説明

eIF4EおよびeIF4Eレギュロン活性のための質量分析アッセイ

単一試料の多重分析、ならびにタンパク質リン酸化状態の分析を提供するように開発された、4E/4Eレギュロン経路タンパク質のための高感度ハイスループット質量分析に基づく定量アッセイが提供される。これは、4E/4Eレギュロン生物学的経路の初の単一試料分析方法としての使用に適合させることができる。一つの実施形態において、少なくとも1つの標的タンパク質の単一試料の多重分析、ならびに特定の実施形態においては少なくとも1つの標的タンパク質のリン酸化状態の同時分析を提供する、高感度ハイスループット質量分析に基づく定量アッセイが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2007年11月6日に出願された米国仮特許出願第60/985,787号への優先権を主張し、この米国仮特許出願の全体の内容は、本明細書中に明確に参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
背景
質量分析は、小分子のためのロバストなアッセイプラットフォームとして十分に確立されているが、タンパク質およびペプチドの探索研究ツールとしかみなされないことが多い。これは一部には、質量分析に基づくアッセイの処理量が限られているためであり、また大部分の標的ペプチドおよびタンパク質に関して、特に標的分子の濃度が低い場合には、多くの試料処理を必要とするためである。もしこの制限を克服することができれば、質量分析に基づくアッセイは抗体に基づくアッセイと比較して利点を有する。例えば、ペプチドに対する抗体を作製するために何カ月もかかることに比べて、標的タンパク質のアミノ酸配列が公知である場合、参照ペプチドの合成を数日以内で行うことができる。参照ペプチドが入手できれば、標的ペプチドを測定するための質量分析条件の設定は1週間とかからない。複数回の試薬作製および評価を伴う場合、質量分析に基づくアッセイおよび抗体に基づくアッセイを設定する時間の差はさらに大きくなる可能性がある。これらの利点にもかかわらず、分析前に標的を濃縮する必要があるため、多くの標的タンパク質は質量分析の適用範囲外である。最もよく使用される標的濃縮方法は抗体の使用であるが、所望の抗体が既に入手可能でない限り、これは質量分析に基づくアッセイの利点を無効にする。
【0003】
真核生物翻訳開始因子eIF4E(「4E」)は、細胞増殖の調節に関与する。4Eの中程度の過剰発現は、増殖の制御不良および悪性転換を引き起こす。4Eの核および細胞質機能はともに、細胞を形質転換させる能力に寄与する。インビボでの4Eの過剰発現は結果として明らかな腫瘍形成をもたらし、4E過剰発現がmycマウスのバックグラウンドとの関連で位置付けられる場合、腫瘍形成の開始は顕著に促進され、4Eが他の腫瘍遺伝子と協調して作用することにより腫瘍形質転換を促進することを重ねて示唆する。4Eは、癌において上方制御されるとその発現から転移性疾患が予測される7つの遺伝子のうちの1つに相当すると考えられる。切除縁内の4E活性上昇の存在が予後不良因子であることを示す様々な研究がなされてきた。
【0004】
核において、4Eは、ほとんどすべての細胞周期の進行段階に強い影響を与えるRNAレギュロンにおける重要な中心点である(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。特に4Eは、細胞周期の進行に関与するいくつかの遺伝子のmRNA輸出を、また場合によっては翻訳も、協調的に促進する。例えば、4Eは、GAPDHまたはアクチンmRNAの細胞質輸送に対して核に影響を与えずに、少なくとも2つのmRNA、サイクリンD1およびオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)の核から細胞質への輸出を促進するよう機能する。さらに、4EのmRNA輸出機能は、その発癌性形質転換活性に関係しているという証拠がある。悪性の表現型を維持および亢進する腫瘍抑制因子および腫瘍遺伝子の発現の制御不良が記述されている。p53、Rb、およびAPCのような腫瘍抑制因子ならびにmyc、サイクリンD1および4Eなどの腫瘍遺伝子がこれらの分子に含まれる。これらの相互作用は、主要な要素の不活性化が腫瘍表現型の反転および時に持続的な欠損をもたらす恐れのある、自己強化型フィードバックループのネットワークを構成する。
【0005】
4Eは、乳房腫瘍、結腸腫瘍、頭頸部腫瘍、甲状腺腫瘍、肺腫瘍、非ホジキンリンパ腫、前立腺腫瘍、子宮頸部腫瘍、膀胱腫瘍、ならびに慢性および急性骨髄性白血病を含む幅広い種類の悪性細胞株および原発性ヒト腫瘍において過剰発現される。一貫して、齧歯類細胞において4Eの中程度の過剰発現であっても、無秩序な増殖および悪性形質転換を引き起こす。
【0006】
キャップ依存性翻訳の重要なステップで作用すること、および5’7−メチルグアノシンmRNAキャップ構造との特異的相互作用の結果としてリボソームへと転写産物を動員することにより、真核生物の成長および生存に不可欠であるにもかかわらず、4Eの上方制御は、4E感受性転写産物の特異的サブセットのみを除くすべてのキャップ依存性転写産物の翻訳を増加させない。
【0007】
4Eの70%もが哺乳動物細胞の核内に存在し、酵母、Xenopusおよびヒトを含む広範な種類の生物において核小体と結合している。ここで、4Eは、サイクリンD1などの特異的なサブセットの転写産物のmRNA輸送を促進するが、B−アクチンおよびGAPDHなどのハウスキーピング遺伝子のmRNA輸送は促進しない。4Eに仲介されるmRNA輸送および翻訳レベルでの遺伝子発現の転写後制御は、異なる遺伝子特異性を示し、輸送レベル(例えば、サイクリンD1)で制御されるものもあれば、翻訳レベル(VEGF)のもの、両方のレベル(ODC)のものもあり、またさらにはどちらのレベルでもない(GAPDH)ものもある。m7Gキャップへの結合は、mRNA輸送および4Eによる翻訳の両方に必要とされ、これらは両方とも細胞を形質転換させるこの能力に寄与する。
【0008】
従来の見解が、4Eが他の配列特異的な特徴にかかわらずすべてのmRNAに見られるm7Gキャップに結合するというものであることを考えると、4EのサイクリンD1とGAPDHを識別する能力は驚くべきことであることを、過去の観察結果は示す。したがって、核における4EのmRNA認識を理解するという観点から、この機能的な識別は難問を提示する。
【0009】
4E活性の上昇が、細胞、組織、器官内で発現されるmRNAの全収集物のうちのサブセットの翻訳(転写ではない)を選択的に仲介することが観察されている。特に、高レベルの4E活性が存在する細胞、腫瘍および/または癌において、複雑な5’UTR領域を有するmRNA転写産物の翻訳は選択的に上方制御される。上昇した4E活性が存在する環境において、そのために翻訳が上方制御される遺伝子のレパートリーは、細胞周期、血管形成、増殖などの制御に関与することが知られている主要な遺伝子である。しかしながら、4E輸送を制御する分子機構、および4E活性の制御がどのように利用されてこのようなプロセスを調節するのかは、あまり特徴付けられていない。
【0010】
現在の診断、区分および層化方法からは、4Eまたは4Eレギュロン活性の検出、分析および治療モニタリングの向上がもたらされない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Culjkovic, B.、Topisirovic, I.およびK.L.B. Borden (2007年)Controlling gene expression through RNA regulons. Cell Cycle 6巻:65〜69頁
【非特許文献2】Culjkovic, B.、Topisirovic, I.、Skranbanek, L.、Ruiz−Gutierrez, M.、およびK.L.B. Borden(2006年)eIF4E is a central node of an RNA regulon thatgoverns cellular proliferation. J Cell Biol 175巻:415〜426頁
【非特許文献3】Keene, J.D.(2007年)RNA regulons:Coordination of post−transcriptional events. Nature Reviews Genetics 8巻:533〜543頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
要旨
少なくとも1つの標的タンパク質の単一試料の多重分析、ならびに特定の実施形態においては少なくとも1つの標的タンパク質のリン酸化状態の同時分析を提供する、高感度ハイスループット質量分析に基づく定量アッセイが提供される。質量分析に基づくアッセイは、標的タンパク質(複数可)の濃縮方法を利用し、これにより抗体を使用せずに高感度なハイスループットアッセイの構築が可能となる。このアッセイは、4Eおよび4Eレギュロン成分レベルおよびリン酸化状態を検出するように適合させることができ、適合された場合、4E/4Eレギュロン生物学的経路の初の単一試料分析方法となる。
【0013】
この方法は、4Eおよび4Eレギュロン成分活性の特定、診断およびモニタリング用の組成物のため、ならびに4Eおよび4Eレギュロン成分活性を調節する作用物質の発見のための様々な方法のいずれかに組み込むことができる。
【0014】
この方法を実施するためのキットもまた、本明細書中に記述される。
【0015】
本発明のこれらの実施形態、別の実施形態、ならびにそれらの特徴および特性は、以下に続く説明、図面、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】下記の実施例において記述される4Eレベル検出のためのアッセイの実施形態によって得られた質量スペクトルを表す図である。
【図2−1】本明細書に記載のアッセイを使用して検出され得る4Eレギュロン成分の配列を表す図である。
【図2−2】本明細書に記載のアッセイを使用して検出され得る4Eレギュロン成分の配列を表す図である。
【図3−1】本明細書に記載のアッセイを使用して4Eレギュロン成分を分析するために使用することができるトリプシン消化を使用して生成される、4Eレギュロン成分の予想断片を表す図である。縦列は左から右まで以下のとおりである:モノアイソトピック質量、平均質量、開始残基、終了残基、トリプシンペプチド配列。
【図3−2】本明細書に記載のアッセイを使用して4Eレギュロン成分を分析するために使用することができるトリプシン消化を使用して生成される、4Eレギュロン成分の予想断片を表す図である。縦列は左から右まで以下のとおりである:モノアイソトピック質量、平均質量、開始残基、終了残基、トリプシンペプチド配列。
【図3−3】本明細書に記載のアッセイを使用して4Eレギュロン成分を分析するために使用することができるトリプシン消化を使用して生成される、4Eレギュロン成分の予想断片を表す図である。縦列は左から右まで以下のとおりである:モノアイソトピック質量、平均質量、開始残基、終了残基、トリプシンペプチド配列。
【図3−4】本明細書に記載のアッセイを使用して4Eレギュロン成分を分析するために使用することができるトリプシン消化を使用して生成される、4Eレギュロン成分の予想断片を表す図である。縦列は左から右まで以下のとおりである:モノアイソトピック質量、平均質量、開始残基、終了残基、トリプシンペプチド配列。
【図3−5】本明細書に記載のアッセイを使用して4Eレギュロン成分を分析するために使用することができるトリプシン消化を使用して生成される、4Eレギュロン成分の予想断片を表す図である。縦列は左から右まで以下のとおりである:モノアイソトピック質量、平均質量、開始残基、終了残基、トリプシンペプチド配列。
【図3−6】本明細書に記載のアッセイを使用して4Eレギュロン成分を分析するために使用することができるトリプシン消化を使用して生成される、4Eレギュロン成分の予想断片を表す図である。縦列は左から右まで以下のとおりである:モノアイソトピック質量、平均質量、開始残基、終了残基、トリプシンペプチド配列。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
便宜上、明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲において使用されている特定の用語をここにまとめる。別途定義されない限り、本明細書において使用されるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0018】
用語「4E活性」または「4Eの活性」は、4Eの高発現、4Eの高いタンパク質レベル、および/または4Eレギュロン成分の活性化、および4Eのリン酸化状態を含むがこれらに限定されない、4E遺伝子またはタンパク質の生物学的作用のいずれかを含む。
【0019】
用語「4Eレギュロン活性」または「4Eレギュロン成分活性」または「4Eレギュロン成分の活性」は、4Eレギュロンのメディエーターとしての4Eの活性を指し、また4Eレギュロン活性化、発現、輸送および/または4Eレギュロン成分の活性も含む。
【0020】
用語「4Eレギュロン成分」は、4E
【0021】
【化1】

、そのレギュロン成分のいずれか、およびHuRなどのレギュロンの任意の調節因子を指す。例示的な4Eレギュロン成分は、以下を含む:eIF4E(gi:54873625);サイクリンD1(gi:77628152);NBS/ニブリン(Nibrin)(gi:67189763);Pim−1(gi:31543400);サイクリンB1(gi:34304372);サイクリンA2(gi:16950653);ODC(gi:4505488);VEGF(gi:71051577);Skp2(gi:16306594、16306593);サイクリンE1(gi:17318558);c−myc(gi:71774082);FGF2(gi:153285460);MMP−9(gi:74272286);mdm2(gi:46488903);カスパーゼ−9(gi:14790123、14790127);bcl2(gi:72198188、72198345);Bcl/xL(gi:20336334);Fbox1(gi:16306583);CGGbp1(gi:56550052);P54nrb/NONO.1(gi:34932413);セレノプロテイン(Selenoprotein) S(gi:45439347);eIF4E−BP1(gi:117938308);Akt1(gi:62241012、62241010、62241014);PI3K(gi:54792081、212377724);GSK3B(gi:21361339);HuR(gi:38201713);およびmTOR/FRAP1(gi:19924298)。以下に記載されている方法の特定のものにおいて使用される好ましい4Eレギュロン成分(成分)は、4E、4E−BP1、NBS/ニブリン、Pim−1、VEGF、サイクリンD1、サイクリンA2、ODCおよびHuRである。「レギュロン」は、スプライシング、輸出、安定性、局在化および/または翻訳を統合および制御する1つまたは複数のRNA結合タンパク質によって、配列特異的に協調して制御される多数のmRNAのファミリーである。
【0022】
冠詞「a」および「an」は本明細書において、1つまたは2つ以上の(すなわち、少なくとも1つ)冠詞の文法的対象を指すために使用される。例示のために、「構成要素(an component)」は1つの構成要素または2つ以上の構成要素を意味する。
【0023】
本明細書において使用される場合、用語「アミノ酸」は、天然起源および非天然起源の両方のアミノ酸、ならびにアミノ酸類似体および模倣物を意味することを意図する。天然起源のアミノ酸は、タンパク質生合成の際に利用される20個の(L)−アミノ酸、ならびに例えば、4−ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシン、デスモシン、イソデスモシン、ホモシステイン、シトルリンおよびオルニチンなどの他のものを含む。非天然起源のアミノ酸は、例えば、(D)−アミノ酸、ノルロイシン、ノルバリン、p−フルオロフェニルアラニン、エチオニンなどを含む。アミノ酸類似体は、天然および非天然起源アミノ酸の修飾型を含む。このような修飾は、例えば、アミノ酸上の化学基および部分の置換もしくは交換、またはアミノ酸の誘導体化によるものを含むことができる。アミノ酸模倣物は、例えば、参照アミノ酸の電荷および電荷間隔特性などの機能的に類似した性質を示す有機構造を含む。例えば、アルギニン(ArgまたはR)を模倣する有機構造は、類似した分子空間に位置し、天然起源Argアミノ酸の側鎖のイプシロン−アミノ基と同程度の可動性を有する正電荷部分を有するはずである。模倣物はまた、アミノ酸のまたはアミノ酸官能基の最適な間隔および電荷相互作用を維持するように拘束された構造も含む。当業者は、どのような構造が機能的に等価なアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣物を構成するかを知っており、または決定することができる。
【0024】
本明細書において使用される用語「生体試料」、または「試料」は、生物からまたは生物の構成要素(例えば、細胞)から得られた試料のことを指す。試料は、任意の生体組織または体液であってもよい。しばしば、患者由来の試料である試料は「臨床試料」となる。このような試料は、痰、血液、血球(例えば、白血球)、組織もしくは細針生検試料、尿、腹水、および胸膜液、またはこれらの細胞を含むがこれらに限定されるものではない。生体試料はまた、組織学的目的のために採取された凍結切片などの組織の切片を含んでもよい。
【0025】
用語「含む(comprise)」および「含んでいる(comprising)」は、包含的な、非限定的な意味において使用され、追加の構成要素が含まれてもよいことを意味する。
【0026】
本明細書において使用される場合、ポリペプチドまたは親ポリペプチドに関して使用されるときの用語「断片」は、参照ポリペプチドまたは親ポリペプチドのカルボキシル末端、アミノ末端、または両領域のいずれかに対応する、任意の切断型または低質量形態を意味することを意図する。したがって、カルボキシルまたはアミノ末端からの単一アミノ酸の欠失は、親ポリペプチドの断片と考えられる。用語断片はしたがって、アミノおよび/またはカルボキシル末端でのアミノ酸の欠失、ならびに、例えば、アミノ酸側鎖が除去されるがペプチド結合が存続する修飾を含む。断片は、例えば、化学試薬、酵素、またはエネルギー供給を使用したポリペプチド切断によって作製される切断型ポリペプチドを含む。断片は、配列特異的または配列非依存的切断事象から生じる可能性がある。ポリペプチドを切断するために一般に使用される試薬の例は、酵素、例えば、トロンビン、トリプシン、キモトリプシンなどのプロテアーゼ、ならびに臭化シアン、酸、塩基、およびo−ヨード安息香酸などの化学物質を含む。断片はまた、例えば、すべての種類の断片化方法および衝突誘起解離を含む質量分析法によって作製することもできる。さらに、断片はまた、1つの切断事象の結果生じた切断型ポリペプチドをさらなる切断事象によってさらに切断することができる、多数の切断事象から生じる可能性もある。
【0027】
用語「含む(including)」は、「含むが限定されるものではない」を意味するために使用される。「含む」および「含むが限定されるものではない」は、交換して使用することができる。
【0028】
「タンパク質」および「ポリペプチド」は、例えば、コード配列によりコードされ得る遺伝子産物を指す場合、本明細書において交換して使用することができる。「遺伝子産物」は、遺伝子の転写の結果として生成される分子を意味する。遺伝子産物は、遺伝子から転写されたRNA分子、ならびにこのような転写産物から翻訳されたタンパク質を含む。
【0029】
いくつかの実施形態においては同時に、単一試料中の少なくとも1つの標的タンパク質のレベルおよび/またはリン酸化状態を決定するための方法であって、(a)各標的タンパク質に対応する少なくとも1つの内部標準タンパク質またはペプチドを試料に添加するステップと、(b)尿素を使用せずに、試料中の少なくとも1つの標的タンパク質および内部標準を還元およびアルキル化するステップと、(c)試料を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって、少なくとも1つの標的タンパク質および少なくとも1つの内部標準タンパク質またはペプチドを消化するステップと、(d)質量分析に基づく方法によって前記消化断片を分析するステップと、(e)断片の分析結果を使用して、少なくとも1つの標的タンパク質のレベルおよび/またはリン酸化状態を決定するステップとを含む方法が、一態様において提供される。
【0030】
特定の実施形態において、レベルおよび/またはリン酸化状態が決定される標的タンパク質が少なくとも2、3、4、5、10個以上存在する。特定の実施形態において、標的タンパク質のレベルおよび/またはリン酸化状態は同時に、すなわち多重化して決定される。
【0031】
内部標準タンパク質またはペプチドは標的タンパク質(またはその断片)に対応するが、標的タンパク質と識別できるように内部標準タンパク質またはペプチドの質量を変更するために、適切な対応する内部マーカーアミノ酸(例えば、天然相当物よりも分子量が7amu大きいLeu残基)を含む。タンパク質は、リン酸化、脂質付加、プレニル化、硫酸化、水酸化、アセチル化、ユビキチン化、グリコシル化、メチル化、パルミトイル化、ミリスチル化、炭水化物付加、補欠分子族または補因子付加、ジスルフィド結合の形成、タンパク質分解、巨大分子複合体への集合などを含む翻訳後修飾などの天然起源の修飾によって修飾されていてもよい。
【0032】
タンパク質修飾はまた、例えば、化学合成により作製された非天然起源の誘導体、類似体およびその機能的模倣物を含むことができる。例えば、誘導体は、アルキル化、アシル化、カルバミル化、ヨウ素化、またはタンパク質を誘導体化する任意の修飾などのタンパク質の化学修飾を含むことができる。このような誘導体化分子は、例えば、遊離アミノ基が誘導体化されてアミン塩酸塩、p−トルエンスルホニル基、カルボベンゾキシ基、t−ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基またはホルミル基を形成している分子を含む。遊離カルボキシル基は、誘導体化されて塩、メチルおよびエチルエステルもしくは他の種類のエステルまたはヒドラジドを形成することができる。遊離ヒドロキシル基は、誘導体化されてO−アシルまたはO−アルキル誘導体を形成することができる。ヒスチジンのイミダゾール窒素は、誘導体化されてN−im−ベンジルヒスチジンを形成することができる。20個の標準アミノ酸の1つまたは複数の天然起源アミノ酸誘導体、例えば、4−ヒドロキシプロリン、5−ヒドロキシリシン、3−メチルヒスチジン、ホモセリン、オルニチンまたはカルボキシグルタミン酸を含有するタンパク質もまた、誘導体または類似体として含まれ、ペプチド結合によって連結されていないアミノ酸を含むことができる。タンパク質修飾の別の具体例は、安定な同位体を有する部分を用いる試料中のタンパク質修飾を含む。例えば、2つの異なるタンパク質は、同位体の異なる部分により別々に標識することができ、このような異なる形で標識されたタンパク質は比較することができる。安定な同位体を用いるタンパク質修飾は、試料中の1つまたは複数のタンパク質の相対量を定量するためにもまた使用することができる。
【0033】
ポリペプチドは、当業者に周知の様々な方法によって異なる形で標識することができ、例えば、特定の化学または生化学的方法が利用可能なポリペプチド中の任意の位置に標識を含むことができる。このような位置は、例えば、カルボキシルおよびアミノ末端、ならびにアミノ酸側鎖を含む。ポリペプチドおよび側鎖のカルボキシル末端を含むカルボキシル部分の標識の具体的な例は、メタノールを使用したエステル化である。さらに、システインを使用して、例えば、ヨードアセトアミド反応基によって標識を付与することができる。試料中のポリペプチドはまた、安定な同位体を有する部分によって標識することもできる。特定の安定な同位体において濃縮または除去される部分を生成することができ、例えば、元素の安定な同位体は、標識部分に組み込まれる前に除去することができるその元素の微量の異なる原子量の同位体を含有することができる。アミノ酸を標識するために使用することができる同位体標識は、例えば、重いおよび軽い同位体型の水素、炭素、酸素、窒素、硫黄およびセレンを含む。これらの軽原子に対応する重い同位体は、H、13C、17O、18O、15N、33S、34S、および35Sを含む。
【0034】
異なる形で標識されたポリペプチドは、2つの異なる試料において1つのポリペプチド、または複数のポリペプチドの相対存在量を決定するのに有用である。2つの試料間の特定のポリペプチドの存在量の変化は、生物学的プロセスにおけるそのポリペプチドの役割を示し得る。例えば、別の試料は標識を含有する重い同位体で標識しながら、1つの試料のポリペプチドを、標識を含有する軽い同位体で標識することができる。2つの異なる試料は、例えば、正常細胞および癌細胞から抽出されたポリペプチドとすることができる。両方の試料中に存在する特定のポリペプチド種は、標識の質量または標識を付与するために使用した化学を除いて、2つの試料において化学的に同一のものであるはずである。異なる形で標識されたポリペプチドは、物理化学的に同じような挙動をするため、2つの試料中の同じポリペプチドは同様にイオン化または断片化するはずであるが、異なる形での標識における同位体の違いのために依然としてMSによる識別が可能である。したがって、同じポリペプチドの相対量を容易に比較および定量することができる。
【0035】
標的タンパク質および内部標準タンパク質の還元およびアルキル化は、本質的に以前(Hale JEら(2004年)Anal Biochem333巻:174〜181頁)に記述されている通り、実施例に記述されている変更形態によって行うことができる。重要な変更点は、このステップにおいて尿素が使用されるべきではないことである。
【0036】
還元およびアルキル化された標的タンパク質および内部標準タンパク質またはペプチドは、次いで断片化される。ポリペプチドは、化学試薬、酵素、またはエネルギー供給を使用したポリペプチド切断を含む多くの方法によって断片化することができる。断片は、配列特異的または配列非依存的切断事象から生じる可能性がある。ポリペプチドを切断するために一般に使用される試薬の例は、酵素、例えば、トロンビン、トリプシン、キモトリプシンなどのプロテアーゼ、ならびに臭化シアン、酸、塩基、およびo−ヨード安息香酸などの化学物質を含む。断片はまた、例えば、すべての種類の断片化方法および衝突誘起解離(CID)を含む質量分析法によって作製することもできる。さらに、断片はまた、1つの切断事象の結果生じた切断型ポリペプチドをさらなる切断事象によってさらに切断することができる、多数の切断事象から生じる可能性もある。元の、または親ポリペプチドから、いくつかの同一のまたは異なる断片を得ることができる。本発明の方法は、ポリペプチド断片集団の1つまたは複数のポリペプチド断片を使用することができる。
【0037】
消化された断片の分析は、ハイスループット多重分析を可能にする任意の質量分析に基づく方法によるものとすることができる。質量分析は、分子を分離および特定するための高感度で正確な技術である。一般に、質量分析計は、イオン生成のためのイオン源およびイオンの質量電荷比を測定するための質量選択分析装置という2つの主要構成要素を有し、質量電荷比はこれらのイオンの質量の測定値であり、かつその測定値に変換される。いくつかのイオン化方法が当技術分野において公知であり、本明細書において記述されている。様々な質量分析法、例えば、四重極質量分析、イオントラップ質量分析、飛行時間型質量分析およびタンデム質量分析は、専用の検出手順の設計における柔軟性を許容する様々なイオン源の組合せおよび質量分析装置を利用することができる。加えて、質量分析装置は、イオン源からのすべてのイオンを質量分析装置に順次的または同時に送るようにプログラムすることができる。さらに、質量分析装置は、他のイオンを遮断しながら、質量分析装置へ送るために特定の質量のイオンを選択するようにプログラムすることができる。質量分析装置においてイオンの動きを正確に制御する能力は、例えば、多重実験による大量の断片が分析されている場合に有利となり得る、検出手順におけるより多くの選択肢を許容する。質量分析法は、当技術分野において周知である(BurlingameらAnal. Chem. 70巻:647R〜716R頁(1998年);KinterおよびSherman、Protein Sequencing and Identification Using Tandem Mass Spectrometry Wiley−Interscience、New York (2000年)を参照)。質量分析法に関連する基本的なプロセスは、試料由来の気相イオンの発生、およびこれらの質量測定である。1回の操作において数千のタンパク質種を分離、検出および定量することができる質量分析技術が存在する。
【0038】
質量分析の前に、クロマトグラフィステップが行われてもよい。混合物を個々のタンパク質成分に分離する必要なく複雑な混合物中に含有されるタンパク質を同定するための、新たなクロマトグラフィに基づく方法が利用可能である。塩、酵素、または他の緩衝成分を除去するために、分離ステップもまた使用することができる。クロマトグラフィ、ゲル電気泳動、または沈殿などの当技術分野において周知のいくつかの方法が、試料を精製するために使用可能である。例えば、試料から塩を除去するためにサイズ排除クロマトグラフィまたは親和性クロマトグラフィを使用することができる。分離方法の選択は、試料の量によって決定し得る。例えば、少量の試料が入手可能である、または小型の装置が使用される場合、マイクロアフィニティクロマトグラフィ分離ステップを使用することができる。加えて、分離ステップが望ましいかどうか、および分離方法の選択は、使用される検出方法によって決定し得る。例えば、マトリックス支援レーザー脱離イオン化およびエレクトロスプレーイオン化は、試料から塩を除去することによって向上することができる。例えば、塩はマトリックス支援レーザー脱離イオン化のエネルギーを吸収することができ、イオン化効率の低下をもたらす。
【0039】
好ましい実施形態において、方法はLC−MS/MSである。現在のところ、60分間の1回のLC−MS分析において10000回までの連続運転を記録することができる。質量分析計の負荷サイクルが律速段階であることが多いが、質量分析計が進歩するにつれて、1回の運転で検出および/または配列決定することができるポリペプチド数は増加し続けるはずである。さらなる自動化およびオンライン分析は、質量分析の効率を大きく向上させるであろう。したがって、機器の効率が向上するにつれて、本発明の方法により検出および/または配列決定することができるポリペプチドの割合もまた、同時に増加するであろう。
【0040】
いくつかの実施形態において、上述の方法は、4Eおよび/または少なくとも1つの4Eレギュロン成分のレベルおよび/またはリン酸化状態の特異的検出に適合させることができる。一実施形態において、少なくとも1つの標的タンパク質は4Eであり、498Daの親質量を有する断片配列番号2 WALWFFKの分析に少なくとも部分的に基づく。決定において使用される親質量からの遷移は、498→740、498→627および498→371である。別の実施形態において、少なくとも1つの標的タンパク質は4Eレギュロン成分であり、eIF4E(gi:54873625);サイクリンD1(gi:77628152);NBS/ニブリン(gi:67189763);Pim−1(gi: 31543400);サイクリンB1(gi:34304372);サイクリンA2(gi:16950653);ODC(gi:4505488);VEGF(gi:71051577);Skp2(gi:16306594、16306593);サイクリンE1(gi:17318558);c−myc(gi:71774082);FGF2(gi:153285460);MMP−9(gi:74272286);mdm2(gi:46488903);カスパーゼ−9(gi:14790123、14790127);bcl2(gi:72198188、72198345);Bcl/xL(gi:20336334);Fbox1(gi:16306583);CGGbp1(gi:56550052);P54nrb/NONO.1(gi:34932413);セレノプロテイン S(gi:45439347);eIF4E−BP1(gi:117938308);Akt1(gi:62241012、62241010、62241014);PI3K(gi:54792081、212377724);GSK3B(gi:21361339);HuR(gi:38201713);およびmTOR/FRAP1(gi:19924298)からなる群から選択される。以下に記載されている方法の特定のものにおいて使用される好ましい4Eレギュロン成分(成分)は、4E、4E−BP1、NBS/ニブリン、Pim−1、VEGF、サイクリンD1、サイクリンA2、ODCおよびHuRである。好ましいレギュロン成分は、4Eレギュロン成分を含み、4E、4E−BP1、NBS/ニブリン、Pim−1、VEGF、サイクリンD1、サイクリンA2、ODC AktおよびHuRからなる群から選択される。
【0041】
上述の4Eおよび/または少なくとも1つの4Eレギュロン成分のレベルおよび/またはリン酸化状態を検出するためのアッセイは、4Eおよび4Eレギュロン成分活性の特定、診断およびモニタリング用の組成物のため、ならびに4Eおよび4Eレギュロン成分活性を調節する作用物質の発見のための様々な方法のいずれかに組み込むことができる。このような方法は、両出願ともに参照によりその全体が本明細書に組み込まれる2006年12月28日に出願されたPCT出願US06/049450および2007年10月1日に出願されたPCT出願US07/021167において広く記述されている。
【0042】
特定の実施形態において、4Eまたは4Eレギュロン成分のレベルおよび/またはリン酸化状態は、アクチンまたはGADPHなどの対照のレベルおよび/またはリン酸化状態と比較することができる。
【0043】
本発明は、前述の方法のいずれかを実施するためのキットを提供する。特定の実施形態において、キットは、内部標準タンパク質ならびに標準および標的タンパク質の断片を作出するための試薬を含んでもよい。キットは、対照、緩衝液、および使用説明書をさらに含んでもよい。キット構成要素は、前述の方法の手動の、または一部もしくは完全に自動化された実施用に包装できる。このようなキットは、例えば、イメージング、診断、治療、および他の用途を含む様々な用途を有し得る。
【実施例】
【0044】
本発明を、限定するものとは決して解釈されるべきではない以下の実施例によりさらに説明する。本出願全体にわたって引用される、参考文献、発行済み特許、公開済みまたは未公開特許出願を含むすべての引用される参照物の内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【0045】
4Eおよび4Eレギュロン成分レベルの単一試料の多重分析、ならびに4Eおよび4Eレギュロン成分リン酸化状態の潜在的な同時分析を提供する、4Eおよび4Eレギュロン成分のための高感度ハイスループット質量分析に基づく定量アッセイが開発され、4E/4Eレギュロン生物学的経路の初の単一試料分析を提供した。
【0046】
質量分析に基づくアッセイは、標的タンパク質(複数可)の濃縮方法を利用し、これにより抗体を使用せずに高感度なハイスループットアッセイの構築が可能となる。濃縮方法が余分なステップまたは試薬を試料調製に導入しないように、濃縮ステップは還元/アルキル化ステップに組み込まれた。多くの他のタンパク質のための質量分析に基づくアッセイの開発に、同様の手法が適用できる。他の種類の、抗体に基づくものでない濃縮方法を、様々な異なるタンパク質のための質量分析に基づくアッセイを開発するためにうまく採用した。アッセイの処理量は、大部分の抗体に基づくアッセイに匹敵するかまたはそれより高いものであった。例えば、ロボットシステムを使用せずに、1人の人間が1週間で1000個を超える試料を2連で処理した。
【0047】
試薬:Trypsin−goldはPromega(カタログ番号V5280)から購入した。炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム、2−ヨードエタノール、およびトリエチルホスフィンはSigmaから購入した。質量分析グレードのギ酸はSigmaから購入した。0.1%ギ酸含有水はFisher Scientificから購入した。アセトニトリル(CAN)はBurdick & Jacksonから購入した。合成ペプチドはMidwest Biotech(Fishers、IN)から購入した。
【0048】
試料調製:タンパク質をトリプシンで消化した後、高速液体クロマトグラフィと1列に結合されたタンデム質量分析(LC−MS/MS)を行った。標的ペプチド(複数可)がCys残基を含有する場合、トリプシン消化の前にまず血清/血漿タンパク質を還元およびアルキル化した。血清または血漿タンパク質の還元およびアルキル化は、本質的に以前(Hale JEら(2004年)Anal Biochem333巻:174〜181頁)に記述されている通り、以下の変更形態によって1ステップで行った。最も重要なことだが、結合した還元/アルキル化ステップの際に尿素が省かれた。典型的には、ポリプロピレン容器において10μLの血清または血漿試料を50μLの炭酸アンモニウム溶液(0.1M、pH11)で希釈し、氷上に置き、その後室温で80μLの還元/アルキル化カクテル(R/Aカクテル)と混合した。R/Aカクテルは、0.5mLの2−ヨードエタノール、0.125mLのトリエチルホスフィン、および24.375mLのアセトニトリルを混合することにより調製した(2−ヨードエタノールは安定剤として銅粒が付いており、R/Aカクテルの調製直前に、0.45μmのスピンフィルター(Millipore UFC30HV00)によりろ過した)。少量の試料に関しては、血清をリン酸緩衝食塩水(PBS)で事前希釈することにより全量を同じに維持した。多量の試料に関しては、各試薬量を適宜増加させた。アルカリ性のpHにおいて希釈された試料へR/Aカクテルを添加した後、試料を十分に混合し、一定に振とうしながら37℃で1時間インキュベートした。還元およびアルキル化された試料を4000rpmで4分間遠心分離にかけ、次いでSolvInertフィルタープレート(Millipore、MSRLN0450)によりろ過して沈殿したタンパク質を除去した。溶媒ならびに残りの還元/アルキル化試薬を、典型的には高温(75℃)下で6時間、その後室温でさらに12〜18時間、SpeedVac(GeneVac製カタログ番号DUC−12060−C00 miVac DUO濃縮機)によってろ液から除去した。乾燥した試料は、トリプシン(最初の血漿または血清量10μL当たり1μgのTrypsin−gold)を含有する100μLの100mM重炭酸アンモニウム溶液(ABC)に溶解した。試料をSpeedVacから取り出して直ちにTrypsin−goldにより再構成した場合に、最良の結果が得られた。貫通可能なヒートシーリングアルミホイル(ABgene、カタログ番号AB−0757)を使用して、ヒートシーラー(Eppendorf、カタログ番号5390)を使用してプレートを密封し、トリプシンで6時間〜一晩インキュベートし、次いでSolvInertフィルタープレート(Millipore、MSRLN0450)によりろ過した後、50μLをLC−MS/MSシステムに注入した。
【0049】
ハイスループット処理のための試料調製手順の最適化:還元/アルキル化反応は、個々のウェルの周囲に高い縁のある96ウェルPCRプレート(Robbins、Surrey UK、カタログ番号1055−00−0)上で行った。内部標準ペプチドの前駆体は、適切な対応する内部マーカーアミノ酸(例えば、天然相当物よりも分子量が7amu大きいLeu残基)を含み、氷冷された炭酸アンモニウム緩衝液において50nM濃度で調製された。50マイクロリットルのこの溶液を、MultiDrop(Thermo)を使用してPCRプレートに分配した。PCRプレートを氷冷したまま、10μLの血清または血漿試料を2連で移し、混合した。R/Aカクテルを、8チャンネル連続分注ピペットを使用して室温で添加した。溶液中の高蒸気圧のアセトニトリルのため、ピペットチップの事前洗いは試薬の正確な送達のために重要である。貫通可能なヒートシーリングアルミホイル(ABgene、カタログ番号AB−0757)を使用して、ヒートシーラー(Eppendorf、カタログ番号5390)を使用してプレートを密封し、次いで十分に混合した。プレートをゆっくりと振とうしながら37℃で1時間インキュベートした。プレートを、4000rpmで4分間遠心分離した後、密封しているホイルを剥いだ。縁の高いPCRプレート(USA Scientific製TempPlate II、カタログ番号1402−9600)の上のMillipore(MSRLN0450)からSolvInertフィルタープレートを押すことによって、ろ過アセンブリを準備した。このフィルタープレートの出口は受取プレートの高くなった縁に収まる。ろ過アセンブリを試料の上に上下逆の位置に置き、試料プレートの高くなった縁がフィルタープレートの個々のウェルに挿入されるようにろ過サンドイッチを形成した。ろ過サンドイッチを反転し、1000rpmで1分間、次いで4000rpmで4分間遠心分離にかけた。前述のとおりSpeedVacによってろ液を乾燥させ、次いで試料をTrypsin−goldで再構成し、プレートを密封して37℃で一晩消化した。試料調製方法は2つのろ過ステップを伴うため、最終試料プレートは最初の還元/アルキル化プレートと同じ向きである。前述のように、または標的タンパク質/ペプチドに適するように、濃縮手順が必要に応じて採用される。
【0050】
4Eおよび4Eレギュロン成分ペプチドのLC−MS/MS:4Eおよび個々の4Eレギュロン成分由来のトリプシンペプチドが、4EおよびeIF4Eレギュロン成分の定量のための1列に並んだLC−MS/MSを使用して測定および検出される。対応する標準ペプチドにおいて、Leu残基(または適切な内部標準重同位体標識アミノ酸残基)は、N15およびC13により均一に標識される。干渉するペプチドはHPLCシステム(Thermo Finnigan製Surveyor MSポンプ)によって、C18逆相カラム(XBridge 2.5μm×2.1mm×50mm)上で、必要に応じて以下の2溶媒勾配系(溶媒A、0.1%ギ酸/H2O;溶媒B、0.1%ギ酸/アセトニトリル)を使用して分離した。HPLCカラムは50℃で維持し、溶媒は室温に維持し、試料は4℃で維持した。典型的には、全量100μLのうち50μLの試料を、100μLの試料注入ループを使用して注入し、ペプチドを指示された時間に溶出した。HPLCカラムが平衡状態に達することができるように2つの水ブランク試料を実際の試料の前に注入した。以前の運転のpNTTPペプチドの典型的なキャリーオーバーは0.1%未満であった。
【0051】
ESI源(Thermo Finnigan)を備えたLTQイオントラップ四重極質量分析計を使用して、陽イオン質量分析を得た。HPLC運転の2〜3分の間にカラムの全流出物をESI源に向け、残りは質量分析計からそらした。高流速を供給するために、移送管温度(312℃)および窒素シースフローを含む機器の特定のパラメータを手動で調整する必要があった。
【0052】
すべてのマイクロスキャンは、トラップのためにイオン取り込み時間50msの1つのマイクロスキャンに設定した。機器による方法において、MS−MS条件に以下のパラメータを使用した:正規化衝突エネルギー、21;活性化Q、0.180;活性化時間、50ms。標準ペプチドならびに標的4Eおよび4eレギュロンペプチド両方について、3回のMS−MS遷移を測定した。
【0053】
ピーク積分およびカーブフィッティング:ピーク積分は、XCaliberソフトウェア内の処理方法を使用して以下のパラメータを使用して行った:ピーク積分方法、ICIS;スムージング点、5;ベースライン領域、15;エリアノイズファクター、1;標準ペプチドに関してピークノイズファクター、3および標的4Eおよび4Eレギュロンペプチドに関して5;拘束ピーク幅、5%ピーク高さおよび3%テーリングファクター;詳細オプション、反復ノイズ法。3回の遷移の間の各ペプチドの同位体分布および相対強度が、合成ペプチドのものと合致することを試験および確認した。標準ペプチドと4Eおよび4Eレギュロン標的ペプチド間の比を各遷移について計算し、次いで3つの比の数値平均を得た。1/Y^2を重み付け係数とするGraphPad Prism(GraphPad Software,Inc.、San Diego、CA)の非線形カーブフィッティング関数を使用して、較正基準試料のNPI値を、シグモイド曲線(NPI)下限値+(上限値−下限値)/(1+10^((logEC50−X)*(斜面勾配)))(式中、Xは濃度の対数;下限値、上限値、EC50および斜面勾配はデータのカーブフィッティングによって決定されるパラメータである)に適合させた。全濃度範囲にわたって等しく良好に機能する較正曲線を得るために、重み付け係数を使用することが重要であった。
【0054】
4Eレベルおよびリン酸化状態の検出のためのアッセイの実施形態:4Eを検出するために使用されたペプチドは、配列番号2 WALWFFKであった。この親質量は498であり、使用された遷移は498→740、498→627および498→371であった。
【0055】
前述のとおり決定された質量スペクトルを、図1に示す。
【0056】
図2および3中のものなどの他のペプチドが、由来する4Eレギュロン成分を検出するために前述のアッセイにおいて使用されてもよい。
【0057】
4Eレギュロン成分レベルおよびリン酸化状態の検出のためのアッセイの実施形態:前述の方法を使用して検出され得る4Eレギュロン成分の配列を、図2に示す。各成分を分析するために使用された予想消化産物ペプチドを、図3に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一試料中の少なくとも1つの標的タンパク質またはペプチドのレベルおよび/またはリン酸化状態を同時に決定するための方法であって、
(a)各標的タンパク質に対応する少なくとも1つの内部標準タンパク質またはペプチドを該試料に添加するステップと、
(b)尿素を使用せずに、該試料中の該少なくとも1つの標的タンパク質またはペプチドを還元およびアルキル化するステップと、
(c)該試料を少なくとも1つのプロテアーゼと接触させることによって、該少なくとも1つの標的タンパク質および該少なくとも1つの内部標準タンパク質またはペプチドを消化するステップと、
(d)質量分析に基づく方法によって該消化断片を分析するステップと、
(e)該断片の分析結果を使用して、該少なくとも1つの標的タンパク質またはペプチドのレベルおよび/またはリン酸化状態を決定するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの標的タンパク質が4Eまたは4Eレギュロン成分である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
レベルおよび/またはリン酸化状態が決定される標的タンパク質またはペプチドが少なくとも2つ存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの標的タンパク質が4Eであり、4Eのレベルおよび/またはリン酸化状態が、498Daの親質量を有する断片WALWFFKの分析に少なくとも部分的に基づいて決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記決定において使用される親質量からの遷移が498→740、498→627および498→371である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの標的タンパク質が4Eレギュロン成分であり、eIF4E(gi:54873625);サイクリンD1(gi:77628152);NBS/ニブリン(gi:67189763);Pim−1(gi: 31543400);サイクリンB1(gi:34304372);サイクリンA2(gi:16950653);ODC(gi:4505488);VEGF(gi:71051577);Skp2(gi:16306594、16306593);サイクリンE1(gi:17318558);c−myc(gi:71774082);FGF2(gi:153285460);MMP−9(gi:74272286);mdm2(gi:46488903);カスパーゼ−9(gi:14790123、14790127);bcl2(gi:72198188、72198345);Bcl/xL(gi:20336334);Fbox1(gi:16306583);CGGbp1(gi:56550052);P54nrb/NONO.1(gi:34932413);セレノプロテイン S(gi:45439347);eIF4E−BP1(gi:117938308);Akt1(gi:62241012、62241010、62241014);PI3K(gi:54792081、212377724);GSK3B(gi:21361339);HuR(gi:38201713);およびmTOR/FRAP1(gi:19924298)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの標的タンパク質が4Eレギュロン成分であり、4E、4E−BP1、NBS/ニブリン、Pim−1、VEGF、サイクリンD1、サイクリンA2、ODC AktおよびHuRからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記質量分析に基づく方法がLC−MS/MSである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一項に記載の方法を実施するための試薬を含むキット。
【請求項10】
使用説明書をさらに含む、請求項9に記載のキット。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図3−6】
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【公表番号】特表2011−503553(P2011−503553A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−532339(P2010−532339)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際出願番号】PCT/US2008/082611
【国際公開番号】WO2009/061904
【国際公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(510118260)トランスレイショナル セラピューティクス, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】