説明

W/Oエマルションインク

【課題】W/Oエマルションインクを定着性および乾燥性ともに良好なものとする。
【解決手段】油相および水相からなるW/Oエマルションインクにおいて、油相に質量平均分子量が20000以下であって、Tgが60℃以下の非晶性樹脂を含むものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、W/Oエマルションインクに関するものであって、特に孔版印刷に適したW/Oエマルションインクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
W/Oエマルションインクは、孔版印刷において広く使用されている。W/Oエマルションインクの乾燥は、通常、印刷用紙等の被印刷体へのインク油相の浸透とエマルション中の水相の水分蒸発によって行われる。従って、W/Oエマルションインクの油相の浸透性の悪い被印刷体ではインクの乾燥が著しく低下し、また、インクの乾燥はW/Oエマルション中の水相の水分蒸発に依拠することになるため、インクと被印刷体を完全に固着することは困難である。
【0003】
W/Oエマルションインクの油相中の樹脂成分に酸化重合等の重合タイプの樹脂を使用することで、乾燥性を向上させる方法が知られているが、孔版印刷に使用する場合、版の目詰まり等の発生により長時間放置ができず、放置安定性に問題がある。
【0004】
このようなインクの固着性、乾燥性の改善を図るため、例えば特許文献1には油相または水相に熱溶融性成分を含有させた孔版印刷用エマルションインクが記載されている。これはインクのヒートセットの考えからエマルションインク中に熱溶融成分を分散含有させることにより、印刷物を加熱ロールやアイロン等で加熱処理をすることによってインク層を被印刷体に確実に定着させることができ、インクの乾燥および固着を向上させ、裏移りを防止することができるものである。しかし、加熱処理が必要となるため、孔版印刷機の特徴である低コスト印刷のメリットをある程度犠牲にせざるを得ない上、装置自体が大型化することは避けられない。
【0005】
一方、特許文献2には水相に水中油型樹脂エマルションを用いることによって、インクの乾燥性および固着性を向上させることができるインクが記載されている。このインクは、油相成分に、水中油型樹脂エマルションを含む水相成分を徐々に添加して乳化させることにより製造するが、この乳化のための界面活性剤の影響で完全な被膜が形成されないため、固着性についてはさらに改良が望まれる。また、長期保管中に水相の水中油型樹脂が油相と合一するため、保存安定性が十分でないという問題もある。
【0006】
特許文献3には質量平均分子量が2.5万以上、15万以下の樹脂を含有させた孔版印刷用W/Oエマルションインクが記載されている。このインクは擦れによる色落ち(指触乾燥性)を抑制するために高分子量の樹脂を含有させたもので、さらにアルキド樹脂を添加することにより、顔料の分散安定性がよくなり、指触乾燥性がさらに向上できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−128516号公報
【特許文献2】特開平6−220382号公報
【特許文献3】特開平10−168372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、本発明者が検討したところ、特許文献3に記載されているような樹脂の分子量を規定するのみでは固着性の向上には不十分であることがわかった。また、高分子量樹脂を配合するとインク粘度が増加し、用紙に対するインクの浸透が妨げられるという問題がある。さらに、特許文献3に記載のインクに含まれるアルキド樹脂は顔料の分散安定性の向上には寄与するが、液体であるため固着性には効果が見込めない。
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、インクの固着性および乾燥性に優れ特に孔版印刷に適したW/Oエマルションインクを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のW/Oエマルションインクは、油相および水相からなるエマルションインクにおいて、前記油相に質量平均分子量が20000以下であって、Tgが60℃以下の非晶性樹脂を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のW/Oエマルションインクは、油相に質量平均分子量が20000以下であって、Tgが60℃以下の非晶性樹脂を含むことによってインクの固着性・乾燥性を向上させることができる。非晶性樹脂はエマルションインクに用いられる溶剤に可溶であり、質量平均分子量が20000以下であって、Tgが60℃以下であるため、印刷用紙へのインクの浸透とエマルション中の水分の蒸発の均衡が保たれる結果、定着性および乾燥性ともに良好なインクとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のW/Oエマルションインクを詳細に説明する。本発明のW/Oエマルションインクは、油相および水相からなるW/Oエマルションインク(以下、単にインクともいう)において、前記油相に質量平均分子量が20000以下であって、Tgが60℃以下の非晶性樹脂を含むことを特徴とする。
【0012】
ここで、非晶性樹脂とは、局所にのみ秩序構造が存在する樹脂であり、X線回折パターンにおいて、結晶に由来するシャープなピークが存在しない樹脂を意味する。本発明における質量平均分子量は、GPC法により、(株)島津製作所製HPLC SIL 10A(shodex社製GPCカラム(GPC KD-804およびGPC KD-805)を装着、移動相として20mM臭化リチウム/DMF溶液を使用、流速0.8ml/分)を用いて測定し、(株)島津製作所製示唆屈折率検出器RID−10Aにより検出し、標準ポリスチレン換算により求めたものを意味する。非晶性樹脂の質量平均分子量は20000以下であり、15000以下が好ましく、さらには10000以下がより好ましい。質量平均分子量が20000よりも大きくなると溶剤への溶解性が悪くなるとともに、インク粘度が上昇するため好ましくない。一方、重量平均分子量が1000未満であると、インキ定着性が低下することがあるため好ましくない。
【0013】
Tg(ガラス転移温度)は、乾燥後の樹脂について、示差走査熱量計(DSC8230L2、株式会社リガク製)を用い、昇温速度10℃/分にて測定した値である。Tgは60℃以下であり、好ましくは40℃〜マイナス70℃、さらには20℃〜0℃であることが好ましい。Tgが60℃よりも大きくなると、インク塗膜が固くなりすぎて、記録紙上からインク塗膜の脱落が起きやすくなるため、定着性の向上に対する効果は小さくなる。一方、マイナス70℃より小さくなると、定着後の画像にべたつきが残るため好ましくない。
【0014】
非晶性樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、・ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、塩化ビニル樹脂等を挙げることができ、着色剤をより定着させるという観点からはポリエステル樹脂、アクリル樹脂がより好ましい。ポリエステル樹脂としては、バイロン(登録商標)GK130、GK680、GK140、GK780、660、670(いずれも東洋紡(株))、ポリエスター(登録商標)TP217、TP249、TP290、TP270、LP035、LP033、LP050、LP011、TP219(いずれも日本合成化学(株))等を好ましく用いることができ、アクリル樹脂としてはジョンクリル(登録商標)611、682、586(BASFジャパン株式会社)等を好ましく用いることができる。上記、非晶性樹脂は複数種類を適宜混合して用いてもよいが、その場合、混合する非晶性樹脂のそれぞれの質量平均分子量が20000以下であって、Tgが60℃以下である必要がある。
【0015】
非晶性樹脂の配合量は、用いる非晶性樹脂の種類、分子量等にもよるが、概ねインク全量に対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましく、さらには1〜5質量%が好ましい。配合量が0.1質量%未満では定着性の向上に対する効果が小さい。逆に、配合量が20質量%を超えると、定着性の向上には効果があるが、インク粘度が高くなり過ぎてインクの乾燥性が低下したり、版作製後に長期放置した場合、版上の穿孔部位およびドラムメッシュでインクが被膜を作りインクの通過を阻害したりすることがあるため好ましくない。
【0016】
本発明のインクには非晶性樹脂以外の樹脂を含んでいてよい。非晶性樹脂以外の樹脂はインクに粘度を付与し、エマルションの安定性を向上させるもので、油相に溶解するものが用いられる。樹脂を含ませることにより、顔料の分散性、紙への定着性、転写汚れの抑制を向上させることができる。樹脂としては、たとえば、ロジン、ギルソナイト、ロジンエステル、マレイン酸樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、石油樹脂、アクリル樹脂、アミノ樹脂、ウレタン樹脂、セルロース樹脂、天然ゴム誘導体樹脂等を好ましく用いることができ、アルキド樹脂、フェノール樹脂をより好ましく用いることができる。また、アルキド樹脂またはロジン変性樹脂とアルミニウムキレート化合物またはアルミニウムアルコラートとの反応生成物も、好ましく用いることができる。
【0017】
非晶性樹脂以外の樹脂の含有量は、非晶性樹脂と非晶性樹脂以外の樹脂との総量で、インク全質量に対して3〜25質量%であることが好ましく、8〜20質量%であることがより好ましい。樹脂の含有量が3質量%より少なくなると顔料の分散性が悪くなる。また、インクの油相粘度が低くなってしまい、インクの転写量が過剰になってしまうため好ましくない。樹脂の含有量が25質量%より多くなると、インクの油相粘度が高くなってしまい、被印刷体への浸透が遅くなってしまうため好ましくない。
【0018】
本発明のインクは、油相と水相とからなり、油相は、上記樹脂以外に、溶剤、着色剤、分散剤から主として構成されるが、必要に応じて、ゲル化剤、酸化防止剤等の公知の成分を適宜含ませることができる。油相の割合はインク全量に対して50質量%〜99質量%であることが好ましく、65質量%〜95質量%であることがより好ましい。油相の粘度は、0.1〜0.5Pa・sの範囲であることが好ましく、0.2〜0.4Pa・sの範囲であることがより好ましい。油相の粘度が0.1Pa・s未満である場合には、紙などの被印刷体への浸透は早くなり、固着性の改善効果が低くなる。一方で、油相の粘度が0.5Pa・sよりも多くなると乾燥性の改善効果が低くなる。
【0019】
溶剤としては、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、石油系溶剤、モーター油、ギヤー油、軽油、灯油、スピンドル油、マシン油、流動パラフィン、潤滑油等の鉱物油、オリーブ油、ナタネ油、アマニ油、ヒマシ油、サラダ油、大豆油等の植物油のほか、合成油等を用いることもできる。これらの中でも、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、石油系溶剤が好ましく、とりわけ、多環芳香族成分含有量が3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下のものとすれば、環境上も好ましい。
溶剤の含有量は、インク全量に対して1〜50質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましい。
【0020】
具体的には、パラフィン系オイルとしては、例えば、モービル石油社製のガーゴオルアークティックシリーズ、日本石油株式会社製の日石スーパーオイルシリーズ、出光興産株式会社製のダイアナプロセスオイル、ダイアナフレシアシリーズ等が挙げられる。ナフテン系オイルとしては、環分析によるナフテン成分の炭素含有量(CN)が30%以上であり、芳香族成分の炭素の含有量(CA)が20%以下であり、かつパラフィン成分の炭素含有量(CP)が55%以下であるものが好適であり、例えば、モービル石油社製のガーゴオルアークティックオイル155及び300ID、ガーゴオルアークティックオイルライト、ガーゴオルアークティックオイルCヘビー;出光興産株式会社製のダイアナプロセスオイル、ダイアナフレシアシリーズ;日本サン石油株式会社製のサンセンオイルシリーズなどが挙げられる。石油系溶剤としては、市販品を用いることができ、例えば、エクソン化学社製のアイソパーシリーズ及びエクソール;日本石油株式会社製のAFソルベントシリーズなどが挙げられる。
【0021】
着色剤としては、染料及び顔料の何れも使用可能であるが、印刷物の耐候性が高いことから、顔料を使用することが好ましい。顔料としては、有機顔料、無機顔料を問わず、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、カーボンブラック、カドミウムレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、酸化クロム、ピリジアン、チタンコバルトグリーン、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料などが好適に使用できる。とりわけ、アゾ系顔料は本発明の効果が特に顕著に確認できる顔料である。これらの顔料は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。着色剤は、インク全量に対して0.01〜20質量%の範囲で含有されることが好ましい。
【0022】
着色剤として顔料を使用する場合、油相中における顔料の分散を良好にするために、油相に顔料分散剤を添加することが好ましい。本発明で使用できる顔料分散剤としては、顔料を溶剤中に安定して分散させるものであれば特に限定されないが、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエステルポリアミン、ステアリルアミンアセテート等を用いることができ、中でも主鎖にポリアミド構造を有し、側鎖にポリエステル構造を有した櫛型のポリマーが好ましい。顔料分散剤の含有量は、インク全量に対して0〜10質量%であることが好ましく、0.1〜5質量%であることがより好ましい。
【0023】
界面活性剤はW/Oエマルションを構成するために用いられ、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤のいずれを用いてもよい。このうち、油中水型エマルションの乳化性や保存安定性の観点から、非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。
【0024】
具体的には、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタンモノイソステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル、グリセリルモノステアレート、ヘキサグリセリルテトラオレエート、デカグリセリルデカオレエート、ヘキサグリセリルペンタオレエート等の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、(ポリ)エチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(硬化)ヒマシ油等を好ましく挙げることができる。上記界面活性剤は、単独で用いてもよいし、二種類以上を適宜組み合わせて用いることもできる。
【0025】
水相中には、水の他、必要に応じて水蒸発抑制剤(または凍結防止剤)、電解質、pH調整剤、酸化防止剤等を含ませることができる。
水蒸発抑制剤(または凍結防止剤)としては、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類等の、水溶性有機溶剤等を好ましく挙げることができ、その含有量は、水相全量に対して1〜20質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることがより好ましい。
【0026】
電解質としては、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、リン酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸カリウム、ホウ酸ナトリウム等が挙げられ、その含有量は、水相全量に対して0.1〜5.0質量%であることが好ましく、0.5〜2.0質量%であることがより好ましい。
【0027】
本発明のインクは、60℃〜100℃に加温した溶剤に非晶性樹脂を1日程度かけて攪拌溶解させ、公知の分散機で顔料を溶剤に分散した後、さらに溶剤で希釈し、上記溶解させた非晶性樹脂、その他の油相成分を添加して調製することができる。希釈には、それ自体公知の撹拌機を使用することができる。水相は、水相の成分を、撹拌機により水に混合・溶解することにより調製することができる。そして、公知の乳化機を使用し、攪拌下の油相中に水相を滴下することにより、エマルションインクを得ることができる。これらの分散、稀釈、乳化等を行うにあたって採用される条件等は、適宜選択することができる。
以下に本発明のインクの実施例を示す。
【実施例】
【0028】
(インクの調製)
下記表1に示す配合(表に示す数値は質量部である)により、以下の手順に従い、各実施例、比較例のインクを調製した。70℃〜80℃に加温したダイアナフレシアS−10(鉱物油:出光興産(株)製)に樹脂を入れ1日かけて溶解させた。溶解後、油相の顔料、アルキド樹脂、溶剤、ソルビタンモノオレエートを加えて混合し、ロッキングミルで充分に分散した。この油相中に、グリセリン、硫酸マグネシウム7水和物を混合した水相混合溶液を徐々に滴下し、ホモジナイザーを用いて乳化を行い孔版印刷用エマルションインクを得た。
【0029】
(評価)
(定着性)
理想科学工業株式会社製の孔版印刷機RZ970を用いて充分印刷を行って印刷機内にインクを行き渡らせ、ベタ画像を形成し、この印刷サンプルを24時間放置した。その後、サンプルのベタ部をクロックメーター(東洋精機製作所製)で摩擦、摩擦部と非摩擦部の画像濃度を目視評価し、摩擦部画像濃度と非摩擦部画像濃度の差が小さい、即ち、定着性に優れるものから下記の基準で5段階の評価を行った。
5:摩擦部画像濃度と非摩擦部画像濃度の差はない
4:摩擦部画像濃度と非摩擦部画像濃度の差は極僅かであり実使用上問題ない
3:摩擦部画像濃度と非摩擦部画像濃度の差は小さく実使用上問題ない
2:摩擦部画像濃度と非摩擦部画像濃度の差は大きく実使用に耐えない
1:摩擦部画像濃度と非摩擦部画像濃度の差は顕著であり実使用に耐えない
【0030】
(乾燥性)
理想科学工業株式会社製の孔版印刷機RZ970を用いて充分印刷を行って印刷機内にインクを行き渡らせ、ベタ画像を形成し、この印刷サンプルを10秒間放置した。その後、サンプルのベタ部をクロックメーター(東洋精機製作所製)で摩擦、摩擦部と非摩擦部の画像濃度を目視評価し、摩擦部画像濃度と非摩擦部画像濃度の差が小さい、即ち、乾燥性に優れるものから下記の基準で5段階の評価を行った。
5:摩擦部画像濃度と非摩擦部画像濃度の差はない
4:摩擦部画像濃度と非摩擦部画像濃度の差は極僅かであり実使用上問題ない
3:摩擦部画像濃度と非摩擦部画像濃度の差は小さく実使用上問題ない
2:摩擦部画像濃度と非摩擦部画像濃度の差は大きく実使用に耐えない
1:摩擦部画像濃度と非摩擦部画像濃度の差は顕著であり実使用に耐えない
【0031】
【表1】

【0032】
表1に示すように、本発明のインクはいずれもインクの固着性、乾燥性が向上した。とりわけ、質量平均分子量が15000以下、Tgが20℃以下の非晶性樹脂は非常に固着性、乾燥性が良かった。一方で、Tgが60℃以下であっても質量平均分子量が23000である比較例1ではインク粘度が上昇して乾燥性が悪くなった。逆に、質量平均分子量が20000以下であってもTgが65℃以下である比較例2ではインクの塗膜が固くなりすぎて、記録紙上からインク塗膜の脱落が起きやすく定着性が悪かった。このことから、インクの固着性、乾燥性の向上には、質量平均分子量とTgの2つの指標が重要であることがわかる。一方、質量平均分子量、Tgがともに本発明の範囲より高い比較例3では乾燥性、固着性ともに悪かった。なお、比較例4は樹脂がアルキド樹脂のみの場合であるが、乾燥性、固着性ともに悪く、アルキド樹脂は乾燥性、固着性に効果がないことがわかる。
【0033】
以上のように、本発明のW/Oエマルションインクは、質量平均分子量が20000以下であって、Tgが60℃以下であり、この質量平均分子量とTgの2つの指標によって、印刷用紙へのインクの浸透とエマルション中の水分の蒸発の均衡が保たれる結果、定着性および乾燥性ともに良好なインクとすることができる。
なお、本実施例では非晶性樹脂としてポリエステル樹脂とアクリル樹脂を用いた例を示したが、本発明の作用メカニズムからすれば、その他の非晶性樹脂でも同様の結果が得られるものと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相および水相からなるW/Oエマルションインクにおいて、前記油相に質量平均分子量が20000以下であって、Tgが60℃以下の非晶性樹脂を含むことを特徴とするW/Oエマルションインク。
【請求項2】
前記非晶性樹脂がポリエステル樹脂またはアクリル樹脂であることを特徴とする請求項1記載のW/Oエマルションインク。

【公開番号】特開2013−60478(P2013−60478A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197788(P2011−197788)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】