説明

atonal関連因子をコードするベクターを投与することによる耳疾患を治療するための遺伝子治療法

【課題】 本発明は、動物の感覚知覚を変化させる方法に関する。
【解決手段】 該方法は、atonal関連因子をコードする核酸配列を含む発現ベクターを投与することを含み、そして該配列は発現atonal関連因子を産生し、その結果、内耳において刺激の知覚を可能とする有毛細胞が発生する。また、インビボで、分化した感覚細胞において有毛細胞を発生させる方法を提供する。該方法は、(a)E1領域およびE4領域の1以上の複製に必須な遺伝子機能が欠損し、(b)E4領域にスペーサーを含み、および(c)atonal関連因子をコードする核酸配列を含むアデノウイルスベクターに、分化した感覚上皮細胞を接触させることを含む。核酸配列は発現し、atonal関連因子を産生し、それにより有毛細胞が発生する。atonal関連因子をコードするアデノウイルスベクターもまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、動物の感覚を変化させる物質および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
耳は入り組んだ構造を含む複雑な器官であり、聴覚および平衡感覚を担っている。聴覚および平衡感覚の両方の知覚は、機械的刺激を脳によって認識されるインパルスに転換する内耳構造の能力による。聴覚を担っている感覚受容体は、体液で満たされた螺旋状の管である蝸牛に位置している。蝸牛の内側には、基底膜と被蓋膜を橋渡しする円柱状の感覚有毛細胞で裏打ちされたコルチ器がある。音波がコルチ器を通過すると、基底膜が振動し有毛細胞が前後に屈曲する。その動きは有毛細胞を脱分極し、インパルスを脳に伝える聴覚神経への神経伝達物質の放出へとつながる。
【0003】
平衡感覚および定位感覚は内耳の前庭系により媒介される。前庭系は、直線運動を感知する卵形嚢および球形嚢、および回転運動を感知する半規管からなる。前庭系の各領域で、頭部の動きは前庭系内の体液または小さなカルシウムの石の乱れを生み出し、有毛細胞の動きとなる。有毛細胞の屈曲により生み出された神経インパルスは脳に伝達され、それにより体の位置に関する情報を提供する。
【0004】
聴覚および平衡感覚の両方において、機械的刺激は感覚有毛細胞により神経シグナルに翻訳され、その損傷は多くの種類の難聴および平衡障害の原因となる。例えば、大騒音による機械的損傷は、有毛細胞がもはやシグナルを聴覚神経に変換できないところまで蝸牛有毛細胞を屈曲させる。哺乳類の有毛細胞は自然に再生しないので、有毛細胞が損傷すると恒久的な難聴が起こりうる。聴覚障害の主な原因である音響外傷の他に、難聴はまた、遺伝的な症候群、バクテリアまたはウイルス感染、処方薬の使用、および老年性難聴(老齢に付随する難聴)に起因すると考えられている。同様に、平衡障害、特に前庭障害は、感染、頭部外傷、薬剤の使用、および年齢により引き起こされている。
【0005】
難聴および平衡障害は世界の人に無差別であり、大半の人は人生においていくばくかの聴力低下を経験することが予測される。実際、2800万を超えるアメリカ人は聾すなわち聴覚障害(感度の軽微な喪失から聴覚の完全な喪失に至るまで)であり、その80%が不可逆的な難聴を抱えている。さらに言えば、65歳以上人口のおよそ54%は聴覚障害を抱えて生活している(Better Hearing Institute, 1999, the American Speech-Language-Hearing Associationによる報告)。難聴治療の選択肢は少ない。最も一般的な治療には補聴器および蝸牛移植がある。平衡障害治療の選択肢には、平衡再訓練および理学療法がある。しかしながら、このような治療は、疾患が進行性の場合長期間に渡って必要なようである。現在、耳の感覚有毛細胞の喪失または損傷を伴う障害のための、実証された有効な薬物療法はない。
【0006】
聴覚および平衡障害の有病率ならびに効果的な治療の選択肢の不足を考慮すると、耳に関連する病気、特に、難聴および平衡障害のような、感覚有毛細胞の破壊または喪失に関連する病気の予防および治療的処置として役立つであろう、動物の内耳を介した知覚を調節する効果的な方法が依然として必要である。従って、本発明は動物の感覚的知覚を変化させる物質および方法を提供する。本発明のこのおよび他の利点は、ここで提供される詳細な記述により明白になるであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、動物の感覚的知覚を変化させる方法を提供する。該方法は、atonal関連因子をコードする核酸配列を含有する発現ベクター(例えば、ウイルスベクター)を内耳に投与することを含む。該核酸配列が発現してatonal関連因子を産生し、それにより内耳において刺激の知覚を可能とする有毛細胞が発生する。理想的には、該方法は、耳の感覚有毛細胞の喪失または損傷に関連する疾患を予防的または治療的に処置する。
【0008】
さらに、本発明は分化した感覚上皮において有毛細胞をインビボで発生させる方法を提供する。該方法は分化した感覚上皮細胞をアデノウイルスベクターに接触させることを含み、該アデノウイルスベクターは(a)E1領域およびE4領域の1以上の複製に必須な遺伝子機能を欠損し、(b)E4領域にスペーサーを含み、(c)atonal関連因子をコードする核酸配列を含み、ここで核酸配列は発現してatonal関連因子を産生し、それによって有毛細胞が発生する。E4領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能において欠損があるアデノウイルスゲノムおよびatonal関連因子をコードする核酸配列を含むアデノウイルスベクターもまた提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(発明の詳細な説明)
音または位置(平衡)知覚のような、機械的刺激を神経インパルスに転換することが必要な感覚的知覚は、感覚有毛細胞の効率的な機能に依存している。たいていの哺乳類において、有毛細胞は誕生の際には十分に分化しており、再生しない。したがって、哺乳類の生涯を通じて有毛細胞の損傷は不可逆的である(Hawkins, Adv. Oto-Rhino-Laryngol., 20,125-141 (1973))。これまでは耳の感覚有毛細胞の喪失を直すのは不可能であった。本発明は、少なくとも一部は、atonal関連ファミリーのタンパク質の転写因子をコードする核酸配列を感覚上皮に送達することにより、感覚有毛細胞を発生させることができるという驚くべき発見に基づく。atonal関連因子は感覚上皮の非感覚細胞、すなわち支持細胞、の感覚有毛細胞への分化を促す。内耳の非感覚細胞を機能的な感覚有毛細胞に転換する能力は、環境刺激の知覚の改善において大きな進展となる。意外にも、atonal関連因子は、成熟、分化した感覚上皮において支持細胞を有毛細胞に変化させる。すなわち、本発明の方法は分化した前駆細胞からの有毛細胞の発生を可能とし、有毛感覚細胞の集団を補充するのに幹細胞が必要ないということを暗示している。内耳における感覚有毛細胞の発生は、動物の感覚的知覚を調節するのに利用される。理想的には、本発明の方法は動物、好ましくは哺乳類(例えば、ヒト)の感覚有毛細胞の喪失または損傷に関連する少なくとも1つの疾患、例えば、感覚有毛細胞の損傷に関連する耳疾患(例えば難聴または平衡障害)を予防的または治療的に処置する。本発明の方法はまた、感覚的知覚のレベルを維持する、すなわち、例えば、老化プロセスに起因する環境刺激の知覚の喪失をコントロールするのに有用である。本発明はさらに動物の感覚的知覚を調節する物質を提供する。
【0010】
感覚的知覚
具体的には、本発明は動物の感覚的知覚を変化させる方法を提供する。該方法はatonal関連因子をコードする核酸配列を含有する発現ベクター(例えば、発現ウイルスベクター)を内耳に投与することを含む。該核酸配列は発現し、内耳における刺激の知覚(または認識)を可能とする感覚有毛細胞の発生をもたらすatonal関連因子を産生する。「感覚的知覚の変化」とは、少なくとも部分的には、環境の変化を認識し、それに適応する能力を獲得することを意味する。感覚有毛細胞機能という観点では、感覚的知覚の変化は内耳における機械的刺激を神経インパルスに変化させる感覚有毛細胞の発生に関連し、該神経インパルスはそれから脳で処理されることによって動物は環境の変化、例えば、音、言語、または体/頭部の位置を知る。感覚有毛細胞は好ましくはコルチ器および/または前庭器に発生する。
【0011】
感覚有毛細胞の発生は、例えば当業者に公知の手段等の様々な手段を用いて測定することができる。有毛細胞は、走査型電子顕微鏡観察により、または免疫化学で検出される有毛細胞特異的タンパク質であるミオシンVIIaの検出により検出され得る。しかしながら、単なる感覚有毛細胞の存在は、必ずしも環境刺激を認識するための機能的なシステムであるということを意味しない。機械的刺激が脳に認識される神経インパルスに翻訳されるように、機能的な感覚有毛細胞は機能可能に神経経路に連結されなければならない。従って、有毛細胞の発生の検出はatonal関連核酸配列の標的組織への首尾よい発現を検出するのに適切であるが、対象認知の検査は感覚的知覚における変化のよりよい指標である。
【0012】
対象が音を検出する能力における変化は、音調テスト等が聴覚学者により一般に実施されているような、単純な聴力試験の実施により容易に達成される。たいていの哺乳類においては、異なる周波数に対する反応が感覚的知覚における変化を示している。ヒトにおいては、言語の理解もまた固有的である。例えば、対象は、発話が理解不能でいながら聞くことが可能である。知覚における変化は、例えば背景雑音から言語を分別する等の異なる種類の音響刺激を識別し得ることおよび発話を理解することにより示される。言語閾値および弁別テストは、このような評価に有用である。
【0013】
平衡感覚、動作認知、および/または動作刺激に反応する時間における変化の評価もまた、様々な技法を用いてなされる。前庭機能もまた、動作刺激に反応する大きさ(増幅率)または反応が開始する時期(位相)を比較することにより測定し得る。感覚的知覚における改善を評価するために、強膜探りコイルを用いた前庭動眼反射(VOR)増幅率および位相について動物を試験し得る。電気眼振計(ENG)は、例えば、動くまたは点滅する光、体の再配置、半規管内の体液の動き等の刺激に反応する眼球の動きを記録する。回転いすまたは移動台を用いた動作の間の平衡感覚の評価もまたこの点において有用である。
【0014】
感覚的知覚の変化を検出するために、任意の適切な官能テストを用い、基準値を本発明の方法の前に記録する。本発明の方法の後の適切な期間に(例えば、本発明の方法の後1時間、6時間、12時間、18時間、1日、3日、5日、7日、14日、21日、28日、2ヶ月、3ヶ月またはそれ以上)対象を再評価し、その結果を基準の結果と比較して感覚的知覚の変化を測定する。
【0015】
処置方法
本発明の方法は、刺激の知覚を可能とする感覚有毛細胞の発生を促す。理想的には、本発明の方法は、少なくとも1つの感覚有毛細胞の喪失、損傷、欠如に関連する疾患、例えば難聴および平衡障害の動物を予防的または治療的に処置する。難聴は、バクテリアまたはウイルス感染、遺伝、肉体的損傷、音響外傷等によるコルチ器の有毛細胞の損傷により起こり得る。難聴が簡単に確認されるのに対し、平衡障害は容易に他の病気に原因を帰し得る広い種類の合併症が現れる。平衡障害の症状には、失見当、めまい(dizziness)、めまい(vertigo)、吐き気、視力障害、不器用(clumsiness)、および頻繁な転倒(frequent falls)がある。本発明の方法により処置される平衡障害は、好ましくは、感覚有毛細胞の損傷または欠乏による機械的刺激の神経インパルスへの翻訳機能異常を含む、周辺的な前庭障害(すなわち、前庭器における攪乱)を含む。
【0016】
「予防」とは、全部または一部として、有毛細胞の機能異常(または欠如)に関連する疾患、具体的には難聴または平衡障害に対する防御を意味する。「治療」は、疾患の改善、それ自体を意味し、望ましくは全部または一部として、疾患のさらなる進行に対する、例えば、進行性の難聴、予防を意味する。当業者は、難聴または平衡失調のような疾患のいかなる程度の防御、または改善も患者に有益であることを理解するであろう。
【0017】
該方法は、機能的な感覚有毛細胞の欠乏または損傷に関連する、急性および持続性どちらの、進行性疾患の治療においても有用である。急性疾患に対して、atonal関連因子(または任意の有毛細胞分化因子)をコードする核酸配列を含む発現ベクターを、短期間内に1回適用または複数回の適用により投与することができる。持続性疾患、例えば難聴、または感覚有毛細胞の大量の喪失から生じる疾患に対しては、多数回の発現ベクターの投与が、治療的効果を実現するのに必要かもしれない。
【0018】
発現ベクター
当業者は、当技術分野で公知の多くの発現ベクターのいずれかが、内耳に核酸配列を導入するのに適切であると理解するであろう。適切な発現ベクターの例として、例えば、プラスミド、プラスミド−リポソーム複合体、およびウイルスベクター、例えば、パルボウイルスをベースとするベクター(すなわち、アデノ随伴ウイルス(AAV)をベースとするベクター)、レトロウイルスベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)をベースとするベクター、AAV−アデノウイルスキメラベクター、およびアデノウイルスをベースとするベクターが挙げられる。これらの発現ベクターのいずれもが、(例えば、Sambrook et al. , Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 2d edition, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N. Y. (1989)、およびAusubel et al., Current protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons, New York, N. Y. (1994)に記載されている)標準的な組換えDNA技術を用いて調製することができる。
【0019】
遺伝子操作した環状二本鎖DNA分子であるプラスミドを、内耳に核酸配列を送達するための発現カセットを含むように設計することができる。プラスミドは、治療核酸の投与用に記述された最初のベクターであったが、トランスフェクション効率のレベルは他の技法と比べて低い。プラスミドをリポソームと複合することにより、一般に遺伝子導入効率は良くなる。プラスミドを介する遺伝子導入法に使用されるリポソームは様々な組成物を有するが、通常は合成陽イオン性脂質である。プラスミド−リポソーム複合体の利点には、治療核酸をコードする大きな断片のDNAを導入し得ることと、比較的免疫原性が低いことが挙げられる。プラスミドはまた米国特許第6,165, 754号に記載されるように改変して導入遺伝子発現を持続させることができる。プラスミドを用いた耳における導入遺伝子の発現は記載されている(例えば、Jero et al., Human Gene Therapy, 12, 539-549 (2001)参照)。プラスミドは本発明の方法に用いるのに適しているが、好ましくは発現ベクターは、ウイルスベクターである。
【0020】
AAVベクターは遺伝子治療プロトコルに用いるのに特に興味深いウイルスベクターである。AAVはDNAウイルスであり、ヒトの病気を引き起こすことは知られていない。AAVは効果的な複製のために、ヘルパーウイルス (すなわち、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス) との共感染、またはヘルパー遺伝子の発現を必要とする。治療核酸の投与に用いられるAAVベクターは、DNA複製およびパッケージングの認識シグナルを含む末端反復(ITRs)のみが残るように親ゲノムのおよそ96%を欠失させている。これにより、ウイルス遺伝子の発現による免疫学的または毒性学的な副作用が排除される。インテグレートAAVゲノムを含む宿主細胞は、細胞増殖や形態における変化を示さない (例えば、米国特許 4,797, 368参照)。効果的ではあるが、ヘルパーウイルスまたはヘルパー遺伝子が必要であることは該ベクターの普及の障害となり得る。
【0021】
レトロウイルスは、多種多様な宿主細胞に感染することができるRNAウイルスである。感染すると、レトロウイルスゲノムはその宿主細胞のゲノムにインテグレートされ、宿主細胞DNAとともに複製され、それにより絶えずウイルスRNAおよびレトロウイルスゲノムに組み込まれている任意の核酸配列を産生する。病原性レトロウイルス、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはヒトT細胞リンパ球向性ウイルス(HTLV)を用いる場合、ウイルスゲノムを変化させて毒性を除去することに注意しなくてはならない。レトロウイルスベクターはまた、ウイルス複製不能になるように操作することができる。従って、レトロウイルスベクターは、インビボでの安定な遺伝子導入に特に有用であると考えられている。例えばHIVをベースとするベクター等のレンチウイルスベクターは、遺伝子送達に用いられるレトロウイルスベクターの典型である。他のレトロウイルスと異なり、HIVをベースとするベクターはそのパッセンジャー遺伝子を非分裂細胞に組み込むことが知られており、それゆえ、感覚細胞が再生しない内耳の感覚上皮において特に有用である。
【0022】
HSVをベースとするウイルスベクターは、標的細胞の形質導入のために内耳に核酸を導入するための発現ベクターとして用いるのに適している。成熟HSVウイルス粒子は、152kbの線状の二本鎖DNA分子からなるウイルスゲノムを有する包被された正20面体のカプシドからなる。たいていの複製欠損HSVベクターは、複製を妨げるために1以上の中間初期遺伝子を除去する欠失を含む。ヘルペスベクターの利点は、長期のDNA発現をもたらし得る潜伏状態に入る能力、および25kbまでの外因性のDNAを収容しうるその大きなウイルスDNAゲノムである。当然、該能力はまた、短期間の治療計画という観点では欠点である。本発明の方法に使用するのに適切なHSVをベースとするベクターの説明として、例えば、米国特許5, 837, 532、5, 846, 782、5, 849,572、および5, 804, 413、ならびに国際特許出願WO 91/02788、WO 96/04394、WO 98/15637、およびWO 99/06583参照。
【0023】
アデノウイルス(Ad)は36kbの二本鎖DNAウイルスであり、インビボで様々な異なる標的細胞種に効率的にDNAを導入する。本発明の方法に使用するために、好ましくはウイルスの複製に必要な選択遺伝子を欠失させることにより、ウイルスを複製欠損にする。保存に値しない複製に必須でないE3領域もまた、より大きなDNAインサートのためのさらなる余地を作るために頻繁に欠失される。該ベクターは高い抗体価で産生され得、複製および非複製細胞に効率的にDNAを導入することができる。アデノウイルスベクターにより細胞に導入された遺伝情報は、染色体外にとどまり、よってそのランダムな挿入突然変異のリスクおよび標的細胞の遺伝子型の恒久的な変化を排除している。しかしながら、所望であれば、AAV−Adキメラベクターを構築することにより、AAVの組み込み特性をアデノウイルスに付与することができる。例えば、アデノウイルスベクターに組み込まれたAAV ITRsおよびRepタンパク質をコードする核酸は、アデノウイルスベクターが哺乳類細胞のゲノムにインテグレートすることを可能にする。したがって、AAV−Adキメラベクターは、本発明において用いるのに興味深い選択肢である。
【0024】
好ましくは、本発明の方法の発現ベクターはウイルスベクターであり;より好ましくは、発現ベクターはアデノウイルスベクターである。本発明のアデノウイルスベクターのウイルスゲノム源として、任意の起源のアデノウイルス、任意のサブタイプ、サブタイプの混合物、または任意のキメラアデノウイルスが用いられ得る。好ましくは、ヒトアデノウイルスが複製欠損アデノウイルスベクターのウイルスゲノム源として用いられる。アデノウイルスはいかなる亜群または血清型のものであってもよい。例えば、アデノウイルスは亜群A(例えば、血清型12、18、および31)、亜群B(例えば、血清型3、7、11、14、16、21、34、35、および50)、亜群C(例えば、血清型1、2、5、および6)、亜群D(例えば、血清型8、9、10、13、15、17、19、20、22−30、32、33、36−39、および42−48)、亜群E(例えば、血清型4)、亜群F(例えば血清型40および41)、分類されていない血清群(例えば、血清型49および51)、またはいかなる他のアデノウイルス血清型のものであってもよい。アデノウイルス血清型1から51はAmerican Type Culture Collection(ATCC, Manassas, VA)から入手できる。好ましくは、アデノウイルスベクターは亜群C、特に血清型2またはいっそう望ましくは血清型5である。
【0025】
しかしながら、非C群アデノウイルス、および非ヒトアデノウイルスでさえ、内耳中の標的細胞にDNAを送達するための複製欠損アデノウイルス遺伝子導入ベクターを調製するため使用され得る。非C群アデノウイルス遺伝子導入ベクターの構築に用いられる好ましいアデノウイルスには、Adl2(A群)、Ad7およびAd35(B群)、Ad30およびAd36(D群)、Ad4(E群)、ならびにAd41(F群)が挙げられる。非C群アデノウイルスベクター、非C群アデノウイルスベクターの製造方法、および非C群アデノウイルスベクターの使用方法は、例えば、米国特許5,801, 030、5, 837,511、および5,849, 561,ならびに国際特許出願WO 97/12986およびWO 98/53087に開示されている。好ましい非ヒトアデノウイルスとして、限定されないが、サル (例えば、SAV25)、ウシ、イヌ、ブタアデノウイルスが挙げられる。
【0026】
アデノウイルスベクターは好ましくは複製欠損である。「複製欠損」とは、アデノウイルスベクターが少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能を欠くアデノウイルスゲノムを含むことを意味する(すなわち、これによりアデノウイルスベクターは、通常の宿主細胞、特に本発明に従う治療の過程でアデノウイルスベクターに感染し得るであろうヒト患者における細胞において複製しない)。ここで使用される遺伝子、遺伝子機能、あるいは遺伝子領域またはゲノム領域における欠損は、その核酸配列の全部または一部が欠失した遺伝子の機能を減退または破壊する、ウイルスゲノムの十分な遺伝物質の欠失と定義される。遺伝物質の欠失が好ましいが、付加または置換による遺伝物質の変異もまた、遺伝子機能破壊に適切である。複製に必須な遺伝子機能は、複製(例えば、増殖)に必要な遺伝子機能であり、例えば、アデノウイルス初期領域(例えば、E1、E2、およびE4領域)、後期領域(例えば、L1−L5領域)、ウイルスパッケージングに関与する遺伝子(例えば、IVa2遺伝子)、およびウイルス関連RNAs(例えば、VA−RNA1および/またはVA−RNA−2)によりコードされている。より好ましくは、複製欠損アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの1以上の領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能を欠損したアデノウイルスゲノムを含む。好ましくは、アデノウイルスベクターは、ウイルス複製に必要なアデノウイルスゲノムのE1領域またはE4領域の少なくとも1つの遺伝子機能が欠損している(E1−欠損アデノウイルスベクターまたはE4−欠損アデノウイルスベクターと示す)。E1領域における欠損に加えて、組換えアデノウイルスはまた、国際特許出願WO 00/00628に論じられているように、主要後期プロモーター(MLP)に変異を有することができる。最も好ましくは、アデノウイルスベクターはE1領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能(望ましくは全ての複製に必須な遺伝子機能)および必須でないE3領域の少なくとも一部(例えば、E3領域のXba I欠失)が欠損している(E1/E3−欠損アデノウイルスベクターと示す)。E1領域に関して、アデノウイルスベクターは、E1A領域の一部または全ておよびE1B領域の一部または全て、例えば、E1AおよびE1B領域それぞれの少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能を欠損し得る。アデノウイルスベクターがアデノウイルスゲノムの1つの領域における少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能を欠損する場合(例えば、E1−またはE1/E3−欠損アデノウイルスベクター)、該アデノウイルスベクターを、「単複製欠損」という。
【0027】
本発明のアデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの2以上の領域のそれぞれにおいて1以上の複製に必須な遺伝子機能が欠損していることを意味する「多重複製欠損」であってよい。例えば、前述のE1−欠損またはE1/E3−欠損アデノウイルスベクターは、E4領域(E1/E4−またはE1/E3/E4−欠損アデノウイルスベクターと示す)、および/またはE2領域(E1/E2−またはE1/E2/E3−欠損アデノウイルスベクターと示す)、好ましくはE2A領域(E1/E2A−またはE1/E2A/E3−欠損アデノウイルスベクターと示す)の少なくとも一つの複製に必須な遺伝子機能をさらに欠損させることができる。理想的には、アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの初期領域にコードされる複製に必須な遺伝子機能のみの複製に必須な遺伝子機能を欠乏しているが、しかしながらこれは本発明のすべての状況において必要というわけではない。好ましい多重欠損アデノウイルスベクターは、E1領域のヌクレオチド457−3332、E3領域のヌクレオチド28593−30470、E4領域のヌクレオチド32826−35561、および、任意で、VA−RNA1をコードする領域のヌクレオチド10594−10595の欠失を有するアデノウイルスゲノムを含む。しかしながら、他の欠失が適切かもしれない。ヌクレオチド356−3329または356−3510は、複製に必須なE1遺伝子機能における欠損を生み出すために除去され得る。ヌクレオチド28594−30469はアデノウイルスゲノムのE3領域から欠失させ得る。上に列挙した特定のヌクレオチドの指定はアデノウイルス血清型5ゲノムに対応するが、非血清型5アデノウイルスゲノムにについて対応するヌクレオチドは、当業者であれば容易に確定することができる。
【0028】
アデノウイルスベクターは、特にE1およびE4領域の複製に必須な遺伝子機能において多重複製欠損の場合、好ましくは単複製欠損アデノウイルスベクター、特にE1−欠損アデノウイルスベクターでなされるのと同様に、相補細胞株におけるウイルス増殖を提供するためのスペーサーエレメントを含む。スペーサーエレメントは、所望の長さのいかなる1または複数の配列を含むことができ、例えば配列は少なくとも約15塩基対(例えば、約15塩基対と約12,000塩基対の間)、好ましくは約100塩基対〜約10,000塩基対、より好ましくは約500塩基対〜約8,000塩基対、いっそう好ましくは約1,500塩基対〜約6,000塩基対、最も好ましくは約2,000〜約3,000塩基対の長さである。スペーサーエレメント配列は、アデノウイルスゲノムに関しコーディングまたは非コーディングおよび生来または非生来であり得るが、欠損領域の複製に必須な機能を回復させない。アデノウイルスベクターにおけるスペーサーの使用は、米国特許5,851, 806に記載されている。本発明の方法の一実施態様では、複製欠損または条件つきで複製するアデノウイルスベクターは、L5ファイバー領域は保持されており、スペーサーがL5ファイバー領域と右側ITRの間に位置しているE1/E4−欠損アデノウイルスベクターである。より好ましくは、このようなアデノウイルスベクターにおいて、E4ポリアデニル化配列は単独で存在するか、あるいは、最も好ましくは、他の配列と組み合わせて、L5ファイバー領域と右側ITRの間に存在し、保持されたL5ファイバー領域を右側ITRから十分に隔てるようにしており、そうすることで、このようなベクターのウイルス産生は、単複製欠損アデノウイルスベクター、特にE1−欠損アデノウイルスベクターのそれと近づく。
【0029】
アデノウイルスベクターは、アデノウイルスゲノムの初期領域のみ、アデノウイルスゲノムの後期領域のみ、およびアデノウイルスゲノムの初期および後期領域の両方の複製に必須な遺伝子機能を欠損していてもよい。アデノウイルスベクターはまた、実質的に全アデノウイルスゲノムが除去されてもよく、そのような場合において少なくともウイルス逆位末端反復(ITRs)および1以上のプロモーターか、ウイルスITRsおよびパッケージングシグナル(すなわち、アデノウイルス単位複製配列)のどちらかは損なわれていないことが好ましい。ITRsおよびパッケージング配列を含むアデノウイルスゲノム5’または3’領域 は、ウイルスゲノムの残りと同じアデノウイルス血清型由来である必要はない。例えば、アデノウイルス血清型5ゲノムの5’領域(すなわち、5’からアデノウイルスE1領域のゲノム領域)を、アデノウイルス血清型2ゲノムの相当する領域で置換(例えば、5’からアデノウイルスゲノムのE1領域のAd5ゲノム領域をAd2ゲノムのヌクレオチド1−456で置換)してもよい。多重複製欠損アデノウイルスベクターを含む、適切な複製欠損アデノウイルスベクターは、米国特許5,837, 511、5, 851, 806、および5,994, 106、米国公開特許出願2001/0043922 Al、2002/0004040 Al、2002/0031831 Al、および2002/0110545 Al、ならびに国際特許出願WO 95/34671、WO 97/12986、およびWO 97/21826に開示されている。理想的には、複製欠損アデノウイルスベクターは、実質的に複製能のあるアデノウイルス(RCA)の混入がない医薬組成物(例えば、医薬組成物は約1%未満のRCA混入を含む)中に存在する。最も望ましくは、該医薬組成物はRCAの混入がない。RCAの混入がないアデノウイルスベクター組成物およびストックは、米国特許5, 944, 106および6, 482, 616、米国公開特許出願2002/0110545 Al、ならびに国際特許出願WO 95/34671に記載されている。
【0030】
したがって、好ましい実施態様において、本発明の方法の発現ベクターは、E1領域の全てまたは一部、E3領域の全てまたは一部、E4領域の全てまたは一部、および、任意で、E2領域の全てまたは一部を欠く多重複製欠損アデノウイルスベクターである。多重欠損ベクターは、耳に外因性の核酸配列を送達するのに特に適していると信じられている。E1領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能が欠損したアデノウイルスベクターは、インビボでの遺伝子導入に最も一般的に用いられている。しかしながら、現在用いられている単複製欠損アデノウイルスベクターは、内耳上皮の感受性細胞に有害で、治療すべきまさにその細胞に損傷を生じさせ得る。E4領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能に欠損のあるアデノウイルスベクター、特にE4領域およびE1領域の複製に必須な遺伝子機能に欠損のあるアデノウイルスベクターは、E1−欠損アデノウイルスベクターよりも細胞に対し低毒性である(例えば、Wang et al., Nature Medicine, 2 (6), 714-716 (1996)および米国特許6, 228, 646参照)。従って、現存する有毛細胞および支持細胞の損傷は、atonal関連因子をコードする核酸配列を内耳細胞に送達するのにE1、E4−欠損アデノウイルスベクターを用いることにより最小限にすることができる。
【0031】
この点において、少なくともE4を欠損するアデノウイルスベクターは、インビボで限られた時間内で導入遺伝子を高レベルで発現し、少なくともE4を欠損するアデノウイルスベクター中の導入遺伝子の発現の持続性は、トランス活性化因子、例えば、特にHSV ICP0、Ad pTP、CMV−IE2、CMV−IE86、HIV tat、HTLV−tax、HBV−X、AAV Rep 78、HSV ICP0のように機能するU205骨肉腫細胞株由来の細胞因子、または神経成長因子により誘導されるPC12細胞の細胞因子の作用を介して調節され得ることが観察されている。上記を考慮して、多重欠損アデノウイルスベクター(例えば、少なくともE4を欠損するアデノウイルスベクター)または第二の発現ベクターは、例えば、米国特許6,225, 113、6, 660,521、および6,649, 373、ならびに国際特許出願WO 00/34496に記載されているように、atonal関連因子をコードする核酸配列の発現の持続性を調節するトランス活性化因子をコードする核酸配列を含む。
【0032】
複製欠損アデノウイルスベクターは、通常は、高抗体価のウイルスベクターストックを生みだすために、複製欠損アデノウイルスベクターに存在しないが、ウイルス増殖に必要である遺伝子機能を適切なレベルで提供する相補細胞株中で産生される。好ましい細胞株は、複製欠損アデノウイルスに存在しない少なくとも1の、好ましくは全ての複製に必須な遺伝子機能を相補する。相補細胞株は、初期領域、後期領域、ウイルスパッケージング領域、ウイルス関連RNA領域、またはそれらの組み合わせにコードされ、全てのアデノウイルス機能(例えば、アデノウイルス単位複製配列の増殖を可能とする) を含む少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能の欠損を相補し得る。最も好ましくは、相補細胞株はアデノウイルスゲノムのE1領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能(例えば、2以上の複製必須遺伝子機能)の欠損、特にE1AおよびE1B領域のそれぞれの複製に必須な遺伝子機能の欠損を相補する。さらに、相補細胞株はアデノウイルスゲノムのE2(特にアデノウイルスDNAポリメラーゼおよび末端タンパク質に関する)および/またはE4領域の少なくとも一つの複製に必須な遺伝子機能における欠損を相補し得る。望ましくは、E4領域の欠損を相補する細胞は、E4−ORF6遺伝子配列を含み、E4−ORF6タンパク質を産生する。このような細胞は、望ましくは少なくともORF6を含み、アデノウイルスゲノムのE4領域の他のORFを含まない。細胞株は好ましくは、アデノウイルスベクターと重複しないように相補遺伝子を含むことを特徴とし、そのことはベクターゲノムが細胞のDNAと組換えする可能性を最小限にし、事実上は排除する。従って、複製能のあるアデノウイルス(RCA)の存在は、ベクターストックにおいて避けられないまでも最小限にされ、したがって、それはある治療目的、特に遺伝子治療目的に適切である。ベクターストックにおけるRCAの欠乏は、非相補細胞におけるアデノウイルスベクターの複製を回避する。このような相補細胞株の構築は、標準的な分子生物学および細胞培養技術を含み、例えばSambrook et al., Molecular Cloning, a Laboratory Manual, 2d edition, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N. Y. (1989)、およびAusubel et al., Current protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates and John Wiley & Sons, New York, N. Y. (1994)に記載されている。
【0033】
アデノウイルスベクターを製造するための相補細胞株は、限定されないが、293細胞(例えば、Graham et al., J. Gen. Virol., 36, 59-72 (1977)に記載)、PER.C6細胞(例えば、国際特許出願WO 97/00326、ならびに米国特許5,994, 128および6,033, 908に記載)、および293−ORF6細胞(例えば、国際特許出願WO 95/34671およびBrough et al., J. Virol., 71, 9206-9213 (1997)に記載)が挙げられる。場合によっては、相補細胞は、全ての必要なアデノウイルス遺伝子機能を相補しないだろう。ヘルパーウイルスを用いて、アデノウイルスベクターの複製を可能とするための、細胞またはアデノウイルスゲノムにコードされていない遺伝子機能をトランスで提供することができる。アデノウイルスベクターは、例えば、米国特許5, 965, 358、5, 994, 128、6, 033, 908、6, 168, 941、6, 329, 200、6, 383, 795、6, 440, 728、6, 447, 995、および6, 475, 757、米国特許出願公開No. 2002/0034735 Al、ならびに国際特許出願WO 98/53087、WO 98/56937、WO 99/15686、WO 99/54441、WO 00/12765、WO 01/77304、およびWO 02/29388、並びにここで特定される他の引例に示される材料および方法を用いて構築、増殖、および/または精製され得る。アデノウイルス血清型35ベクターを含む非C群アデノウイルスベクターは、例えば、米国特許5, 837, 511および5, 849, 561、ならびに国際特許出願WO 97/12986およびWO 98/53087に示される方法を用いて産生され得る。さらに、多くのアデノウイルスベクターが市販されている。
【0034】
アデノウイルスベクターの外殻タンパク質は、野生型外殻タンパク質に対する中和抗体により認識されるアデノウイルスベクターの能力または不能力を減退させるように改変することができる。このような改変は、複数回の投与に有用である。同様に、アデノウイルスベクターの外殻タンパク質を操作して、可能性のある宿主細胞上のウイルス受容体に対するアデノウイルスベクターの結合特異性または認識を変化させることができる。このような操作としては、ファイバー、ペントン、ヘキソン、pIIIa、pVI、および/またはpIX領域の欠失または置換、様々な生来または非生来リガンドの外殻タンパク質の部分への挿入等が挙げられる。外殻タンパク質の操作は、アデノウイルスベクターにより感染する細胞の範囲を拡大し、またはアデノウイルスベクターの特異的な細胞種への標的化を可能とする。アデノウイルスベクターが可能性のある宿主細胞を認識する能力は、外殻タンパク質を遺伝子操作せずに、すなわち、二重特異性分子の使用を介して、調節することができる。例えば、アデノウイルスをペントンベース−またはファイバー−結合ドメインおよび特定の細胞表面結合サイトに選択的に結合するドメインを含む二重特異性分子と複合体化することにより、アデノウイルスベクターの特定の細胞種への標的化が可能となる。
【0035】
好ましくは、アデノウイルスカプシドは、非生来アミノ酸配列を提示するように改変される。非生来アミノ酸配列は、内部の外殻タンパク質配列(例えば、アデノウイルスファイバータンパク質の露出したループ内に)中にまたはその代わりに挿入されるか、アデノウイルス外殻タンパク質の末端に融合(例えば、任意でリンカーまたはスペーサー配列を用いてアデノウイルスファイバータンパク質のC−末端に融合)され得る。非生来アミノ酸配列は、任意のアデノウイルス外殻タンパク質に共役させてキメラ外殻タンパク質を形成させ得る。したがって、例えば、本発明の非生来アミノ酸配列は、ファイバータンパク質、ペントンベースタンパク質、ヘキソンタンパク質、タンパク質IX、VI、またはIIIa等に共役、挿入、または付着し得る。このようなタンパク質の配列、およびこれらを組換えタンパク質に使用する方法は、当技術分野でよく知られている(例えば、米国特許5,543, 328;5,559, 099;5, 712, 136;5, 731, 190;5, 756, 086;5, 770, 442;5, 846, 782;5, 962, 311;5, 965, 541;5, 846, 782;6, 057, 155;6, 127, 525;6,153, 435;6, 329, 190;6, 455, 314;6,465, 253;および6, 576, 456;米国特許出願公開2001/0047081および2003/0099619;ならびに国際特許出願WO 96/07734、WO 96/26281、WO 97/20051、WO 98/07877、WO 98/07865、WO 98/40509、WO 98/54346、WO 00/15823、WO 01/58940、およびWO 01/92549参照)。キメラ外殻タンパク質の外殻タンパク質部分は、リガンドドメインが付加される全長アデノウイルス外殻タンパク質であってもよく、あるいは、例えば、内側でまたはC−および/またはN−末端で切り詰められていてもよい。外殻タンパク質部分は、それ自体、アデノウイルスベクター生来のものである必要はない。
【0036】
リガンドがファイバータンパク質に付着する場合、それはウイルスタンパク質間、すなわちファイバーモノマー間の相互作用を妨げないことが好ましい。従って、非生来アミノ酸配列は、アデノウイルスファイバーの三量体化ドメインと不利に相互作用し得るので、それ自身がオリゴマー化ドメインではないことが好ましい。 好ましくはリガンドは、ウイルス粒子タンパク質に付加され、基質に対して非生来アミノ酸配列を最大限に提示すべく容易に基質に対して暴露されるように(例えば、タンパク質のN−またはC−末端で、基質に面した残基に付着させて、基質と接触するペプチドスペーサー上に位置させて等)組み込まれる。理想的には、非生来アミノ酸配列を、ファイバータンパク質のC−末端で(およびスペーサーを介して付着させて)アデノウイルスファイバータンパク質に組み込むか、ファイバーの露出したループ(例えば、HIループ)に組み込んで、キメラ外殻タンパク質を生み出す。非生来アミノ酸配列がペントンベースの一部に付着するか、それと置換される場合、好ましくは、それは基質に接触するのを確かなものとするために超可変領域内にある。非生来アミノ酸配列がヘキソンに付着する場合、好ましくは、それは超可変領域内にある(Miksza et al., J. Virol., 70 (3), 1836-44 (1996))。アデノウイルス粒子の表面から離れて非生来アミノ酸配列を伸ばすためにスペーサー配列を使用することは、非生来アミノ酸配列が受容体への結合により利用でき、非生来アミノ酸配列とアデノウイルスファイバーモノマーの間のいかなる立体的相互作用も低減されるという点で有利となり得る。
【0037】
非生来リガンドを含むキメラウイルス外殻タンパク質は、該外殻タンパク質を含むウイルス、すなわち、アデノウイルス、ベクターが、キメラウイルス外殻タンパク質ではなく野生型ウイルス外殻タンパク質を含むこと以外は同一であるベクターの細胞侵入よりも効率よく、細胞に侵入することを指示できることが望ましい。好ましくは、キメラウイルス外殻タンパク質は、野生型外殻タンパク質を含むベクターにより認識されないか、認識されにくい、細胞表面に存在する新規の内因性の結合サイトに結合する。
【0038】
さらに、アデノウイルスカプシドタンパク質を改変して、生来のアデノウイルス受容体(すなわち、野生型アデノウイルスが結合する受容体)への結合低減または除去することができる。具体的には、コクサッキーおよびアデノウイルス受容体(CAR)と相互作用するアデノウイルスファイバータンパク質の部分を、欠失、 置換、ファイバータンパク質内の再配置等により変異させることができ、これによってアデノウイルスファイバータンパク質はCARに結合しなくなる。同様に、インテグリンと相互作用するアデノウイルスペントンタンパク質の部分を改変して、生来のインテグリン結合を除去することができる。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの生来の結合および形質導入を減らすために、細胞侵入を媒介するアデノウイルス外殻タンパク質、例えば、ファイバーおよび/またはペントンベース上に位置する生来の結合サイトは欠損または破壊される。2以上のアデノウイルス外殻タンパク質が、細胞表面への接着を媒介すると考えられている(例えば、ファイバーおよびペントンベース)。宿主細胞(例えば、中皮細胞または肝細胞)への生来の結合を変化させる任意の適切な手法が用いられる。例えば、生来の細胞への結合を除去するように異なるファイバー長を利用することは、ペントンベースまたはファイバーノブへの結合配列の付加を介して達成され得る。この付加は、二重特異性または多重特異性結合配列を介して直接的または間接的のどちらかでなされ得る。あるいは、アデノウイルスファイバータンパク質を改変して、ファイバーシャフトにおけるアミノ酸の数を減らすことができ、それにより「短シャフト化」ファイバーを生み出す(例えば、米国特許5,962, 311に記載のとおり)。いくつかのアデノウイルス血清型のファイバータンパク質は、自然に他のものより短く、これらのファイバータンパク質を生来のファイバータンパク質と置き換えるのに用いてアデノウイルスのその生来の受容体との生来の結合を低減することができる。例えば、血清型5アデノウイルス由来のアデノウイルスベクターの生来のファイバータンパク質を、アデノウイルス血清型40または41由来のファイバータンパク質に入れ替えることができる。
【0039】
この点において、アデノウイルスベクターを、異なる血清型のアデノウイルス由来アデノウイルス外殻タンパク質(例えば、ファイバー、ペントン、またはヘキソンタンパク質)を含むように改変することができる。例えば、アデノウイルス血清型5アデノウイルスを、アデノウイルス血清型35ファイバーを提示するように改変することができ、それは、同様に、 任意で1以上の非生来アミノ酸リガンドを含むことができる。自然には内耳の細胞種に感染しないアデノウイルスベクターを、特定の細胞種に該ベクターをターゲッティングするのに利用することが可能である。あるいは、内耳の細胞に自然に形質導入するアデノウイルスベクターを、標的細胞に対する自然の向性がないアデノウイルス由来のアデノウイルスファイバータンパク質および/またはアデノウイルスペントンベースを提示するように改変することができ、このようなアデノウイルスベクターは標的細胞の形質導入を可能とする非生来アミノ酸配列を提示することができる。
【0040】
他の実施態様において、生来の基質結合に関連する核酸残基を変異させることにより(例えば、国際特許出願WO 00/15823;Einfeld et al., J. Virol., 75(23), 11284- 11291 (2001);およびvan Beusechem et al. , J. Viol., 76 (6), 2753-2762 (2002)参照)変異した核酸残基を組み込んだアデノウイルスベクターが、その生来の基質に結合する能力を低下させることができる。例えば、アデノウイルス血清型2および5は、アデノウイルスファイバータンパク質のコクサッキーウイルスおよびアデノウイルス受容体(CAR)への結合およびペントンタンパク質の細胞表面上に位置するインテグリンへの結合を介して細胞に形質導入する。従って、本発明の方法の複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターは、CARへの生来の結合を欠き、および/またはインテグリンへの生来の結合の減少を呈することができる。複製欠損または条件つき複製アデノウイルスベクターの宿主細胞への生来の結合を減少させるため、生来のCARおよび/またはインテグリン結合サイト(例えば、アデノウイルスペントンベースに位置するRGD配列)は、除去または破壊される。
【0041】
アデノウイルス外殻タンパク質を改変することにより、結果として生じるアデノウイルスベクターが宿主の免疫系を回避する能力を増進することができる。一実施態様において、アデノウイルスベクターは、アデノウイルスベクターのCARおよび/またはインテグリンへの生来の結合を除去し、アデノウイルスカプシドに1以上の非生来リガンドを組み込むことにより、傷跡のある上皮細胞(例えば、内因性の、機能的な有毛細胞を欠落した上皮の領域)に選択的にターゲッティングされる。特異的な受容体を介した形質導入を媒介する適切なリガンドは、 慣用のライブラリーディスプレイ技術(例えばファージディスプレイ)を用いて決定することができ、例えば、EGFが結合するリガンドおよびFGFファミリーペプチド由来のリガンドが含まれる。非生来アミノ酸配列およびそれらの基質の他の例としては、限定されないが、短い(例えば、6アミノ酸以下の)直線状に伸びた、インテグリンに認識されるアミノ酸、並びに例えばポリリジン、ポリアルギニン等のようなポリアミノ酸配列が挙げられる。キメラアデノウイルス外殻タンパク質を生じるための非生来アミノ酸配列は米国特許6,455, 314および国際特許出願WO 01/92549にさらに記載されている。
【0042】
適切なアデノウイルスベクターの変異は米国特5,543,328、5,559,099、5,712,136、5,731,190、5,756,086、5,770,442、5,846,782、5,871,727、5,885,808、5,922,315、5,962,311、5,965,541、6,057,155、6,127,525、6,153,435、6,329,190、6,455,314、および6,465,253、米国公表出願2001/0047081 Al、2002/0099024 Al、および2002/0151027 Al、ならびに国際特許出願WO 96/07734、WO 96/26281、WO 97/20051、WO 98/07865、WO 98/07877、WO 98/40509、WO 98/54346、WO 00/15823、WO 01/58940、およびWO01/92549に記載されている。アデノウイルスベクターの構築は、当技術分野でよく理解されている。アデノウイルスベクターは、例えば、米国特許5,965,358、6,168,941、6,329,200、6,383,795、6,440,728、6,447,995および6,475,757,ならびに国際特許出願WO 98/53087、WO 98/56937、WO 99/15686、WO 99/54441、WO 00/12765、WO 01/77304、およびWO 02/29388、並びにここで特定した他の引例に示す方法を用いて構築および/または精製され得る。さらに、アデノウイルスベクターを含む多くの発現ベクターが市販されている。アデノ随伴ウイルスベクターは、例えば、米国特許 4,797,368およびLaughlin et al., Gene, 23,65-73 (1983) に示す方法を用いて構築および/または精製され得る。
【0043】
本発明の方法に用いる発現ベクターの選択は、例えば、宿主、ベクターの免疫原性、タンパク質産生の所望の持続期間、標的細胞等のような様々な因子に依存する。各種発現ベクターは異なる性質を持つので、本発明の方法はそれぞれの状況に応じてあつらわれ得る。さらに、2種類以上の発現ベクターが、標的細胞に核酸配列を導入するのに用いられ得る。したがって、本発明は動物の感覚的知覚を変化させる方法を提供し、ここで該方法は、それぞれatonal関連因子をコードする核酸配列および/または少なくとも一つの他の治療剤、例えば神経分化誘導剤、をコードする核酸配列を含む、少なくとも2つの異なる発現ベクターを内耳に投与することを含む。アデノウイルスベクターは効率的に支持細胞を形質導入し、HSVベクターは効率的にニューロンに形質導入するので、好ましくは、内耳の標的細胞、例えば、支持細胞をアデノウイルスベクターおよびHSVベクターと接触させる。当業者であれば、内耳の感覚疾患を治療または研究するのに、複数の送達系の有利な性質をフルに生かし得ると理解するだろう。
【0044】
atonal関連因子をコードする核酸配列
本発明の方法の発現ベクターは、atonal関連因子をコードする核酸を含む。atonal関連因子は、耳において支持細胞を感覚有毛細胞に分化形質転換する転写因子のファミリーである。atonal関連因子は、塩基性へリックス−ループ−へリックス(bHLH)ファミリーのタンパク質に属する転写因子である。該タンパク質の塩基性ドメインは、DNA結合およびタンパク質の機能を担っている。ショウジョウバエのbHLHタンパク質(ato)は、この昆虫の感覚器、特に弦音器官、の発達に関連する遺伝子を活性化する。atonal関連因子は、マウス(mouse atonal homolog 1 (Math1))、ニワトリ(chicken atonal homolog 1 (Cath1))、アフリカツメガエル(Xenopus atonal homolog 1 (Xath1))、およびヒト(human atonal homolog 1 (Hath1))を含む、多様な動物および昆虫において見られる。Math1はbHLHドメインにおいて塩基性ドメインが100%保存されているのを含め、atoと高い相同性があり(82%アミノ酸の相似)、マウスにおいて細胞運命を決定するのに機能する。Math1は、有毛細胞の発生に必須であり、耳における有毛細胞の再生を刺激し得るということが示されている。Math1はさらに、例えば、Ben-Arie et al., Human Molecular Genetics, 5, 1207-1216 (1996), Bermingham et al., Science, 284, 1837-1841 (1999), Zheng and Gao, Nature Neuroscience, 3 (2), 580-586 (2000), Chen et al., Development, 129, 2495-2505 (2002)において特性解析されている。Hath1はMath1のヒト同等物である。従って、atonal関連因子は支持細胞の感覚有毛細胞への分化を促すペプチドであり、Math1およびHath1のものに極めて類似している配列を有するアミノ酸配列を含む。atonal関連因子はさらに国際特許出願WO 00/73764に記載されており、その配列表はここは引用することにより組み込まれる(WO 00/73764 28ページ、12行、から29ページ、13行を参照)。望ましくは、atonal関連因子はMath1またはHath1である。
【0045】
したがって、本発明の核酸配列によりコードされるatonal関連因子は、望ましくはMath1のアミノ酸配列(配列番号1および2、ならびにGenBank Accession No. BAA07791, GI No. 994771)と少なくとも約50%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、支持細胞を感覚有毛細胞に分化形質転換する能力を有するタンパク質またはペプチドである。理想的には、Math1アミノ酸配列と比べて少なくとも約60%の相同性(例えば、少なくとも約65%、または少なくとも約70%の配列同一性)、好ましくは少なくとも約75%の配列同一性(例えば、少なくとも約80%、または少なくとも約85%の配列同一性)、最も好ましくは少なくとも約90%の配列同一性(例えば、少なくとも約95%の配列同一性)がある。Math1とHath1のアミノ酸配列は極めて類似しており、したがって、atonal関連因子はHath1のアミノ酸配列(配列番号3および4、およびGenBank Accession No. AAB41305.1, GI No. 1575355、ならびにWO 00/73764に開示されている)と少なくとも約50%の配列同一性(例えば、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%の配列同一性)を含み得、支持細胞を感覚有毛細胞に分化形質転換する能力を有する。核酸配列をみると、好ましくはatonal関連因子をコードしている核酸配列は、Math1遺伝子またはHath1遺伝子のコード配列(すなわち、該遺伝子に付随する調節配列のないMath1およびHath1タンパク質をコードしているMath1またはHath1遺伝子部分)あるいはMath1またはHath1タンパク質をコードするcDNAである。Math1およびHath1をコードする核酸配列は、ここでは配列番号6および7として提供され、また、GenBank Accession Nos. D43694(GI No. 994770)およびU61148(GI No. 1575354)として公然入手可能である。
【0046】
atonal関連因子をコードする核酸配列は、好ましくは国際特許出願WO 00/73764に記載されているものであるが、該核酸配列の多くの改変および変形(例えば、変異)が可能であり、本発明において適切である。例えば、遺伝子コードの縮重により、コードされるポリペプチドを変化させずに、コード配列および翻訳終止シグナルを通じてヌクレオチドの置換が可能である。このような置換可能な配列は、既知のatonal関連因子アミノ酸配列またはatonal関連因子をコードする核酸配列から推定することができ、慣用の合成法または部位特異的変異誘発法により構築することができる。合成DNA法は、Itakura et al., Science, 198, 1056-1063 (1977)、およびCrea et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75, 5765-5769 (1978)の手順に実質的に従って実行することができる。部位特異的変異誘発法は、Maniatis et al., Molecular Cloning : A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, NY (2d ed. 1989)に記載されている。あるいは、核酸配列は、得られるatonal関連因子が活性(すなわち、支持細胞を感覚有毛細胞に分化形質転換する能力)を保持する限り、タンパク質のN−またはC−末端のどちらかを伸長させたatonal関連ペプチドをコードすることができる。
【0047】
atonal関連因子の機能は、該タンパク質のへリックス−ループ−へリックス(HLH)部分、特にHLHドメインの塩基性領域に依存すると考えられている(Chien et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 93, 13239-13244 (1996))。従って、atonal関連因子アミノ酸配列の任意の改変は、望ましくは、タンパク質の塩基性ドメインの外側に位置し、それによって塩基性ドメインのアミノ酸配列は、Hath1アミノ酸配列のHLHドメインと少なくとも約50%の配列同一性(例えば、少なくとも約55%、少なくとも約60%、または少なくとも約65%の配列同一性)を有する。好ましくは、atonal関連因子またはその変異体もしくはフラグメントは、Hath1アミノ酸配列のHLHドメインと少なくとも約75%の配列同一性、より好ましくは少なくとも約85%の配列同一性、いっそう好ましくは少なくとも約90%の配列同一性(例えば、少なくとも約95%の配列同一性)を有する。また望ましくは、atonal関連因子アミノ酸配列の任意の改変は、望ましくは、該タンパク質の塩基性ドメインの外側に位置しており、それによって塩基性ドメインのアミノ酸配列は、Hath1アミノ酸配列の塩基性ドメインと少なくとも約50%の配列同一性 (例えば、少なくとも約55%、少なくとも約60%、または少なくとも約65%の配列同一性)、好ましくは少なくとも約70%の配列同一性 (例えば、少なくとも約75%、少なくとも約80%、または少なくとも約85%の配列同一性)、より好ましくは少なくとも約90%の配列同一性 (例えば、少なくとも約95%の配列同一性および好ましくは100%の同一性) を有する。また好ましくは、atonal関連因子のアミノ酸配列は、atonal関連因子の塩基性領域およびへリックス−ループ−へリックスモチーフの最初のへリックス領域(Jarman et al., Cell, 79, 1307-1321 (1993))を含むAANARERRRMHGLNHAFDQLR(配列番号:5)と少なくとも約75%の同一性(例えば、少なくとも約80%の同一性、少なくとも約85%の同一性、少なくとも約90%の同一性、または少なくとも約95%の同一性)を有する領域を含む。
【0048】
発現ベクター、例えば、ウイルスベクター(好ましくはアデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルスベクター)はまた、atonal関連因子の治療フラグメントをコードする核酸配列を含むことができる。当業者は、任意の転写因子、例えば、Math1またはHath1は改変または切り詰めることができ、また転写活性化活性を保持することが可能であることを理解するであろう。したがって、治療フラグメント(すなわち、例えば、転写を活性化するのに、十分な生物活性を有するフラグメント) もまた、発現ベクターに組み込むのに適切である。同様に、atonal関連因子またはその治療フラグメントと、例えば、ペプチド立体構造を安定化する部分とを含む融合タンパク質もまた発現ベクター中に存在し得る。機能的なatonal関連因子またはその治療フラグメントは、支持細胞を感覚有毛細胞へ分化形質転換し、それにより、望ましくは、動物が環境刺激を感知する能力における変化に影響する。
【0049】
アミノ酸同一性の程度は、当技術分野で公知の任意の方法、例えばBLAST 配列データベースを用いて決定することができる。さらに、タンパク質のホモログは該タンパク質に少なくとも中程度に、好ましくは高度に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ活性を保持するいかなるペプチド、ポリペプチド、またはその部分であってもよい。典型的な中程度にストリンジェントな条件としては、20%ホルムアミド、5×SSC(150 mM NaCl, 15 mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×Denhardt's 溶液、10%硫酸デキストラン、および20mg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中での37℃、一晩のインキュベーションとその後の1×SSC中約37−50℃でのフィルター洗浄、または実質的にそれと類似の条件、例えば、上述のSambrook et al.,に詳述されている中程度にストリンジェントな条件が挙げられる。高度にストリンジェントな条件は、例えば(1)洗浄に低イオン強度および高温度、例えば50℃で0.015M塩化ナトリウム/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、(2)ハイブリダイゼーションの間変性剤、例えば ホルムアミド、例えば、0.1%ウシ血清アルブミン(BSA)含有50%(v/v)ホルムアミド/0.1%フィコール/0.1%ポリビニルピロリドン(PVP)/750mM塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウム含有50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.5)を42℃で用い、または(3)42℃で50%ホルムアミド、5×SSC(0. 75 M NaCl, 0.075 M クエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×Denhardt's溶液、超音波分解したサケ精子DNA(50 g/ml)、0.1%SDS、および10%硫酸デキストランを用い、(i)0.2×SSC中42℃、(ii)50%ホルムアミド中55℃および(iii)0.1×SSC(好ましくはEDTAと組み合わせて)中55℃で洗浄する条件である。ハイブリダイゼーション反応のストレンジェンシーに関するさらなる詳細および説明は、例えば、上述のAusubel et al.,に示されている。
【0050】
核酸配列は、望ましくは発現カセットの部分、すなわち、核酸配列のサブクローニングおよび復元(例えば、1以上の制限部位)または核酸配列の発現(例えば、ポリアデニル化またはスプライス部位)を促進する機能を有する特定の塩基配列として存在する。発現ベクターがアデノウイルスベクターの場合、atonal関連因子をコードしている核酸配列は、アデノウイルスゲノムのE1領域に位置してよく(例えば、E1領域の全部または一部の置換)またはE4領域に位置してもよい。E4領域にある場合、スペーサー配列は必要としない。発現カセットは、好ましくは3’−5’方向に挿入され、例えば、それにより発現カセットの転写の方向が周囲のアデノウイルスゲノムのものと逆になるように方向付けられる。atonal関連因子をコードする核酸配列を含む発現カセットに加えて、アデノウイルスベクターは他の遺伝子産物をコードする核酸配列を含む他の発現カセットを含んでよく、該カセットはアデノウイルスゲノムの欠失領域のいずれかと置換可能である。発現カセットのアデノウイルスゲノム(例えば、ゲノムのE1領域)への挿入は、既知の方法、例えば、アデノウイルスゲノムの所定の位置にユニークな制限酵素認識部位を導入することにより促進され得る。上述のように、好ましくはアデノウイルスベクターのE3領域は欠失し、E4領域はスペーサーエレメントで置き換わっている。
【0051】
核酸配列は、発現に必要な調節配列、例えば、プロモーター、に機能可能に連結している。「プロモーター」はRNAポリメラーゼの結合を指示し、それによりRNA合成を促すDNA配列である。プロモーターが核酸配列の転写を指示することが可能である場合、該核酸配列はプロモーターに「機能可能に連結」する。プロモーターは、機能可能に連結する核酸配列に対し生来または非生来であり得る。いかなるプロモーターも(すなわち、天然に単離されたものであろうと組換えDNAまたは合成技術により産生されたものであろうと)、核酸配列の転写を提供するために本発明において使用され得る。プロモーターは好ましくは、真核生物 (望ましくは哺乳類)細胞における転写を指示することが可能である。プロモーターの機能は、1以上のエンハンサー(例えば、CMV前初期エンハンサー)および/またはサイレンサーの存在により変化させることが可能である。
【0052】
本発明は、好ましくはウイルスプロモーターを用いる。適したウイルスプロモーターは当技術分野で公知であり、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(例えばCMV前初期 プロモーター)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来プロモーター(例えばHIV長末端反復プロモーター)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター(例えばRSVロングターミナルリピート)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)プロモーター、HSVプロモーター(例えばLap2プロモーターまたはヘルペスチミジンキナーゼプロモーター(Wagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 78, 144- 145 (1981)))、SV40またはエプスタインバーウイルス由来プロモーター、アデノ随伴ウイルスプロモーター(例えばp5プロモーター)等が挙げられる。好ましくは、ウイルスプロモーターはアデノウイルスプロモーター(例えばAd2またはAd5主要後期プロモーターおよびトライパータイトリーダー)、CMVプロモーター(ネズミまたはヒト由来)、またはRSVプロモーターである。
【0053】
プロモーターはウイルスプロモーターである必要はない。例えば、プロモーターは細胞プロモーター、すなわち、細胞タンパク質の発現を駆動するプロモーターであり得る。本発明に用いる好ましい細胞プロモーターは治療物質を産生する所望の発現プロファイルに依存するであろう。一面においては、細胞プロモーターは、好ましくは多様な細胞種において機能する構成性プロモーターである。適切な構成性プロモーターは、転写因子、ハウスキーピング遺伝子、または真核生物細胞に共通する構造遺伝子をコードする遺伝子の発現を駆動することができる。例えば、Ying Yang 1(YY1)転写因子(NMP-1、NF-E1、およびUCRBPとも呼ばれる)は、核マトリックスの本質的な成分である固有的な核内転写因子である(Guo et al., PNAS, 92, 10526-10530 (1995))。JEM-1(HGMWおよびBLZF-1としても知られている;Tong et al., Leukemia, 12 (11), 1733-1740 (1998)、およびTong et al., Genomics, 69 (3), 380-390 (2000))、ユビキチンプロモーター、具体的にはUbC(Marinovic et al., J. Biol. Chem., 277 (19), 16673- 16681 (2002))、β−アクチンプロモーター(例えばニワトリ由来のもの)等が本発明の方法に用いるのに適切である。
【0054】
上述したプロモーターの多くは構成性プロモーターである。構成性プロモーターである代わりに、プロモーターは誘導性プロモーター、すなわち、適切なシグナルに応答してアップおよび/またはダウンレギュレートされるプロモーターであってもよい。例えば、適切な誘導性プロモーター系は、限定されないが、IL-8プロモーター、メタロチオネイン(metallothionine)誘導性プロモーター系、バクテリアlacZYA発現系、テトラサイクリン発現系、およびT7ポリメラーゼ系が挙げられる。さらに、異なる発生段階で選択的に活性化されるプロモーター(例えば、グロビン遺伝子は胚および成体においてグロビン関連プロモーターから示差的に転写される)が用いられ得る。核酸配列の発現を調節するプロモーター配列は、外因性の物質による調節に応答する少なくとも1つの異種の調節配列を含み得る。調節配列は、好ましくは外因性の物質、例えば、限定されないが、薬物、ホルモン、または他の遺伝子産物に応答する。例えば、調節配列(例えば、プロモーター)は、好ましくは、糖質コルチコイド受容体−ホルモン複合体に応答し、それが、今度は、治療ペプチドまたはその治療フラグメントの転写レベルを増進する。
【0055】
好ましくは、調節配列は組織特異的プロモーター、すなわち、所定の組織で選択的に活性化され、活性化された組織において遺伝子産物を発現するプロモーターを含む。本発明のベクターに用いる組織特異的プロモーターは、標的組織または細胞種に基づき当業者が選択し得る。適切なプロモーターは、限定されないが、BRN.3C、BRN 3.1、POU ORF3因子プロモーター、BRK1、BRK3、chordinプロモーター、nogginプロモーター、jagged1プロモーター、jagged2プロモーター、およびnotchlプロモーターが挙げられる。本発明の方法に用いる好ましい組織特異的プロモーターは、支持細胞または感覚有毛細胞に特異的であり、例えば有毛細胞において機能するatonalプロモーターまたはミオシンVIIaプロモーター、または支持細胞において機能するhes-1プロモーターである。理想的には、プロモーターは傷跡の残る上皮における導入遺伝子発現を促すものが選ばれる。
【0056】
プロモーターはまた、その特定の活性パターンを所望のタンパク質(例えば、atonal関連因子)の所望の発現パターンおよびレベルと照合することにより、本発明の方法に用いるために選択され得る。あるいは、複数のプロモーターの望ましい一面を兼ね備えるようにハイブリッドプロモーターを、構築することができる。例えば、CMVプロモーターの活性の初期の急増とRSVプロモーターの活性の高い維持レベルを兼ね備えたCMV-RSVハイブリッドプロモーターは、本発明の方法の多くの実施態様において用いるのに特に好ましい。また、研究者により操作され得る発現プロファイルをもつプロモーターを選択することも可能である。
【0057】
このような線に沿ってタンパク質産生を最適化するために、好ましくは核酸配列は、核酸配列のコード領域の後にポリアデニル化部位をさらに含む。合成の最適化された配列並びにBGH(ウシ成長ホルモン)、ポリオーマウイルス、TK(チミジンキナーゼ)、EBV(エプスタインバーウイルス)、ならびにヒトパピローマウイルスおよびBPV(ウシパピローマウイルス)を含むパピローマウイルスのポリアデニル化配列を含む、任意の適切なポリアデニル化配列が使用され得る。好ましいポリアデニル化配列は、SV40(ヒト肉腫ウイルス−40)ポリアデニル化配列である。また、好ましくは全ての適切な転写シグナル(および必要に応じて翻訳シグナル)は、正確に配置され、それによって核酸配列が導入された細胞内で適切に発現するようにする。所望であれば、核酸配列はまた、mRNA産生を促進するためのスプライス部位(すなわち、スプライスアクセプターおよびスプライスドナー部位)を組み込むことができる。さらに、核酸配列がプロセシングされるかまたは分泌されるタンパク質であるかあるいは細胞内で作用するタンパク質またはペプチドをコードしているなら、好ましくは該核酸配列は、プロセシング、分泌、細胞内局在、等に適切な配列をさらに含む。
【0058】
ある実施態様においては、atonal関連因子の発現を調節することが有利となり得る。核酸配列の発現を調節する特に好ましい方法は、発現ベクター上に部位特異的組換え部位を付加することを含む。部位特異的組換え部位を含む発現ベクターをリコンビナーゼと接触させることにより、組換え現象を通じ、コード配列の転写がアップまたはダウンレギュレートされ、または1つのコード配列の転写のアップレギュレーションと別のコード配列の転写のダウンレギュレーションが同時になされるだろう。核酸配列の転写を調節するための部位特異的組換えの使用は、例えば、米国特許5,801,030および6,063,627ならびに国際特許出願 WO 97/09439に記載されている。
【0059】
上記を考慮して、本発明はさらに、atonal関連因子(例えば、Math1またはHath1)またはその治療フラグメントをコードする核酸配列を含むアデノウイルスベクターを提供するが、ここで該核酸配列はatonal関連因子またはその治療フラグメントの発現に必要な調節配列に機能可能に連結している。アデノウイルスベクターは、少なくともE4領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝機能が欠損している。核酸配列は、例えば、自然のものから単離、合成的に生成、遺伝子操作した生物からの単離等の任意の起源から得られ得る。適切なアデノウイルスベクターおよび調節配列はここで論じられる。例えば、本発明はさらに、インビボで、分化した感覚上皮に有毛細胞を発生させる方法を提供する。該方法は、(a)E1領域、E4領域の1以上の複製に必須な遺伝子機能、および、任意に、E3領域の1以上の遺伝子機能を欠損し、(b)E4領域にスペーサーを含み、および(c)atonal関連因子をコードする核酸配列を含むアデノウイルスベクターと、分化した感覚上皮細胞を接触させることを含む。核酸配列は発現してatonal関連因子を産生し、そうして有毛細胞が発生する。アデノウイルスベクターを用いてインビボで有毛細胞を発生させることができるが(したがって聴覚疾患または平衡障害の予防的または治療的処置に有用である)、支持細胞の分化転換はインビトロで起こり得、したがって、研究方法に使われ得る。
【0060】
投与経路
当業者は、アデノウイルスベクターのような発現ベクターを内耳に投与する適切な方法があることを理解するであろう。2以上の経路が特定の発現ベクターを投与するのに用いられ得るが、ある特定の経路は他の経路よりもより迅速およびより効果的な反応を提供し得る。従って、記載される投与経路は単なる例示であり、何ら制限するものではない。
【0061】
投与経路にかかわらず、本発明の方法の発現ベクターは内耳の感覚上皮に到達しなければならない。したがって、最も直接的な投与経路は、内耳の構造の内側に接近可能な外科的手法を伴う。蝸牛開放を介しての接種は、聴覚に関連する内耳の領域に発現ベクターを直接投与することを可能とする。蝸牛開放は、例えば、Kawamoto et al., Molecular Therapy, 4 (6), 575-585 (2001)に記載されるように、鐙骨動脈の下の耳嚢に蝸牛壁を通る穴を開け、発現ベクターを含む医薬組成物を放出することを含む。内リンパ区画への投与は、内耳の聴覚を担っている領域にアデノウイルスベクターを投与するのに特に有用である。あるいは、発現ベクターは、管開放を介して半規管に投与され得る。管開放は前庭系および蝸牛における導入遺伝子発現をもたらすが、蝸牛開放は前庭空間における効率的な形質導入をもたらさない。直接蝸牛空間に注入すると有毛細胞を機械的に損傷する可能性があるので、蝸牛機能を損傷するリスクは管開放を用いることにより減少する(Kawamoto et al., 上述)。投与手順はまた、アポトーシス阻害剤や抗炎症剤等の治療または投与手順の副作用を緩和するための因子を含み得る液体下でおこなってもよい(例えば、人工外リンパ)。
【0062】
他の内耳への直接投与経路は、正円窓を介したもので、正円窓に注入または局所適用することのどちらかによる。正円窓を介した投与は、アデノウイルスベクターを外リンパ空間に送達するのに特に好ましい。蝸牛および前庭ニューロン並びに蝸牛感覚上皮における導入遺伝子発現は、正円窓を介した発現ベクターの投与後に観察されている(Staecker et al., Acta Otolarryngol, 121, 157-163 (2001))。意外にも、発現ベクター、特にターゲッティングされていないアデノウイルスベクターの内耳の細胞内への取り込みは受容体を介さない可能性があるらしい。すなわち、内耳の細胞のアデノウイルス感染はCARまたはインテグリンにより媒介されるのではないようである。外リンパ区画への投与後にコルチ器細胞の形質導入を増加させるため、アデノウイルスベクターは、アデノウイルスベクターの標的細胞(例えば、支持細胞、血管条の細胞等)への取り込みを増進する1以上のリガンドを提示し得る。この点において、アデノウイルスベクターは、生来の結合(例えば、CAR−および/またはインテグリン−結合)を減少させるように改変された1以上のアデノウイルス外殻タンパク質を含み、かつ内耳の標的細胞によるアデノウイルスベクターの取り込みを増進する非生来アミノ酸配列を含み得る。
【0063】
発現ベクター(例えば、アデノウイルスベクター)は、内耳への投与用の医薬組成物中に存在し得る。ある場合において、支持細胞が発現ベクターに十分に曝露されるのを確実にするために、複数の適用を行うことおよび/または複数の経路、例えば、管開放および蝸牛開放、を用いることは適切であろう。
【0064】
発現ベクターは、例えばスポンジ、網細工、機械的タンクもしくはポンプ、または機械的インプラントのような、発現ベクターの制御されたまたは持続した放出を可能とする道具内または上に存在し得る。例えば、atonal関連因子をコードしている発現ベクターを含む医薬組成物に浸された生体適合性のあるスポンジまたはゲル物を正円窓の近傍に置くと、それを介して発現ベクターが浸透して蝸牛に到達する(Jero et al.,に詳述、上述)。小さな浸透性ポンプは、長期(例えば、5〜7日)にわたる発現ベクターの持続した放出を提供し、発現ベクターを含む組成物の少量投与を可能にし、それにより内因性の感覚細胞の機械的な損傷を防ぐことができる。発現ベクターはまた、例えば、ゼラチン、コンドロイチン硫酸、ポリリン酸エステル(例えばビス−2−ヒドロキシエチル−テレフタレート(BHET))、またはポリ(乳酸−グリコール酸)を含む持続性放出製剤の形態で投与され得る(例えば、米国特許5,378,475参照)。
【0065】
特に好ましくはないが、発現ベクターは非経口、筋肉内、静脈内、または腹腔内投与され得る。好ましくは、耳において感覚有毛細胞を発生させるために患者に非経口で投与される任意の発現ベクターは、感覚上皮細胞、 例えば支持細胞を特異的にターゲッティングされる。望ましくは、発現ベクターは、損傷した内因性の有毛細胞と置き換わる外因性の有毛細胞の発生を促すように傷跡の残る感覚上皮にターゲッティングされる。ここで論じるように、発現ベクターは、可能性のある宿主細胞上の受容体に対する発現ベクターの結合特異性または認識を変えるように改変され得る。アデノウイルスに関して、このような操作は、ファイバー、ペントン、またはヘキソン領域の欠失、様々な生来または非生来リガンドの外殻タンパク質部分への挿入等を含み得る。当業者は、非経口投与では、発現ベクターを適切な宿主細胞に効率的に送達するための大用量または複数回の投与が必要となり得るということを理解するであろう。組成物用の医薬上許容し得る担体は、当業者に周知である(Pharmaceutics and Pharmacy Practice, J. B. Lippincott Co., Philadelphia, PA, Banker and Chalmers, eds. , pages 238-250 (1982)、およびASHP Handbook on Injectable Drugs, Toissel, 4th ed. , pages 622-630 (1986)を参照)。あまり好ましくないが、発現ベクターはまた、粒子衝撃、すなわち、遺伝子銃により、インビボで投与され得る。
【0066】
当業者はまた、投与量および投与経路は、宿主の免疫系による発現ベクターの喪失を最小限にするように選択され得ることを理解するであろう。例えば、インビボで標的細胞と接触させるのには、本発明の方法を行う前に宿主に空の発現ベクター(すなわち、atonal関連因子をコードする核酸配列を含まない発現ベクター)を投与することが有利であり得る。空の発現ベクターを予め投与することは、体の生来のクリアランス機構の邪魔となる発現ベクターに対する宿主免疫を生み出すのに役立ち、それにより免疫系により除去されるベクターの量を減少させることができる。
【0067】
投与量
本発明により、動物、特にヒトに投与される発現ベクターの用量は、妥当な時間枠の間で動物における所望の応答に影響するのに十分なものであるべきである。当業者は、投与量は、年齢、種、損傷した感覚上皮の位置、疑わしい病変(もしあれば)、および状態または病状を含む様々な因子に依存するであろうことを理解するだろう。投与量はまた、atonal関連因子および形質導入されるべき感覚上皮の量に依存する。用量の程度はまた、投与の経路、時間、および頻度、さらに任意の特定の発現ベクターの投与に付随するかもしれない有害な副作用(例えば、外科手術による外傷)の存在、性質、および程度および所望の生理的効果によって決定されよう。当業者は様々な状態または病状、具体的には、慢性の状態または病状は、複数回の投与を含む長期に渡る治療を必要とし得ることを理解するであろう。
【0068】
適切な用量および投薬計画は、当業者に既知である通常の範囲決定法により決定できる。発現ベクターがウイルスベクター、最も好ましくはアデノウイルスベクターの場合、約10ウイルス粒子〜約1012ウイルス粒子が患者に送達される。すなわち、約10粒子/ml〜約1013粒子/ml(約10粒子/ml〜約1013粒子/mlの範囲内の全ての整数を含む)、好ましくは約1010粒子(palticles)/ml〜1012粒子/mlの発現ベクター濃度を含む医薬組成物が投与され得、通常、このような医薬組成物の約0.1μl〜約100μlを直接内耳に投与することを含むだろう。上記を考慮して、一回投与の用量は、好ましくは、atonal関連因子をコードする核酸配列を含むアデノウイルスベクターを少なくとも約1×10粒子(例えば、約4×10−4×1012粒子)、より好ましくは少なくとも約1×10粒子、より好ましくは少なくとも約1×10粒子(例えば、約4×10−4×1011粒子)、および最も好ましくは少なくとも約1×10粒子〜少なくとも約1×1010粒子(例えば、約4×10−4×1010粒子)である。あるいは、医薬組成物の用量は、約1×1014粒子以下、好ましくは約1×1013粒子以下、いっそう好ましくは約1×1012粒子以下、いっそう好ましくは約1×1011粒子以下、および最も好ましくは約1×1010粒子以下(例えば、約1×10粒子以下)を含む。すなわち、医薬組成物の単回用量は、アデノウイルスベクター(例えば、複製欠損アデノウイルスベクター)約1×10粒子ユニット(pu)、4×10pu、1×10pu、4×10pu、1×10pu、4×10pu、1×10pu、4×10pu、1×1010pu、4×1010pu、1×1011pu、4×1011pu、1×1011pu、4×1011pu、1×1012pu、または4×1012puを含み得る。発現ベクターがプラスミドの場合、好ましくは約0.5ng〜約1000μgのDNAが投与される。より好ましくは、約0.1μg〜約500μgが投与され、いっそう好ましくは約1μg〜約100μgのDNAが投与される。最も好ましくは、約50μgのDNAが内耳に投与される。もちろん、他の投与経路では、治療効果を得るためにより少ないまたはより多い用量が必要となり得る。当業者は当技術分野で公知の慣用的な技術を用いて、投与量および投与経路における任意の必要な変化を決定することができる。
【0069】
内耳の構造の内部空間は限られている。多すぎる組成物は感覚上皮の損傷を余儀なくするので、内耳構造に直接投与される医薬組成物の容量は、注意深く監視されるべきである。ヒト患者については、投与容量は、好ましくは約10μl〜約2ml(例えば、約25μl〜約1.5ml)の組成物である。例えば、約50μl〜約1ml(例えば、約100μl、200μl、300μl、400μl、500μl、600μl、700μl、800μl、または900μl)の組成物が投与され得る。一実施態様において、内耳構造、例えば、蝸牛または半規管の全体液容量が医薬組成物で置き換えられる。別の実施態様において、本発明の方法の発現ベクターを含む医薬組成物は、内耳構造にゆっくり放出され、それにより機械的外傷は最小限になる。
【0070】
2以上(すなわち、複数)回用量の、atonal関連因子をコードする核酸配列を含む発現ベクターを投与することが有利となり得る。本発明の方法は、複数回用量のatonal関連因子をコードする核酸配列を投与して動物の感覚的知覚を変化させる感覚上皮の有毛細胞を発生させる。例えば、少なくとも2回用量の外因性の核酸、例えば、atonal関連因子をコードする核酸配列を含む発現ベクターが、同じ耳に投与され得る。好ましくは、複数回用量は、バックグランドレベルを超える遺伝子発現を保持している間に投与される。また好ましくは、内耳の感覚上皮は、約30日以内に2回用量以上の発現ベクターと接触させられる。より好ましくは、約90日以内に2以上の適用が内耳に施される。しかしながら、3、4、5、6、またはそれ以上の用量は、遺伝子発現が起こる限り、任意の時間枠で投与され得る(投与の間が例えば、2、7、10、14、21、28、35、42、49、56、63、70、77、85日またはそれ以上)。
【0071】
医薬組成物
本発明の発現ベクターは、望ましくは医薬上許容し得る担体および該発現ベクターを含む医薬組成物で投与される。いかなる適切な医薬上許容し得る担体も本発明において使用され得、そしてこのような担体は当技術分野で周知である。担体の選択は、部分的には、組成物が投与される具体的な部分および組成物の投与に用いられる具体的な方法によって決定される。理想的には、アデノウイルスベクターにおいて、医薬組成物は好ましくは複製能のあるアデノウイルスを含まない。
【0072】
適切な製剤としては、水性および非水性溶液、抗酸化物質、緩衝液、静菌剤、および製剤を目的とする受容者の内耳の血液または体液と等張にする溶質を含む等張滅菌溶液、ならびに懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、および保存剤を含む水性および非水性滅菌懸濁液が挙げられる。製剤は、人工内リンパまたは外リンパを含み得、それらは市販されている。 製剤は単位用量または複数回用量を密封した容器、例えばアンプルおよびバイアル中に存在し、使用直前に滅菌液体担体、例えば、水を添加するだけでよいフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存され得る。即席の溶液および懸濁液は、前述の種類の滅菌の粉、顆粒、および錠剤から調製され得る。好ましくは、医薬上許容し得る担体は、緩衝生理食塩溶液である。より好ましくは、本発明の方法に用いる発現ベクターは、投与前の損傷から発現ベクターを保護するように製剤化された医薬組成物で投与される。例えば、医薬組成物は、例えばガラス製品、シリンジ、または針のような、発現ベクターを調製、保存、または投与するのに用いられる道具上に、発現ベクターの喪失を減少させるように製剤化され得る。医薬組成物は、発現ベクターの光感受性および/または温度感受性を減少させるように製剤化され得る。この目的のために、医薬組成物は、好ましくは、例えば、上述のもの、およびポリソルベート80、L−アルギニン、ポリビニルピロリドン、トレハロース、およびそれらの組み合せからなる群より選ばれる安定化剤のような、医薬上許容し得る液体担体を含む。このような医薬組成物の使用は、ベクターの寿命を延ばし、投与を促進し、そして本発明の方法の効率を増大させるであろう。この点において、医薬組成物はまた、形質導入効率を増進するように製剤化され得る。さらに、当業者は、発現ベクター、例えば、ウイルスベクターは、他の治療的物質または生物活性物質と共に組成物中に存在し得ることを理解するであろう。例えば、特定の適応症の治療に有用な治療因子が存在し得る。イブプロフェンおよびステロイドのような炎症をコントロールする因子は、ウイルスベクターのインビボ投与に付随する腫れおよび炎症を軽減するために組成物の一部となり得る。免疫系抑制剤は、ベクター自体に対するまたは内耳の疾患に関連する任意の免疫反応を軽減するために本発明の方法と併用され得る。血管新生因子、神経栄養因子、増殖剤等が、医薬組成物中に存在し得る。同様に、ビタミンおよびミネラル、抗酸化剤、および微量栄養素が共投与され得る。抗生物質、すなわち、殺菌剤および防カビ剤は、遺伝子導入手順および他の疾患に関連する感染のリスクを減らすために存在し得る。
【0073】
他に考慮すること
本発明の方法は、atonal関連因子をコードする核酸配列を含む発現ベクターを内耳に投与して内耳の感覚上皮において有毛細胞を発生させることにより動物の感覚的知覚を変化させることを含む。atonal関連因子をコードする核酸配列は、複数の(すなわち、2、3、またはそれ以上)atonal関連因子、または同じatonal関連因子の複数コピーをコードしうる。しかしながら、有毛細胞の単なる発生は、動物における感覚的知覚の変化を確かなものとしない。十分な数の有毛細胞は発生しなくてはならず、また、それらの感覚有毛細胞がシグナルを脳に伝達し得る神経ネットワークと連結しなければならない。従って、必須ではないが、シグナルの脳への適切な受容および伝達を確かなものとする付加因子を提供することは有利であり得る。
【0074】
複数のコード配列を内耳に導入するのに、いくつかの選択肢が利用できる。atonal関連因子をコードする核酸配列は付加的な遺伝子産物をコードし得る。発現ベクターは代替的に、またはさらに、異なる遺伝子産物をコードする複数の発現カセットを含むことができる。複数のコード配列は、異なるプロモーター、例えば、活性の異なるレベルおよびパターンを有する異なるプロモーターと、機能可能に連結し得る。あるいは、複数のコード配列は、同じプロモーターに機能可能に連結してポリシストロニックエレメントを形成してもよい。本発明はまた、発現ベクターカクテルを内耳に投与することも意図しており、そこで各発現ベクターは、atonal関連因子または感覚的知覚に有益な別の遺伝子産物をコードしている。発現ベクターカクテルはさらに、異なる種の発現ベクター、例えば、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクターを含むことができる。
【0075】
一つの好ましい態様において、本発明の方法はまた、少なくとも1つの神経分化誘導物質をコードする核酸配列の送達を意図している。理想的には、神経分化誘導物質は、神経突起の成長、発達および/または成熟を含む神経成長刺激物である。神経栄養因子はまた、現存および発生中のニューロンを保護または維持するために投与され得る。新しく発生した有毛細胞が適切に機能するために、神経ネットワークは神経インパルスを脳に伝達する適所になくてはならない。従って、新しい有毛細胞が発生している間、内耳の感覚上皮に関連する現存のニューロンを保護し、新しい神経突起の成長および成熟を誘導し、および/または簡単に現存の神経突起を感覚有毛細胞へ向かわせることは有利である。神経栄養因子は3つのサブクラス:神経新生(neuropoietic)サイトカイン;ニューロトロフィン;および線維芽細胞増殖因子に分けられる。毛様体神経栄養因子(CNTF)は典型的な神経新生(neuropoietic)サイトカインである。CNTFは、毛様体神経節ニューロンの生存を促し、NGF応答性の特定のニューロンを支持する。ニューロトロフィンとしては、例えば、脳由来神経栄養因子(BDNF)および神経突起伸長を刺激する神経成長因子(NGF)が挙げられる。他の神経栄養因子には、例えば、トランスフォーミング増殖因子、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、ニューロトロフィン3、ニューロトロフィン4/5、およびインターロイキン1−βが含まれる。神経栄養因子(Neuronotrophic factors)はニューロンの生存を増進し、また、本発明の方法に用いるのにも適切である。神経栄養因子(Neuronotrophic factors)は、実はニューロンの劣化を元に戻すと仮定されている。このような因子は、おそらく、年齢、感染、または外傷に伴うニューロンの変性を治療するのに有用であろう。好ましい神経栄養因子(Neuronotrophic factors)は色素上皮由来因子(PEDF)である。PEDFはChader, Cell Different., 20, 209-216 (1987)、 Pignolo et al., J. Biol. Chem., 268 (12), 8949-8957 (1998)、 米国特許5,840, 686、ならびに国際特許出願WO 93/24529、WO 99/04806、およびWO 01/58494にさらに記載されている。
【0076】
増殖剤は、細胞増殖、好ましくは内耳の支持細胞の増殖を誘導する。有毛細胞前駆体の数を増やすことにより、atonal関連因子の生物学的効果は最大限となる。支持細胞の増殖は、線維芽細胞増殖因子(FGF、特にFGF−2)、血管内皮増殖因子(VEGF)、上皮成長因子(EGF)、E2F、細胞周期アップレギュレーター等のマイトジェン成長因子等により誘導される。増殖剤をコードする核酸配列は、本発明の方法においてatonal関連因子をコードする核酸配列と一緒に投与され得る。所望であれば、増殖剤をコードする核酸配列は、複製すべき細胞種に対してのみ、その生物学的効果を発揮するように操作することができる。支持細胞については、核酸は、例えば、hes転写因子の存在下でのみ活性なプロモーターのような、支持細胞において選択的に活性化される調節配列を含むことができる。結果として生じる増殖剤はまた、細胞環境に分泌されるのを妨げるように操作され得る。あるいは、ある物質を内耳に投与して、細胞増殖を促すか、発現ベクターの取り込みを増進することができる。
【0077】
上記に加え、1以上の他の導入遺伝子は、atonal関連因子をコードする同じ核酸配列により運ばれてもよく、あるいは同じ発現ベクター上に存在する別個の核酸配列または異なる発現ベクターの部分であってもよい。「導入遺伝子」は、細胞内で発現し得るいかなる核酸も意味する。望ましくは、導入遺伝子の発現は、内耳に有益、例えば、予防的または治療的に有益である。導入遺伝子が予防的または治療的利益を細胞に付与すれば、導入遺伝子は、その効果をRNAまたはタンパク質レベルで発揮することができる。例えば、導入遺伝子は、疾患、例えば、内耳における異常により生じる感覚疾患の治療または研究に用い得る、atonal関連因子以外のペプチドをコードし得る。あるいは、導入遺伝子は、アンチセンス分子、リボザイム、スプライシングまたは3’プロセシング(例えばポリアデニル化)に影響するタンパク質、または、例えばmRNA蓄積または輸送速度の変化あるいは転写後調節における変化に影響することによって、細胞内の別の遺伝子の発現レベルに影響する(すなわち、ここで遺伝子発現は転写開始から加工タンパク質の産生までの全てのステップを含むと広く考えられる)タンパク質を、コードし得る。導入遺伝子は、内耳関連疾患の複合治療のためのキメラペプチドをコードし得る。導入遺伝子は、atonal関連因子とは異なる標的分子に作用するか、またはatonal関連因子によって影響されないシグナル伝達カスケードを開始する因子をコードし得る。導入遺伝子はマーカータンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質またはルシフェラーゼをコードし得る。このようなマーカータンパク質は、ベクター構築およびベクター移動の確認に有用である。あるいは、導入遺伝子は、やはりベクター構築プロトコルにおいて有用であり、かつ非形質導入細胞と比較しての選択に用いられ得る選択因子をコードし得る。
【0078】
本発明の方法は、他の治療方針を含む治療計画の一部となり得る。したがって、本発明の方法は、それが薬物療法または外科手術のような任意の多くの他の治療法で治療されてきた、治療されている、あるいは治療されるであろう感覚疾患、すなわち聴覚疾患または平衡障害を予防的または治療的に処置するのに用いられるならば、該方法は適切である。本発明の方法はまた、蝸牛移植のような聴覚器官の移植との併用も可能である。本発明の方法はまた、幹細胞が内耳における細胞集団に再生することを含む手順に特に適している。この点において、本発明の方法を、生体外で幹細胞に形質導入するために実施し、次いでそれを内耳内に移植することができる。
【0079】
発現ベクターは、動物、例えば哺乳類、具体的にはヒトが、感覚有毛細胞の変性のリスクがあると確認された(予防的処置)、あるいは感覚有毛細胞の数の減少または損傷が示された(治療上の処置)後できるだけ早く投与することが好ましい。処置は、部分的には、用いた特定の核酸配列、核酸配列から発現した特定のatonal関連因子、発現ベクター、投与経路、および、もしあれば、現実のものとなった有毛細胞の喪失または損傷の原因および程度に依存するであろう。
【0080】
atonal関連因子をコードする核酸配列を含む発現ベクターは、予め所定の動物、特にヒトから取り除かれた細胞に、生体外で導入される。このようにして形質導入された自家または同種宿主細胞は、インビボでatonal関連因子を発現し、成熟有毛細胞に分化するように動物またはヒトの内耳に再導入される前駆細胞であり得る。当業者は、このような細胞が患者から単離される必要がなく、その代わりに別の個体から単離され、患者に移植され得ることを理解するであろう。
【0081】
本発明の方法はまた、他の医薬上活性な化合物の共投与を含み得る。「共投与」は、上述の発現ベクターの投与前、投与と同時、例えば、同じ製剤または別個の製剤中の発現ベクターと組み合わせて、あるいは投与後を意味する。例えば、イブプロフェンまたはステロイドのような炎症をコントロールする因子を、発現ベクターの投与に付随する腫れおよび炎症を軽減するために共投与することができる。免疫抑制剤は、内耳疾患または本発明の方法の実施に関連する不適切な免疫反応を軽減するために共投与され得る。同様に、ビタミンおよびミネラル、抗酸化物質、および微量栄養素が共投与され得る。抗生物質、すなわち、殺菌剤および防カビ剤が、外科的手法に付随した感染のリスクを低減するために共投与され得る。
【実施例】
【0082】
(実施例)
以下の実施例は本発明をさらに説明するが、もちろん、その範囲に何らの限定を付すものとも解釈されるべきではない。
【0083】
(実施例1)
本実施例は、アデノウイルスベクターが、哺乳類の内耳の細胞に形質導入し、いくつかの異なるプロモーターを用いて導入遺伝子の発現を駆動することを明らかにする。
【0084】
成体卵形嚢またはP3ラットの蝸牛を、Millicelメンブレン上、N1およびグルコースを添加したダルベッコ改変イーグル培地中で培養した。培養は標準条件下で維持し、培地を3日毎に交換した。アデノウイルスゲノムのE1およびE3領域の全部または一部を欠乏している(AdL. 10)またはアデノウイルスゲノムのE1、E3、およびE4領域の全部または一部を欠乏しており、E4領域の代わりに位置するスペーサーを含む(AdL. l ID)アデノウイルスベクター骨格を、これまでに記載されているようにして構築および製造した(例えば、米国特許5,851,806および5,994,106参照)。6つのアデノウイルスベクター構築物を、AdL. 10またはAdL. l 1Dベクター骨格のいずれかを用いて調製した。各アデノウイルスベクター構築物は、6つのプロモーター、ヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーター(AdhCMV. L)、マウスサイトメガロウイルス前初期プロモーター(AdmCMV. L)、ユビキチンプロモーター(AdUb. L)、ニワトリβ−アクチンプロモーター(AdBA. L)、ラウス肉腫ウイルスプロモーター(AdRSV. L)、またはAAV由来p5プロモーター(AdpS. L)の1つと機能可能に連結したルシフェラーゼレポーター遺伝子を含んでいた。
【0085】
ルシフェラーゼ発現は全卵形嚢または蝸牛外植片をレポーター溶解バッファーで抽出することにより測定し、全タンパク質量はBio-Radタンパク質アッセイにより測定した。ルシフェラーゼ活性量は発光により測定し、全タンパク質のμgあたりの相対的光ユニットとして表した。
【0086】
P3マウス由来のコルチ器(蝸牛)外植片に、1×10粒子ユニット(pu)のAdhCMV. L. 11D、AdmCMV. L. llD、AdUb. L. llD、AdBA. L. llD、AdRSV. L. 11D、またはAdp5. L. 11Dで形質導入した。投与後4日目に、外植片培養物の導入遺伝子発現を評価した。最も高いレベルの導入遺伝子発現が観察されたのは、AdhCMV. L. 11DおよびAdBA. L. 11Dにより媒介されたものであった。さらに、導入遺伝子発現のレベルは、AdhCMV. L. 11D、AdmCMV. L. 11D、およびAdBA. L. 11Dの投与後28日以上続いた。各アデノウイルスベクター構築物について、導入遺伝子発現は投与後1日目から14日目の間に減少したが、その後14日目から28日目までは引き続き安定であった。しかしながら、成体C57B6マウス卵形嚢外植片におけるAdhCMV. L. 11D、AdUb. L. 11D、およびAdBA. L. 11D媒介導入遺伝子発現は、投与後1日目から14日目の間一定であるか(AdhCMV. L. 11D)、または増大した(AdUb. L. 11D、AdBA. L. 11D)。アデノウイルスベクター媒介導入遺伝子発現は、卵形嚢外植片培養物において投与後およそ5週間安定のままであり、投与後7週間までに検出不能レベルに減退することが観察された。
【0087】
本実施例は、複製欠損アデノウイルスベクターがインビトロで蝸牛および前庭系の細胞に形質導入することを明らかにする。アデノウイルスベクター媒介導入遺伝子発現は、様々なプロモーターを用いて観察することができ、投与後少なくとも5週間観察された。
【0088】
(実施例2)
本実施例は、アデノウイルス媒介によるMath1産生が、哺乳類における新たな有毛細胞の産生を指示することを明らかにする。
【0089】
サイトメガロウイルス前初期 (CMV) プロモーターに機能可能に連結され、アデノウイルスゲノムのE1領域に挿入されたMath1 cDNA含むEl/E3/E4欠損アデノウイルスベクター(AdMath1. 11D)を、Brough et al., J. Virol., 71, 9206-9213 (1997)およびMori et al., J. Cell. Physiol., 188, 253-263 (2001) に示される方法を用いて構築した。AdMath1. 11Dを、5分で5μlの速度で(5×1011粒子/mlの組成物)成熟モルモット蝸牛の中央階の第3の回転の蝸牛内リンパ液中に外科的に注入した。投与した組成物の容量は中央階にある内リンパの容量よりも大きかったので、アデノウイルスベクター組成物の注入は、中央階を裏打ちしている有毛細胞に機械的な損傷を引き起こした。コントロールの耳には、内リンパのみまたはMath1 cDNAを欠くAdMath1.11D ベクター構築物(AdNull)のどちらかを注入した。
【0090】
AdMath1. 11Dの投与後30または60日に、コルチ器の表面を走査電子顕微鏡を用いて分析した。処理したルモット全てで感覚有毛細胞の発生が検出された。有毛細胞は、コルチ器感覚上皮の近傍の、有毛細胞が通常は存在しない領域において観察された。有毛細胞はまた、内溝、歯間細胞領域、およびコルチ器の外側に位置するHensen 細胞領域においても観察された。それらの位置に基づくと、感覚有毛細胞はAdMath1.11D 処理の結果として新たに発生した。内リンパまたはAdNullの注入は、このような領域において有毛細胞の発生を促さなかった。AdMath1. 11Dの投与後60日で屠殺した動物は、投与後30日で屠殺した動物よりもより多くの新たに発生した感覚有毛細胞を有していた。
【0091】
感覚有毛細胞の表面形態はほぼ正常のようであった。内溝、歯間領域、およびHensen細胞領域における感覚有毛細胞の分化の程度は、抗ミオシンVIIa抗体を用いた免疫細胞化学により測定した(Hasson et al. Proc. Natl. Acad. Sci., 92, 9815-9819 (1995))。ミオシンVIIa陽性細胞は、OCの内側、内溝および歯間領域の範囲内、およびHensen細胞領域内のコルチ器の外側で同定された。これらの細胞におけるミオシンVIIaの発現は、該細胞が感覚有毛細胞に分化したことをさらに裏付けるものである。
【0092】
神経突起がMath1発現により発生した感覚有毛細胞に向かって成長するか確認するために、コントロールの蝸牛およびAdMath1.11Dで処理された蝸牛を抗ミオシンVIIaおよび抗ニューロフィラメント抗体で二重染色した。コントロール組織において、ニューロフィラメント染色はOCの領域内で豊富であり、放射状かつ長軸の神経線維が明らかとなった。ニューロフィラメント染色は、内リンパ単独またはAdNullを接種したコントロール蝸牛の内溝および歯間細胞領域には存在していなかった。対照的に、OCの領域から歯間細胞領域内の感覚有毛細胞の方向にのびているニューロフィラメント染色された突起が、AdMath1. 11Dで処理した組織において観察された。染色は、軸索が蝸牛内の感覚有毛細胞に接着していることを示した。
【0093】
本実施例は、アデノウイルス媒介Math1発現により成熟哺乳類蝸牛の非感覚細胞の感覚有毛細胞への分化を誘導することができること、そして成体動物のニューロンが感覚有毛細胞に接着し、その方向に伸びることを明らかにする。
【0094】
(実施例3)
本実施例は、本発明の方法が、少なくとも部分的には、平衡感覚を回復させることにより、動物における感覚的知覚に影響することを明らかにする。
【0095】
アデノウイルスゲノムのE1およびE4 領域の複製に必須な遺伝子機能の全てを欠損し、さらにアデノウイルスゲノムのE3領域の大部分を欠き、CMVプロモーターに機能可能に連結したMath1 cDNAを含むアデノウイルスベクターAdMath1.11Dを、実施例2に記載の方法により構築した。
【0096】
ネオマイシンをマウスの内耳に投与し、それにより前庭系の感覚有毛細胞を損傷させ、平衡認知を喪失させた。マウスの一部には、組成物1μl中の1×10−2×10のAdMath1. 11Dを、正円窓を通じ半規管の外リンパに送達することにより投与した。マウスにおける体位認知の平衡評価は、「水泳試験」を用いて行った。水槽に置くと、非処理のコントロール動物(すなわち、正常マウス)は、立ち直り、意図的に泳ぎだすのにおよそ8.5秒かかった。ネオマイシン処理は、前庭系の感覚有毛細胞を損傷する。ネオマイシンで処理したマウスは、前庭コントロールの機能不全により、立ち直りそして意図的に泳ぎだすのに22.2秒かかった。一方、ネオマイシンおよびAdMath1. 11D 処理マウスは、立ち直り、意図的に泳ぎだすのに12秒しかかからず、前庭機能の機能的な回復が示唆された。
【0097】
本実施例は、本発明の方法が、感覚有毛細胞の損傷後に前庭機能を回復し、それにより動物の感覚的知覚を変化させ得ることを裏付ける。
【0098】
(実施例4)
本実施例は、Math1をコードする核酸配列を含有するアデノウイルスベクターを内耳に導入する方法を説明する。
【0099】
正常成体モルモットに、カナマイシン(500mg/kg)を皮下投与して聴力を失わせた。2時間後にエタクリン酸(50mg/kg)を頸静脈注入で投与した。カナマイシンおよびエタクリン酸(ethacrinic acid)処理により、蝸牛の高および中周波数領域における両側の毛が喪失し、上皮の支持細胞のみが残っていた。蝸牛全体にわたって外側の有毛細胞は破壊され、内側の有毛細胞は初めの3つの蝸牛回転において破壊されている。聴力を失わせた4日後に、上述のAd. Math1.11Dを中央階の第2の回転(すなわち、内リンパの区画)に注入した。反対側の耳は処理しなかった。聴力の回復を調べるために、いくつかの単一の音調シグナルでのABRを行った。
【0100】
投与後2ヶ月で、新しく分化したMath1陽性有毛細胞が、第1、第2、および第3の蝸牛回転において検出され、Ad. Math1. 11Dにより形質導入された細胞の密度と直接相関していた。Ad. Math1. 11Dの投与後1ヶ月での、平均ABR閾値は、非処理の反対側の耳におけるABR閾値と比べ、処理した耳において改善した。ABR閾値は、処理した耳においてベクター投与後2ヶ月でさらに改善した。
【0101】
本実施例は、内耳の成熟した損傷上皮へのMath1のアデノウイルス媒介による送達が、非感覚蝸牛細胞の新しい有毛細胞への分化を促すことを明らかにする。新しい有毛細胞の発生は内耳機能の回復をもたらす。
【0102】
本明細書中で引用した刊行物、特許出願、及び特許を含む全ての参考文献は、各参考文献が、本明細書中で参考として援用されることが個別におよび具体的に示され、かつその全体が記載されているのと同じ程度に、本明細書中で参考として援用される。
【0103】
本発明を記載する文脈において(特に、添付の特許請求の範囲の文脈において)、用語「a」及び「an」及び「the」及び同様の指示語の使用は、本明細書中で他に特に明記がない限り、又は文脈に明らかに矛盾しない限り、単数と複数の両方を包含するように解釈されるべきである。本明細書中での値の範囲の記載は、本明細書中で他に特に明記がない限り、その範囲内にある各々の別々の値を個々に言及する略記方法として働くことが単に意図され、そして各々の別々の値は、それが本明細書中で個々に列挙されているかのように本明細書中に含まれるものである。本明細書中に記載される全ての方法は、本明細書中で他に特に明記がない限り、または文脈に明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で行われ得る。本明細書中で提供される任意及び全ての例、又は例示的な言葉(例えば、「などの」)の使用は、本発明をより良く明瞭にすることが単に意図され、そして他に特に主張されない限り、本発明の範囲を制限するものではない。本明細書中の如何なる言葉も、本発明の実施に必須なものとして主張されていない要素を示すと解釈されるべきではない。
【0104】
本発明の実施に関して、本発明者らが知っている最良の形態を含む、本発明の好適な実施態様を本明細書中に記載する。もちろん、それらの好適な実施態様のバリエーションは、上記の説明を読むと、当業者に明白となるであろう。本発明者らは、当業者が適宜このようなバリエーションを用いることを予想し、そして本発明者らは、本発明が本明細書中に具体的に記載されたものとは別の状態で実施されることを意図する。従って、本発明は、適用法によって許されるように、本明細書に添付の特許請求の範囲に列挙される主題の全ての改変物及び均等物を含む。さらに、その全ての可能なバリエーションにおける上記要素の任意の組合わせは、本明細書中で他に特に明記がない限り、又は文脈に明らかに矛盾しない限り、本発明に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の感覚的知覚を変化させる方法であって、該方法はatonal関連因子をコードする核酸配列を含む発現ベクターを内耳に投与することを含み、該核酸配列は発現してatonal関連因子を産生し、内耳における刺激の知覚を可能とする感覚有毛細胞の発生をもたらす、方法。
【請求項2】
動物がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
atonal関連因子がβ−へリックス−ループ−へリックス転写因子である、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】
β−へリックス−ループ−へリックス転写因子がMATH1である、請求項3記載の方法。
【請求項5】
β−へリックス−ループ−へリックス転写因子がHATH1である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
発現ベクターがウイルスベクターである、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ウイルスベクターがアデノ随伴ウイルスベクターである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
ウイルスベクターがアデノウイルスベクターである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
アデノウイルスベクターが複製欠損である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
アデノウイルスベクターがE1領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能における欠損を有するアデノウイルスゲノムを含む、請求項8または請求項9記載の方法。
【請求項11】
アデノウイルスベクターがE4領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能における欠損を有するアデノウイルスゲノムを含む、請求項8〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
アデノウイルスベクターがE4領域中にスペーサーを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
神経分化誘導物質をコードする核酸配列を含むウイルスベクターを内耳に投与することをさらに含む、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
atonal関連因子をコードする核酸配列を含むウイルスベクターと、神経分化誘導物質をコードする核酸配列を含むウイルスベクターが、同一のウイルスベクターである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
神経分化誘導物質が腫瘍成長因子、脳由来神経栄養因子、または神経成長因子である、請求項13または請求項14記載の方法。
【請求項16】
感覚有毛細胞の欠陥または喪失により引き起こされる疾患を、治療的または予防的に処置する、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
疾患が難聴である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
疾患が平衡障害である、請求項16記載の方法。
【請求項19】
感覚有毛細胞が、成体の、分化した内耳細胞から発生する、請求項1〜18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
感覚有毛細胞が内耳の傷跡の残る上皮中に発生する、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
ウイルスベクターが傷跡の残る上皮細胞の受容体に結合する部分および該発現ベクターによる傷跡の残る上皮細胞の形質導入を促進する部分をさらに含む、請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
インビボで、分化した感覚上皮において有毛細胞を発生させる方法であって、該方法は、(a)E1領域、E4領域、および、任意で、E3領域の1以上の複製に必須な遺伝子機能が欠損したアデノウイルスゲノムを含み、(b)E4領域にスペーサーを含み、および(c)atonal関連因子をコードする核酸配列を含む、アデノウイルスベクターに分化した感覚上皮細胞を接触させることを含み、該核酸配列は発現してatonal関連因子を産生し、それにより有毛細胞を発生させる、方法。
【請求項23】
アデノウイルスベクターのアデノウイルスゲノムのE3領域の全部または一部が除去されている、請求項22記載の方法。
【請求項24】
分化した感覚上皮細胞が耳に位置している、請求項22または請求項23記載の方法。
【請求項25】
1回用量のアデノウイルスベクターを単回注入で耳に投与する、請求項24記載の方法。
【請求項26】
複数回用量のアデノウイルスベクターを耳に投与する、請求項24記載の方法。
【請求項27】
アデノウイルスゲノムのE4領域の少なくとも1つの複製に必須な遺伝子機能における欠損およびatonal関連因子をコードする核酸配列を有するアデノウイルスベクター。
【請求項28】
アデノウイルスゲノムが、アデノウイルスゲノムのE1領域の少なくとも一つの複製に必須な遺伝子機能をさらに欠損している、請求項27記載のアデノウイルスベクター。
【請求項29】
アデノウイルスゲノムが、アデノウイルスゲノムの全E4領域をさらに欠いている、請求項27または請求項28記載のアデノウイルスベクター。
【請求項30】
アデノウイルスゲノムのE4領域が、少なくとも15塩基対を有するスペーサーエレメントで置換されている、請求項29記載のアデノウイルスベクター。
【請求項31】
atonal関連因子がMATH1である、請求項27〜30のいずれかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項32】
atonal関連因子がHATH1である、請求項27〜30のいずれかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項33】
アデノウイルスベクターが、さらに神経分化誘導物質を含む、請求項27〜32のいずれかに記載のアデノウイルスベクター。
【請求項34】
請求項27〜33のいずれかに記載のアデノウイルスベクターおよび医薬上許容し得る担体を含む、複製能のあるアデノウイルスを含まない組成物。

【公表番号】特表2006−518741(P2006−518741A)
【公表日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503702(P2006−503702)
【出願日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/004891
【国際公開番号】WO2004/076626
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(500129085)ジェンベク、インコーポレイティッド (13)
【Fターム(参考)】