説明

X線検査方法

【課題】肉厚補正治具を使用することなく簡易かつ正確に検査対象物の欠陥等を検出する。
【解決手段】異なる複数の既知の厚みを有する較正体に対してX線を照射して各厚みとこの部分のX線透過量の関係を測定するステップと、各厚みとこの部分でのX線透過量の関係が直線状になるように前記各厚みにおける較正値を決定するステップと、欠陥等の無い正常な検査対象物のX線透過量に基づいた画像をマスタ画像として得るステップと、マスタ画像の各部のX線透過量より当該X線が透過した部分の前記検査対象物の厚みを得るステップと、通常の検査対象物のX線透過量に基づいた画像をテスト画像として得るステップと、前記マスタ画像と前記テスト画像の各部のX線透過量の差分たる差分X線透過量に基づいた差分画像を算出するステップと、前記差分画像の各部の位置に対応した前記マスタ画像部分の厚みにおける前記較正値を前記各部の差分X線透過量に乗じて較正差分X線透過量を算出してこれに基づく較正差分画像を得るステップとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線検査方法に関し、特に、検査対象物の厚み変化に無関係に正確に検査対象物における欠陥等の検出を行うことが可能なX線検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
厚みxの物質をX線が透過する場合、透過するX線の線束密度(X線透過量)Iは以下の式(1)で表され、厚みxに対して指数関数的に低減する。なお式(1)中、Ioは物質に入射するX線の線束密度、μは定数である。したがって、検査対象物が厚くなると、欠陥等の存在によって検査対象物の厚みが局部的に変化してもX線透過量の変化は小さく、欠陥等の検出感度が低くなるため正確な検出ができないという問題があった。そこで、例えば特許文献1では、検査対象物に肉厚補正治具を装着して検査対象物の厚み変化による検出感度の低下を回避するようにしている。
【0003】
【数1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−254507
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし上記公報に記載の方法では、肉厚補正治具を製作してこれを検査対象物に装着する手間を要するとともに、上記公報において指摘されているように肉厚補正治具自体の欠陥等によって検査対象物の欠陥等の正確な検出が妨げられるという問題もあった。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、肉厚補正治具を使用することなく簡易かつ正確に検査対象物の欠陥等の検出ができるX線検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本第1発明では、異なる複数の既知の厚みを有する較正体に対してX線を照射して各厚みとこの部分のX線透過量の関係を測定するステップと、各厚みとこの部分でのX線透過量の関係が直線状になるように前記各厚みにおける較正値を決定するステップと、検査対象物にX線を照射してこのときのX線透過量より当該X線が透過した部分の厚みを得て、当該厚みにおける前記較正値を前記X線透過量に乗じて較正X線透過量を得るステップとを備える。
【0008】
本第1発明によれば、X線透過量に、当該X線が透過した部分の厚みに応じた較正値を乗じて較正X線透過量を得ることにより、検査対象物の厚みが厚くなると厚み変化に対する検出感度が低下するという問題を回避でき、従来のような肉厚補正治具を使用することなく簡易かつ正確に検査対象物の欠陥等の検出をすることができる。
【0009】
本第2発明では、異なる複数の既知の厚みを有する較正体に対してX線を照射して各厚みとこの部分のX線透過量の関係を測定するステップと、各厚みとこの部分でのX線透過量の関係が直線状になるように前記各厚みにおける較正値を決定するステップと、欠陥等の無い正常な検査対象物のX線透過量に基づいた画像をマスタ画像として得るステップと、マスタ画像の各部のX線透過量より当該X線が透過した部分の前記検査対象物の厚みを得るステップと、通常の検査対象物のX線透過量に基づいた画像をテスト画像として得るステップと、前記マスタ画像と前記テスト画像の各部のX線透過量の差分たる差分X線透過量に基づいた差分画像を算出するステップと、前記差分画像の各部の位置に対応した前記マスタ画像部分の厚みにおける前記較正値を前記各部の差分X線透過量に乗じて較正差分X線透過量を得るステップとを備える。
【0010】
本第2発明においては、欠陥等を生じた部分のみに生じる差分X線透過量に較正値を乗じて較正差分X線透過量を得ることによって、欠陥等の位置、大きさ、深さ(高さ)等を正確に検出することができる。
【0011】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明のX線検査方法によれば、肉厚補正治具を使用することなく簡易かつ正確に検査対象物の欠陥等の検出をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】較正体の全体斜視図である。
【図2】ワーク厚とX線透過量の関係を示すグラフである。
【図3】マスタ画像の正面図である。
【図4】テスト画像の正面図である。
【図5】差分画像の正面図である。
【図6】差分画像の要部の、反転信号の信号レベルを示すグラフである。
【図7】較正差分画像の正面図である。
【図8】較正差分画像の要部の、反転信号の信号レベルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明方法は、検査対象物に対しX線を照射してX線透過量に応じた透過画像を得るX線撮像装置と、以下に説明する各手順の処理を行うコンピュータ装置とによって実現される。
【0015】
最初に、図1に示すような較正体1を使用して、検査対象物(ワーク)の厚みに対するX線透過量を測定する。すなわち本実施形態における較正体1はワークと同材で形成された長尺の角型棒体で、その一側縁には例えば10mm、20mm、30mm、‥、と既知の厚みの、複数の階段部11,12,13,14,15が形成されている。なお、図1では図解を容易にするために階段部11〜15の数を実際よりも少なくしてある。このような較正体1の階段部11〜15に対してX線管の管電圧を一定にして順次X線を照射して、この時のX線透過量を測定する。
【0016】
X線透過量の測定値の一例を図2の白角印で示す。階段部(ワーク)の厚みに対するX線透過量の変化曲線mは先に式(1)で示した指数関数となるから、ワーク厚が厚くなるとその厚み変化に対するX線透過量の変化割合が小さくなり、厚み変化に他する感度が低くなる。そこで、本実施形態では、ワークの厚みとX線透過量の関係が図2の直線n状になるような各厚みにおける較正値C1,C2,C3,C4,C5,C6を決定してこれをテーブルとして記憶しておく。
【0017】
次に、例えば図3に示すような欠陥等のないワークにX線を照射して各部のX線透過量に応じた輝度のマスタ画像Mを得る。そして、このマスタ画像Mの各部の輝度(X線透過量)より、図1の線mの関係を使用してワーク各部の厚みを算出しておく。
【0018】
続いて、同種の一般のワークにX線を照射して各部のX線透過量に応じた輝度のテスト画像N(図4)を得る。本実施形態ではワーク上とその近傍に、径の異なる金属硬球を間隔をおいて複数配置してこれらを欠陥等の代わりとした。テスト画像N中のA領域の黒点が金属硬球である。
【0019】
次のステップでは、ガウシアンフィルタ等によってそれぞれマスタ画像Mとテスト画像Nのノイズ除去を行った後、両画像M,Nの位置を一致させる。この後、両画像M,Nの差分を算出する。差分画像Eを図5に示す。差分画像Eにはテスト画像NのA領域に配設された硬球の像E1,E2,E3,E4,E5,E6のみが現れるが、硬球の像E2にはワークのエッジ部の像E21,E22が付随している。この場合の差分画像Eの、各部の輝度(差分X線透過量)を反転させた反転信号を図6に示すが、これより明らかなように、各硬球の像E1〜E6部分の反転信号F1,F2,F3,F4,F5,F6の信号レベルは、対応する硬球の径(厚み)に対応するものとはなっておらず、しかも、像E2に対応する反転信号F2にはワークエッジ部の像E21,E22による信号F21,F22が付随している。
【0020】
ここにおいて、本実施形態では、差分画像Eの各部の輝度(差分X線透過量)に対して、当該各部のワーク厚みに対応する較正値C1〜C6を、先に準備した較正値テーブルから選択して、当該較正値C1〜C6を上記輝度に乗じて得られる較正輝度(較正差分X線透過量)よりなる較正差分画像G(図7)を得る。なお、画像G中の符号G1,G2,G3,G4,G5,G6は、テスト画像N(図4)のA領域に配設された硬球の像である。
【0021】
較正差分画像Gの、各部の較正輝度(較正差分X線透過量)を反転させた反転信号を図8に示す。これより明らかなように、各硬球の像G1〜G6部分の反転信号H1,H2,H3,H4,H5,H6の信号レベルは、対応する硬球の径(厚み)に正確に対応するものとなっており、しかも、反転信号H2には、反転信号F2に付随していた、ワークエッジ部の像E21,E22による信号F21,F22も付随していない。このように、較正差分画像Gを得ることによって、ワークに生じた欠陥等の位置、大きさ、深さ(高さ)等を正確に検出することができる。
【符号の説明】
【0022】
1…較正体、E…差分画像、G…較正差分画像、M…マスタ画像、N…テスト画像。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる複数の既知の厚みを有する較正体に対してX線を照射して各厚みとこの部分のX線透過量の関係を測定するステップと、各厚みとこの部分でのX線透過量の関係が直線状になるように前記各厚みにおける較正値を決定するステップと、検査対象物にX線を照射してこのときのX線透過量より当該X線が透過した部分の厚みを得て、当該厚みにおける前記較正値を前記X線透過量に乗じて較正X線透過量を得るステップとを備えるX線検査方法。
【請求項2】
異なる複数の既知の厚みを有する較正体に対してX線を照射して各厚みとこの部分のX線透過量の関係を測定するステップと、各厚みとこの部分でのX線透過量の関係が直線状になるように前記各厚みにおける較正値を決定するステップと、欠陥等の無い正常な検査対象物のX線透過量に基づいた画像をマスタ画像として得るステップと、マスタ画像の各部のX線透過量より当該X線が透過した部分の前記検査対象物の厚みを得るステップと、通常の検査対象物のX線透過量に基づいた画像をテスト画像として得るステップと、前記マスタ画像と前記テスト画像の各部のX線透過量の差分たる差分X線透過量に基づいた差分画像を算出するステップと、前記差分画像の各部の位置に対応した前記マスタ画像部分の厚みにおける前記較正値を前記各部の差分X線透過量に乗じて較正差分X線透過量を得るステップとを備えるX線検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−145507(P2012−145507A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5354(P2011−5354)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(591172054)株式会社明和eテック (24)
【Fターム(参考)】