説明

X線集光装置

【課題】放射光施設で用いられる硬X線、軟X線を集光させるためX線集光装置であって、大きな開口数(NA)を有するK−Bミラーのアライメントを高精度且つ迅速に行うことが可能なミラーマニピュレータを備え、集光スポットが100nm以下の高い空間分解能を達成することが可能なX線集光装置を提供する。
【解決手段】光源と集光点を焦点とする楕円の形状が作り込まれた2枚の全反射ミラーからなる第1ミラー1と第2ミラー2を互に垂直に配置したK−Bミラー配置とし、2本の平行なレーザービームの一方を、水平に配した第1ミラーに垂直に入射し、他方を垂直に配した第2ミラーに90°方向を変換して垂直に入射し、両ミラーからの反射ビームが入射ビームと重なるように調節する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線集光装置に係わり、更に詳しくはX線集光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
第三世代放射光施設において軟X線から硬X線までの様々な波長領域において、高輝度、低エミッタンス、高コヒーレンスという特徴を持つX線を利用することができるようになった。このことは蛍光X線分析や光電子分光、X線回折等の様々な分析の感度や空間分解能を飛躍的に向上させた。このような放射光を利用したX線解析やX線顕微法は高感度、高分解能であるだけでなく非破壊で観察が可能であるため、現在、医学、生物、材料学等の分野で利用されつつある。
【0003】
X線解析やX線顕微法の主要技術であるX線集光光学素子にはFZP(Fresnel zoneplate)、K−B(Kirkpatrick and Baez)ミラーが一般的に使用されている(特許文献1参照)。FZPは、アライメントが簡単で、半導体露光技術を応用することで比較的簡単に製作することが可能であるが(特許文献2参照)、回折現象を利用しているため集光効率が悪く、色収差がある。K−Bミラーは、全反射現象を利用しているため集光効率が高く、色収差が殆どないが、ミラーの形状加工、アライメントの点で難しいと言われている。
【0004】
K−Bミラー配置は、光源と集光点を焦点とする楕円の形状が作り込まれた2枚の全反射ミラーで構成されている。図1に示すように、それぞれのミラーが、垂直、水平方向集光を担っている。ミラー形状には、全ミラー領域に渡ってナノメーターレベルの形状精度が要求される。また、一般的なK−Bミラーのアライメント方法は、アライメントと集光テストを繰り返し、もっともX線を集光できた角度、位置にミラーを配置するものであるが、調整すべき軸が多数あるため放射光実験のように限られたビームタイム内で2枚のミラーの理想的な配置を実現することは難しい。
【特許文献1】 特開平08−271697号公報
【特許文献2】 特許3643866号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、放射光施設で用いられる硬X線、軟X線を集光させるためのX線集光装置であって、大きな開口数(NA)を有するK−Bミラーのアライメントを高精度且つ迅速に行うことが可能なミラーマニピュレータを備え、集光スポットが100nm以下の高い空間分解能を達成することが可能なX線集光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前述の課題解決のために、放射光施設で用いられる硬X線、軟X線を集光スポットが100nm以下の高い空間分解能で集光させるためのX線集光装置であって、光源と集光点を焦点とする楕円の形状が作り込まれた2枚の全反射ミラーからなる第1ミラーと第2ミラーを互に垂直に配置したK−Bミラー配置とし、2本の平行なレーザービームの一方を、水平に配した前記第1ミラーに垂直に入射し、他方を垂直に配した前記第2ミラーに90°方向を変換して垂直に入射し、両ミラーからの反射ビームが入射ビームと重なるように調節することを特徴とするX線集光装置を構成した(請求項1)。
【0007】
ここで、アライメント用のレーザービームを発生する2つのオートコリメータを、互いの相対角度を調節可能な傾斜ステージ上に設け、その2本のレーザービームを予め平行に調節し、前記第1ミラーを水平に配し、前記第2ミラーを垂直に配するとともに、該第2ミラーの法線方向の近傍に光路を90°方向変換可能なペンタプリズムを配し、一方のレーザービームを前記第1ミラーに垂直に入射し、他方のレーザービームを前記ペンタプリズムを通して前記第2ミラーに垂直に入射し、両ミラーからの反射ビームが入射ビームと重なるように調節可能とすべく、前記第1ミラーと第2ミラーの何れか一方の保持部にX線の入射角調節機能に加え光軸周りにミラーを回転させる機能を有するとともに、2本のレーザービームを平行に維持した状態で前記2つのオートコリメータを全方向に傾斜可能な機能を有することが好ましい(請求項2)。
【0008】
また、下基準板の上面に入射角調節機構を介して前記第1ミラーを保持するとともに、別の入射角調節機構を介して前記第2ミラーを保持し、前記下基準板の上方に複数の支柱で支持された上基準板を設け、該上基準板の上に設けた傾斜ステージに、第1のオートコリメータを装着するとともに、第2の傾斜ステージを設け、該第2の傾斜ステージ上に第2のオートコリメータを装着してなることがより好ましい(請求項3)。
【0009】
また、前記上基準板の下面側には、十分な面精度を有する平面ミラーを該上基準板に下設した支持部材で着脱可能に配し、前記2つのオートコリメータから発生した2本のレーザービームを前記平面ミラーで同時に反射させて、その反射ビームが入射ビームと重なるように前記傾斜ステージを調節する(請求項4)。
【0010】
更に、前記入射角調節機構は、弾性ヒンジによって第1ミラー及び第2ミラーの入射角を、角度ステップが0.5μrad以下の精度で調節可能とすることが好ましい(請求項5)。
【発明の効果】
【0011】
以上にしてなる本発明のX線集光装置は、集光対象のX線を使用しないので、マシンタイムに影響されずに事前に行うことができる。また、オートコリメータの光軸を平行に合わしさえすれば、ペンタプリズムやオートコリメータの配置誤差に影響されることなく、簡単且つ素早くミラー間垂直度を調整することが可能である。それにより、大きな開口数(NA)を有するK−Bミラーのアライメントを高精度且つ迅速に行うことができ、集光スポットが100nm以下の高い空間分解能を達成することができるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のX線集光装置において適用する光学系は、回折限界集光で50nm以下のビームサイズを達成することができ、X線顕微鏡システムの実用的な使用を考慮し、比較的長い100mmの作動距離を持つものである。X線光学系は、2枚の楕円ミラーからなるK−Bミラー配置をとる。楕円ミラーは、長さが100mmのSi単結晶のブロックをナノメーターレベルの形状精度で加工し、楕円反射面にPtを50nmの厚さでコーティングすることで、15keVのX線を4mradという大きな入射角で集光できる光学特性のものである。
【0013】
図1に示すように、SPring−8や自由電子レーザー等の放射光発生装置Rで作り出されたX線Lは、スリットSを通した後、楕円ミラーである水平に配した垂直方向集光ミラー1(第1ミラー)と、垂直に配した水平方向集光ミラー2(第2ミラー)とで集光される。本実施形態では、第1ミラー1と第2ミラー2の中心間隔を102mmとし、第1ミラー1の焦点距離を253mm、第2ミラー2の焦点距離を150mmとし、第2ミラー端がら焦点までの距離を約100mmとしている。
【0014】
本発明に係るX線集光装置のミラーアライメントにおいて、考慮する軸のうち入射角とはミラー中心での入射X線に対するミラー表面の角度であり、面内回転とはミラー中心の法線ベクトル周りの回転である。また、ミラー間垂直度は2枚のミラー中心にそれぞれ法線ベクトルを定義し、その二軸がなす角度から90°を引いた値を指すことにする。
【0015】
設計されたミラーを用いて回折限界集光を実現するために、初めに光線追跡シミュレータを用いて入射角、ミラー間垂直度、面内回転における許容角度誤差を見積もった。光線追跡シミュレータによる許容角度誤差の算出は以下のように行った。先ず、回折限界における第一極小点間距離で定義されたビームサイズを以下の式により算出した。
【0016】
d=2.0λf/D
ここで、dは矩形開口に基づく回折波の第一極小点間距離、λはX線の波長、fは焦点距離、Dはミラー開口を示している。
【0017】
次に、光線追跡シミュレータを用いて角度誤差と最大幅で定義されるスポットサイズの関係を計算した。この時、光線追跡シミュレータで得られたスポットサイズが上式で得られたd以下となる範囲を許容される角度誤差と定義した。この結果、入射角のアライメントに要求される精度は垂直方向集光ミラー(第1ミラー)で±0.7μrad、水平方向集光ミラー(第2ミラー)で±0.3μradであることが分かった。ミラー間垂直度での許容角度範囲は±40μradであった。また、面内回転での許容角度範囲は垂直方向集光ミラーで±13mrad、水平方向集光ミラーで±16mradであり、面内回転は殆ど考慮しなくても良いことが分かった。
【0018】
光線追跡シミュレータによって得られる許容角度誤差は回折限界近傍においては実際より厳しく見積もられると予想される。このため、非常に厳しいアライメント精度が要求されている入射角においては、波動光学シミュレーションによって厳密に計算する。光線追跡シミュレータは、波長を無限小と近似しているため、回折限界近傍での集光ビームをこの方法で厳密に議論することはできない。それに対して、波動光学シミュレーションは、フレネル・キルヒホッフの回折積分を計算することによって反射ビームの強度分布プロファイルを計算することができる新しいシミュレータである。この波動光学シミュレーションの結果、入射角誤差とFWHMで表された集光径の関係が得られ、許容入射角度誤差を理想的な条件(理想的なミラー、理想的なミラーアライメント)で得られた最小スポットサイズが120%まで広がる角度範囲と定義すると、許容入射角度誤差は垂直方向集光ミラーで±1.5μrad、水平方向集光ミラーで±0.9μradであることが分かった。
【0019】
従って、本発明に係るX線集光装置において、最も高精度な調節が必要なのはミラーの入射角、その次がミラー間垂直度であり、それぞれ高精度なアライメントが可能な入射角調節機構Aと、垂直度調節機構Bによって行っている。
【0020】
本発明のX線集光装置の概要を図1〜図3に基づいて説明する。本発明のX線集光装置は、楕円ミラーからなる入射側の第1ミラー1と同じく楕円ミラーからなる出射側の第2ミラー2を所定の位置関係に保持するとともに、高精度なアライメントを可能としたものであり、基台部3の上に2枚の前記ミラー1,2を保持するミラー保持部4を載置し、前記基台部3を調節してミラー保持部4の姿勢を調節できるようにしている。本発明において、集光対象であるX線(放射光)の水平投影面におけるビーム方向をX方向とし、それに直角な方向をY方向とし、垂直方向をZ方向としている。
【0021】
つまり、前記基台部3は、設置面に載置するベース板5の上にXYステージ6を設け、その上にZステージ7,7を設けて、前記ミラー保持部4の底面を構成する剛性の高い下基準板8を3点支持する。前記XYステージ6には、調節後の状態を維持するストッパー機能を備えている。ここで、前記XYステージ6及びZステージ7は、市販の高精度のものを用いることができる。
【0022】
前記入射角調節機構Aは、前記ミラー保持部4の内部に設け、弾性ヒンジを用いて前記第1ミラー1及び第2ミラー2の入射角を、それぞれ少なくとも0.5μrad以上の角度ステップにわたって、バックラッシュのない調節が行えるものである。前記垂直度調節機構Bは、前記ミラー保持部4の上部に設け、高い精度で平行に調節した2本のレーザービームを基準とし、一方のレーザービームを水平な前記第1ミラー1の中心で反射させ、他方のレーザービームを90°方向を変えて前記第2ミラー2の中心で反射させ、互いの反射光が基準のレーザービームとそれぞれ重なるようにミラー姿勢を調節することによって、前記第1ミラー1と第2ミラー2の間の垂直度を40μrad以上の分解能で調節することができるものである。
【0023】
更に詳しくは、前記ミラー保持部4は、四角形の前記下基準板8の上面であってX線入射側にXステージ9を取付け、該Xステージ9の上に入射角調節機構A1を設けて前記第1ミラー1を水平に保持し、前記下基準板8の出射側にYステージ10を取付け、該Yステージ10の上に入射角調節機構A2を設けて前記第2ミラー2を垂直に保持している。ここで、前記入射角調節機構A1と入射角調節機構A2とは、弾性ヒンジを用いた高精度な入射角の調節機構としての基本機能は同じであるので、区別する必要がない場合には入射角調節機構Aとして総称する。
【0024】
前記垂直度調節機構Bは、前記下基準板8の四隅に支柱11,…を立設し、その上端に基準面となる上基準板12を前記下基準板8に対して平行に固定し、前記下基準板8と上基準板12とが4本の支柱11,…で連結された剛性の高い構造体に設けられている。前記垂直度調節機構Bは、レーザービームを発生し、反射ビームを受光する機能を備えた2台のオートコリメータ13,14を、それぞれ傾斜ステージ15,16を介して前記上基準板12の上に設置し、各オートコリメータ13,14から射出されたレーザービームを正確に平行になるように調節可能となっている。ここで、前記傾斜ステージ15は、前記上基準板12の上で図示しない鋼球と二つのマイクロメータ17,17とで3点支持し、該傾斜ステージ15の上に前記オートコリメータ13が固定されているとともに、前記傾斜ステージ16が載置されている。前記傾斜ステージ16は、傾斜ステージ15の上で図示しない鋼球と二つのマイクロメータ18,18とで3点支持し、該傾斜ステージ16の上に前記オートコリメータ14が固定されている。
【0025】
前記傾斜ステージ15は、平面視四角形の金属板の一つの角部に開けた円孔若しくは円形凹部と、前記上基準板12に開けた円孔若しくは円形凹部にその直径よりも大きな直径の鋼球を嵌合し、ユニバーサルジョイントを構成し、前記上基準板12と傾斜ステージ15の一側部との間に設けた引張りコイルばねで、該上基準板12に突設したピンに傾斜ステージ15の一側縁を当止し、前記マイクロメータ17,17で傾斜ステージ15の姿勢を全方向に自由に変更可能とし、どのような状態になっても傾斜ステージ15がガタつくことがないように構成している。同様に、前記傾斜ステージ16は、平面視四角形の金属板の一つの角部に開けた円孔若しくは円形凹部と、前記傾斜ステージ15に開けた円孔若しくは円形凹部にその直径よりも大きな直径の鋼球を嵌合し、ユニバーサルジョイントを構成し、前記傾斜ステージ15と傾斜ステージ16の一側部との間に設けた引張りコイルばねで、該傾斜ステージ15に突設したピンに傾斜ステージ16の一側縁を当止し、前記マイクロメータ18,18で傾斜ステージ16の姿勢を全方向に自由に変更可能とし、どのような状態になっても傾斜ステージ16がガタつくことがないように構成している
【0026】
そして、前記オートコリメータ13から下方へ垂直に射出されたレーザービームは、前記傾斜ステージ15と上基準板12に設けた図示しない開口を通して下方へ進行し、また前記オートコリメータ14から下方へ垂直に射出されたレーザービームは、前記傾斜ステージ16,15と上基準板12に設けた図示しない開口を通して下方へ進行するようになっている。一方、前記上基準板12の下面側には、十分な面精度を有する平面ミラー19を、該上基準板12に下設した一対の断面略L字形の支持部材20,20によって載支している。前記平面ミラー19は、前記オートコリメータ13,14から射出されたレーザービームを直角に反射させて、反射ビームが同一の光路を通るようにモニターを見ながら調節し、2本のレーザービームを平行に調節するために用いる。そして、後述のように、平行度が高い2本のレーザービームを用いて、前記第1ミラー1と第2ミラー2の垂直度を調節する際には、前記平面ミラー19は取外すか又は前記支持部材20,20上で邪魔にならない位置に移動させる。
【0027】
図4は、前記ミラー保持部4の詳細を示し、前記下基準板8の上面に前記入射角調節機構A1と入射角調節機構A2を設置するとともに、前記オートコリメータ14から射出されたレーザービームを90°方向を変えて前記第2ミラー2に垂直に照射するための光路変更機構21を、前記Yステージ10の上に設置している。この光路変更機構21は、前記オートコリメータ13,14等とともに垂直度調節機構Bを構成する。
【0028】
前記入射角調節機構A1は、図4〜図7に示すように、Xステージ9の両側に四角柱の固定柱22,22を立設し、各固定柱22のX方向の側面に沿って所定間隔を置いて可動柱23を配置し、前記固定柱22と可動柱23の上端間を中央にY方向に延びた薄肉のヒンジ部24Aを有する弾性ヒンジ24で連結し、該可動柱23,23の下端間に支持板25を固定し、更に前記両可動柱23,23の中間で該支持板25の下面に押圧板26を下設し、前記Xステージ9の上にX方向に向けて固定したリニアアクチュエータ27の駆動部で前記押圧板26を押して前記支持板25を微小角度傾斜させ、該支持板25で支持した前記第1ミラー1の入射角を調節することができる構造である。ここで、リニアアクチュエータ27の駆動部と押圧板26とは常時略一定の押圧力で接触するようにしている。リニアアクチュエータ27の駆動部を前進させると前記ヒンジ部24Aを中心として前記支持板25が一方向へ傾き、リニアアクチュエータ27の駆動部を後退させると前記ヒンジ部24Aが弾性的に復帰して前記支持板25が他方向に傾くのである。ここで、最小の調節可能な角度ステップは、前記弾性ヒンジ24のヒンジ部24Aからリニアアクチュエータ27の駆動部で押圧する押圧板26の押圧点までの距離に反比例するので、入射角の調節精度を高めるためにはできるだけこの距離を長くすれば良いが、装置の大きさに対する制約でその最大値は決まる。
【0029】
このように、前記支持板25に前記第1ミラー1を保持すれば、その入射角を調節できるが、該第1ミラー1を光軸周りにも微小角度傾斜できるように、該支持板25の上に設けた傾動板28の上面に第1ミラー1を静置する構造となっている。つまり、図7に示すように、前記第1ミラー1の垂直線上に薄肉のヒンジ部29Aが位置するように断面略H字形の弾性ヒンジ29を設け、該弾性ヒンジ29で前記支持板25と傾動板28を連結し、一方の固定柱22を超えて側方へ延びた前記支持板25と傾動板28の側端部にマイクロメータ30を設け、該マイクロメータ30を回転駆動して支持板25と傾動板28の側端部間の間隔を調節して前記ヒンジ部29Aを中心に左右に第1ミラー1を傾斜させることが可能な構造となっている。尚、前記弾性ヒンジ29とマイクロメータ30の中間位置に前記支持板25と傾動板28が接近する方向に弾性付勢するボルトとコイルからなる弾性付勢具31を設けている。
【0030】
ここで、前記マイクロメータ30を設けた側の支持板25には、前記固定柱22を遊挿する開口32を設け、前記傾動板28には、前記固定柱22と可動柱23を遊挿する開口33を設け、互いの動作が干渉しないようにしている。また、前記弾性ヒンジ24のヒンジ部24Aの中心が前記第1ミラー1の表面と面一になるように高さ設定している。前記第1ミラー1は、前記傾動板28の上面に平面視L字形に配した位置決め部34に沿って配置し、鋼球によって3点支持された状態で静置する。また、前記位置決め部34のX方向端部に水平に設けた小型のマイクロメータ35で第1ミラー1の端部を押して、該第1ミラー1の位置を修正できるようにしている。
【0031】
前記入射角調節機構A2は、図4、図8〜図10に示すように、Yステージ10の外側寄りに面をY方向に平行に固定板36を立設し、該固定板36の上下部に四角柱の固定柱37,37を側設し、各固定柱37のY方向の側面に沿って所定間隔を置いて可動柱38を配置し、前記固定柱37と可動柱38の側端間を中央にZ方向に延びた薄肉のヒンジ部39Aを有する弾性ヒンジ39で連結し、該可動柱38,38の他端間に支持板40を固定し、更に前記両可動柱38,38の上下中間で該支持板40の外側の側面に押圧板41を側設し、前記Yステージ10の上にX方向に向けて固定したリニアアクチュエータ42の駆動部で前記押圧板41を押して前記支持板40を微小角度傾斜させ、該支持板40で支持した前記第2ミラー2の入射角を調節することができる構造である。
【0032】
更に、前記第2ミラー2を垂直に保持する保持板43は、前記支持板40の内側の側面に微小なZステージ44を介して連結され、そして該保持板43の下縁に受け部材45とY方向端部(出射側)に垂直な当止部材46を側面視略L字形に設け、更に受け部材45には前記第2ミラー2の反射面側を弾性的に押圧する押圧板47を設けている。前記押圧板47は側面視略U字形であり、その両側部の上下部に貫通した孔から前記第2ミラー2の反射面に向けて突出し、その方向へ弾性付勢した押圧具48,48を備えている。
【0033】
また、前記保持板43は、前記Zステージ44に対してボル止めされており、上下方向(Z方向)に移動可能となっており、前記支持板40の上下部にブロックを突設し、下方のブロックに上方へ向けて弾性付勢する付勢ピン49を取付け、上方のブロックに下方へ向けて小型のマイクロメータ50を取付け、付勢ピン49で保持板43を上方へ付勢しつつ、上方からマイクロメータ50で押圧して上下の位置決めをし、前記保持板43の上下位置を調節できるようになっている。
【0034】
また、前記弾性ヒンジ39のヒンジ部39Aの中心が前記第2ミラー2の表面と面一になるように横方向の位置を設定している。尚、前記第1ミラー1を反射したX線は、前記第2ミラー2と押圧板47の間の隙間を通って該第2ミラー2の中央部で反射する。ここで、前記押圧板47の中央部は開放しているので、この部分を利用して前記オートコリメータ14からのレーザービームを用いてアライメントする。
【0035】
そして、前記光路変更機構21は、一面に入射した光を内部で反射させて直交した他の面から出射するペンタプリズム51を保持したものである。前記ペンタプリズム51は、偏角精度が36.4μrad以下のものを用いた。前記光路変更機構21は、図4、図10及び図11に示すように、前記Yステージ10の内側部に設けられ、該Yステージ10の上面に固定した回転ステージ52の上にZ方向に駆動する昇降具53を設け、該昇降具53の駆動部に前記ペンタプリズム51を2枚の保持板54,54で挟み込んで固定している。
【0036】
最後に、前記垂直度調節機構Bと第1ミラー1と第2ミラー2との位置関係は、図11及び図12に示されており、該垂直度調節機構Bを用いて第1ミラー1と第2ミラー2をアライメントする方法を図13〜図16に基づいて説明する。先ず、図13に示すように、前記平面ミラー19を前記オートコリメータ13,14から射出されたレーザービームを横切る位置にセットし、入射ビームに平面ミラー19から反射した反射ビームが正確に重なるようにように前記傾斜ステージ15,16の傾きを調節する。この調節によって、前記平面ミラー19に対してオートコリメータ13,14から射出された2本のレーザービームが垂直になり、平面ミラー19の保証された平面精度で両ビームの平行度が保証される。それから、前記平面ミラー19を2本のレーザービームの光路から外し(図14参照)、図15に示すように、オートコリメータ13から出射したレーザービームを、第1ミラー1の中心部で反射させて、その反射ビームが入射ビームに正確に重なるように前記入射角調節機構A1を調節する。また、図16に示すように、オートコリメータ14から出射したレーザービームは、前記ペンタプリズム51で90°方向を変換して第2ミラー2の中央部に入射し、その反射ビームはペンタプリズム51で90°方向を変換してオートコリメータ14に帰り、反射ビームと入射ビームが正確に重なるように前記入射角調節機構A2を調節する。このように、前記垂直度調節機構Bを用いて第1ミラー1と第2ミラー2を垂直になるように調節することができる。
【0037】
ここまでの垂直度調節機構Bを用いたアライメントでは、集光対象のX線を使用しないので、マシンタイムに影響されずに事前に行うことができる。また、この垂直度調節機構Bを用いたアライメントの特徴は、オートコリメータの光軸を平行に合わしさえすれば、ペンタプリズムやオートコリメータの配置誤差に影響されることなく、簡単且つ素早くミラー間垂直度を調整することが可能である点である。
【0038】
それから、第1ミラー1と第2ミラー2の入射角、両ミラーの焦点位置は、実際にX線を用いて、集光部に配置されたX線のビームプロファイルを計測しながら微調整を行うのである。ここで、前記リニアアクチュエータ27,42は勿論、XYステージ6、Zステージ7、Xステージ9、Yステージ10は、全てパルスモータで駆動され、パルス数や移動距離がモニターされて正確に遠隔操作できるようになっている。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のX線集光装置の概念図である。
【図2】本発明のX線集光装置の全体斜視図である。
【図3】同じくY方向から見た側面図である。
【図4】ミラー保持部の斜視図である。
【図5】入射角調節機構A1の斜視図である。
【図6】同じく傾動板と第1ミラーを除いた状態の入射角調節機構A1の斜視図である。
【図7】同じくX方向から見た入射角調節機構A1の側面図である。
【図8】入射角調節機構A2の斜視図である。
【図9】同じく押圧板と第2ミラーを除いた状態の入射角調節機構A2の斜視図である
【図10】同じく入射角調節機構A2の平面図である。
【図11】垂直度調節機構を示すため入射角調節機構を省略したY方向から見た側面図である。
【図12】垂直度調節機構を示すため入射角調節機構を省略したX方向から見た側面図である。
【図13】二つのオートコリメータのレーザービームを、平面ミラーを用いて平行に調節する工程を示す説明図である。
【図14】図13の状態で平面ミラーを除いた状態の説明図である。
【図15】一方のオートコリメータのレーザービームを用いて、第1ミラーの姿勢を調節する状態を示す説明図である。
【図16】他方のオートコリメータのレーザービームを用いて、第2ミラーの姿勢を調節する状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0040】
R 放射光発生装置
S スリット
L X線
A、A1、A2 入射角調節機構
B 垂直度調節機構
1 第1ミラー(垂直方向集光ミラー)
2 第2ミラー(水平方向集光ミラー)
3 基台部
4 ミラー保持部
5 ベース板
6 XYステージ
7 Zステージ
8 下基準板
9 Xステージ
10 Yステージ
11 支柱
12 上基準板
13 オートコリメータ
14 オートコリメータ
15 傾斜ステージ
16 傾斜ステージ
17 マイクロメータ
18 マイクロメータ
19 平面ミラー
20 支持部材
21 光路変更機構
22 固定柱
23 可動柱
24 弾性ヒンジ
25 支持板
26 押圧板
27 リニアアクチュエータ
28 傾動板
29 弾性ヒンジ
30 マイクロメータ
31 弾性付勢具
32 開口
33 開口
34 位置決め部
35 マイクロメータ
36 固定板
37 固定柱
38 可動柱
39 弾性ヒンジ
40 支持板
41 押圧板
42 リニアアクチュエータ
43 保持板
44 Zステージ
45 受け部材
46 当止部材
47 押圧板
48 押圧具
49 付勢ピン
50 マイクロメータ
51 ペンタプリズム
52 回転ステージ
53 昇降具
54 保持板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射光施設で用いられる硬X線、軟X線を集光スポットが100nm以下の高い空間分解能で集光させるためのX線集光装置であって、光源と集光点を焦点とする楕円の形状が作り込まれた2枚の全反射ミラーからなる第1ミラーと第2ミラーを互に垂直に配置したK−Bミラー配置とし、2本の平行なレーザービームの一方を、水平に配した前記第1ミラーに垂直に入射し、他方を垂直に配した前記第2ミラーに90°方向を変換して垂直に入射し、両ミラーからの反射ビームが入射ビームと重なるように調節することを特徴とするX線集光装置。
【請求項2】
アライメント用のレーザービームを発生する2つのオートコリメータを、互いの相対角度を調節可能な傾斜ステージ上に設け、その2本のレーザービームを予め平行に調節し、前記第1ミラーを水平に配し、前記第2ミラーを垂直に配するとともに、該第2ミラーの法線方向の近傍に光路を90°方向変換可能なペンタプリズムを配し、一方のレーザービームを前記第1ミラーに垂直に入射し、他方のレーザービームを前記ペンタプリズムを通して前記第2ミラーに垂直に入射し、両ミラーからの反射ビームが入射ビームと重なるように調節可能とすべく、前記第1ミラーと第2ミラーの何れか一方の保持部にX線の入射角調節機能に加え光軸周りにミラーを回転させる機能を有するとともに、2本のレーザービームを平行に維持した状態で前記2つのオートコリメータを全方向に傾斜可能な機能を有する請求項1記載のX線集光装置。
【請求項3】
下基準板の上面に入射角調節機構を介して前記第1ミラーを保持するとともに、別の入射角調節機構を介して前記第2ミラーを保持し、前記下基準板の上方に複数の支柱で支持された上基準板を設け、該上基準板の上に設けた傾斜ステージに、第1のオートコリメータを装着するとともに、第2の傾斜ステージを設け、該第2の傾斜ステージ上に第2のオートコリメータを装着してなる請求項2記載のX線集光装置。
【請求項4】
前記上基準板の下面側には、十分な面精度を有する平面ミラーを該上基準板に下設した支持部材で着脱可能に配し、前記2つのオートコリメータから発生した2本のレーザービームを前記平面ミラーで同時に反射させて、その反射ビームが入射ビームと重なるように前記傾斜ステージを調節する請求項3記載のX線集光装置。
【請求項5】
前記入射角調節機構は、弾性ヒンジによって第1ミラー及び第2ミラーの入射角を、角度ステップが0.5μrad以下の精度で調節可能とした請求項3記載のX線集光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−271595(P2007−271595A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124378(P2006−124378)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(396007188)株式会社ジェイテック (15)
【Fターム(参考)】