説明

X線ラインセンサおよびそれを用いたX線検査装置

【課題】連続的に流れてくるシート等の被検査物の内部検査を行うことができ、しかも、搬送中にシートが上下しても、あるいはX線透過方向への厚みが大きな被検査物でも、解像度が低下することがなく、高い感度でのX線検出が可能で、更には装置の取扱いが容易で安定した運用を実現できるX線ラインセンサを提供する。
【解決手段】X線の入射により蛍光を発生する材料からなる光変換部材2と、各一端部がそれぞれ光変換部材2に臨むように直線状に配列され、他端部は2次元状に束ねられた光ファイバ束3と、その光ファイバ束の他端部からの出射光を増強する光増強手段4と、その光増強手段4からの出射光を撮像する撮像手段6を備えた構成とすることで、単純に1ライン状に光ファイバを並べても光増強手段4の作用によって十分な光量を得ることを可能とし、撮像感度を高いものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線ラインセンサと、そのX線ラインセンサを用いたX線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物品の内部に異物や欠陥が存在するか否かを非破壊のもとに検査する装置として、従来、検査対象物品をコンベア等によって搬送するとともに、その搬送路を挟むようにX線発生装置とX線ラインセンサを対向配置したものが知られている。X線発生装置からのX線は、通常、スリット等を介在させることによってファンビーム状とされる。
【0003】
このようなX線検査装置は、食品などに含まれる異物の有無を検査することに多用されている(例えば特許文献1参照)。このような食品用のX線検査装置は、例えば図9に模式的に示すように、上下方向にX線発生装置301とX線ラインセンサ302を対向配置するとともに、これらの間に被検査物Wを通過させるためにベルトコンベア303などの搬送装置を設けた構造が採用され、X線発生装置301とX線ラインセンサ302の間を被検査物Wが通過することにより、そのX線像が得られるようになっている。X線発生装置301とX線ラインセンサ302はX線防護箱304内に収容され、このX線防護箱304には、その内部に被検査物Wを搬入するための搬入口304aと、当該X線防護箱304から被検査物Wを搬出するための搬出口304bが設けられており、これらの搬入口304aおよび搬出口304bには、それぞれX線の外部への漏洩を防止するためのノレン(例えば鉛ノレン)305a,305bがそれぞれ設けられる。
【0004】
また、この種のX線検査装置は、例えばシートの生産工程のように、連続して被検査物が流れてくる場合にその被検査物の欠陥等の有無を検査する検査工程にも適用される場合が多い。
【0005】
例えばリチウム電池の内部に使用されるシートの内部欠陥はその安全性を確保するためには10μm以下の欠陥を検知する必要があり、高解像度で撮影できるX線ラインセンサが必要となる。
【0006】
X線ラインセンサを用いて高解像度で撮像する場合には、高速スキャンが必要なことに加えて画素サイズが小さくなることから、十分な感度を得にくい。例えば10m/分で被検査物が搬送されてくる場合、20μmの解像度で撮像しようとすれば、120μsの露光時間しか許容されない。ちなみに、一般の2次元カメラ(光学カメラ)は33ms程度の露光時間であることを考えると、上記の用途でのX線ラインセンサの露光時間はその1/330程度となり、この種の用途でのX線ラインセンサでは画素が小さいことと相まって、感度が低くなることは理解できる。
【0007】
このようなX線ラインセンサの感度を向上させるために、従来、TDI(Time Dlay Integration)方式と称されるX線ラインセンサが用いられる場合がある(例えば特許文献2参照)。
【0008】
TDI方式によるX線ラインセンサは、1ラインのみで露光するのではなく、副走査方向、つまり、ラインセンサのラインの伸びる方向と直交する方向、に画素を並べ(実用に供されているものでは200画素程度)、被検査物がラインセンサ上を移動する速度と同期してその移動方向、従ってラインセンサのラインの伸びる方向と直交する方向、にスキャンしながら画素の電荷を下流の画素に転送していくことで、1画素で得られる電荷を200倍程度にし、見かけ上の感度を向上させるようなものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−39442号公報
【特許文献2】特開2009−85845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前記したTDI方式のX線ラインセンサは、以下に示すような問題がある。 まず、X線透過方向への厚みのある被検査物や、シートが上下するような場合に像がぼけるという問題がある。すなわち、X線焦点からのX線は放射線状に広がっているため、X線発生装置とX線ラインセンサの間で、X線焦点に近い(X線ラインセンサから遠い)部分の像は、X線焦点から遠い部分の像よりも高速に進んでいるように観測される。これは、ラインセンサの副スキャン方向へのスキャン速度は一定であり、ある一定の高さでは被検査物の移動速度と一致するが、高さが異なると、これら両速度は一致しないためである。図10に図解して示す。図10において、P1,P2・・はX線ラインセンサの副走査方向への素子の並びを表し、FはX線焦点、Wは被検査物であるシートを表している。図10(A)は設定された位置(高さ)をシートWが搬送されたときの概念図で、TDI方式のX線ラインセンサの副走査方向へのスキャン速度とX線像の移動速度が同期している状態を示している。これに対し図10(B)は、シートWの搬送路が上にずれたときの概念図で、シートWが上記と同一速度で搬送されても、X線ラインセンサ上に投影する血管のX線像の移動速度が変化してしまい、そのために、X線ラインセンサの副走査方向へのスキャン速度とX線像の移動速度が同期していない状態を示している。このようにシートWが上下すると、副走査方向へのスキャン速度との同期がずれてしまい、結果として欠陥像がぼけているように撮影されてしまう。
【0011】
また、X線ラインセンサを被検査物の移動速度と同期させて副スキャン方向にスキャンする必要があるため、検査装置に被検査物の搬送速度を検知するセンサ(エンコーダなど)を設ける必要があるとともに、同期スキャン法の構築が必要となるなど、装置が複雑となる。また、X線焦点から実際の被検査物までの距離変動を許容できないことから、X線ラインセンサを用いた安定的な運用が困難となる。
【0012】
一方、前記した従来の食品用のX線検査装置においては、X線防護箱の出入口に設けられてX線の漏洩を防止するための鉛ノレンが必要であるが、このような鉛ノレンは、特に包装前の生の食品を検査する場合に、その食品に直接的に鉛ノレンが触れることが食品安全性の観点から問題があった。また、鉛を含有していない、例えばタングステン含有ノレンが近年採用されることもあるが、ノレン自体が汚れやすく衛生上の点で問題がある。
【0013】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、連続的に流れてくるシートなどの被検査物の内部検査を行うことのできるX線ラインセンサであって、搬送中にシートが上下しても、あるいはX線透過方向への厚みが大きな被検査物でも、解像度が低下することがなく、高い感度でのX線検出が可能で、かつ、装置の扱いを容易にし、安定した運用を実現することのできるX線ラインセンサの提供と、そのX線ラインセンサの特徴を活かして装置の簡素化を実現し、なおかつ衛生上の問題を解決した食品用X線検査装置の提供を課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するため、本発明のX線ラインセンサは、X線の入射により蛍光を発生する材料からなる光変換部材と、各一端部がそれぞれ上記光変換部材に臨むように直線状に配列されるとともに、他端部は2次元状に束ねられた光ファイバ束と、その光ファイバ束の他端部からの出射光を増強する光増強手段と、その光増強手段からの出射光を撮像する撮像手段を備えていることによって特徴づけられる(請求項1)。
【0015】
ここで、本発明のX線ラインセンサにおいては、上記光増強手段としてイメージインテンシファイアを用いた構成(請求項2)を好適に採用することができる。
【0016】
また、本発明のX線ラインセンサにおいては、上記光ファイバ束の他端部は当該光ファイバ束の一端部の順と無関係にランダムに2次元状に束ねられ、その2次元状に束ねられた各光ファイバと、上記一端側の直線状に並べられた各光ファイバとの位置関係をあらかじめ記憶する記憶手段を備えている構成(請求項3)を採用することができる。
【0017】
一方、本発明の食品用X線検査装置は、X線防護箱内に互いに対向して配置されたX線発生装置とX線ラインセンサの間で、当該X線防護箱に設けられた出口および入口を貫通するように配置された搬送手段により被検査物を搬送することにより、被検査物を透過したX線を上記X線ラインセンサで検出し、その検出出力を用いて被検査物のX線透過像を構築するとともに、そのX線透過像を用いた画像処理により、被検査物中の正常/異常を判定する判定手段を備えた食品用X線検査装置において、上記X線ラインセンサとして請求項1または2に記載のX線ラインセンサが用いられ、かつ、上記X線防護箱の出口および入口には、被検査物に触れるX線遮蔽手段が設けられていないことによって特徴づけられる(請求項4)。
【0018】
本発明は、シンチレータ等の入射X線を光に変換する材料からなる光変換部材から発生した光を、光ファイバ束によって光増強手段に導き、その光増強手段により増強された光を撮像手段によって撮像することで、課題を解決しようとするものである。
【0019】
すなわち、シンチレータ等の光変換部材にX線が入射することによって発生する蛍光は、一端が当該光変換部材に臨むように直線状に配列された光ファイバ束のファイバに入射して光増強手段に導かれる。光増強手段は、例えばイメージインテンシファイアによって構成され、その光増強手段からの出射光をCCD等の撮像手段で撮像する。光ファイバ束の他端部は、光増強手段に各ファイバの光を入射させるため、この光増強手段の入射面に沿うように2次元状に束ねられる。
【0020】
光増強手段として請求項2に係る発明のようにイメージインテンシファイアを用いた場合、イメージインテンシファイアは入射光量を10万倍程度に増幅することができ、これを用いることによって1ラインであっても十分な光量が得られ、撮像感度を高いものとすることができる。
【0021】
そして、本発明では、シンチレータ等の光変換部材によって変換された変換光を、イメージインテンシファイア等の手段によってそのまま増幅するのではなく、一端が直線状に並べられた光ファイバ束の一端に導いた後、その光ファイバ束の他端を2次元状に束ねて光増強手段に導くので、手段として例えばイメージインテンシファイアを用いる場合に、その口径を小さくすることができる。すなわち、例えば500mmのラインセンサを構築する場合、そのラインセンサの変換光をそのまま増幅する場合には極めて大口径のイメージインテンシファイアが必要となるが、一端を500mmにわたって一列に並べた光ファイバの他端を2次元状に束ねると直径数十mm程度に纏めることができ、その光を増幅するためには小口径のイメージインテンシファイアで足りる。これにより、X線ラインセンサの小型化を実現し、取扱い性を向上させることができる。
【0022】
一端側を一列状に並べた光ファイバ束の他端を2次元状に束ねる手法として、請求項3に係る発明のように、相互に位置の関連性を持たせず、ランダムに2次元状に束ねるとともに、各光ファイバについて、相互の位置関係を記憶しておくように構成すると、センサの組立が容易となる。なお、各光ファイバの両端部の相互の位置関係の求め方は後述する。
【0023】
一方、本発明の食品用異物検査装置は、本発明に係るX線ラインセンサの特徴を活かして、装置の簡素化を図ろうとするものであり、上記したように本発明のX線ラインセンサは感度を非常に高くすることができるため、解像度がそれほど要求されない食品用の異物検査装置においては、X線照射量を従来に比して大幅に少なくすることができる。すなわち、装置のX線防護箱に設けられた被検査物の出入口に鉛ノレン等のX線遮蔽手段をなくしても問題のないほどにX線照射量を落とすことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のX線ラインセンサによれば、従来のX線ラインセンサに比して、その感度を大幅に向上させることができるので、短い露光時間であっても鮮明に像を検出することができる。その結果、例えばシートの生産工過程のように、連続して被検査物が流され、その内部に微小な欠陥の有無を検出するような用途に十分に対応することができる。しかも、本発明のX線ラインセンサによると、TDIのように画素を副走査方向に並べることによる弊害をなくすることができる。すなわち、被検査物の上下変動により像がボケることがなく、また、厚みのある被検査物で像がボケることもない。また、被検査物の搬送速度を厳密に測定・ラインセンサスキャンと同期させるような複雑な機構も不要となり、安定した運用を実現することができ、装置の取扱いも容易である。
【0025】
一方、本発明の食品検査用異物検査装置によると、従来に比して大幅に高い解像度を有するX線ラインセンサを用い、その感度を大幅に向上させているため、被検査物に照射するX線量を極めて少なくすることが可能となり、防護箱に設けられて被検査物を通過させるための搬送出入口に鉛ノレン等のX線遮蔽手段を設ける必要のないレベルにまでX線照射量を落とすことができ、これにより装置洗浄等のメンテナンスをより簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態の模式的な分解斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態における光ファイバ束のイメージインテンシファイア側の端部を四角形としたときのCCDによる撮像結果の例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態における光ファイバ束の直線端にある各光ファイバがCCDで撮像した画像上のどの位置にあるのかを調査するための手法の説明図である。
【図4】図3の手法の過程で1本の光ファイバにマイクロスポットヘッドからの光を当てたときのCCDの撮像結果と、その位置の求め方の説明図である。
【図5】本発明の実施の形態における画像処理部内の位置メモリに格納される各光ファイバの位置情報の例の説明図である。
【図6】本発明の実施の形態のX線ラインセンサからの出力信号の例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態のX線ラインセンサをシート検査装置に適用した例を示す模式図である。
【図8】図1の本発明の実施の形態を食品用X線検査装置に適用した例の模式図である。
【図9】従来の食品用X線検査装置の構成例を示す模式図である。
【図10】TDI方式のX線ラインセンサの問題点を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態の構成を表す模式的な分解斜視図である。
使用時にX線焦点Fに対向する最前方の位置にスリット1が配設され、そのスリット1の後段にシンチレータ2が設けられている。スリット1は要求される副走査方向解像度に応じたスリット幅の溝1aが切られており、溝1a以外の部分ではX線は透過しないような仕組みとなっている。
【0028】
シンチレータ2の後段には、光ファイバ束3が設けられている。この光ファイバ束3は、シンチレータ2に対向する側の端部は、スリット1の溝1aに沿うように直線状に一列に並べられており、その反対側の端部は円形に纏められている。その円形に纏められた光ファイバ束の端部の後段にはイメージインテンシファイア4が配置されている。そして、その更に後段に、レンズ5を介してCCD6が配置されている。
CCD6はCCDドライブ7によって駆動制御され、また、CCD6の出力は後述するように設定された画像処理部8に導入され、X線ラインセンサの出力として外部に出力される。
【0029】
ここで、光ファイバ束3を構成する光ファイバとしては、通信用の高価なものではなく、照明用のφ0.1mm程度の安価なものでよい。この例では、φ0.1mmの光ファイバを5120本用いている。また、イメージインテンシファイア4に対向して円形に纏められる側の各光ファイバの順は、シンチレータ2に対向して直線状に一列に並べられる側の順と無関係でよく、後述する設定により両端部の関係が画像処理部7に記憶される。
また、光ファイバ束3のイメージインテンシファイア4側の端部の纏め方を円形としたのは、イメージインテンシファイア4の形に合わせるためであり、CCD6の形に合わせてもよく、その場合、四角形に纏めればよい。すなわち、光ファイバ束3のイメージインテンシファイア4側の端部の纏め方は、特に円形に限られるものではなく、要は1次元的な並びを2次元的な配列に変換し、イメージインテンシファイア4の口径を小さくできるような形とすれば足りる。
【0030】
以上の構成において、X線焦点Fから出力されたX線はスリット1の溝1aを通過してシンチレータ2に入射する。シンチレータ2に入射したX線はその線量に応じた蛍光を発光し、その発光した光は光ファイバ束3の直線配列端に入射し、他端側の円形に束ねられた端部にまで導かれる。光ファイバ束3の円形側の端部からの光はイメージインテンシファイア4に入射し、その光電子増倍効果によりおおよそ10万倍程度にまでされたうえでイメージインテンシファイア4から出力される。その増幅後の光はレンズ5によって集光され、CCD6の面上に結像し、このCCD6によりイメージインテンシファイア4の出射窓の光量分布が撮像される。イメージインテンシファイア4の出射窓の光量分布は、光ファイバ束3の直線側端部を経た円形側の端部での2次元分布に比例し、その光ファイバ束2の直線側端部に入射した光の分布はシンチレータ2に入射したX線量分布に比例するので、イメージインテンシファイア4の出射窓の2次元の光量分布を測定して光ファイバ束3の直線側端部での各光ファイバの配列順に並べ替えることにより、シンチレータ2に入射したX線量分布が判ることになる。
【0031】
図2に、光ファイバ束3のイメージインテンシファイア4側の端部を四角形としたときの、イメージインテンシファイア4の出射窓の光量分布をCCD6で撮像した画像の例を示す。この図2において円形に現れているのが1本の光ファイバからの光量により輝度が変化する領域であり、この円形領域は横80個、横64個の計5120個あり、それぞれの輝度は、光ファイバ束3の直線端の各光ファイバに入射する光量に対応している。
【0032】
なお、CCD6の画素数としては、80×64の円形領域の光量分布が判別できればいいので、VGA相当(640×480画素)があれば十分である。この程度の画素数としては、10,000フレーム/秒程度の高速カメラが市販されており、このカメラのCCDデバイスを用いることができる。
【0033】
次に、図2のように得られたCCD6による撮像結果を、シンチレータ2に入射したX線量分布に変換してX線ラインセンサによる検出結果として出力する手法について説明する。
【0034】
一端が直線状に並べられた光ファイバ束3の他端は、前記したように一端側の直線状の配列順とは無関係に並べられているため、CCD6により撮像した各円形領域と、直線状に並べられた各光ファイバとの位置関係を知る必要がある。この位置関係は、以下に示すように、製造時にジグを用いて調査・記憶される。
【0035】
図3は光ファイバ束3の直線端にある各光ファイバがCCD6で撮像した画像上のどの位置にあるのかを調査するための手法の説明図である。この実施の形態のX線ラインセンサは、その製造過程において、光ファイバ束3の一端を直線状に、他端を円形に束ねた後、円形端側にイメージインテンシファイア4とレンズ5およびCCD6を配置しただけの状態、つまり直線端側にシンチレータ2およびスリット1を未だ配置してない状態で、ジグ10を用いて上記の位置関係を求める。
【0036】
ジグ10は、光源11と、ライトガイド12、マイクロスポットヘッド13、マイクロスポットヘッド移動機構14、ジグ制御器15を主体として構成されている。光源11はハロゲンやLEDなどの直流点灯の光源を用い、その出力光をライトガイド12でマイクロスポットヘッド13に導く。マイクロスポットヘッド12は、その下面に光ファイバ束3を構成する各光ファイバの径よりも小さいスリットをカットしてある。
【0037】
マイクロスポットヘッド13は、マイクロスポットヘッド移動機構14の駆動により光ファイバ束3の直線端に密着して移動するようになっている。ジグ制御器15は、X線ラインセンサ内の画像処理部8とマイクロスポットヘッド移動機構14を駆動制御する。
【0038】
ジグ操作の開始指令を与えると、マイクロスポットヘッド移動機構14は、マイクロスポットヘッド13のスリットが、光ファイバ束3の直線端の列の最端部、例えば最も手前側の光ファイバの真上に位置するように移動させる。このとき、ジグ制御器15は、X線ラインセンサ内の画像処理部8に、マイクロスポットヘッド13が光ファイバ束3の直線端の上記の位置に存在することを伝える。画像処理部8では、CCD6により撮像された画像を取り込み、図4に例示するように最も明るい輝度のスポットの中心位置(x0,y0)を求め、画像処理部8内の位置記憶メモリに記憶し、記憶完了の旨をジグ制御部15に伝える。
【0039】
次に、ジグ制御部15からの指令により、マイクロスポットヘッド駆動機構14を駆動してマイクロスポットヘッド13のスリットが隣の光ファイバの真上に移動させ、その位置決めが完了すれば上記と同様にその旨を画像処理部8に伝える。画像処理部8では、同様にしてその時点で最も明るい輝度のスポットの中心位置(x1,y1)を求めて位置記憶メモリに記憶する。このような手順を順次繰り返し、全ての光ファイバ、すなわちこの例では5120本の光ファイバについて、それぞれにスポットを当てたときのCCD6による画像上でのスポットの中心位置を求めて記憶する。この動作により、画像処理部8内の位置記憶メモリ内に、光ファイバ束3の直線端に一列に並ぶ各光ファイバにそれぞれ対応する画像上の位置が順に記憶される。すなわち、図5に例示するように、光ファイバ束3の直線端の手前から奥にかけての各光ファイバについて、CCD6の画像上での位置関係を表すリストが作成されて記憶される。
【0040】
ここで、画像処理部8内の位置記憶メモリは、電源をOFFにした状態でも記憶内用が保持できる不揮発性メモリ、例えばフラッシュメモリやEEPROMなど、で構成されており、例えば出荷時に一度位置合わせを行えばよい。
【0041】
以上のようにして位置合わせを行った後、シンチレータ2とスリット1を取り付けることにより、図1に示した通りのX線ラインセンサが完成する。
【0042】
完成したX線ラインセンサにおいては、CCD6により撮像した画像の1フレームごとに、光ファイバ束3の直線端の順番と、画像上の位置のリストに基づいて、5120本の全ての光ファイバの輝度を算出する。それぞれの光ファイバの輝度がX線ラインセンサの1ライン分の出力データとなる。
【0043】
この例におけるX線ラインセンサの出力の仕方として、次の2つの方法のいずれを採用してもよい。その第1の方法は、図5のリストに対応した画像上の位置の画素の輝度を順に光ファイバの輝度(換言すればラインセンサの素子出力)として出力する方法である。第2の方法は、図5のリストに対応した画像上の位置の画素とその近傍の画素の輝度を積算したものを、1つの光ファイバの輝度(ラインセンサの素子出力)として順に出力する方法である。この第2の方法の方が、輝度解像度が高くなることは言うまでもない。
【0044】
図6に以上の本発明の実施の形態のX線ラインセンサからの出力信号の例を示す。
CCD6のフレームレートは、X線ラインセンサのスキャンレートと同一である。X線ラインセンサを例えば120μs/ラインで走査する場合には、CCD6のフレームレートは120μs/フレームである。1フレーム分の画像を取得してから1ラインのデータ(5120データ)を前記した手法に基づいて算出して出力する。1ラインの各データ(5120データ)はそれよりも高速のピクセルクロックに同期して順番に出力される。図6の例では、ピクセルクロックはおおよそ60MHz程度であり、出力をLVDSなどの差動出力とすれば、ケーブルを介して容易に信号伝送が可能である。VALID信号は1ライン分のデータが出力されているタイミングでHになる信号である。このX線ラインセンサを使用するには、VALIDがHの期間、出力データをピクセルクロックと同期して取り込めばよい。
【0045】
次に、以上の構成並びに動作からなる本発明の実施の形態のX線ラインセンサを用いた検査装置の例について述べる。
【0046】
図7は本発明の実施の形態のX線ラインセンサをシート検査装置に適用した例である。図7において、Wは被検査物であるシートであり、搬送装置(図示略)によって水平方向に搬送される。その搬送路上にX線発生装置101が配置されており、下方に向けてX線を発生する。被検査物であるシートWを挟んでX線発生装置101の鉛直直下に、上記した本発明に係るX線ラインセンサ102が配置されている。このX線ラインセンサ102の出力は検査部103に取り込まれ、シートWに欠陥があるか否かの検査に供される。この検査の手法は、X線を用いた食品異物検査などで用いられる、異物や空洞の検知手法と同等の公知の手法を用いることができる。
【0047】
検査部103での処理により欠陥が検地されると欠陥検知信号がONとなり、その信号はマーカー104に送信される。マーカー104は、X線ラインセンサ102よりもシートWの搬送方向下流側に配置されており、欠陥検知信号がONとなったときにシートの表面に内部欠陥がある旨のマーキングを行う。なお、マークが付されたシートは検査装置の通過後、その部分のみ切り取られ、その切り取られた部分は製品として出荷されない。
【0048】
このシート検査装置で用いるX線ラインセンサ102は、図1に示したものであって、ライン画素数5120画素、検出幅512mmであり、走査方向の解像度は0.1mm/画素、図1で示したスリット1には20μmの溝1aを切ってあるものとする。検知すべき欠陥は50μmであり、それには、走査方向の解像度を20μm/画素程度にする必要があるため、シートWをX線発生装置101側に近づけ、(X線発生装置の焦点とシート表面との距離):(X線発生装置の焦点とX線ラインセンサとの距離)=1.5とする。これにより、走査方向の解像度は20μm/画素となる。
【0049】
なお、X線発生装置101としては、焦点は解像度に対して十分に小さいこと、X線発生装置の焦点とX線ラインセンサとの距離において均一なX線量が得られるようなものであることが前提である。
【0050】
シートWの搬送方向(副走査方向)の解像度はX線ラインセンサ101に20μmのスリットが刻まれているので、シートWの搬送速度に応じてX線ラインセンサ101をスキャンすれば20μmの解像度が得られる。すなわち、
スキャンレート(Hz)=1秒間でシートが進む距離(μm)÷20μm
=10(m/分)÷60(分/秒)×1,000,000(m /μm)÷20(μm)
=8,330(1/秒)=8,330Hz
であり、1ラインのスキャン時間=160μsである。
【0051】
X線ラインセンサ102はこの時間のみ露光するので、図1におけるイメージインテンシファイア4を挿入しない場合には、十分な感度が得られない。イメージインテンシファイア4でシンチレータ2(同じく図1参照)からの蛍光を10万程度に増幅することができるので、イメージインテンシファイアを有さないセンサの露光時間に換算すると、160μs×100,000=16秒程度の露光時間をとった場合と等価の感度が得られる。
【0052】
ちなみに、比較例として、TDI方式のラインセンサを使用した場合について考えると、TDI方式のラインセンサはおおよそ200段のCCD画素で時間換算するので、露光時間は160μs×200=0.032秒程度ということになる
【0053】
ここで、一般に、露光時間を長くすればするほど、ノイズの少ない感度のよい画像が得られることが知られており、従って上記の露光時間の換算値の時間が長いほど良好な画像が得られることになる。すなわち、本発明に係るX線ラインセンサは、TDI方式のラインセンサに比して飛躍的に良好な画像が得られることになる。
【0054】
図7に示したシート検査装置は、前記したように走査方向(X線ラインセンサ101のライン方向)と副走査方向(シートWの搬送方向)それぞれに20μmの解像度で、シートWをX線透視した良好な画像を得ることができ、これを検査部103で処理することにより、シートW内の欠陥検査を実現できる。しかも、TDI方式のX線ラインセンサのように、副走査方向への画素の並びがなく、120μsの間に欠陥のX線像が画素上に投影されれば撮像できるので、シートWが上下に移動しても画像のぼけは生じない。
【0055】
次に、本発明の実施の形態のX線ラインセンサを用いた他の検査装置の例について述べる。図8はその模式図であり、X線発生装置201の鉛直下方にX線ラインセンサ202が対向配置され、これらの間に、被検査物Wを搬送するためのコンベア203が配置されている。X線発生装置201およびX線ラインセンサ202は、図9に示した従来のものと同様にX線防護箱204内に収容されており、このX線防護箱204には、被検査物Wを通過させるための搬入口204aと搬出口204bが形成されている。
【0056】
この食品用のX線検査装置の特徴は、X線ラインセンサ202として図1に示した本発明に係るX線ラインセンサを採用している点と、X線防護箱204の搬入口204aと搬出口204bに、ノレンが取り付けられていない点である。
【0057】
図9に示した従来のこの種の食品用X線検査装置においては、そこに用いられている従来のX線ラインセンサの感度がそれほど良好でないために、食品内の画像を得るためにはX線発生装置からのX線量を多くする必要がある。例えば管電圧50kV、管電流1mAのX線管からの照射を行っている。
【0058】
このようなX線量では、鉛ノレンがない場合、搬入口、搬出口から100μSv/hのX線漏洩が確認されている。鉛ノレンを取り付けることにより、X線漏洩は0.2μSv/h程度で収まる。1.3mSv/3カ月のX線を浴びると人体に影響があると言われ、法令でも限度を1.3mV/3カ月と定めている。これを時間換算すると、最大限に見積もって3カ月の間で1日16時間、30日間労働すると、おおよそ2.5μSv/h程度となる。つまり、食品業界に納入するX線検査装置は、装置のどの部分でも2.5μSv/h以下となるようにしなければならないことになる。図9に示した従来のX線線検査装置において、鉛ノレンを取り外したときのX線漏洩が、前記したように100μSv/hであるということは、基準の40倍を越える漏洩ということになる。
【0059】
翻って図8に示した本発明の実施の形態である食品用のX線検査装置に用いられている図1に例示した本発明に係るX線ラインセンサ202は、前記したように通常のX線ラインセンサに比べて最大10万倍程度感度がよくなるので、照射するX線も非常に少なくすることができる。図9の従来装置で鉛ノレンを取り外したときのX線漏洩が基準の40倍であることに鑑みると、鉛ノレンが存在しない図8の装置で基準を満たすには1/40の照射X線量でよいことになるが、より安全性を確保するために1/200程度の線量を照射することにする。
【0060】
X線発生装置201から放射するX線量は管電流に比例するので、従来、2mAで使用しているところを、管電流10μA程度で1/200の照射線量となる。照射されるX線量が1/200となっても、本発明に係るX線ラインセンサは、その内部のイメージインテンシファイアの光電子増倍率を調整することによって、検査可能な画像を得ることができるので、検査機能と鉛ノレンの取り外しとを両立させることができる。
【0061】
なお、一般に食品内の異物サイズはφ0.5mm程度であるので、この図8で用いるX
線ラインセンサの画素数としては500〜1000画素(ファイバ本数)程度、画素サイズ(ファイバ径)φ0.2〜0.5mm程度でよく、図1におけるスリット1を設ける必要もない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線の入射により蛍光を発生する材料からなる光変換部材と、各一端部がそれぞれ上記光変換部材に臨むように直線状に配列されるとともに、他端部は2次元状に束ねられた光ファイバ束と、その光ファイバ束の他端部からの出射光を増強する光増強手段と、その光増強手段からの出射光を撮像する撮像手段を備えてなるX線ラインセンサ。
【請求項2】
上記光増強手段がイメージインテンシファイアであることを特徴とする請求項1に記載のX線ラインセンサ。
【請求項3】
上記光ファイバ束の他端部は当該光ファイバ束の一端部の順と無関係に2次元状に束ねられ、その2次元状に束ねられた各光ファイバと、上記一端側の直線状に並べられた各光ファイバとの位置関係を記憶する記憶手段を備えていることを特徴とする請求項1または2に記載のX線ラインセンサ。
【請求項4】
X線防護箱内に互いに対向して配置されたX線発生装置とX線ラインセンサの間で、当該X線防護箱に設けられた出口および入口を貫通するように配置された搬送手段により被検査物を搬送することにより、被検査物を透過したX線を上記X線ラインセンサで検出し、その検出出力を用いて被検査物のX線透過像を構築するとともに、そのX線透過像を用いた画像処理により、被検査物中の正常/異常を判定する判定手段を備えた食品用X線検査装置において、
上記X線ラインセンサとして請求項1、2または3に記載のX線ラインセンサが用いられ、かつ、上記X線防護箱の出口および入口には、被検査物に触れるX線遮蔽手段が設けられていないことを特徴とする食品用X線検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−172993(P2012−172993A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32122(P2011−32122)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】