説明

TiAl合金インゴットの製造方法及び該方法により製造されたTiAl合金インゴット

【課題】溶解にかかるプロセス時間と設備運転費用を削減して製造コストを安価に抑えるとともに、TiAl合金中に混入される酸素の量を軽減させることにより健全な大型のTiAl合金インゴットの製造が可能なTiAl合金インゴットの製造方法を提供する。
【解決手段】 イットリアを材料として用いたセラミックルツボ1内において、溶解原料であるTi及びAlを高周波誘導溶解によって溶解させて得た溶湯を鋳型に鋳湯することにより、直径200mm以上のTiAl合金インゴットを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TiAl合金インゴットの製造方法、及び、当該製造方法により製造されるTiAl合金インゴットに関し、詳しくは、セラミックルツボ中の金属原料を高周波誘導溶解して得た溶湯を鋳型に鋳湯することによりTiAl合金インゴットを製造する方法、及び当該製造方法により製造されるTiAl合金インゴットに関する。
【背景技術】
【0002】
TiAl(チタンアルミナイド)金属間化合物を主相とするTiAl金属間化合物基合金(以下、TiAl合金と呼ぶ。)は、軽量で且つ耐熱性に優れているという特徴を備える金属材料であり、自動車や航空宇宙用の構造部材等への実用化が進められている。このようなTiAl合金製の製品を製造するためには、その原料となるTiAl合金インゴットが必要となる。鍛造した素材を製品とする用途では、このTiAl合金インゴットを一旦鍛造した上で、成形加工及び機械加工を施すことによって製品を仕上げる。また、精密鋳造品を製品とする用途では、このTiAl合金インゴットを適当なサイズに切断後、これを再溶解して各種形状の鋳型に鋳湯することによって製品を製作する。TiAl合金を航空宇宙用の構造部材等に適用する場合、サイズや厚み等が大きいほど当該構造部材をTiAl合金で製造した場合の重量減少量が大きくなるため、より大きな効果が得られる。そのため、これら構造部材等の各種製品の原料となるTiAl合金インゴットでは、大きなサイズ、具体的には直径が200mm程度以上のものをできるだけ安価で生産できることが求められている。
【0003】
従来、TiAl合金インゴットの製造方法としては、主にVAR(真空アーク再溶解法)と言われる方法が用いられている(例えば、特許文献1参照)。この方法は、金属原料を圧縮して作製した棒材を電極とする消耗電極式溶解方法であり、アークによって溶かしたTiAl合金となる消耗電極の成分を水冷銅ルツボ中で徐々に凝固させることによりTiAl合金インゴットを得ることができる。この方法の場合、1回の溶解では成分は均一化されないため、一旦できたインゴットを再度同じ方法で溶解する作業が必要である。この再溶解作業は、通常2〜3回程度必要である。また、この方法では、TiAl合金インゴットのもととなる金属原料を一気に溶かすのではなく、棒材の下側から局部的に徐々に溶かし、溶かして得た溶滴を水冷銅ルツボ内に注いで徐々に凝固させるため、1回のプロセス時間も長くなるという問題がある。また、この溶解で必要となる真空アーク溶解炉は、大型になるほど装置費用が増大する。つまり、この手法でTiAl合金インゴットを製造する場合、溶解作業時間が長く、また装置運転費用も多額になることから、必然的に製造されるTiAl合金インゴットの費用は高価なものになる。そのため、この手法では、必要なサイズのTiAl合金インゴットを製造することはできてもその分、コストが非常に高くなるという問題がある。
【0004】
一方、鉄基合金やNi基合金等では、セラミックルツボを使用する高周波誘導溶解法が汎用的な溶解方法として使用されている。この方法では、金属原料全体をセラミックルツボ内で一度に溶解し、その状態を5分〜数十分程度保持しながら、高周波の作用で撹拌させることにより成分を均一化する。そして、溶湯が完全に均一化された後に、主に鋳鉄製の鋳型内に溶湯全体を一気に流し込んで凝固させる。そのため、溶解回数は1回で良く、プロセス時間も短くなる。また、高周波誘導溶解装置は汎用的な安価な設備であることから、装置運転費用は小さい。以上の点から、この溶解手法ではインゴットの製造コストを安価にできるという利点がある。また、金属原料を溶かすセラミックルツボのサイズ及び鋳型のサイズを大きくすることにより容易に大型のインゴットを得ることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−137238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セラミックルツボを使用する高周誘導波溶解法により金属原料であるTi及びAlを溶解して得た溶湯を鋳型に鋳湯した場合、鋳型内において、鋳造したTiAl合金が凝固後に簡単に割れてしまうため、各種製品の原料として使用するためのTiAl合金インゴットを得ることができないという問題があった。また、この割れは、TiAl合金が凝固後冷却過程で収縮する際に発生する応力によって生じるものであるため、インゴットのサイズを大きくする程、この収縮量の絶対値は大きくなるので、直径が200mmを超えるような大型の良品のインゴットを高周波溶解法により得ることはできなかった。
【0007】
この凝固後の冷却過程での収縮は、鉄基合金やNi基合金等でも生じる現象であるが、これらのインゴットでは割れが生じるようなことはなく、TiAl合金に限って割れが生じる。その理由としては、TiAl合金が本来的に鉄基合金やNi基合金等に比べて延性が小さいことに加えて、金属原料であるTi及びAlをセラミックルツボ内で溶解し、その溶湯を鋳鉄製の鋳型に鋳湯することにより以下のような問題等が発生することによるものである。
【0008】
まず、TiAl合金の溶湯は非常に活性であるので、溶解中において溶湯に接するセラミックルツボが分解され、セラミックルツボを構成する材料(主に酸化物)中の酸素がTiAl合金中に混入する。そのため、TiAl合金において有害な不純物である酸素が増加してTiAl合金の靭性が低下するため、本来的に脆いTiAl合金がより脆くなり、凝固後の小さな収縮量でも割れが生じる原因となる。また、鋳鉄製の鋳型に溶湯を鋳湯後、TiAl合金が凝固中に鋳鉄と反応して、TiAl合金インゴットの外表面が鋳型の内面に密着(接合)されることになるため、凝固後の収縮の際に鋳型との間に隙間ができる等の機械的な応力緩和作用が全く期待できなくなる。また、凝固後の収縮による応力は溶湯が凝固した後、室温に到達するまで連続的に発生するが、その過程において、その材料に延性があれば塑性変形されることにより、その応力は緩和されて蓄積されないことになる。つまり、最終的に発生する残留応力はその材料の延性が消失する温度以下で発生した応力の蓄積となるが、TiAl合金の場合には、900℃以下では、ほとんど延性がないため、その温度以下での応力緩和が生じないので、蓄積される応力が大きくなることから、割れが発生し易くなる。
【0009】
以上のような理由等から、これまで高周波溶解法を用いて大型のTiAl合金インゴットを製造することは行われていなかった。
【0010】
本発明は、上記のような種々の課題に鑑みてなされたものであって、製造にかかるプロセス時間を短縮するとともに設備運転費用を削減して製造コストを安価に抑えることができるTiAl合金インゴットの製造方法及び当該方法により製造されるTiAl合金を提供することを目的する。また、TiAl合金中に混入される酸素の量を軽減させることにより割れ等が生じない健全な大型のTiAl合金インゴットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1記載のTiAl合金インゴットの製造方法は、セラミックルツボ内において、溶解原料であるTi及びAlを高周波誘導溶解によって溶解させて得た溶湯を鋳型に鋳湯することにより、直径200mm以上のTiAl合金インゴットを製造することを特徴としている。
【0012】
請求項2記載のTiAl合金インゴットの製造方法は、前記セラミックルツボの材料として化学的に安定なイットリア(Y2O3)を用いることを特徴としている。
【0013】
請求項3記載のTiAl合金インゴットの製造方法は、融点降下のために前記溶解原料に添加元素として予めMnを添加することを特徴としている。
【0014】
請求項4記載のTiAl合金インゴットの製造方法は、前記Mnの添加量を4〜8重量%とすることを特徴としている。
【0015】
請求項5記載のTiAl合金インゴットの製造方法は、前記鋳型の内表面にTi製のライニング材をライニングすることを特徴としている。
【0016】
請求項6記載のTiAl合金インゴットは、請求項1乃至5のいずれかに記載の方法により製造されることを特徴としている。
【0017】
請求項7記載のTiAl合金インゴットは、請求項6記載のTiAl合金インゴットの金属組織中にβ相が含まれることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載のTiAl合金インゴットの製造方法によれば、溶解原料であるTi及びAlを高周波誘導溶解によって溶解するので、溶湯全体が撹拌されるため、容易に成分を均一化することができる。これにより、従来のVARを用いた方法よりも製造にかかるプロセス時間を大幅に短縮することができるので、製造効率が向上しTiAl合金インゴットの製造数を増加させることができるとともに、設備運転費用が安価なことと相俟って製造コストを軽減することができる。また、セラミックルツボのサイズ及び鋳型のサイズを大きくすることにより容易に大型のインゴットを得ることができる。
【0019】
請求項2記載のTiAl合金インゴットの製造方法によれば、最も化学的に安定な化合物であるイットリア(Y2O3)をセラミックルツボの材料として用いているので、溶解中にセラミックルツボが分解されて発生する酸素の量を抑制することができる。これにより、TiAl合金中に混入する酸素の濃度を抑制することができるので、TiAl合金の靭性の低下が軽減され、TiAl合金インゴットに割れが生じるのを抑制することができる。
【0020】
請求項3記載のTiAl合金インゴットの製造方法によれば、添加元素としてTiより融点が低いMnを添加するので、Tiより先にMnが溶解するため、固液拡散によってTiの溶融を促進することができる。これにより、セラミックルツボに溶湯が接触する時間を短縮することができるので、セラミックルツボから分解されて発生する酸素の量を更に抑制することができる。また、Mnを添加することにより、TiAl合金の延性を有効に改善することができる。
【0021】
請求項4記載のTiAl合金インゴットの製造方法によれば、Mnの添加量を4〜8重量%にすることにより、TiAl合金の特性を低下させることなく、TiAl合金の融点を30℃以上低下させることができるので、セラミックルツボに接触する溶湯の温度を大幅に下げることができる。このように溶湯の温度を低下させることにより、セラミックルツボの材質が分解されて発生する酸素の量を抑制することができるので、TiAl合金中に混入する酸素の濃度を抑制することができる。これにより、更にTiAl合金の靭性の低下が軽減され、割れの生じ難い健全なTiAl合金インゴットを得ることができる。
【0022】
請求項5記載のTiAl合金インゴットの製造方法によれば、鋳型の内表面にTi製のライニング材をライニングするので、TiAl合金の溶湯が鋳型の内面と直接接触することがなくなるため、TiAl合金が凝固中に鋳鉄と反応して鋳型の内面と密着(接合)するのを防止することができる。これにより、割れ等を生じることなく鋳型からTiAl合金インゴットを容易に取出すことができる。
【0023】
請求項6記載のTiAl合金インゴットは、軽量で且つ耐熱性に優れているので、自動車や航空宇宙用の構造部材等に有効に利用することができる。
【0024】
請求項7記載のTiAl合金インゴットによれば、金属組織中にβ相が含まれているので、500℃以上において延性が発現するため、このβ相が存在することにより、TiAl合金の凝固後の冷却過程において500℃程度までは応力緩和が生じることになる。これにより、500℃程度までは残留応力の蓄積を無くすことができるので、残留応力の蓄積は、500℃以下での少量の蓄積だけになるため、凝固後の冷却過程においてTiAl合金に割れが生じるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るTiAl合金インゴットの製造方法に用いるセラミックルツボの外観を示す概略斜視図である。
【図2】本発明に係るTiAl合金インゴットの製造方法に用いる鋳型の外観を示す概略斜視図である。
【図3】鋳型の内表面へのTiライニング材のライニングを説明するための概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明に係るTiAl合金インゴットの製造方法について、図面を参照しつつ説明する。本発明に係るTiAl合金インゴットの製造方法は、高周波誘導溶解法を用いてセラミックルツボ内に供給される溶解原料であるTi原料及びAl原料を溶解して、その溶湯を鋳鉄製の鋳型に鋳湯することによりインゴットを製造するものである。
【0027】
図1に示すように、溶解用のセラミックルツボ1は、円柱状に形成されており、上方が開口され、その内部に溶解原料を収容する収容部2が設けられている。また、セラミックルツボ1の上方の一部には、収容部2に収容される溶解原料が高周波誘導溶解によって溶解された溶湯を注ぐための注ぎ口3が形成されている。このセラミックルツボ1では、非常に活性であるTiAl合金の溶湯によりセラミックルツボが分解されるのを抑制するために、最も化学的に安定な化合物であるイットリア(Y2O3)を材料として用いている。
【0028】
一般的にTiAl合金では、その特性改善のために、Nb、Cr、Mo、V等の添加元素が添加されるが、ここでは、添加元素としてMnを溶解原料に添加する。Nb、Cr、Mo、Vの融点が、それぞれ2,468℃、1,857℃、2,620℃、1,890℃であるのに対して、Mnの融点は1,244℃であり、Tiの融点である1,660℃よりも低い値であるので、先にMnが溶解されることになる。そのため、固液拡散によってTiの溶融を促進することができる。また、Mnを添加することにより、TiAl合金の延性を有効に改善することができる。このMnの添加量としては、4〜8重量%の割合で添加すること好適である。これにより、TiAl合金の特性を低下させることなく、TiAl合金の融点を30℃以上低下させることができるので、セラミックルツボに接触する溶湯の温度を大幅に下げることができる。
【0029】
イットリアを用いて構成されたセラミックルツボ1の収容部2には、溶解原料であるTi材料、Al材料、及び添加元素として前記Mnが収容される。その後、溶解原料を高周波誘導溶解によって溶解する。具体的には、セラミックルツボ1を高周波誘導溶解炉に入れて、収容部2内の溶解原料全体を高周波によって一度に溶解し、その状態で5分〜数十分程度保持しながら、高周波の作用により撹拌することで主要成分を均一化させる。このように、高周波誘導溶解法を用いることにより、溶湯全体が撹拌されるため、容易に成分を均一化することができる。また、この際、収容部2に溜まるTiAl合金の溶湯に接するセラミックルツボ1の内表面が活性な溶湯と反応して分解されることになるが、上記のように化学的に安定なイットリアを材料として用いているので、セラミックルツボ1が分解されて発生する酸素の量を抑制することができる。尚、ここで用いる高周波誘導溶解炉としては、従来から鉄基合金やNi基合金等の溶解に用いられている公知のものを適宜用いることが可能である。
【0030】
このように収容部2内の溶解原料が、高周波誘導溶解法によって溶解されることにより、収容部2に溜まったTiAl合金の溶湯は、次にセラミックルツボ1を回転駆動機構(不図示)等を用いて注ぎ口3側に傾斜させることにより、注ぎ口3から湯道等を介して、図2に示すような鋳鉄製で内部に空洞部5を有する円筒状の鋳型4に鋳湯される。この鋳型4の内径、つまり空洞部5の直径Dは、200mmよりも大きく形成されている。また、鋳型4の外周面には、必要に応じて保温のための耐火材6が巻かれ、鋳型4の外周面から突出する突起7に掛止される。尚、この保温のための耐火材6は必須なものではない。
【0031】
また、鋳型4は、その空洞部5の内表面8を覆うように、図3に示すような純Tiからなる薄く形成された有底の円筒状の収容部9を有するTiライニング材10でライニングされる。このTiライニング材10の外周11の肉厚は、数ミリ程度である。また、このTiライニング材10の直径は、鋳型4の空洞部5内に収まるようにその内径Dよりも若干小さく形成されている。
【0032】
このように鋳型4の内表面8をTiライニング材10でライニングした状態で、セラミックルツボ1からTiAl合金の溶湯が鋳湯され、冷却過程を経てTiAl合金インゴットが製造される。この際、鋳型4の内表面8には、Tiライニング材10がライニングされているので、TiAl合金の溶湯が鋳型4の内表面8と直接接触することがなくなるため、TiAl合金が凝固中に鋳鉄と反応して鋳型の内面と密着(接合)するのを防止することができる。そのため、鋳型4からTiAl合金インゴットを取出す際も、割れ等を生じることなく容易に取出すことが可能になる。また、鋳型4の内径Dは、200mmよりも大きく形成されており、鋳型4の内表面8にライニングされるTiライニング材10の直径もほぼ同等の大きさであるので、凝固後の冷却過程を経て得られるTiAl合金インゴットの直径も市場が求めている200mm程度以上の大型のインゴットを得ることができる。また、Tiライニング材10に代えて、TiAl合金の溶湯と反応し難い材質から成る円筒状の板材をライニングしても良い。
【実施例】
【0033】
<実施例>
以下、本発明の実施例について説明する。本実施例は、溶解原料として重量75kgのTi−29Al−7Mn(重量%)の合金をイットリア(Y2O3)製のセラミックルツボを用いて、高周波誘導溶解炉で溶解した。高周波誘導溶解炉には、鉄換算150kgの高周波誘導溶解炉を用いた。また、セラミックルツボには、図1に示すような形状を有する外径325mm、内径270mm、高さ480mmのものを使用した。
【0034】
高周波誘導溶解によって、溶解原料全体が溶解された後に測定した溶湯温度は、1,530℃であり、Mnを7重量%添加させることで通常よりも融点を低下させることにより、溶湯温度を低下させることができた。そして、溶解原料が完全に溶解された後、10分間保持することにより溶湯を完全に均一化した後、セラミックルツボを傾けることにより、図3に示すような内面にTiライニング材をライニングした有効内径が250mmの鋳鉄製の円筒鋳型に溶湯全体を一気に流し込み、TiAl合金を凝固させた。
【0035】
その後、冷却過程を経て得られたTiAl合金インゴットを鋳型から取出した。このようにして製造されたTiAl合金インゴットは、そのサイズが直径250mm、高さ380mmであった。また、不活性ガス中加熱融解赤外線吸収法を用いて、TiAl合金インゴット中の酸素濃度の分析を行った結果、酸素濃度の値は、0.10%であり、効果的に酸素の混入を抑制できることが示される結果であった。
【0036】
また、金属組織を観察した結果、β相の存在が認められた。β相は、bcc(体心立方)を基とする相であり、室温〜500℃程度では延性はないが、500℃以上では延性が発現するため、このβ相が存在することにより、TiAl合金の凝固後の冷却過程において500℃程度までは応力緩和が生じることになる。これにより、500℃程度までは残留応力の蓄積を無くすことができるので、残留応力の蓄積は、500℃以下での少量の蓄積だけになるため、上記のように凝固後の冷却過程においてTiAl合金に割れが生じるのを防止することができる。
【0037】
<比較例1〜4>
また、上記の条件と比較するために、比較例として下記の比較例1〜4の条件で実験を行った。比較例1は、使用するルツボを比較的化学的安定性が高いと言われているカルシアルツボとし、他の条件を実施例と同一の条件とした。その結果、TiAl合金インゴットには、大きな割れが入った。また、TiAl合金インゴット中の酸素濃度の分析を行った結果、酸素濃度の値は、0.30%と実施例に比べて3倍程度高い値を示した。また、金属組織観察の結果β相が認められた。
【0038】
比較例2は、Mnを添加させずに合金成分をTi−29Al(重量%)とし、他の条件を実施例と同一の条件とした。その結果、TiAl合金インゴットには、小さな割れが入った。また、TiAl合金インゴット中の酸素濃度の分析を行った結果、酸素濃度の値は、0.15%であった。また、金属組織観察の結果、β相は認められなかった。
【0039】
比較例3は、鋳型の内表面にTiライニング材をライニングせず、他の条件は実施例と同一の条件とした。その結果、TiAl合金が鋳鉄と反応して、TiAl合金インゴットの外表面が鋳型の内表面に接合されてしまったため、鋳型から取外すことができない結果となった。そのため、鋳型を切断してTiAl合金インゴットを取出したが、インゴットには大きな割れが生じていた。また、TiAl合金インゴット中の酸素濃度の分析を行った結果、酸素濃度の値は、0.10%であった。また、金属組織観察の結果β相が認められた。
【0040】
比較例4は、合金成分をTi−32Al−3Mn(重量%)とし、他の条件は実施例と同一の条件とした。その結果、TiAl合金インゴットには、小さな割れが入った。また、TiAl合金インゴット中の酸素濃度の分析を行った結果、酸素濃度の値は、0.12%であった。また、金属組織観察の結果、β相は認められなかった。
【0041】
以上のように、イットリア(Y2O3)をセラミックルツボの材料として用いることにより、TiAl合金中に混入する酸素の濃度が大幅に抑制される。また、添加元素としてMnを添加することにより、セラミックルツボに溶湯が接触する時間を短縮することができるので、セラミックルツボから分解されて発生する酸素の量を更に抑制することができる。そして、このMnの添加量を4〜8重量%にすることにより、TiAl合金の融点を30℃以上低下させることができるので、セラミックルツボに接触する溶湯の温度を大幅に下げることができる。そのため、更にTiAl合金中に混入する酸素の濃度を抑制することができる。このような条件を満たすことにより、TiAl合金インゴットの金属組織中にはβ相が含まれるようになり、500℃以上では延性が発現するため、残留応力の蓄積が大幅に軽減され、TiAl合金の凝固後の冷却過程において割れが生じるのを防止することができる。また、鋳型の内表面にTiライニング材をライニングすることにより、TiAl合金が凝固中に鋳鉄と反応して鋳型の内面と接合するのを防止するため、割れ等を生じることなく鋳型からTiAl合金インゴットを容易に取出すことができる。尚、実施例では、直径250mm、高さ380mmのTiAl合金インゴットを製造したが、高周波誘導溶解に使用するセラミックルツボ、及び鋳型のサイズを適宜変更することにより製造するインゴットの大きさを調整することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
このようにして製造されたTiAl合金インゴットは、軽量で且つ耐熱性に優れているので、自動車や航空宇宙用の構造部材等において、有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 セラミックルツボ
2 収容部
4 鋳型
8 内表面
10 Tiライニング材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックルツボ内において、溶解原料であるTi及びAlを高周波誘導溶解によって溶解させて得た溶湯を鋳型に鋳湯することにより、直径200mm以上のTiAl合金インゴットを製造することを特徴とするTiAl合金インゴットの製造方法。
【請求項2】
前記セラミックルツボの材料としてイットリア(Y2O3)を用いることを特徴とする請求項1記載のTiAl合金インゴットの製造方法。
【請求項3】
前記溶解原料に添加元素として予めMnを添加することを特徴とする請求項1又は2記載のTiAl合金インゴットの製造方法。
【請求項4】
前記Mnの添加量を4〜8重量%とすることを特徴とする請求項3記載のTiAl合金インゴットの製造方法。
【請求項5】
前記鋳型の内表面にTi製のライニング材をライニングすることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のTiAl合金インゴットの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の方法により製造されたTiAl合金インゴット。
【請求項7】
請求項6記載のTiAl合金インゴットの金属組織中にβ相が含まれることを特徴とするTiAl合金インゴット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−36877(P2011−36877A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185583(P2009−185583)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(593006434)精密工業株式会社 (4)
【出願人】(509108456)
【Fターム(参考)】