説明

X線高電圧装置およびX線CT装置

【課題】 電源設備容量を抑えることが可能なX線高電圧装置を提供することを目的とする。
【解決手段】X線高電圧装置は、商用電源から直流電圧を発生する直流電源部1100と、直流電源部の発生する直流電圧を高周波の交流電圧に変換するインバータ部1200と、インバータ部の出力する交流電圧を昇圧してX線管に供給する高電圧発生装置1300と、電力を蓄積するキャパシタ部1400と、制御部1600とを有する。キャパシタ部1400は、直流電源部1100と並列にインバータ部に接続されている。制御部1600は、直流電源部からインバータ部へ入力される直流電圧が所定の電圧に満たない場合に、キャパシタ部1400から直流電圧をインバータに供給させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線CT装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マルチスライス機能を備えた、ヘリカルスキャンやスパイラルスキャンと呼ばれる螺旋CT装置がX線CT装置の主流となっている。螺旋CT装置は、体軸方向に連続したデータが得られ、これによって三次元画像の生成が可能である。また、X線検出器を多列化して配置することにより、一度に多くの断層画像の撮像が短時間で広い範囲に可能である。
【0003】
この螺旋CT装置は、スキャナ回転部にX線管装置とX線検出器を搭載し、スキャナ回転部を連続回転させると同時に、被検体を載置したテーブルを被検体の体軸方向に連続移動させる。これにより、X線管装置とX線検出器とを被検体に対し相対的に螺旋運動をさせることができる。
【0004】
螺旋CT装置では、スキャナ回転部の回転速度が速いほど短い時間で撮影ができるため、撮影時間の短縮による被検者の負担軽減を図ることができる。また、撮影時間が短縮されると、撮影中の被検者の体動が低減するため、画質向上を図るため、回転速度は次第に速くなる傾向にある。
【0005】
また64スライス以上のマルチスライス機能を備えたX線CT装置の登場により、循環器領域へX線CT装置が適用され始めている。この場合、心拍による動きの影響を排除するため、スキャナ回転部の回転速度をさらに速くすることが望まれている。一方で、撮影時間の短縮による線量不足を補うために、X線出力を大出力化する必要がある。すなわち短時間で大出力による撮影することにより、従来と変わらない線量での撮影を実施して画質を確保している。
【0006】
このように、X線CT装置として大出力化が進むに従って、施設に要求される電源設備容量も大容量となる。しかしながら、施設の電源設備の容量を増加させるのは、施設側への負担が大きい。このため電力ピークを抑える方法に関して、種々の提案がされている。その一つとして特許文献1では、エネルギー蓄積手段として大容量のキャパシタ部をインバータと電源との間に配置し、キャパシタ部に蓄積したエネルギーをインバータに供給することにより電源設備の容量を抑える構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−178375号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1によるX線CT装置においては、X線管の高電圧発生回路にエネルギーを供給するインバータに電源設備が直接接続されておらず、キャパシタ部を介してインバータに電力が供給される構成である。このため電源設備からキャパシタ部に蓄積されたエネルギーが、X線発生のために高電圧発生回路が必要とするエネルギーに足りなければ、キャパシタの端子電圧は低下し、インバータへの入力電圧が低下する。これを防ぐために、特許文献1では、操作者に設定された条件でのスキャンが、キャパシタに蓄積されたエネルギーで可能かどうか予め判定した後、スキャンを実行する。しかしながら、このことはキャパシタへの入力電力と等しい電力しかキャパシタから出力できないことを意味し、キャパシタを配置して電源設備容量を抑える効果が低減する。
【0009】
一方、インバータへの入力電圧が低下しても一定の電力がX線管に供給できるようにするために別の回路構成をインバータよりもX線管側の回路に備えることも考えられるが、回路設計に冗長性を持たせることになり、構成が複雑になる。
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、電源設備容量を抑えることが可能で、かつ、X線管への安定した電力供給が可能なX線高電圧装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明によれば以下のようなX線高電圧装置が提供される。すなわち、このX線高電圧装置は、商用電源から直流電圧を発生する直流電源部と、直流電源部の発生する直流電圧を高周波の交流電圧に変換するインバータ部と、インバータ部の出力する交流電圧を昇圧してX線管に供給する高電圧発生装置と、電力を蓄積するキャパシタ部と、制御部とを有する。キャパシタ部は、直流電源部と並列にインバータ部に接続されている。制御部は、直流電源部からインバータ部へ入力される直流電圧が所定の電圧に満たない場合に、キャパシタ部から直流電圧をインバータ部に供給させる。
【0012】
上記キャパシタ部は、例えば、キャパシタと、キャパシタとインバータ部との間に配置された双方向チョッパとを備える構成にする。制御部は、例えば、インバータ部へ入力される直流電圧が所定の電圧に満たない場合には、双方向チョッパを昇圧チョッパとして動作させて、キャパシタから前記インバータ部へ電圧を供給する。直流電圧が所定の電圧以上である場合には、双方向チョッパを降圧チョッパとして動作させて、直流電源部の発生する電力の一部をキャパシタに充電する。
【0013】
上記制御部は、例えば、操作者が設定した撮影条件を実行するために必要な電力量を演算により求めるとともに、直流電源部の供給可能な電力量と、現在の充電状態のキャパシタ部から供給可能な電力量との合算を求め、必要な電力量が供給可能な電力量の合算を上回っている場合には、撮影開始ができないことを操作者に報知する構成とすることも可能である。
【0014】
上記制御部は、必要な電力量が供給可能な電力量の合算を上回っている場合、不足分の電力量をキャパシタ部に充電するために必要な時間を算出し、操作者に報知する構成とすることも可能である。
【0015】
制御部は、操作者が設定した撮影条件を実行するために必要な電力量を演算により求めるとともに、直流電源部の供給可能な電力量と、最大充電状態のキャパシタ部から供給可能な電力量との合算を求め、必要な電力量が前記供給可能な電力量の合算を上回っている場合には、撮影条件の変更をするように操作者に促す表示を行う構成とすることもできる。
【0016】
キャパシタ部からインバータ部へ供給される電圧は、例えば、直流電源部から前記インバータ部へ入力される電圧よりも低く設定する。
【0017】
また、本発明によれば、以下のようなX線CT装置が提供される。すなわち、上述のX線高電圧装置と、X線高電圧装置から管電圧および管電流を供給されるX線管と、X線管が発生し、被検体を通過したX線を検出するX線検出部と、X線管とX線検出部を搭載して被検体の周囲を回転する回転部と、操作者から撮影条件を受け付ける入力部とを有するX線CT装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、直流電源部と並列にキャパシタが配置されるため、直流電源部から直接インバータに電圧を供給でき、不足分をキャパシタで補うことができる。よって、電源設備容量を抑えることが可能である。また、X線発生のためのインバータ設計時に冗長性を持たせる必要がなく、より最適な設計を実現することが可能となる。これにより、より小型高効率なX線高電圧装置およびX線CT装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態のX線CT装置のブロック図。
【図2】本実施形態のX線高電圧装置のブロック図。
【図3】図2のX線高電圧装置内の双方向チョッパの回路構成を示すブロック図。
【図4】図2のX線高電圧装置の制御部1600の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の一実施形態のX線CT装置について図面を用いて説明する。
【0021】
図1にX線CT装置全体の概略構成を示す。図1のようにX線CT装置1は、ガントリ100と寝台105とコンソール3000とを備える。ガントリ100は、回転円盤部102と、ガントリ制御装置108と、寝台制御装置109と、X線高電圧装置1000とを有して構成される。
【0022】
回転円盤部102は、寝台105上に載置された被検体が入る開口部104を備える回転フレーム40と、回転フレーム40に搭載されたX線管2000ならびにX線検出ユニット56を備え、被検体の周囲を回転する。
【0023】
X線管2000は寝台105上に載置された被検体にX線を照射する装置である。X線検出ユニット56は、X線検出器256aとデータ収集装置256bとを含む。X線検出器256aは、多数のX線検出素子を回転フレーム40の回転方向に配列したもの、若しくは、回転フレーム40の回転方向と回転軸方向との2次元に配列したものである。X線検出器256aは、回転フレーム40上でX線管2000と対向配置され、被検体を透過したX線を検出する。データ収集装置256bは、X線検出器256aが検出したX線量をデジタルデータとして収集する装置である。
【0024】
ガントリ制御装置108は、回転円盤部102の回転を制御する装置である。寝台制御装置109は、寝台105の上下前後動を制御する装置である。
【0025】
X線高電圧装置1000は、X線管2000に入力される電力を供給する装置であり、その一部である高電圧発生装置1300は、回転フレーム40に搭載されている。
【0026】
コンソール3000は、入力装置121と、画像演算装置122と、表示装置125と、記憶装置123と、システム制御装置124とを備えている。入力装置121は、被検体氏名、検査日時、撮影条件などを操作者が入力するための装置である。具体的にはキーボードやポインティングデバイスである。画像演算装置122は、X線検出ユニット56のデータ収集装置256bから送出される計測データを演算処理してCT画像再構成を行う装置である。表示装置125は、画像演算装置122で再構成されたCT画像を表示する。記憶装置123は、データ収集装置256bで収集したデータ及び画像演算装置122で作成されたCT画像の画像データを記憶する。システム制御装置124は、これらの装置及びガントリ制御装置108と寝台制御装置109とX線高電圧装置1000を制御する。
【0027】
図2にX線高電圧装置1000のブロック図を示す。図2のように、X線高電圧装置1000は、商用電源から直流電圧を発生する直流電源部1100、直流電源部の出力直流電圧を高周波の交流電圧に変換するインバータ部1200、インバータ部の出力交流電圧を昇圧・整流・平滑化する高電圧発生装置1300、および、制御部1600を備えている。制御部1600は、インバータ部1200に駆動信号を出力し、インバータ部1200を駆動するとともに、双方向チョッパ部1500に駆動信号を出力し、双方向チョッパ部1500の動作を制御する。
【0028】
さらに、インバータ部1200には、直流電源部1100と並列にエネルギー蓄積手段としてのキャパシタ部1400が接続されている。キャパシタ部とインバータ部1200との間には、キャパシタ部1400と直流電源部1100の電圧調整をするための双方向チョッパ部1500が配置されている。すなわち、キャパシタ部1400は、双方向チョッパ部を介して、直流電源部1100の出力端子とインバータ部1200の入力端子とを接続する配線に対して並列に接続されている。
【0029】
なお、X線高電圧装置1000には、X線管2000内の陽極ターゲットを回転させる陽極回転駆動部、および、フィラメントを加熱させるフィラメント加熱部を備えられているが、これらは広く知られた構造であるので、ここでは説明を省略する。
【0030】
直流電源部1100は、X線高電圧装置の動作中は一定の直流電圧を発生させるよう動作する構成であればどのような構成であっても構わない。例えば、整流回路と昇圧チョッパ回路とを組み合わせた構成であってもよいし、高力率の昇圧コンバータでも構わない。ただし、インバータ部1200以降の損失低減を目的として、直流電源部1100の出力電圧は比較的高い方が好ましい。なお、直流電源部1100は、その入力電圧および入力電流を検出し、一定の電力以下の範囲で動作する。
【0031】
インバータ部1200は、半導体スイッチと、半導体スイッチに逆並列に接続されたダイオードの組合せを複数用いたインバータ回路である。この回路は、X線高電圧装置のインバータ回路として広く知られているのでここでは詳細な構成の説明を省略する。例えば、特開2005−94913号公報に記載されているインバータ回路を用いることができる。
【0032】
制御部1600は、インバータ部1200の複数の半導体スイッチを所定のタイミングでオンオフする駆動信号を出力することにより、インバータ部1200から出力される交流電圧の波形を制御する。これにより、インバータ部1200から高電圧発生装置1300に出力される交流電力を制御する。
【0033】
高電圧発生装置1300は、変圧器と整流器とを含み、インバータ部1200の交流出力を高電圧に変換したのち整流し、直流高電圧を生成する。高電圧発生装置1300からの直流高電圧(管電圧)は、X線管2000に印加される。これにより、X線管2000は、X線を被検体に対して照射する。
【0034】
キャパシタ部1400は、比較的大容量で小型なキャパシタであることが好ましい。例えば電気二重層キャパシタまたは高分子キャパシタを用いる。必要な容量、必要な電圧が得られるように、複数のキャパシタを直並列に接続して構成することも可能である。
【0035】
キャパシタ部1400の出力電圧は、直流電源部1100の出力電圧よりも低くなるように設定されている。その理由は、キャパシタ部1400は、双方向チョッパ部1500を介して直流電源部1100と接続されるため、双方向チョッパ部1500に昇圧動作および降圧動作をさせるために、キャパシタ部1400と直流電源部1100との間に電圧差が必要だからである。
【0036】
双方向チョッパ部1500は、キャパシタ部1400から直流電源部1100およびインバータ部1200側への昇圧チョッパ機能と、直流電源部1100およびインバータ部1200側からキャパシタ部1400に対しての降圧チョッパ機能とを備えた変換回路である。例えば、図3のように、降圧用スイッチ(Sd)1501、昇圧用スイッチ(Su)1503、インダクタンス1505、および、平滑用コンデンサ1506,1507を備えた回路を双方向チョッパ部1500を用いることができる。降圧用スイッチ1501およびインダクタンス1505は、インバータ部1200と直列に接続され、昇圧用スイッチ1503は、インバータ部1200に並列に、インダクタンス1505と降圧用スイッチ1501との間に接続されている。平滑用コンデンサ1506は、インバータ部1200に並列に、平滑用コンデンサ1507は、キャパシタ部1400に並列に接続されている。
【0037】
降圧用スイッチ1501および昇圧用スイッチ1503は、いずれも半導体スイッチとダイオードとを逆並列に接続した構成である。降圧用スイッチ1501および昇圧用スイッチ1503のダイオードは、図3のように向けられている。ここでは、半導体スイッチとしては、例えば絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)を用いている。
【0038】
この双方向チョッパ部1500は、降圧用スイッチ1501をオフにし、昇圧用スイッチ1503を所定の周波数でオンオフすることにより、昇圧チョッパとして動作し、キャパシタ部1400からインバータ部1200に電力を供給することができる。このとき、昇圧用スイッチ1503のオン時間とオフ時間の比を調整することにより、キャパシタ部1400からインバータ部1200へ供給する電圧を制御することができる。
【0039】
一方、双方向チョッパ部1500の降圧用スイッチ1501を所定周波数で繰り返しオンオフし、昇圧用スイッチ1503をオフにすると、降圧チョッパとして動作し、直流電源部1100から電力を取り込んで、キャパシタ部1400に充電することができる。
【0040】
以下、撮影時のX線高電圧装置1000のX線管2000への電力供給動作について説明する。制御部1600は、CPUとメモリとを内蔵し、メモリに予め格納されているプログラムをCPUが読み込んで実行することにより、図4のフローのようにX線高電圧装置1000の各部の動作を制御する。
【0041】
図4のように、制御部1600は、コンソール3000の入力装置121が操作者から受け付けた一連の撮影シーケンスのX線撮影条件をシステム制御装置124を介して受け取る(ステップ401)。さらに、操作者が入力装置121の撮影条件設定完了ボタンを操作し、撮影条件の設定が完了したことを入力した場合には、システム制御装置124を介してこれを受け取り(ステップ402)、X線管2000の陽極ターゲットの回転、および、陰極フィラメントの加熱を開始するとともに、ステップ403以下を行う。
【0042】
ここでは、一例として、操作者が設定した一連の撮影シーケンスが下記(1)、(2)、(3)の撮影を順に実行するシーケンスであるとして以下の動作を説明する。
(1)管電圧120kV、管電流100mA、スキャンスピード2秒/回転、撮影枚数10枚
(2)管電圧150kV、管電流500mA、スキャンスピード0.35秒/回転、撮影枚数10枚
(3)管電圧120kV、管電流100mA、スキャンスピード2秒/回転、撮影枚数10枚
【0043】
ステップ403では、制御部1600は、ステップ401で受け取った一連の撮影シーケンスが、直流電源部1100の発生可能な電力量と、予め求めておいたフル充電のキャパシタ部1400が供給可能な電力量の合算で、実行可能かどうかを演算により判定する。具体的には、上記撮影(1)〜(3)に要する電力量(W・秒)を、電力量=(管電圧)×(管電流)×(スキャンスピード)×(撮影枚数)の計算式により求め、直流電源部1100の供給可能電力×スキャン時間と、キャパシタ部1400のフル充電電力量と比較することにより、判定する。
【0044】
例えば、上記撮影(1)に要する電力量(W・秒)=120(kV)×0.1(A)×2(秒/回転)×10(枚)=240(W・秒)、
上記撮影(2)に要する電力量(W・秒)=150(kV)×0.5(A)×0.35(秒/回転)×10(枚)=262.5(W・秒)、
上記撮影(3)に要する電力量(W・秒)=120(kV)×0.1(A)×2(秒/回転)×10(枚)=240(W・秒)
であるので、一連の撮影(1)〜(3)のシーケンスに要する電力量は、合計240+262.5+240=742.5(kW・秒)である。
【0045】
直流電源部1100の出力を一例として10kWとする。上記撮影(1)〜(3)のシーケンスのスキャン時間(=スキャンスピード×枚数)の合計は、2(秒/回転)×10(枚)+0.35(秒/回転)×10(枚)+2(秒/回転)×10(枚)=43.5秒であるので、直流電源部1100の供給可能な電力量は、10(kW)×43.5(秒)=435(kW・秒)である。予め求めておいたキャパシタ部1400のフル充電の電力量が一例として400kW・秒とすると、直流電源部1100とキャパシタ部1400から供給可能な電力量の合算値は、435+400=835(kW・秒)であり、一連の撮影(1)〜(3)のシーケンスに要する電力量742.5kW・秒を上回っている。よって、撮影シーケンスの実行が可能であるので、次のステップ404,405に進む。
【0046】
一方、供給可能な電力量の合算値が、撮影シーケンスに必要な電力量よりも小さい場合にはステップ401に戻り、コンソール3000のシステム制御装置124を介して、操作者に撮影条件の再設定を促す表示を表示装置125に表示させる。
【0047】
撮影シーケンスの実行が可能であり、ステップ404,405に進んだ場合について説明する。ステップ404、405および次のステップ406は、撮影シーケンスに必要な電力が直流電源部1100のみで供給可能などうかを判別する。ステップ404では、直流電源部1100から供給可能な最大電力(W):Cを求める。この最大電力C(W)は、直流電源部1100の仕様により予め決まっており、ここでは10kWである。ステップ405では、一連のX線撮影シーケンスで必要な最大電力(W):Dを計算により求める。最大電力は、一連の撮影シーケンスの中の最大ワット数であり、管電圧と管電流との積により求められる。上記撮影(1)〜(3)のうち管電圧と管電流の積が最も大きいのは、撮影(2)の150(kV)×0.5(A)=75(kW)である。ステップ406では、供給可能な最大電力:Cと、撮影に必要な最大電力:Dとを比較する。
【0048】
ステップ406においてC≧Dの場合、直流電源部1100の供給電力のみで撮影シーケンスが実行可能であるので、ステップ411に進み、直流電源部1100のみからインバータに電力を供給し、操作者が撮影スタートボタン(不図示)をオンにするタイミングで、所定の管電圧および管電流を供給するよう制御部1600がインバータ部1200を制御する。これにより、インバータ部1200から高電圧発生装置1300を介してX線管2000に上記撮影(1)〜(3)の条件で所定の管電圧および管電流を供給してX線を発生させる。
【0049】
なお、この場合C≧Dであるため、直流電源部1100から供給可能な電力:Cが撮影に必要な電力:Dを上回っており、直流電源部1100の供給電力には余裕がある。よって、制御部1600は、撮影中に、双方向チョッパ部1500の降圧用スイッチ1501をオンにし、昇圧用スイッチ1503をオフにすることにより、降圧チョッパとして動作させ、直流電源部1100の出力電力をキャパシタ部1400に充電する。
【0050】
ステップ406においてC<Dの場合は、直流電源部1100の供給電力のみでは撮影シーケンスを実行できないため、ステップ407,408、409に進み、不足分が現状の充電状態のキャパシタ部1400から供給できるかどうか判断する。ステップ407では、撮影に必要な電力量のうち直流電源部1100の出力を超過する電力量:Aを算出する。具体的には、撮影(1)〜(3)について、((管電圧)×(管電流)−(直流電源部1100の電力))×(スキャンスピード)×(撮影枚数)を求める。
【0051】
例えば、上記撮影(1)に不足する電力量(W・秒)=(120(kV)×0.1(A)−10(kW))×2(秒/回転)×10(枚)=40(W・秒)、
上記撮影(2)に不足する電力量(W・秒)=(150(kV)×0.5(A)−10(kW))×0.35(秒/回転)×10(枚)=227.5(W・秒)、
上記撮影(3)に不足する電力量(W・秒)=(120(kV)×0.1(A)−10(kW))×2(秒/回転)×10(枚)=40(W・秒)
であるので、一連の撮影(1)〜(3)のシーケンスに不足する電力量:Aは、合計40+227.5+40=307.5(kW・秒)である。
【0052】
ステップ408では、現時点のキャパシタ部1400の電圧Vを取り込み、現時点のキャパシタ部1400から供給可能な電力量(W・秒):Dを(1/2)・CV・αの式を用いて演算により求める。なお、Cは、キャパシタ部1400の容量であり、予め定められた定数である。αは、キャパシタ部1400の充電電力量のうちインバータに供給可能な電力量の割合であり、予め定められた定数である。αは、キャパシタ部1400の性能および双方向チョッパ部1500の昇圧チョッパとしての性能を考慮して計算により、もしくは実験により予め求めた定数を用いる。
【0053】
ステップ409では、ステップ407で求めた不足電力量:Aとキャパシタから供給可能な電力量:Bとを比較し、A≦Bである場合には、キャパシタ部1400からの電力供給で撮影を実行可能であるので、ステップ410に進む。
【0054】
ステップ410では、制御部1600は、双方向チョッパ部1500を昇圧チョッパとして動作させるために、双方向チョッパ部1500の降圧用スイッチ1501をオフにし、昇圧用スイッチ1503を所定の周波数で繰り返しオンオフする。このとき、制御部1600は、インバータ部1200の入力電圧Vをモニターしながら、Vが一定になるように、昇圧用スイッチ1503のオン時間とオフ時間の比を調整する。これにより、双方向チョッパ部1500からインバータ部1200への供給電力を調整することができる。ステップ411において、操作者が撮影スタートボタン(不図示)をオンにするタイミングで、インバータ部1200を所定の管電圧および管電圧を供給することにより、高電圧発生装置1300を介してX線管2000に上記撮影(1)〜(3)のシーケンス条件で所定の管電圧および管電流を供給してX線を発生させることができる。
【0055】
一方、ステップ409において、A>Bの場合には、キャパシタ部1400の充電不足により、撮影が実行できないため、ステップ412において、コンソール3000のシステム制御装置124に撮影スタートボタンをオンにする操作を受け付け不可にするように指示する。その上でステップ413に進み、不足分の電力量(A−B)をキャパシタ部1400に充電するために必要な時間を計算により求める。求めた時間を、システム制御装置124に受け渡し、表示装置125に表示する等、操作者に報知するように指示する。
【0056】
充電に必要時間Tの計算は、例えばT=(A−B)/((直流電源部1100の出力)×β)により求める。ただし、βは、双方向チョッパ部1500を降圧チョッパとして動作させた場合に、直流電源部1100側からキャパシタ部1400に供給できる電力の割合を示す係数であり、降圧チョッパの性能等により定まる。
【0057】
ステップ414では、制御部1600は、双方向チョッパ部1500の降圧用スイッチ1501を所定周波数で繰り返しオンオフし、昇圧用スイッチ1503をオフにすることにより、降圧チョッパとして動作させ、直流電源部1100の出力電力をキャパシタ部1400に充電する。この後、ステップ408に戻ることにより、ステップ409においてA≦Bとなるまで充電を継続する。A≦Bとなった場合、ステップ410、411により、撮影が実行される。
【0058】
このように、本実施形態のX線高電圧装置1000は、インバータ部1200に直流電源部1100とキャパシタ部1400が並列に接続されているため、直流電源部1100の出力で不足する電力を、キャパシタ部1400から供給することができる。よって、直流電源部1100の出力電力とキャパシタ部1400の電力とを合算した電力をインバータに供給できるため、電源設備容量を抑えることが可能である。
【0059】
また、インバータ部1200への入力電圧を一定に維持することができるため、入力電圧低下に備えてインバータ部1200よりもX線管側の回路設計時に冗長性を持たせる必要がなく、簡素で最適な回路設計を実現することができる。よって、小型で高効率なX線高電圧装置、さらにはX線CT装置を提供することができる。
【0060】
また、直流電源部1100の電力に余裕がある場合には、撮影中に双方向チョッパ部1500を降圧チョッパとして、キャパシタ部1400を充電することできるため、キャパシタ部1400の充電を効率よく行うことができる。
【符号の説明】
【0061】
1000 ……X線高電圧装置
1100 ……直流電源部
1200 ……インバータ部
1300 ……高電圧発生装置
1400 ……キャパシタ部
1500 ……双方向チョッパ部
1600 ……制御部
2000 ……X線管
3000 ……X線CTシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用電源から直流電圧を発生する直流電源部と、前記直流電源部の発生する直流電圧を高周波の交流電圧に変換するインバータ部と、前記インバータ部の出力する交流電圧を昇圧してX線管に供給する高電圧発生装置と、電力を蓄積するキャパシタ部と、制御部とを有し、
前記キャパシタ部は、前記直流電源部と並列に前記インバータ部に接続され、
前記制御部は、前記直流電源部から前記インバータ部へ入力される前記直流電圧が所定の電圧に満たない場合に、前記キャパシタ部から直流電圧を前記インバータ部に供給させることを特徴とするX線高電圧装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線高電圧装置において、前記キャパシタ部は、キャパシタと、前記キャパシタと前記インバータ部との間に配置された双方向チョッパとを備え、
前記制御部は、前記インバータ部へ入力される前記直流電圧が前記所定の電圧に満たない場合には、前記双方向チョッパを昇圧チョッパとして動作させて、前記キャパシタから前記インバータ部へ電圧を供給し、前記直流電圧が前記所定の電圧以上である場合には、前記双方向チョッパを降圧チョッパとして動作させて、前記直流電源部の発生する電力の一部を前記キャパシタに充電することを特徴とするX線高電圧装置。
【請求項3】
請求項1に記載のX線高電圧装置において、前記制御部は、操作者が設定した撮影条件を実行するために必要な電力量を演算により求めるとともに、前記直流電源部の供給可能な電力量と、現在の充電状態の前記キャパシタ部から供給可能な電力量との合算を求め、前記必要な電力量が前記供給可能な電力量の合算を上回っている場合には、撮影開始ができないことを操作者に報知することを特徴とするX線高電圧装置。
【請求項4】
請求項3に記載のX線高電圧装置において、前記制御部は、前記必要な電力量が前記供給可能な電力量の合算を上回っている場合、不足分の電力量を前記キャパシタ部に充電するために必要な時間を算出し、操作者に報知することを特徴とするX線高電圧装置。
【請求項5】
請求項1に記載のX線高電圧装置において、前記キャパシタ部から前記インバータ部へ供給される電圧は、前記直流電源部から前記インバータ部へ入力される電圧よりも低く設定されていることを特徴とするX線高電圧装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のX線高電圧装置と、前記X線高電圧装置から管電圧および管電流を供給されるX線管と、前記X線管が発生し、被検体を通過したX線を検出するX線検出部と、前記X線管とX線検出部を搭載して前記被検体の周囲を回転する回転部と、操作者から撮影条件を受け付ける入力部とを有することを特徴とするX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−156013(P2012−156013A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14420(P2011−14420)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】