説明

ZnO系光機能素子及びその製造方法

【課題】強い発光強度が得られる系発光層を有するZnO系光機能素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本素子1aは、発光層40と、発光層40に電界を印加するための一対の電極層20と、を備え、発光層40は、ZnOを基質とし、且つ、Bi、Ba、Sr及びCoのうちの少なくとも1種を含有する。更に、基体10を備え、発光層40は、基体10上に配置されており、一対の電極層20は、基体10上に発光層40と並んで配置されているものとすることができる。本方法は、発光層40を形成する発光層形成工程と、酸素分圧が10%以上である雰囲気で、且つ、発光層形成工程における発光層40の形成温度よりも高い温度で、発光層40を加熱する熱処理工程と、をこの順に備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はZnO系光機能素子及びその製造方法に関する。更に詳しくは、発光強度に優れたZnO系光機能素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光による情報制御技術の進展がめざましい。例えば、薄膜の電気的励起(電圧印加、電流注入)により発光を得る電界発光型(エレクトロルミネッセンス)素子は、ディスプレー装置等に利用されるに至っている。この電界発光型素子に用いられる発光材料としては下記特許文献1〜3に開示されたZnOが知られている。
ZnOは広いバンドギャップを有することから紫外光を発する素子として利用できることが知られている。
【0003】
【特許文献1】特開2004−323818号公報
【特許文献2】特開2005−197327号公報
【特許文献3】特開2005−268196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このZnOは、例えば、特定の発光遷移を有する成分をドーピングする等、組成制御を行うことで可視域から近赤外域までの広い範囲の発光波長を選択的に制御できるものと期待されている。
また、ZnOは優れた発光特性を有するものの、電気特性等が変化し易いという側面を有する。電気特性等が変化すると、理論的に得られてよいはずの十分な発光強度が得られないという問題を生じる。
本発明は、上記従来の技術に鑑みてなされたものであり、新たな組成制御を提供し、更には、より強い発光強度が得られる発光層を有するZnO系光機能素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、ZnOのエレクトロルミネッセンスについての検討を行った。その過程において、従来、ZnO系発光層から近赤外発光を得ようとした場合、1.5μm付近の発光遷移を有するEr等の希土類元素を含有させる必要があるものと考えられてきた。しかし、本発明者らは、Bi、Ba、Sr及びCoといういずれも、近赤外域の発光遷移を有さない元素を含有させることで、近赤外発光が得られることを知見した。
更に、従来知られている近赤外域の発光遷移を有する元素を、Bi、Ba、Sr及びCoの各元素と併用した場合には、近赤外光の発光強度に優れ、更には、その発光安定性に優れた素子が得られることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)発光層と、該発光層に電界を印加するための一対の電極層と、を備え、
上記発光層は、ZnOを基質とし、且つ、Bi、Ba、Sr及びCoのうちの少なくとも1種を含有することを特徴とするZnO系光機能素子。
(2)Er、Eu、Tb及びYbのうちの少なくとも1種を含有する上記(1)に記載のZnO系光機能素子。
(3)近赤外光を発する上記(1)又は(2)に記載のZnO系光機能素子。
(4)上記(1)乃至(3)のうちのいずれかに記載のZnO系光機能素子の製造方法であって、
上記発光層を形成する発光層形成工程と、
酸化性雰囲気で、且つ、上記発光層形成工程における上記発光層の形成温度よりも高い温度で、該発光層を加熱する熱処理工程と、をこの順に備えることを特徴とするZnO系光機能素子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のZnO系光機能素子によれば、近赤外域の発光遷移を有する元素を含有しないにも関わらず、発光強度に優れた近赤外線発光を得ることができる。
本発明の製造方法によれば、発光強度に共に優れた光機能素子を簡便に得ることができる。また、近赤外域の発光遷移を有する元素を含有しないにも関わらず、発光強度に優れた近赤外線発光を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
[1]ZnO系光機能素子
本発明のZnO系光機能素子は、発光層と、該発光層に電界を印加するための一対の電極層と、を備え、上記発光層は、ZnOを基質とし、且つ、Bi、Ba、Sr及びCoのうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする。
【0009】
上記「発光層」は、ZnOを基質とする層である。この発光層は、通常、発光層に含まれる元素(但し、「O」を除く)の酸化物換算合計量を100モル%とした場合に、ZnOを90モル%以上(通常、99.9モル%以下)含有する。ZnOは半導体材料であり、更に、優れた紫外発光材及び紫外線吸収材でもある。また、この発光層は、単結晶、多結晶及び非晶質等のいずれの状態であってもよいが、結晶又は多結晶であることが好ましい。特に発光強度に優れるからである。
【0010】
また、この発光層は、Bi、Ba、Sr及びCoのうちの少なくとも1種の元素(以下、単に「Bi等の特定元素」ともいう)を含有する。即ち、これらは1種のみが含有されてもよく、2種以上が含有されてもよい。これらのなかでは、特にBi及びCoが好ましく、更には、Biが特に好ましい。Biを含有する場合には、特に近赤外発光の発光強度を、Er等の希土類元素のみをドーピングした発光層に比べても著しく高くすることができる。
これらの元素(Bi、Ba、Sr及びCo)に共通する性質は、いずれもZnOに対して非線形性抵抗特性を発揮させることができる性質である。
【0011】
これらのBi等の特定元素の含有量は特に限定されないが、通常、発光層に含まれるZnを100モルとした場合に、Bi等の特定元素は合計で0.01モル以上である。Zn100モルに対して0.1モル以上であれば、Bi等の特定元素を含有することによる近赤外線発光の効果を十分に得ることができる。この含有量はZn100モルに対して0.01〜10モルが好ましく、Zn100モルに対して0.1〜7モルがより好ましく、Zn100モルに対して0.3〜5モルが特に好ましい。これらの範囲では、近赤外光の発光強度がより強く、更に、その安定性も特に高くすることができる。
【0012】
この発光層は、ZnO及びBi等の特定元素以外に他の成分(Zn、Bi、Ba、SrCo及びO以外の他の元素)を含有できる。他の成分としては、蛍光色(蛍光波長)を各々固有の色(波長)とすることができる元素(蛍光元素)が挙げられる。このような蛍光色を変化させることができる元素としては稀土類元素(Er、Yb、Nd、Pr、Tm、Eu、Tb並びにCe等)が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、発光層をn型半導体化するためのGa、B及びAl等の元素(n型半導体化元素)が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、これらの各元素は酸化物として含有されてもよく、その他の化合物として含有されてもよく、ZnOに固溶して含有(Znとの複酸化物)されてもよい。更にこれらの成分は、ZnOに対して均一分布して含有されてもよく、不均一に分布して含有されてもよい。
【0013】
上記のなかでも上記発色元素のうちの少なくとも1種が含有されることが好ましく、これらのなかでも、近赤外波長の領域(0.7〜4.0μmが好ましく、特に0.7〜2.5μmがより好ましい)に発光遷移を有するEr等の希土類元素が含有されることが好ましい。これらの希土類元素が含有される場合には、近赤外光をより強く得ることができ、特にBi等の特定元素が含有されることによる発光強度向上及び発光特性の安定化効果が相乗的に発揮されるものとすることができる。即ち、Bi等の特定元素とEr等の希土類元素との両方が含有される場合には、特に優れた近赤外線発光強度が得られ、尚かつ、その発光を安定して維持することができる。
【0014】
上記のうち、希土類元素(なかでもEr、Yb、Nd、Pr、Tm、Eu及びTbのうちの少なくとも1種、とりわけEr)が含有される場合の含有量は特に限定されない。発光層に含まれるZnを100モルとした場合に、希土類元素は2モル以下(より好ましくは0.6モル以下、更に好ましくは0.35モル以下、通常0.01モル以上)であることが好ましい。Zn100モルに対して2モル以下では特に優れた発光強度が得られる。
【0015】
この発光層は、通常、板形状(薄膜状、層状など)をなす。但し、その平面形状は特に限定されず、自在な形状とすることができる。また、発光層の厚さは特に限定されないが、5μm以下(好ましくは0.3〜3μm、より好ましくは0.6〜1.5μm)であることが好ましい。この範囲では発光層内のクラックの発生がより抑制される。
また、この発光層は、基体表面に1箇所のみを有してもよく、2箇所以上を有してもよい。
【0016】
上記「電極層」は、発光層に電界を印加するためのものである。また、この電極層は少なくとも一対を有する。即ち、少なくとも2つ以上の互いに共通しない領域を有する電極層を有する。この一対とは、発光層1つに対して少なくとも一対を有する意味である。即ち、例えば、発光層を基体表面に2箇所(2つ)備える場合には、各々の発光層に対して少なくとも一対の電極層を備えるため、光機能素子全体では2対以上の電極層を備えることとなる。
【0017】
電極層を構成する材料は特に限定されず、種々の導電性材料を用いることができる。即ち、例えば、各種金属{貴金属(Au、Ag、Pt、Pd、Ir、Ru及びRh等)、その他の金属(Cu、Ni、Al、Mg及びLi)、合金(Mg−Ag合金及びNa−K合金等の前記貴金属及びその他の金属のうちの2種以上による合金)}の単体、並びにITO(Indium Tin Oxide)、SnO、ZnO等の金属化合物などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0018】
電極層は、通常、板形状(薄膜状、層状など)をなす。但し、その平面形状は特に限定されず、自在な形状とすることができる。また、電極層の厚さは特に限定されないが100nm以上(通常1μm以下)とすることが好ましい。この範囲であればより均質な(アイランド化等を生じない)電極層を得ることができる。
【0019】
本発明のZnO系光機能素子では、発光層及び電極層以外に他部を備えることができる。他部としては、発光層と電極層との間に配置される絶縁層が挙げられる。絶縁層を備えることで、発光安定化を更に向上させることができる。
絶縁層の絶縁性は特に限定されないが、抵抗率で10〜1013Ωcmであることが好ましい。また、絶縁層は、一部の電極層と発光層との間のみに設けられていてもよいが、発光層に電界を印加するための全ての電極層と発光層との間に形成されていることが好ましい。
【0020】
また、絶縁層の厚さは特に限定されないが、通常、50nm以上である。更に、絶縁層を構成する絶縁材料の種類は特に限定されないが、Al、Ta、Y及び各種チタン酸塩(チタン酸バリウム、チタン酸鉛など)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、この絶縁層は1層のみを設けてもよく2層以上を設けてもよい。
【0021】
更に、本発明のZnO系光機能素子には、発光層、電極層及び絶縁層以外に他部を備えることができる。他部としては、基体が挙げられる。基体を備えることで、発光層及び電極層を支持することができる。
基体を構成する材料は限定されず、例えば、絶縁体材料及び/又は半導体材料とすることができる。絶縁材料としてはAl、SiO、SrTiO及びMgO等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、半導体材料としてはSi、AlN、GaN及びSiC等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0022】
また、基体を構成する材料の状態は特に限定されず、単結晶状態、多結晶状態及び非晶質状態が挙げられる。これらのうちの1種のみからなる状態であってもよく、これらのうちの2種以上が共存された状態であってもよい。更に、基体の構造は特に限定されず、単層構造、複層構造及び傾斜構造等が挙げられる。このうち単層構造の基体としてはガラス基体(SiO等の)が挙げられる。また、複層構造の基体としては、(1)ZnO(発光層の主構成成分)と基体の表面(発光層が形成される表面)との格子整合を向上させるために、該表面に格子定数がZnOにより近い(基体の他部を構成する材料に比べて)材料を積層した基体、(2)最表層に半導体層が形成された基体(SiO及びAl等の絶縁層上にSi、SiC及びAlN等の半導体層が形成されている)、(3)屈折率の異なる複数の層が積層された基体、及び、発光層から放出された光を目的とする発光方向へ反射するための反射能を有する基体などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、上記のうち傾斜構造の基体とは、基体を構成する構成成分及び/又は構成成分の状態等が傾斜的である基体である。即ち、例えば、発光層と接する基体表面に向かって、裏面側から表面側へ向かって次第に結晶度が高くなっている基体が挙げられる。
【0023】
また、基体は、構成成分及びその構造(単層構造、複層構造及び傾斜構造等)等に関わらず、発光層から発せられる光の透過の有無はとわない。発光層からの光に対して透光性を有する基体を備える光機能素子は、回路等の光路の妨げがなく特に広い面積にわたって発光できる。このような透光性の材料としては、Al及びSiO等が挙げられる。
尚、基体全体又は発光層が形成される少なくとも基体表面に単結晶シリコンを用いた場合には、汎用のシリコンプロセス技術を用いて効率よく光機能素子の製造を行うことができる点において優れている。
【0024】
この基体の形状及び大きさ等は特に限定されず、例えば、板状であってもよく、ブロック状であってもよい。また、基体を構成する材料により適宜の厚さとすればよいが、基体は0.3mm〜10mmとすることができる。この範囲では発光層及び電極層を支持体としてのより十分な強度を発揮できる。
【0025】
更に、本発明のZnO系光機能素子は、発光層、電極層、絶縁層及び基体以外にも他部を備えることができる。他部としては、コーティング層(発光層の全面又は一部、及び一対の電極層の全面又は一部、を覆って防湿性を発揮する層等)、光学レンズ等が挙げられる。これらの他部は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0026】
本発明のZnO系光機能素子では、前記発光層、一対の電極層、絶縁層及び基体等の位置関係は特に限定されず、発光層に対して一対の電極層が電界を印加することができる位置関係であればよい。以下、本発明のZnO系光機能素子の構造について説明する(図1〜3参照)。
本発明のZnO系光機能素子としては、下記(1)及び下記(2)の構造を有するものが挙げられる。即ち、(1)発光層と一対の電極層とが並んで配置された構造のZnO系光機能素子(以下、単に「平型素子」ともいう、例えば、図1〜2参照)、及び、(2)一対の電極層が発光層を挟んで、一対の電極層及び発光層が積層して配置されたZnO系光機能素子(以下、単に「積層型素子」ともいう、即ち、例えば、図3参照)。
【0027】
上記(1)の平型素子における「並んで配置されている」とは、一対の電極層と発光層との3層が互いに平面的に配置され、一対の電極層同士(即ち、一対の電極層を構成する第1電極層と第2電極層と)が互いに上下方向に重なる位置(平面視した場合)に配置されていない(図1〜2参照。後述するように電極層と発光層とは重なっていてもよい)ことを意味する。但し、平面的に配置されるとは、同一平面上に並んだ配置(図2参照)、及び非同一平面に並んだ配置の両方を含むものとする。
【0028】
更に、一対の電極層は発光層と重ならないように配置されてもよいが、一対の電極の少なくとも一部が発光層と基体との間に入り込んで配置(図2参照)することができる。上記入り込んだ配置は、電極層が発光層よりも先に形成された場合に生じる形態である。この入り込んだ配置は、電極層形成工程の後に発光層形成工程を行うことで得られる。
また、平型素子における電極層の形状は特に限定されないが、図1に示すように平面形状を凸字形状等とすることができる。電極層の形状が凸字形状である場合は、ボンディングワイヤ等の外部装置との接続を行う接続手段との接合面積を十分に確保できる。更に、電極層の大きさは特に限定されないが、一対の電極層間に挟まれる発光層部分が発光層全体に対して70%(面積割合において)以上(より好ましくは90%以上、100%であってもよい)とすることが好ましい。
【0029】
更に、平型素子において、発光層に電界を印加する一対の電極層間の距離は特に限定されないが5μm〜2mmが好ましい。この範囲では高い発光効率と低消費電力とを両立させ易い。この電極間距離は、10μm〜2mmがより好ましく、10μm〜1.5mmが更に好ましく、50μm〜1.5mmがより更に好ましく、250μm〜1.0mmが特に好ましく、250μm〜800μmがより特に好ましい。
【0030】
また、平型素子が、前記絶縁層を備える場合には、電極層と絶縁層とは重なってもよく、重なっていなくてもよい。更に、絶縁層と発光層とは重なってもよく、重なっていなくてもよい。尚、この重なりは、電極層形成工程の後に、絶縁層形成工程を行い、更にその後に発光層形成工程を行うことで得ることができる。
更に、この平型素子は、1つの基体に対して1つの発光層を備えてもよいが、1つの基体に対して2つ以上の複数の発光層を備えることもできる。
【0031】
上記(2)の積層型素子における「積層して配置されている」とは、一対の電極層と発光層との3層が積層されており、一対の電極層同士(即ち、一対の電極層を構成する第1電極層と第2電極層と)が互いに上下方向に重なる位置(平面視した場合に、少なくとも一部が重なる)に配置されていることを意味する(図3参照)。即ち、積層型素子は一対の電極層同士が重なっている部分を有するのに対して、平型素子は一対の電極層同士が重なっている部分を有さない点で異なっている。
【0032】
また、積層型素子における電極層は、通常、発光層から得られる波長の光を透過できる材料からなる電極層を用いる。電極層の形状は特に限定されない。また、電極層の大きさは特に限定されず、発光層に対して十分な電界の印加ができる大きさであればよい。通常、発光層の発光範囲は一対の電極層に挟まれている部位であるため、一対の電極層によりできるだけ広範囲に発光層が挟まれるように形成されていることが好ましい。即ち、例えば、一対の電極層間に挟まれる発光層部分が発光層全体に対して50%(面積割合において)以上(より好ましくは70%以上、100%であってもよい)とすることが好ましい。
【0033】
また、積層型素子が、前記絶縁層を備える場合には、電極層と絶縁層とは、通常、電極層20と発光層40との直接の接触が回避されるように、電極層20の一面側(発光層に近い側の一面)の全面を覆うように形成される。
この積層型素子は、1つの基体に対して1つの発光層を備えてもよいが、1つの基体に対して2つ以上の複数の発光層を備えることもできる。
【0034】
[2]ZnO系光機能素子の製造方法
本発明のZnO系光機能素子の製造方法は、本発明のZnO系光機能素子の製造方法であって、発光層を形成する発光層形成工程と、酸化性雰囲気で、且つ、発光層形成工程における発光層の形成温度よりも高い温度で、発光層を加熱する熱処理工程と、をこの順に備えることを特徴とする。
【0035】
上記「発光層形成工程」は、発光層を形成する工程である。この発光層の形成方法は特に限定されない。即ち、物理的方法及び化学的方法のいずれを用いてもよい。物理的方法としては、スパッタ法、真空蒸着法及びイオンプレーティング法等が挙げられる。一方、化学的方法としては、気相反応法{熱CVD、プラズマCVD、光CVD、エピタキシャルCVD、アトミックレイヤーCVD、有機金属気相成長法(MOCVD)及び触媒化学気相成長法(Cat−CVD)等を含む}等が挙げられる。更には、分子線エピタクシー法等が挙げられる。これらの方法は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらのうちでは物理的方法を用いることが好ましい。物理的方法を用いて発光層を形成することで製造効率に優れたより低コストで形成できるからである。なかでも、特にスパッタ法が好ましい。
また、上記各種方法においては、ターゲット材の加熱を行ってもよく、行わなくてもよい(通常、スパッタ法では加熱を行わない)。ターゲット材の加熱を行う場合の熱源は特に限定されず、レーザー、電子線及び抵抗加熱源等を用いることができる。
【0036】
また、Zn源としては、単体金属亜鉛、無機亜鉛化合物、及び有機亜鉛化合物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、O源として酸素ガス及び各種酸素含有化合物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらは各々の方法において適した材料を適宜選択することが好ましい。尚、各単体金属亜鉛を用いる場合、このZn源は純度が高い程好ましい(通常3N以上であり、好ましくは4N以上、更に好ましくは5N以上)。
【0037】
更に、前記Bi等の特定元素をドープする場合、Bi等の特定元素源としては、各種Bi等の特定元素の酸化物、各種Bi等の特定元素の単体金属、その他Bi等の特定元素の無機化合物、及び有機化合物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、O源として酸素ガス及び各種酸素含有化合物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらは各々の方法において適した材料を適宜選択することが好ましい。特にBiをドープする場合、Bi源としては酸化ビスマス(Bi)を用いることができ、これを用いる場合は純度が高いもの程好ましい(通常3N以上であり、好ましくは4N以上)。
更に、前述の絶縁層を備える場合も上記と同様にして物理的方法及び化学的方法を用いて形成できる。
【0038】
また、前記Er等の蛍光元素をドープする場合、蛍光元素源としては、各種蛍光元素の酸化物、各種蛍光元素の単体金属、その他蛍光元素の無機化合物、及び有機化合物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。更に、O源として酸素ガス及び各種酸素含有化合物等を用いることができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。これらは各々の方法において適した材料を適宜選択することが好ましい。特にErをドープする場合、Er源としては単体金属エルビウム及び酸化エルビウム(Er)を用いることができ、これを用いる場合は純度が高いもの程好ましい(通常3N以上であり、更に好ましくは4N以上)。
【0039】
上記「熱処理工程」は、酸化性雰囲気で、且つ、発光層形成工程における発光層の形成温度よりも高い温度で、発光層を加熱する工程である。この熱処理工程を備えることで、ZnO系光機能素子の発光強度、発光効率及び発光安定性を向上させることができる。
この熱処理工程における雰囲気は、酸化性雰囲気であればよく、特に酸素分圧が10%以上(好ましくは20〜100%)であることが好ましい。即ち、例えば、大気雰囲気であってもよい。酸化性雰囲気とすることにより、非酸化性雰囲気で熱処理を行う場合に比べて発光強度を向上させることができる。
【0040】
また、熱処理工程における加熱温度は、発光層形成工程における発光層の形成温度よりも高い温度である。通常、薄膜形成技術においては、発光層を形成することとなる被発光層形成体(基体など)を加熱しつつ、製膜(発光層形成)を行う。この際の被発光層形成体の加熱温度が上記発光層の形成温度に相当する。従って、例えば、発光層の形成に用いる製膜装置に被発光層形成体を加熱するヒーターを備える場合には、このヒーターの設定温度を上記発光層の形成温度であるものとする。この発光層の形成温度は特に限定されないが、ヒーターの設定温度において、例えば、100〜500℃(好ましくは150〜400℃)とすることができる。
【0041】
一方、熱処理加工程における熱温度は上記条件下において特に限定されないが、上記発光層の形成温度に対して50℃以上高い温度(通常、発光層の形成温度に対して100〜800℃)であることが好ましい(熱処理温度もヒーターの設定温度として形成される)。更に具体的には、例えば、温度300〜1100℃(より好ましくは500〜1000℃)とすることができる。また、更には、加熱時間30分以上(通常60分以下)であることが好ましい。尚、熱処理工程では圧力条件は特に限定されず、加圧を行ってもよく、行わなくてもよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]実施例1
ZnO系光機能素子(積層型素子構造、Bi含有、熱処理無し)の作製
(1)基体の脱脂処理
透明なSiOガラス基体(厚さ0.5mm×長さ30mm×幅20mm)を脱脂処理(アセトン超音波洗浄10分、エタノール超音波洗浄10分、純水超音波洗浄10分をこの順で)した後、純水を用いて流水洗浄し、次いで、窒素ガスを噴きつけて乾燥させた。その後、洗浄乾燥したこの基体に電極のパターン形状が形成されたメタルマスクを取り付け、これ(基体とメタルマスクとを一体に)をマグネトロンスパッタリング装置(ユニバーサルシステムズ社製、形式「UPS−S30型」)の基体ホルダーに固定した。
【0043】
(2)電極層(下側電極層)形成工程
その後、上記基体を温度200℃まで加熱し、酸化物ITOターゲットを用いて、ITOからなる電極層(下側電極層)を形成した。この電極層は、図3に示す基体により近い側に形成された電極層であり、厚さ200nmであった。
【0044】
(3)発光層形成工程
次いで、上記電極層用のメタルマスクに換えて、四角形状の孔が形成された発光層用のメタルマスクを取り付け、上記マグネトロンスパッタリング装置の基体ホルダーに固定した。その後、基体を温度200℃まで加熱し、酸化性雰囲気でZnO系蛍光体薄膜を上記電極層と重なるように形成した。発光層の形成は、Arガスを17sccm及びOガスを3sccmでチャンバー内に導入し、30mtorrの圧力に設定したチャンバー内でZn(純度5N)ターゲットに120WのRF電圧を印加し、Bi(純度4N)ターゲットには10WのRF電圧を印加した。BiにはZnと同時に各々別のスパッタ銃を用いてスパッタリングを行った。更に形成に際しては、プラズマを発生させ、プラズマが安定した後、基体とターゲット間を隔てるシャッターを開き、製膜を行い、基体の温度を室温にまで低下させて発光層を得た。この発光層は、厚さ1μmであり、Bi含有量がZn100モルに対して約1モルであった。
【0045】
(4)電極層(上側電極層)形成工程
次いで、上記発光層用のメタルマスクに換えて、電極層用のメタルマスクを取り付け、上記[1](2)と同様にして、ITOからなる電極層(上側電極層)を形成した。この電極層は、図3に示す基体からより遠い側に形成された電極層であり、厚さ200nmであった。このようにして実施例1のZnO系光機能素子を得た。この実施例1のZnO系光機能素子の構造は図3の通りである。
【0046】
[2]実施例2
ZnO系光機能素子(積層型素子構造、Bi及びEr含有、熱処理無し)の作製
発光層を形成する際に、Bi(純度4N)ターゲットに加えて、Er(純度4N)ターゲットを用い、Bi及びErの両方を発光層にドーピングした以外は、実施例1と同様にしてZnO系光機能素子を得た。Bi含有量はZn100モルに対して約1モルであり、Er含有量はZn100モルに対して約1モルであった。
【0047】
[3]実施例3
ZnO系光機能素子(積層型素子構造、Bi及びEr含有、熱処理有り)の作製
上記[2]で得られたZnO系光機能素子を、酸素分圧20%の雰囲気において、800℃で30分間加熱保持した後、基体の温度が室温にまで低下させて、ZnO系光機能素子を得た。また、Bi含有量はZn100モルに対して約1モルであり、Er含有量はZn100モルに対して約1モルであった。
【0048】
[4]実施例4
ZnO系光機能素子(平型素子構造、Bi及びEr含有、熱処理有り)の作製
(1)基体の脱脂処理
実施例1の上記[1](1)と同様にして基体の脱脂処理を行い、この基体を基体ホルダーに固定した。
(2)電極層形成工程
その後、上記基板を温度を200℃まで加熱し、酸化物ITOターゲットを用いて、ITOからなる一対の電極層を形成した。この電極層は、図1に示す凸字形状をなし、厚さ400nmであり、電極間距離は0.5mm、幅(発光層との接触幅)4mmである。
【0049】
(3)発光層形成工程
次いで、上記電極層用のメタルマスクに換えて、四角形状の孔が形成された発光層用のメタルマスクを取り付け、上記マグネトロンスパッタリング装置の基体ホルダーに固定した。その後、基体を温度200℃まで加熱し、酸化性雰囲気でZnO系蛍光体薄膜を上記電極層の端部と重なるように形成した。発光層の形成は、Arガスを17sccm及びOガスを3sccmでチャンバー内に導入し、30mtorrの圧力に設定したチャンバー内でZn(純度5N)ターゲットに100WのRF電圧を印加し、Bi(純度4N)ターゲット及びEr(純度4N)ターゲットには6WのRF電圧を印加した。Bi及びErにはZnと同時に別のスパッタ銃を用いてスパッタリングを行った。更に形成に際しては、プラズマを発生させ、プラズマが安定した後、基体とターゲット間を隔てるシャッターを開き、製膜を行い、基体の温度を室温にまで低下させて発光層を得た。この発光層は、厚さ500μmであり、Bi含有量がZn100モルに対して約1モルであり、Er含有量がZn100モルに対して約1モルであった。その構造は図1及び図2の通りである。
【0050】
[5]比較例1(積層型素子構造、Er含有、熱処理なし)
Biに換えて、Erを用いた以外は、実施例1と同様にして、図3に示す構造のZnO系光機能素子(下側電極層200nm、発光層1μm、上側電極層200nm)を得た。
【0051】
[6]参考例1
ZnO系光機能素子(平型素子構造、Er含有、図1及び2)の作製
発光層を形成する際に、Bi(純度4N)ターゲットに換えて、Er(純度4N)ターゲットのみを用い、Erのみが発光層にドーピングされたZnO系光機能素子を得た。各操作は上記以外は実施例4と同様に行った。また、Er含有量はZn100モルに対して約1モルであった。
【0052】
[7]各ZnO系光機能素子の発光強度の評価
上記[1]で得られた実施例1のZnO系光機能素子の一対の電極間に電圧50VAC(電界強度:100V/mm)を印加した。その結果、波長1.5μmの近赤外線が観測された。また、ZnO光機能素子から発せられた光は、集光した後、光学フィルターL37を通過させてから回折格子分光器(日本分光株式会社製、形式「G−25C型」)に導入し、この分光器を通した光を赤外線用検出器{APPLIED DETECTOR社製、品名「IR Detector(Geディテクター)model 403L」}で検出して得られた電圧をロックインアンプに導入して測定を行った。その結果、発光強度はディテクターにおける感度(任意単位)を読み取り、表1に示した。
同様にして実施例2、実施例3、実施例4、比較例1及び参考例1の各ZnO系光機能素子の発光強度を測定した。その結果を表1に併記した。
更に、電界印加を行ってから発光現象が確認できなくなるまでの時間を計測した。その結果を表1に併記した。
【0053】
【表1】

【0054】
表1の結果より、比較例1及び参考例1の発光強度が0.2であったのに対して、実施例1(Biのみ含有)及び実施例2(Bi及びErを含有)の発光強度は0.6と3倍の発光強度が得られた。この結果から、Biは近赤外域での発光遷移を有さないにも関わらず、ZnOに含有させることで優れた発光強度の近赤外線発光が得られることが分かる。尚、実施例2については発光強度自体の変化は認められないものの、Erの含有により、その内殻遷移による波長1.54μmにおける波形が非常にシャープになった。
また、実施例3(Bi及びErを含有し、熱処理有り)及び実施例4(Bi及びErを含有し、熱処理有り)の発光強度は0.8であり、比較例1及び参考例1の4倍の発光強度が得られた。この結果から、熱処理を行うことで更に発光強度を向上させられることが分かる。
また、表1の結果より、積層型素子(実施例1〜3及び比較例1)では、約10秒の発光現象が認められたのに対して、平型素子(実施例4及び参考例1)では、10分以上にわたって安定した発光現象が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のZnO系光機能素子は、光関連分野に広く利用される。例えば、変調素子及び増幅素子等として利用される。これらの変調素子及び増幅素子は、例えば、光通信、光変換(紫外光を近赤外光へ変換、近赤外光を紫外光へ変換等)及び光演算等に用いることができる。また、発光ダイオード用光素子、レーザー発振器用光素子及び共振器用光素子等として利用される。これら各光素子は、例えば、光通信、光記録(読み取り・書き込みを含む)及び光表示(自身の発光及び蛍光体の励起源等として利用)等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明のZnO系光機能素子の一例の模式的な平面図である。
【図2】本発明のZnO系光機能素子の一例の模式的な断面図である。
【図3】本発明のZnO系光機能素子の他例の模式的な断面図である。
【符号の説明】
【0057】
1a;ZnO系光機能素子(平型)、1b;ZnO系光機能素子(積層型)、10;基体、20、21、22及び23;電極層、40;発光層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光層と、該発光層に電界を印加するための一対の電極層と、を備え、
上記発光層は、ZnOを基質とし、且つ、Bi、Ba、Sr及びCoのうちの少なくとも1種を含有することを特徴とするZnO系光機能素子。
【請求項2】
Er、Eu、Tb及びYbのうちの少なくとも1種を含有する請求項1に記載のZnO系光機能素子。
【請求項3】
近赤外光を発する請求項1又は2に記載のZnO系光機能素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちのいずれかに記載のZnO系光機能素子の製造方法であって、
上記発光層を形成する発光層形成工程と、
酸化性雰囲気で、且つ、上記発光層形成工程における上記発光層の形成温度よりも高い温度で、該発光層を加熱する熱処理工程と、をこの順に備えることを特徴とするZnO系光機能素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−21087(P2009−21087A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182621(P2007−182621)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)
【Fターム(参考)】