説明

p型透明酸化物導電性材料およびこれを用いた発光素子

【課題】安定性が高く、バンドギャップの大きいp型透明酸化物導電性材料を提供する。
【解決手段】ASbO4相として同定され(ここでAは3価のSb以外の3価の金属元素)、p型導電性を示すp型透明酸化物導電性材料。あるいは、A3+Sb5+4で表される複合酸化物(ここでAは3価のSb以外の3価の金属元素)のSb5+を、部分的に4価の金属イオンB4+で置換したp型透明酸化物導電性材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視〜近紫外域で透明であり、p型導電性を示す酸化物材料、およびこれを用いた発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光に対して透明であり、かつ導電性を示す酸化物材料は、ディスプレイ用や太陽電池用の透明電極等、幅広い用途がある。最も代表的な透明導電性酸化物材料は、酸化インジウムに酸化錫を数mol%添加した、いわゆるITOである。しかしITOはインジウムに資源的問題があるため、これに替わるものとして、酸化亜鉛系や酸化錫系などの材料が幅広く検討されている。ここでITOを含めてこれらの導電性酸化物材料のキャリアは電子であり、n型導電性を示す酸化物材料であって、キャリアがホールであるp型導電性を示す酸化物材料は少ない。
【0003】
一方で、酸化亜鉛は禁制帯幅3.4eVの化合物半導体であり、バンド間の遷移により紫外域での短波長発光をしうる材料として、蛍光体励起用光源や発光ダイオード(LED)用途などにも応用が期待されている。しかしながら前述したように、酸化亜鉛は通常n型導電性を示すため、LED等に用いようとするとp/n接合を形成するための、p型導電性を示す材料が必要となる。
【0004】
このため、ZnOに窒素をドーピングしてp型化したり、CuAlO2、SrCu22といったp型導電性を示す酸化物と組み合わせて使用する事が検討されている。またSb24にSnO2を固溶させた材料においても、透明性とp型導電性が報告されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】phys.stat.sol.(c) 5, No.10, 3364-3367(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながらZnOへの窒素ドーピングにより合成したp型導電性材料は、安定性が低いという問題点がある。
【0007】
また、CuAlO2やSrCu22はCuが1価である必要があるが、Cuは2価になりやすいために、酸化しない様に酸素を含まない雰囲気下で合成する必要があり、合成後も酸化に注意が必要である。さらにSrCu22は、SrOを多量に含むために大気中の水分や炭酸ガスと反応しやすく、化学的に不安定であるといった問題点がある。
【0008】
またSb24−SnO2系材料は、熱的に不安定で、加熱により劇物である酸化アンチモンが昇華、蒸発してしまうという問題点がある。
【0009】
さらに、バンドギャップが大きければ大きいほど、より短波長まで透明となり、望ましい。
【0010】
そこで本発明は、安定性が高く、バンドギャップの大きいp型透明酸化物導電性材料を提供することを目的とする。本発明はまた、これを用いた発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題に鑑みてなされたものであって、本発明の一つの実施の形態は、ASbO4相として同定され(ここでAは3価のSb以外の3価の金属元素)、p型導電性を示すp型透明酸化物導電性材料である。
【0012】
本発明の別の一つの実施の形態は、A3+Sb5+4で表される複合酸化物(ここでAは3価のSb以外の3価の金属元素)のSb5+を、部分的に4価の金属イオンB4+で置換したp型透明酸化物導電性材料である。
【0013】
別の側面から、本発明のまた別の一つの実施の形態は、上記の材料と、n型導電性ZnOを接合した発光素子である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、バンドギャップが大きく、可視光および近紫外域で透明で、化学的にも熱的にも安定な酸化物導電性材料を提供する事が出来る。また、当該酸化物導電性材料はp型導電性を示すため、n型導電性材料と組み合わせることによって発光素子を容易に提供する事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施の形態のp型透明導電性材料と、比較例のSb24−SnO2系材料の反射スペクトル
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に,本発明の実施の形態及び実施例を説明するが、当然ながら本発明はこれらの形式に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0017】
本願発明者等は、各種複合金属酸化物系を検討し、本発明に至ったものである。本発明の一つの実施の形態は、ASbO4相として同定され(ここでAは3価のSb以外の3価の金属元素)、p型導電性を示すp型透明酸化物導電性材料である。
【0018】
本発明の別の一つの実施の形態は、別の観点から、A3+Sb5+4で表される複合酸化物(ここでAは3価のSb以外の3価の金属元素)のSb5+を、部分的に4価の金属イオンB4+で置換したp型透明酸化物導電性材料である。
【0019】
当該実施の形態の好ましい一態様では、Aが、GaおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素である。
【0020】
当該実施の形態の好ましい一態様では、Bが、Sn、Ge、Si、Ti、およびZrからなる群より選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素である。
【0021】
別の側面から、本発明のまた別の一つの実施の形態は、上記の材料と、n型導電性ZnOを接合した発光素子である。
【0022】
ここで、同定されるとは、X線回折等の結晶構造解析技術によって同定される事を指す。
【0023】
Aは3価のSb以外の3価の金属元素であるが、A3+は、熱的に不安定なSb5+と複合酸化物を形成して、安定化させる役割をもつ。
【0024】
よってA3+として各種の金属イオンが使用可能と考えられるが、発明者らの検討によると、p型になりやすさは、この3価の金属イオンの種類によっても異なる。Aとしての3価の金属元素としては、Al、Ga、In、Sc、Y、ランタン系等があるが、これら中で、最もp型導電性を表しやすいのはGaであった。これに対してAlは、バンドギャップがより大きくなり、また安価であるという特徴があり、Gaに次いで望ましい。なお、GaSbO4とAlSbO4は、同じ結晶構造を持つため、3価の金属元素としてGaとAlを併用するといった事も可能である。
【0025】
一方Inは、高価であり、かつバンドギャップが小さくなる。また、合成の際に4価の金属イオンとしてSn4+を用いると、ITOが生成してしまうことがあり、n型導電性となってしまう。よってInを用いる他のメリットはない。
【0026】
なお、従来技術であるSb24−SnO2系材料は、劇物である酸化アンチモン(Sb3+Sb5+4)を含む。本発明では、上記Sb3+をSb3+とは異なる3価の金属イオンに換え、上記Sb5+の一部を4価金属イオンで置換するので、劇物の使用が減少するという利点も有する。
【0027】
次にB4+は4価の金属イオンである。この4価の金属イオンは、Sb5+を部分的に置換する必要があるため、やはりその種類によってp型になりやすさが異なる。Bとしての4価の金属元素としては、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Hf等があるが、これらの中でp型導電性を示しやすいのはSnとGeであった。従って、特性面からはSnとGeが望ましいが、Geは高価であり、最も望ましいのはSnであった。またSi、Ti、Zrも安価であり、使用可能である。またこの場合も、Sn、Ge、Si、Ti、Zrの中で2種以上を併用する事も可能である。
【0028】
本発明において複合酸化物は、5価のSbと酸素と、上述したAおよびBの元素を含めば良いが、その特性を損なわない範囲内であれば、他の成分を含む事も可能である。
【0029】
次に、本発明のp型導電性材料の形態であるが、これは粉末、焼結体、あるいは粉末を成形した成形体がある。また、厚膜、薄膜など、どのようなものでも良い。しかし発光素子に用いるような場合には、焼結体か薄膜が望ましい。
【0030】
次に本発明のp型導電性材料の製造方法であるが、固相法、液相法、気相法、いずれの方法を用いる事も出来る。固相法は、それぞれの金属を含む原料粉末(金属酸化物、金属炭酸塩等)を混合し、ある程度以上の温度で熱処理して反応させる方法である。
【0031】
液相法は、それぞれの金属を含む溶液を作り、これより固相を沈殿させたり、あるいは基板上にこの溶液を塗布後、乾燥し、ある程度以上の温度で熱処理等を行って固相とする方法である。
【0032】
気相法は、蒸着、スパッタリング、CVD等の方法によって膜状の固相を得る方法である。
【0033】
次にSb5+を置換する4価金属の比率であるが、これは置換可能な範囲内であれば、どれだけであってもp型導電性を示す。置換可能な上限は、用いる元素の組み合わせと、上記した製造方法によって異なるが、固相法による合成の場合、Sb5+の5〜10at%程度、気相法による場合、20〜35at%程度、液相法ではその中間くらいとなる。これ以上の比率では、4価金属の酸化物が分離析出しやすくなる。
【0034】
本発明の導電性材料は、バンドギャップが大きく、3.9eV以上という大きなバンドギャップ値を達成することも可能である。また、化学的にも熱的にも安定である。そこで、本発明の導電性材料と、n型導電性を示す酸化亜鉛を、接合させる事によって、発光素子とする事が出来る。具体的な接合方法は、酸化亜鉛を用いる公知方法に準じればよい。酸化亜鉛は、通常、特別な処理を行わなくても、Znが過剰な状態でn型導電性を示すので、例えば酸化亜鉛の単結晶を用いても、発光素子が得られる。しかし発光効率の高い酸化亜鉛を用いた方が、素子の効率も高くなる。このため、酸化亜鉛としては、アルミニウム、ガリウム、およびインジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種を少量含むものが望ましく、さらには、これらに加えて少量のリンを同時に含むものが望ましい。
【0035】
酸化亜鉛に含まれるアルミニウム、ガリウム、インジウムの望ましい合計量は、亜鉛に対して0.03at%以上3.0at%以下である。これは、これ以下ではその効果が顕著ではなく、これ以上用いても、さらなる効率向上が認められず、無駄となるためである。しかし0.03at%未満でも、3at%を越えても、用いないよりは効率は高い。
【0036】
一方、リンの望ましい量は亜鉛に対して0.03at%以上3.0at%以下である。その理由は、アルミニウム、ガリウム、インジウムと同じである。
【0037】
以下、本発明の実施の形態を実施例により、さらに詳細に説明する。以下の実施例では、導電性材料の形態として、粉末を押し固め焼結させた焼結体の場合について、また酸化亜鉛としては単結晶の場合について述べるが、本発明はこれに限定されるものではなく、p型導電性材料は、組成や結晶構造が同じであれば、真空プロセスによる薄膜等でも同等の効果が得られるものである。またZnOについても、より発光効率の高い粉末や焼結体を用いる事も可能である。
【実施例1】
【0038】
出発原料として試薬特級以上のSb25、Sb23、Ga23、Al23、SnO2、GeO2、SiO2、TiO2、ZrO2の微粉末を用意した。
【0039】
これらの原料をSb3+、Sb5+、Ga3+、Al3+、Sn4+、Ge4+、Si4+、Ti4+、Zr4+の原子比が(表1)の比率となるように秤量し、ボールミルを用いて湿式混合した後、乾燥し、混合粉末を得た。これらの混合粉末を750℃で大気中、2時間仮焼した後、再度ボールミルにて粉砕し、仮焼粉とした。これらの仮焼粉末各1gを、金型を用いて5MPaの圧力で一軸加圧成形した後、電気炉にて、大気中で850℃で2時間焼成し、焼結体を得た。焼結体の形状は、直径12mm、厚み1mmであった。
【0040】
得られた焼結体について、X線回折により生成相を同定し、熱起電力法によりp/n判定を行い、反射スペクトルよりバンドギャップを求めた。
【0041】
バンドギャップは、以下のようにして、分光光度計で、上記焼結体の反射スペクトルを測定することで求めた。バンドギャップは、通常、透過スペクトルで評価する事が望ましいが、今回は試料を焼結体としたため、透過スペクトルは測定できない。しかしながら、入射した単位エネルギーを1とすると、透過率+反射率+吸収率=1の関係が成り立つところ、吸収率が十分に小さければ、透過率≒1−反射率の関係が成り立ち、反射スペクトルは透過スペクトルと対応関係にあるため、反射スペクトルからでもバンドギャップを求める事が出来る。本実施例で作成した導電性材料は、透明であり吸収率が十分に小さいため、今回、反射スペクトルを利用した。バンドギャップの算出は、まず、得られた反射スペクトルにおいて短波長側の反射率のベースラインと、スペクトルの変曲点での接線を引き、ベースラインと接線の交点の波長を求めた。求めた波長を用いて、E(eV)=hν=hc/λ(E:バンドギャップエネルギー、h:プランク定数、ν:光の振動数、c:光速、λ:波長)の関係から、バンドギャップを算出した。
【0042】
測定グラフの一部、すなわち比較例のNo.2のSb24−SnO2組成と本発明のNo.4のGaSbO4−SnO2組成の反射スペクトルを図1に、バンドギャップの測定結果を(表1)に示した。
【0043】
さらに、各試料を大気中で1100℃に加熱し、その変化を観察した。結果を(表1)に併せて示した。
【0044】
【表1】

【0045】
表中、p/n判定不能と記載しているものは、抵抗が高く、p、nいずれの導電性も示さなかったものである。
【0046】
表より明らかなように、No.1のSb24はp型導電性を示さないが、これにSnO2をドープしたNo.2はp型電導性を示し、そのバンドギャップは3.7eV程度であった。
【0047】
一方、No.3のGaSbO4はp型導電性を示さないが、これにSnO2、GeO2、TiO2、ZrO2をドープした本発明のNo.4〜7はp型導電性を示した。また図1より、No.4は比較例のNo.2に比べ短波長まで吸収が少なく、バンドギャップがNo.2より明らかに大きく、3.9eV程度であった。またNo.5〜7も同程度であった。
【0048】
同様に、No.8のAlSbO4はp型導電性を示さないが、これにSnO2やGeO2、SiO2をドープした本発明のNo.9〜11はp型導電性を示し、バンドギャップはさらに大きく、4.1eV程度であった。
【0049】
次に各試料を大気中で1100℃に加熱した場合、No.1の試料は完全に昇華して消失し、No.2の試料はSnO2を残して昇華した。これに対してNo.3〜No.11の試料は、昇華・蒸発することはなく、熱的および化学的に安定性が改善されている事が示された。
【0050】
以上のように、Sb5+の酸化物を、Ga3+またはAl3+との酸化物と反応させてGaSbO4相、またはAlSbO4相とする事で、Sb24相より安定化するとともに、バンドギャップを広げる事が出来、このGaSbO4相またはAlSbO4相のSb5+をSn4+、Ge4+、Si4+、Ti4+、Zr4+のいずれかで部分的に置換する事でp型導電性を付与する事が可能であった。
【実施例2】
【0051】
実施例1で作製したNo.4の試料と、n型導電性を示す単結晶ZnOを用いて、発光素子を作製した。すなわち、ZnOの片面に透明電極ITOを形成した。次に実施例1のNo.4の試料の両面を研磨した後、片面にNi−Au電極を形成した。これら電極を形成したZnOとNo.4の試料を、それぞれの電極が外側に向くように積み重ね、圧力を加えて接触させ、素子とした。
【0052】
以上のようにして作製した素子の外側に面するITOおよびNi−Au電極に対して電圧を印加し、順方向に電流を流し、透明である単結晶ZnO側から観察したところ、380〜390nm付近をピークとする発光が観察され、発光素子となっている事を確認した。
【0053】
本実施例では、p型導電性材料の形態を焼結体としたため、EL発光を単結晶ZnO側から観察したが、薄膜形態とすれば、バンドギャップの大きいp型導電体側から発光を観察する事も、もちろん可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のp型透明酸化物導電性材料は、透明導電性材料として、またLED素子などに広く応用する事が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASbO4相として同定され(ここでAは3価のSb以外の3価の金属元素)、p型導電性を示すp型透明酸化物導電性材料。
【請求項2】
3+Sb5+4で表される複合酸化物(ここでAは3価のSb以外の3価の金属元素)のSb5+を、部分的に4価の金属イオンB4+で置換したp型透明酸化物導電性材料。
【請求項3】
Aが、GaおよびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の3価の金属元素である請求項2に記載のp型透明酸化物導電性材料。
【請求項4】
Bが、Sn、Ge、Si、Ti、およびZrからなる群より選ばれる少なくとも1種の4価の金属元素である請求項2または3に記載のp型透明酸化物導電性材料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の材料と、n型導電性ZnOを接合した発光素子。

【図1】
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【公開番号】特開2013−74046(P2013−74046A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211142(P2011−211142)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】