説明

X線管装置

【課題】外囲器を回転させるモータの容量を抑えることができ、簡易な構造で、かつ流体の流路を確保して流体を効率的に移送させることができるX線管装置を提供することを目的とする。
【解決手段】外囲器2外部である両側面部の回転軸7、8の同軸上にそれぞれ保持された2つの円板17を備え、冷却用流体である絶縁油16の粘性により円板17が回転軸7、8に対して相対的に回転するように構成する。絶縁油16の粘性により円板17が回転するので、外囲器2とハウジング20との間に介在する円板17が介在することにより相対速度を分割させて、外囲器2を回転させるモータの容量を抑えることができる。また、回転軸7、8を除けば回転する部分は側面部の円板17のみであるので、簡易な構造で、絶縁油16の流路を確保して絶縁油16を効率的に移送させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、医用診断用のX線管装置に係り、特に、陽極が外囲器と一体となって回転する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のX線管装置としては、ボールベアリングを用いた回転陽極と、電子放出源としてフィラメントを用いた陰極と、外囲器とを備えた回転陽極型X線管装置がある。これに対し、陽極が外囲器と一体となって回転し、軸中心に設けられた陰極の電子源からの電子ビームを偏向コイルにより偏向させて、陽極のターゲットディスク上の所定位置に焦点を形成する外囲器回転型のX線管装置がある(例えば、特許文献1参照)。かかる回転陽極型や外囲器回転型のX線管装置では、陽極が回転するので、偏向した電子ビームがターゲットディスク上の同一位置に集中して衝突することがない。したがって、ターゲットディスク上の同一位置に集中して熱が発生することなく、同一位置に集中して発生した熱によるターゲットディスクの消耗を防止することができる。
【0003】
また、回転する外囲器の外部にはハウジングが外囲器を取り囲むように配設されており、外囲器とハウジングとの間には冷却用の絶縁油が充填されている。外囲器が高速で回転することにより、陽極で発生した熱を絶縁油に効率的に伝達し、外囲器の回転によるポンプ作用で絶縁油を効率的に循環させることができる。
【0004】
しかしながら、外囲器とハウジングとの相対速度が大きく、絶縁油の流体の粘性が高い。したがって、流体の粘性抵抗により外囲器を回転させるモータの容量が増え、モータの発熱量が増大し、モータ自体も大型化する。
【0005】
そこで、外囲器(真空管)とハウジングとの間に、流体の粘性により惰性回転する回転体(ロテーショナル・ボディ)を配設して、外囲器・回転体と回転体・ハウジングとの相対速度に分割する装置がある(例えば、特許文献2参照)。このように、相対速度を分割することで、相対速度の3乗で効く回転トルクを大きく低減させることができる。
【0006】
例えば、従来の外囲器とハウジングとの相対速度を100rpmとして、上述した特許文献2のように外囲器・回転体と回転体・ハウジングとの相対速度に分割したときに、説明の便宜上、それぞれ50rpmごとに分割されたとする。すなわち、外囲器が100rpm、回転体が50rpm、ハウジングが0rpmで回転するとする(ハウジングは0rpmで固定)。この場合、回転トルクは、従来の回転トルクに対して、分割された数×(分割された相対速度/従来の相対速度)倍となるので、50rpmごとに分割されたときには0.25倍(=2×(50/100))に低減させることができる。また、外囲器とハウジングとの間に介在する回転体は、その数が多ければ多いほど回転トルクを低減させることができる。
【特許文献1】特開平10−69869号公報(第3頁、図1)
【特許文献2】米国特許第7,025,502号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
すなわち、上述した特許文献1では回転トルクが大きく、絶縁油の流体の粘性が高いので、上述したように、流体の粘性抵抗により外囲器を回転させるモータの容量および発熱量が増大し、モータ自体も大型化する。
【0008】
一方、上述した特許文献2では、回転トルクは大きく低減するが、回転体などに代表される絶縁容器は外囲器の形状に合わせて取り囲む必要があるので、上下方向に絶縁容器を分割構造にしないと、外囲器を絶縁容器に収容することができない。そのため、絶縁容器の回転バランスの確保が難しくなる。また、外囲器を取り囲んでいる絶縁容器全体が回転する構造では、容器で熱せられた絶縁油を外囲器の回転によるポンプ作用を利用して効率良く移送させるための経路の確保が難しい。
【0009】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、外囲器を回転させるモータの容量を抑えることができ、簡易な構造で、かつ流体の流路を確保して流体を効率的に移送させることができるX線管装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、電子ビームを発生させる陰極と、その陰極からの電子ビームの衝突によりX線を発生させる陽極と、前記陰極および前記陽極を内部に収容する外囲器と、その外囲器とともに冷却用流体を内部に収容する容器とを備え、前記冷却用流体中で前記外囲器が回転することによって陽極が回転する構造の外囲器回転型のX線管装置であって、外囲器を回転させる回転軸と、外囲器外部である側面部の前記回転軸の同軸上に回転可能に保持された円板を備えたことを特徴とするものである。
【0011】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、外囲器外部である側面部の回転軸の同軸上に回転可能に保持された円板を備える。冷却用流体の粘性により円板が回転するので、外囲器と容器との間に円板が介在することにより相対速度を分割させて、それにより回転トルクを低減させて、外囲器を回転させるモータの容量を抑えることができる。また、回転軸を除けば回転する部分は円板のみであるので、回転バランスの確保が簡単になり、簡易な構造となる。また、回転軸を除けば回転する部分は側面部の円板のみであるので、回転しない部分あるいは円板に流体の流路を確保して、外囲器の回転によるポンプ作用を利用して流体を効率的に移送させることができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係るX線管装置によれば、外囲器外部である側面部の回転軸の同軸上に回転可能に保持された円板を備えるので、外囲器を回転させるモータの容量を抑えることができ、簡易な構造で、かつ流体の流路を確保して流体を効率的に移送させることができる。
【実施例】
【0013】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
図1は、実施例に係るX線管装置の外囲器の概略断面図であり、図2は、実施例に係るX線管装置の概略断面図である。
【0014】
図1に示すように、本実施例に係る外囲器回転型のX線管装置1は、真空排気された外囲器2を備えている。この外囲器2内に、高温に加熱され熱電子を放出するフィラメント3と、このフィラメント3を溝の中に取り付けた集束電極4とを収容し、この2つで陰極5を構成する。外囲器2は、この発明における外囲器に相当し、陰極5は、この発明における陰極に相当する。
【0015】
陰極5と対向位置の外囲器2の端面には陽極6を配設している。陰極5および陽極6には、スリップリング機構(図示省略)により陰極側回転軸7および陽極側回転軸8を介して、高電圧発生源(図示省略)から高電圧を印加している。加熱されたフィラメント3から電子ビーム9を発生させる。電子ビーム9は高電圧が作る電界により陽極6に向けて加速する。電子ビーム9は、外囲器2外に設けられた偏向コイル10により偏向され、陽極6のターゲットディスク傾斜部11に衝突し、焦点12を形成し、X線13を発生させる。X線13は外囲器2の放射口14から放射される。なお、偏向コイル10は、外囲器2の外部に配設された後述する絶縁容器15の外部に設けられ、外囲器2と絶縁容器15とは互いに近接している。回転軸7、8は、この発明における回転軸に相当し、陽極6は、この発明における陽極に相当する。
【0016】
外囲器2を、ステンレス鋼などの金属で形成する。これにより、高速回転を行う上で、金属を削り加工にすることで1/100mm台の真円精度を出すことができる。また、回転体としての機械的強度を増すことができる。なお、X線13が放射される放射口14を、アルミニウム、チタンなどのX線透過性のよい金属で形成する。フィラメント3は、電子源として線状のタングステンコイルやタングステン板等のフィラメントが用いられる。
【0017】
外囲器2の陰極5側には回転軸7を挿入し、陽極6側にも回転軸8を装着している。陽極6側の回転軸8は回転駆動部(図示省略)に連結されて回転し、これに伴い外囲器2も回転する。
【0018】
次に、外囲器2を取り囲む絶縁容器およびハウジングの具体的な構造について、図2を参照して説明する。図2に示すように、回転する外囲器2の外部には絶縁容器15が外囲器2を取り囲むように配設されており、外囲器2と絶縁容器15との間には冷却用の絶縁油16が充填されている。絶縁容器15は外囲器2の形状に合わせて取り囲んでおり、上述したように外囲器2と絶縁容器15とは互いに近接している。外囲器2と絶縁容器15との隙間は、例えば数mm程度である。この絶縁容器15は、その両側面が開口した筒状の構成となっており、それらの開口部分15aに2つの円板17をそれぞれ収容している。これらの円板17のうち一方を、外囲器2外部である両側面部の(陰極5側の)回転軸7の同軸上に軸受18を介して保持するとともに、外囲器2外部である両側面部の(陽極6側の)回転軸8の同軸上に軸受19を介して保持している。絶縁油16は、この発明における冷却用流体に相当し、円板17は、この発明における円板に相当する。
【0019】
後述するように円板17が回転することから、絶縁容器15と各円板17との間には、両者が互いに接触しない程度に隙間が設けられている。なお、絶縁容器15と各円板17との間の隙間が大きすぎると、その部分の耐電圧の確保もできなくなる。したがって、絶縁容器15と各円板17とが互いに接触さえしなければ、隙間をできる限り小さくするのが好ましい。
【0020】
絶縁容器15のさらなる外部には、絶縁容器15や外囲器2とともに絶縁油16を内部に収容するハウジング20を配設している。絶縁容器15あるいは円板17に開口(図示省略)を設け、その開口を通して、ハウジング20に収容された絶縁油16は絶縁容器15内外間で互いに移送することが可能である。ハウジング20は、この発明における容器に相当する。
【0021】
なお、ハウジング20に、絶縁油16を交換する循環路(図示省略)を設けてもよい。この場合には、熱せられた絶縁油16を循環路内で交換することができるので、外囲器2の陽極6を効率よく冷却することができる。また、後述するようにポンプ作用を利用して流体である絶縁油16を効率的に移送させることができるので、従来であれば循環路に必要であったポンプを設けずに、循環路のみで絶縁油16を循環路内で交換することができる。
【0022】
回転軸7、8に軸受18、19を介して円板17を保持することで、回転軸7、8の回転速度では円板17は回転しないが、絶縁油16の粘性により円板17は回転軸7、8の回転速度よりも遅い速度で惰性回転する。したがって、絶縁油16の粘性により円板17は回転軸7、8に対して相対的に回転する。この円板17の回転によって発生するポンプ作用を利用して絶縁油16を効率的に移送させることができる。なお、移送の補助としてポンプを配設してもよい。
【0023】
本実施例に係るX線管装置1によれば、外囲器2外部である両側面部の回転軸7、8の同軸上にそれぞれ保持された2つの円板17を備える。冷却用流体である絶縁油16の粘性により円板17が回転軸7、8に対して相対的に回転するように構成する。絶縁油16の粘性により円板17が回転するので、外囲器2とハウジング20との間に介在する円板17が介在することにより相対速度を分割させて、それにより回転トルクを低減させて、外囲器2を回転させるモータの容量を抑えることができる。また、回転軸7、8を除けば回転する部分は円板17のみであるので、回転バランスの確保が簡単になり、簡易な構造となる。また、回転軸7、8を除けば回転する部分は側面部の円板17のみであるので、回転しない部分(実施例では絶縁容器15)あるいは円板17に開口を設けて絶縁油16の流路を確保して、外囲器2の回転によるポンプ作用を利用して絶縁油16を効率的に移送させることができる。
【0024】
特に、本実施例のように、外囲器2は、図1、図2に示すように図面の右方向にしたがって径が大きくなる形状となっている。この場合には、径が大きい右側の円板17のみを取り外しておいて、外囲器2を径が小さい左側から順に収納して、円板17のみを取り付ければ、外囲器2を絶縁容器15に収容することができる。上述した特許文献2では、外囲器を取り囲む絶縁容器(回転体)が側面で開口していないので、上下方向に絶縁容器を分割構造にしないと、外囲器を絶縁容器に収容することができないが、本実施例の場合には、絶縁容器を分割構造にしなくとも、外囲器2を絶縁容器15に収容することができるという効果をも奏する。
【0025】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0026】
(1)非破壊検査機器などの工業用装置やX線診断装置などの医用装置にも適用することができる。
【0027】
(2)上述した実施例では、陰極4としてタングステンコイル等のフィラメントのように熱電子放出型を例に採って説明したが、電界によるトンネル効果によって電子ビームを放出させる電界放出型にも適用することができる。
【0028】
(3)上述した実施例では、外囲器外部である両側面部の回転軸の同軸上にそれぞれ保持された2つの円板を備えたが、側面部の回転軸の同軸上に保持された1つのみの円板を備えてもよい。例えば、図1、図2に示す外囲器では図面の右方向にしたがって径が大きくなる形状となるので、径が小さい左側の側面部にある円板の方が、径が大きい右側の側面部にある円板よりも回転トルクが小さくなる。したがって、径が小さい左側の側面部にある円板での回転トルクが無視できる程度に小さければ、径が大きい右側の側面部の回転軸の同軸上に円板を1つのみ備えてもよい。以上のことから、外囲器外部である側面部の回転軸の同軸上に回転可能に保持された円板を備えるのであれば、実施例のように両側面部の回転軸の同軸上にそれぞれ保持された2つの円板を備えてもよいし、この変形例(3)のように片側面部の回転軸の同軸上に保持された1つのみの円板を備えてもよい。
【0029】
(4)変形例(3)で述べたように、外囲器外部である側面部の回転軸の同軸上に回転可能に保持された円板を備えるのであれば、円板の数については特に限定されない。3つ以上の円板を両側面部あるいは片側面部の回転軸の同軸上にそれぞれ保持されるようにしてもよい。なお、回転トルクや移送のことを考慮すれば、実施例や変形例(3)のように円板を2つあるいは1つのみ備えるのがより好ましい。
【0030】
(5)外囲器の形状は、特に限定されない。図3に示すように、偏向コイルを中心にして両側にしたがって径が大きくなる形状であってもよい。
【0031】
(6)上述した実施例では、絶縁容器が側面で開口していたが、図4に示すように、側面を閉じた一体型の絶縁容器内に円板を備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例に係るX線管装置の外囲器の概略断面図である。
【図2】実施例に係るX線管装置の概略断面図である。
【図3】変形例に係るX線管装置の概略断面図である。
【図4】さらなる変形例に係るX線管装置の概略断面図である。
【符号の説明】
【0033】
2 … 外囲器
5 … 陰極
7、8 … 回転軸
6 … 陽極
16 … 絶縁油
17 … 円板
20 … ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを発生させる陰極と、その陰極からの電子ビームの衝突によりX線を発生させる陽極と、前記陰極および前記陽極を内部に収容する外囲器と、その外囲器とともに冷却用流体を内部に収容する容器とを備え、前記冷却用流体中で前記外囲器が回転することによって陽極が回転する構造の外囲器回転型のX線管装置であって、外囲器を回転させる回転軸と、外囲器外部である側面部の前記回転軸の同軸上に回転可能に保持された円板を備えたことを特徴とするX線管装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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