TOLL様受容体3アンタゴニスト、方法および使用
【課題】 Toll様受容体3(TLR3)が媒介する疾患または症状を治療できる活性成分を提供する。
【解決手段】 TLR3アンタゴニスト、TLR3アンタゴニストをコードするポリヌクレオチドまたはそのフラグメント、および前記のものの作成および使用法を開示する。
【解決手段】 TLR3アンタゴニスト、TLR3アンタゴニストをコードするポリヌクレオチドまたはそのフラグメント、および前記のものの作成および使用法を開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TOll様受容体3(TRL3)アンタゴニスト、TRL3アンタゴニストをコードするポリヌクレオチドまたはそのフラグメント、および前記の作成および使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症状態に伴う病状は健康管理における重大な挑戦を表し、そして痛く、衰弱し、そして致死的となり得る。例えば敗血症および敗血症に伴う状態は、米国において年間28〜50%の致死率で750,000人以上に影響を与え、215,000人の年間死者を生じる(非特許文献1;非特許文献2)。炎症性腸疾患(IBD)、クローン病および潰瘍性大腸炎のような他の炎症状態は、米国で1年間に100万人以上の人々に影響を及ぼしている(非特許文献3)。
【0003】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息および肺感染のような肺機能に影響を及ぼす炎症性の肺状態も米国においてかなりの数の人々に影響を及ぼしている。例えばCOPDは1000万人の成人アメリカ人に影響を与え、そして罹患率は上昇している(非特許文献4)。これらの炎症状態に伴う病状、およびこれらの状態の増悪は、重大な健康および経済的打撃を与える。
【0004】
喘息およびCOPDのような肺疾患における増悪は、症状の悪化および肺機能の低下を特徴とする。ウイルス感染は多くの肺疾患の増悪に関連し(非特許文献5;非特許文献6)、そして増悪の主要な原因であると考えられている。ウイルス感染後の肺における前炎症性(pro−inflammatory)サイトカインの分泌は、種々の肺疾患において炎症応答を促進する重要な段階を表す(非特許文献7:非特許文献8)。
【0005】
インスリン抵抗性は、グルコース不耐症(glucose intolerance)、インスリン抵抗性、肥満、高トリグリセリド血症、低HDLコレテロール、高血圧症、および加速性のアテローム硬化症を含むメタボリックシンドロームの不可欠な特徴として認識されてきた(非特許文献9)。肥満、2型糖尿病およびインスリン抵抗性の間の素因は十分に確立されているが、肥満に伴うインスリン抵抗性および2型糖尿病を制御する分子および細胞のメカニズムは、漠然としたままである。
【0006】
肥満した個体は、TNF−α、IL−1bおよびIL−6のような前炎症性サイトカインの上昇したレベルを示すという事実は、肥満を誘導するインスリン抵抗性が炎症状態であるという仮説を思いつかせる(非特許文献10)。このように炎症、肥満、インスリン抵抗性および異常な脂質代謝は、メタボリックシンドロームの共通する特徴を構成し得る。実際に、シクロオキシゲナーゼインヒビターのような非ステロイド系薬剤(これはNF−kβおよびIKKβのような重要な炎症性転写因子と相互作用することができる)は、2型糖尿病の動物モデルおよびヒト患者においてインスリン感受性を上げる(非特許文献10)。さらに最近のデータは、骨髄様細胞において、IKKbコンディショナルノックアウトマウスが完全な(global)インスリン感受性を表し、そしてインスリン抵抗性に対して保護されるようになる能力、ならびに肝臓でIKKbを過剰発現するマウスが全身性インスリン抵抗性を発症する能力により示されるように、インスリン抵抗性と炎症との間の結び付きに支持を加える(非特許文献11;非特許文献12)。あわせると、これらの結果は肥満、インスリン抵抗性および2型糖尿病を炎症性疾患と結び付けるための強い根本的理由を提供する。
【0007】
宿主免疫系による微生物抗原の認識は、活性化が炎症応答の開始における重要な段階を表す生来の免疫受容体を介して媒介される。Toll−様受容体(TLR)は、外来抗原に対する免疫応答の媒介において、決定的な役割を果たす生来の免疫受容体のファミリーを表す。例えばTLR3は、二本鎖(ds)RNAならびに合成dsRNA類似体ポリ−リボイノシン酸−リボシチジル酸(ポリ(I;C))を認識する哺乳動物のパターン認識受容体である(非特許文献13)。さらにTLR3は壊死細胞から放出されるmRNAのような内因性のリガンドを認識することが示され(非特許文献14)、炎症部位での壊死細胞の死が、TLR3の活性化に貢献し得ることを示唆する。
【0008】
ポリ(I:C)による、または内因性mRNAリガンドによるTLR3の活性化は、炎症性サイトカインおよびケモカインの分泌を誘導し、TLR3アゴニストが感染に伴う炎症中に疾患の発生をモジュレートすることを示唆することが見いだされた。すなわちインビボでのTLR3のライゲーションは、ウイルス感染(非特許文献15)、または壊死に伴う炎症の状況において起こると考えられる(非特許文献16)。総じて、これらのデータはTLR3のライゲーションが生来の免疫に貢献すると考えられる数々の炎症性サイトカインの生産を生じるリン酸化および転写活性化反応(event)をカスケードを開始することを証明している(非特許文献17を参照にされたい)。さらにこれらのデータは、持続的なTLR3の活性化が感染に関連する炎症性疾患のモジュレーションに重要な成分となり得ることを示唆している。公開されたデータは、炎症性サイトカインの過剰生産を全身的な炎症性応答症候群、感染に伴う急性のサイトカイン急性発作(非特許文献18により総論されている)、および慢性関節リウマチ(非特許文献19により総説されている)、および炎症性腸疾患(非特許文献20により総説されている)のような免疫が媒介する慢性状態と関連付ける知見により示されるような仮説を支持する。
【0009】
インビトロの実験では、ポリ(I:C)での肺の上皮細胞の刺激が多くのサイトカイン、ケモカインの分泌および転写因子の分泌を誘起し、そしてTLRの発現を上昇させることが示されたが(非特許文献21:非特許文献22)、そのような出来事の生理学的関連性は不明なままである。
【0010】
このような病状に伴う炎症状態、および感染に伴うその他の状態は、重大な健康および経済的影響を有する。さらに医学の多く分野における進歩にもかかわらず、多くのこれらの状態に関して利用できる処置の選択および治療法は比較的少ない。
【0011】
例えば肺疾患の増悪は、高用量のコルチコステロイドおよびオマリズマブ(omalizumab)の商品名XOLAIR(商標)のような抗−IgEで処置される。β2アゴニストと組み合わせた吸引コルチコステロイドは、増悪の発生の低下に効果的であることが示された。しかしこれらの治療薬は増悪の発症するリスクを減らすだけであり、そして重要な副作用を伴うので、肺疾患の増悪の防止および処置には代替的治療のモダリティが必要である。
【0012】
このように炎症状態におけるTLR3の役割を理解し、そしてこの役割をこれらの状態を効果的に処置するアンタゴニストのような作用物質の開発に活用することが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Natanson et al.,Crit.Care Med.26:1927−1931,1998
【非特許文献2】Angus et al.,Crit.Care Med.29:1303−1310,2001
【非特許文献3】Hanauer et al.,Rev.Gastroenterol.Disord.3:81−92,2003
【非特許文献4】Mapel et al.,Manag.Care Interface 17:61−66,2004
【非特許文献5】Johnston,Am.J.Respir.Crit.Care Med.152:S46−52,1995
【非特許文献6】Bandi et al.FEMS Immunol.Med.Microbiol.37:69−75,2003
【非特許文献7】Gern et al.Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.28:731−737,2003
【非特許文献8】Panina−Bordignon et al.,Curr.Opin.Pulm.Med.9:104−110,2003
【非特許文献9】Wisse,J.Am.Soc.Nephrol.15:2792−800,2004
【非特許文献10】Karin et al.,Nat.Rev.Drug Discov.3:17−26,2004
【非特許文献11】Arkan et al.,Nat.Med.11:191−198,2005
【非特許文献12】Cai et al.,Nat.Med.11:183−90,2005
【非特許文献13】Alexopoulou et al.,Nature 413:732−238,2001
【非特許文献14】Kariko et al.,J.Biol.Chem.26:12542−12550,2004
【非特許文献15】Tabeta et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:3516−3521,2004
【非特許文献16】Kariko et al.J.Biol.Chem.26:12542−12550,2004
【非特許文献17】Takeda and Akira,J.Derm.Sci.34:73−82,2004
【非特許文献18】Van Amersfoort et al.,Clin.Microbiol.Rev.16:379−414,2003
【非特許文献19】Miossec et al.,Curr.Opin.Rheumatol.16:218−222,2004
【非特許文献20】Ogata and Hibi,Curr.Pharm.Des.9:1107−1113,2003
【非特許文献21】Ieki et al.,Clin.Exp.Allergy 34:745−52,2004
【非特許文献22】Sha et al.,Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.31:358−64,2004
【発明の概要】
【0014】
本発明の1つの態様は、RANTESの細胞生産を阻害するToll様受容体3(TLR3)のアンタゴニストである。
【0015】
本発明の別の態様は、配列番号9、11および13に示す重鎖相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなるモノクローナル抗体の抗原結合能力を有するTLR3と反応性の単離された抗体である。
【0016】
本発明の別の態様は、配列番号9、11および13に示す重鎖相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなるTLR3と反応性の単離された抗体である。
【0017】
本発明の別の態様は、式(I):
Thr Thr Tyr Trp Xaa1 His
(I)
式中、Xaa1はIleまたはMetである
で示されるVHCDR1アミノ酸配列(配列番号61);
式(II):
Glu Ile Asn Pro Asn Asn Gly Arg Ile Asn
Xaa2 Xaa3 Glu Lys Xaa4 Lys Thr
(II)
式中、Xaa2はTyrまたはGlyであり、Xaa3はAsnまたはAlaであり、そしてXaa4はPheまたはGlyである、
で示されるVH CDR2アミノ酸配列(配列番号62);および
式(III):
Val Gly Val Xaa5 Ile Thr Thr Phe Pro Tyr。
(III)
式中、Xaa5はMetまたはIleである、
で示されるVH CDR3アミノ酸配列(配列番号63);
および配列番号19、21および23に示されるアミノ酸配列を有するVL CDR、を有する単離された抗体である。
【0018】
本発明の別の観点は、配列番号9、11および13に示されるCDRアミノ酸配列を含んでなる抗体重鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドである。
【0019】
本発明の別の観点は、配列番号19、21および23に示されるCDRアミノ酸配列を含んでなる抗体軽鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドである。
【0020】
本発明の別の観点は、配列番号6、25、27、29、31、45、47、49、51または53に示されるアミノ酸配列を含んでなる抗体重鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドである。
【0021】
本発明の別の観点は、配列番号16、33、35、37または39に示されるアミノ酸配列を含んでなる抗体軽鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドである。
【0022】
本発明の別の観点は、炎症状態を処置または防止する方法であり、この方法は治療に有効量のTLR3アンタゴニストをそれが必要な患者に炎症状態を処置または防止するために十分な時間、投与することを含んでなる。
【0023】
本発明の別の観点は、細胞の増殖率を上げる方法であり、この方法はTLR3アンタゴニストを、TLR3受容体を発現する細胞と細胞の増殖率を上げるために十分な時間接触させることを含んでなる。
【0024】
発明の詳細な説明
限定するわけではないが本明細書に引用する特許および特許出願を含めすべての刊行物は、完全な説明を通して参照により本明細書に編入する。
【0025】
本明細書で使用する用語「アンタゴニスト」は、任意のメカニズムにより受容体のような別の分子の効果を一部または完全に阻害する分子を意味する。本明細書で使用する「TLR3アンタゴニスト」または「TLR3と反応性の」化合物は、TLR3の生物活性またはTLR3受容体の活性化を直接的または間接的に、実質的に対抗し、減少させ、または阻害することができる分子を記載する。そのようなアンタゴニストは例えば、低有機分子、ペプチド、ポリペプチド、融合タンパク質、抗体、抗体フラグメント、ミメティボディまたはポリヌクレオチドであることができる。
【0026】
本明細書で使用する用語「抗体」は広い概念を意味し、そしてポリクローナル抗体、マウス、ヒト、ヒトに適合した、ヒト化およびキメラモノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体、および抗体フラグメントを含め、免疫グロブリンまたは抗体分子を含む。
【0027】
一般に、抗体は特異的抗原への結合特異性を表すタンパク質またはペプチド鎖である。完全な抗体は、2つの同一の軽鎖および2つの同一の重鎖からなるヘテロ四量体の糖タンパク質である。典型的には、各軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合により重鎖に連結され、一方、多数のジスルフィド結合は種々を免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で変動する。各重鎖および軽鎖も、規則的に間隔が空いた鎖内ジスルフィド橋を有する。各重鎖は1つの末端に可変性ドメイン(VH)、続いて多数の定常ドメインを有する。各軽鎖は1つの末端に可変性ドメイン(VL)を、そしてそのもう1つの末端に定常ドメインを有し;軽鎖の定常ドメインは重鎖の第1定常ドメインと並び、そして軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと並ぶ。任意の脊椎動物種の抗体軽鎖は、2つの明確に異なる型の1つ、すなわちカッパ(κ)およびラムダ(λ)に、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づき割り当てることができる。
【0028】
免疫グロブリンは、5つの主要クラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMに重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に基づき割り当てることができる。IgAおよびIgGはさらにアイソタイプIgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4と細分される。
【0029】
用語「抗体フラグメント」とは完全な抗体の一部、一般に完全な抗体の抗原結合または可変領域を意味する。抗原フラグメントの例には、Fab、Fab’、F(ab’)2およびFvフラグメント、ダイアボディ、単鎖抗体分子および少なくとも2つの完全な抗体から形成された多重特異的抗体を含む。
【0030】
本明細書で使用する用語「抗原」は、直接的または間接的のいずれかで抗体を生成する能力を有する任意の分子を意味する(あるいは免疫原と呼ばれる)。「抗原」の定義に含まれるのは、タンパク質をコードする核酸である。
【0031】
「CDR」は、免疫グロブリン重鎖および軽鎖の超可変領域である抗体の相補性決定領域のアミノ酸配列と定義される。例えばKabat et al.,免疫学的に興味深いタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)、第4版、米国 保健福祉省、国立衛生研究所(1987)を参照にされたい。免疫グロブリンの可変部分には3つの重鎖および3つの軽鎖CDRまたはCDR領域がある。すなわち本明細書で使用する「CDR」は、すべての3種の重鎖CDR、またはすべての3種の軽鎖CDR、または適切ならばすべての重鎖およびすべての軽鎖CDRを指す。
【0032】
CDRは抗体を抗原またはエピトープへ結合させるための接触残基の大部分を提供する。本発明の目的のCDRは、供与体抗体の可変重鎖および軽鎖配列から誘導され、そして自然に存在するCDRの類似体を含み、その類似体もそれらが誘導される供与体抗体と同
じ抗原結合特異性および/または中和能力を共有または保有する。
【0033】
本明細書で使用する用語「上皮細胞」は、動物の自由な(free)表面(例えば皮膚)または管もしくは腔(例えば結腸)の内張りの一部を覆う膜様の細胞組織に由来する細胞を意味する。そのような細胞は組織、器官またはこれらのインビトロモデルで見いだされるもののような、より高度に組織化された細胞群から単離されるか、または一部を含んでなることができる。
【0034】
用語「相同体」は、参照する配列と40%から100%の間の配列同一性を有するタンパク質配列を意味する。hTLR3の相同体には、既知のhTLR3配列と40%から100%の間の配列同一性を有する他の種に由来するポリペプチドを含む。2つのペプチド鎖間の同一性のパーセントは、Vector NTI v.9.0.0(インビトロジェン社(Invitroden Corp)、カールスバット、カナダ)のAlignXモジュールのデフォルト設定を使用して、対合様式の配列により測定することができる。「TLR3」は、hTLR3およびその相同体を意味する。完全長のヒトTLR3のアミノ酸配列およびコードするポリヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号1および2に示す。
【0035】
本明細書で使用する用語「組み合わせて」とは、記載する作用物質が、動物に混合物中で一緒に、単一の作用物質として同時に、あるいは単一の作用物質を任意の順序で順次に投与することができることを意味する。
【0036】
本明細書で使用する用語「炎症状態」とは、一部がサイトカイン、ケモカインまたは炎症性細胞(例えば好中球、単球およびリンパ球)の活性により媒介される細胞の損傷に対する局所的応答を意味し、これはほとんどの場合、疼痛、紅赤、腫張および組織機能の損失を特徴とする。本明細書で使用する用語「炎症性の肺状態」とは、肺に影響を及ぼす、または関連する炎症状態を意味する。
【0037】
本明細書で使用する用語「ミメティボディ」は、一般式(I):
(V1−Pep−Lk−V2−Hg−CH2−CH3)(t)
(I)
を有するタンパク質を意味し、式中、V1は免疫グロブリン可変領域のN−末端の一部であり、Pepは細胞表面のTLR3に結合するポリペプチドであり、Lkはポリペプチドまたは化学的結合であり、V2は免疫グロブリン可変領域のC−末端の一部であり、Hgは免疫グロブリンはヒンジ領域の一部であり、CH2は免疫グロブリン重鎖CH2定常領域であり、そしてCH3は免疫グロブリン重鎖CH3定常領域であり、そしてtは独立して1から10の整数である。ミメティボディは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgM、IgDおよびIgEのような種々の型の免疫グロブリン分子の特性および機能を、構築物中に存在する重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に依存して模することができる。幾つかのミメティボディの態様では、V1が不存在であり得る。本発明のミメティボディアンタゴニストは、細胞表面のTLR3への結合を介してTLR3の生物学的活性に影響を及ぼす。
【0038】
本明細書で使用する用語「モノクローナル抗体」(mAb)は、実質的に均一な抗体の集団から得た抗体(または抗体フラグメント)を意味する。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、典型的には単一の抗原決定基に対して向けられている。モデファイヤー(modifier)「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な特性を示し、そして任意の特定の方法による抗体の生産を必要としない。例えばマウスmAbはKohler
et al.,Nature 256:495−497(1975)のハイブリドーマ法により作成することができる。供与体抗体(多くはマウス)の軽鎖および重鎖可変領域を、受容体抗体(多くはヒトのような別の哺乳動物種)に由来する軽鎖および重鎖定常領域
と一緒に含有するキメラmAbは、米国特許第4,816,567号明細書に開示されている方法により調製することができる。非ヒト供与体の免疫グロブリン(多くはマウス)に由来するCDRを有し、そして分子の残る免疫グロブリンに由来する部分は1もしくは複数のヒト免疫グロブリンに由来するヒトに適合したmAbは、米国特許第5,225,539号明細書に開示されているように当業者に知られている技法により調製することができる。場合によりヒトに適合したmAbは、Queen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA),86:10029−10032(1989)、およびHodgson et al.,Bio/Technology,9:421(1991)に開示されたような技術により、結合親和性を保存するために改変された骨格を支持する残基を包含することによりさらに修飾することができる。
【0039】
ヒトに適合させるために有用なヒト骨格配列の例は、例えば
www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi;
www.ncbi.nih.gov/igblast; www.atcc.org/phage/hdb.html; www.mrc−cpe.cam.ac.uk/ALIGNMENTS.php; www.kabatdatabase.com/top.html; ftp.ncbi.nih.gov/repository/kabat;
www.sciquest.com; www.abcam.com; www.antibodyresource.com/onlinecomp.html; www.public.iastate.edu〜pedro/research_tools.html; www.whfreeman.com/immunology/CH05/kuby05.htm; www.hhmi.org/grants/lectures/1996/vlab; www.path.cam.ac.uk〜mrc7/mikeimages.html; mcb.harvard.edu/BioLinks/Immunology.html; www.immunologylink.com; pathbox.wustl.edu〜hcenter/index.html; www.appliedbiosystems.com; www.nal.usda.gov/awic/pubs/antibody; www.m.ehime−u.ac.jp〜yasuhito/Elisa.html; www.biodesign.com;
www.cancerresearchuk.org; www.biotech.ufl.edu; www.isac−net.org; baserv.uci.kun.nl〜jraats/links1.html; www.recab.uni−hd.de/immuno.bme.nwu.edu; www.mrc−cpe.cam.ac.uk; www.ibt.unam.mx/vir/V_mice.html; http://www.bioinf.org.uk/abs; antibody.bath.ac.uk; www.unizh.ch; www.cryst.bbk.ac.uk〜ubcg07s; www.nimr.mrc.ac.uk/CC/ccaewg/ccaewg.html; www.path.cam.ac.uk〜mrc7/humanisation/TAHHP.html; www.ibt.unam.mx/vir/structure/stat_aim.html; www.biosci.missouri.edu/smithgp/index.html; www.jerini.de; imgt.cines.fr; およびKabat et al.,免疫学的に興味深いタンパク質の配列、米国保健省(1987)に開示され、これらは全部、参照により本明細書に編入する。
【0040】
いかなる非ヒト配列も含まない完全なヒトmAbは、ヒト免疫グロブリントランスジェニックマウスから、例えばLonberg et al.,Nature 368:856−859(1994);Fishwind et al.,Nature Biotechnology 14:845−851(1996)およびMendez et al.,Nature Genetics 15:146−156(1997)を参照とした
技法により調製することができる。またヒトmAbは、例えばKnappik et al.,J.Mol.Biol.296:57−86(2000)およびKrebs et
al.,J.Immunol.Meth.254:67−84(2001)を参照にした技法によりファージディスプレイライブラリーから調製し、そして至適化することができる。
【0041】
本明細書で使用する用語「増殖率」とは、単位時間あたりの細胞数の変化、または単位時間あたりに細胞サイクルを通して細胞分裂に向かう進行のマーカーを現す細胞数の変化を指す。そのようなマーカーは形態学的でよく、DNA複製の指標または発現された遺伝子産物でよい。
【0042】
本明細書で使用する用語「TLR3の生物活性」または「TLR3受容体の活性化」は、細胞表面のTLR3に結合するリガンドの結果として生じる任意の活性を指す。
【0043】
従来の1もしくは3文字アミノ酸暗号を以下のように本明細書では使用する:
アミノ酸 3文字暗号 1文字暗号
アラニン ala A
アルギニン arg R
アスパラギン asn N
アスパルテート asp D
システイン cys C
グルタメート glu E
グルタミン gln Q
グリシン gly G
ヒスチジン his H
イソロイシン ile I
ロイシン leu L
リシン lys K
メチオニン met M
フェニルアラニン phe F
プロリン pro P
セリン ser S
トレオニン thr T
トリプトファン trp W
チロシン tyr Y
バリン val V
【0044】
主題の組成物
本発明は、TLR3受容体が媒介するシグナリングを阻害することができるアンタゴニスト、およびそのようなアンタゴニストの使用に関する。そのようなTLR3アンタゴニストはTLR3受容体に結合し、そしてTLR3受容体が媒介するシグナリングを阻害する特性を有することができる。そのようなアンタゴニストにより阻害され得るTLR3シグナリングによるメカニズムの例には、キナーゼ活性の阻害、転写の減少または受容体アタゴニスト作用がある。他のメカニズムによりTLR3受容体が媒介するシグナリングを阻害することができる他のアンタゴニストも本発明の種々の観点および態様の範囲内である。これらのアンタゴニストは、研究試薬、診断試薬および治療薬として有用である。
【0045】
本発明の1つの観点は、RANTES(活性化について調節された、正常T細胞発現型および分泌型:Regulated on Activation,Normal T−cell Expressed and Secretid)サイトカインの細胞生産を
阻害するToll様受容体3(TLR3)のアンタゴニストである。本発明の別の観点は、RANTESおよびインターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)およびマクロファージ炎症タンパク質−1アルファ(MIP1−アルァ)からなる群から選択されるサイトカインの細胞生産を阻害するTLR3のアンタゴニストである。
【0046】
別の観点では、本発明は配列番号9(VH CDR1)、11(VH CDR2)および13(VH CDR3)に示す重鎖相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列、および配列番号19(VL CDR1)、21(VL CDR2)および23(VL CDR3)に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を有するモノクローナル抗体の抗原結合能力を有するTLR3と反応性の単離された抗体を提供する。抗体の例は、配列番号9、11および13に示す重鎖CDRのアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなるモノクローナル抗体である。
【0047】
本発明の別の観点は、配列番号6に示すアミノ酸配列を有するVH、および配列番号16に示すアミノ酸配列を有するVLを含んでなるTLR3と反応性の単離された抗体である。
【0048】
本発明の別の観点は、本発明の抗体または他のタンパク質TLR3アンタゴニストをコードする単離されたポリヌクレオチドまたはその相補鎖である。特定の例のポリヌクレオチドを本明細書で開示するが、遺伝子暗号の縮重または所定の発現系における暗号の優先性(preference)を仮定して、本発明の抗体または他のタンパク質TLR3アンタゴニストをコードする他のポリヌクレオチドも本発明の範囲内にある。
【0049】
本発明の別の観点は、配列番号9、11および13に示されるCDRアミノ酸配列を含んでなる抗体重鎖である。
【0050】
本発明の別の観点は、配列番号19、21および23に示されるCDRアミノ酸配列を含んでなる抗体軽鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドである。
【0051】
本発明の別の観点は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を含んでなる抗体重鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチド配列の例は配列番号5に示される。
【0052】
本発明の別の観点は、配列番号16に示されるアミノ酸配列を含んでなる抗体軽鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチド配列の例は配列番号15に示される。
【0053】
本発明の別の観点は、配列番号25、27、29または31に示されるVHアミノ酸配列、および配列番号33、35、37または39に示されるVLアミノ酸配列を含んでなるヒトに適合したmAbである。配列番号25、27、29および31に示されるVHアミノ酸配列、および配列番号33、35、37および39に示されるVLアミノ酸配列をコードする単離されたポリヌクレオチドも、本発明の観点である。これらのヒトに適合したmAbは、配列番号9、11および13に示されるVH CDRアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示されるVL CDRアミノ酸配列を含んでなる。配列番号25、27、29および31のVHアミノ酸配列をコードする核酸配列の例は、配列番号26、28、30および32にそれぞれ示される。配列番号33、35、37および39のVLアミノ酸配列をコードする核酸配列の例は、配列番号34、36、38および40にそれぞれ示される。本発明のヒトに適合したモノクローナル抗体の1つの特定の態様は配列番号25に示すVHアミノ酸配列、および配列番号33に示されるVLアミノ酸配列を含んでなる。
【0054】
本発明の別の態様は、式(I):
Thr Thr Tyr Trp Xaa1 His
(I)
式中、Xaa1はIleまたはMetである
で示されるVH CDR1アミノ酸配列(配列番号61);
式(II):
Glu Ile Asn Pro Asn Asn Gly Arg Ile Asn
Xaa2 Xaa3 Glu Lys Xaa4 Lys Thr
(II)
式中、Xaa2はTyrまたはGlyであり、Xaa3はAsnまたはAlaであり、そしてXaa4はPheまたはGlyである、
で示されるVH CDR2アミノ酸配列(配列番号62);および
式(III):
Val Gly Val Xaa5 Ile Thr Thr Phe Pro Tyr
(III)
式中、Xaa5はMetまたはIleである、
で示されるVH CDR3アミノ酸配列(配列番号63);
および配列番号19、21および23に示されるアミノ酸配列を有するVL CDR、を有する単離された抗体である。
【0055】
例となる種には、配列番号33に示されるVLアミノ酸配列、および式(I)のVL−CDR1を含んでなるVHアミノ酸配列を有する抗体を含み、式中、Xaa1がMetであり、そしてVL−CDR2およびVL−CDR3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号11および13に示される(配列番号45、例示の核酸は配列番号46に示されている)。この種ではXaa1がMetであり、;Xaa2がTyrであり;Xaa3がAsnであり;Xaa4がPheであり;そしてXaa5がMetである。
【0056】
別の例となる種には、配列番号33に示されるVLアミノ酸配列、および配列番号9および13にそれぞれ示されるVH−CDR1およびVH−CDR3のアミノ酸配列、および式(II):
式中、Xaa2がGlyであり、Xaa3がAsnであり、そしてXaa4がPheである(配列番号47;例示の核酸配列は配列番号48に示される);
Xaa2がTyrであり、Xaa3がAlaであり、そしてXaa4がPheである(配列番号49;例示の核酸配列は配列番号50に示される);および
Xaa2がTyrであり、Xaa3がAsnであり、そしてXaa4がGlyである(配列番号51、例示の核酸配列は配列番号52に示される)
のVH−CDR2を含んでなるVHアミノ酸配列、
を有する抗体を含む。
【0057】
別の例となる種には、配列番号33に示されるVLアミノ酸配列、および配列番号9および11にそれぞれ示すようなVH−CDR1およびVH−CDR2のアミノ酸配列、および式(III)のVH−CDR3(式中、Xaa5がIleである)のVH−CDR3を含んでなるVHアミノ酸配列を有する抗体を含む(配列番号53、例示の核酸配列は配列番号54に示されている)。
【0058】
まとめると、例となる種には以下のVLおよびVHアミノ酸配列の組み合わせの1つを有する抗体を含む:
VL配列番号: VH配列番号:
33 45
33 47
33 49
33 51
33 53
【0059】
本発明はさらにVHが配列番号45、47、49、51または53に示されるアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33、35、37または39に示されるアミノ酸配列を有する単離された抗体を含む。
【0060】
抗体アンタゴニストの例は、IgG、IgD、IgGAまたはIgMアイソタイプの抗体であることができる。さらに、そのようなアンタゴニスト抗体は、グリコシル化、イソメリゼーション、脱グリコシル化または自然には起こらないポリエチレングリコール部分の付加(ペギレーション:pegylation)のような共有的修飾および脂質化のようなプロセスにより翻訳後に修飾され得る。そのような修飾はインビボまたはインビトロで起こり得る。例えば本発明の抗体はポリエチレングリコールに結合させて(PEG化:PEGylated)、それらの薬物動態学的プロファイルを改善することができる。結合は当業者に知られている技法により行うことができる。PEGを用いた治療用抗体の結合は、薬物動態を強化するが機能は妨害しないことが示された。Deckert et al.,Int.J.Cancer 87:382−390,2000;Knight et al.,Platelets 15:409−418,2004;Leong et al.,Cytokine 16:106−119,2001;およびYang et al.,Protein Eng.16;761−770、2003を参照にされたい。
【0061】
本発明の抗体の薬物動態学的特性は、当業者に知られている技術によりFc修飾を介して強化することもできる。例えばIgG4アイソタイプ重鎖は、重鎖間または内のいずれかのジスルフィド結合を形成することができるそれらのヒンジ領域中のCys−Pro−Ser−Cys(CPSC)モチーフを含み、すなわちCPSCモチーフ中の2つのCys残基は、他の重鎖中の対応するCys残基とジスルフィド結合することができ(重鎖間)、または所定のCPSCモチーフ内の2つのCys残基が互いにジスルフィド結合することができる(重鎖内)。インビボのイソメラーゼ酵素はIgG4分子の重鎖内結合を重鎖間結合に、またはその逆に転換することができると考えられる(Aalberse and Schuurman,Immunology 105:9−19,2002)。したがってこのようなIgG4分子内の重:軽鎖(HL)対のヒンジ領域中の重鎖内結合との対は互いに共有的に会合していないので、それらはHLモノマーに解離することができ、それは次いで他のIgG4分子に由来するHLモノマーと再会合し、二重特異的なヘテロ二量体のIgG4分子を形成する。二重特異的IgG抗体では、抗体分子の2つのFabがそれらが結合するエピトープで異なる。IgG4のヒンジ領域のSer228をProに置き換えて「IgG1様の挙動」を生じ、すなわち分子が重鎖間で安定なジスルフィド結合を形成し、したがって他のIgG4分子とHL交換することはできない。1つの態様では、本発明の抗体はS228P突然変異を有するIgG4 Fcドメインを含んでなる。
【0062】
さらに本発明の抗体中のFcRn救済(salvage)受容体以外のFc受容体への結合に影響を及ぼす部位を除去することができる。例えばADCC活性に関与するFc受容体は、本発明の抗体から除去することができる。例えばIgG1のヒンジ領域のLeu234/Leu235のL234A/L235Aへの、またはIgG4のヒンジ領域のPhe234/Leu235のP234A/L235Aへの突然変異は、FcR結合を最少とし、そして免疫グロブリンが補体依存的な細胞傷害性およびADCCを媒介する能力を
減らす。1つの態様では、本発明の抗体はP234A/L235A突然変を含むIgG4
Fcドメインを含んでなる。
【0063】
本発明の別の態様では、抗体はS108P、P114AおよびL115A突然変異を有するIgG4 Fcドメインを含んでなり、Fcドメインは配列番号41に示すアミノ酸配列を有する。配列番号41をコードする核酸配列の例は、配列番号42に示されている。完全長のIgG4重鎖では、突然変異の座標はS228P、P234AおよびL235Aである。
【0064】
完全にヒトの、ヒトに適合した、ヒト化および親和性が成熟した(affinity−matured)抗体分子または抗体フラグメントは、ミメティボディ、融合タンパク質およびキメラタンパク質として本発明の範囲内にある。
【0065】
本発明のアンタゴニストは、TLR3と約10−7、10−8、10−9、10−10、10−11または10−12M以下のKdで結合することができる。所定の分子のhTLR3のようなTLR3受容体に対する親和性は、任意の適切な方法を使用して実験的に決定することができる。そのような方法は、当業者に知られているBiacoreまたはKinExA装置、ELISAまたは競合的結合アッセイを利用することができる。
【0066】
所望する親和性で所定のTLR3相同体と結合するアンタゴニスト分子は、抗体親和性成熟を含む技術、および非抗体分子に適切な他の技術的に知られている技法によりバリアントまたはフラグメントのライブラリーから選択することができる。
【0067】
本発明の別の態様は、本発明の少なくとも1つのポリヌクレオチドを含んでなるベクターである。そのようなベクターはプラスミドベクター、ウイルスベクター、トランスポゾンに基づくベクター、または本発明のポリヌクレオチドを所定の生物または遺伝的バックグラウンドに任意の手段で導入するために適する他のベクターでよい。
【0068】
本発明の別の態様は、配列番号9、配列番号11および配列番号13を含んでなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および配列番号19、配列番号21および配列番号23を含んでなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのような本発明の任意のポリヌクレオチドを含んでなる宿主細胞である。他の宿主細胞の例は、配列番号25、27、29、31、45、47、49、51または53の1つを含んでなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および配列番号33、35、37または39を含んでなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなる。そのような宿主細胞は真核細胞、細菌細胞、植物細胞または古細菌(archeal)細胞でよい。真核細胞の例は、哺乳動物、昆虫、鳥類または他の動物起源でよい。哺乳動物の真核細胞には、SP2/0(アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、マナッサス、バージニア州、CRL−1581)、NS0(ヨーロピアンコレクションオブセルカルチャー(ECACC)、ソールズベリー、ウィルトショア、英国、ECACC No.85110503)、FO(ATCC CRL−1646)およびAg653(ATCC CRL−1580)マウス細胞株を初めとするハイブリドーマまたはミエローマ細胞株のような不死化細胞株を含む。ヒトミエローマ細胞株の例は、U266(ATTC CRL−TIB−196)である。他の有用な細胞株には、CHO−K1(ATCC CRL−61)のようなチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはDG44に由来するものを含む。
【0069】
本発明の別の態様は、本発明の宿主細胞を培養し、そして宿主細胞により生産される抗体を回収することを含んでなるTLR3と反応性の抗体の作成法である。そのような抗体は、以下の配列番号6および16にそれぞれ示されるような重および軽アミノ酸配列を含んでなるmAb1068、または配列番号25、27、29、31、45、47、49、
51または53に示される重鎖アミノ酸配列、および配列番号33、35、37または39に示される軽鎖アミノ酸配列を含んでなるmAb1068のヒト適合化、もしくはヒトに適合したCDRバリアントに例示されるTLR3アンタゴニスト抗体であり得る。
【0070】
本発明の別の態様は、本発明の抗体を生産するハイブリドーマ細胞株である。
【0071】
処置法
本発明はTLR3活性の弱化(attenuation)が望ましい状態を防止し、そして処置する方法を提供する。TLR3アンタゴニストで処置または防止することができる状態には、サイトカインにより媒介される状態、およびTLR3の活性化またはTLR3経路を介するシグナリングから全部または一部生じる状態を含む。本発明はRANTESまたはIL−6、IL−8もしくはMIP1−アルファと一緒にRANTESの細胞生産を阻害する方法を含み、この方法は本明細書に開示する単離された抗体のようなTLR3アンタゴニストを、TLR3受容体を発現する細胞と、これらのサイトカインの生産を阻害するために十分な時間、接触させることを含んでなる。
【0072】
本発明の方法は任意の分類に属する動物患者を処置するために使用することができる。そのような動物の例にはヒト、齧歯類、イヌ、ネコおよび家畜動物のような哺乳動物、ならびに鳥、爬虫類および魚のような他の動物種を含む。いかなる特定の理論とも結び付けられることを望まないが、TLR3アンタゴニストの治療的利益は、そのようなアンタゴニストが幾つかの炎症状態に関与する炎症性ケモカインおよびサイトカインの分泌を阻害する能力によると考えられている。またTLR3アンタゴニストの治療的利益は、そのようなアンタゴニストが細胞増殖を上げ、すなわち組織修復を促進する能力によるとも考えられている。
【0073】
例えば本発明の方法は、患者の炎症状態を処置または防止し、そして組織修復(外傷後の創傷または火傷の治癒のような)を促進するために有用である。さらに本発明の方法はインビトロで細胞密度も提供する。
【0074】
任意のTLR3アンタゴニストを本発明の防止および処置法に使用することができる。1例として本明細書に開示する任意の単離された抗体は、炎症状態の処置または防止、あるいは組織修復の促進にTLR3アンタゴニストとして有用である。特に、配列番号9、配列番号11および配列番号13に示すVH CDRアミノ酸配列、および配列番号19、配列番号21および配列番号23に示すVL CDRアミノ酸配列を含んでなるモノクローナル抗体の抗原結合能を有するTLR3と反応性の単離された抗体は有用である。他の有用な抗体は配列番号25、27、29、31、45、47、49、51または53に示されるアミノ酸配列を有するVH、および配列番号33、35、37または39に示すアミノ酸配列を有するVLを含んでなる。
【0075】
所定の炎症状態を処置または防止するために十分な所定のTLR3アンタゴニストの量は、容易に決定できる。本発明の方法では、TLR3アンタゴニストは単一で、または少なくとも1つの他の分子と組み合わせて投与され得る。そのようなさらなる分子は他のTLR3アンタゴニスト分子またはTLR3受容体シグナリングにより媒介されない治療的利益を有する他の分子でよい。抗生物質、抗ウイルス薬、緩和剤、およびサイトカインレベルまたは活性を下げる他の化合物は、そのようなさらなる分子の例である。
【0076】
炎症状態を処置し、または防止する方法の別の態様では、TLR3活性がTLR3遺伝子発現を阻害することより減少される。TLR3遺伝子発現は、TLR3媒介シグナリングを阻害するために、TLR3の生物活性の発現を下げる任意の手段により阻害することができる。そのような手段には、例えばゲノムDNAを不活性化する組換えを介する遺伝
子の不活性化(例えば遺伝子ノックアウト、プロモーターハイジャキングまたは他の遺伝子突然変異誘発法)、および遺伝子転写の不活性化(例えばRNAのサイレンシングまたはアンチセンスRNA)を含む。当業者は、活性なTLR3の発現を下げるための多くの他の手段を認識している。
【0077】
このように本発明の観点は、治療に有効な量のTLR3アンタゴニストをそれが必要な患者に、炎症状態を処置または防止するために十分な時間投与することを含んでなる、炎症状態の処置法または防止法である。
【0078】
そのような炎症状態の1例は敗血症に伴う状態である。敗血症は感染に対する全身的応答であり、これは重篤な場合には臓器不全および死を引き起こす。敗血症は医学的にはウイルス、細菌、真菌または寄生生物感染から生じる全身性の炎症応答症候群(SIRS)と定義されている。ウイルス、細菌、真菌または寄生生物感染により、および壊死細胞により放出されるdsRNAは、敗血症の発生に貢献し得る。敗血症に伴う状態にはSIRS、敗血症ショックまたは多臓器不全症候群(MODS)が含まれ得る。いかなる理論とも結び付けられることを望まないが、TLR3アンタゴニストを用いた処置は、敗血症に伴う炎症状態に罹患している患者の生存時間を延ばし、または局所的な炎症反応(例えば脚)が全身状態へと広がることを防ぐことにより、生来の抗微生物活性を強化することにより、抗微生物剤と組み合わせた時に相乗的活性を示すことにより、病気に貢献する局所的炎症状態を最少にすることにより、あるいは前記の任意の組み合わせにより治療的利益を提供することができると考えられている。そのような介入は、患者の生存を確実とするために必要なさらなる処置(例えば元にある感染の処置またはサイトカインレベルの減少)を可能にするために十分となるだろう。
【0079】
そのような炎症状態の別の例は、炎症性腸疾患である。炎症性腸疾患は、クローン病または潰瘍性大腸炎であり得る。当業者は腸の炎症を引き起こす病因が既知または未知である他の炎症性腸疾患を認識している。さらにTLR3アンタゴニストは、強直性脊椎炎、仙腸骨炎および乾癬性脊椎関節炎(spondyloarthritis)を含む鉛関節痛および関節炎のような潰瘍性大腸炎またはクローン病と関連する腸管外の後遺症(extraintestinal sequelae)の処置および防止に有用である。他の腸管外後遺症には、口内炎、結節性紅斑(痛い硬化した卵形の結節の発生)、および皮膚の深い重篤な潰瘍形成を特徴とする壊死性膿皮症のような粘膜の損傷;上強膜炎、虹彩炎およびブドウ膜炎のような目の合併症;腎石症のような腎臓疾患;原発性硬化性胆管炎、潰瘍性大腸炎、クローン病に伴う線維化炎症を特徴とする慢性肝臓疾患のような肝胆管(hepatobiliary)疾患;ならびに骨粗鬆症および長期コルチコステロイド使用の合併として起こる骨減少を含む骨の疾患がある。さらに含まれるのは間質性肺炎、気管狭窄、気管支炎、器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎、肺脈管炎、サルコイドーシス、慢性気管支炎、および好酸球増加症を伴う肺の浸潤物を示す臨床的状態を含むIBD−誘導型の肺機能不全および呼吸障害である。
【0080】
そのような炎症状態の別の例は、感染に伴う状態である。感染に伴う状態には重篤な肺炎、嚢胞性線維症、気管支炎、気道の増悪および急性呼吸促迫症候群(ARDS)を含めウイルスまたは細菌性肺炎を含むことができる。そのような感染に伴う状態は原発性ウイルス感染および2次的な細菌感染のような多重感染が関与し得る。
【0081】
そのような炎症状態の別の例は、炎症性の肺状態である。例示される炎症性の肺状態には、ウイルス、細菌、真菌、寄生生物またはプリオン感染に関連するものを含め、感染により誘導される肺の状態;アレルゲンに誘導される肺の状態;石綿症、珪肺症またはベリリウム症のような汚染物質に誘導される肺の状態;胃の吸引に誘導される肺の状態;免疫脱調節(dysregulation);嚢胞性線維症のような遺伝的に誘導される炎症
性の肺状態;および人工呼吸器のような物理的外傷が誘導する肺の状態を含む。これらの炎症状態には喘息、気腫、気管支炎、COPD、サルコイドーシス、組織球増加症、リンパ脈管筋腫症(lympangiomyomatosis)、急性肺損傷、急性呼吸促迫症候群、慢性肺疾患、気管支肺形成異常、市中肺炎、院内肺炎、人工呼吸器に伴う肺炎、敗血症、ウイルス性肺炎、インフルエンザ感染、パラインフルエンザ感染、ヒトメタニューモウイルス感染、RSウイルス感染およびアルペルギルスまたは他の真菌感染も含む。
【0082】
そのような炎症状態の別の例は、2型糖尿病、肥満、脂質代謝異常およびメタボリックシンドロームである。TLR3アンタゴニストは、肥満およびインスリン抵抗性に伴う炎症プロセスの阻害に有用である。TLR3シグナリングの阻害は、患者の脂質プロファイルを改善し、すなわち総コレステロールレベルを下げ、そしてHDlc/LDLc比を上げる。またTLR3シグナリングの阻害はインスリンの分泌の上昇を導き、すなわちインスリン抵抗性に改善を導く。2型糖尿病の現行処置は、低血糖および体重増加を含め様々な悪い副作用を伴う。2型糖尿病の処置にTLR3アンタゴニストを使用することは、より少ない副作用および持続的な薬物動態学的プロファイルを有することが期待される。さらに本発明の単離された抗体のような長期循環半減期を有する化合物での処置は、まれな投与を要するだろう。
【0083】
さらに脂質プロファイルにおける改善は、アテローム硬化症のような肥満および2型糖尿病に関連する心血管疾患の発生を遅らせるか、または防止すると思われる。加えてTLR3シグナリングの阻害は、膵臓小島細胞への直接的効果を介して、または脂質プロファイルに影響を及ぼし、そして高脂質レベルにより誘導される悪化から小島を保護することによるいずれかでインスリンの循環レベルに上昇をもたらすことができる。したがってTLR3阻害は単独または他の治療と組み合わせて、2型糖尿病におけるインスリン処置の導入を遅らせ、そしてインスリン処置に伴う望ましくない副作用を回避すると思われる。
【0084】
さらにC型肝炎およびHIV感染の患者は、肝臓における脂質の蓄積、あるいは処置薬から生じる硬化または繊維症により、インスリン刺激に対する肝臓の反応の無能により、インスリン抵抗性および2型糖尿病を発生する傾向がある。TLR3アンタゴニストによるTLR3シグナリングの阻害は、この高度に障害のある(compromised)患者群において感染およびインスリン抵抗性の両方を標的とすることができる。
【0085】
本発明の方法により防止または処置できる他の炎症状態およびニューロパシーには、多発性硬化症、硬化症狼瘡エリテマトーデス、およびアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、双極性障害および筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む神経変性および中枢神経系(CNS)障害、繊維症、C型肝炎ウイルス(HCV)およびB型肝炎ウイルス(HBV)を含む肝臓疾患、関節炎、慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎および若年性関節炎(JRA)、骨粗鬆症、変形性関節炎、膵炎、繊維症、脳炎、乾癬、巨細胞性動脈炎、強直性脊椎炎、自己免疫肝炎、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)、炎症性の皮膚状態、臓器移植、癌、アレルギー、内分泌疾患、他の自己免疫障害および気道の超反応性(airway hyper−responsiveness)を含む。
【0086】
本発明の別の観点は、細胞の増殖率を上げる方法であり、この方法は細胞におけるTLR3活性を例えば細胞をTLR3アンタゴニストと接触させることにより下げることを含んでなる。本発明のこの観点の1つの態様では、細胞は上皮または結腸組織のような組織に由来することができる。上皮細胞は例えば胃腸管上皮、皮膚上皮、肺上皮または気管支肺上皮のような任意の上皮組織から生じ得る。炎症状態は例えば心組織および胃腸管の組織のような任意の組織に影響を及ぼすことができ、正常組織から構造的および機能的逸脱を生じる。場合により、そのような炎症状態は遺伝的因子または感染の結果であり得る。別の状況では、そのような炎症状態は例えば火傷のような外的損傷の結果であり得る。当
業者は多くの異なる炎症状態および関与する種々の組織により現される関連する病状を認識している。
【0087】
本発明の別の観点は、細胞死から生じる状態を処置する方法であり、この方法は治療に有効な量のTLR3アンタゴニストを処置が必要な患者に、症状を処置するために十分な時間投与することを含んでなる。
【0088】
本発明の別の観点は、細胞死から生じる状態を防止する方法であり、この方法は治療に有効な量のTLR3アンタゴニストを防止が必要な患者に、状態を防止するために十分な時間投与することを含んでなる。
【0089】
投与/製薬学的組成物
本発明のアンタゴニストの治療的使用に関する投与様式は、作用物質を宿主に送達する任意の適当な経路でよい。タンパク質、抗体、抗体フラグメントおよびミメティボディおよびこれらの作用物質の製薬学的組成物は、非経口投与、すなわち皮下、筋肉内、皮内、静脈内、鼻内に、または吸引により投与するために特に有用である。
【0090】
本発明のアンタゴニストは、有効成分として有効量のアンタゴニストを製薬学的に許容され得る担体中に含有する製薬学的組成物として調製され得る。注入の準備ができているアンタゴニストを含有する水性の懸濁液または溶液、好ましくは生理学的pHで緩衝化されているものが好ましい。非経口投与用の組成物は通常、製薬学的に許容され得る担体、好ましくは水性担体に溶解された本発明のアンタゴニストの溶液またはそのカクテルを含んでなる。種々の水性担体、例えば0.4%塩水、0.3%グリシン等を使用することができる。これらの溶液は滅菌されており、そして一般に粒状物質を含まない。これらの溶液は通例の周知の滅菌技法(例えば濾過)により滅菌することができる。組成物はpH調整および緩衝化剤等のような生理学的条件に近づけるために必要な製薬学的に許容され得る補助物質を含むことができる。そのような製剤中の本発明のアンタゴニストの濃度は大変広く変動でき、すなわち約0.5%未満から、通常少なくとも約1%から多くても15もしくは20重量%であり、そして主に選択した特定の投与様式に従い、主に流体容量、粘度等に基づき選択される。
【0091】
このように筋肉内注射用の本発明の製薬学的組成物は、1mLの滅菌緩衝化水および約1ngから約100mgの間、例えば約50ng〜約30mg、またはさらに好ましくは約5mg〜約25mgの本発明のアンタゴニストを含むように調製することができる。同様に静脈内注入用の本発明の製薬学的組成物は、約250mlの滅菌リンゲル溶液および約1mg〜約30mg、そして好ましくは5mg〜約25mgの本発明のアンタゴニストを含むように作成することができる。非経口的に投与可能な組成物を調製する実際の方法は周知であり、そして例えば「レミングトンの製薬科学(Remington’s Pharmaceutical Science)」第15版、マック出版社(Mack Publishing Company)、イーストン、ペンシルバニア州にさらに詳細に記載されている。
【0092】
本発明のアンタゴニストは、製薬学的調製物中にある時、単位剤形で存在することができる。適切な治療に有効な用量は、当業者により容易に決定されることができる。決定された用量が、必要に応じて適切に選択された適切な時間間隔で医師により処置期間中、繰り返される。
【0093】
本発明のアンタゴニストは保存用に凍結乾燥され、そして使用前に適切な担体中で再構成され得る。この技術は通常の免疫グロブリンおよびタンパク質調製物を用いて効果的であることがすでに示され、そして技術的に知られている凍結乾燥および再構成技術を使用
することができる。
【0094】
アンタゴニストは、そのような分子を細胞に提供する任意の技術により投与され得る。細胞に関してはインビトロのアンタゴニスト投与は、例えば培養基にアンタゴニストを補充することによるものでよい。細胞に関してインビボのアンタゴニスト投与は、例えばアンタゴニストの動物または組織への静脈内注射によるものでよい。当業者はアンタゴニストを細胞にインビトロまたはインビボで投与するための他の手段を認識している。そのような手段も上で検討した宿主に作用物質を送達するための様式を含む。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】抗−ヒトTLR3(hTLR3)モノクローナル抗体アンタゴニストに由来する重鎖可変領域配列を示す(CDRに下線を付す)。
【図2】抗−hTLR3モノクローナル抗体アンタゴニストに由来する軽鎖可変領域配列を示す(CDRに下線を付す)。
【図3】ヒト肺上皮由来細胞におけるポリ(I:C)誘導型のIL−6サイトカイン生産のTLR3アンタゴニストによる阻害を示す。
【図4】ヒト肺上皮由来細胞におけるポリ(I:C)誘導型のIL−8サイトカイン生産のTLR3アンタゴニストによる阻害を示す。
【図5】ヒト肺上皮由来細胞におけるポリ(I:C)誘導型のRANTESサイトカイン生産のTLR3アンタゴニストによる阻害を示す。
【図6】初代ヒト気管支上皮細胞におけるポリ(I:C)誘導型のMIP1−アルファサイトカイン生産のTLR3アンタゴニストによる阻害を示す。
【図7】初代ヒト気管支上皮細胞におけるポリ(I:C)誘導型のIL−6サイトカイン生産のTLR3アンタゴニストによる阻害を示す。
【図8】IBDに伴う体重減少に及ぼすTLR3活性のノックアウト効果を示す。
【図9】TLR3アンタゴニストによるIBDに伴う体重減少の抑制を示す。
【図10】TLR3アンタゴニストでの処置を介してマウス敗血症モデルにおける生存の上昇を示す。
【図11】マウス敗血症モデルにおけるIL−6サイトカイン生産のTLR3アンタゴニストによる減少を示す。
【図12】マウス敗血症モデルにおけるTNF−アルファサイトカイン生産のTLR3アンタゴニストによる減少を示す。
【図13】ポリ(I:C)が誘導するマウス肺組織における炎症細胞の総数の増加を示す。
【図14】ポリ(I:C)が誘導するマウス肺組織における好中球の増加を示す。
【図15】ポリ(I:C)が誘導するマウス肺組織における単核炎症細胞の増加を示す。
【図16】ポリ(I:C)の単回投与でのTLR3の活性化は、メタコリン対抗マウスの肺機能をさらに損傷する。
【図17】ポリ(I:C)の多回投与でのTLR3の活性化は、メタコリン対抗マウスの肺機能をさらに損傷する。
【図18】TLR3ノックアウトマウスは、メタコリン対抗中に単回のポリ(I:C)投与が誘導する肺機能の傷害から保護されることを示す。
【図19】TLR3ノックアウトマウスは、メタコリン対抗中に多回のポリ(I:C)投与が誘導する肺機能の傷害から保護されることを示す。
【図20】TLR3アンタゴニストの、ヒト肺気管支上皮細胞におけるサイトカインおよびケモカイン生産に及ぼす効果を示す。
【図21】TLR3アンタゴニストの予防および処置を介して、マウスの致死的肺炎モデルにおける生存の上昇を示す。
【図22】インフルエンザウイルスA/PR/8および肺炎双球菌(Streptococcus pneumoniae)の致死以下の用量に感染した後のマウスモデルでは致死的な肺炎の発症を示す。
【図23】インフルエンザウイルスA/PR/8および肺炎双球菌(S.pneumoniae)感染マウスの肺における細菌負荷量を示す。
【図24】図A、B、CおよびDは、ELISAアッセイにおいて、ヒトに適合した抗−TLR3 mAbのhTLR3への結合を示す。
【図25】細胞に基づくサイトカイン放出アッセイにおいて、ヒトに適合した抗−TLR3 mAbの評価を示す。
【図26】IP−10の読み取りを用いた細胞に基づく生物活性アッセイにおいて、バリアントmAb HBV1からHBV8(HBV4は除く)の評価を示す。
【図27】RANTESの読み取りを用いた細胞に基づく生物活性アッセイにおいて、バリアントmAb HBV1からHBV8(HBV4は除く)の評価を示す。
【図28】IL−8の読み取りを用いた細胞に基づく生物活性アッセイにおいて、バリアントmAb HBV1からHBV8(HBV4は除く)の評価を示す。
【図29】MCP−1の読み取りを用いた細胞に基づく生物活性アッセイにおいて、バリアントmAb HBV1からHBV8(HBV4は除く)の評価を示す。
【図30】IL−6の読み取りを用いた細胞に基づく生物活性アッセイにおいて、バリアントmAb HBV1からHBV8(HBV4は除く)の評価を示す。
【図31】AおよびBは、高脂肪食のTLR3ノックアウトマウスが、高脂肪食に伴うグルコース寛容減損の発症から保護されることを示す。
【図32】TLR3ノックアウトマウスは高脂肪食で26週間後に、正常な空腹時血中グルコースレベルを有する。
【図33】A、BおよびCは、高脂肪食で26週間後にTLR3ノックアウトマウスでのグルコース対抗前および後に、空腹時インスリンレベルの上昇を示す。
【図34】A、B、C、DおよびEは、高脂肪食の野生型マウスに比べて、30週間高脂肪食を与えたTLR3ノックアウトマウスの改善された脂質プロファイルを示す。
【図35】慢性DSS大腸炎の誘導中に、TLR3アンタゴニストで予防的に(Pr)および治療的に(T)処置するための実験プロトコールを示す。
【図36】DSS摂取の各サイクルで起こる体重減少のTLR3アンタゴニストによる保護を示す。
【図37】第2のDSSサイクル後の体重減少およびTLR3アンタゴニストによる回復を示す。
【図38】第3のDSSサイクル後の体重減少およびTLR3アンタゴニストによる回復を示す。
【図39】慢性DSS大腸炎に伴う正味の体重減少に及ぼすTLR3アンタゴニスト処置の効果を示す。
【図40】慢性DSS大腸炎に伴う結腸の短縮化に及ぼすTLR3アンタゴニスト処置の効果を示す。
【図41】A、BおよびCは、慢性DSS大腸炎の重症度に及ぼすTLR3アンタゴニスト処置の効果を示す。D、EおよびFは慢性DSS大腸炎におけるhTLR3アンタゴニスト処置の組織病理学的効果を示す。
【図42】慢性DSS大腸炎におけるT細胞活性化を示す。
【図43】脾臓でのCD11b+細胞のDSSに伴う上昇に及ぼす予防的TLR3アンタゴニスト処置の効果を示す。
【図44】慢性DSS大腸炎におけるIL−4およびIL−10の全身レベルに及ぼすTLR3アンタゴニスト処置の効果を示す。
【0096】
本発明をこれから以下の具体的な、非限定的実施例を参照にして記載する。
【実施例】
【0097】
実施例1
抗−hTLR3アンタゴニストmAbの同定
hTLR3受容体を介してシグナリングを遮断することができる抗−hTLR3アンタゴニストmAbは、細胞に基づくスクリーニングアッセイにより同定された。抗−hTLR3 mAbを生産するハイブリドーマのプールを、BALB/Cマウスで標準的技法を使用して作成した(Kohler et al.,1976)。マウスは、hTLR3のアミノ酸1−703をコードするプラスミドDNAの皮内注射によりhTLR3で免疫感作した(配列番号3)。アミノ酸1−703はhTLR3の予想される細胞外ドメインに対応する(配列番号4)。マウスには最初に10μgのプラスミドDNAを、続いて2回目に10μgのDNA注射を2週間後に注射した。15μgのDNAの追加免疫注射を、各マウスに2回目の10μgプラスミドDNA注射から2週間後に投与した。B細胞融合の3日前、マウスにリン酸緩衝化塩溶液(PBS;10mM リン酸塩、150mM NaCl、pH7.4)中の15μgのhTLR3タンパク質を静脈内注射した。次いで免疫感作したマウスからの脾臓を回収し、そしてB細胞融合を標準的方法を使用して行った(Kohler et al.,1976)。ハイブリドーマは、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジンを含有する培地を使用して選択し、そして最初に抗−TLR3抗体について酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によりスクリーニングした。抗−hTLR3 mAbを生産している個々のハイブリドーマを限界希釈法によりクローン化した。
【0098】
抗−hTLR3アンタゴニストmAbを生産しているハイブリドーマは、hTLR3を安定に過剰発現している肺上皮細胞株に由来するヒトA549を使用して、細胞に基づくスクリーニングアッセイにより同定した。スクリーニングの生成に使用したA549細胞(ATCC CRL;CCL−185)およびこれらのアッセイ用の対照細胞株は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(マナッサス、バージニア州)から得た。スクリーニング細胞株は、A549−hTLR3と呼ばれるA549に由来する細胞株であった。A549−hTLR3細胞は、hTLR3およびネオマイシン耐性遺伝子をコードする哺乳動物プラスミド発現ベクターで安定にトランスフェクトされる。対照のA549由来細胞株はA549−neoと命名した。A549−neo細胞はネオマイシン耐性遺伝子のみをコードする哺乳動物プラスミド発現ベクターで安定にトランスフェクトされる。これらの安定にトランスフェクトされた細胞株は、Lipofectamine(商標)(インビトロジェン社(Invitrogen,Inc.)、カールスバッド、カリフォルニア州)トランスフェクションにより製造元の使用説明および選択およびクローニングの標準的方法に従い作成した。A549−hTLR3およびA549−neo細胞は、最少必須培地“MEM”(10%FBS、1%MEM非必須アミノ酸(ギブコ(Gibco) インビトロジェン社、カールスバッド、カリフォルニア州)、1mMグルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、20mM HEPESおよび0.5mg/ml G418を含有する)中で標準的条件下で培養した。
【0099】
A549−hTLR3細胞を使用した細胞に基づくスクリーニングアッセイで、mAb1068と名付けた1つのhTLR3アンタゴニストmAbを同定した。これらのスクリーニングアッセイの元にある原理は、A549−hTLR3細胞に存在するhTLR3受容体のポリ(I;C)刺激が、細胞のサイトカイン生産の上昇をもたらすということであった。スクリーニングアッセイを介して同定された候補のhTLR3アンタゴニストmAbは、A549−hTLR3細胞中のhTLR3受容体を介してポリ(I:C)媒介型のシグナリングを阻害し、そしてmAbに暴露されない対照A549−hTLR3細胞に比べて減少したサイトカイン生産を引き起こす。
【0100】
スクリーニングアッセイはA549−hTLR3細胞を試験mAbと30分間、37℃でインキュベーションした後、5μg/mlのポリ(I:C)(アマシャム バイオサイ
エンス社(Amersham Bioscience Corp.)、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)を加えることにより行い;24時間後に細胞培養上清中のサイトカインレベルを測定した。対照A549−hTLR3細胞は同一に処理したが、これらの細胞は試験mAbとインキュベーションしなかった。Luminex(商標)マルチチャンネル分析(ルミネックス社(Luminex Corp)、オースチン、テキサス州)およびIL−6(インターロイキン−6)、IL−8(インターロイキン−8)、およびRANTES(活性化で調節される、正常にT−発現し、そして恐らく分泌する)特異的mAb結合ビーズを製造元の指示に従い使用して、スクリーニングアッセイにおける細胞のサイトカイン生産レベルを測定した。hTLR3に結合する、アンタゴニストmAb1068は、そのようなアッセイにより同定した。
【0101】
mAb1068の重鎖および軽鎖をコードする重鎖および軽鎖核酸配列は、標準的方法を使用してmAb1068を発現しているハイブリドーマからクローン化した。mAb1068の重鎖および軽鎖核酸およびアミノ酸配列は、それぞれ図1および2および配列番号6および16に示す。組換えmAb1068(r1068)をコードする重鎖および軽鎖核酸配列を両方を含んでなる細胞株を標準的方法を使用して作成した。
【0102】
実施例2
ヒト肺に由来する細胞中でのIL−6、IL−8およびRANTESサイトカイン生産のhTLR3アンタゴニスト阻害
IL−6、IL−8およびRANTES特異的サイトカインアッセイは、A549−hTLR3細胞を1068mAbまたはTLR3.7mAbと37℃で30分間インキュベーションした後、5μg/mlのポリ(I:C)(アマシャム バイオサイエンス社、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)を、図3、図4および図5に示すように加えることにより行った。細胞培養上清中のサイトカインレベルは、24時間後にLuminex(商標)装置(ルミネックス社、オースチン、テキサス州)およびIL−6、IL−8またはRANTES特異的mAb結合ビーズを適切に使用して測定した。各サイトカインに関するLuminex(商標)アッセイは、製造元の指示により行った。
【0103】
結果ではhTLR3アンタゴニストmAb1068がヒト肺上皮由来のA549−hTLT3細胞でIL−6(図3)、IL−8(図4)およびRANTES(図5)サイトカインのhTLR3媒介型生産を阻害することが示される。しかしhTLR3特異的マウスmAbTLR3.7(イーバイオサイエンス(eBioscience)、サンディエゴ、カリフォルニア州)は、hTLR3媒介型のポリ(I:C)が誘導するIL−6(図3)およびIL−8(図4)の生産を、mAb1068と同程度までは阻害しなかった。RANRES生産に関しては(図5)、これらのヒト肺に由来する細胞では、mAb1068が生産を阻害したが、mAbTLR3.7はRANTESの生産を上げた。1068とTLR3.7mAbとの間のこれらの差異は、以前の研究がTLR3.7mAbがhTLR3受容体と拮抗することを示唆した(Matsumoto M.et al.,Biochem.Biophys Res.Commun.24:1364−1369(2002))ように重要である。この以前の研究は、TLR3.7mAbがヒトの繊維芽細胞由来MRC−5細胞においてポリ(I:C)誘導型IFN−ベータの生産を阻害するようであると報告された(Matsumoto M.et al.,Biochem.Biophys Res.Commun.24:1364−1369(2002))。この結果は明らかに1068hTLR3アンタゴニストmAbが、TLR3.7mAbよりもサイトカインのさらに一層広いスペクトルの生産を阻害し、そしてこれら2つのmAbがこれに基づき各々区別され得ることを示している。
【0104】
実施例3
初代ヒト気管支−上皮細胞でのMIP1−アルファおよびIL−6サイトカイン生産のh
TLR3アンタゴニスト阻害
hTLR3アンタゴニストmAb1068は、初代ヒト気管支−上皮細胞においてMIP1−アルファ(図6)およびIL−6(図7)サイトカインのhTLR3媒介型生産を阻害する。MIP1−アルファおよびIL−6特異的サイトカインアッセイは、初代ヒト気管支−上皮細胞を1068mAbまたは非特異的ポリクローナルマウスIgG調製物と、37℃で30分間インキュベーションすることにより行った後、5μg/mlのポリ(I:C)(アマシャム バイオサイエンス社、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)を図6または図7に示したように加えた。細胞培養上清中のサイトカインレベルは、Luminex(商標)装置(ルミネックス社、オースチン、テキサス州)およびMIP1−アルファまたはIL−6特異的mAb結合ビーズを適切に使用して24時間後に測定した。各サイトカインに関するLuminex(商標)アッセイは、製造元の指示により行った。初代ヒト気管支−上皮細胞はヒト組織サンプルから単離し、そして標準的方法を使用して培養した。
【0105】
実施例4
TLR3活性のノックアウトは炎症性腸疾患症状の重篤度を軽減する
炎症性腸疾患(IBD)症状の重篤度は、TLR3受容体遺伝子活性をノックアウトすることによりIBDのマウスモデルで減少した(図8)。クローン病および潰瘍性大腸炎は、硫酸デキストランナトリウム(DSS)を摂取した動物でモデル化することができる(Hendrickson B.A.et al.,Clin Microbiol Rev.15:79−94,2002)。これらの動物モデルで観察される症状には実質的な体重の減少(図8)および上皮細胞の潰瘍化を含む。これらの症状は潰瘍性大腸炎またはクローン病のようなIBDの患者で観察される症状を模する。このIBDのマウスモデルでは、DSSで処置したTLR3ノックアウトマウスには実質的な体重減少がなく(図8)、そしてDSS処置した野生型マウスに比べて軽い上皮細胞傷害の発症が組織病理学的分析により評価された。これらの結果はTLR3シグナリングがIBDに関与するような炎症プロセスに決定的な役割を果たすことができることを示した。
【0106】
これらの実験では、メスの野生型C57BL/6マウスまたはTLR3ノックアウトマウス(Alexopoulou et al.,Nature,413:732−738(2001))に、それぞれ5(重量/容量)%の硫酸デキストランナトリウム(DSS)が飲料水中に与えられるか、またはそれを補充していない水が自由に図8に示すように5日間与えられて、急性の潰瘍性大腸炎を誘発させた。すべてのマウスが6〜8週齢であり、そして各処置群は少なくとも5匹のマウスを有した。DSS処置後の大腸炎の発症は、体重(図8)、結腸重量の変化、便の軟度、直腸の出血および結腸の組織病理学により評価した。そのようなすべての評価は、実験動物の取り扱いおよび使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee;IACUC)のガイドラインに従って行った。図8のデータは、処置1日〜5日から体重の変化をパーセントとして示している。各記号は1匹のマウスからのデータを示す。WTは野生型マウスを表し;KOはTLR3ノックアウトマウスを表す。水平の棒は平均を示す。示すデータは3回の独立した実験の複合である。DSSを受容しなかった対照の野生型およびTLR3ノックアウトマウス(図8)は、体重に同様の変化を示した(P=0.6、t−検定)。DSSを受容した野生型およびTLR3ノックアウトマウス(図8)は、体重に有意な変化を示した(P=0.003、t−検定)。
【0107】
組織病理学的分析用の結腸は、実験の5日目に動物から摘出した。結腸をパラフィンに包埋し、切片とし、そしてヘマトキシリンおよびエオシンで標準的方法を使用して染色した。DSSを受容した野生型マウスからの代表的結腸切片は、粘膜の潰瘍化および稠密な炎症性滲出物ならびに陰窩および杯細胞の損失を現した。未補充水を受容したTLR3ノックアウトマウスからの代表的な結腸切片は、未補充水を受容した野生型マウスの結腸で
観察された所見に類似する形態学および組織学を有した。DSSを受容したTLR3ノックアウトマウスからの代表的な結腸は、幾らか稠密な細胞の滲出を含んだが、他は完全な粘膜上皮および杯細胞の最少の損失を現した。この組織病理学的データは、DSSを受容したTLR3ノックアウトマウスがDSSを受容した野生型マウスよりも少ない上皮潰瘍化を発症することを示し、そしてTLR3活性がIBDに関与するような炎症プロセスに重要な役割を果たし得ることを明らかにしている。
【0108】
実施例5
hTLR3アンタゴニストの処置は炎症性腸疾患に伴う体重の減少を止める
hTLR3アンタゴニスト処置は、IBDのマウスモデルにおいて炎症性腸疾患(IBD)に伴う体重減少の重篤度を下げる(図9)。データはTLR3アンタゴニストでの処置が潰瘍性大腸炎およびクローン病のようなIBDに伴う症状を軽減することができることを明らかにする。さらにこの結果はTLR3シグナリングがIBDのような炎症状態において重要な役割を果たすことができることをさらに示している。
【0109】
これらの実験では、メスの野生型C57BL/6マウスに、それぞれ5(重量/容量)%の硫酸デキストランナトリウム(DSS)が飲料水中に与えられるか、または未補充水が図9に示すように自由に5日間与えられて、急性の潰瘍性大腸炎を誘発させた。0.2mgのmAb1068(PBS担体中)、0.2mgの非特異的マウスIgGポリクローナル抗体調製物(PBS担体中)、またはPBS担体のみを図9に示すようにDSS処置の最初の4日間、毎日、腹腔内注射によりマウスに投与した。各注射は0.9mlのmAbまたは非特異的IgG調製物(PBS中)、または0.9mlのPBS担体のみを含んでなった。すべてのマウスは6〜8週齢であり、そして各処置群は少なくとも5匹のマウスを含んだ。DSS処置後の大腸炎の発症は、体重(図9)、結腸重量の変化、便の軟度、直腸の出血および結腸の免疫組織病理学を観察することにより評価した。そのようなすべての評価は、確立された動物の取り扱いおよび使用のガイドラインに従って行った。
【0110】
図9のデータは、処置1日〜4日から体重の変化をパーセントとして示している。各記号は1匹のマウスからのデータを示す。水平の棒は中央値を示す。示すデータは2回の独立した実験の複合である。DSSおよびmAb1068を受容したマウスと、DSSを受容しなかったマウスとの間の体重の変化における有意差はなかった(P>0.05、Dunnの検定;図9)。DSSおよびmAb1068を受容したマウスにおける体重変化は、DSSおよび非特異的IgG(PBS中)またはPBSのみを受容したマウスで観察される体重の変化とは有意に異なった(双方についてP<0.01、Dunnの検定;図9)。
【0111】
実施例6
TLR3ノックアウトマウスまたはhTLR3アンタゴニスト処置マウスにおける慢性大腸炎の重篤度の減少
6〜8週齢のメスの野生型C57BL/6マウスおよびTLR3ノックアウト(KO)マウス(C57BL/6のバックグラウンド)(Alexopoulou et al.,Nature,413:732−738(2001))をすべての実験に使用した。マウスには全部で3サイクルの2(重量/容量)%の硫酸デキストランナトリウム(DSS)が飲料水中に与えられた(Okayasu et al.,Gastroenterology 98:694−702(1990))。DSS水は5日間、自由に与えられて、潰瘍性大腸炎を誘導し、そして次に普通水を与えた。2回目の2%DSSの5日間のサイクルは14日目に始め、これに次いで9日間休んだ。今度は7日間である第3回目の2%DSSサイクルは、28日目から始めた。マウスを2つの異なる時点で屠殺した;実験25日目の2回目の休息期間後、または実験の37日目の第3DSSサイクルの後のいずれか。各処置群は少なくとも8匹のマウスからなった。大腸炎の発症は、実験を通じて体
重の変化を観察し、ならびにDSS処置後の結腸長、結腸重量、便の軟度、直腸の出血および結腸の組織病理学を含め、屠殺時の他のパラメーターを評価することにより評価した。
【0112】
組織病理学は、実験計画に対して知らない独立した獣医病理学者により評価された。結腸の縦方向の切片は、上皮細胞壊死、上皮潰瘍化および侵食性(sloughing)、陰窩損失、陰窩細胞増殖、粘膜固有層における顆粒化組織形成、粘膜下組織での顆粒化組織、粘膜下の炎症細胞浸潤および粘膜下水腫を含む変化のパネルについてスコアを付けた。スコアは以下のように損傷の程度を反映して与えた:0、存在せず;1、軽度、病巣;2、軽度、多病巣;3、中程度、限定された領域に頻繁に見られる;4、重症、渡された組織の多くの領域に頻繁に見られる;5、大変重症、渡された組織の大部分に広がる。統計分析をスチューデントt検定を使用して行った(JMP、SAS研究所;GraphPad Prism)。潰瘍性大腸炎およびクローン病の患者の症状には、体重減少、血便の存在、および結腸の上皮層の潰瘍化を含む。このように硫酸デキストランナトリウム処置マウスで誘導される症状は、潰瘍性大腸炎またはクローン病の患者で見られる症状を一部模する(Hendrickson et al.,Clin.Microbiol.Rev.15:79−94(2002))。
【0113】
各サイクルのDSS摂取で、このモデルでは野生型およびTLR3 KOマウスの両方に体重減少を誘導する。しかしTLR3 KOマウスは野生型マウスよりも有意に少ない体重減少を体験した。またTLR3 KOマウスは、結腸の炎症および傷害の総合的な測定により評価されるように疾患の重篤度の減少も示された:TLR3 KOマウスにおける結腸の短縮化はWTマウスで見られるよりも有意に少なく、そしてTLR3 KOマウスはさらに低い頻度の直腸出血を示した。結腸粘膜傷害の組織病理学的評価は、これらの総合的な測定と一致した。1つの細胞壊死、上皮潰瘍化、上皮侵食性、陰窩脱落および陰窩膿瘍に関する中央値のスコアは、TLR3 KOマウスでWTマウスよりも低かった。これらのデータは一緒に、TLR3シグナリングの不存在が慢性大腸炎のマウスモデルにおいて、疾患から部分的に保護を与えることを示し、そしてTLR3シグナリングがヒトのIBDにおいて疾患の重症度を増悪するらしいことを示唆している。
【0114】
疾患のモジュレーションにおけるTLR3の役割をさらに証明するために、WTC57BL/6マウスをアンタゴニスト抗−TLR3mAb1068で処置した。DSSに暴露したマウス群は、0.2mgの抗−TLR3mAb1068を予防的(最初のDSSサイクルで開始した、“Pr”)または治療的(2回目のDSSサイクルで開始した、“Th”;図35)を受けた。DSS暴露マウスの対照群は、PBS(賦形剤対照)または0.2mgの非特異的陰性対照mAbのいずれかを受けた。さらなる対照群はDSSを与えなかった。図35のアタリスクは、抗−TLR3アンタゴニストmAb投与の時点を表す。
【0115】
DSS暴露マウスのすべての群で、DSS摂取の各サイクルで体重の減少が続いた(図36)。図36の各記号は少なくとも8匹のマウスの平均を表し、誤差棒は標準偏差を表す。DSSは0〜4、14〜18および28〜35日に与えた。しかし抗−TLR3mAbで処置した群は、減少した体重の損失を示し、そしてPBSまたは対照mAbで処置した群と比べて2回目のDSSサイクル後に早い速度で体重が回復した(図37)。3回目のDSSサイクル後の体重損失も、抗−TLR3mAb処置群で大きく減少した(図38)。実験の開始(0日)から実験の終わり(37日)までの正味の体重減少の平均は、PBSまたは対照mAbのいずれかを受けたDSS暴露マウスでおよそ20%であった。抗−TLR3mAbでの処置は、およそ10%まで体重損失を有意に減らした(図39)。図39では、データは実験の開始(0日)から実験の終わり(37日)までの体重の変化の%として示されているので、プラスの数字は正味の増加を、そしてマイナスの数字は正味の損失を示す。抗−TLR3mAb処置群での体重損失の%は、賦形剤対照(PBS)
または非特異的IgGで処置した群よりも有意に少なかった(予防的抗−TLR3処置(抗−TLR3 P)対PBS、P=0.006;抗−TLR3 P対非特異的IgG、P=0.006;治療的抗−TLR3(抗−TLR3Th)対PBS、P=0.001;抗−TLR3 Th対非特異的IgG、P=0.009)。各記号は1匹のマウスを表し、水平棒は平均を表す。
【0116】
また抗−TLR3mAb処置は、結腸の短縮化の程度も減少させた。抗−TLR3mAbで予防的に、または治療的のいずれかで処置したマウス群の結腸の長さは、賦形剤または対照mAbを与えた群の長さよりも有意に大きかった(図40)。(抗−TLR3 P
対 PBS、P=0.009;抗−TLR3 P 対 非特異的IgG、p=0.01;抗−TLR3 Th 対 PBS、P=0.03;抗−TLR3 Th 対 非特異的IgG、p=0.04)。
【0117】
さらに結腸の粘膜傷害は、軽い組織病理学的変化(上皮細胞壊死、陰窩脱落、上皮潰瘍化および浸潤、陰窩損失および陰窩細胞増殖を含む)、および慢性の修復的組織病理学的変化(粘膜固有層での顆粒化組織形成、粘膜下での顆粒化組織、粘膜下の炎症細胞浸潤および粘膜下水腫を含む;図41a)により評価されるように、PBSまたは非特異的対照mAbを与えた対照群に比べて、抗−TLR3mAbで治療的に処置した群では重症度が有意に低かった。グラフに示すデータは、DSSおよび異なる処置を受けた各群のマウスに関するすべての組織病理学的スコアに関する和、軽度な変化に関する和、または慢性的変化に関する和を表す(群:1、PBS賦形剤処置;3、予防的抗−TLR3mAb;4、治療的抗−TLR3mAb;5、非特異的対照mAb)。各グラフの右パネル上の丸は、各処置群に関するスコアの平均および標準偏差を囲う。群間の統計的な有意差は、最少に重複する丸で表す。
【0118】
特に抗−TLR3mAb処置は、PBSまたは非特異的mAbに比べて上皮潰瘍化を減らし、そして粘膜下および粘膜固有層の顆粒化組織の形成を防いだ(図41b)。グラフで表すデータは、DSSおよび異なる処置を受けた各群のマウスに関する組織病理学的スコアを表す(群:1、PBS賦形剤処置;3、予防的抗−TLR3mAb;4、治療的抗−TLR3mAb;5、非特異的対照mAb)。各グラフの右パネル上の丸は、各処置群に関するスコアの平均および標準偏差を囲う。群間の統計的な有意差は、最少に重複する丸で表す。
【0119】
抗−TLR3が付与する防御の潜在的な免疫相関を測定するために、免疫細胞群および全身的サイトカインレベルを調査した。DSSへの暴露は、脾臓および腸間膜リンパ節における活性化T細胞の数の上昇を伴うことが観察され(図42)、公開された報告と一致し、この慢性的な大腸炎モデルにT細胞の関与を示す。フローサイトメトリーを使用して、脾臓および腸間膜リンパ節におけるCD62LlowT細胞の頻度を測定し、全身的および局所的T細胞の活性化をそれぞれ表す。慢性的な大腸炎は脾臓および腸間膜リンパ節における活性化CD4+(ヘルパー)T細胞の上昇した頻度と関連し、ヘルパーT細胞活性化における全体的な増加を示唆している。脾臓における活性化CD8+エフェクターT細胞の頻度の低下は、腸間膜リンパ節における活性化CD8+T細胞の頻度の上昇を伴い、エフェクターT細胞の消化管の場所へのトラフィッキングを示唆している。データは2回目のDSSサイクル後の25日から示す。各記号は1匹のマウスからのデータを表し;水平棒は平均を示す。
【0120】
さらに、より高い頻度CD11b+細胞がDSS暴露マウスの脾臓で見いだされ、恐らく炎症性マクロファージの大腸炎に伴う増加を反映している。驚くことに、予防的な抗−TLR3mAb処置が、有意に減少した脾臓のCD11b+細胞の頻度と関連し、DSSに暴露しなかった対照マウスで見られるレベルまで下がった(図43)。DSSに暴露し
た抗−TLR3mAb処置マウスの脾臓のCD11b+細胞の割合は、DSSを受けなかったマウスの割合と同様であり、そしてPBS(P=0.001)または非特異的IgG(P=0.02)のいずれかを受けたDSS暴露マウスよりも有意に低かった。データは2回目のDSSサイクル後の25日から示す。各記号は1匹のマウスからのデータを表し;水平棒は平均を示す。
【0121】
DSS暴露マウスの血清サイトカインプロファイルも、抗−TLR3mAb処置に関連する変化を示す:上昇したIL−4およびIL−I0レベルは、抗−TLR3mAbを予防的に受けたマウスで測定された(図44)。慢性DSS大腸炎の誘導中の抗−TLR3mAb処置は、全身的なIL−4およびIL−10レベルを強化した。25日および37日からのデータを示し、第2および第3回目のDSSサイクル後の時点をそれぞれ表す。各記号は1匹のマウスからのデータを表し;水平棒は平均を示す。IL−4およびIL−10は両方が炎症の調節に重要な役割を果たすことが証明された。IBDの免疫病理の制御においてIL−10に関する具体的な役割は、IL−10ノックアウトマウスが自然に大腸炎を発症するという観察により示唆される。これらの結果は抗−TLR3mAb処置がDSS摂取により誘導される炎症およびT細胞応答を改変することを示唆する。
【0122】
合わせると、これらのデータはTLR3シグナリングを抗−TLR3mAbで遮断することが、慢性大腸炎モデルにおいて疾患の重症度を緩和することを表し、そしてヒトIBDの処置のために抗−TLR3mAbの潜在的効力の証拠を提供する。
【0123】
実施例7
hTLR3アンタゴニスト処置は敗血症での生存を上げる
敗血症はマウスのような動物で、D−ガラクトサミンおよびポリ(I:C)の投与によりモデル化することができる。そのようなモデルでは、D−ガラクトサミンは敗血症の「感作物質」として機能するヘパトトキシンであり、そしてポリ(I:C)はdsRNAを模し、そしてTLR3を活性化する敗血症誘導分子である。結果はTLR3アンタゴニスト処置が敗血症のマウスモデルにおいて動物の生存率をほぼ2倍にすることができることを示した。
【0124】
これらの実験では、メスの野生型C57BL/6マウスにPBS担体中の1mgのhTLR3アンタゴニスト1068mAb、PBS担体中の1mgの非特異的マウスポリクローナルIgG調製物、またはPBS担体単独のいずれかを図10に示すように腹腔内注射で与えた。各注射は1mlのmAbまたはPBS中の非特異的IgG調製物または1mlのPBS担体のみからなった。翌日、マウスは100μlの滅菌PBS中の10μgのポリ(I:C)および20mgのD−ガラクトサミン(シグマ−アルドリッチ社(Sigma−Aldrich Corp.)、セントルイス、ミズーリ州)を図10に示すように腹腔内注射により受けた。マウスの生存は1日に2回、3日間監視した。すべての評価は確立された動物の扱いおよび使用のガイドラインに従って行った。結果はhTLR3アンタゴニスト処置が敗血症のマウスモデルにおいて動物の生存率を上げることを示す(図10)。
【0125】
実施例8
hTLR3アンタゴニスト処置は、敗血症のマウスモデルにおいてIL−6およびTNF−アルファサイトカインの生産を下げる
hTLR3アンタゴニスト処置は、敗血症のマウスモデルにおいて炎症に伴うIL−6(図11)およびTNF−アルファ(図12)サイトカインの血清レベルを下げる。この結果はTLR3活性を阻害することが、敗血症に貢献するサイトカインのTLR3媒介型生産を下げることにより、敗血症からの生存を促進できることを示す。
【0126】
上記実施例6に記載したように処置したマウスの血清は、ポリ(I:C)投与から2時間後、CO2/O2麻酔をかけたマウスの後眼窩洞出血により調製した。血清は室温で血液をインキュベーションし、続いて2500rpmで15分間遠心することにより調製した。血清はサイトカインアッセイ前に−80℃に保存した。血清サンプル中のサイトカインレベルは、Luminex(商標)装置(ルミネックス社、オースチン、テキサス州)および、適切なIL−6(図11)、またはTNF−アルファ(図12)特異的mAb結合ビーズを使用して測定した。各サイトカインに関するLuminex(商標)アッセイは、製造元により指示されるように行った。すべての測定は確立された動物の扱いおよび使用のガイドラインに従い行った。
【0127】
図11および図12中の各記号は1匹のマウスからのデータを示す。水平の棒は平均を示す。示すデータは2回の独立した実験の複合である。mAb1068での処置は、ポリ(I:C)投与から2時間後の血清IL−6レベルを有意に減少させた(P=0.04、t−検定;図11)。mAb1068での処置は、ポリ(I:C)投与から2時間後の血清TNF−アルファレベルを有意に減少させた(P=0.03、t−検定;図12)。
【0128】
実施例9
ポリI:C投与は炎症性サイトカインの分泌および肺のTLR遺伝子発現のアップレギュレーションを誘導する
イソフルランで麻酔をかけたオスまたはメスの野生型C57BL/6マウスは、PBS中のポリ(I:C)またはPBSのみの鼻内投与用量を24時間毎に3日間、3回受けた。すべてのマウスは12週齢であった。各ポリ(I:C)用量は50μgまたは100μgのポリ(I:C)のいずれかを表1に示すように含んだ。各用量の容量は50μlであった。各処置群は6〜8匹のマウスを含んだ。マウスはCO2処置により屠殺し、そして肺に最後の投与から24時間後に肺にカニューレを挿入した。次いで気管支肺胞洗浄(BAL)を、1mLのPBSを肺に注射し、そして流出物を回収(retrieving)することにより行った。次いでBAL調製物は遠心して細胞をペレットとし、そして細胞を含まない上清を集め、そしてマルチチャンネルサイトカインアッセイで使用するまで−80℃で保存した。すべての評価は確立された動物の扱いおよび使用のガイドラインに従って行った。
【0129】
BAL上清中のサイトカインレベルは、Luminex(商標)マルチチャンネル分析(ルミネックス社、オースチン、テキサス州)、および適切なIFNγ、IL−1α、IL−6、CXCL10、JE、KC、MGCSF、MIP1α、RANTES、TNFαまたはGMCSF特異的mAb結合ビーズ(LINCO リサーチ(Research)、セントチャールズ、ミズーリ州)を使用して測定した。各サイトカインに関するLuminex(商標)アッセイは、製造元により指示されるように行った。データは6〜8匹のマウスからの平均pg/ml±平均の標準誤差(SEM)として表す。
【0130】
結果は、50または100μgのポリI:Cの多数回投与がインターフェロンγ(IFNγ)、インターロイキン−6(IL−6)、組織壊死因子−α(TNFα)、ケモカイン(CXCモチーフ)、リガンド10(CXCL10)、ケモカイン(CCモチーフ)、リガンド2(JE)、ケモカインKC(KC)、マクロファージ炎症タンパク質−1α(MIP−1α)、活性化で調節される、正常にT細胞が発現し、そして分泌する/CCL5(RANTES)、マウス顆粒球コロニー刺激因子(mG−CSF)および顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を含むサイトカイン、ケモカインおよび増殖因子のタンパク質レベルの上昇を誘導したことを示した(表1)。この結果はTLR3の活性化がCOPDのようなサイトカイン、ケモカインおよび増殖因子が媒介する肺の病因に重要な役割を果たし得ることを示す。
【0131】
さらに肺組織のTaqmanリアルタイムPCR分析では、多数回投与がサイトカイン遺伝子ならびに多くのTLRおよびそれらに関連する細胞内シグナリング分子のmRNAのアップレギュレーションを誘発したことを示す(表2)。これらのデータは、インビボで投与された合成の二本鎖RNA類似体であるポリI:Cが、多くの炎症性サイトカイン、ケモカインの分泌、およびTLR2、TLR3、TLR7およびTLR9のようなTLR遺伝子発現のアップレギュレーションをもたらす反応のカスケードを誘導することを示す。
【0132】
【表1】
【0133】
実施例10
TLR3の活性化は、肺組織中のサイトカイン、ケモカイン、増殖因子およびToll遺伝子転写産物のレベルを上げる
上記実施例8に記載のように処置したオスまたはメスC57BL/6マウスの肺から抽出した全RNAの転写産物のレベルは、リアルタイムPCR(RT−PCR)により測定した。全RNAはTrizol(商標)(インビトロジェン社、カールスバッド、カリフォルニア州)を使用して、マウスの肺組織サンプルから抽出し、そしてRNEasy Miniキット(キアゲン社(Qiagen Inc.)、バレンシア、カリフォルニア州)を使用して単離した。次いで6〜8匹の同一に処置したマウスからのRNAをプールした。
【0134】
cDNAは各RNAプールからOmniscript(商標)キット(キアゲン社、バレンシア、カリフォルニア州)を使用して製造元の使用説明に従い調製した。100ngのcDNAをTaqMan(商標)低密度免疫プロファイリングアレイカード(Low Density Immune Profiling Array Cardds)(ア
プライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)、フォスターシティ、カリフォルニア州)またはカスタム低密度アレイ(custom Low Density Array:LDA)カードを製造元による指示に従い使用して増幅した。Primer Express(商標)ソフトウェア(アプライドバイオシステムズ)を使用してプローブおよびプライマーの組み合わせを設計した。次いでTaqMan(商標)RT−PCR(アプライドバイオシステムズ)を384ウェル形式でABI PRISM(商標)7000HT装置(アプライドバイオシステムズ)で製造元により指示されるように行った。
【0135】
PCRの初期対数期におけるデータの回収および転写産物の定量は、ABI PRISM(商標)7000HT装置および付随するソフトウェアを用いて行った。個々の転写産物のレベルは、18SリボゾームRNAに関する転写産物に対して標準化した。表2のデータは、PBS賦形剤で処置されたマウスに対して、ポリ(I:C)の多回投与を受けたマウスにおけるmRNAの転写産物のレベルの平均増加倍数として表す。データは6〜8匹のマウスからプールしたRNAを表す。
【0136】
データはTLR3の活性化が、マウス肺組織中のサイトカイン、ケモカイン、増殖因子およびToll遺伝子転写産物(例えばTLR3および他のToll様受容体)を上昇させることを示す(表2)。この結果はさらにTLR3の活性化および他のToll様受容体(TLR)の活性化が、サイトカイン、ケモカインおよび増殖因子が媒介する肺の病因に重要な役割を果たし得ることを示している。
【0137】
【表2】
【0138】
【表3】
【0139】
【表4】
【0140】
実施例11
TLR3の活性化は肺組織の炎症細胞レベルを上げる
TLR3の活性化は、マウス肺組織の炎症細胞レベルを上げる(図13、14および15)。この結果は、TLR3の活性化が好中球(図14)および単核細胞(図15)(例えば単球またはリンパ球)のような炎症細胞の肺浸潤の増加に伴う肺の病理学に重要な役割を果たし得ることを示す。ポリ(I:C)を受けたC57BL/6マウスの肺への炎症細胞の浸潤は、血球計の計数(図13)または分染法(図14および15)のいずれかにより評価された。マウスは上記実施例9に記載されたような多回のポリ(I:C)投与または単回のポリ(I:C)投与を受けた。単回のポリ(I:C)投与はイソフルランで麻酔をかけたオスまたはメスのC57BL/6マウスの鼻内に投与された。すべてのマウスは8〜12週齢の間であった。単回投与は50μLのPBS中、50μgまたは100μgのポリ(I:C)からなった。肺の浸潤細胞を回収するためにBALは、単回ポリ(I:C)投与を受けた動物についてはポリ(I:C)投与から24時間後に、または多回投与を受けた動物に関しては最後のポリ(I:C)投与から24時間後に行った。BALは上記実施例8に記載したように行った。
【0141】
処置したマウスの肺についてのBAL後に回収した細胞ペレットを、0.1%のBSAを含有する200μLのダッベッコリン酸緩衝化塩溶液(DPBS)に再懸濁した。懸濁
した細胞の50μLのアリコートを50μLのTurkの血液希釈液(レッド バード サービス(Red Bird Service)、オスグード、インディアナ州)に加え、徹底的に混合し、そして全細胞数を血球計の計数により数えた(図13)。次いで1x105細胞/μL未満を含有する懸濁液の100μLのアリコートを、Cytospin(商標)スライドアッセンブリーに乗せ、そして4分間、400rpmで遠心した。スライドをCytospin(商標)アッセンブリーから取り出し、そして少なくとも1時間乾燥させた。次いでスライドをライト−ギエムザ(Wright−Giemsa)染色に90秒間沈め、そしてddH2Oで5分間脱色した。スライドを一晩乾燥させた。油含浸下、100x対物レンズを使用して、スライドは分別的にカウントされ、そして好中球(図14)および単核細胞(図15)の総数を数えた。各処置群からの6〜8匹のマウスから集めた肺浸潤細胞データの平均およびSEMをプロットした(図13、14および15)。
【0142】
実施例12
TLR3ノックアウト動物は、肺組織においてポリ(I:C)が誘導する炎症細胞レベルの上昇から保護される
炎症細胞の、C57BL/6またはTLR3ノックアウトマウスまたは単回もしくは多数回ポリ(I:C)投与を受けているマウスの肺への浸潤は、血球計の計数および分染法により評価して好中球および単球細胞を同定した。マウスは実施例8に記載したような多回ポリ(I:C)投与を、または実施例10に記載したような単回のポリ(I:C)投与を受けた。肺の浸潤細胞を回収するためのBALは、単回ポリ(I:C)投与を受けた動物についてはポリ(I:C)投与から24時間後に、または多回投与を受けた動物に関しては最後のポリ(I:C)投与から24時間後に行った。BALは上記実施例8に記載したように行った。炎症細胞の野生型C57BL/6またはTLR3ノックアウトマウスの肺への浸潤細胞の評価は、実施例10に記載したように血球計の計数または分染法のいずれかにより数えた。データはPBSのみを受けた動物での平均肺浸潤細胞カウントに対して、ポリ(I:C)処置動物での平均肺浸潤細胞カウントにおける増加倍数として表した。データは6匹のマウスから得た値を表す。
【0143】
表3に示す結果は、TLR3ノックアウトマウスが野生型マウスと比べて肺組織でのポリ(I:C)誘導型の炎症細胞レベルの上昇から保護されること、およびポリ(I:C)投与の効果はほとんどがTLR3活性化によることを示す。さらに結果はTLR3活性化が好中球および単核細胞(例えば単球またはリンパ球)のような炎症細胞による上昇した肺への浸潤を伴う肺の病理学に重要な役割を果たし得ることを示す。
【0144】
【表5】
【0145】
実施例13
ポリ(I:C)でのTLR3の活性化は、メタコリンで対抗(challenged)した動物の肺機能をさらに損なう
オスまたはメスの野生型C57BL/6マウスは、PBS中の単回ポリ(I:C)投与またはPBSのみ(図16)、あるいは24時間毎に3回のPBS中のポリ(I:C)の鼻内投与またはPBSのみを3日間受けた(図17)。ポリ(I:C)はTLR3を活性化する。すべてのマウスは12週齢であった。各ポリ(I:C)投与は50μgまたは100μgのポリ(I:C)のいずれかを含み、そして50μLの容量からなった。各処置群は6〜8匹のマウスを含んだ。
【0146】
肺機能は最後のポリ(I:C)投与から24時間後に気道閉塞のマーカーとしてPenH値および呼吸努力を使用して評価した。PenH値は、図16または図17に示すように増加するメタコリン暴露で対抗したマウスからの全体重プレチスモグラフにより集めた。メタコリンは呼吸努力を上げ、そして肺機能を害する。メタコリンはPBSに溶解し、そして噴霧化エーゾルとして投与した。すべての評価は確立された動物の扱いおよび使用のガイドラインに従って行った。図16および17に示すデータは、6〜8匹の各処置群からの平均値およびSEMを表す。
【0147】
結果はTLR3の活性化がメタコリンで対抗した野生型マウスの肺機能をさらに害することを示す(図16および図17)。この結果は、TLR3の活性化がさらに、すでに感染、慢性閉塞性肺疾患(COPD)または他の障害による肺傷害に罹患している個体の肺機能をさらに害する恐れがあることを示唆する。その結果、TLR3活性と拮抗する治療的介入はすでに損傷した肺機能に罹患している個体のさらなる肺機能障害を防止することができる。
【0148】
実施例14
TLR3ノックアウト動物は、メタコリン対抗中に肺機能のポリ(I:C)が誘導する傷
害から保護される
実施例12に記載したように、単回(図18)および多回用量(図19)のポリ(I:C)投与を、オスまたはメスの野生型C57BL/6マウスまたはTLR3ノックアウトマウスに行った。肺機能は実施例12に記載したようにWEPにより集めたPenH値を使用して評価した。メタコリン投与も実施例12に記載した通りであった。すべての評価は確立された動物の扱いおよび使用のガイドラインにしたがって行った。図18および19に示すデータは、6〜8匹の各処置群からの平均値およびSEMを表す。
【0149】
TLR3ノックアウトマウスは、メタコリン対抗中にポリ(I:C)誘導型の肺機能の傷害から保護される。この結果はTLR3活性と拮抗する治療的介入はすでに感染、慢性閉塞性肺疾患(COPD)または喘息のような他の障害により傷害を受けた肺機能に罹患している個体のさらなる肺機能傷害を防止することができる。
【0150】
加えて、この結果はポリ(I:C)投与の効果が大部分、TLR3活性化に依ることをさらに示す。
【0151】
実施例15
ヒト肺気管支上皮細胞においてサイトカインおよびケモカイン生産に及ぼすhTLR3アンタゴニスト効果
ヒト肺気管支上皮細胞株BEAS−2Bは、アメリカンタイプカルチャーコレクション(CRL−9609)から得た。BEAS−2BはコラーゲンI被覆フラスコ中で(BD
バイオサイエンス:Bioscience)、LHC−9無血清培地にて成長させ、そして0.25%トリプシン/EDTAで軽く洗浄した後に回収した。次いで細胞をLHC−9無血清培地(バイオソース:Biodource)で洗浄し、そしてLHC−9培地に1x106/mlで再懸濁した。細胞はコラーゲンI被覆96ウェル平底プレートに200μl/ウェルでプレーティングし;3連の培養ウェルを各条件について実験した。
【0152】
細胞を接着させるために6時間インキュベーションした後、培地を取り出し、そして200μlの新しい培地と交換した。100μg/mlから始まるmAb1068の10倍の連続希釈物を37℃で40分間インキュベーションした後、125ng/ウェルのTLR3アゴニストポリ(I:C)を加えた。培養上清をポリ(I:C)での刺激から24時間後に集め、そしてLuminex(商標)マルチチャンネル分析(ルミネックス社、オースチン、テキサス州)をサンプルについて行って、IL−6、IL−8、RANTES、MCP−1、IP−10、IFN−α、IFN−γ、IL−1β、IL−12、TNF−α、MCP−1およびIL−10の発現レベルをアッセイした。
【0153】
結果は抗−TLR3アゴニストmAb1068(図20ではmAb CNTO260と確認される)がポリ(I:C)刺激化BEAS−2B細胞においてIL−6、IL−8、RANTES、MCP−1およびIP−10生産を下げることが示された。mAb1068中のIL−6、IL−8、RANTES、MCP−1およびIP−10の発現は、図20に示すようにmAb1068用量依存的様式で減少した。IFN−α、IFN−γ、IL−1β、IL−12、TNF−α、MCP−1およびIL−10発現はサンプル中に検出されなかった。
【0154】
実施例16
hTLR3アンタゴニストの処置は致死的肺炎からの生存を上げる
これらの実験では、8〜10週齢のメスの野生型C57BL/6マウスを、50μlのPBS中、5プラーク形成単位(PFU)のインフルエンザウイルスA/PR/8で鼻内感染させ、そして次いで7日後、50μlのPBS中、50コロニー形成単位(CFU)の肺炎双球菌(S.pneumoniae)の菌体を鼻内感染させた。投与したウイルス
および細菌用量のみでは致死以下であるが、これらの用量は一緒にするとほとんどのマウスに致死的であった(図22)。モック感染したマウスの対照群は、インフルエンザウイルスA/PR/8または肺炎双球菌(S.pneumoniae)の代わりにPBSを受けた。hTLR3アンタゴニスト処置マウスは、0.2mlのPBS中、0.6mgまたは0.06mgのいずれかを、7日目に肺炎双球菌(S.pneumoniae)の接種2時間前に腹腔内投与され(予防的処置)、そして8日目に再度、同じく投与された(治療的投与)。モック処置したマウスの対照群は、腹腔内に投与される非特異的IgGの0.6mgまたは0.06mg(PBS中)を受けた。各処置または対照群は、7匹のマウスを含んだ。本明細書に記載するすべての評価は、IACUCガイドラインに従い行った。
【0155】
インフルエンザA/PR/8ウイルスはニワトリ卵中で培養し、PFU力価はMDCK細胞を用いた標準アッセイを使用して測定し、そして接種用の凍結ウイルスストックとして維持した。肺炎双球菌(Streptococcus pneumoniae)(ATCC(商標)番号:6301(商標))接種物は、5%のヒツジ血液(TSA/血液)を含有するトリプチカーゼ大豆寒天プレート上で一晩成長させ、次いで細菌をプレートから取り出し、そしてリン酸緩衝化塩溶液(PBS)に懸濁した。PBS懸濁液中の細菌のCFU力価は、600nmの光学密度および標準法を使用して計算した。次いで細菌接種物をPBS中に調製した。細菌調製物中のCFUは標準コロニー形成アッセイにより確認して、マウスに接種する接種物中に実際に存在する細菌の数を決定した。
【0156】
接種物の調製後、マウスは上記のようにインフルエンザA/PR/8ウイルスまたは肺炎双球菌(S.pneumoniae)で鼻内感染させた。モック感染対照マウスは上記のように鼻内投与したPBSを受けた。hTLR3アンタゴニストで処置したマウスは腹腔内に投与したmAb1068を、上記のように予防的または治療的の両方で受けた。モック処置した対照マウスは、上記のようにPBS中の非特異的IgGを腹腔内投与で受けた。インフルエンザA/PR/8ウイルスおよび肺炎双球菌(S.pneumoniae)用量単独での感染は、ウイルスまたは細菌に感染したマウスの100%が生存することから致死以下であった(図22)。しかしウイルスまたは細菌の感染は一緒になるとそうではなくこれらの致死以下の用量で、マウス大部分に致死的な肺炎を生じた(図22)。
【0157】
マウスは細菌感染後48時間で安楽死させ、肺を無菌的に摘出し、滅菌PBS中で均一化し、ホモジネート希釈物をPBSで調製し、そして希釈物をTSA/血液プレート上に置いて、肺中の細菌負荷量(burden)を決定した。次いで血小板をコロニーが見えるようになるまでインキュベーションし、そしてCFUを数えた。図23に示すように、致死未満用量のインフルエンザウイルスで感染させる前、肺炎双球菌(S.pneumoniae)感染から2日後のマウスの肺で細菌負荷量が増加した。
【0158】
8および9日にマウスあたり0.6mgまたは0.06mgの抗−TLR3mAb1068投与は、0.6mgまたは0.06mgの非特異的IgG対照mAbを受けた対照マウスに比べて、インフルエンザウイルスA/PR/8および肺炎双球菌(S.pneumoniae)に感染したマウスでのマウス生存率を上げた(図21)。
【0159】
重要なことは、平均メスC57BL/6マウスの体重が18gから20gの間であり;結局、投与したTLR3アンタゴニストの用量範囲は、0.6mgのmAb1068を受けたマウスに関しては約3.0mg/kgから3.3mg/kgの間、または0.06mgのmAb1068を受けたマウスに関しては約30mg/kgから33mg/kgの間であった。図21はこの範囲の下端を示すために標識されている。
【0160】
実施例17
結腸上皮細胞増殖率に及ぼすTLR3活性の効果
マウスモデルの結腸上皮細胞の増殖率は、TLR3受容体遺伝子活性をノックアウトすることにより上昇した(データは表4に示す)。これらの実験で、上記のメスの野生型C57BL/6マウスまたはTLR3ノックアウトマウスにそれぞれ1mlのPBS中、1mgのブロモデオキシウリジン(BrdU)を腹腔内投与し、そして2時間後に屠殺した。すべてのマウスは6〜8週齢であり、そして各処置群は少なくとも3匹のマウスを有した。
【0161】
次いで組織病理学的分析用の結腸を回収した。結腸組織を固定し、切片に切断し、パラフィンに包埋し、そして5μmの切片を調製した。切片を順次、マウス抗−BrdU IgG mAb(ベクトン−デッキンソン(Becton−Dickinson)バイオサイエンス社、サンジョーズ、カリフォルニア州)、ヤギ抗−マウスIgGmAb西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合体(ベクトン−デッキンソンバイオサイエンス社、サンジョーズ、カリフォルニア州)、およびジアミノベンジジン(DAB)基質(ベクトン−デッキンソンバイオサイエンス社、サンジョーズ、カリフォルニア州)と、製造元の使用説明によりインキュベーションした。インキュベーションした切片は標準法によりヘマトキシリンでカウンター染色した。
【0162】
次いでインキュベーションした切片を視覚的に調査し、そしてDNAへのBrdU取り込みについて陽性に染色された結腸陰窩中の細胞数を数えた。細胞は結腸の同じセグメントから切片中の24の連続するウェルで並んだ陰窩中で数えた。BrdUの取り込みは、細胞サイクルを進行的に通っている細胞を同定するための代理マーカー、すなわち増殖している細胞として使用した。表4では、増殖率を2時間あたりの動物毎の結腸陰窩当たりBrdU染色された細胞数の平均として表す。これらのデータは平均増殖速度±標準偏差(p<0.0001、T検定)として提示する。データはTLR3の不活性化が結腸上皮細胞増殖を上げることを示す。
【0163】
【表6】
【0164】
実施例18
炎症性腸疾患からの回復中の結腸上皮細胞増殖率に及ぼすTLR3活性の効果
炎症性丁疾患(IBD)のマウスモデルにおいて、回復中の結腸上皮細胞の増殖率は、TLR3受容体遺伝子活性をノックアウトすることにより上昇した(表5)。これらの実験では、上記のメスの野生型C57BL/6マウスまたはTLR3 KOマウスにそれぞれ飲料水中の5(重量/容量)%の硫酸デキストランナトリウムを3日間与え、急性の潰瘍性大腸炎を誘導した。次いでマウスには30時間後の実験終了まで普通水を与えた。マウスは上記のようにBrdUを注射され、6時間後、それらは普通水を飲み始めた。次いでマウスはDSSが誘導した潰瘍性大腸炎から24時間、回復させ、そして屠殺した。すべてのマウスが6〜8週齢であり、そして各処置群は少なくとも3匹のマウスを含んだ。
【0165】
結腸陰窩細胞増殖の組織病理学的分析用の結腸サンプルを調製し、そして上記実施例15のように分析した。増殖率データは24時間あたりの動物毎の結腸陰窩毎にBrdU染色された細胞の平均数として表す。これらのデータは平均増殖率±標準偏差(P<0.0
04、T検定)として提示する。表5のデータは、TLR3の活性化が炎症性腸疾患の回復中に結腸上皮細胞の増殖率を上げることを示す。
【0166】
【表7】
【0167】
実施例19
TLR3ノックアウトマウスでのインスリン感受性
TLR3ノックアウト(KO)(C57BL/6バックグラインドで)および野生型(WT)対照マウス(C57Bl/6)に、60.9% kcalの脂肪および20.8%kcalの炭水化物からなる高脂肪食を与えた(ピュリナ(Purina)、TestDiet、#58126)。対照TLR3KOおよびWTマウスは標準食を与えた。動物は一晩絶食させ、そして耐糖試験(GTT)を、1.0mg/gのグルコースを腹腔内注射することにより行い、そして血中グルコースの読み取りを0、15、30、60、90および120分で得た。
【0168】
図31は、14および26週間の高脂肪食のTLR3 KOマウスが、高脂肪食の野生型マウスと比較した時、耐糖試験で改善を示したことを表す。標準食を与えたマウスは予想されたような変化を示さなかった。これらの結果はTLR3シグナリングがインスリン感受性に影響を及ぼす可能性があり、そして2型糖尿病の処置にTLR3アンタゴニストの用途の基礎を提供する。
【0169】
図32は、高脂肪および普通食のマウスにおける空腹時血中グルコースレベルを表す。TLR3 KOマウスは、高脂肪食の野生型マウスと比べた時、それらの空腹時血中グルコースレベルを標準化する。これらのデータはTLR3シグナリングが耐糖における傷害、およびインスリン抵抗性の発症に貢献する肝臓グルコース代謝を妨害する恐れを示唆している。
【0170】
次にインスリンレベルを、標準食または高脂肪食を与えたTLR3 KOおよび野生型マウスで評価した。血中インスリンレベルは、グルコース対抗前および後に一晩絶食させたマウスで測定した。インスリンはCrystal Chem(ダウナーズグローブ(Downers Grove)、イリノイ州)超感度ELISAアッセイキット(Cat#90060)を使用して定量した。高脂肪食を与えたTLR3 KOマウスは、ベースラインで(グルコース対抗無しで)およびグルコース対抗から20および60分後に上昇したインスリンレベルを示した(図33)。全体として耐糖試験で得られたデータは、TLR3シグナリングの不存在がインスリンレベルおよびインスリン感受性に影響を及ぼすことを示唆する。
【0171】
高脂肪食の30週目で、TLR3 KOマウスを屠殺し、そしてそれらの脂質プロファイルを血清サンプル中で測定した。総コレステロール、HDl、LDL、トリグリセリドおよびFFAのレベルを測定した。簡単に説明すると、すべての脂質試験はGEMCAL参照血清(アルファ ワズセラマン ダイアグノスティック テクノロジー(Alfa Wassermann Diagnostic Technologies)、LCC、
ウエストカードウェル、ニュージャージー州)を使用して、標準の吸収における変化に対して、未知のサンプルの吸収における変化を参照にすることにより算出した。2つのレベルの対照を結果を報告する前に毎日し実験した。サンプルを乗せ、そして脂質データを得、そして通例の単位mg/dLで表した。FFAレベルはNEFAキット(ワコー:Wako)を使用して決定した。TLR3 KO動物は循環コレステロール、LDLおよびHDLならびにFFAにおいて、同じ食事の野生型マウスに比べて低いレベルを示した。これらの結果はTLR3シグナリングの不存在がコレステロールレベルを下げる有益な役割を有することを示し、TLR3アンタゴニストMAbの、2型糖尿病に伴う心血管障害の処置および心血管合併症の発症の防止に用途を示す。
【0172】
まとめると提示する結果は、高脂肪食を与えたTLR3KOマウスが野生型マウスに比べてインスリン抵抗性の特徴としての傷害のある耐糖の発症から保護されることを示し、TLR3シグナリングの不存在がマウスを2型糖尿病に対する保護を示す。さらにデータは高脂肪食のTLR3 KOマウスは、高脂肪食の野生型マウスに比べて低いレベルの総コレステロール、LDHおよびHDLコレステロール、ならびにHDLc/LDLc比を有し、これは心血管障害に伴う危険因子のダウンモジュレーティイングにTLR3アンタゴニストの有益な役割を示す。これらの知見は、2型糖尿病、脂質代謝異常およびメタボリックシンドロームを処置するための方法としてTLR3インヒビターの使用を示唆している。
【0173】
実施例20
ヒトに適合した抗−TLR3mAbの作成および特性決定
マウス抗−TLR3 mAb C1068のアミノ酸配列を使用して公的な抗体配列データベースから編集されたヒト抗体データベースに質問した。C1068の重鎖の可変領域は(配列番号6)、4つの重鎖生殖細胞系配列、すなわちヒトVH1重鎖ファミリーのVB 1−03/JH1 72、VB 1−02/JH1 71、VB 1−08/JH1 71およびVB 1−69/JH2 70と高い相同性を示した。C1068重鎖のCDR領域が選択されたヒト生殖細胞系重鎖配列に移された4つの核酸構築物を合成して、配列番号25、27、29および31にそれぞれ示す可変領域アミノ酸配列を有するHV1、HV4、HV5およびHV7と命名された4つのヒトに適合した抗−TLR3 mAb重鎖を作成した。
【0174】
C1068の軽鎖の可変領域(配列番号16)は、4つの軽鎖生殖細胞系配列、すなわちヒトVK IファミリーのVB 012/JK2 78、VB A30/JK2 77、VB A20/JK4 76およびVB L1/JK2 76と高い相同性を示した。C1068軽鎖のCDR領域が選択されたヒト生殖細胞系軽鎖配列に移された4つの核酸構築物を合成して、配列番号33、35、37および39にそれぞれ示す可変領域アミノ酸配列を有するLV1、LV3、LV5およびLV7と命名された4つのヒトに適合した抗−TLR3 mAb軽鎖を作成した。
【0175】
4種の重鎖および4種の軽鎖可変領域構築物のすべての可能な組み合わせを表す16のmAbが発現された。すべての重鎖可変領域骨格は、残基108でSerからProへの置換、およびPhe114およびLeu115のAla置換(配列番号41);S228P、F234AおよびL235Aを完全長の重鎖に有するヒトIgG4重鎖構築物領域を用いて発現された。すべての軽鎖可変領域骨格は、ヒトK定常領域(配列番号4)を使用して発現された。
【0176】
抗体は適切な重鎖および軽鎖含有プラスミドのコートランスフェクションにより哺乳動物細胞中で一時的に発現された。抗体は標準的なプロテインA精製を使用して精製し、そして特性決定のためにPBS中に透析した。
【0177】
16種すべてのmAbは、元のマウスmAb C1068と比べるように、ELISA形式を使用してヒトTLR3の細胞外ドメイン(配列番号4)に結合することを評価された。簡単に説明すると、可溶性のヒトTLR3細胞外ドイメンを、96ウェルプレートのウェルにコーティングし、そして候補mAbを種々の濃度(10−3〜103ng/ml)でインキュベーションし、そして結合した抗体はウサギ抗−マウスIgG−HRPを用いて、マウスIgG1アイソタイプ(ザイメッド(Zymed)、サウスサンフランシスコ、カリフォルニア州)について、またはHRP−標識抗−ヒトIgG(ジャクソン(Jackson)109−036−088)を用いて、ヒトIgG4アイソタイプについて検出した。EC50値を決定し、そして結果を以下の図24および表7に示す。
【0178】
【表8】
【0179】
C1068について算出したEC50は8ng/mlであり;この結果は12のヒト適合化mAbがマウスの元のmAb1068に比べて算出されたEC50において40倍未満の低下を有することを示した。太字のEC50値を有するmAbは、Biacoreにより結合親和性を決定し、そして細胞に基づくサイトカイン放出アッセイで結合活性を決定することによりさらに特性決定した。
【0180】
Biacoreによる結合親和性の測定は、mAb捕捉およびTLR3捕捉技法により行った。MAb捕捉分析は、25℃で標準的なアミンカップリングによりプロテインA(6,000RU)で修飾された表面を有するCM5チップを備えたBiacore2000バイオセンサーを使用して25℃で行った。抗体は30nMに希釈し、そして1分間、異なるプロテインA表面上で捕捉された。TLR3は0、0.1、0.3、1.0、3.0および9.0nMで注射し、そして会合および解離を5分間監視した。プロテインA修飾表面は、100mMリン酸の2回の6秒間のパルスを使用して再生した。利用可能な結合データ組は1:1の相互作用モデル(CLAMP(商標))に合わせた。速度定数およびそれらの比(KD=kd/Ka)および見掛けの平衡定数の予想について行った適合の誤差を算出した。
【0181】
TLR3捕捉分析は、30℃で標準的なアミンカップリングにより抗−His抗体(R&Dシステムズ)(10,000RU)で修飾された表面を有するCM5チップを備えたBiacore3000バイオセンサーを使用して25℃で行った。80、120および300RU密度でヒト ヘキサ−ヒスチジン−TLR3を3面上で捕捉し、同時に4面は参照として使用した。抗体は0、0.4、1.1、3.3、10および30nMで二連にて注射した。会合相を3分間監視し、そして解離を7分間監視した。抗−His抗体表面は50mM リン酸の2回の3秒間のパルスを使用して再生した。利用可能な結合データ組は、各mAb濃度のプロファイルの異なるドリフトについて集めた1:1の相互作用モデル(BIAeval(商標))に合わせた。速度定数およびそれらの比(KD=kd/Ka)および見掛けの平衡定数の予想について行った適合の誤差を算出した。
【0182】
算出されたKDの結果を以下の表8に示す。2つの測定は、1)溶液中に適用されたヒトTLR3を用いてチップ表面上で捕捉された抗−TLR3 mAbでの結合親和性、お
よび2)チップ上および溶液相中に適用した抗−TLR3 mAbで捕捉されたTLR3を表す。結果は、溶液に基づくTLR3が固定化されたmAbにより捕捉された時、すべての候補物質がnMの親和性を保持することを示し、組み合わせmAbが1068の結合特性を保持したことが確認された。TLR3が、ほとんどの候補物質が強力な結合特性を保持するチップ上に固定化された時、その結果はELISA結合曲線と一致する。
【0183】
【表9】
【0184】
Biacoreによりアッセイされたヒトに適合した抗−TLR3 mAbの結合活性も、細胞に基づくサイトカイン放出アッセイで測定した。ヒト肺上皮細胞株BEAS−2Bは、96ウェルプレートにまき、そしてポリ(I:C)、または無血清マトリックス中で抗体候補と前インキュベーションしたポリ(I:C)のいずれかを細胞に加えた。4日後、コンディショニング培地を除去し、そして可溶性サイトカインレベルをLuminex(商標)技法により測定した。結果を図25に示し、そして元のmAb C1068の生物学的活性、すなわちTLR3 リガンドポリ(I:C)で対抗した細胞により生成された炎症性サイトカインの減少により測定されるTLR3活性の中和が、ヒト適合化mAbで保持されたことを証明する。
【0185】
実施例21
ヒト適合化C1068重鎖および軽鎖バリアントの生成および特性決定
マウス抗−TLR3 mAb 1068 CDRのIn sililco免疫原性分析は、配列の免疫原性スコアを下げるように操作することができるCDR境界内の一連のアグレトープを明らかにした。いったん操作できる領域が同定されれば、配列および構造の両方の基準が、どのアミノ酸置換を使用すべきかを決定するために適用された。これらの基準を使用して、4つの1点アミノ酸置換を重鎖可変領域(VR)内に、そして3つの突然変異(単一、2重および3重)を軽鎖可変領域(Vk)内に同定した。すべての8つの突然変異をHV1/LV1バックグラウンド内に独立して作成し、そして表9に列挙する。1つの他の型の置換も、M102残基をイソロイシンに交換する効果を測定するために適用し、これはこれらの残基の潜在的にタンパク質の溶解性に良くない修飾を翻訳後に酸化することができるように、これはCDR中のメチオンの全数を減らすように仕上げられた。これらの抗体を生成し、そしてTLR3結合(表10および11を参照にされたい)および生物活性(図26〜30を参照にされたい)について評価した。
【0186】
【表10】
【0187】
【表11】
【0188】
【表12】
【0189】
HV1/LV1バックグラウンドに移植された1068CDRのVh中に作成されたすべての5個の1点突然変異は、ヒトTLR3に対する結合EC50により示されるように十分に寛容化されていた。HV1/LV1バックグラウンドのEC50は29.2ng/mlであり:I34MおよびY60Gの両方に関する値はこれより低く、それぞれ17および14.6ng/mlであった。これはこれらの変化がHV1/LV1のin silico免疫原性を下げるだけでなく、TLR3への結合も改善することを示唆している。他の3つの突然変異は、HV1/LV1よりも少し弱く結合した。
【0190】
V1のCDR1中の突然変異のいずれも寛容ではなく(EC50>1000ng/ml)、この領域はどのように1068がヒトTLR3を認識するかに重要であることを示唆している。
【0191】
ここで本発明は完全に説明され、当業者には添付する特許請求の精神または範囲から逸脱することなく、多くの変化および修飾が作成できることが明白である。以下、本発明の主たる態様または特徴について記載する。
【0192】
態様1:
活性化について調節された、正常T細胞発現型および分泌型(RANTES)サイトカインの細胞生産を阻害するToll様受容体3(TLR3)のアンタゴニスト。
【0193】
態様2:インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)およびマクロファージ炎症タンパク質−1アルファ(MIP1−アルファ)からなる群から選択されるサイトカインの細胞生産も阻害される態様1に記載のアンタゴニスト。
【0194】
態様3:アンタゴニストが抗体である態様1または2に記載のアンタゴニスト。
【0195】
態様4:配列番号9、11および13に示す重鎖相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなるモノクローナル抗体の抗原結合能力を有するTLR3と反応性の単離された抗体。
【0196】
態様5:配列番号9、11および13に示す重鎖CDRのアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなる態様4に記載の単離された抗体。
【0197】
態様6:配列番号6に示すアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)、および配列番号16に示すアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)を含んでなる態様4に記載の単離された抗体。
【0198】
態様7:配列番号25、27、29または31に示すアミノ酸配列を有するVH、および配列番号33、35、37または39に示すVLアミノ酸配列を含んでなる態様4に記載の単離された抗体。
【0199】
態様8:VHが配列番号25に示すアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33に示すアミノ酸配列を有する態様7に記載の単離された抗体。
【0200】
態様9:式(I):
Thr Thr Tyr Trp Xaa1 His
(I)
式中、Xaa1はIleまたはMetである
で示されるVH CDR1アミノ酸配列(配列番号61);
式(II):
Glu Ile Asn Pro Asn Asn Gly Arg Ile Asn
Xaa2 Xaa3 Glu Lys Xaa4 Lys Thr
(II)
式中、Xaa2はTyrまたはGlyであり、Xaa3はAsnまたはAlaであり、そしてXaa4はPheまたはGlyである、
で示されるVH CDR2アミノ酸配列(配列番号62);および
式(III):
Val Gly Val Xaa5 Ile Thr Thr Phe Pro Tyr
(III)
式中、Xaa5はMetまたはIleである、
で示されるVH CDR3アミノ酸配列(配列番号63);
および配列番号19、21および23に示すアミノ酸配列を有するVL CDR、
を有する単離された抗体。
【0201】
態様10:Xaa1がMetであり;Xaa2がTyrであり;Xaa3がAsnであり;Xaa4がPheであり;そしてXaa5がMetである、態様9に記載の単離された抗体。
【0202】
態様11:VHが配列番号45に記載のアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33に記載のアミノ酸配列を有する、態様10に記載の単離された抗体。
【0203】
態様12:Xaa1がIleであり;Xaa2がGlyでり;Xaa3がAsnであり;Xaa4がPheであり;そしてXaa5がMetである、態様9に記載の単離された抗体。
【0204】
態様13:VHが配列番号47に示すアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33に示すアミノ酸配列を有する、態様12に記載の単離された抗体。
【0205】
態様14:Xaa1がIleであり;Xaa2がTyrであり;Xaa3がAlaであり;Xaa4がPheであり;そしてXaa5がMetである、態様9に記載の単離された抗体。
【0206】
態様15:VHが配列番号49に示すアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33に示すアミノ酸配列を有する、態様14に記載の単離された抗体。
【0207】
態様16:Xaa1がIleであり;Xaa2がTyrであり;Xaa3がAsnであり;Xaa4がGlyであり;そしてXaa5がMetである、態様9に記載の単離された抗体。
【0208】
態様17:VHが配列番号51に示すアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33に示すアミノ酸配列を有する、態様16に記載の単離された抗体。
【0209】
態様18:Xaa1がIleであり;Xaa2がTyrであり;Xaa3がAsnであり;Xaa4がPheであり;そしてXaa5がIleである、態様9に記載の単離された抗体。
【0210】
態様19:VHが配列番号53に示すアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33に示すアミノ酸配列を有する態様18に記載の単離された抗体。
【0211】
態様20:VHが配列番号45、47、49、51または53に示すアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33、35、37または39に示すアミノ酸配列を有する態様9に記載の単離された抗体。
【0212】
態様21:抗体がヒト起源である態様4に記載の単離された抗体。
【0213】
態様22:抗体がマウス起源である態様4に記載の単離された抗体。
【0214】
態様23:抗体がFabフラグメントを含んでなる態様4に記載の単離された抗体。
【0215】
態様24:抗体がscFvフラグメントを含んでなる態様4に記載の単離された抗体。
【0216】
態様25:抗体またはフラグメントがヒトに適合している態様4に記載の単離された抗体。
【0217】
態様26:抗体またはフラグメントがキメラ抗体を含んでなる態様4に記載の単離された抗体。
【0218】
態様27:抗体がポリエチレングリコールに結合している態様4に記載の単離された抗体。
【0219】
態様28:抗体またはフラグメントがマウス抗原結合残基およびヒト抗体残基を含んでなる、態様4に記載の単離された抗体。
【0220】
態様29:IgG4アイソタイプを有する態様4に記載の単離された抗体。
【0221】
態様30:FcドメインがS228P、P234AおよびL235A突然変異を含んでなる、態様29に記載の単離された抗体。
【0222】
態様31:態様4に記載の単離された抗体および製薬学的に許容され得る担体を含んでなる製薬学的組成物。
【0223】
態様32:配列番号9、11および13に示すCDRアミノ酸配列を含んでなる抗体重鎖をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【0224】
態様33:配列番号19、21および23に示すCDRアミノ酸配列を含んでなる抗体軽鎖をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【0225】
態様34:配列番号6、25、27、29、31、45、47、49、51または53に示すアミノ酸配列を含んでなる抗体重鎖をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【0226】
態様35:配列番号5、26、28、30、32、46、48、50、52または54に示す配列を含んでなる態様34に記載のポリヌクレオチド。
【0227】
態様36:配列番号16、33、35、37または39に示すアミノ酸配列を含んでなる抗体軽鎖をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【0228】
態様37:配列番号15、34、36、38または40に示す配列を含んでなる態様36に記載のポリヌクレオチド。
【0229】
態様38:態様32、33、34、35、36または37に記載の少なくとも1つのポリヌクレオチドを含んでなるベクター。
【0230】
態様39:態様38に記載のベクターを含んでなる宿主細胞。
【0231】
態様40:TLR3と反応性の抗体の作成方法であって、態様39に記載の宿主細胞を培養し、そして宿主細胞により生産された抗体を回収することを含んでなる上記作成方法。
【0232】
態様41:態様4に記載の抗体を生産するハイブリドーマ細胞株。
【0233】
態様42:態様4に記載の単離された抗体を、TLR3受容体を発現する細胞と、RANTESの生産を阻害するために十分な時間接触させることを含んでなる、RANTESの細胞生産を阻害する方法。
【0234】
態様43:IL−6、IL−8またはMIP1−アルファの細胞生産も阻害される、態様42に記載の方法。
【0235】
態様44:炎症状態を処置または防止する方法であって、治療に有効な量のTLR3アン
タゴニストをそれが必要な患者に炎症状態を処置または防止するために十分な時間、投与することを含んでなる上記方法。
【0236】
態様45:炎症状態が敗血症に伴う状態である態様44に記載の方法。
【0237】
態様46:炎症状態が炎症性腸疾患である態様44に記載の方法。
【0238】
態様47:炎症状態が感染に伴う状態である態様44に記載の方法。
【0239】
態様48:炎症状態が炎症性肺状態である態様44に記載の方法。
【0240】
態様49:炎症状態が2型糖尿病、脂質代謝異常またはメタボリックシンドロームである態様44に記載の方法。
【0241】
態様50:炎症状態が自己免疫疾患により引き起こされる態様44に記載の方法。
【0242】
態様51:TLR3アンタゴニストをTLR3受容体を発現する細胞と細胞の増殖率を上げるために十分な時間、接触させることを含んでなる、細胞の増殖率を上げる方法。
【0243】
態様52:細胞が動物の組織に存在する態様51に記載の方法。
【0244】
態様53:細胞が上皮細胞である態様51に記載の方法。
【0245】
態様54:組織が結腸組織である態様52に記載の方法。
【0246】
態様55:組織が炎症状態に伴う病状を現す態様52に記載の方法。
【0247】
態様56:炎症状態が炎症性腸疾患である態様55に記載の方法。
【0248】
態様57:細胞死から生じる状態を処置または防止する方法であって、治療に有効な量のTLR3アンタゴニストをそれが必要な患者に、状態を処置するために十分な時間、投与することを含んでなる上記方法。
【0249】
態様58:TLR3アンタゴニストが、配列番号9、11および13に示す重鎖CDRのアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなるモノクローナル抗体の抗原結合能を有するTLR3と反応性の単離された抗体である、態様44、51または57に記載の方法。
【0250】
態様59:TLR3と反応性の単離された抗体が、配列番号9、11および13に示す重鎖CDRのアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなる、態様58に記載の方法。
【0251】
態様60:単離された抗体が、配列番号6、25、27、29または31に示すアミノ酸配列を有するVH、および配列番号16、33、35、37または39に示すアミノ酸配列を有するVLを含んでなる、態様59に記載の方法。
【0252】
態様61:TLR3アンタゴニストが、配列番号45、47、49、51または53に示すアミノ酸配列を有するVH、および配列番号33、35、37または39に示すアミノ酸配列を有するVLを含んでなるモノクローナル抗体の抗原結合能を有するTLR3と反応性の単離された抗体である、態様44、51または57に記載の方法。
【0253】
態様62:単離された抗体が、配列番号45、47、49、51または53に示すアミノ酸配列を有するVH、および配列番号33、35、37または39に示すアミノ酸配列を有するVLを含んでなる、態様61に記載の方法。
【産業上の利用可能性】
【0254】
本発明によれば、Toll様受容体3(TLR3)が媒介する疾患または症状を治療できるTLR3アンタゴニストが提供されるので、少なくとも医薬製造業で利用できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、TOll様受容体3(TRL3)アンタゴニスト、TRL3アンタゴニストをコードするポリヌクレオチドまたはそのフラグメント、および前記の作成および使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症状態に伴う病状は健康管理における重大な挑戦を表し、そして痛く、衰弱し、そして致死的となり得る。例えば敗血症および敗血症に伴う状態は、米国において年間28〜50%の致死率で750,000人以上に影響を与え、215,000人の年間死者を生じる(非特許文献1;非特許文献2)。炎症性腸疾患(IBD)、クローン病および潰瘍性大腸炎のような他の炎症状態は、米国で1年間に100万人以上の人々に影響を及ぼしている(非特許文献3)。
【0003】
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息および肺感染のような肺機能に影響を及ぼす炎症性の肺状態も米国においてかなりの数の人々に影響を及ぼしている。例えばCOPDは1000万人の成人アメリカ人に影響を与え、そして罹患率は上昇している(非特許文献4)。これらの炎症状態に伴う病状、およびこれらの状態の増悪は、重大な健康および経済的打撃を与える。
【0004】
喘息およびCOPDのような肺疾患における増悪は、症状の悪化および肺機能の低下を特徴とする。ウイルス感染は多くの肺疾患の増悪に関連し(非特許文献5;非特許文献6)、そして増悪の主要な原因であると考えられている。ウイルス感染後の肺における前炎症性(pro−inflammatory)サイトカインの分泌は、種々の肺疾患において炎症応答を促進する重要な段階を表す(非特許文献7:非特許文献8)。
【0005】
インスリン抵抗性は、グルコース不耐症(glucose intolerance)、インスリン抵抗性、肥満、高トリグリセリド血症、低HDLコレテロール、高血圧症、および加速性のアテローム硬化症を含むメタボリックシンドロームの不可欠な特徴として認識されてきた(非特許文献9)。肥満、2型糖尿病およびインスリン抵抗性の間の素因は十分に確立されているが、肥満に伴うインスリン抵抗性および2型糖尿病を制御する分子および細胞のメカニズムは、漠然としたままである。
【0006】
肥満した個体は、TNF−α、IL−1bおよびIL−6のような前炎症性サイトカインの上昇したレベルを示すという事実は、肥満を誘導するインスリン抵抗性が炎症状態であるという仮説を思いつかせる(非特許文献10)。このように炎症、肥満、インスリン抵抗性および異常な脂質代謝は、メタボリックシンドロームの共通する特徴を構成し得る。実際に、シクロオキシゲナーゼインヒビターのような非ステロイド系薬剤(これはNF−kβおよびIKKβのような重要な炎症性転写因子と相互作用することができる)は、2型糖尿病の動物モデルおよびヒト患者においてインスリン感受性を上げる(非特許文献10)。さらに最近のデータは、骨髄様細胞において、IKKbコンディショナルノックアウトマウスが完全な(global)インスリン感受性を表し、そしてインスリン抵抗性に対して保護されるようになる能力、ならびに肝臓でIKKbを過剰発現するマウスが全身性インスリン抵抗性を発症する能力により示されるように、インスリン抵抗性と炎症との間の結び付きに支持を加える(非特許文献11;非特許文献12)。あわせると、これらの結果は肥満、インスリン抵抗性および2型糖尿病を炎症性疾患と結び付けるための強い根本的理由を提供する。
【0007】
宿主免疫系による微生物抗原の認識は、活性化が炎症応答の開始における重要な段階を表す生来の免疫受容体を介して媒介される。Toll−様受容体(TLR)は、外来抗原に対する免疫応答の媒介において、決定的な役割を果たす生来の免疫受容体のファミリーを表す。例えばTLR3は、二本鎖(ds)RNAならびに合成dsRNA類似体ポリ−リボイノシン酸−リボシチジル酸(ポリ(I;C))を認識する哺乳動物のパターン認識受容体である(非特許文献13)。さらにTLR3は壊死細胞から放出されるmRNAのような内因性のリガンドを認識することが示され(非特許文献14)、炎症部位での壊死細胞の死が、TLR3の活性化に貢献し得ることを示唆する。
【0008】
ポリ(I:C)による、または内因性mRNAリガンドによるTLR3の活性化は、炎症性サイトカインおよびケモカインの分泌を誘導し、TLR3アゴニストが感染に伴う炎症中に疾患の発生をモジュレートすることを示唆することが見いだされた。すなわちインビボでのTLR3のライゲーションは、ウイルス感染(非特許文献15)、または壊死に伴う炎症の状況において起こると考えられる(非特許文献16)。総じて、これらのデータはTLR3のライゲーションが生来の免疫に貢献すると考えられる数々の炎症性サイトカインの生産を生じるリン酸化および転写活性化反応(event)をカスケードを開始することを証明している(非特許文献17を参照にされたい)。さらにこれらのデータは、持続的なTLR3の活性化が感染に関連する炎症性疾患のモジュレーションに重要な成分となり得ることを示唆している。公開されたデータは、炎症性サイトカインの過剰生産を全身的な炎症性応答症候群、感染に伴う急性のサイトカイン急性発作(非特許文献18により総論されている)、および慢性関節リウマチ(非特許文献19により総説されている)、および炎症性腸疾患(非特許文献20により総説されている)のような免疫が媒介する慢性状態と関連付ける知見により示されるような仮説を支持する。
【0009】
インビトロの実験では、ポリ(I:C)での肺の上皮細胞の刺激が多くのサイトカイン、ケモカインの分泌および転写因子の分泌を誘起し、そしてTLRの発現を上昇させることが示されたが(非特許文献21:非特許文献22)、そのような出来事の生理学的関連性は不明なままである。
【0010】
このような病状に伴う炎症状態、および感染に伴うその他の状態は、重大な健康および経済的影響を有する。さらに医学の多く分野における進歩にもかかわらず、多くのこれらの状態に関して利用できる処置の選択および治療法は比較的少ない。
【0011】
例えば肺疾患の増悪は、高用量のコルチコステロイドおよびオマリズマブ(omalizumab)の商品名XOLAIR(商標)のような抗−IgEで処置される。β2アゴニストと組み合わせた吸引コルチコステロイドは、増悪の発生の低下に効果的であることが示された。しかしこれらの治療薬は増悪の発症するリスクを減らすだけであり、そして重要な副作用を伴うので、肺疾患の増悪の防止および処置には代替的治療のモダリティが必要である。
【0012】
このように炎症状態におけるTLR3の役割を理解し、そしてこの役割をこれらの状態を効果的に処置するアンタゴニストのような作用物質の開発に活用することが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Natanson et al.,Crit.Care Med.26:1927−1931,1998
【非特許文献2】Angus et al.,Crit.Care Med.29:1303−1310,2001
【非特許文献3】Hanauer et al.,Rev.Gastroenterol.Disord.3:81−92,2003
【非特許文献4】Mapel et al.,Manag.Care Interface 17:61−66,2004
【非特許文献5】Johnston,Am.J.Respir.Crit.Care Med.152:S46−52,1995
【非特許文献6】Bandi et al.FEMS Immunol.Med.Microbiol.37:69−75,2003
【非特許文献7】Gern et al.Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.28:731−737,2003
【非特許文献8】Panina−Bordignon et al.,Curr.Opin.Pulm.Med.9:104−110,2003
【非特許文献9】Wisse,J.Am.Soc.Nephrol.15:2792−800,2004
【非特許文献10】Karin et al.,Nat.Rev.Drug Discov.3:17−26,2004
【非特許文献11】Arkan et al.,Nat.Med.11:191−198,2005
【非特許文献12】Cai et al.,Nat.Med.11:183−90,2005
【非特許文献13】Alexopoulou et al.,Nature 413:732−238,2001
【非特許文献14】Kariko et al.,J.Biol.Chem.26:12542−12550,2004
【非特許文献15】Tabeta et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101:3516−3521,2004
【非特許文献16】Kariko et al.J.Biol.Chem.26:12542−12550,2004
【非特許文献17】Takeda and Akira,J.Derm.Sci.34:73−82,2004
【非特許文献18】Van Amersfoort et al.,Clin.Microbiol.Rev.16:379−414,2003
【非特許文献19】Miossec et al.,Curr.Opin.Rheumatol.16:218−222,2004
【非特許文献20】Ogata and Hibi,Curr.Pharm.Des.9:1107−1113,2003
【非特許文献21】Ieki et al.,Clin.Exp.Allergy 34:745−52,2004
【非特許文献22】Sha et al.,Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.31:358−64,2004
【発明の概要】
【0014】
本発明の1つの態様は、RANTESの細胞生産を阻害するToll様受容体3(TLR3)のアンタゴニストである。
【0015】
本発明の別の態様は、配列番号9、11および13に示す重鎖相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなるモノクローナル抗体の抗原結合能力を有するTLR3と反応性の単離された抗体である。
【0016】
本発明の別の態様は、配列番号9、11および13に示す重鎖相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなるTLR3と反応性の単離された抗体である。
【0017】
本発明の別の態様は、式(I):
Thr Thr Tyr Trp Xaa1 His
(I)
式中、Xaa1はIleまたはMetである
で示されるVHCDR1アミノ酸配列(配列番号61);
式(II):
Glu Ile Asn Pro Asn Asn Gly Arg Ile Asn
Xaa2 Xaa3 Glu Lys Xaa4 Lys Thr
(II)
式中、Xaa2はTyrまたはGlyであり、Xaa3はAsnまたはAlaであり、そしてXaa4はPheまたはGlyである、
で示されるVH CDR2アミノ酸配列(配列番号62);および
式(III):
Val Gly Val Xaa5 Ile Thr Thr Phe Pro Tyr。
(III)
式中、Xaa5はMetまたはIleである、
で示されるVH CDR3アミノ酸配列(配列番号63);
および配列番号19、21および23に示されるアミノ酸配列を有するVL CDR、を有する単離された抗体である。
【0018】
本発明の別の観点は、配列番号9、11および13に示されるCDRアミノ酸配列を含んでなる抗体重鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドである。
【0019】
本発明の別の観点は、配列番号19、21および23に示されるCDRアミノ酸配列を含んでなる抗体軽鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドである。
【0020】
本発明の別の観点は、配列番号6、25、27、29、31、45、47、49、51または53に示されるアミノ酸配列を含んでなる抗体重鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドである。
【0021】
本発明の別の観点は、配列番号16、33、35、37または39に示されるアミノ酸配列を含んでなる抗体軽鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドである。
【0022】
本発明の別の観点は、炎症状態を処置または防止する方法であり、この方法は治療に有効量のTLR3アンタゴニストをそれが必要な患者に炎症状態を処置または防止するために十分な時間、投与することを含んでなる。
【0023】
本発明の別の観点は、細胞の増殖率を上げる方法であり、この方法はTLR3アンタゴニストを、TLR3受容体を発現する細胞と細胞の増殖率を上げるために十分な時間接触させることを含んでなる。
【0024】
発明の詳細な説明
限定するわけではないが本明細書に引用する特許および特許出願を含めすべての刊行物は、完全な説明を通して参照により本明細書に編入する。
【0025】
本明細書で使用する用語「アンタゴニスト」は、任意のメカニズムにより受容体のような別の分子の効果を一部または完全に阻害する分子を意味する。本明細書で使用する「TLR3アンタゴニスト」または「TLR3と反応性の」化合物は、TLR3の生物活性またはTLR3受容体の活性化を直接的または間接的に、実質的に対抗し、減少させ、または阻害することができる分子を記載する。そのようなアンタゴニストは例えば、低有機分子、ペプチド、ポリペプチド、融合タンパク質、抗体、抗体フラグメント、ミメティボディまたはポリヌクレオチドであることができる。
【0026】
本明細書で使用する用語「抗体」は広い概念を意味し、そしてポリクローナル抗体、マウス、ヒト、ヒトに適合した、ヒト化およびキメラモノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体、および抗体フラグメントを含め、免疫グロブリンまたは抗体分子を含む。
【0027】
一般に、抗体は特異的抗原への結合特異性を表すタンパク質またはペプチド鎖である。完全な抗体は、2つの同一の軽鎖および2つの同一の重鎖からなるヘテロ四量体の糖タンパク質である。典型的には、各軽鎖は1つの共有ジスルフィド結合により重鎖に連結され、一方、多数のジスルフィド結合は種々を免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間で変動する。各重鎖および軽鎖も、規則的に間隔が空いた鎖内ジスルフィド橋を有する。各重鎖は1つの末端に可変性ドメイン(VH)、続いて多数の定常ドメインを有する。各軽鎖は1つの末端に可変性ドメイン(VL)を、そしてそのもう1つの末端に定常ドメインを有し;軽鎖の定常ドメインは重鎖の第1定常ドメインと並び、そして軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと並ぶ。任意の脊椎動物種の抗体軽鎖は、2つの明確に異なる型の1つ、すなわちカッパ(κ)およびラムダ(λ)に、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づき割り当てることができる。
【0028】
免疫グロブリンは、5つの主要クラス、すなわちIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgMに重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に基づき割り当てることができる。IgAおよびIgGはさらにアイソタイプIgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4と細分される。
【0029】
用語「抗体フラグメント」とは完全な抗体の一部、一般に完全な抗体の抗原結合または可変領域を意味する。抗原フラグメントの例には、Fab、Fab’、F(ab’)2およびFvフラグメント、ダイアボディ、単鎖抗体分子および少なくとも2つの完全な抗体から形成された多重特異的抗体を含む。
【0030】
本明細書で使用する用語「抗原」は、直接的または間接的のいずれかで抗体を生成する能力を有する任意の分子を意味する(あるいは免疫原と呼ばれる)。「抗原」の定義に含まれるのは、タンパク質をコードする核酸である。
【0031】
「CDR」は、免疫グロブリン重鎖および軽鎖の超可変領域である抗体の相補性決定領域のアミノ酸配列と定義される。例えばKabat et al.,免疫学的に興味深いタンパク質の配列(Sequences of Proteins of Immunological Interest)、第4版、米国 保健福祉省、国立衛生研究所(1987)を参照にされたい。免疫グロブリンの可変部分には3つの重鎖および3つの軽鎖CDRまたはCDR領域がある。すなわち本明細書で使用する「CDR」は、すべての3種の重鎖CDR、またはすべての3種の軽鎖CDR、または適切ならばすべての重鎖およびすべての軽鎖CDRを指す。
【0032】
CDRは抗体を抗原またはエピトープへ結合させるための接触残基の大部分を提供する。本発明の目的のCDRは、供与体抗体の可変重鎖および軽鎖配列から誘導され、そして自然に存在するCDRの類似体を含み、その類似体もそれらが誘導される供与体抗体と同
じ抗原結合特異性および/または中和能力を共有または保有する。
【0033】
本明細書で使用する用語「上皮細胞」は、動物の自由な(free)表面(例えば皮膚)または管もしくは腔(例えば結腸)の内張りの一部を覆う膜様の細胞組織に由来する細胞を意味する。そのような細胞は組織、器官またはこれらのインビトロモデルで見いだされるもののような、より高度に組織化された細胞群から単離されるか、または一部を含んでなることができる。
【0034】
用語「相同体」は、参照する配列と40%から100%の間の配列同一性を有するタンパク質配列を意味する。hTLR3の相同体には、既知のhTLR3配列と40%から100%の間の配列同一性を有する他の種に由来するポリペプチドを含む。2つのペプチド鎖間の同一性のパーセントは、Vector NTI v.9.0.0(インビトロジェン社(Invitroden Corp)、カールスバット、カナダ)のAlignXモジュールのデフォルト設定を使用して、対合様式の配列により測定することができる。「TLR3」は、hTLR3およびその相同体を意味する。完全長のヒトTLR3のアミノ酸配列およびコードするポリヌクレオチド配列は、それぞれ配列番号1および2に示す。
【0035】
本明細書で使用する用語「組み合わせて」とは、記載する作用物質が、動物に混合物中で一緒に、単一の作用物質として同時に、あるいは単一の作用物質を任意の順序で順次に投与することができることを意味する。
【0036】
本明細書で使用する用語「炎症状態」とは、一部がサイトカイン、ケモカインまたは炎症性細胞(例えば好中球、単球およびリンパ球)の活性により媒介される細胞の損傷に対する局所的応答を意味し、これはほとんどの場合、疼痛、紅赤、腫張および組織機能の損失を特徴とする。本明細書で使用する用語「炎症性の肺状態」とは、肺に影響を及ぼす、または関連する炎症状態を意味する。
【0037】
本明細書で使用する用語「ミメティボディ」は、一般式(I):
(V1−Pep−Lk−V2−Hg−CH2−CH3)(t)
(I)
を有するタンパク質を意味し、式中、V1は免疫グロブリン可変領域のN−末端の一部であり、Pepは細胞表面のTLR3に結合するポリペプチドであり、Lkはポリペプチドまたは化学的結合であり、V2は免疫グロブリン可変領域のC−末端の一部であり、Hgは免疫グロブリンはヒンジ領域の一部であり、CH2は免疫グロブリン重鎖CH2定常領域であり、そしてCH3は免疫グロブリン重鎖CH3定常領域であり、そしてtは独立して1から10の整数である。ミメティボディは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgM、IgDおよびIgEのような種々の型の免疫グロブリン分子の特性および機能を、構築物中に存在する重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に依存して模することができる。幾つかのミメティボディの態様では、V1が不存在であり得る。本発明のミメティボディアンタゴニストは、細胞表面のTLR3への結合を介してTLR3の生物学的活性に影響を及ぼす。
【0038】
本明細書で使用する用語「モノクローナル抗体」(mAb)は、実質的に均一な抗体の集団から得た抗体(または抗体フラグメント)を意味する。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、典型的には単一の抗原決定基に対して向けられている。モデファイヤー(modifier)「モノクローナル」は、抗体の実質的に均一な特性を示し、そして任意の特定の方法による抗体の生産を必要としない。例えばマウスmAbはKohler
et al.,Nature 256:495−497(1975)のハイブリドーマ法により作成することができる。供与体抗体(多くはマウス)の軽鎖および重鎖可変領域を、受容体抗体(多くはヒトのような別の哺乳動物種)に由来する軽鎖および重鎖定常領域
と一緒に含有するキメラmAbは、米国特許第4,816,567号明細書に開示されている方法により調製することができる。非ヒト供与体の免疫グロブリン(多くはマウス)に由来するCDRを有し、そして分子の残る免疫グロブリンに由来する部分は1もしくは複数のヒト免疫グロブリンに由来するヒトに適合したmAbは、米国特許第5,225,539号明細書に開示されているように当業者に知られている技法により調製することができる。場合によりヒトに適合したmAbは、Queen et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA),86:10029−10032(1989)、およびHodgson et al.,Bio/Technology,9:421(1991)に開示されたような技術により、結合親和性を保存するために改変された骨格を支持する残基を包含することによりさらに修飾することができる。
【0039】
ヒトに適合させるために有用なヒト骨格配列の例は、例えば
www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi;
www.ncbi.nih.gov/igblast; www.atcc.org/phage/hdb.html; www.mrc−cpe.cam.ac.uk/ALIGNMENTS.php; www.kabatdatabase.com/top.html; ftp.ncbi.nih.gov/repository/kabat;
www.sciquest.com; www.abcam.com; www.antibodyresource.com/onlinecomp.html; www.public.iastate.edu〜pedro/research_tools.html; www.whfreeman.com/immunology/CH05/kuby05.htm; www.hhmi.org/grants/lectures/1996/vlab; www.path.cam.ac.uk〜mrc7/mikeimages.html; mcb.harvard.edu/BioLinks/Immunology.html; www.immunologylink.com; pathbox.wustl.edu〜hcenter/index.html; www.appliedbiosystems.com; www.nal.usda.gov/awic/pubs/antibody; www.m.ehime−u.ac.jp〜yasuhito/Elisa.html; www.biodesign.com;
www.cancerresearchuk.org; www.biotech.ufl.edu; www.isac−net.org; baserv.uci.kun.nl〜jraats/links1.html; www.recab.uni−hd.de/immuno.bme.nwu.edu; www.mrc−cpe.cam.ac.uk; www.ibt.unam.mx/vir/V_mice.html; http://www.bioinf.org.uk/abs; antibody.bath.ac.uk; www.unizh.ch; www.cryst.bbk.ac.uk〜ubcg07s; www.nimr.mrc.ac.uk/CC/ccaewg/ccaewg.html; www.path.cam.ac.uk〜mrc7/humanisation/TAHHP.html; www.ibt.unam.mx/vir/structure/stat_aim.html; www.biosci.missouri.edu/smithgp/index.html; www.jerini.de; imgt.cines.fr; およびKabat et al.,免疫学的に興味深いタンパク質の配列、米国保健省(1987)に開示され、これらは全部、参照により本明細書に編入する。
【0040】
いかなる非ヒト配列も含まない完全なヒトmAbは、ヒト免疫グロブリントランスジェニックマウスから、例えばLonberg et al.,Nature 368:856−859(1994);Fishwind et al.,Nature Biotechnology 14:845−851(1996)およびMendez et al.,Nature Genetics 15:146−156(1997)を参照とした
技法により調製することができる。またヒトmAbは、例えばKnappik et al.,J.Mol.Biol.296:57−86(2000)およびKrebs et
al.,J.Immunol.Meth.254:67−84(2001)を参照にした技法によりファージディスプレイライブラリーから調製し、そして至適化することができる。
【0041】
本明細書で使用する用語「増殖率」とは、単位時間あたりの細胞数の変化、または単位時間あたりに細胞サイクルを通して細胞分裂に向かう進行のマーカーを現す細胞数の変化を指す。そのようなマーカーは形態学的でよく、DNA複製の指標または発現された遺伝子産物でよい。
【0042】
本明細書で使用する用語「TLR3の生物活性」または「TLR3受容体の活性化」は、細胞表面のTLR3に結合するリガンドの結果として生じる任意の活性を指す。
【0043】
従来の1もしくは3文字アミノ酸暗号を以下のように本明細書では使用する:
アミノ酸 3文字暗号 1文字暗号
アラニン ala A
アルギニン arg R
アスパラギン asn N
アスパルテート asp D
システイン cys C
グルタメート glu E
グルタミン gln Q
グリシン gly G
ヒスチジン his H
イソロイシン ile I
ロイシン leu L
リシン lys K
メチオニン met M
フェニルアラニン phe F
プロリン pro P
セリン ser S
トレオニン thr T
トリプトファン trp W
チロシン tyr Y
バリン val V
【0044】
主題の組成物
本発明は、TLR3受容体が媒介するシグナリングを阻害することができるアンタゴニスト、およびそのようなアンタゴニストの使用に関する。そのようなTLR3アンタゴニストはTLR3受容体に結合し、そしてTLR3受容体が媒介するシグナリングを阻害する特性を有することができる。そのようなアンタゴニストにより阻害され得るTLR3シグナリングによるメカニズムの例には、キナーゼ活性の阻害、転写の減少または受容体アタゴニスト作用がある。他のメカニズムによりTLR3受容体が媒介するシグナリングを阻害することができる他のアンタゴニストも本発明の種々の観点および態様の範囲内である。これらのアンタゴニストは、研究試薬、診断試薬および治療薬として有用である。
【0045】
本発明の1つの観点は、RANTES(活性化について調節された、正常T細胞発現型および分泌型:Regulated on Activation,Normal T−cell Expressed and Secretid)サイトカインの細胞生産を
阻害するToll様受容体3(TLR3)のアンタゴニストである。本発明の別の観点は、RANTESおよびインターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)およびマクロファージ炎症タンパク質−1アルファ(MIP1−アルァ)からなる群から選択されるサイトカインの細胞生産を阻害するTLR3のアンタゴニストである。
【0046】
別の観点では、本発明は配列番号9(VH CDR1)、11(VH CDR2)および13(VH CDR3)に示す重鎖相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列、および配列番号19(VL CDR1)、21(VL CDR2)および23(VL CDR3)に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を有するモノクローナル抗体の抗原結合能力を有するTLR3と反応性の単離された抗体を提供する。抗体の例は、配列番号9、11および13に示す重鎖CDRのアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなるモノクローナル抗体である。
【0047】
本発明の別の観点は、配列番号6に示すアミノ酸配列を有するVH、および配列番号16に示すアミノ酸配列を有するVLを含んでなるTLR3と反応性の単離された抗体である。
【0048】
本発明の別の観点は、本発明の抗体または他のタンパク質TLR3アンタゴニストをコードする単離されたポリヌクレオチドまたはその相補鎖である。特定の例のポリヌクレオチドを本明細書で開示するが、遺伝子暗号の縮重または所定の発現系における暗号の優先性(preference)を仮定して、本発明の抗体または他のタンパク質TLR3アンタゴニストをコードする他のポリヌクレオチドも本発明の範囲内にある。
【0049】
本発明の別の観点は、配列番号9、11および13に示されるCDRアミノ酸配列を含んでなる抗体重鎖である。
【0050】
本発明の別の観点は、配列番号19、21および23に示されるCDRアミノ酸配列を含んでなる抗体軽鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドである。
【0051】
本発明の別の観点は、配列番号6に示されるアミノ酸配列を含んでなる抗体重鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチド配列の例は配列番号5に示される。
【0052】
本発明の別の観点は、配列番号16に示されるアミノ酸配列を含んでなる抗体軽鎖をコードする単離されたポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチド配列の例は配列番号15に示される。
【0053】
本発明の別の観点は、配列番号25、27、29または31に示されるVHアミノ酸配列、および配列番号33、35、37または39に示されるVLアミノ酸配列を含んでなるヒトに適合したmAbである。配列番号25、27、29および31に示されるVHアミノ酸配列、および配列番号33、35、37および39に示されるVLアミノ酸配列をコードする単離されたポリヌクレオチドも、本発明の観点である。これらのヒトに適合したmAbは、配列番号9、11および13に示されるVH CDRアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示されるVL CDRアミノ酸配列を含んでなる。配列番号25、27、29および31のVHアミノ酸配列をコードする核酸配列の例は、配列番号26、28、30および32にそれぞれ示される。配列番号33、35、37および39のVLアミノ酸配列をコードする核酸配列の例は、配列番号34、36、38および40にそれぞれ示される。本発明のヒトに適合したモノクローナル抗体の1つの特定の態様は配列番号25に示すVHアミノ酸配列、および配列番号33に示されるVLアミノ酸配列を含んでなる。
【0054】
本発明の別の態様は、式(I):
Thr Thr Tyr Trp Xaa1 His
(I)
式中、Xaa1はIleまたはMetである
で示されるVH CDR1アミノ酸配列(配列番号61);
式(II):
Glu Ile Asn Pro Asn Asn Gly Arg Ile Asn
Xaa2 Xaa3 Glu Lys Xaa4 Lys Thr
(II)
式中、Xaa2はTyrまたはGlyであり、Xaa3はAsnまたはAlaであり、そしてXaa4はPheまたはGlyである、
で示されるVH CDR2アミノ酸配列(配列番号62);および
式(III):
Val Gly Val Xaa5 Ile Thr Thr Phe Pro Tyr
(III)
式中、Xaa5はMetまたはIleである、
で示されるVH CDR3アミノ酸配列(配列番号63);
および配列番号19、21および23に示されるアミノ酸配列を有するVL CDR、を有する単離された抗体である。
【0055】
例となる種には、配列番号33に示されるVLアミノ酸配列、および式(I)のVL−CDR1を含んでなるVHアミノ酸配列を有する抗体を含み、式中、Xaa1がMetであり、そしてVL−CDR2およびVL−CDR3のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号11および13に示される(配列番号45、例示の核酸は配列番号46に示されている)。この種ではXaa1がMetであり、;Xaa2がTyrであり;Xaa3がAsnであり;Xaa4がPheであり;そしてXaa5がMetである。
【0056】
別の例となる種には、配列番号33に示されるVLアミノ酸配列、および配列番号9および13にそれぞれ示されるVH−CDR1およびVH−CDR3のアミノ酸配列、および式(II):
式中、Xaa2がGlyであり、Xaa3がAsnであり、そしてXaa4がPheである(配列番号47;例示の核酸配列は配列番号48に示される);
Xaa2がTyrであり、Xaa3がAlaであり、そしてXaa4がPheである(配列番号49;例示の核酸配列は配列番号50に示される);および
Xaa2がTyrであり、Xaa3がAsnであり、そしてXaa4がGlyである(配列番号51、例示の核酸配列は配列番号52に示される)
のVH−CDR2を含んでなるVHアミノ酸配列、
を有する抗体を含む。
【0057】
別の例となる種には、配列番号33に示されるVLアミノ酸配列、および配列番号9および11にそれぞれ示すようなVH−CDR1およびVH−CDR2のアミノ酸配列、および式(III)のVH−CDR3(式中、Xaa5がIleである)のVH−CDR3を含んでなるVHアミノ酸配列を有する抗体を含む(配列番号53、例示の核酸配列は配列番号54に示されている)。
【0058】
まとめると、例となる種には以下のVLおよびVHアミノ酸配列の組み合わせの1つを有する抗体を含む:
VL配列番号: VH配列番号:
33 45
33 47
33 49
33 51
33 53
【0059】
本発明はさらにVHが配列番号45、47、49、51または53に示されるアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33、35、37または39に示されるアミノ酸配列を有する単離された抗体を含む。
【0060】
抗体アンタゴニストの例は、IgG、IgD、IgGAまたはIgMアイソタイプの抗体であることができる。さらに、そのようなアンタゴニスト抗体は、グリコシル化、イソメリゼーション、脱グリコシル化または自然には起こらないポリエチレングリコール部分の付加(ペギレーション:pegylation)のような共有的修飾および脂質化のようなプロセスにより翻訳後に修飾され得る。そのような修飾はインビボまたはインビトロで起こり得る。例えば本発明の抗体はポリエチレングリコールに結合させて(PEG化:PEGylated)、それらの薬物動態学的プロファイルを改善することができる。結合は当業者に知られている技法により行うことができる。PEGを用いた治療用抗体の結合は、薬物動態を強化するが機能は妨害しないことが示された。Deckert et al.,Int.J.Cancer 87:382−390,2000;Knight et al.,Platelets 15:409−418,2004;Leong et al.,Cytokine 16:106−119,2001;およびYang et al.,Protein Eng.16;761−770、2003を参照にされたい。
【0061】
本発明の抗体の薬物動態学的特性は、当業者に知られている技術によりFc修飾を介して強化することもできる。例えばIgG4アイソタイプ重鎖は、重鎖間または内のいずれかのジスルフィド結合を形成することができるそれらのヒンジ領域中のCys−Pro−Ser−Cys(CPSC)モチーフを含み、すなわちCPSCモチーフ中の2つのCys残基は、他の重鎖中の対応するCys残基とジスルフィド結合することができ(重鎖間)、または所定のCPSCモチーフ内の2つのCys残基が互いにジスルフィド結合することができる(重鎖内)。インビボのイソメラーゼ酵素はIgG4分子の重鎖内結合を重鎖間結合に、またはその逆に転換することができると考えられる(Aalberse and Schuurman,Immunology 105:9−19,2002)。したがってこのようなIgG4分子内の重:軽鎖(HL)対のヒンジ領域中の重鎖内結合との対は互いに共有的に会合していないので、それらはHLモノマーに解離することができ、それは次いで他のIgG4分子に由来するHLモノマーと再会合し、二重特異的なヘテロ二量体のIgG4分子を形成する。二重特異的IgG抗体では、抗体分子の2つのFabがそれらが結合するエピトープで異なる。IgG4のヒンジ領域のSer228をProに置き換えて「IgG1様の挙動」を生じ、すなわち分子が重鎖間で安定なジスルフィド結合を形成し、したがって他のIgG4分子とHL交換することはできない。1つの態様では、本発明の抗体はS228P突然変異を有するIgG4 Fcドメインを含んでなる。
【0062】
さらに本発明の抗体中のFcRn救済(salvage)受容体以外のFc受容体への結合に影響を及ぼす部位を除去することができる。例えばADCC活性に関与するFc受容体は、本発明の抗体から除去することができる。例えばIgG1のヒンジ領域のLeu234/Leu235のL234A/L235Aへの、またはIgG4のヒンジ領域のPhe234/Leu235のP234A/L235Aへの突然変異は、FcR結合を最少とし、そして免疫グロブリンが補体依存的な細胞傷害性およびADCCを媒介する能力を
減らす。1つの態様では、本発明の抗体はP234A/L235A突然変を含むIgG4
Fcドメインを含んでなる。
【0063】
本発明の別の態様では、抗体はS108P、P114AおよびL115A突然変異を有するIgG4 Fcドメインを含んでなり、Fcドメインは配列番号41に示すアミノ酸配列を有する。配列番号41をコードする核酸配列の例は、配列番号42に示されている。完全長のIgG4重鎖では、突然変異の座標はS228P、P234AおよびL235Aである。
【0064】
完全にヒトの、ヒトに適合した、ヒト化および親和性が成熟した(affinity−matured)抗体分子または抗体フラグメントは、ミメティボディ、融合タンパク質およびキメラタンパク質として本発明の範囲内にある。
【0065】
本発明のアンタゴニストは、TLR3と約10−7、10−8、10−9、10−10、10−11または10−12M以下のKdで結合することができる。所定の分子のhTLR3のようなTLR3受容体に対する親和性は、任意の適切な方法を使用して実験的に決定することができる。そのような方法は、当業者に知られているBiacoreまたはKinExA装置、ELISAまたは競合的結合アッセイを利用することができる。
【0066】
所望する親和性で所定のTLR3相同体と結合するアンタゴニスト分子は、抗体親和性成熟を含む技術、および非抗体分子に適切な他の技術的に知られている技法によりバリアントまたはフラグメントのライブラリーから選択することができる。
【0067】
本発明の別の態様は、本発明の少なくとも1つのポリヌクレオチドを含んでなるベクターである。そのようなベクターはプラスミドベクター、ウイルスベクター、トランスポゾンに基づくベクター、または本発明のポリヌクレオチドを所定の生物または遺伝的バックグラウンドに任意の手段で導入するために適する他のベクターでよい。
【0068】
本発明の別の態様は、配列番号9、配列番号11および配列番号13を含んでなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および配列番号19、配列番号21および配列番号23を含んでなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのような本発明の任意のポリヌクレオチドを含んでなる宿主細胞である。他の宿主細胞の例は、配列番号25、27、29、31、45、47、49、51または53の1つを含んでなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および配列番号33、35、37または39を含んでなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含んでなる。そのような宿主細胞は真核細胞、細菌細胞、植物細胞または古細菌(archeal)細胞でよい。真核細胞の例は、哺乳動物、昆虫、鳥類または他の動物起源でよい。哺乳動物の真核細胞には、SP2/0(アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)、マナッサス、バージニア州、CRL−1581)、NS0(ヨーロピアンコレクションオブセルカルチャー(ECACC)、ソールズベリー、ウィルトショア、英国、ECACC No.85110503)、FO(ATCC CRL−1646)およびAg653(ATCC CRL−1580)マウス細胞株を初めとするハイブリドーマまたはミエローマ細胞株のような不死化細胞株を含む。ヒトミエローマ細胞株の例は、U266(ATTC CRL−TIB−196)である。他の有用な細胞株には、CHO−K1(ATCC CRL−61)のようなチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞またはDG44に由来するものを含む。
【0069】
本発明の別の態様は、本発明の宿主細胞を培養し、そして宿主細胞により生産される抗体を回収することを含んでなるTLR3と反応性の抗体の作成法である。そのような抗体は、以下の配列番号6および16にそれぞれ示されるような重および軽アミノ酸配列を含んでなるmAb1068、または配列番号25、27、29、31、45、47、49、
51または53に示される重鎖アミノ酸配列、および配列番号33、35、37または39に示される軽鎖アミノ酸配列を含んでなるmAb1068のヒト適合化、もしくはヒトに適合したCDRバリアントに例示されるTLR3アンタゴニスト抗体であり得る。
【0070】
本発明の別の態様は、本発明の抗体を生産するハイブリドーマ細胞株である。
【0071】
処置法
本発明はTLR3活性の弱化(attenuation)が望ましい状態を防止し、そして処置する方法を提供する。TLR3アンタゴニストで処置または防止することができる状態には、サイトカインにより媒介される状態、およびTLR3の活性化またはTLR3経路を介するシグナリングから全部または一部生じる状態を含む。本発明はRANTESまたはIL−6、IL−8もしくはMIP1−アルファと一緒にRANTESの細胞生産を阻害する方法を含み、この方法は本明細書に開示する単離された抗体のようなTLR3アンタゴニストを、TLR3受容体を発現する細胞と、これらのサイトカインの生産を阻害するために十分な時間、接触させることを含んでなる。
【0072】
本発明の方法は任意の分類に属する動物患者を処置するために使用することができる。そのような動物の例にはヒト、齧歯類、イヌ、ネコおよび家畜動物のような哺乳動物、ならびに鳥、爬虫類および魚のような他の動物種を含む。いかなる特定の理論とも結び付けられることを望まないが、TLR3アンタゴニストの治療的利益は、そのようなアンタゴニストが幾つかの炎症状態に関与する炎症性ケモカインおよびサイトカインの分泌を阻害する能力によると考えられている。またTLR3アンタゴニストの治療的利益は、そのようなアンタゴニストが細胞増殖を上げ、すなわち組織修復を促進する能力によるとも考えられている。
【0073】
例えば本発明の方法は、患者の炎症状態を処置または防止し、そして組織修復(外傷後の創傷または火傷の治癒のような)を促進するために有用である。さらに本発明の方法はインビトロで細胞密度も提供する。
【0074】
任意のTLR3アンタゴニストを本発明の防止および処置法に使用することができる。1例として本明細書に開示する任意の単離された抗体は、炎症状態の処置または防止、あるいは組織修復の促進にTLR3アンタゴニストとして有用である。特に、配列番号9、配列番号11および配列番号13に示すVH CDRアミノ酸配列、および配列番号19、配列番号21および配列番号23に示すVL CDRアミノ酸配列を含んでなるモノクローナル抗体の抗原結合能を有するTLR3と反応性の単離された抗体は有用である。他の有用な抗体は配列番号25、27、29、31、45、47、49、51または53に示されるアミノ酸配列を有するVH、および配列番号33、35、37または39に示すアミノ酸配列を有するVLを含んでなる。
【0075】
所定の炎症状態を処置または防止するために十分な所定のTLR3アンタゴニストの量は、容易に決定できる。本発明の方法では、TLR3アンタゴニストは単一で、または少なくとも1つの他の分子と組み合わせて投与され得る。そのようなさらなる分子は他のTLR3アンタゴニスト分子またはTLR3受容体シグナリングにより媒介されない治療的利益を有する他の分子でよい。抗生物質、抗ウイルス薬、緩和剤、およびサイトカインレベルまたは活性を下げる他の化合物は、そのようなさらなる分子の例である。
【0076】
炎症状態を処置し、または防止する方法の別の態様では、TLR3活性がTLR3遺伝子発現を阻害することより減少される。TLR3遺伝子発現は、TLR3媒介シグナリングを阻害するために、TLR3の生物活性の発現を下げる任意の手段により阻害することができる。そのような手段には、例えばゲノムDNAを不活性化する組換えを介する遺伝
子の不活性化(例えば遺伝子ノックアウト、プロモーターハイジャキングまたは他の遺伝子突然変異誘発法)、および遺伝子転写の不活性化(例えばRNAのサイレンシングまたはアンチセンスRNA)を含む。当業者は、活性なTLR3の発現を下げるための多くの他の手段を認識している。
【0077】
このように本発明の観点は、治療に有効な量のTLR3アンタゴニストをそれが必要な患者に、炎症状態を処置または防止するために十分な時間投与することを含んでなる、炎症状態の処置法または防止法である。
【0078】
そのような炎症状態の1例は敗血症に伴う状態である。敗血症は感染に対する全身的応答であり、これは重篤な場合には臓器不全および死を引き起こす。敗血症は医学的にはウイルス、細菌、真菌または寄生生物感染から生じる全身性の炎症応答症候群(SIRS)と定義されている。ウイルス、細菌、真菌または寄生生物感染により、および壊死細胞により放出されるdsRNAは、敗血症の発生に貢献し得る。敗血症に伴う状態にはSIRS、敗血症ショックまたは多臓器不全症候群(MODS)が含まれ得る。いかなる理論とも結び付けられることを望まないが、TLR3アンタゴニストを用いた処置は、敗血症に伴う炎症状態に罹患している患者の生存時間を延ばし、または局所的な炎症反応(例えば脚)が全身状態へと広がることを防ぐことにより、生来の抗微生物活性を強化することにより、抗微生物剤と組み合わせた時に相乗的活性を示すことにより、病気に貢献する局所的炎症状態を最少にすることにより、あるいは前記の任意の組み合わせにより治療的利益を提供することができると考えられている。そのような介入は、患者の生存を確実とするために必要なさらなる処置(例えば元にある感染の処置またはサイトカインレベルの減少)を可能にするために十分となるだろう。
【0079】
そのような炎症状態の別の例は、炎症性腸疾患である。炎症性腸疾患は、クローン病または潰瘍性大腸炎であり得る。当業者は腸の炎症を引き起こす病因が既知または未知である他の炎症性腸疾患を認識している。さらにTLR3アンタゴニストは、強直性脊椎炎、仙腸骨炎および乾癬性脊椎関節炎(spondyloarthritis)を含む鉛関節痛および関節炎のような潰瘍性大腸炎またはクローン病と関連する腸管外の後遺症(extraintestinal sequelae)の処置および防止に有用である。他の腸管外後遺症には、口内炎、結節性紅斑(痛い硬化した卵形の結節の発生)、および皮膚の深い重篤な潰瘍形成を特徴とする壊死性膿皮症のような粘膜の損傷;上強膜炎、虹彩炎およびブドウ膜炎のような目の合併症;腎石症のような腎臓疾患;原発性硬化性胆管炎、潰瘍性大腸炎、クローン病に伴う線維化炎症を特徴とする慢性肝臓疾患のような肝胆管(hepatobiliary)疾患;ならびに骨粗鬆症および長期コルチコステロイド使用の合併として起こる骨減少を含む骨の疾患がある。さらに含まれるのは間質性肺炎、気管狭窄、気管支炎、器質化肺炎を伴う閉塞性細気管支炎、肺脈管炎、サルコイドーシス、慢性気管支炎、および好酸球増加症を伴う肺の浸潤物を示す臨床的状態を含むIBD−誘導型の肺機能不全および呼吸障害である。
【0080】
そのような炎症状態の別の例は、感染に伴う状態である。感染に伴う状態には重篤な肺炎、嚢胞性線維症、気管支炎、気道の増悪および急性呼吸促迫症候群(ARDS)を含めウイルスまたは細菌性肺炎を含むことができる。そのような感染に伴う状態は原発性ウイルス感染および2次的な細菌感染のような多重感染が関与し得る。
【0081】
そのような炎症状態の別の例は、炎症性の肺状態である。例示される炎症性の肺状態には、ウイルス、細菌、真菌、寄生生物またはプリオン感染に関連するものを含め、感染により誘導される肺の状態;アレルゲンに誘導される肺の状態;石綿症、珪肺症またはベリリウム症のような汚染物質に誘導される肺の状態;胃の吸引に誘導される肺の状態;免疫脱調節(dysregulation);嚢胞性線維症のような遺伝的に誘導される炎症
性の肺状態;および人工呼吸器のような物理的外傷が誘導する肺の状態を含む。これらの炎症状態には喘息、気腫、気管支炎、COPD、サルコイドーシス、組織球増加症、リンパ脈管筋腫症(lympangiomyomatosis)、急性肺損傷、急性呼吸促迫症候群、慢性肺疾患、気管支肺形成異常、市中肺炎、院内肺炎、人工呼吸器に伴う肺炎、敗血症、ウイルス性肺炎、インフルエンザ感染、パラインフルエンザ感染、ヒトメタニューモウイルス感染、RSウイルス感染およびアルペルギルスまたは他の真菌感染も含む。
【0082】
そのような炎症状態の別の例は、2型糖尿病、肥満、脂質代謝異常およびメタボリックシンドロームである。TLR3アンタゴニストは、肥満およびインスリン抵抗性に伴う炎症プロセスの阻害に有用である。TLR3シグナリングの阻害は、患者の脂質プロファイルを改善し、すなわち総コレステロールレベルを下げ、そしてHDlc/LDLc比を上げる。またTLR3シグナリングの阻害はインスリンの分泌の上昇を導き、すなわちインスリン抵抗性に改善を導く。2型糖尿病の現行処置は、低血糖および体重増加を含め様々な悪い副作用を伴う。2型糖尿病の処置にTLR3アンタゴニストを使用することは、より少ない副作用および持続的な薬物動態学的プロファイルを有することが期待される。さらに本発明の単離された抗体のような長期循環半減期を有する化合物での処置は、まれな投与を要するだろう。
【0083】
さらに脂質プロファイルにおける改善は、アテローム硬化症のような肥満および2型糖尿病に関連する心血管疾患の発生を遅らせるか、または防止すると思われる。加えてTLR3シグナリングの阻害は、膵臓小島細胞への直接的効果を介して、または脂質プロファイルに影響を及ぼし、そして高脂質レベルにより誘導される悪化から小島を保護することによるいずれかでインスリンの循環レベルに上昇をもたらすことができる。したがってTLR3阻害は単独または他の治療と組み合わせて、2型糖尿病におけるインスリン処置の導入を遅らせ、そしてインスリン処置に伴う望ましくない副作用を回避すると思われる。
【0084】
さらにC型肝炎およびHIV感染の患者は、肝臓における脂質の蓄積、あるいは処置薬から生じる硬化または繊維症により、インスリン刺激に対する肝臓の反応の無能により、インスリン抵抗性および2型糖尿病を発生する傾向がある。TLR3アンタゴニストによるTLR3シグナリングの阻害は、この高度に障害のある(compromised)患者群において感染およびインスリン抵抗性の両方を標的とすることができる。
【0085】
本発明の方法により防止または処置できる他の炎症状態およびニューロパシーには、多発性硬化症、硬化症狼瘡エリテマトーデス、およびアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、双極性障害および筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む神経変性および中枢神経系(CNS)障害、繊維症、C型肝炎ウイルス(HCV)およびB型肝炎ウイルス(HBV)を含む肝臓疾患、関節炎、慢性関節リウマチ、乾癬性関節炎および若年性関節炎(JRA)、骨粗鬆症、変形性関節炎、膵炎、繊維症、脳炎、乾癬、巨細胞性動脈炎、強直性脊椎炎、自己免疫肝炎、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)、炎症性の皮膚状態、臓器移植、癌、アレルギー、内分泌疾患、他の自己免疫障害および気道の超反応性(airway hyper−responsiveness)を含む。
【0086】
本発明の別の観点は、細胞の増殖率を上げる方法であり、この方法は細胞におけるTLR3活性を例えば細胞をTLR3アンタゴニストと接触させることにより下げることを含んでなる。本発明のこの観点の1つの態様では、細胞は上皮または結腸組織のような組織に由来することができる。上皮細胞は例えば胃腸管上皮、皮膚上皮、肺上皮または気管支肺上皮のような任意の上皮組織から生じ得る。炎症状態は例えば心組織および胃腸管の組織のような任意の組織に影響を及ぼすことができ、正常組織から構造的および機能的逸脱を生じる。場合により、そのような炎症状態は遺伝的因子または感染の結果であり得る。別の状況では、そのような炎症状態は例えば火傷のような外的損傷の結果であり得る。当
業者は多くの異なる炎症状態および関与する種々の組織により現される関連する病状を認識している。
【0087】
本発明の別の観点は、細胞死から生じる状態を処置する方法であり、この方法は治療に有効な量のTLR3アンタゴニストを処置が必要な患者に、症状を処置するために十分な時間投与することを含んでなる。
【0088】
本発明の別の観点は、細胞死から生じる状態を防止する方法であり、この方法は治療に有効な量のTLR3アンタゴニストを防止が必要な患者に、状態を防止するために十分な時間投与することを含んでなる。
【0089】
投与/製薬学的組成物
本発明のアンタゴニストの治療的使用に関する投与様式は、作用物質を宿主に送達する任意の適当な経路でよい。タンパク質、抗体、抗体フラグメントおよびミメティボディおよびこれらの作用物質の製薬学的組成物は、非経口投与、すなわち皮下、筋肉内、皮内、静脈内、鼻内に、または吸引により投与するために特に有用である。
【0090】
本発明のアンタゴニストは、有効成分として有効量のアンタゴニストを製薬学的に許容され得る担体中に含有する製薬学的組成物として調製され得る。注入の準備ができているアンタゴニストを含有する水性の懸濁液または溶液、好ましくは生理学的pHで緩衝化されているものが好ましい。非経口投与用の組成物は通常、製薬学的に許容され得る担体、好ましくは水性担体に溶解された本発明のアンタゴニストの溶液またはそのカクテルを含んでなる。種々の水性担体、例えば0.4%塩水、0.3%グリシン等を使用することができる。これらの溶液は滅菌されており、そして一般に粒状物質を含まない。これらの溶液は通例の周知の滅菌技法(例えば濾過)により滅菌することができる。組成物はpH調整および緩衝化剤等のような生理学的条件に近づけるために必要な製薬学的に許容され得る補助物質を含むことができる。そのような製剤中の本発明のアンタゴニストの濃度は大変広く変動でき、すなわち約0.5%未満から、通常少なくとも約1%から多くても15もしくは20重量%であり、そして主に選択した特定の投与様式に従い、主に流体容量、粘度等に基づき選択される。
【0091】
このように筋肉内注射用の本発明の製薬学的組成物は、1mLの滅菌緩衝化水および約1ngから約100mgの間、例えば約50ng〜約30mg、またはさらに好ましくは約5mg〜約25mgの本発明のアンタゴニストを含むように調製することができる。同様に静脈内注入用の本発明の製薬学的組成物は、約250mlの滅菌リンゲル溶液および約1mg〜約30mg、そして好ましくは5mg〜約25mgの本発明のアンタゴニストを含むように作成することができる。非経口的に投与可能な組成物を調製する実際の方法は周知であり、そして例えば「レミングトンの製薬科学(Remington’s Pharmaceutical Science)」第15版、マック出版社(Mack Publishing Company)、イーストン、ペンシルバニア州にさらに詳細に記載されている。
【0092】
本発明のアンタゴニストは、製薬学的調製物中にある時、単位剤形で存在することができる。適切な治療に有効な用量は、当業者により容易に決定されることができる。決定された用量が、必要に応じて適切に選択された適切な時間間隔で医師により処置期間中、繰り返される。
【0093】
本発明のアンタゴニストは保存用に凍結乾燥され、そして使用前に適切な担体中で再構成され得る。この技術は通常の免疫グロブリンおよびタンパク質調製物を用いて効果的であることがすでに示され、そして技術的に知られている凍結乾燥および再構成技術を使用
することができる。
【0094】
アンタゴニストは、そのような分子を細胞に提供する任意の技術により投与され得る。細胞に関してはインビトロのアンタゴニスト投与は、例えば培養基にアンタゴニストを補充することによるものでよい。細胞に関してインビボのアンタゴニスト投与は、例えばアンタゴニストの動物または組織への静脈内注射によるものでよい。当業者はアンタゴニストを細胞にインビトロまたはインビボで投与するための他の手段を認識している。そのような手段も上で検討した宿主に作用物質を送達するための様式を含む。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】抗−ヒトTLR3(hTLR3)モノクローナル抗体アンタゴニストに由来する重鎖可変領域配列を示す(CDRに下線を付す)。
【図2】抗−hTLR3モノクローナル抗体アンタゴニストに由来する軽鎖可変領域配列を示す(CDRに下線を付す)。
【図3】ヒト肺上皮由来細胞におけるポリ(I:C)誘導型のIL−6サイトカイン生産のTLR3アンタゴニストによる阻害を示す。
【図4】ヒト肺上皮由来細胞におけるポリ(I:C)誘導型のIL−8サイトカイン生産のTLR3アンタゴニストによる阻害を示す。
【図5】ヒト肺上皮由来細胞におけるポリ(I:C)誘導型のRANTESサイトカイン生産のTLR3アンタゴニストによる阻害を示す。
【図6】初代ヒト気管支上皮細胞におけるポリ(I:C)誘導型のMIP1−アルファサイトカイン生産のTLR3アンタゴニストによる阻害を示す。
【図7】初代ヒト気管支上皮細胞におけるポリ(I:C)誘導型のIL−6サイトカイン生産のTLR3アンタゴニストによる阻害を示す。
【図8】IBDに伴う体重減少に及ぼすTLR3活性のノックアウト効果を示す。
【図9】TLR3アンタゴニストによるIBDに伴う体重減少の抑制を示す。
【図10】TLR3アンタゴニストでの処置を介してマウス敗血症モデルにおける生存の上昇を示す。
【図11】マウス敗血症モデルにおけるIL−6サイトカイン生産のTLR3アンタゴニストによる減少を示す。
【図12】マウス敗血症モデルにおけるTNF−アルファサイトカイン生産のTLR3アンタゴニストによる減少を示す。
【図13】ポリ(I:C)が誘導するマウス肺組織における炎症細胞の総数の増加を示す。
【図14】ポリ(I:C)が誘導するマウス肺組織における好中球の増加を示す。
【図15】ポリ(I:C)が誘導するマウス肺組織における単核炎症細胞の増加を示す。
【図16】ポリ(I:C)の単回投与でのTLR3の活性化は、メタコリン対抗マウスの肺機能をさらに損傷する。
【図17】ポリ(I:C)の多回投与でのTLR3の活性化は、メタコリン対抗マウスの肺機能をさらに損傷する。
【図18】TLR3ノックアウトマウスは、メタコリン対抗中に単回のポリ(I:C)投与が誘導する肺機能の傷害から保護されることを示す。
【図19】TLR3ノックアウトマウスは、メタコリン対抗中に多回のポリ(I:C)投与が誘導する肺機能の傷害から保護されることを示す。
【図20】TLR3アンタゴニストの、ヒト肺気管支上皮細胞におけるサイトカインおよびケモカイン生産に及ぼす効果を示す。
【図21】TLR3アンタゴニストの予防および処置を介して、マウスの致死的肺炎モデルにおける生存の上昇を示す。
【図22】インフルエンザウイルスA/PR/8および肺炎双球菌(Streptococcus pneumoniae)の致死以下の用量に感染した後のマウスモデルでは致死的な肺炎の発症を示す。
【図23】インフルエンザウイルスA/PR/8および肺炎双球菌(S.pneumoniae)感染マウスの肺における細菌負荷量を示す。
【図24】図A、B、CおよびDは、ELISAアッセイにおいて、ヒトに適合した抗−TLR3 mAbのhTLR3への結合を示す。
【図25】細胞に基づくサイトカイン放出アッセイにおいて、ヒトに適合した抗−TLR3 mAbの評価を示す。
【図26】IP−10の読み取りを用いた細胞に基づく生物活性アッセイにおいて、バリアントmAb HBV1からHBV8(HBV4は除く)の評価を示す。
【図27】RANTESの読み取りを用いた細胞に基づく生物活性アッセイにおいて、バリアントmAb HBV1からHBV8(HBV4は除く)の評価を示す。
【図28】IL−8の読み取りを用いた細胞に基づく生物活性アッセイにおいて、バリアントmAb HBV1からHBV8(HBV4は除く)の評価を示す。
【図29】MCP−1の読み取りを用いた細胞に基づく生物活性アッセイにおいて、バリアントmAb HBV1からHBV8(HBV4は除く)の評価を示す。
【図30】IL−6の読み取りを用いた細胞に基づく生物活性アッセイにおいて、バリアントmAb HBV1からHBV8(HBV4は除く)の評価を示す。
【図31】AおよびBは、高脂肪食のTLR3ノックアウトマウスが、高脂肪食に伴うグルコース寛容減損の発症から保護されることを示す。
【図32】TLR3ノックアウトマウスは高脂肪食で26週間後に、正常な空腹時血中グルコースレベルを有する。
【図33】A、BおよびCは、高脂肪食で26週間後にTLR3ノックアウトマウスでのグルコース対抗前および後に、空腹時インスリンレベルの上昇を示す。
【図34】A、B、C、DおよびEは、高脂肪食の野生型マウスに比べて、30週間高脂肪食を与えたTLR3ノックアウトマウスの改善された脂質プロファイルを示す。
【図35】慢性DSS大腸炎の誘導中に、TLR3アンタゴニストで予防的に(Pr)および治療的に(T)処置するための実験プロトコールを示す。
【図36】DSS摂取の各サイクルで起こる体重減少のTLR3アンタゴニストによる保護を示す。
【図37】第2のDSSサイクル後の体重減少およびTLR3アンタゴニストによる回復を示す。
【図38】第3のDSSサイクル後の体重減少およびTLR3アンタゴニストによる回復を示す。
【図39】慢性DSS大腸炎に伴う正味の体重減少に及ぼすTLR3アンタゴニスト処置の効果を示す。
【図40】慢性DSS大腸炎に伴う結腸の短縮化に及ぼすTLR3アンタゴニスト処置の効果を示す。
【図41】A、BおよびCは、慢性DSS大腸炎の重症度に及ぼすTLR3アンタゴニスト処置の効果を示す。D、EおよびFは慢性DSS大腸炎におけるhTLR3アンタゴニスト処置の組織病理学的効果を示す。
【図42】慢性DSS大腸炎におけるT細胞活性化を示す。
【図43】脾臓でのCD11b+細胞のDSSに伴う上昇に及ぼす予防的TLR3アンタゴニスト処置の効果を示す。
【図44】慢性DSS大腸炎におけるIL−4およびIL−10の全身レベルに及ぼすTLR3アンタゴニスト処置の効果を示す。
【0096】
本発明をこれから以下の具体的な、非限定的実施例を参照にして記載する。
【実施例】
【0097】
実施例1
抗−hTLR3アンタゴニストmAbの同定
hTLR3受容体を介してシグナリングを遮断することができる抗−hTLR3アンタゴニストmAbは、細胞に基づくスクリーニングアッセイにより同定された。抗−hTLR3 mAbを生産するハイブリドーマのプールを、BALB/Cマウスで標準的技法を使用して作成した(Kohler et al.,1976)。マウスは、hTLR3のアミノ酸1−703をコードするプラスミドDNAの皮内注射によりhTLR3で免疫感作した(配列番号3)。アミノ酸1−703はhTLR3の予想される細胞外ドメインに対応する(配列番号4)。マウスには最初に10μgのプラスミドDNAを、続いて2回目に10μgのDNA注射を2週間後に注射した。15μgのDNAの追加免疫注射を、各マウスに2回目の10μgプラスミドDNA注射から2週間後に投与した。B細胞融合の3日前、マウスにリン酸緩衝化塩溶液(PBS;10mM リン酸塩、150mM NaCl、pH7.4)中の15μgのhTLR3タンパク質を静脈内注射した。次いで免疫感作したマウスからの脾臓を回収し、そしてB細胞融合を標準的方法を使用して行った(Kohler et al.,1976)。ハイブリドーマは、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジンを含有する培地を使用して選択し、そして最初に抗−TLR3抗体について酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によりスクリーニングした。抗−hTLR3 mAbを生産している個々のハイブリドーマを限界希釈法によりクローン化した。
【0098】
抗−hTLR3アンタゴニストmAbを生産しているハイブリドーマは、hTLR3を安定に過剰発現している肺上皮細胞株に由来するヒトA549を使用して、細胞に基づくスクリーニングアッセイにより同定した。スクリーニングの生成に使用したA549細胞(ATCC CRL;CCL−185)およびこれらのアッセイ用の対照細胞株は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(マナッサス、バージニア州)から得た。スクリーニング細胞株は、A549−hTLR3と呼ばれるA549に由来する細胞株であった。A549−hTLR3細胞は、hTLR3およびネオマイシン耐性遺伝子をコードする哺乳動物プラスミド発現ベクターで安定にトランスフェクトされる。対照のA549由来細胞株はA549−neoと命名した。A549−neo細胞はネオマイシン耐性遺伝子のみをコードする哺乳動物プラスミド発現ベクターで安定にトランスフェクトされる。これらの安定にトランスフェクトされた細胞株は、Lipofectamine(商標)(インビトロジェン社(Invitrogen,Inc.)、カールスバッド、カリフォルニア州)トランスフェクションにより製造元の使用説明および選択およびクローニングの標準的方法に従い作成した。A549−hTLR3およびA549−neo細胞は、最少必須培地“MEM”(10%FBS、1%MEM非必須アミノ酸(ギブコ(Gibco) インビトロジェン社、カールスバッド、カリフォルニア州)、1mMグルタミン、1mMピルビン酸ナトリウム、20mM HEPESおよび0.5mg/ml G418を含有する)中で標準的条件下で培養した。
【0099】
A549−hTLR3細胞を使用した細胞に基づくスクリーニングアッセイで、mAb1068と名付けた1つのhTLR3アンタゴニストmAbを同定した。これらのスクリーニングアッセイの元にある原理は、A549−hTLR3細胞に存在するhTLR3受容体のポリ(I;C)刺激が、細胞のサイトカイン生産の上昇をもたらすということであった。スクリーニングアッセイを介して同定された候補のhTLR3アンタゴニストmAbは、A549−hTLR3細胞中のhTLR3受容体を介してポリ(I:C)媒介型のシグナリングを阻害し、そしてmAbに暴露されない対照A549−hTLR3細胞に比べて減少したサイトカイン生産を引き起こす。
【0100】
スクリーニングアッセイはA549−hTLR3細胞を試験mAbと30分間、37℃でインキュベーションした後、5μg/mlのポリ(I:C)(アマシャム バイオサイ
エンス社(Amersham Bioscience Corp.)、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)を加えることにより行い;24時間後に細胞培養上清中のサイトカインレベルを測定した。対照A549−hTLR3細胞は同一に処理したが、これらの細胞は試験mAbとインキュベーションしなかった。Luminex(商標)マルチチャンネル分析(ルミネックス社(Luminex Corp)、オースチン、テキサス州)およびIL−6(インターロイキン−6)、IL−8(インターロイキン−8)、およびRANTES(活性化で調節される、正常にT−発現し、そして恐らく分泌する)特異的mAb結合ビーズを製造元の指示に従い使用して、スクリーニングアッセイにおける細胞のサイトカイン生産レベルを測定した。hTLR3に結合する、アンタゴニストmAb1068は、そのようなアッセイにより同定した。
【0101】
mAb1068の重鎖および軽鎖をコードする重鎖および軽鎖核酸配列は、標準的方法を使用してmAb1068を発現しているハイブリドーマからクローン化した。mAb1068の重鎖および軽鎖核酸およびアミノ酸配列は、それぞれ図1および2および配列番号6および16に示す。組換えmAb1068(r1068)をコードする重鎖および軽鎖核酸配列を両方を含んでなる細胞株を標準的方法を使用して作成した。
【0102】
実施例2
ヒト肺に由来する細胞中でのIL−6、IL−8およびRANTESサイトカイン生産のhTLR3アンタゴニスト阻害
IL−6、IL−8およびRANTES特異的サイトカインアッセイは、A549−hTLR3細胞を1068mAbまたはTLR3.7mAbと37℃で30分間インキュベーションした後、5μg/mlのポリ(I:C)(アマシャム バイオサイエンス社、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)を、図3、図4および図5に示すように加えることにより行った。細胞培養上清中のサイトカインレベルは、24時間後にLuminex(商標)装置(ルミネックス社、オースチン、テキサス州)およびIL−6、IL−8またはRANTES特異的mAb結合ビーズを適切に使用して測定した。各サイトカインに関するLuminex(商標)アッセイは、製造元の指示により行った。
【0103】
結果ではhTLR3アンタゴニストmAb1068がヒト肺上皮由来のA549−hTLT3細胞でIL−6(図3)、IL−8(図4)およびRANTES(図5)サイトカインのhTLR3媒介型生産を阻害することが示される。しかしhTLR3特異的マウスmAbTLR3.7(イーバイオサイエンス(eBioscience)、サンディエゴ、カリフォルニア州)は、hTLR3媒介型のポリ(I:C)が誘導するIL−6(図3)およびIL−8(図4)の生産を、mAb1068と同程度までは阻害しなかった。RANRES生産に関しては(図5)、これらのヒト肺に由来する細胞では、mAb1068が生産を阻害したが、mAbTLR3.7はRANTESの生産を上げた。1068とTLR3.7mAbとの間のこれらの差異は、以前の研究がTLR3.7mAbがhTLR3受容体と拮抗することを示唆した(Matsumoto M.et al.,Biochem.Biophys Res.Commun.24:1364−1369(2002))ように重要である。この以前の研究は、TLR3.7mAbがヒトの繊維芽細胞由来MRC−5細胞においてポリ(I:C)誘導型IFN−ベータの生産を阻害するようであると報告された(Matsumoto M.et al.,Biochem.Biophys Res.Commun.24:1364−1369(2002))。この結果は明らかに1068hTLR3アンタゴニストmAbが、TLR3.7mAbよりもサイトカインのさらに一層広いスペクトルの生産を阻害し、そしてこれら2つのmAbがこれに基づき各々区別され得ることを示している。
【0104】
実施例3
初代ヒト気管支−上皮細胞でのMIP1−アルファおよびIL−6サイトカイン生産のh
TLR3アンタゴニスト阻害
hTLR3アンタゴニストmAb1068は、初代ヒト気管支−上皮細胞においてMIP1−アルファ(図6)およびIL−6(図7)サイトカインのhTLR3媒介型生産を阻害する。MIP1−アルファおよびIL−6特異的サイトカインアッセイは、初代ヒト気管支−上皮細胞を1068mAbまたは非特異的ポリクローナルマウスIgG調製物と、37℃で30分間インキュベーションすることにより行った後、5μg/mlのポリ(I:C)(アマシャム バイオサイエンス社、ピスカタウェイ、ニュージャージー州)を図6または図7に示したように加えた。細胞培養上清中のサイトカインレベルは、Luminex(商標)装置(ルミネックス社、オースチン、テキサス州)およびMIP1−アルファまたはIL−6特異的mAb結合ビーズを適切に使用して24時間後に測定した。各サイトカインに関するLuminex(商標)アッセイは、製造元の指示により行った。初代ヒト気管支−上皮細胞はヒト組織サンプルから単離し、そして標準的方法を使用して培養した。
【0105】
実施例4
TLR3活性のノックアウトは炎症性腸疾患症状の重篤度を軽減する
炎症性腸疾患(IBD)症状の重篤度は、TLR3受容体遺伝子活性をノックアウトすることによりIBDのマウスモデルで減少した(図8)。クローン病および潰瘍性大腸炎は、硫酸デキストランナトリウム(DSS)を摂取した動物でモデル化することができる(Hendrickson B.A.et al.,Clin Microbiol Rev.15:79−94,2002)。これらの動物モデルで観察される症状には実質的な体重の減少(図8)および上皮細胞の潰瘍化を含む。これらの症状は潰瘍性大腸炎またはクローン病のようなIBDの患者で観察される症状を模する。このIBDのマウスモデルでは、DSSで処置したTLR3ノックアウトマウスには実質的な体重減少がなく(図8)、そしてDSS処置した野生型マウスに比べて軽い上皮細胞傷害の発症が組織病理学的分析により評価された。これらの結果はTLR3シグナリングがIBDに関与するような炎症プロセスに決定的な役割を果たすことができることを示した。
【0106】
これらの実験では、メスの野生型C57BL/6マウスまたはTLR3ノックアウトマウス(Alexopoulou et al.,Nature,413:732−738(2001))に、それぞれ5(重量/容量)%の硫酸デキストランナトリウム(DSS)が飲料水中に与えられるか、またはそれを補充していない水が自由に図8に示すように5日間与えられて、急性の潰瘍性大腸炎を誘発させた。すべてのマウスが6〜8週齢であり、そして各処置群は少なくとも5匹のマウスを有した。DSS処置後の大腸炎の発症は、体重(図8)、結腸重量の変化、便の軟度、直腸の出血および結腸の組織病理学により評価した。そのようなすべての評価は、実験動物の取り扱いおよび使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee;IACUC)のガイドラインに従って行った。図8のデータは、処置1日〜5日から体重の変化をパーセントとして示している。各記号は1匹のマウスからのデータを示す。WTは野生型マウスを表し;KOはTLR3ノックアウトマウスを表す。水平の棒は平均を示す。示すデータは3回の独立した実験の複合である。DSSを受容しなかった対照の野生型およびTLR3ノックアウトマウス(図8)は、体重に同様の変化を示した(P=0.6、t−検定)。DSSを受容した野生型およびTLR3ノックアウトマウス(図8)は、体重に有意な変化を示した(P=0.003、t−検定)。
【0107】
組織病理学的分析用の結腸は、実験の5日目に動物から摘出した。結腸をパラフィンに包埋し、切片とし、そしてヘマトキシリンおよびエオシンで標準的方法を使用して染色した。DSSを受容した野生型マウスからの代表的結腸切片は、粘膜の潰瘍化および稠密な炎症性滲出物ならびに陰窩および杯細胞の損失を現した。未補充水を受容したTLR3ノックアウトマウスからの代表的な結腸切片は、未補充水を受容した野生型マウスの結腸で
観察された所見に類似する形態学および組織学を有した。DSSを受容したTLR3ノックアウトマウスからの代表的な結腸は、幾らか稠密な細胞の滲出を含んだが、他は完全な粘膜上皮および杯細胞の最少の損失を現した。この組織病理学的データは、DSSを受容したTLR3ノックアウトマウスがDSSを受容した野生型マウスよりも少ない上皮潰瘍化を発症することを示し、そしてTLR3活性がIBDに関与するような炎症プロセスに重要な役割を果たし得ることを明らかにしている。
【0108】
実施例5
hTLR3アンタゴニストの処置は炎症性腸疾患に伴う体重の減少を止める
hTLR3アンタゴニスト処置は、IBDのマウスモデルにおいて炎症性腸疾患(IBD)に伴う体重減少の重篤度を下げる(図9)。データはTLR3アンタゴニストでの処置が潰瘍性大腸炎およびクローン病のようなIBDに伴う症状を軽減することができることを明らかにする。さらにこの結果はTLR3シグナリングがIBDのような炎症状態において重要な役割を果たすことができることをさらに示している。
【0109】
これらの実験では、メスの野生型C57BL/6マウスに、それぞれ5(重量/容量)%の硫酸デキストランナトリウム(DSS)が飲料水中に与えられるか、または未補充水が図9に示すように自由に5日間与えられて、急性の潰瘍性大腸炎を誘発させた。0.2mgのmAb1068(PBS担体中)、0.2mgの非特異的マウスIgGポリクローナル抗体調製物(PBS担体中)、またはPBS担体のみを図9に示すようにDSS処置の最初の4日間、毎日、腹腔内注射によりマウスに投与した。各注射は0.9mlのmAbまたは非特異的IgG調製物(PBS中)、または0.9mlのPBS担体のみを含んでなった。すべてのマウスは6〜8週齢であり、そして各処置群は少なくとも5匹のマウスを含んだ。DSS処置後の大腸炎の発症は、体重(図9)、結腸重量の変化、便の軟度、直腸の出血および結腸の免疫組織病理学を観察することにより評価した。そのようなすべての評価は、確立された動物の取り扱いおよび使用のガイドラインに従って行った。
【0110】
図9のデータは、処置1日〜4日から体重の変化をパーセントとして示している。各記号は1匹のマウスからのデータを示す。水平の棒は中央値を示す。示すデータは2回の独立した実験の複合である。DSSおよびmAb1068を受容したマウスと、DSSを受容しなかったマウスとの間の体重の変化における有意差はなかった(P>0.05、Dunnの検定;図9)。DSSおよびmAb1068を受容したマウスにおける体重変化は、DSSおよび非特異的IgG(PBS中)またはPBSのみを受容したマウスで観察される体重の変化とは有意に異なった(双方についてP<0.01、Dunnの検定;図9)。
【0111】
実施例6
TLR3ノックアウトマウスまたはhTLR3アンタゴニスト処置マウスにおける慢性大腸炎の重篤度の減少
6〜8週齢のメスの野生型C57BL/6マウスおよびTLR3ノックアウト(KO)マウス(C57BL/6のバックグラウンド)(Alexopoulou et al.,Nature,413:732−738(2001))をすべての実験に使用した。マウスには全部で3サイクルの2(重量/容量)%の硫酸デキストランナトリウム(DSS)が飲料水中に与えられた(Okayasu et al.,Gastroenterology 98:694−702(1990))。DSS水は5日間、自由に与えられて、潰瘍性大腸炎を誘導し、そして次に普通水を与えた。2回目の2%DSSの5日間のサイクルは14日目に始め、これに次いで9日間休んだ。今度は7日間である第3回目の2%DSSサイクルは、28日目から始めた。マウスを2つの異なる時点で屠殺した;実験25日目の2回目の休息期間後、または実験の37日目の第3DSSサイクルの後のいずれか。各処置群は少なくとも8匹のマウスからなった。大腸炎の発症は、実験を通じて体
重の変化を観察し、ならびにDSS処置後の結腸長、結腸重量、便の軟度、直腸の出血および結腸の組織病理学を含め、屠殺時の他のパラメーターを評価することにより評価した。
【0112】
組織病理学は、実験計画に対して知らない独立した獣医病理学者により評価された。結腸の縦方向の切片は、上皮細胞壊死、上皮潰瘍化および侵食性(sloughing)、陰窩損失、陰窩細胞増殖、粘膜固有層における顆粒化組織形成、粘膜下組織での顆粒化組織、粘膜下の炎症細胞浸潤および粘膜下水腫を含む変化のパネルについてスコアを付けた。スコアは以下のように損傷の程度を反映して与えた:0、存在せず;1、軽度、病巣;2、軽度、多病巣;3、中程度、限定された領域に頻繁に見られる;4、重症、渡された組織の多くの領域に頻繁に見られる;5、大変重症、渡された組織の大部分に広がる。統計分析をスチューデントt検定を使用して行った(JMP、SAS研究所;GraphPad Prism)。潰瘍性大腸炎およびクローン病の患者の症状には、体重減少、血便の存在、および結腸の上皮層の潰瘍化を含む。このように硫酸デキストランナトリウム処置マウスで誘導される症状は、潰瘍性大腸炎またはクローン病の患者で見られる症状を一部模する(Hendrickson et al.,Clin.Microbiol.Rev.15:79−94(2002))。
【0113】
各サイクルのDSS摂取で、このモデルでは野生型およびTLR3 KOマウスの両方に体重減少を誘導する。しかしTLR3 KOマウスは野生型マウスよりも有意に少ない体重減少を体験した。またTLR3 KOマウスは、結腸の炎症および傷害の総合的な測定により評価されるように疾患の重篤度の減少も示された:TLR3 KOマウスにおける結腸の短縮化はWTマウスで見られるよりも有意に少なく、そしてTLR3 KOマウスはさらに低い頻度の直腸出血を示した。結腸粘膜傷害の組織病理学的評価は、これらの総合的な測定と一致した。1つの細胞壊死、上皮潰瘍化、上皮侵食性、陰窩脱落および陰窩膿瘍に関する中央値のスコアは、TLR3 KOマウスでWTマウスよりも低かった。これらのデータは一緒に、TLR3シグナリングの不存在が慢性大腸炎のマウスモデルにおいて、疾患から部分的に保護を与えることを示し、そしてTLR3シグナリングがヒトのIBDにおいて疾患の重症度を増悪するらしいことを示唆している。
【0114】
疾患のモジュレーションにおけるTLR3の役割をさらに証明するために、WTC57BL/6マウスをアンタゴニスト抗−TLR3mAb1068で処置した。DSSに暴露したマウス群は、0.2mgの抗−TLR3mAb1068を予防的(最初のDSSサイクルで開始した、“Pr”)または治療的(2回目のDSSサイクルで開始した、“Th”;図35)を受けた。DSS暴露マウスの対照群は、PBS(賦形剤対照)または0.2mgの非特異的陰性対照mAbのいずれかを受けた。さらなる対照群はDSSを与えなかった。図35のアタリスクは、抗−TLR3アンタゴニストmAb投与の時点を表す。
【0115】
DSS暴露マウスのすべての群で、DSS摂取の各サイクルで体重の減少が続いた(図36)。図36の各記号は少なくとも8匹のマウスの平均を表し、誤差棒は標準偏差を表す。DSSは0〜4、14〜18および28〜35日に与えた。しかし抗−TLR3mAbで処置した群は、減少した体重の損失を示し、そしてPBSまたは対照mAbで処置した群と比べて2回目のDSSサイクル後に早い速度で体重が回復した(図37)。3回目のDSSサイクル後の体重損失も、抗−TLR3mAb処置群で大きく減少した(図38)。実験の開始(0日)から実験の終わり(37日)までの正味の体重減少の平均は、PBSまたは対照mAbのいずれかを受けたDSS暴露マウスでおよそ20%であった。抗−TLR3mAbでの処置は、およそ10%まで体重損失を有意に減らした(図39)。図39では、データは実験の開始(0日)から実験の終わり(37日)までの体重の変化の%として示されているので、プラスの数字は正味の増加を、そしてマイナスの数字は正味の損失を示す。抗−TLR3mAb処置群での体重損失の%は、賦形剤対照(PBS)
または非特異的IgGで処置した群よりも有意に少なかった(予防的抗−TLR3処置(抗−TLR3 P)対PBS、P=0.006;抗−TLR3 P対非特異的IgG、P=0.006;治療的抗−TLR3(抗−TLR3Th)対PBS、P=0.001;抗−TLR3 Th対非特異的IgG、P=0.009)。各記号は1匹のマウスを表し、水平棒は平均を表す。
【0116】
また抗−TLR3mAb処置は、結腸の短縮化の程度も減少させた。抗−TLR3mAbで予防的に、または治療的のいずれかで処置したマウス群の結腸の長さは、賦形剤または対照mAbを与えた群の長さよりも有意に大きかった(図40)。(抗−TLR3 P
対 PBS、P=0.009;抗−TLR3 P 対 非特異的IgG、p=0.01;抗−TLR3 Th 対 PBS、P=0.03;抗−TLR3 Th 対 非特異的IgG、p=0.04)。
【0117】
さらに結腸の粘膜傷害は、軽い組織病理学的変化(上皮細胞壊死、陰窩脱落、上皮潰瘍化および浸潤、陰窩損失および陰窩細胞増殖を含む)、および慢性の修復的組織病理学的変化(粘膜固有層での顆粒化組織形成、粘膜下での顆粒化組織、粘膜下の炎症細胞浸潤および粘膜下水腫を含む;図41a)により評価されるように、PBSまたは非特異的対照mAbを与えた対照群に比べて、抗−TLR3mAbで治療的に処置した群では重症度が有意に低かった。グラフに示すデータは、DSSおよび異なる処置を受けた各群のマウスに関するすべての組織病理学的スコアに関する和、軽度な変化に関する和、または慢性的変化に関する和を表す(群:1、PBS賦形剤処置;3、予防的抗−TLR3mAb;4、治療的抗−TLR3mAb;5、非特異的対照mAb)。各グラフの右パネル上の丸は、各処置群に関するスコアの平均および標準偏差を囲う。群間の統計的な有意差は、最少に重複する丸で表す。
【0118】
特に抗−TLR3mAb処置は、PBSまたは非特異的mAbに比べて上皮潰瘍化を減らし、そして粘膜下および粘膜固有層の顆粒化組織の形成を防いだ(図41b)。グラフで表すデータは、DSSおよび異なる処置を受けた各群のマウスに関する組織病理学的スコアを表す(群:1、PBS賦形剤処置;3、予防的抗−TLR3mAb;4、治療的抗−TLR3mAb;5、非特異的対照mAb)。各グラフの右パネル上の丸は、各処置群に関するスコアの平均および標準偏差を囲う。群間の統計的な有意差は、最少に重複する丸で表す。
【0119】
抗−TLR3が付与する防御の潜在的な免疫相関を測定するために、免疫細胞群および全身的サイトカインレベルを調査した。DSSへの暴露は、脾臓および腸間膜リンパ節における活性化T細胞の数の上昇を伴うことが観察され(図42)、公開された報告と一致し、この慢性的な大腸炎モデルにT細胞の関与を示す。フローサイトメトリーを使用して、脾臓および腸間膜リンパ節におけるCD62LlowT細胞の頻度を測定し、全身的および局所的T細胞の活性化をそれぞれ表す。慢性的な大腸炎は脾臓および腸間膜リンパ節における活性化CD4+(ヘルパー)T細胞の上昇した頻度と関連し、ヘルパーT細胞活性化における全体的な増加を示唆している。脾臓における活性化CD8+エフェクターT細胞の頻度の低下は、腸間膜リンパ節における活性化CD8+T細胞の頻度の上昇を伴い、エフェクターT細胞の消化管の場所へのトラフィッキングを示唆している。データは2回目のDSSサイクル後の25日から示す。各記号は1匹のマウスからのデータを表し;水平棒は平均を示す。
【0120】
さらに、より高い頻度CD11b+細胞がDSS暴露マウスの脾臓で見いだされ、恐らく炎症性マクロファージの大腸炎に伴う増加を反映している。驚くことに、予防的な抗−TLR3mAb処置が、有意に減少した脾臓のCD11b+細胞の頻度と関連し、DSSに暴露しなかった対照マウスで見られるレベルまで下がった(図43)。DSSに暴露し
た抗−TLR3mAb処置マウスの脾臓のCD11b+細胞の割合は、DSSを受けなかったマウスの割合と同様であり、そしてPBS(P=0.001)または非特異的IgG(P=0.02)のいずれかを受けたDSS暴露マウスよりも有意に低かった。データは2回目のDSSサイクル後の25日から示す。各記号は1匹のマウスからのデータを表し;水平棒は平均を示す。
【0121】
DSS暴露マウスの血清サイトカインプロファイルも、抗−TLR3mAb処置に関連する変化を示す:上昇したIL−4およびIL−I0レベルは、抗−TLR3mAbを予防的に受けたマウスで測定された(図44)。慢性DSS大腸炎の誘導中の抗−TLR3mAb処置は、全身的なIL−4およびIL−10レベルを強化した。25日および37日からのデータを示し、第2および第3回目のDSSサイクル後の時点をそれぞれ表す。各記号は1匹のマウスからのデータを表し;水平棒は平均を示す。IL−4およびIL−10は両方が炎症の調節に重要な役割を果たすことが証明された。IBDの免疫病理の制御においてIL−10に関する具体的な役割は、IL−10ノックアウトマウスが自然に大腸炎を発症するという観察により示唆される。これらの結果は抗−TLR3mAb処置がDSS摂取により誘導される炎症およびT細胞応答を改変することを示唆する。
【0122】
合わせると、これらのデータはTLR3シグナリングを抗−TLR3mAbで遮断することが、慢性大腸炎モデルにおいて疾患の重症度を緩和することを表し、そしてヒトIBDの処置のために抗−TLR3mAbの潜在的効力の証拠を提供する。
【0123】
実施例7
hTLR3アンタゴニスト処置は敗血症での生存を上げる
敗血症はマウスのような動物で、D−ガラクトサミンおよびポリ(I:C)の投与によりモデル化することができる。そのようなモデルでは、D−ガラクトサミンは敗血症の「感作物質」として機能するヘパトトキシンであり、そしてポリ(I:C)はdsRNAを模し、そしてTLR3を活性化する敗血症誘導分子である。結果はTLR3アンタゴニスト処置が敗血症のマウスモデルにおいて動物の生存率をほぼ2倍にすることができることを示した。
【0124】
これらの実験では、メスの野生型C57BL/6マウスにPBS担体中の1mgのhTLR3アンタゴニスト1068mAb、PBS担体中の1mgの非特異的マウスポリクローナルIgG調製物、またはPBS担体単独のいずれかを図10に示すように腹腔内注射で与えた。各注射は1mlのmAbまたはPBS中の非特異的IgG調製物または1mlのPBS担体のみからなった。翌日、マウスは100μlの滅菌PBS中の10μgのポリ(I:C)および20mgのD−ガラクトサミン(シグマ−アルドリッチ社(Sigma−Aldrich Corp.)、セントルイス、ミズーリ州)を図10に示すように腹腔内注射により受けた。マウスの生存は1日に2回、3日間監視した。すべての評価は確立された動物の扱いおよび使用のガイドラインに従って行った。結果はhTLR3アンタゴニスト処置が敗血症のマウスモデルにおいて動物の生存率を上げることを示す(図10)。
【0125】
実施例8
hTLR3アンタゴニスト処置は、敗血症のマウスモデルにおいてIL−6およびTNF−アルファサイトカインの生産を下げる
hTLR3アンタゴニスト処置は、敗血症のマウスモデルにおいて炎症に伴うIL−6(図11)およびTNF−アルファ(図12)サイトカインの血清レベルを下げる。この結果はTLR3活性を阻害することが、敗血症に貢献するサイトカインのTLR3媒介型生産を下げることにより、敗血症からの生存を促進できることを示す。
【0126】
上記実施例6に記載したように処置したマウスの血清は、ポリ(I:C)投与から2時間後、CO2/O2麻酔をかけたマウスの後眼窩洞出血により調製した。血清は室温で血液をインキュベーションし、続いて2500rpmで15分間遠心することにより調製した。血清はサイトカインアッセイ前に−80℃に保存した。血清サンプル中のサイトカインレベルは、Luminex(商標)装置(ルミネックス社、オースチン、テキサス州)および、適切なIL−6(図11)、またはTNF−アルファ(図12)特異的mAb結合ビーズを使用して測定した。各サイトカインに関するLuminex(商標)アッセイは、製造元により指示されるように行った。すべての測定は確立された動物の扱いおよび使用のガイドラインに従い行った。
【0127】
図11および図12中の各記号は1匹のマウスからのデータを示す。水平の棒は平均を示す。示すデータは2回の独立した実験の複合である。mAb1068での処置は、ポリ(I:C)投与から2時間後の血清IL−6レベルを有意に減少させた(P=0.04、t−検定;図11)。mAb1068での処置は、ポリ(I:C)投与から2時間後の血清TNF−アルファレベルを有意に減少させた(P=0.03、t−検定;図12)。
【0128】
実施例9
ポリI:C投与は炎症性サイトカインの分泌および肺のTLR遺伝子発現のアップレギュレーションを誘導する
イソフルランで麻酔をかけたオスまたはメスの野生型C57BL/6マウスは、PBS中のポリ(I:C)またはPBSのみの鼻内投与用量を24時間毎に3日間、3回受けた。すべてのマウスは12週齢であった。各ポリ(I:C)用量は50μgまたは100μgのポリ(I:C)のいずれかを表1に示すように含んだ。各用量の容量は50μlであった。各処置群は6〜8匹のマウスを含んだ。マウスはCO2処置により屠殺し、そして肺に最後の投与から24時間後に肺にカニューレを挿入した。次いで気管支肺胞洗浄(BAL)を、1mLのPBSを肺に注射し、そして流出物を回収(retrieving)することにより行った。次いでBAL調製物は遠心して細胞をペレットとし、そして細胞を含まない上清を集め、そしてマルチチャンネルサイトカインアッセイで使用するまで−80℃で保存した。すべての評価は確立された動物の扱いおよび使用のガイドラインに従って行った。
【0129】
BAL上清中のサイトカインレベルは、Luminex(商標)マルチチャンネル分析(ルミネックス社、オースチン、テキサス州)、および適切なIFNγ、IL−1α、IL−6、CXCL10、JE、KC、MGCSF、MIP1α、RANTES、TNFαまたはGMCSF特異的mAb結合ビーズ(LINCO リサーチ(Research)、セントチャールズ、ミズーリ州)を使用して測定した。各サイトカインに関するLuminex(商標)アッセイは、製造元により指示されるように行った。データは6〜8匹のマウスからの平均pg/ml±平均の標準誤差(SEM)として表す。
【0130】
結果は、50または100μgのポリI:Cの多数回投与がインターフェロンγ(IFNγ)、インターロイキン−6(IL−6)、組織壊死因子−α(TNFα)、ケモカイン(CXCモチーフ)、リガンド10(CXCL10)、ケモカイン(CCモチーフ)、リガンド2(JE)、ケモカインKC(KC)、マクロファージ炎症タンパク質−1α(MIP−1α)、活性化で調節される、正常にT細胞が発現し、そして分泌する/CCL5(RANTES)、マウス顆粒球コロニー刺激因子(mG−CSF)および顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)を含むサイトカイン、ケモカインおよび増殖因子のタンパク質レベルの上昇を誘導したことを示した(表1)。この結果はTLR3の活性化がCOPDのようなサイトカイン、ケモカインおよび増殖因子が媒介する肺の病因に重要な役割を果たし得ることを示す。
【0131】
さらに肺組織のTaqmanリアルタイムPCR分析では、多数回投与がサイトカイン遺伝子ならびに多くのTLRおよびそれらに関連する細胞内シグナリング分子のmRNAのアップレギュレーションを誘発したことを示す(表2)。これらのデータは、インビボで投与された合成の二本鎖RNA類似体であるポリI:Cが、多くの炎症性サイトカイン、ケモカインの分泌、およびTLR2、TLR3、TLR7およびTLR9のようなTLR遺伝子発現のアップレギュレーションをもたらす反応のカスケードを誘導することを示す。
【0132】
【表1】
【0133】
実施例10
TLR3の活性化は、肺組織中のサイトカイン、ケモカイン、増殖因子およびToll遺伝子転写産物のレベルを上げる
上記実施例8に記載のように処置したオスまたはメスC57BL/6マウスの肺から抽出した全RNAの転写産物のレベルは、リアルタイムPCR(RT−PCR)により測定した。全RNAはTrizol(商標)(インビトロジェン社、カールスバッド、カリフォルニア州)を使用して、マウスの肺組織サンプルから抽出し、そしてRNEasy Miniキット(キアゲン社(Qiagen Inc.)、バレンシア、カリフォルニア州)を使用して単離した。次いで6〜8匹の同一に処置したマウスからのRNAをプールした。
【0134】
cDNAは各RNAプールからOmniscript(商標)キット(キアゲン社、バレンシア、カリフォルニア州)を使用して製造元の使用説明に従い調製した。100ngのcDNAをTaqMan(商標)低密度免疫プロファイリングアレイカード(Low Density Immune Profiling Array Cardds)(ア
プライドバイオシステムズ(Applied Biosystems)、フォスターシティ、カリフォルニア州)またはカスタム低密度アレイ(custom Low Density Array:LDA)カードを製造元による指示に従い使用して増幅した。Primer Express(商標)ソフトウェア(アプライドバイオシステムズ)を使用してプローブおよびプライマーの組み合わせを設計した。次いでTaqMan(商標)RT−PCR(アプライドバイオシステムズ)を384ウェル形式でABI PRISM(商標)7000HT装置(アプライドバイオシステムズ)で製造元により指示されるように行った。
【0135】
PCRの初期対数期におけるデータの回収および転写産物の定量は、ABI PRISM(商標)7000HT装置および付随するソフトウェアを用いて行った。個々の転写産物のレベルは、18SリボゾームRNAに関する転写産物に対して標準化した。表2のデータは、PBS賦形剤で処置されたマウスに対して、ポリ(I:C)の多回投与を受けたマウスにおけるmRNAの転写産物のレベルの平均増加倍数として表す。データは6〜8匹のマウスからプールしたRNAを表す。
【0136】
データはTLR3の活性化が、マウス肺組織中のサイトカイン、ケモカイン、増殖因子およびToll遺伝子転写産物(例えばTLR3および他のToll様受容体)を上昇させることを示す(表2)。この結果はさらにTLR3の活性化および他のToll様受容体(TLR)の活性化が、サイトカイン、ケモカインおよび増殖因子が媒介する肺の病因に重要な役割を果たし得ることを示している。
【0137】
【表2】
【0138】
【表3】
【0139】
【表4】
【0140】
実施例11
TLR3の活性化は肺組織の炎症細胞レベルを上げる
TLR3の活性化は、マウス肺組織の炎症細胞レベルを上げる(図13、14および15)。この結果は、TLR3の活性化が好中球(図14)および単核細胞(図15)(例えば単球またはリンパ球)のような炎症細胞の肺浸潤の増加に伴う肺の病理学に重要な役割を果たし得ることを示す。ポリ(I:C)を受けたC57BL/6マウスの肺への炎症細胞の浸潤は、血球計の計数(図13)または分染法(図14および15)のいずれかにより評価された。マウスは上記実施例9に記載されたような多回のポリ(I:C)投与または単回のポリ(I:C)投与を受けた。単回のポリ(I:C)投与はイソフルランで麻酔をかけたオスまたはメスのC57BL/6マウスの鼻内に投与された。すべてのマウスは8〜12週齢の間であった。単回投与は50μLのPBS中、50μgまたは100μgのポリ(I:C)からなった。肺の浸潤細胞を回収するためにBALは、単回ポリ(I:C)投与を受けた動物についてはポリ(I:C)投与から24時間後に、または多回投与を受けた動物に関しては最後のポリ(I:C)投与から24時間後に行った。BALは上記実施例8に記載したように行った。
【0141】
処置したマウスの肺についてのBAL後に回収した細胞ペレットを、0.1%のBSAを含有する200μLのダッベッコリン酸緩衝化塩溶液(DPBS)に再懸濁した。懸濁
した細胞の50μLのアリコートを50μLのTurkの血液希釈液(レッド バード サービス(Red Bird Service)、オスグード、インディアナ州)に加え、徹底的に混合し、そして全細胞数を血球計の計数により数えた(図13)。次いで1x105細胞/μL未満を含有する懸濁液の100μLのアリコートを、Cytospin(商標)スライドアッセンブリーに乗せ、そして4分間、400rpmで遠心した。スライドをCytospin(商標)アッセンブリーから取り出し、そして少なくとも1時間乾燥させた。次いでスライドをライト−ギエムザ(Wright−Giemsa)染色に90秒間沈め、そしてddH2Oで5分間脱色した。スライドを一晩乾燥させた。油含浸下、100x対物レンズを使用して、スライドは分別的にカウントされ、そして好中球(図14)および単核細胞(図15)の総数を数えた。各処置群からの6〜8匹のマウスから集めた肺浸潤細胞データの平均およびSEMをプロットした(図13、14および15)。
【0142】
実施例12
TLR3ノックアウト動物は、肺組織においてポリ(I:C)が誘導する炎症細胞レベルの上昇から保護される
炎症細胞の、C57BL/6またはTLR3ノックアウトマウスまたは単回もしくは多数回ポリ(I:C)投与を受けているマウスの肺への浸潤は、血球計の計数および分染法により評価して好中球および単球細胞を同定した。マウスは実施例8に記載したような多回ポリ(I:C)投与を、または実施例10に記載したような単回のポリ(I:C)投与を受けた。肺の浸潤細胞を回収するためのBALは、単回ポリ(I:C)投与を受けた動物についてはポリ(I:C)投与から24時間後に、または多回投与を受けた動物に関しては最後のポリ(I:C)投与から24時間後に行った。BALは上記実施例8に記載したように行った。炎症細胞の野生型C57BL/6またはTLR3ノックアウトマウスの肺への浸潤細胞の評価は、実施例10に記載したように血球計の計数または分染法のいずれかにより数えた。データはPBSのみを受けた動物での平均肺浸潤細胞カウントに対して、ポリ(I:C)処置動物での平均肺浸潤細胞カウントにおける増加倍数として表した。データは6匹のマウスから得た値を表す。
【0143】
表3に示す結果は、TLR3ノックアウトマウスが野生型マウスと比べて肺組織でのポリ(I:C)誘導型の炎症細胞レベルの上昇から保護されること、およびポリ(I:C)投与の効果はほとんどがTLR3活性化によることを示す。さらに結果はTLR3活性化が好中球および単核細胞(例えば単球またはリンパ球)のような炎症細胞による上昇した肺への浸潤を伴う肺の病理学に重要な役割を果たし得ることを示す。
【0144】
【表5】
【0145】
実施例13
ポリ(I:C)でのTLR3の活性化は、メタコリンで対抗(challenged)した動物の肺機能をさらに損なう
オスまたはメスの野生型C57BL/6マウスは、PBS中の単回ポリ(I:C)投与またはPBSのみ(図16)、あるいは24時間毎に3回のPBS中のポリ(I:C)の鼻内投与またはPBSのみを3日間受けた(図17)。ポリ(I:C)はTLR3を活性化する。すべてのマウスは12週齢であった。各ポリ(I:C)投与は50μgまたは100μgのポリ(I:C)のいずれかを含み、そして50μLの容量からなった。各処置群は6〜8匹のマウスを含んだ。
【0146】
肺機能は最後のポリ(I:C)投与から24時間後に気道閉塞のマーカーとしてPenH値および呼吸努力を使用して評価した。PenH値は、図16または図17に示すように増加するメタコリン暴露で対抗したマウスからの全体重プレチスモグラフにより集めた。メタコリンは呼吸努力を上げ、そして肺機能を害する。メタコリンはPBSに溶解し、そして噴霧化エーゾルとして投与した。すべての評価は確立された動物の扱いおよび使用のガイドラインに従って行った。図16および17に示すデータは、6〜8匹の各処置群からの平均値およびSEMを表す。
【0147】
結果はTLR3の活性化がメタコリンで対抗した野生型マウスの肺機能をさらに害することを示す(図16および図17)。この結果は、TLR3の活性化がさらに、すでに感染、慢性閉塞性肺疾患(COPD)または他の障害による肺傷害に罹患している個体の肺機能をさらに害する恐れがあることを示唆する。その結果、TLR3活性と拮抗する治療的介入はすでに損傷した肺機能に罹患している個体のさらなる肺機能障害を防止することができる。
【0148】
実施例14
TLR3ノックアウト動物は、メタコリン対抗中に肺機能のポリ(I:C)が誘導する傷
害から保護される
実施例12に記載したように、単回(図18)および多回用量(図19)のポリ(I:C)投与を、オスまたはメスの野生型C57BL/6マウスまたはTLR3ノックアウトマウスに行った。肺機能は実施例12に記載したようにWEPにより集めたPenH値を使用して評価した。メタコリン投与も実施例12に記載した通りであった。すべての評価は確立された動物の扱いおよび使用のガイドラインにしたがって行った。図18および19に示すデータは、6〜8匹の各処置群からの平均値およびSEMを表す。
【0149】
TLR3ノックアウトマウスは、メタコリン対抗中にポリ(I:C)誘導型の肺機能の傷害から保護される。この結果はTLR3活性と拮抗する治療的介入はすでに感染、慢性閉塞性肺疾患(COPD)または喘息のような他の障害により傷害を受けた肺機能に罹患している個体のさらなる肺機能傷害を防止することができる。
【0150】
加えて、この結果はポリ(I:C)投与の効果が大部分、TLR3活性化に依ることをさらに示す。
【0151】
実施例15
ヒト肺気管支上皮細胞においてサイトカインおよびケモカイン生産に及ぼすhTLR3アンタゴニスト効果
ヒト肺気管支上皮細胞株BEAS−2Bは、アメリカンタイプカルチャーコレクション(CRL−9609)から得た。BEAS−2BはコラーゲンI被覆フラスコ中で(BD
バイオサイエンス:Bioscience)、LHC−9無血清培地にて成長させ、そして0.25%トリプシン/EDTAで軽く洗浄した後に回収した。次いで細胞をLHC−9無血清培地(バイオソース:Biodource)で洗浄し、そしてLHC−9培地に1x106/mlで再懸濁した。細胞はコラーゲンI被覆96ウェル平底プレートに200μl/ウェルでプレーティングし;3連の培養ウェルを各条件について実験した。
【0152】
細胞を接着させるために6時間インキュベーションした後、培地を取り出し、そして200μlの新しい培地と交換した。100μg/mlから始まるmAb1068の10倍の連続希釈物を37℃で40分間インキュベーションした後、125ng/ウェルのTLR3アゴニストポリ(I:C)を加えた。培養上清をポリ(I:C)での刺激から24時間後に集め、そしてLuminex(商標)マルチチャンネル分析(ルミネックス社、オースチン、テキサス州)をサンプルについて行って、IL−6、IL−8、RANTES、MCP−1、IP−10、IFN−α、IFN−γ、IL−1β、IL−12、TNF−α、MCP−1およびIL−10の発現レベルをアッセイした。
【0153】
結果は抗−TLR3アゴニストmAb1068(図20ではmAb CNTO260と確認される)がポリ(I:C)刺激化BEAS−2B細胞においてIL−6、IL−8、RANTES、MCP−1およびIP−10生産を下げることが示された。mAb1068中のIL−6、IL−8、RANTES、MCP−1およびIP−10の発現は、図20に示すようにmAb1068用量依存的様式で減少した。IFN−α、IFN−γ、IL−1β、IL−12、TNF−α、MCP−1およびIL−10発現はサンプル中に検出されなかった。
【0154】
実施例16
hTLR3アンタゴニストの処置は致死的肺炎からの生存を上げる
これらの実験では、8〜10週齢のメスの野生型C57BL/6マウスを、50μlのPBS中、5プラーク形成単位(PFU)のインフルエンザウイルスA/PR/8で鼻内感染させ、そして次いで7日後、50μlのPBS中、50コロニー形成単位(CFU)の肺炎双球菌(S.pneumoniae)の菌体を鼻内感染させた。投与したウイルス
および細菌用量のみでは致死以下であるが、これらの用量は一緒にするとほとんどのマウスに致死的であった(図22)。モック感染したマウスの対照群は、インフルエンザウイルスA/PR/8または肺炎双球菌(S.pneumoniae)の代わりにPBSを受けた。hTLR3アンタゴニスト処置マウスは、0.2mlのPBS中、0.6mgまたは0.06mgのいずれかを、7日目に肺炎双球菌(S.pneumoniae)の接種2時間前に腹腔内投与され(予防的処置)、そして8日目に再度、同じく投与された(治療的投与)。モック処置したマウスの対照群は、腹腔内に投与される非特異的IgGの0.6mgまたは0.06mg(PBS中)を受けた。各処置または対照群は、7匹のマウスを含んだ。本明細書に記載するすべての評価は、IACUCガイドラインに従い行った。
【0155】
インフルエンザA/PR/8ウイルスはニワトリ卵中で培養し、PFU力価はMDCK細胞を用いた標準アッセイを使用して測定し、そして接種用の凍結ウイルスストックとして維持した。肺炎双球菌(Streptococcus pneumoniae)(ATCC(商標)番号:6301(商標))接種物は、5%のヒツジ血液(TSA/血液)を含有するトリプチカーゼ大豆寒天プレート上で一晩成長させ、次いで細菌をプレートから取り出し、そしてリン酸緩衝化塩溶液(PBS)に懸濁した。PBS懸濁液中の細菌のCFU力価は、600nmの光学密度および標準法を使用して計算した。次いで細菌接種物をPBS中に調製した。細菌調製物中のCFUは標準コロニー形成アッセイにより確認して、マウスに接種する接種物中に実際に存在する細菌の数を決定した。
【0156】
接種物の調製後、マウスは上記のようにインフルエンザA/PR/8ウイルスまたは肺炎双球菌(S.pneumoniae)で鼻内感染させた。モック感染対照マウスは上記のように鼻内投与したPBSを受けた。hTLR3アンタゴニストで処置したマウスは腹腔内に投与したmAb1068を、上記のように予防的または治療的の両方で受けた。モック処置した対照マウスは、上記のようにPBS中の非特異的IgGを腹腔内投与で受けた。インフルエンザA/PR/8ウイルスおよび肺炎双球菌(S.pneumoniae)用量単独での感染は、ウイルスまたは細菌に感染したマウスの100%が生存することから致死以下であった(図22)。しかしウイルスまたは細菌の感染は一緒になるとそうではなくこれらの致死以下の用量で、マウス大部分に致死的な肺炎を生じた(図22)。
【0157】
マウスは細菌感染後48時間で安楽死させ、肺を無菌的に摘出し、滅菌PBS中で均一化し、ホモジネート希釈物をPBSで調製し、そして希釈物をTSA/血液プレート上に置いて、肺中の細菌負荷量(burden)を決定した。次いで血小板をコロニーが見えるようになるまでインキュベーションし、そしてCFUを数えた。図23に示すように、致死未満用量のインフルエンザウイルスで感染させる前、肺炎双球菌(S.pneumoniae)感染から2日後のマウスの肺で細菌負荷量が増加した。
【0158】
8および9日にマウスあたり0.6mgまたは0.06mgの抗−TLR3mAb1068投与は、0.6mgまたは0.06mgの非特異的IgG対照mAbを受けた対照マウスに比べて、インフルエンザウイルスA/PR/8および肺炎双球菌(S.pneumoniae)に感染したマウスでのマウス生存率を上げた(図21)。
【0159】
重要なことは、平均メスC57BL/6マウスの体重が18gから20gの間であり;結局、投与したTLR3アンタゴニストの用量範囲は、0.6mgのmAb1068を受けたマウスに関しては約3.0mg/kgから3.3mg/kgの間、または0.06mgのmAb1068を受けたマウスに関しては約30mg/kgから33mg/kgの間であった。図21はこの範囲の下端を示すために標識されている。
【0160】
実施例17
結腸上皮細胞増殖率に及ぼすTLR3活性の効果
マウスモデルの結腸上皮細胞の増殖率は、TLR3受容体遺伝子活性をノックアウトすることにより上昇した(データは表4に示す)。これらの実験で、上記のメスの野生型C57BL/6マウスまたはTLR3ノックアウトマウスにそれぞれ1mlのPBS中、1mgのブロモデオキシウリジン(BrdU)を腹腔内投与し、そして2時間後に屠殺した。すべてのマウスは6〜8週齢であり、そして各処置群は少なくとも3匹のマウスを有した。
【0161】
次いで組織病理学的分析用の結腸を回収した。結腸組織を固定し、切片に切断し、パラフィンに包埋し、そして5μmの切片を調製した。切片を順次、マウス抗−BrdU IgG mAb(ベクトン−デッキンソン(Becton−Dickinson)バイオサイエンス社、サンジョーズ、カリフォルニア州)、ヤギ抗−マウスIgGmAb西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合体(ベクトン−デッキンソンバイオサイエンス社、サンジョーズ、カリフォルニア州)、およびジアミノベンジジン(DAB)基質(ベクトン−デッキンソンバイオサイエンス社、サンジョーズ、カリフォルニア州)と、製造元の使用説明によりインキュベーションした。インキュベーションした切片は標準法によりヘマトキシリンでカウンター染色した。
【0162】
次いでインキュベーションした切片を視覚的に調査し、そしてDNAへのBrdU取り込みについて陽性に染色された結腸陰窩中の細胞数を数えた。細胞は結腸の同じセグメントから切片中の24の連続するウェルで並んだ陰窩中で数えた。BrdUの取り込みは、細胞サイクルを進行的に通っている細胞を同定するための代理マーカー、すなわち増殖している細胞として使用した。表4では、増殖率を2時間あたりの動物毎の結腸陰窩当たりBrdU染色された細胞数の平均として表す。これらのデータは平均増殖速度±標準偏差(p<0.0001、T検定)として提示する。データはTLR3の不活性化が結腸上皮細胞増殖を上げることを示す。
【0163】
【表6】
【0164】
実施例18
炎症性腸疾患からの回復中の結腸上皮細胞増殖率に及ぼすTLR3活性の効果
炎症性丁疾患(IBD)のマウスモデルにおいて、回復中の結腸上皮細胞の増殖率は、TLR3受容体遺伝子活性をノックアウトすることにより上昇した(表5)。これらの実験では、上記のメスの野生型C57BL/6マウスまたはTLR3 KOマウスにそれぞれ飲料水中の5(重量/容量)%の硫酸デキストランナトリウムを3日間与え、急性の潰瘍性大腸炎を誘導した。次いでマウスには30時間後の実験終了まで普通水を与えた。マウスは上記のようにBrdUを注射され、6時間後、それらは普通水を飲み始めた。次いでマウスはDSSが誘導した潰瘍性大腸炎から24時間、回復させ、そして屠殺した。すべてのマウスが6〜8週齢であり、そして各処置群は少なくとも3匹のマウスを含んだ。
【0165】
結腸陰窩細胞増殖の組織病理学的分析用の結腸サンプルを調製し、そして上記実施例15のように分析した。増殖率データは24時間あたりの動物毎の結腸陰窩毎にBrdU染色された細胞の平均数として表す。これらのデータは平均増殖率±標準偏差(P<0.0
04、T検定)として提示する。表5のデータは、TLR3の活性化が炎症性腸疾患の回復中に結腸上皮細胞の増殖率を上げることを示す。
【0166】
【表7】
【0167】
実施例19
TLR3ノックアウトマウスでのインスリン感受性
TLR3ノックアウト(KO)(C57BL/6バックグラインドで)および野生型(WT)対照マウス(C57Bl/6)に、60.9% kcalの脂肪および20.8%kcalの炭水化物からなる高脂肪食を与えた(ピュリナ(Purina)、TestDiet、#58126)。対照TLR3KOおよびWTマウスは標準食を与えた。動物は一晩絶食させ、そして耐糖試験(GTT)を、1.0mg/gのグルコースを腹腔内注射することにより行い、そして血中グルコースの読み取りを0、15、30、60、90および120分で得た。
【0168】
図31は、14および26週間の高脂肪食のTLR3 KOマウスが、高脂肪食の野生型マウスと比較した時、耐糖試験で改善を示したことを表す。標準食を与えたマウスは予想されたような変化を示さなかった。これらの結果はTLR3シグナリングがインスリン感受性に影響を及ぼす可能性があり、そして2型糖尿病の処置にTLR3アンタゴニストの用途の基礎を提供する。
【0169】
図32は、高脂肪および普通食のマウスにおける空腹時血中グルコースレベルを表す。TLR3 KOマウスは、高脂肪食の野生型マウスと比べた時、それらの空腹時血中グルコースレベルを標準化する。これらのデータはTLR3シグナリングが耐糖における傷害、およびインスリン抵抗性の発症に貢献する肝臓グルコース代謝を妨害する恐れを示唆している。
【0170】
次にインスリンレベルを、標準食または高脂肪食を与えたTLR3 KOおよび野生型マウスで評価した。血中インスリンレベルは、グルコース対抗前および後に一晩絶食させたマウスで測定した。インスリンはCrystal Chem(ダウナーズグローブ(Downers Grove)、イリノイ州)超感度ELISAアッセイキット(Cat#90060)を使用して定量した。高脂肪食を与えたTLR3 KOマウスは、ベースラインで(グルコース対抗無しで)およびグルコース対抗から20および60分後に上昇したインスリンレベルを示した(図33)。全体として耐糖試験で得られたデータは、TLR3シグナリングの不存在がインスリンレベルおよびインスリン感受性に影響を及ぼすことを示唆する。
【0171】
高脂肪食の30週目で、TLR3 KOマウスを屠殺し、そしてそれらの脂質プロファイルを血清サンプル中で測定した。総コレステロール、HDl、LDL、トリグリセリドおよびFFAのレベルを測定した。簡単に説明すると、すべての脂質試験はGEMCAL参照血清(アルファ ワズセラマン ダイアグノスティック テクノロジー(Alfa Wassermann Diagnostic Technologies)、LCC、
ウエストカードウェル、ニュージャージー州)を使用して、標準の吸収における変化に対して、未知のサンプルの吸収における変化を参照にすることにより算出した。2つのレベルの対照を結果を報告する前に毎日し実験した。サンプルを乗せ、そして脂質データを得、そして通例の単位mg/dLで表した。FFAレベルはNEFAキット(ワコー:Wako)を使用して決定した。TLR3 KO動物は循環コレステロール、LDLおよびHDLならびにFFAにおいて、同じ食事の野生型マウスに比べて低いレベルを示した。これらの結果はTLR3シグナリングの不存在がコレステロールレベルを下げる有益な役割を有することを示し、TLR3アンタゴニストMAbの、2型糖尿病に伴う心血管障害の処置および心血管合併症の発症の防止に用途を示す。
【0172】
まとめると提示する結果は、高脂肪食を与えたTLR3KOマウスが野生型マウスに比べてインスリン抵抗性の特徴としての傷害のある耐糖の発症から保護されることを示し、TLR3シグナリングの不存在がマウスを2型糖尿病に対する保護を示す。さらにデータは高脂肪食のTLR3 KOマウスは、高脂肪食の野生型マウスに比べて低いレベルの総コレステロール、LDHおよびHDLコレステロール、ならびにHDLc/LDLc比を有し、これは心血管障害に伴う危険因子のダウンモジュレーティイングにTLR3アンタゴニストの有益な役割を示す。これらの知見は、2型糖尿病、脂質代謝異常およびメタボリックシンドロームを処置するための方法としてTLR3インヒビターの使用を示唆している。
【0173】
実施例20
ヒトに適合した抗−TLR3mAbの作成および特性決定
マウス抗−TLR3 mAb C1068のアミノ酸配列を使用して公的な抗体配列データベースから編集されたヒト抗体データベースに質問した。C1068の重鎖の可変領域は(配列番号6)、4つの重鎖生殖細胞系配列、すなわちヒトVH1重鎖ファミリーのVB 1−03/JH1 72、VB 1−02/JH1 71、VB 1−08/JH1 71およびVB 1−69/JH2 70と高い相同性を示した。C1068重鎖のCDR領域が選択されたヒト生殖細胞系重鎖配列に移された4つの核酸構築物を合成して、配列番号25、27、29および31にそれぞれ示す可変領域アミノ酸配列を有するHV1、HV4、HV5およびHV7と命名された4つのヒトに適合した抗−TLR3 mAb重鎖を作成した。
【0174】
C1068の軽鎖の可変領域(配列番号16)は、4つの軽鎖生殖細胞系配列、すなわちヒトVK IファミリーのVB 012/JK2 78、VB A30/JK2 77、VB A20/JK4 76およびVB L1/JK2 76と高い相同性を示した。C1068軽鎖のCDR領域が選択されたヒト生殖細胞系軽鎖配列に移された4つの核酸構築物を合成して、配列番号33、35、37および39にそれぞれ示す可変領域アミノ酸配列を有するLV1、LV3、LV5およびLV7と命名された4つのヒトに適合した抗−TLR3 mAb軽鎖を作成した。
【0175】
4種の重鎖および4種の軽鎖可変領域構築物のすべての可能な組み合わせを表す16のmAbが発現された。すべての重鎖可変領域骨格は、残基108でSerからProへの置換、およびPhe114およびLeu115のAla置換(配列番号41);S228P、F234AおよびL235Aを完全長の重鎖に有するヒトIgG4重鎖構築物領域を用いて発現された。すべての軽鎖可変領域骨格は、ヒトK定常領域(配列番号4)を使用して発現された。
【0176】
抗体は適切な重鎖および軽鎖含有プラスミドのコートランスフェクションにより哺乳動物細胞中で一時的に発現された。抗体は標準的なプロテインA精製を使用して精製し、そして特性決定のためにPBS中に透析した。
【0177】
16種すべてのmAbは、元のマウスmAb C1068と比べるように、ELISA形式を使用してヒトTLR3の細胞外ドメイン(配列番号4)に結合することを評価された。簡単に説明すると、可溶性のヒトTLR3細胞外ドイメンを、96ウェルプレートのウェルにコーティングし、そして候補mAbを種々の濃度(10−3〜103ng/ml)でインキュベーションし、そして結合した抗体はウサギ抗−マウスIgG−HRPを用いて、マウスIgG1アイソタイプ(ザイメッド(Zymed)、サウスサンフランシスコ、カリフォルニア州)について、またはHRP−標識抗−ヒトIgG(ジャクソン(Jackson)109−036−088)を用いて、ヒトIgG4アイソタイプについて検出した。EC50値を決定し、そして結果を以下の図24および表7に示す。
【0178】
【表8】
【0179】
C1068について算出したEC50は8ng/mlであり;この結果は12のヒト適合化mAbがマウスの元のmAb1068に比べて算出されたEC50において40倍未満の低下を有することを示した。太字のEC50値を有するmAbは、Biacoreにより結合親和性を決定し、そして細胞に基づくサイトカイン放出アッセイで結合活性を決定することによりさらに特性決定した。
【0180】
Biacoreによる結合親和性の測定は、mAb捕捉およびTLR3捕捉技法により行った。MAb捕捉分析は、25℃で標準的なアミンカップリングによりプロテインA(6,000RU)で修飾された表面を有するCM5チップを備えたBiacore2000バイオセンサーを使用して25℃で行った。抗体は30nMに希釈し、そして1分間、異なるプロテインA表面上で捕捉された。TLR3は0、0.1、0.3、1.0、3.0および9.0nMで注射し、そして会合および解離を5分間監視した。プロテインA修飾表面は、100mMリン酸の2回の6秒間のパルスを使用して再生した。利用可能な結合データ組は1:1の相互作用モデル(CLAMP(商標))に合わせた。速度定数およびそれらの比(KD=kd/Ka)および見掛けの平衡定数の予想について行った適合の誤差を算出した。
【0181】
TLR3捕捉分析は、30℃で標準的なアミンカップリングにより抗−His抗体(R&Dシステムズ)(10,000RU)で修飾された表面を有するCM5チップを備えたBiacore3000バイオセンサーを使用して25℃で行った。80、120および300RU密度でヒト ヘキサ−ヒスチジン−TLR3を3面上で捕捉し、同時に4面は参照として使用した。抗体は0、0.4、1.1、3.3、10および30nMで二連にて注射した。会合相を3分間監視し、そして解離を7分間監視した。抗−His抗体表面は50mM リン酸の2回の3秒間のパルスを使用して再生した。利用可能な結合データ組は、各mAb濃度のプロファイルの異なるドリフトについて集めた1:1の相互作用モデル(BIAeval(商標))に合わせた。速度定数およびそれらの比(KD=kd/Ka)および見掛けの平衡定数の予想について行った適合の誤差を算出した。
【0182】
算出されたKDの結果を以下の表8に示す。2つの測定は、1)溶液中に適用されたヒトTLR3を用いてチップ表面上で捕捉された抗−TLR3 mAbでの結合親和性、お
よび2)チップ上および溶液相中に適用した抗−TLR3 mAbで捕捉されたTLR3を表す。結果は、溶液に基づくTLR3が固定化されたmAbにより捕捉された時、すべての候補物質がnMの親和性を保持することを示し、組み合わせmAbが1068の結合特性を保持したことが確認された。TLR3が、ほとんどの候補物質が強力な結合特性を保持するチップ上に固定化された時、その結果はELISA結合曲線と一致する。
【0183】
【表9】
【0184】
Biacoreによりアッセイされたヒトに適合した抗−TLR3 mAbの結合活性も、細胞に基づくサイトカイン放出アッセイで測定した。ヒト肺上皮細胞株BEAS−2Bは、96ウェルプレートにまき、そしてポリ(I:C)、または無血清マトリックス中で抗体候補と前インキュベーションしたポリ(I:C)のいずれかを細胞に加えた。4日後、コンディショニング培地を除去し、そして可溶性サイトカインレベルをLuminex(商標)技法により測定した。結果を図25に示し、そして元のmAb C1068の生物学的活性、すなわちTLR3 リガンドポリ(I:C)で対抗した細胞により生成された炎症性サイトカインの減少により測定されるTLR3活性の中和が、ヒト適合化mAbで保持されたことを証明する。
【0185】
実施例21
ヒト適合化C1068重鎖および軽鎖バリアントの生成および特性決定
マウス抗−TLR3 mAb 1068 CDRのIn sililco免疫原性分析は、配列の免疫原性スコアを下げるように操作することができるCDR境界内の一連のアグレトープを明らかにした。いったん操作できる領域が同定されれば、配列および構造の両方の基準が、どのアミノ酸置換を使用すべきかを決定するために適用された。これらの基準を使用して、4つの1点アミノ酸置換を重鎖可変領域(VR)内に、そして3つの突然変異(単一、2重および3重)を軽鎖可変領域(Vk)内に同定した。すべての8つの突然変異をHV1/LV1バックグラウンド内に独立して作成し、そして表9に列挙する。1つの他の型の置換も、M102残基をイソロイシンに交換する効果を測定するために適用し、これはこれらの残基の潜在的にタンパク質の溶解性に良くない修飾を翻訳後に酸化することができるように、これはCDR中のメチオンの全数を減らすように仕上げられた。これらの抗体を生成し、そしてTLR3結合(表10および11を参照にされたい)および生物活性(図26〜30を参照にされたい)について評価した。
【0186】
【表10】
【0187】
【表11】
【0188】
【表12】
【0189】
HV1/LV1バックグラウンドに移植された1068CDRのVh中に作成されたすべての5個の1点突然変異は、ヒトTLR3に対する結合EC50により示されるように十分に寛容化されていた。HV1/LV1バックグラウンドのEC50は29.2ng/mlであり:I34MおよびY60Gの両方に関する値はこれより低く、それぞれ17および14.6ng/mlであった。これはこれらの変化がHV1/LV1のin silico免疫原性を下げるだけでなく、TLR3への結合も改善することを示唆している。他の3つの突然変異は、HV1/LV1よりも少し弱く結合した。
【0190】
V1のCDR1中の突然変異のいずれも寛容ではなく(EC50>1000ng/ml)、この領域はどのように1068がヒトTLR3を認識するかに重要であることを示唆している。
【0191】
ここで本発明は完全に説明され、当業者には添付する特許請求の精神または範囲から逸脱することなく、多くの変化および修飾が作成できることが明白である。以下、本発明の主たる態様または特徴について記載する。
【0192】
態様1:
活性化について調節された、正常T細胞発現型および分泌型(RANTES)サイトカインの細胞生産を阻害するToll様受容体3(TLR3)のアンタゴニスト。
【0193】
態様2:インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−8(IL−8)およびマクロファージ炎症タンパク質−1アルファ(MIP1−アルファ)からなる群から選択されるサイトカインの細胞生産も阻害される態様1に記載のアンタゴニスト。
【0194】
態様3:アンタゴニストが抗体である態様1または2に記載のアンタゴニスト。
【0195】
態様4:配列番号9、11および13に示す重鎖相補性決定領域(CDR)のアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなるモノクローナル抗体の抗原結合能力を有するTLR3と反応性の単離された抗体。
【0196】
態様5:配列番号9、11および13に示す重鎖CDRのアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなる態様4に記載の単離された抗体。
【0197】
態様6:配列番号6に示すアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(VH)、および配列番号16に示すアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(VL)を含んでなる態様4に記載の単離された抗体。
【0198】
態様7:配列番号25、27、29または31に示すアミノ酸配列を有するVH、および配列番号33、35、37または39に示すVLアミノ酸配列を含んでなる態様4に記載の単離された抗体。
【0199】
態様8:VHが配列番号25に示すアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33に示すアミノ酸配列を有する態様7に記載の単離された抗体。
【0200】
態様9:式(I):
Thr Thr Tyr Trp Xaa1 His
(I)
式中、Xaa1はIleまたはMetである
で示されるVH CDR1アミノ酸配列(配列番号61);
式(II):
Glu Ile Asn Pro Asn Asn Gly Arg Ile Asn
Xaa2 Xaa3 Glu Lys Xaa4 Lys Thr
(II)
式中、Xaa2はTyrまたはGlyであり、Xaa3はAsnまたはAlaであり、そしてXaa4はPheまたはGlyである、
で示されるVH CDR2アミノ酸配列(配列番号62);および
式(III):
Val Gly Val Xaa5 Ile Thr Thr Phe Pro Tyr
(III)
式中、Xaa5はMetまたはIleである、
で示されるVH CDR3アミノ酸配列(配列番号63);
および配列番号19、21および23に示すアミノ酸配列を有するVL CDR、
を有する単離された抗体。
【0201】
態様10:Xaa1がMetであり;Xaa2がTyrであり;Xaa3がAsnであり;Xaa4がPheであり;そしてXaa5がMetである、態様9に記載の単離された抗体。
【0202】
態様11:VHが配列番号45に記載のアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33に記載のアミノ酸配列を有する、態様10に記載の単離された抗体。
【0203】
態様12:Xaa1がIleであり;Xaa2がGlyでり;Xaa3がAsnであり;Xaa4がPheであり;そしてXaa5がMetである、態様9に記載の単離された抗体。
【0204】
態様13:VHが配列番号47に示すアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33に示すアミノ酸配列を有する、態様12に記載の単離された抗体。
【0205】
態様14:Xaa1がIleであり;Xaa2がTyrであり;Xaa3がAlaであり;Xaa4がPheであり;そしてXaa5がMetである、態様9に記載の単離された抗体。
【0206】
態様15:VHが配列番号49に示すアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33に示すアミノ酸配列を有する、態様14に記載の単離された抗体。
【0207】
態様16:Xaa1がIleであり;Xaa2がTyrであり;Xaa3がAsnであり;Xaa4がGlyであり;そしてXaa5がMetである、態様9に記載の単離された抗体。
【0208】
態様17:VHが配列番号51に示すアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33に示すアミノ酸配列を有する、態様16に記載の単離された抗体。
【0209】
態様18:Xaa1がIleであり;Xaa2がTyrであり;Xaa3がAsnであり;Xaa4がPheであり;そしてXaa5がIleである、態様9に記載の単離された抗体。
【0210】
態様19:VHが配列番号53に示すアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33に示すアミノ酸配列を有する態様18に記載の単離された抗体。
【0211】
態様20:VHが配列番号45、47、49、51または53に示すアミノ酸配列を有し、そしてVLが配列番号33、35、37または39に示すアミノ酸配列を有する態様9に記載の単離された抗体。
【0212】
態様21:抗体がヒト起源である態様4に記載の単離された抗体。
【0213】
態様22:抗体がマウス起源である態様4に記載の単離された抗体。
【0214】
態様23:抗体がFabフラグメントを含んでなる態様4に記載の単離された抗体。
【0215】
態様24:抗体がscFvフラグメントを含んでなる態様4に記載の単離された抗体。
【0216】
態様25:抗体またはフラグメントがヒトに適合している態様4に記載の単離された抗体。
【0217】
態様26:抗体またはフラグメントがキメラ抗体を含んでなる態様4に記載の単離された抗体。
【0218】
態様27:抗体がポリエチレングリコールに結合している態様4に記載の単離された抗体。
【0219】
態様28:抗体またはフラグメントがマウス抗原結合残基およびヒト抗体残基を含んでなる、態様4に記載の単離された抗体。
【0220】
態様29:IgG4アイソタイプを有する態様4に記載の単離された抗体。
【0221】
態様30:FcドメインがS228P、P234AおよびL235A突然変異を含んでなる、態様29に記載の単離された抗体。
【0222】
態様31:態様4に記載の単離された抗体および製薬学的に許容され得る担体を含んでなる製薬学的組成物。
【0223】
態様32:配列番号9、11および13に示すCDRアミノ酸配列を含んでなる抗体重鎖をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【0224】
態様33:配列番号19、21および23に示すCDRアミノ酸配列を含んでなる抗体軽鎖をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【0225】
態様34:配列番号6、25、27、29、31、45、47、49、51または53に示すアミノ酸配列を含んでなる抗体重鎖をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【0226】
態様35:配列番号5、26、28、30、32、46、48、50、52または54に示す配列を含んでなる態様34に記載のポリヌクレオチド。
【0227】
態様36:配列番号16、33、35、37または39に示すアミノ酸配列を含んでなる抗体軽鎖をコードする単離されたポリヌクレオチド。
【0228】
態様37:配列番号15、34、36、38または40に示す配列を含んでなる態様36に記載のポリヌクレオチド。
【0229】
態様38:態様32、33、34、35、36または37に記載の少なくとも1つのポリヌクレオチドを含んでなるベクター。
【0230】
態様39:態様38に記載のベクターを含んでなる宿主細胞。
【0231】
態様40:TLR3と反応性の抗体の作成方法であって、態様39に記載の宿主細胞を培養し、そして宿主細胞により生産された抗体を回収することを含んでなる上記作成方法。
【0232】
態様41:態様4に記載の抗体を生産するハイブリドーマ細胞株。
【0233】
態様42:態様4に記載の単離された抗体を、TLR3受容体を発現する細胞と、RANTESの生産を阻害するために十分な時間接触させることを含んでなる、RANTESの細胞生産を阻害する方法。
【0234】
態様43:IL−6、IL−8またはMIP1−アルファの細胞生産も阻害される、態様42に記載の方法。
【0235】
態様44:炎症状態を処置または防止する方法であって、治療に有効な量のTLR3アン
タゴニストをそれが必要な患者に炎症状態を処置または防止するために十分な時間、投与することを含んでなる上記方法。
【0236】
態様45:炎症状態が敗血症に伴う状態である態様44に記載の方法。
【0237】
態様46:炎症状態が炎症性腸疾患である態様44に記載の方法。
【0238】
態様47:炎症状態が感染に伴う状態である態様44に記載の方法。
【0239】
態様48:炎症状態が炎症性肺状態である態様44に記載の方法。
【0240】
態様49:炎症状態が2型糖尿病、脂質代謝異常またはメタボリックシンドロームである態様44に記載の方法。
【0241】
態様50:炎症状態が自己免疫疾患により引き起こされる態様44に記載の方法。
【0242】
態様51:TLR3アンタゴニストをTLR3受容体を発現する細胞と細胞の増殖率を上げるために十分な時間、接触させることを含んでなる、細胞の増殖率を上げる方法。
【0243】
態様52:細胞が動物の組織に存在する態様51に記載の方法。
【0244】
態様53:細胞が上皮細胞である態様51に記載の方法。
【0245】
態様54:組織が結腸組織である態様52に記載の方法。
【0246】
態様55:組織が炎症状態に伴う病状を現す態様52に記載の方法。
【0247】
態様56:炎症状態が炎症性腸疾患である態様55に記載の方法。
【0248】
態様57:細胞死から生じる状態を処置または防止する方法であって、治療に有効な量のTLR3アンタゴニストをそれが必要な患者に、状態を処置するために十分な時間、投与することを含んでなる上記方法。
【0249】
態様58:TLR3アンタゴニストが、配列番号9、11および13に示す重鎖CDRのアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなるモノクローナル抗体の抗原結合能を有するTLR3と反応性の単離された抗体である、態様44、51または57に記載の方法。
【0250】
態様59:TLR3と反応性の単離された抗体が、配列番号9、11および13に示す重鎖CDRのアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなる、態様58に記載の方法。
【0251】
態様60:単離された抗体が、配列番号6、25、27、29または31に示すアミノ酸配列を有するVH、および配列番号16、33、35、37または39に示すアミノ酸配列を有するVLを含んでなる、態様59に記載の方法。
【0252】
態様61:TLR3アンタゴニストが、配列番号45、47、49、51または53に示すアミノ酸配列を有するVH、および配列番号33、35、37または39に示すアミノ酸配列を有するVLを含んでなるモノクローナル抗体の抗原結合能を有するTLR3と反応性の単離された抗体である、態様44、51または57に記載の方法。
【0253】
態様62:単離された抗体が、配列番号45、47、49、51または53に示すアミノ酸配列を有するVH、および配列番号33、35、37または39に示すアミノ酸配列を有するVLを含んでなる、態様61に記載の方法。
【産業上の利用可能性】
【0254】
本発明によれば、Toll様受容体3(TLR3)が媒介する疾患または症状を治療できるTLR3アンタゴニストが提供されるので、少なくとも医薬製造業で利用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号9、11および13に示す重鎖CDRのアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなるTLR3と反応性の単離された抗体。
【請求項2】
配列番号27、29または31に示すアミノ酸配列を有するVH、および配列番号35、37または39に示すVLアミノ酸配列を含んでなるTLR3と反応性の単離された抗体。
【請求項3】
抗体がヒト起源である請求項1または2に記載の単離された抗体。
【請求項4】
抗体がマウス起源である請求項1または2に記載の単離された抗体。
【請求項5】
抗体がFabフラグメントを含んでなる請求項1〜4のいずれかに記載の単離された抗体。
【請求項6】
抗体がポリエチレングリコールに結合している請求項1〜4のいずれかに記載の単離された抗体。
【請求項7】
IgG4アイソタイプを有する請求項1〜4のいずれかに記載の単離された抗体。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の単離された抗体および製薬学的に許容され得る担体を含んでなる製薬学的組成物。
【請求項9】
TLR3アンタゴニストを有効成分として含んでなる炎症状態の処置または防止用の製薬学的製剤であって、TLR3アンタゴニストが請求項1〜4のいずれかに記載の抗体である、製剤。
【請求項10】
炎症状態が敗血症に伴う状態、炎症性腸疾患、感染に伴う状態、炎症性肺状態、2型糖尿病、脂質代謝異常、メタボリックシンドロームまたは自己免疫疾患により引き起こされる状態である請求項9に記載の製剤。
【請求項11】
TLR3アンタゴニストを有効成分として含んでなるTLR3受容体を発現する細胞の増殖率を上げるための製薬学的製剤あって、TLR3アンタゴニストが請求項1〜4のいずれかに記載の抗体である、製剤。
【請求項12】
細胞が動物の組織に存在する請求項11に記載の製剤。
【請求項13】
細胞が上皮細胞である請求項11に記載の製剤。
【請求項14】
組織が結腸組織である請求項12に記載の製剤。
【請求項15】
組織が炎症状態に伴う病状を現す請求項12に記載の製剤。
【請求項16】
炎症状態が炎症性腸疾患である請求項115に記載の方法。
【請求項17】
TLR3アンタゴニストを有効成分として含んでなる細胞死から生じる状態の処置または防止用製薬学的製剤であって、TLR3アンタゴニストが請求項1〜4のいずれかに記載の抗体である、製剤。
【請求項1】
配列番号9、11および13に示す重鎖CDRのアミノ酸配列、および配列番号19、21および23に示す軽鎖CDRのアミノ酸配列を含んでなるTLR3と反応性の単離された抗体。
【請求項2】
配列番号27、29または31に示すアミノ酸配列を有するVH、および配列番号35、37または39に示すVLアミノ酸配列を含んでなるTLR3と反応性の単離された抗体。
【請求項3】
抗体がヒト起源である請求項1または2に記載の単離された抗体。
【請求項4】
抗体がマウス起源である請求項1または2に記載の単離された抗体。
【請求項5】
抗体がFabフラグメントを含んでなる請求項1〜4のいずれかに記載の単離された抗体。
【請求項6】
抗体がポリエチレングリコールに結合している請求項1〜4のいずれかに記載の単離された抗体。
【請求項7】
IgG4アイソタイプを有する請求項1〜4のいずれかに記載の単離された抗体。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれかに記載の単離された抗体および製薬学的に許容され得る担体を含んでなる製薬学的組成物。
【請求項9】
TLR3アンタゴニストを有効成分として含んでなる炎症状態の処置または防止用の製薬学的製剤であって、TLR3アンタゴニストが請求項1〜4のいずれかに記載の抗体である、製剤。
【請求項10】
炎症状態が敗血症に伴う状態、炎症性腸疾患、感染に伴う状態、炎症性肺状態、2型糖尿病、脂質代謝異常、メタボリックシンドロームまたは自己免疫疾患により引き起こされる状態である請求項9に記載の製剤。
【請求項11】
TLR3アンタゴニストを有効成分として含んでなるTLR3受容体を発現する細胞の増殖率を上げるための製薬学的製剤あって、TLR3アンタゴニストが請求項1〜4のいずれかに記載の抗体である、製剤。
【請求項12】
細胞が動物の組織に存在する請求項11に記載の製剤。
【請求項13】
細胞が上皮細胞である請求項11に記載の製剤。
【請求項14】
組織が結腸組織である請求項12に記載の製剤。
【請求項15】
組織が炎症状態に伴う病状を現す請求項12に記載の製剤。
【請求項16】
炎症状態が炎症性腸疾患である請求項115に記載の方法。
【請求項17】
TLR3アンタゴニストを有効成分として含んでなる細胞死から生じる状態の処置または防止用製薬学的製剤であって、TLR3アンタゴニストが請求項1〜4のいずれかに記載の抗体である、製剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24−1】
【図24−2】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33−1】
【図33−2】
【図34−1】
【図34−2】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41−1】
【図41−2】
【図42】
【図43】
【図44】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24−1】
【図24−2】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
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【図32】
【図33−1】
【図33−2】
【図34−1】
【図34−2】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41−1】
【図41−2】
【図42】
【図43】
【図44】
【公開番号】特開2012−149092(P2012−149092A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−97822(P2012−97822)
【出願日】平成24年4月23日(2012.4.23)
【分割の表示】特願2007−544479(P2007−544479)の分割
【原出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(503054122)セントカー・インコーポレーテツド (74)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年4月23日(2012.4.23)
【分割の表示】特願2007−544479(P2007−544479)の分割
【原出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(503054122)セントカー・インコーポレーテツド (74)
【Fターム(参考)】
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