説明

X線発生方法、X線発生装置

【課題】
デブリの発生を効果的に抑制することができるX線(EUV光を含む。)発生方法を提供すること。
【解決手段】
本発明のX線発生方法は、透明基板11表面に直接又はレーザー吸収層を介して付着させたX線発生用ターゲット13に基板裏面側からターゲット分離用レーザー光19を照射することにより、このターゲット13を基板11から分離し、分離したターゲット13にX線発生用エネルギー23を供給することにより、X線を発生させる工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線発生方法、及びX線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2010年頃の実用化を目標に45nm以下の微細集積回路製造技術の開発が行われている。当技術は極端紫外光源(Extreme Ultra Violet, EUV: 波長13nm程度であって、)、照明光学系(Mo/Si多層膜反射鏡など)、超高精度ウエハ制御装置(ステッパー)などのシステム技術であり、本発明は光源に関するものである。
【0003】
EUV光源としては数十万度のプラズマが必要となるが、この発生にレーザープラズマ方式と放電方式が提案され研究が進められている。このうちレーザープラズマは、EUV発生材料(ターゲット)に集光パルスレーザーを照射し、レーザープラズマからEUV光を得る。開発課題となるのは高いEUV発生効率の実現と光源から発生する残留物(デブリ)の除去である。
【0004】
デブリは、EUV光を集めてウエハなどに転送する光学部品に付着してその性能を低下させる。現在EUV発生用ターゲット物質として考えられているのは、錫とキセノンである。キセノンは、気体であるので比較的デブリの問題が軽減されるが、効率(1%以下)が実用レベルになっていない。一方、錫は、効率が高く光源性能はすぐれているが、固体であるためにデブリの問題がキセノンに比べて深刻である。
【0005】
デブリの問題についてはこれまでガスカーテンや電磁遮蔽などの手法が提案され研究されているが、決定的なものは現れていない。デブリ問題を解決するための本質的な方法は必要EUV光発生に必要な最低限のターゲットを供給することである。
【0006】
少量のターゲットを供給するために、特許文献1に記載されているように、ターゲットを小滴状にして供給する方法が知られている。
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0114720号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法によっても、ターゲットは過剰に供給されてしまい、十分にデブリの発生を抑制することが困難である。
【0008】
本発明は、係る事情に鑑みてなされたものであり、デブリの発生を効果的に抑制することができるX線(EUV光を含む。)発生方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のX線発生方法は、透明基板表面に直接又はレーザー吸収層を介して付着させたX線発生用ターゲットに基板裏面側からターゲット分離用レーザー光を照射することにより、このターゲットを基板から分離し、分離したターゲットにX線発生用エネルギーを供給することにより、X線を発生させる工程を備える。
【0010】
X線は、ターゲットに大きなエネルギーを加ることによってターゲットをプラズマ化することにより、プラズマ中から発生させる。特許文献1ではターゲットは、概ね球形の小滴状で供給されるが、例えば、図1(a)に示すように、レーザー50を用いてX線発生用エネルギーを供給する場合、球形のターゲット51の表面近傍53のみがX線発生に寄与し、その他の部分55は、デブリ発生源となっていた(ターゲット51が球形なので、「表面近傍」以外の領域55の占める割合が大きく、従って、デブリ発生源の割合が大きい。)。
【0011】
本発明では、例えば厚さ1ミクロン以下の薄膜ターゲットを基板上に形成し、このターゲットを基板から分離し、その分離したターゲットにエネルギーを加えてエネルギーを発生させるので、X線発生に寄与しないデブリ発生源を少なくすることができ、その結果、デブリの発生を抑えることができる(図1(b)に示すように、ターゲット61が薄膜状なので、「表面近傍」以外の領域の占める割合が小さく、従って、デブリ発生源の割合が小さい。)。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、デブリの発生を効果的に抑制することができるX線発生方法が提供され、従って、デブリによる装置又は光学系などの汚染を防止することができる。
また、本発明によれば、基板に付着させるターゲットの分量を制御することにより、容易にプラズマ化させるターゲットの分量を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
1.X線発生方法
本発明のX線発生方法は、透明基板表面に直接又はレーザー吸収層を介して付着させたX線発生用ターゲットに基板裏面側からターゲット分離用レーザー光を照射することにより、このターゲットを基板から分離し、分離したターゲットにX線発生用エネルギーを供給することにより、X線を発生させる工程を備える。
【0014】
1−1.透明基板表面に付着させたX線発生用ターゲットに基板裏面側からターゲット分離用レーザー光を照射することにより、このターゲットを基板から分離する工程
【0015】
まず、X線発生用タ−ゲットを透明基板から分離する作用を、図2を用いて説明する。ここでは、透明基板1表面にレーザー吸収層2を介してX線発生用ターゲット3を付着させた場合を例にとって説明するが、X線発生用ターゲット3を透明基板1表面に直接付着させた場合は、X線発生用ターゲット3自体がレーザー吸収層の役割を担うので、この場合にも同様の説明が当てはまる。なお、図2は、作用の説明のための概念図であって、本発明を限定するために用いられない。
【0016】
図2(a)に示すように、透明基板1表面にレーザー吸収層2を介して付着させたX線発生用ターゲット3に基板1裏面側からターゲット分離用レーザー光5を照射すると、レーザー光5は、基板1を通過してレーザー吸収層2に吸収される。この吸収は、主にレーザー吸収層2と基板1との界面近傍で起こる。
【0017】
レーザー光5を吸収したレーザー吸収層2は、図2(b)に示すように、瞬間的に高圧ガス(またはプラズマ状態)2aとなる。
【0018】
基板1は、通常、ターゲット3に比べて十分な質量を持つので、高圧ガスがもたらす運動量は、ほぼ完全にターゲット3へ与えられる。この圧力により、図2(c)に示すように、ターゲットが基板から分離され、分離されたターゲット3aが形成される。
【0019】
上記分離工程は、通常、低気圧又は真空中で行われ、分離されたターゲット3aは、低気圧又は真空中を飛行する。また、分離されたターゲット3aは、通常、基板1に付着していたときの外形を概ね保持して飛行する。レーザー光5のパルス幅、エネルギー、波長を変化させることで、分離されたターゲット3aの飛行速度又は状態(固体(フォイルのまま、または粉々の状態)・液体・気体(クラスタなど含む))などを適宜変化させることができ、さらに、X線発生条件(発生するX線の波長・強度・バンドの広がりなど)を変化させることができる。
【0020】
なお、上記作用によって、薄膜を基板から分離させる技術自体は、Opt. Comm. vol.15 p p.422-425(1975)などに、記載されている。
【0021】
次に、各構成要素を詳細に説明する。
(1)透明基板
透明基板には、使用するターゲット分離用レーザー光に対して透光性を有し、かつ、基板上にターゲットを保持することができるものを用いることができる。透明基板は、ガラス又はポリマー(ポリスチレン、ポリエチレン、PET、ポリイミド類、ポリカーボネイト、ポリアミドなど)などからなる。
【0022】
(2)X線発生用タ−ゲット、レーザー吸収層
X線発生用ターゲットには、X線発生用エネルギーを吸収することによってプラズマ化して、X線を発生させるものを用いることができる。X線発生用ターゲットは、例えばスズ又は金などを含む。X線発生用ターゲットの種類・密度は、必要なX線の波長などによって適宜選択することができる。
【0023】
X線発生用ターゲットは、透明基板表面に直接又はレーザー吸収層を介して付着される。X線発生用ターゲットがターゲット分離用レーザー光に対して低い吸収率を有する場合、X線発生用ターゲットを透明基板から分離するために、レーザー吸収層を設けることが必要である。一方、X線発生用ターゲットがターゲット分離用レーザー光に対して高い吸収率を有する場合には、X線発生用ターゲット自体がレーザー吸収層の役割を果たすので、X線発生用ターゲットを透明基板に直接付着させることができる。
【0024】
レーザー吸収層には、ターゲット分離用レーザー光を吸収して高圧ガス(またはプラズマ状態)となるものを用いることができ、具体的には、種々の金属又はカーボンなどを用いることができる。
【0025】
X線発生用ターゲット及びレーザー吸収層は、基板全面に付着してもよいが、コスト削減の観点から必要な大きさのスポット状に形成することが好ましい。
【0026】
また、X線発生用ターゲット及びレーザー吸収層は、予め蒸着などによって基板上に付着しておいたものを用いてもよいが、例えば、インクジェット方式で基板表面に付着させることが好ましい。インクジェット方式を用いると、X線発生用ターゲット及びレーザー吸収層を簡易に、かつ装置を停止させることなく連続的に供給することができるという利点がある。また、インクジェット方式を用いる場合、塗布する材料を液体状にする必要があるので、X線発生用ターゲット及びレーザー吸収層は、融点が低い(例えば、300℃以下の)材料で形成されることが好ましい。
【0027】
インクジェット方式でX線発生用ターゲットを連続的に供給する方法を図3に例示する。図3(a)、(b)は、それぞれ、テープ状の基板及び円盤状の基板を用いた場合であり、基板1は、矢印の方向に搬送され、インクジェット式ターゲット塗布装置4でターゲット3を順次塗布する。図3では、インクジェット方式でターゲットのみを塗布する場合を示しているが、インクジェット式ターゲット塗布装置をもう1つ設け、レーザー吸収層も同様の方法で塗布することができる。
【0028】
(3)ターゲット分離用レーザー光
ターゲット分離用レーザー光の波長は、上記透明基板を透過し、レーザー吸収層またはX線発生用タ−ゲットに効率よく吸収されるものが好ましい。透明基板がポリマーからなる場合、ターゲット分離用レーザー光の波長は、例えば、可視光から遠赤外線の波長を選択することができる。透明基板がガラスからなる場合、ターゲット分離用レーザー光の波長は、例えば、可視光から近赤外線の波長を選択することができる。
【0029】
ターゲット分離用レーザー光のエネルギーは、タ−ゲットを基板から分離するが、ターゲットのブレークアップや基板の破壊などを伴わない領域でかつ所定のターゲットの面積に則した値を選択する。
【0030】
ターゲット分離用レーザー光は、好ましくは、パルス状である。パルスエネルギーは、I×τ×A(I:照射レーザー強度、τ:パルス幅、A:発光面積)で表され、代表的には、照射レーザー強度I(108W/cm2)、一般的なQスイッチパルス幅(τ=10ns)およびEUVで必要とされる発光面積(500μmΦ)を採用すると80ミリジュール程度となる。
【0031】
1−2.分離したターゲットにX線発生用エネルギーを供給することにより、X線を発生させる工程
X線発生用エネルギーは、例えば、X線発生用レーザー光照射又は放電によって供給することができる。
【0032】
(1)X線発生用レーザー光照射
X線発生用レーザー光には、分離したターゲットをプラズマ化して、X線を発生させることができるものを用いることができ、例えば、YAGレーザー光などを用いることができる。
【0033】
X線発生用レーザー光は、好ましくは、基板表面に実質的に垂直に基板表面に向かって、照射することが好ましい。なぜなら、分離したターゲットは、通常、透明基板表面に垂直な方向に運動しているので、基板表面に実質的に垂直に基板表面に向かってレーザー光を照射することによって、極めて容易にターゲットにレーザー光を照射することができるからである。なお、分離したターゲットの移動速度は、光の速度と比べて極めて小さいので、レーザー光をターゲットに命中させることは、この点からも容易である。なお、X線発生用レーザー光の照射方向は、「垂直」に限定されない。
【0034】
(2)X線発生用放電
図4を用いて、放電により分離したターゲットにX線発生用エネルギーを供給する方法を説明する。図4は、説明のための概念図であり、本発明を限定するために用いられない。
【0035】
図2(c)に示す方法で基板1から分離されたターゲット3aは、通常、基板1の表面に実質的に垂直に移動する。従って、分離されたターゲット3aが通過する経路は、容易に予測又は制御可能である。図4に示すように、分離されたターゲット3aの経路中に、分離したターゲット3aの径と概ね等しい大きさのギャップ有すると共に高電圧(例えば数kV程度)が印加された一対の電極7を配置する。分離したターゲット3aが前記電極7の間7aを通過するときに、放電が起こり、分離したターゲット3aに電気エネルギーが供給され、分離したターゲット3aがプラズマ化され、X線を発生させる。
【0036】
1−3.X線を発生させる工程の後に、ターゲットにデブリスィーパを衝突させることにより、デブリスィーパにターゲットを付着させ、その後、デブリスィーパを除去することにより、ターゲットを除去する工程
本発明は、このようなデブリスィーパを用いたターゲットの除去工程をさらに備えてもよい。プラズマ化したターゲットは、プラズマ化した直後はプラズマ化する前とほぼ同じ位置に留まっているが、そのまま放置されると、大量のデブリを発生させ、光学系などを汚染する。従って、このターゲットは、X線を発生させた後、素早く除去することが好ましい。
【0037】
ここで、デブリスィーパを用いたターゲットを除去する方法について、図5を用いて説明する。図5は、説明のための概念図であり、本発明を限定するために用いられない。
【0038】
まず、図5(a)に示すように、プラズマ化した直後のターゲット3aに向かって、デブリスィーパ9を衝突させる。デブリスィーパ9は、例えばターゲット3aと同様の材料からなり、ターゲット3aを基板1から分離するのに用いたのと同様の方法で、別の基板から発射することができる。ターゲット3a及びデブリスィーパ9の発射方向は、通常は、それぞれの基板表面に実質的に垂直なので容易に制御可能であり、これらの発射速度は、それぞれ、ターゲット分離用レーザー光の強度などを制御することにより、容易に制御可能である。従って、タイミングを調節してデブリスィーパ9を発射することにより、プラズマ化した直後のターゲット3aにデブリスィーパ9を衝突させることは、容易である。なお、ターゲット3aがプラズマ化して所定時間経過した後(但し、残留デブリがレーザー照射領域から大きく離れる前)に、デブリスィーパ9がターゲット3aに衝突するように設計することも可能である。
【0039】
デブリスィーパ9の発射速度又は質量などを適宜調節することにより、デブリスィーパ9がターゲット3aに対して比較的大きな運動量を有するようにする。
【0040】
デブリスィーパ9は、図5(b)に示すように、ターゲット3aと衝突してターゲット3aと一体になるが、デブリスィーパ9は、上記の通り、ターゲット3aに対して比較的大きな運動量を有するようにしているので、衝突後、若干方向及び速度を変えて運動を続けるが、これを制御できる。
【0041】
ターゲット3aと一体となったデブリスィーパ9は、その進む経路中に配置されたデブリスィーパ回収器によって、回収される。
【0042】
次に、各構成要素を詳細に説明する。
(1)デブリスィーパ
デブリスィーパは、ターゲットを基板から分離するのに用いたのと同様の方法で、基板から発射することができる。デブリスィーパの材料は、レーザーによる加速を受けながら固体の状態を保って飛行できるものが望ましい。また、デブリスィーパは、ターゲットを容易に付着する材料で形成されることが好ましい。
【0043】
(2)デブリスィーパ回収器
デブリスィーパ回収器は、ターゲットと一体となったデブリスィーパを除去することができるものを用いることができ、単なる容器であってもよく、差動排気装置などであってもよい。
【0044】
(3)デブリスィーパの動作タイミング
基板から分離したターゲットとデブリスィーパは、通常、秒速100m程度で飛行するのに対して、X線は秒速3×108mで進むため、この速度差を利用して、タイミングよくデブリスィーパを発射することにより、発生したX線と干渉することなく、X線発生後のターゲットを効果的に除去することができる。
【0045】
X線発生とデブリスィーパの発射などのタイミングチャートの一例を図6に示す。図6は、説明のためにのみ用いられ、本発明を限定するために用いられない。図6の縦軸は時間を示すが、本技術の時間領域はミリ秒(ターゲットの飛行時間)からナノ秒(X線の発生時間)まで数桁にわたるため対数表示になっている。
【0046】
まず、ターゲット分離用レーザー光が基板上のターゲットに照射され、ターゲットが基板から分離される。この後、数百マイクロ秒遅れてデブリスィーパ用のレーザー光がデブリスィーパに照射され、デブリスィーパが発射される。さらに、数百マイクロ秒遅れて、パルス状のX線発生用のレーザー光がターゲットに照射され、その直後にX線が発生し、X線発生後、数百マイクロ秒遅れてデブリスィーパがターゲットに衝突する。
【0047】
このように、X線が発生する前に、デブリスィーパを発射し、X線が発生した後にデブリスィーパをターゲットに衝突させることにより、デブリスィーパが発生したX線と干渉することなく、X線発生後のターゲットを効果的に除去することができる。
【0048】
2.X線発生装置
本発明のX線発生装置は、透明基板表面に直接又はレーザー吸収層を介して付着させたX線発生用ターゲットを供給するX線発生用ターゲット供給部と、このターゲットに基板裏面側からターゲット分離用レーザー光を照射することにより、このターゲットを基板から分離するターゲット分離用レーザー光照射部と、分離したターゲットにX線発生用エネルギーを供給することにより、X線を発生させるX線発生用エネルギー供給部とを備える。X線発生用エネルギー供給部は、例えば、X線発生用レーザー光照射部又は放電発生部を備える。また、X線を発生させた後のターゲットにデブリスィーパを衝突させることにより、デブリスィーパにターゲットを付着させ、その後、デブリスィーパを除去することにより、ターゲットを除去するデブリスィーパ供給部をさらに備えることが好ましい。
【0049】
この装置の各構成要素についての説明は、X線発生方法での説明がそのまま当てはまる。
【実施例】
【0050】
以下、図7〜9を用いて、本発明の実施例の説明を行う。図7は、本実施例の装置のターゲット分離用及びX線発生用レーザー光照射部を含む構成を示す斜視図である。図8は、本実施例における、ターゲット分離用レーザー光、X線発生用レーザー光及びデブリスィーパ分離用レーザー光の供給方法を示す光学回路図である。図9は、本実施例のインクジェット式ターゲット塗布装置の周辺の構成を示す平面図である。
【0051】
1.基本構成
図7に示すように、X線発生用ターゲット13は、ポリマーテープ11にスポット状に付着している。ターゲット13は、スズを含む合金である半田からなり、厚さが0.1μm程度であり、径が500μm程度である。このターゲット13は、後述するインクジェット装置によって塗布され、その後、乾燥されている。ポリマーテープ11は、PETからなり、厚さが10〜100μm程度であり、可撓性を有しており、透明で中空の剛性円筒部材(円筒ドラム)15によって支持され、レーザー照射焦点位置に正確に維持される。ポリマーテープ11は、ターゲット13が外側に位置するように、円筒ドラム15に巻きつけられている。円筒ドラム15は、ドラム駆動装置17によって駆動されて回転する。円筒ドラム15の回転に従って、ポリマーテープ11が矢印Aの方向に搬送され、ターゲット分離用レーザー光19が照射される位置20にターゲット13が送られる。ポリマーテープ11は、10m/sという高速で搬送される。このため、後述する10kHzという高い周波数の繰り返しパルスを有するターゲット分離用レーザー光19のパルス間隔に合わせて、ターゲット13を供給することが可能になる。
【0052】
ターゲット分離用レーザー光19は、円筒ドラム15の下方から供給され、円筒ドラム15の内部に設けられたミラー21で反射して、ターゲット13に向かう。従って、ターゲット分離用レーザー光19は、円筒ドラム15の内部より、円筒ドラム15を介してターゲット13に照射される。ターゲット分離用レーザー光19は、波長が1064nmのYAGレーザー光であり、ターゲット13とポリマーテープ11との界面において直径が500μm程度となるように、図示しない集光光学系によって、集束させられる。ターゲット分離用レーザー光19のパルス周波数は、10kHzであり、照射強度は、108W/cm2程度である。
【0053】
ターゲット分離用レーザー光19がターゲット13に照射されると、図2に示した作用により、ターゲット13がポリマーテープ11から分離され、100m/s程度の速度でポリマーテープ11から飛び出す。この飛び出したターゲット13aに対して、正面からX線発生用レーザー光23が照射される。
【0054】
X線発生用レーザー光23は、波長が1064nmのYAGレーザー光であり、ターゲット13a上において直径が500μm程度となるように集束させられる。X線発生用レーザー光23のパルス周波数は、10kHzであり、照射強度は、1010W/cm2程度である。但し、ここに挙げた数値はEUV用であり、他のX線発生にはそれぞれに適したパラメータが設定される。
【0055】
X線発生用レーザー光23がターゲット13aに照射されると、ターゲット13aは、プラズマ化され、X線を発生させる。この発生したX線は、図示しない凹面ミラーなどによって集光され、フォトリソグラフィーなどに用いられる。
【0056】
なお、以上の構成は、全て、10-5Torr以下の真空タンク中に配置されている。
【0057】
2.デブリスィーパ
ポリマーテープ11に付着されたターゲット13を供給するターゲット供給部10に隣接して、ほぼ同様の構成を有するデブリスィーパ供給部30が配置される(図7では簡略化して表示している。)。但し、デブリスィーパ供給部30は、厚さが0.1μm程度であるターゲットの代わりに厚さが1μm以上のデブリスィーパ33を備える。デブリスィーパ33は、X線発生ターゲットに比べて十分に大きな運動量を持つように密度、厚さ及び材料を選ぶ。また、ターゲット分離用レーザー光19の代わりに、デブリスィーパ分離用レーザー光39をデブリスィーパ33に照射する。デブリスィーパ分離用レーザー光39の照射強度は、108W/cm2程度である。
【0058】
デブリスィーパ33は、ターゲット13がポリマーテープ11から分離された直後であってX線発生用レーザー光23の照射を受ける前に、100m/s程度の速度で発射される。デブリスィーパ33が、ターゲット13aに向かって移動している間に、X線発生用レーザー光23がターゲット13aに照射され、ターゲット13aは、プラズマ化され、X線を発生させる。ターゲット13aがX線を発生させた直後にデブリスィーパ33は、ターゲット13aに衝突する。このため、デブリスィーパ33は、発生したX線と干渉しない。デブリスィーパ33は、ターゲット13aと衝突するとターゲット13aと一体となって飛行を続ける。その進む先には、差動排気装置(図示せず)が設けられ、デブリスィーパ33が真空タンクから除去される。デブリスィーパ33は、プラズマ化されたターゲット13aがデブリを大量に発生させる前に、ターゲット13aを真空タンクから除去することにより、デブリの発生を抑制する。
【0059】
3.光学回路
図8は、ターゲット分離用レーザー光19、X線発生用レーザー光23及びデブリスィーパ分離用レーザー光39の供給方法を示す光学回路図である。
【0060】
レーザー装置40から放射されたレーザー光41は、第1のビームスプリッタ43において、大部分のレーザー光が反射し、数%のレーザー光が透過する。反射したレーザー光は、X線発生用レーザー光23となり、遅延光路42を通って、ポリマーテープ11から分離されたターゲット13aに照射される。透過したレーザー光は、第2のビームスプリッタ45において、10%程度が反射し、残りが透過する。反射したレーザー光は、ターゲット分離用レーザー光19となり、ミラー21で反射した後、ポリマーテープ11に付着したターゲット13に照射されて、ターゲット13をポリマーテープ11から分離する。透過したレーザー光は、デブリスィーパ分離用レーザー光39となり、ミラー47で反射した後、ポリマーテープに付着したデブリスィーパ33に照射されて、デブリスィーパ33をポリマーテープから分離して、ターゲット13aに向かわせる。デブリスィーパ分離用レーザー光39の光路中には必要に応じ、遅延光路が設けられる。
【0061】
遅延光路の長さを適宜調節して、上記の通り、ターゲット分離用レーザー光19をターゲット13に照射した後に、デブリスィーパ分離用レーザー光39をデブリスィーパ33に照射し、その後、X線発生用レーザー光23をターゲット13aに照射するような構成にする。なお、遅延光路を設ける代わりに、ターゲット分離用レーザー光19、X線発生用レーザー光23及びデブリスィーパ分離用レーザー光39にそれぞれ使用するパルスをずらすことにより、レーザー光照射のタイミングを調節することができる(例えば、パルス周波数10kHzのレーザーでは、パルス間隔は100μsであるので、使用するパルスをN個ずらすことにより、N×100μsのタイミングのずれを設けることができる。)。
【0062】
なお、ここでは、単一のレーザー装置からの光を分岐させて、ターゲット分離用レーザー光、X線発生用レーザー光及びデブリスィーパ分離用レーザー光としたが、各レーザー光に対するレーザー装置をそれぞれ設ける構成にしてもよい。各ビームスプリッタの反射率は、適宜調節することができる。また、第1のビームスプリッタで反射されたレーザー光をさらに分岐するなど、別の分岐方法を採用することもできる。
【0063】
4.インクジェット式ターゲット塗布装置
図9は、本実施例のインクジェット式ターゲット塗布装置の周辺の構成を示す平面図である。図9に示すように、ポリマーテープ11は、4つの透明ドラム15,15a〜cによって支持されて、ドラムの回転によって搬送される。ポリマーテープは、10m/sという高速で搬送されるので、十分な機械的強度を有している必要があり、ここでは、PETが用いられる。このポリマーテープに隣接して、インクジェット式ターゲット塗布装置48と、ターゲット固定装置49が配置される。
【0064】
インクジェット式ターゲット塗布装置48は、270℃程度に加熱されて溶融した半田をポリマーテープ11上に塗布する。塗布されるターゲット13は高温であるが、非常に薄く塗布されるため熱容量が小さく、ターゲット13の熱によってポリマーテープ11が溶融することはない。
【0065】
インクジェット式ターゲット塗布装置48は、一定の分量のターゲットを正確にポリマーテープ11上に滴下することができ、ポリマーテープ11上に滴下されたターゲット13は、概ね一定の大きさに広がる。ターゲット13は、この状態で、ターゲット固定装置49によって、冷却されて固化される。
【0066】
なお、デブリスィーパ33も同様の方法で供給することができる。また、溶融した半田を用いる代わりに、塩化スズなどを水などの溶媒に溶解させたものを塗布・乾燥させてもよいし、ペースト状にしたターゲットを塗布・乾燥させてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明における、デブリ抑制の作用を説明する正面図である。
【図2】本発明における、ターゲット分離の作用を説明する断面図である。
【図3】本発明における、インクジェット方式でX線発生用ターゲットを連続的に供給する方法を示す平面図である。
【図4】本発明における、X線発生用放電の作用を説明する断面図である。
【図5】本発明における、デブリスィーパの作用を説明する断面図である。
【図6】本発明における、デブリスィーパの発射タイミングを説明するためのタイムチャートである。
【図7】本実施例の装置のターゲット分離用及びX線発生用レーザー光照射部を含む構成を示す斜視図である。
【図8】本実施例における、ターゲット分離用レーザー光、X線発生用レーザー光及びデブリスィーパ分離用レーザー光の供給方法を示す光学回路図である。
【図9】本実施例のインクジェット式ターゲット塗布装置の周辺の構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0068】
1:透明基板 2:レーザー吸収層 2a:高圧ガス 3:X線発生用ターゲット 3a:分離されたターゲット 4:インクジェット式ターゲット塗布装置 5:ターゲット分離用レーザー光 7:放電用電極 9:デブリスィーパ 10:ターゲット供給部 11:ポリマーテープ 13:ターゲット 15:透明ドラム 17:ドラム駆動装置 19:ターゲット分離用レーザー光 21:ミラー 23:X線発生用レーザー光 30:デブリスィーパ供給部 33:デブリスィーパ 39:デブリスィーパ分離用レーザー光 40:レーザー装置 41:レーザー光 42:遅延光路 43,45:ビームスプリッタ 47:ミラー 48:インクジェット式ターゲット塗布装置 49:ターゲット固定装置 50:レーザー光 51:球形のターゲット 61:薄膜状のターゲット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板表面に、直接又はレーザー吸収層を介して付着させたX線発生用ターゲットに基板裏面側からターゲット分離用レーザー光を照射することにより、このターゲットを基板から分離し、
分離したターゲットにX線発生用エネルギーを供給することにより、X線を発生させる工程を備えるX線発生方法。
【請求項2】
X線発生用エネルギーは、X線発生用レーザー光照射又は放電によって供給される請求項1に記載のX線発生方法。
【請求項3】
透明基板は、可撓性を有するポリマーテープからなり、
このポリマーテープは、透明で中空の剛性円筒部材によって支持され、
ターゲット分離用レーザー光は、円筒部材の内部より、円筒部材を介してターゲットに照射される請求項1に記載のX線発生方法。
【請求項4】
ポリマーテープ上のターゲットは、インクジェット方式でスポット状に塗布される請求項3に記載のX線発生方法。
【請求項5】
X線を発生させる工程の後に、ターゲットにデブリスィーパを衝突させることにより、デブリスィーパにターゲットを付着させ、その後、デブリスィーパを除去することにより、ターゲットを除去する工程をさらに備える請求項1に記載のX線発生方法。
【請求項6】
透明基板表面に直接又はレーザー吸収層を介して付着させたX線発生用ターゲットを供給するX線発生用ターゲット供給部と、
このターゲットに基板裏面側からターゲット分離用レーザー光を照射することにより、このターゲットを基板から分離するターゲット分離用レーザー光照射部と、
分離したターゲットにX線発生用エネルギーを供給することにより、X線を発生させるX線発生用エネルギー供給部とを備えるX線発生装置。
【請求項7】
X線発生用エネルギー供給部は、X線発生用レーザー光照射部又は放電発生部を備える請求項6に記載のX線発生装置。
【請求項8】
X線発生用ターゲット供給部は、透明で中空の剛性円筒部材によって支持された可撓性を有するポリマーテープ上に付着されたX線発生用ターゲットを供給し、
ターゲット分離用レーザー光照射部は、円筒部材の内部より、円筒部材を介してターゲットにターゲット分離用レーザー光を照射するように配置される請求項6に記載のX線発生装置。
【請求項9】
ポリマーテープ上に、インクジェット方式でスポット状のターゲットを塗布するX線発生用ターゲット塗布部をさらに備える請求項8に記載のX線発生装置。
【請求項10】
X線を発生させた後のターゲットにデブリスィーパを衝突させることにより、デブリスィーパにターゲットを付着させ、その後、デブリスィーパを除去することにより、ターゲットを除去するデブリスィーパ供給部をさらに備える請求項6に記載のX線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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