説明

X線CT装置及びX線CT装置の運転方法

【課題】長期間CT撮像に使用された半導体放射線センサにおいても、X線CT装置の起動時の半導体放射線センサからの出力信号の時間変動を抑制し、X線CT装置のCT撮像開始までの待ち時間を低減できるX線CT装置及びX線CT装置の運転方法を提供することである。
【解決手段】CdTe結晶をX線センサ4(図中4−1〜4−512で表示)に用いるX線CT装置100において、X線センサ4のバイアス電圧を逆方向と順方向の両極性で供給できる両極性バイアス電圧供給装置30を設け、X線CT装置100の運転中にはX線センサ4に逆方向のバイアス電圧を、X線CT装置100の運転休止中には順方向のバイアス電圧を供給するように制御装置6が両極性バイアス電圧供給装置30を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用のX線CT装置及びX線CT装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、In/CdTe/Ptセンサに、暗電流が多く流れる順方向のバイアス電圧を印加することにより、出力信号の波形の変化を防止することが提案されている。
【0003】
特許文献2には、放射線に対して有感な半導体結晶ブロックの一方の面にバイアス用電極を設置し、このバイアス用電極に通常のバイアス電圧及び逆方向のバイアス電圧を切り換えて印加する電圧切換印加手段と、放射線の照射中にバイアス用電極に逆方向バイアス電圧を1回以上印加するように電圧切換印加手段を制御する制御手段を具備することを開示する。しかし、CT撮像のための運転中及び運転休止中でバイアス電圧を制御することは開示していない。
【特許文献1】特開2006−010364号公報
【特許文献2】特開平7−12947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高エネルギーX線、特に1〜12MeVのX線を用いる大型の産業用のX線CT装置では、使用するX線源の線量率が非常に高い。高エネルギーX線を使用するX線CT装置では、半導体放射線センサからの出力信号として出力電流を積分して計測に用いるため、出力信号の波形におけるパルス波高のブロード化の影響はあまりないが、長期間にわたりX線CT装置を使用すると、CdTeの半導体結晶を用いた半導体放射線センサからの積分出力電流が、集積線量にほぼ比例して低下していくような照射劣化を生じることがわかった。ここで言う長期間とは、1日8時間使用した場合で、数ヶ月から数年を言う。
【0005】
照射劣化した半導体放射線センサは、X線照射を開始した際に、一定の強度のX線入力にもかかわらず、出力電流のレベルが変化することがある。CT画像を撮像するためには、一定のX線入力に対して、半導体照射線センサからの一定の出力電流が得られることが必要である。このため、半導体照射線センサからの出力電流が安定するまで、本来のCT撮像を始めるのを待つ、待ち時間を生じる可能性がある。
【0006】
半導体放射線センサからの出力電流が低下するとCT画像の画質低下が懸念される。半導体放射線センサからの出力電流低下の主原因は、長期間にわたるX線照射により発生するCdTeの半導体結晶内部に発生する再結合中心によるものと考えられる。X線により半導体放射線センサ内で生成する電子・正孔対が、再結合中心で再結合するため、出力電流が低下する。このような長期間に高集積線量を照射された場合における、半導体放射線センサからの出力電流の低下を回復させることについては、X線CT装置の休止中に半導体放射線センサを高温アニール処理して、再結合中心を除去し、出力電流の低下を回復させることも考えられている。しかしながら、前記のようなアニール処理は毎日実施すると、半導体放射線センサを高温にするため、半導体放射線センサを加速劣化試験に掛けているようなもので、半導体放射線センサ構成部品の信頼性の上からは問題がある。このため、数ヶ月に1度程度の頻度で実施するべきものである。
【0007】
アニール処理を実施するまでの間は、X線CT装置を運転していると、半導体放射線センサ内には再結合中心が生成されて徐々に増加し、半導体放射線センサからの出力電流は徐々に低下する。その出力電流低下は連続使用している場合には補正できる程度でCT撮像に問題は生じないが、現実には、X線CT装置は、1日8時間程度使用するのが普通であり、次回のCT撮像まで16時間の間、X線CT装置の運転は中断される。使用頻度が少ない場合には更に数日や、1週間以上、X線CT装置の運転を休止することも予想される。
【0008】
CdTeの半導体結晶を用いた半導体放射線センサ内に発生した再結合中心は、高温アニールで回復することから明らかなように、室温でも若干の回復を見せる。X線CT装置の運転を休止後に、運転を再開してX線を半導体放射線センサに照射すると、半導体放射線センサからの出力電流は、運転休止直前のときのレベルより高く回復している。しかし、室温での回復は一時的なもので、CdTeの半導体結晶を用いた半導体放射線センサからの出力電流は、数分から数時間で運転休止前の出力電流のレベルまで低下する。このように半導体放射線センサからの出力信号である出力電流が変動している間は、CT撮像を実施することができないため、CT撮像開始まで時間がかかる。
【0009】
本発明の目的は、長期間CT撮像に使用された半導体放射線センサにおいても、X線CT装置の起動時の半導体放射線センサからの出力信号の時間変動を抑制し、X線CT装置のCT撮像開始までの待ち時間を低減できるX線CT装置及びX線CT装置の運転方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明のX線CT装置は、被試験体を透過したX線を検出する半導体放射線センサと、半導体放射線センサからの出力信号を処理する信号処理回路とを備えるX線CT装置において、半導体放射線センサに、順方向と逆方向のバイアス電圧を切り換えて印加可能な両極性バイアス電圧印加手段と、両極性バイアス電圧印加手段を制御する制御手段と、を備え、制御手段では、CT撮像運転休止中に、半導体放射線センサへ運転中とは逆方向のバイアス電圧を印加することを特徴とする。
【0011】
特に、半導体放射線センサには、CdTeの半導体結晶を用い、CdTeの半導体結晶の片側にショットキー電極を形成したものが望ましい。
本発明は、前記X線CT装置の運転方法を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、長期間CT撮像に使用した半導体放射線センサにおいても、X線CT装置の起動時の半導体放射線センサからの出力信号の出力変動を抑制し、X線CT装置の起動時の待ち時間を低減できるとともに、CT画像の品質劣化の防止を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、図1から図4を参照しながら本発明の実施形態に係るX線CT装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るX線CT装置の構成を示す模式図である。本実施形態のX線CT装置100は第3世代方式のX線CT装置の構造を有する産業用のX線CT装置である。
ちなみに、産業用のX線CT装置とは、物体の内部形状を観察、計測するために、非常に有用な非破壊検査装置である。最近では自動車会社を中心に開発品の形状計測や、鋳造品の巣の分布計測等に活用されるようになってきた。大型鋳造品等の断層像を撮像するためには、透過力の高い高エネルギーX線を発生する電子線加速器をX線源に用いたX線CT装置が開発されている。例えば、電子線加速器をX線源とし、短冊形のシリコンの半導体放射線センサをX線センサとして用いた産業用のX線CT装置が製品化されている。このようなX線CT装置は被試験体をX線ファンビームに垂直な軸周りに1回転させて断層像を撮像する、いわゆる前記第3世代方式のX線CT装置である。
【0014】
X線CT装置100は、X線ファンビーム2を出力する電子線加速器1、被試験体14を設置するターンテーブルであるスキャナ3、被試験体14を透過してきたX線を検出する多数のX線センサ4(図1中、4−1〜4−512で表示し、その中の任意のX線センサの一つを4−nと表示)のS/N比を向上させるためX線センサ4への散乱X線の入射を抑える役割をするコリメータ5、X線センサ4の出力信号を増幅し、デジタル信号に変換する信号処理装置(信号処理回路)10、信号処理装置10からのデジタル信号を収集すると共にX線CT装置100全体を制御する制御装置(制御手段)6、CT画像の再構成を行う画像再構成装置7、画像再構成装置7により作成されたCT画像やその他の情報を表示する表示装置8、制御装置6からの制御指令により電子線加速器1、スキャナ3、及び信号処理装置10の動作を制御するコントローラ9、制御装置6の指示によりX線センサ4にケーブル33を介してバイアス電圧を供給する両極性バイアス電圧供給装置(両極性バイアス電圧印加手段)30、制御装置6に運転開始、X線CT装置100の運転停止及びCT撮像条件等を入力する操作入力装置31等を備えている。
ここでX線センサ4が請求項に記載の半導体センサに対応する。
【0015】
操作入力装置31は、例えば、液晶表示装置、キーボードやマウス等の入力手段、記憶装置やCPUやその周辺回路やメモリ等を内蔵した本体からなるパーソナルコンピュータである。操作入力装置31は、制御装置6と通信回線34で接続されている。また、制御装置6は、両極性バイアス電圧供給装置30と通信ケーブル32で接続され、コントローラ9とは通信ケーブル35で接続されている。
電子線加速器1は、制御用ケーブル16によりコントローラ9に接続され、コントローラ9によりX線ファンビーム2の発生・停止が制御される。制御用ケーブル16を通じてコントローラ9は、電子線加速器1の作動状態信号を監視し、動作状態が安定している状態のとき、動作状態安定の状態信号を制御装置6に出力する。
スキャナ3は、被試験体14を回転させてCT撮像する断面方向を変える回転機能の他に、被試験体14の各高さの断面撮像を行うために、被試験体14を上下動作させる機能を有する。スキャナ3も電子線加速器1と同様に制御用ケーブル15でコントローラ9に接続され、スキャナ3の回転・上下位置の調整が行われる。スキャナ3の回転角度位置情報、上下位置情報はコントローラ9から制御装置6に出力される。
【0016】
X線センサ4は、X線ファンビーム2の発生点を見込むように一列に配置されている。X線センサ4の数が多いほどCT画像の解像度が向上するが、本実施形態では512個が設置されている。このX線センサ4は、電子線加速器1からスキャナ3の回転と同期して、スキャナ3の一定回転角度ごとに時間的にパルス状のX線ファンビーム2が出力される毎に、被試験体14を透過してきたX線を検出する。個々のX線センサ4に入射したX線量に対応するX線センサ4からの出力信号は、信号処理装置10において増幅されデジタル信号に変換された後、信号ケーブル17、制御装置6、及び信号ケーブル18を経由して画像再構成装置7に送られ、画像再構成装置7においてCT画像の再構成が行なわれる。
再構成されたCT画像は表示装置8に表示される。
【0017】
また、電子線加速器1を用いたX線CT装置100では、X線は、電子線加速器1の特性から通常、周期的に発生するパルス状X線となる。一般的な値としては5msec周期に5μsec幅の強力なX線パルス(X線光子の集まり)が電子線加速器1から出力される。本実施形態では、被試験体14を1回転する間に1920回X線パルスが被試験体14に照射され、測定する。すなわち、スキャナ3の回転角度において0.1875度ごとにX線センサ4はX線量を測定する。512個のX線センサ4があるため、1断層を再構成するためのデータは512×1920個のデータ量になる。
【0018】
次に図2を参照しながらX線センサ4の詳細な構成を説明する。図2は、図1における1つのX線センサの構造図であり、(a)は側面図であり、(b)は平面図である。図2に示すようにX線センサ4にはCdTeの半導体結晶(以下、CdTe結晶と称する)200を用いた化合物半導体放射線センサが使用される。CdTe結晶200は、放射線波高分析用に用いられる材料であり、印加されるバイアス電圧により暗電流(リーク電流とも言う)をできるだけ少なくし、信号対雑音比(SN比)を向上することが望ましい。そのために、例えば、CdTe結晶200の直方体の1方の面側にIn(インジウム)電極202を蒸着等で形成し、それに対向する他方の面側にPt(プラチナ)電極201を蒸着等により形成した、In/CdTe/Ptセンサの適用が好ましい。
このIn/CdTe/Ptセンサは、In電極202とCdTe結晶200の界面がショットキーダイオード接合(ショットキーダイオード構造とも言う)となる。このためIn電極202を陽極(正電圧をかける)として使用すると、ショットキーダイオード接合が逆バイアスになるため、このX線センサ4では暗電流は数nA(ナノアンペア)以下と非常に低くすることができる。ここで、In電極202は請求項に記載のショットキー電極に対応する。
【0019】
図2に示すように、CdTe結晶200と、Pt電極201及びIn電極202で構成されたIn/CdTe/Ptセンサはフレキシブル基板である絶縁基板203に導電性接着材で接着され、絶縁基板203は更にヘビイメタル基板204に接着されている。Pt電極201はボンディングワイヤ206で絶縁基板203上に配線された端子207に接続され、In電極202は絶縁基板203上に配線された端子208に前記した導電性接着材を介して接続されている。図2の(a)において図の上下方向にX線センサ4が、積層されて、前記図1におけるX線センサ4−1〜4−512の列を構成する。
ここで、ヘビイメタル基板204は、タングステン合金製で、X線センサ4の保護と同時に隣のX線センサ4に入射したX線の散乱や反跳電子を遮蔽する役割を担う。X線は図2の(a)に示すように、図2の左方からCdTe結晶200に入射する。
【0020】
図3は、信号処理装置の内部構成を示す模式図であり、図4は信号処理装置内のプレ・アンプリファイアの詳細構造を示す模式図である。信号処理装置10は、1つのX線センサ4(図3中では、4−1,4−512で例示してある)に対して、プレ・アンプリファイア(図3中、「プレアンプ」と表示し、以下、プレアンプと略称する)21、サンプル・ホールドアンプリファイア(図3中、「サンプル・ホールドアンプ」と表示し、以下、サンプル・ホールドアンプと略称する)22、AD変換器23及び抵抗器27を含む1つの単位を、X線センサ4の数だけ、つまり、512組含んで構成されている。
【0021】
プレアンプ21はX線センサ4からの出力電流を電圧に変換し増幅する。そのために、図4に示すように、コンデンサ131、入力抵抗器132、フィードバック・コンデンサ133、フィードバック・抵抗器134、演算増幅器(図4中では、「OPアンプ」と表示し、以下、OPアンプと略称する)136を含んで構成されている。
X線センサ4のPt電極201は、抵抗器27を介して両極性バイアス電圧供給装置30に接続され、In電極202はグランドに接続される。X線センサ4のPt電極201はコンデンサ131、入力抵抗器132を介してOPアンプ136の反転入力に接続される。OPアンプ136の非反転入力はグランドに接続される。そして、OPアンプ136の反転入力と、OPアンプ136の出力との間は、並列されたフィードバック・抵抗器134及びフィードバック・コンデンサ133とで結合される。
【0022】
この構成で明らかなように、X線センサ4に両極性バイアス電圧供給装置30から抵抗器27を介してバイアス電圧を掛けることにより、X線センサ4のDC電流である暗電流はコンデンサ131に遮断され、矢印Aに示すように抵抗器27に流れる。このため、プレアンプ21で増幅されて出力に現れることはない。電子線加速器1(図1参照)により発生したX線パルスによるX線センサ4からのパルス電流である出力電流は、矢印Bに示すようにコンデンサ131を通り、プレアンプ21で増幅される。
X線センサ4からのパルス電流がフィードバック・コンデンサ133、フィードバック・抵抗器134のほうに流れ込むためには、(抵抗器27の抵抗値)≫(入力抵抗器132の抵抗値)であることが必要で、本実施形態では抵抗器27には1MΩ、入力抵抗器132にはほぼ0の抵抗値が用いられる。また、コンデンサ131には100pFの容量、コンデンサ133には20pFの容量、フィードバック・抵抗器134には10MΩの抵抗値が用いられる。このような抵抗値及びコンデンサ容量の定数を用いた場合には、5μsec幅のX線パルスがX線センサ4に入射した場合、X線センサ4からの出力電流はコンデンサ133に流れこんで積分され、入射X線量(フォトン数)に比例した負の出力電圧がOPアンプ136の出力端子に出力される。
【0023】
図3に戻って、サンプル・ホールドアンプ22は、おのおの接続されたプレアンプ21からの出力をホールドする。AD変換器23は、サンプル・ホールドアンプ22の出力をデジタル値に変換する。制御回路24は、コントローラ9からの信号により、サンプル・ホールドアンプ22における出力のホールド動作のリセットと、AD変換器23におけるサンプル・ホールドアンプ22からのホールドされた出力を読み出してデジタル値に変換するタイミングを制御する。
各AD変換器23から出力されるデジタル信号は、データ転送コントローラ26により、どのX線センサ4であるかを識別するアドレス情報とセットにして制御装置6に出力され、制御装置6において前記したスキャナ3の回転角度位置情報及び上下位置情報を付加されて、画像再構成装置7に送られ、CT画像の再構成に用いられる。
【0024】
両極性バイアス電圧供給装置30は、制御装置6からシリアルデータ通信やネットワークにて出力電圧を制御されて、プラス電圧及びマイナス電圧に切り換え、切換時には連続的に電圧を変化させることができる電源装置であり、市販の両極性DC出力の可能な電源装置を用いることができる。
両極性バイアス電圧供給装置30からの出力(X線センサ4に印加するバイアス電圧)は、ケーブル33から信号処理装置10のX線センサ4ごとに設けられた各抵抗器27を介して、X線センサ4のPt電極201に印加される。印加されるバイアス電圧は、X線CT装置100の運転中(CT撮像運転中)においては、マイナス電圧であって、In/CdTe/Ptセンサにとっては、逆方向のバイアス電圧が印加されることなる。したがって、X線センサ4にX線が入射したときの、X線センサ4の出力電流の向きはプレアンプ21に流れ込む向きである。
X線CT装置100の運転休止中(CT撮像運転休止中)においては、プラス電圧であって、In/CdTe/Ptセンサにとっては、順方向のバイアス電圧が印加されることなる。したがって、X線センサ4に暗電流が流れやすい状態である。
【0025】
図5はX線センサに掛けるバイアス電圧の切換のタイミングチャートである。横軸は時間経過を示し、X線CT装置100(図1参照)の運転状態が、「運転休止中」の期間T1、「運転準備」の期間T2、「CT撮像中」の期間T3、「運転停止操作中」の期間T4、その後の「運転休止中」の期間T1の繰り返しを示している。縦軸はバイアス電圧を示し、「+HV」は、順方向のバイアス電圧がX線センサ4に印加されていることを示し、「−HV」は逆方向のバイアス電圧がX線センサ4に印加されていることを示す。
ここで、「運転休止中」の期間T1が請求項に記載の「CT撮像運転休止中」に対応し、「CT撮像中」の期間T3が請求項に記載の「(CT撮像)運転中」に対応する。
【0026】
前記したように、本実施形態ではIn/CdTe/Ptセンサを用いたX線センサ4に逆方向のバイアス電圧を印加する場合には、Pt電極201に負の電圧(−HV)を掛けることになる。「運転休止中」の期間T1には、X線センサ4には順方向のバイアス電圧、つまり、所定の正値の電圧(+HV)が印加されている。X線CT装置100の「運転準備」の期間T2は、制御装置6はコントローラ9を介して電子線加速器1を動作させ、その出力が安定するまでの期間であり、両極性バイアス電圧供給装置30は、制御装置6からの指令を受けて、バイアス電圧を徐々に変化させて、逆方向の所定の負値のバイアス電圧(−HV)に切り替える。「CT撮像中」の期間T3には、バイアス電圧は逆方向のバイアス電圧(−HV)に保持される。CT撮像終了後の「運転停止操作中」の期間T4では、両極性バイアス電圧供給装置30は、制御装置6からの指令を受けて、再度、バイアス電圧を徐々に変化させて、順方向の所定の正値のバイアス電圧(+HV)に切り替える。「運転休止中」の期間T1では、その順方向のバイアス電圧を保持する。本実施形態では順方向のバイアス電圧(+HV)は200〜400V、逆方向のバイアス電圧(−HV)は−200〜−400Vを使用するが、順方向と逆方向のバイアス電圧値の絶対値は同一である必要は無く、適宜設定されるべきものである。
【0027】
次に、図6を参照しながら適宜図1、図5を参照して本実施形態のX線CT装置100の運転方法である制御装置6におけるバイアス電圧の制御方法について説明する。
図6は制御装置におけるX線CT装置の運転制御の流れを示すフローチャートである。X線CT装置100が「運転休止中」の期間T1の間は、図5に示したように順方向のバイアス電圧(+HV)を保持するように制御装置6は両極性バイアス電圧供給装置30に指令を送信し、両極性バイアス電圧供給装置30は順方向のバイアス電圧(+HV)をX線センサ4のPt電極201に供給している(ステップS01:X線センサバイアス順方向保持)。
【0028】
ステップS02では、制御装置6は、操作入力装置31から操作者によるX線CT装置100の運転の開始指令を受信したか否かをチェックする(CT運転開始指令あり?)。運転の開始指令を受信した場合(Yes)は、ステップS03へ進み、運転の開始指令を受信していない場合は(No)は、ステップS01に戻り、順方向のバイアス電圧(+HV)を保持する。
操作入力装置31からの操作者によるX線CT装置100の運転の開始指示が入力されると、制御装置6はステップS03に進み、両極性バイアス電圧供給装置30に予め決定されている逆方向のバイアス電圧を出力する指令を出す(X線センサバイアス逆方向指令)。両極性バイアス電圧供給装置30は、その指令を受けて、図5の「運転準備」の期間T2の間に、X線センサ4に逆方向のバイアス電圧(−HV)になるようにバイアス電圧(+HV)から徐々に変化させて出力し、X線CT装置100の運転準備を行なう。
また、制御装置6は、電子線加速器1の電源を、コントローラ9を介してオン状態にし(ステップS04:加速器オン)、安定したX線パルスを出力できるようになるまで待つ。通常、電子線加速器1は電源を入れてから、電子線加速器1が安定し、安定したX線パルスを出力できるようになるまでに、数分から数十分を要する。この間の「運転準備」の期間T2の間に、両極性バイアス電圧供給装置30は、バイアス電圧を+HV→0V→−HVに徐々に変化させ、X線センサ4に印加するバイアス電圧を、X線センサ4がX線測定可能な状態にする。
【0029】
ステップS05では、制御装置6は、コントローラ9を介して送られてくる電子線加速器1の状態信号により動作状態が安定状態になったか否かをチェックする(加速器動作安定?)。動作状態が安定状態になった場合(Yes)は、ステップS06へ進み、そうでない場合(No)はステップS05を繰り返す。
ちなみに、電子線加速器1の動作状態が安定するまでに、操作者は被試験体14のCT撮像条件等を、操作入力装置31を介して制御装置6に入力しCT撮像準備を行うが、これは通常のX線CT装置100の運転動作であり、図6に示すフローチャートでは省略してある。電子線加速器1の動作が安定するとステップS06に進み(ステップS05→Yes)、制御装置6は、CT撮像を実施する。
【0030】
制御装置6は、1つの被試験体14に対するCT撮像が終了すると、電子線加速器1からのX線発生だけを中止し、CT撮像が終了か否かをチェックする。操作者の操作入力装置31からの入力指示によるCT撮像終了の指令があった場合(Yes)は、ステップS08に進む。複数の被試験体14があって、操作者が別の被試験体14をスキャナ3にセットして、操作入力装置31からの入力指示によるCT撮像開始の指令を受けた場合(ステップS07→No)は、ステップS06へ戻りCT撮像を繰り返す。
なお、操作入力装置31からの入力指示によるCT撮像開始前に、操作者は、新たな被試験体14に応じたCT撮像条件の設定を必要に応じて操作入力装置31で行なってから、CT撮像開始の入力指示を行なうのは言うまでもない。
何ら、操作者が操作入力装置31からの指示入力を行なわないときは、ステップS07で指令待ちの状態になる。
【0031】
ステップS08では、制御装置6は、操作者の操作入力装置31からのCT休止の入力によるCT休止指令を受けたか否かチェックする。CT休止指令を受けた場合(ステップS08→Yes)は、制御装置6は、両極性バイアス電圧供給装置30に順方向バイアス指令を出力(ステップS09:X線センサ順方向バイアス指令)し、両極性バイアス電圧供給装置30が、X線センサ4に順方向のバイアス電圧(+HV)になるようにバイアス電圧(−HV)から徐々に変化させて出力し、その後順方向のバイアス電圧(+HV)を保持し続ける。
CT休止指令がない場合(ステップS08→No)は、ステップS08を繰り返す。
なお、これは図5におけるX線CT装置100の「運転停止操作」の期間T4における操作の一部であり、制御装置6は、並行して電子線加速器1のオフ制御等を、コントローラ9を介して行なう。
【0032】
図7は高エネルギーX線を用いるX線CT装置における、運転休止後に再起動してCT撮像開始時のIn/CdTe/Ptセンサを用いたX線センサの出力電流の時間推移の比較例である。横軸は時間(秒)を示し、縦軸は時間0でのX線センサからの出力電流で規格化して示してある。
この図におけるX線センサ4からの出力電流は電子線加速器1とX線センサ4との間に被試験体14を置かない条件であり、すなわちX線センサ4は最大出力となる。X線の最大エネルギーは6MeVで、線量率は約1kGy(空気)/hである。図7に示す曲線310と曲線311は本実施形態におけるX線CT装置100が「運転休止中」の期間T1は、順方向のバイアス電圧をX線センサ4にかけておいた場合のX線センサ4からの出力電流である。これに対し比較例の曲線312は、X線CT装置100の「運転休止中」の期間T1は、X線センサ4に何らのバイアス電圧をかけずに放置しておいた場合のX線センサ4からの出力電流である。
【0033】
曲線310,311と曲線312とを比較すると、曲線312はCT撮像開始後約100秒まで出力電流が減少しているが、曲線310,311ではCT撮像開始直後から、ほぼ一定の出力が得られることがわかる。
なお、曲線の揺らぎは電子線加速器1からのX線パルスの強度の揺らぎによるものであり、前記したCdTe結晶200の分極効果とは関係ない。
産業用の第3世代のX線CT装置100ではCT画像1枚当たり10秒でCT撮像可能であるので、図7の例では本実施形態のX線CT装置100の特徴である「運転休止中」の期間T1においてX線センサ4に順方向のバイアス電圧を掛けて保持するというようなX線CT装置の運転方法を採用しない場合には、最初の約10枚のCT画像の品質が低下する可能性がある。逆に本実施形態のX線CT装置100ではCT撮像開始当初から高品質のCT画像を撮像できる。
【0034】
図8は高エネルギーX線を用いるX線CT装置における、運転休止後に再起動してCT撮像開始時のIn/CdTe/Ptセンサを用いたX線センサの出力電流の時間推移の他の比較例である。横軸は時間(分)を示し、縦軸はX線センサからの出力電流を任意単位で表示したものである。図7と同じく、電子線加速器1とX線センサ4と間に被試験体14を置かない条件であり、X線の最大エネルギーは1MeVで線量率は約5Gy(空気)/hと図7の場合の200分の1である。図8に示す曲線313は本実施形態におけるX線CT装置100が「運転休止中」の期間T1は、順方向のバイアス電圧をX線センサ4にかけておいた場合のX線センサ4からの出力電流である。これに対し比較例の曲線314は、X線CT装置100の「運転休止中」の期間T1は、X線センサ4に何らのバイアス電圧をかけずに放置しておいた場合のX線センサ4からの出力電流である。
【0035】
図8におけるX線センサ4では、長期間にわたりX線CT装置100で使用した場合を模擬するために約100kGy(1MeVのX線で、X線CT装置100を約8年間使用した程度に相当)のγ線で照射したものを使用した。曲線313では、CT撮像開始後数分のみの間で出力電流の低下が見られるが、曲線314では、CT撮像開始後20分近くの間、出力電流の急速な低下が見られることが分かる。
【0036】
図7と図8とにおけるX線センサ4からの出力電流が安定化するまでの時間の違いは、主にX線源(電子線加速器1)により過去に累積された線量率の違いによると考えられる。すなわち、多量のX線照射によりIn/CdTe/Ptセンサを用いたX線センサ4内に照射欠陥が多量に発生し、電子・正孔の再結合中心を生成するが、従来のX線CT装置の運転法では「運転休止中」にその再結合中心の一部が見かけ上回復して、センサの出力機能が回復している。しかしながら、X線CT装置の運転を開始すると、X線入射により発生した電子・正孔が、見かけ上回復していた再結合中心に作用して、再結合中心を活性化させるため、急速にセンサの出力が低下する。これが、曲線314のようなデータを示すことになる。
【0037】
一方、本実施形態のX線CT装置100における運転方法を適用したX線センサ4では、曲線313に示すように、X線CT装置100の運転の休止中の期間T1に、順方向のバイアス電圧を掛けられているため、X線センサ4中に暗電流が流れる。このため、X線センサ4中に存在する再結合中心が見かけ上回復することがない。それゆえ、X線CT装置100の運転開始時に逆方向のバイアス電圧に戻しても、最初からX線センサ4の出力電流は安定し、曲線312,314のように急低下しなくなるのである。
【0038】
以上のように本実施形態によれば、長期間にわたりCT撮像に使用されたCdTe結晶200のX線センサ4においても、X線CT装置100の起動時のX線センサ4からの出力電流(出力信号)変化を抑制でき、X線センサ4からの出力電流(出力信号)が安定するまで待つというようなCT撮像開始までの時の待ち時間を低減できるとともに、CT画像の品質劣化防止を図れる。
その結果、画質向上に必要なCdTe結晶200を用いたX線センサ4の長寿命化が図れ、CT画像品質の長期安定性を確保した高エネルギーX線を用いたX線CT装置を提供できる。
【0039】
本実施形態では、X線CT装置100の「運転休止中」の期間T1の間ずっと順方向のバイアス電圧をX線センサ4にかけるようなX線CT装置における運転方法としたが、CT撮像開始前の1時間から数時間順方向のバイアス電圧をX線センサ4に掛けるようにしても良い。このようにしても、前記した図7、図8に示した曲線310,311,313に近い結果が得られた。X線CT装置100の「運転休止中」の期間T1におけるX線CT装置100の管理を簡単化したり、節電したりするためにはこの方が有利である。
【0040】
本実施形態においては、図3に示すように抵抗器27を信号処理装置10の中に含めているが、もちろんX線センサ4の近傍に設けても良い。
また、本実施形態ではIn電極202をグランドに落としてあるが、Pt電極201をグランドとし、In電極202にプラス電圧を印加することによりX線センサ4に逆方向のバイアス電圧掛けるようにしても良い。この場合にはプレアンプ21の出力は正電圧出力となる。
【0041】
また、本実施形態ではCdTe結晶200を用いたX線センサ4としたが、放射線により同様の出力電流の低下が考えられる臭化タリウム等の化合物半導体を用いたX線センサへの適用もできる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態に係るX線CT装置の構成を示す模式図である。
【図2】図1における1つのX線センサの構造図であり、(a)は側面図であり、(b)は平面図である。
【図3】信号処理装置の内部構成を示す模式図である。
【図4】信号処理装置内のプレ・アンプリファイアの詳細構造を示す模式図である。
【図5】X線センサにかけるバイアス電圧の切換のタイミングチャートである。
【図6】制御装置におけるX線CT装置の運転制御の流れを示すフローチャートである。
【図7】高エネルギーX線を用いるX線CT装置における、運転休止後に再起動してCT撮像開始時のIn/CdTe/Ptセンサを用いたX線センサの出力電流の時間推移の比較例である。
【図8】高エネルギーX線を用いるX線CT装置における、運転休止後に再起動してCT撮像開始時のIn/CdTe/Ptセンサを用いたX線センサの出力電流の時間推移の他の比較例である。
【符号の説明】
【0043】
1 電子線加速器
2 X線ファンビーム
3 スキャナ
4 X線センサ(半導体放射線センサ)
5 コリメータ
6 制御装置(制御手段)
7 画像再構成装置
8 表示装置
9 コントローラ
10 信号処理装置(信号処理回路)
14 被試験体
21 プレアンプ
22 ホールドアンプ
23 AD変換器
24 制御回路
26 データ転送コントローラ
27 抵抗器
30 両極性バイアス電圧供給装置(両極性バイアス電圧印加手段)
33 ケーブル
100 X線CT装置
200 CdTe結晶(CdTeの半導体結晶)
201 Pt電極
202 In電極(ショットキー電極)
203 絶縁基板
204 ヘビイメタル基板
206 ボンディングワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験体を透過したX線を検出する半導体放射線センサと、前記半導体放射線センサからの出力信号を処理する信号処理回路とを備えるX線CT装置において、
前記半導体放射線センサに、順方向と逆方向のバイアス電圧を切り換えて印加可能な両極性バイアス電圧印加手段と、
前記両極性バイアス電圧印加手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段では、
CT撮像運転休止中に、前記半導体放射線センサへ運転中とは逆方向のバイアス電圧を印加することを特徴とするX線CT装置。
【請求項2】
前記半導体放射線センサは、化合物半導体放射線センサであることを特徴とする請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項3】
前記化合物半導体放射線センサは、CdTeの半導体結晶の片側にショットキー電極を形成したCdTe半導体放射線センサであることを特徴とする請求項2に記載のX線CT装置。
【請求項4】
被試験体を透過したX線を検出する半導体放射線センサと、前記半導体放射線センサからの出力信号を処理する信号処理回路と、前記半導体放射線センサに、順方向と逆方向のバイアス電圧を切り換えて印加可能な両極性バイアス電圧印加手段と、前記両極性バイアス電圧印加手段を制御する制御手段と、を備えるX線CT装置の運転方法であって、
前記制御手段では、
CT撮像運転休止中に、前記半導体放射線センサへ運転中とは逆方向のバイアス電圧を印加することを特徴とするX線CT装置の運転方法。
【請求項5】
被試験体を透過したX線を検出する半導体放射線センサと、前記半導体放射線センサからの出力信号を処理する信号処理回路とを備えるX線CT装置において、
前記半導体放射線センサに、順方向と逆方向のバイアス電圧を切り換えて印加可能な両極性バイアス電圧印加手段と、
前記両極性バイアス電圧印加手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段では、
CT撮像の開始前には、前記半導体放射線センサへ運転中とは逆方向のバイアス電圧を印加することを特徴とするX線CT装置。
【請求項6】
被試験体を透過したX線を検出する半導体放射線センサと、前記半導体放射線センサからの出力信号を処理する信号処理回路と、前記半導体放射線センサに、順方向と逆方向のバイアス電圧を切り換えて印加可能な両極性バイアス電圧印加手段と、前記両極性バイアス電圧印加手段を制御する制御手段と、を備えるX線CT装置の運転方法であって、
制御手段では、
CT撮像の開始前は、前記半導体放射線センサへ運転中とは逆方向のバイアス電圧を印加することを特徴とするX線CT装置の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−128091(P2009−128091A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301265(P2007−301265)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】