説明

Vリブドベルト及びその製造方法

【課題】 プーリに巻き掛かるときの異音の発生が防止されるVリブドベルトを提供する。
【解決手段】 各々、ベルト内側にベルト周方向に沿って延びる複数のリブ15がベルト幅方向に並ぶように設けられたVリブドベルトBにおいて、複数のリブ15のそれぞれを、リブ表面がベルト周方向に沿って1.0〜3.5mmの一定波長の波形に形成されたものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各々、ベルト内側にベルト周方向に沿って延びる複数のリブがベルト幅方向に並ぶように設けられたVリブドベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の補機駆動用の伝動ベルトとして、一般的には、Vリブドベルトが使用されている。Vリブドベルトは、各々、ベルト内側にベルト周方向に沿って延びる複数のリブがベルト幅方向に並ぶように設けられており、プーリとの間で発生する異音の抑制及びベルト表面の摩耗抑制を目的とした種々の技術が提案されている。
【0003】
特許文献1には、ベルト表面にベルト長さ方向に沿って断面三角形状の溝を複数条並行に設け、且つ、ベルト内部に補強芯体を埋設したVリブドベルトにおいて、各断面三角形状の溝内壁面に、溝上部開放縁より溝頂部に至る長さの凹溝がベルト進行方向へ傾斜する斜行成分を有する軸線に沿って多数適宜間隔毎に設けられているものが開示されている。そして、これによれば、ベルトとプーリとの係合時に、滑らかに接触し、この点での騒音振動の発生は少なく、また、溝により初期吸着効果も消去されるから始動時の異音発生もなく、さらに定常回転時のスリップも有効に防止でき、もって長期にわたり安定した伝動機能を発揮する、と記載されている。
【0004】
特許文献2には、Vリブの側面から突出するアラミド系短繊維を、カール状に形成し、アラミド系短繊維の根元部は、Vリブの側面から起立させ、アラミド系短繊維の先端部は、中間部の湾曲方向と異なる方向に湾曲させ、アラミド系短繊維の突出部は、多方向にわたって分散するように、湾曲方向が互いに異なっているVリブドベルトが開示されている。そして、これによれば、異音の発生を防止すると共に、いずれの走行方向に対しても一定の耐側圧性及び耐摩耗性を保つことができる、と記載されている。
【0005】
特許文献3には、Vリブの側面から、アラミド系短繊維及び非アラミド系の合成繊維の双方を突出させ、アラミド系短繊維の突出部をカール状に形成する一方、合成繊維の突出部をその非溶融状態を保ったまま、先端に向かって末広がり状の扇形に形成し、両突出部の根元は、Vリブの側面から起立し、アラミド系短繊維の突出部は多方向に分散するように突出させ、合成繊維の突出部は所定の一方向に突出させ、アラミド系短繊維の突出部を、合成繊維の突出部よりも長く形成した、Vリブドベルトが開示されている。そして、これによれば、耐側圧性及び耐摩耗性に優れ、加えて、異音が発生しにくく且つ走行方向の依存性を少なくすることができる、と記載されている。
【0006】
特許文献4には、合成繊維の突出部を塑性変形させ、先端に向かって末広がり状の扇形に形成し、合成繊維の突出部は、研削加工時に融点以下の温度にまでしか加熱されず、非溶融状態に維持され、合成繊維の突出部はVリブの側面から起立し、この側面にはミクロな凹凸が形成され、合成繊維は、20μm以上のフィラメント径を有するナイロンによって形成されたVリブドベルトが開示されている。そして、これによれば、短繊維の強度を損なうことなくその露出面積を増大させ、耐摩耗性を向上させることができる、と記載されている。
【0007】
特許文献5には、ベルト長手方向に沿った複数条のVリブを有し、Vリブの表面に凹凸部が設けられたVリブドベルトであって、Vリブは成形用金型に設けられたVリブ成形用凹溝によって成形され、また、凹凸部はVリブ成形用凹溝に形成された凹凸成形用凹凸部によって成形されたものが開示されている。そして、これによれば、長期に亘って安定して発音を抑制することができ、しかも多量の切削屑が発生するようなことなく製造することができる、と記載されている。
【特許文献1】実開昭61−156754号公報
【特許文献2】特開2000−337448号公報
【特許文献3】特開2000−337449号公報
【特許文献4】特開2000−337450号公報
【特許文献5】特開2002−168307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献5に開示されているように、リブ表面に凹凸部が設けられたVリブドベルトでは、凹部、或いは、凸部がプーリに巻き掛かってリブがプーリの溝に噛み込むときに異音を発生させるという問題がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、プーリに巻き掛かるときの異音の発生が防止されるVリブドベルト及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ベルト周方向に沿って波形形状に形成されたリブにおける、その波形形状のピッチが異音の発生に関係することを見出して本発明に想到したものである。
【0011】
具体的には、本発明のVリブドベルトは、各々、ベルト内側にベルト周方向に沿って延びる複数のリブがベルト幅方向に並ぶように設けられたものであって、上記複数のリブのそれぞれは、リブ表面がベルト周方向に沿って1.0〜3.5mmの一定波長の波形に形成されていることを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、リブ表面がベルト周方向に沿って一定波長の波形に形成され、その波長が1.0〜3.5mmに設定されているので、後述する実施例で明らかにするように、プーリに巻き掛かってリブがプーリの溝に噛み込むときの異音の発生を防止することができる。また、リブ表面が平坦面でないので、被水時にリブとプーリとの間の水の皮膜の形成が困難となり、ベルトとプーリとの間のスリップ及びそれに伴って発生する異音の発生を防止することができる。そして、これらによって、静粛に動力の伝達を行うことができる。
【0013】
ここで、ピッチが1.0mm未満では、リブ表面が平坦面に近いものとなってしまうので、被水時にリブとプーリとの間の水の皮膜の形成が比較的容易になされてしまう。一方、ピッチが3.5mmより大きいと、プーリに巻き掛かるときの異音の発生を十分に防止し得なくなる。
【0014】
本発明のVリブドベルトは、上記複数のリブのそれぞれのリブ表面に多数の繊維が突出しているものであってもよい。
【0015】
上記の構成によれば、リブ表面に多数の繊維が突出しており、被水時にベルト表面とプーリとの間の水の皮膜が形成されようとしても、それが繊維によって切断されるので、その水の皮膜の形成を阻止することができる。そして、それによって、リブとプーリとの間のスリップ及びそれに伴って発生する異音の発生をより有効に防止することができる。
【0016】
本発明のVリブドベルトは、上記多数の繊維のそれぞれの先端がささくれているものであることが好ましい。
【0017】
上記の構成によれば、繊維の先端がささくれているので、水との接触面積が広くなり、水の皮膜の切断により有利である。
【0018】
上記の本発明のVリブドベルトは、リブ形成用の複数の凹溝が並行に延びるように形成された砥石を、円筒状のベルト成形用スラブのリブ形成面に、該砥石の凹溝の延びる方向と該ベルト成形用スラブのリブ形成面の周方向とが一致するように接触させ、その方向に沿ってそれらを相対移動させることにより該砥石で該ベルト成形用スラブを研削してそのリブ形成面にリブを形成することで製造することができるが、そのとき、砥石とベルト成形用スラブとの間の距離を周期的に変動させることにより、リブ表面がベルト周方向に沿って一定波長の波形に形成されたリブを構成させ、該リブの波形の波長が1.0〜3.5mmとなるように、該砥石と該ベルト成形用スラブとの相対移動速度を設定すればよい。
【発明の効果】
【0019】
上記に説明した通り、本発明によれば、リブ表面がベルト周方向に沿って一定波長の波形に形成され、その波長が1.0〜3.5mmに設定されているので、プーリに巻き掛かるときの異音の発生を防止することができ、それによって、静粛に動力の伝達を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1及び2は、本発明の実施形態に係るVリブドベルトBを示す。
【0022】
このVリブドベルトBは、接着ゴム層11と、接着ゴム層11上面側に一体に設けられた上ゴム層12と、上ゴム層12の上面側、すなわち、ベルト背面側に貼付されて一体に設けられた背面補強布13と、接着ゴム層11下面側、すなわち、ベルト内側に一体に設けられたリブゴム層14と、接着ゴム層11のベルト厚さ方向中心に、略ベルト長手方向に延び且つベルト幅方向に所定ピッチで螺旋状に設けられた心線16と、からなる。そして、これらのうち、接着ゴム層11と上ゴム層12とリブゴム層14とによりVリブドベルト本体が構成されている。
【0023】
接着ゴム層11は、Vリブドベルト本体において中央のベルト長手方向に延びる平板帯状部分をなし、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)等のゴム組成物からなり、心線16を保持する層を構成している。
【0024】
上ゴム層12も、Vリブドベルト本体において接着ゴム層11の上側のベルト長手方向に延びる平板帯状部分をなし、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)等のゴム組成物からなる。
【0025】
背面補強布13は、ナイロン繊維、綿等の縦糸及び横糸からなる織布にゴムを溶剤に溶かしたゴム糊に浸漬して乾燥させる接着処理が施されたものからなり、ベルト背面を補強する補強材を構成している。なお、背面補強布13に代えて、すだれ織物や短繊維混入ゴム層を設けてもよい。
【0026】
リブゴム層14は、Vリブドベルト本体において接着ゴム層11の下側のベルト周方向に沿って延びる複数のリブ15(図1及び2では6つ)がベルト幅方向に所定ピッチで並ぶように配設された部分をなし、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)等にナイロン繊維やアラミド繊維などの短繊維17が混入されたゴム組成物からなり、プーリに直接接触して動力を伝達する動力伝達部を構成している。各リブ15は、リブ表面がベルト周方向に沿って1.0〜3.5mmの一定波長、一定振幅(具体的には、例えば、リブ高さの0.2〜1.5%、5〜30μm)の波形に形成されている。ここで、波形とは、同じ形が規則的に繰り返し現れる形状であって、正弦波形に限られず、その他、鋸波形や矩形波等も含まれる。リブゴム層14に含まれる短繊維17は、ベルト幅方向に配向しており、リブ表面に露出したものは外向きに突出している。また、リブ表面から突出した各短繊維17は、先端がささくれている。
【0027】
心線16は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維またはポリビニルアルコール(PVA)繊維で形成された撚り糸(Z撚り)に、ベルト成形に先立って、レゾルシン・ホルマリン・ラテックス(RFL)液等に浸漬して加熱する接着処理が施されているとともに、延伸熱固定処理が施されたものからなり、強度及び抗張力を付与する抗張体を構成している。
【0028】
以上の構成のVリブドベルトBによれば、リブ表面がベルト周方向に沿って一定波長の波形に形成され、その波長が1.0〜3.5mmに設定されているので、プーリに巻き掛かってリブ15がプーリの溝に噛み込むときの異音の発生を防止することができる。
【0029】
また、リブ表面が平坦面でないので、被水時にリブ15とプーリとの間の水の皮膜の形成が困難となり、それに加えて、リブ表面に先端がささくれた多数の短繊維17が突出しており、被水時にリブ15とプーリとの間の水の皮膜が形成されようとしても、それが短繊維17によって切断されるので、その水の皮膜の形成を阻止することができ、ベルトとプーリとの間のスリップ及びそれに伴って発生する異音の発生を防止することができる。そして、これらによって、静粛に動力の伝達を行うことができる。
【0030】
次に、このVリブドベルトBの製造方法について説明する。
【0031】
まず、VリブドベルトBを製造するための材料として、接着ゴム層11を形成するための第2未加硫ゴムシート11’、上ゴム層12を形成するための第1未加硫ゴムシート12’、リブゴム層14を形成するための第3未加硫ゴムシート14’、背面補強布13を形成するための織布13’で接着処理が施されたもの、及び、心線16を形成するための撚り糸16’で接着処理が施されたものを準備する。
【0032】
次いで、円筒状金型80に筒状に形成した織布13’を外嵌め状に被せ、その上に第1未加硫ゴムシート12’を所定回数巻き付け、さらにその上に第2未加硫ゴムシート11’を所定回数巻き付ける。
【0033】
次いで、円筒状金型80上の第2未加硫ゴムシート11’の上に円筒状金型80の一方の端から他方の端に向かって所定ピッチで螺旋状に撚り糸16’を巻き付ける。
【0034】
次いで、撚り糸16’の層の上に再び第2未加硫ゴムシート11’を所定回数巻き付ける。
【0035】
次いで、今度は第3未加硫ゴムシート14’を所定回数巻き付ける。以上により、図3(a)に示すように、円筒状金型80の外周上には、金型側から順に織布13’、第1未加硫ゴムシート12’、第2未加硫ゴムシート11’、撚り糸16’、第2未加硫ゴムシート11’、第3未加硫ゴムシート14’が層状に積層された構造が構成される。
【0036】
次いで、上記の積層構造が構成された円筒状金型80にゴムスリーブを被せ、それを加硫釜に入れて所定温度及び圧力の条件下に所定時間保持する。このとき、第1〜第3未加硫ゴムシート11’,12’,14’が流動すると共に架橋され織布13’及び撚り糸16’がゴムに密着一体化して円筒状のスラブが形成される。以上により、図3(b)に示すように、円筒状金型80の外周上には、金型側から順に背面補強布13、上ゴム層12、接着ゴム層11に心線16が埋設された層、並びに、リブゴム層14が層状に積層された構造が構成される。
【0037】
次いで、加硫釜から円筒状金型80を取り出してゴムスリーブを外し、続いて、形成されたベルト成形用スラブを外す。
【0038】
次いで、ベルト成形用スラブを軸方向に3〜4等分に切断する。
【0039】
次いで、研削機を用いて分割したベルト成形用スラブの外周面、つまり、リブ形成面にリブ15を形成する。研削機は、ホイールの外周面にダイヤモンド等の砥粒を焼き付けた円柱状の砥石を備えており、その砥石の外周面には、各々、周方向に延びるリブ形成用の複数の凹溝が軸方向に並ぶように形成されている。そして、その円柱状の砥石は、僅かに偏心して回転するようになっている。リブ形成面へのリブ15の形成に際しては、砥石を所定回転速度で高速回転させた後、砥石の凹溝の延びる方向(砥石の回転方向)と分割したベルト成形用スラブのリブ形成面の周方向とを一致させて、砥石にベルト成形用スラブを押し付けるように接触させ、そして、ベルト成形用スラブを所定回転速度(<砥石の回転速度)で周方向に回転させることで、それらの相対移動により、砥石でベルト成形用スラブを研削してそのリブ形成面にリブ15を形成する。このとき、砥石が偏心して回転することにより、砥石とベルト成形用スラブとの間の距離が周期的に変動するため、リブ表面がベルト周方向に沿って一定波長の波形に形成される。波形形状の波長は、砥石とベルト成形用スラブとの相対移動速度に依存するため、その設定によって自在に変更することができる。ここでは、砥石とベルト成形用スラブとの相対移動速度を波形形状の波長が1.0〜3.5mmとなるように設定する。また、リブ15の表面に露出する短繊維17は、砥石の研削抵抗により先端が分割されてささくれた形状(手の平形状)に塑性変形される。なお、砥石の回転方向とベルト成形用スラブの回転方向とは、同一方向であっても逆方向であってもよい。
【0040】
最後に、ベルト成形用スラブを所定幅に切断し、リブ15が形成された側が内側となるように折り返すことによりVリブドベルトBを得る。
【0041】
上記のVリブドベルトBの製造においては、断面形状が円形から僅かにずれた楕円形状の砥石を軸回転させるようにしてもよく、これによっても砥石とベルト成形用スラブとの間の距離が周期的に変動する。
【0042】
次に、VリブドベルトBを用いたベルト伝動装置30について説明する。
【0043】
図4は、VリブドベルトBを配した自動車エンジンのサーペンタイン補機駆動のためのプーリレイアウトを示す。
【0044】
このサーペンタイン補機駆動のためのプーリレイアウトは、最上位置の補機Aプーリ32と、その補機Aプーリ31の下方に配置された補機Bプーリ32と、補機Aプーリ31の左下方に配置されたテンショナプーリ33と、そのテンショナプーリ33の下方に配置された補機Cプーリ34と、テンショナプーリ33の左下方に配置されたクランクシャフトプーリ35と、そのクランクシャフトプーリ35の右下方に配置された補機Dプーリ36と、により構成されている。これらのうち、フラットプーリであるテンショナプーリ33及び補機Cプーリ34以外は全てリブプーリである。そして、VリブドベルトBは、リブ15側が接触するように補機Aプーリ31に巻き掛けられ、次いで、ベルト背面が接触するようにテンショナプーリ33に巻き掛けられた後、リブ15側が接触するようにクランクシャフトプーリ35及び補機Dプーリ36に順に巻き掛けられ、さらに、ベルト背面が接触するように補機Cプーリ34に巻き掛けられ、そして、リブ15側が接触するように補機Bプーリ32に巻き掛けられ、最後に補機Aプーリ31に戻るように設けられている。このVリブドベルトBは、クランクシャフトプーリ35により駆動されて時計回りに走行することにより補機Aプーリ31等の補機プーリを駆動する。
【実施例】
【0045】
(試験評価1)
<試験評価用ベルト>
−発明例−
上記実施形態と同様の構成で、且つ、同様の方法によって製造されたVリブドベルトであって、Vリブドベルト本体をクロロプレンゴムのゴム組成物で形成し、ポリエチレンテレフタレートの心線を用い、図5に示すように、リブピッチが3.56mm、ベルト総厚みが4.30mm、リブ高さが2.00mm、リブ角度40°、リブ数6及びリブの波形形状の波長2.8mmであるものを発明例とした。
【0046】
−比較例−
上記発明例と同一の材料構成及び寸法構成であって、リブ形成用の複数の凹溝が形成された金型を用いることにより、ベルト成形用スラブの作製時にリブを形成したVリブドベルトを比較例とした。比較例は、ベルト成形用スラブの作製時にリブを形成したものであるので、リブ表面から短繊維が突出していないものであり、また、リブ表面がベルト周方向に沿って波形に形成されていない平坦面のものである。
【0047】
<試験評価方法>
図6は、注水負荷特性をを試験評価するためのベルト走行試験機50のプーリレイアウトを示す。
【0048】
このベルト走行試験機50は、左右に配設されたプーリ径100mmの駆動プーリ51及び従動プーリ52を有する。駆動プーリ51の右下には注水口53が設けられており、時計方向に走行するVリブドベルトBが駆動プーリ51に巻き掛かってリブがプーリの溝に噛み込む直前のリブ表面に水を滴下できるようになっている。従動プーリ52は左右可動となっており、VリブドベルトBにデッドウェイトを負荷できるようになっている。また、従動プーリ52は回転負荷を可変に設定できるようになっている。
【0049】
そして、発明例及び比較例の各VリブドベルトBを、駆動プーリ51及び従動プーリ52に巻き掛け、1リブ当たり50N、75N、100N及び125Nとなるようにデッドウェイトを負荷したそれぞれの場合について、駆動プーリ51を3500rpmで回転させると共に注水口53からリブ表面に1秒間当たり1cm3の水を滴下しながら従動プーリ52の回転負荷を上昇させていったときのスリップ率を測定した。ここで、スリップ率は、無負荷時の駆動プーリに対する従動プーリの回転数比に対する負荷時の回転数比を示すものであって、次式で与えられる。
【0050】
スリップ率={1−(n’/N’)×(N/n)}[%]
ここで、Nは無負荷時の駆動プーリの回転数(rpm)、nは無負荷時の従動プーリの回転数(rpm)、N’は負荷時の駆動プーリの回転数(rpm)、n’は負荷時の従動プーリの回転数(rpm)である。
【0051】
<試験評価結果>
図7は、従動プーリの回転負荷とスリップ率との関係を示す。
【0052】
図7によれば、発明例及び比較例のいずれについても、デッドウェイトが高くなることにより耐スリップ性能が高くなっているのが分かる。これは、デッドウェイトが高くなることによって、ベルトとプーリ間に作用する摩擦力が高くなるためであると考えられる。
【0053】
また、従来例よりも発明例の方が耐スリップ性能が極めて高いことが分かる。これは、発明例では、ベルト周方向に沿ってリブ表面が波形に形成されて平坦面でなく、また、その波長が2.8mmであるので、リブとプーリとの間の水の皮膜の形成が困難な構造となっており、それに加えて、リブの表面に先端がささくれた多数の短繊維が突出しており、リブとプーリとの間の水の皮膜が形成されようとしても、それが短繊維によって切断されるので、その水の皮膜の形成が阻止され、リブとプーリとの間のスリップの発生が防止されるためであると考えられる。つまり、これらの相乗効果によって顕著なる耐スリップ性能の改善がなされたものであると考えられる。
【0054】
(試験評価2)
<試験評価用ベルト>
−例1−
上記実施形態と同様の構成で、且つ、同様の方法によって製造されたVリブドベルトであって、Vリブドベルト本体をクロロプレンゴムのゴム組成物で形成し、ポリエチレンテレフタレートの心線を用い、リブピッチが3.56mm、ベルト総厚みが4.30mm、リブ高さが2.00mm、リブ角度40°、リブ数6及びリブ表面の波形の波長2.8mmであるものを例1とした。
【0055】
−例2−
リブ表面の波形の波長が3.2mmであることを除いて例1と同一構成のVリブドベルトを例2とした。
【0056】
−例3−
リブ表面の波形の波長が3.6mmであることを除いて例1と同一構成のVリブドベルトを例3とした。
【0057】
−例4−
リブ表面の波形の波長が4.0mmであることを除いて例1と同一構成のVリブドベルトを例4とした。
【0058】
<試験評価方法>
図8は、ベルト走行時の音を試験評価するためのベルト走行試験機60のプーリレイアウトを示す。
【0059】
このベルト走行試験機60は、上下に配設されたプーリ径120mmの駆動プーリ61及び第1従動プーリ62と、駆動プーリ61の右方に設けられたプーリ径120mmの第2従動プーリ63と、第1及び第2従動プーリ62,63間に設けられたプーリ径70mmのアイドラプーリ64とを有する。駆動プーリ61の左下にはベルト側端から30mmとなる位置に集音マイク65が設けられており、反時計方向に走行するVリブドベルトBが駆動プーリ61への巻き掛かりが外れてリブのプーリの溝への噛み込みが解かれたところでのベルト走行時の音を測定できるようになっている。第2従動プーリ63は左右可動となっており、VリブドベルトBにデッドウェイトを負荷できるようになっている。
【0060】
そして、例1〜4の各VリブドベルトBのそれぞれについて、駆動プーリ61、第1及び第2従動プーリ62,63、並びに、アイドラプーリ64に巻き掛け、2354Nのデッドウェイトを負荷して、駆動プーリ61を3000rpmで回転させたときのベルト走行時の音を測定した。
【0061】
<試験評価結果>
図9は、周波数と音圧との関係を示す。
【0062】
図9によれば、例1及び2では、特に音圧のピークは観測されていないのに対し、例3及び4では、63乃至65dBの音圧のピークが観測されるのが分かる。聴感においても、例1及び2では、特に耳に付く音は確認されなかったが、例3及び4では、「ヒュー」という甲高い音が確認された。これは、ベルト走行時の音がリブ表面の波形の波長に関与しており、その波長が3.6mmよりも小さいことが好ましいということを示すものである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、各々、ベルト内側にベルト周方向に沿って延びる複数のリブがベルト幅方向に並ぶように設けられたVリブドベルト及びその製造方法に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】Vリブドベルトの背面側から見た斜視図である。
【図2】Vリブドベルトの内側から見た斜視図である。
【図3】Vリブドベルトの製造方法を示す説明図である。
【図4】Vリブドベルトが巻き掛けられたサーペンタイン補機駆動レイアウトを示す図である。
【図5】発明例のVリブドベルトの断面図である。
【図6】注水負荷特性をを試験評価するためのベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【図7】従動プーリの回転負荷とスリップ率との関係を示すグラフである。
【図8】ベルト走行時の音を試験評価するためのベルト走行試験機のプーリレイアウトを示す図である。
【図9】周波数と音圧との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
B Vリブドベルト
11 接着ゴム層
11’ 第2未加硫ゴムシート
12 上ゴム層
12’ 第1未加硫ゴムシート
13 背面補強布
13’織布
14 リブゴム層
14’ 第3未加硫ゴムシート
15 リブ
16 心線
16’ 撚り糸
17 短繊維
30 補機駆動用ベルト伝動装置
31 補機Aプーリ
32 補機Bプーリ
33 テンショナプーリ
34 補機Cプーリ
35 クランクシャフトプーリ
36 補機Dプーリ
50,60 ベルト走行試験機
51,61 駆動プーリ
52,62,63 (第1、第2)従動プーリ
53 注水口
64 アイドラプーリ
65 集音マイク
80 円筒状金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々、ベルト内側にベルト周方向に沿って延びる複数のリブがベルト幅方向に並ぶように設けられたVリブドベルトであって、
上記複数のリブのそれぞれは、リブ表面がベルト周方向に沿って1.0〜3.5mmの一定波長の波形に形成されていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項2】
請求項1に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記複数のリブのそれぞれのリブ表面に多数の繊維が突出していることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項3】
請求項2に記載されたVリブドベルトにおいて、
上記多数の繊維のそれぞれは、先端がささくれていることを特徴とするVリブドベルト。
【請求項4】
リブ形成用の複数の凹溝が並行に延びるように形成された砥石を、円筒状のベルト成形用スラブのリブ形成面に、該砥石の凹溝の延びる方向と該ベルト成形用スラブのリブ形成面の周方向とが一致するように接触させ、その方向に沿ってそれらを相対移動させることにより該砥石で該ベルト成形用スラブを研削してそのリブ形成面にリブを形成するVリブドベルトの製造方法であって、
砥石とベルト成形用スラブとの間の距離を周期的に変動させることにより、リブ表面がベルト周方向に沿って一定波長の波形に形成されたリブを構成させ、該リブの波形の波長が1.0〜3.5mmとなるように、該砥石と該ベルト成形用スラブとの相対移動速度を設定することを特徴とするVリブドベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−118558(P2006−118558A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305302(P2004−305302)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】