説明

X線ビーム処理装置及びX線分析装置

【課題】 小型であり、光軸調整のための作業が簡単であり、光軸調整の自動化が容易であるX線ビーム処理装置を提供する。
【解決手段】 所定の回折角度でX線を回折する第1結晶ブロック2a及び第2結晶ブロック2bを支持する結晶ホルダ3と、X線R1,R2,R3の光軸を含む面に直交する軸線X1を中心として結晶ホルダ3を回転させることができ且つ結晶ホルダ3をその回転範囲内で固定状態に支持できるモータ4とを有するX線ビーム処理装置1Aである。結晶ホルダ3は、第1結晶ブロック2aと第2結晶ブロック2bの両方でX線回折が生じるように互いの角度が調整された状態でそれら2つの結晶ブロック2a,2bを固定状態で支持する。2つの結晶ブロック2a,2bの光軸調整は軸線X1を中心として結晶ホルダ3を1軸回転させるだけで行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモノクロメータ、アナライザ等といったX線ビーム処理装置に関する。また、本発明はX線ビーム処理装置を用いたX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、X線回折装置等といったX線分析装置においてモノクロメータ、アナライザ等といったX線ビーム処理装置が広く用いられている。モノクロメータは、主に、複数波長のX線を含んだX線を特定波長のX線へ単色化するために用いられるX線ビーム処理装置である。このモノクロメータは、X線分析装置においてX線源と試料との間(すなわち、X線の進行方向に関して試料の上流側)に設けられることが多い。
【0003】
また、アナライザは、主に、X線分析装置におけるX線の角度分解能を上げるために用いられるX線ビーム処理装置である。このアナライザは、X線分析装置において試料とX線検出手段との間(すなわち、X線の進行方向に関して試料の下流側)に設けられる。例えば、アナライザは、試料から出たX線(例えば、回折線、散乱線、反射線、分光線)を受光して、その中から所定の角度分解能を満たすX線を選択してX線検出手段へ向けて出射する機能を奏する。
【0004】
従来、図9(a)に示すように、2つのチャンネルカット結晶101a,101bをX線光路X0上に設け、個々のチャンネルカット結晶101a,101bに個別に角度制御機構を付設したモノクロメータが周知である。光軸調整の際には、まず、下流側のチャンネルカット結晶101bを取り外して上流側のチャンネルカット結晶101aを矢印A1のように回転させながらそれをX線光路X0に合わせ、次に下流側のチャンネルカット結晶101bを装着してそれを矢印A2のように回転させながらチャンネルカット結晶101a,101bの角度調整を行っている。
【0005】
また、従来、図9(b)に示すように、チャンネルカット結晶101a,101bのそれぞれにそれらをX線光路X0から退避させるための機構102a,102bを付設したモノクロメータが周知である。光軸調整の際には、矢印B1又はB2のようにいずれかのチャンネルカット結晶をX線光路X0から退避させた状態で、X線光路X0上にあるチャンネルカット結晶をX線光路X0に合わせる調整を行う。
【0006】
また、従来、図10に示すように、チャンネルカット結晶101a,101bの角度を調整するための回転軸Xa,XbをX線光路X0から外し、それらの回転軸Xa,Xbを中心としてチャンネルカット結晶101a,101bを大きく回転させることでチャンネルカット結晶101a,101bをX線光路X0から退避させるモノクロメータが知られている(例えば、特許文献1参照)。このモノクロメータでは、角度調整と退避機構とを共通の1つの軸の周りの回転によって実現している。
【0007】
【特許文献1】特開平9−049811号公報(第3〜4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、退避機構を持たない図9(a)に示す従来のモノクロメータにおいては、光軸調整の際のチャンネルカット結晶101a,101bの取付け及び取外しを作業者が手作業によって行わなければならず、光軸調整を自動的に行うことができなかった。
【0009】
また、退避機構を持った図9(b)に示す従来のモノクロメータにおいては、個々のチャンネルカット結晶に対して回転機構及びスライド機構を付設しなければならず、それら自身の構造及びそれらのための制御機構が複雑にならざるを得ないという問題があった。このため、光軸調整を自動的に行うことが非常に難しかった。また、チャンネルカット結晶の退避場所を確保するための空間が必要になるので、このモノクロメータを用いる装置、例えばX線分析装置を小型化できないという問題もあった。
【0010】
また、4回反射型のチャンネルカット結晶には非常に厳しい角度調整が要求されるため、一方のチャンネルカット結晶を退避移動させた後にそのチャンネルカット結晶を再びX線光路X0上に再装着した時には、2つのチャンネルカット結晶の角度合わせの再調整が必要であった。つまり、光軸調整のための作業が非常に面倒であった。
【0011】
また、特許文献1に開示された図10に示すモノクロメータにおいては、チャンネルカット結晶101a,101bを退避させるための軸Xa,Xbを中心とする回転が非常に大きな角度範囲になるため、チャンネルカット結晶101a,101bの角度再現性が悪くなるという問題があった。具体的に言えば、チャンネルカット結晶101a,101bの1つを例えば角度180°程度という大きな角度で回転させて退避移動を行った後に、そのチャンネルカット結晶をX線光路X0上の元の角度位置に戻した場合、回転駆動機構に含まれるギヤ等のバックラッシュの影響、あるいはその他の要因により、チャンネルカット結晶は元の正確な角度位置に戻らないという問題があった。この現象は退避移動のための回転角度が大きくなればなる程、顕著になると思われる。
【0012】
また、図9(b)の従来例と同様に、チャンネルカット結晶の退避場所を確保するための空間が必要になるので、このモノクロメータを用いる装置、例えばX線分析装置を小型化できないという問題もあった。
【0013】
本発明は、従来のX線ビーム処理装置における上記の問題点に鑑みて成されたものであって、小型であり、光軸調整のための作業が簡単であり、光軸調整の自動化が容易であるX線ビーム処理装置及びX線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るX線ビーム処理装置は、所定の回折角度でX線を回折する第1結晶ブロックと、所定の回折角度でX線を回折する第2結晶ブロックとを支持する結晶支持手段と、前記X線の光軸を含む面に直交する軸線を中心として前記結晶支持手段を回転させることができ且つ前記結晶支持手段を回転範囲内で固定状態に支持できる結晶角度調整手段とを有し、前記結晶支持手段は、前記第1結晶ブロックと前記第2結晶ブロックの両方でX線回折が生じるように互いの角度が調整された状態でそれら2つの結晶ブロックを固定状態で支持することを特徴とする。
【0015】
このX線ビーム処理装置によれば、第1結晶ブロックと第2結晶ブロックとの相対的な角度が予め正確に保たれた状態でそれらが結晶支持手段によって固定支持されているので、光軸調整の際には1つの結晶ブロック、例えば第1結晶ブロックだけについて角度調整を行えば、第2結晶ブロックは自動的に正確な角度位置にセットされる。つまり、第2結晶ブロックは退避移動させる必要も無く、独自に角度調整される必要もない。このように光軸調整のための作業が極めて簡単になるので、光軸調整を容易に自動化できる。また、第1結晶ブロック及び第2結晶ブロックを退避移動させる必要が無いので、その移動のための空間が不要となり、それ故、X線ビーム処理装置自身及びそれを利用するX線分析装置を小型化できる。
【0016】
次に、本発明に係るX線ビーム処理装置において、前記第1結晶ブロック及び前記第2結晶ブロックはチャンネルカット結晶であることが望ましい。チャンネルカット結晶は、ゲルマニウム、シリコン等といった結晶ブロックに溝(すなわち、チャンネル)を切ることによってその溝の両側に壁を形成し、それらの壁でそれぞれX線を反射させる構造の結晶である。結晶ブロックとしてチャンネルカット結晶を用いれば、高精度な単色化及び高い分解能を得ることができる。
【0017】
次に、本発明に係るX線分析装置は、試料を照射するX線を発生するX線源と、前記試料から出たX線を検出するX線検出手段と、前記X線源と前記試料との間に配置されたX線ビーム処理装置とを有し、前記X線ビーム処理装置は上述した構成のX線ビーム処理装置であることを特徴とする。このX線分析装置は、試料の上流側にX線ビーム処理装置を設けた構造、すなわちX線ビーム処理装置がモノクロメータとして機能する構造のX線分析装置である。
【0018】
本発明に係るX線ビーム処理装置によれば高精度な単色化及び高い分解能を得ることができるので、このX線ビーム処理装置は高精度な測定を求められるX線分析装置に用いられた場合にその機能を遺憾無く発揮できて好都合である。そのような高精度な測定が求められるX線分析装置としては、ロッキングカーブ測定装置や逆格子マップ測定装置等が考えられる。
【0019】
ロッキングカーブ測定装置は、入射X線に対するX線検出器の角度(2θ)を固定した状態で試料へのX線入射角(ω)を極めて微小な範囲で回転させる間に、試料から出るX線を測定する装置である。測定結果は、横軸に試料の角度変化をとり、縦軸にX線強度をとったグラフ上にロッキングカーブとして得られる。また、逆格子マップ測定装置は、X線検出器の角度(2θ)を少しずつ変えながら試料へのX線入射角度(ω)をスキャンさせて試料からのX線を測定する装置である。測定結果は、横軸にωをとり、縦軸に2θをとった座標内に逆格子マップとして得られる。
【0020】
次に、本発明に係るX線分析装置は、試料を照射するX線を発生するX線源と、前記試料から出たX線を検出するX線検出手段と、前記試料と前記X線検出手段との間に配置されたX線ビーム処理装置とを有し、前記X線ビーム処理装置は上述した構成のX線ビーム処理装置であることを特徴とする。このX線分析装置は、試料の下流側にX線ビーム処理装置を設けた構造、すなわちX線ビーム処理装置がアナライザとして機能する構造のX線分析装置である。
【0021】
本発明に係るX線ビーム処理装置によれば高精度な単色化及び高い分解能を得ることができるので、このX線ビーム処理装置は高精度な測定を求められるX線分析装置に用いられた場合にその機能を遺憾無く発揮できて好都合である。そのような高精度な測定が求められるX線分析装置としては、ロッキングカーブ測定装置や逆格子マップ測定装置等が考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(X線ビーム処理装置の第1実施形態)
以下、本発明に係るX線ビーム処理装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、これ以降の説明では図面を参照するが、その図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0023】
図1は本発明に係るX線ビーム処理装置の一実施形態を示している。同図において、X線ビーム処理装置1Aは、第1結晶ブロックとしての第1チャンネルカット結晶2aと、第2結晶ブロックとしての第2チャンネルカット結晶2bと、結晶支持手段としての結晶ホルダ3と、結晶角度調整手段としてのモータ4とを有する。
【0024】
第1チャンネルカット結晶2a及び第2チャンネルカット結晶2bは、図2に示すように、単結晶の直方体のブロック6に切削加工によって溝7を設けることによって形成されている。溝7の両側面がX線を反射させる反射面として用いられる。第1チャンネルカット結晶2aは、図1において、X線発生源Gから放射されたX線R1を1つの側面で反射し、その反射X線を対向するもう1つの面で反射して外部へ出射する。X線発生源Gは、フィラメントとターゲットとによって構成されたX線源であることもあるし、回折線等を放出する試料であることもある。また、第2チャンネルカット結晶2bは、第1チャンネルカット結晶2aから出射されたX線R2を1つの側面で反射し、その反射X線を対向するもう1つの面で反射して外部へ出射する。
【0025】
第2チャンネルカット結晶2bから出射されたX線R3は、入射X線R1が単色化されたX線(すなわち、入射X線R1から選択された特定波長のX線)であり、しかも、所定の角度分解能を満たすX線(すなわち、発散状態で進行する入射X線R1から選択された特定の角度方向だけに進行するX線)である。X線ビーム処理装置1Aがモノクロメータとして用いられる場合は、主に、単色化の機能が利用される。また、X線ビーム処理装置1Aがアナライザとして用いられる場合は、主に、分解能を上げる機能が利用される。
【0026】
第1チャンネルカット結晶2aは、入射X線R1に対する角度が所定の角度に一致したときに反射X線R2を出射する。また、第2チャンネルカット結晶2bは第1チャンネルカット結晶2aに対して所定の角度に合わされたときに反射X線R3を出射する。第1チャンネルカット結晶2a及び第2チャンネルカット結晶2bは、そのようにX線を反射できる相対角度に調整され、そしてその調整された状態で結晶ホルダ3上に固定されている。
【0027】
この固定作業はX線ビーム処理装置1Aを製造する場所において正確に行われる。X線ビーム処理装置1Aを使用する場所においては、固定された第1チャンネルカット結晶2a及び第2チャンネルカット結晶2bの固定状態を調整する作業は一切行われない。具体的な固定処理としては、接着剤を用いた接着、ネジその他の締結具を用いた締結、その他任意の固定方法を採用できる。このように第1チャンネルカット結晶2aと第2チャンネルカット結晶2bとの相対角度を固定状態にしておけば、X線ビーム処理装置1Aをどのような場所へ持ち運んだとしても、第1チャンネルカット結晶2aと第2チャンネルカット結晶2bとの間の条件は、常に、所定の波長のX線を反射して外部へ出射できる状態に保持される。
【0028】
結晶ホルダ3は、結晶2a,2bを固定支持している面の背面でモータ4の出力軸4aに連結されている。結晶ホルダ3は、図では単なる長方形状に描かれているが、実際には、結晶2a,2bを支持し易い形状又は構造に形成される。モータ4が作動して出力軸4aが回転すると、結晶ホルダ3は出力軸4aの中心軸線X1を中心として矢印C−C’で示す方向に回転する。モータ4は回転角度を制御可能なモータ、例えば、パルスモータ、サーボモータであり、このモータ4は回転制御装置8から出力される信号に従って作動する。回転制御装置8は必要に応じて適宜のホスト制御部に接続され、そのホスト制御部から伝送される回転指示信号に従ってモータ4を制御する。ホスト制御部は、例えば、X線回折装置等といったX線分析装置内の制御装置である。
【0029】
結晶ホルダ3の回転中心軸線X1は、本実施形態では、第1チャンネルカット結晶2aのX線反射側面のうち第1回目にX線を反射する側面上を通るように設定されている。しかしながら、この軸線X1は、図3(a)に示すように結晶2aのX線反射面から外れる位置であって結晶2aと平面視で重なる位置とすることもできる。また、この軸線X1は、図3(b)に示すように結晶2aのX線反射面から外れる位置であって結晶2aからも外れる位置とすることもできる。
【0030】
以下、上記構成より成るX線ビーム処理装置の処理方法について説明する。
(組立調整の方法)
平行化されたX線を予め用意し、図1のX線ビーム処理装置1Aの結晶ホルダ3をそのX線光路上に設置する。このとき、後ろ側の第2チャンネルカット結晶2bは結晶ホルダ3から外されている。次に、第1チャンネルカット結晶2aの角度調整を行ってその結晶2aでX線が反射されるように調整し、その調整の完了後に結晶2aを位置不動に固定する。次に、後ろ側の第2チャンネルカット結晶2bを結晶ホルダ3上の所定位置に仮固定し、X線を反射するように角度調整し、その調整の完了後に結晶2bを位置不動に固定する。以上により、第1チャンネルカット結晶2aと第2チャンネルカット結晶2bとの結晶ホルダ3上での相対的な位置関係が変動しないように固定される。
【0031】
(使用時の微調整)
これから使用しようとしているX線分析装置それ自身、又は予め基準となっているX線分析装置それ自身、例えば平行型の光学系を有するX線分析装置それ自身の調整がすんだ状態で、図1のX線ビーム処理装置1AをそのX線分析装置に設置する。この場合、図1のモータ4を結晶ホルダ3に連結した上で、そのモータ4をX線分析装置の所定位置に装着する場合もあるし、あるいは、モータ4が予めX線分析装置内の所定位置に設置されている場合には、そのモータ4の出力軸4aに結晶ホルダ3を連結する。
【0032】
次に、回転制御装置8からの指示によってモータ4を作動させて結晶ホルダ3を矢印C−C’方向へ走査移動させ、このときに第2チャンネルカット結晶2bから出射するX線をX線検出器によって検出し、X線強度が最大となる角度位置を探して、結晶ホルダ3をその位置に固定する。例えば、X線としてCuKα1線(波長1.54056Å)を用い、結晶としてGe(220)を用いた場合、観測されるCuKα1線のピーク幅(半値全幅)は約0.005°であるので、ピークの裾野で0.015°程度になる。このピークを測定するためには0.1°程度の角度測定範囲があれば十分であり、ピークのずれを含めて1°程度の稼動範囲があれば十分である。
【0033】
なお、X線強度が最大となる位置として測定された角度位置は、図1の回転制御装置8内に予め含まれる記憶媒体、あるいは回転制御装置8に追加的に設けられる記憶媒体の中に記憶する。また、そのときのX線ビーム処理装置1A以外の光学系の位置等も併せて記憶媒体の中に記憶する。
【0034】
(使用中)
本実施形態では、結晶の回折現象を4回用いてX線を高精度に分光する。具体的には、図1において、X線としてCuKα1線(波長1.54056Å)を用い、結晶としてGe(220)を用いた場合、X線ビーム処理装置1Aから出射するX線の平行度は約0.005°に抑えることができる。従って、このX線ビーム処理装置1Aをモノクロメータとして用いれば、試料に入射するX線の平行度を約0,005°に抑えることができる。また、このX線ビーム処理装置1Aをアナライザとして用いれば、試料から出るX線を約0.005°の角度分解能でX線検出器によって検出することが可能となる。このため、本実施形態のX線ビーム処理装置1Aは、高精度な測定を求められる測定、例えば単結晶の結晶性評価のために行われる測定、例えばロッキングカーブ測定や逆格子マップ測定に好適に用いられる。
【0035】
(微調整後の付け替え)
上記の微調整が終わった状態で、本実施形態のX線ビーム処理装置1AをX線分析装置から取り外した後、再度そのX線ビーム処理装置1AをX線分析装置に取り付けた場合には、上記の記憶媒体内に記憶された上記のX線ビーム処理装置1Aに関する角度位置、及びその他の光学系の位置等に従ってX線ビーム処理装置1A及びその他の光学系を移動することにより、X線光学系を取外し前の状態に復帰させることができる。このため、X線分析装置内の他の部品が取り外されない限り、X線ビーム処理装置1A等を再度調整すること無しに、測定を再開することが可能である。
【0036】
以上の説明から理解できるように、本実施形態のX線ビーム処理装置1Aにおいては、2つのチャンネルカット結晶2a,2bから成る4回反射型の分光素子を1つの角度調整装置で作動させるようにしたので、X線ビーム処理装置1Aの形状を小型化できた。また、特別な治具や複雑な操作無しに4つの結晶面の微調整を行うことができるようになった。また、結晶ホルダ3を回転させるという極めて簡単な1つの動作だけで4つの結晶面の微調整を行うことができるので、作業者の人手を利用することなく回転制御装置8又はその他の制御機器を用いて微調整を自動的に行うことができるようになった。
【0037】
(X線ビーム処理装置の第2実施形態)
図4は、本発明に係るX線ビーム処理装置の他の実施形態を示している。この実施形態が図1に示した実施形態と異なる点は、結晶ホルダ3を駆動するための駆動装置に改変を加えたことである。図4において、図1と同じ要素は同じ符号を付すことにしてその説明は省略することにする。
【0038】
図4に示すX線ビーム処理装置1Bおいて、結晶ホルダ3はタンジェントバー方式の回転機構11によって支持されている。この回転機構11は、結晶ホルダ3を固定状態で支持する回転ステージ12と、その回転ステージ12から外部方向へ延びる制御棒13と、その制御棒13の先端に当接する偏心カム14と、その偏心カム14を回転駆動するモータ15とを有する。このタンジェントバー方式の回転機構は、回転ステージ12に固定された制御棒13をモータ15取り付けられた偏心カム14の回転によって回転させることにより、回転ステージ12の微小な回転角度を制御する周知の微小回転機構である。本実施形態の結晶ホルダ3の移動幅は角度1°程度で十分なため、有効稼動範囲が小さいタンジェントバー方式の回転機構11を用いることができる。
【0039】
このタンジェントバー方式の回転機構11を採用し、駆動系のバックラッシュや、駆動モータの通電再開後の微小な移動を結晶の回折限界角度以下にすることで、4つの結晶が完全に固定された結晶素子と同様な使い勝手を実現できる。なお、結晶としてGe(440)を用い、X線としてCuKα1を用い、波長を小数点以下4桁である1.5405Åまで分光する場合には、駆動系のバックラッシュや、駆動モータの通電再開後の微小な移動を起因とする結晶の微小角度ずれを0.001°以下に抑える必要がある。
【0040】
(X線分析装置の第1実施形態)
図5は、本発明に係るX線分析装置の第1実施形態を示している。図5において、本実施形態のX線分析装置21は、X線を発生するX線源Fと、モノクロメータ22と、第1スリット23と、試料ホルダ24と、第2スリット25と、アナライザ26と、第3スリット27と、X線検出器28とを有する。測定対象である試料Sは試料ホルダ24に支持されて所定位置に置かれる。モノクロメータ22は図1のX線ビーム処理装置1Aや図4のX線ビーム処理装置1Bによって構成されている。また、アナライザ26も図1のX線ビーム処理装置1Aや図4のX線ビーム処理装置1Bによって構成されている。
【0041】
X線源Fは、例えば、フィラメントを発熱させて熱電子を放出させ、その熱電子をターゲットに衝突させることによりそのターゲットからX線を放出する構造のX線源である。ターゲットの表面をCuによって形成すれば、CuKαの特性線を含んだX線を発生できる。また、X線検出器28はX線を点状領域で受光する構造のいわゆる0次元カウンタによって構成される。このような0次元カウンタとしては、例えば、SC(Scintillation Counter)がある。
【0042】
X線源Fから放射されたX線はモノクロメータ22に入射する。モノクロメータ22はそのX線を単色化及び平行化する。単色化及び平行化されたX線は第1スリット23によって試料Sへ向けられて試料Sへ入射する。入射したX線と試料Sとの間で所定の条件が満足されると、試料SからX線(例えば、回折線、散乱線、反射線、分光線)が発生する。そのX線は、第2スリット25を通ってアナライザ26へ入射する。アナライザ26は角度分解能を満たすX線を選択して下流側へ出射する。そのX線は、第3スリット27を通ってX線検出器28によって受光される。X線検出器28は受光したX線の強度に対応した信号を出力する。この信号に基づいてX線強度が演算される。通常のX線分析装置では、入射X線に対するX線検出器28の回転角度2θの個々の角度位置におけるX線強度Iが(2θ、I)の形で記憶媒体の中のファイル内に測定データとして記憶される。
【0043】
モノクロメータ22及びアナライザ26は図1のX線ビーム処理装置1Aや図4のX線ビーム処理装置1Bによって構成されている。なお、モノクロメータ22及びアナライザ26はそれらの両方を設けるようにしても良いし、それらのうちのいずれか一方を設けるようにしても良い。上述したように、X線ビーム処理装置1AやX線ビーム処理装置1Bにおいては、2つのチャンネルカット結晶2a,2bから成る4回反射型の分光素子を1つの角度調整装置で作動させるようにしたので、X線ビーム処理装置1A等の形状を小型化できた。従って、そのX線ビーム処理装置1A等を2個使用するX線分析装置21も小型に形成できる。
【0044】
また、X線ビーム処理装置1A等は、特別な治具や複雑な操作無しに4つの結晶面の微調整を行うことができるので、そのX線ビーム処理装置1A等を用いたX線分析装置21はモノクロメータ22やアナライザ26の調整を非常に簡単に行うことができる。また、X線ビーム処理装置1A等は、結晶ホルダ3を回転させるという極めて簡単な1つの動作だけで4つの結晶面の微調整を行うことができるので、作業者の人手を利用することなく回転制御装置8又はその他の制御機器を用いて微調整を自動的に行うことができる。従って、そのX線ビーム処理装置1A等を用いたX線分析装置21においても、モノクロメータ22やアナライザ26に関する調整を自動的に行うことができる。
【0045】
(X線分析装置の第2実施形態)
図6(a)は本発明に係るX線分析装置の他の実施形態を示している。この実施形態は、本発明に係るX線ビーム処理装置をロッキングカーブ測定装置に適用した場合の実施形態を示している。なお、図6(a)は装置の概略を説明するためのものであって、おおまかな部品だけを示し、細かな部品の図示は省略している。
【0046】
ロッキングカーブ測定装置31は、X線源Fと、モノクロメータ22と、試料ホルダ24と、アナライザ26と、X線検出器28とを有する。測定対象である試料Sは試料ホルダ24に支持されて所定位置に置かれている。モノクロメータ22及びアナライザ26は図1に示すX線ビーム処理装置1Aや図4に示すX線ビーム処理装置1Bによって構成される。
【0047】
ロッキングカーブ測定装置31は、入射X線に対するX線検出器28の角度2θを固定し、試料SへのX線入射角ωを微小な角度範囲で回転させながら、試料Sで回折したX線をX線検出器28によって検出する。ロッキングカーブ測定装置31による測定結果は、図6(b)に示すように、横軸に試料揺動角度ωをとり、縦軸にX線強度Iをとったグラフ上に符号Lで示すロッキングカーブとして得られる。
【0048】
このロッキングカーブ測定装置31によって信頼性の高いデータを得るためには、厳密に単色化されたX線によって試料Sを照射することが望まれる。また、試料Sからは所定の角度分解能を満たすX線だけを選択してX線検出器28へ供給することが望ましい。モノクロメータ22を本発明に係る図1のX線ビーム処理装置1Aや図4のX線ビーム処理装置1Bによって構成すれば、厳密に単色化されたX線によって試料Sを照射することができる。また、アナライザ26を本発明に係る図1のX線ビーム処理装置1Aや図4のX線ビーム処理装置1Bによって構成すれば、試料Sから出たX線から所定の角度分解能を満たすX線だけを選択してX線検出器28へ供給できる。つまり、本発明に係るX線ビーム処理装置をロッキングカーブ測定装置のためのモノクロメータやアナライザとして用いれば、非常に信頼性の高い測定データを得ることができる。
【0049】
(X線分析装置の第3実施形態)
図7(a)は本発明に係るX線分析装置のさらに他の実施形態を示している。この実施形態は、本発明に係るX線ビーム処理装置を逆格子マップ測定装置に用いた場合の実施形態を示している。なお、図7(a)は装置の概略を説明するためのものであって、おおまかな部品だけを示し、細かな部品の図示は省略している。
【0050】
逆格子マップ測定装置41は、X線源Fと、モノクロメータ22と、試料ホルダ24と、アナライザ26と、X線検出器28とを有する。測定対象である試料Sは試料ホルダ24に支持されて所定位置に置かれている。モノクロメータ22及びアナライザ26は図1に示すX線ビーム処理装置1Aや図4に示すX線ビーム処理装置1Bによって構成される。
【0051】
逆格子マップ測定装置41は、入射X線に対するX線検出器28の角度2θを少しずつ変えて固定し、X線入射角度ωをスキャンしながら、試料Sで回折したX線をX線検出器28によって検出する。この逆格子マップ測定装置41による測定結果は、図7(b)に示すように、横軸にX線入射角度ωをとり、縦軸に回折角度2θをとった座標上に複数のドットデータとして得られる。個々のドットデータの濃度が試料Sで発生した回折X線の強度を示している。
【0052】
この逆格子マップ測定装置41によって信頼性の高いデータを得るためには、厳密に単色化されたX線によって試料Sを照射することが望まれる。また、試料Sからは所定の角度分解能を満たすX線だけを選択してX線検出器28へ供給することが望ましい。モノクロメータ22を本発明に係る図1のX線ビーム処理装置1Aや図4のX線ビーム処理装置1Bによって構成すれば、厳密に単色化されたX線によって試料Sを照射することができる。また、アナライザ26を本発明に係る図1のX線ビーム処理装置1Aや図4のX線ビーム処理装置1Bによって構成すれば、試料Sから出たX線から所定の角度分解能を満たすX線だけを選択してX線検出器28へ供給できる。つまり、本発明に係るX線ビーム処理装置を逆格子マップ測定装置のためのモノクロメータやアナライザとして用いれば、非常に信頼性の高い測定データを得ることができる。
【0053】
(X線分析装置の第4実施形態)
図8(a)は本発明に係るX線分析装置のさらに他の実施形態を示している。この実施形態は、本発明に係るX線ビーム処理装置を反射率測定装置に用いた場合の実施形態を示している。なお、図8(a)は装置の概略を説明するためのものであって、おおまかな部品だけを示し、細かな部品の図示は省略している。
【0054】
反射率測定装置51は、X線源Fと、モノクロメータ22と、試料ホルダ24と、アナライザ26と、X線検出器28とを有する。想定対象である試料Sは試料ホルダ24によって支持されて所定位置に置かれている。モノクロメータ22及びアナライザ26は図1に示すX線ビーム処理装置1Aや図4に示すX線ビーム処理装置1Bによって構成される。
【0055】
反射率測定装置51は、試料SへのX線入射角度ωを、例えばω=0.1°〜4°程度の微小角度に設定し、試料SでX線を全反射させて、その反射X線をX線検出器28によって検出する。これにより、例えば試料Sの表面の薄い部分の構造を分析する。この反射率測定装置51による測定結果は、図8(b)に示すように、横軸に回折角度2θをとり、縦軸にX線強度Iをとったグラフ上に符号Hで示す反射率カーブとして得られる。2θの低角度領域Tで全反射が起こっており、2θがある限界値に達すると全反射の強度が急激に落ちる。
【0056】
この反射率測定装置51によって信頼性の高いデータを得るためには、ボケの無い鮮明な反射率カーブHを得ることが重要である。そして、鮮明な反射率カーブHを得るためには、厳密に単色化されたX線によって試料Sを照射することが望まれる。また、試料Sからは所定の角度分解能を満たすX線だけを選択してX線検出器28へ供給することが望ましい。モノクロメータ22を本発明に係る図1のX線ビーム処理装置1Aや図4のX線ビーム処理装置1Bによって構成すれば、厳密に単色化されたX線によって試料Sを照射することができる。また、アナライザ26を本発明に係る図1のX線ビーム処理装置1Aや図4のX線ビーム処理装置1Bによって構成すれば、試料Sから出たX線から所定の角度分解能を満たすX線だけを選択してX線検出器28へ供給できる。つまり、本発明に係るX線ビーム処理装置を反射率測定装置のためのモノクロメータやアナライザとして用いれば、非常に信頼性の高い測定データを得ることができる。
【0057】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
例えば、図1の実施形態では、結晶ホルダ3を単なる長方形状に描いたが、結晶ホルダ3の形状及び構造は必要に応じて種々の形状及び構造に設定できる。また、結晶ホルダ3を駆動するための構成として、図1ではモータ4を用い、図4ではタンジェントバー方式の微小回転機構を用いたが、その他任意の駆動機構を用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係るX線ビーム処理装置の一実施形態を示す平面図である。
【図2】チャンネルカット結晶の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るX線ビーム処理装置の他の実施形態の主要部を示す平面図である。
【図4】本発明に係るX線ビーム処理装置のさらに他の実施形態を示す平面図である。
【図5】本発明に係るX線分析装置の一実施形態を示す正面図である。
【図6】本発明に係るX線分析装置の他の実施形態を示す正面図である。
【図7】本発明に係るX線分析装置のさらに他の実施形態を示す正面図である。
【図8】本発明に係るX線分析装置のさらに他の実施形態を示す正面図である。
【図9】X線ビーム処理装置の従来例を示す図である。
【図10】X線ビーム処理装置の他の従来例を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1A,1B.X線ビーム処理装置、
2a.第1チャンネルカット結晶(第1結晶ブロック)、
2b.第2チャンネルカット結晶(第2結晶ブロック)、
3.結晶ホルダ(結晶支持手段)、 4.モータ(結晶角度調整手段)、
4a.出力軸、 6.単結晶ブロック、 7.溝、
11.タンジェントバー式回転機構(結晶角度調整手段)、 12.回転ステージ、
13.制御棒、 14.偏心カム、 15.モータ、 21.X線分析装置、
22.モノクロメータ、 23.第1スリット、 24.試料ホルダ、
25.第2スリット、 26.アナライザ、 27.第3スリット、
28.X線検出器、 31.ロッキングカーブ測定装置(X線分析装置)、
41.逆格子マップ測定装置(X線分析装置)、
51.反射率測定装置(X線分析装置)、 G.X線発生源、 H.反射率カーブ、
L.ロッキングカーブ、 R1,R2,R3.X線、 T.低角度領域、
X0.X線光軸、 Xa,Xb.回転中心、 X1.回転中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の回折角度でX線を回折する第1結晶ブロックと、所定の回折角度でX線を回折する第2結晶ブロックとを支持する結晶支持手段と、
前記X線の光軸を含む面に直交する軸線を中心として前記結晶支持手段を回転させることができ且つ前記結晶支持手段をその回転範囲内で固定状態に支持できる結晶角度調整手段と、を有し、
前記結晶支持手段は、前記第1結晶ブロックと前記第2結晶ブロックの両方でX線回折が生じるように互いの角度が調整された状態でそれら2つの結晶ブロックを固定状態で支持する
ことを特徴とするX線ビーム処理装置。
【請求項2】
請求項1記載のX線ビーム処理装置において、前記第1結晶ブロック及び前記第2結晶ブロックは、互いに対向する2つのX線反射面を有するチャンネルカット結晶であることを特徴とするX線ビーム処理装置。
【請求項3】
試料に照射されるX線を発生するX線源と、前記試料から出たX線を検出するX線検出手段と、前記X線源と前記試料との間に配置されたX線ビーム処理装置とを有し、
前記X線ビーム処理装置は請求項1又は請求項2のいずれか1つに記載のX線ビーム処理装置であることを特徴とするX線分析装置。
【請求項4】
試料に照射されるX線を発生するX線源と、前記試料から出たX線を検出するX線検出手段と、前記試料と前記X線検出手段との間に配置されたX線ビーム処理装置とを有し、
前記X線ビーム処理装置は請求項1又は請求項2のいずれか1つに記載のX線ビーム処理装置であることを特徴とするX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−10483(P2007−10483A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−191611(P2005−191611)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】