説明

Ti合金線材の皮剥き方法

【課題】コイル状に巻き付けられた長尺なTi合金の線材に対する黒皮の除去を、連続して確実に且つ効率良く行なえるTi合金線材の皮剥き方法を提供する。
【解決手段】熱間線材圧延S1によって所定の線径に縮径されたTi合金線材Wの表層における酸化物からなる黒皮を、誘導加熱装置IHで加熱して温間温度領域とした後、リング状の切削刃nを有する皮剥きダイスkDに上記線材Wを通して切除する皮剥き工程S2を含む、Ti合金線材の皮剥き方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ti合金を熱間線材圧延によって所定の線径にされたTi合金線材の表層を覆う酸化物の黒皮を、効率良く確実に除去できるTi合金線材の皮剥き方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Ti合金の素材を線材などに熱間加工する際に、表面の酸化硬化層の生成を抑制し、生産効率の高い加熱を行うため、Ti合金圧延素材を、表面の酸化硬化層の厚さが増大しない温度以下までは、燃焼雰囲気加熱炉で一次加熱し、引き続く高温域では、誘導加熱炉において加熱温度に応じた所定時間の加熱を行う、チタン合金圧延素材の加熱方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
上記加熱方法によれば、熱間加工材における酸化硬化層を低減でき、且つ生産効率の高い加熱を施すことが可能となる。
【0003】
【特許文献1】特開平6−269836号公報 (第1〜5頁、図1)
【0004】
ところで、Ti合金線材は、熱間線材圧延などの前記熱間加工において、その表面に酸化物からなり黒皮と称される硬化層が生成される。係る黒皮を除去する場合、当該Ti合金線材の折損を防ぐため、予め、温間矯正し且つ所定の長さに切断した比較的短尺な複数本のTi合金線材を、冷間において回転切削工具にそれぞれ強制的に通す方法によって行われている。
しかしながら、コイル状に巻き付けられた長尺なTi合金線材を直線状に巻き返し、所定の長さに切断した比較的短尺なTi合金線材を、冷間における回転切削工具に通す黒皮剥きを行う方法では、切削速度が低いため、生産効率を低下させる。しかも、製造工程間に仕掛かりのTi合金線材が増加すること起因して、コスト高を招く、という問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記背景技術において説明した問題点を解決し、コイル状に巻き付けられた長尺なTi合金線材に対する黒皮の除去を、連続して確実に且つ効率良く行なえるTi合金線材の皮剥き方法を提供する、ことを課題とする。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、コイル形態から直線状に巻き返したTi合金線材を温間温度領域に加熱して、黒皮を除去する皮剥き工程を連続して施す、ことに着想して成されたものである。
即ち、本発明によるTi合金線材の皮剥き方法(請求項1)は、熱間線材圧延によって所定の線径に縮径されたTi合金線材の表層における酸化物からなる黒皮を、温間温度領域でリング状の切削刃を有する皮剥きダイスに上記線材を通して切除する皮剥き工程を含む、ことを特徴とする。
【0007】
これによれば、熱間線材圧延によって12mm未満の線径に縮径されたTi合金線材を、その温間温度領域に加熱した状態で、リング状の切削刃を有する皮剥きダイスに通している。このため、前記熱間線材圧延において、当該Ti合金線材の表層に生成された酸化物からなる黒皮を、折損を生じることなく、確実に切削して除去することが可能となる。
【0008】
尚、前記Ti合金線材は、例えば、Ti−6質量%Al−4質量%Sn−3.4質量%ZrのようなTi合金からなる。
また、前記Ti合金線材は、複数対の溝付きロール間に強制的に通す熱間線材圧延によって、例えば、約13mmの線径から約7mmに縮径される。
更に、前記温間温度領域は、約400〜700℃である。
加えて、前記皮剥きダイスのすくい角は、20度以下の範囲が推奨される。
【0009】
また、本発明には、前記皮剥き工程は、熱間線材圧延されてからコイル状に巻き付けられたTi合金線材を、巻き返して直線状とし、且つ温間温度領域に加熱した後、前記皮剥きダイスを通過させる工程である、Ti合金線材の皮剥き方法(請求項2)も含まれる。
これによれば、コイル状に巻き付けられたTi合金線材を、巻き返して直線状とし、係る直線状のTi合金線材を、温間温度領域に加熱した状態で、前記皮剥きダイスに通している。その結果、長尺なTi合金線材の黒皮を、折損を生じることなく、連続して確実に除去できるため、従来のような短尺に切断した後で、複数の線材を個別に皮剥きする方法に比べ、約数10倍の切削速度で皮剥きを施すことが可能となる。
尚、前記温間温度領域への加熱は、皮剥きダイスの前方ないし直前に配置した誘導加熱装置などに、前記Ti合金線材を通過させることで行われる。
【0010】
更に、本発明には、前記皮剥き工程において、前記Ti合金線材の先端面に、係るTi合金よりも軟質のTi合金からなり、且つ上記Ti合金線材よりも細径の端部線材を、アモルファスシートを介して溶着した後、係る端部線材を含む上記Ti合金線材を、一対の溝付きロール間に挟み込んでから、前記皮剥きダイスに通す、Ti合金線材の皮剥き方法(請求項3)も含まれる。
これによれば、折損し易いTi合金からなる長尺な線材であっても、その先端面に上記アモルファスシートを介して溶着された端部線材を、上記一対の溝付きロール間に挟み込んでから、前記皮剥きダイスに通すため、折損を生じることなく、当該Ti合金線材の黒皮を連続して確実に切除することが可能となる。
【0011】
尚、前記アモルファスシートには、例えば、Ni−Cr系非晶質金属などが使用される。
また、前記端部線材は、いわゆる口付け材であり、例えば、Ti−6質量%Al−4質量%VのTi合金からなり、一端が先細形状に予め成形されている。
更に、前記端部線材の溶着は、例えば、電気抵抗溶接の一種であるバットシーム溶接の変形形態たるバット溶接によって行われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下において、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明を含むTi合金線材の製造方法を示す流れ図、および各工程の概略図である。尚、以下において、単に%と示す場合は、質量%を示している。
予め、例えば、Ti−6%Al−4%Sn−3.4%ZrのようなTi合金を溶製し、得られたTi合金の鋳片を、図1に示すように、断面ほぼ半円形の溝mを有し且つ前後に連続する複数対の圧延ロールr1,r2間に通して、徐々に縮径してゆく熱間線材圧延(工程)S1を施す。その結果、例えば、線径が約13mmから約7.5mmに縮径されたTi合金線材Wが得られる。
尚、上記圧延ロールr1,r2のほかに、伸線ダイスsDのテーパ孔hに通して、上記線径のTi合金線材Wを製作しても良い。また、熱間線材圧延S1の中間で、表面に生成された酸化物を除去するための酸洗処理を行っても良い。
【0013】
次に、図1に示すように、前記Ti合金線材Wの表層に付着した酸化物からなる黒皮を除去するため、予め、約400〜700℃(例えば、500℃)の温間温度領域に加熱した後、リング状の切削刃nを有する皮剥きダイスkDの貫通孔に通す皮剥き工程S2を行う。
係る皮剥き工程S2は、図2に示すように、前記熱間線材圧延S1後にリールL1にコイルC1状にして巻き付けられた長尺なTi合金線材Wを巻き返して直線状とし、誘導加熱装置IHの内側を貫通させて、前記温間温度領域に加熱した後、対向する一対の溝付きロールR1,R2間に挟み込み、その下流側に隣接する皮剥きダイスkDに送給して行われる。
【0014】
これに先立ち、Ti合金線材Wが前記溝付きロールR1,R2間に挟み込んだ際に、折損を生じる事態を防ぐため、図2の左下側に示すように、Ti合金線材Wの先端面に、例えば、Ni−Cr系からなるアモルファスシートSを介して、端部線材iwをバット溶接(電気抵抗溶接の一種)によって接合する。
係る端部線材iwは、前記Ti合金線材Wよりも軟質のTi合金(例えば、Ti−6%Al−4%V)からなり、且つ上記Ti合金線材Wよりも少なくとも先端側が細径(先細形状)となるように予め成形されている。
【0015】
具体的な溶接方法は、先ず、前記Ti合金線材Wと端部線材iwとを、軸方向に沿って連続するようにして図示しない溶接機の電極ごとに個別に拘束し、対向する前者の先端面と後者の後端面との隙間に、例えば、Ni−19%Cr−7.3%Si−1.5%B(Ni−Cr系非晶質金属)のアモルファスシートS(米国Metlas社製:MBF−50)を挟み込む。次に、上記Ti合金線材Wと端部線材iwとを、軸方向に沿って互いに接近するように押し付け合った状態にして、両線材W,iw間およびアモルファスシートSに所定の溶接電流を給電する。
すると、先にアモルファスシートSのみが溶融し、続いて隣接するTi合金線材Wおよび端部線材iwそれぞれの一部が溶融して溶融層が拡大し、係る溶融層がTi合金線材Wと端部線材iwとの合金組織に向かって拡散しながら冷却された後、冷え固まって金属組織上から接合面が消失する。その結果、Ti合金線材Wの先端面に、端部線材iwが溶着される。尚、前記線材WのTi合金の種類によっては、端部線材iwの溶着を省略しても良い。
【0016】
次いで、端部線材iwが先端面に溶着されたTi合金線材Wを、図2に示すように、係る端部線材iwの細径側から一対の溝付きロールR1,R2間に挟み込んでから、その下流側に隣接する皮剥きダイスkDの貫通孔xに挿入する。この際、予め先端面に用着した比較的軟質の端部線材iwによって、溝付きロールR1,R2間に誘導されるため、Ti合金線材Wが折れる事態を回避できる。しかも、ダイスkDの貫通孔xの内側へ容易に挿入することも可能となる。
尚、皮剥きダイスkDにおける貫通孔xの内径は、Ti合金線材Wの外径よりも小さく、その差が皮剥きにより切除すべき酸化物からなる黒皮の厚みに相当する。また、皮剥きダイスkDのすくい角θは、約20度以下の範囲であり、貫通孔x内の逃げ角は、約5度である。
【0017】
図2に示すように、一対の溝付きロールR1,R2により、軸方向に沿って端部線材iwの細径側から皮剥きダイスkDの貫通孔xに挿入されたTi合金線材Wは、貫通孔xの上流側に位置するリング状の切削刃nによって、その黒皮が全周面でほぼ均一に切除され、ほぼ放射方向に伸びる複数の切削屑(ダライ)fとなって除去される。しかも、Ti合金線材Wは、前記誘導加熱装置IHによって約400〜700℃の温間温度領域にあるため、表面全体に付着した黒皮を高速度で且つスムースに切除され、黒皮のないTi合金線材wとなる。
係る黒皮の皮剥き工程S2は、軸方向に沿って配置した複数個の皮剥きダイスkDに連続して通し、各ダイスkDごとの切削代を、約0.05mm以下にして行うようにしても良い。
そして、黒皮が切除されたTi合金線材wは、図2に示すように、リールL2の周面に巻き付けられ、ほぼ円柱形のコイルC2状とされる。
【0018】
前記皮剥き工程S2で、黒皮を皮剥きされ且つコイルC2にされたTi合金線材wは、図1に示すように、矯正・切断工程S3に送られ、前記コイルC2から巻き返され、直線状とされた冷間温度域のTi合金線材wを、平面視で千鳥状のパターンに配置された複数ずつの溝付きロールr3,r4間に通し、コイルC2などによる巻き癖などを除去して矯正する。引き続いて、高速回転するエメリーソーなどの回転鋸sによって、一定長さのTi合金線材wごとに切断される。
そして、図1に示すように、一定の長さに切断されたTi合金線材wは、仕上げ研磨工程S4に送られ、高速回転する円筒形のハウジングHの内周面に対称に取り付けた複数の砥石gにより、周面における微小な凹凸を研磨される。
その結果、黒皮がなく、所要寸法で且つ表面粗さが均一なTi合金線材wに仕上げられる。
【0019】
以上のような形態による本発明のTi合金線材の皮剥き方法を含むTi合金線材の製造方法によれば、熱間線材圧延S1されたTi合金線材Wに対し、直線状にし且つ温間温度領域で皮剥き工程S2を施すため、皮剥きダイスkDによる黒皮を切除するラインの切削速度が、先に切断した複数本のTi合金線材Wに対して、冷間で個別に皮剥きを行う従来の方法に比べて、数10倍程度速くすることができる。
しかも、比較的脆く折損し易いTi合金線材の場合には、その先端面に前記アモルファスシートSを介して、比較的軟質のTi合金からなる前記端部線材iwを溶着することにより、皮剥き工程S2における一対の溝付きロールR1,R2間を折れずに通過させ、且つ皮剥きダイスkDにスムーズに通して、表面の黒皮を確実に切除することもできる。
従って、本発明のTi合金線材の皮剥き方法によれば、Ti合金線材の製造効率を著しく向上させることが可能となる。
【実施例】
【0020】
ここで、本発明によるTi合金線材の皮剥き方法の実施例を説明する。
Ti−6%Al−4%Sn−3.4%ZrのTi合金からなり、予め、同じ熱間線材圧延S1を施され線径が7.4mmで互いに同じ長さである2本のTi合金線材Wをコイル形にして用意した。
一方は、実施例用のTi合金線材Wであって、前記コイルC1から直線状に巻き返し、前記誘導加熱装置IHの内側を貫通させ、500℃(温間温度領域)に保った状態で、複数の皮剥きダイスkDに連続して通し(皮剥き工程S2)、線径が6.4mmのTi合金線材wとした。この際、各皮剥きダイスkDでの切削代は、0.05mmとした。
【0021】
他方は、比較例用のTi合金線材Wであって、前記コイルC1から直線状に巻き返し、前記矯正・切断工程S3を先に行って、複数本の短い長さ(3m)のTi合金線材Wとした後、これらを複数の皮剥きダイスkDに冷間で個別に通し(皮剥き工程S2)、線径が6.4mmのTi合金線材wとした。
実施例の皮剥き方法による皮剥き工程S2では、黒皮の切削速度が平均40m/分であった。一方、比較施例の皮剥き方法による皮剥き工程S2では、黒皮の切削速度が平均1m/分であった。
以上のような実施例の皮剥き方法によれば、比較例のような従来の皮剥き方法に比べて、著しく生産効率を高められることが確認できた。その結果、本発明の効果が裏付けられた。
【0022】
本発明は、以上にて説明した実施の形態や実施例に限定されるものではない。
例えば、本発明の対象となるTi合金線材のTi合金は、前記実施の形態や実施例で示した合金に限らず、冷間で皮剥きが施しにくいもの全てを含む。
また、Ti合金線材の温間温度領域への加熱は、前記誘導加熱装置IHに限らず、雰囲気加熱方式の加熱炉によって行っても良い。
更に、前記アモルファスシートは、皮剥きすべき線材のTi合金の合金組成に応じて、異なる組成のアモルファスシートを用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の皮剥き工程を含むTi合金線材の製造方法を示す流れ図および各工程の概略図。
【図2】本発明によるTi合金線材の皮剥き工程を示す概略図。
【符号の説明】
【0024】
W,w………Ti合金線材
iw…………端部線材
kD…………皮剥きダイス
n……………切削刃
C1…………コイル
S……………アモルファスシート
R1,R2…溝付きロール
S1…………熱間線材圧延
S2…………皮剥き工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間線材圧延によって所定の線径に縮径されたTi合金線材の表層における酸化物からなる黒皮を、温間温度領域でリング状の切削刃を有する皮剥きダイスに上記線材を通して切除する皮剥き工程を含む、
ことを特徴とするTi合金線材の皮剥き方法。
【請求項2】
前記皮剥き工程は、熱間線材圧延されてからコイル状に巻き付けられたTi合金線材を、巻き返して直線状とし、且つ温間温度領域に加熱した後、前記皮剥きダイスを通過させる工程である、
請求項1に記載のTi合金線材の皮剥き方法。
【請求項3】
前記皮剥き工程において、前記Ti合金線材の先端面に、係るTi合金よりも軟質のTi合金からなり、且つ上記Ti合金線材よりも細径の端部線材を、アモルファスシートを介して溶着した後、係る端部線材を含む上記Ti合金線材を、一対の溝付きロール間に挟み込んでから、前記皮剥きダイスに通す、
請求項1または2に記載のTi合金線材の皮剥き方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−248215(P2009−248215A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96789(P2008−96789)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】