説明

X線測定システム

【課題】複数のエージング条件の内から、不使用時間に応じて、自動的に最適なエージング条件を選択して、X線管球のエージング実行することが可能なX線測定システムを提供する。
【解決手段】X線管球26への電源オフの時刻と電源オンの時刻からX線管球26の不使用時間を計算する不使用時間計算手段22を有する測定ユニット4aと、複数のエージング条件の内からX線管球26の最適なエージング条件を自動的に選択するエージング条件選択手段12を有するコントローラ3aとを備え、最適なエージング条件によりX線管球26のエージングを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線を発生させるX線管球を備えたX線測定システムに係り、特にX線管球のエージングに関する。
【背景技術】
【0002】
X線測定システムは、X線管球とX線検出器とを互いに対峙するように配置させ、X線管球により発生されたX線をX線をX線検出器によって検出することにより、種々の測定をするシステムである。X線管球は、高電圧が印可されるフィラメント(陰極)とターゲット(陽極)とを備えており、フィラメントから放出された熱電子をターゲットに衝突させることによってX線を発生させる。このX線管球を初めて使用するときや、長い不使用期間の後に使用を再開するときには、高い管電圧を急に印可させずに管電圧を徐々に高くしていくことにより、焦点軌道面の突起等の異物を融解して焦点軌道面をならして耐高電圧特性を向上させる「X線管球のエージング」が必要である。
【0003】
このため、表示部と、電源のオンとオフとを切り換えるための電源操作部と、この電源操作部が操作されたタイミングを記憶する電源操作記憶部と、電源操作部により電源がオンに切り換えられたときに、電源操作記憶部に記憶された前回の電源オフのタイミングと今回の電源オンのタイミングとに基づいて、前回の電源オフから今回の電源オンまでの経過時間を算出する不使用時間算出部と、この算出された経過時間が所定時間以上である場合に、X線管1のエージングを実施するか否かユーザに判断させるエージング実施判断情報を表示部に表示させる表示制御部とを備えるX線測定システムが提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−82650号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に提案された従来のX線測定システムにおいては、X線管球のエージングを実施するか否かの判断は、表示部に表示させられたエージング実施判断情報を見て、人間(ユーザ)が判断しなくてはならないという不都合があった。
【0005】
更に、従来のX線測定システムにおいては、ある1つのエージング条件を行うか否かの判断を人間(ユーザ)がする方法である。しかし、X線管球のエージングは、X線管球の不使用時間に応じて異なるエージング条件で実施するのが好ましく、従来のX線測定システムにおいては、複数のX線管球のエージングの実施条件の選択を、不使用時間に応じてユーザが行うこともできないという問題もあった。
【0006】
本発明は、上記した従来の技術の欠点を除くためになされたものであって、その目的とするところは、複数のX線管球のエージング条件の内から、X線管球の不使用時間に応じて、自動的に最適なエージング条件を選択して、X線管球のエージング実行することが可能なX線測定システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の態様は(イ)電源オフの時刻と電源オンの時刻からX線管球の不使用時間を計算する不使用時間計算手段を有する測定ユニットと、(ロ)複数のエージング条件の内からX線管球の最適なエージング条件を自動的に選択するエージング条件選択手段を有するコントローラとを備え、最適なエージング条件によりX線管球のエージングを行うX線測定システムであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複数のX線管球のエージング条件の内から、X線管球の不使用時間に応じて、自動的に最適なエージング条件を選択して、X線管球のエージング実行することが可能なX線測定システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、図面を参照して、本発明の第1〜第2の実施の形態を説明する。以下の図面において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0010】
又、以下に示す第1〜第2の実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成物品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の技術的思想は、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0011】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係るX線測定システムは、図1に示すようにコントローラ3aと測定ユニット4aとを備える。コントローラ3aは、演算制御回路(CPU)1aと、「X線管球26の複数のエージング条件」を記録しているエージング条件記録装置14aと、「X線管球26の不使用時間に応じて設定されているエージング条件の表」を記録する対応表記録装置15aとを備える。一方、測定ユニット4aは、X線発生部2aと、X線発生部2aの電源オフの時刻を記録するオフ時刻記録装置27と、X線管球26の不使用時間を記録する不使用時間記録装置28とを備える。
【0012】
測定ユニット4aを構成するX線発生部2aは、測定用のX線を発生するX線管球26と、このX線管球26にX線を発生するための高電圧を供給する管球用高圧電源24と、管球用高圧電源24を制御する高圧電源制御回路25と、X線管球26の不使用時間を計算し、算出したX線管球26の不使用時間を不使用時間記録装置28に格納する不使用時間計算手段22と、不使用時間記録装置28から不使用時間計算手段22が算出したX線管球26の不使用時間を読み出し、読み出されたX線管球26の不使用時間を演算制御回路(CPU)1aに送信する、不使用時間送信手段23aとを含んでいる。なお、図1は論理的な構成を示すブロック図であるので、オフ時刻記録装置27及び不使用時間記録装置28は、物理的にはX線発生部2aの内部に内蔵されていても、X線発生部2aの外部に接続されていても構わない。
【0013】
コントローラ3aを構成する演算制御回路(CPU)1aは、測定ユニット4aの不使用時間送信手段23aからX線管球26の不使用時間を受信する不使用時間受信手段11aと、不使用時間受信手段11aからX線管球26の不使用時間が伝達され、複数のエージング条件の内から最適なX線管球26のエージング条件を選択するエージング条件選択手段12と、エージング条件選択手段12から最適なエージング条件が伝達され、X線管球26のエージングを実行するコマンドを作成しX線発生部2aの高圧電源制御回路25に送信する、X線装置制御手段13とを含んでいる。上述したように、図1は論理的な構成を示すブロック図であるので、エージング条件記録装置14aや対応表記録装置15aは、物理的には演算制御回路(CPU)1aの内部に内蔵されていても、演算制御回路(CPU)1aの外部に接続されていても構わない。
【0014】
X線発生部2aの高圧電源制御回路25は、演算制御回路(CPU)1aのX線装置制御手段13からX線管球26の最適なエージング条件を実行する実行コマンドを受信し、管球用高圧電源24を制御する。高圧電源制御回路25から最適なエージング条件を実行する実行コマンドが伝達されると、管球用高圧電源24は、エージング条件選択手段12が複数のエージング条件の内から選択した最適なエージング条件により、X線管球26に、電圧(V)又は電流(I)を、階段波(ランプ波)状に徐々に高くしていくように印加し、X線管球26のエージングを行う。エージングにより、X線管球26の焦点軌道面の突起等の異物が融解し、焦点軌道面がならされ、X線管球26の耐高電圧特性が向上する。
【0015】
本発明の第1の実施の形態に係るX線測定システムは、上記のように構成されており、エージング条件記録装置14aと、対応表記録装置15aと、エージング条件選択手段12と、X線装置制御手段13とを含むことにより、X線測定システムは、X線管球26の不使用時間に応じて、複数のエージング条件の内から最適なエージング条件を自動的に選択して実行するように働くので、X線管球26の最適なエージング条件による自動エージングが可能となる。
【0016】
従来技術では、1種類のエージング条件を実施するか否かの判断を、ユーザにさせていたが、本発明の第1の実施の形態に係るX線測定システムによれば、ユーザの判断無しにエージング条件記録装置14aに記録された複数のエージング条件から最適な条件を自動的に選択して、X線管球のエージングを実施することが可能となる。又、本発明の第1の実施の形態に係るX線測定システムによれば、以下のX線管球のエージング方法に例示したように、X線測定システムのユーザは、X線管球26の不使用時間を知らなくても、自動的に決定されたエージング条件により、最適なX線管球26のエージングを実施し、X線管球26の寿命を延ばすことができる。又、従来、X線管球26のエージングはサービスマンが行っていたが、その必要はなくなり、ユーザが自動的に決められた条件でX線管球26のエージングを行うことが可能になる。
【0017】
更に、図1に示すように、不使用時間記録装置28とエージング条件選択手段12、エージング条件記録装置14a、対応表記録装置15aとがハードウェア構成で分かれているため、本発明の第1の実施の形態に係るX線測定システムによれば、エージング条件の更新、装置本体だけの入れ替えなどにも柔軟に対応できる。特に、エージング条件記録装置14a、対応表記録装置15aの記憶内容を書き換えることにより、最新のエージング条件に更新することも可能である。
【0018】
次に、図2のフローチャートを用いて、本発明の第1の実施の形態に係るX線管球のエージング方法の一例について説明する。
【0019】
(イ)まず、測定ユニット4aでは、ステップS101において、前回の使用者がX線発生部2aの高圧電源をオフすると、ステップS102において、高圧電源をオフした時刻がオフ時刻記録装置27に記録される。次に、ステップS103において、今回の使用者が再びX線発生部2aの高圧電源をオンすると、ステップS104において、高圧電源をオンした時刻が、レジスタ等のオン時刻記録装置(図示省略。)に記録される(「今回の使用者」と「前回の使用者」とが、同一のユーザであっても、異なるユーザであっても構わない。)。次に、ステップS105において、不使用時間計算手段22が、オンした時刻とオフした時刻との差(X線管球26の不使用時間)を算出する。算出されたX線管球26の不使用時間は、不使用時間記録装置28に記録される。ステップS107において、不使用時間送信手段23aは、不使用時間記録装置28から不使用時間計算手段22が算出したX線管球26の不使用時間を読み出し、読み出されたX線管球26の不使用時間をコントローラ3aへと送信する。
【0020】
(ロ)コントローラ3aでは、ステップS201において、X線管球26の不使用時間が、不使用時間受信手段11aによって受信され、エージング条件選択手段12に伝達される。次に、ステップS202において、エージング条件選択手段12は、エージング条件記録装置14aに記録されている「X線管球26の複数のエージング条件」及び対応表記録装置15aに記録されている「X線管球26の不使用時間に応じて設定されているエージング条件」の表を参照して、受信した不使用時間に応じて最適な条件を選択する。次に、ステップS203において、選択された最適なエージング条件は、X線装置制御手段13に送信される。ステップS204において、X線装置制御手段13が、エージング条件を実行するコマンドを作成する。ステップS205において、作成されたコマンドは、測定ユニット4aに送信される。
【0021】
(ハ)測定ユニット4aでは、ステップS108において、高圧電源制御回路25が、エージング条件を実行するコマンドを受信する。次に、ステップS109において、エージング条件を実行するコマンドが、管球用高圧電源24に伝達され、自動的にX線管球26のエージングが実施される。その後、ステップS110において、今回の使用者はX線測定を行うことができる。ステップS110のX線測定が終了すれば、ステップS101に戻り、X線発生部2aの高圧電源をオフする。その後、再び、ステップS102からステップS110までの処理を繰り返す。ステップS110からステップS101に戻るループにより、X線管球26の不使用時間を自動的に検出し、それに対応するX線管球26のエージングの実行条件を自動的に決定して、自動的にX線管球26のエージングを実施するという処理が繰り返される。
【0022】
図3に、「X線管球26の不使用時間とそれに対応するX線管球26のエージングの実行条件の表」の一例を示す。X線管球26の不使用時間が100時間以下のとき、X線管球26は調整不要である。又、X線管球26の不使用時間が100時間を超えるとき、X線管球26のエージングはショート調整プログラムで実行される。
【0023】
図4は、図3において、X線管球26の不使用時間が100時間を超えるときの、管球用高圧電源24がX線管球26のエージングのための階段波(ランプ波)を出力して、ショート調整プログラムの内容を示す。図4において、縦軸が電圧(V)又は電流(I)、横軸が時間(t)である。ショート調整プログラムでは、X線管球26に電圧(V)又は電流(I)を比較的短時間の1分間程度の一定の時間加え、その後、電圧(V)又は電流(I)をステップ的に1〜3kV又は数十μA程度の一定量を増加させ、その後、電圧(V)又は電流(I)を一定の時間加えるという階段波状の操作を、段階的に繰り返す。高い電圧(V)又は電流(I)を急に印可させずに、図4に示すように、電圧(V)又は電流(I)を、階段波(ランプ波)状に徐々に高くしていくことにより、X線管球26の焦点軌道面の突起等の異物を融解して焦点軌道面をならしてX線管球26の耐高電圧特性を向上させることができる。図4に示すエージング条件は、エージング条件記録装置14aに記録しておけば良い。
【0024】
上記のように、本発明の第1の実施の形態に係るX線管球のエージング方法によれば、X線測定システムのユーザは、X線管球26の不使用時間を知らなくても、又、ユーザの判断無しに、エージング条件記録装置14aに記録された複数のエージング条件から最適な条件を自動的に選択して、最適なX線管球26のエージングを実施し、X線管球26の寿命を延ばすことができる。更に、本発明の第1の実施の形態に係るX線管球のエージング方法によれば、従来、X線管球26のエージングはサービスマンが行っていたが、その必要はなくなり、ユーザが自動的に決められた条件でX線管球26のエージングを行うことが可能になる。
【0025】
(第2の実施の形態)
X線管球26のエージングの実行条件は、X線管球26の不使用時間だけでなく、X線管球26の取り外しの有無により異なる(図8参照。)。本発明の第2の実施の形態に係るX線測定システムは、X線管球26の取り外しの有無を自動的に判定して、X線管球26のエージング条件を自動的に決定するシステムである。即ち、本発明の第2の実施の形態に係るX線測定システムは、図5に示すようにコントローラ3bと測定ユニット4bとを備え、コントローラ3bは、演算制御回路(CPU)1bと、X線管球26の複数のエージング条件を記録しているエージング条件記録装置14bと、X線管球26の不使用時間と取り外しの有無との組み合わせにそれぞれ対応するエージング条件の表を記録する、対応表記録装置15bとを備える点では、第1の実施の形態に係るX線測定システムとほぼ同様である。
【0026】
しかし、本発明の第2の実施の形態に係るX線測定システムは、図5に示すように、測定ユニット4bのX線発生部2bには、X線管球26の取り外しの有無に関する情報を記録する取り外し情報記録装置29が接続されている。そして、X線発生部2bは、X線管球26の取り外しの有無を判定し、判定したX線管球26の取り外しの有無に関する「取り外し情報」を、取り外し情報記録装置29に格納する取り外し情報判定手段21と、X線管球26の不使用時間を算出し、算出されたX線管球26の不使用時間を不使用時間記録装置28に格納する不使用時間計算手段22と、取り外し情報記録装置29から「取り外しあり」又は「取り外し無し」の取り外し情報の情報を読み出し、不使用時間記録装置28から不使用時間計算手段22が算出したX線管球26の不使用時間を読み出し、読み出したX線管球26の取り外しの有無に関する情報と、X線管球26の不使用時間に関する情報をコントローラ3bに送信する、不使用時間及び取り外し情報送信手段23bとを含んでいる点で、第1の実施の形態に係るX線測定システムとは異なる。対応して、演算制御回路(CPU)1bが、測定ユニット4bから送信されるX線管球26の不使用時間及び取り外しの有無に関する情報を受信する、不使用時間及び取り外し情報受信手段11bを含んでいる点で、第1の実施の形態に係るX線測定システムとは異なる。なお、第1の実施の形態に係るX線測定システムで説明したのと同様に、図5は論理的な構成を示すブロック図であるので、オフ時刻記録装置27、不使用時間記録装置28及び取り外し情報記録装置29は、物理的にはX線発生部2bの内部に内蔵されていても、X線発生部2bの外部に接続されていても構わない。又、エージング条件記録装置14bや対応表記録装置15bも、物理的には演算制御回路(CPU)1bの内部に内蔵されていても、演算制御回路(CPU)1bの外部に接続されていても構わない。他は、第1の実施の形態と実質的に同様であるので、重複した記載を省略する。
【0027】
本発明の第2の実施の形態に係るX線測定システムは、上記のように構成されており、取り外し情報記録装置29と、取り外し情報判定手段21と、不使用時間及び取り外し情報送信手段23bと、エージング条件記録装置14bと、対応表記録装置15bと、不使用時間及び取り外し情報受信手段11bと、エージング条件選択手段12と、X線装置制御手段13とを含むことにより、X線測定システムは、X線管球26の不使用時間及び取り外しの有無の両方を考慮して、複数のエージング条件の内から最適なエージング条件を自動的に選択して実行するように働くので、X線管球26のエージング条件を自動選択した自動エージングが可能となる。
【0028】
X線管球26の取り外しは、測定ユニット4bのX線発生部2bの電源をオフにした状態でなされる。同様に、X線管球26の取り付けも、測定ユニット4bのX線発生部2bの電源をオフにした状態でなされる。X線管球26の取り外しの有無を自動的に判定するためには、マイクロスイッチなどのセンサーを用意し、内蔵電池等の補助電源によりに取り外しの有無を検出する方法もあるが、本発明の第2の実施の形態に係るX線測定システムにおいては、内蔵電池等の補助電源を用いないで、X線管球26の取り外しの有無を自動的に判定する。図6には、内蔵電池等の補助電源を用いないで、X線発生部2bがX線管球26の取り外しの有無を自動的に判定するための、X線管球26の取り外し判定機構の一例を示す。
【0029】
本発明の第2の実施の形態に係るX線管球26の取り外し判定機構は、図6に示すように、X線管球26のX線発生部2bへの取り付けの有無により、機械的に数値を変更する数字表示器付押しボタンスイッチ33と、配線34により、数字表示器付押しボタンスイッチ33から電子的情報を得て、X線管球26の取り外しの有無を電子的に判定する取り外し情報判定手段21とが結びついた構造をとっている。
【0030】
図6(a)において、X線管球26が台座31から取り外される前に、数字表示器付押しボタンスイッチ33が数値(001)であったとする。測定ユニット4bのX線発生部2bの電源がオン状態であれば、配線34により、数字表示器付押しボタンスイッチ33の数値(001)の情報は、取り外し情報判定手段21に伝達され、数字表示器付押しボタンスイッチ33に表示されている数値が、取り外し情報判定手段21に記録される。この状態の後、測定ユニット4bのX線発生部2bの電源がオフ状態となり、図6(a)に示すように、X線管球26が台座31から取り外されると、接触棒35がバネ32の力により上方に移動し、数字表示器付押しボタンスイッチ33の押しボタン36の位置もフリーの位置に飛び出すが、数字表示器付押しボタンスイッチ33は数値(001)を維持する。
【0031】
測定ユニット4bのX線発生部2bの電源がオフ状態において、図6(b)に示すように、X線管球26が再び取り付けられるとする。即ち、X線管球26は、ネジ37aとネジ37bにより、ネジ溝38aとネジ溝38bを通して台座31に取り付けられる。X線管球26が台座31に取り付けられることによって、接触棒35が下方に移動し、押しボタン36が押し込まれて、数字表示器付押しボタンスイッチ33の数値が(002)になる。X線発生部2bの電源がオフ状態では、取り外し情報判定手段21に記録されている数値は変化しない。
【0032】
次に、X線発生部2bの電源がオン状態になると、記録数字表示器付押しボタンスイッチ33の値と取り外し情報判定手段21に記録されている値とが異なることから、X線管球26の取り外しが行われたことを検知できる。X線管球26の取り外しを検知した後、取り外し情報判定手段21に記録されているメモリの値は、数字表示器付押しボタンスイッチ33に表示されている数値に更新される。
【0033】
従来技術では、1種類のエージング条件を実施するか否かの判断を、ユーザにさせていた。更に、従来の技術ではX線管球の取り外し有無についての情報を人間の記憶によって確認するしか無く、X線管球の取り外し有無によって、エージング条件を変更することが困難であった。本発明の第2の実施の形態に係るX線測定システムによれば、ユーザの判断無しにエージング条件記録装置14aに記録された複数のエージング条件から最適な条件を自動的に選択して、X線管球のエージングを実施することが可能となる。特に、本発明の第2の実施の形態に係るX線測定システムによれば、以下のX線管球のエージング方法に例示したように、X線測定システムのユーザは、X線管球26の不使用時間やX線管球26の取り外しの有無を知らなくても、自動的に決定されたエージング条件により、最適なX線管球26のエージングを実施し、X線管球26の寿命を延ばすことができる。又、従来、X線管球26のエージングはサービスマンが行っていたが、その必要はなくなり、ユーザが自動的に決められた条件でX線管球26のエージングを行うことが可能になる。
【0034】
更に、図5に示すように、不使用時間記録装置28、取り外し情報記録装置29と、エージング条件選択手段12、エージング条件記録装置14b、対応表記録装置15bとがハードウェア構成で分かれているため、本発明の第2の実施の形態に係るX線測定システムによれば、エージング条件の更新、装置本体だけの入れ替えなどにも柔軟に対応できる。特に、エージング条件記録装置14b、対応表記録装置15bの記憶内容を書き換えることにより、最新のエージング条件に更新することも可能である。
【0035】
次に、図7のフローチャートを用いて、本発明の第2の実施の形態に係るX線管球のエージング方法の一例について説明する。
【0036】
(イ)まず、測定ユニット4bでは、ステップS101において、前回の使用者がX線発生部2bの高圧電源をオフすると、ステップS102において、高圧電源をオフした時刻はオフ時刻記録装置27に記録される。次に、ステップS103において、今回の使用者が再びX線発生部2bの高圧電源をオンすると、ステップS104において、高圧電源をオンした時刻が、レジスタ等のオン時刻記録装置(図示省略。)に記録される。次に、ステップS105において、不使用時間計算手段22が、オンした時刻とオフした時刻との差(不使用時間)を算出する。算出されたX線管球26の不使用時間を不使用時間記録装置28に記録した後、ステップS106に進む。
【0037】
(ロ)ステップS106において、X線発生部2bの高圧電源がオフ状態において、X線管球26を取り外したか否かが、取り外し情報判定手段21によって判断される。取り外し情報判定手段21が判断したX線管球26の取り外しの有無に関する「取り外し情報」は、取り外し情報記録装置29に格納される。X線発生部2bの高圧電源がオフ状態において、X線管球26の取り外しが無かった場合、ステップS107aに進む。ステップS107aにおいて、不使用時間及び取り外し情報送信手段23bは取り外し情報記録装置29から「取り外し無し」の情報を読み出し、不使用時間記録装置28から不使用時間計算手段22が算出したX線管球26の不使用時間を読み出す。不使用時間及び取り外し情報送信手段23bは、更に、読み出した「取り外し無し」の情報と不使用時間をコントローラ3bの取り外し情報受信手段11bに送信する。
【0038】
(ハ)一方、ステップS106において、X線発生部2bの高圧電源がオフ状態において、X線管球26の取り外しがあったと判定された場合、ステップS107bに進む。ステップS107bにおいて、不使用時間及び取り外し情報送信手段23bは取り外し情報記録装置29から「取り外しあり」の情報を読み出し、不使用時間記録装置28から不使用時間計算手段22が算出したX線管球26の不使用時間を読み出す。不使用時間及び取り外し情報送信手段23bは、更に、読み出した「取り外しあり」の情報と不使用時間をコントローラ3bの取り外し情報受信手段11bに送信する。
【0039】
(ニ)ステップS106で「取り外し無し」と判断されたときは、コントローラ3bにおいて、ステップS201aで、「取り外し無し」の情報と不使用時間が、不使用時間及び取り外し情報受信手段11bによって受信される。ステップS201aで、「取り外し無し」の情報と不使用時間が受信された場合は、ステップS202aに進み、「取り外し無し」の場合の不使用時間に応じて複数あるエージング条件から最適な条件が、エージング条件選択手段12によって自動的に選択され、ステップS203に進む。
【0040】
(ホ)一方、ステップS106で「取り外しあり」と判断されたときは、ステップS201bに進み、「取り外しあり」の情報と不使用時間が、不使用時間及び取り外し情報受信手段11bによって受信される。ステップS201bで「取り外しあり」の情報と不使用時間が受信された場合は、ステップS202bに進み、「取り外しあり」の場合の不使用時間に応じて複数あるエージング条件から最適な条件が、エージング条件選択手段12によって自動的に選択され、ステップS203に進む。
【0041】
(ヘ)ステップS203において、ステップS202a又はステップ202bで選択された最適なエージング条件が、X線装置制御手段13に送信される。次に、ステップS204において、X線装置制御手段13がエージング条件を実行するコマンドを作成する。ステップS205において、作成されたコマンドは、測定ユニット4bに送信される。
【0042】
(ト)測定ユニット4bでは、ステップS108において、高圧電源制御回路25が、エージング条件を実行するコマンドを受信する。次に、ステップS109において、エージング条件を実行するコマンドが、管球用高圧電源24に伝達され、自動的なエージングが実施される。その後、ステップS110において、今回の使用者はX線測定を行うことができる。ステップS110のX線測定が終了すれば、ステップS101に戻り、X線発生部2bの高圧電源をオフする。その後、再び、ステップS102からステップS110までの処理を繰り返す。ステップS110からステップS101に戻るループにより、X線管球26の不使用時間及びX線管球26の取り外しの有無を自動的に検出し、それに対応するX線管球26のエージングの実行条件を自動的に決定して、自動的にX線管球26のエージングを実施するという処理が繰り返される。
【0043】
図8には、X線管球26の取り外しの有無によって異なる「不使用時間とそれに対応するX線管球26のエージングの実行条件の表」の一例が示されている。図8に示す例では、X線管球26の取り外し無しの場合、不使用時間が100時間以下であれば、X線管球26は調整不要であるが、不使用時間が100時間を超えると、X線管球26のエージングがショート調整プログラムで実行される。
【0044】
一方、X線管球26の取り外しありの場合、不使用時間が100時間以下のときは、X線管球26のエージングはショート調整プログラムで実行され、不使用時間が100時間を超えると、ロング調整プログラムで実行される。
【0045】
図9に、図8に示した「ショート調整プログラム」と「ロング調整プログラム」の例をそれぞれ示す。図9においては、縦軸が電圧(V)又は電流(I)、横軸が時間(t)である。ショート調整プログラムでは、X線管球26に電圧(V)又は電流(I)を比較的短時間の1分間程度の一定の時間加え、その後、電圧(V)又は電流(I)をステップ的に1〜3kV又は数十μA程度の一定量を増加させ、その後、電圧(V)又は電流(I)を一定の時間加えるという階段波状の操作を、段階的に繰り返す。
【0046】
一方、ロング調整プログラムでは、X線管球26に電圧(V)又は電流(I)をショート調整プログラムよりも長い、10分間程度の一定の時間加え、その後、電圧(V)又は電流(I)を、ショート調整プログラムよりも大きな値である5kV又は100〜300μA程度の一定量をステップ的に増加させ、その後、電圧(V)又は電流(I)を一定の時間加えるという階段波状の操作を、段階的に繰り返す。高い電圧(V)又は電流(I)を急に印可させずに、図9に示すように、電圧(V)又は電流(I)を、階段波(ランプ波)状に徐々に高くしていくことにより、X線管球26の焦点軌道面の突起等の異物を融解して焦点軌道面をならしてX線管球26の耐高電圧特性を向上させることができる。図9に示すエージング条件は、エージング条件記録装置14bに記録しておけば良い。
【0047】
以上のように、本発明の第2の実施の形態に係るX線管球のエージング方法によれば、X線測定システムのユーザは、X線管球26の不使用時間やX線管球26の取り外しの有無を知らなくても、ユーザの判断無しに、エージング条件記録装置14bに記録された複数のエージング条件から最適な条件を自動的に選択して、最適なX線管球26のエージングを実施し、X線管球26の寿命を延ばすことができる。又、従来、X線管球26のエージングはサービスマンが行っていたが、その必要はなくなり、ユーザが自動的に決められた条件でX線管球26のエージングを行うことが可能になる。
【0048】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1〜第2の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施お形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0049】
例えば、既に述べた第2の実施の形態に係るX線管球のエージング方法では、X線管球26の取り外しありの場合、不使用時間が100時間以下のときは、X線管球26のエージングはショート調整プログラムで実行され、不使用時間が100時間を超えると、ロング調整プログラムで実行される例を述べたが、ショート調整プログラムとロング調整プログラムの中間的なミドル調整プログラムを含めて、エージングの実行条件を選択するようにしても構わない。更に、エージング中等において、放電が発生した場合のエージング条件を加えるようにしても良い。
【0050】
本発明の第2の実施の形態において、図6に示すような、X線管球26のX線発生部2bへの取り付けの有無により、機械的に数値を変更する数字表示器付押しボタンスイッチ33を用いたX線管球26の取り外し判定機構を例示的に説明したが、X線管球26を外した後はX線発生部2bの本体電源を入れないとX線管球26が取り付けられない機構を用意することによっても、X線管球26取り付けを電気的に記録する等、他の手段によっても、同様に、X線管球26のX線発生部2bへの取り付けの有無の判断が可能である。
【0051】
本発明のX線測定システムとしては、X線診断装置、X線CT装置、X線透視検査装置等種々のX線管球を用いる測定システムに適用可能である。
【0052】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るX線測定システムの論理構成の一例を表す概略ブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るX線管球のエージング方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るX線管球のエージング方法に用いるの「X線管球の不使用時間とそれに対応するX線管球のエージングの実行条件の表」の一例である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るX線管球のエージング方法に用いる「ショート調整プログラム」の内容を説明する図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るX線測定システムの論理構成の一例を表す概略ブロック図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るX線測定システムにおいて、内蔵電池等の補助電源を用いないで、X線発生部がX線管球の取り外しの有無を自動的に判定するための、X線管球の取り外し判定機構の概要を説明するための模式図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係るX線管球のエージング方法の一例を説明するためのフローチャートである。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係るX線管球のエージング方法に用いる「X線管球の不使用時間とそれに対応するX線管球のエージングの実行条件の表」の一例である。
【図9】本発明の第2の実施の形態に係るX線管球のエージング方法に用いる「ショート調整プログラム」及び「ロング調整プログラム」の内容を説明する図である。
【符号の説明】
【0054】
1a,1b…演算制御回路(CPU)
2a,2b…X線発生部
2b…X線発生部
3a,3b…コントローラ
4a、4b…測定ユニット
4b…測定ユニット
11a…不使用時間受信手段
11b…不使用時間及び取り外し情報受信手段
12…エージング条件選択手段
13…X線測定システム制御手段
14a,14b…エージング条件記録装置
15a,15b…対応表記録装置
21…取り外し情報判定手段
22…不使用時間計算手段
23a…不使用時間送信手段
23b…不使用時間及び取り外し情報送信手段
24…管球用高圧電源
25…高圧電源制御回路
26…X線管球
27…オフ時刻記録装置
28…不使用時間記録装置
29…取り外し情報記録装置
31…台座
32…バネ
33…数字表示器付押しボタンスイッチ
34…配線
35…接触棒
36…押しボタン
37a,37b…ネジ
38a,38b…ネジ溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源オフの時刻と電源オンの時刻からX線管球の不使用時間を計算する不使用時間計算手段を有する測定ユニットと、
複数のエージング条件の内から前記X線管球の最適なエージング条件を自動的に選択するエージング条件選択手段を有するコントローラ
とを備え、前記最適なエージング条件により前記X線管球のエージングを行うことを特徴とするX線測定システム。
【請求項2】
前記測定ユニットが、前記X線管球への電源オフの時刻を記録するオフ時刻記録装置を更に備え、
前記不使用時間計算手段は、前記オフ時刻記録装置に記録された電源オフの時刻と前記X線管球への電源オンの時刻から前記X線管球の不使用時間を計算することを特徴とする請求項1に記載のX線測定システム。
【請求項3】
前記コントローラが、前記X線管球に対する複数のエージング条件を記録するエージング条件記録装置と、前記X線管球の不使用時間に応じて設定されているエージング条件の表を記録する対応表記録装置とを更に備え、
前記エージング条件選択手段は、前記不使用時間計算手段が計算した不使用時間から、前記エージング条件の表を参照して、前記複数のエージング条件の内から前記最適なエージング条件を選択することを特徴とする請求項1又は2に記載のX線測定システム。
【請求項4】
前記測定ユニットが、前記X線管球の取り外しの有無を判定する取り外し情報判定手段を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のX線測定システム。
【請求項5】
前記コントローラが、前記X線管球に対する複数のエージング条件を記録するエージング条件記録装置と、前記X線管球の不使用時間と前記X線管球の取り外しの有無との組み合わせにそれぞれ対応するエージング条件の表を記録する対応表記録装置とを更に備え、
前記エージング条件選択手段は、前記不使用時間計算手段が計算した不使用時間と前記取り外し情報判定手段が判定した前記X線管球の取り外しの有無の情報から、前記エージング条件の表を参照して、前記複数のエージング条件の内から前記最適なエージング条件を選択することを特徴とする請求項4に記載のX線測定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−266688(P2009−266688A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116072(P2008−116072)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】