説明

X線撮影装置

【課題】X線撮影装置が透視撮影モードで動作する間に、透視撮影の開始直後から、診断に必要とされる十分な明るさのX線透視像が得られるようにする。
【解決手段】X線管3と、X線検出器5と、取得された各フレームの平均画素値を検出する画素値検出部11と、取得された各フレームの画像を処理する画像処理部10と、モニタ13と、X線の照射開始後の経過時間を計測する時間計測部18とを備える。画像処理部は、現在取得されたフレームおよびそのNフレーム前までの各フレームの画像に、合計が1となる割合で所定の重み係数を掛けた後、加算処理する画像加算部16と、X線の照射開始後、所定時間が経過するまでの間または取得されるフレームの平均画素値が予め決定された基準値を超えるまでの間、画像加算部の重み係数を合計が1を超えるように増大させる重み係数変更部17とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線撮影装置、特に、透視撮影機能を備えたX線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透視撮影機能を備えたX線撮影装置が診断や治療に利用されている。X線撮影装置は、透視撮影モードで動作するとき、被検体に対してX線を連続的に照射し、被検体を透過したX線をイメージ増倍管(I.I.)によって光学像に変換し、この光学像をTVカメラで撮影する。TVカメラで撮影された画像信号は、A/D変換器によって1フレーム毎のデジタル画像データに変換された後、画像処理部に送られる。画像処理部で処理された1フレーム毎の画像データは、順次、D/A変換器を経てモニタに送られ、それによって、X線透視像がモニタに表示される。
【0003】
この種のX線撮影装置においては、透視撮影モードで動作している間に、順次取得されるフレームの画像の明るさ(平均画素値)が測定され、被検体の部位毎の体厚の変化に伴ってフレームの画像の明るさが変動した場合に、明るさを所定の最適値にするべく、X線管に対する高電圧発生装置の自動輝度調整機構(IBS機構)によってX線の出力が調節されている。
【0004】
ところで、X線管からのX線の出力は、高電圧発生装置から供給される管電圧だけでなく、X線管のフィラメントおよび陽極間に流れる管電流にも依存する。したがって、X線管の起動直後や、X線管の起動後、しばらくの間X線の照射がなされない場合等においては、X線管のフィラメントが十分に温められていないので十分な管電流が得られず、必要な照射X線の出力が得られない。
【0005】
このため、X線撮影装置が透視撮影モードで動作するとき、透視撮影の開始直後は、IBS機構によってX線の出力を調節しても、しばらくの間、モニタ表示されるX線透視像が暗くなるという問題を生じていた。
【0006】
また、透視撮影では、X線撮影と異なり、単位時間当たりのX線照射量を少なくするので、ノイズ成分が増大してS/N比が低下し、その結果、X線透視像の品質が低下する。このため、この種のX線撮影装置は、リカーシブフィルタを備えることで、S/N比の改善を図っている。
リカーシブフィルタは、現在取得されたフレームの画像と、それ以前に取得されたフレームの画像とを重み付け加算処理することにより、ノイズを相殺し、S/N比を改善する機能を有している。この場合、重み係数は、合計が1になるような一定の割合で、加算処理される画像のそれぞれに割り当てられる。
【0007】
そして、リカーシブフィルタの重み係数を、合計が1となる範囲内で、X線照射のタイミングに応じて変化させて、透視撮影開始直後のX線透視像の明るさを増大させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法によっても、正確な診断に必要な明るさのX線透視像は得られず、それによって、透視撮影開始直後の一定時間内は、診断に支障をきたすおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−161636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の課題は、X線撮影装置が透視撮影モードで動作する間に、透視撮影の開始直後から、診断に必要とされる十分な明るさのX線透視像が得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、被検体に対してX線を照射するX線管と、前記X線管に対して電圧を供給する高電圧発生部と、前記被検体を透過するX線を検出して、透視像の画像信号を出力するX線検出器と、前記X線検出器の出力端子に接続されたA/D変換器と、前記A/D変換器から出力された各フレームの平均画素値を検出する画素値検出部と、前記A/D変換器から出力された1フレーム毎の画像データを処理して出力する画像処理部と、前記画像処理部の出力端子に接続されたD/A変換器と、前記D/A変換器から出力された画像信号に基づいてX線透視像を表示するモニタと、前記X線管によるX線の照射開始後の経過時間を計測する時間計測部と、を備え、前記画像処理部は、現在取得されたフレームおよびそのNフレーム前(Nは正の整数)までの各フレームの画像データ、および該各フレームの平均画素値を格納する画像メモリ部と、前記画像メモリ部に格納された各フレームの画像に、合計が1となる割合で予め決定された重み係数をそれぞれ掛けた後、加算処理する画像加算部と、前記X線の照射開始後、所定時間が経過するまでの間または取得されるフレームの平均画素値が予め決定された基準値を超えるまでの間、前記画像加算部の前記重み係数を、合計が1を超えるように増大させる重み係数変更部と、を有していることを特徴とするX線撮影装置を構成したものである。
【0011】
上記構成において、前記重み係数変更部は、前記画像メモリ部に格納された各フレームの画像の各平均画素値を前記基準値と比較し、前記各平均画素値の前記基準値からの増減の割合に基づいて、対応するフレームの画像に対する前記重み係数を決定することが好ましい。
また、前記画素値検出部は、各フレームの画像全体の平均画素値、または各フレームの予め決定された位置にある画像部分の平均画素値を検出することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、X線撮影装置が透視撮影モードで動作するとき、透視撮影の開始後(X線の照射開始後)所定時間が経過するまでの間、または、X線の照射開始後、取得されるフレームの平均画素値が所定の基準値を超えるまでの間、1フレームの画像が取得される毎に、当該フレームの画像と、そのNフレーム前までの画像とに、合計が1以上となる割合で、重み係数をそれぞれに割り当て、各フレームの画像を加算処理した後、モニタ表示するようにしたので、透視撮影開始直後であっても、非常に明瞭な透視画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の1実施例によるX線撮影装置のブロック図である。
【図2】重み係数の値の一例を示すグラフであり、(A)は、X線の出力が定常状態のときの重み係数の値を示し、(B)は、重み係数変更部によって変更された重み係数の値を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施例について説明する。図1は、本発明の1実施例によるX線撮影装置のブロック図である。図1を参照して、本発明によれば、天板1上の被検体2に対してX線を照射するX線管3と、X線管3に対して電圧を供給する高電圧発生部4と、被検体2を透過するX線を検出して、透視像の1フレーム毎の画像信号を出力するX線検出器5が備えられる。
【0015】
この実施例では、X線検出器5は、被検体2を透過したX線を蛍光体により可視光に変換するイメージ増倍管(I.I.)6と、変換された可視光を、光学系7を通じて撮影するTVカメラ8とから構成される。なお、X線検出器5として、I.I.6、光学系7およびTVカメラ8の組み合わせの代わりに、フラットパネルディテクタ(FPD)を用いることもできる。
また、高電圧発生部4は、透視輝度自動調整機構(IBS)機構を備えている。
【0016】
TVカメラ8の出力端子には、A/D変換器9が接続され、A/D変換器9から出力された1フレーム毎のデジタル画像データが画像処理部10において処理される。画像処理部10の出力端子にはD/A変換器12が接続され、D/A変換器12から出力された画像信号に基づいてモニタ13にX線透視像が表示される。
【0017】
高電圧発生部4、I.I.6、光学系7、TVカメラ8、および画像処理部10は、システムコントローラ14によって制御される。
本発明によれば、また、X線管3によるX線の照射開始後の経過時間を計測する時間計測部18が備えられる。
【0018】
本発明によれば、さらに、A/D変換器9から出力される各フレームの平均画素値を検出する画素値検出部11が備えられる。
画素値検出部11は、各フレームの画像全体の平均画素値(画像の明るさ)を検出する構成となっていてもよいし、各フレームの予め決定された位置にある画像部分の平均画素値を検出する構成となっていてもよい。後者の場合には、画素値検出部11は、例えば、撮影に先立って、サンプル画像をモニタ13に表示し、操作者に対し、マウスを用いて、モニタ13に表示したサンプル画像中にポインタを置いてマウスボタンをクリックさせることによって、位置座標のデータ入力を受けるようになっている。
また、画素値検出部11の検出値は高電圧発生部4のIBS機構に送られる。IBS機構は、この検出値に基づき、取得されるフレームの画像の明るさが所定値になるまで、X線管3からのX線の出力を調節する。そして、取得されるフレームの画像の明るさが所定値になると、IBS機構は動作を停止し、それによって、X線管3からのX線の出力は一定になる。
【0019】
画像処理部10は、現在取得されたフレームおよびそのNフレーム前(Nは正の整数)までの各フレームの画像データ、および該各フレームの平均画素値を格納する画像メモリ部15と、画像メモリ部15に格納された各フレームの画像に、合計が1となる割合で予め決定された重み係数をそれぞれ掛けた後、加算処理する画像加算部16を有している。
すなわち、現在取得されたフレームの画像をF、そのNフレーム前までの各フレームの画像をF、F、・・・、Fn−1、Fとし、各フレームに割り当てられる重み係数をk、k、k、・・・、kn−1、kとすると、画像加算部16から出力される処理後の画像は、
F=k+k+k+・・・+kn−1n−1+k
(k+k+k+・・・+kn−1+k=1)
となる。
【0020】
この実施例では、画像メモリ部15は、現在取得されたフレームの画像データFおよびその3フレーム前までの各フレームの画像データF、F、Fを該各フレームの平均画素値とともに格納し、画像加算部16は、画像メモリ部15に格納された4フレームの画像F、F、F、Fに、合計が1となる割合で予め決定された重み係数k、k、k、kをそれぞれ掛けた後、加算処理するようになっている。
【0021】
これらの4フレームの画像F、F、F、Fにそれぞれ割り当てられる重み係数k、k、k、kの値は、図2(A)のグラフに示すように、k=0.4、k=0.3、k=0.2、k=0.1と予め決定され、よって、画像加算部16から出力される処理後の画像は、
F=0.4F+0.3F+0.2F+0.1F
となる。
この実施例では、重み係数は、フレームが過去に遡るにつれて直線的に小さくなるように決定され、それによって、X線の出力が一定の場合に、画像の加算による残像の効果が少なくなるようにしている。しかし、重み係数を決定する方法はこれに限定されず、全ての重み係数が同じ値になるようにしてもよいし、フレームが過去に遡るにつれて重み係数が二次関数的に小さくなるようにしてもよい。
【0022】
画像処理部10は、さらに、X線の照射開始後、所定時間が経過するまでの間または取得されるフレームの平均画素値が予め決定された基準値を超えるまでの間、画像加算部16の重み係数を、合計が1を超えるように増大させる重み係数変更部17を有している。
この場合、X線の照射開始後とは、X線撮影装置が起動された場合、または、透視モードにおいてX線の出力がしばらく停止していた後に再びX線の照射が開始された場合をいい、また、X線の照射開始後、所定時間が経過するまでの間とは、上記X線撮影装置の起動後等において、X線管3のフィラメントが十分に温まってX線管3の出力が定常状態になるまでの間をいう。なお、X線の照射開始後、X線管3の出力が定常状態になるまでに要する時間は、X線管3の種類や照射条件等によって異なるので、上記所定時間は、予めX線撮影装置の試験運転の結果に基づいて決定される。
また、X線の照射開始後、X線管3の出力が定常状態になるまでの間を、経過時間を測定することで捉える代わりに、取得されるフレームの平均画素値を検出することで捉えることもできる。この場合には、X線の照射開始後、取得されるフレームの平均画素値が予め決定された基準値を超えるまでの間、重み係数が合計が1を超えるように増大せしめられる。
【0023】
重み係数変更部17は、画像メモリ部15に格納された各フレームの画像の各平均画素値を基準値と比較し、各平均画素値の基準値からの増減の割合に基づいて、対応するフレームの画像に対する重み係数を決定する。この場合、重み係数変更部17は、1フレームの画像が取得される毎に重み係数を変更するようになっていてもよいし、また、動作開始時に決定した重み係数をその動作中は変更しないようになっていてもよいし、また、動作中に状況に応じてその都度重み係数を変更するようになっていてもよい。
【0024】
X線の照射開始後所定時間が経過した後または取得されるフレームの平均画素値が予め決定された基準値を超えた後は、重み係数変更部17は動作を停止する。そして、画像加算部16は、合計が1となる範囲内で各フレームの画像に割り当てられた予め決定された重み係数を用いて、重み付け加算処理を行い、処理後の画像を出力する。
【0025】
図2(B)には、重み係数変更部17による重み係数の変更例を示した。この例は、4つのフレームF、F、F、Fの画像の平均画素値が、基準値の27%程度の大きさしかない場合を想定している。図2(B)のグラフに示すように、各重み係数は、k=1.0、k=1.0、k=0.8、k=0.6であり、重み係数の合計が3.4となる。その結果、画像加算部16による重み付け加算処理後の出力が、最適の明るさを有するようになる。
【0026】
この例では、現在取得されたフレームの画像Fと、その1フレーム前の画像Fの重み係数の値が同じで、2フレーム前の画像Fと3フレーム前の画像Fについては、重み係数が直線的に減少するように設定されるが、重み係数の設定値はこの組み合わせに限定されず、例えば、フレームが過去に遡るにつれて重み係数が二次関数的に減少するように設定してもよい。また、各画像の平均画素値がさらに小さい場合には、重み係数が全体的に大きくなる方向に調節され、逆に、各画像の平均画素値がより大きい場合には、重み係数が全体的に小さくなる方向に調節される。
【0027】
こうして、本発明によるX線撮影装置によれば、X線の照射開始直後の、明瞭なX線透視像を得るのに十分なX線出力が得られないときに、現在取得されたフレームの画像と、過去Nフレーム前までの各画像とに、合計が1を超えるような重み係数をそれぞれ掛け、それらの画像を加算処理し、さらに公知の所定の画像処理を施した後、モニタ表示するようにしたので、透視撮影の開始直後から、被検体の明瞭なX線透視像を取得することができ、迅速かつ的確な診断を実現することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 天板
2 被検体
3 X線管
4 高電圧発生部
5 X線検出器
6 I.I.
7 光学系
8 TVカメラ
9 A/D変換器
10 画像処理部
11 画素値検出部
12 D/A変換器
13 モニタ
14 システムコントローラ
15 画像メモリ部
16 画像加算部
17 重み係数変更部
18 時間計測部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対してX線を照射するX線管と、
前記X線管に対して電圧を供給する高電圧発生部と、
前記被検体を透過するX線を検出して、透視像の画像信号を出力するX線検出器と、
前記X線検出器の出力端子に接続されたA/D変換器と、
前記A/D変換器から出力された各フレームの平均画素値を検出する画素値検出部と、
前記A/D変換器から出力された1フレーム毎の画像データを処理して出力する画像処理部と、
前記画像処理部の出力端子に接続されたD/A変換器と、
前記D/A変換器から出力された画像信号に基づいてX線透視像を表示するモニタと、
前記X線管によるX線の照射開始後の経過時間を計測する時間計測部と、
を備え、
前記画像処理部は、
現在取得されたフレームおよびそのNフレーム前(Nは正の整数)までの各フレームの画像データ、および該各フレームの平均画素値を格納する画像メモリ部と、
前記画像メモリ部に格納された各フレームの画像に、合計が1となる割合で予め決定された重み係数をそれぞれ掛けた後、加算処理する画像加算部と、
前記X線の照射開始後、所定時間が経過するまでの間または取得されるフレームの平均画素値が予め決定された基準値を超えるまでの間、前記画像加算部の前記重み係数を、合計が1を超えるように増大させる重み係数変更部と、を有していることを特徴とするX線撮影装置。
【請求項2】
前記重み係数変更部は、前記画像メモリ部に格納された各フレームの画像の各平均画素値を前記基準値と比較し、前記各平均画素値の前記基準値からの増減の割合に基づいて、対応するフレームの画像に対する前記重み係数を決定することを特徴とする請求項1に記載のX線撮影装置。
【請求項3】
前記画素値検出部は、各フレームの画像全体の平均画素値、または各フレームの予め決定された位置にある画像部分の平均画素値を検出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のX線撮影装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate