説明

X線CT装置及び造影撮影方法

【課題】 適切なタイミングで撮影切替え及び注入切替を自動で行い、良好な画質を得るとともに造影剤注入量を低減させることが可能なX線CT装置及び造影撮影方法を提供する。
【解決手段】 本撮影の前に撮影切替判定用領域D1の監視撮影を行う。システム制御装置126は監視撮影により得た画像データに基づき、撮影切替判定用領域D1に造影剤が到達したか否かを判定し、本撮影への撮影切替タイミングを決定する。また、監視撮影によって実測したデータに基づき、生理食塩水が撮影切替判定用領域D1に到達するのに要する時間(計算生食到達時間T2)を推定し、これに基づいて造影剤から生理食塩水へ注入を切替る時刻tを求め、注入切替時刻tに到達すると、自動的に造影剤から生理食塩水へ注入切替を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT装置における造影撮影の制御に関し、特に、造影剤及び生理食塩水の注入切替え制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、X線CT(Computed Tomography)装置を用いた検査では、診断に適切な陰影を持った画像を得るために、被検体に造影剤を注入しながら撮影を行う造影CT検査が行われている。この造影CT検査では、造影剤注入装置(インジェクタ)を用いて造影剤を被検体に注入する。注入された造影剤は血流にのって全身に運ばれ、撮影部位に到達すると、X線CT装置による撮影が開始される。撮影部位へ到達したか否かは、例えば、特許文献1に記載されるように、本撮影の前に造影剤が注入された被検体の関心領域における造影剤濃度の変化を監視するための監視撮影により判断される。特許文献1では、監視撮影により関心領域における造影剤の濃度(CT値)が所定の閾値を超えると、造影剤が撮影部位に到達したと判断して監視撮影を中止し、本撮影へ自動で切り替える技術が開示されている。
【0003】
ところで上述の造影CT検査では、造影剤の注入量を低減するために、造影剤注入後に生理食塩水を注入し、「後押し」をすることで、注入した造影剤を有効に使用するようにしている。例えば、特許文献2では、造影剤注入量シリンジと生理食塩水注入用シリンジの2つの注入ヘッドを搭載し、操作者の入力するトリガ信号に従って造影剤注入から生理食塩水注入への切り替えを行う注入装置について記載されている。これにより進行中の造影剤注入をより早いタイミングで停止し、生理食塩水の注入に切り替えることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−264185号公報
【特許文献2】国際公開WO2007/097422
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1では、造影剤注入停止のタイミングを制御するのみで、生理食塩水への切り替えのタイミングに関しては配慮されていない。また、上述の特許文献2では、造影剤から生理食塩水へ切り替えるトリガ信号は、操作者の手動操作によって与えるものであった。そのため、操作者が切替の際に適切なタイミングを考慮する必要があり、操作者の作業負担は大きいものであった。また、造影剤や生理食塩水の注入速度や注入に要する時間への配慮もなされていないため、これらの影響も考慮して、より適切なタイミングで撮影切替や注入切替を簡単に行えることが望ましい。また造影CT検査は、通常、両手を挙手した状態で行うため、鎖骨下静脈の狭窄が起こりやすく、造影剤が停留しやすい。造影剤が停留すると、撮影タイミングによっては腕頭静脈から鎖骨下静脈付近で造影剤によるアーチファクトが発生するという問題もあった。
【0006】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とすることは、適切なタイミングで撮影切替え及び注入切替を自動で行い、良好な画質を得るとともに造影剤注入量を低減させることが可能なX線CT装置及び造影撮影方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するために第1の発明は、被検体に造影剤及び生理食塩水を注入する注入手段を具備するX線CT装置であって、前記造影剤が注入される被検体を監視撮影し、前記被検体の監視画像データを時系列に取得する監視撮影手段と、前記監視画像データに含まれる撮影切替判定用領域の画素値の大きさに基づいて、前記監視撮影から本撮影への撮影切替タイミングを決定する撮影切替手段と、前記撮影切替判定用領域または前記監視画像データに含まれる別の監視領域の画素値の大きさに基づいて、前記造影剤から前記生理食塩水への注入切替タイミングを決定する注入切替手段と、を具備することを特徴とするX線CT装置である。
【0008】
また、第2の発明は、被検体に造影剤及び生理食塩水を注入しながら撮影を行う造影撮影方法であって、前記造影剤が注入される被検体を監視撮影し、前記被検体の監視画像データを時系列に取得し、前記監視画像データに含まれる撮影切替判定用領域の画素値の大きさに基づいて、前記監視撮影から本撮影への撮影切替タイミングを決定し、前記撮影切替判定用領域または前記監視画像データに含まれる別の監視領域の画素値の大きさに基づいて、前記造影剤から前記生理食塩水への注入切替タイミングを決定することを特徴とする造影撮影方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、適切なタイミングで撮影切替え及び注入切替を自動で行い、良好な画質を得るとともに造影剤注入量を低減させることが可能なX線CT装置及び造影撮影方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】X線CT装置1及び注入装置2の構成図
【図2】第1の実施の形態の造影撮影処理の流れを説明するフローチャート
【図3】第1の実施の形態において、撮影切替判定用領域のCT値が撮影切替判定用閾値に到達した時点までのTDC(Time−Density Curve)
【図4】第1の実施の形態の造影撮影処理の結果を表すTDC
【図5】造影剤を右腕静脈に注射した場合の造影剤の流れを示す図
【図6】撮影切替判定用領域D1及び注入切替判定用領域D2の一例を示す図
【図7】第2の実施の形態の造影撮影処理の流れを説明するフローチャート
【図8】第2の実施の形態において注入切替判定用領域D2のCT値が注入切替判定用閾値に到達した時点までのTDC
【図9】第2の実施の形態において撮影切替判定用領域D1のCT値が撮影切替判定用閾値に到達した時点までのTDC
【図10】第2の実施の形態の造影撮影処理の結果を表すTDC
【図11】撮影切替判定用領域D1及び造影剤除去領域D3の一例を示す図
【図12】第3の実施の形態の造影撮影処理の流れを説明するフローチャート
【図13】第3の実施の形態の造影撮影処理において、撮影切替に要する時間(想定待ち時間)Twaitよりも計算生食到達時間T5が長い場合の処理を説明するフローチャート
【図14】第3の実施の形態の造影撮影処理において、計算生食到達時間T5よりも撮影切替に要する時間(想定待ち時間)Twaitが長い場合の処理を説明するフローチャート
【図15】第3の実施の形態において、造影剤除去領域D3のCT値が造影剤到達判定用閾値P3に到達した時点でのTDC
【図16】第3の実施の形態の造影撮影処理において、計算生食到達時間T5が撮影切替に要する時間(想定待ち時間)Twaitよりも長い場合の撮影切替及び注入切替タイミングについて説明する図
【図17】第3の実施の形態の造影撮影処理において、撮影切替に要する時間(想定待ち時間)Twaitが計算生食到達時間T5よりも長い場合の撮影切替及び注入切替タイミングについて説明する図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の機能を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略することにする。
【0012】
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、第1の実施の形態のX線CT装置1の構成について説明する。
【0013】
図1に示すように、本発明のX線CT装置1は、造影剤を注入する注入装置2と接続されている。
X線CT装置1は、スキャナ100と、寝台105と、操作卓120とを備える。注入装置2は、操作部200と、ヘッド部210とを備える。
【0014】
X線CT装置1のスキャナ100は、X線管101、X線制御装置110、回転板102、コリメータ103、開口部104、X線検出器106、データ収集装置107、寝台制御装置109、及びガントリ制御装置108を備える。
操作卓120は、操作装置121、操作卓制御装置122、記憶装置123、表示装置124、画像演算装置125、及びシステム制御装置126を備える。
【0015】
X線管101はX線源であり、X線制御装置110により制御されて被検体に対してX線を連続的または断続的に照射する。X線制御装置110は、システム制御装置126により決定されたX線管電圧及びX線管電流に従って、X線管101に印加または供給するX線管電圧及びX線管電流を制御する。
【0016】
コリメータ103は、X線管101から放射されたX線を、例えばコーンビーム(円錐形または角錐形ビーム)等のX線として被検体に照射させるものであり、開口幅は図示しないコリメータ制御装置により制御される。被検体を透過したX線はX線検出器106に入射する。
【0017】
X線検出器106は、例えばシンチレータとフォトダイオードの組み合わせによって構成されるX線検出素子群をチャネル方向(周回方向)に例えば1000個程度、列方向(体軸方向)に例えば1〜320個程度配列したものであり、被検体を介してX線管101に対向するように配置される。X線検出器106はX線管101から放射されて被検体を透過したX線を検出し、検出した透過X線データをデータ収集装置107に出力する。
【0018】
データ収集装置107は、X線検出器106に接続され、X線検出器106の個々のX線検出素子により検出される透過X線量を収集し、ディジタルデータに変換し、投影データとしてシステム制御装置126に順次出力する。
【0019】
回転板102には、X線管101、コリメータ103、X線検出器106、データ収集装置107が搭載される。回転板102は、ガントリ制御装置108によって制御される回転板駆動装置から、駆動伝達系を通じて伝達される駆動力によって回転される。
【0020】
寝台105は、被検体が載置される天板、上下動装置、及び天板駆動装置から構成され、寝台制御装置109に接続される。寝台制御装置109は、上下動装置を制御して寝台105の高さを適切なものにする。また、天板駆動装置を制御して天板を体軸方向に前後動したり、体軸と垂直方向であって、かつ天板に平行な方向(左右方向)に移動したりする。これにより、被検体がスキャナ100のX線照射空間に搬入及び搬出される。
【0021】
操作卓120の操作装置121は、例えば、キーボード、マウス等のポインティングデバイス、テンキー等の入力装置、及び各種スイッチボタン等により構成され、操作者によって入力される各種の指示や情報を操作卓制御装置122に出力する。操作者は、表示装置124及び操作装置121を使用して対話的にX線CT装置1を操作する。操作装置121を介して、被検体氏名、検査日時、本撮影条件、監視撮影条件、薬液注入条件等が入力される。
【0022】
操作卓120の操作卓制御装置122は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等により構成され、操作装置121、表示装置124、及び記憶装置123の各部を制御する。また、操作卓制御装置122は、システム制御装置126及び画像演算装置125に接続される。
操作卓制御装置122は、操作者が入力装置121を用いて入力した内容を画像演算装置125及びシステム制御装置126に送信する。また、画像演算装置125で作成された画像データを取得し、表示装置124に表示する。
また、操作卓制御装置122は、監視撮影により得た監視画像データを取得し、取得した監視画像データに設定されている監視対象領域(例えば、撮影切替判定用領域等)のCT値を求める。求められたCT値は、システム制御装置126へ送られて、所定の閾値(例えば、撮影切替判定用閾値)と比較される。
【0023】
システム制御装置126は、CPU、ROM、RAM等により構成される。システム制御装置126は、スキャナ100内のX線制御装置110、寝台制御装置109、ガントリ制御装置108を制御する。また、システム制御装置126は、操作卓制御装置122に接続され、操作卓制御装置122からの入力信号に従って各種処理を実行し、処理結果に基づいて制御信号を生成して、スキャナ100内のX線制御装置110、寝台制御装置109、ガントリ制御装置108の各部を制御する。
【0024】
また、システム制御装置126は、監視画像データにおける撮影切替判定用領域のCT値を操作卓制御装置122から受け取り、このCT値の大きさに基づいて撮影切替判定用領域に造影剤が到達したか否かを判断する。CT値が撮影切替判定用閾値以上となり、造影剤が到達していると判断されれば、監視撮影から本撮影へ切り替える。また、システム制御装置126は、造影剤注入から、撮影切替判定用領域へ到達するまでの時間(実造影剤到達時間T1)を算出し、実造影剤到達時間T1に基づいて生理食塩水が撮影切替判定用領域へ到達するまでの時間(計算生食到達時間T2)を算出する。更に、本撮影条件から想定される本撮影の終了時刻(想定本撮影終了時刻tend)を求め、想定本撮影終了時刻tendから、計算生食到達時間T2だけ遡った時刻に生理食塩水の注入が開始されるように、注入切替指示時刻tを算出する。注入切替指示時刻tになると、システム制御装置126は、生理食塩水への切替指示を注入装置2に送信する。
【0025】
記憶装置123は、ハードディスク等により構成されるものであり、システム制御装置126に接続される。設定された撮影条件や、データ収集装置107で収集したデータおよび画像演算装置125で作成されたCT画像の画像データ等を記憶する。
画像演算装置125は、データ収集装置107から出力された計測データに対して、対数変換、感度補正等の前処理を施し、前処理された投影データを用いて被検体の断層像を再構成する。画像演算装置125により再構成された断層像は、記憶装置123に記憶されるとともに操作卓制御装置122へ送られ、表示装置124に表示される。
表示装置124は、液晶パネル、CRTモニタ等のディスプレイ装置と、ディスプレイ装置と連携して表示処理を実行するための論理回路で構成され、操作卓制御装置122に接続される。表示装置124は画像演算装置125から出力される再構成画像、並びに操作卓制御装置401が取り扱う種々の情報を表示する。
【0026】
注入装置2は、操作部200と、ヘッド部210とを備える。
操作部200は操作入力装置201を備える。
操作入力装置201は、操作者が造影剤や生理食塩水の注入条件等を入力する装置である。
ヘッド部210は注入制御装置211と薬液注入装置212を備える。
注入制御装置211は操作入力装置201に入力された条件に基づいて薬液注入装置212を制御するとともに、X線CT装置1の操作卓120のシステム制御装置126と通信を行うための装置である。
薬液注入装置212は被検体へ造影剤及び生理食塩水を注入する装置であり、造影剤、生理食塩水を充填するための各シリンダーを有している。注入制御装置211は、操作入力部201から受けた注入条件に従ってヘッド部210を制御する。ヘッド部210は、予め設定された造影条件(造影剤の注入量、注入圧(注入速度)等)に従って、空気圧、モータ、又は油圧などの動力を用いて、シリンダー内の造影剤や生理食塩水を被検体に注入する。
【0027】
次に、図2〜図4を参照して、第1の実施の形態のX線CT装置1の動作について説明する。
【0028】
第1の実施の形態では、
(i)造影剤注入直後に監視撮影を開始し、撮影切替指示時刻tは、造影剤が撮影切替判定用領域(撮影を切り替えるタイミングを判定するために監視する領域。本撮影の関心領域と同一領域としてもよい。)に到達した時刻とする。
(ii)注入切替指示時刻tは、想定本撮影終了時刻tendから計算生食到達時間T2を減算した時刻とする。
すなわち、本撮影の撮影中は造影剤が撮影切替判定用領域に存在し、本撮影終了前に生理食塩水の注入を開始するという薬液注入手順とする。
【0029】
X線CT装置1のシステム制御装置126は、図2のフローチャートに示す手順で造影撮影処理を実行する。すなわち、システム制御装置126は、記憶装置123から造影撮影処理に関するプログラム及びデータを読み出し、このプログラム及びデータに基づいて処理を実行する。
なお、システム制御装置126は、造影剤の注入開始や撮影切替指示時刻等の各処理段階で時刻を監視しつつ、撮影切替判定用領域のCT値を監視するものとする。
【0030】
造影撮影処理では、まず撮影の準備が行われる。すなわち、被検体の撮影位置決め、監視撮影条件、本撮影条件、本撮影開始条件等の各種条件設定が行われる(ステップS101、ステップS102)。
例えば、監視撮影条件、本撮影条件、本撮影開始条件は、操作卓120の操作装置121にて入力される。また、造影剤注入速度等の薬液注入に関する条件は注入装置2の操作入力装置201にて入力されるようにすればよい。入力された各条件は、記憶装置123に記憶される。
【0031】
ここで、監視撮影条件とは、監視する部位(撮影切替判定用領域D1)、管電流、管電圧等のX線条件、コリメータ条件、画像再構成条件等である。
また、薬液注入条件とは造影剤の種類や、造影剤、生理食塩水の注入速度、最大注入時間等である。なお、本実施の形態では、注入速度は定速であるものとして説明する。
また、本撮影条件とは、撮影範囲、関心領域、管電流、管電圧、寝台移動速度、画質指標、画像再構成条件等である。
本撮影開始条件とは、どのタイミングで監視撮影から本撮影へ切り替えるかを決定するための判定条件である。例えば、第1の実施の形態では、撮影切替判定用領域D1のCT値の大きさに関する閾値等が設定される。以下、本撮影開始条件として設定される閾値を撮影切替判定用閾値と呼ぶ。
撮影切替判定用領域は、操作者により設定される(ステップS103)。
第1の実施の形態では、撮影切替判定用領域D1は本撮影の対象となる関心領域と同じでよい。
【0032】
ステップS101〜ステップS103において、撮影の準備操作が行われ、操作者により造影剤注入の指示が入力されると、システム制御装置126は、注入装置2に対して造影剤注入指示を送信する。注入装置2はステップS102で設定された注入条件に従って、まず造影剤注入を開始する(ステップS104)。このとき、システム制御装置126は、造影剤注入指示を送信した時刻を計時し、造影剤注入開始時刻t1(図3参照)としてRAMに保持する。
【0033】
造影剤注入が開始されると、次にシステム制御装置126は、監視撮影の開始指示をスキャナ100に送信する。監視撮影はステップS103で設定された撮影切替判定用領域D1に対して行われる。システム制御装置126は、監視撮影開始指示を送信した時刻を計時し、監視撮影開始時刻t2(図3参照)としてRAMに保持する。
【0034】
スキャナ100は、監視撮影の開始指示に応答して、撮影切替判定用領域D1の監視撮影を開始する(ステップS105)。
監視撮影において、スキャナ100は監視撮影条件に従って撮影切替判定用領域D1を含む体軸方向位置に対しX線を照射し、X線検出器106にて検出し、データ収集装置107により収集した計測データを操作卓120の画像演算装置125に出力する。画像演算装置125は、スキャナ100から入力された計測データに基づいて撮影切替判定用領域D1を含む断層像を再構成する。ここで、監視撮影によって再構成された断層像を監視画像データと呼ぶ(ステップS106)。監視画像データは、時系列に順次再構成され、操作卓制御装置122へ送出される。
【0035】
操作卓制御装置122は、生成された各監視画像データから、撮影切替判定用領域D1のCT値を時系列に順次取得し、システム制御装置126へ出力する(ステップS107)。システム制御装置126は、取得した撮影切替判定用領域D1のCT値が撮影切替判定用閾値に達したか否かを判定する(ステップS108)。なお、ステップS108の判定処理では、撮影切替判定用領域D1に該当する複数の画素のCT値の和、平均値、または中央値等を算出し、撮影切替判定用閾値と比較するようにすればよい。
【0036】
撮影切替判定用領域D1のCT値(CT値の和、平均値、及び中央値等を含む)が撮影切替判定用閾値以下の場合は、造影剤がいまだ関心領域(撮影切替判定用領域D1)に到達していないと判定し、監視撮影を継続する(ステップS108;No→ステップS107)。
一方、撮影切替判定用領域D1のCT値が撮影切替判定用閾値を上回ると、システム制御装置126は、造影剤が撮影切替判定用領域D1に到達したと判断して、本撮影への撮影切替指示をスキャナ100に送信する(ステップS108;Yes→ステップS109)。システム制御装置126は、撮影切替指示を送信した時刻を計時し、撮影切替指示時刻t(図3参照)としてRAMに保持する。
スキャナ100は、本撮影条件に従って本撮影を開始する。
【0037】
なお、実際には、撮影切替指示を送信後、実際に撮影が切り替わるのにある程度の想定待ち時間(Twait;図3参照)が想定される。すなわち、本撮影の開始時刻t’は、撮影切替指示時刻t+想定待ち時間Twaitである。
【0038】
図3のTDC(Time−Density Curve)を参照して、ステップS104の造影剤注入開始からステップS109の造影剤到達までの撮影切替判定用領域D1のCT値の時間変化について説明する。
図3に示すように、時刻t1に造影剤の注入が開始され、その後、時刻t2に監視撮影が開始される。造影剤は血流にのって運ばれる。撮影切替判定用領域D1は、造影剤到達前は低いCT値を示し、造影剤が到達するに従って高いCT値を示すこととなる。そして、撮影切替判定用領域D1のCT値が撮影切替判定用閾値に到達すると、システム制御装置126は、撮影切替判定用領域D1のCT値が撮影切替判定用閾値に到達する時刻を計時し、撮影切替指示を送信するとともに当該時刻を撮影切替指示時刻tとしてRAMに保持する。
【0039】
図2の説明に戻る。
撮影切替判定用領域D1のCT値が撮影切替判定用閾値に到達し、本撮影への撮影切替指示がスキャナ100に送信されると、スキャナ100は本撮影を開始する。
一方、本撮影と平行し、システム制御装置126は、造影剤から生理食塩水への注入切替時刻tを算出する処理を開始する。
【0040】
まず、システム制御装置126は、監視撮影で得たデータ(監視画像データ及び時刻データ)に基づき、実造影剤到達時間T1を算出する(ステップS110)。実造影剤到達時間T1とは、造影剤注入開始時刻t1から造影剤が撮影切替判定用領域に到達する時刻(撮影切替指示時刻t)までの時間である。すなわち、実造影剤到達時間T1は、式(1)から求められる。
【0041】
実造影剤到達時間T1=撮影切替指示時刻t−造影剤注入開始時刻t1・・・(1)
【0042】
次にシステム制御装置126は、実造影剤到達時間T1に基づいて、生理食塩水への注入切替時刻tを求める。システム制御装置126は、まず、ステップS110で算出した実造影剤到達時間T1に基づいて、生理食塩水が注入されてから撮影切替判定用領域D1へ到達するまでに要する時間を予測する。生理食塩水が注入されてから撮影切替判定用領域D1へ到達するまでに要する時間を以下、計算生食到達時間T2と呼ぶ(ステップS111)。
【0043】
計算生食到達時間T2は、実造影剤注入時間T1、造影剤と生理食塩水との注入速度比、及び換算係数から求められる。
換算係数とは、生理食塩水と造影剤との血管内の流れやすさの違いを補正するための係数であり、造影剤によって異なる。生理食塩水と造影剤との血管内の流れやすさの違いは、血管内における圧力損失(血管内部と流体との摩擦抵抗)の違いや粘度の違い等に起因するものである。なお、換算係数は0より大きく1より小さい値を用いるものとする。
計算生食到達時間T2は以下の式(2)により求められる。
【0044】
計算生食到達時間T2 =実造影剤注入時間T1×{生理食塩水注入速度/造影剤注入速度}×換算係数 ・・・(2)
ただし、0<換算係数<1とする。
【0045】
計算生食到達時間T2が算出されると、システム制御装置126は、造影剤を生理食塩水に切り替える時刻(注入切替指示時刻t)を求める(ステップS112)。
造影剤を生理食塩水に切替える時刻(注入切替指示時刻t)は、次式(3)に示すように、想定本撮影終了時刻tendから上述の計算生食到達時間T2だけ遡った時刻とする。
【0046】
注入切替指示時刻t =想定本撮影終了時刻tend−計算生食到達時間T2・・(3)
【0047】
図4に示すように、想定本撮影終了時刻tendは、撮影切替に要する想定待ち時間Twaitと、本撮影条件から求められる本撮影の時間(想定本撮影時間)と、撮影切替指示時刻tから求められる。なお、図4において、時刻t’は、実際に本撮影が開始される時刻(本撮影開始時刻)である。
【0048】
注入切替指示時刻tを算出すると、システム制御装置126は現在時刻tが注入切替指示時刻tになるのを待機する(ステップS113;No)。現在時刻tが注入切替指示時刻tに到達すると(現在時刻t=注入切替指示時刻t、ステップS113のYes)、システム制御装置126は注入切替信号を注入装置2の注入制御装置211へ送信する(ステップS114)。
注入装置2の注入制御装置211は注入する薬液を生理食塩水へ切り替える。
注入された生理食塩水は血流にのって運ばれ、想定本撮影終了時刻tendに撮影切替判定領域D1に到達する。本撮影終了後、撮影切替判定領域D1に存在した造影剤は生理食塩水に押され、排出される。
【0049】
以上説明したように、第1の実施の形態では、監視画像データに含まれる撮影切替判定用領域D1の画素値に基づき、本撮影への撮影切替タイミングを決定するとともに、監視撮影によって実測したデータに基づき、造影剤から生理食塩水への注入切替時刻tを求め、注入切替時刻tに到達すると、自動的に造影剤から生理食塩水へ注入切替を行う。
そのため、適切なタイミングで本撮影を行うことができ、かつ適切なタイミングで造影剤から生理食塩水へ切り替えることができ、造影剤注入量を低減させることが可能となる。また。操作者は撮影切替操作や薬液注入の切替操作を手動で行う必要がないため、撮影時の監視負担、作業負担が軽減する。
【0050】
また、撮影切替判定用領域D1を本撮影の関心領域とした場合、本撮影中は造影剤が関心領域に存在するが、本撮影終了時に直ちに生理食塩水が関心領域に到達するため、造影剤が速やかに排出される。そのため、本撮影開始から本撮影終了までは造影剤を確実に維持でき、必要な造影効果を得ることができる。例えば、撮影時間の長い検査で、撮影切替とともに生理食塩水への注入切替を行ってしまうと、生理食塩水の到達が撮影終了よりも早くなり、造影剤が撮影終了よりも早く排出されてしまうこともあるが、本実施の形態では、生理食塩水が関心領域(撮影切替判定用領域D1)に到達する時間(計算生食到達時間T2)を、実際に計測した実造影剤到達時間T1に基づいて予測し、想定本撮影終了時刻tendから遡って注入切替指示を送信するため、タイミングよく造影剤を排出開始させることができる。
また、造影剤の到達に要した時間を実測し、これに基づいて生理食塩水の到達時間を予測するため、どのような撮影部位、造影剤の種類にも対応でき、また個人差や疾患による造影剤の流れの差にも柔軟に対応した切替制御を行える。
【0051】
[第2の実施の形態]
次に、図5〜図10を参照して、第2の実施の形態のX線CT装置1について説明する。
第2の実施の形態のX線CT装置1の構成は、第1の実施の形態のX線CT装置1と同一であるため重複する説明を省略し、同一の各部には同一の符号を付して説明する。
【0052】
第1の実施の形態では、撮影切替判定用領域D1を監視撮影し、監視撮影により得たデータに基づいて、撮影切替及び造影剤の注入切替を行ったが、第2の実施の形態では、監視撮影の対象領域として、撮影切替判定用領域(図6のD1)とは別に注入切替判定用領域(図6のD2)を設定し、注入切替判定用領域D2の監視により得たデータに基づいて造影剤から生理食塩水への切り替えタイミングを決定し、撮影切替判定用領域D1の監視により得たデータに基づいて監視撮影から本撮影への切り替えを行う。
【0053】
まず図5を参照して造影剤を右腕静脈に注入した場合の造影剤の流れについて説明する。
注入された造影剤は右鎖骨下静脈へ向かい(Y1)、上大静脈から右心房へ流入する(Y2)。その後、造影剤は右心房から右心室に流れ、右心室から肺動脈管へ流出され(Y3)、肺を経て、左心房へ流入する。そして、造影剤は左心房から左心室に流れ、上行大動脈に流出し、大動脈弓部へ流れる(Y4)。その後、下行大動脈へ流れ(Y5)、全身へ流れる。全身から戻ってくると、下大静脈を流れ、右心房に流入する(Y6)。
第2の実施の形態では、注入切替判定用領域D2を撮影切替判定用領域D1より上流(造影剤注入箇所により近い位置)に設定し、造影剤到達によるCT値の変化をより早いタイミングで監視し、造影剤から生理食塩水へ切替え、造影剤量の抑制を図る。
例えば、図6のZ2に示す体軸方向位置(断面図62)における造影剤通過箇所に注入切替判定用領域D2を設定し、図6のZ1に示す体軸方向位置(断面図61)における造影剤通過箇所を撮影切替判定用領域D1とする。
なお、各領域D1、D2の体軸方向位置は、必ずしも異なる断面とする必要はなく1断面内の異なる領域をそれぞれ注入切替判定用領域D2、撮影切替判定用領域D1に設定してもよい。また、異なる断面であっても、スライス幅の広いX線検出器を用いた場合には、異なる断面を同時に撮影することも可能である。
【0054】
以下、具体的な動作手順を説明する。
第2の実施の形態では、
(i)注入切替指示時刻tは、造影剤が注入切替判定用領域D2に到達した時刻とする。
(ii)撮影切替指示時刻tは造影剤が撮影切替判定用領域D1に到達した時刻とする。
第1の実施の形態とは異なり、注入切替指示時刻tは撮影切替指示時刻tとは無関係に決定される。
【0055】
図7のフローチャートに示すように、第2の実施の形態の造影撮影処理では、まず第1の実施の形態(図2)のステップS101、ステップS102と同様に、撮影の準備が行われる。すなわち、被検体の撮影位置決め、監視撮影条件、本撮影条件、本撮影開始条件等の各種条件設定が行われる(ステップS201、S202)。また、第2の実施の形態では、撮影切替判定用閾値P1に加え、注入切替判定用閾値P2が設定されるものとする。
【0056】
次に、システム制御装置126は、撮影切替判定用領域D1、注入切替判定用領域D2の指定を受け付ける(ステップS203、S204)。
【0057】
システム制御装置126は、注入装置2に対して造影剤注入指示を送信する。注入装置2はステップS202で設定された注入条件に従って、まず造影剤注入を開始する(ステップS205)。
造影剤注入が開始されると、次にシステム制御装置126は、監視撮影の開始指示をスキャナ100に送信する。監視撮影はステップS203、S204で設定された撮影切替判定用領域D1及び注入切替判定用領域D2に対して行われる(ステップS206)。スキャナ100は、監視撮影の開始指示に応答して、撮影切替判定用領域D1、注入切替判定用領域D2の監視撮影を開始する。
【0058】
監視撮影において、スキャナ100は監視撮影条件に従って注入切替判定用領域D2及び撮影切替判定用領域D1を撮影し、データ収集装置107により収集した計測データを操作卓120の画像演算装置125に出力する。画像演算装置125は、スキャナ100から入力された計測データに基づいて撮影切替判定用領域D1を含む断層像61、注入切替判定用領域D2を含む断層像62を再構成する(ステップS207)。これらの断層像61,62(監視画像データ)は、時系列に順次再構成され、操作卓制御装置122へ送出される。
【0059】
操作卓制御装置122は、生成された各監視画像データ(断層像61,62)から、撮影切替判定用領域D1のCT値、及び注入切替判定用領域D2のCT値を時系列に順次取得し、システム制御装置126へ出力する。
システム制御装置126は、生成された各監視画像データから、撮影切替判定用領域D1,注入切替判定用領域D2の各CT値を時系列に順次取得する(ステップS208)。そして、注入切替判定用領域D2のCT値が注入切替判定用閾値P2に達したか否かを判定する(ステップS209)。
注入切替判定用領域D2のCT値が注入切替判定用閾値P2以下の場合は、監視撮影を継続する(ステップS209;No→ステップS208)。
一方、注入切替判定用領域D2のCT値が注入切替判定用閾値P2を上回ると、システム制御装置126は、直ちに注入切替指示を注入装置2に送信する(ステップS209;Yes→ステップS210)。
注入装置2は、注入する薬液を造影剤から生理食塩水へ切替える。
【0060】
図8は、注入切替判定用領域D2のCT値が注入切替判定用閾値P2に到達した段階でのTDCである。図8に示すように、注入切替判定用領域D2の方が、撮影切替判定用領域D1よりも先に造影剤が到達する。
第2の実施の形態では、注入切替指示時刻tは、注入切替判定用領域D2のCT値が注入切替判定用閾値P2に到達した時刻とする。
【0061】
その後、システム制御装置126は、撮影切替判定用領域D1のCT値が撮影切替判定用閾値P1に達したか否かを判定する(図7のステップS211)。
撮影切替判定用領域D1のCT値が撮影切替判定用閾値P1以下の場合は、監視撮影を継続する(ステップS210;No→ステップS211)。
一方、撮影切替判定用領域D1のCT値(CT値の和、平均値や中央値等を含む)が撮影切替判定用閾値P1を上回ると、システム制御装置126は、直ちに撮影切替指示をスキャナ100に送信する(ステップS211;Yes→ステップS212)。
スキャナ100は、本撮影条件に従って関心領域の撮影を開始する。
【0062】
図9は、撮影切替判定用領域D1のCT値が撮影切替判定用閾値P1に到達した段階でのTDCである。図9に示すように、撮影切替判定用領域D1に造影剤が到達した段階で、既に生理食塩水の注入が開始されている。
第2の実施の形態では、撮影切替指示時刻tは、撮影切替判定用領域D1のCT値が撮影切替判定用閾値P1に到達した時刻とする。
ただし、監視撮影から本撮影への撮影切替指示を送信後、撮影切替えに要する時間(想定待ち時間Twait;図10参照)が存在する。そのため、本撮影の開始時刻t’は、撮影切替指示時刻tから想定待ち時間Twaitだけ遅れる。
【0063】
なお、ステップS209、ステップS211の判定処理では、第1の実施の形態と同様に、各領域D1、D2に該当する複数の画素のCT値の和、平均値、または中央値等を算出し、各閾値と比較するようにすればよい。
【0064】
以上説明したように、第2の実施の形態では、撮影切替判定用領域D1よりも上流(造影剤注入箇所に近い領域)に別の監視領域(注入切替判定用領域D2)を設け、注入切替判定用領域D2に造影剤が到達すると、撮影切替判定用領域D1に造影剤が到達する前であっても、造影剤注入から生理食塩水注入へ切替える。
そのため、より早いタイミングで生理食塩水の注入を開始できるため、造影剤の注入量を更に低減することも可能となる。
【0065】
[第3の実施の形態]
次に、図11〜図17を参照して、第3の実施の形態のX線CT装置1について説明する。
第3の実施の形態のX線CT装置1の構成は、第1、第2の実施の形態のX線CT装置1と同一であるため重複する説明を省略し、同一の各部には同一の符号を付して説明する。
【0066】
造影撮影では、本撮影の段階で関心領域に造影剤が到達している必要があるが、関心領域以外に造影剤が停留しているとアーチファクトの原因となる恐れがある。そのため、第3の実施の形態では、本撮影の段階で造影剤を除去しておきたい領域(造影剤除去領域D3)も監視対象とし、撮影切替判定用領域D1とともに監視する。システム制御装置126は、造影剤除去領域D3への実際の造影剤の到達時間T4に基づいて生理食塩水の到達時間(計算生食到達時間T5)を推定し、造影剤から生理食塩水への注入切替後、計算生食到達時間T5だけ経過した時刻(t+T5)、または撮影切替指示を送信してから実際に撮影が切り替わるまでに要する想定待ち時間Twaitだけ経過した時刻(t+Twait)のうちいずれか遅い方を本撮影の開始時刻t’とする。
このようにすることで、本撮影開始時刻t’までに造影剤除去領域D3に生理食塩水が到達するので、本撮影の際にタイミングよく造影剤が造影剤除去領域D3から押し出されるようになる。
【0067】
造影剤除去領域D3は、撮影切替判定用領域D1よりも上流(造影剤注入箇所により近い位置)であって、本撮影の際に造影剤を除去しておきたい領域とする。
例えば、図11のZ1に示す体軸方向位置(断面図61)における造影剤通過箇所に撮影切替判定用領域D1を設定した場合、図11のZ3に示す体軸方向位置(断面図63)の造影剤通過箇所を造影剤除去領域D3として設定できる。
なお、各領域D1、D3の体軸方向位置は、必ずしも異なる断面とする必要はなく1断面内の異なる領域をそれぞれ造影剤除去領域D3、撮影切替判定用領域D1に設定してもよい。また、スライス幅の広いX線検出器を用いた場合には、異なる断面を同時に撮影することも可能である。
【0068】
以下、具体的な動作手順を説明する。
第3の実施の形態では、
(i)造影剤が造影剤除去領域D3に到達すると、造影剤の到達に要した時間(実造影剤到達時間T4)に基づいて生理食塩水が造影剤除去領域D3に到達する時間(計算生食到達時間T5)を計算する。
(ii)撮影切替指示時刻t、注入切替指示時刻tは、いずれも撮影切替判定用領域D1に造影剤が到達した時刻とする。
(iii)注入切替後であって、計算生食到達時間T5、または撮影切替指示送信後、実際に撮影切替に要する時間(想定待ち時間Twait)のうちいずれか長い方だけ遅れて本撮影が開始されるように、撮影切替指示を送る。
【0069】
図12のフローチャートに示すように、第3の実施の形態の造影撮影処理では、まず第1の実施の形態(図2)のステップS101、ステップS102と同様に、撮影の準備が行われる。すなわち、被検体の撮影位置決め、監視撮影条件、本撮影条件、本撮影開始条件等の各種条件設定が行われる(ステップS301、S302)。
【0070】
次に、システム制御装置126は、撮影切替判定用領域D1、造影剤除去領域D3の指定を受け付ける(ステップS303、S304)。
【0071】
システム制御装置126は、注入装置2に対して造影剤注入指示を送信する。注入装置2はステップS302で設定された注入条件に従って、まず造影剤注入を開始する(ステップS305)。このとき、システム制御装置126は、造影剤注入指示を送信した時刻を計時し、造影剤注入開始時刻t1(図15参照)としてRAMに保持する。
【0072】
造影剤注入が開始されると、次にシステム制御装置126は、監視撮影の開始指示をスキャナ100に送信する。監視撮影はステップS303、S304で設定された撮影切替判定用領域D1及び造影剤除去領域D3に対して行われる。システム制御装置126は、監視撮影開始指示を送信した時刻を計時し、監視撮影開始時刻t2(図15参照)としてRAMに保持する。
スキャナ100は、監視撮影の開始指示に応答して、撮影切替判定用領域D1、造影剤除去領域D3の監視撮影を開始する(ステップS306)。
【0073】
監視撮影において、スキャナ100は監視撮影条件に従って撮影切替判定用領域D1及び造影剤除去領域D3を撮影し、データ収集装置107により収集した計測データを操作卓120の画像演算装置125に出力する。画像演算装置125は、スキャナ100から入力された計測データに基づいて撮影切替判定用領域D1を含む断層像61、造影剤除去領域D3を含む断層像63を再構成する(ステップS307)。これらの断層像61,63(監視画像データ)は、時系列に順次再構成され、操作卓制御装置122へ送出される。
【0074】
操作卓制御装置122は、生成された各監視画像データから、撮影切替判定用領域D1,造影剤除去領域D3のCT値を時系列に順次取得する(ステップS308)。そして、造影剤除去領域D3のCT値が造影剤到達判定用閾値P3に達したか否かを判定する(ステップS309)。
造影剤除去領域D3のCT値が造影剤到達判定用閾値P3以下の場合は、監視撮影を継続する(ステップS309;No→ステップS308)。
一方、造影剤除去領域D3のCT値が造影剤到達判定用閾値P3を上回ると、システム制御装置126は、造影剤除去領域D3に造影剤が到達したと判断し、実造影剤到達時間T4を算出する(ステップS309;Yes→ステップS310)。
第3の実施の形態における実造影剤到達時間T4は、造影剤注入開始時刻t1と造影剤が造影剤除去領域D3に到達した時刻t3から求められる。すなわち、実造影剤到達時間T4は、式(4)から求められる。
【0075】
実造影剤到達時間T4=造影剤が造影剤除去領域に到達した時刻t3−造影剤注入開始時刻t1・・・(4)
【0076】
次にシステム制御装置126は、実造影剤到達時間T4に基づいて、生理食塩水が造影剤除去領域D3に到達する時間を推定する(ステップS311)。生理食塩水が注入されてから造影剤除去領域D3へ到達するまでに要する時間を以下、計算生食到達時間T5と呼ぶ。
【0077】
計算生食到達時間T5は、実造影剤注入時間T4、造影剤と生理食塩水との注入速度比、及び換算係数から求められる。
計算生食到達時間T5は以下の式(5)により求められる。
【0078】
計算生食到達時間T5 =実造影剤注入時間T4×{生理食塩水注入速度/造影剤注入速度}×換算係数 ・・・(5)
ただし、0<換算係数<1とする。
【0079】
図15は、造影剤除去領域D3のCT値が造影剤到達判定用閾値P3に到達した時刻t3におけるCT値の変化を示している。造影剤除去領域D3のCT値は撮影切替判定用領域D1よりも早く閾値P3に到達し、この時点で、造影剤除去領域D3に造影剤が到達するのに要した時間(実造影剤到達時間T4)が計算される。
また、上述のように、実造影剤到達時間T4に基づいて計算生食到達時間T5が計算される。
この段階では、まだ、撮影切替指示、及び注入切替指示は送信されていない。
【0080】
第3の実施の形態では、生理食塩水を注入開始してから、撮影切替指示送信後、実際に撮影が切替わる時間(想定待ち時間Twait)、または計算生食到達時間T5のうち、長い方の時間が経過したときに本撮影が開始されるよう、撮影切替指示を生成する。すなわち、注入切替指示時刻tと撮影切替指示時刻tとを同じ時刻とし、実際の本撮影開始時刻t’は、「注入切替指示時刻t+想定待ち時間Twait」または「注入切替指示時刻t+計算生食到達時間T5」のいずれか遅い方とする。
【0081】
すなわち、図12のステップS312において、計算生食到達時間T5の方が想定待ち時間Twaitよりも長いと判定された場合は(ステップS312;Yes)、図13のフローチャートへ移行し、想定待ち時間Twaitの方が計算生食到達時間T5よりも長いと判定された場合は(ステップS312;No)、図14のフローチャートへ移行する。
【0082】
図12のステップS312において、計算生食到達時間T5の方が想定待ち時間Twaitよりも長いと判定された場合は(ステップS312;Yes)、図13に示すように、まず、「撮影切替指示時刻t=注入切替指示時刻t」と設定し、かつ、本撮影の本撮影開始時刻t’を「注入切替指示時刻t+計算生食到達時間T5」と設定する(ステップS313)。
そして、撮影切替判定用領域D1のCT値が撮影切替判定用閾値P1を上回ると(ステップS314;Yes)、システム制御装置126は注入切替信号を注入装置2の注入制御装置211へ送信するとともに、撮影切替信号をスキャナ100へ送信する(ステップS315、ステップS316)。
注入装置2の注入制御装置211は生理食塩水注入へ切り替える。
スキャナ100は、監視撮影を停止し、本撮影の準備を行う。
その後、計算生食到達時間T5が経過し、現在時刻tが本撮影開始時刻t’(=t+T5)になると(ステップS316)、スキャナ100は本撮影を開始する(ステップS318)。
【0083】
一方、図12のステップS312において、想定待ち時間Twaitの方が計算生食到達時間T5よりも長いと判定された場合は(ステップS312;No)、図14に示すように、まず、「撮影切替指示時刻t=注入切替指示時刻t」と設定し、かつ、本撮影開始時刻t’を「注入切替指示時刻t+想定待ち時間Twait」と設定する(ステップS319)。
そして、撮影切替判定用領域D1のCT値が撮影切替判定用閾値P1を上回ると(ステップS320;Yes)、システム制御装置126は注入切替信号を注入装置2の注入制御装置211へ送信するとともに、撮影切替信号をスキャナ100へ送信する(ステップS321、ステップS322)。
注入装置2の注入制御装置211は生理食塩水注入へ切り替える。
スキャナ100は、監視撮影を停止し、本撮影の準備を行う。
その後、計算生食到達時間T5が経過し、現在時刻tが本撮影開始時刻t’(=t+T5)になると(ステップS323)、スキャナ100は本撮影を開始する(ステップS324)。
【0084】
図16は、計算生食到達時間T5の方が想定待ち時間Twaitよりも長い場合、図17は、想定待ち時間Twaitの方が計算生食到達時間T5よりも長い場合についての、注入切替及び撮影切替指示のタイミングと、本撮影開始のタイミングを示す図である。
【0085】
図16に示すように、計算生食到達時間T5の方が想定待ち時間Twaitよりも長い場合は、注入切替指示時刻tから、計算生食到達時間T5だけ経過した後に、実際に本撮影に切り替わるように撮影切替指示を送信する。すると、生理食塩水が注入開始されるとともに、スキャナ100では監視撮影を停止し、生理食塩水が造影剤除去領域D3に到達するまでの間に本撮影の準備を行う。そして、生理食塩水が実造影剤除去領域D3に到達する時刻t’(=t+T5)に円滑に本撮影を開始する。従って、本撮影時にタイミングよく実造影剤除去領域D3から造影剤が除去されるようになる。
【0086】
一方、想定待ち時間Twaitの方が計算生食到達時間T5よりも長い場合は、図17に示すように、注入切替指示時刻tから、想定待ち時間Twaitだけ経過した後に、実際に本撮影に切り替わるように撮影切替指示を送信する。すると、生理食塩水が注入開始されるとともに、スキャナ100では監視撮影を停止し、生理食塩水が造影剤除去領域D3に到達するまでの間に本撮影の準備を行う。そして、生理食塩水が実造影剤除去領域D3に到達する時刻t’(=t+Twait)に円滑に本撮影を開始する。従って、本撮影時にタイミングよく実造影剤除去領域D3から造影剤が除去されるようになる。
【0087】
以上説明したように、第3の実施の形態では、撮影切替判定用領域D1よりも上流(造影剤注入箇所に近い領域)であって、本撮影時に造影剤を除去すべき領域(造影剤除去領域D3)を設定し、撮影切替判定用領域D1と造影剤除去領域D3とを監視対象とする。システム制御装置126は、造影剤除去領域D3のCT値の大きさに基づいて造影剤が造影剤除去領域D3に到達するのに要した実造影剤到達時間T4を求め、また、実造影剤到達時間T4に基づいて、生理食塩水が造影剤除去領域D3へ到達するまでの時間(計算生食到達時間T5)を予測する。そして、生理食塩水への注入切替後、撮影切替の準備に要する時間(想定待ち時間Twait)または計算生食到達時間T5のうちいずれか長い方の時間経過後に実際に本撮影が開始するように、撮影切替指示を送信する。
そのため、本撮影開始時t’には、生理食塩水が造影剤除去領域D3に到達して造影剤除去領域D3から造影剤が除去されるため、造影剤の停留によるアーチファクトを低減できる。
【0088】
以上、第1から第3の実施の形態で説明したように、本発明のX線CT装置1は、まず、監視撮影により撮影切替判定用領域D1の画素値を監視し、撮影切替判定用領域D1の画素値の大きさに基づいて、監視撮影から本撮影への撮影切替タイミングを決定する。また、撮影切替判定用領域D1または撮影切替判定用領域D1とは別の監視領域(例えば、注入切替判定用領域D2や造影剤除去領域D3)の監視画像データに基づいて、造影剤から生理食塩水への注入切替タイミングを決定する。
そのため、自動的に撮影切替と注入切替ができる。
【0089】
また、監視対象とする領域へ造影剤が到達する時間(実造影剤到達時間T1、T4)を実測し、実造影剤到達時間に基づいて生理食塩水がその領域に到達する時間(計算生食到達時間T2、T5)を推定して、撮影切替タイミングや注入切替タイミングを決定するため、どのような撮影部位、造影剤の種類にも対応でき、また個人差や疾患による造影剤の流れの差にも柔軟に対応した切替制御を行える。
【0090】
また、撮影切替判定用領域D1とは別に、注入切替判定用領域D2を設定し、注入切替判定用領域D1への造影剤到達に応じて生理食塩水への注入切替を行い、撮影切替判定用領域D1への造影剤到達に応じて本撮影への撮影切替を行うようにすれば、生理食塩水の注入タイミングを撮影の切替タイミングよりも早く行うことも可能となり、より造影剤の使用量を低減でき、被検者にとって負担の少ない造影検査を実現できる。
【0091】
また、撮影切替判定用領域D1とは別に、造影剤と除去したい領域(造影剤除去領域D3)を監視対象に設定し、造影剤除去領域D3への実造影剤到達時間T4に基づいて計算生食到達時間T5を推定し、本撮影の開始タイミングを決定するようにすれば、本撮影の際に、ちょうどよいタイミングで造影剤除去領域D3の造影剤を排出することもでき、造影剤の停留によるアーチファクトの発生を防止できる。
【0092】
以上、本発明に係るX線CT装置1の好適な実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0093】
1……………X線CT装置
100………スキャナ
120………操作卓
121………操作装置
122………操作卓制御装置
123………記憶装置
124………表示装置
125………画像演算装置
126………システム制御装置
2……………注入装置
200………操作部
201………操作入力装置
210………ヘッド部
211………注入制御装置
212………薬液注入装置
D1…………撮影切替判定用領域
D2…………注入切替判定用領域
D3…………造影剤除去領域
…………撮影切替指示時刻
’………本撮影開始時刻
…………注入切替指示時刻
end………想定本撮影終了時刻
T1、T4…実造影剤到達時間
T2、T5…計算生食到達時間(生理食塩水到達時間)
wait………想定待ち時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に造影剤及び生理食塩水を注入する注入手段を具備するX線CT装置であって、
前記造影剤が注入される被検体を監視撮影し、前記被検体の監視画像データを時系列に取得する監視撮影手段と、
前記監視画像データに含まれる撮影切替判定用領域の画素値の大きさに基づいて、前記監視撮影から本撮影への撮影切替タイミングを決定する撮影切替手段と、
前記撮影切替判定用領域または前記監視画像データに含まれる別の監視領域の画素値の大きさに基づいて、前記造影剤から前記生理食塩水への注入切替タイミングを決定する注入切替手段と、
を具備することを特徴とするX線CT装置。
【請求項2】
本撮影の開始時に造影剤を除去すべき造影剤除去領域を前記別の監視領域とし、
前記撮影切替手段は、
前記造影剤除去領域の画素値の大きさに基づいて前記造影剤除去領域に造影剤が到達する実造影剤到達時間を計測し、実造影剤到達時間に基づいて生理食塩水が当該造影剤除去領域に到達する生理食塩水到達時間を推定し、
前記注入切替手段による注入切替後であって、前記生理食塩水到達時間の経過後、または撮影切替指示送信後、実際に撮影が切り替わるまでの想定待ち時間経過後のうちいずれか遅い方の時刻を前記撮影切替タイミングとすることを特徴とする請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項3】
本撮影の関心領域を前記撮影切替判定用領域とし、
前記注入切替手段は、
前記撮影切替判定用領域の画素値の大きさに基づいて前記関心領域に造影剤が到達する実造影剤到達時間を計測し、実造影剤到達時間に基づいて生理食塩水が当該関心領域に到達する生理食塩水到達時間を推定し、
想定本撮影終了時刻から前記生理食塩水到達時間だけ遡った時刻を、前記注入切替タイミングとすることを特徴とする請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項4】
前記撮影切替手段は、
前記実造影剤到達時間と、前記注入手段に設定された前記造影剤の注入速度と前記生理食塩水の注入速度との比率と、前記造影剤の種類に応じて定められた換算係数とに基づいて、前記生理食塩水到達時間を推定することを特徴とする請求項2または請求項3に記載のX線CT装置。
【請求項5】
被検体に造影剤及び生理食塩水を注入しながら撮影を行う造影撮影方法であって、
前記造影剤が注入される被検体を監視撮影し、前記被検体の監視画像データを時系列に取得し、
前記監視画像データに含まれる撮影切替判定用領域の画素値の大きさに基づいて、前記監視撮影から本撮影への撮影切替タイミングを決定し、
前記撮影切替判定用領域または前記監視画像データに含まれる別の監視領域の画素値の大きさに基づいて、前記造影剤から前記生理食塩水への注入切替タイミングを決定する
ことを特徴とする造影撮影方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−27467(P2013−27467A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164138(P2011−164138)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】