説明

X線CT装置

【課題】肝臓等の器官内の脂肪含有率の計算をより簡便に行うことができる装置構成を提供する。
【解決手段】被検体の小動物84を収容する容器本体70の蓋72の内面に、脂肪ファントム73Aと筋肉ファントム73Bとが装着されている。小動物84を、肝臓の位置が脂肪ファントム73Aと筋肉ファントム73Bの位置に合うように位置合わせして容器本体70内に収容する。そして、容器本体70をX線CT装置にセットして、脂肪ファントム73Aと筋肉ファントム73B及び肝臓を含む断面のCT画像を撮像する。このCT画像中の脂肪ファントム73Aと筋肉ファントム73Bの画像からそれぞれ脂肪及び筋肉のCT値を基準値として求め、それら基準値とCT画像中の肝臓部分のCT値との関係から、肝臓の脂肪含有率を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT装置に関し、特にCT画像から脂肪含有率を測定するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、被検体にX線ビームを照射して得られる投影データに基づいて、被検体の断層画像を生成するX線CT装置が知られている。X線CT装置で生成される断層画像は、通常、CT画像と呼ばれており、このCT画像の画素値は、CT値と呼ばれる。CT値は、各物質のX線吸収率を反映した値で、通常、水のCT値は0、空気のCT値は−1000程度となっている。
【0003】
近年、このX線CT装置を、対象部位の脂肪含有度合いの評価に利用することが提案されている。例えば、X線CT装置で肝臓を撮影して得られたCT画像から、肝臓部分の平均CT値やLS比と呼ばれるパラメータを算出し、このパラメータの値に基づいて脂肪肝の進行の程度を診断することがある(例えば、下記特許文献1など)。ここで、LS比とは、肝臓における脂肪含有度合いを示すパラメータで、肝臓部分の平均CT値を、筋肉部分(例えば脾臓など)の平均CT値で割った値である。診断者は、このLS比や、CT値に基づいて、対象部位の脂肪含有度合いを判断する。
【0004】
しかし、CT値やLS比は、いずれも、X線発生器に供給される駆動電圧に応じて変動するため、再現性のあるパラメータとはいえない。そこで、出願人は、特許文献2にて脂肪含有度合いの測定のための新たなシステムを提案した。このシステムでは、X線CT装置は、被検体のうち少なくとも肝臓周辺、脾臓周辺(筋肉)、腸周辺(脂肪)に照射条件を変えることなくX線照射して、各周辺の断層画像を生成する。パラメータ算出部は、得られた断層画像に基づいて、肝臓部分のCT値、筋肉部分のCT値、脂肪部分のCT値をそれぞれ算出する。続いて、{脂肪含有率=(筋肉部分のCT値−肝臓部分のCT値)/(筋肉部分のCT値−脂肪部分のCT値)×100%}という式に従って、肝臓の脂肪含有率を算出する。
【0005】
また、特許文献3には、CT画像から脂肪像を特定する装置が開示されている。この装置は、撮像対象と同時に水基準物質と脂肪基準物質とを撮像する。そして、それら各基準物質像が示す見かけ上のCT値と予めわかっている理想的CT値から、両者の関係を表す回帰式を求めて、理想的CT値で指定された脂肪範囲を見かけ上のCT値による脂肪範囲に変換し、その範囲に属するCT値を持つ像を特定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−312030号公報
【特許文献2】特開2009−213534号公報
【特許文献3】特開2001−057973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
脾臓(筋肉)と腸(脂肪)とのCT値の実測値を基準値として肝臓の脂肪含有度合いを求める方式では、ユーザーがCT画像上で脾臓や腸の範囲を指定する必要があり、このための作業負担がある。特にやせた被検体では、脾臓や腸の位置を適切に指定することが難しい場合が多い。
【0008】
また、特許文献3の装置は、脂肪部分を特定するための装置であって、脂肪含有率を測定する装置ではない。
【0009】
本発明は、肝臓等の器官内の脂肪含有率の計算をより簡便に行うことができる装置構成を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るX線CT装置は、被検体を収容する容器であって、脂肪ファントム及び筋肉ファントムが設けられた容器と、前記容器に収容された前記被検体にX線を照射した際に得られる投影データに基づいて、前記被検体の断層画像を生成する測定部と、前記容器における前記脂肪ファントムと前記筋肉ファントムの設置位置の情報に基づき前記断層画像から前記脂肪ファントムと前記筋肉ファントムに該当する部分をそれぞれ特定し、特定した各部分のCT値をそれぞれ脂肪と筋肉の基準CT値として算出する基準CT値算出部と、前記断層画像から脂肪含有率の計算対象である対象部位のCT値を算出する対象CT値算出部と、前記基準CT値算出部が求めた脂肪及び筋肉の基準CT値に対する、前記対象部位のCT値の相対的な大きさを、前記対象部位の脂肪含有率として算出する含有率算出部と、を備える。
【0011】
1つの態様では、前記脂肪ファントム及び前記筋肉ファントムは、前記容器に設けられた蓋の容器内側に設けられている。
【0012】
別の態様では、前記脂肪ファントム及び前記筋肉ファントムは、前記容器の長手方向に垂直な面に沿って配列されており、前記測定部により生成される1枚の断層画像内に同時に収まる。
【0013】
別の態様では、前記測定部は、前記容器の長手方向に沿った前記脂肪ファントム及び前記筋肉ファントムの存在範囲を示す位置情報を記憶しており、この位置情報に基づき、X線の照射により断層画像を生成する範囲をその存在範囲内に限定する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、脂肪ファントム及び筋肉ファントムの画像を基準として用いることで、肝臓等の器官内の脂肪含有率の計算をより簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態であるX線CT装置のブロック図である。
【図2】X線CT装置のうち測定部の斜視図である。
【図3】被検体を収容する容器の断面図である。
【図4】容器の使用例を示す斜視図である。
【図5】容器の使用例を示す断面図である。
【図6】容器の使用例を示す断面図である。
【図7】肝臓を含むCT画像を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態であるX線CT装置の構成を示すブロック図である。また、図2は、このX線CT装置の測定部の斜視図である。
【0017】
X線CT装置は、周知のとおり、被検体にX線ビームを照射して得られる投影データに基づいて、被検体の断層画像(CT画像)を形成する装置である。本実施形態のX線CT装置は、このCT画像形成機能に加えて、さらに、ユーザーが指定した部位、例えば、肝臓などにおける脂肪含有度合いを定量的に示すパラメータとして、脂肪含有率を算出する機能も備えている。すなわち、脂肪肝の進行程度などを定量的に判断するためには、肝臓における脂肪含有度合いを定量的に評価する必要がある。本実施形態のX線CT装置は、この脂肪含有度合いの定量的評価に有効な指標パラメータとして、脂肪含有率を算出する。以下、このX線CT装置について詳説する。
【0018】
本実施形態のX線CT装置は、動物実験で利用されるマウス、ラット、モルモット、ハムスターなどの小動物のCT測定に好適な構成となっている。ただし、当然ながら、後述するガントリや容器24の構成を変更することで、人などのCT測定に応用してもよい。
【0019】
図1に図示するとおり、このX線CT装置は、投影データを取得する測定部10と、測定部10の駆動を制御するとともに得られた投影データに基づいて各種演算を実行する演算制御部12と、に大別される。
【0020】
図2に図示するとおり、測定部10には、ガントリ18を有した本体が設けられている。本体16の上面16Aには開口が形成され、その開口からアーム26が上方に突出している。アーム26はスライド機構68の一部をなすものであり、そのアーム26は容器24に連結され、容器24を回転中心軸方向にスライド運動(移動走査)させる。
【0021】
一方、ガントリ18内には、後述する測定ユニット(X線発生器、X線検出器)が収納され、それらは回転中心軸回りにおいて回転運動する。ガントリ18の中央部には回転中心軸方向に空洞部18Aが形成されている。この空洞部18Aは非貫通型であるが、貫通型としてもよい。
【0022】
容器24は、被検体(小動物やそこから摘出された組織など)を収納するカプセルであり、その形状は、本実施形態において中空の略円筒形状となっている。容器24は、その容器中心軸が回転中心軸に一致した状態で配置される。具体的には、容器24の基端部が上述したアーム26の上端部に着脱自在に装着される。この場合において、着脱機構としては各種の係合機構あるいはネジ止め機構などを挙げることができる。上述したように、容器24は中空の円筒形状を有しており、その内部には本実施形態において1又は複数の小動物が配置される。このような構成により、小動物の体毛が直接的にガントリ18に接触することなどを防止できる。また、小動物の排泄物や離脱体毛などが外部に放出されてしまう問題を防止できる。さらに、小動物を容器24内に固定具によって拘束することが可能となるので、CT画像を再構成する場合における画像ぶれなどの問題を防止することができる。なお、サイズや形状が異なる複数種類の容器を用意して、容器を選択的に使用するのが望ましい。
【0023】
図3には、図1に示した容器24の断面が示されている。容器24は大別して容器本体70と蓋72とから構成される。容器本体70の先端側には先端部74が設けられ、この先端部74は前方側に突出した円錐形状を有している。その先端部74の中心には貫通孔78が形成されている。
【0024】
容器本体70の基端側には基端部76が設けられている。上述したように、この基端部76はスライド機構に装着される部分であるが、その装着機構については図示省略されている。容器本体70の内部70Bは先端側において先端部74で仕切られ、基端側において隔壁80によって仕切られている。その隔壁80の中央部分には貫通孔82が形成されている。
【0025】
上記の貫通孔78及び82は、例えば麻酔ガスを導入するためのチューブなどが差し込まれる孔である。もちろん、それらの貫通孔78,82が空気孔として機能してもよい。このような貫通孔78,82が形成されていても、容器24を水平状態で配置する場合においては、小動物から排泄された汚物などは容器本体70の内部70Bに溜めおかれることになり、外部への流出を防止できる。また離脱体毛などは貫通孔78,82が小孔であるために外部へほとんど放出されることはない。
【0026】
容器本体70には開口70Aが形成され、その開口70Aには上述した蓋72が設けられている。この蓋72は例えば蝶番などによって開閉するものであってもよいし、単にその一辺側が粘着テープなどによって容器本体70に取り付けられたものであってもよいし、あるいは容器本体70に対して完全に蓋72が分離するような構成であってもよい。いずれにおいても、容器本体70の内部に小動物を収納した後に蓋72を閉じられるように構成するのが望ましい。
【0027】
ちなみに、容器24はそれ全体として透明なX線透過部材によって構成されている。その材料としては例えばアクリルやABSなどの樹脂をあげることができる。
【0028】
図3に示す例では容器24がそれ全体として中空の略円筒形状を有していたが、これ以外の形状を採用するようにしてもよい。例えば、中心軸回りに回転対称形状などを挙げることができ、さらにはその断面が楕円形のものや、D型のもの、あるいは四角形などものを挙げることができる。図2に示した有効視野58が円形であることを考慮すれば、容器24の横断面は円形であるのが望ましく、その意味において円筒形状あるいは回転対称形状を採用するのが望ましい。
【0029】
ちなみに、図1に示した例では、容器24が水平状態でセットされるが、起立状態でセットされる場合もあり得る。この場合において、容器24の下側が先端部74となるのであれば、その先端部74には貫通孔を形成しない方がよい。その理由は小動物から排泄された汚物などが外部へ流出することを防止することになるからである。
【0030】
図3に示す例においては、容器24の長さは例えば400mmであり、その直径(外径)は例えば120mmである。容器本体70の内部70Bには例えば1匹の小動物が収納される。そのような場合においても小動物の尾は外部に引き出されず、容器24内に収納させることができる。例外的な場合においては、そのような尾を外部に引き出す孔を隔壁80に形成するようにしてもよい。
【0031】
この例では、容器本体70の蓋72の内面に、脂肪含有率の測定のための基準物質となるファントム73が装着されている。図4〜図6に示すように、この例では、ファントム73として、脂肪に相当するCT値の物質からなる脂肪ファントム73Aと、筋肉に相当するCT値の物質からなる筋肉ファントム73Bとが装着されている。脂肪ファントム73Aとしては例えば株式会社京都科学のSZ-49を、筋肉ファントム73Bとしては例えば株式会社京都科学のSZ-208を用いることができる(ただし、これらはあくまで一例に過ぎない)。この例では、脂肪ファントム73A及び筋肉ファントム73Bは、略円筒形状の容器本体70の円形の断面内に並んで配置されており、X線ビームの1周のスキャンでそれら両方のファントムがカバーされることになる。容器本体70の長手方向に沿った脂肪ファントム73A及び筋肉ファントム73B(以下、区別する必要がない場合はファントム73と総称する)の長さは、例えば10〜50mmである。被検体がラット等の小動物である場合、この程度のサイズがあれば、肝臓の範囲をカバーできる。肝臓の位置がファントム73の範囲に収まるように被検体の小動物84(図5参照)を容器本体70内に配置して撮像を行うと、脂肪ファントム73Aと筋肉ファントム73Bと肝臓が1枚の断層画像内に同時にカバーされる。
【0032】
蓋72に対する脂肪ファントム73A及び筋肉ファントム73Bの装着位置の情報は、演算制御部12に記憶されている。装着位置は、例えば、各ファントムの容器本体70の長手方向に沿った存在範囲と、容器本体70の長手方向中心軸周りについての各ファントムの角度範囲との組合せなどにより表される。
【0033】
測定の際には、図4に示されるように、容器24の内部70Bには小動物84が収容される。その場合においては、図5に示されるように容器本体70に対して蓋72が開けられ、小動物84が収納される。そして、図6に示されるように、蓋72を閉じることによって小動物84が容器24内に保持されることになる。この場合に体毛や髭などが存在してもそれらは容器24内に確実に保持される。すなわち、例えば図1に示した有効視野58から被検体がはみ出てしまうような問題を防止することが可能となる。
【0034】
このように、図3の例では、ファントム73を蓋72の内面に装着しているので、図5及び図6に示すように、従来と同様小動物84を容器本体70に配置する際の邪魔にならない。
【0035】
仮に、同じサイズのファントム73を容器本体70の内部底面に配設すると、ファントム73が内部底面から上方に突出することになるため、配置された小動物84の腹部を屈曲させることになる。これを避けるには、長手方向に沿って小動物84の全長をカバーする長さのファントムを設置するか、あるいはファントムの前後にファントムの上面と同じ高さの床を設けるなどの対策が必要になるが、このような対策は容器のコスト高を招く。ファントム73を容器本体70の内側の側面に設ける場合も、同様に小動物84の配置姿勢に影響を与えるか、あるいはその対策のためにコスト高を招いてしまう。これに対し、容器本体70の上側の内面を構成する蓋72の内面にファントム73を設ける構成では、そのような問題はない。なお、コスト等を問題にしないのであれば、ファントム73の配設位置は蓋72の内面でなくてもよい。
【0036】
図2の説明に戻ると、以上に説明した容器24に小動物84が収容された後、アーム26に対して容器24が装着される。この後、アーム26が回転中心軸方向に沿って前方に駆動され、これにより、ガントリ18の空洞部18A内に容器24が差し込まれる。この時、検体における測定位置にX線ビームが照射されるように、容器24の位置決めがなされる。また、そのような測定位置は連続的にあるいは段階的に変更される。その結果、所定ピッチで空間的に整列した多数のCT断面が形成される。
【0037】
本体16の上面16A上には操作パネル20が設けられており、この操作パネル20は複数のスイッチや表示器などを有する。この操作パネル20を利用してユーザーは測定現場において装置の動作を操作することが可能となる。本体16の下方には複数のキャスター22が設けられている。
【0038】
測定部10においては、回転中心軸Oを間において、一方側にX線発生器52が設けられ、他方側にX線検出器60が設けられている(図1参照)。X線発生器52の照射側にはコリメータ54が設けられている。X線発生器52は、供給される駆動電圧に応じた強度のX線ビーム56を照射する。このX線ビームは、図1に図示するように末広あるいは扇状(つまりファンビーム形状)となっている。一方、X線検出器60は複数の(例えば100個)のX線センサを一列に並べたものとして構成され、X線ビーム56の開き角度に応じてX線の受光開口が設定される。ちなみに、複数のX線センサの配列は直線的であってもよいし、円弧状であってもよい。本実施形態では、高感度型のX線センサが利用されている。X線検出器60での検出値は、投影データとしてプロセッサ30に出力される。なお、図1においては、X線発生器52に接続された電圧源、及び、X線検出器60に接続された信号処理回路などについては図示省略されている。
【0039】
図1において、符号58は有効視野を示している。これは、X線ビーム56を回転走査させた場合におけるCT画像を構成可能な円形の領域である。ちなみに、この有効視野58は、回転中心軸、X線発生器52、及び、X線検出器60の位置関係に応じて定まるものである。本実施形態においては、変位機構62が設けられているため、それらの位置関係を変更してCT画像の倍率を機械的に可変することが可能である。
【0040】
すなわち、変位機構62には、X線発生器52及びX線検出器60が連結されており、変位機構62は、X線発生器52及びX線検出器60の間の距離を維持したまま、それら(つまり測定ユニット)をX線ビーム56のビーム軸方向に変位させる。この場合において、回転中心軸Oは不変であり、すなわち上述した容器を何ら移動させることなく測定ユニット側を移動させて倍率の変更を行い得る。なお、変位機構62は変位力を発生するためのモータ62Aを備えている。
【0041】
ガントリ回転機構66は、回転ベースを回転させることにより、それに搭載された変位機構を含む各構成の全体を回転駆動する機構である。変位機構62には、測定ユニットが搭載されているため、変位機構62によって所望の位置に位置決めされた測定ユニットがその位置を保持したまま回転駆動されることになる。ガントリ回転機構66は、その駆動力を発生するためのモータ66Aを有する。
【0042】
スライド機構68は図2に示したアーム26をスライド運動させる移動機構であり、その駆動力はモータ68Aによって発生される。操作パネル20は上述したように本体の上面に設けられる。測定部10側に設けられたローカルコントローラ(図示せず)に対して操作パネル20を接続し、そのローカルコントローラと演算制御部12とが相互に通信を行うように構成してもよい。
【0043】
ちなみに、図1には、様々な機構62,66,68などが示されているが、それらの機構による位置あるいは位置変化を検出するためにセンサを設けるのが望ましい。そして、それらのセンサの出力信号に基づいて演算制御部12がフィードバック制御を行うようにするのが望ましい。また、変位機構62による倍率の可変はユーザー入力により行わせてもよいし、例えば被検体サイズあるいは容器のサイズを自動検知し、その検知したデータに基づいて自動的に倍率を設定するようにしてもよい。さらに、あらかじめ容器の種別などが登録される場合においては、その登録された情報を利用して倍率の設定を行うようにしてもよい。さらに、図1に示す例では、スライド機構68が駆動源としてのモータ68Aを有していたが、そのスライド力を人為的に発生させるようにしてもよい。
【0044】
次に、演算制御部12について説明する。プロセッサ30には、表示器32、記憶装置34、キーボード36、マウス38、プリンタ40などが接続されている。また、外部装置との間でネットワークを介して通信を行うための通信部42が接続されている。
【0045】
プロセッサ30は、CPU及び各種プログラムによって構成されるものである。図1には、その代表的な機能が示されており、プロセッサ30は、動作制御部44、画像形成部46、パラメータ算出部75などを有している。
【0046】
動作制御部44は、測定部10における全体の動作を制御する。画像形成部46はX線ビームの回転走査によって得られる投影データに基づき、CT値と呼ばれる画素値を算出し、得られたCT値に基づいてCT画像(断層画像)を生成する。なお、このCT画像の具体的な生成手法については、公知の周知技術を利用できるため、ここでの詳説は省略する。
【0047】
パラメータ算出部75は、画像形成部46で算出されたCT値などを利用して、各種診断パラメータを算出する。ここで算出される診断パラメータの一つとして、ユーザーにより指定された対象部位における脂肪含有率が挙げられるが、その具体的な算出手順などについては後に詳説する。
【0048】
表示器32には、画像形成部46で生成されたCT画像や、パラメータ算出部75で算出された各種診断パラメータなどが表示される。ユーザーは、この表示器32に表示された内容に基づいて、被検体の状態を診断する。また、必要に応じて、ユーザーは、この表示器32に表示されたCT画像を参照しながら、各種診断パラメータの算出に必要となるROI(関心領域)の設定を行う。
【0049】
次に、パラメータ算出部75で算出する脂肪含有率について、肝臓の場合を例に挙げて説明する。周知のとおり、脂肪肝の進行程度の診断にあたっては、肝臓での脂肪含有度合いが非常に重要となる。従来、この脂肪含有度合いは、肝臓部分のCT画像に対する視覚的印象に基づいて判断されていた。すなわち、CT画像では、X線吸収率の高い物質ほど明るく、逆に、X線吸収率の低い物質ほど暗く表示される。そして、肝臓は、筋肉と脂肪との混合物質とみることができるが、脂肪は筋肉に比してX線吸収率が低いため、脂肪含有度合いが高いほど、その肝臓は暗く表示されることになる。換言すれば、CT画像における明るさを見ることで、肝臓における脂肪含有度合いを、ある程度、知ることができる。
【0050】
しかし、かかる視覚的印象に基づく診断は、主観や経験に左右されやすく、正確性に欠けるという問題があった。そこで、一部では、脂肪含有度合いを定量的に表すパラメータとして、肝臓部分の平均CT値や、LS比を用いることが提案されている。
【0051】
CT値は、CT画像における画素値に相当するもので、一般的には、水のCT値が0、空気のCT値が−1000となるように設定されている。また、通常、筋肉部分のCT値は、+50前後であり、脂肪部分のCT値は−250前後となる。そして、筋肉と脂肪との混合物である肝臓部分のCT値は、脂肪含有度合いが高いほど脂肪部分のCT値(約−250)に近づき、脂肪含有度合いが低いほど筋肉部分のCT値(約+50)に近い値をとる。また、LS比は、この肝臓部分のCT値を、筋肉部分のCT値で割った値である。したがって、LS比が1に近づくほど、その肝臓における脂肪含有度合いは、低いと判断することができる。
【0052】
しかしながら、このCT値およびLS比は、いずれも、脂肪含有度合いを直接的に表すパラメータではない。そのため、一般のユーザーが、このCT値およびLS比から脂肪含有度合いを的確に認識することは困難であった。また、CT値は、X線発生器52に供給される駆動電圧に依存する値であり、当該駆動電圧が異なれば、同じ肝臓を撮影した場合でも、得られるCT値およびLS比は異なっていた。その結果、脂肪含有度合いについて適切に診断することがより困難となっていた。
【0053】
そこで、本実施形態では、より簡易に、また、より的確に脂肪含有度合いを診断でき得るパラメータとして、脂肪含有率を算出している。脂肪含有率は、その名称の通り、対象部位に脂肪が含まれる割合(パーセンテージ)を示したパラメータである。本実施形態では、この脂肪含有率を、次の手順で算出する。
【0054】
肝臓における脂肪含有率を算出する場合は、プロセッサ30は、測定部10を駆動制御して、肝臓周辺、すなわちファントム73の存在範囲内の1以上の断面のCT画像を取得する。このとき、測定部10は、演算制御部12に記憶された脂肪ファントム73A及び筋肉ファントム73Bの配置範囲(特に容器本体70の長手方向に沿った配置範囲)を参照し、その範囲内の1以上の断面に沿ってX線ビームをスキャンする。例えば、容器本体70の長手方向に沿ったファントム73の存在範囲内の範囲にわたって複数断面をスキャンしてもよい。複数断面にわたってCT撮影を行う場合には、X線発生器52に供給される駆動電圧を一定に保ちながら、換言すれば、X線照射条件を一定に保ちながら行う。このように、CT撮影の際には、同じ種類の物質は、同じCT値となるように、動作制御部44は、X線発生器52の駆動電圧を制御する。
【0055】
CT画像が取得できれば、続いて、プロセッサ30は、得られたCT画像を表示器に表示する。複数の断面のCT画像を取得した場合は、ユーザがそれら複数の中から脂肪含有率の計算の対象とする1以上のCT画像を選択できるようにしてもよい、プロセッサ30は、メッセージを出力するなどして、ユーザーに、肝臓ROIの設定を促す。ここで、肝臓ROIとは、肝臓部分、すなわち、脂肪含有率を算出したい部位を示すROIである。図7に、被検体90の肝臓92及びファントム73A及び73Bを撮像したCT画像を模式的に示す。符号94は脊椎の画像である。肝臓ROIは、ポインティングデバイスなどを操作することで設定されるもので、例えば、図7において肝臓92の部分の中の符号E1で示すような領域である。
【0056】
一方、脂肪ファントム73A及び筋肉ファントム73Bの位置は既知なので、プロセッサ30はその既知の位置情報に従って、CT画像から脂肪ファントム73Aと筋肉ファントム73Bに該当する部分E2,E3(図7参照)をそれぞれ特定する。
【0057】
このようにして肝臓、脂肪、筋肉にそれぞれ該当する画像部分E1,E2,E3が特定されると、パラメータ算出部75は、それら各画像部分における平均CT値を、肝臓平均CT値、脂肪平均CT値、筋肉平均CT値として算出する。そして、この三種類の平均CT値を、次の式1に当てはめて、肝臓の脂肪含有率を算出する。
【0058】
脂肪含有率=(筋肉平均CT値−肝臓平均CT値)/(筋肉平均CT値−脂肪平均CT値)×100% ・・・ 式1
【0059】
この式1から明らかなとおり、本実施形態では、筋肉CT値および脂肪CT値の両方を基準値とし、この二種類の基準値に対する肝臓CT値の相対的な大きさを脂肪含有率として算出している。かかる脂肪含有率によれば、肝臓における脂肪含有度合いを直感的に認識することができる。なお、式1で示した算出式は、一例であり、筋肉CT値および脂肪CT値に対する肝臓CT値の相対的な大きさを表すのであれば、他の算出式を用いてもよい。例えば、式1では、(筋肉平均CT値−肝臓平均CT値)を分子としているが、(肝臓平均CT値−脂肪平均CT値)を分子としてもよい。
【0060】
この手順で求められる脂肪含有率は、従来、多用されていた平均CT値やLS比と異なり、駆動電圧の影響を殆ど受けない。そのため、常に、脂肪含有度合いを定量的にかつ正確に診断することが出来る。その結果、例えば、脂肪肝の進行程度を数ヶ月に渡って観察する場合などのように駆動電圧を一定に保つのが困難な場合でも、脂肪肝の進行程度を的確に判断することができる。なお、算出された脂肪含有率は、CT画像や、肝臓CT値、LS比などとともに、表示器32に表示される。
【0061】
このようにして求めた脂肪含有率は、駆動電圧に依存していないため、常に、好適な判断指標として用いることができる。
【0062】
以上は、1断面のCT画像からの脂肪含有率の計算であるが、肝臓を含む複数の断面についてCT画像を求め、それら複数の断面の肝臓平均CT値と、筋肉CT値および脂肪CT値とから、脂肪含有率を計算してもよい。
【0063】
以上の説明から明らかなとおり、本実施形態では、既知の位置情報に基づきCT画像中から脂肪ファントム73A及び筋肉ファントム73Bの画像部分を特定し、それら各画像部分のCT値を基準として、脂肪含有率を算出している。したがって、脾臓周辺の筋肉の部分や腸周辺の脂肪部分などをユーザーがCT画像上で範囲指定することなく、脂肪含有度合いを定量評価できる。
【0064】
また、肝臓、脾臓、腸は同一の断面にはないので、脾臓周辺と腸周辺を基準値として用いる方式では、容器本体70の長手方向に沿って、肝臓、脾臓、腸を含んだ広い範囲にわたって複数の断面を撮像する必要がある。これに対し、この実施形態では、被検体84をファントム73A及び73Bに対して適切に位置合わせすることで、肝臓とファントム73A及び73Bとを同一のCT画像に収めることができるので、容器本体70の長手方向に沿った走査範囲は狭くてよい。
【0065】
なお、本実施形態では、診断対象部位として肝臓を例に挙げているが、大腰筋等といった他の器官の脂肪含有率を算出するようにしてもよい。
【0066】
また、算出した脂肪含有率に応じて、CT画像における輝度値や色を変化させるようにしてもよい。例えば、肝臓を複数のブロックに分割し、各ブロックごとに脂肪含有率を算出する。そして、得られた脂肪含有率に応じて輝度や色を変化させれば、肝臓内における脂肪の分布状況を容易に把握することが出来る。
【符号の説明】
【0067】
10 測定部、12 演算制御部、16 本体、18 ガントリ、24 容器、26 アーム、30 プロセッサ、32 表示器、34 記憶装置、42 通信部、44 動作制御部、46 画像形成部、52 X線発生器、54 コリメータ、56 X線ビーム、58 有効視野、60 X線検出器、75 パラメータ算出部、73 ファントム、73A 脂肪ファントム、73B 筋肉ファントム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を収容する容器であって、脂肪ファントム及び筋肉ファントムが設けられた容器と、
前記容器に収容された前記被検体にX線を照射した際に得られる投影データに基づいて、前記被検体の断層画像を生成する測定部と、
前記容器における前記脂肪ファントムと前記筋肉ファントムの設置位置の情報に基づき前記断層画像から前記脂肪ファントムと前記筋肉ファントムに該当する部分をそれぞれ特定し、特定した各部分のCT値をそれぞれ脂肪と筋肉の基準CT値として算出する基準CT値算出部と、
前記断層画像から脂肪含有率の計算対象である対象部位のCT値を算出する対象CT値算出部と、
前記基準CT値算出部が求めた脂肪及び筋肉の基準CT値に対する、前記対象部位のCT値の相対的な大きさを、前記対象部位の脂肪含有率として算出する含有率算出部と、
を備えるX線CT装置。
【請求項2】
前記脂肪ファントム及び前記筋肉ファントムは、前記容器に設けられた蓋の容器内側に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項3】
前記脂肪ファントム及び前記筋肉ファントムは、前記容器の長手方向に垂直な面に沿って配列されており、前記測定部により生成される1枚の断層画像内に同時に収まる、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のX線CT装置。
【請求項4】
前記測定部は、前記容器の長手方向に沿った前記脂肪ファントム及び前記筋肉ファントムの存在範囲を示す位置情報を記憶しており、この位置情報に基づき、X線の照射により断層画像を生成する範囲をその存在範囲内に限定する、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−40160(P2012−40160A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183628(P2010−183628)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】