説明

X線発生装置用のレーザ導入兼X線取出機構

【課題】電子ビームとレーザ光の正面衝突が実現でき、かつ衝突点におけるレーザ光のプロファイルを運転中に計測することができ、これにより、衝突確率が高くX線の発生出力を高めることができ、かつ衝突点で発生したX線をレーザ光の導入方向から効率よく取出すことができるX線発生装置用のレーザ導入兼X線取出機構を提供する。
【解決手段】レーザ光3を電子ビーム1との衝突点2aに向けて反射するレーザ導入ミラー32と、レーザ導入ミラーを気密に囲みかつ電子ビームの通過するビームチャンバ1aと連通するレーザチャンバ34と、ビームチャンバとレーザチャンバとの間を気密に開閉可能な真空バルブ36と、衝突点で発生しレーザ導入ミラーを透過したX線をレーザチャンバから取出すX線取出し窓38と、レーザ導入ミラーを透過したレーザ光3aのプロファイルを運転中に計測するプロファイル検出装置40とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を導入し逆コンプトン散乱により発生したX線を取り出すX線発生装置用のレーザ導入兼X線取出機構に関する。
【背景技術】
【0002】
小型の装置でX線を発生させる手段として、電子ビームとレーザ光の衝突によって逆コンプトン散乱に起因する準単色X線を得る手段が知られている(例えば、非特許文献1)。
また、逆コンプトン散乱により発生するX線の取出し手段が、特許文献1、2に既に開示されている。
【0003】
非特許文献1の「小型X線発生装置」は、図3に示すように、小型の加速器61(Xバンド加速管)で加速された電子ビーム62をレーザ63と衝突させてX線64を発生させるものである。RF(Radio Frequency)電子銃65(熱RFガン)で生成された電子ビーム62はXバンド加速管61で加速され、パルスレーザ光63と衝突し、コンプトン散乱により、時間幅10nsの硬X線64が生成される。
この装置は、一般に線形加速器で用いられるSバンド(2.856GHz)の4倍の周波数にあたるXバンド(11.424GHz)をRFとして用いて小型化を図っており、例えばX線強度(光子数):約1×10photons/s、パルス幅:約10psの強力な硬X線の発生が予測されている。
【0004】
特許文献1の「マルチパスレーザ逆コンプトン散乱発生器」は、大掛かりな装置や複雑な調整を必要とすることなく、また、レーザの動作が連続、パルスの如何を問わず簡便にレーザ逆コンプトン光の収量を増大させることを目的とする。
そのため、この発明の装置は、図4に示すように、マルチパスセルには、偏向電磁石71を用いて電子ビームを導入させ、マルチパスセルの二枚の凹面鏡78、79は、その曲率を適当に選択することによって、電子軌道上に焦点を設定し、かつ、入射したレーザが何度も電子軌道を横切るようにすることで、電子ビームの軌道をレーザとを交差させて、レーザ逆コンプトン散乱光72を発生可能とするものである。
【0005】
特許文献2の「多色X線発生装置」は、複数(2種または3種以上)の単色硬X線を、血管が動いていないとみなせる程度の短い時間間隔で順次切り換えて発生することができ、かつ血管造影等に適用可能な強力なX線を発生させることを目的とする。
そのため、この発明の装置は、図5に示すように、電子ビームを加速してパルス電子ビーム81を発生し所定の直線軌道82を通過させる電子ビーム発生装置85と、波長の異なる複数のパルスレーザ光83a,83bを順次発生する複合レーザ発生装置86と、複数のパルスレーザ光を直線軌道82上にパルス電子ビーム81に対向して導入するレーザ光導入装置87とを備え、複数のパルスレーザ光83a,83bを直線軌道82上でパルス電子ビーム81に順次正面衝突させ、2種以上の単色硬X線84(84a,84b)を発生させるものである。
【0006】
【非特許文献1】土橋克広、他、「Xバンドリニアックを用いた小型硬X線源の開発」、第27回リニアック技術研究会、2002
【0007】
【特許文献1】特開2002−237642号公報、「マルチパスレーザ逆コンプトン散乱発生器」
【特許文献2】特開2006−318746号公報、「多色X線発生装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電子ビームとレーザ光との衝突によるコンプトン散乱を利用したX線発生装置では、電子ビームと衝突させるためのレーザ光を導入する機構と、発生したX線を取出す機構が必要となる。
従来は、電子ビームのビームチャンバ(真空室)にレーザ光を導入するレーザチャンバを取り付けている場合が多く、X線の取出しのため、ビームチャンバあるいはレーザチャンバにX線取出し窓を設けている。しかし、このX線取出し窓に、レーザ光が透過できるガラス(SiO)を用いた場合、X線の透過率が低くX線の減衰が大きい問題点があった。
【0009】
また特にX線発生効率の高いレーザ光と電子ビームを正面衝突させるシステムにおいて、レーザ導入ミラーには耐熱性の高いBK7が一般に用いられている。しかしBK7のX線の透過率は低く、X線がさらに減衰する問題点があった。
またこの減衰を回避するため、レーザ導入ミラーの中心に開口(孔)を設け、X線をミラーの開口から取出す手段も提案されている。しかし、この手段では、X線自体の発生量が開口で制限され、かつレーザ光の導入時の損失も大きい問題点がある。
【0010】
すなわち、従来の形態ではX線の損失を抑えるためにX線自体の発生量を犠牲にするレーザ光の導入形態や、レーザ光と電子ビームの完全衝突を実現できないX線取出し形態およびレーザ導入形態、X線を取出すときにレーザ光を導入するミラーによるX線の減衰等の問題があった。
【0011】
また、従来のX線発生装置では、電子ビームとレーザ光との衝突点におけるレーザ光のプロファイルを運転中に計測することができないため、電子ビームと正確に衝突させるのが困難であった。
【0012】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、電子ビームとレーザ光の正面衝突が実現でき、かつ衝突点におけるレーザ光のプロファイルを運転中に計測することができ、これにより、衝突確率が高くX線の発生出力を高めることができ、かつ衝突点で発生したX線をレーザ光の導入方向から効率よく取出すことができるX線発生装置用のレーザ導入兼X線取出機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、電子ビームとパルスレーザ光とを正面衝突させて逆コンプトン散乱によりX線を発生させるX線発生装置用のレーザ導入兼X線取出機構であって、
レーザ光を電子ビームとの衝突点に向けて反射するレーザ導入ミラーと、
該レーザ導入ミラーを気密に囲みかつ電子ビームの通過するビームチャンバと連通するレーザチャンバと、
前記ビームチャンバとレーザチャンバとの間を気密に開閉可能な真空バルブと、
衝突点で発生し前記レーザ導入ミラーを透過したX線をレーザチャンバから取出すX線取出し窓と、
前記レーザ導入ミラーを透過したレーザ光のプロファイルを運転中に計測するプロファイル検出装置とを備えた、ことを特徴とするX線発生装置用のレーザ導入兼X線取出機構が提供される。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記プロファイル検出装置からレーザ導入ミラーまでの透過光軸上の距離は、衝突点からレーザ導入ミラーまでの反射光軸上の距離に等しい。
【0015】
また、前記レーザ導入ミラーは、厚さ3mm以下のX線の減衰度合いの低い材料で構成された板の表面にレーザ光を所定の透過率で反射する反射膜をコーティングしたハーフミラーであり、
前記X線取出し窓は、ベリリウム膜をロウ付けした気密窓である。
【0016】
また、前記レーザチャンバ内の圧力を制御する圧力制御装置を備え、
X線取出し窓のベリリウム膜に生じる最大応力が、200N/mm未満になるようにレーザチャンバ内の圧力変化を制御する。
【0017】
また、前記X線取出し窓のベリリウム膜は、純度98%以上、厚さ100〜500μm、直径がその位置でのX線の最大径以下である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の構成によれば、レーザ導入ミラーにより、レーザ光を電子ビームとの衝突点に向けて反射するので、電子ビームとレーザ光の正面衝突が実現できる。
【0019】
また、レーザ導入ミラーを透過したレーザ光のプロファイルを運転中に計測するプロファイル検出装置を備えるので、衝突点におけるレーザ光のプロファイルを運転中に計測することができ、これにより、衝突確率が高くX線の発生出力を高めることができる。
【0020】
さらに、衝突点で発生しレーザ導入ミラーを透過したX線をレーザチャンバから取出すX線取出し窓を備え、好ましい実施例によればレーザ導入ミラーは、厚さ3mm以下のX線の減衰度合いの低い材料で構成された板の表面にレーザ光を所定の透過率で反射する反射膜をコーティングしたハーフミラーであり、X線取出し窓は、ベリリウム膜をロウ付けした気密窓であるので、ガラス(SiO)や耐熱性の高いBK7と比較してX線の透過率が高く、衝突点で発生したX線をレーザ光の導入方向から効率よく取出すことができる。
【0021】
従って本発明により電子ビームとレーザ光の効率良い衝突形態において、導入するレーザ光のエネルギー密度を高めると同時に、衝突によって発生したX線の減衰を抑えることができるため、効率良くX線を取出すことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0023】
図1は、本発明によるレーザ導入兼X線取出機構を備えたX線発生装置の全体構成図である。
このX線発生装置は、電子ビーム発生装置10、レーザ光周回装置20およびレーザ発生装置29を備え、電子ビーム1とパルスレーザ光3とを衝突させて逆コンプトン散乱によりX線4を発生させる装置である。
【0024】
電子ビーム発生装置10は、電子ビームを加速してパルス電子ビーム1を発生し所定の直線軌道2を通過させる機能を有する。
この例において、電子ビーム発生装置10は、RF電子銃11、α‐磁石12、加速管13、ベンディング磁石14、Q−磁石15、減速管16、およびビームダンプ17を備える。
【0025】
RF電子銃11と加速管13は、Xバンド(11.424GHz)の高周波電源18により駆動される。RF電子銃11から引き出された電子ビームは、α‐磁石12により軌道を変えて加速管13に入射する。加速管13は、小型のXバンド加速管であり、電子ビームを加速し、好ましくは約50MeV前後の高エネルギーの電子ビームを形成する。この電子ビームは、例えば約1μs前後のパルス電子ビーム1である。
【0026】
ベンディング磁石14は、パルス電子ビーム1の軌道を磁場で曲げて所定の直線軌道2を通過させ、通過後のパルス電子ビーム1をビームダンプ17まで導く。Q−磁石15はパルス電子ビーム1の収束具合を調整する。減速管16は、パルス電子ビーム1を減速する。ビームダンプ17は、直線軌道2を通過した後のパルス電子ビーム1を捕捉して、放射線の漏洩を防止する。
【0027】
同期装置19は、電子ビーム発生装置10とレーザ発生装置29の同期をとり、パルス電子ビーム1のタイミングとパルスレーザ光3とのタイミングを合わせ、パルス電子ビーム1とパルスレーザ光3が所定の直線軌道2上の衝突点2aで衝突するように制御する。
【0028】
上述した電子ビーム発生装置10により、例えば、約50MeV前後、約1μs前後のパルス電子ビーム1を発生し、これを所定の直線軌道2を通過させることができる。
【0029】
レーザ光周回装置20は、パルスレーザ光3(p偏光)を外部のレーザ発生装置29から偏光ビームスプリッタ22を介して周回路5内に導入し、このパルスレーザ光3を周回する周回路5内に閉じ込めて、周回路内の衝突点2aを繰り返し通過させるようになっている。
【0030】
この図において、レーザ光周回装置20は、偏光ビームスプリッタ22、複数(この図で3枚)の反射ミラー24,25,32、ポッケルスセル26、および制御装置(図示せず)を備える。
【0031】
偏光ビームスプリッタ22は、第1直線偏光3a(p偏光)をそのまま通し、これに直交する第2直線偏光3b(S偏光)を直角に反射する。
3枚の反射ミラー24,25,32は、偏光ビームスプリッタ22を出たパルスレーザ光3を複数回(この例では3回)反射して、偏光ビームスプリッタ22に周回させ周回路5を構成する。なお、レーザ導出窓31cは、衝突点2aを通過したX線3を反射ミラー25に導く窓であり、レーザの透過率の高いガラスで気密にビームチャンバ1a(後述する)に取り付けられている。
【0032】
ポッケルスセル26は、周回路5内の偏光ビームスプリッタ22の下流側に位置し、電圧の印加時に通過する偏光の偏光方向を90度回転する。ポッケルスセルは、光ビームの偏光方向を素早くスイッチングできる非線形光学結晶である。
制御装置(図示せず)は、偏光ビームスプリッタ22に周回して入るパルスレーザ光3が常に第2直線偏光3b(S偏光)となるようにポッケルスセル24を制御する。
【0033】
なお、レーザ光周回装置20の構成は、上述した例に限定されず、その他の構成でもよい。
また、本発明において、レーザ光周回装置20は不可欠ではなく、反射ミラー32で反射してX線3を衝突点2aに向けて反射できる限りで、レーザ光周回装置20を省略することができる。
【0034】
図2は、本発明のレーザ導入兼X線取出機構の実施形態図である。この図において、1aは電子ビーム1の通過するビームチャンバ、14はベンディング磁石であり、電子ビームを加速してパルス電子ビーム1を発生し、この図で上向きに所定の直線軌道2を通過させるようになっている。
【0035】
本発明のレーザ導入兼X線取出機構30は、電子ビーム1とパルスレーザ光3とを正面衝突させて逆コンプトン散乱によりX線4を発生させるX線発生装置用のレーザ導入兼X線取出機構である。
【0036】
この図において、本発明のレーザ導入兼X線取出機構30は、レーザ導入ミラー32、レーザチャンバ34、真空バルブ36、X線取出し窓38、プロファイル検出装置40、および圧力制御装置42を備える。
【0037】
レーザ導入ミラー32は、上述した周回路5を構成する反射ミラーの1つであり、レーザ光3をレーザ導入窓31aから導入し、電子ビーム1との衝突点2aに向けて反射する。レーザ導入窓31aは、レーザの透過率の高いガラスで気密にレーザチャンバ34に取り付けられている。
【0038】
レーザ導入ミラー32は、ベリリウム板の表面にレーザ光を所定の透過率で反射する反射膜(例えばAg,Al)をコーティングしたハーフミラーである。ベリリウムはX線の透過性が高く、厚さ0.5mmの45°配向の場合、20keVのX線の透過率は、BK7では約53%、石英では約69%であるのに対し、ベリリウムでは、約97%である。また、厚さ3mmの45°配向の場合、20keVのX線の透過率は、ベリリウムでは、約88%である。従って、ベリリウムを用いることにより、X線取り出し時のレーザ導入ミラー32によるX線の損失を大幅に低減できる。
【0039】
反射膜の透過率は、例えば1〜2%であり、プロファイル検出装置40が検出できる限りで小さく設定する。反射膜を構成する金属(例えばAg,Al)は、X線の透過率が低いが、反射膜をミクロンオーダー以下の厚さと非常に薄くすることで、X線の損失をできる限り低減する。
【0040】
レーザチャンバ34は、レーザ導入ミラー32を気密に囲み、かつ電子ビームの通過するビームチャンバ1aと連通する真空チャンバである。なお、レーザ検出窓31bは、反射膜を透過したX線3aをプロファイル検出装置40に導く窓であり、レーザの透過率の高いガラスで気密にレーザチャンバ34に取り付けられている。
【0041】
真空バルブ36は、例えば真空ゲートバルブであり、ビームチャンバ1aとレーザチャンバ34との間を気密に開閉可能に構成されている。この真空バルブ36を閉じることにより、レーザチャンバ34をビームチャンバ1aから遮断することができ、ビームチャンバ1aに影響を与えることなく、内部の圧力を変化させ、かつ開放してメンテナンス等ができる。
【0042】
X線取出し窓38は、レーザチャンバ34の衝突点と反対側に気密に取り付けられ、衝突点2aで発生し、レーザ導入ミラー32を透過したX線4をレーザチャンバ34から取出す機能を有する。
【0043】
X線取出し窓38は、ベリリウム膜をロウ付けした気密窓であるのがよい。ロウ付けにより、有機材料の使用を回避し、レーザチャンバ34内の真空度を高めることができる。また、ベリリウム膜を用いることで、X線の透過率を高めることができる。
【0044】
また、X線取出し窓のベリリウム膜は、純度98%以上、厚さ100〜500μm、直径がその位置でのX線の最大径以下である、ことが好ましい。
純度98%以上であれば、例えば20keVのX線の透過率は厚さ2mmでも約92%あり、純度99%との差は約0.6%に過ぎない。従って、純度98%以上であれば透過率は、十分である。
【0045】
X線取出し窓38のこの位置でのX線の最大幅は約35mmであるが、厚さ100μmのベリリウム膜のろう付けで歪や撓みが生じない開口径は約30mmである。従って、厚さ100μmのベリリウム膜の直径は30mm以下にする必要がある。
【0046】
X線取出し窓の厚さ100μmのベリリウム膜に生じる最大応力が、200N/mmを超えると、レーザチャンバ34内の圧力を瞬間的な圧力差(例えば80kPa)を超えないようにスロー排気する必要がある。しかし、純度98%以上、厚さ300〜500μm、直径30mm以下であれば、最大応力が200N/mm未満となり、スロー排気制御を回避することができる。
【0047】
プロファイル検出装置40は、レーザ導入ミラー32を透過したレーザ光3のプロファイルを運転中に計測する機能を有する。このプロファイル検出装置40からレーザ導入ミラー32までの透過光軸上の距離は、衝突点2aからレーザ導入ミラー32までの反射光軸上の距離に等しく設定されている。
この構成により、衝突点におけるレーザ光3のプロファイルを運転中に計測することができる。
【0048】
圧力制御装置42は、X線取出し窓38のベリリウム膜に生じる最大応力が、200N/mm未満になるようにレーザチャンバ34内の圧力変化を制御する。
従って、スロー排気により、レーザチャンバ34内の圧力を瞬間的な圧力差(例えば80kPa)を超えないように常に制御でき、ベリリウム膜の破損を防止することができる。
なお、圧力制御装置42は不可欠ではなく、これを使用せずに、スロー排気し、あるは、ベリリウム膜の破損を防止できる限りで、スロー排気自体をしなくてもよい。
【0049】
上述した本発明の構成によれば、レーザ導入ミラー32により、レーザ光3を電子ビーム1との衝突点2aに向けて反射するので、電子ビームとレーザ光の正面衝突が実現できる。
【0050】
また、レーザ導入ミラー32を透過したレーザ光3aのプロファイルを運転中に計測するプロファイル検出装置40を備えるので、衝突点2aにおけるレーザ光3のプロファイルを運転中に計測することができ、これにより、衝突確率が高くX線の発生出力を高めることができる。
【0051】
さらに、衝突点2aで発生しレーザ導入ミラー32を透過したX線4をレーザチャンバ34から取出すX線取出し窓38を備え、レーザ導入ミラー32が、厚さ3mm以下のX線の減衰度合いの低い材料で構成された板の表面にレーザ光を所定の透過率で反射する反射膜をコーティングしたハーフミラーであり、X線取出し窓38が、ベリリウム膜をロウ付けした気密窓である構成により、ガラス(SiO)や耐熱性の高いBK7と比較してX線の透過率が高く、衝突点で発生したX線をレーザ光の導入方向から効率よく取出すことができる。
【0052】
従って本発明により電子ビームとレーザ光の効率良い衝突形態において、導入するレーザ光のエネルギー密度を高めると同時に、衝突によって発生したX線の減衰を抑えることができるため、効率良くX線を取出すことが可能となる。
【0053】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明によるレーザ導入兼X線取出機構を備えたX線発生装置の全体構成図である。
【図2】本発明のレーザ導入兼X線取出機構の実施形態図である。
【図3】非特許文献1の「小型X線発生装置」の構成図である。
【図4】特許文献1の「マルチパスレーザ逆コンプトン散乱発生器」の模式図である。
【図5】特許文献2の「多色X線発生装置」の構成図である。
【符号の説明】
【0055】
1 パルス電子ビーム、1a ビームチャンバ、
2 直線軌道、2a 衝突点、
3 パルスレーザ光、4 X線、5 周回路、
10 電子ビーム発生装置、11 RF電子銃、
12 α‐磁石、13 加速管、14 ベンディング磁石、
15 Q−磁石、16 減速管、17 ビームダンプ、
20 レーザ光周回装置、22 偏光ビームスプリッタ、
24 反射ミラー、26 ポッケルスセル、
29 レーザ発生装置、
30 レーザ導入兼X線取出機構、
32 レーザ導入ミラー、34 レーザチャンバ、
36 真空バルブ、38 X線取出し窓、
40 プロファイル検出装置、42 圧力制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームとパルスレーザ光とを正面衝突させて逆コンプトン散乱によりX線を発生させるX線発生装置用のレーザ導入兼X線取出機構であって、
レーザ光を電子ビームとの衝突点に向けて反射するレーザ導入ミラーと、
該レーザ導入ミラーを気密に囲みかつ電子ビームの通過するビームチャンバと連通するレーザチャンバと、
前記ビームチャンバとレーザチャンバとの間を気密に開閉可能な真空バルブと、
衝突点で発生し前記レーザ導入ミラーを透過したX線をレーザチャンバから取出すX線取出し窓と、
前記レーザ導入ミラーを透過したレーザ光のプロファイルを運転中に計測するプロファイル検出装置とを備えた、ことを特徴とするX線発生装置用のレーザ導入兼X線取出機構。
【請求項2】
前記プロファイル検出装置からレーザ導入ミラーまでの透過光軸上の距離は、衝突点からレーザ導入ミラーまでの反射光軸上の距離に等しい、ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ導入兼X線取出機構。
【請求項3】
前記レーザ導入ミラーは、厚さ3mm以下のX線の減衰度合いの低い材料で構成された板の表面にレーザ光を所定の透過率で反射する反射膜をコーティングしたハーフミラーであることを特徴とする請求項1に記載のレーザ導入兼X線取出機構。
【請求項4】
前記X線取出し窓は、ベリリウム膜をロウ付けした気密窓である、ことを特徴とする請求項1に記載のレーザ導入兼X線取出機構。
【請求項5】
前記レーザチャンバ内の圧力を制御する圧力制御装置を備え、
X線取出し窓のベリリウム膜に生じる最大応力が、200N/mm未満になるようにレーザチャンバ内の圧力変化を制御する、ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載のレーザ導入兼X線取出機構。
【請求項6】
前記X線取出し窓のベリリウム膜は、純度98%以上、厚さ300〜500μm、直径がその位置でのX線の最大径以下である、ことを特徴とする請求項5に記載のレーザ導入兼X線取出機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−16120(P2009−16120A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175185(P2007−175185)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】