説明

mRNAの定量により薬剤の投与を選定する方法

【課題】薬剤に対する患者の反応性を測定する方法を提供する。
【解決手段】7時間以内、当該薬剤に患者の全血を暴露すること;この暴露後に、血液細胞における薬剤の効果に関連するmRNA量を測定すること;及び測定結果に基づいて薬剤に対する反応性を確認することを含み、当該mRNAの量の変化が当該薬剤に対する患者の反応性を表す。血液細胞で測定されるmRNA量を暴露前に細胞に存在するmRNAレベル又は対照ビヒクルに同じ期間暴露した細胞に存在するmRNAのレベルと比較することができる。本発明に有用なマーカーmRNAには、p21、BAX、PUMA、NOXA、及びIL−2遺伝子の遺伝子産物をコードするmRNAが含まれる。特に、癌患者又は疾病患者又は免疫抑制を要求する状態の患者にこの方法を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、薬剤の投与を選定する方法に関する。この方法では、患者の全血を薬剤に暴露する。薬剤に暴露後、及び対照ビヒクルのみに暴露後、この薬剤の効果に結び付いたマーカーmRNAのレベルを白血球で測定する。薬剤暴露後のmRNAレベルを、対照ビヒクル暴露後の値、又は薬剤暴露前に測定した値と比較することによって、この薬剤が患者に効果的であるか否かを判定することが可能である。多くの考えられる治療薬剤に対して、患者の血液をスクリーニングすることによって、特定の患者に対して選定された最適化治療プロトコルを開発することが可能である。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2004年10月20日に出願された米国仮特許出願第60/620,603号、2005年2月16日に出願された同第60/653,557号及び2005年6月8日に出願された同第60/688,741号に対して優先権を主張する。
【0003】
[配列リスト、表又はコンピュータープログラムリストの参照]
本出願は、別個の配列リストを含む。
【背景技術】
【0004】
[関連技術の記載]
薬局方は、医者にほとんどの疾病に対する幾つかの考えられる治療剤を提供している。しかし、個々の治療剤の有効性は、患者ごとに大いに異なる。概して、特定の疾病に対してあまり効果的ではないとされる薬剤が、事実、この疾病に冒された特定の患者には非常に効果的であることがある。したがって医者及び患者にとって、どの薬剤又は薬剤の組み合わせがそれぞれの患者に最も適しているか、また副作用を引き起こすことなく最大限の効果を導くために、どのくらいの用量を個人に合わせて投与すべきかを予め決定することができることは非常に有益なことであろう。このような決定をする能力は、一般的に「個別的医療(tailored medicine)」と呼ばれるが、現在では一般に実用的なものではない。
【0005】
個別的医療に対する最初のアプローチとして、血液中の薬剤濃度を測定することによる治療剤のモニタリングを試みられている。しかし得られた値は、それぞれの患者における薬剤の実質的な効果に必ずしも相関があるという訳ではない。別のアプローチは、薬剤代謝に関与する遺伝子の変異を同定するために、薬理遺伝学、又は薬剤毒性関連の遺伝子についての単一ヌクレオチド多型(SNP)情報を利用した遺伝子型決定に依存する。しかし、適切な遺伝子上の「ホットスポット」の発見及びこれらの特徴付けを目指すこのような研究は、多大な時間及び資源を要求する。さらに、薬剤代謝に関連する遺伝子は限られた数だけしか同定されていない。その上、同じ遺伝子又は他の関連遺伝子において未だ確認されていない他の変異の効果が、既知の変異から得られた機能障害を悪化させるか、又は改善させるかどうかは知られていない。
【0006】
効果のないプロトコルを初めに選択した場合に非常に急速に疾患が進行する恐れのある癌の場合において、適切な治療レジメンを選択する必要性が特に深刻である。多くの抗癌剤が市販されている。薬剤の選択は癌細胞の型に基づいているので、個々の癌細胞を完全に特徴付けるために、広範囲に及ぶ細胞学試験が行なわれる。しかし、同じ細胞型の中であっても患者ごとのばらつきが存在し、患者が一度特定の薬剤に対して非反応性になると、積極的療法が中止される。in vitroでの有効性に関して、薬剤及びその組み合わせの広範囲に及ぶアレイをスクリーニングすることが可能であった場合、このような患者に効果的な薬剤レジメンを特定することができる。
【0007】
癌細胞を血液から単離し、in vitroでの適切な抗癌剤あり又はなしで、培養培地に維持することができる。このようなアッセイは労働集約型操作ステップで2、3日を要するが、これらの人工培養条件がin vivoでの薬剤感受性を反映することはめったにない。したがってこれらの原則に基づくアッセイは、日常的な臨床試験として適用されない。
【0008】
多くの抗癌剤は、異常細胞の細胞周期の進行を止めるか、又はアポトーシスに入ることによって機能する。細胞周期停止に関連するとして知られている遺伝子はp21である。さらに、細胞がアポトーシスを促進させると、幾つかのプロアポトーシスのmRNAを誘導することが知られている。これらは、特にBax、Bak、Bok及びBcl−XSからなる、いわゆるBcl−2/Baxファミリー遺伝子である。いわゆるBH3−only Bcl−2ファミリーのメンバー等の切断型のBaxはまたプロアポトーシスであることも知られていて、特にこの群はBid、Bad、Bik、Bim、NOXA及びPUMA(p53誘導性アポトーシス調節因子)からなる。これらの遺伝子は、ミトコンドリア膜と結合し、シトクロムcの放出を制御することによってアポトーシスを調節する同様の構造モチーフを共有する。多くのプロアポトーシス遺伝子が同定されているが、全てがアポトーシスの発現に等しく重要であるかどうかは知られていない。組織又は細胞のタイプによって、又は刺激のタイプ又は程度によって、特定の遺伝子を優性的に発現することができる。代替的には、原因遺伝子が個体間で変化し得る。アポトーシスが発病に重大な役割を果たす場合に、優性の普遍的プロアポトーシスmRNA又はこのようなmRNAの組を同定したとき、これらは癌及び炎症に対する一般的な薬剤標的として非常に有用であると考えられる。さらに、それらはアポトーシス関連疾病に対する普遍的な診断用ツールとして有用であると考えられる。
【0009】
さらに、化学療法剤を固形癌に対して用いるとき、主要な考えられる副作用の1つは、白血球の抑制である。重症例では、この副作用は致命的である可能性がある。しかし残念ながら、どの患者で白血球抑制が起こるか、又は治療の間、いつ副作用が起こりやすいのかを予測することは不可能である。したがって、薬剤反応の個々のパターンの特定は診断目的に有用であるだけでなく、臨床試験の結果を改善するのに、また薬剤関連死の危険を低減することによって悪評を逃れるのにも有用である。これらの分野の改善は医薬産業にとって非常に価値のあるものである。
【0010】
主な抗癌剤が静脈内で使用され、各薬剤の血液レベルが十分に特徴付けられているので、アプローチの1つとしては、薬剤の既知の効果を利用する細胞に基づいた機能的アッセイで、ex vivoでの白血球毒性を検査することである。例えば、ブレオマイシン(BLM)は、DNA切断及び染色体切断によってヒトリンパ球におけるアポトーシスを誘導することが知られている。強力なトポイソメラーゼII阻害剤であるエトポシド(VP−16)は、ヒトリンパ球におけるDNA鎖切断及びアポトーシスを誘導する。細胞に基づいた機能的アッセイは研究に広く使用されるが、このような試みが複雑である(大きな変動を伴い、定量が困難である)ために、個々の薬剤に対する反応性のある個体(responders)及び非反応性の個体(non-responders)を同定するのにこれらを使用することは臨床診療であまり認められていない。
【0011】
また、組織移植及び骨髄移植した患者は生涯免疫抑制剤を使用しなければいけないので、これらの患者の間で薬剤を選定することの必要性が高まっている。シクロスポリンA(「CsA」)及びタクロリムス(「FK」)がこれらの患者のマネージメントに関する優れた記録を示していることから、今では多くの他の疾患(特に、乾癬、炎症性腸疾患、及び腎炎症候群等)にこれらの薬剤が使用される。しかし、これらの薬剤の有効性は、個々の患者間でも異なり、これらの2つの薬剤の1つに対してより良好な反応を示す患者もいる。これらの薬剤の一次作用がインターロイキン−2(IL−2)mRNAの転写を阻害することであるので、白血球中のIL−2 mRMAのレベルを定量することは理にかなっている。しかし、主にmRNAを取り扱うことが難しいという理由で、用いられている方法は通常の臨床試験としては適切ではない。また、アッセイの多くの変動は患者ごとの変動を特定するのに適切ではない。
【発明の概要】
【0012】
[発明の概要]
本発明は、候補薬剤で患者の全血を刺激した後に白血球で測定されるマーカーmRNAのレベルに基づいて個々の患者の薬剤プロトコルを選定する方法を開示する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ヒト血液(○)及び培養ヒト白血球細胞における薬剤誘導性のp21 mRNA発現を示すグラフである。
【図2】健常な成人の血液50μLに混合したU937細胞由来のエトポシド誘導性のp21 mRNAを示すグラフである。
【図3】白血病性リンパ腫(左側、中央)及び健常な成人(右側)における薬剤誘導性のp21 mRNA(上方)及びBAX mRNA(下方)を示す棒グラフである。
【図4】図3の患者2の臨床経過を示す図である。
【図5】アポトーシスの初期遺伝子発現を示す図である。
【図6】様々なプロアポトーシスmRNAのスクリーニングの結果を示す図である。
【図7】用量反応の評価の結果を示す図である。
【図8】白血病患者及びリンパ腫患者における薬剤誘導性の遺伝子発現の評価の結果を示す図である。
【図9】ヒト全血におけるアポトーシス関連遺伝子のVP−16誘導性の発現を示す図である。
【図10】ヒト全血におけるアポトーシス関連遺伝子のBLM誘導性の発現を示す図である。
【図11】p21反応とPUMA反応との比較及びVP−16反応とBLM反応との比較を示す図である。
【図12】mRNAレベルの測定の1日ごとの変動を示す図である。
【図13】ヒト全血におけるアポトーシス関連遺伝子のタキソール誘導性の発現を示す図である。
【図14】薬剤誘導性のBAX、p21、及びPUMA発現の間の比較を示す図である。
【図15】健常なドナー及び血液癌患者におけるBLM誘導性のp21 mRNA発現を示す図である。
【図16】多くの抗癌剤による癌患者の全血におけるp21及びBAX mRNA刺激の測定結果を示す図である。
【図17】多くの抗癌剤による癌患者の全血におけるp21、BAX、及びPUMA mRNA刺激の測定結果を示す図である。
【図18】ヘパリン処理された全血における白血球IL−2 mRNAのPHA−P誘導性の誘導を示すグラフである。
【図19】ヘパリン処理された全血におけるPHA−P誘導性の白血球IL−2 mRNAの動態を示す図である。
【図20】PHA−P誘導性のIL−2 mRNAの発現に対するCsAの用量依存的効果を示す図である。
【図21】PHA−P誘導性のIL−2 mRNAの発現に対するCsAの効果を示す図である。
【図22】健常なドナーの血液におけるPHA−P誘導性のIL−2 mRNA発現での100及び500ng/mLのCsAに対する反応を示す図である。
【図23】健常な成人とCsA又はFKを摂取していた患者との間の比較結果を示す図である。
【図24A】CsAのレベル(x軸)とベースラインのIL−2 mRNA値/白血球数との間の関係を示す図である。
【図24B】CsAの血液レベル(x軸)とPHA−A後刺激(右側)との間の関係を示す図である。
【図25A】FKの血液レベル(x軸)とベースラインのIL−2 mRNA値/白血球数との間の関係を示す図である。
【図25B】FKの血液レベル(x軸)とIL−2 mRNA値/PHA−A後刺激の白血球数との間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一態様は、7時間以内、患者の全血を薬剤に暴露すること;暴露後に、血液細胞における薬剤の効果に関連するmRNAの量を測定すること;及び測定結果に基づいて薬剤に対する反応性を確認することを含み、mRNAの量の変化が薬剤に対する患者の反応性を表す、方法を含む。
【0015】
本方法の好ましい一つの実施の形態では、暴露前に、血液細胞に存在するmRNAの量を測定し、暴露前に測定したmRNAの量と暴露後に測定したmRNAの量とを比較することによりmRNAの量の変化を求める。
【0016】
本方法の別の好ましい実施の形態では、7時間以内、患者の全血を対照ビヒクルに暴露し;暴露後に、対照ビヒクルに暴露した血液細胞における薬剤の効果に関連するmRNAの量を測定して;少なくとも一部分において、対照ビヒクルの暴露後に得られた測定結果を薬剤の暴露後に得られた測定結果と比較することによって、薬剤に対する反応性を確認する。好ましくは、この対照ビヒクルはリン酸緩衝生理食塩水及びジメチルスルホキシドからなる群から選択される。
【0017】
本方法の好ましい実施の形態では、患者の全血を暴露することがヘパリンの添加を含む。
【0018】
本方法の好ましい実施の形態では、5時間以内、全血を刺激する。さらに好ましくは、2〜4時間以内、全血を刺激する。
【0019】
本方法の好ましい実施の形態では、薬剤の効果は血液細胞のアポトーシスである。
【0020】
本方法の好ましい実施の形態では、mRNAがBcl−2/Bax遺伝子ファミリーの遺伝子産物をコードするmRNAからなる群から選択される。さらに好ましくは、このmRNAがBax遺伝子産物をコードする。
【0021】
本方法の別の好ましい実施の形態では、mRNAがBH3−only Bcl−2遺伝子ファミリーの遺伝子産物をコードするmRNAからなる群から選択される。さらに好ましくは、このmRNAがPUMA遺伝子産物をコードするmRNA及びNOXA遺伝子産物をコードするmRNAからなる群から選択される。
【0022】
本方法の好ましい実施の形態では、薬剤の効果が血液細胞における細胞周期停止であり、mRNAがp21遺伝子産物をコードする。
【0023】
また、本方法の別の好ましい実施の形態では、血液細胞における薬剤の二次効果に関連する二次mRNAの量を測定し、薬剤の一次効果は血液細胞のアポトーシスであり、一次mRNAがPUMA遺伝子産物をコードし、薬剤の二次効果が血液細胞における細胞周期停止であり、二次mRNAがp21遺伝子産物をコードする。
【0024】
本方法の別の好ましい実施の形態では、薬剤がエトポシド、ドキソルビシン、フルダラビン、ミトキサントロン、リツキシマブ、ビンデシン、ピラルビシン、カルボプラチン、シクロホスファミド、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ペプロマイシン、アクラルビシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、シスプラチン、メトトレキサート、5−フルオロウラシル、シタラビン、ダカルバジン、シクロホスファミド、及びパクリタキセルから成る群から選択される。
【0025】
本方法の別の好ましい実施の形態では、患者が白血病又は白血病性リンパ腫の患者である。
【0026】
本方法の別の好ましい実施の形態では、患者の全血を暴露することがレクチンによる刺激を含む。さらに好ましくは、当該レクチンがフィトヘマググルタニン−P及びヤマゴボウマイトジェンからなる群から選択される。
【0027】
本方法の別の好ましい実施の形態では、薬剤の効果がIL−2転写の阻害であり、mRNAがIL−2遺伝子産物をコードする。
【0028】
本方法の別の好ましい実施の形態では、薬剤が免疫抑制剤である。さらに好ましくは、薬剤がシクロスポリンA及びタクロリムスからなる群から選択される。
【0029】
本方法の別の好ましい実施の形態では、mRNAがATP結合カセットサブファミリーA、B、C、D、E、F、及びG由来の遺伝子産物をコードするmRNAからなる群から選択される。
【0030】
本発明の一態様は、エトポシド、ドキソルビシン、フルダラビン、ミトキサントロン、リツキシマブ、ビンデシン、ピラルビシン、カルボプラチン、シクロホスファミド、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ペプロマイシン、アクラルビシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、シスプラチン、メトトレキサート、5−フルオロウラシル、シタラビン、ダカルバジン、シクロホスファミド、及びパクリタキセルからなる群から選択される薬剤に対する患者の反応性を測定する方法を含み、この方法は、4時間以内、薬剤に患者の全血を暴露すること;4時間以内、患者の全血を対照ビヒクルに暴露すること;これらの暴露後に、血液細胞におけるp21遺伝子産物をコードするmRNA、BAX遺伝子産物をコードするmRNA、及びPUMA遺伝子産物をコードするmRNAからなる群から選択されるmRNAの量を測定すること;対照ビヒクルの暴露後に得られた測定結果を薬剤の暴露後に得られた測定結果と比較すること;及び比較の結果に基づいた薬剤に対する反応性を確認することを含み、mRNAの量の変化が薬剤に対する患者の反応性を表す、方法を含む。
【0031】
本発明の一態様は、4時間以内、薬剤及びレクチンに患者の全血を暴露すること;4時間以内、患者の全血を対照ビヒクル及びレクチンに暴露すること;これらの暴露後に、血液細胞におけるIL−2遺伝子産物をコードするmRNAの量を測定すること;対照ビヒクルの暴露後に得られた測定結果を薬剤の暴露後に得られた測定結果と比較すること;及び比較の結果に基づいて薬剤に対する反応性を確認することを含み、mRNAの量の変化が薬剤に対する患者の反応性を表す、方法を含む。
【実施例1】
【0032】
白血病及びリンパ腫のために選定された薬剤投与におけるp21/BAXの使用
本方法では、医薬の作用による白血球の細胞死がp21 mRNA及びBAX mRNAの転写レベルに関連している。これらの2つのマーカーmRNAの中で、p21は細胞周期停止に関与し、BAXはアポトーシスの初期信号として誘導される。薬剤が癌細胞においてp21を誘導する場合、この薬剤が細胞増殖抑制作用を発揮することを示している。一方、BAXを誘導する場合は、この薬剤が殺細胞作用を有することを示している。アポトーシスの進行中、多くの遺伝子が関与するが、これらの2つの初期遺伝子マーカーの発現は薬剤の細胞毒性作用を表す。
【0033】
健常な成人及び2人の白血病性の非悪性ホジキンリンパ腫の患者から血液を得た。アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC、バージニア州マナッサス)からU937、KG−1、及びJurkat細胞を入手し、10%ウシ胎仔血清で補充されたRPMI 1640中に維持した。これらの中で、U937細胞はヒト組織球性リンパ腫細胞株であり、KG−1細胞はヒト骨髄の骨髄性白血病細胞株であり、Jurkat細胞は白血病由来のヒトT細胞リンパ芽球様細胞株である。無血清培地で細胞を懸濁し、37℃で2時間、エトポシド(Sigma、ミズーリ州セントルイス)に暴露し、それからp21を測定した。ヒトの試験では、37℃で2時間、様々な抗癌剤で血液アリコートを刺激して、それからp21 mRNA及びBAX mRNAを測定した。この研究で使用した抗癌剤は臨床剤であり、静脈内投与後3〜6時間、各薬剤の濃度を一般的な血液レベルまで調整した。使用した薬剤は、Adriacin(ドキソルビシン、協和続酵工業株式会社)、Fludara(フルダラビン、Schering)、Novantron(ミトキサントロン、Wyeth)、Vepesid(VP−16、エトポシド、Bristol-Myers Squibb)、Randa(シスプラチン、日本化薬株式会社)、Rituxan(リツキシマブ、抗CD20モノクローナル抗体、中外製薬株式会社)、Fildesin(ビンデシン、塩野義製薬株式会社)、Therarubicin(ピラルビシン、明治製菓株式会社)、Paraplatin(カルボプラチン、Bristol)、及びEndoxan(シクロホスファミド、塩野義製薬株式会社)であった。
【0034】
mRNA及びcDNAを全血から調製した。簡潔に述べると、自家製の96ウェルフィルタープレートを回収プレートの上に置いて、5mMのトリス(pH7.4)150μlを加えた。4℃で1分間、120×gで遠心分離した後に、血液サンプル50μlを各ウェルに加え、直ちに4℃で2分間、120×gで遠心分離して、続いて、4℃で5分間、2,000×gで一回遠心分離することによって、各ウェルをPBS300μlで洗浄した。それから、例えば、0.5%N−ラウロイルサルコシン、4×SSC、10mMのトリスHCl(pH7.4)、1mMのEDTA、0.1%IGEPAL CA−630、及び1.791Mのチオシアン酸グアニジンを含み、1%の2−メルカプトエタノール(Bio Rad、米国カルフォルニア州ハーキュリーズ)、0.5mg/mlのプロテイナーゼK(Pierce、米国イリノイ州ロックフォード)、0.1mg/mlのサケ精子DNA(5 Prime Eppendorf/Brinkmann、米国ニューヨーク州ウェストベリー)、0.1mg/mlのE.コリのtRNA(Sigma)、表1で示される特定のリバースプライマーをそれぞれ10mM含有するカクテル、及び標準的なRNA34オリゴヌクレオチドで補充された、ストック溶解緩衝液60μlをフィルタープレートに加えて、その後37℃で10分間インキュベートした。それから、フィルタープレートをオリゴ(dT)固定化マイクロプレート(GenePlate、RNAture)の上に置いて、4℃で5分間、2,000×gで遠心分離した。4℃で一晩保存した後に、マイクロプレートを単純な溶解緩衝液100μlで3回、続いて4℃で洗浄緩衝液(0.5MのNaCl、10mMのトリス(pH7.4)、1mMのEDTA)150μlで3回洗浄した。1×RT緩衝液、それぞれ1.25mMのdNTP、4ユニットのrRNasin、及び80ユニットのMMLV逆転写酵素(Promega)(プライマーなし)を含む緩衝液30μlを添加することによって、cDNAを各ウェルで直接合成して、37℃で2時間インキュベートした。特定のプライマーでプライム化されたcDNAが溶液中に存在し、残留したオリゴ(dT)プライム化cDNAはマイクロプレートに固定化された。TaqManPCRでは(図1、図3、図4)、得られたcDNA溶液4μlを384ウェルPCRプレートに直接移し、これにTaqMan universal master mix(ABI)5μl、及びオリゴヌクレオチドカクテル(それぞれ15μMの順方向プライマー及び逆方向プライマー、及び3〜6μMのTaqManプローブ)1μlを加えて、95℃で10分を1サイクル、続いて95℃で30秒、55℃で30秒、及び60℃で1分を45サイクルで、PRISM 7900HT(ABI)によってPCRを行った。SYBR Green PCRでは(図6を参照)、cDNAを水で3〜4倍に希釈し、cDNA溶液4μlを384ウェルPCRプレートに直接移して、これにmaster mix(BioRad、カルフォルニア州ハーキュリーズ)5μl及びオリゴヌクレオチドカクテル(それぞれ15μMの順方向プライマー及び逆方向プライマー)1μlを加えて、95℃で10分を1サイクル、続いて95℃で30秒、及び60℃で1分を45サイクルで、PRISM 7900HT(ABI)によってPCRを行った。各遺伝子を別々のウェルで増幅した。Ctを解析用ソフトウェア(SDS、ABI)で測定した。
【0035】
血液細胞及び培養細胞においてp21 mRNAを誘導するのに用いられるエトポシドの適切な濃度を決定するために、健常な成人由来の血液サンプルを37℃で2時間、様々な濃度の薬剤で刺激して、それからp21 mRNAのレベルを測定した。図1で示されるように、○(有意にp21 mRNAを発現しなかった)が健常な白血球において10μMのエトポシドで検出されたが、100μMではp21は有意に発現した。しかしながら、これに対して、U937細胞を10μMのエトポシドに暴露したとき、この細胞ではわずかではあるが有意なp21の発現が検出された(図1、●、矢印)。KG−1細胞(図1、▲)の薬剤感受性はヒト血液のものと同程度であり、100μMを使用したときでさえ、Jurkat細胞はエトポシドに対して耐性があった(図1、◆)。これらの結果によって、p21 mRNAの発現が薬剤毒性に対する有用なマーカーであり、10μMのエトポシドが感受性癌細胞の選択の手段であることが示される。
【0036】
図1で示された結果によって、10μMのエトポシドが健常な血液とU937とを区別するためのカットオフ値であることが示された。培養細胞を使用して白血病を刺激するために、様々な量のU937を血液と混合し、10μMのエトポシドに暴露した。結果を図2に示す。血液とU937とを相互作用させないように、別々の試験管内でエトポシドに血液及び細胞を暴露して、フィルタープレートの同じウェルに加えた。また、U937における天然のp21 mRNAの発現を同定するために、対照として同量の未処理のU937を血液サンプルに添加した。この図では、□がDMSO処理U937細胞を表し、◆が10μMのエトポシド処理U937細胞を表す。図2で示されるように、1,250個のU937細胞を血液1μLに添加したとき(矢印)、有意な(p=0.04)p21 mRNAの発現が同定された。これらの結果によって、癌細胞集団が20%(血液1μL、5,000個の正常白血球につき、1,250個の癌細胞)と少ないとき、全血において癌細胞の薬剤感受性を同定することができることが示される。
【0037】
図1、図2で示される結果を得た培養細胞条件は人為的なものであり、in vivoでの薬剤作用を必ずしも反映しない。培養細胞の結果を解釈するのは困難である。対して、全血由来のデータは生理的条件に非常に近い条件で得られ、このようなデータは解釈が容易である。
【0038】
図3において、種々の薬剤に対する、2人の白血病性リンパ腫の患者及び1人の健常な成人における薬剤誘導性のp21 mRNA発現及びBAX mRNA発現の結果が示さ
れる。この図では、AdrがAdriacinを表し(400nM)、FurがFludaraを表し(0.2μg/ml)、NovがNovantronを表し(10ng/ml)、VepがVepesidを表し(5μg/ml)、RanがRanda(シスプラチン)を表し(1μg/ml)、RitがRituxanを表し(200μg/ml)、FidがFildesinを表し(10ng/ml)、TerがTherarubicinを表し(50ng/ml)、ParがParaplatinを表し(5μg/ml)、EndがEndoxanを表す(1μg/ml)。静脈内投与後1〜4時間の血液レベルに基づいて、これらの濃度を決定した。黒色のバーはp<0.001を表し、淡灰色のバーはp<0.05を表す。
【0039】
健常な成人では、全ての薬剤がp21 mRNA及びBAX mRNAを誘導できなかったが、血液をTherarubicin及びParaplatinで刺激したとき、患者1では、p21 mRNA及びBAX mRNAの両方の有意な誘導が示された。Endoxanもまた、p21 mRNAを誘導した。患者2では、Adriacin及びFludaraによる有意なp21 mRNAの誘導、並びにNovantronによるBAX mRNAの誘導が示された。Vepsidは、患者2においてp21 mRNA及びBAX mRNAの両方を誘導した。全血を試験しても、両方の患者で異型リンパ球の集団が80%を超えていたので、これらの結果は悪性細胞によるものであった。図3で示された結果によって、1)この方法は全血における癌細胞に由来する遺伝子発現を同定するのに十分な感受性があること、及び2)これらの患者の癌細胞がB細胞由来のものであったとしても、薬剤反応性が広範囲にわたって変わることが示される。
【0040】
図4によって、CHOP化学療法(シクロホスファミド(Endoxan)、ドキソルビシン(Adriacin)、ビンクリスチン、及びプレドニソロン)及びその後の脾臓放射に対する反応性のない患者2のさらなる臨床経路が示され、連続血小板減少症が示された。しかし、この図で示されるように、Vepesid(VP−16、エトポシド)を投与したとき、血小板数が大幅に増加した。顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)は血小板に対する機能を有さないので、血小板減少症の改善はエトポシドの作用に起因する。エトポシドは患者2でp21 mRNA及びBAX mRNAの両方を誘導した唯一の薬剤であったので、これらの臨床結果によって、全血における薬剤誘導性のp21 mRNA発現及びBAX mRNA発現の測定が各患者に対して感受性のある薬剤の同定に有用であることが示される。
【0041】
それぞれの場合において、全血における薬剤誘導性のp21 mRNA発現及びBAX
mRNA発現を測定することによって、感受性のある薬剤を同定した。アッセイの変動が非常に小さく、開始材料が全血の三重アリコートであったので、この結果は統計的に有意であった。興味深いことに、感受性のある薬剤のリストは2人の患者間で異なっていたけれども、患者は両方ともB細胞の特性を伴う非ホジキンリンパ腫を有していた。これらの薬剤の選択は、このmRNA試験なしでは達成することはできない。したがって、この試験は血液癌に対する薬剤を選定するための有力なツールになるだろう。
【0042】
固形癌とは違い、血液癌は血液中に存在する。したがって、全血において各薬剤の許容最大濃度をp21 mRNA誘導及びBAX mRNA誘導に関して決定したが(図3、右側のパネル)、その一方で全血において単純に混合した候補薬剤によって、癌細胞に対する薬剤感受性を同定することができた(図3、左側のパネル及び中央のパネル)。さらに、潜在的な副次的効果を取り除くため、2時間だけこの薬剤をインキュベートする必要があった。p21発現及びBAX発現後にアポトーシスカスケードを下流で阻害することが可能であるが、p21発現及びBAX発現を誘導する薬剤はこれらの遺伝子のmRNAを誘導できない他の薬剤よりも有効である可能性が高い。この実施例の第2の患者が同定された薬剤に対して反応性があるという事実(図4)によって、本方法が将来の癌の化学
療法のための選定医薬に有用であることが示される。
【実施例2】
【0043】
白血病及びリンパ腫に対して選定された薬剤投与におけるp21 mRNA及びPUMA
mRNAの使用
2001年のほとんど同時期に3つの独立したグループによって、PUMA又はBcl−2結合成分3(bbc3)が発見され、それぞれ、GenBank寄託番号HSU82987、AF332558、及びAF354656が与えられた。GenBank情報によれば、これらの配列はそれぞれ、1996年12月、2000年12月、及び2001年3月に提出され、最も古いエントリーであるUniGene(Hs.467020)はこの遺伝子の表記としてbb3を使用した。多くの出版物では、bbcではなく、PUMA(アポトーシスのp53調節因子)が使用されている。これは全ての細胞型において普遍的に発現するものではなく、UniGene(Hs.467020)の発現プロファイルデータによれば、血液、頸部、結腸、眼、腎臓、喉頭、肺、乳腺、卵巣、肌、小腸、胃、及び睾丸で発現する。また、PUMAは、マウスにおける薬剤誘導性のアポトーシスの主要なメディエーターであることが報告されている。PUMAは、各実験系で広く特徴付けられたが、未だにヒト血液の白血球におけるPUMA mRNAと他のプロアポトーシスmRNAとの間に何ら関係性が示されていない。血液における初期アポトーシス信号の検出が、血液の疾病の患者それぞれに対して効果的な抗癌剤の同定のための新たな診断の開発につながることが期待されるので(図8を参照)、血液は特に重要である。さらに、固形癌に対する抗癌剤には、致命的になることもある白血球における幾つかの副作用を誘導するものもある。したがって、血液及び標的薬剤のex vivoでのインキュベーションによって、個々の薬剤毒性を予測することができる。特定の薬剤に対して反応性のある個体又は非反応性の個体の同定は、薬剤の開発の進展に有用であると思われる。
【0044】
通常、薬剤感受性の試験は、培養培地で懸濁し、CO2インキュベーターで数日間インキュベートして単離された単核白血球を使用して行われ、細胞死若しくはアポトーシス、又は同等の生物学的指標の確立を確認する。これらの条件が自然条件とは全く異なるので、この結果を解釈することは困難である。好適な薬剤の同定が患者の生活の質に必須であるものの、このことが薬剤感受性の試験が臨床診療には一般的ではないことの主な理由の1つである。本方法は、全血及び2〜4時間と短いインキュベーションを使用することによって、この問題を回避する。本方法は、ヒトの全血わずか50μlから任意のmRNAの絶対量を高感度に測定することが可能である。ハイスループットプラットホームが三重の全血サンプルの使用を可能にするので、結果は合理的な統計分析に基づき信頼できるものである。遺伝子型決定は、薬剤感受性のアッセイにおける新たな最新の傾向であるが、或る特定の遺伝子の1つ又は複数の位置での遺伝的多型又は遺伝変種に基づき結論に達することが困難であり、これは他の遺伝子の遺伝的多型又は遺伝変種が初めの異常を補うことができるか否かが知られていないからである。本方法は、ツールとして遺伝学を利用する表現型の試験を提供し、これらの問題を回避する。
【0045】
薬剤誘導性のp21及び/又はPUMA mRNAの有意な誘導がこの系によって検出されるとき、これらの肯定的な結果によって、少なくともこの薬剤がex vivoでの生理学的条件下での初期アポトーシスカスケードを開始するのに機能することが示される。この試験で肯定的な結果を示す薬剤は、否定的な結果を示すものより治療に関して良好な候補である可能性が高い。より確実に生理学的条件を再現するために、より短いインキュベーション期間を有するアッセイを使用して、各血液サンプルにおけるアポトーシスの最終的な確立を確認することができる。p21が細胞周期停止に反応性があり、PUMAはプロアポトーシスであるので、これらの遺伝子の分析は薬剤の細胞増殖抑制作用及び殺細胞作用に対応するだろう。
【0046】
以下の方法は、本発明の方法を実施する上で用いられた。
【0047】
健常な成人のボランティア及び疾病患者から血液サンプルを得た。様々なBax関連遺伝子、およびアポトーシスの間に誘導されると報告された遺伝子を文献調査によって同定して、対応するPCRプライマー及びTaqManプローブをPrimer Express(Applied Biosystem、カルフォルニア州フォスターシティ)及びHYBsimulator(RNAture、カルフォルニア州アービン)で設計した。オリゴヌクレオチドはIDT(アイオワ州コーラルビル)で合成された。GenBank寄託番号及びプライマー配列を以下の表1にまとめる。
【0048】
表1.遺伝子プライマー配列
【表1】

【0049】
8ウェルのストリップマイクロチューブに50倍希釈濃度の薬剤又は対照(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)又はDMSO)を1.4μl添加し、使用まで−20℃で保存した
。使用する化学物質は、ビンブラスチン(VLB)、ビンクリスチン(VCL)、ミトキサントロン(MIT)、アクラルビシン(ACR)、ブレオマイシン(BLM)、ダウノルビシン(DNR)、ドキソルビシン(DXR)、エトポシド(VP−16)、カルボプラチン(CBDCA)、シスプラチン(CDDP)、フルダラビン(FDB)、メトトレキサート(MTX)、5−フルオロウラシル(5−FU)、シタラビン(Ara−C)、ダカルバジン(DTIC)、シクロホスファミド(CPA)(Sigma製、ミズーリ州セントルイス)、ピラルビシン(THP)、及びペプロマイシン(PEP)(和光純薬工業株式会社製、日本国大阪)であった。ヘパリン処理された新鮮な全血数μlを各ウェルに三重で添加し、蓋をして37℃で2〜8時間インキュベートした。放射線処理のために、セシウム−137を特定の用量で使用して、血液を刺激した。各処理後、全血50μlを下記のようにフィルタープレートへ移した。
【0050】
mRNA及びcDNAを全血から調製した。簡潔に述べると、自家製の96ウェルフィルタープレートを回収プレートの上に置いて、5mMのトリス(pH7.4)150μlを加えた。4℃で1分間、120×gで遠心分離した後に、血液サンプル50μlを各ウェルに加え、直ちに4℃で2分間、120×gで遠心分離し、続いて4℃で5分間、2,000×gで一回遠心分離して各ウェルをPBS300μlで洗浄した。それから、例えば、0.5%N−ラウロイルサルコシン、4×SSC、10mMのトリスHCl(pH7.4)、1mMのEDTA、0.1%IGEPAL CA−630、及び1.791Mのチオシアン酸グアニジンを含み、1%の2−メルカプトエタノール(Bio Rad、米国カルフォルニア州ハーキュリーズ)、0.5mg/mlのプロテイナーゼK(Pierce、米国イリノイ州ロックフォード)、0.1mg/mlのサケ精子DNA(5 Prime Eppendorf/Brinkmann、米国ニューヨーク州ウェストベリー)、0.1mg/mlのE.コリのtRNA(sigma)、表1で示される特定のリバースプライマーをそれぞれ10mM含有するカクテル、及び標準的なRNA34オリゴヌクレオチドで補充された、ストック溶解緩衝液60μlをフィルタープレートに加えて、37℃で10分間インキュベートした。それから、フィルタープレートをオリゴ(dT)固定化マイクロプレート(GenePlate、RNAture)の上に置いて、4℃で5分間、2,000×gで遠心分離した。4℃で一晩保存した後に、マイクロプレートを単純な溶解緩衝液100μlで3回、続いて4℃で3回洗浄緩衝液(0.5MのNaCl、10mMのトリス(pH7.4)、1mMのEDTA)150μlで洗浄した。1×RT緩衝液、それぞれ1.25mMのdNTP、4ユニットのrRNasin、及び80ユニットのMMLV逆転写酵素(Promega)(プライマーなし)を含む緩衝液30μlを添加し、37℃で2時間インキュベートすることによって、cDNAを各ウェルで直接合成した。特定のプライマーでプライム化されたcDNAが溶液中に存在し、残留したオリゴ(dT)プライム化cDNAがマイクロプレートに固定化された。TaqManPCRでは(図1、図3、図4)、得られたcDNA溶液4μlを384ウェルPCRプレートに直接移し、これにTaqMan universal master mix(ABI)5μl、及びオリゴヌクレオチドカクテル(それぞれ15μMのファワードプライマー及びリバースプライマー、及び3〜6μMのTaqManプローブ)1μlを加えて、95℃で10分を1サイクル、続いて95℃で30秒、55℃で30秒、及び60℃で1分を45サイクルで、PRISM 7900HT(ABI)によってPCRを行った。SYBR Green PCRでは(図6を参照)、cDNAを水で3〜4倍に希釈し、cDNA溶液4μlを384ウェルPCRプレートに直接移して、これにmaster mix(BioRad、カルフォルニア州ハーキュリーズ)5μl及びオリゴヌクレオチドカクテル(それぞれ15μMのファワードプライマー及びリバースプライマー)1μlを加えて、95℃で10分を1サイクル、続いて95℃で30秒、及び60℃で1分を45サイクルで、PRISM 7900HT(ABI)によってPCRを行った。各遺伝子を別々のウェルで増幅した。Ctを解析用ソフトウェア(SDS、ABI)で測定した。1×Rt緩衝液を陰性対照として使用したが、どのプライマー対もこれらの実験条件下で非特異的なプライマー二量体を生成しなかった。図8におけるPUMAに関して、オリゴ(dT)固定化マイクロプレート上で固定化されたcDNAをiCycler(BioRad)で直接増幅した。
【0051】
市販のキット(Puregene、Gentra、ミネソタ州ミネアポリス)を使用して、処理あり又は処理なしでそれぞれ、全血300μlからゲノムDNAを精製した。それから、0.5μg/mlの臭化エチジウムで染色した3.5%アガロース(3:1のNuSieve:アガロース、FMC、メイン州ロックランド)ゲル電気泳動法でDNAを分析して、写真画像をAlphaImager(Alpha Innotech、カルフォルニア州サンリアンドロ)で記録した。
【0052】
アポトーシスを誘導するために、ヘパリン処理されたヒト全血を30Gyの電離放射線、20μMのブレオマイシン(BLM)、又は100μMのエトポシド(VP−16)でそれぞれ刺激した。15〜25Gyの放射線を臨床的に使用して、輸血間の移植片対宿主病を防ぐためにドナーの白血球を死滅させる。ブレオマイシンは、DNA切断及び染色体切断によって、ヒト白血球においてアポトーシスを誘導することが知られている。強力なトポイソメラーゼII阻害剤であるエトポシドはヒト白血球におけるDNA鎖切断及びアポトーシスを誘導する。疑似的な生理学的条件として、単核細胞を単離しないで、全血を使用した。図5の挿入図において示されるように、アポトーシスの典型的なサインであるDNAの断片化を分析した。インキュベーション1日後、ゲノムDNAを抽出し、臭化エチジウム染色を使用したアガロースゲル電気泳動法によって、DNAの断片化を分析した。レーン1は、100bpのDNAラダー(最小表示:200bp、Invitrogen、カルフォルニア州)を示す一方、レーン2〜6はそれぞれ、DMSO、PBS、100μMのVP−16、20μMのBLM、及び30Gyの放射線での1日のインキュベーションを示し、レーン7は新鮮血の結果を示す(この図の「対照」)。この図で示されるように、DNAの断片化が観察された。
【0053】
以下の方法を使用して、様々なmRNAの定量を行った。ヘパリン処理された全血のそれぞれ50μlの三重アリコートを96ウェルフィルタープレートに加えて、白血球を捕捉した。このフィルタープレートを回収プレートの上に置いて、5mMのトリス(pH7.4)150μlを加えた。4℃で1分間、120×gで遠心分離した後に、血液サンプル50μlを各ウェルに加え、直ちに4℃で2分間、120×gで遠心分離して、続いて4℃で5分間、2,000×gで一回遠心分離して各ウェルをPBS300μlで洗浄した。それから、例えば、0.5%N−ラウロイルサルコシン、4×SSC、10mMのトリスHCl(pH7.4)、1mMのEDTA、0.1%IGEPAL CA−630、及び1.791Mのチオシアン酸グアニジンを含み、1%の2−メルカプトエタノール(Bio Rad、米国カルフォルニア州ハーキュリーズ)、0.5mg/mlのプロテイナーゼK(Pierce、米国イリノイ州ロックフォード)、0.1mg/mlのサケ精子DNA(5 Prime Epperndorf/Brinkmann、米国ニューヨーク州ウェストベリー)、0.1mg/mlのE.コリのtRNA(Sigma)、表1で示される特定のリバースプライマーをそれぞれ10mM含有するカクテル、及び標準的なRNA34オリゴヌクレオチドで補充されたストック溶解緩衝液60μlをフィルタープレートに加えて、37℃で10分間インキュベートした。それから、フィルタープレートをオリゴ(dT)固定化マイクロプレート(GenePlate、RNAture)の上に置いて、4℃で5分間、2,000×gで遠心分離した。4℃で一晩保存した後に、マイクロプレートを単純な溶解緩衝液100μlで3回、続いて4℃で洗浄緩衝液(0.5MのNaCl、10mMのトリス(pH7.4)、1mMのEDTA)150μlで3回洗浄した。1×RT緩衝液、それぞれ1.25mMのdNTP、4ユニットのrRNasin、及び80ユニットのMMLV逆転写酵素(Promega)(プライマーなし)を含む緩衝液30μlを添加し、37℃で2時間インキュベートすることによって、cDNAを各ウェルで直接合成した。特定のプライマーでプライム化されたcDNAが溶液中に存在し、残留したオリゴ(dT)プライム化cDNAがマイクロプレートに固定化された。TaqManPCRでは(図1、図3、図4)、得られたcDNA溶液4μlを384ウェルPCRプレートに直接移し、これにTaqMan universal master mix(ABI)5μl、及びオリゴヌクレオチドカクテル(それぞれ15μMのファワードプライマー及びリバースプライマー、及び3〜6μMのTaqManプローブ)1μlを加えて、95℃で10分を1サイクル、続いて95℃で30秒、55℃で30秒、及び60℃で1分を45サイクルで、PRISM 7900HT(ABI)によってPCRを行った。SYBR Green PCRでは(図2を参照)、cDNAを水で3〜4倍に希釈し、cDNA溶液4μlを384ウェルPCRプレートに直接移して、これにmaster mix(BioRad、カルフォルニア州ハーキュリーズ)5μl及びオリゴヌクレオチドカクテル(それぞれ15μMのファワードプライマー及びリバースプライマー)1μlを加えて、95℃で10分を1サイクル、続いて95℃で30秒、及び60℃で1分を45サイクルで、PRISM 7900HT(ABI)によってPCRを行った。各遺伝子を別々のウェルで増幅した。一定量のPCR産物を生成したPCRサイクルをCtとして、刺激したサンプルのCt値から非刺激サンプル(PBS又はDMSOビヒクル)のCt値を差し引いて、デルタCt(ΔCt)として結果を示した。Ctは対数目盛りであるので、1ΔCtは、一般的に2倍又は1/2量を意味し、負のΔCtは発現の増大を意味する。分析用ソフトウェア(SDS、ABI)でCtを決定した。また、このアッセイを確認するために、スパイクRNAを定量した。1×Rt緩衝液を陰性対照として使用したが、どのプライマー対もこれらの実験条件下で非特異的なプライマー二量体を生成しなかった。図8におけるPUMAに関して、オリゴ(dT)固定化マイクロプレート上で固定化されたcDNAをiCycler(BioRad)で直接増幅した。
【0054】
結果を図5に示す。この図では、30Gyの放射線(●)、20μMのBLM(▲)、100μMのVP−16(◆)、又は対応する対照○(放射線なし)、△(PBS)、◇(DMSO)での刺激後にヘパリン処理された全血を37℃で0〜8時間インキュベートした。対照RNA34(A)、p21(B)、及びPUMA(C)のRNAレベルを上記のように定量して、デルタCt(ΔCt、Y軸)を算出した。各データ点は、全血の三重アリコートから得られる平均±標準偏差であった。図5Aで示されるように、スパイクRNA(RNA34)から得られるΔCtは全て、様々な刺激と対照との間が±1の範囲内であった。このことにより、このアッセイは再現性があり、信頼できるものであったことが確認された。p21はDNA損傷の間、転写因子p53の活性化によって誘導されることが知られているので、実験条件を確認するのに使用した。何の刺激もなくとも、p21
mRNAは増加したが、p21のレベルは全て、これらの3つの刺激後に有意に増大した(図5B)。VP−16が約2〜4時間をピークに一時的な誘導を示したのに対し、血液を放射線又はBLMで刺激したとき、p21のレベルは8時間連続して増大した(図5B)。目的が初期遺伝子マーカーを同定することであったので、インキュベーションを37℃、4時間で固定した。それから、SYBR greenリアルタイムPCRによって様々なプロアポトーシスmRNAをスクリーニングするのに、cDNAを使用した。この様々なプロアポトーシスmRNAのスクリーニングの結果を図6に示す。この図では、30Gyの放射線(A)、20μMのBLM(B)、若しくは100μMのVP−16(C)で、又はそれらなしで、37℃で4時間、ヘパリン処理された全血を刺激し、それから様々なmRNAを定量した。各バーは、それぞれの人の全血の三重アリコートから得られたΔCtの平均±標準偏差であった(放射線に関して5(Bcl−2及びBcl−wに関して3)、BLM及びVP−16に関して3)。図6で示されるように、全ての試験した個体(放射線に関して5(Bcl−2及びBcl−wに関して3)、BLM及びVP−16に関して、それぞれ3)が、2より大きいΔCtで、有意なp21の誘導を示した。また、Baxも誘導されたが、ΔCtはp21のものより小さかった(図6)。さらに、本明細書で記載されている方法でBAXを用いることはできるが、1個体又は2個体で誘導されなかったので、Baxは完全に信頼できるマーカーではなかった。PUMAは、p21のmRNAと同様の結果を伴う最も優性なmRNAであり、全ての個体で反応が確認された(図6)。NOXAもまた全ての個体で誘導されたが、誘導の程度はPUMAのものより小さかった(図6)。その結果、アポトーシスそれによる薬剤効果を表すのに測定されるマーカーの中で、本方法では、PUMA、NOXA、及びBAX全てを用いることができ、最も好ましいmRNAはPUMAである。これらのmRNAを用いたが、本発明はまた、上記のようなBcl−2/Baxファミリー及びBH3−only Bcl−2ファミリーの他のメンバーの使用も意図している。さらにまた、医薬に対する癌細胞の感受性を表す他のmRNAの使用も意図している。例えば、ATP結合カセット(ABS)サブファミリーA〜GのmRNAを使用することができる。これらの遺伝子が膜を通過する生体分子のトラフィッキング及び生態異物に対する宿主防御メカニズムに関与する膜トランスポータータンパク質をコードする。具体的には、この遺伝子としては、ABCA1、ABCA2変異型1、ABCA2変異型2、ABCA3、ABCA4、ABCA5変異型1、ABCA5変異型2、ABCA6変異型1、ABCA6変異型2、ABCA7変異型1、ABCA7変異型2、ABCA8、ABCA9変異型1、ABCA9変異型2、ABCA10、ABCA12変異型1、ABCA12変異型2、ABCA13、ABCB1、TAP1、TAP2変異型1、TAP2変異型2、ABCB4変異型A、ABCB4変異型B、ABCB4変異型C、ABCB5、ABCB6、ABCB7、ABCB8、ABCB9変異型1、ABCB9変異型2、ABCB9変異型3、ABCB9変異型4、ABCB10、ABCB11、ABCC1変異型1、ABCC1変異型2、ABCC1変異型3、ABCC1変異型4、ABCC1変異型5、ABCC1変異型6、ABCC1変異型7、ABCC2、ABCC3変異型MRP3、ABCC3変異型MRP3A、ABCC3変異型MRP3B、ABCC4、ABCC5変異型1、ABCC5変異型2、ABCC6、ABCC8、ABCC9変異型SUR2A、ABCC9変異型SUR2B、ABCC9変異型SUR2A−デルタ−14、ABCC10、ABCC11変異型1、ABCC11変異型2、ABCC11変異型3、ABCC12変異型A、ABCC12変異型B、ABCC12変異型C、ABCC12変異型D、ABCC12変異型E、ABCC13変異型1、ABCC13変異型2、ABCC13変異型3、ABCC13変異型4、ABCD1、ABCD2、ABCD3、ABCD4変異型1、ABCD4変異型2、ABCD4変異型3、ABCD4変異型4、ABCD4変異型5、ABCF1変異型1、ABCF1変異型2、ABCF2変異型1、ABCF2変異型2、ABCF3、ABCE1、ABCG1変異型1、ABCG1変異型2、ABCG1変異型3、ABCG1変異型4、ABCG1変異型5、ABCG1変異型6、ABCG1変異型7、ABCG2、ABCG4、ABCG5、及びABCG8が挙げられる。これらの中で、特に好ましいmRNAは、ビンブラスチンを基質とするABCC2遺伝子産物、及び癌多剤耐性に関与する候補タンパク質として同定されているABCG2遺伝子産物に関するmRNAである。
【0055】
図6の結果を確認するために、図5で示されるのと同様の条件下でTaqManリアルタイムPCRによって、PUMAをさらに特徴付けた。p21とは違い、37℃で8時間のインキュベーションの間、ベースラインのPUMA発現は変化しなかった(図5C)。刺激時に、p21と同様の動態を伴い、同程度でPUMAが迅速に誘導された(図5C)。また、図7では、RNA34、p21、及びPUMAに関して用量依存性を分析した。対照のRNA34のΔCtは変化しなかった(図7)。図7では、0〜30Gyの放射線(A)、0〜20μMのBLM(B)、又は0〜100μMのVP−16(C)で刺激後、ヘパリン処理された全血を37℃で4時間インキュベートして、それから対照RNA34(○)、p21(▲)、及びPUMA(●)を定量した。各データ点は、全血の三重アリコートから得られる平均±標準偏差であった。0.1(PUMA)〜1(p21)Gyの放射線、0.1μMのBLM、及び100μMのVP−16それぞれで、p21およびPUMAの有意な誘導が観察された(図7)。
【0056】
循環白血球の大部分が白血病性である場合、白血病及びリンパ腫に関する薬剤感受性試
験に薬剤誘導性の初期アポトーシス信号の検出を適用することができる。p21及びPUMAが異常な白血球並びに健常な個体の正常な白血球における良好なアポトーシスマーカーであるか否かを判定するために(図5〜図7)、臨床研究を行った。図8は、3つの臨床例:慢性リンパ性白血病(A:CLL)、急性骨髄性白血病(B:AML)、及び白血病性非ホジキンリンパ腫(C:NHL)を示す。70%を超える末梢血白血球が異型であった。ヘパリン処理された全血を様々な薬剤で37℃で2時間インキュベートして、RNA34、p21、Bax、及びPUMAを定量した。具体的には、CLL(A)、AML(B)、及びNHL(C)の患者由来のヘパリン処理された全血を様々な抗癌剤で37℃で2時間インキュベートした。それから、RNA34(白棒グラフ)、p21(黒棒グラフ)、及びPUMA(縦線棒グラフ)mRNAを上記のように定量した。各バーは、全血の三重アリコートから得られたΔCtの平均±標準偏差であった。使用された薬剤は、ビンブラスチン(VLB、最終濃度1μM)、ビンクリスチン(VCL、0.5μM)、ピラルビシン(THP、0.5μM)、ミトキサントロン(MIT、0.1μM)、ペプロマイシン(PEP、0.5μM)、アクラルビシン(ACR、0.1μM)、ブレオマイシン(BLM、0.5μM)、ダウノルビシン(DNR、2.5μM)、ドキソルビシン(DXR、1μM)、エトポシド(VP−16、10μM)、カルボプラチン(CBDCA、10μM)、シスプラチン(CDDP、10μM)、フルダラビン(FDB、1μM)、メトトレキサート(MTX、10μM)、5−フルオロウラシル(5−FU、10μM)、シタラビン(Ara−C、10μM)、ダカルバジン(DTIC、10μM)、及びシクロホスファミド(CPA、1μM)であった。臨床診療において、これらの薬剤を静脈内投与するので、用いられる全血実験は、実際の臨床状態のシミュレーションになる。RNA34(図8A〜図C)及びBAX(データ図示せず)の結果は全て、1ΔCtより小さかった。図8Aで示されるように、PUMAがMIT及びDNRによって誘導されたのに対して、p21はこのCLL患者においてこれらの任意の薬剤によっては誘導されなかった。図8Bでは、PUMAの広い誘導がTHP、MIT、PEP、VP−16、CDDP、FDB、及びMTXで確認されたのに対して、有意なp21誘導はVLBでのみ見られた。図8CのNHL患者は、THP、MIT、VP−16、及びMTXに対する強いPUMA反応を示したのに対し、p21反応は全て、2ΔCt未満であった。これらの結果より、PUMAが、正常な白血球とは違い、異常な白血球において機能的に反応性があり、一部の患者ではp21より強い感受性があることが示唆された。
【0057】
本実施例は、用いられる治療プロトコルにおける薬剤選択を選定するために、例えば、癌等を患う患者由来の血液を検査することを意図している。意図される方法において、血液を患者から採取し、意図する用量で治療プロトコルを考慮して特定の抗癌剤に暴露する。好適な抗癌剤には、癌の治療で処方される全ての薬剤が含まれ、意図される具体的な薬剤としては、エトポシド、ブレオマイシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ピラルビシン、ミトキサントロン、ペプロマイシン、アクラルビシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、カルボプラチン、シスプラチン、フルダラビン、メトトレキサート、5−フルオロウラシル、シタラビン、ダカルバジン、シクロホスファミド、及び参照により本明細書に援用される、Katzung, Basic & Clinical Pharmacology (第8版、2001年)、923〜958頁で説明される薬剤が挙げられるが、これらに限定されない。それから、p21及びPUMA(又は、代替的にNOXA)のmRNAレベルを測定する。7時間以内の暴露後の測定が好ましい。4時間以内の暴露後の測定がより好ましい。2時間以内の暴露後の測定がさらにより好ましい。他の期間の暴露後の測定もまた意図されている。好適な測定方法としては、例えば、TaqManシステム又はSYBR Greenシステムを使用したリアルタイムPCR、又は当業者に既知のmRNAレベルの測定に関する他の任意のシステムが挙げられる。それから測定レベルを薬剤暴露前の血液におけるレベルと、又は好ましくは同じ時間、対照ビヒクルに患者の血液を暴露した対照サンプルと比較する。これらの対照ビヒクルには、DMSO及びPBS等の本方法での使用される薬剤が溶解されている溶剤が含まれる。治療プロトコルに対する個々の患者の血液の反応に応じて、用量を増減させることにより、又は使用する薬剤を変えることにより、用いられる実際のプロトコルを選定することができる。血液の癌の場合、この方法が癌性である循環血液細胞における治療レジメンの有効性に関する直接的なデータを提供するので、治癒率が最大限になるようにこの結果は利用される。固形癌の場合、毒性を最小限にする一方、腫瘍における治療効果を最大限にするように、特定のプロトコルに伴って起こる血液白血球の抑制等の副作用の危険性を判断するのに、この結果は使用される。
【実施例3】
【0058】
白血球抑制の評価
健常なボランティア、又は白血病及びリンパ腫の患者から血液サンプルを得た。ヘパリン処理された全血それぞれ50μLの三重アリコートを特定期間、様々な濃度の抗癌剤(BLM、VP−16、及びタキソール)とインキュベートし、それからmRNAを精製して、cDNAを合成し、上記のようにTaqManリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってp21、PUMA、及びBAXのレベルを定量した。簡潔に述べると、それぞれの血液サンプルを96ウェルフィルタープレートに加えて白血球を捕捉した。人工RNA(RNA34)及び特定のプライマーのカクテルを含む溶解緩衝液をフィルタープレートに加えて、ハイブリダイゼーションのために、細胞溶解物をオリゴ(dT)固定化マイクロプレート(GenePlate、RNAture、カルフォルニア州アービン)に移した。それから、さらにプライマーを加えることなく、オリゴ(dT)固定化マイクロプレートでDNAを合成し、384ウェルプレート(Applied Biosystems、カルフォルニア州フォスターシティ)でのTaqManリアルタイムPCRのために使用した。各アッセイ条件を確認するために、スパイクRNAも定量した。プライマー及びプローブの配列をPrimer Express(Applied Biosystems)及びHYBsimulator(RNAture)で設計した。使用した配列を以下の表2に示す。
【0059】
表2.プライマーとプローブの配列
【表2】

*:5’−FAM、3’−TAMRA
【0060】
オリゴヌクレオチドは、IDT(アイオワ州コーラルビル)で合成された。一定量のPCR産物が生成したPCRサイクルをCtとし、また、刺激したサンプルのCt値から非刺激サンプル(DMSO又はPBS等の対照ビヒクルのみに暴露した)のCt値を差し引いて、デルタCt(ΔCt)を算出した。Ctは、対数目盛りであるので、1ΔCtは、一般的に2倍又は1/2の量を意味し、負のΔCtは発現の増大を意味する。正確な統計分析のために(ステューデントt検定)、全血の三重アリコートを開始材料として使用した。p21は細胞周期停止に反応性があり、PUMAがプロアポトーシスBH3ドメインonly遺伝子ファミリーに属するので、これらの遺伝子の分析は、各薬剤の細胞増殖抑制作用及び殺細胞作用に対応している。BAX及びBH3ドメインonly遺伝子ファミリー内の多くのプロアポトーシス遺伝子の中で、PUMAを上記の実施例2に開示されている結果に従って測定した。また、幾つかの場合にBAXを測定した。
【0061】
市販のキット(Puregene、Gentra、ミネソタ州ミネアポリス)を使用して、処理あり又は処理なしでそれぞれ全血300μlからゲノムDNAを精製した。0.5μg/mlの臭化エチジウムで染色した3.5%アガロース(3:1のNuSieve:アガロース、FMC、メイン州ロックランド)ゲル電気泳動法でDNAを分析して、写真画像をAlphaImager(Alpha Innotech、カルフォルニア州サンリアンドロ)で記録した。
【0062】
VP−16又はBLMで1日全血を刺激したとき、アポトーシスの典型的なサインであるDNAの断片化を確認した(図5A、挿入図)。図5Aで示されるように、スパイクRNAから得られたΔCtは全て、様々な刺激と対照との間が+1の範囲内であった。全血の三重アリコート内の変動もまた、1ΔCt未満であった(図5A〜図5C、誤差バー)。これらのデータによって、このアッセイは再現性があり、信頼できるものであったことが確認された。何の刺激もなくとも、p21 mRNAは増加した。しかし、VP−16又はBLMでの刺激時には、p21のレベルは全て有意に増大した(図5B)。VP−16が約2〜4時間をピークに一時的な誘導を示したのに対し、血液をBLMで刺激したときは、p21レベル及びPUMAレベルが8時間連続して増大した(図5B)。上記で示されるp21発現及びPUMA発現におけるVP−16及びBLMの用量反応曲線に従って、10〜100μMのVP−16及び0.2〜20μMのBLMをその後の研究に使用した。
【0063】
図9A及び図9Cでは、ビヒクル(DMSO)処理の血液サンプルのp21(A)又はPUMA(C)のCt値(x軸)をVP−16で刺激した血液サンプルのCt値(Y軸)と比較した。この図では、ヘパリン処理された全血それぞれ50μLの三重アリコートを37℃で2時間、10μMのVP−16(○)又は100μMのVP−16(●)とインキュベートした。それから、上記のようにp21 mRNA(A、B)及びPUMA mRNA(C、D)のレベルを測定した。A及びCでは、非刺激サンプルのCt値(X軸)と刺激したサンプルのCt値(Y軸)とを比較した。点線は、非刺激サンプル及び刺激したサンプルが両方とも同じ値を示す線を表す。実線は各用量における回帰直線である。B及びDでは、刺激したサンプルのCt値から非刺激サンプルのCt値を差し引いて、デルタCt(ΔCt)を算出した。この図では、○は非反応性のサンプル(non-responders)を表し、●は中程度の反応性のサンプル(responders)を表し(Bではn=9、Dではn=6)、▲は高い反応性のサンプルを表す。各データは各個体の全血の三重アリコートから得られる平均±標準偏差を表す。矢印1は10μMのVP−16でp21の誘導を示した個体を表し、矢印2は100μMのVP−16でp21誘導を示さなかった別の個体を表す。
【0064】
図9Aで示されるように、多くの場合、低用量(10μM)のVP−16はp21を誘導できなかった。しかし、1個体で、有意なp21誘導を示した(図9A、矢印1)。この回帰直線は、y=1.0529x−1.7719(r2=0.883)であった。VP−16用量を100μMまで増加させたとき、大部分の個体はp21発現の増大を示した。しかし、1個体では全く誘導を示さなかった(図9A:矢印2、図9B:○)。この回帰直線は、y=0.7936x+4.427(r2=0.7905)であった。また、VP−16はy=0.7529x+4.9108(r2=0.625)の回帰直線で100μM(図9C)でPUMAを誘導した。興味深いことに、これらのデータを一度、図9B及び図9Dで示されるようにΔCtに変換すると、非反応性のサンプル(○:n=1)、中程度の反応性のサンプル(●:p21ではn=9、PUMAではn=6)及び高い反応性のサンプル(▲:p21ではn=2、PUMAではn=3)が同定された。
【0065】
VP−16に対して、BLMは、全ての場合において、0.2μMと小さい濃度でp21及びPUMA両方を誘導した(図10A、図10C)。この図では、ヘパリン処理された全血50μLそれぞれの三重アリコートを37℃で2時間、0.2μMのBLM(△)、2μMのBLM(◇)、又は20μMのBLM(●)とインキュベートした。それから、p21 mRNA(A、B)及びPUMA mRNA(C、D)のレベルを上記のように決定した。A及びCでは、非刺激サンプルのCt値(X軸)と刺激したサンプルのCt値(Y軸)とを比較した。点線及び実線は、図9と同じである。B及びDでは、刺激したサンプルのCt値から非刺激サンプルのCt値を差し引いて、ΔCtを算出した。この図では、○は非反応性のサンプルを表し、●は中程度の反応性のサンプルを表し(Bではn=22、Dではn=20)、▲は高い反応性のサンプルを表す。各データは、各個体の全血の三重アリコートから得られる平均を表す。
【0066】
0.2μMのBLM、2μMのBLM、及び20μMのBLMにおけるp21の回帰直線は、それぞれ、y=0.8487x+3.8275(r2=0.8367)、y=0.8082x+4.513(r2=0.8444)、及びy=0.8146x+3.7147(r2=0.7552)であった。PUMAの反応性は、p21のものと同程度であり、0.2μMのBLM、2μMのBLM、及び20μMのBLMにおけるPUMAの回帰直線は、それぞれ、y=0.8387x+3.7409(r2=0.8654)、y=0.793x+4.4688(r2=0.7254)、及びy=0.8764x+1.6353(r2=0.7546)であった(図10C)。これらのデータをΔCtに変換したとき、非反応性のサンプル又は低反応性のサンプル(○:n=1)、中程度の反応性のサンプル(●:p21ではn=22及びPUMAではn=20)及び高い反応性のサンプル(▲:n=3)が同定された(図10B及び図10D)。
【0067】
図11は、VP−16刺激及びBLM刺激両方に関して、p21及びPUMAを分析した場合をまとめている。この図では、図9〜図10のデータを再びプロットして、p21(●)及びPUMA(△)の反応性(A)とVP−16(△)及びBLM(●)の反応性(B)とを比較した。点線は、図9及び図10と同じである。各データは、各個体の全血の三重アリコートから得られる平均±標準偏差を表す。また、図11Aでは、p21で同定された高い反応性のサンプル及び低い反応性のサンプルをPUMAでも同程度の反応性のサンプルとして同定した。また同様に、図11Bで示されるように、VP−16に対して高い反応性のサンプル及び低い反応性のサンプルをBLMに対して高い反応性のサンプル及び低い反応性のサンプルとして同定した。薬剤反応性の1日ごとの変動を分析するために、1〜3日で同じ個体由来の液体サンプルを採取して、実験を2回繰り返した。結果を図12に示す。記号は各個体から得られる平均±標準偏差である。この図では、それぞれ、●は2μMのBLM誘導性p21を表し、○は2μMのBLM誘導性PUMAを表し、◆は20μMのBLM誘導性p21を表し、◇は20μMのBLM誘導性PUMAを表し、▲は100μMのVP−16誘導性p21を表し、△は100μMのVP−16誘導性PUMAを表し、Xは対照の非刺激RNA34を表す。実線は、2つのデータが同じである線である。点線は、±0.5ΔCtである。図12に示されるように、p21及びPUMAのVP−16誘導性の誘導及びBLM誘導性の誘導は2つのサンプル間で同等であり、変動は、+0.5ΔCtの範囲内であった。
【0068】
同様の方法論を異なる種類の抗癌剤であるタキソールに適用した。タキソールは、微小管に対して毒であり、タキソールのアポトーシス誘導がプロアポトーシスBAK及びBAXの発現を増大することを示している。しかし、血液細胞におけるタキソールの効果は非常に弱く、IC50は10mMより大きい。本研究では、タキソールはまた100μMもの高い濃度であっても、全ての個体でp21 mRNA及びPUMA mRNA両方を誘導することができなかった(図13)。この図では、ヘパリン処理された全血50μLそれぞれの三重アリコートを37℃で2時間、10μMのタキソール又は100μMのタキソールでインキュベートした。それから、p21及びPUMAを決定して、上記のようにΔCtを算出した。各データは、各個体の全血の三重アリコートから得られる平均を表す。
100μMより大きいと血液レベルを超えるので、タキソールを100μMより大きい濃度では使用しなかった。
【0069】
図14はBAXの発現とp21及びPUMAの発現との比較を示す。この図では、100μMのVP−16(A)又は20μMのBLM(B)で、又は処理なしで、ヘパリン処理された全血50μLそれぞれの三重アリコートを37℃で2時間インキュベートした。それから、BAX mRNA、p21 mRNA、及びPUMA mRNAを定量して、ΔCtを上記のように算出した。各データ点は、三重の測定から得られる平均であった。VP−16及びBLMに対するBAXの反応性は、p21及びPUMAの反応性より有意に小さかった(p<0.01)。図15では、80%を超える白血球が白血病性細胞であった白血病及びリンパ腫患者のBLM誘導性のp21反応性と、健常なドナーにおけるBLM誘導性のp21反応性とを比較した。この図では、1μMのBLMで又は処理なしで、ヘパリン処理された全血50μLそれぞれの三重アリコートを37℃で2時間インキュベートした。それから、上記のようにp21 mRNAを定量した。80%を超える白血球が癌細胞であった13人の白血病及びリンパ腫患者のCt値と27人の健常なドナーの血液サンプル由来のΔCt値とを比較した。各データ点は、三重の測定から得られる平均であった。興味深いことに、白血球及びリンパ腫集団におけるBLM反応性が健常な対照のBLM反応性より有意に小さく(p=0.000002)、このことはこれらの癌細胞がBLMに耐性があることを示唆していた。このことは、BLMがこれらの疾病に対する薬剤の適切な選択ではないという事実を確認した。
【0070】
本発明のex vivoでの遺伝子発現分析は、70μLと少ない全血(実際の量50μL+20μLのリザーブ)由来のアポトーシス関連のmRNAの薬剤誘導性の遺伝子発現を検出するのに十分感受性があり、これは1つの血管(6mL)から三重で、28個のデータセットの分析を可能にする(6,000/70/3=28.6)。これは、3通りの用量(0.2〜100μM)の3つの薬剤(VP−16、BLM、及びタキソール)に加えて非刺激の対照(VP−16ではDMSO、BLM及びタキソールではPBS)を分析するのに必要なデータセットが11個のみであるのに対して、十分すぎる数である。血清の実験とは違い、血液6mLから採取した血清量が個体の間で異なる場合、全血実験は一定の血液量からの詳細な分析の設計を可能にする。従来のアッセイは単離された単核細胞を使用して、これらを人工培養培地で懸濁する。これらのアッセイは、細胞自体の分析のための優れた研究モデルであるが、概してヒトの生理的条件を理解するには避けることのできない、細胞間相互作用及び細胞と血漿との相互作用を無視している。ACD及びEDTAが多くの生物活性に関する必須成分であるカルシウムをキレート化するので、ヘパリンは好ましい抗凝固剤である。
【0071】
mRNA転写はタンパク質合成の上流事象であり、刺激後数時間以内に起こるので、より長期間のインキュベーションが要求されるタンパク質分析又は生物活性の測定よりも、mRNA分析はより生理学的条件に近い条件でできる。インキュベーションが長時間であればあるほど、より多くの副次的影響が発生する可能性がある。個体ごとの変動を考えるとき、このことは特に重要である。また、mRNA分析は、このアッセイをタンパク質分析又は細胞に基づく機能的アッセイより感受性にする遺伝子増幅技術を使用する利点を有し、少なくとも20個の遺伝子の分析には全血50μLで十分である。
【0072】
遺伝子発現の誘導又は抑制を分析するとき、遺伝子増幅技術は試験管における標的遺伝子の単一コピーを検出することができるが、アッセイの感受性は各データセットの変動に依存する。例えば、それぞれの場合で、2つのデータセットの変動係数(CV)が10%である場合、統計的有意性を伴い、遺伝子発現の約20%の変化を検出することができる。CVが30%になると、70%を超える変化が統計的有意性に必要になる。ex vivoでの全血のアッセイはCVを増加させる多くの因子を伴う。例えば、粘性の全血のピペッティング、RNA単離ステップ、cDNA合成反応及びPCR全てが変動を引き起こす。PCRが標的遺伝子を指数関数的に増幅させるので、任意のステップにおける小さな変動も、最終的には容認できないぐらい広くなる。さらに、ΔCtの変動が2つのアッセイの多重合計であるので、その変動はより大きくなる。全血の三重アリコートを開始材料として使用し、ΔCtを算出するときでさえ、本方法は極めて小さい変動を示している。結果として、これは、p21、PUMA、及びBAXの薬剤誘導性の発現誘導の極めて小さい変化を同定することが可能である。
【0073】
或る特定の薬剤(例えば、VP−16及びBLM等)(図13及び図14)が、ex vivoでの生理学的条件下でp21及びPUMAを誘導する場合、このような薬剤が各個体において、陰性対照の薬剤(例えば、タキソール等)(図13)よりも白血球の問題を引き起こす可能性があることが予想されている。とりわけ、1個体では、VP−16濃度が100μMと高かったときでさえ、p21及びPUMAが誘導されなかった(図9)。この薬剤を用いた場合、このような個体では白血球抑制のリスクが低くなるだろう。また、癌細胞はBLMに対してあまり反応性がない(図15)。これらの非反応性のサンプル又は高い反応性のサンプルの同定がヒトにおける薬剤反応性及び薬剤耐性の分析を可能にし、これは動物細胞又は培養細胞を使用した実験に代えることはできない。
【実施例4】
【0074】
癌治療の臨床結果
本発明の薬剤投与を選定する方法が臨床的に有用な結果をもたらしたことを示すために、白血病及びリンパ腫の様々な病態を患う9人の患者の研究において上記の方法を用いた。患者集団を以下の表3に示す。この表では、「FL」は濾胞性リンパ腫を表し、「MCL」はマントル細胞リンパ腫を表し、「AML」は急性骨髄性白血病を表し(M2はこの段階を表す)、「T−」はT細胞系を表し、「ALL」は急性リンパ芽球性白血病を表す。
【0075】
表3.臨床患者の性質
【表3】

【0076】
患者の全血を以下の表4で挙げられた薬剤に暴露して、4時間の暴露後、上記のように患者の白血球におけるp21、BAX、及び幾つかの場合、PUMAのレベルを測定した
。対照の血液サンプルを対照のビヒクル溶媒(表4で示される、DMSO又はPBS)のみに暴露して、上記のように測定したmRNA値からCt及びΔCtを得た。
【0077】
表4.使用した抗癌剤
【表4】

【0078】
結果を図16、図17、および下記表5で示す。この図から見ることができるように、p21 mRNA又はPUMA mRNAの増加を示す薬剤は患者ごとに大幅に異なる。比較的小さい患者集団では、BAXは概して誘導されなかったが、それでも本方法は、抗癌剤活性に関する可能性のあるマーカーとして、BAX及びBcl−2/BAXファミリーの他のメンバーの測定を検討している。この図で示されるように、選択された患者における様々な薬剤による刺激の結果として、p21及びPUMAの両方がmRNAレベルの増大を示した。
【0079】
表5.臨床結果
【表5】

【0080】
表5は、個々の有効性が本発明の方法により得られた結果によって示唆された薬剤(「感受性薬剤」)、又は他の薬剤のいずれかを使用した追加の治療の結果を示す。この表では、CHOPがCPA、Adriacin(ADR:ドキソルビシン)、VCR、及びプレドニソロン(PSL)での治療を表し、R−がリツキシマブを表し、COPがCPA、VCR、及びPSLでの治療を表し、VPがVDS及びPSLでの治療を表し、RIがAraC、DNR、MIT、及びVP−16での治療を表し、CAGが低用量のAraC、ACR、及びG−CSFでの治療を表し、CAが低用量のAraC及びACRでの治療を表し、VAが低用量のAraC及び低用量のVP−16での治療を表す。VDSはビンデシンを表す。「評価」欄では、Aは完全寛解を表し、Bは血液学試験結果の改善を表し、Cは何ら改善されていないことを表す。
【0081】
幾人かの患者を一回よりも多く処理した。この表で示されるように、感受性薬剤での7種類の処理全てが、マーカーmRNAの増加及び良好な臨床結果をもたらした(この図で「+/+」で示される)。これらの中で、3つが完全寛解であった(「臨床結果」欄下の「A」)。感受性薬剤の治療の恩恵を受けた2人の患者は、非感受性薬剤での標準的な薬剤治療に対して反応しなかった。非感受性の薬剤での6種類の処理の中で、1つだけが好都合な臨床結果をもたらした。残りは何の改善も示さなかった。
【0082】
したがって本発明の方法は各患者に選定された薬剤プロトコルを提示し、これに従うと、支障なく処理された場合に完全寛解を半分含む、臨床結果の改善が得られた。このことは、本発明の方法がこれらの白血球内のマーカーmRNAのレベルの変化に表されるように、患者の病変した白血球の薬剤感受性に基づいて、個々の患者の癌症例における治療プロトコルを選定するのに有用であろう。
【0083】
また、この結果によって、肯定的なmRNAの結果と良好な臨床結果との間の密接な相関関係が示される:一つを除いて全ての結果が、+/+又は−/−であった。この相関関係は、固形癌を化学療法で治療する場合に、この方法が治療プロトコルを選定し、白血球の抑制を回避するのにも有用でもあろうことを示唆する。白血球が、この全血アッセイ中に薬剤に応じてマーカーmRNAの有意な増加を示す場合には、白血球の抑制はこの薬剤による治療中の患者の白血球の増殖停止又はアポトーシスに起因するものであると考えら
れる。
【実施例5】
【0084】
免疫抑制のための薬剤投与の選定
健常な成人、乾癬患者(4)、再生不良性貧血患者(1)、ネフローゼ症候群患者(1)、及び骨髄移植した患者(2)から血液を得た。白血球数測定のために、採血時に、1つのEDTAチューブを臨床検査室に送り、1つのヘパリンチューブを氷上に保存した。37℃で様々な期間、CsAの存在下、及び非存在下で、血液アリコートをフィトへムアグルチニン−P(PHA−P)で刺激した。血液サンプル50μLをフィルタープレートの3つの異なるウェル(最初から三重)に加えて、800×gで2分間の遠心分離によりこの膜上の白血球を計測した。遠心分離によってリン酸緩衝生理食塩水(PBS)300μLで各ウェルを一回洗浄した後、上記の溶解緩衝液を各ウェルに加え、37℃で10分間インキュベートして、捕捉した白血球からmRNAを取り出した。それから、2,000×gで5分間、遠心分離することによって、オリゴ(dT)固定化マイクロプレート(GenePlate、RNAture、カルフォルニア州アービン)に溶解物を移して、ハイブリダイゼーションのために4℃で一晩インキュベートした。溶解緩衝液100μLで3回、続いて洗浄緩衝液150μL(10mMのトリス(pH7.4)、1mMのEDTA(pH8.0)、及び0.5MのNaCl)で3回、各ウェルを洗浄した後、緩衝液、ヌクレオチド、特定のプライマーを有するカクテル、RNasin、及びMMLV逆転写酵素(Promega、ウィスコンシン州マディソン)を添加することにより、各ウェルで、37℃で2時間インキュベートし、cDNAを合成した。得られたcDNA(4μL)をサーマルサイクラー(ABI、PRISM 7900)を使用した384ウェルマイクロプレートでの最終量10μLにおけるTaqManリアルタイムPCRに使用した。
【0085】
図18は、健常な成人におけるPHA−PによるIL−2 mRNAの用量依存的な誘導の結果を示す。図18で示されるように、IL−2 mRNAは、5μg/mLのPHA−Pから増加して、40μg/mLのPHA−Pを超えて定常期に達した(図19)。図19では、◆が40μg/mLを表す一方で、▲は10μg/mLのCsA濃度を表し、●は100μg/mLの濃度を表している。個々の変動を最小限にするために、続く分析では100μg/mLのPHA−Pを用いた。長期間にわたるリンパ球芽球化現象の誘導のためにPHA−Pを使用した。PHA−Pの作用が10〜20μg/mLで最大限になり、より高い用量ではその活性が減少した。IL−2 mRNAのデータは異なり、100μg/mLのPHA−Pを使用したときでさえ、その活性は高く維持されていた(図19)。ヤマゴボウマイトジェン等の他のレクチンを用いることもできる。培養培地で3〜5日かかるリンパ球芽球化アッセイとは違い、このmRNAアッセイは、全血で1〜2時間かかるだけである(図19)。全血での短時間のインキュベーションは生理学的条件を擬態し、アッセイの変動を大幅に低減する。
【0086】
健常なボランティアのヘパリン処理された全血を、37℃で30分間様々な濃度のCsAでインキュベートし、10μg/mLのPHA−Pによって、37℃で2時間、IL−2 mRNAを誘導した。図20で示されるように、50〜2,000ng/mLの用量依存的な様式で、CsAによりIL−2 mRNAの転写が阻害された。2,000ng/mL CsAによりIL−2 mRNA発現はほぼ100%阻害された(図20)。図3では、CsAを血液サンプルに30分添加し、その後PHA−Pを添加した。CsA及びPHA−Pを同時に添加したときも同程度の阻害が確認された(データは示さず)。さらに、100μg/mLのPHA−Pを使用したときでさえ、CsAの阻害作用が維持された(図21)。アッセイの変動を最小限にするために、本発明者らは続く実験に100μg/mLのPHA−Pを使用した。
【0087】
各実験に1〜5個の血液サンプルで1ヶ月の期間、15人の健常なドナーで、図19で
示される実験を繰り返した。CsAの濃度は各サンプルで、0、100、及び500ng/mLであった。図22で示されるように、15人の健常なドナー全てが40%を超える有意な阻害を示した。興味深いことに、100ng/mLのCsAで、健常なドナーを2つのグループに分けることができた:約1/3の高い反応性のサンプル(○)、及び2/3の低い反応性のサンプル(●)。これは、臨床的な実用性を表す:低い反応性のサンプルでは高用量のCsAを与えることができるか、又はFKに切り替えることができ、高い反応性のサンプルでは低用量のCsAを与えることで、任意の副作用の危険を減らすことができる。
【0088】
次に、健常な成人とCsA又はFKを摂取している患者との間での比較が為された。この結果を図23に示す。この図では、白血球数が患者間で大きく異なるので、IL−2 mRNA値を各サンプルの白血球の数で除した。この図では、●は健常な成人を表し、○はCsAの患者を表し、△はFKの患者を表す。患者は以下の疾患を有する:1:骨髄移植した白血病、2:乾癬、3:再生不良性貧血、4:乾癬、5:乾癬、6:乾癬、7:骨髄移植した白血病、及び8:ネフローゼ症候群。x軸はPHA−P刺激していないIL−2 mRNAの基準値であり、y軸はPHA−P刺激後の値である。●は健常な成人のデータであり、○及び△はCsA又はFKの患者から得られたものであった。図23で示されるように、低いベースラインIL−2 mRNAの患者が小さい誘導を示した。したがって、%変化を算出したとき、これらのグループの間に有意な違いが存在しない。しかし、図6で示されるように二次元グラフにデータを移すと、はっきりと患者のプロットを健常な成人のものと区別することができる。ベースラインIL−2 mRNAは、統計的有意性(p=0.001)を伴って健常な成人及び患者それぞれにおいて、0.16±0.10及び0.03±0.03であった。PHA−P刺激後のIL−2 mRNAは、統計的有意性(p=0.007)で健常な成人及び患者それそれで、26.68±12.03及び10.86±16.97であった。患者のケース番号1が高いPHA−P反応性を伴う低いベースラインのIL−2 mRNAを示し、薬剤が他の患者に比べて有効ではなかったことを表した。患者ケース番号4は、健常な成人のより低い制限を有するものと同程度の反応性を示し、乏しい薬剤反応性を表した。薬剤反応性は各患者の複雑な生物活性の合計であるが、この機能反応性のアッセイは、臨床科医にこれらの患者のマネージメントに関する有用な情報を提供するであろう。
【0089】
図24A及び図24Bは、ベースライン(図24A)又はPHA−P刺激のIL−2 mRNA(図24B)とCsAの血液レベルとの間の関係を示す。mRNAの値を白血球数で除した。この図で示されるように、あまりはっきりした関係性は確認できなかった。高い反応性のサンプル及び低い反応性のサンプルが存在する場合(図22)、これらの患者のCsAの血液レベルが約100ng/mLであったので、この機能性のアッセイには、これらの2つの集団の間で区別することができる薬剤濃度の単純な測定による利点がある。
【0090】
図25は、FKを用いた場合の結果を示す。集合サイズが小さいため、あまりはっきりとは結論付けられなかったが、この方法がさらにFKに有用であることが期待されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤に対する患者の反応性を測定する方法であって、
7時間以内、患者の全血を薬剤に暴露すること;
暴露後に、血液細胞における該薬剤の効果に関連するmRNAの量を測定すること;及び
該測定の結果に基づいて該薬剤に対する反応性を確認すること
を含み、該mRNAの量の変化が該薬剤に対する該患者の反応性を示す、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24A】
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【図24B】
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【図25A】
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【図25B】
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【公開番号】特開2011−139717(P2011−139717A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95410(P2011−95410)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【分割の表示】特願2007−538070(P2007−538070)の分割
【原出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(500294958)ヒタチ ケミカル リサーチ センター インコーポレイテッド (27)
【Fターム(参考)】