説明

VOCガス除去用フイルター

【課題】 耐熱性及び耐久性に優れ、且つ、バインダーを使用せずに吸着剤としての合成ゼオライトを繊維層間に担持させることができると共に、高温風によって吸着したVOCガスを除去し、更に、付着した塗料を熱分解によって減量して逆洗によって再生可能に構成したVOCガス除去用フイルターを提供する。
【解決手段】 VOCガス除去用フイルター1を、無機質の繊維を用いて円筒状に造った内層体2と外層体3から成る内外2層体構造と成し、これ等内外各層体2,3の何れか一方の層体内に合成ゼオライト5を担持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷工場や塗装工場等で発散される塗料、ベンゼン、トルエン等の可燃性で揮発性の有機化合物(以下VOCガスと言う)を吸着(捕捉)することができるVOCガス除去用フイルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
VOCガス除去用フイルターに関しては、従来より例えば特許文献1に記載の「ケミカルフイルター」や、特許文献2に記載の「空気浄化フイルター」が存在する。この特許文献1に記載の「ケミカルフイルター」は、セラミック繊維等から成る基紙にガス吸着剤として活性炭又はゼオライトを担持させたものであり、また、特許文献2に記載の「空気浄化フイルター」は、シリカ、アルミナ、ジルコニア等から成るセラミック繊維の表面に、活性炭、シリカゲル、ゼオライト、金属酸化物等の吸着剤を担持させたものであって、これ等吸着剤の担持法としては、熱可塑性樹脂の融着性を利用して吸着剤を固定する方法が採用されている。
【特許文献1】特開2001−310109号公報
【特許文献2】特開2002−302857号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、上記特許文献1に記載の「ケミカルフイルター」は、空気中の酸性ガスやアルカリ性ガス及び有機物質を除去することはできるが、フイルターそのものを再生することができない問題があった。
【0004】
また、上記特許文献2に記載の「空気浄化フイルター」は、吸着剤をフイルターに担持させるた場合に、バインダーを使用しないため、バインダーが吸着剤の外周を覆ってしまうことはないが、吸着剤を固定する場合に熱可塑性樹脂が加熱によって溶融し、溶融した熱可塑性樹脂が吸着剤の吸着孔部を塞いでしまって、吸着力が低下する問題があった。
【0005】
更に、従来の一般的なフイルターは、吸着剤として活性炭やゼオライトを使用しているが、活性炭は高温になると自ら分解してしまい、また、ゼオライトは500℃以上の環境下では劣化してしまう問題もあった。更にまた、従来の一般的なフイルターは吸着剤と母材との接合に有機バインダーが使用されているため、高温対応が出来ないものが多く存在していた。
【0006】
本発明は上述した各問題点を解決するために成されたものであって、その技術的課題は、耐熱性及び耐久性に優れ、且つ、バインダーを使用せずに吸着剤としての合成ゼオライトを繊維層間に担持させることができると共に、高温風によって吸着したVOCガスを除去し、更に、付着した塗料を熱分解によって減量して逆洗によって再生可能に構成したVOCガス除去用フイルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 上記の技術的課題を解決するために、本発明の請求項1に係るVOCガス除去用フイルターは、印刷用のインクや塗装用の塗料とVOCガスが混入した空気中のガスを吸引して除去するVOCガス除去用フイルターであって、前記フイルターは、円筒状に形成された内外2層体構造に構成されていて、内層体の中心部長手方向には空気の流通路が構成されると共に、内外の各層体は無機質の繊維を用いて構成され、且つ、内外の各層体のうち、いずれか一方の層体内には合成ゼオライトが担持されていることを特徴としている。
【0008】
(2) また、本発明の請求項2に係るVOCガス除去用フイルターは、前記内層体は成形法にて構成され、外層体は、マット状の素材を内層体の外周に巻いて、その素材の巻き始めと終わりの各接合部のみを無機質の結合剤を用いて接合して構成されていることを特徴としている。
【0009】
(3) また、本発明の請求項3に係るVOCガス除去用フイルターは、前記内外の各層体を構成する無機質の繊維が、シリカ・アルミナ系繊維であることを特徴としている。
【0010】
(4) また、本発明の請求項4に係るVOCガス除去用フイルターは、前記合成ゼオライトを担持させた内外いずれかの層体は、合成ゼオライトが分散された水中内に当該層体の繊維層を浸漬することにより、毛細管現象を利用して繊維層内に合成ゼオライトを担持させたことを特徴としている。
【0011】
(5) また、本発明の請求項5に係るVOCガス除去用フイルターは、前記合成ゼオライトが分散された水中内に浸漬された内外いずれかの層体の繊維層は、回転させながら上記水中内より引き上げた後、自然乾燥させることによって、当該繊維層内に合成ゼオライトを担持するように構成されていることを特徴としている。
【0012】
(6) また、本発明の請求項6に係るVOCガス除去用フイルターは、前記外層体が無機質の繊維層のみにて構成され、内層体が無機質の繊維層に合成ゼオライトを担持させて構成されている場合には、前記VOCガスを外層体側から吸引し、前記外層体が無機質の繊維層に合成ゼオライトを担持させて構成され、内層体が無機質の繊維層のみにて構成されている場合には、前記VOCガスを内層体側から吸引するように構成されていることを特徴としている。
【0013】
(7) また、本発明の請求項7に係るVOCガス除去用フイルターは、VOCガスが吸引される前記流通路の方向から、内層体及び外層体に対して130℃〜150℃の加熱空気を吹き付けることによって、合成ゼオライト内に吸着されているVOCガスを除去し、更に、500℃〜600℃の高温空気を内外何れの層体を問わずに送り込むことにより、繊維層に付着したインクや塗料を熱分解及び減量するように構成されていることを特徴としている。
【0014】
(8) 更に本発明の請求項8に係るVOCガス除去用フイルターは、前記内層体又は外層体に対する合成ゼオライトの担持量によって、 VOCガスの吸着率及びフイルターの圧力損失が設定可能に構成されていることを特徴としている。
【0015】
上記(1)で述べた請求項1に係る手段によれば、印刷用のインクや塗料等とVOCガスが混入した空気中のガスを無機質の繊維層側から吸引すると、繊維層側でインクや塗料等を捕捉し、合成ゼオライトを担持させた側の層体は繊維層側で既にインクや塗料等を捕捉してあるので目詰まりがなく、有効にVOCガスを吸着することができる。
【0016】
上記(2)で述べた請求項2に係る手段によれば、内外の層体間には結合剤を使用しないので、吸引したVOCガスが抵抗なしに内外の層体間を通過でき、更には、外層体の巻き始めと終わりの接合部のみに無機質の結合剤を使用したので、結合力は高温に十分耐えることができる。
【0017】
上記(3)で述べた請求項3に係る手段によれば、各層体の無機質の繊維は、シリカ・アルミナ系繊維(SiOAl)を使用したので、高温に耐え、微細な塗料等の粒子を十分に捕捉することを可能にする。
【0018】
上記(4)で述べた請求項4に係る手段によれば、合成ゼオライトを分散させた水中にフイルターを浸漬させることにより、繊維間に合成ゼオライトを付着させるように構成されているため、合成ゼオライトをフイルターの繊維内に接合する為のバインダーを使用する必要がなく、従って、バインダーが合成ゼオライトの吸着孔を塞ぐことがない。
【0019】
上記(5)で述べた請求項5に係る手段によれば、水中に浸漬した内層体又は外層体は、回転させながらゆっくり引き上げ、自然乾燥させて製造するため、繊維内に合成ゼオライトを均一に担持させることを可能にする。
【0020】
上記(6)で述べた請求項6に係る手段によれば、繊維のみの層体では塗料を捕捉し、合成ゼオライトを担持した層体ではVOCガスを吸着することができる。従って、インクや塗料等の比較的大きな粒子は繊維層で除去されて、合成ゼオライトを担持した層には及ばないため、合成ゼオライトの孔にインクや塗料等が詰まってVOCガスの吸着を妨げることがなく、十分に合成ゼオライトの吸着威力を発揮することができる。更に、インクや塗料等の付着エリアとVOCガス吸着エリアとを分離させることにより、耐久性を向上させることを可能にする。
【0021】
上記(7)で述べた請求項7に係る手段によれば、VOCガスの吸引通路の方向から130〜150℃の空気を通過させることにより、例えば沸点が約110℃であるトルエン等のVOCガスを沸騰させ、合成ゼオライトの孔から放出させる。次に500〜600℃の高温空気を内外何れの層体側を問わず送り込み、繊維層に付着したインクや塗料を熱分解(燃焼)及び減量できる。また、従来のゼオライトは高温に弱いが耐熱性の高い種類の合成ゼオライトは500〜600℃の高温に十分耐えうる。従って、再生用の熱風をVOCガスの吸引側から吸い込めば、2層目側に担持された合成ゼオライトに吸着されたVOCガスは層外に出易くなる。また、上記本願のフイルターを再生機能付の装置に使用すれば、自動的にフイルターの再生が可能となるため、長期間交換することなく使用可能にすることができる。
【0022】
上記(8)で述べた請求項8に係る手段によれば、合成ゼオライトの担持量によって、VOCガスの吸着率又は圧力損失を設定可能とする。従って、装置の能力に合ったフイルターを製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上述べた次第で、本発明に係るVOCガス除去用フイルターによれば、優れた耐熱性と耐久性を備えると共に、バインダーによる目詰まりの心配も無く、逆洗によって容易に再生可能なVOCガス除去用フイルターを提供できるものであって、例えば、特願2005−104329の出願に見られる可燃性VOCガス処理装置等に実施して、頗る好適なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、上述した本発明に係るVOCガス除去用フイルターの実施の形態を図面と共に説明すると、図1と図2は本発明の実施例に係るVOCガス除去用フイルターの斜視図であって、図中、1はVOCガス除去用フイルターの全体を示し、2は円筒状に構成した内層体、3は内層体2の外側に設けた円筒状の外層体、4は内層体2の中心部長手方向に設けられた空気の流通路であって、VOCガス除去用フイルター1の全体は、図示の如く上記内層体2と外層体3によって内外2層体構造に構成されている。
【0025】
上述した内外の各層体2,3は、例えばシリカ・アルミナ系繊維(SiOAl)のような無機質の繊維を用いて構成され、その繊維径は1〜10μmで、長さは約10cmである。また、図1に示した実施例では、上記内層体2の繊維間に合成ゼオライト5…が担持されているが、図2に示した実施例では、上記外層体3の繊維間に合成ゼオライト5…が担持されている。
【0026】
内層体2及び外層体3に合成ゼオライト5…を担持させる方法は、合成ゼオライトが分散された水中内に内層体2又は外層体3の繊維層を浸漬して回転させることにより、毛細管間現象を利用して繊維間に合成ゼオライト5…を均一に付着させる。接合力は水分の蒸発時の接着力で風速0.42m/s前後まで耐えうるので、通常の使用では問題はない。
【0027】
各繊維層内に合成ゼオライト5…を付着させた内層体2又は外層体3は、回転しながら上記水中より引き上げた後、自然乾燥させることによって、各繊維層内に合成ゼオライト5…を担持させる。
【0028】
図1の如く内層体2に合成ゼオライト5…が担持されたフイルター1の場合は、図示の如く外層体3の外周面から塗料やVOCガス等を吸引するが、図2の如く外層体3に合成ゼオライト5…が担持されたフイルター1の場合は、内層体2の中心に設けた空気の流通路4側から、塗料やVOCガス等が吸引される。尚、使用される合成ゼオライト5としては、高耐熱性の種類のものが好ましく、更には、塗装ブース等の排気には一般的に水分が含まれるので、親水性の合成ゼオライトの使用は吸引ガスに含まれる水分の影響を受け、吸着性能が劣化して不適であるため、疎水性のあるものが好ましい。
【0029】
図3は、外層体3を接合している状態を示したものであって、外層体3はマット状の素材(ブランケット)を内層体2の外周に巻き付け、その素材の巻き始めと終わりの各接合部6のみを、無機質の結合剤(接着剤)を用いて接合することによって、内外2層体構造のフイルター1が構成される。
【0030】
上記の如く構成したVOCガス除去用フイルター1の再生は、先ず熱風を当該フイルター1に吹き付けて行う。熱風の吹きつけにより、フイルター1に付着した塗料は5%程度に減量し、ある程度この再生操作を繰り返したら、蓄積した塗料のカスを掃除機等で吸い取れば、殆ど新品同様のフイルター1として再生することができる。
【0031】
図4は吸着剤質量と吸着率の関係を表したグラフ、図5は吸着剤質量と圧力損失の関係を表したグラフ、図6はフイルター1の厚さと吸着率の関係を表したグラフであって、吸着率はフイルター層の厚さに関係が無いことが分かる。これ等図4乃至図6に示した各グラフに基づき、吸着率を重要視する場合は図4に従い、また、圧力損失を重要視する場合は図5に従って、フイルター1を製造すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】内層体に合成ゼオライトを担持させた本発明に係るVOCガス除去用フイルターを示した斜視図。
【図2】外層体に合成ゼオライトを担持させた本発明に係るVOCガス除去用フイルターを示した斜視図。
【図3】内層体の外周に外層体を巻いて接合している状態を示した斜視図。
【図4】吸着剤質量と吸着率の関係を表したグラフ。
【図5】吸着剤質量と圧力損失の関係を表したグラフ。
【図6】フイルター層の厚さと吸着率の関係を表したグラフ。
【符号の説明】
【0033】
1 VOCガス除去用フイルター
2 内層体
3 外層体
4 空気の流通路
5 合成ゼオライト
6 外層体の接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷用のインクや塗装用の塗料とVOCガスが混入した空気中のガスを吸引して除去するVOCガス除去用フイルターであって、
前記フイルターは、円筒状に形成された内外2層体構造に構成されていて、内層体の中心部長手方向には空気の流通路が構成されると共に、内外の各層体は無機質の繊維を用いて構成され、且つ、内外の各層体のうち、いずれか一方の層体内には合成ゼオライトが担持されていることを特徴とするVOCガス除去用フイルター。
【請求項2】
前記内層体は成形法にて構成され、外層体は、マット状の素材を内層体の外周に巻いて、その素材の巻き始めと終わりの各接合部のみを無機質の結合剤を用いて接合して構成されていることを特徴とする請求項1に記載のVOCガス除去用フイルター。
【請求項3】
前記内外の各層体を構成する無機質の繊維が、シリカ・アルミナ系繊維であることを特徴とする請求項1又は2に記載のVOCガス除去用フイルター。
【請求項4】
前記合成ゼオライトを担持させた内外いずれかの層体は、合成ゼオライトが分散された水中内に当該層体の繊維層を浸漬することにより、毛細管現象を利用して繊維層内に合成ゼオライトを担持させたことを特徴とする請求項1、2又は3に記載のVOCガス除去用フイルター。
【請求項5】
前記合成ゼオライトが分散された水中内に浸漬された内外いずれかの層体の繊維層は、回転させながら上記水中内より引き上げた後、自然乾燥させることによって、当該繊維層内に合成ゼオライトを担持するように構成されていることを特徴とする請求項4に記載のVOCガス除去用フイルター。
【請求項6】
前記外層体が無機質の繊維層のみにて構成され、内層体が無機質の繊維層に合成ゼオライトを担持させて構成されている場合には、前記VOCガスを外層体側から吸引し、前記外層体が無機質の繊維層に合成ゼオライトを担持させて構成され、内層体が無機質の繊維層のみにて構成されている場合には、前記VOCガスを内層体側から吸引するように構成されていることを特徴とする請求項1、2、3、4又は5に記載のVOCガス除去用フイルター。
【請求項7】
VOCガスが吸引される前記流通路の方向から、内層体及び外層体に対して130℃〜150℃の加熱空気を吹き付けることによって、合成ゼオライト内に吸着されているVOCガスを除去し、更に、500℃〜600℃の高温空気を内外何れの層体を問わずに送り込むことにより、繊維層に付着したインクや塗料を熱分解及び減量するように構成されていることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6に記載のVOCガス除去用フイルター。
【請求項8】
前記内層体又は外層体に対する合成ゼオライトの担持量によって、 VOCガスの吸着率及びフイルターの圧力損失が設定可能に構成されていることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7に記載のVOCガス除去用フイルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−49287(P2008−49287A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229313(P2006−229313)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000101617)アマノ株式会社 (174)
【Fターム(参考)】