
【0023】
本明細書で言う非天然型アミノ酸とは、天然型蛋白質を構成する天然型アミノ酸20種類(グリシン、L−アラニン、L−バリン、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−セリン、L−トレオニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−アスパラギン、L−グルタミン、L−リシン、L−アルギニン、L−シスチン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−チロシン、L−トリプトファン、L−ヒスチジン、L−プロリン)以外の全てのアミノ酸を意味し、具体的には、(1)天然型アミノ酸中の原子を他の物質で置換した非天然型アミノ酸、(2)天然型アミノ酸の側鎖の光学異性体、(3)天然型アミノ酸の側鎖に置換基を導入した非天然型アミノ酸、並びに(4)天然型アミノ酸の側鎖を置換して疎水性、反応性、荷電状態、分子の大きさ、水素結合能などを変化させた非天然型アミノ酸などが挙げられる。
【0024】
本発明で言うアミノ酸の「誘導体」とは、化学的修飾及び生物学的修飾などを受けたアミノ酸の誘導体のことを言う。修飾の例としては、例えば、アルキル化、エステル化、ハロゲン化、又はアミノ化などの官能基導入、酸化、還元、付加、又は脱離などによる官能基変換、糖化合物(単糖、二糖、オリゴ糖、若しくは多糖)又は脂質化合物などの導入、リン酸化、あるいはビオチン化などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0025】
上記した本発明のペプチドは遊離形態であってもよいが、酸付加塩又は塩基付加塩として提供されてもよい。酸付加塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの鉱酸塩;又は、p-トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、クエン酸塩、蓚酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩などの有機酸塩を挙げることができる。塩基付加塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などの金属塩;アンモニウム塩;メチルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩などの有機アンモニウム塩を挙げることができる。グリシンなどのアミノ酸と塩を形成する場合もあり、また、分子内で対イオンを形成することもある。
【0026】
さらに、ペプチド又はその塩は、水和物又は溶媒和物として存在する場合がある。上記ペプチドは複数の不斉炭素を有している。各不斉炭素の立体は特に限定されないが、アミノ酸残基はL-アミノ酸であることが望ましい。これらの不斉炭素に基づく光学活性体、ジアステレオ異性体などの立体異性体、立体異性体の任意の混合物、ラセミ体などはいずれも本発明の範囲に包含される。
【0027】
本発明のペプチドは、当業者に公知の常法によって合成できる。例えば、アジド法、酸クロライド法、酸無水物法、混合酸無水物法、DCC 法、活性エステル法、カルボイミダゾール法、酸化還元法等が挙げられる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。すなわち、本発明のペプチドを構成し得るアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とするペプチドを合成できる。縮合方法や保護基の脱離としては、公知のいずれの手法を用いてもよい[例えばBodanszky, M and M.A. Ondetti, PeptideSynthesis, Interscience Publishers, New York (1966)、Schroeder and Luebke, The Peptide, Academic Press, New York (1965)、泉屋信夫他, ペプチド 合成の基礎と実験, 丸善(1975)等を参照]。
【0028】
反応後は、通常の精製法、例えば溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶などを組み合わせて本発明のペプチドを精製することができる。また、本発明のペプチドは、C末端が通常カルボキシル(-COOH)基又はカルボキシレート(-COO-)であるが、C末端がアミド(-CONH2)又はエステル(-COOR)であってもよい。ここで、エステルにおけるRとしては、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素6〜12のアリール基、炭素数7〜12のアラルキル基などが挙げられる。さらに、本発明のペプチドには、N末端のアミノ基が保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合した糖ペプチド などの複合ペプチド 等も含まれる。
【0029】
本発明のペプチドの別の製造方法としては、本発明のペプチドのアミノ酸配列をコードする遺伝子を利用して、遺伝子工学的手法により微生物細胞、植物細胞、動物細胞などの宿主において組み換えタンパク質(ペプチド)として生産する方法が挙げられる。得られた組み換えペプチド は、ゲル濾過、逆相HPLC、イオン交換カラム精製など通常のタンパク質又はペプチド精製に用いられる手段を用いて精製することが可能である。
【0030】
本発明のペプチド はTGF-β産生抑制作用を示すため、TGF-β産生抑制剤として使用することができる。また、本発明のペプチド はTGF-β産生抑制作用を示すことにより、TGF-βが関わる病態の治療及び/又は予防のための医薬として使用することができ、例えば、肝再生促進剤又は肝線維化抑制剤として使用することができる。TGF-βが関わる病態としては、組織(肺、肝臓、腎臓、皮膚など)の線維化を伴う疾患を挙げることができ、具体的には、肺線維症、肝硬変、腎疾患(腎炎、腎硬化症)、血管再狭窄、動脈硬化症、乾癬、強皮症、アトピー、ケロイド、または関節炎などを挙げることができる。
【0031】
また本発明のペプチド は、そのままで又は医薬製造分野で通常使用される各種の固体担体、液体担体、乳化分散剤等に含有させた形で医薬として使用することができる。具体的には、本発明のペプチドを医薬組成物の形態として使用する場合には、その製剤形態は、使用目的や使用対象に応じて適宜選択することができ、例えば、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、坐剤、注射剤(液剤、懸濁剤等)等の形態で用いることができる。
【0032】
また、錠剤形成に際して使用する担体としては、例えば乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭化カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤、水又はアルコール類を含ませたデンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドン等の結合剤、乾燥デンプン、寒天末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖等の崩壊剤、白糖、ステアリン、カカオバター、水素添加油糖の崩壊制御剤、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール等の滑沢剤等を使用することができる。さらに錠剤は必要に応じて通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖皮錠、ゼラチン被包錠、腸溶皮膜フィルムコーティング錠又は二重錠、多層錠とすることができる。
【0033】
また本発明のペプチド を注射剤として調製する場合には、液剤、乳剤及び懸濁剤は殺菌され、かつ血液と等張であることが好ましく、これらの形態に成形するに際しては、希釈剤として水、エチルアルコール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等を使用することができ、また必要に応じて亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム等の安定剤、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、モノステアリン酸アルミニウム等の懸濁化剤、塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセリン等の等張化剤、パラオキシ安息香酸エステル類、ベンジルアルコール、クロロブタノール等の保存剤のほか、溶液補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を配合して使用することもできる。
【0034】
上記各形態の医薬組成物の中には、さらに必要に応じて慣用されている着色剤、香料、風味剤、甘味剤等を配合することができ、また他の医薬品有効成分を含有させても構わない。本発明のペプチドを医薬として用いる場合、該ペプチド を一般的には0.001〜90重量%、好ましくは0.001〜80重量%の割合で包含させて使用することができる。
【0035】
本発明のペプチドは、ヒトを含む哺乳動物に投与することができる。投与経路は経口投与でも非経口投与でもよい。本発明のペプチドの投与量は患者の年齢、性別、体重、症状、及び投与経路などの条件に応じて適宜増減されるべきであるが、一般的には、有効成分量として成人一日あたり1μg/kgから1,000mg/kg程度の範囲であり、好ましくは10μg/kgから100mg/kg程度の範囲である。上記投与量は一日一回投与しても一日に数回に分けて投与してもよい。また投与期間及び投与間隔も特に限定されず、毎日投与してもよいしあるいは数日間隔で投与してもよい。
【0036】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
実施例1:QPペプチド並びにQPAペプチドによる肝星細胞の活性化抑制
既報の方法(Okuno Mほか、Gastroenterology 2001;120:1784-1800)に従って、雄のウィスターラット(体重350〜400g; Japan Clea)の肝臓から肝星細胞を単離し、3.5 cm培養プラスティックディッシュ1枚あたりに1×106個の細胞をまき、10%ウシ胎児血清(FCS; GIBCO社製)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM; SIGMA社製)1 ml中にて培養した。
【0038】
肝星細胞単離初日より、QPペプチド(Gln-Ile-Leu-Ser-Lys-Leu-Arg-Leu-Ala-Ser-Pro)(配列番号9)、QPAペプチド(Gln-Ile-Leu-Ser-Ala-Ala-Ala-Leu-Ala-Ser-Pro))(配列番号10)、並びに対照として、発明者が見出したTGF-β活性化制御領域(Gly51〜Arg110)
(国際公開WO2005/023870号公報)からはずれていてTGF-β活性化反応に影響を及ぼさないと予想され、かつTGF-β活性化能を有することが報告されているセリンプロテアーゼやマトリックスプロテアーゼ(近藤ほか、日本血栓止血学会誌2003;14:210-219;Annesほか、J Cell Sci 2003;116:217-224)の一般的切断配列を含有しない11アミノ酸からなる潜在型TGF-β1LAP配列の合成ペプチド(Thr-Gly-Val-Val-Arg-Gln-Trp-Leu- Ser-Arg-Gly;これをT200ペプチドと呼ぶ))(配列番号11)(図1を参照)を培養液中に添加し、7日間培養を続け、プラスティックディッシュ上で培養することによって誘起される肝星細胞の形質転換(肝星細胞の活性化ともいう)に及ぼす各ペプチドの影響を顕微鏡下で観察した。
【0039】
各ペプチドは、60mMストック水溶液を調製し、終濃度1mMになるように培地に溶かした。単離3日目までは、10% FCS含有DMEM培地中で処理し、4日目に培地を終濃度1mMの各ペプチドを含む0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)入りDMEMに交換し、さらに2〜4日培養した培地を条件培地として回収し、条件培地中に存在する活性型TGF-β1の量をPROMEGA社製のELISAキットを用いて定量するとともに、細胞の様子を顕微鏡(DMIRB; Leica社製)にて観察、写真撮影した。
【0040】
顕微鏡による観察結果を図2に示す。図2に示すように、QPAペプチドは、肝星細胞の活性化(ビタミンAを含む油滴の消失を伴う形態変化)を顕著に抑制した。これに対して、QPペプチドは弱い抑制効果を示し、T200ペプチドは、抑制効果を示さなかった。
さらに、条件培地中の活性型TGF-β生成量を測定した結果を表1に示す。表1に示す様に、QPAペプチドは、条件培地中の活性型TGF-β量をコントロールの1/55(2%)に著しく低下させた。これに対して、顕著な星細胞活性化抑制活性がみられなかったT200ペプチドは、条件培地中の活性型TGF-β量をコントロールの74%に減少させた。
【0041】
【表1】

【0042】
以上の結果から、QPAペプチドは、プラスミン/血漿カリクレインによるTGF-β活性化反応を抑制し、肝星細胞の活性化を抑えることがわかった。
【0043】
実施例2:QPペプチド及びQPAペプチドによる肝再生不全の改善
次に、血漿カリクレイン依存TGF-β活性化反応が原因で起こることが証明されている肝再生不全の動物モデルである内毒素(LPS)前投与部分肝切除肝再生不全モデルマウス(Akita K他、Gastroenterology 2002;123:352-364)を用いて、QPペプチド並びにQPAペプチドのin vivoにおける効果を評価する動物試験を行った。
【0044】
試験には、生後5週齢で雄性のC3H/HeN系マウス26匹を導入した。検疫・環境馴化の後に群分け当日の体重を基に次のように群分けした。すなわち,Saline投与でSalineを投与する群(G1:n=6),LPS投与でSalineを投与する群(G2:n=6),LPS投与でQPペプチドを投与する群(G3:n=4),LPS投与でQPAペプチドを投与する群(G4:n=4),およびLPS投与でT200ペプチドを投与する群(G5:n=6)の5群に分けた(表2)。
【0045】
試験開始後は,LPS 7μg(G1はSaline)を腹腔内投与し,その48時間後には全例の肝臓部分切除の処置を行った。さらにその48時間後には,生存した供試動物全例を剖検に供した。剖検では,採血後,各群1〜3匹を4%パラホルムアルデヒド(PFA)で全身灌流を行った後に肝臓を摘出し,全葉を包埋剤「Tissue Mount」に凍結包埋した。また残りの1〜3匹については,全身灌流を行わず,一部をホルマリン固定,残りを凍結試料(mRNA用と蛋白定量用)として採取した。ホルマリン固定を行った臓器については,ブロックまで作製し,凍結試料とともに-80℃のディープフリーザーに保存した。
【0046】
【表2】

【0047】
試験材料および方法は以下のとおりである。
1.誘発物質
1.1 誘発物質
名称:Lipopolysaccharides (LPS;from Escherichia coli 0111:B4)(SIGMA社製)
保存方法:冷蔵・遮光・密栓
1.2 溶媒
名称:滅菌生理食塩水(大塚製薬株式会社製)
2.被験物質
2.1 QPぺプチド
名称:TGF-β1LAPペプチド
アミノ酸配列:N-52QILSKLRLASP62-C
保存方法:冷蔵
2.2 QPAぺプチド
名称:TGF-β1LAPペプチド (N-52QILSKLRLASP62-Cのミュータントペプチド)
アミノ酸配列:N-52QILSAAAAASP62-C
保存方法:冷蔵
2.3 T200ぺプチド
名称:TGF-β1LAPペプチド(活性化反応に関与しない部分のペプチド)
アミノ酸配列:N-200TGVVRQWLSRG210-C
保存方法:冷蔵
【0048】
3.供試動物
動物種:マウス
系統:C3H/HeN Slc
供給源:日本エスエルシー株式会社,静岡
微生物学的品質:Specific Pathogen Free (SPF)
性別: 雄
週齢:導入時5週齢(供試時 6週齢)
4.動物の飼育管理
導入された動物を新しい飼育環境に馴化するとともに,ケージの外から確認できる程度に動物の状態を毎日観察し,一般状態が良好であることを確認した。
飼育期間:導入後5日間
試験期間:8日間
【0049】
5.供試動物の群分け
5.1 実施時期:動物導入7日後
5.2 群分け方法
動物導入5日後の動物全例の体重を考慮して,群分けシステム・Statlight #11群分け(ユックムス株式会社,東京)を用いて完全無作為法にて群分けを行った。
5.3 ケージの識別
群名,試験番号,系統名,投与検体名,灌流の有無,個体番号,導入番号およびケージ番号を明記したラベルを貼付する。
6.動物の識別
群分け後は,単飼育を行う。ケージ間で識別別を行うため,各個体の識別は行わないこととした。
【0050】
7.誘発物質の投与
7.1 LPS投与検体の調製
調製頻度: 1回(用時調製)
調製方法: LPS 5 mg入りのバイアル瓶 1本にSalineを少量加えて溶解させた。次いで別の容器に移し,Salineを加えていき,全量を 5 mLとした。これを 1 μg/μL溶液とした。この溶液から350 μLを正確に秤取し,滅菌生理的食塩水(溶媒)4.65 mLの入った容器に加えた。その後0.22 μmのフィルターにて濾過滅菌した後,投与検体として用いた。
7.2 LPS投与方法
投与用量: 7 μg /head
投与経路: 腹腔内投与
投与容量: 0.1 mL /head
投与回数: 1回(単回)
投与時期: 肝部分切除の48時間前
対象動物: G2〜G5(G1にはSalineを投与)
8.被験物質の投与
8.1 ペプチド投与検体の調製
調製頻度: 1回
調製方法: 2 mg/mlになるようにsalineに溶解し、投与検体として用いた。
保存方法: 使用までの間,冷蔵庫(4℃設定)に保存した。
8.2 ペプチドの投与方法
投与用量: 200 μg /head
投与経路: 静脈内投与
投与容量: 0.1 mL /head
投与時期: 肝部分切除の50,38,24,14,2時間前および10,24,34時間後
投与回数: 2回/日,4日間(原則として,9:00と19:00),計8回
対象動物: G3〜G5 (G1,G2にはSalineを投与)
【0051】
9.肝部分切除 (2/3 partial hepatectomy;PH)
9.1 処置方法
マウスをジエチルエーテル吸入麻酔し,胸部から腹部にかけて剃毛,背位固定して術部皮膚をイソジン消毒した。腹部を切開し,切開口より肝外側左葉,内側右葉,内側左葉を体外に取り出し,それらの根元を糸で縛り,体外に出した肝臓を切除した。血液を拭き取り,キファーホッチキスで閉腹し,皮膚をイソジンで消毒して処置を終えた。
9.2 処置匹数:26匹全例
9.3 処置時期:LPS投与48時間後
10.一般状態観察および体重測定
10.1 一般状態観察
試験開始後は,毎日1回,全個体の一般状態観察を観察し,異常が認められた場合はその詳細を記録した。
10.2 体重測定
試験開始後は,毎日1回以上,全個体の体重測定を実施し,記録(プリント紙)を保存・集計した。
【0052】
11.剖検
11.1 剖検時期:PH 48時間後
11.2 剖検方法
ペントバルビタールナトリウム 40mg/kgを腹腔内投与によりマウスを麻酔後,腹部大動脈より無処置注射器にて可能な限りの血液を採取し,脱血致死せしめた。
採血後,各群1〜3例は,4%PFAにて全身灌流を行った後に肝臓を摘出し,全葉を包埋剤「Tissue Mount」に凍結包埋した。残り1〜3例については,全身灌流を行わず,一部を10%中性緩衝ホルマリン液に浸漬固定,残りを凍結用試料(mRNA用と蛋白定量用)として液体窒素にて凍結した。
11.3 血液の処理
血液は,採血後1時間以内に3,000r.p.m.,10分間冷却(4℃設定)遠心分離した。血清分画を別の容器に採取し,提出まで凍結保存(-80℃設定)した。
12.病理組織標本の作製
作製臓器:肝臓
作製標本:パラフィンブロック
作製方法:10%中性緩衝ホルマリン液に固定後,肝臓を切り出し,常法に従って脱水・パラフィン包埋した。
【0053】
13.組織切片の作製と染色
包埋した肝組織から回転式ミクロトーム(Leica社)を用いて厚さ5μmの肝組織切片を作製した。増殖細胞核抗原PCNA (Proliferating Cell Nuclear Antigen: 増殖している細胞のマーカー) の染色は、ヒストファインキット(ニチレイバイオサイレンス社)を使用して、既報(Greenwell A他、Cancer Lett 1991;59:251-256)の通り行った。すなわち、パラフィンを除去した肝組織切片(薄さ5μm)を、キット添付の説明書にしたがい、以下の操作により染色した。
・95℃水浴中にてクエン酸バッファーpH6と10分インキュベーション
・室温にて3%過酸化水素水と20分インキュベーション
(以下、加湿チャンバー内、室温にて)
・キット添付のブロッキングバッファーと60分インキュベーション
・マウス抗ラットPCNAモノクローナル抗体(Dako社製)原液と10分インキュベーション(一次抗体)
・キット添付のブロッキングバッファーと10分インキュベーション
・キット添付のシンプルステインマウスMAX-PO(M) と10分インキュベーション(二次抗体)
・ジアミノベンジジンテトラヒドロクロライド(DAB)混合液(ベクター社製)と4分30秒インキュベーションして発色させた。
*上記各操作間にはPBSによる洗浄を3回ずつ行った。
・ヘマトキシリン溶液(ムトー化学薬品社製)と20秒インキュベーションし、四ホウ酸ナトリウム溶液と1分インキュベーションし、核の対比染色を行った後にミリQ濾過水にて洗浄した。
Leica社製 DMIRB顕微鏡を用いて200x倍率にて観察、写真撮影をするとともに、各標本のPCNA陽性細胞の百分率についてn=8で評価した。
14.肝組織TGF-β1量の測定
11.2 でタンパク定量用に調製した肝組織約100 mgよりOkuno M他の方法(Okuno M他、Gastroenterology 2001;120:1784-1800)にしたがい、肝抽出液を調製し、抽出液中に存在するTGF-β1量をPROMEGA社製のELISAキットを用いて定量した。TGF-β量は、pg/mgタンパク量として表示した。
【0054】
(一般状態の観察結果)
LPSを投与した群において,投与12時間後の観察で自発運動の低下および立毛が確認された。その後は時間の経過とともにこれらの症状は回復に向かい,PH処置前までには完全に回復をした。PH処置後は,一部の個体でうずくまり,自発運動の低下,体温低下および円背位の症状が観察され,死亡例も確認した。これらの症状は,PH処置が影響すると考える。
(染色結果)
染色結果を図3に示す。マウスへのQPペプチドやQPAペプチド投与により、LPS前投与により誘発される肝再生不全(血漿カリクレイン依存TGF-β活性化反応が原因であることが証明されている)が有為に改善された。これに対して、T200ペプチドは、改善効果を示さなかった。
【0055】
(定量結果)
上述の染色結果を、PCNA陽性肝細胞の百分率にて定量した結果を図4に示す。マウスへのQPペプチド投与により、LPS前投与により誘発される肝再生不全(PCNA陽性細胞の比率が40%から25%に減少している:血漿カリクレイン依存TGF-β活性化反応が原因であることが証明されている;Akita et al. Gastroenterology 123:352-364,2002)が完全に改善された。さらに、QPAペプチド投与では、PCNA陽性細胞の比率が47%に高まるという結果を得、肝再生不全改善効果+肝再生促進効果を示した。これに対して、T200ペプチドは、改善効果をまったく示さなかった。
(肝組織TGF-β1量定量結果)
肝組織中のTGF-β1生成量を測定した結果を表3に示す。LPS前投与により肝組織TGF-β1量は、コントロール群の値の約6.5倍に高まるが、QPAペプチドは、これをコントロール値の約1.4倍まで減少させた。これに対して、T200ペプチドは、肝組織TGF-β1量をコントロール値の約3倍までにしか減少させなかった。
【0056】
【表3】

【0057】
(まとめ・考察)
以上、TGF-β活性化プロテアーゼによる潜在型TGF-β1のLAP部分の切断配列由来ペプチドであるQPペプチド、並びにQPAペプチドは、肝疾患の原因となるプロテアーゼ依存TGF-β活性化反応を低濃度で抑制し、活性型TGF-βの生成を阻害し、肝再生を改善することが示された。その効果はQPペプチドよりもQPAペプチドで強く現れる。その理由として、QPAペプチドは、プロテアーゼにより切断されないので、より低濃度で安定的かつ有効に阻害活性を発揮するためであることが考えられる。QPAペプチドは、コントロールでendogenousに起こるベースのTGF-β活性化反応もシャットダウンすることが期待される。本ペプチドを用いることによって、従来の技術では困難であったTGF-β活性化反応を安定的に阻害することが可能となり、本ペプチド並びにその誘導体を応用した各種硬化性疾患を始めとするTGF-β関連疾患の予防薬・治療薬の開発が可能であると期待できる。
【0058】
実施例3
QPペプチド、並びにQPQ.ペプチドによるLAP切断反応の阻害
組換えヒト LAP (R&D社) 2 μg(終濃度 66 μg/ml)を終濃度20 μg/mlの血漿カリクレイン(SIGMA社)とインキュベーションする際に、終濃度2.5 mg/mlのQPペプチド、QPAペプチド、T200ペプチド、QPQペプチド(配列番号4)を添加し、37℃で40分インキュベーション後、13.5%ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動(室温、27 mA、50分)によりLAP(分子量41 kDa)とLAP分解産物(分子量38 kDa)、並びに添付剤として用いたBSA(終濃度0.3 mg/ml, 分子量80 kDa)を分離した。セミドライ転写装置を用いて分離した各タンパク質や分解産物をPVDF膜に転写し、秋田らの方法(Gastroenterology 123;352-364,2002)に準じ、終濃度5 μg/mlの抗LAPマウスモノクロナル抗体(R&D社)、もしくは終濃度20 μg/mlの抗L59切断面認識マウスモノクロナル抗体(自家製;国際公開WO2005/023870号広報)と室温で60分インキュベージョンした後、終濃度1 μg/mlの西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウス二次抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社)と室温で60分反応させ、ECLプラス試薬(GE Healthcare社)により発色させることによって、LAPバンドの減衰、並びにLAP分解産物の生成に及ぼす各ペプチドの影響を半定量した(図6)。
【0059】
その結果、QPペプチドはLAPの切断反応(パネルAに見られるLAPバンドの減衰、並びにパネルBにみられるLAP分解産物の生成)を有為に阻害し(レーン3)、QPQペプチドは、QPペプチドよりもさらに強くLAPの切断反応を阻害した(レーン6)。これに対して、QPAペプチドとT200ペプチドは弱い阻害効果を示すにとどまった(レーン4;レーン5)。
【0060】
実施例4
実施例1に記述した方法に準じ、QPペプチド、QPAペプチド、QPQペプチド、T200ペプチドが、プラスティックディッシュ上で培養することによって誘起される培養肝星細胞の形質転換に及ぼす影響を観察した。
各ペプチドは終濃度0.5 mM(約500μg/ml)になるように培地に溶かした。単離1日までは、10%FCS含有DMEM培地中で処理し、2日目に培地を終濃度0.5 mMの各ペプチドを含む0.1%BSA入りDMEMに交換し、さらに2〜7日培養した培地を条件培地として回収し、条件培地中に存在する活性型TGF-β1量をPROMEGA社製ELISAキットを用いて定量するとともに、細胞の様子を顕微鏡(DMIRB; Leica社)にて観察、写真撮影した。
【0061】
顕微鏡による観察結果を図7に示す。図7に示すように、QPペプチド、QPAペプチド、QPQペプチドは、肝星細胞の活性化(ビタミンAを含む油滴の消失を伴う形態変化)を顕著に抑制した。特にQPQペプチドは最も強い抑制効果を示した。これに対し、T200ペプチドは、抑制効果を示さなかった。
このときの、条件培地中の活性型TGF-β生成量を測定した結果を図8に示す。図8に示すように、QPペプチドは、コントロール細胞条件培地中の活性型TGF-β生成の55%、QPAペプチドは25%、QPQペプチドは90%をそれぞれ阻害した。
以上の結果から、QPQペプチドは、プラスミン/血漿カリクレインによるTGF-β活性化反応をQPAペプチドより強く抑制し、肝星細胞の活性化を抑えることがわかった。
【0062】
実施例5
QPペプチド、並びにQPAペプチド、QPQペプチドによる肝再生不全の改善
次に、実施例2に記述した方法に準じ、LPS前投与部分肝切除肝再生不全モデルマウスを用いて、QPペプチド、並びにQPAペプチド、QPQペプチド、T200ペプチドのin vivo肝再生不全モデルに及ぼす効果を評価する動物実験を行った。
試験には、生後5週齢の雄のC3H/HeN系マウス26匹を導入した。検疫・環境馴化の跡に群分け当日の体重を基に表4のように群分けした。すなわち、Saline投与でSalineを投与する群(G1 : n=8), LPS投与でSalineを投与する群(G2 : n=8), LPS投与でQPペプチドを投与する群(G3 : n=8)、LPS投与でQPAペプチドを投与する群(G4 : n=8)、LPS投与でQPQペプチドを投与する群(G5 : n=8)、及びLPS投与でT200ペプチドを投与する群(G6 : n=8)の6群に分けた。
【0063】
【表4】

【0064】
試験開始後は、LPS 7μg(G1はSaline)を腹腔内投与し、その48時間後には全例の肝臓部分切除の処置を行った。さらにその48時間後には、生存した供試動物全例を部検に供した。剖検では、採血後、各群4匹を4%PFAで全身灌流を行った後に肝臓を摘出し、全葉を包埋剤「Tissue Mount」に凍結包埋した。また残りの4匹については、全身灌流を行わず、一部をホルマリン固定、残りを凍結試料(mRNA用と蛋白定量用)として採取した。ホルマリン固定を行った臓器については、ブロックまで作製し、凍結試料とともに-80℃のディープフリーザーに保存した。
【0065】
被験物質
QPQペプチド
名称;TGF-β1ペプチド
アミノ酸配列:N-52QILSQQQQASP62-C
保存方法:冷蔵
LPS投与方法
投与用量:7μg/head
投与経路:腹腔内投与
投与容量:0.1 mL / head
投与回数:1回(単回)
投与時期:肝部分切除の48時間前
対象動物:G2〜G6(G1にはSalineを投与)
【0066】
被験物質の投与
ペプチド投与検体の調製
調製頻度:1回
調製方法:2 mg/mlになるようにsalineに溶解し、投与検体として用いた。
保存方法:使用までの間、冷蔵庫(4℃に保存した)
ペプチドの投与方法
投与用量:200μg/head
投与経路:静脈内投与
投与容量:0.1 mL / head
投与時期:肝部分切除の50, 38, 24, 14, 2時間前および10, 24, 34時間後
投与回数:2回/日、4日間(原則として、9:00と19:00)、計8回
対象動物:G2〜G6(G1、G2にはSalineを投与)
【0067】
肝部分切除(2/3 partial hepatectomy ; PH )
処置方法
マウスをジエチルエーテル吸水麻酔し、胸部から腹部にかけて剃毛、背位固定して術部皮膚をイソジン消毒した。腹部を切開し、切開口より肝外側左葉、内側右葉、内側左葉を対外に取り出し、それらの根元を糸で縛り、体外に出した肝臓を切除した。血液を拭き取り、キーファーホッチキスで閉腹し、皮膚をイソジンで消毒して処置を終えた。
処置匹数:48匹全例
処置時期:LPS投与48時間後
剖検
剖検時期:PH 48時間後
剖検方法
ペントバルビタールナトリウム40mg/kgを腹腔内投与によりマウスを麻酔後、腹部大脈より無処置注射器にて可能な限りの血液を採取し、脱血致死せしめた。
採血後、各群4例は、4%PFAにて全身灌流を行った後に肝臓を摘出し、全葉を包埋剤「Tissue Mount」に凍結包埋した。残り4例については、全身灌流を行わず、一部を10%ホルマリン液に浸漬固定、残りを凍結用試料(mRNA用と蛋白定量用)として液体窒素にて凍結した。
【0068】
肝組織TGF-β1量の測定
11.2でタンパク定量用に調節した肝組織約30mgよりOkunoらの方法(Okuno M他、Gastroenterology 2001;120:1784-1800)にしたがい、肝抽出液を調製し、抽出液中に存在するTGF-β1量をPROMEGA社製のELISAキットを用いて定量した。TGF-β量は、pg/mgタンパク量として表示した。他は実施例2と同じ。
【0069】
(一般状態の観察結果)
LPSを投与した群において、投与12時間後の観察で自発運動の低下および立毛が確認された。
(染色結果)
染色結果を図9に示す。マウスへのQPペプチドやQPAペプチド、QPQペプチド投与により、LPS前投与により誘発される(血漿カリクレイン依存TGF-β活性化反応が原因であることが証明されている;Akita et al. Gastroenterology 123:352-364, 2002)肝再生不全が有為に改善された。改善の効果は、QPQペプチド、QPAペプチド、QPペプチド間でほぼ同等であった。これに対して、T200ペプチドは、改善効果を示さなかった。
【0070】
(定量結果)
上記の染色結果を、PCNA陽性肝細胞の百分率にて定量した結果を図10に示す。マウスへのQPペプチドやQPAペプチド、QPQペプチド投与により、LPS前投与により誘発される肝再生不全(PCNAの比率が55%から47%に減少している:血漿カリクレイン依存TGF-β活性化反応が原因であることが証明されている;Akita et al. Gastroenterology 123:352-364,2002)が改善された。さらにQPペプチド、QPAペプチド、QPQペプチド投与では、PCNA陽性の比率がそれぞれ66%、70%、64%に高まるという結果を得、肝再生不全効果+肝再生促進効果を示した。これに対して、T200ペプチドは、改善効果を全く示さなかった(45%)。
(肝組織TGF-β1量定量結果)
肝組織中のTGF-β1生成量を測定した結果を図11に示す。LPS前投与により肝組織TGF-β1量は、約2.3倍に高まるが、QPペプチド、QPAペプチド、QPQペプチドは、この上昇をそれぞれ1.6倍、0.7倍、1.6倍にまで抑えた。これに対して、T200ペプチドは、抑制効果を示さず、むしろより上昇させた(3.1倍)。
【0071】
(まとめ・考察)
以上、TGF-β活性化プロテアーゼによる潜在型TGF-β1のLAP部分の切断配列由来ペプチドであるQPペプチド、QPAペプチド並びにQPQペプチドは、肝疾患の原因となるプロテアーゼ依存TGF-β活性化反応を低濃度で抑制し、活性型TGF-βの生成を阻害し、肝再生を改善することが示唆された。
In vitroでは、QPペプチドは、酵素基質複合体を作る能力が強いが、分解されていずれ消失してしまうので、細胞培養系や動物モデルでは軽微な阻害活性を示したのに対し、QPAペプチドは、酵素基質複合体を作る能力はQPペプチドより弱いながらも、生成した酵素基質複合体は切断されないので安定に存在するので細胞培養系や動物モデルにおいては、QPペプチドよりも顕著な阻害作用を示したと考えられる。
【0072】
In vitroではプロテアーゼが配列非特異的にT200ペプチドにトラップされてしまうので、弱い結合活性を示したものと考えられる。一方、細胞培養系や動物モデルではT200ペプチドよりもQPAペプチドのほうが酵素基質複合体を作る能力が高いために、T200ペプチドよりも阻害効果を示したものと考えられる。
QPQペプチドは、高い酵素基質複合体形成能を維持しながら、切断されることがないので、in vitro系、細胞培養系、動物モデルのいずれの評価系においても、最も強い阻害活性を示したと考えられる。すなわち、QPQペプチドは、QPペプチドやQPAペプチドよりも、病態形成に伴い引き起こされるTGF-β活性化反応を安定的に阻害することが可能となり、本ペプチド並びにその誘導体を応用した各種硬化性疾患を始めとするTGF-β関連疾患の予防薬・治療法の開発が可能であると期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は、QPペプチド、QPAペプチド、及びT200ペプチドを示す。
【図2】図2は、TGF-β活性化プロテアーゼ切断配列由来ペプチドによる肝星細胞の活性化抑制を示す。
【図3】図3は、TGF-β活性化プロテアーゼ切断配列由来ペプチドによる肝再生不全の改善(写真)を示す。
【図4】図4は、TGF-β活性化プロテアーゼ切断配列由来ペプチドによる肝再生不全の改善(数値化)を示す。
【図5】図5は、QPQペプチドの配列を示す。
【図6】図6は、QPペプチド、並びにQPQペプチドによるLAP切断反応の阻害を示す。
【図7】図7は、QPペプチド、QPAペプチド、QPQペプチド、T200ペプチドによる培養肝星細胞の形質転換に及ぼす影響を観察した結果を示す。
【図8】図8は、条件培地中の活性型TGF-β生成量を測定した結果を示す。
【図9】図9は、QPペプチド、並びにQPAペプチド、QPQペプチドによる肝再生不全の改善(写真)を示す。
【図10】図10は、QPペプチド、並びにQPAペプチド、QPQペプチドによる肝再生不全の改善(数値化)を示す。
【図11】図11は、肝組織中のTGF-β1生成量を測定した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gln-Ile-Leu-Ser-X1-X2-X3-X4-Ala-Ser-Pro (式中、X1からX4は各々独立に任意のアミノ酸残基を示すが、X1-X2-X3-X4はLys-Leu-Arg-Leu以外であり、かつプロテアーゼによって切断されない配列を示す) で表されるアミノ酸配列を含む、11から50アミノ酸残基からなるペプチド。
【請求項2】
X1及びX3が、塩基性アミノ酸以外のアミノ酸残基である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
下記の(1)から(4)の何れかのアミノ酸配列を含む、11から50アミノ酸残基からなるペプチド。
Gln-Ile-Leu-Ser-Ala-Ala-Ala-Ala-Ala-Ser-Pro (1)
Gln-Ile-Leu-Ser-Ala-Leu-Ala-Leu-Ala-Ser-Pro (2)
Gln-Ile-Leu-Ser-Gln-Gln-Gln-Gln-Ala-Ser-Pro (3)
Gln-Ile-Leu-Ser-Gln-Leu-Gln-Leu-Ala-Ser-Pro (4)
【請求項4】
長さが11から20アミノ酸残基である、請求項1から3の何れかに記載のペプチド。
【請求項5】
Gln-Ile-Leu-Ser-X1-X2-X3-X4-Ala-Ser-Pro (式中、X1からX4は各々独立に任意のアミノ酸残基を示すが、X1-X2-X3-X4はLys-Leu-Arg-Leu以外であり、かつプロテアーゼによって切断されない配列を示す) で表されるアミノ酸配列からなる、ペプチド。
【請求項6】
請求項1から5の何れかに記載のペプチドを含む、活性型TGF-β生成抑制剤。
【請求項7】
請求項1から5の何れかに記載のペプチドを含む、TGF-βが関わる病態の治療及び/又は予防のための医薬。
【請求項8】
請求項1から5の何れかに記載のペプチドを含む、肝再生促進剤又は肝線維化抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−247900(P2008−247900A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58486(P2008−58486)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度独立行政法人医薬基盤研究所基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】