説明

invivo親和性成熟系

本発明は、in vivoにおける核酸の進化の分野に関し、遺伝子産物に多様性を導入するための方法および組成物を提供する。本発明は、細胞内での高頻度の変異事象に基づいて、所望の特性を有する新しい配列の生成を可能にする。ポリヌクレオチド配列に高頻度に変異が起こると、大集団の新しい配列異型が生じる。適当な選択および/またはスクリーニングを行うことで、変異型のポリヌクレオチド配列、ならびにその変異配列の発現から生じる産物の同定および単離が可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、in vivoにおける核酸の進化の分野に関し、遺伝子産物に多様性を導入するための方法および組成物を提供する。本発明は、細胞内での高頻度の変異事象に基づいて、所望の特性を有する新しい配列の生成を可能にする。ポリヌクレオチド配列に高頻度に変異が起こると、大集団の新しい配列異型が生じる。適当な選択および/またはスクリーニングを行うことで、変異型のポリヌクレオチド配列、およびその変異配列の発現から生じる産物の同定および単離が可能になる。
【背景技術】
【0002】
in vitroでのタンパクの進化では、変異を既知の遺伝子配列に導入して、変異配列のライブラリーを作成し、その配列を翻訳して、非常に多数の変異遺伝子産物を産生し、次いでそれを所望の特性を有するかどうかで選択することによって多様性を生じさせる。このような系は、異なる2群に分けることができる; i) 変異した標的タンパクはファージ、細菌または酵母の表面上に提示されるが、変異ステップは細胞の外側で行われる、部分的にin vitroで行う方法、およびii) リボソームの四次複合体またはポリソームの一部として標的が提示され、変異を含めた他のすべてのステップが無細胞の環境で行われる、完全にin vitroで行う方法。これらのプロセスは、診断上および治療上の有用性が向上したタンパクを生成する潜在的可能性を有する。しかし、残念ながら、変異、ライブラリー生成、および正確に折り畳まれたタンパクの提示に現在使用可能な方法に欠陥があることから、このようなプロセスの潜在的可能性は限定されている。
【0003】
例えば、部分的にin vitroで行う方法の場合、DNAをin vitroで合成し、または変異生成する細胞から抽出しなければならない。(エラープローンPCR (error prone PCR)、DNAシャッフリング、チェーンシャッフリング(chain shuffling)、部位特異的変異生成を含めた)様々な変異生成の手法を使用して変異ライブラリーを作成することに成功しているが、それに続いて行う形質転換の効率における制限があるため、この多様性の一部は失われる。その結果として、単一個々の遺伝子の群およびそれにコードされたタンパクの群からなる大きなライブラリー(例えば、ライブラリーサイズが1010個を超えるもの)の作成は、特にファージディスプレイシステムでは困難であることが示されている。さらに不利な点は、ファージディスプレイシステムを利用する方法が、変異、増幅、選択、およびさらなる変異という複数の連続したステップを必要とすることである。DNAを抽出し、それを細胞に再導入することがこれらのシステムに必要であることを考えると、標的遺伝子ライブラリーに高い多様性を生じさせる潜在的可能性は、さらに制限される。
【0004】
この問題を避けるために、連続in vitro進化(CIVE)などの完全にin vitroで行う方法が開発され、例えば、WO99/58661に記載されている。理論上、このシステムでは変異生成によって生じたどんな多様性も失われない。CIVEの場合、変異生成酵素を使用して、核酸塩基の変化を標的配列に導入する。この場合に多様性を制限する唯一のファクターは、この酵素の変異生成率である。この系で使用することができる、エラープローンPCR、DNAシャッフリング(セクシャルPCR (sexual PCR))、チェーンシャッフリング、部位特異的変異生成など他のin vitro変異の方法を、選択されたCDRに用いた場合の変異生成率についての報告は、かなり異なっている。様々な機構を使用するにも関わらず、これらの手法はすべて、このプロセスに必要な決まった成分しか存在しない人工的な環境で機能する。この環境に与えられていない、さらなる未知のファクターが関与していることが考えられる。さらに、この無細胞の環境には、正しく折り畳まれ、プロセシングを受けたタンパクの産生に必要な分泌機構および翻訳後の機構が欠如している。その結果、このことにより、このシステムで「進化させる」ことができる標的のタイプが制限され、臨床的状況で機能上重要でない、不正確に折り畳まれ修飾されない変異タンパクが選択されることになる。細菌およびファージディスプレイも、これに関係する同様の諸問題を有する。
【0005】
in vivoでのタンパクの進化は、in vitro進化について前記したのと同様のステップおよび原理(すなわち、変異、提示、選択および増幅)を使用する。しかし、in vivoシステムでは、in vitroの手法に関係する問題の多くが克服される。報告されているin vivoでのある循環的手順は、大腸菌(Escherichia coli)変異誘発細胞を使用し、この細胞を、組換え抗体遺伝子の変異のための媒介物として用いる。変異DNAQ遺伝子を有する大腸菌(E.coli)変異誘発細胞MUTD5-FITを、S-30抽出物の供給源として使用し、したがって、校正エラーの結果、複製中に変異をDNAに導入することができた。しかし、変異生成率は必要な率と比べて低かった。例えば、20残基を変異させ、20アミノ酸を完全に並べ換えるには、1×1026個のライブラリーサイズが必要であり、これは現在使用されているファージライブラリーディスプレイの方法では極めて困難な課題である。形質転換の効率、タンパクの折り畳みなどから見て、細菌およびファージを使用する不利な点により、これがいっそう所望の系ではなくなっていることは明らかである。
【0006】
上記を考慮すると、現在の親和性成熟系の、機能上優れた結合物を生成し選択する能力がある程度限られたものであることは明らかである。
【特許文献1】WO99/58661
【非特許文献1】Grosschedlら(1985) Cell Vol 41:885〜897頁
【非特許文献2】Rabbittsら(1983) Nature 306 (5945):806〜809頁
【非特許文献3】Ravetchら(1981) Cell 27 (3 Pt 2): 583〜591頁
【非特許文献4】Meyerら(1989) EMBO Journal Vol. 8、no. 7 1959〜1964頁
【特許文献2】米国特許出願第20030119764号
【非特許文献5】Michnick (2001) Current opinion in structural biology 11:472〜477頁
【非特許文献6】Wehrmanら(2002). PNAS 99(6):3469〜3474頁
【非特許文献7】Galaneauら(2002). Nature 20:616〜622頁
【非特許文献8】Irving RA、Kortt AA、Hudson PJ (1996). Immunotechnology 2(2) 127〜43頁
【非特許文献9】Foster PL (2000) Bioessays 22(12) : 1067〜74頁
【非特許文献10】Powell SC & Wartwell RM (2001) Mutation Research 473 (2) 219〜28頁
【非特許文献11】Bucciら、(1999) Mol Cell 3 (4) 435〜45頁
【非特許文献12】Shcherbakova & Kunkel (1999). Molecular and Cellular Biology 19(4) 3177〜3183頁
【非特許文献13】Drotschmannら、(1999) Proc. Natl Acad Sci USA 96 2970〜2975頁
【非特許文献14】Sale & Neuberger (1998) Immunity 9 (6) 859〜869頁
【非特許文献15】Denepouxsら、(1997) Immunity 6(1) 35〜46頁
【非特許文献16】Poltoraskyら、(2001) Proc Natl Acad Sci USA 98 (14) 7976〜81頁
【非特許文献17】Bachlら、(2001) Journal Immunology 166 (8) 5051〜7頁
【非特許文献18】Dufourら(1996) J. Immunol 156:2163〜2170頁
【非特許文献19】Salequeら(1997) J. Immunol. 158 (10)、4780〜4787頁
【非特許文献20】Kadeschら(1986) Nucleic Acids Res. 14 (20)、8209〜8221頁
【非特許文献21】MeyerおよびNeuberger (1989) EMBO J. 8 (7)、1959〜1964頁
【非特許文献22】Kataokaら(1982). J Biol. Chem. 257 : 2777〜285頁
【非特許文献23】Clarkeら(1982). Nucleic Acids Res. 10 : 7731頁
【非特許文献24】GrosschedlおよびBaltimore D.、(1985). Cell 41: 885〜897頁
【非特許文献25】Schiffら(1986). J. Exp. Med. 163 : 573〜587頁
【非特許文献26】Hainoら(1994) J. Biol. Chem. 269 (4)、2619〜2626頁
【特許文献3】WO91/17271
【特許文献4】WO91/18980
【特許文献5】WO91/19818
【特許文献6】WO93/08278
【非特許文献27】Chenら、2001
【非特許文献28】Caras IW、Weddell GN、Davits MA、Nussenzweig W、Martin DW (1987) Science 238(4831):1280〜3
【非特許文献29】Hooper NM、Low MG、Turner AJ. (1987) Biochem. J. 244(2):465〜9
【非特許文献30】Patel BN、Dunn RJ & David S. (2000) J. Biol. Chem. 275(6):4305〜10
【非特許文献31】Bernasconi E、Fasel N & Wittek R. (1996) J. Cell Sci. 109(6):1195〜201
【非特許文献32】Stevens BA、White IJ、Hames BD Hooper NM. (2001) Biochimica et Biophysica Acta 1511: 317〜329.
【非特許文献33】Burghas PA、Gerold P、Pan W、Schwartz RT、Lingelbach K、Burjard H. (1999) Molecular and Biochemical Parisitology 104:171〜183.
【非特許文献34】Chou W.、Liao K.、Jiang S.Y.、Yeh M.Y. およびRoffler S.R.(1999) Biotechnol Bioeng. 1999 Oct 20;65(2):160〜9.
【非特許文献35】FieldsおよびSong 1989
【非特許文献36】LicitraおよびLiu 1996
【非特許文献37】Vidalら 1996
【非特許文献38】http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/
【非特許文献39】http://www.mrc-cpe.cam.ac.uk/vbase
【非特許文献40】Kabatら、1991、「免疫学的に対象となるタンパクの配列(Sequences of proteins of immunological interest)」、1巻、第5版
【非特許文献41】Journal of Molecular Biology、1987、Vol 195、761〜768頁
【非特許文献42】Leeら、1987、Journal of Immunology、142、4054〜4061頁
【非特許文献43】Sanzら 1988、Clinical Experimental Immunology 71、508〜516頁
【非特許文献44】Corbett, Sら、Journal of Molecular Biology、270、587〜597頁
【非特許文献45】Mattilaら、1995
【非特許文献46】Current Protocols in Cytometry 9.11.2
【非特許文献47】Tanaka,Tら、1992、J. Immunol. 149 (2)、481〜486頁
【非特許文献48】Martinら 2002
【非特許文献49】Okazakiら 2002
【非特許文献50】Yoshikawaら 2002
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、遺伝子産物のin vivoでの進化に関する新規のプロセスをこれまでに開発した。このプロセスでは、体細胞の高頻度変異によって標的核酸配列の変異体が生じ、生物活性に必要などんな翻訳後修飾をも受けることができる変異産物が得られる。次いで、標的産物の特性に対し特別な選択システムを利用して、所望の変異体を同定する。
【0008】
したがって、第1の態様では、本発明は、所望の性質を有する遺伝子産物を産生し選択する方法を提供し、この方法は、
(i) 標的核酸分子が高頻度変異性細胞ゲノムのイムノグロブリン遺伝子座に組み込まれるように、高頻度変異性細胞に遺伝子産物をコードする標的核酸分子を導入するステップと、
(ii) DNAおよび/またはRNA合成中にこの標的核酸分子が高頻度変異を起こすように、この高頻度変異性細胞を培養し、変異遺伝子産物を発現している細胞集団を生じさせるステップと、
(iii) 所望の性質を有する変異遺伝子産物を選択するステップとを含む。
【0009】
「イムノグロブリン遺伝子座」という用語は、抗体分子の可変領域、または抗体分子の発現を制御する調節ヌクレオチド配列の全部もしくは一部を指す。重鎖のイムノグロブリン遺伝子座は、トランスフェクトする抗体産生細胞によって発現される特定の重鎖定常領域遺伝子と結合しているまたは隣り合っているV、D、J、およびスイッチ領域(イントロンと呼ばれる介在配列を含む)、ならびに隣接配列の全部または一部を含む可能性があるがそれだけに限らず、定常領域内またはその下流に位置している(イントロンを含む)領域を含む可能性がある。軽鎖のイムノグロブリン遺伝子座は、トランスフェクトする抗体産生細胞によって発現される軽鎖定常領域遺伝子と結合しているまたは隣り合っているVおよびJ領域、その上流の隣接配列、ならびに介在配列(イントロン)を含む可能性があるがそれだけに限らず、定常領域内またはその下流に位置している(イントロンを含む)領域を含む可能性がある。重鎖可変領域のイムノグロブリン遺伝子座は、トランスフェクトする抗体産生細胞によって発現される特定の可変領域遺伝子と結合しているまたは隣り合っているV、DおよびJ領域(イントロンを含む)ならびに隣接配列の全部または一部を含む可能性があるがそれだけに限らない。軽鎖可変領域のイムノグロブリン遺伝子座は、トランスフェクトする抗体産生細胞によって発現される軽鎖可変領域遺伝子と結合しているまたは隣り合っているVおよびJ領域(イントロンを含む)ならびに隣接配列を含む可能性があるがそれだけに限らない。
【0010】
ヒトでは、イムノグロブリン重鎖(IgH)遺伝子座は、第14番染色体に位置している。5'から3'の転写の方向に、この遺伝子座は、可変領域遺伝子(VH)の大きなクラスター、多様性(D)領域遺伝子、その後に続く結合(JH)領域遺伝子および定常(CH)領域遺伝子クラスターを含む。この遺伝子座のサイズは、約1500〜約2500キロ塩基対(kb)と推定されている。B細胞の発生の間に、生殖系列のIgH遺伝子座の不連続な遺伝子セグメントは、DNAの物理的な再構成によって並列する。機能的な重鎖Igポリペプチドを産生するためには、VH、DおよびJHの3種の不連続なDNAセグメントが、まずDとJHが結合し、次いでVHとDJHが結合して機能的な単位VHDJHが生じるという、特定の連続した方法で結合しなければならない。VHDJHが形成された後、エクソンおよびイントロンを含む特定のVHDJHCH単位を鋳型として用いてIg遺伝子座が転写されて、特定の重鎖が産生される。
【0011】
イムノグロブリン軽鎖(IgL)には、ヒト第2番染色体上にあるκ遺伝子座とヒト第22番染色体上にあるλ遺伝子座という2つの遺伝子座がある。IgL遺伝子座の構成は、D領域が存在しないこと以外はIgH遺伝子座のそれと類似している。IgH再構成の後、κ鎖またはλ鎖のVLとJLの結合により、軽鎖遺伝子座の再構成が同様に行われる。κおよびλ遺伝子座のサイズは、それぞれおよそ1000kb〜2000kbである。再構成されたIgHおよびIgκまたはIgλ軽鎖が特定のB細胞中で発現することにより、抗体分子の生成が可能となる。
【0012】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、イムノグロブリン遺伝子座は、再構成されたVH4遺伝子である。さらなる好ましい実施形態では、イムノグロブリン遺伝子座は、再構成されたVH4〜34対立遺伝子である。
【0013】
「高頻度変異」は、イムノグロブリン可変領域で自然に生じる割合に近い割合で変異生成が生じる機構を意味し、その割合は、好ましくは10-4〜10-3/塩基対/発生数/細胞であるが、より好ましくは5×10-5〜5×10-4/塩基対/発生数/細胞である。
【0014】
「高頻度変異性細胞」とは、高頻度変異成分を含む細胞または細胞系統である。
【0015】
「高頻度変異成分」は、イントロンエンハンサー(Ei)、マトリックス付着領域(MAR)および3'エンハンサーを意味する。イントロンエンハンサーは、例えば、Eμでもよく、Eκでもよい。3'エンハンサーは、例えば、3'κエンハンサーでもよく、3'Hエンハンサーでもよい。
【0016】
「マトリックス付着領域」(MAR)は、それが核マトリックスと結合することができることから定義される。マトリックス付着領域配列は、IgHイントロンエンハンサーと隣接する。
【0017】
一実施形態では、高頻度変異性細胞は、少なくとも1種のイムノグロブリンV遺伝子を発現することができるイムノグロブリン発現細胞である。V遺伝子は、可変軽鎖(VL)遺伝子でもよく、可変重鎖(VH)遺伝子でもよい。完全なイムノグロブリン分子の一部として、V遺伝子を生成することができる。本発明で使用するのに好ましい高頻度変異性細胞は、B細胞系統に由来するものである。リンパ腫細胞を使用して、本発明で使用するための構成的な高頻度変異性細胞系統を単離することができる。
【0018】
本発明の好ましい実施形態では、高頻度変異性細胞のイムノグロブリン遺伝子座に組み込んだ後、標的核酸分子が1つまたは複数の内在高頻度変異成分に近接して位置している。好ましくは、イムノグロブリン遺伝子座はVH遺伝子であり、標的核酸分子が内在イントロンエンハンサーおよび内在マトリックス付着領域に近接して位置している。
【0019】
「近接して位置している」という語句は、高頻度変異成分が、標的核酸分子に、標的核酸分子の高頻度変異を起こすのに十分近接して位置していることを意味する。
【0020】
本発明の代替の実施形態では、高頻度変異性細胞のイムノグロブリン遺伝子座に組み込んだ後、標的核酸分子が少なくとも1つの外来高頻度変異成分に近接して位置している。例えば、標的核酸分子は、外来イントロンエンハンサー、外来マトリックス付着領域、および/または外来3'κエンハンサーに近接して位置してもよい。1つまたは複数のこれらのどんな外来成分を、標的核酸分子と同時にイムノグロブリン遺伝子座に組み込むこともできる。
【0021】
適切な外来「イントロンエンハンサー」は、例えば、Grosschedlら(1985) Cell Vol 41:885〜897頁に記載のXbaIとEcoRIによる断片、Rabbittsら(1983) Nature 306 (5945):806〜809頁に記載のイントロンエンハンサー、またはRavetchら(1981) Cell 27 (3 Pt 2): 583〜591頁に記載のイントロンエンハンサーでもよく、高頻度変異活性があることが決定されている1つまたは複数のその細断片(sub-fragment)でもよい。
【0022】
適切な外来「3'κエンハンサー」は、Meyerら(1989) EMBO Journal Vol. 8、no. 7 1959〜1964頁に記載のScaIとXbaIによる断片であり、高頻度変異活性があることが決定されている1つまたは複数のその細断片でもよい。
【0023】
外来イントロンエンハンサーまたは3'κエンハンサーの高頻度変異活性断片は、様々な方法で同定することができる。1つの方法は、種々のエンハンサー欠失変異体およびレポーター遺伝子を含む高頻度変異カセットを構築して、欠失分析を行うことである。レポーター遺伝子の変異率を決定することにより、エンハンサー欠失変異体の高頻度変異効率を評価することができる。欠失変異体は、様々な方法で調製することができる。試験する断片の配列を含むオリゴヌクレオチドを設計することができる。あるいは、エンハンサー内部で制限消化することで発現ベクターを直鎖化し、その後続いてエキソヌクレアーゼ処理および再連結を行う、より無作為な手法もある。さらに他の方法は、単に制限消化を用いてDNAの一部を除去することである。
【0024】
組み込み後、3'エンハンサーおよび/またはイントロンエンハンサーが標的核酸配列の3'側に位置していることが好ましい。イントロンエンハンサーが、3'エンハンサーより標的遺伝子に近接して位置していることがさらに好ましい。好ましくは、イントロンエンハンサーの5'末端が標的遺伝子の3'末端から最大3kb離れてその3'側に位置し、好ましくはその間が2kbより短く、より好ましくは1kbより短く、最も好ましくは標的核酸配列のすぐ隣りにその5'末端が位置している。イントロンエンハンサーが標的遺伝子から3kbより離れてその3'側に位置していてもよいが、これは好ましくない。3'エンハンサーは、イントロンエンハンサーから、好ましくは最大20kb離れてその3'側に位置し、好ましくは5〜15kb離れてその3'側に位置している。3'エンハンサーは、イントロンエンハンサーから1kb離れてその3'側に位置していてもよいが、これは好ましくない。他の実施形態では、3'エンハンサー断片は、標的遺伝子に対して5'側に位置している。イントロンエンハンサーも標的遺伝子に対して5'側に位置していてよいが、その実施形態は好ましくない。
【0025】
さらに好ましい実施形態では、エンハンサーは、ゲノムの向きに存在している。ゲノム上のイムノグロブリン遺伝子に存在するエンハンサー配列は、「ゲノムの向き」に存在している。3'から5'の向きに(本来のゲノムの配置の5'から3'の向きとは反対に)見えるようにこの構築物中でそれが裏返った場合、それは「逆向き」に存在する。しかし、3'エンハンサーは、逆向きに存在してもよい。このエンハンサーも逆向きに存在してよいが、それは好ましくない。
【0026】
第1の態様のさらに好ましい実施形態では、標的核酸分子をイムノグロブリン遺伝子座に組み込んだ後、標的核酸分子をプロモーターに作動的に連結する。好ましくは、標的核酸分子は、プロモーターの下流、およびイントロンエンハンサーの上流に位置している。
【0027】
「プロモーター」という用語は、当技術分野で周知であり、サイズおよび複雑性において、最小限のプロモーターから上流の成分およびエンハンサーを含むプロモーターまでの範囲に及ぶ核酸領域を包含する。
【0028】
本発明の好ましい一実施形態では、プロモーターは、天然に存在するプロモーターであり、イムノグロブリン遺伝子座内に存在する。一実施形態では、プロモーターはイムノグロブリン重鎖または軽鎖プロモーターである。好ましくは、プロモーターは、VH4対立遺伝子のイムノグロブリン重鎖プロモーターである。VH4対立遺伝子のプロモーター配列間で、配列が強く保存されている(図1)。広範囲の高頻度変異性細胞系統(RAMOSおよびBL2細胞系統を含む)は、再構成されたVH4対立遺伝子を有する。
【0029】
あるいは、プロモーターは、哺乳動物細胞内で機能するものから選択される異種性または外来プロモーターでもよいが、原核生物プロモーターおよび他の真核生物細胞で機能するプロモーターを使用することもできる。プロモーターは、ウイルス遺伝子のプロモーター配列に由来するものでもよく、真核細胞遺伝子の配列に由来するものでもよい。例えば、これは、発現が行われる細胞のゲノムに由来するプロモーターでもよい。真核細胞プロモーターに関して、これは、偏在的に機能するプロモーター(α-アクチン、β-アクチン、チューブリンのプロモーターなど)でもよく、あるいは、組織特異的に機能するもの(ピルビン酸キナーゼ遺伝子のプロモーターなど)でもよい。これはまた、特定の刺激に反応するプロモーター、例えば、ステロイドホルモン受容体と結合するプロモーターでもよい。ウイルスプロモーター、例えば、モロニーネズミ白血病ウイルス長端反復配列(MMLV LTR)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV) LTRプロモーター、またはヒトサイトメガロウイルス(CMV) IEプロモーターを使用することもできる。好ましい実施形態では、プロモーターは、ネズミイムノグロブリンプロモーター配列やヒトイムノグロブリン重鎖プロモーターなどのイムノグロブリンプロモーター配列である。
【0030】
哺乳動物/ヒト遺伝子のプロモーター領域は、そのDNA配列中にいくつかの調節成分を含み、数百塩基対以上に及ぶ可能性があり、真核生物プロモーター領域におけるこの成分の1つである「TATAボックス」と称される配列が、翻訳開始部位(開始)配列のATGから約300塩基対以上上流で通常認められることが一般に観察されている。V遺伝子プロモーターをATG翻訳開始シグナルのより近くに運ぶ再構成は、3'側にあり、C領域に位置しているエンハンサーのより近くにもそのプロモーターを運ぶ。このことによってプロモーターは活性化するが、この活性化は、エンハンサーに近接していると、VH遺伝子座のDNAの変異率に影響を与える可能性があることを示唆するものである。
【0031】
本発明者らは、再構成によって機能的なVH4〜34対立遺伝子が生じるRAMOS RA-1細胞系統で、そのプロモーターが他の哺乳動物/ヒト遺伝子のものより翻訳開始部位にかなり近接している(「TATAボックス」の3'末端とイムノグロブリンリーダー配列の開始コドンの間のヌクレオチド数に基づく)ことを発見した。このプロモーターの開始コドンとのこの近接性と、このプロモーターの三次元構造から、RAMOS RA-1のこの領域のクローン化におけるかなりの困難が生じていた。
【0032】
したがって、本発明のさらに好ましい実施形態では、標的核酸分子をイムノグロブリン遺伝子座に組み込んだ後、標的核酸分子がプロモーターに近接して位置している。好ましくは、標的核酸分子の開始コドンは、プロモーターの3'末端の500bp以内に位置し、より好ましくは、プロモーターの3'末端の200bp以内に位置し、より好ましくは、プロモーターの3'末端の100bp以内に位置し、より好ましくは、プロモーターの3'末端の20bp以内に位置している。
【0033】
異種遺伝子の発現レベルが細胞の生存期間中調節できるように、プロモーターが誘導可能であることも有利となり得る。誘導可能であるとは、プロモーターを用いて得られる発現レベルを調節することができることを意味する。
【0034】
さらに、さらなる調節配列、例えばエンハンサー配列を付加することで、これらのどんなプロモーターを改変することもできる。上記に記載の2つ以上の異なるプロモーター由来の配列成分を含むキメラプロモーターを使用することもできる。
【0035】
本発明のさらに好ましい実施形態では、再構成されたV遺伝子の少なくとも500bp、より好ましくは少なくとも2kb、より好ましくは約5kb上流の領域と相同な配列と、同じ再構成されたV遺伝子の少なくとも500bp、より好ましくは少なくとも2kb、より好ましくは約5kb下流の領域と相同な配列とを含む組み込み用ベクターによって、標的核酸分子を細胞に導入する。好ましくは、この再構成されたV遺伝子の下流の領域と相同な配列は、イントロンエンハンサーおよびマトリックス付着領域またはその一部を含む。その上流および下流に相同な配列は、好ましくは、長さが少なくとも500bpであり、より好ましくは、長さが約5kbである。
【0036】
「標的核酸分子」は、遺伝子産物の多様化が所望されている遺伝子産物をコードする、(DNAおよびRNA分子を含めた)対象とするどんな核酸分子でもよい。
【0037】
「遺伝子産物」は、対象とするどんな生物活性分子でもよい。例えば、遺伝子産物は、リボザイム、DNAザイム、LNAザイム、RNAi/siRNA分子などの触媒分子でもよい。あるいは、遺伝子産物は、抗体またはその断片、酵素、ホルモン、受容体、細胞表面分子、ウイルスタンパク、転写因子、あるいは他のどんな生物活性ポリペプチドでもよい。
【0038】
選択された変異標的配列は、さらなる多様化を導入するために、本発明の方法を介して再利用することができる。したがって、第1および第2の態様のさらに好ましい実施形態では、この方法の少なくともステップ(ii)および(iii)を反復する。
【0039】
高頻度変異性細胞は、哺乳動物細胞、鳥類細胞、酵母細胞、菌類細胞、昆虫細胞あるいは細菌細胞でもよい。好ましい実施形態では、高頻度変異性細胞は哺乳動物細胞である。哺乳動物の高頻度変異性細胞は、RAMOS、BL2、BL41、BL70およびNalmからなる群から選択することができる。
【0040】
本発明の方法は、標的核酸配列の変異率を高めるさらなるステップを含み得る。例えば、化学的変異原の存在下で、高頻度変異性細胞を培養することができる。適切な化学的変異原には、例えば、重亜硫酸ナトリウム、亜硝酸、ヒドロキシルアミン、ヒドラジン、またはギ酸がある。ヌクレオチドまたはヌクレオチド前駆体のアナログである他の薬剤には、ニトロソグアニジン、リバビリン、5-ブロモウラシル、2-アミノプリン、5-ホルミルウリジン、イソグアノシン、アクリジンおよびN4-アミノシチジン、N1-メチル- N4-アミノシチジン、3, N4-エテノシチジン、3-メチルシチジン、5-ヒドロキシシチジン、N4-ジメチルシチジン、5-(2-ヒドロキシエチル)シチジン、5-クロロシチジン、5-ブロモシチジン、N4-メチル- N4-アミノシチジン、5-アミノシチジン、5-ニトロソシチジン、5-(ヒドロキシアルキル)-シチジン、5-(チオアルキル)-シチジンおよびシチジングリコール、5-ヒドロキシウリジン、3-ヒドロキシエチルウリジン、3-メチルウリジン、O2-メチルウリジン、O2-エチルウリジン、5-アミノウリジン、O4-メチルウリジン、O4-エチルウリジン、O4-イソブチルウリジン、O4-アルキルウリジン、5-ニトロソウリジン、5-(ヒドロキシアルキル)-ウリジン、および5-(チオアルキル)-ウリジン、1,N6-エテノアデノシン、3-メチルアデノシン、およびN6-メチルアデノシン、8-ヒドロキシグアノシン、O6-メチルグアノシン、O6-エチルグアノシン、O6-イソプロピルグアノシン、3,N2-エテノグアノシン、O6-アルキルグアノシン、8-オキソ-グアノシン、2,N3-エテノグアノシン、および8-アミノグアノシン、ならびにその誘導体/アナログがある。適切なヌクレオチド前駆体、およびその合成の例は、米国特許出願第20030119764号にさらに詳細に記載されている。一般に、これらの薬剤を複製または転写反応に添加し、それによって配列が変異する。プロフラビン、アクリフラビン、キナクリンなどの挿入剤を使用することもできる。
【0041】
X線または紫外線光の照射により、標的核酸分子の無作為な変異生成をも実現することができる。
【0042】
抗原によって高頻度変異性細胞を刺激し、あるいはインターロイキン(IL-2、IL-4、IL-10など)またはCD40リガンドまたはB細胞活性化因子(BAFF)にこの細胞をさらすことを用いて、変異の頻度を高めることもできる。
【0043】
好ましい一実施形態では、高頻度変異性細胞内の活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)のレベルまたは活性が増大する。このことは、例えば、高頻度変異性細胞内のAIDの発現レベルを高めることによって実現することができる。例えば、AIDをコードし発現するプラスミドベクターで、高頻度変異性細胞をトランスフェクトすることができる。
【0044】
変異産物を選択するどんなプロセスを本発明の方法に使用することもできることを、当業者なら理解するであろう。
【0045】
一実施形態では、標的分子と結合させ、または変異産物によって影響を受ける生物学的反応を測定することによって、選択を実現することができる。
【0046】
他の実施例では、対象とする産物が、細胞の増殖または分裂を促進するまたは低下させる作用因子である場合、その選択プロセスで、変異産物を細胞集団にさらし、その細胞の生物学的反応をモニターすることができる。
【0047】
他の実施例では、変異産物が受容体リガンドである場合、そのプロセスで、受容体を発現している細胞に変異タンパクをさらし、その受容体のシグナリングによって生じる生物学的反応をモニターすることができる。
【0048】
一実施形態では、変異産物は、高頻度変異性細胞内で行うアッセイによって選択する。例えば、標的ヌクレオチド配列が酵素をコードしている場合、そのアッセイは、単に酵素活性を測定するものでよい。
【0049】
あるいは、高頻度変異性細胞内で行うアッセイは、タンパク断片再構成アッセイ(PCA)でもよい。PCAは、二量体化した後に酵素活性を再構築する、相互作用するタンパクと融合した酵素断片を補うことを利用する。PCAのプロトコルの例は、Michnick (2001) Current opinion in structural biology 11:472〜477頁、Wehrmanら(2002). PNAS 99(6):3469〜3474頁、Galaneauら(2002). Nature 20:616〜622頁に記載されている。
【0050】
適切な酵素断片は、例えば、β-ラクタマーゼに由来するものであり得る。細菌細胞と哺乳動物細胞のどちらのβ-ラクタマーゼシステムを用いた研究でも、それが細胞内のタンパクとタンパクの相互作用を検出する適切なレポーターシステムであることを実証するのに成功している。
【0051】
したがって、標的核酸分子は、結合相手およびβ-ラクタマーゼ断片を含む融合タンパクをコードするものでもよい。その結合相手は、相補的なβ-ラクタマーゼ断片を含む融合タンパクとして細胞に導入することができる。選択は、細胞内で行われ、その同種の相手との標的タンパクの結合が、供給された基質上でのβ-ラクタマーゼ活性によって検出される。
【0052】
PCAなどの選択アッセイを使用する場合、高頻度変異性細胞の表面上に標的ポリペプチドが提示されていることは必要でない。この選択アッセイは、細胞内に天然にみられる標的に関して特に有利である。
【0053】
本発明の代替の実施形態では、標的核酸分子は、発現した後、その変異遺伝子産物が高頻度変異性細胞の表面上に提示されるようなアンカードメインをコードする配列と連結している。適切なアンカードメインの例には、膜タンパクまたは他の細胞表面タンパクの膜貫通ドメインに固着しているグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)の付着シグナルがある。
【0054】
提示される遺伝子産物が細胞表面上に天然にみられないものである場合、標的核酸分子を、N末端シグナルペプチド(またはリーダーペプチド)をコードする配列にも連結させることが好ましい。このシグナルペプチドは、遺伝子産物の形質膜を標的とする固着を促進する。
【0055】
高頻度変異性細胞の表面上に提示された後に、結合相手が変異遺伝子産物に結合したかどうかを検出することにより、変異遺伝子産物を選択することができる。この方法では、例えば、蛍光色素などの検出可能なマーカーで細胞を標識し、細胞表面上の変異タンパクとその結合相手の間に結合を生じさせることができる。その結合相手がプレート上に固定化されている場合、蛍光計などの適切な検出システムを使用して、対象とする変異体を含む穴を同定することができる。
【0056】
あるいは、蛍光タグで結合相手を標識することもでき、対象とする変異遺伝子産物を発現している細胞を、フローサイトメトリー技術を用いて選別することもできる。結合相手は、抗体、受容体、ホルモン、酵素、細胞表面分子、転写因子、DNA分子またはRNA分子からなる群から選択することができる。
【0057】
本発明の他の実施形態では、標的遺伝子産物は可溶化型で発現している。
【0058】
選択した後に変異が繰り返されることを防ぐため、選択した細胞を培養する前に高頻度変異生成を停止することができる。このことは、ミエローマとの融合、または誘導可能なプロモーターの抑制を含めた様々な方法で実現することができる。
【0059】
本発明のさらに好ましい実施形態では、高頻度変異性細胞から、選択した遺伝子産物をコードする変異核酸配列を回収する。この回収は、高頻度変異領域の外側または標的配列自体の内側の位置にアニールするオリゴヌクレオチドを用いてポリメラーゼ連鎖反応を行うことにより、変異核酸配列の全体または一部を増幅することによって実現することができる。あるいは、変異核酸配列は、RT-PCRを用いて増幅することもできる。次いで、発現、精製、特徴付けなど他の目的で変異核酸配列をサブクローニングすることができる。
【0060】
トランスフェクトした細胞の培養上清を、所望の場合に濃縮し、選択システムに適用することができる。例えば、標的遺伝子産物自体または付着しているタグ配列を抗体によって認識することで、直接的にまたは間接的に特定の結合物を同定することができる。次いで対象とする変異遺伝子産物を、マイクロシークエンシングなどの様々なタンパク化学技術によってさらに特徴付けることもできる。
【0061】
第2の態様では、本発明は第1の態様の方法によって産生された遺伝子産物を提供する。
【0062】
第3の態様では、本発明は高頻度変異性細胞のイムノグロブリン遺伝子座への標的組み込み用ベクターを提供し、このベクターは、高頻度変異性細胞の再構成されたV遺伝子の上流の領域と相同な配列と、高頻度変異性細胞の再構成されたV遺伝子の下流の領域と相同な配列と、標的核酸配列を挿入するための部位を含む。
【0063】
第3の態様の好ましい実施形態では、高頻度変異性細胞の再構成されたVH遺伝子の上流の領域は、配列番号1のヌクレオチド1〜5190内の領域である。この領域は、配列番号1のヌクレオチド1〜5190内の、好ましくは少なくとも500bpであり、より好ましくは少なくとも2kbであり、より好ましくは約5kbである。さらに好ましい実施形態では、高頻度変異性細胞の再構成されたV遺伝子の上流の領域は、配列番号1のヌクレオチド191〜5190を含む。
【0064】
第3の態様のさらに好ましい実施形態では、高頻度変異性細胞の再構成されたVH遺伝子の下流の領域は、配列番号1のヌクレオチド5709〜8699内の領域である。この領域は、配列番号1の5709〜8699の、好ましくは少なくとも500bpであり、より好ましくは少なくとも3kbである。さらに好ましい実施形態では、高頻度変異性細胞の再構成されたVH遺伝子の下流の領域は、配列番号1のヌクレオチド5709〜8634を含む。
【0065】
第3の態様のさらに好ましい実施形態では、ベクターは、選択マーカーをさらに含む。「選択マーカー(selection markerまたはselectable marker)」という用語には、正と負の選択マーカーのどちらも含まれる。「正の選択マーカー」とは、その正の選択マーカーを欠く細胞を死滅させるまたはその増殖を阻止する増殖条件下で、そのマーカーを含む細胞の生存を可能にする核酸配列である。正の選択マーカーの例は、ネオマイシン耐性遺伝子またはカナマイシン耐性遺伝子の発現を促進する核酸配列である。ネオマイシン耐性遺伝子を含まない細胞は、G418の適用によって不利に選択されるが、ネオマイシン耐性遺伝子を発現している細胞は、G418によって害を受けない(正の選択)。「負の選択マーカー」とは、通常、適当な外来作用因子を適用後、その負の選択マーカーを含む細胞を死滅させ、その増殖を阻止し、またはそれに不利な選択をする核酸配列である。負の選択マーカーの例は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV-TK)の発現を促進する核酸配列である。HSV-TKを発現している細胞は、ガンシクロビルまたは1-2'-デオキシ-2'フルオロ-b-D-アラビノフラノシル-5-ヨードウラシル(FIAU)の適用によって不利な選択が行われる(負の選択)が、この遺伝子を発現していない細胞は、ガンシクロビルまたはFIAUによって比較的害を受けない。
【0066】
さらに好ましい実施形態では、ベクターは、標的核酸分子によってコードされているタンパクの提示に適切なアンカー分子をコードしている。
【0067】
さらに好ましい実施形態では、ベクターは、(複数の)エピトープタグ(例えば、2つのフラッグ(flag)タグ)が付いている標的核酸分子を含む。
【0068】
さらに好ましい実施形態では、標的組み込み用ベクターは、配列番号110に示す配列を含む。
【0069】
本発明は、遺伝子産物の多様性を生じさせる新規の手法を提供する(図2を参照のこと)。本発明の重要な特徴は、標的核酸分子を宿主細胞ゲノムのイムノグロブリン遺伝子座に組み込むことである。この組み込みは、組み込み用ベクターが、再構成されたV遺伝子の上流および下流の領域と相同な配列を含むことによって実現する。この方向を定めた組み込みにより、組み込み後確実に、標的核酸分子が高頻度変異生成に影響を与える成分に近接して(例えば、イントロンエンハンサー、マトリックス付着領域および/または3'エンハンサーなどの成分に近接して)位置付けられることになる。
【0070】
組み込みのプロセスによって、確実に、標的核酸分子1コピーだけが各細胞に存在することにもなる。このことから、選択プロセス後の、例えばPCRまたはRT-PCRによる、対象とする変異標的核酸配列の回収が容易となる。それとは異なり、自己複製ベクター上の、または宿主ゲノムに無作為に組み込まれるベクター上の標的核酸を導入する方法では、標的核酸分子の複数の変異コピーが宿主細胞中に入ることになる可能性が高い。このことによって、所望の特性を有することから選択した変異遺伝子産物をコードしている配列がどれかを決定することが困難となる。
【0071】
様々な目的で本発明の方法を使用することができることが理解されるであろう。例えば、本発明の方法を使用して、抗体の親和性成熟を実施することができる。一態様では、「ナイーブ」な、すなわち免疫無感作ファージヒト抗体ライブラリー由来の抗体の親和性の向上に、本発明を適用することができる。このようなライブラリーは、すでに存在し、どんな抗原に対しても抗体を産生する。しかし、それが免疫無感作個体から作成されているため、その親和性は低い。本発明の他の態様では、初期の低親和性の抗体をコードしている単離標的核酸に本発明の高率の変異生成システムを適用することにより、従来のハイブリドーマ技術で生成された抗体の親和性を向上させることができる。現在使用されている、抗体を基礎とする多数の診断薬および治療薬を改良するものとして、この高親和性抗体を利用することができる。
【0072】
本発明の方法は、ペプチドおよび単鎖抗体の非常に大きなライブラリーをスクリーニングし、所望の(複数の)ペプチドまたは単鎖抗体をコードしているポリヌクレオチド配列を選択することを可能にする。次いで、ポリヌクレオチドのプールを単離し混合して、選択した(複数の)ペプチド(またはその所定の部分)あるいは単鎖抗体(またはそのVH、VL、もしくはCDR部分のみ)のアミノ酸配列を組合せ論的に組み換えることができる。これらの方法を用いて、分子に対する所望の結合親和性を有するペプチドまたは単鎖抗体を同定することができ、本発明のプロセスを利用して、所望の高親和性ペプチドまたはscFvへと迅速に収束させることができる。次いで、任意の適切な使用(例えば、治療薬または診断薬としての使用)のための従来の手段により、ペプチドまたは抗体を大量に合成することができる。
【0073】
この変異生成システムを用いて、受容体またはリガンドの改変を実施することもできる。一態様では、本発明により、その対応する受容体またはリガンドに対し結合性が高いリガンドまたは受容体を生成することができる。他の態様では、この変異生成システムを用いて、依然として結合するが、機能的な応答を誘発しないリガンドまたは受容体を作製することにより、受容体とリガンドの機能的な相互作用の抑制因子を生成することができる。本発明の他の態様では、生物学的に活性のある、複数の標的タンパクの異型を同定し回収することができ、それによって、タンパクの構造と機能の関係を研究する手段が提供される。さらに、異なる種由来の受容体または他の分子を利用して選択することから得られた結果を比較することにより、種の多様性を調べることができる。
【0074】
依然として結合できるが、もはやシグナル伝達しないように、受容体またはリガンドを改変することができる。あるいは、より良好なシグナル伝達リガンドを選択することもでき、これは、有効用量がより低い、薬剤活性のある治療薬をもたらすはずである。
【0075】
本発明の変異生成システムを、例えば、新規の生存機構に関与する開始因子標的であるカスパーゼなどの標的に対して使用することもできる。これは、プログラム細胞死(アポトーシス)への経路上にある基本的なシグナル伝達反応のカスケードに関与する。カスパーゼ3は、活性化された後、(Id3を含めた)「細胞死」タンパクと結合しそれを切断する(活性化する)。カスパーゼを、特にカスパーゼ3をin vivoで変異させ、その変異型を発現させると、アポトーシスに影響を及ぼすことになるはずである。したがって、カスパーゼ3は、好ましい標的分子であるはずである。このことは、潜在的な治療の転帰を含めて、癌をモニターし検出するための、細胞のシグナル伝達における診断薬に関係する可能性がある。
【0076】
本明細書全体にわたって、「含む(comprise)」という語、または「含む(comprises)」や「含んでいる(comprising)」などの語尾変化形は、記載の成分、完全体またはステップ、あるいは成分、完全体またはステップの群を包含することを意味するが、他のどんな成分、完全体またはステップ、あるいは成分、完全体またはステップの群をも除外することを意味することでないことを理解されたい。
【0077】
配列リストの解説
配列番号1-Ramos RA-1細胞の重鎖遺伝子座。
配列番号2-VH4対立遺伝子のプロモーター領域の配列。
配列番号3-VH4対立遺伝子のプロモーター領域の配列。
配列番号4-VH4対立遺伝子のプロモーター領域の配列。
配列番号5-VH4対立遺伝子のプロモーター領域の配列。
配列番号6-VH4対立遺伝子のプロモーター領域の配列。
配列番号7- SEQ ID NO 2〜6の共通配列。
配列番号8-プラスミドpME18SasFP499。
配列番号9-ヒトイムノグロブリンDセグメント遺伝子座のエンハンサーの配列。
配列番号10-第14番染色体上のヒトイムノグロブリン重鎖遺伝子座のエンハンサーの配列。
配列番号11-ヒツジイムノグロブリン重鎖5'イントロンエンハンサーの配列。
配列番号12-マウス3' IgH調節エンハンサーの配列。
配列番号13-ネズミIgHエンハンサーの配列。
配列番号14-マウス3'κエンハンサーの配列。
配列番号15-マウスイムノグロブリンVH遺伝子のプロモーター配列。
配列番号16-マウスイムノグロブリンV1遺伝子のプロモーター配列。
配列番号17-マウスイムノグロブリンμ重鎖遺伝子のプロモーター配列。
配列番号18-マウスイムノグロブリンVH遺伝子のプロモーター配列。
配列番号19-ヒト(Homo sapiens)生殖系列IgH鎖(ProV4〜39)遺伝子断片。
配列番号20-ヒト生殖系列IgH鎖(ProV3〜30)遺伝子断片。
配列番号21-ヒト生殖系列IgH鎖(ProV3〜9)遺伝子断片。
配列番号22-ヒト生殖系列IgH鎖(ProV1〜18)遺伝子断片。
配列番号23-ヒト崩壊促進因子由来のGPIシグナル。
配列番号24-配列番号23をコードしているポリヌクレオチド。
配列番号25-ブタの膜ジペプチダーゼ由来のGPIシグナル。
配列番号26-配列番号25をコードしているポリヌクレオチド。
配列番号27-ラットセルロプラスミン由来のGPIシグナル。
配列番号28-配列番号27をコードしているポリヌクレオチド。
配列番号29-マウスThy-1由来のGPIシグナル。
配列番号30-配列番号29をコードしているポリヌクレオチド。
配列番号31-ネズミB7-1の膜貫通ドメイン。
配列番号32-配列番号31をコードしているポリヌクレオチド。
配列番号33-CD59のシグナル配列。
配列番号34-配列番号33をコードしているポリヌクレオチド。
SEQ ID NO 35〜86、88〜90、92〜103、105、106、108〜120-オリゴヌクレオチドプライマー。
配列番号87-プラスミド3kb15a-7-4T。
配列番号91-プラスミドKW2。
配列番号104-プラスミド pME18sCD26asFP499。
配列番号107-AICDA cDNAのコード領域の配列。
配列番号110-プラスミドKW3。
【発明を実施するための最良の形態】
【0078】
一般技術
本発明は、不適当な実験を行わず、特に示さない限り、分子生物学、微生物学、ウイルス学、組換えDNA技術、溶液中でのペプチド合成、固相ペプチド合成、および免疫学の従来技術を用いて実施される。このような手順は、例えば、以下の文献に記載されており、これらの文献を参照により本明細書に組み込む。
[参考文献]


【0079】
高頻度変異性細胞
本発明において、高頻度変異性細胞は、細菌細胞、酵母細胞、鳥類細胞、菌類細胞、昆虫細胞あるいは哺乳動物細胞でもよい。適切な高頻度変異性細胞の例を下記に記載する。
【0080】
細菌の高頻度変異性株:
(i) Stratageneのエピキュリアンコリ(Epicurian coli)変異誘発株XL1-Red(三重DNA修復欠損、mutD、mutS、mutT)。
(ii) 大腸菌変異誘発株MutD5 (MutD5-FIT、変異型DNAQ遺伝子)、Irving RA、Kortt AA、Hudson PJ (1996). Immunotechnology 2(2) 127〜43頁。
(iii) 大腸菌株FC40、Foster PL (2000) Bioessays 22(12) : 1067〜74頁、およびPowell SC & Wartwell RM (2001) Mutation Research 473 (2) 219〜28頁。
(iv) 血清型B髄膜炎菌株BF18、BF21 (メチルを標的とするミスマッチ修復の欠損、DNAアデニンメチルトランスフェラーゼ(Dam)活性欠如)、Bucciら、(1999) Mol Cell 3 (4) 435〜45頁。
【0081】
酵母の高頻度変異性株:
(i) 出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)株(mlh1Δ変異体)、Shcherbakova & Kunkel (1999). Molecular and Cellular Biology 19(4) 3177〜3183頁。
(ii) 出芽酵母株DAG60(msh2変異体)(ミスマッチ修復系欠損)、Drotschmannら、(1999) Proc. Natl Acad Sci USA 96 2970〜2975頁。
【0082】
哺乳動物の高頻度変異性株:
(i) バーキットリンパ腫株に由来するヒトB細胞系統のRAMOS、BL2、BL41、BL70、Nalm-6、Sale & Neuberger (1998) Immunity 9 (6) 859〜869頁。
(ii) BL2、Denepouxsら、(1997) Immunity 6(1) 35〜46頁、およびPoltoraskyら、(2001) Proc Natl Acad Sci USA 98 (14) 7976〜81頁。
(iii) ヒト前B細胞系統18.81、Bachlら、(2001) Journal Immunology 166 (8) 5051〜7頁。
【0083】
イントロンエンハンサー
本発明で使用する適切な外来イントロンエンハンサーの例には、以下のものがある。
1) ヒトイムノグロブリンDセグメント遺伝子座のDNA配列(Rabbittsら(1983) Nature 306 (5945)、806〜809頁):
【0084】
【数1】

【0085】
2) 第14番染色体上のヒトイムノグロブリン重鎖遺伝子座(IGH.1@)(Ravetchら(1981) Cell 27 (3 Pt 2)、583〜591頁):
【0086】
【数2】

【0087】
3) ヒツジイムノグロブリン重鎖5'イントロンエンハンサー(Dufourら(1996) J. Immunol 156:2163〜2170頁):
【0088】
【数3】

【0089】
4) マウス3'IgH調節エンハンサー(Cα3'Eおよびhs3)(Salequeら(1997) J. Immunol. 158 (10)、4780〜4787頁):
【0090】
【数4】

【0091】
5) ネズミIgHエンハンサー(Kadeschら(1986) Nucleic Acids Res. 14 (20)、8209〜8221頁):
【0092】
【数5】

【0093】
3'κエンハンサー
本発明で使用する適切な外来3'κエンハンサーの例は、以下の通りである。
1) ネズミ3'κエンハンサー(MeyerおよびNeuberger (1989) EMBO J. 8 (7)、1959〜1964頁):
【0094】
【数6】

【0095】
プロモーター配列
本発明で使用する適切な外来プロモーター配列の例には、以下のものがある。
1) (Kataokaら(1982). J Biol. Chem. 257 : 2777〜285頁):
【0096】
【数7】

【0097】
2) (Clarkeら(1982). Nucleic Acids Res. 10 : 7731頁):
【0098】
【数8】

【0099】
3) (GrosschedlおよびBaltimore D.、(1985). Cell 41: 885〜897頁):
【0100】
【数9】

【0101】
4) (Schiffら(1986). J. Exp. Med. 163 : 573〜587頁):
【0102】
【数10】

【0103】
ネズミBリンパ球VHプロモーター(例えば、V1 Ig VHプロモーター、BCL1 VHプロモーター)を、本発明の方法で使用することもできる。
【0104】
ヒトイムノグロブリン重鎖プロモーター
以下のヒト重鎖プロモーターは、Hainoら(1994) J. Biol. Chem. 269 (4)、2619〜2626頁に記載されている。
1) ヒト生殖系列IGH鎖(ProV4〜39)遺伝子断片:
【0105】
【数11】

【0106】
2) ヒト生殖系列IGH鎖(ProV3〜30)遺伝子断片:
【0107】
【数12】

【0108】
3) ヒト生殖系列IGH鎖(ProV3〜9)遺伝子断片:
【0109】
【数13】

【0110】
4) ヒト生殖系列IGH鎖(ProV1〜18)遺伝子断片:
【0111】
【数14】

【0112】
変化した表現型を有する核酸またはタンパク/ペプチドを選択する方法
「変化した表現型」、「所望の活性」および「変化した活性」という用語は、本明細書において一般に互換性のあるものとして使用する。
【0113】
本発明の特定の実施形態では、変異した核酸、またはそれによってコードされている遺伝子産物に、変化した表現型を同定するためのアッセイを行う。変化した表現型を同定する適切な手順には、それだけに限らないが、下記に記載するものがある。
【0114】
タンパク/ペプチドの提示および選択
本発明の一実施形態では、本発明の方法を使用して得られる核酸によってコードされているタンパクを、高頻度変異性細胞の表面上に提示する。
【0115】
ある周知のペプチド提示方法では、通常はバクテリオファージ被覆タンパクとの融合物として、糸状バクテリオファージの表面上にペプチド配列を提示する。固定化された高分子と結合するペプチド配列を提示しているバクテリオファージ粒子を、所定の高分子と結合するペプチド配列を提示していないものから示差的に分離することができるように、固定化した所定の高分子または低分子(例えば、受容体)とともに、バクテリオファージライブラリーをインキュベートすることができる。次いで、固定化された高分子と結合したバクテリオファージ粒子(すなわち、ライブラリーの構成要素)を回収し、複製して、親和性濃縮およびファージ複製を続けて繰り返すための、選択したバクテリオファージの部分集団を増幅する。親和性濃縮およびファージ複製を数回繰り返した後、こうして選択したバクテリオファージライブラリーの構成要素を単離し、提示されたペプチド配列をコードするヌクレオチド配列を決定し、それによって、所定の高分子(例えば、受容体)と結合するペプチドの(複数の)配列が同定される。このような方法は、WO91/17271、WO91/18980、WO91/19818およびWO93/08278にさらに記載されている。
【0116】
WO93/08278には、各融合タンパクが、通常は可変配列を含み、所定の高分子との潜在的結合に使用可能な第1ポリペプチド部分、および個々の融合タンパクをコードするDNAベクターなどのDNAと結合する第2ポリペプチド部分からなる融合タンパクライブラリーの作成を使用する、ペプチドリガンドの提示のための組換えDNAによる方法について記載されている。融合タンパクの発現が可能な条件下で、形質転換した宿主細胞を培養したとき、融合タンパクは、それをコードするDNAベクターと結合する。宿主細胞を溶解した後、ファージを基礎とする提示システムでバクテリオファージ粒子をスクリーニングするのとほぼ同じ方法で、所定の高分子を対象として、その融合タンパク/ベクターDNA複合体をスクリーニングすることができ、選択したライブラリーペプチドの(複数の)配列を同定するための基礎として働く、選択した融合タンパク/ベクターDNA複合体中で、DNAベクターの複製および配列決定を行う。
【0117】
提示されたタンパク/ペプチド配列は、通常は3〜5000アミノ酸またはそれより長く、頻繁には5〜100アミノ酸、しばしば8〜15アミノ酸という様々な長さであり得る。ライブラリーは、様々な長さの提示ペプチド配列を有するライブラリーの構成要素を含む可能性もあり、固定された長さの提示ペプチド配列を有するライブラリーの構成要素を含む可能性もある。提示ペプチドの(複数の)配列の一部または全部は、無作為なもの、擬似乱数によるもの、規定された組のカーナル(defined set kernal)によるもの、固定されたものなどであり得る。この提示方法には、ポリソーム上の初期のscFv、ファージ上に提示されたscFvなどの単鎖抗体を提示する方法も含まれ、この方法によって、可変領域配列の多様性が広く結合特異性があるscFvライブラリーの大規模なスクリーニングが可能となる。
【0118】
他の提示方法は、細菌表面提示である。以下のタンパク、OmpA、LamB、PhoE、FliC、PALDおよびEaeAインチミンのうちの1つとの融合物として、対象とするタンパクを細菌細胞表面上に発現させる。あるいは、周縁質でそれを発現させることもできる(細胞測定スクリーニング付き周縁質発現(PECS))(Chenら、2001)。実験により細菌細胞表面上で発現することが実証されているが、この提示システムは、酵母表面提示ほどうまくは機能せず、頻繁には使用されない。原核生物システム自体の性質から、このシステムがいつも好ましいわけではない理由を説明することができる。第1に、細菌は、真核生物タンパクの提示に必要な、タンパクの折り畳みおよび翻訳後修飾の機構が欠如している。第2に、対象とするタンパクは、可溶化型で発現されることが必要である。第3に、細菌のリポ多糖層からの立体干渉によって、大きな高分子抗原の結合が潜在的に阻害される可能性がある。単一細胞システム(各細菌に対して1つのプラスミド)であり、数千コピーの対象タンパクを細胞表面上に提示することができ、フローサイトメトリーを用いたスクリーニングが容易であるにも関わらず、このシステムは、酵母表面提示システムを上回る、さらなる利点をもたらさない。
【0119】
さらなる提示方法は、酵母表面提示である。対象とするタンパクをAga2pと呼ばれるα凝集素サブユニットと融合させ、酵母細胞の表面上に発現させる。この提示形態は、非常に功を奏すると思われ、他の提示システムを上回るいくつかの利点をもたらす。この利点には、(哺乳動物細胞で行われるのと同様に)タンパクが正しく折り畳まれ分泌されること、多数のタンパクが酵母細胞表面上に提示されること、単一細胞システムである(すなわち、各酵母細胞がプラスミド1コピーしか含まない)こと、変異体間のより精細な定量的識別をもたらし、サブクローニングを必要とせずに、提示された形でin situで解離定数(KD)を推定することができるフローサイトメトリーを用いたスクリーニングが容易であるシステムであることが含まれる。このシステムの主な欠点は、トランスフェクションの効率が低いために、ライブラリーサイズが制限されることである。現在まで、このシステムの限界をうまく克服した者はいない。
【0120】
それだけに限らないが、I型膜貫通ドメイン(TM I)、II型膜貫通ドメイン(TM II)、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)を含めた多数の異なるアンカーによって、哺乳動物細胞の表面にタンパクを固着することができる。
【0121】
適切なGPIアンカー付着シグナルの例には、以下のものがある。
(i) ヒト崩壊促進因子由来のGPIシグナル。Caras IW、Weddell GN、Davits MA、Nussenzweig W、Martin DW. (1987) Science 238(4831):1280〜3
受託番号: AY055758
ペプチド配列: PNKGSTTSGTTRLLSGHTCFTLTGLLGTLVTMGLLT(配列番号23)
ヌクレオチド配列: 1158〜1268
【0122】
【数15】

【0123】
(ii) ブタの膜ジペプチダーゼ由来のGPIシグナル。Hooper NM、Low MG、Turner AJ. (1987) Biochem. J. 244(2):465〜9
受託番号: E04233
ペプチド配列: CRTNYGYSAAPSLHLPPGSLLASLVPLLLLSLP(配列番号25)
ヌクレオチド配列: 1248〜1346
【0124】
【数16】

【0125】
(iii) ラットセルロプラスミン由来のGPIシグナル。Patel BN、Dunn RJ & David S. (2000) J. Biol. Chem. 275(6):4305〜10
受託番号: AF202115
ペプチド配列: ASSQSYRMTWNILYTLLISMTTLFQISTKE(配列番号27)
ヌクレオチド配列: 3161〜3252
【0126】
【数17】

【0127】
(iv) マウスThy-1由来のGPIシグナル。Bernasconi E、Fasel N & Wittek R. (1996) J. Cell Sci. 109(6):1195〜201
ペプチド配列: SSNKSISVYRDKLVKCGGISLLVQNTSWMLLLLLSLSLLQALDFISL(配列番号29)
ヌクレオチド配列:
【0128】
【数18】

【0129】
(v) 細胞性粘菌(Dictyostelium discoideum)タンパクII。Stevens BA、White IJ、Hames BD Hooper NM. (2001) Biochimica et Biophysica Acta 1511: 317〜329.
(vi) 熱帯熱マラリア原虫娘虫表面タンパク1。Burghas PA、Gerold P、Pan W、Schwartz RT、Lingelbach K、Burjard H. (1999) Molecular and Biochemical Parisitology 104:171〜183.
【0130】
本発明でアンカードメインとして使用する適切な膜貫通ドメインの例は、以下のものである。
(i) ネズミB7-1の膜貫通ドメイン。Chou W.、Liao K.、Jiang S.Y.、Yeh M.Y. およびRoffler S.R.(1999) Biotechnol Bioeng. 1999 Oct 20;65(2):160〜9.
受託番号: AH00465S3
ペプチド配列: PEDPPDSKNTLVLFGAGFGAVITVVVIVVIIKCFCKH(配列番号31)
ヌクレオチド配列: 171〜281:
【0131】
【数19】

【0132】
他の適切な例には、表1に示すものがある。
【0133】
【表1】

【0134】
シグナルペプチド配列
TM1およびGPIアンカーでは、それが細胞表面上に通常みられない場合、N末端シグナル配列ならびにC末端シグナル配列をポリペプチドに付加することが好ましい。TM2では、シグナルおよびアンカー配列は、同一物であり、ポリペプチドのN末端に付加する。表面での十分なレベルの発現を実現するために、標的タンパクと融合したシグナルおよび/またはアンカーからなるキメラタンパクしか産生しないように、標的遺伝子の開始コドンに変異を起こすことが必要である可能性がある。
【0135】
適当なシグナル配列の例は、CD59のシグナル配列である。
受託番号: X16447 (gi 180082)
ペプチド配列: MGIQGGSVLFGLLLVLAVFCHSGHS(配列番号33)
ヌクレオチド配列: 64〜138
【0136】
【数20】

【0137】
本発明の方法を使用して得られた変異核酸によってコードされたタンパク/ペプチドを、酵母を基礎とする様々な方法に使用して、タンパクとタンパクの相互作用を検出することができる。周知のシステムの1つは、酵母2ハイブリッドシステム(FieldsおよびSong 1989)であり、相互作用しているタンパクを同定し、対応するコード遺伝子を単離するのに使用されている。このシステムでは、正の増殖選択を可能にする原栄養性選択マーカーをレポーター遺伝子として使用して、タンパクとタンパクの相互作用の同定を容易にする。使用することができる関連システムには、酵母3ハイブリッドシステム(LicitraおよびLiu 1996)および酵母逆2ハイブリッドシステム(Vidalら 1996)がある。このような手順は、当業者に周知である。
【実施例】
【0138】
(実施例1)
標的遺伝子を組み込む、RAMOS細胞内の領域の定義付け
材料および方法
細胞系統および細胞培養条件
米国基準菌株保存機構(American Tissue Culture Collection)から、RAMOS株RA 1を入手した(ATCC-CLR-1596)。この株は、IgM陽性であり、インターロイキン4 (IL-4)およびCD23受容体を発現する。10%加熱非働化ウシ胎児血清(FCS)およびペニシリン(100U/ml)およびストレプトマイシン(100μg/ml)を補充したRPMI 1640培地(Gibco BRL)で細胞を維持し、37℃で5%CO2下でインキュベートした。
【0139】
細胞からのDNAの抽出
細胞を回収し、1500rpmで遠心し、PBS中に再懸濁させた。製造業者の説明書に従ってGenoprep DNA単離キット(Scientifix、オーストラリア)を使用して、細胞からDNAを抽出した。簡潔に述べると、上清を除去した後、Genoprep DNA磁気ビーズ20μlと一緒に、溶解および結合用溶液375μlを細胞(5×105個)に添加した。この混合物を5秒間ボルテックスし、次いで、振とう器または回転盤上でこれを室温で最短10分間インキュベートした。磁石を用いてDNAが付着したビーズを収集し、上清を除去し、洗浄用溶液450μlを添加した。続いて、この混合物を5秒間ボルテックスし、前記に記載のようにビーズを収集した。最後の洗浄用溶液は70%エタノールを用いて、この洗浄手順を2回反復した。ビーズを70%エタノール450μl中に再懸濁させ、新しい管に移した。上清を除去した後、滅菌水450μlをビーズに加え、直ちにそれを除去した。次いで、そのビーズを滅菌水200μl中に再懸濁させ、70℃で2分間インキュベートしてDNAを溶出させた。磁石を用いてビーズを再度収集し、溶出したDNAを含んでいる上清を新しい管に移した。
【0140】
単離したDNAの量および質を、分光法および電気泳動法によって決定した。細胞5×105個を含む培養物から、DNA 10ng/μlが安定して得られた。このDNAは、0.9%ゲル上で約23kbpの単一バンドとして移動し、このことからこのゲノムDNAが損なわれていないことが示唆された。
【0141】
再構成されたVH対立遺伝子の上流の5'領域の配列決定
ベクター用に選択された組み込み部位の上流の相同な配列は、RAMOS細胞系統のイムノグロブリン重鎖遺伝子座のVH7〜35対立遺伝子とVH4〜34対立遺伝子の間の約5kbの断片に相当する(配列gi 4512287のヌクレオチド54521〜59517に相当)。
【0142】
Genoprep DNA単離キット(Scientifix、オーストラリア)を使用して、RAMOS RA-1ゲノムDNAを調製した。プラチナPfx DNAポリメラーゼ(GibcoBRL、Life Technologies)を使用して、ゲノムDNA由来の300bp〜1000bpの様々な断片を増幅した。この反応物は、1×PfX増幅用緩衝液、50mM硫酸マグネシウム、1×PCR増強溶液、順向きプライマー(10pM)、逆向きプライマー(10pM)、dNTP(各10mM)、鋳型DNA(100ng)、プラチナPfX DNAポリメラーゼ(0.6U)および滅菌水を終量20μl中に含んでいた。サイクル条件は以下の通りであった。95℃、5分間を1サイクル、95℃、数秒間、60℃、30秒間、68℃、1.5秒間を30サイクル、72℃、7分間を1サイクル。アニーリング温度および延長時間は、プライマーの組で異なることがあり、それぞれ55℃〜65℃、1分間〜2分30秒間であった。プライマーは、イムノグロブリン重鎖の可変領域のヒト生殖系列DNAである、完全な配列gi 4512287のヌクレオチド54786〜59721(表2)に基づいて設計した。第1のPCR反応物0.5/20μlを鋳型として用いて第2のPCR反応を行って、クローン化するのに十分な量のDNAを得た。
【0143】
PCR産物を1.0%アガロースゲル上で泳動し、製造業者の説明書に従って、Nucleospin Extraction Kit(Nagel-Macherey、ドイツ)を使用してDNAを抽出した。精製したDNAを、制限酵素EcoR IおよびHind IIIで消化した。消化した産物の不純物を除き、フェノール抽出、続いてエタノール沈殿を用いてこれを濃縮した。この産物をpBluescript SK+ (Stratagene、米国テキサス州)に連結し、これで大腸菌XL1 Blueエレクトロポレーション用コンピテント細菌を形質転換した。QIAprepミニプレップスピンキット(Qiagen、米国カリフォルニア州)を使用して、1晩培養物5mlからミニプレップを調製し、ABI 373 DNAシークエンサーを使用して、プライマーT3およびT7を用いてその配列決定を行った。
【0144】
BLASTプログラム(NBCI、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を使用して、配列を分析し、Clone Manager Suite 7 (Scientific and Educational Software)でアセンブリを行った。アセンブリを行った配列を、配列番号1のヌクレオチド1〜5190として示す。この配列は、公開されている配列gi 4512287のヌクレオチド54521〜59517と99%の類似性を有している。
【0145】
再構成されたVH対立遺伝子の上流5kbの断片の、ゲノムDNAからのクローン化
Genoprep DNA単離キット(Scientifix、オーストラリア)を使用して、ゲノムDNAを調製した。プラチナPfX DNAポリメラーゼ(Invitrogen、米国カリフォルニア州)を使用して、ゲノムDNAから5kbの断片を増幅した。この反応物は、1×PfX増幅用緩衝液、50mM硫酸マグネシウム、1×PCR増強溶液、10pMの順向きプライマー8771(5'CCATCGATAATTTAGTTTTCACGGGGCATCTGCAGGGT 3')、10pMの逆向きプライマー8872(5' GGGGTACCGTTCTTGTGCAGGAGGTCCATGACTCTCAG 3')、dNTP(各10mM)、鋳型DNA(100ng)、プラチナPfX DNAポリメラーゼ(0.6U)および滅菌水を終量20μl中に含んでいた。サイクル条件は以下の通りであった。94℃、15秒間を1サイクル、94℃、10秒間、68℃、3分30秒間を15サイクル、94℃、10秒間、68℃、3分30秒間を15サイクルで各サイクルに延長時間15秒を追加、72℃、7分間を1サイクル。第1のPCR反応物0.5/20.0μlを鋳型として用いて第2のPCR反応を行って、エチジウムブロマイドを用いて検出するのに十分な量のDNAを得た。
【0146】
PCR産物を0.9%アガロースゲル上で泳動し、Gel Extraction Kit(Qiagen、米国カリフォルニア州)を用いて抽出した。PCR-Script Ampクローン化キット(Stratagene、米国テキサス州)を使用して、精製したDNAをSrf I部位でpPCRScript中にクローン化した。得られた構築物を、5kbPCRScript 15a-7 (7971bp)と名付けた。表3のプライマーを用いて、この構築物の配列を決定した。
【0147】
【表2】

【0148】
【表3】

【0149】
ゲノムDNAからの、再構成されたVH、DおよびJHセグメントのPCR増幅
Genoprep DNA単離キット(Scientifix、オーストラリア)を使用して、ゲノムDNAを調製した。プラチナPfX DNAポリメラーゼ(Invitrogen、米国カリフォルニア州)を使用して、ゲノムDNAから、再構成されたVH、DおよびJH遺伝子を増幅した。このPCR反応物は、1×PfX増幅用緩衝液、50mM硫酸マグネシウム、1×PCR増強溶液、順向きプライマー(10pM)、逆向きプライマー(10pM)、dNTP(各10mM)、鋳型(100ng)、プラチナPfX DNAポリメラーゼ(0.6U)および滅菌水を終量20μl中に含んでいた。サイクル条件は以下の通りであった。95℃、5分間を1サイクル、95℃、30秒間、65℃、30秒間、68℃、2分30秒間を30サイクル、72℃、7分間を1サイクル。使用したプライマーは、VHファミリーの7つのリーダー配列それぞれに特異的であり、前記に記載の共通JHプライマーJOL48は、ヒトJHセグメント6つすべてにアニールする(表4)。第1のPCR反応物0.5/20.0μlを鋳型として用いて第2のPCR反応を行って、エチジウムブロマイドを用いて検出するのに十分な量のDNAを得た。
【0150】
PCR産物を1.5%アガロースゲル上で泳動し、製造業者の説明書に従って、Nucleospin Extraction Kit(Nagel-Macherey、ドイツ)を使用してDNAを抽出した。この精製DNAに対して、上記に記載のように第3のPCR反応を行った。EcoR IおよびHind III部位を用いて、産物をpBluescript SK+ (Stratagene、米国テキサス州)中にクローン化し、前記に記載のように配列決定を行った。
【0151】
【表4】

【0152】
【表5】

【0153】
RAMOS RA-1における再構成されたVDJセグメントの同定
RAMOS RA-1で配列決定したVH対立遺伝子を、V-Base(http://www.mrc-cpe.cam.ac.uk/vbase)を用いてVH4〜34 (DP 63)と確認した。遺伝子ターゲッティング領域の概略図を図3に示し、そのゲノム配列を配列番号1に示す。図3に示すイムノグロブリン重鎖プロモーターは、配列番号1のヌクレオチド4852〜5190に相当する。図3に示す(イントロン1を含む)リーダー配列は、配列番号1のヌクレオチド5191〜5329に相当する。図3に示すVDJセグメントは、配列番号1のヌクレオチド5330〜5708に相当する。
【0154】
その共通ヌクレオチド配列は、公開されているVH4〜34配列(V-Base)と6ヌクレオチドだけ(C68がG、C72がT、C228がG、T232がC、C244がT、C248がA)異なり、そのうち4つがコード変化(A23がG、N76がK、F78がL、T83がN)である。Kabatデータベース(Kabatら、1991、「免疫学的な対象となるタンパクの配列(Sequences of proteins of immunological interest)」、1巻、第5版)を用いると、この配列は、VH4〜34サブグループ2(Journal of Molecular Biology、1987、Vol 195、761〜768頁)にさらに分類された。フレームワーク1でのC68がGとなる変異、およびフレームワーク4でのN76がKとなる変異は、RAMOS RA-1独特であり、他の場合では、そのグループを構成する他の4つの配列中の保存された残基で生じる(Leeら、1987、Journal of Immunology、142、4054〜4061頁、Sanzら 1988、Clinical Experimental Immunology 71、508〜516頁)。
【0155】
D対立遺伝子に相当するRAMOS DNA由来のヌクレオチド配列は、V Baseで公開されている対立遺伝子とかなり異なっている。有意な相同性は認められなかったが、D3〜16に、最も密接に関係のある配列類似性(および配列の長さ)が認められた(Corbett, Sら、Journal of Molecular Biology、270、587〜597頁)。
【0156】
RAMOS RA-1で配列決定したJH対立遺伝子を、V-Baseを用いてJH6b (Mattilaら、1995)と確認した。この共通配列と公開されているJH6b配列との間に、ヌクレオチドの塩基変化は検出されなかった。
【0157】
再構成されたVH対立遺伝子の下流の3'領域の配列決定
ベクター用に選択された組み込み部位の下流の相同な配列は、RAMOS細胞系統のヒトイムノグロブリン重鎖遺伝子座の再構成されたVJD遺伝子からμエンハンサーまでの間の約3kbの領域に相当する(配列gi 29502084のヌクレオチド960091〜962947に相当)。
【0158】
前記に記載の方法を使用して、再構成されたVDJセグメントの下流の3'領域の配列を決定した。ヒト第14番染色体上のイムノグロブリン重鎖エンハンサー(gi 34819)、ヒトイムノグロブリン重鎖遺伝子のJ6〜エンハンサーDNA(gi 33100)、ヒト(AW-Ramos)t(8;14)転座c-myc癌遺伝子のエクソン1(gi 188910)およびヒトイムノグロブリン重鎖遺伝子座のμスイッチDNA(gi 33101)の公開されている配列(表5)に基づいて、プライマーを設計した。
【0159】
BLASTプログラム(NBCI、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を使用して、配列を分析し、Clone Manager Suite 7 (Scientific and Educational Software)でアセンブリを行った。アセンブリを行った配列を、配列番号1のヌクレオチド5709〜8634として示す。この配列は、公開されている配列gi 29502084のヌクレオチド960091〜962947と98%の類似性を有している。
【0160】
再構成されたVH対立遺伝子の下流3kbの断片の、ゲノムDNAからのクローン化
プラチナPfX DNAポリメラーゼ(Invitrogen、米国カリフォルニア州)を使用して、RAMOS RA-1細胞から抽出したゲノムDNAから3kbの断片を増幅した。PCR反応は、順向きプライマー9779 (5' CCGCTCGAGTGGGAGCCTCTGTGGATTTTCCGA 3')(配列番号111)および逆向きプライマー9801 (5' TGACCGGACGTCGCCCAGCCCAGCCTAGCTCA 3')(配列番号112)を使用し、サイクル条件が、94℃、15秒間を1サイクル、94℃、10秒間、68℃、2分間を15サイクル、94℃、10秒間、68℃、2分間を15サイクルで各サイクルに延長時間15秒を追加、72℃、7分間を1サイクルであったこと以外は、前記に記載のものと同じであった。第1のPCR反応物0.5/20.0μlを鋳型として用いて第2のPCR反応を行って、エチジウムブロマイドを用いて検出するのに十分な量のDNAを得た。
【0161】
PCR-Script Ampクローン化キット(Stratagene、米国テキサス州)を使用して、3kbの断片をSrf I部位でpPCRScript中にクローン化した。得られた構築物を、3kbPCRScript 10-1-3 (5822bp)と名付けた。表5のプライマーを用いて、この構築物の配列を決定した。
【0162】
5kbおよび3kbの相同性領域のサイズおよびGCに富む範囲から、クローン化における難点、およびクローン化後のクローン化領域の安定性に伴う問題を引き起こす構造の領域が生じていた。
【0163】
(実施例2)
RAMOS RA-1中の再構成されたVH対立遺伝子VH4〜34に組み込むベクターの設計および構築
1) 組み込むベクターの構築
再構成された対立遺伝子VH4〜34の下流の領域と相同な配列を含んでいる3kbの断片を、順向きプライマー9879 (5' CGGCTGATATCTGGGAGCCTCTGTGGATTTTCCGA 3')(配列番号83)および逆向きプライマー9805 (5' AGCCGGATATCGCCCAGCCCAGCCTAGCTCA 3')(配列番号84)を用いて、プラチナPfX DNAポリメラーゼ(Invitrogen、米国カリフォルニア州)を使用して構築物3kbPCRScript 10-1-3から増幅した。製造業者の説明書に従ってQIAquick PCR Purification Kit (Qiagen(商標))を使用して、PCR産物を精製し、次いでそれをEcoR Vで消化しエタノール沈殿させた。再構成されたVH対立遺伝子の上流5kbの配列を含んでいる構築物5kbPCRScript 15a-7に、消化した断片を連結した。このDNAで大腸菌を形質転換し、37℃で1晩増殖させた。
【0164】
サザンブロッティングによって細菌コロニーをスクリーニングし、32P標識オリゴヌクレオチド8604 (5' CCCAAGCTTCGGCCCCGATGCGGGACTGCGTTTTGACCA 3')(配列番号70)を用いてプローブして3kbの断片を検出し、標識オリゴヌクレオチド8687(5' CCCAAGCTTCATGTTCCACGCATTACGTC 3')(配列番号54)、8440(5' CCGGAATTCAATTTGAGATTGTGTGTGAGATCTCAGGAG 3')(配列番号38)および8472(5' CCGGAATTCGTTGGGTTCCCAGTGTAGGTGATGATCCAT 3')(配列番号44)のプールを用いてプローブして5kbの断片を検出した。どちらの断片にも陽性であったコロニーを継代培養し、QIAprep Miniprepキット(Qiagen(商標))を使用してDNAを抽出した。診断用の制限酵素および各断片についてのPCRによってクローンを分析し、ABI 373 DNAシークエンサーを使用して、プライマーT3およびT7を用いてその配列決定を行った。この新しい構築物を3kb15a-7-4Tと称し、その長さは10826bpである(図4)。その配列を配列番号87に示す。
【0165】
2) 3kb15a-7-4TのRAMOSへのトランスフェクションおよび組み込まれたかどうかのスクリーニング
以下のプロトコルを用いて、クローン3kb15a-7-4T(5μg)をRAMOS RA-1細胞3×106個にトランスフェクトする。細胞を遠心して、使用していた培地を除去し、次いでDEAEデキストラン(25μg/ml)を含んでいるRPMI中に1ml当たり細胞1×106個に再懸濁させる。再懸濁させた細胞(1ml)をエレクトロポレーション用キュベット(4mmギャップ)に移し、それにDNAを加える。次いで、細胞/DNAの混合物を含むキュベットを37℃で10分間インキュベートする。次いで、Gene Pulser (Biorad)を用いて550Vおよび静電容量25μFdで細胞に2回パルスをかける。氷上で10分間インキュベートした後、細胞をキュベットから取り出し、RPMI+15% FCSを9ml含むT25フラスコに移す。フラスコを37℃で少なくとも24時間インキュベートした後、トランスフェクションの効率を評価する。模擬トランスフェクションを行った細胞を対照として用いる。
【0166】
トランスフェクションから3日後、細胞を表面IgMで染色し、フローサイトメトリーでIgM陽性集団とIgM陰性集団に細胞を選別する。この実験の前に、IgM陰性細胞の基底レベルを決定する。
【0167】
製造業者の説明書に従ってGenoprep DNA単離キット(Scientifix、オーストラリア)を使用して、IgM陰性細胞からゲノムDNAを抽出する。次いでこのDNAをXba I酵素を用いて消化し、0.6%アガロースゲル上で泳動した。サザンブロッティングの標準的な方法を用いてDNAをニトロセルロース膜上に移し、結合領域にまたがる32P標識オリゴヌクレオチド0041 (5' GACGGTATCGATAAGCTTGATATCGAATTCCTGCAGCCCGGG 3')(配列番号88)および0042 (5' GACCTCCTGCACAAGAACGGTACCGGGCTAGAGCGGCCGCCA 3')(配列番号89)でプローブする。組み込まれる配列の中央部9403(5' CAGTGCTGCAATGATACCGCGAGAC 3')(配列番号90)に対するプローブも使用される。
【0168】
放射活性プローブの結合には以下のパターンがあり、i) ベクターのみをトランスフェクトした細胞から抽出したDNAの場合、放射活性シグナルを示さず、ii) 3kb15a-7 4Tを含む構築物をトランスフェクトした細胞から抽出したDNAの場合、3種の放射活性プローブすべてで放射活性シグナルを示し、これは、中央部の配列を組み込んだ染色体DNAで5kbおよび3kbの組換えが行われたときに予想され、放射活性9403プローブの結合がこのことを示し、iii) トランスフェクトしなかった細胞由来のDNAの場合、9403放射活性プローブとの結合を示さず、iv) プラスミド3kb15a-7-4Tを含むアガロースゲル上のレーンの場合、すべてのプローブで放射活性シグナルを示す。このパターンi)〜iv)が得られると、3kb15a-7-4Tが宿主細胞ゲノム中に組み込まれたことが示唆される。
【0169】
(実施例3)
RAMOS RA-1中の再構成されたVH対立遺伝子VH4〜34に組み込むベクターの設計および構築、ならびにasFP499遺伝子の変異生成
組み込むベクターの成分は以下の通りである。
【0170】
i) Nae IとXho Iによる断片を除去することで構築物5kbPCRScript 15a-7を改変し、これによってさらなるKpn I部位を有効に欠失させる。本明細書においてこの新しい構築物を5kbPCRScriptマイナス Nae I- Xho Iと称し、その長さは7608bpである。
【0171】
ii) プラスミドpQE32(Qiagen、米国カリフォルニア州)中にクローン化された、イソギンチャクAnemonia sulcataから単離された蛍光タンパクであるasFP499遺伝子をJ. Wiedenmann(Ulm大学、ドイツ)から入手した。連続したPCR反応を4回行って、asFP499遺伝子の5'末端および3'末端にそれぞれKpn IおよびNot I制限部位を導入し、Sal I部位が第2のフラッグタグの3'末端となるようにC末端に2個のフラッグタグを導入した。この最終産物(約770bp)をpPCRScript(Stratagene、米国テキサス州)中にサブクローニングし、本明細書においてこれをtargetPCRScriptasFP499-1と称する。
【0172】
iii) チミジンキナーゼをコードしている遺伝子をPCRで増幅し、その遺伝子の5'末端および3'末端にそれぞれHind IIIおよびCla I制限部位を導入する。この産物(1260bp)をpPCRScript(Stratagene、米国テキサス州)中にサブクローニングし、本明細書においてこれを構築物TKPCRscript -64と称する。
【0173】
iv) pMC1neo Poly A (3800bp)をStratagene(米国テキサス州)から入手した。
【0174】
これらの成分を以下の順序で組み合わせる。
【0175】
構築物targetPCRScriptasFP499-1および5kbPCRScriptマイナス Nae I- Xho IをKpn IおよびSal Iで消化し、1.0%および0.9%アガロースゲル上でそれぞれ泳動する。所望の産物(約7608bpおよび約770bp)を切り出し、QIAquickゲル抽出キット(Qiagen(商標))を用いてDNAを抽出する。asFP499遺伝子(約770bp)を5kbPCRScriptマイナス Nae I- Xho I(約7608bp)と連結させて、5kb- asFP499PCRScriptマイナス Nae I- Xho I(8289bp)を作製する。
【0176】
続いて、構築物TKPCRscript -64および5kb- asFP499PCRScriptマイナス Nae I- Xho IをCla IおよびSal Iで消化し、それをアガロースゲル上で泳動し、上記に記載のようにDNAを抽出する。asFP499-5kb断片(約5770bp)をTKPCRscript -64骨格(約4737bp)と連結させてTK-5kb-asFP499 PCRscript(10464bp)を作製する。
【0177】
TK-5kb-asFP499カセット(約7558bp)を、TK-5kb-asFP499 PCRscriptからSal IおよびHind IIIで消化し、Sal IおよびHind IIIで切断したpMC1neo Poly A(3837bp)と連結させる。この新しい構築物をKW1と称する。
【0178】
最後に、3kbPCRScript 10-1-3およびKW1を制限酵素Xho IおよびAat IIで消化し、上記に記載のように、ゲルからそれを精製する。3kbの断片をKW1骨格(約10868bp)と連結させて、KW2(13722bp)(図5)と称する最終的な組み込み用ベクターを得る。組み込み用ベクターKW2の配列を配列番号91に示す。
【0179】
ベクターKW2からasFP499遺伝子を欠失させてベクターKW3(図6)を作成する。組み込み用ベクターKW3の配列を配列番号110に示す。対象とするどんな標的核酸分子も、本発明の親和性成熟プロセスに使用するベクターに挿入することができることが理解されるであろう。
【0180】
(実施例4)
RAMOS RA-1細胞の最適な培養条件
様々な培地補充物、および細胞を播く様々な条件を用いて増殖曲線実験を行うことにより、RAMOS細胞の最適な増殖条件を決定した。RAMOS細胞を1ml当たり細胞1×104個、5×104個、1×105個、および2×105個で播き、10%加熱非働化FBSおよび1mMピルビン酸ナトリウムを含むRPMI培地中、または15%加熱非働化FBS、1mMピルビン酸ナトリウムおよび50%培養上清を含むRPMI培地中の25ml培養物として培養した。24時間毎に細胞試料1mlを採取し、Vi-Cell Viability Analyser (Beckman Coulter、米国カリフォルニア州)を使用してその生細胞数を決定した。その結果、細胞を播く条件に関わらずRAMOS細胞には48時間の遅滞期があることが判明した。培養物は、10%加熱非働化FBSおよび1mMピルビン酸ナトリウムを含むRPMI培地1ml当たり細胞0.25〜0.5×106個で急激な増殖期に達するが、15%加熱非働化FBS、1mMピルビン酸ナトリウムおよび50%培養上清を含むRPMI培地中で増殖させている細胞は急激な増殖期に入らなかった。RAMOSを播く最適な割合は、1ml当たり細胞1×105個であった。
【0181】
マイコプラズマ感染は、トランスフェクション率に影響を及ぼす可能性があり、したがって毎月RAMOS RA-1細胞を試験した。すべてのDNAが非常に明るい色素で特異的に染色される4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)染色を用いて、細胞を試験した。マイコプラズマが存在する場合、色素の小さな明るい斑点が細胞質中に見られる。細胞をスライドガラス上に固定し、UVフィルターシステムを用いて100倍の対物レンズ下で観察した。細胞は12カ月間にわたってマイコプラズマ陰性であった。
【0182】
(実施例5)
RAMOS RA-1細胞分裂率
RAMOSのトランスフェクション率は、培養中の細胞の生存率に影響を受ける。RAMOS細胞をトランスフェクトするのに最適な増殖周期中の時間を明らかにするために、最初に細胞分裂率を決定した。細胞浸透性フルオレセインを基礎とする色素カルボキシフルオレセインジアセテートスクシンイミジルエステル(CFSE)でRAMOS細胞を染色し、Current Protocols in Cytometry 9.11.2にある確立された技術に基づいて、それをフローサイトメトリーで分析した。
【0183】
簡潔に述べると、急激な対数増殖期にあるRAMOS細胞を洗浄し、リン酸緩衝液1ml当たり細胞5×106個に再懸濁させた。5mM CFSEの2μl量を細胞1ml当たりに加えた。5倍量の氷冷RPMI+10%FBSを加えた後、細胞を37℃で10分間インキュベートした。次いで、細胞を氷上でさらに5分間インキュベートし、培地で3回洗浄した後フラスコに移し通常の条件(実施例1を参照のこと)下で培養した。最初の蛍光を減衰させるために、染色後12時間経って初めて細胞を分析した。その後細胞をフローサイトメトリーで24時間毎に分析した。分析した細胞数に対するCFSEの蛍光をプロットした(図7)。細胞分裂後、色素は娘細胞に等しく分配され、このことはフローサイトメトリーによる最大8回の細胞分裂周期の解像能を可能とする。一斉に分裂する培養細胞を使用する場合、得られる蛍光の分布は、各分裂後、細胞毎に等分される。したがって、この結果から、細胞集団が24時間毎に少なくとも1回分裂していたことが示唆される。
【0184】
(実施例6)
RAMOS RA-1細胞のトランスフェクション条件の最適化
1) RAMOS RA-1でasFP499を発現させるためのベクターの構築
asFP499遺伝子の5'末端にXho I部位を、この遺伝子の3'末端にフラッグタグ2個、終止コドン2個およびXba I部位を付加してpME18s中にクローン化できるように、プライマーを設計した。使用したプライマーは、8934 (5' CCGCTCGAGATGTATCCTTCCATCAAGGAAACC 3')(配列番号92)、8935 (5' TCTAGATTATTATTTATCATCATCATCTTTATAATCTTTATCATCATCATCTTTATAATCAGCGGCCGC 3')(配列番号93)、8936 (5' CTAGTCTAGATTATTATTTATCATCATCATC 3')(配列番号94)および8398 (5' GTTATGTCCTAATTTCGAAGGCACTTGGGAGTA 3')(配列番号95)である。クローン化した配列をDNA配列分析で確認した。pME18sasFP499(3693bp)(図8)(配列番号8)と称する、得られた構築物を引き続きRAMOS細胞のトランスフェクションに使用した。
【0185】
ii) RAMOS RA-1細胞へのpME18sasFP499のトランスフェクション
リン酸カルシウム共沈法、Lipofectamine (Invitrogen)、FuGENE6 (Roche、ドイツ)、SuperFect (Qiagen、米国カリフォルニア州)、Effectene (Qiagen、米国カリフォルニア州)、GenePORTER (Gene Therapy Systems、米国カリフォルニア州)、Metafectene (Biontex、ドイツ)を含めて、哺乳動物細胞にトランスフェクトする多数の様々なトランスフェクションの試薬および方法を使用することができる。エレクトロポレーションは、哺乳動物細胞にトランスフェクトするのに通常使用されている別の方法である。エレクトロポレーションは、Gene Pulser (BioRad、米国カリフォルニア州)やElectro Square Porator ECM 830 (BTX、Fisher Biotech、オーストラリア)など様々なエレクトロポレーション装置を用いて実施することができ、様々な電圧および静電容量の設定も使用することができる。RAMOS RA-1細胞がBリンパ球由来であり、リンパ球系細胞はトランスフェクトすることが困難である可能性があることが知られているため、この細胞系統のトランスフェクションの最適化を行った。
【0186】
EPICS Elite (Beckman Coulter、米国カリフォルニア州)を用いたフローサイトメトリー分析により、RAMOS RA-1細胞のトランスフェクション効率をモニターした。ヨウ化プロピジウム(PI)1μg/mLで、トランスフェクトした細胞の試料を染色した。生細胞集団(前方散乱および側方散乱の特性、ならびにPI染色に基づく)にゲートをかけ、蛍光タンパク(FP)陽性細胞の百分率を評価した。FP発現は、Olympus IX70顕微鏡およびOlympus U-RFL-Tバーナーを用いた蛍光顕微鏡法によっても評価した。
【0187】
トランスフェクションプロセスを最適化するために、設定電圧、設定静電容量、DNA量、DEAEデキストラン濃度、トランスフェクション後の分析時間を含めた多数の様々なトランスフェクションのパラメーターについて試験した。
【0188】
図9に、代表的な設定の最適化実験の結果を示す。550Vと25μFdを組み合わせると、トランスフェクション効率が最も高くなった。pME18sEGFPを1μgまたは30μg用いたとき、トランスフェクション効率に対する有意な影響は認められなかった。FP発現を分析するのに最適な時間は、エレクトロポレーション後24〜36時間であった。25μg/ml〜1mg/mlのDEAEデキストランについて試験し、25μg/ml〜100μg/mlの濃度がトランスフェクションに最適であったが、500μg/mlを超える濃度には、細胞毒性がみられた(データは示さず)。
【0189】
最適な条件を使用すると、0.5%〜3.5%のトランスフェクション率が実現され、平均で約1.0%であった。
【0190】
図10に、pME18sEGFPまたはpME18sasFP499をトランスフェクトした、あるいは模擬トランスフェクトしたRAMOS RA-1細胞の比較を示す。トランスフェクションから24時間後のRAMOS RA-1におけるasFP499の発現レベルを評価し、それがEGFPより約10倍低いことが判明した。
【0191】
(実施例7)
RAMOS RA-1細胞表面上のIgM分子数の定量
表面IgMの欠失を使用して、再構成されたVH対立遺伝子への組み込みをモニターできることが、当技術分野で知られている。
【0192】
したがって、RAMOS細胞表面上の天然のIgM分子数を決定した。Alexa Fluor 488(商標)(Molecular Probes、米国オレゴン州)と結合させた、飽和量(2.5μg)のマウス抗ヒトIgMモノクローナル抗体(Southern Biotech、米国アラバマ州)とともに、RAMOS細胞(50μl)およびQuantum Simply Cellular(商標)ビーズ(Bangs Laboratories、米国インディアナ州) (50μl)を、別々に氷上で1時間インキュベートした。次いで、EPICS Elite (Beckman Coulter)を用いたフローサイトメトリーで、細胞およびビーズを分析した。分析した細胞またはビーズの数に対する(488nmでの)蛍光強度をプロットした(図11aおよび11b)。明確な数の抗マウスIgG結合部位(0個、2000個、20000個、46000個および68000個)を有するビーズの明確な集団が5つ(B、C、D、E、Gで示す)観察された(図11a)。図11b(H)は、細胞の集団と予想される、2〜100である蛍光強度の通常の分布を示している。所定の結合部位の対応する数に対するこれら各集団の平均の蛍光をプロットして、直線グラフを作成し(図11c)、それから、RAMOS細胞上の平均IgM分子数を外挿した。平均蛍光強度を23.5と算出し、これは、RAMOS RA-1の分子1.25×106個と対応していた。
【0193】
(実施例8)
RAMOS RA-1上の細胞表面IgM欠失のモニタリング
培養する時間が経つにつれてRAMOS RA-1細胞表面IgMは減少する。したがって、この特性を組み込みのマーカーとして使用するために、自然の表面IgM欠失の割合を明らかにした。IgM陽性である集団の百分率を評価するために、IgMについてRAMOS RA-1細胞を染色し、フローサイトメトリーで分析した。
【0194】
簡潔に述べると、細胞を洗浄し、100μl当たり1×106個に再懸濁させた。FITCと結合させたヒトIgM(μ鎖特異的)に対するヒツジポリクローナル抗体(Chemicon、米国カリフォルニア州)(10μl)を、氷上で1時間インキュベートした細胞に加えた。次いで、冷やした洗浄用緩衝液(PBS+2%FBS、0.01%アジ化ナトリウム)2mlで細胞を洗浄し、ヨウ化プロピジウム(Sigma-Aldrich、オーストラリア)5μl(1mg/ml)を含むこの緩衝液500μl中に再懸濁させた。EPICS Elite (Beckman Coulter、米国カリフォルニア州)を用いたフローサイトメトリーで細胞を分析した。前方散乱および側方散乱ならびにヨウ化プロピジウム陰性に基づいて細胞にゲートをかけた。第1継代のRAMOS RA-1では、その細胞集団の98.39%が表面IgM陽性であった(図12a)が、第14継代では、その細胞集団の26.55%が陽性であった(図12b)。この欠失は、変異率が高いこと、またはIgM陰性変異体の増殖が優勢であることによるものである。したがって、RAMOS RA-1細胞を予め選別してIgM陰性細胞を除去し、IgM欠失を組み込みの尺度として使用するため、トランスフェクション前にIgM+細胞を定量した。
【0195】
RAMOSにおけるIgM欠失についてさらに調べるため、上記に記載の方法を用いて細胞表面IgM分子数を定量した。時間が経つにつれて細胞表面IgM分子の平均数がかなり減少することが観察された。第4継代では、RAMOS RA-1細胞は、その表面上にIgMを平均9.0×105分子有しているが、第16継代では、IgM分子数は4.1×105分子まで減少した(図12)。これらのデータを合わせると、細胞表面IgMの減少が継代回数に依存していることが示唆される。
【0196】
米国基準菌株保存機構から供給されたRAMOS株「RAMOS RA-1」と、欧州基準細胞保存機構(European Collection of Cell Culture)(ECAC)から供給されたRAMOS株「RAMOS」の間のIgM欠失の割合における違いも観察し定量した(図13)。これらのデータを合わせると、IgM欠失は、文献中で広範囲に報告されている組み込みのマーカーであるが、本発明者らのシステムにおける組み込みの陽性選択マーカーであるネオマイシンや陰性選択マーカーであるチミジンキナーゼなどの抗生物質マーカーの使用を選ぶべきであることが示唆される。
【0197】
(実施例9)
CD26のアンカードメインを用いたasFP499の表面提示
RAMOS細胞上にasFP499遺伝子産物を細胞表面提示させるため、CD26の膜貫通ドメイン(Tanaka,Tら、1992、J. Immunol. 149 (2)、481〜486頁)をアンカーとして使用した。
【0198】
CD26の膜貫通ドメイン
受託番号: M74777 (gi 180082)
ペプチド配列: MKTPWKVLLGLLGAAALVTIITVPVVLLNK(配列番号96)
ヌクレオチド配列: 10〜100
【0199】
【数21】

【0200】
このアンカー配列をasFP499遺伝子の3'末端に付加して、そのタンパクにN末端アンカーをもたらした(CD26asFP499)。このことは、存在しているDNA末端と部分的に重複し、新しい配列も付加するプライマーを用いた連続重複伸長PCRによって実現された。この連続重複PCRの概略を図14に示す。この方法を用いて、配列の3'末端または5'末端に配列を付加することができる。プライマーを表6に列挙する。
【0201】
【表6】

【0202】
SpeIおよびEcoRIの制限部位を使用した以外は前記に記載のように、最終PCR産物をpME18s中にクローン化した。DNA配列分析により、そのクローン化した配列を確認した。得られたベクターをpME18sCD26asFPと称し、図15に示す。pME18sCD26asFPの配列を配列番号104に示す。
【0203】
(実施例10)
CD26asFP499のトランスフェクションおよび分析
CD26asFP499が細胞表面に提示されることを実証するために、プラスミドpME18sasFP499CD26をRAMOS RA-1細胞および対照のHEK 293T細胞にトランスフェクトした。
【0204】
前記に記載のように(実施例6)、RAMOS RA-1細胞にトランスフェクトした。製造業者の説明書に従ってFuGENE6(Roche、ドイツ)を使用して、60%〜90%コンフルエントのHEK 293T細胞におけるトランスフェクションを実施した。各トランスフェクションにDNAを5μg使用し、陽性対照としてpME18sasFP499を用いた。
【0205】
前記に記載のように、フローサイトメトリーによってトランスフェクション効率を評価した。図16に、RAMOS RA-1細胞におけるpME18sCD26asFP499のトランスフェクションについてのフローサイトメトリーのデータを示す。この細胞系統におけるこのベクターのトランスフェクション効率が極めて低い(この場合0.01%が陽性細胞4個に相当する)ことが認められる。HEK 293T細胞におけるトランスフェクションについてのデータを図17に示す。この細胞系統では、pME18sCD26asFP499のトランスフェクション効率はpME18sasFP499と同じであり、どちらのベクターの発現もこの細胞系統で高くなっている。pME18sCD26asFP499の平均蛍光強度は、pME18sasFP499より低かった。
【0206】
Nikon C1(Coherent Life Sciences、オーストラリア)を用いた共焦点顕微鏡法で、pME18sCD26asFP499をトランスフェクトしたHEK 293 T細胞を分析した。大部分の細胞は、その辺縁に広がった蛍光を示し、このことから細胞膜にasFP499CD26が発現していることが示唆されるが、pME18sasFP499をトランスフェクトした対照細胞全体にわたって均一に明るい蛍光が観察された(データは示さず)。
【0207】
(実施例11)
AICDA(AID)遺伝子のコード領域のpME18sへのクローン化
分化特異的AICDA遺伝子のタンパク産物である活性化誘導シチジンデアミナーゼ(AID)は、B細胞におけるクラススイッチ組換え(CSR)および体細胞高頻度変異(SHM)のプロセスに必要不可欠なB細胞特異的ファクターであることが判明している。非B細胞システムを含めた多数の哺乳動物細胞システムでそれを異所的に発現させると、AIDタンパクが高頻度変異を誘発しかつ/または促進することができることが判明している(Martinら 2002、Okazakiら 2002、Yoshikawaら 2002)。
【0208】
RAMOS RA-1からの全mRNA抽出
細胞を回収し、1500rpmで遠心し、PBSで再懸濁させた。製造業者の説明書に従ってGenoprep(商標)mRNA単離キット(Scientifix、オーストラリア)を使用して、全細胞mRNAを抽出した。簡潔に述べると、上清を除去した後、溶解および結合用溶液700μlを細胞(1×106個)に加えた。Genoprep(商標)mRNA磁気ビーズ50μl(250μg)とこの混合物を一緒にし、室温で5分間インキュベートした。磁気的にビーズを収集し、洗浄用溶液I 500μlで洗浄した。次いでビーズを洗浄用溶液II 500μlで2回洗浄した。mRNAとビーズの複合体を滅菌水20μlに再懸濁させ、次いで65℃で2分間インキュベートした。ビーズを磁気的に収集し、mRNAを含んでいる上清を新しい管に移した。
【0209】
プラチナTaq付きSuperscript One-step RT-PCRキット(Invitrogen、米国カリフォルニア州)を用いて、RAMOS RA-1の全RNAからヒトAICDA(AID)遺伝子を増幅した。この反応物は、1×反応混合物、10pMの順向きプライマー9645 (5' ATGGACAGCCTCTTGATGAACCGGAGGA 3')(配列番号105)、10pMの逆向きプライマー9646 (5' CAAAGTCCCAAAGTACGAAATGCGT 3')(配列番号106)、鋳型RNA(約150ng)、RT/Taq混合物(1.0μl)および滅菌水を終量50μl中に含んでいた。サイクル条件は以下の通りであった。55℃を30分間、94℃、2分間を1サイクル、94℃を30秒間、55℃を30秒間、68℃、1分間を35サイクル、72℃、7分間を1サイクル。
【0210】
プラチナPfxポリメラーゼ(Invitrogen、米国カリフォルニア州)を用いて、前記に記載のようにこのRT-PCR産物(596bp)をPCRによって増幅した。次いで、PCR-Script Ampクローン化キット(Stratagene、米国テキサス州)を使用して、この産物をSrf I部位でpPCRScript中にクローン化した。次いで、Xho IおよびXba I制限部位を使用して、プライマー9792 (5' CCCTCGAGATGGACAGCCTCTTGATGAACCGGA 3')(配列番号108)、および9793 (5' GCTCTAGACAAAGTCCCAAAGTACGAAATGCGT 3')(配列番号109)を用いてAIDのコード領域をpME18s中にサブクローニングした。PCR反応およびサイクル条件は、上記に記載の通りであった。前記に記載のように配列決定を行うことによって、この構築物を確認した。AICDA遺伝子のコード領域のDNA配列を配列番号107に示す。
【0211】
(実施例12)
抗体断片の親和性成熟
組み込みおよび標的核酸の発現の後、アンカーと融合した抗体断片からなるキメラタンパクが生成されるように、遺伝子ターゲッティングベクターKW2を改変する。これは、CD26アンカー配列をKW2中にクローン化し、次いでCD26アンカー配列の下流に抗体断片の配列を挿入する、標準的な分子生物学技術を用いて実現される。得られたベクターをKW3と称する。
【0212】
前記に記載の最適化されたプロトコルを用いて、RAMOS RA-1細胞に遺伝子ターゲッティングベクターKW3をトランスフェクトする。細胞を48〜72時間回復させた後、G418 5mg/mlおよびガンシクロビルまたはFIAUを培地に加えて7〜9日間置く。この結果、安定な形質転換体が選択され、変異を起こす時間も与えられ、表面提示も行われる。安定な形質転換体からなる生存細胞集団は、フローサイトメトリーを用いて選別され、提示された抗体断片の蛍光標識した結合相手と反応することができる。次いで、蛍光強度が最も高い(すなわち最も強く結合する)細胞を単一細胞まで選別して、50%培養上清および50%新鮮増殖培地100μlを含む96穴U字底プレートに入れる。単一細胞選別は、EPICS Elite (Beckman Coulter、米国カリフォルニア州)のオートクローン(Autoclone)機能を使用して実現される。
【0213】
固定化された結合相手で細胞を捕捉し、競合的溶出によって親和性が最も高い遺伝子産物を選択することにより、親和性が最も高い遺伝子産物を細胞表面上に有する細胞を選択することも可能である。
【0214】
必要な場合、細胞をin vivo戦略によるサイクルに乗せることができる(図2)。単一細胞を1×105〜1×106個に増殖させて、さらなる変異を生じさせ、次いで標識した結合相手と反応させ再度単一細胞選別を行うことができる。所望の特性を有する分子、この場合では結合親和性が高い分子を提示している細胞が単離されるまで、単一細胞選別/増殖および変異/再選択のこのサイクルを実施することができる。この細胞からDNAを抽出することができ、変異遺伝子をPCRによって増幅することができる。あるいは、そのRNAを抽出することができ、その遺伝子をRT-PCRによって増幅することができる。次いで、増幅した遺伝子を適当な発現ベクターに挿入して、親和性成熟抗体断片を高レベルで産生させることができる。
【0215】
本明細書に含まれている、文献、行為、材料、機器、物品などについてのどんな考察も、本発明の状況を与える目的のものに過ぎない。これらの事柄のいずれかまたはすべてが、本願の各請求項の優先日の前から存在していたように、従来技術の土台の一部を形成し、または本発明に関係する分野における通常の一般的な知識であったことを認めるものとみなすべきでない。
【0216】
特定の実施形態に示すように、広範囲に記載した本発明の趣旨または範囲から逸脱せずに、本発明に多数の変形および/または変更を加えることができることを、当業者なら理解するであろう。したがって、本実施形態は、すべての点で例示的であって限定的ではないとみなされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0217】
【図1】VH4対立遺伝子のヒトイムノグロブリン重鎖プロモーターのアラインメントを示す図である。配列は、配列番号2〜7として提供されたものである。
【図2】本発明の好ましい方法の概略図である。
【図3】遺伝子ターゲッティング領域、すなわち再構成されたV遺伝子中に標的核酸を直接挿入するのに好ましい部位の概略図である。
【図4】ベクター3kb15a-7-4Tの概略図である。
【図5】ベクターKW2の概略図である。
【図6】標的組み込み用ベクターKW3の概略図である。
【図7】それぞれの日で連続した分裂を示している、CFSEで染色したRAMOS細胞を示す図である。
【図8】ベクターpME18SasFP499の概略図である。
【図9】RAMOS RA-1細胞へのpME18SEGFPのトランスフェクションに対する、DNA量およびエレクトロポレーションのパラメーターの影響を示す図である。
【図10A】模擬トランスフェクトしたRAMOS RA-1細胞の比較を示す図である。
【図10B】pME18sasFP499をトランスフェクトしたRAMOS RA-1細胞の比較を示す図である。
【図10C】pME18sEGFPをトランスフェクトしたRAMOS RA-1細胞の比較を示す図である。
【図11A】マウス抗ヒトIgM-Alexa 488で染色したQuantum Simply Cellular Beadsを示す図である。
【図11B】マウス抗ヒトIgM-Alexa 488で染色したRAMOS細胞を示す図である。
【図11C】RAMOS RA-1細胞表面上のIgM分子の定量を示す図である。
【図12A】異なる継代数のRAMOS RA-1細胞上でのIgM発現の比較を示す図である。第1継代のRAMOS RA-1を示す。
【図12B】異なる継代数のRAMOS RA-1細胞上でのIgM発現の比較を示す図である。第14継代のRAMOS RA-1を示す。
【図13】異なる供給源由来のRAMOS RA-1試料のIgM発現を示す図である。
【図14】連続重複伸長PCRの概略図である。
【図15】哺乳動物発現ベクターpME18sCD26asfp499の概略図である。
【図16A】RAMOS RA-1中にCD26アンカーを含むものと含まないものとのasFP499発現の比較を示す図である。
【図16B】RAMOS RA-1中にCD26アンカーを含むものと含まないものとのasFP499発現の比較を示す図である。
【図16C】RAMOS RA-1中にCD26アンカーを含むものと含まないものとのasFP499発現の比較を示す図である。
【図17A】HEK 293 T中にCD26アンカーを含むものと含まないものとのasFP499発現の比較を示す図である。
【図17B】HEK 293 T中にCD26アンカーを含むものと含まないものとのasFP499発現の比較を示す図である。
【図17C】HEK 293 T中にCD26アンカーを含むものと含まないものとのasFP499発現の比較を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の性質を有する遺伝子産物を産生し選択する方法であって、
(i) 標的核酸分子が高頻度変異性細胞ゲノムのイムノグロブリン遺伝子座に組み込まれるように、遺伝子産物をコードする前記標的核酸分子を前記高頻度変異性細胞に導入するステップと、
(ii) DNAおよび/またはRNA合成中に前記標的核酸分子が高頻度変異を起こすように、前記高頻度変異性細胞を培養し、変異遺伝子産物を発現している細胞集団を生じさせるステップと、
(iii) 所望の性質を有する変異遺伝子産物を選択するステップとを含む方法。
【請求項2】
前記イムノグロブリン遺伝子座が、再構成されたV遺伝子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イムノグロブリン遺伝子座が、再構成されたVH遺伝子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記イムノグロブリン遺伝子座が、再構成されたVH4〜34対立遺伝子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記標的核酸分子を前記イムノグロブリン遺伝子座に組み込んだ後、前記標的核酸分子をプロモーターに作動的に連結する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記プロモーターがイムノグロブリン重鎖または軽鎖プロモーターである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記プロモーターが前記高頻度変異性細胞に対して内因性である、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記プロモーターが前記高頻度変異性細胞に対して外因性である、請求項5または請求項6に記載の方法。
【請求項9】
組み込み後、前記標的核酸分子の開始コドンが前記プロモーターの3'末端の2kb以内に位置している、請求項5から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
組み込み後、前記標的核酸分子の開始コドンが前記プロモーターの3'末端の500bp以内に位置している、請求項5から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
組み込み後、前記標的核酸分子が前記プロモーターの下流に、マトリックス付着領域および/または3'エンハンサーの有無に関わらずイントロンエンハンサーの上流に位置している、請求項5から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
再構成されたV対立遺伝子の少なくとも500bp上流の領域と相同な配列、および再構成されたV遺伝子の少なくとも500bp下流の領域と相同な配列を含む組み込み用ベクターにより、前記標的核酸分子を細胞中に導入する、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(ii)および(iii)を反復する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記方法が、前記標的核酸分子の変異率を高めるさらなるステップを含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記さらなるステップが、前記高頻度変異性細胞内の活性化誘導型シチジンデアミナーゼ(AID)の発現レベルを高めるものである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記変異遺伝子産物を、前記高頻度変異性細胞内で行うアッセイによって選択する、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記高頻度変異性細胞内で行うアッセイがタンパク断片再構成アッセイ(PCA)である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
発現後に前記変異遺伝子産物が前記高頻度変異性細胞の表面上に提示されるように、前記標的核酸分子をアンカー分子をコードしている配列と連結させる、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記変異遺伝子産物を、前記変異遺伝子産物の結合相手との結合を検出することによって選択する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記高頻度変異性細胞を蛍光色素などの検出可能なマーカーで標識し、前記結合相手を固定化する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記結合相手を蛍光タグで標識する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記標識した結合相手と結合した前記変異遺伝子産物を提示している(複数の)高頻度変異性細胞を、フローサイトメトリー技術を用いて選別する、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記結合相手が、抗体、受容体、転写因子、ホルモン、酵素、細胞表面分子、DNAまたはRNA分子からなる群から選択される、請求項19から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記選択した変異遺伝子産物をコードしている前記標的核酸分子を回収するステップをさらに含む、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記回収にPCRまたはRT-PCRによるポリヌクレオチドの増幅を使用する、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記高頻度変異性細胞が、哺乳動物、酵母、昆虫または細菌細胞である、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記高頻度変異性細胞が、哺乳動物細胞である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記哺乳動物高頻度変異性細胞が、RAMOS、BL2、BL41、BL70およびNalmからなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
請求項1から28のいずれか一項に記載の方法によって産生される遺伝子産物。
【請求項30】
高頻度変異性細胞のイムノグロブリン遺伝子座への標的組み込み用ベクターであって、前記高頻度変異性細胞の再構成されたV遺伝子の上流の領域と相同な配列と、前記高頻度変異性細胞の再構成されたV遺伝子の下流の領域と相同な配列と、標的核酸分子の組み込み部位とを含むベクター。
【請求項31】
前記高頻度変異性細胞の前記再構成されたVH遺伝子の前記上流領域が、配列番号1のヌクレオチド1〜5190内の領域である、請求項30に記載のベクター。
【請求項32】
前記領域が、配列番号1のヌクレオチド1〜5190内の少なくとも500bpである、請求項31に記載のベクター。
【請求項33】
前記高頻度変異性細胞の前記再構成されたVH遺伝子の前記上流領域が、配列番号1のヌクレオチド191〜5190を含む、請求項31に記載のベクター。
【請求項34】
前記高頻度変異性細胞の前記再構成されたVH遺伝子の前記下流領域が、配列番号1のヌクレオチド5709〜8699内の領域である、請求項30から33のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項35】
前記下流領域が、配列番号1のヌクレオチド5709〜8699内の少なくとも500bpである、請求項30から34のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項36】
前記ベクターが選択マーカーをさらに含む、請求項30から35のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項37】
配列番号110のヌクレオチド1〜12990で示される配列を含む、標的組み込み用ベクター。
【請求項38】
前記ベクターが、前記標的核酸分子によってコードされている前記遺伝子産物の提示に適したシグナルおよび/またはアンカー分子をコードしている配列をさらに含む、請求項30から37のいずれか一項に記載のベクター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図11C】
image rotate

【図12A】
image rotate

【図12B】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16A】
image rotate

【図16B】
image rotate

【図16C】
image rotate

【図17A】
image rotate

【図17B】
image rotate

【図17C】
image rotate


【公表番号】特表2006−510358(P2006−510358A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−559495(P2004−559495)
【出願日】平成15年12月18日(2003.12.18)
【国際出願番号】PCT/AU2003/001697
【国際公開番号】WO2004/055182
【国際公開日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(500288522)ダイアテック・ピーティワイ・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】