説明

[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類の製造方法

18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類の製造方法が、記述されている。該方法において、標識化反応は保護基を備えたL−エナンチオマー芳香族アミノ酸について実施される。更に、診断薬の製造方法が記載されている。そこでは、[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸が、本発明に従って製造されて使用される。さらにまた、代謝経路の視覚化について記述されている。そこでは、本発明に従って製造された[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸が、生物体内に導入される。さらにまた、[18F]フッ素標識L−アミノ酸類の製造のための使用のみならず、L−エナンチオマー標識前駆体が記述されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類、[18F]フッ素標識診断薬の製造方法、代謝経路の可視化方法および[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類を製造するためのL−エナンチオマー化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
放射能標識アミノ酸類は、自然科学、特にバイオ科学や医学等の様々な分野で使用されている。これらは、特にいわゆる「トレーサー」、つまり、生物学的方法、生化学的方法、化学的方法あるいはそれらと類似の方法で追跡することのできるアミノ酸類に関する。アミノ酸類の標識化は、短命な放射性核種(放射性指示薬あるいは放射能活性トレーサー)を取り込むことにより行われる。そのような放射性核種の一例として、[18F]フッ素がある。放射能標識アミノ酸類あるいはトレーサー類は、それぞれ非標識物質と同様の方法で構築することができる。更に、対応する非標識物質と比較して、トレーサーの特徴を選択的に修飾することができるので、トレーサーが生物に取り込まれたとき、例えばトレーサーの代謝が起きないか、あるいは非常に厳密に限定された代謝が生じる(代謝捕捉)。
【0003】
そのような放射能標識されたアミノ酸類は、例えば、陽電子放射断層撮影(PET)においてトレーサーとして使用される。PETは、切片の断層撮影画像化と各種生理的代謝機能の選択的な可視化という利点を組み合わせた放射断層撮影診断方法である。PETにより、in vivoにおける必須の代謝経路を可視化することができる。PETで使用されるトレーサー類は、崩壊する間、in vivoでの生物学的活性を発揮する場所でポジトロン(陽電子)を放出し、最後にはガンマ線を放出する。この放射線照射は、PETスキャナを用いて定性的のみならず定量的に検知することができ、したがって、患者の代謝系における変化を考慮して診断結論を導き出すことができる。
【0004】
PETの最も重要な診断分野は、局所での血流および酸素消費、基質代謝、酵素濃度の分析、および神経およびホルモンの伝達物質、特に免疫反応と同様に、受容体密度と役割に関する生化学である。更に、PETによって、蛋白質生合成の分子プロセスも解析することができる。
【0005】
PETは、パーキンソン病、アルツハイマー病、痴呆症などの神経変性疾患のみならず、心臓疾患および癌疾患の診断およびサポート的な治療管理に、ますます使用されている。
【0006】
更に興味あるアプローチとしては、薬理学の分野に存在する。当該分野では薬理学的に有効なアミノ酸類が放射能標識され、作用部位でのその分布について定量され、そしてその有効性がPETにより測定されている。
【0007】
特に、医学的−科学的な受け入れの増加のみならず、年々、大きく成長している世界的なPETセンター(2001年には270センター)の増加により、トレーサー類、例えば[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類に対する需要が増大している。
【0008】
当該分野では、[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類1の製造について、いくつかの方法が知られている。これに関連した最も一般的な方法は、[18F]フッ素ガス([18F]F)による求電子置換反応である。この合成法では、前駆体2のフッ素による脱錫反応が求電子置換反応として実施され、[18F]Fが使用される。
【化1】

【0009】
この公知方法は、例えば文献(A.Luxen,M.Guillaume,W.P.Melega,V.W.Pike,O.Solin,R.Wagner,Nucl Med. Biol,Vol.19,No.2,149−158 (1992))に記載されている。
【0010】
この方法にはいくつかの考慮すべき不利な点がある。[18F]Fはネオンを放射線照射して製造されるが、その際0.1%の[19F]Fがネオンに混合している。このため、標識芳香族L−アミノ酸類が、求電子的置換反応によって製造されると同時に非放射性フッ素によって標識されたアミノ酸類が製造される。更に、フッ素−18−原子の50%だけが使用され、その半分が脱離基と反応する。また、ネオンの放射には長時間が必要であるし、しかも[18F]Fの収率も良くない。
【0011】
別の重要な方法は、[18F]フッ素による求核置換反応である。この反応は、種々の前駆体を出発原料として、これを手動操作の反応により[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類に変換する。6−[18F]フッ素−3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン(FDOPA)は、例えば、ニトロベンズアルデヒド誘導体3(R=R=水酸基の保護基)から製造される。これらの化合物は、[18F]フッ素によって標識された後、多段階合成によってFDOPAに変換される。
【化2】

【0012】
この公知方法は、例えば文献(Lemaire C.,Guillaume M.,Cantineau R.,Christiaens L.,J.Nucl.Med.31, 1247(1990);Antoni G.,Langstrom B.,Acta Chem.Scand.40,152(1987);Lemaire C.,Guillaume M.,Christiaens L.,J.Nucl.Med.30,752(1989);Lemaire C.,Guillaume M.,Cantineau R., Plenevaux A.,Christiaens L.,J.Label.Compds.Radiopharm.30,269(1991))に記載されている。
【0013】
この方法の決定的に不利な点は、多段階合成にあり、そのため非常に労働集約型であり、時間を消費し、経費が嵩むことにある。更に、この公知方法では十分なエナンチオマー純度(光学純度)が得られない。また、HPLC精製法による生成物の分離に加えて、キラルHPLCユニットによるエナンチオマーの分離も必要となる。したがって、この公知方法は、[18F]フッ素標識L−アミノ酸類の常套的な自動化製造方法としては余り適していない。
【0014】
18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類の他の製造方法が、当該分野で報告されている。例えば、2−[18F]フルオロ−L−フェニルアラニン(1,R=R=H)または2−[18F]フルオロ−L−チロシン(1,R=H,R=OH)は、対応するトリアゼン誘導体4(R=アルキル基)から技術的に非常に面倒なフッ素による脱ジアゾ化反応によるか、あるいはトリメチルアンモニウム誘導体5における求核的置換反応により製造される。
【化3】

【0015】
この公知の方法は、Luxen等(l.c.)の総説にも記載されている。また、トリアゼン誘導体4の詳細については、文献(Thierry Pages,Bernhard R.Langlois,Didier Le Bars,Patricia Landais,J.fluorine Chem.107,329−335(2001))にも報告されている。トリアルキルアンモニウム誘導体5は、WO02/44144A2に記載されている。
【0016】
更に、これらの方法はいくつかの不都合な点を有している。当該文献に記載されている方法では、自動化された操作ができないという大きな技術的な問題点を伴っている。種々の副反応は、生成物の厄介な精製を必要とする。更に、非常に興味のあるFDOPAは、これら二つの誘導体4および5を経由して製造することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の基礎となる課題は、[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類を製造する方法を提供することである。それにより前記した欠点が回避される。特に、少ない反応工程、短い合成時間、および高い再現性を特徴とする方法が提供されるべきである。更に、そのような方法は容易に自動化されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この課題は、以下の工程を含む[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類を製造する方法を提供することにより解決される:
(1)下記エナンチオマー化合物を適当な反応媒体中に供給すること:
【化4】

(式中、RおよびRは、ヒドロキシアミノ酸を製造するための、水酸基の適当な保護基を表し;Zは、電子吸引性基を表し;Yは、求核置換反応の脱離基を表し;Rは、アミノ基に対する一つまたは幾つかの適当な保護基を表し;Rはカルボキシル基の保護基を表す。);
(2)Yをマイナスに帯電した[18F]フッ素イオンと求核置換反応させて下記化合物を製造すること:
【化5】

(3)Zを開裂させて下記化合物を製造すること;
【化6】

(4)RおよびRを加水分解開裂させて下記化合物を製造すること;
【化7】

および
(5)RおよびRを加水分解開裂させて下記[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類を製造すること:
【化8】

(式中、RおよびRは、独立して水素原子または水酸基である置換基を表す。)。
本発明の技術的課題はこれにより完全に解決することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明者らは、工程(1)で供給される純粋L−エナンチオマー標識前駆体を出発原料に使って、驚くべきことに少ない工程で[18F]フルオロ−L−フェニルアラニン誘導体、すなわち、2−[18F]フルオロ−L−フェニルアラニン(R=R=H)、2−[18F]フルオロ−L−チロシン(R=H、R=OH)、2−[18F]フルオロ−5−ヒドロキシ−L−フェニルアラニン(R=OH、R=H;2−[18F]フルオロ−メタ−L−チロシン)および6−[18F]フルオロ−3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン(R=R=OH;[18F]DOPA)などの[18F]フッ素標識芳香族アミノ酸類が製造できることを知見した。特に驚くべき知見は、既に光学的に純粋な、保護されたL−エナンチオマーの芳香族L−アミノ酸類から出発して、少ない工程で、キャリアフリーの[18F]フッ素を経て直接標識し目的とするL−アミノ酸類へ変換することが全く可能であるということであった。当該分野ではこれまで、常に標識化は簡単なアミノ酸前駆体について行われ、標識後にのみ実際のアミノ酸の構築およびエナンチオマーの分離が可能であると言われてきた。
【0020】
本発明方法を実際に実施する際には、工程(4)および(5)は同時に実施される。すなわち、保護基R〜Rの加水分解開裂除去は1工程で行われる。種々の標識アミノ酸類、すなわちヒドロキシアミノ酸類および非ヒドロキシアミノ酸類の製造について分かりやすく説明するために、二つの工程(4)および(5)は分けて記載されている。
【0021】
ヒドロキシアミノ酸類、すなわち、標識チロシン(Rのみ)、ヒドロキシフェニルアラニン(Rのみ)またはDOPA(RおよびR)を製造するような場合には、保護基のRおよびRを備えなければならないことは言うまでも無い。非ヒドロキシアミノ酸類を製造するためには、R1/2(O)が水素原子で置換される。このことは当然、標識チロシン(R(O)が水素原子で置換されている。)や標識m−ヒドロキシフェニルアラニン(R(O)が水素原子で置換されている。)の製造にも当てはまる。工程(5)において、水素原子についての加水分解開裂は、必要ではない、すなわち、例えば、標識フェニルアラニンを製造するためには、工程(5)は全く適用されない。標識フェニルアラニンの場合、R(O)=R(O)=R=R=Hである。
【0022】
こうした背景に対して、本発明の主題は、[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類の製造のため、本発明の方法の工程(1)で供給される、純粋なL−エナンチオマー標識前駆体の使用にある。
【0023】
したがって、本発明は当該分野における現在のアプローチ法を断念させるものである。この新しい方法により、標識L−アミノ酸を得るためには当該分野で不可避的な、エナンチオマー類の分離に時間を取られるのが解消される。その理由は、本発明による方法は簡略化された合成法であり、それにより、[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類の最大の立体化学的純度が確約されるからである。キラル的に純粋なL−エナンチオマーのアミノ酸類だけが、生物細胞の中に入り、適切であればそこで代謝されるので、これは特に、生物における[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類の目的とする用途にとって重要である。
【0024】
更に、本発明の方法は、完全に自動化でき、それにより再生産可能な方法で生成物の高品質を保証するのである。加えて、これに関連して、よく管理された放射線照射は、実験室職員の安全を増大させることを意味するのである。
【0025】
本発明の方法により、いくつかの芳香族L−アミノ酸類が信頼すべき方法により製造することができる。
【0026】
本発明の方法は、短時間での合成法に特に特徴がある。6−[18F]フルオロ−3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン([18F]DOPA)の製造は、約45分の時間内で操作できるが、[18F]フッ素を経由する求核置換反応に従ってのこのアミノ酸の製造は約110分間を要することが当該分野で報告されている(参照:Lemaire C.et al.(1993),Appl.Radiat.Isot.,Vol.44,No.4, 737−744)。
【0027】
本発明の方法は、アセトニトリル、ジメチルスルホキサイド、ベンゾニトリルおよびジメチルホルムアミドなどの、フッ化物標識について記載されているいかなる適切な反応媒体中でも実施することができる。
【0028】
工程(1)で供給されるL−エナンチオマー標識前駆体は、有機化学で一般的に公知の方法で製造することができる。水酸基(R,R)、アミノ基(R)またはカルボキシル基(R)に対する種々の有機化学的保護基は、それぞれ置換基R〜Rとして使用することができる。これらの保護基のみならず、その結合方法あるいは除去方法については当該分野で一般に公知である(参照:例えばTheodora W.Green,Peter G.M.Wuts,”Protective Groups in Organic Synthesis“,3rd Edition(1999),John Wiley & Sons Inc.,ISBN 0−471−160119−9.)。
【0029】
したがって、本発明の方法にとって重要な標識前駆体は、本発明の主題でもあり、Z=CHO およびY=NOの場合が当てはまる。
【0030】
本発明の方法あるいは本発明の使用のためには、RおよびRがそれぞれCH、CHOCH、CHOCH(C)、CHSCH、CHSCH(C)、CHOCHCl、CHOCHBr、CHCOC−3,4−Cl、CHCOC−2,6−Cl、CH=CH、CH(CH、c−C11、C(CH、CH、2,6−(CHCH、4−CHOCHCH2、o−NO−CCH、(CHNCOCCH、COCH、COC、COCH、COOCHCCl、 CONHPh(Ph=フェニル)およびCONH−i−Bu(Bu=ブチル)からなる群から選択されるのが好ましい。
【0031】
これらの保護基の使用は、広く認知された、そして容易に結合可能であり、除去できる保護基が提供されるという特別な利点を有している。上述したように、[18F]フッ素標識チロシンを製造する場合には、ベンゼン環上の4位の保護基Rだけが、また[18F]フッ素標識m−チロシンの製造をする場合には、ベンゼン環上の5位の保護基Rだけが、必要であり、[18F]フッ素標識フェニルアラニンの場合には、保護基は必要としない。上記したこれらの3種類の[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類を製造するためには、2−[18F]フルオロ−L−チロシンの製造の場合には、Rだけが、あるいは2−[18F]フルオロ−メタ−L−チロシンの製造の場合には、Rだけが加水分解開裂除去される、あるいは2−[18F]フルオロ−L−フェニルアラニンの製造の場合には、工程(5)は全く関係ない。[18F]DOPAの製造の場合、Rと同様にRは、保護基として提供される必要があり、それは本発明の工程(5)において再び開裂除去される。
【0032】
好ましい保護基の多様性は、本発明方法の多目的応用の可能性をも証明するものである。
【0033】
別の好ましい選択肢としては、RおよびRは環状アセタールであり、これは好ましくはメチレンアセタール、ジメチルメチレンアセタール、シクロヘキシリデンアセタール、ジフェニルメチレンアセタール、エトキシメチレンアセタールおよび環状ホウ酸エステルからなる群から選択される。
【0034】
この方法では、特にFDOPAの製造に使用される、広く認知された、容易に結合かつ除去できる保護基が提供されるのが利点である。DOPA分子におけるベンゼン環上の二つの水酸基は互いにオルトの位置に存在している。これに関連して、アセタール保護基は、二つの水酸基の間にメチレン橋を形成する。以下に、実例として、工程(1)の標識前駆体を示すが、RおよびRはメチレンアセタールである。
【化9】

【0035】
本発明の方法あるいは本発明の使用のためには、更にZが二次反応置換基であり、それがCHO、NO、SOMe(Me=メチル)、NR(R=アルキル)、CF、CN、 COR(R=アルキル/アリール)、COOH、Br、ClおよびIからなる群より好ましく選択されるのが更に好ましい。
【0036】
Zに関する好ましい態様によれば、基本的には“二次反応”の全ての置換基が適用できる。これに関連して、Zは、脱離基Yを含み、隣接するZのオルト位に位置する炭素原子のプラス化に作用し、それによりマイナスに帯電したフルオライドが、この炭素原子に結合するのが容易となり、Yが脱離して、対応するフッ素化合物が生成する。従って、この好ましい方法は、充分に高い電子吸引性電位を有する置換基を生成させ、その結果、この置換基はいわゆる活性基としての資格を充分に備えているという利点を有している。この好ましい置換基は迅速かつ容易に当該分野で公知の方法で除去することができる。
【0037】
電子吸引性基Zがアルデヒド基(CHO)である場合は、脱カルボニル化触媒、好ましくはトリス(トリフェニルホスフィン)−ロジウム(I)クロライドおよび/または濃硫酸(HSO4conc.)および/または活性炭上のパラジウム(Pd/C)および/またはウイルキンソン触媒(ロジウム触媒)を用いて、工程(3)を実施するのが好ましい。
【0038】
この方法は、脱カルボニル化触媒のために、アルデヒド基の正確な開裂が、例えば、添加した[18F]フルオライドイオンの開裂なしに可能であるという利点を有する。
【0039】
更に、YはF、NO、OTs(=トシル/トルエンスルホン酸エステル)、Cl、Br、 I、NおよびNR(R=アルキル/アリール)からなる群から選択される置換基であることが好ましい。
【0040】
この場合、この方法はまた、当該分野で確立している、芳香族化合物における求核的置換反応のための脱離基および充分に高い開裂傾向を有する脱離基が提供されるという利点を有している。
【0041】
本発明の方法あるいは使用のそれぞれの更なる開発においては、Rは9−フルオレニルメチルカルバメート、COCHCCl、COCHCHPh(Ph=フェニル)、COC(CH)CHBr、COC(CHCCl、COC(CH、N−ヒドロキシピペリジニルカルバメート、COCHPh(Ph=フェニル)、COCH−p−CHOC、COCH−p−NO、CHO、COCH、COCHCl、COCCl、COCF、COC、フタルイミド、ジチアスクシンイミド、N−5−ジベンゾスベリルアミン、N−1,1−ジメチルチオメチレン、N−ベンジリデン、N−1,3−ジチオラン−2−イリデン、N−ジフェニルメチレン、=CHN(CHおよび=CN(CHからなる群から選択される一つまたは幾つかの置換基が好ましい。
【0042】
更に、RがCH、C、CHOCH、CHSCH、CHOCH、 CHCCl、C(CH、CHおよびCH−2,4,6−(CHからなる群から選択される一つまたは幾つかの置換基が好ましい。
【0043】
上記した二つの方法は、適当な、かつ当該分野で広く認知され、そして容易に結合し非常に簡単に開裂する、アミノ基あるいはカルボキシル基に対する保護基が使用されるという利点を有している。
【0044】
本発明方法の好ましい態様によれば、全工程は単一の反応バイアル中で実施される。
【0045】
この方法は、特に取り扱い方法が簡単であり、それにより付加的な反応バイアルの汚染が回避されるという利点を有している。このことは、実験室職員が更に安全であることを意味する。更にまた、この方法は、本発明方法の自動化を容易にするものである。
【0046】
本発明方法に関する好ましい態様によれば、全ての工程は自動化され、好ましくは合成ロボットを用いて、更に好ましくはコンパクト自動合成装置を用いて自動化される。
【0047】
この方法は、ハイスループット法で本発明の方法を実現することが可能なので、[F18]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類の常套的製造法として使用することができる。それにより、高い製品品質と再生産性が確約される。コンパクトな合成容器の使用は、更にあらたな利点を有し、通常の合成ロボットと比較して、より小さな部屋を取るだけであり、それは、例えば鉛で作られた小部屋とか放射線実験室にそれぞれかかる費用を明らかに減少させる結果となる。
【0048】
本発明方法の好ましい一態様によれば、以下の更なる工程が実施される:
(6)[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸を薬学的に許容される担体および/または溶媒を用いて製剤化するトレーサーを製造すること。
【0049】
この態様は、放射能標識アミノ酸が、最初に述べたPET法で直接生体に適用できる形態で既に提供されているという利点を有する。薬学的に許容しうる担体又は溶媒はそれぞれ、当該分野で一般的に知られている(参照:Bauer,Froemming,Fuehrer, Lehrbuch der pharmazeutischen Technologie [Textbook of the Pharmaceutical Technology],6th edition,1999,Wiss.Verl.−Ges.,Stuttgart)。
【0050】
本発明に従って製造される[18F]フッ素標識L−アミノ酸の可能性についての背景技術およびそこから生じる利点に対して、そして先に述べた、あるいは最初に記載したように、本発明の主題はまた以下の工程:
(1)[18F]フッソ標識芳香族L−アミノ酸を供給すること、そして
(2)工程(1)の該アミノ酸を薬学的に許容しうる担体および/または溶媒、そして適用可能であるならば賦形剤を用いて製剤化すること、そしてここに工程(1)は前記した本発明の方法に従って実施されること、
を含む診断薬の製造方法にも関する。ここに、該診断薬は陽電子放射断層撮影法(PET)での使用が指定されるのが好ましい。
【0051】
本発明の更なる主題は、以下の工程からなる代謝経路を視覚化する方法である:
(1)[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸を供給すること、
(2)該工程(1)のアミノ酸を生物体内に導入すること、および
(3)生物体内に導入されたアミノ酸を検出すること。ここに工程(1)は前記した本発明の方法に従って実施される。工程(3)は放射能検出器、好ましくは陽電子放射断層撮影スキャナーおよび/またはオートラジオグラフィーを用いて行うのが好ましい。
【0052】
上に述べた特徴およびこれから説明する特徴は、それぞれ特定の組み合わせのみならず、他の組み合わせあるいは単独で、本発明の範囲を逸脱することなく使用することができる。
【0053】
本発明は、単なる例示のための態様により説明されるが、これらの態様は本発明を制限するものではない。
【実施例】
【0054】
実施例1:L−エナチオマー標識前駆体
以下のフローチャートによって、標識前駆体の製造の概要を示す。置換基として、以下のものが選択された:Z=CHOおよびY=NO
【0055】
A)[18F]−フェニルアラニン前駆体
【化10】



B)[18F]−チロシン前駆体
【化11】

C)[18F]−5−ヒドロキシ−フェニルアラニン前駆体
【化12】

D)[18F]−DOPA前駆体
【化13】

【化14】

【0056】
実施例2:脱離グループYの[18F]フルオライドイオンによる置換反応
実際的な合成反応の最初の工程において、置換基Y、すなわち脱離基は、当該分野で一般的に公知の方法に従い、[18F]フルオライドイオンで置換される。
【化15】

【0057】
ベンゼン環における高い電子密度のために、これは標識L−チロシン(R(O)=H,R(O)=OH)およびL−DOPA(R(O)=R(O)=OH)を製造する場合は水酸基のために電子密度は更に増大するが、脱離基Yに直近の強い電子吸引性基CHO(活性基)が、この置換反応を容易にしている。
【0058】
実施例3:活性基CHOの開裂
以下に示す工程で、活性アルデヒド基の開裂が起きる。この反応は脱カルボニル化触媒(トリス(トリフェニルホスフィン)−ロジウム(I)クロライドおよび/またはウイルキンソン(Wilkinson)触媒を用いて正確かつ容易に達成される。
【化16】

【0059】
実施例4:保護基RおよびRの加水分解開裂
以下に示す工程では、保護基R及びRを、当該分野で一般的に知られている方法に従い、加水分解により開裂除去する。
【化17】

【0060】
実施例5:RおよびRの加水分解開裂
2−[18F]フルオロ−L−フェニルアラニンの製造のためには、R(O)=R(O)=Hであるので、この工程は必要としない。先のRおよびRの開裂反応と同時に実施されるこの最終合成工程において、R(O)及びR(O)が水素原子で無い場合、これら保護基R(O)及びR(O)の水酸基への開裂、すなわち、2−[18F]フルオロ−L−チロシンの製造のために、R(O)は、R=OHへと変換される。これによりR(O)=R=Hとなる。2−[18F]フルオロ−5−ヒドロキシ−L−フェニルアラニンの製造の場合には、R(O)=R=Hであり、RはR=OHに変換される。6−[18F]−フルオロ−3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン(FDOPA)の製造のためには、R(O)は、R=OHに、そしてR(O)は、R=OHに変換される。
【化18】

【0061】
他の化合物を製造する場合、個々の反応は一般に当該分野で公知である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程を含んで成る、[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類の製造方法:
(1)下記L−エナンチオマー化合物を適当な反応媒体中に供給する工程:
【化1】

(式中、RおよびRは、ヒドロキシアミノ酸を製造する場合、水酸基の適当な保護基を表し;Zは、電子吸引性基を表し;Yは、求核置換反応の脱離基を表し;Rは、アミノ基に対する一つまたは幾つかの適当な保護基を表し;Rは、カルボキシル基の適当な保護基を表す。);
(2)Yをマイナスに帯電した[18F]フッ素イオンと求核置換反応させて下記化合物を製造する工程;
【化2】

(3)Zを開裂させて下記化合物を製造する工程;
【化3】

(4)RおよびRを加水分解開裂させて下記化合物を製造する工程;
【化4】

および
(5)RおよびRを加水分解開裂させて下記[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸を製造する工程:
【化5】

(式中、RおよびRは、独立して水素原子または水酸基である置換基を表す。)。
【請求項2】
およびRが、CH、CHOCH、CHOCH(C)、CHSCH、CHSCH(C)、CHOCHCl、CHOCHBr、CHCOC−3,4−Cl、CHCOC−2,6−Cl、CH=CH、CH(CH、c−C11、C(CH、CH、2,6−(CHCH、4−CHOCHCH、o−NO−CCH、(CHNCOCCH、COCH、COC、COCH、COOCHCCl、CONHPh(Ph=フェニル)およびCONH−i−Bu(Bu=ブチル)から成る群から選択される基であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
およびRが、メチレンアセタール、ジメチルメチレンアセタール、シクロヘキシリデンアセタール、ジフェニルメチレンアセタール、エトキシメチレンアセタールおよび環状ホウ酸エステルから成る群から好ましくは選択される環状アセタールであることを特徴とする、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
Zが、CHO、NO、SOMe(Me=メチル)、NR(R=アルキル基)、CF、CN、COR(R=アルキル/アリール)、COOH、Br、ClおよびIから成る群から好ましくは選択される二次反応置換基に相当することを特徴とする、前記請求項の内のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
Yが、F、NO、OTs、Cl、Br、I、NおよびNR(R=アルキル/アリール)から成る群から選択される置換基であることを特徴とする、前記請求項の内のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
が、9−フルオレニルメチルカルバメート、COCHCCl、COCHCHPh(Ph=フェニル)、COC(CH)CHBr、COC(CHCCl、COC(CH、N−ヒドロキシピペリジニルカルバメート、COCHPh(Ph=フェニル)、COCH−p−CHOC、COCH−p−NO、CHO、COCH、COCHCl、COCCl、COCF、COC、フタルイミド、ジチアスクシンイミド、N−5−ジベンゾスベリルアミン、N−1,1−ジメチルチオメチレン、N−ベンジリデン、N−1,3−ジチオラン−2−イリデン、N−ジフェニルメチレン、 =CHN(CHおよび=CN(CHから成る群から選択されることを特徴とする、前記請求項の内のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
が、CH、C、CHOCH、CHSCH、CHOCH、 CHCCl、C(CH、CHおよびCH−2,4,6−(CHから成る群から選択される一つまたは幾つかの置換基であることを特徴とする、前記請求項の内のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
工程(3)が、脱カルボニル化触媒、好ましくはトリス(トリフェニルホスフィン)−ロジウム(I)クロライドおよび/または濃硫酸(HSO4conc.)および/または活性炭担持パラジウム(Pd/C)および/またはウイルキンソン(Wilkinson)触媒(ロジウム触媒)を用いて実施されることを特徴とする、前記請求項の内のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
全工程が、単一の反応バイアル中で実施されることを特徴とする、前記請求項の内のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項10】
全工程が、好ましくは合成ロボットを用いて、更に好ましくはコンパクト自動合成装置を用いて自動化して実施されることを特徴とする、前記請求項の内のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項11】
更なる下記工程(6)が実施されることを特徴とする、前記請求項の内のいずれか一項に記載の製造方法:
(6)該[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸を薬学的に許容可能な担体および/または溶媒を用いて製剤化することによってトレーサーを製造する工程。
【請求項12】
下記工程(1)が請求項1乃至10の内のいずれか一項に記載の製造方法によって実施されることを特徴とする、下記工程を含んで成る診断薬の製造方法:
(1)[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸を供給する工程、および
(2)工程(1)の該アミノ酸を薬学的に許容しうる担体および/または溶媒、および適用可能であれば、更なる医薬賦形剤とを用いて製剤化する工程。
【請求項13】
該診断薬が、陽電子放射断層撮影法(PET)での使用に指定されていることを特徴とする、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
下記工程(1)が、請求項1乃至13の内のいずれか一項に記載の方法によって実施されることを特徴とする、下記工程を含んで成る、代謝経路の視覚化方法:
(1)[18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸を供給する工程;
(2)工程(1)の該アミノ酸を生物体内に導入する工程;および
(3)生物体内において該導入アミノ酸を検出する工程;
【請求項15】
工程(3)が、放射能検出器、好ましくは陽電子放射断層撮影スキャナーおよび/またはオートラジオグラフィーを用いて実施されることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
18F]フッ素標識芳香族L−アミノ酸類を製造する目的のための下記L−エナンチオマー化合物の使用方法:
【化6】

(式中、RおよびRは、水酸基の適当な保護基を表し;Zは電子吸引性基を表し;Yは、求核置換反応における脱離基を表し;Rは、一つまたは幾つかの適当なアミノ基の保護基を表し;Rは、カルボキシル基の適当な保護基を表す)。
【請求項17】
及びRが、それぞれH、CH、CHOCH、CHOCH(C)、CHSCH、CHSCH(C)、CHOCHCl、CHOCHBr、CHCOC−3,4−Cl、CHCOC−2,6−Cl、CH=CH、CH(CH、c−C11、C(CH、CH、2,6−(CHCH、4−CHOCHCH、o−NO−CCH、(CHNCOCCH、COCH、COC、COCH、COOCHCCl、CONHPh(Ph=フェニル)およびCONH−i−Bu(Bu=ブチル)から成る群から選択されることを特徴とする、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
およびRは、メチレンアセタール、ジメチルメチレンアセタール、シクロヘキシリデンアセタール、ジフェニルメチレンアセタール、エトキシメチレンアセタールおよび環状ホウ酸エステルから成る群から好ましくは選択される環状アセタールであることを特徴とする、請求項16または17に記載の使用。
【請求項19】
Zが、CHO、NO、SOMe(Me=メチル)、NR(R=アルキル基)、CF、CN、COR(R=アルキル/アリール)、COOH、Br、ClおよびIから成る群から好ましく選択される二次反応置換基であることを特徴とする、請求項16乃至18の内のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
Yが、F、NO、OTs、Cl、Br、I、NおよびNR(R=アルキル/アリール)から成る群から選択される置換基であることを特徴とする、請求項16乃至19の内のいずれか一項に記載の使用。
【請求項21】
が、9−フルオレニルメチルカルバメート、COCHCCl、COCHCHPh(Ph=フェニル)、COC(CH)CHBr、COC(CHCCl、COC(CH、N−ヒドロキシピペリジニルカルバメート、COCHPh(Ph=フェニル)、COCH−p−CHOC、COCH−p−NO、CHO、COCH、COCHCl、COCCl、COCF、 COC、フタルイミド、ジチアスクシンイミド、N−5−ジベンゾスルベリルアミン、N−1,1−ジメチルチオメチレン、N−ベンジリデン、N−1,3−ジチオラン−2−イリデン、N−ジフェニルメチレン、=CHN(CHおよび=CN(CHから成る群から選択される一つまたは幾つかの置換基であることを特徴とする、請求項16乃至20の内のいずれか一項に記載の使用。
【請求項22】
が、CH、C、CHOCH、CHSCH、CHOCH、CHCCl、C(CH、CHおよびCH−2,4,6−(CHから成る群から選択されることを特徴とする、請求項16に記載の使用。
【請求項23】
次式:
【化7】

(式中、R及びRは水酸基の適当な保護基を表し;Rは,アミノ基の適当な保護基を表し;Rは,カルボキシル基の適当な保護基を表す。)で表される化学構造を有することを特徴とする、L−エナンチオマー化合物。
【請求項24】
及びRが、H、CH、CHOCH、CHOCH(C)、CHSCH、CHSCH(C)、CHOCHCl、CHOCHBr、CHCOC−3,4−Cl、CHCOC−2,6−Cl、CH=CH、CH(CH、c−C11、C(CH、CH、2,6−(CHCH、4−CHOCHCH、o−NO−CCH、(CHNCOCCH、COCH、COC、COCH、COOCHCCl、CONHPh(Ph=フェニオル)およびCONH−i−Bu(Bu=ブチル)から成る群からそれぞれ選択されることを特徴とする、請求項23に記載のL−エナンチオマー化合物。
【請求項25】
及びRが、メチレンアセタール、ジメチルメチレンアセタール、シクロヘキシリデンアセタール、ジフェニルメチレンアセタール、エトキシメチレンアセタールおよび環状ホウ酸エステルから成る群から好ましくは選択される環状アセタールであることを特徴とする、請求項23に記載のL−エナンチオマー化合物。
【請求項26】
が、9−フルオレニルメチルカルバメート、COCHCCl、COCHCHPh(Ph=フェニル)、COC(CH)CHBr、COC(CHCCl、COC(CH、N−ヒドロキシピペリジニルカルバメート、COCHPh(Ph=フェニル)、COCH−p−CHOC、COCH−p−NO、CHO、COCH、COCHCl、COCCl、COCF、COC、フタルイミド、ジチアスクシンイミド、N−5−ジベンゾスルベリルアミン、N−1,1−ジメチルチオメチレン、N−ベンジリデン、N−1,3−ジチオラン−2−イリデン、N−ジフェニルメチレン、=CHN(CHおよび=CN(CHから成る群から選択される一つまたは幾つかの置換基であることを特徴とする、前記請求項の内のいずれか一項に記載のL−エナンチオマー化合物。
【請求項27】
が、CH、C、CHOCH、CHSCH、CHOCH、CHCCl、C(CH、CH、CH−2,4,6−(CHから成る群から選択される一つまたは幾つかの置換基であることを特徴とする、前記請求項の内のいずれか一項に記載のL−エナンチオマー化合物。



【公表番号】特表2007−506689(P2007−506689A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527303(P2006−527303)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010094
【国際公開番号】WO2005/037737
【国際公開日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(505468059)エバーハルト・カールス・ユニバーシタット テュービンゲン ユニバーシタットスクリニクム (6)
【Fターム(参考)】