説明

ZSM−5、その製造法及びエチルベンゼンの脱アルキル化への使用

SEM/EDX又はTEM/EDX元素分析で得られた狭いスリット回線走査輪郭から測定して、各微結晶の中心よりも縁端の方が高い平均シリカ対アルミナ比(SAR)を有する新規構造のZSM−5を提供する。このようなZSM−5結晶はL−酒石酸を用いた製造法により得られる。この新規構造のZSM−5は、特にバインダーとしてシリカ、及び白金、錫、鉛、銀、銅及びニッケルから選ばれた1種以上の水素化金属と組合わせた場合、エチルベンゼンの脱アルキル化においてキシレンの損失減量を著しく低下させる。小結晶サイズのZSM−5と併用すると、別の利点が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明はZSM−5、その製造法、それを含む触媒組成物及びそのエチルベンゼンの脱アルキル化への使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
エチルベンゼンはナフサの熱分解により又は改質物中に得られる芳香族炭化水素の1つである。改質物は、直留ナフサのような沸点範囲が70〜190℃の直留炭化水素の接触転化により得られる芳香族生成物である。このような炭化水素は原油の精留又は蒸留により得られ、その組成は原油の供給源に従って変化するが、一般に芳香族含有量は少ない。改質物への転化の際、芳香族含有量はかなり増大し、また得られる炭化水素混合物は有価化学薬品の中間体供給源及びガソリンの成分として非常に望ましいものとなる。主成分は多くの場合、BTXと言われる芳香族群:ベンゼン、トルエン、及びエチルベンゼンを含むキシレン類である。これらの水素化された同族体、例えばシクロヘキサンも存在してよい。
【0003】
BTX群のうち、最も有価の成分はベンゼン及びキシレン類であり、したがってこれら2種の芳香族の割合を増大させる処理として、トルエンのベンゼンへの水素化脱アルキル化、及びトルエンのベンゼン及びキシレン類への不均化を行うことが多い。キシレン類の中ではp−キシレンが最も有用な商品であり、p−キシレンの割合を増大させるため、キシレンの異性化又はトランスアルキル化法が開発された。
ガソリン生産者が利用する別の方法はエチルベンゼンのベンゼンへの水素化脱アルキル化である。
【0004】
一般にガソリン生産者は改質物流からBTXを単離し、次いでp−キシレン成分を最大化する目的でこのBTX流にキシレンの異性化を行っている。キシレンの異性化は接触法で、この方法に使用される幾つかの触媒はキシレンの異性化能力ばかりでなく、同時にエチルベンゼン成分の脱アルキル化能力をも有している。次に、普通はベンゼン、トルエン(既にトルエン転化法を行っていない限り)、及びエチルベンゼンを含む残りの混合キシレン類を残して、p−キシレンは分離される。このBTX流は、キシレン類の収率を上げるため、これより重質の炭化水素との接触によるトランスアルキル化で転化できるし、或いはエチルベンゼンを選択的に除去するとともに、ベンゼンの収率を上げるため、キシレンを平衡濃度にしながら、脱アルキル化で転化できる。後者の方法は本発明の主題である。
【0005】
このようなBTX処理の後者の段階のエチルベンゼンの脱アルキル化では、ベンゼンへの高度の転化率を保証するばかりでなく、キシレンの損失減量を防止することも主な関心事である。キシレン類は、通常、例えばトルエンを得るため、ベンゼンとキシレンとのトランスアルキル化によるか、或いは例えばアルケン又はアルカンを生成するため、水素添加により減量する可能性がある。
【0006】
したがって、本発明の目的は、キシレンの損失減量を少なくして、エチルベンゼンをベンゼンに転化する触媒材料を提供することである。
緻密な構成をもった分子間の割合を増大させるためのBTX流の転化法としては、ゼオライトを利用する広範な提案がなされている。エチルベンゼンの脱アルキル化に使用される普通のゼオライトの一群は、MFIゼオライト、特にZSM−5である。このZSM−5ゼオライトは当該技術分野で周知であり、文献に記載されている。
ZSM−5を含む活性MFIゼオライトを得る多くの製造方法が提案されている(例えば米国特許第3,702,886号明細書参照)。
【0007】
米国特許第4,511,547号明細書は、シリカ供給源、アルミナ供給源、アルカリ供給源及び芳香環非含有有機カルボン酸、好適には炭素原子数1〜12の有機カルボン酸を含有する水性反応混合物を加熱しながら撹拌する工程を含む結晶性アルミノシリケートゼオライトの製造方法を提案している。US−A−4,511,547の実施例は酒石酸を用いて得られたXRD(X線回折)パターンからZSM−5型ゼオライトを製造している。
【0008】
酒石酸は2つのキラル中心を有し、4つの主鏡像体形態:ラセミ形、メソ形、左旋性形及び右旋性形で存在する。ラセミ形(DL−酒石酸)は、容易に得られ、またヨーロッパ、南アフリカ及び日本では工業的に製造され、一方、右旋性形(L−酒石酸)は、米国では食品及び製薬工業用FDAにより承認された商品である(Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,第4版,第13巻,1071〜1078頁参照)。DL−酒石酸及びL−酒石酸は異なる製造方法で製造される。DL形はマレイン酸の過酸化水素による接触的エポキシ化及び次いで加水分解により合成的に製造される。L形は、ワイン工業の副産物から回収及び次いで精製により工業的に製造される天然材料である。US−A−4,511,547には酒石酸の使用形態について記載がないが、実施例は日本起源の研究に由来し、ラセミ形の酒石酸が使用されたと結論するのが合理的である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の概要
エチルベンゼンの脱アルキル化において特定構造のZSM−5結晶はキシレン損失減量を著しく低下できることを見出した。このZSM−5の構造は、ゼオライトの合成の際、酒石酸の唯一のみの異性体を使用した際に得られる。このZSM−5の新構造は結晶質レベルで検出可能であり、この新構造をピンポイント的に正確に表示することにより、一層高度に機能する(perform)ZSM−5結晶の選択が可能となる特定X線スペクトルデータの新分析法をここに開発した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明はSEM/EDX又はTEM/EDX元素分析により測定して、各微結晶の中心よりも縁端の方が高い平均SARを有するZSM−5結晶を提供する。
また本発明はアルミナ供給源、シリカ供給源、アルカリ供給源及びL−酒石酸又はその水溶性塩を含む水性反応混合物からZSM−5結晶を合成する工程を含む本発明ZSM−5結晶の製造方法を提供する。
【0011】
更に本発明はZSM−5結晶に対しSEM/EDX又はTEM/EDX元素分析を行う工程、該結晶を横断する方向への(across)SARを計算する工程、及び微結晶を縁端から縁端まで横断するSARのグラフ上でU形又は皿形の狭い回線(slit line)走査プロファイルを示す結晶を選択する工程を含み、平均SARは該微結晶の中心よりも縁端の方が高いことを特徴とするエチルベンゼンの脱アルキル化に対し高い選択率を有するZSM−5結晶を選択する方法を提供する。
【0012】
更に本発明は本発明のZSM−5結晶を単独で、又は第二の異なるZSM−5と共に含む触媒組成物を提供し、また本発明はエチルベンゼン含有供給原料を水素の存在下、本発明の触媒組成物と接触させる工程を含むエチルベンゼンの脱アルキル化方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明のZSM−5結晶は、結晶の縁端から中心までSARに差のないZSM−5結晶、及びDL−酒石酸を用いて製造したZSM−5結晶に比べてキシレン損失減量は非常に低下することが見出された。キシレン損失減量の低下は、反応の選択性向上の指標となるから、ZSM−5型ゼオライト中のアルミニウムの粒子内分布と、エチルベンゼンの脱アルキル化反応におけるこのゼオライトをベースとする触媒の選択性との間には予測できない相関関係がある。
【0014】
透過型又は走査型電子鏡顕法(それぞれTEM又はSEM)と連結したエネルギー分散型X線分光法(EDX)の2次元記録から作成した元素図表から、特定元素の分布用の堅実な高解像度の一次元輪郭(profile)を生成できることを見出した。このデータをスペクトルイメージモードで集めた。換言すれば、このデータはデータ立方体(cube)からなり、図表中の各画素点は、これと関連した充分なEDXスペクトルを有する。
【0015】
輪郭を描く際の横方向解像度が50nmの範囲に保持される“狭いスリット”を発生させる新しい方法を開発した。必要ならばこの解像度は僅かに改良できる。例えば固体粒子を横断するこのような高解像度分布の輪郭は、或る方向、例えば粒子の縁端から中心への方向に対し成分の元素量の表示に使用できる。そうすると、この元素情報(得られた輪郭を含む)は、同様な方法で例えば化学物質の特性決定に多く使用される元素又は成分の比率を計算できる。
【0016】
ゼオライトの特性決定において、シリカ対アルミナ比(SiO/Al、ここでは“SAR”)は重要なパラメーターである。このパラメーターは結晶性アルミノシリケートゼオライト骨格中のアルミナの存在と関連する酸部位の密度に反比例する。SEM/EDX又はTEM/EDXの高解像度顕微鏡写真では、得られる高データ−密度により、ゼオライト微結晶の更に詳細な分析が可能である。これは、平均の化学組成が得られるばかりでなく、特定部分の化学組成も〜50nmの横方向解像度で極めて詳細に得られると言うべきである。
【0017】
従来、SARは結晶性アルミノシリケートゼオライト材料についてバルク(bulk)元素分析により測定されている。本発明では前述のように、結晶性レベルのSARは、透過型電子鏡顕法(TEM)又は走査型電子鏡顕法(SEM)と連結したエネルギー分散型X線分光法(EDX)から作成した元素図表を利用して測定される。EDX、TEM及びSEMは文献記載の技術で、第9章,Scanning Electron Microscopy and X−ray Microanalysis,Plenum Press,1992,及びSurface Characterization;A User’s Sourcebook,D.Brune等編,Wiley−VCH Verlag GmbH,1997年11月,ISBN 3−527−28843−0,特に109〜288頁参照。
【0018】
研究サンプルの化学組成は走査型又は透過型電子鏡顕法で測定されることが多い。この測定はSEMからの主要電子(primary electrons)とサンプル自体中の電子との非弾性的衝突の結果として生成するX線を検出して行われる。各元素は特有のエネルギーを有するX線を生成する。サンプルから放出されたX線のエネルギーを測定すれば、サンプル中に存在する元素を測定することが可能である。
【0019】
電子と固体間の強力な相互作用は、前記主要電子の初期エネルギーに従って、あり得る最小横方向解像度が約1〜5μであることを意味する。定性検査と同様に、検出されたX線の数を比較すれば、その結果を定量することが可能である。この定量には、元素についてのイオン化断面及びX線のエネルギー依存吸収の差に関する多数の訂正を必要とする。ここでは訂正法の詳細は考慮しないが、一般にこの分析法の精度は、原子番号が10を超えるサンプルでは10%以上良い。原子番号が10未満の元素の場合、精度は著しく悪くなる可能性がある。
【0020】
化学情報はビームの固定により、或いはビームを走査しながら測定できる。固定モードでは良好な信号対雑音比を有するスペクトルを与えると共に、正確な定量に使用できる数百秒間数えることが可能である。走査モードでは、データは一層定性的であるが、サンプル中の各種元素の空間分布の図を蓄積することが可能である。このような走査は、通常、X線図表と言われる。
X線図表についての論評は、Microscopy and Microanalysis (2006),12;2−25,Cambridge University Pressに見られる。
【0021】
SEM/EDX又はTEM/EDXの高解像度顕微鏡写真では、得られる高データ密度により更に情報処理することが可能である。個々のゼオライト微結晶を“覗き見(look inside)”し、また粒子内又は微結晶自体内の化学組成の変化についての局所的情報を得ることが可能である。
大量のデータ処理に利用される標準の統計的方法に次いで、本来のX線図表の横方向解像力を失うことなく、平均化する新しい方法を提案する。
【0022】
SEM/EDX(又はTEM/EDX)図表は次のようにして得られる。サンプルの好適な領域を小倍率で選ぶ。この好適な領域には若干の微結晶がサンプルの残部から束縛されずに立っている。自立構造の微結晶をランダムに選ぶ。次に微結晶が顕微鏡のファインダーの75%以上を占めるように倍率を拡大する。これは撮った1画像当たりこの元素分析で集めることができる情報を“最大にする”と共に、ゼオライト結晶を横断する分析点の数を増やすために行われる。
【0023】
次いで、結晶の最も長い縁端がファインダー(又は撮る予定の写真)の長い方の縁端と平行になるように、ゼオライト微結晶を整列させる。ZSM−5微結晶は、長い(棺形状が多い)形態を有する傾向があるので、可視領域の75%以上を占めるように倍率を拡大しようとしながらも微結晶の一部は画像から離れることが多い。これは殆どの場合、ゼオライト結晶の一部は最終画像から離れるようにする必要があると言うべきであるが、微結晶の一端が計器のファインダーで未だ見えることが重要である。整列及び倍率拡大を正確に行えば、この方法では最長軸沿いの2つの側及び微結晶の一端の両方とも、最終の元素図表で見られる写真が得られる。
【0024】
充分高い解像度のEDX格子を画像(通常、器具で書き取った)上に置き、EDX元素図表が得られる。このEDX元素図表は、各位置又は点にこの点での各元素の量を付与する−空間(spacial)組成図表。このEDX元素図表から、各点でのSAR値を計算し、SAR図表が得られる。得られた元素及び計算したSAR図表の両方をX線図表、又は数値的性質を反映する下での分析(図表作成)毋材(matrix)と言う。
【0025】
“狭いスリット”回線走査輪郭(プロフィル)は、得られたX線SAR図表作成データから計算される。図表の向きは同一なので、ゼオライト結晶が図表を超えて広がる場合、図表の“ベース”は、全ての写真の同一縁端である。更に、測定領域と平行して微結晶を整列させるには特別の注意を払うので、ゼオライト結晶の向きも得られた分析毋材と平行である。再整列した図表作成毋材(必要に応じて時計回り又は反時計回りに回転させて得られる)は、ベースとは離れ、チップとも離れた結晶軸の中央を目的とする選択された範囲の列に亘り、各欄で平均化する。約30列を選択し、各横方向の点(欄)で平均化する。
【0026】
結晶がいずれの側とも触れていない複数のX線図表はそれぞれ別に取扱う。この場合、結晶の中央部分を選択し、約30の線も平均化する。
【0027】
結晶を一方の側から他方の側まで横断させながら、“縦の(vertical)”平均値を得ると、この平均値は微結晶の狭いスリットの概観を提供する。平均値は微結晶を横断する横方向解像度を解決(compromise)しないが、隣接する図表点を有する(with)局所的なあり得る不完全さをなお平均化する。平均化は構造類似性(例えば類似のSAR)が予測される方向に起こり、組成物中に変化が要求される方向には起こらないものと記憶しておくことは重要である。したがって、得られた輪郭は、縁端から中心までのアルミニウム及びシリコン分布の構造変化に一層敏感であるが、長軸と平行する微結晶の形状の不完全さには余り敏感ではない。
【0028】
これら回線走査の非常に高度の解像度を実現しなければならない。結晶の単位格子サイズ(cell size)は、例えば押出物分析で得られる普通の回線走査解像度を遥かに超える1〜5μmの範囲の、個々の微結晶規模で優れた解像度を与える〜50nmである。データは種々の理由により、まずグループ化するので、これは、図表の本来の解像度ではないと記憶しておかなければならない。主な理由は、グループ化すると、X線図表における信号対雑音比が増大し、ほんの少量(器具の検出限界に近い)しか存在しない元素を極めて良好に検出できるからである。
【0029】
得られた回線走査輪郭は、2次多項式を、輪郭の縁端での2つの最大値間の範囲で得られる実験データに合わせれば比較できる。多項式y=a+ax+aの勾配は、y’=2ax+aとして慣習に従って誘導により決定される。この傾斜はx=0で求められるので、y’=aである。aは負の値を持つ傾向があるので、図3に −y’= −aで示す。
【0030】
この値は、例えばSEM/EDX又はTEM/EDXで研究したゼオライトから作った触媒で測定した各種性能パラメーターと相関できる。
本発明では、前述のようなSEM/EDX又はTEM/EDX元素分析で得られる狭いスリット回線走査輪郭から求めた各微結晶の中心よりも縁端の方が高い局部平均SARを有するZSM−5結晶が得られる。最も好適には各微結晶の縁端での平均SAR対該微結晶中心での平均SARの比は1.15以上、好ましくは1.25以上である。この比は最も好適には3以下、好ましくは2以下である。
【0031】
微結晶中心での平均SARは、狭いスリット回線走査輪郭の3つの中央SAR値の平均、即ち、中央値と該中央値の各側の値との平均である。各微結晶縁端での平均SARは、狭いスリット回線走査輪郭の各末端での最も外側の3点でのSARの平均を計算し、次いで、得られた2つの値の平均を計算して得られる。
【0032】
データを2次多項式に変換する場合、2つの縁端SAR最大値間のSAR値に合わせた勾配は、−y’で表して、最も好適には2以上、好ましくは3以上である。この勾配は、最も好適には6以下、好ましくは4以下である。
【0033】
本発明の有利なZSM−5結晶の製造法は、シリカ、アルミナ、アルカリ、及び必要ならばZSM−5を製造するように適応させた酒石酸を用いたUS−A−4,511,547(その内容はここに援用する)の方法による。この適応は当業者の普通の知識及び熟練の範囲内である。US−A−4,511,547に記載されるように、反応混合物は好適な撹拌により結晶化中、均質な状態に保持することが望ましい。
【0034】
本発明の製造法ではL−酒石酸又はその水溶性塩が使用される。このL−異性体は右旋性形で、使用される命名慣習に応じて(2R,3R)−(+)−酒石酸、又は(2R,3R)−2,3−ジヒドロキシブタンジオン酸、又は(R−R,R)−酒石酸と種々命名されている。
【0035】
本発明のZSM−5結晶を得る際の重要な要素は結晶化の時間及び温度である。結晶化の時間は好ましくは36時間以下、更に好ましくは5〜30時間、更に好ましくは12〜30時間、特に15〜24時間の範囲である。結晶化温度は好適には150〜200℃、好ましくは170〜200℃、更に好ましくは175〜200℃、特に180〜200℃の範囲である。条件の極めて有用な組合わせは、5〜36時間の範囲の結晶化時間及び170〜200℃の範囲の結晶化温度である。結晶化時間は長過ぎてはならない。即ち、特に180℃以下の結晶化温度で、結晶化時間は48時間以上のオーダーであってはならず、好ましくは36時間を超えず、さもなければ特に純粋なL−酒石酸、例えば実験室グレードの材料を使用しない限り本発明の有益なZSM−5結晶構造は得られない。実験室グレード(“プラム(purum)”又は“プリス(puriss)”)の材料は、100%近い純度、即ち、98%純度〜数ppmの不純物しか存在しない純度であるのに対し、商用又は“工業用”グレードのL−酒石酸は、90〜100%のオーダーの純度、例えば94〜98%の範囲の純度である。酒石酸の純度がZSM−5の構造に影響する理由については、充分に理解されていない。
【0036】
微結晶ZSM−5ゼオライト(MFI)構造におけるシリカ対アルミナ比の前述のような勾配と、特にシリカ結合触媒組成物に導入した場合のエチルベンゼン(EB)の脱アルキル化法におけるキシレンの損失減量との間に予測し得ない相関関係があることを見出した。
【0037】
本発明の触媒組成物においてシリカは好ましくはバインダーとして使用され、天然産のシリカであっても或いはゼラチン様の沈殿、ゾル又はゲルであってもよい。シリカの形態は限定されず、シリカは各種形態:結晶質シリカ、ガラス質シリカ又は非晶質(amorphous)シリカのいずれであってもよい。非晶質シリカという用語は、沈降シリカ及びシリカゲルを含む湿式法型、又は熱分解法又はヒュームドシリカを包含する。シリカゾル又はコロイド状シリカは、非晶質シリカを液体、通常、水に分散し、一般にアニオン、カチオン又は非イオン性材料で安定化した非沈降性分散液である。
【0038】
このシリカバインダーは、好ましくは2種のシリカの混合物、最も好ましくは粉末形シリカとシリカゾルとの混合物である。粉末形シリカは、表面積が50〜1000m/gの範囲で、平均粒度がASTM C690−1992又はISO 8130−1で測定して2nm〜200μm、好ましくは2〜100μm、更に好ましくは2〜60μm、特に2〜10μmの範囲が便利である。極めて好適な粉末形シリカは、デグサ(Degussa)から得られるSipernat(商品名)50で、殆ど球状粒子の白色シリカ粉末からなる。極めて好適なシリカゾルは、Eka Chemicalsから商品名Bindzilで販売されているものである。混合物が粉末形シリカとシリカゾルとを含有する場合、これら2種の成分は、粉末形対ゾルの重量比で1:1〜10:1、好ましくは2:1〜5:1、更に好ましくは2:1〜3:1の範囲、存在してよい。バインダーは粉末形シリカだけを必須成分として構成してもよい。
【0039】
本発明の触媒組成物に粉末形のシリカを使用する場合、平均粒度がASTM C690−1992で測定して2〜10μmの小粒状形態を使用することが好ましい。このような材料により担体の強度が更に向上することを見出すことができる。非常に好適な小粒状形態は、デグサから商品名Sipernat 500LSで得られるものである。
【0040】
使用されるシリカ成分は純シリカであってよく、他の無機酸化物中の成分でなくてもよい。特定の実施態様ではシリカ、実際には担体は他のいかなる無機酸化物バインダー材料も本質的に含まず、特にアルミナを含まない。アルミナは、担体全体に対し最大2重量%以下、存在するにすぎない。
特定の実施態様では表面改質処理を行ってよい。このような実施態様では、バインダーとしてアルミナが存在すると、担体の物理的結合性(integrity)に悪影響を与えるので、少ないことが好ましい。
【0041】
ZSM−5ゼオライトは、ゼオライト構造のカチオン部位に存在するイオンに従って各種形態で存在し得る。一般に得られる形態は、カチオン部位にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、或いは水素又は水素前駆体イオンを含有する。本発明の触媒組成物ではゼオライトは、水素又は水素前駆体を含有する形態で存在する。この形態は、普通、H形として知られている。ゼオライトは原型(template)を含有しない形態でも或いは含有する形態のいずれでも使用できる。
ZSM−5について(結晶質レベルよりもむしろ)嵩元素分析で測定した嵩全体SARは、好ましくは25以上、最も好ましくは30以上、好ましくは100以下、最も好ましくは90以下、特に50以下である。
【0042】
ZSM−5ゼオライトは、多数の粒度範囲で存在し得る。好適にはこのゼオライトは、主粒径が20nm〜10μmの範囲である。有用な触媒は、平均微結晶サイズが1〜10μmの大結晶サイズZSM−5ゼオライトを用い、また主粒径が200nm未満の小結晶サイズZSM−5も用いて作られた。大結晶サイズZSM−5が好ましい。粒度分布については、一般にZSM−5は、粒子の50%の直径、D(V、0.5)が2μmを超え、粒子の90%の直径、D(V、0.9)が30μm未満である粒度分布を有してよい。
【0043】
ゼオライトは本発明触媒組成物により示される活性及び選択性における重要なファクターである。使用されるゼオライトのSARに従って、担体中に異なる最適ゼオライト含有量となり得る、所望の活性と選択性との間にはバランスがある。一般にゼオライト含有量が多いと、幾つかの場合は触媒組成物から高い活性が得られるのに対し、ゼオライト含有量が少ないと、高い選択性が得られる。
【0044】
このバランスは、エチルベンゼンの脱アルキル化法で使用される条件に従って異なる最適度を生じる可能性があるが、ゼオライトを多量に使用すると、強度低下のような触媒担体の物性に悪影響を与えることから、一般に触媒担体に使用されるゼオライト量は最小にすることが好ましい。一般に担体は、30〜80重量%、最も好ましくは50〜70重量%の範囲のシリカ、及び20〜70重量%、最も好ましくは30〜50重量%の範囲のゼオライトで構成される。
本発明で極めて好適な触媒担体は、本発明のZSM−5結晶を20〜50重量%、特に30〜45重量%含有する。
【0045】
担体中に第二の異なる小微結晶サイズのZSM−5成分を導入すると、特に大結晶サイズ、即ち、平均微結晶サイズが1〜10μの範囲の本発明のZSM−5結晶と共同で使用すると、エチルベンゼンの転化における本発明ZSM−5の有利な特性は更に強化できることが見出された。小微結晶サイズのZSM−5は、直径1μ未満の結晶又は粒子を有するZSM−5である。更に好ましくはこの第二のZSM−5成分は、主粒度が500nm未満、最も好ましくは200nm未満である。好適には最小の主粒度は20nmである。
【0046】
このような第二ZSM−5ゼオライトの導入効果は、工業的に望ましいp−キシレンを高収率で製造することであり、エチルベンゼンの転化反応においてp−キシレン平衡の到達点は一層早い点に促進される。
第二ZSM−5成分は、嵩全体(bulk overall)SAR、即ち、(結晶質レベルよりもむしろ)嵩元素分析で測定した嵩全体SARが、好ましくは20以上、最も好ましくは25以上、好ましくは100以下、最も好ましくは90以下、特に50以下である。第二ZSM−5の嵩全体SARが30で、有利な結果を与えることが見出された。
【0047】
第二ZSM−5は原型含有形態でも或いは原型非含有形態でも使用できる。
ZSM−5材料は、文献、例えば米国特許第3,702,886号;ゼオライト構造の図表又はデータベースで供給された参考文献、その他、Yu等、Microporous and Mesoporous Materials 95(2006)234〜240及びIwayama等、US−A−4,511,547のような参考文献に記載の方法により製造できる。
ZSM−5ゼオライトの好適なグレードとしては、Zeolyst Internationalから市販されているCBV 3014E、CBV 8014及びCBV 3020Eが挙げられる。
【0048】
第二ZSM−5成分を担体に導入する際、担体の合計ゼオライト含有量は、なお最も好適には20〜50重量%、特に30〜45重量%の範囲である。第二ZSM−5対本発明のZSM−5(ここでは“第一ZSM−5”)の最大割合は重量基準で50:50である。第一ZSM−5は担体中に好ましくは25〜35重量%、更に好ましくは30〜35重量%の範囲存在し、第二ゼオライトは好ましくは5〜25重量%、最も好ましくは5〜10重量%の範囲で存在する。
【0049】
担体中にはバインダー、好ましくはシリカ、及びZSM−5ゼオライト以外の他の成分はないことが好ましい。しかし、本発明の利点を得ながら、他の成分を10重量%まで含有することは可能である。このような他の成分は、他の耐火性無機酸化物バインダー材料及び他のゼオライトから選択してよい。他のバインダー材料は、アルミナ及びマグネシアであってよい。他のゼオライトの例は、8、10又は12員環ゼオライト、例えばモルデナイト及びゼオライトβ、並びにMCMシリーズのゼオライト、例えばMCM−22及びMCM−41のような酸性中間細孔材料である。
【0050】
担体は造形担体が便利で、ゼオライト成分の活性を増進させるために処理できる。US−B2−6,949,181に記載されるように、担体に対し表面改質を行うのが有利である。
モレキュラシーブの改質によりアルミナのモル%が減少するが、これは基本的には酸部位の数を減らすことを意味する。これは種々の方法で達成できる。第一の方法は、モレキュラシーブの微結晶表面に酸性無機耐火性酸化物のコーティングを塗布することである。
【0051】
モレキュラシーブを改質する他の極めて有用な方法は、脱アルミ化処理による方法である。一般にモレキュラシーブ微結晶の脱アルミ化とは、モレキュラシーブ骨格からアルミニウム原子を引抜いて欠陥を生じるか、或いはアルミニウム原子をシリコン、チタン、ホウ素、ゲルマニウム又はジルコニウムのような他の原子により引抜いて、置換する処理を言う。
米国特許第5,242,676号には、ゼオライト微結晶表面の脱アルミ化に非常に好適な方法が開示されている。脱アルミ化外表面を有するゼオライトを得る他の方法は米国特許第4,088,605号に開示されている。
【0052】
前述の(表面)脱アルミ化法のうち、ヘキサフルオロシリケート、最も好適にはUS−B2−6,949,181に記載されるようなアンモニウムヘキサフルオロシリケート(AHS)による処理を含む方法が最も好ましい。活性成分(AHS)の濃度は、好ましくは0.005〜0.5Mの範囲である。この濃度は、好ましくは0.01〜0.2M、更に好ましくは0.01〜0.05M、特に0.01〜0.03Mの範囲で、有利な触媒組成物が得られることが見出された。
本発明の触媒組成物は最も好適には白金、錫、鉛、銀、銅及びニッケルから選ばれた水素化金属も含有する。この金属成分は好ましくは白金である。更に好ましくは、錫、鉛、銅、ニッケル及び銀から選ばれた追加の金属成分が存在する。
【0053】
白金成分は、触媒全体に対し好ましくは0.001〜0.1重量%の範囲の量で存在する。追加の金属成分は、好ましくは1重量%未満である。最も好適には白金成分は0.01〜0.1重量%、好ましくは0.01〜0.05重量%の範囲の量で存在する。追加の金属成分は、最も好適には0.001〜0.5重量%の範囲の量で存在する。
【0054】
銅、ニッケル又は銀の追加金属成分は、触媒全体に対し好ましくは0.0001〜0.1重量%の範囲で存在する。錫又は鉛が追加の金属成分である場合、触媒全体に対し0.01〜0.5重量%、最も好適には0.1〜0.5重量%、好ましくは0.2〜0.5重量%の範囲の量で存在する。
【0055】
本発明の触媒組成物は、ゼオライト、シリカのようなバインダー、及び任意に他の担体成分を配合し、造形し、金属成分と混合し、次に乾燥、焼成及び還元のような有用な工程を行う標準的な方法を用いて製造できる。
【0056】
造形は、粉末、押出物、錠剤及び粒状のようないかなる便利な形態にしてもよい。押出による造形が好ましい。押出物を作るには、普通、ZSM−5ゼオライトはバインダー、好ましくはシリカ、及び必要ならば解膠剤と配合し、混合してドウ又は厚手のペーストを形成する。解膠剤は固体粒子の解凝固を誘起するのに充分、混合物のpHを変化させるいかなる材料であってもよい。解膠剤は周知で、有機酸又は無機酸、例えば硝酸、アンモニア、水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物のようなアルカリ性材料、好ましくは水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム、アルカリ土類水酸化物及び有機アミン、例えばメチルアミン及びエチルアミンが挙げられる。アンモニアは好ましい解膠剤で、いかなる好適な形態、例えばアンモニア前駆体経由で供給してもよい。アンモニア前駆体の例は水酸化アンモニウム及び尿素である。アンモニアについては、適切なpH変化を行うのになお追加のアンモニアを必要とするかも知れないが、特にシリカゾルを用いた場合、シリカ成分の一部として存在し得る。
【0057】
押出中に存在するアンモニアの量は、有利な特性を付与できる押出物の細孔構造に影響を与える可能性がある。押出中に存在するアンモニアの量は、乾燥混合物全体に対し、乾燥基準で好適には0〜5重量%、更に好ましくは0〜3重量%、好ましくは0〜1.9重量%の範囲であってよい。焼成工程は金属成分の着床前に得られた押出物に対し行うことが好ましい。焼成工程は好ましくは500℃より高温、通常600℃より高温で行うことが好ましい。
形成された担体への金属の着床は、当該技術分野で通常の方法で行ってよい。金属は造形前に担体材料に沈着できるが、造形した担体に沈着させることが好ましい。
【0058】
金属塩溶液からの金属の細孔容積含浸は、造形担体に金属を布設するのに非常に好適な方法である。金属塩溶液のpHは1〜12の範囲であってよい。便利に使用できる白金塩は、塩化白金酸及びアンモニウム安定化白金塩である。追加の銀、ニッケル又は銅金属塩は、通常、水溶性有機又は無機塩の水溶液の形態で添加される。好適な塩の例は硝酸塩、硫酸塩、水酸化物及びアンモニウム(アミン)錯体である。使用可能な好適な錫塩は塩化第一錫(II)、塩化第二錫(IV)、硫酸第一錫及び酢酸第一錫である。好適な鉛塩の例は酢酸鉛、硝酸鉛及び硫酸鉛である。
【0059】
2種以上の金属成分がある場合、これら金属は連続的に又は同時に含浸してよい。これら金属は同時に添加することが好ましい。同時含浸を用いた場合、使用する金属塩は相溶性でなければならず、また金属の沈着を妨害してはならない。不要の金属沈殿を防止するため、バイメタル塩組合わせ溶液に錯化剤又はキレート化剤を利用するのが有用かも知れない。好適な錯化剤の例はEDTA(エチレンジアミン四酢酸)及びその誘導体;HEDTA(N−(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン−N,N’,N’−トリ酢酸)、EGTA(エチレングリコール−ビス(2-アミノエチルエーテル−N,N,N’,N’−テトラ酢酸)、DTPA(ジエチレントリジアミンペンタ酢酸)、及びNTA(ニトリロトリ酢酸)である。EDTAを使用する場合、追加の金属に対するモル比で0.1〜3、特に1〜2の範囲で使用するのが都合よい。
【0060】
触媒の造形後、また金属の含浸後、担体/触媒組成物は、好適には乾燥し、焼成する。乾燥温度は好適には50〜200℃、乾燥時間は好適には0.5〜5時間である。焼成温度は極めて好適には200〜800℃、好ましくは300〜600℃の範囲である。担体の焼成には比較的短時間、例えば0.5〜3時間必要である。触媒組成物の焼成には、金属の最適分散を確保するため、低加熱速度で制御された温度傾斜を使用する必要があるかもしれない。このような焼成は5〜20時間必要としてよい。
【0061】
使用前に触媒組成物の金属は金属の形態(また酸化物の形態ではない)を確保する必要がある。したがって、組成物に対し還元条件を施すのが有利である。このような還元条件は例えば任意に不活性ガス又は不活性ガス混合物、例えば窒素及び二酸化炭素で希釈した水素のような還元雰囲気中、150〜600℃の範囲の温度で0.5〜5時間加熱する。
本発明の触媒組成物は、特にエチルベンゼンの選択的脱アルキル化用であることが判る。
【0062】
エチルベンゼン供給原料は、最も好適には改質ユニット又はナフサ熱分解ユニットに直接由来するか、或いはキシレン異性化ユニットの流出流である。このような供給原料は、通常、C〜C炭化水素、特にエチルベンゼンの他、キシレン、m-キシレン、p-キシレン、トルエン、及びベンゼンを含有する。一般に供給原料中のエチルベンゼンの量は、0.1〜50重量%の範囲であり、合計キシレン含有量は通常、20重量%以上である。通常、キシレンは熱力学的平衡状態ではなく、したがってp-キシレンの含有量は、他の異性体よりも少ない。
【0063】
供給原料は水素の存在下で触媒組成物と接触する。この接触は固定床システム、移動床システム、又は流動床システムで行ってよい。このようなシステムは、連続又はバッチ方式で操作してよい。好ましくは固定床システムでの連続操作である。触媒は、1つの反応器又は直列の幾つかの別の反応器でもよいし、或いは触媒の取替え(change out)中、連続操作を確保するため、スイング(予備接触反応)システムを使用してよい。
【0064】
本方法は好適には300〜500℃の範囲の温度、0.1〜50バール(10〜5,000kPa)の範囲の圧力、液体の時間当たり空間速度0.5〜20h−1を用いて行われる。水素の分圧は一般に0.05〜30バール(5〜3,000kPa)の範囲で使用される。原料対水素のモル比は、0.5〜100、一般には1〜10モル/モルの範囲である。
本発明を以下の実施例により説明する。
【実施例】
【0065】
例1
Iwayama等のUS−A−4,511,547の方法に従って合成したZSM−5サンプル(サンプルA)について下記方法によるSEM/EDXで行った元素分析から下記シリカ対アルミナ比の毋材を得た。結晶化温度、時間等の合成の詳細を、製造したサンプルの物性データと共に下記表に示す。ZSM−5ゼオライトの全体嵩(overall bulk)シリカ対アルミナ比は43であった。
【0066】

【0067】
狭いスリット回線走査輪郭の生成に上記表(SAR図表(map))の灰色陰領域を使用した(数値を縦方向に平均化することによる)。得られた輪郭を図1に図形で示す。
シリカ対アルミナ比が微結晶の中心よりも縁端の方が高いサンプルは、U字状輪郭を示す。
【0068】
例2
例1と類似するが、他の合成法に従って新しいバッチのZSM−5ゼオライト(サンプルG)を製造した。合成及び分析の詳細を下記表に示す。このゼオライトの全体嵩シリカ対アルミナ比は46であった。
得られたSAR図表を下記に示す。
【0069】



【0070】
上記図表の灰色領域から得られた狭いスリット回線走査輪郭を図2に示す。
このサンプルは、シリカ対アルミナ比が微結晶の縁端から中心まで殆ど変化しない輪郭を示す。
【0071】
例3
結晶化温度及び撹拌速度を変化させた他は、前記Iwayamaの方法に従って例1と同様にして別のZSM−5ゼオライトの合成を行った。下記表1に合成条件、嵩分析結果をまとめ、更に別の情報を提供する。表面積はB.E.T.法により測定した。
【0072】
【表1】

【0073】
例4
例1、例2及び例3で製造したゼオライトサンプルから、ZSM−5ゼオライトと、バインダーとしてシリカとを混合し、押出により造形担体を形成し、次いで細孔容積含浸により水素化金属を含浸することにより、複数の触媒を製造した。各担体はシリカと結合したゼオライト(デグサのSipernat 50と、EKA ChemicalsのBindzilシリカゾルとの重量比2:1の混合物)を40重量%含有する。各担体を、最終触媒の組成がPt 0.02重量%及びSn 0.4重量%となるように、Pt/Sn溶液に含浸した。
【0074】
これらの触媒について、エチルベンゼンの脱アルキル化に適用される通常の工業的適用条件を模倣する触媒試験を行った。この活性試験はヨーロッパ起源の工業用原料を使用する。原料の組成を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
活性試験は触媒を還元した状態で測定した。還元は乾燥焼成した触媒を450℃で1時間水素雰囲気(純度>99%)に曝して行った。
還元後、反応器を冷却工程なしで加圧し、原料を導入する。この工程は、触媒寿命の増進に寄与し、したがって、安定な操作で触媒の性能を比較できる。
【0077】
潜在的な負の操作効果を誇張する条件で接触データポイントを集める。したがって、性能は理想的な工業的操作条件ではなく、本発明で触媒を評価するために使用する種々の性能パラメーターを一層良好に区別する条件で測定される。
この場合、条件は原料重量の時間当たり空間速度=4.6h−1、水素対原料比=2.5モル.モル−1、システム全体の圧力=1.3MPaを用いた。温度は、所要転化率に達するのを容易に比較できるように、360〜410℃に変化させた。
【0078】
この試験で評価した性能特性は次のとおりである。
【化1】


式中、EBはエチルベンゼン、Xylは一般のキシレン(全ての異性体)、fは原料、及びprは生成物を表す。
【0079】
例5
例1、例2及び例3で製造したサンプルA、B、D、E、F、G、Hを例2及び例3で説明したように分析した。3つの微結晶しか測定しなかったサンプルBを除き、電子顕微鏡でランダムに一般の5つの微結晶を選択した。これらの選択された微結晶について前述のX線図表の作成を行った。
【0080】
これらのX線図表から狭いスリット回線走査輪郭を生成させ、該輪郭の傾斜を測定した。これらの傾斜は合成バッチ1回当たりに平均化し、触媒中の同じゼオライトを用いて例4の試験で得られたキシレンの損失減量に対しプロットした。
各サンプルについて微結晶の平均SAR(縁端対中心)の比率を下記表3に示し、またキシレンの損失減量に対し輪郭の傾斜をプロットしたグラフを図3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
最も好ましい材料はキシレンの損失減量が最低である点からみてサンプルA及びサンプルHである。
シリカ対アルミナ分布の傾斜と、エチルベンゼン転化率65重量%でのキシレンの損失減量との間に予測し得ない良好な相関関係があることを発見できた。これは輪郭が険しいほど、即ち、ゼオライト微結晶の中心と縁端間のアルミニウム濃度に差が大きいほど、エチルベンゼンの脱アルキル化法においてキシレンの損失減量が少ないと言うべきである。
【0083】
例6〜9
例4の方法に従って、例3のサンプルHを、唯一のゼオライト成分として用いるか、或いは全担体組成物中に5、7又は10重量%の量の小微結晶サイズZSM−5材料と組合わせて、シリカ結合触媒(即ち、例4と同様、Sipernat 50とBindzilとの2:1混合物をシリカで100重量%にバランスさせたもの)を製造した。使用した追加のZSM−5材料は主粒径が200nm未満で、シリカ対アルミナ嵩比が30のもの(Zeolyst Internationalから得られる)で、原型含有形態で使用した。
各担体のゼオライト含有量は次のとおりである。
例6:サンプルH 40重量%
例7:サンプルH 35重量%及び小結晶ZSM−5 5重量%
例8:サンプルH 33重量%及び小結晶ZSM−5 7重量%
例9:サンプルH 30重量%及び小結晶ZSM−5 10重量%
【0084】
各担体に対しUS 6,949,181 B2の実施例1に記載の改質法を行った。アンモニウムヘキサフルオロシリケートの濃度は0.02Mにセットした。次いで担体を洗浄し、500℃で乾燥した。次に各担体に例4と同様、白金0.02重量%及び錫0.4重量%(最終触媒基準で)を含浸した。
【0085】
これら4種の触媒について例4と同じ触媒試験を行い、更にキシレン異性体(p−キシレン、m−キシレン及びo−キシレン)が平衡に達した時点(point)をモニターした。これを
【化2】


として定義したpX ate値(p−キシレンの平衡への接近)を用いて評価した。式中、Xylは全キシレン(3種の全ての異性体)を表し、pXはp−キシレン、prは生成物、fは原料、及びeq.は熱力学的平衡値を表す。
【0086】
この定義によりpX ate値は100%であり得る。pX ate値が100%に近いほど、製造される所望のp−キシレンの量が多くなる。
平衡までの距離を考慮すると、例6の触媒の性能は100%とみなされる。この値に比べて平衡までの距離が短縮されることは、平衡が一層早い時点で達し、大量のp−キシレンが製造されたことを示す。このような大量のp−キシレンの製造も有利である。
【0087】
触媒試験の結果を表4に示す。この結果から明らかなように、小微結晶ZSM−5を少量添加すると、一般的なキシレンの損失減量又は反応の活性(所要温度により測定される)に対し悪影響を与えることなく、キシレンの異性化反応において平衡への接近が増進され、多量のp−キシレンが製造された。例えば例9で示す改良の程度は、1年に亘る商用規模のプラントでは、100万ドル以下、更には恐らくこの金額を超える利益の増加をもたらす。
【0088】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】例1においてシリカ対アルミナ比図表の灰色陰領域から得られた狭いスリット回線走査輪郭を示す。
【図2】例2においてシリカ対アルミナ比図表の灰色領域から得られた狭いスリット回線走査輪郭を示す。
【図3】例4におけるキシレンの損失減量に対し輪郭の傾斜をプロットしたグラフを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0090】
【特許文献1】米国特許第4,511,547号又はUS−A−4,511,547
【特許文献2】米国特許第3,702,886号
【特許文献3】US−B2−6,949,181又はUS−B2−6,949,181
【特許文献4】米国特許第5,242,676号
【特許文献5】米国特許第4,088,605号
【非特許文献】
【0091】
【非特許文献1】Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technologie,第4版,第13巻,1071〜1078頁
【非特許文献2】第9章,Scanning Electron Microscopy and X−ray Microanalysis,Plenum Press,1992,及びSurface Characterization;A User’s Sourcebook,D.Brune等編,Wiley−VCH Verlag GmbH,1997年11月,ISBN 3−527−28843−0,特に109〜288頁
【非特許文献3】Microscopy and Microanalysis (2006),12;2−25,Cambridge University Press
【非特許文献4】Yu等,Microporous and Mesoporous Materials 95(2006)234〜240

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SEM/EDX又はTEM/EDX元素分析により測定して、各微結晶の中心よりも縁端の方が高い平均SARを有するZSM−5結晶。
【請求項2】
各微結晶の縁端の平均SAR対該微結晶の中心の平均SARの比が1.15以上、好ましくは1.25以上である請求項1に記載のZSM−5結晶。
【請求項3】
各微結晶の縁端の平均SAR対該微結晶の中心の平均SARの比が3以下、好ましくは2以下である請求項1に記載のZSM−5結晶。
【請求項4】
前記2つの縁端SAR最大値間のSAR値に合わせた2次多項式の勾配が、−y’で表して2以上、好ましくは3以上である請求項1に記載のZSM−5結晶。
【請求項5】
前記2つの縁端SAR最大値間のSAR値に合わせた2次多項式の勾配が、−y’で表して6以下、好ましくは4以下である請求項1に記載のZSM−5結晶。
【請求項6】
アルミナ供給源、シリカ供給源、アルカリ供給源及びL−酒石酸又はその水溶性塩を含む水性反応混合物からZSM−5結晶を合成する工程を含む請求項1に記載のZSM−5結晶の製造方法。
【請求項7】
ZSM−5結晶に対しSEM/EDX又はTEM/EDX元素分析を行う工程、該結晶を横断するSARを計算する工程、及び微結晶を縁端から縁端まで横断するSARのグラフ上でU形又は皿形の狭い回線走査プロファイルを示す結晶を選択する工程を含み、平均SARは該微結晶の中心よりも縁端の方が高いことを特徴とするエチルベンゼンの脱アルキル化に対し高い選択率を有するZSM−5結晶を選択する方法。
【請求項8】
各微結晶の縁端の平均SAR対該微結晶の中心の平均SARの比が1.15を超える請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記比が3以下である請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記2つの縁端SAR最大値間のSAR値に合わせた2次多項式の勾配が、−y’で表して2以上、好ましくは3以上である請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記2つの縁端SAR最大値間のSAR値に合わせた2次多項式の勾配が、−y’で表して6以下、好ましくは4以下である請求項7に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載のZSM−5を含むか、請求項6に記載の方法で製造したZSM−5を含むか、或いは請求項7に記載の方法で選択したZSM−5を含む触媒組成物。
【請求項13】
更にシリカバインダーを、ZSM−5とシリカとの合計量に対し30〜80重量%の量含有する請求項12に記載の触媒組成物。
【請求項14】
白金、錫、鉛、銀、銅及びニッケルから選ばれた金属も含有する請求項12又は13に記載の触媒組成物。
【請求項15】
粒径サイズが1μ未満の第二のZSM−5も含有する請求項12〜14のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【請求項16】
ZSM−5の合計量が全担体に対し30〜35重量%の範囲で存在し、前記第二ZSM−5が全担体に対し5〜10重量%の範囲で存在する請求項15に記載の触媒組成物。
【請求項17】
ヘキサフルオロ珪酸アンモニウムで脱アルミ化処理されている請求項12〜16のいずれか1項に記載の触媒組成物。
【請求項18】
エチルベンゼン含有供給原料を水素の存在下、請求項12〜17のいずれか1項に記載の触媒組成物と接触させる工程を含むエチルベンゼンの脱アルキル化方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−501939(P2012−501939A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−523536(P2010−523536)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/061967
【国際公開番号】WO2009/034093
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】