説明

X線検出システム

【課題】電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、回折格子やイメージセンサに入射するX線の比率を大きくする。
【解決手段】試料20に対して電子線を照射する電子線照射部10と、電子線が照射された前記試料20から放出される特性X線を集光させて回折格子50に導くX線集光ミラー34と、前記X線集光ミラー34により集光された特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子50と、前記回折格子50で生じた回折X線を検出するイメージセンサ70と、を有し、前記X線集光ミラー34の位置もしくは角度を調整するX線集光ミラー調整部32を有する、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線検出システムに関し、特に、走査型電子顕微鏡に取り付けられて軟X線を分光分析する際において軟X線とカソードルミネッセンスの分離が可能なX線検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
試料に電子線などの荷電粒子線を照射すると、該試料から特性X線が発生する。この特性X線を検出器で検出し、試料の組成を計測する手法はエネルギー分散型X線分光と呼ばれている。この手法では、特性X線が試料を構成する元素の特有なエネルギーを持つことを利用している。単位時間当たりのX線発生個数をX線のエネルギー毎に計数して試料の元素組成等の情報を得ている。ここで、X線を検出する手段として、シリコンやゲルマニウム等の半導体結晶を用いた半導体検出素子を用いるのが一般的である。
【0003】
一方、試料に電子線などの荷電粒子線を照射して発生した特性X線を回折格子に入射すると、回折X線が分離される。この回折X線をX線用CCDイメージセンサで検出し、画像化する手法も存在している。
【0004】
この手法を実現する装置としては、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された試料から放出される特性X線を集光させて回折格子に導くX線集光ミラーと、X線集光ミラーにより集光された特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、を備えて構成されている。
【0005】
この種のX線検出システムについては、以下の特許文献1にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−329473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のようなX線検出システムにより、酸化物・窒素物等の化合物を試料として電子線を照射すると、特性X線以外に、特性X線とは波長が異なるカソードルミネッセンス(CL)と呼ばれる発光が発生する。そして、このカソードルミネッセンスは回折格子において全反射に近い状態で反射され、イメージセンサに入射してしまう。この結果、イメージセンサ上において回折X線の信号レベルが相対的に低下して採取スペクトルが不明瞭な状態になり、測定時間や測定精度に悪影響を及ぼすことになる。
【0008】
この場合に、回折X線とカソードルミネッセンスとを分離できることが望ましいが、これらを分離するのに適したフィルタが存在していないという問題が存在している。
【0009】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するシステムにおいて、回折格子やイメージセンサに入射するX線の比率を大きくすることが可能なX線検出システムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、上記の課題を解決する本願発明は、以下のそれぞれに述べるようなものである。
【0011】
(1)この発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を集光させて回折格子に導くX線集光ミラーと、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整するX線集光ミラー調整部と、前記X線集光ミラーにより集光された特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、を有することを特徴とするX線検出システムである。
【0012】
(2)以上の(1)において、前記X線集光ミラー調整部は、前記イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向と直交する方向に光の向きを変えるよう、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する、ことを特徴とする。
【0013】
(3)以上の(1)−(2)において、前記X線集光ミラーと前記回折格子との間に配置されるスリットと、前記イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向と直交する方向に、前記スリットの位置を調整するスリット調整部と、を更に有することを特徴とする。なお、このスリットは、X線やカソードルミネッセンスなどを遮断する材質で構成されることが望ましい。
【0014】
(4)以上の(1)−(3)において、前記回折格子の回折面側に所定の距離をあけて配置されるスリットと、前記イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向に、前記スリットの位置を調整するスリット調整部と、を更に有することを特徴とする。なお、このスリットは、X線やカソードルミネッセンスなどを遮断する材質で構成されることが望ましい。
【0015】
(5)以上の(1)−(4)において、前記回折格子と前記イメージセンサとの間に配置されるスリットと、前記イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向に、前記スリットの位置を調整するスリット調整部と、を更に有することを特徴とする。なお、このスリットは、X線やカソードルミネッセンスなどを遮断する材質で構成されることが望ましい。
【0016】
(6)以上の(1)−(5)において、前記回折格子は不等間隔回折格子である、ことを特徴とする。
【0017】
(7)以上の(1)−(6)において、前記X線集光ミラー、前記回折格子、および前記イメージセンサは、真空ポンプで排気され、ゲートバルブを介して走査型電子顕微鏡の鏡筒に取り付けられた分光器室内に備えられる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
これらの発明によると、以下のような効果を得ることができる。
【0019】
(1)この発明では、電子線が照射された試料から放出される特性X線をX線集光ミラーで集光させて回折格子に導き、回折格子で生じた回折X線をイメージセンサで検出してX線検出を実行しており、この際に、X線集光ミラー調整部によってX線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する。
【0020】
ここで、特性X線については、X線集光ミラーにおける反射によって、平行光に近い状態で回折格子に導かれる。一方、カソードルミネッセンスは、特性X線よりも長波長であるので特性X線よりも小さい入射角でX線集光ミラーにおける反射が可能であり、特性X線よりも小さい入射角で回折格子に導かれる。
【0021】
このため、X線集光ミラー調整部によってX線集光ミラーの位置もしくは角度を調整することで、カソードルミネッセンスを回折格子の範囲外に導くことが可能になり、回折格子やイメージセンサに入射する特性X線の比率を大きくすることが可能になる。
【0022】
(2)上記(1)において、X線集光ミラー調整部は、イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向と直交する方向に出射する光の向きを変えるようX線集光ミラーの位置もしくは角度を調整することにより、カソードルミネッセンスを回折格子の範囲外に導くことが可能になり、イメージセンサ上の回折X線のイメージに影響を与えることなく、カソードルミネッセンスの影響を小さくすることが可能になる。
【0023】
(3)上記(1)−(2)において、X線集光ミラーと回折格子との間にスリットを配置し、イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向と直交する方向にスリット調整部によってスリットの位置を調整し、カソードルミネッセンスの光路上にスリットを配置させることにより、イメージセンサ上の回折X線のイメージに影響を与えることなく、カソードルミネッセンスを遮断して影響を小さくすることが可能になる。
【0024】
(4)上記(1)−(3)において、回折格子の回折面側に所定の距離をあけてスリットを配置し、イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向に、スリット調整部によりスリットの位置を調整することにより、回折格子で回折する特性X線以外の成分(回折格子で回折せずにX線集光ミラーからイメージセンサに直接進むカソードルミネッセンスなど)を遮断することができる。
【0025】
(5)上記(1)−(4)において、回折格子とイメージセンサとの間にスリットを配置し、イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向に、スリット調整部によりスリットの位置を調整することにより、回折格子で回折する特性X線以外の成分(回折格子でに到達せずに、回折格子の後ろ側に進み、装置内部で反射・散乱してイメージセンサに進む特性X線やカソードルミネッセンスなど)を遮断することができる。
【0026】
(6)上記(1)−(5)において、回折格子として不等間隔回折格子を用いることで、平行に近い大きな(90°近い)入射角で入射させたとき、収差補正がなされると共に、その回折光に対して垂直な結像面を実現できる。
【0027】
(7)上記(1)−(6)において、X線集光ミラー調整部によるX線集光ミラーの調整あるいはスリット調整部によるスリットの調整により、真空を維持した状態のまま、カソードルミネッセンスの影響を抑える調整が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【図3】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【図4】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図5】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【図6】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図7】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【図8】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図9】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の画像形成装置を実施するための形態(実施形態)を詳細に説明する。
【0030】
〈第1実施形態〉
まず図1と図2を参照して第1実施形態のX線検出システムの構成を説明する。
【0031】
なお、この図1においては、鏡筒や架台などの各部を保持するための既知の基本的部材、真空を保持する機構部分などについては省略し、実施形態の特徴部分の配置を中心に示している。
【0032】
電子線照射部10は、走査電子顕微鏡の鏡筒部分に設けられ、試料20に対して電子線を照射する。
【0033】
X線集光ミラー部30は、試料20から放出される特性X線を、2枚のミラー34aと34bとで集光させて回折格子50に導く。ここで、X線集光ミラー部30で集光させることにより、回折格子50に入射する特性X線の強度を増加させて、測定時間の短縮、スペクトルのS/N比を向上させることができる。なお、X線集光ミラー部30の詳細については後述する。
【0034】
回折格子50は、X線集光ミラー部30により集光された特性X線を受けて、エネルギーに応じて回折状態が異なる回折X線を生じさせる。この回折格子50は、収差補正のために不等間隔の溝が形成されており、このような不等間隔回折格子は、大きな入射角(回折格子面(図1のY軸)に平行に近い角度)で入射させたとき、回折光の焦点をローランド円上ではなく、光線にほぼ垂直な平面(イメージセンサ70の受光面:図1のXZ平面))上に作るように設計される。
【0035】
イメージセンサ70は、回折X線を検出するため、軟X線に感度を有するX線用のCCDカメラあるいはX線用のCMOSカメラである。望ましくは、背面照射型のX線用CCDカメラで構成されている。このイメージセンサ70は、その受光面が回折X線の結像面に一致するように位置調整がなされる。
【0036】
なお、以上の試料20、X線集光ミラー部30、回折格子50、およびイメージセンサ70は、図示されていないが、真空ポンプで排気された分光器室に設けられ、ゲートバルブを介して走査型電子顕微鏡の鏡筒に取り付けられているものとする。
【0037】
また、このX線検出システムにおける回折格子50およびその周辺の構成の詳細については、本件出願人が別途特許出願した特開2002−329473号公報に記載されている。また、イメージセンサ70で得られた回折X線の処理システムについては、既知のものを使用することができるため、説明を省略する。
【0038】
X線集光ミラー部30は、2枚のミラー34aと34bとを向き合わせて1組としている。そして、それぞれのミラー34aと34bの向き合う面は、図2の紙面垂直方向(Z方向)に平坦である。そして、ミラーの間隔は、試料側(入射側)が狭く、回折格子側(出射側)が広くなる曲面で構成されている。これにより、ミラー無しの場合と比べると、回折格子50に入射する特性X線の強度を増加させ、これにより測定時間の短縮、スペクトルのS/N比を向上させることができる。
【0039】
また、X線集光ミラー部30は、X線検出システムにおいて位置が固定された固定部31、固定部31に対してミラー保持部33の位置あるいは角度を調整するX線集光ミラー調整部32(調整部材32a、32b、32c、32d)、固定部31上(XY平面上)で移動自在であってミラー34aと34bとを保持するミラー保持部33、ミラー34a、ミラー34b、を備えて構成されている。
【0040】
なお、固定部31は、X線集光ミラー部30として備えていてもよいが、X線検出システムのシャーシなどをそのまま使用してもよい。
【0041】
また、X線集光ミラー調整部32は、ミラー保持部33の4隅を支えるよう、対向する位置に設けられた調整部材32aと32c、対向する位置に設けられた調整部材32bと32d、で構成され、各調整部材がXY平面においてX方向あるいは−X方向にミラー保持部33を微調整する構成の具体例を示している。
【0042】
また、ミラー保持部33は、説明を簡略化するため平面状である具体例を示しているが、これに限定されず、ミラー34aと34bとを一体保持するミラー外部筐体のような筒状の構造体であってもよい。
【0043】
ここで、対向する位置に設けられた調整部材32aと32c、32bと32dとについては、対向位置の両方を、ピエゾ素子、アクチュエータ、ビスなどの能動的調整部材としてもよいし、対向位置の一方を能動的調整部材、対向位置の他方をバネやゴムなどの弾性体で構成された受動的調整部材としてもよい。
【0044】
また、X線検出システムの設置時の向きにより対向位置のいずれか一方が大地面に近くなるようにして、重力を利用し、設置時の下側を能動的調整部材として、対向位置側(上側)の調整部材を省略することも可能である。
【0045】
また、調整部材32a〜32dとしてのビスを、マイクロメーターとすることで、変位量を確認しつつ調整することが可能になる。
【0046】
ここで、図2(a)はミラー34aと34bとが中立状態にある具体例を示している。ここで、試料20からの特性X線を破線で示し、カソードルミネッセンス(CL)を二点鎖線で示している。この図2(a)に示すように、検出対象である軟X線などの特性X線だけでなく、不要なカソードルミネッセンスもX線集光ミラー部30で集光されて回折格子50に入射している。
【0047】
ここで、特性X線については、ミラー34aと34bとにおける反射によって、比較的平行光に近い状態(90°に近い、大きな入射角)で反射・集光されて回折格子に導かれている。
【0048】
一方、カソードルミネッセンスは、特性X線よりも長波長であるので、特性X線では反射せずに吸収されてしまうような、特性X線よりも小さい入射角でミラー34aと34bにおける反射が可能である。この結果、カソードルミネッセンスは、特性X線よりも小さい入射角で回折格子50に導かれる傾向がある。
【0049】
この結果、図2(a)に示すように、カソードルミネッセンスは回折格子50の周辺部分に比較的集まって入射する傾向がある。
【0050】
そこで、ミラー保持部33の4隅に設けられた調整部材32a、32b、32c、32dのいずれかをX方向あるいは−X方向に調整し、ミラー保持部33を固定部31に対して微調整する。
【0051】
図2(b)に示す例では、調整部材32aを伸長、対向する位置に設けられた調整部材32cを圧縮し、調整部材32bを圧縮、対向する位置に設けられた調整部材32dを伸長することで、XZ平面内においてミラー保持部33を反時計方向に回転させている。なお、この回転は、請求項におけるX線集光ミラーの角度を変えることに相当する。
【0052】
これにより、ミラー34aと34bとが反時計方向に回転したことで反射角が変化し、回折格子50の+X方向端部に入射していたカソードルミネッセンスは、回折格子50から外れた位置に進むことになり、回折格子50での回折もイメージセンサ70への入射も無くなる。
【0053】
この際に、回折格子50の+X方向端部に入射していた特性X線の一部も、回折格子50から外れた位置に進むことになるが、カソードルミネッセンスを回折格子50の範囲外に確実に導くことにより、回折格子50やイメージセンサ70に入射するX線の比率を大きくすることが可能になる。
【0054】
なお、図示していないが、カソードルミネッセンスが回折格子50の−X方向端部に入射していれば、ミラー34aと34bとを時計方向に回転させることで、カソードルミネッセンスを回折格子50の−X方向端部から外すことができる。
【0055】
図2(c)に示す例では、調整部材32aを圧縮、対向する位置に設けられた調整部材32cを伸長し、調整部材32bを圧縮、対向する位置に設けられた調整部材32dを伸長することで、XZ平面内においてミラー保持部33を−X方向にシフト移動させている。なお、このシフト移動は、請求項におけるX線集光ミラーの位置を変えることに相当する。
【0056】
このようなミラー34aと34bの−X方向シフト移動により、光源(試料20)とミラーとの位置関係が変化して反射角が変化し、ミラー34aで反射して回折格子50の+X方向端部に入射していたカソードルミネッセンスは、回折格子50から外れた位置に進むことになり、回折格子50での回折もイメージセンサ70への入射も無くなる。
【0057】
この際に、回折格子50の+X方向端部に入射していた特性X線の一部も、回折格子50から外れた位置に進むことになるが、カソードルミネッセンスを回折格子50の範囲外に確実に導くことにより、回折格子50に入射する特性X線やイメージセンサ70に入射する回折X線の比率を大きくすることが可能になる。
【0058】
なお、図示していないが、カソードルミネッセンスが回折格子50の−X方向端部に入射していれば、ミラー34aと34bとを+X方向にシフト移動させることで、カソードルミネッセンスを回折格子50の−X方向端部から外すことができる。
【0059】
また、この第1実施形態によると、X線集光ミラー部30での調整であるので、使用する回折格子50の種類に影響されることなく、不要なカソードルミネッセンス除去による回折格子50へ入射する特性X線の比率を上げるという良好な効果を得ることが可能である。
【0060】
以上の調整部材32a〜32dの調整操作は、オペレータによる手動のビスの回転送り操作、オペレータによる手動のアクチュエータの伸長・圧縮操作、イメージセンサ70の回折X線の解析結果による制御部(図示せず)の自動制御、などのいずれであってもよい。
【0061】
また、以上の調整部材32a〜32dの調整に変更が生じない場合には、ビスの回転送り操作によって調整し、そのままの状態で固定しておくことで良好な状況を保持することができる。
【0062】
〈第1実施形態の変形例(1)〉
ここで、第1実施形態の変形例(1)について説明する。
【0063】
ミラー保持部33は、図2(b)方向やその逆方向のXY平面における回動のみが可能な、回転軸や回転レールなどの回動機構(図示せず)を介して固定部31上に配置されていてもよい。
【0064】
この場合には、少なくとも、上述した調整部材32a〜32dのいずれか一つのみを用いるようにしてもよい。図3(a)では、調整部材32aのみを用いた例を示している。この場合にも、図2(b)と同等な動作が可能になる。
【0065】
〈第1実施形態の変形例(2)〉
ここで、第1実施形態の変形例(2)について説明する。
【0066】
ミラー保持部33が、図2(c)方向やその逆方向のシフト移動のみが可能なシフト移動用滑り機構などのシフト移動機構(図示せず)を介して固定部31上に配置されていてもよい。
【0067】
この場合にも、少なくとも、上述した調整部材32a〜32dのいずれか一つのみを用いるようにしてもよい。図3(b)では、調整部材32aのみを用いた例を示している。この場合にも、図2(c)と同等な動作が可能になる。
【0068】
〈第2実施形態〉
ここで、図4と図5を参照して第2実施形態のX線検出システムの構成を説明する。
【0069】
なお、この図4において、図1と同様に、鏡筒や架台などの各部を保持するための既知の基本的部材、真空を保持する機構部分などについては省略し、実施形態の特徴部分の配置を中心に示した状態で示している。
【0070】
ここで、第1実施形態の図1と同一部分には同一番号を付すことで、重複した説明を省略する。
【0071】
なお、この第2実施形態においても、第1実施形態の調整部材32a〜32dを適用することが可能であるため図4中に示されているが、必須のものではない。
【0072】
この図4において図1と異なる部分は、X線集光ミラー部30と回折格子50との間の回折X線の光路上にスリット42aと42bを備え、イメージセンサ70の受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向(図4でZ方向)と直交する方向(図4でX方向)にスリット42aと42bの位置を調整するスリット調整部41とを更に有することである。なお、スリット調整部41、スリット42aと42b、によりスリット部40を構成している。また、このスリット42aと42bとは、X線やカソードルミネッセンスなどを遮断する材質で構成されることが望ましい。
【0073】
このスリット調整部41は、各種の移動機構あるいは駆動機構を用いることができ、リニアモータやアクチュエータを用いた電気的なものであってもよいし、外部から手動でネジの回転送り操作により調整する機械的なものであってもよい。この点は、第1実施形態のX線集光ミラー調整部32(調整部材32a、32b、32c、32d)と同様である。
【0074】
また、スリット42aと42b側に駆動機構を設け、レール上を移動するような構成であってもよい。また、スリット42aと42bとは、スリット調整部41によって連動して開閉移動するものであってもよいし、スリット42aと42bとが個別に開閉移動するものであってもよい。
【0075】
ここで、図5(a)はスリット42aと42bとが初期状態あるいはスリット開放状態にある具体例を示している。ここで、図2と同様に、試料20からの特性X線を破線で示し、カソードルミネッセンス(CL)を二点鎖線で示している。この図5(a)に示すように、検出対象である軟X線などの特性X線だけでなく、不要なカソードルミネッセンスもX線集光ミラー部30で集光されて、スリット42aと42bとを通過して、回折格子50に入射している。
【0076】
ここで、図2(a)で説明した場合と同様に、図5(a)に示すようにカソードルミネッセンスは回折格子50の周辺部分に比較的集まって入射する傾向がある。
【0077】
そこで、図5(b)に示すように、イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向と直交する方向、すなわち、X線集光ミラー30と回折格子50との間の光路のX方向の外側部分を絞るように、スリット調整部41によってスリット42aと42bとをX方向に互いに接近させるように調整する。
【0078】
このようにスリット42aと42bとが互いにX方向に接近したことで光路が狭まり、回折格子50の+X方向端部に入射していたカソードルミネッセンスは遮断され、回折格子50に進むことができず、回折格子50での回折もイメージセンサ70への入射も無くなる。
【0079】
この際に、スリット調整部41による調整によっては、回折格子50の+X方向端部に入射していた特性X線の一部も遮断され、回折格子50に到達できなくなるが、カソードルミネッセンスを回折格子50に到達できないように確実に遮断することにより、回折格子50に入射する特性X線やイメージセンサ70に入射する回折X線の比率を大きくすることが可能になる。
【0080】
なお、図示していないが、カソードルミネッセンスが回折格子50の−X方向端部に入射している場合でも、このようにスリット42aと42bとを互いに接近させることで、カソードルミネッセンスは遮断され、回折格子50に進むことができず、回折格子50での回折もイメージセンサ70への入射も無くなる。
【0081】
図5(c)に示す例では、イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向と直交する方向、すなわち、X線集光ミラー30と回折格子50との間の光路のX方向の外側部分であって、カソードルミネッセンスが通過する側を絞るように、スリット調整部41によってスリット42aと42bのいずれか一方を調整する。ここでは、スリット調整部41によりスリット42bを−X方向に、すなわち光路を狭めるように調整する。
【0082】
このようにスリット42bによって光路が狭まり、回折格子50の+X方向端部に入射していたカソードルミネッセンスは遮断され、回折格子50に進むことができず、回折格子50での回折もイメージセンサ70への入射も無くなる。
【0083】
この際に、スリット調整部41による調整によっては、回折格子50の+X方向端部に入射していた特性X線の一部も遮断され、回折格子50に到達できなくなるが、カソードルミネッセンスを回折格子50に到達できないように確実に遮断することにより、回折格子50入射する特性X線やイメージセンサ70に入射する回折X線の比率を大きくすることが可能になる。
【0084】
また、図5(c)に示す例では、スリット42bのみを−X方向に移動させてカソードルミネッセンスを遮断するようにしているが、スリット42aと42bとを同時に−X方向に移動させてカソードルミネッセンスを遮断するようにしてもよい。
【0085】
なお、図示していないが、カソードルミネッセンスが回折格子50の−X方向端部に入射している場合には、少なくともスリット42aをX方向に移動させて光路を狭めるよう調整することで、カソードルミネッセンスは遮断され、回折格子50に進むことができず、回折格子50での回折もイメージセンサ70への入射も無くなる。
【0086】
また、この第2実施形態によると、スリット部40での調整であるので、使用する回折格子50の種類に影響されることなく、不要なカソードルミネッセンス除去による回折格子50へ入射する特性X線の比率を上げるという良好な効果を得ることが可能である。
【0087】
また、この第2実施形態では、カソードルミネッセンスが及ぼす影響によるイメージセンサ70上での採取スペクトルの不明瞭さによっては、測定対象である特性X線(軟X線)についての減衰をある程度許容してでもカソードルミネッセンスをスリット部40によって積極的に除去することで、結果としてはより良好な軟X線スペクトルの検出が可能となる。
【0088】
以上のスリット調整部41によるスリット42aと42bの調整操作は、オペレータによる手動のビスの回転送り操作、オペレータによる手動のアクチュエータやリニアモータの操作、イメージセンサ70の回折X線の解析結果による制御部(図示せず)の自動制御、などのいずれであってもよい。
【0089】
また、以上のスリット調整部41の調整に変更が生じない場合には、ビスの回転送り操作によって調整し、そのままの状態で固定しておくことで良好な状況を保持することができる。
【0090】
〈第3実施形態〉
ここで、図6と図7を参照して第3実施形態のX線検出システムの構成を説明する。
【0091】
なお、この図6において、図1や図4と同様に、鏡筒や架台などの各部を保持するための既知の基本的部材、真空を保持する機構部分などについては省略し、実施形態の特徴部分の配置を中心に示した状態で示している。
【0092】
ここで、第1実施形態の図1、第2実施形態の図4と同一部分には同一番号を付すことで、重複した説明を省略する。
【0093】
なお、この第3実施形態においても、第1実施形態の調整部材32a〜32dを適用することが可能であるため図6中に示されているが、必須のものではない。
【0094】
この図6において図1や図4と異なる部分は、回折格子50の回折面側に所定の距離をあけて配置されるスリット62と、イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向に、スリット62の位置を調整するスリット調整部61と、を更に有することを特徴とする。なお、スリット調整部61、スリット62によりスリット部60を構成している。また、このスリット62は、X線、カソードルミネッセンス、荷電粒子、中性粒子、など各種を遮断する材質で構成されることが望ましい。
【0095】
なお、X線集光ミラー部30から見て回折格子50の後端側(イメージセンサ70に近い側)に入射する特性X線の光線と、X線集光ミラー部30から見て回折格子50の先端側(X線集光ミラー部30に近い側)で回折する回折X線の光線とが交わるポイント(以下、クロスポイント(図7(a)参照)と呼ぶ)を定め、回折格子50表面とクロスポイントの間を所定の距離として、回折格子50表面から所定の距離以遠をスリット62で遮断できることが望ましい(図7(b)参照)。
【0096】
すなわち、クロスポイントにスリット62の先端が接するようにスリット62を配置することで、回折格子50による回折に影響を与えずに、回折格子50を経由しないで試料20やX線集光ミラー部30から直接イメージセンサ70に到達する不要光(カソードルミネッセンス、回折X線とならない特性X線、荷電粒子、中性粒子、など(図7(a)参照))を有効に遮断することが可能になる。
【0097】
なお、特性X線のエネルギーや回折格子50の種類によって上述したクロスポイントの位置が変化するため、図7(b)に示すように、スリット62はスリット調整部61によってZ方向に調整可能であることが望ましい。
【0098】
以上のように、回折格子50の回折面側に所定の距離をあけてスリット62を配置し、イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向(図7のZ方向)に、スリット調整部61によりスリット62の先端位置をクロスポイントに合わせるよう調整することにより、特性X線や回折X線を阻害することなく、回折格子50で回折する特性X線以外の各種不要光を効率的に遮断することができる。
【0099】
このスリット調整部61は、各種の移動機構あるいは駆動機構を用いることができ、リニアモータやアクチュエータを用いた電気的なものであってもよいし、外部から手動でネジの回転送り操作により調整する機械的なものであってもよい。この点は、第1実施形態や第2実施形態と同様である。
【0100】
また、この第3実施形態でも、以上のスリット調整部61の調整に変更が生じない場合には、ビスの回転送り操作によって調整し、そのままの状態で固定しておくことで良好な状況を保持することができる。
【0101】
〈第4実施形態〉
ここで、図8と図9を参照して第4実施形態のX線検出システムの構成を説明する。
【0102】
なお、この図8において、図1や図4や図6と同様に、鏡筒や架台などの各部を保持するための既知の基本的部材、真空を保持する機構部分などについては省略し、実施形態の特徴部分の配置を中心に示した状態で示している。
【0103】
ここで、第1実施形態の図1、第2実施形態の図4、第2実施形態の図6と同一部分には同一番号を付すことで、重複した説明を省略する。
【0104】
なお、この第4実施形態においても、第1実施形態の調整部材32a〜32dを適用することが可能であるため図8中に示されているが、必須のものではない。
【0105】
この図8において図1や図4と異なる部分は、回折格子50とイメージセンサ70と間にスリット62’を配置し、イメージセンサ70の受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向(図8のZ方向)に、スリット調整部61’によりスリット62’の位置を調整可能に構成することである。また、このスリット62’は、X線やカソードルミネッセンスなどを遮断する材質で構成されることが望ましい。
【0106】
このような構成にすることにより、図9(a)(b)に示すように、回折格子50で回折する特性X線以外の成分(回折格子でに到達せずに、回折格子の後ろ側に進む特性X線やカソードルミネッセンスなど)を遮断することができる。
【0107】
そして、このように回折格子50の後ろ側に進んでしまう特性X線やカソードルミネッセンスなどによって、装置内部の各種部材に反射・散乱して生成される反射光や散乱光がイメージセンサ70に入射すること(図9(a)参照)を、防止することが可能になる。
【0108】
なお、特性X線のエネルギーや回折格子50の種類によって、回折X線や不要光の光路が異なるため、図9(b)に示すように、スリット62’はスリット調整部61’によってZ方向に調整可能であることが望ましい。これにより、回折X線の進路を阻害せずに、回折格子50の後ろに進む特性X線などを効率的に遮断除去することができる。
【0109】
なお、このスリット調整部61’は、各種の移動機構あるいは駆動機構を用いることができ、リニアモータやアクチュエータを用いた電気的なものであってもよいし、外部から手動でネジの回転送り操作により調整する機械的なものであってもよい。この点は、第1実施形態や第2実施形態や第3実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0110】
10 電子線照射部
20 試料
30 X線集光ミラー部
40 スリット部
50 回折格子
60 スリット部
70 イメージセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を集光させて回折格子に導くX線集光ミラーと、
前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整するX線集光ミラー調整部と、
前記X線集光ミラーにより集光された特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、
を有することを特徴とするX線検出システム。
【請求項2】
前記X線集光ミラー調整部は、前記イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向と直交する方向に光の向きを変えるよう、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する、
ことを特徴とする請求項1記載のX線検出システム。
【請求項3】
前記X線集光ミラーと前記回折格子との間に配置されるスリットと、
前記イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向と直交する方向に、前記スリットの位置を調整するスリット調整部と、
を更に有することを特徴とする請求項1−2に記載のX線検出システム。
【請求項4】
前記回折格子の回折面側に所定の距離をあけて配置されるスリットと、
前記イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向に、前記スリットの位置を調整するスリット調整部と、
を更に有することを特徴とする請求項1−3のいずれか一項に記載のX線検出システム。
【請求項5】
前記回折格子と前記イメージセンサとの間に配置されるスリットと、
前記イメージセンサの受光面上における回折X線のイメージのエネルギー分散方向に、前記スリットの位置を調整するスリット調整部と、
を更に有することを特徴とする請求項1−4のいずれか一項に記載のX線検出システム。
【請求項6】
前記回折格子は不等間隔回折格子である、
ことを特徴とする請求項1−5のいずれか一項に記載のX線検出システム。
【請求項7】
前記X線集光ミラー、前記回折格子、および前記イメージセンサは、真空ポンプで排気され、ゲートバルブを介して走査型電子顕微鏡の鏡筒に取り付けられた分光器室内に備えられる、
ことを特徴とする請求項1−6のいずれか一項に記載のX線検出システム。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−32261(P2012−32261A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171611(P2010−171611)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人科学技術振興機構 産学共同シーズイノベーション化事業
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】