説明

VNTR型別による非結核性抗酸菌症の病勢の予測方法

【課題】非結核性抗酸菌症の診断時に検出されたMycobacterium avium菌の型を調べることによって、その患者の病状が進行性か否かを予測する方法を提供すること。
【解決手段】対照となるマイコバクテリウム・アビウム菌株と非結核性抗酸菌症患者由来のマイコバクテリウム・アビウム菌株との間のゲノムにおける繰り返し配列数多型に基づきマンハッタン距離を算出し、ロジステック回帰分析により該患者の病勢を予測する方法、該方法に使用するオリゴマーヌクレオチドプライマーセット、及び、該オリゴマーヌクレオチドプライマーセットを含むPCR用キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り返し配列数多型(VNTR:Variable Numbers of Tandem Repeats)型別による非結核性抗酸菌症の病勢の予測方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
非結核性抗酸菌とは結核菌以外の抗酸菌の総称で、環境中に常在しており、時に呼吸器の慢性感染症(非結核性抗酸菌症)を惹起する。非結核性抗酸菌症は近年増加傾向にあり、年間8,000人の新規患者が発生していると推計されている。そして、その約60%がマイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)菌によるものである(非特許文献1)。非結核性抗酸菌症の治療は、最短1年以上のマクロライドを含む多剤化学療法であるが、その有効率は60%程度である。
【0003】
非結核性抗酸菌症には、治療の有無・強弱に無関係に、5年程の経過で肺病変が進行し死亡に至る症例もあれば、数十年間ほとんど進行の認められない症例もあることが従来知られているが、これを規定する要因はよくわかっておらず、これを予見することも極めて困難である。そのために、患者検体より非結核性抗酸菌が検出され、非結核性抗酸菌症と診断が確定した場合、臨床症状や臨床経過から、薬物治療の適応を慎重に判断するということが臨床現場で現在行われている(非特許文献2)。しかしながら、病勢を判断する客観的な指標が乏しいため、しばしばその治療適応の判断は難しく、非結核性抗酸菌症の診療上大きな障害になっている。
【0004】
非結核性抗酸菌の特定の血清型がその患者の予後と関連するという報告(非特許文献3)はあるが、血清型の決定には薄層クロマトグラフィー法と質量分析法という高度な実験手法が用いられており、病勢を予測するという臨床的応用性には乏しい知見である。
【0005】
【非特許文献1】Glassroth J. Pulmonary disease due to nontuberculous mycobacteria. Chest 2008;133:243-51.
【非特許文献2】Griffith DE, Aksamit T, Brown-Elliott BA, et al. An officialATS/IDSA statement: diagnosis, treatment, and prevention of nontuberculous mycobacterial diseases. Am J Respir Crit Care Med 2007;1 75:367-416
【非特許文献3】Maekura R, Okuda Y, Hirotani A, et al. Clinical and prognostic importance of serotyping Mycobacteriumavium-Mycobacteriumintracellulare complex isolates in human immunodeficiency virus-negative patients. J Clin Microbiol 2005;43:3150-8
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、非結核性抗酸菌症の診断時に検出されたMycobacterium avium菌の型を調べることによって、その患者の病状が進行性か否かを予測することが出来れば、薬物治療の適応をどの程度積極的に検討しなければならないのか、という客観的な指標に十分なりうると考える。本発明の主な目的はかかる課題等を解決することである。
【0007】
今回われわれは、喀痰などの臨床検体から得られたMycobacterium avium菌40株をVNTR(Variable Numbers of Tandem Repeats)の型別でクラスター解析した結果、診断後1年以内に薬物療法が開始された症例と開始されなかった症例が、それぞれ別々のクラスターへ集積する傾向が認められ、それらをほぼ完全に分類できることを発見した。さらに、ロジステック回帰分析では対照となる菌株からの遺伝子型距離と病勢に有意な関連が認められた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、以下に示す各態様に係るものである。
[態様1]対照となるマイコバクテリウム・アビウム菌株と非結核性抗酸菌症患者由来のマイコバクテリウム・アビウム菌株との間のゲノムにおける繰り返し配列数多型に基づきマンハッタン距離を算出し、ロジステック回帰分析により該患者の病勢を予測する方法。
[態様2]病勢の予測が、マイコバクテリウム・アビウム菌株による肺病変が進行型又は安定型のいずれかであるかと予測する、態様1記載の方法。
[態様3]マイコバクテリウム・アビウム菌が呼吸器系検体から分離培養されたものである、態様1又は2記載の方法。
[態様4]繰り返し配列数多型がマイコバクテリウム・アビウム菌ゲノムの16ヶ所の散在反復配列領域(MATR-1〜MATR-16)におけるものである、態様1〜3のいずれか一項に記載の方法。
[態様5]散在反復配列領域を含むDNA断片が、夫々、配列番号1及び2、3及び4、5及び6、7及び8、9及び10、11及び12、13及び14、15及び16、17及び18、19及び20、21及び22、23及び24、25及び26、27及び28、29及び30、並びに、31及び32から成るオリゴマーヌクレオチドプライマーのセットで増幅される配列であることを特徴とする、態様1〜4のいずれか一項に記載の方法。
[態様6]対照となるマイコバクテリウム・アビウム菌株がMa-31株、Ma-27株、Ma-8株、Ma-1株、Ma-32株、Ma-7株、Ma-5株、Ma-37株、Ma-6株、Ma-9株、Ma-15株、及び、Ma-35株から成る群から選択される、態様1〜5のいずれか一項に記載の方法。
[態様7]対照となるマイコバクテリウム・アビウム菌株がMa-31株である、態様6記載の方法。
[態様8]マイコバクテリウム・アビウム菌ゲノムの16ヶ所の散在反復配列領域(MATR-1〜MATR-16)における繰り返し配列数多型を増幅することができる、態様1〜7のいずれか一項に記載の方法に使用するオリゴマーヌクレオチドプライマーセット。
[態様9]夫々、配列番号1及び2、3及び4、5及び6、7及び8、9及び10、11及び12、13及び14、15及び16、17及び18、19及び20、21及び22、23及び24、25及び26、27及び28、29及び30、並びに、31及び32から成る、請求項8記載のオリゴマーヌクレオチドプライマーセット。
[態様10]態様8又は9記載のオリゴマーヌクレオチドプライマーセットを含むPCR用キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、喀痰等から検出されたMycobacterium avium菌のVNTRの型を調べることによって、その患者の病状が進行性か否か(病勢)を高感度及び高特異性をもって予測することが可能であること判明した。
【0010】
本発明方法は、PCR (polymerase chain reaction・ポリメラーゼ連鎖反応)法と電気泳動法という基本的な実験手法しか必要とせず、ある程度の規模の臨床検査室であれば簡便且つ容易に実施することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
呼吸器系検体から分離培養されたMycobacterium avium菌において、例えば、16ヶ所の散在反復配列領域(MIRU: mycobacterial interspersed repetitive unit)においてVNTRを調べ、Mycobacterium avium菌をVNTR型に基づきクラスター解析することによって、進行性(進行型)の患者から分離された菌群、非進行性(安定型)の患者から分離された菌群、双方が混在する菌群の3つの群(クラスター)に分類することができる。更に、ロジステック回帰分析では、ある菌株からのVNTR遺伝子型距離と病勢に有意な関連が認められ、VNTR遺伝子型から病勢を予測することが可能となる。
【0012】
即ち、本発明は、対照となるマイコバクテリウム・アビウム菌株と非結核性抗酸菌症患者由来のマイコバクテリウム・アビウム菌株との間のゲノムにおける繰り返し配列数多型に基づきマンハッタン距離を算出し、ロジステック回帰分析により該患者の病勢を予測する方法に係る。
【0013】
病勢の予測とは、例えば、マイコバクテリウム・アビウム菌株による肺病変が進行型又は安定型のいずれかであるかと予測することを意味する。実施例にも記載したように、「進行型」の肺病変とは、細菌学的診断後12ヶ月以内に治療(薬物療法)開始となった場合を意味し、そうでない場合が「安定型」である。
【0014】
マイコバクテリウム・アビウム菌は、喀痰及び気管支鏡検体の洗浄物等の呼吸器系検体から、当業者に公知の任意の方法で分離培養することが出来る。
【0015】
Mycobacterium avium菌のVNTR型は公知の任意の方法、例えば、PCRと電気泳動法を組み合わせて求めることが出来る。VNTR型の例として、マイコバクテリウム・アビウム菌ゲノムの16ヶ所の散在反復配列領域(表3に示されたMATR-1〜MATR-16)を挙げることができる。より具体的には、散在反復配列領域を含むDNA断片が、夫々、配列番号1及び2、3及び4、5及び6、7及び8、9及び10、11及び12、13及び14、15及び16、17及び18、19及び20、21及び22、23及び24、25及び26、27及び28、29及び30、並びに、31及び32から成るオリゴマーヌクレオチドプライマーのセットで増幅される配列である。
【0016】
Mycobacterium avium菌のVNTRの型別分類は、「VNTR(Variable Numbers of Tandem Repeats)型別による結核菌群及び鳥型結核菌の分子疫学的解析マニュアル西森 敬,内田郁夫,田中 聖,西森知子,今井邦俊,柏崎佳人,村田典久,神間清恵動衛研研究報告 第109号,25-32(平成15年3月)」に基本的に準拠して行うことができる。なお、この文献は、反芻動物に消化器感染するMycobacterium avium菌の亜種Mycobacterium avium subsp paratuberculosis用に開発されたものであるため、VNTR領域MATR-4とMATR-10が、ヒトの臨床検体から分離さたMycobacterium avium菌株には不適当であった。そのため、VNTR領域MATR-4については、Mol Cell Probes. 2003;17:157-64を、MATR-10についてはJ Clin Microbiol. 2007;45:2404-10を参考にして新たなVNTR領域を設定した。
【0017】
本発明方法において、対照となるマイコバクテリウム・アビウム菌株として、例えば、Ma-31株、Ma-27株、Ma-8株、Ma-1株、Ma-32株、Ma-7株、Ma-5株、Ma-37株、Ma-6株、Ma-9株、Ma-15株、及び、Ma-35株から成る群から選択されるM. avium菌臨床分離株を使用して、ロジステック回帰分析を行うことによって、有意差(P値が0.05未満)有する結果を得ることが出来る。
【0018】
この中でも、特に、Ma-31株を対照としてマンハッタン遺伝子型距離を用いたロジステック回帰分析を行うことによって、肺病変進行の可能性又は病勢(進行型又は安定型)の予測に関する最大の尤度が得られる。尚、Ma-31株の16ヶ所の散在反復配列領域におけるVNTR型(反復数)は以下の通りである(図1B参照)。
【0019】
反復数0:MATR-2
反復数1:MATR-3,4,6
反復数2:MATR-1,5,7-11,13-15
反復数3:MATR-12,16
【0020】
従って、本発明方法は、マイコバクテリウム・アビウム菌ゲノムの16ヶ所の散在反復配列領域(MATR-1〜MATR-16)における繰り返し配列数多型を増幅することができるオリゴマーヌクレオチドプライマーセットを含むPCR用キットを用いて行うことが出来る。このようなオリゴマーヌクレオチドプライマーセットの好適例として、表3に示された配列番号1〜32を有するオリゴマーヌクレオチドから成るプライマーセットを挙げることができる。該プライマーセットに加えて、このようなキットには、例えば、反応液、酵素、反応容器、及び、緩衝液等の当業者に公知の任意の構成要素が含まれる。
【0021】
以下に参考例及び実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、これらは単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものであり、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
【0022】
全ての参考例及び実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。また市販の試薬あるいはキットを用いている場合はそれらに添付の指示書(protocols) や添付の薬品等を使用している。
【実施例】
【0023】
2005年1月から2006年12月にかけて東北大学病院、遺伝子・呼吸器内科(現:呼吸器内科)を訪れた患者で、呼吸器系検体からマイコバクテリウム・アビウム菌が分離培養された37症例を用いて、以下の方法で16ヶ所の散在反復配列領域で多型縦列反復配列数(VNTR)を調べた。尚、呼吸器系検体からマイコバクテリウム・アビウム菌が検出された37症例患者のリストを表1に示す(NA: not applicable(該当なし)、† :経過観察は癌死により中断)。
【0024】
【表1】

【0025】
カテゴリー変数及び連続変数に対して、それぞれ、フィッシャー検定及び不対ステューデント- t検定を用いて各患者の臨床的特徴付けを行った。37人の患者の内、11名はレントゲン写真及び胸部CTスキャンで肺病変が認められなかったので、以後の検討対象から除外した。M. avium菌による肺病変診断という診断基準を満たしている残りの26名の患者の中で、3名は空洞型であり、22名は結節気管支拡張型であり、1名は過敏性肺炎型であった。肺関連既往歴患者の割合は、M. avium菌による肺病変を有していない患者の方が高かった。これとは対照的に、年齢及び性別に関してはこれら2つの群の間で有意差は見られなかった。
【0026】
M. avium菌肺病変患者の中の15名は、症状の進行のために細菌学的診断後10ヶ月以内に治療が開始された。これに対して、9名の患者はM. avium菌肺病変が安定しているために、24ヶ月以上に亘って治療せずに済んだ。尚、死亡による観察打ち切り及び特異的な臨床的兆候により、二人の患者(8番と36番)をこの解析から除外したため、「肺病変有り(N = 26) 」から「M. avium 肺病変(N = 24) 」へ2人減となっている。尚、患者の肺病変は、細菌学的診断後12ヶ月以内に治療開始となった場合に「進行型」と、そうではない場合に「安定型」であると分類した。これらの進行型及び安定型は、年齢、性別及び臨床病態に関して類似していた。以上の結果を表2にまとめて示す。表中の各値は、平均±標準偏差を表す(NA, not applicable(該当なし))。

【0027】
【表2】

【0028】
単離された各マイコバクテリウム・アビウム菌をOADC含有(BD Diagnostics, Sparks, MD) Middlebrook 7H10寒天培地で3〜4週間、37℃、5%CO下で培養した。増殖した菌体を、200μlの InstaGene matrix (Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)含有マイクロシリンジ管にとり、マニュアルに従い菌からDNAを抽出した。DNA鋳型(20μl)及びTaq DNAポリメラーゼ(1.25 U, Takara Shuzo, Kyoto, Japan)を用いて、以下の表3に示す夫々のオリゴヌクレオチドプライマーセット(配列番号(SEQ ID NO):1〜32)を用いて、16個の反復配列領域(MATR-1 からMATR -16)をPCRで増幅した(反応液全量:25μl、各プライマー量:1μM)。増幅プロファイルは、95℃で5分間の後、98℃で10秒、68℃で30秒、及び72℃で1分間を1サイクルとして計36回のサイクルから成り立っていた。各PCR産物(5μl)は2.5%アガロースゲル上で泳動させ、0.5μg/ml臭化エチジウムで染色した(図1A)。各増幅物の分子量はChemiDoc XRS system (Bio-Rad Laboratories) を用いて推定した。PCR産物のDNAサイズより各縦列反復配列の反復数を算出した。尚、 M. avium菌ゲノム上のプライマーの位置はM. avium strain 104 (GenBank accession number CP000479)を参照した。
【0029】
【表3】

【0030】
患者番号2,13及び22からは、VNTR遺伝子型の異なる2種類の株がそれぞれ検出され、夫々、Ma-2a/-2b・Ma-13a/-13b・Ma-22a/-22bと命名した。こうして得られた40株のM. avium菌の各縦列反復配列の反復数のセットであるVNTR遺伝子型(VNTRプロファイル)を図1Bに示す。更に、代表的な12種類のM. avium菌臨床分離株のVNTRプロファイルを表5にまとめた。
【0031】
各M. avium菌臨床分離株のVNTRプロファイル間に見られる多様性を、各株間のマンハッタン距離を算出し近隣結合法アルゴリズム(PHYLIP ソフトウェア、V.3.67)を用いてクラスター解析した(Felsenstein J. PHYLIP - Phylogeny Inference Package (Version 3.2). Cladistics 1 989;5:1 64-6; Saitou N, Nei M. The neighbor-joining method: a new method for reconstructing phylogenetic trees. Mol Biol Evol 1987;4:406-25)。その結果を図2に示す。尚、Ma-x株とMa-y株とのマンハッタン距離は以下の数式を用いて算出される。式中、Xn 及びYnはn番目のMIRU遺伝子座、即ち、「MATR-n」における反復数を意味する。
【0032】
【数1】

【0033】
ランダムに再抽出したデータセット(1,000反復)によるブートストラップ法を用いて枝(ブランチ)のサポートを決定した。系統発生的分布模式図をMS Windows用のNjplot (Perriere G, Gouy M. WWW-query: an on-line retrieval system for biological sequence banks.Biochimie 1 996;78:364-9)で作図した(図2)。
【0034】
図2から判るように、上記のM. avium菌臨床分離株は主に3つのクラスターに分類された。クラスターCにおける枝はブートストラップ(27-84%)でサポートされている。一方、クラスターA及びBには、低いブートストラップ(< 10 %)でしかサポートされない枝が散在している。同じ患者に由来する別の分離株はゲノム型分布において互いに近接して位置しており、同じクラスターに属していた。即ち、Ma-2a/-2b、Ma-13a/-13b、及びMa-22a/-22bは、夫々、クラスターC,B、及びCに分類された。以上の結果、37名のM. avium菌肺病変患者は3つのVNTRクラスターのいずれか1つに帰属させられることが判明した。
【0035】
進行型又は安定型のM. avium菌肺病変患者の多くはクラスターC又はクラスターAに分類された。又、M. avium菌肺病変患者と病変がない患者との間でクラスター分類に関する有意差は認められなかった。これらの結果から、M. avium菌のVNTR遺伝子型はM. avium菌肺病変の病勢(肺病変進行の可能性)と関連があることが示された。
【0036】
更に、ロジステック回帰分析(Stat View ソフトウェアV.5.0:SAS Institute, Cary, NC)でVNTR遺伝子型と病勢との関連を調べた。即ち、或るM. avium菌臨床分離株を対照株として選択し、該株とそれ以外の各M. avium菌臨床分離株とのマンハッタン遺伝子型距離を用いてロジステック回帰分析を行い、年齢調整オッズ比を算出した。その結果、40種類のM. avium菌臨床分離株の中で、VNTR遺伝子型と肺病変進行との有意な関連(P値が0.05未満)が12種類のM. avium菌臨床分離株を対照株としたとき見出された(表4)。特に、Ma-31を基準としたマンハッタン遺伝子型距離を用いたロジステック回帰分析によって、肺病変進行の可能性又は病勢(進行型又は安定型)の予測に関する最大の尤度が得られた。
【0037】
【表4】

【0038】
次に、Ma-31臨床分離株を用いて、ロジステック回帰分析による病勢の予測(進行型又は安定型の予測)の感度及び特異性を検討した。尚、分析の向上を図る為に、上記の検体に加えて、2007年に東北大学病院を訪れた8名の患者(4名は進行型肺病変、4名は安定型肺病変)からの検体を更に追加した。その結果、進行型のM. avium菌肺病変患者(0.77 + 0.19)は安定型のM. avium菌肺病変患者(0.30 + 0.38)に較べて、肺病変進行の可能性(確率)が有意(P = 0.003)に高いことが示された(図3)。例えば、M. avium菌肺病変進行の可能性(確率)の基準を>0.5とした場合には、19名の進行型M. avium菌肺病変患者の内の15名が陽性(感度:79%)となり、13名の安定型M. avium菌肺病変患者の内の10名が陰性(特異性:77%)となった。
【0039】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0040】
非結核性抗酸菌症の診断時に検出されたMycobacterium avium菌のVNTR遺伝子型に基づき、その患者の病状が進行性か否かを予測することによって、薬物治療の適応検討における有用な情報及び客観的な指標を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】A:表1の患者番号3から分離培養されたM. avium菌臨床分離株における16個の反復配列領域の各PCR産物のアガロースゲル上での電気泳動の結果を示す写真である。B:M. avium菌40株の各縦列反復配列の反復数のセットであるVNTR遺伝子型(VNTRプロファイル)を示す。尚、配色(トーン)はそれぞれ反復数(各欄に記載された数字)に対応する。
【図2】VNTR遺伝子型を元にしたM. avium菌臨床分離株のクラスター解析の結果を示す無根樹形図。進行型M. avium菌肺病変を有する患者(▲)、安定型M. avium菌肺病変を有する患者(□)、その他のM. avium菌肺病変を有する患者(○)、肺病変を有しない患者(x)の系統樹的分布が表示されている。尚、各枝のそばの数字は1000回複製データのブートストラップ値(%)で、10以上のもののみ表示した。尺度は遺伝子距離(2)を示す。
【図3】ロジステック回帰分析による、M. avium菌肺病変の進行予測の結果を示す。進行型(Progressive)M. avium菌肺病変を有する患者からの菌株と、安定型(Stable)M. avium菌肺病変を有する患者からの菌株に分け、水平の線は、それぞれのグループの平均値を示す。P値はMann-Whitneyノンパラメトリックテストで算出した。縦軸はM. avium菌肺病変進行の可能性(確率)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対照となるマイコバクテリウム・アビウム菌株と非結核性抗酸菌症患者由来のマイコバクテリウム・アビウム菌株との間のゲノムにおける繰り返し配列数多型に基づきマンハッタン距離を算出し、ロジステック回帰分析により該患者の病勢を予測する方法。
【請求項2】
病勢の予測が、マイコバクテリウム・アビウム菌株による肺病変が進行型又は安定型のいずれかであると予測する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
マイコバクテリウム・アビウム菌が呼吸器系検体から分離培養されたものである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
繰り返し配列数多型がマイコバクテリウム・アビウム菌ゲノムの16ヶ所の散在反復配列領域(MATR-1〜MATR-16)におけるものである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
散在反復配列領域を含むDNA断片が、夫々、配列番号1及び2、3及び4、5及び6、7及び8、9及び10、11及び12、13及び14、15及び16、17及び18、19及び20、21及び22、23及び24、25及び26、27及び28、29及び30、並びに、31及び32から成るオリゴマーヌクレオチドプライマーのセットで増幅される配列であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
対照となるマイコバクテリウム・アビウム菌株がMa-31株、Ma-27株、Ma-8株、Ma-1株、Ma-32株、Ma-7株、Ma-5株、Ma-37株、Ma-6株、Ma-9株、Ma-15株、及び、Ma-35株から成る群から選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
対照となるマイコバクテリウム・アビウム菌株がMa-31株である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
マイコバクテリウム・アビウム菌ゲノムの16ヶ所の散在反復配列領域(MATR-1〜MATR-16)における繰り返し配列数多型を増幅することができる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法に使用するオリゴマーヌクレオチドプライマーセット。
【請求項9】
夫々、配列番号1及び2、3及び4、5及び6、7及び8、9及び10、11及び12、13及び14、15及び16、17及び18、19及び20、21及び22、23及び24、25及び26、27及び28、29及び30、並びに、31及び32から成る、請求項8記載のオリゴマーヌクレオチドプライマーセット。
【請求項10】
請求項8又は9記載のオリゴマーヌクレオチドプライマーセットを含むPCR用キット。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−142150(P2010−142150A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−321812(P2008−321812)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】