説明

mRNAの絶対量を測定する方法及びシステム

【課題】 本発明は、mRNAの絶対量を測定する方法及びシステム、特に、cDNAマイクロアレイ上のmRNAの絶対量を測定する方法及びシステムの提供を目的とする。
【解決手段】 下記工程及び各手段が提供される:マイクロアレイを用意する;このマイクロアレイ上に少なくとも一組の連続稀釈コントロールスポットを用意する;既知の濃度の対応するコントロールcDNAとハイブリダイゼーションを行う;前記ハイブリダイゼーションから参照データを導き出し、前記参照データを用いて、使用した1以上のサンプルにおけるmRNAの絶対量を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、cDNAがスポットされたマイクロアレイによってmRNAの絶対量を測定する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
DNAマイクロアレイは、数千の異なる転写産物に対してmRNA量を同時に測定できる能力ゆえに、遺伝子発現の研究を革命的に変化させてきた(非特許文献1〜16参照)。簡単には、増幅産物(representative)である一本鎖DNA断片を、例えば、スライドガラス等の固形支持体上に固定し、相補cDNA又はcRNAに対するプローブとする。これらは、生体サンプルからmRNAプールの増幅産物(representation)として調製する。その調製は、逆転写を含み、また、cRNAの場合には、さらに、増幅手段として、インビトロでの転写を含む。付随して、cDNA又はcRNAを、放射性同位体の取込み又は蛍光ダイを結合して修飾したヌクレオチドの取込みにより標識する。マイクロアレイへのハイブリダイゼーションの後、弱い結合若しくは非特異的な結合のcDNA又はcRNAを洗い流し、ホスホイメージャー(phosphorimager;放射性ラベルの場合)又は共焦点レーザー走査装置(蛍光ラベルの場合)によりシグナルを読み取る。コンピュータ画像解析により前記アレイ上の各特徴部分(“スポット”ともいう)の位置(及びその同一性)、並びに、シグナル強度を測定する。前記シグナル強度は、この特徴部分により表される種類(species)の本来のcDNA又はcRNA量に対して直線性を有すると信じられている。
【0003】
DNAマイクロアレイを用いることで、一回の実験で、数千の異なる分子に対して、mRNAレベルの変化をモニタすることが可能となった。cDNAがスポットされたチップの技術は、広範な用途があることが分かったが、現時点では、細胞内のmRNA濃度の相対的変化しか測定できない。その上、製造工程における技術的限界のため、結果は、同じ製造シリーズに由来するチップに対してしか比較できない。すなわち、現時点では、実験が、約50〜200ハイブリダイゼーションに制限されている。
【0004】
後のデータ解析において、修正しなければならない技術的問題点も、まだ多く存在する。最も突出した問題は、正規化(normalization)又は標準化(standardization)である。正規化又は標準化は、2つのサンプル間の標識化効率及びmRNA量の違いを明らかにするものであって、2つのサンプルのcDNA増幅産物が、2つの異なるチップにハイブリダイズされる場合、又は、同じチップにハイブリダイズされるがUVレーザー光により励起されると異なる色の光を発する蛍光タグで標識されて識別されるものである場合に行われる(非特許文献17〜25参照)。
【非特許文献1】Case-Green, S.C., Mir, K.U., Pritchard, C.E. & Southern, E.M. Analysing genetic information with DNA arrays. Curr. Opin. Chem. Biol. 2, 404-410 (1998).
【非特許文献2】DeRisi, J. et al. Use of a cDNA microarray to analyse gene expression patterns in human cancer. Nat. Genet. 14, 457-460 (1996).
【非特許文献3】DeRisi, J.L., Iyer, V.R. &: Brown, P.O. Exploring the metabolic and genetic control of gene expression on a genomic scale. Science 278, 680-686 (1997).
【非特許文献4】Duggan, D.J., Bittner, M., Chen, Y., Meltzer, P. & Trent, J.M. Expression profiling using cDNA microarrays. Nat. Genet. 21, 10-14 (1999).
【非特許文献5】Golub, T.R. et al. Molecular classification of cancer: class discovery and class prediction by gene expression monitoring. Science 286, 531-537 (1999).
【非特許文献6】Hegde, P. et al. A concise guide to cDNA microarray analysis. Biotechniques 29, 548-550,552-554,556 passim (2000).
【非特許文献7】Hughes, T.R. et al. Functional discovery via a compendium of expression profiles. Cell 102, 109-126 (2000).
【非特許文献8】Iyer, V.R. et al. The transcriptional program in the response of human fibroblasts to serum. Science 283, 83-87 (1999).
【非特許文献9】Khan, J., Bittner, M., Chen, Y., Meltzer, P.S. & Trent, J.M. DNA microarray technology: the anticipated impact on the study of human disease. Biochim. Biophys. Acta 1423, M17-M28 (1999).
【非特許文献10】Lipshutz, R.J., Fodor, S.P., Gingeras, T.R. & Lockhart, D.J. High density synthetic oligonucleotide arrays. Nat. Genet. 21,20-24 (1999).
【非特許文献11】Lockhart, D.J. et al. Expression monitoring by hybridization to high-density oligonucleotide arrays. Nat. Biotechnol. 14, 1675-1680 (1996)
【非特許文献12】Lockhart, D.J. & Winzeler, E.A. Genomics, gene expression and DNA arrays. Nature 405, 827-836 (2000).
【非特許文献13】Schena, M. Genome analysis with gene expression microarrays. BioEssays 18, 427-431 (1996).
【非特許文献14】Schena, M., Shalon, D., Davis, R.W. & Brown, P.O. Quantitative monitoring of gene expression patterns with a complementary DNA microarray. Science 270, 467-470 (1995).
【非特許文献15】Shalon, D., Smith, S.J. & Brown, P.O. A DNA microarray system for analyzing complex DNA samples using two-color fluorescent probe hybridization. Genome Res. 6, 639-645 (1996).
【非特許文献16】Spellman, P.T. et al. Comprehensive identification of cell cycle-regulated genes of the yeast Sacclzarornyces cerevisiae by microarray hybridization. Mol. Biol. Cell 9, 3273-3297 (1998).
【非特許文献17】BeiBbarth, T. et al. Processing and quality control of DNA array hybridization data. Bioinformatics 16, 1014- 1022 (2000).
【非特許文献18】Chudin, E. et al. Assessment of the relationship between signal intensities and transcript concentration for Affymetrix GeneChip(R) arrays. Genome Biol. 3, research0005.0001-0005 .OO10 (2001).
【非特許文献19】Eickhoff, B., Korn, B., Schick, M., Poustka, A. & Bosch, J.v.d. Normalization of array hybridization experiments in differential gene expression analysis. Nucl. Acids Res. 27, e33 (1999).
【非特許文献20】Lee, M.-L.T., Kuo, F.C., Whitmore, G.A. & Sklar, J. Importance of replication in microarray gene expression studies: statistical methods and evidence from repetitive cDNA hybridizations. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 97, 9834-9839 (2000).
【非特許文献21】Newton, M.A., Kendziorski, C.M., Richmond, C.S., Blattner, F.R. & Tsui, K.W. On differential variability of expression ratios: improving statistical inference about gene expression changes from microarray data. J. Comput. Biol. 8, 37-52 (2001).
【非特許文献22】Chen, Y., Dougherty, E.R. & Bittner, M. Ratio-based decisions and the quantitative analysis of cDNA microarray images. J. Biomed. Opt. 2, 364-374 (1997).
【非特許文献23】Schadt, E.E., Li, C., Su, C. & Wong, W.H. Analyzing high-density oligonucleotide gene expression array data. J. Cell. Biochem. 80, 192-202 (2000).
【非特許文献24】Schuchhardt, J. et al. Normalization strategies for cDNA microarrays. Nucl. Acids Res. 28, E47 (2000).
【非特許文献25】ue, H. et al. An evaluation of the performance of cDNA microarrays for detecting changes in global mRNA expression. Nzd Acids Res. 29, E41 (2001).
【非特許文献26】Hughes, T.R. et al. Expression profiling using microarrays fabricated by an ink-jet oligonucleotide synthesizer. Nut Biotechnol 19, 342-347 (2001).
【非特許文献27】Velculescu, V.E., Zhang, L., Vogelstein, B. & Kinzler, K.W. Serial analysis of gene expression. Science 270,484-487 (1995).
【非特許文献28】Velculescu, V.E. et al. Analysis of human transcriptomes. Nat. Genet. 23, 387- 388 (1999).
【非特許文献29】Bustin, S.A. Absolute quantification of mRNA using real-time reverse transcription polymerase chain reaction assays. J Mol Endocrinol 25, 169-193. (2000).
【非特許文献30】Freeman, W.M., Walker, S.J. & Vrana, K.E. Quantitative RT-PCR: pitfalls and potential. Biotechniques 26, 112-122, 124-115. (1999).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、mRNAの絶対量を測定する改良された方法及びシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、特許請求の範囲に列挙された主題によって達成される。
【0007】
本発明は、前述の技術的限界を克服し、mRNAの絶対量を測定する方法を提供する。そして、前記mRNAの絶対量は、使用されるチップのシリーズとは無関係に比較可能である。本発明の方法は、マイクロアレイ上の一組の連続稀釈したコントロールスポット、及び、既知の濃度の対応するコントロールDNA/cDNAとのハイブリダイゼーションを含む。好ましい態様によれば、次に、モデルカーブを、前記コントロールについて得られたシグナルに適合する。そして、このモデルカーブを利用することで、使用したサンプルにおけるmRNAの絶対濃度を算出できる。これらの測定は、cDNAマイクロアレイで行われるため、一回のハイブリダイゼーション実験で、25,000もの異なる種類のmRNAを盛り込むことができる。
【0008】
未だ解決されていないもう一つの問題は、“スポッティング(spotting)”により製造されるチップが、個々のスポットにおけるDNA断片の表面濃度について、バッチ間で高い変化量を示すことである。この方法は、まず、プローブとされる遺伝子のcDNAテンプレートが、大規模なマルチプレックスPCR(multiplex polymerase chain reaction)により増幅される。そして、増幅された断片が、ロボット装置(roboting devices)により、マイクロアレイ支持体(ほとんどの場合、化学的に修飾された表面を有するガラスチップ)上に移される。このロボット装置は、100μmよりもよい空間精度で、ナノリッターの量を配置することができる。最近では、同じ目的のために、インクジェット様プリント装置が用いられている(非特許文献26参照)。いずれのケースでも、一旦、製造したPCR断片が底をつくと、マスターテンプレートから新しいPCR調製をスタートしなければならない。数千の異なるテンプレートに対して同時に行うPCR反応の収率をコントロールすることは、現在のところ、不可能である。PCR反応後にDNA濃度は測定できる。しかしながら、転写率(transfer rates)及び結合効率(coupling efficency)は、この方法では得ることはできない。このようにして、異なるバッチのスポッティングマイクロアレイは、それより前の生産シリーズのマイクロアレイと比較すると個々のスポットDNA濃度の変化量が100倍に達するチップとなる。スポットDNA濃度がハイブリダイゼーション後の記録済みのシグナル強度に及ぼす影響は、ただちに明白であり、競合ハイブリダイゼーションによって克服できない。ここで、前記競合ハイブリダイゼーションとは、2つのサンプルの転写レベルの比率のみを測定するハイブリダイゼーションであって、前記サンプルの1つは、cDNA増幅産物が内部参照として機能するサンプルであり、1つは、調査されることとなるmRNAプールのサンプルである。このような比較困難性は、Yueとその同僚により決定的に示されている。彼等は、前記比率が、スポットDNA濃度にかなり依存しており、スポットDNA濃度が小さくなればなるほど、前記比率がより“圧縮”される(1により近くなる)であろうことを示した(非特許文献25参照)。
【0009】
ここで、我々は、スポットDNA濃度の影響を、その後にコンピュータにより修正することが可能となる新しい方法を提示する。この方法は、アレイ上に提示される連続稀釈したコントロールDNA、及び、アレイ上の全てのスポットに結合する規定濃度のユニバーサルターゲットを用いた数回のハイブリダイゼーションを必要とする。前記ユニバーサルターゲットを用いたハイブリダイゼーションから得られたデータに、モデルカーブを適合させることにより、修正が必要な換算値を有する一部のスポットを同定できる。他方、残りのスポットの修正は、利よりも害が大きい。本発明の方法は、現在のマイクロアレイの用途を2つの方向において適用を拡大する。第1に、マイクロアレイにより異なるmRNAの絶対量の測定を可能とする。第2に、より重要なことであるが、異なるシリーズのチップで行われた実験の比較を可能とし、さらには、例えば、cDNAチップ、オリゴヌクレオチドチップ(非特許文献10及び11参照)、SAGE(serial analysis of gene expression、非特許文献27及び28参照)及びマルチプレックスリアルタイム逆転写(RT)PCR(非特許文献29及び30参照)等の異なる転写レベル測定系間の比較をも可能とする。このことは、比較可能性の範囲(horizon)を拡大する。すなわち、現在、約50〜200チップに限られている前記範囲を、例えば、遺伝子発現プロファイルによるガンのサブタイプの分類等の、500サンプルに達する調査を要する新たな用途に必要なレベルまで拡大できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本明細書において、下記用語を使用する;
・アレイ、マイクロアレイ、チップ:多数の特徴部分(スポット)を含み、前記スポットはそれぞれ単一種のDNA断片を含む固形支持体(例えば、化学的修飾されたガラス又はナイロン/ポリプロピレン膜)。
・特徴部分、スポット:単一種のDNA断片のみが結合するマイクロアレイ上の単一の位置。
・ハイブリダイゼーション:2つの相補DNA分子が、ワトソン・クリック型塩基対を形成することにより、互いに結合するプロセス。
・プローブ:特定の転写を探査することとなるアレイに結合したDNA断片の一つ。
・(溶質[solute])ターゲット:生体サンプルから調製されたcDNA又はcRNAである。前記サンプルのmRNAプールの増幅産物であることが意図される。
・シグナル強度:単一のスポットごとに読み取られる、放射性放射線の強度又はレーザー励起による蛍光の強度。
・(生体)サンプル:規定条件下で調製される研究に用いられる生命体からの試料。例えば、培養酵母、培養細胞からのサンプル、ガン標本、生検サンプル、血液サンプルからのサンプル等があげられる。
・ユニバーサルターゲット:アレイ上の各スポットに結合する、例えば、ユニバーサルオリゴヌクレオチド等の規定の配列のDNA断片。
【0011】
なお、本発明を実証する好ましい形態についての図面を、図1〜図3に示す。
【0012】
(コンピュータによる処理)
ユニバーサルターゲットのハイブリダイゼーションから得られた値、すなわち、連続稀釈したスポットから読み取られたシグナル強度は、非線形最小二乗法による適合によるモデル関数のパラメータ計算の基礎として用いられる。モデル関数として、我々は下記式(1)のロジスティック関数を使用する。
【0013】
【数4】

上記式(1)において、
【0014】
【数5】

は、モデル化されたシグナル強度であり、cpは、プローブ(又はスポットDNA)濃度であり、Kは、cp→∞とした場合の漸近的シグナル強度であり、I0 は、cp→0とした場合の漸近的シグナル強度であり、rは、形状パラメータである。我々は、rが、溶質ターゲットcDNA濃度にも、プローブの配列の性質にも依存ぜず、ゆえに、アレイ上の各スポットで同一であることを示すことができた(結果参照)。非線形適合における適合は、標準勾配最適化(standard gradient optimization)手順により行われるが、我々は、商品名MATLABTM(Math Works Inc., Natick, MA, U.S.A.)に導入されているニュートン・ラプソン(Newton-Raphson)法を使用した。適合手順の信頼性は、チップ上に前記連続稀釈をいくつか複製したものを使用することで、著しく向上する。我々は、少なくとも5つを使用することをすすめる。
【0015】
前記モデル関数は、スポットDNA濃度の影響の修正が必要な値を示す一組のスポットを決定することに使用される。臨界プローブ濃度(critical probe concentration)は、下記式(2)、又は、分析的には下記式(3)により決定できる。
【0016】
【数6】

【0017】
【数7】

【0018】
ユニバーサルターゲットとのハイブリダイゼーションは、所定の一組のアレイについて、前記連続稀釈から得られる値に基づき前記関数のパラメータを算出すること、及び、前記アレイ上の各スポットについてスポットDNA濃度が前記臨界プローブ濃度よりも低いか又は高いかについて決定することが可能となる。前記スポットDNA濃度が前記臨界プローブ濃度よりも高い場合は、修正の必要はない。プローブ濃度がシグナル強度に影響を及ぼさないからである。前記スポットDNA濃度が前記臨界プローブ濃度よりも低い場合には、最初に得られる近似においては、シグナル強度は、前記スポットDNA濃度に線形従属する。そして、その後のハイブリダイゼーションにおける値は、ユニバーサルターゲットとのハイブリダイゼーションからプローブ濃度を決定することにより修正することができる。
【実施例1】
【0019】
(ナイロン膜及びポリプロピレン膜上での実施)
プローブ配列として、酵母ORF由来の16の異なるPCR断片(表3)を、9つの異なる濃度(表1)で、ナイロン膜及びポリプロピレン膜上にスポットした。これらのアレイと8つの異なる濃度(表2)のユニバーサルオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーションの実施は、4回行い、その後、シグナル強度を平均した。
【0020】
(表1) 使用したスポットDNA量
固定化DNA量
10 amol, 50 amol, 100 amol, 500 amol, 1 fmol, 5 fmol, 10 fmol, 25 fmol, 50 fmol
【0021】
(表2) 試みたターゲット濃度
ターゲット(放射性標識したユニバーサルオリゴヌクレオチド)の濃度
2 pM, 8 pM, 20 pM, 40 pM, 80 pM, 120 pM, 160 pM, 200 pM.
【0022】
(表3)使用したプローブ配列
ORF識別名 長さ[bp] ORF識別名 長さ[bp] ORF識別名 長さ[bp] ORF識別名 長さ[bp]
YAR030C 342 YALO55W 543 YCR045C 1476 YDR422C 2592
YAR043C 350 YARO37W 600 YCR024C 1479 YCR030C 2613
YCRO25C 411 YCLO31C 894 YCR048W 1833 YDR430C 2790
YCLO22C 516 YCR034W 1044 YBR280C 1929 YALO35W 3009
【0023】
図1から明らかなように、測定されるシグナル強度は、スポットDNA濃度及び溶質ターゲット濃度の双方に、非線形式で依存する。スポットDNA濃度への依存性は、低スポット濃度におけるほぼ線形な区間に最もよく表されており、スポット濃度が増加してもシグナル強度が増加しない飽和領域が、それに続く。
【0024】
他のプローブ及びポリプロピレン膜からのデータに対しても、主要な形状に相違はなかった(データは示さない)。
【実施例2】
【0025】
(スライドガラス上での実施)
ポリ-L-リジンでコートされたスライドガラスを固形支持体として用いた。前述の16種のPCR断片(表3)を、8つの異なる濃度(表4)で、それぞれ4個づつ前記スライド上にスポットした。このアレイを、5つの異なる濃度の蛍光標識されたユニバーサルオリゴヌクレオチドとハイブリダイズさせた(表5)。
【0026】
(表4) 使用したスポットDNA量
固定化DNA量
0.1 amol, 0.5 amol, 1 amol, 5 amol, 10 amol, 50 amol, 100 amol, 300 amol
【0027】
(表5) 使用した溶質ターゲット濃度
溶質ターゲットの濃度
20 pM, 200 pM, 2 nM, 20 nM, 200 nM
【0028】
図2のデータは、同一スライド上の4つのスポット及び独立して4回繰り返したハイブリダイゼーションの平均値を示す。高スポットDNA濃度についての粗い分解能及びデータの高い変動性を除けば、ナイロン又はポリプロピレン膜における実施と比較して明らかな相違点はない。
【実施例3】
【0029】
(モデルカーブのデータへの適合)
非線形最適化により、前記式(1)をデータに適合させた。ここでの主要な関心は、形状パラメータrの評価である。このパラメータが、カーブの勾配を表し、従って、スポットDNA濃度の臨界スポット濃度を決定する。前記臨界スポット濃度は、スポットDNA濃度の領域を、高スポット濃度の影響が及ばない部分と、シグナルがスポット濃度に依存する部分とに分割する。ナイロン膜及びスライドガラスについて、代表的なプローブ断片のデータを図3に示す。モデル関数は、影響が及ぶ領域から影響が及ばない領域への転換点について、よく前記データに適合する。一方で、低スポット濃度の領域ではかなり逸脱した。しかしながら、使用目的からすれば、この領域における良好な適合は必要ない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、スポットDNA濃度及び溶質ターゲット濃度に依存したナイロン膜のシグナル強度を示す。示すデータは、4回の独立した測定の平均である。代表的な4つのプローブ種についてのデータを示す。
【図2】図2は、スポットDNA濃度及び溶質ターゲット濃度に依存したスライドガラスのシグナル強度を示す。示すデータは、4回の独立した測定の平均である。代表的な4つのプローブ種についてのデータを示す。
【図3】図3は、ナイロン膜(a)及びスライドガラス(b)上の代表的なプローブ断片についてのデータ(青)及び適合させたモデルカーブ(赤)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
mRNAの絶対量を測定する方法であって、DNAマイクロアレイを用いた下記工程により測定する方法。
a.マイクロアレイを用意し、
b.前記マクロアレイ上に、少なくとも一組の連続稀釈コントロールスポットを用意し、
c.既知の濃度の対応するコントロールDNAとハイブリダイゼーションをし、
d.前記ハイブリダイゼーションから参照データを導き、
e.前記参照データを利用して、1つ以上の使用したサンプルにおけるmRNAの絶対量を算出する。
【請求項2】
さらに、定量に使用するために、前記アレイ上の固定化されたプローブそれぞれについてユニバーサルタグを用意する工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
DNAマイクロアレイがcDNAマイクロアレイであり、及び/又は、前記コントロールDNAがコントロールcDNAである請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記参照データが、得られたコントロールのシグナルに適合又は適応されるモデルカーブを含む前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項5】
プローブとされる遺伝子のcDNAの鋳型を、最初に、大規模なマルチプレックスポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅し、増幅断片を得る前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記増幅断片が、次に、100μmよりもよい空間精度でナノリッターの量を配置することができるロボット装置により、前記マイクロアレイ上に移される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ハイブリダイゼーションから得られる前記参照データ、例えば、前記連続稀釈スポットから読み取られたシグナル強度が、非線形最小二乗法の適合によるモデル関数のパラメータの算出の基礎として用いられる前記いずれかの請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記モデル関数として、下記関数が使用される請求項7に記載の方法。
【数1】

上記式において、
【数2】

は、モデル化されたシグナル強度であり、cpは、プローブ(又はスポットDNA)濃度であり、Kは、cp→∞とした場合の漸近的シグナル強度であり、I0 は、cp→0とした場合の漸近的シグナル強度であり、rは、形状パラメータである。
【請求項9】
前記参照データの適合が、勾配最適化手順によって行われる請求項4から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
非線形の適合に、ニュートン・ラプソン法が使用される請求項9に記載の方法。
【請求項11】
臨界プローブ関数が、スポットDNA濃度の影響の修正が必要な値を示す一組のスポットを決定するために使用され、前記臨界プローブ濃度関数が、下記式で規定される前記いずれかの請求項に記載の方法。
【数3】

【請求項12】
コンピュータコード手段を含むコンピュータプログラム産物であって、コンピュータで前記プログラム産物を作動させた場合に、前記請求項に記載の少なくとも1つの方法における計算可能な部分を実行する、コンピュータ読み取り可能な媒体に保存されたコンピュータプログラム産物。
【請求項13】
システム、特に、請求項1から11の少なくとも一項に記載の方法を実行するためのシステムであって、
a.少なくとも一組の連続稀釈コントロールスポットを含むマイクロアレイ、
b.既知の濃度の相補コントロールDNAとハイブリダイゼーションする手段、
c.前記ハイブリダイゼーションから参照データを導く手段、及び
d.1つ以上のサンプルにおけるmRNAの絶対量を算出するために前記参照データを利用する手段を含むシステム。
【請求項14】
さらに、定量に使用するために、前記アレイ上の固定化されたプローブそれぞれについてユニバーサルタグを備える手段を含む請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
請求項1から11の少なくとも一項に記載の方法、請求項12に記載のコンピュータプログラム産物、及び/又は、請求項13又は14の少なくとも一項に記載のシステムの使用であって、cDNAマイクロアレイ上のmRNAの絶対量の測定における使用。
【請求項16】
請求項1から11のいずれかに記載の方法により、複合サンプル中のDNA又はタンパク質と同様なその他の生体分子の絶対的定量を行う方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−506605(P2006−506605A)
【公表日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−580560(P2003−580560)
【出願日】平成15年3月28日(2003.3.28)
【国際出願番号】PCT/EP2003/003291
【国際公開番号】WO2003/083127
【国際公開日】平成15年10月9日(2003.10.9)
【出願人】(504363832)
【Fターム(参考)】