説明

shRNA発現ライブラリーの製造方法

【課題】ランダムな塩基配列を有するshRNAを発現するライブラリーの製造方法を提供すること。
【解決手段】5’末端から3’末端の方向に、第一の制限酵素による認識配列および切断部位を含む第一の領域、6塩基以上のランダムな配列からなる第二の領域、および5’側領域と3’側領域の塩基配列は相補的であって、第一の制限酵素と異なる第二の制限酵素による認識配列および切断部位を含む第三の領域を含む一本鎖ポリヌクレオチドをセルフアニーリングさせ、前記第三の領域の3’末端から相補的なポリヌクレオチドを合成し、第一の制限酵素を用いて切断処理し、5’末端を脱リン酸化処理し、3’末端にリンカーDNAを結合させ、リンカーDNA領域に結合するプライマーを用いて相補的なポリヌクレオチドを合成し、発現ベクターに挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、shRNA発現ライブラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉(例えば、非特許文献1参照)のためのshRNA(短鎖ヘアピンRNA)は、二本鎖であるsiRNAのいずれか一方の末端にループを有する一本鎖RNAであり、細胞内にshRNAをコードするDNAを導入して発現させることができるので、siRNAを導入するよりも長期的、安定的に細胞における遺伝子発現を抑制することができる(例えば、非特許文献2参照)。
【0003】
ここで、ランダムに遺伝子を抑制するshRNAライブラリーを用い、その抑制により生じる細胞の表現型の変化を検証することによって、抑制されている遺伝子と表現型を対応づけることができれば、その遺伝子の細胞における機能を見出すことが可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Fire A. et al., Nature 391, 806-811, 1998
【非特許文献1】Sandy P. et al., BioTechniques 39, 215-224, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、ランダムなヌクレオチド配列を有するshRNAを発現するライブラリーの製造方法を提供することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一本鎖ポリヌクレオチドは、5’末端から3’末端の方向に、第一の領域、第二の領域、および第三の領域を含む一本鎖ポリヌクレオチドであって、前記第一の領域は、該第一の領域が相補鎖を有する場合に第一の制限酵素により認識される塩基配列、および第一の制限酵素による切断部位を含み、第二の領域は、6塩基以上から成り、前記第三の領域の5’側領域と3’側領域の塩基配列は相補的であって、第一の制限酵素は3’突出を形成する制限酵素であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るDNAライブラリーの製造方法は、第二の領域がランダムな塩基配列を有する、本発明に係る一本鎖ポリヌクレオチドの集団を用いることを特徴とする。本方法は、(1)セルフアニーリングした前記第三の領域の3’末端から、前記第二の領域および前記第一の領域に相補的なポリヌクレオチドを合成し、ヘアピン状ポリヌクレオチドを作製する工程と、(2)前記工程(1)で得られた前記ヘアピン状ポリヌクレオチドを第一の制限酵素を用いて切断処理する工程と、(3)前記工程(2)で得られた、前記第二の領域および前記第三の領域を含む産物の5’末端を、脱リン酸化処理する工程と、(4)前記工程(3)の産物の3’末端に、二本鎖リンカーDNAを構成するいずれか一方のリンカーDNA鎖の5’末端を結合させる工程と、(5)前記工程(4)で得られた二重鎖DNAを、前記第二の領域、前記第三の領域、および一本鎖リンカーDNA領域を含む一本鎖ポリヌクレオチドと、前記二本鎖リンカーDNAのもう一方のDNA鎖に解離する工程と、(6)前記工程(5)で得られた前記一本鎖ポリヌクレオチドを構成する一本鎖リンカーDNA領域の少なくとも一部にプライミングするポリヌクレオチドをプライマーとして、当該一本鎖ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを合成する工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
ここで、本発明に係るDNAライブラリーの製造方法において、第一の制限酵素はKpnIであることが好ましく、第一の領域の塩基配列が、5'-TCTTGGTACC-3'(配列番号1)であることがさらに好ましい。
【0009】
また、工程(6)における、相補的ポリヌクレオチドの合成のための反応温度が、75℃以上であることが好ましく、98℃、85℃、および75℃の各温度に連続して設定されていてもよい。
【0010】
第二の領域におけるランダムな塩基配列が、16〜30塩基から構成されていてもよい。
【0011】
第三の領域は、前記5’ 側領域と、前記3’ 側領域とがセルフアニーリングしている場合に、第二の制限酵素によって認識される塩基配列、および第二の制限酵素による切断部位を含み、前記第一の制限酵素と第二の制限酵素は互いに異なる制限酵素であることが好ましい。
【0012】
第二の制限酵素がHindIIIであることが好ましく、第三の領域の塩基配列が、5'-AAGCTTCACTGANNNNNNNNNTCAGTGAAGCTT-3'(配列番号2)であることがさらに好ましい。
【0013】
工程(4)に記載の二本鎖リンカーDNAは、第三の制限酵素により認識される塩基配列を含み、工程(6)のプライマーは、前記一本鎖リンカーDNA領域と、該プライマーを用いて合成した該一本鎖リンカーDNA領域に相補的なポリヌクレオチド領域とを含む二重鎖ポリヌクレオチド領域が、第三の制限酵素によって認識される塩基配列を含むように設計されていてもよい。
【0014】
第三の制限酵素がMlyIであることが好ましく、二本鎖リンカーDNAが、
5'-TTCCAGGGTTTTCCCAGTCACGACGTTGTAGAGTCGTAC-3'(配列番号3)
3'- AGGTCCCAAAAGGGTCAGTGCTGCAACATCTCAG -5'(配列番号4)であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明に係るshRNA発現ライブラリーの製造方法は、上記工程(1)〜(6)を含み、さらに、(7)工程(6)で得られた、前記一本鎖ポリヌクレオチドと、当該一本鎖ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドから構成される二重鎖DNAに対し、第二の制限酵素を用いて、該二重鎖DNAにおける第二の制限酵素による切断部位に挟まれた領域を除去する工程と、(8)前記(7)で得られた二重鎖DNAを、該DNAを転写することのできる発現ベクターに挿入する工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る別のshRNA発現ライブラリーの製造方法は、上記工程(1)〜(6)を含み、さらに、(7)工程(6)で得られた、前記一本鎖ポリヌクレオチドと、当該一本鎖ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドから構成される二重鎖DNAをベクターに挿入する工程と、(8)前記工程(7)でベクターに挿入された二重鎖DNA領域に対し、第二の制限酵素を用いて、該二重鎖DNAにおける第二の制限酵素による切断部位に挟まれた領域を除去する工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
ここで、本発明に係るshRNA発現ライブラリーの製造方法において、ベクターが、ウイルスベクターであることが好ましく、レンチウイルスベクターであることがさらに好ましい。
【0018】
本発明に係る遺伝子のスクリーニング方法は、本発明に係るshRNA発現ライブラリーを用いた方法であって、shRNA発現ライブラリーが導入された第1の細胞集団と、前記shRNA発現ライブラリーが導入されていない第2の細胞集団との間の表現型の差異を検出し、前記差異の原因である、shRNAを同定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、ランダムな塩基配列を有するshRNAを発現するライブラリーの製造方法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態における、DNAライブラリーの製造工程、およびshRNA発現ライブラリーの製造工程を示した図である。
【図2】本発明の一実施形態における、DNAライブラリーの製造工程を示した図である。
【図3】本発明の一実施形態における、shRNA発現ライブラリーの製造工程を示した図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるDNAライブラリーの製造工程において、配列番号7の塩基配列を有するヘアピン状ポリヌクレオチドをKpnIで切断することにより得られたDNAを示す電気泳動図(A、矢印);Aの矢印で示されるバンドに含まれるDNAに二本鎖リンカーDNAをライゲーション、BsiWI切断して得られた、DNAを示す電気泳動図(B、矢印);配列番号8の塩基配列を有するヘアピン状ポリヌクレオチドをBglIIで切断することにより得られたDNAを示す電気泳動図(C、矢印);Cで示される、BglII切断したヘアピン状ポリヌクレオチドに二本鎖リンカーDNAをライゲーションして得られたDNAを示す電気泳動図(D:矢印は、得られるべきDNAを示す)である。
【図5】本発明の一実施形態において、Taqポリメラーゼあるいはpyrobestを用いてポリヌクレオチド鎖の合成を行った場合に得られた二重鎖DNAを示す電気泳動写真である。
【図6】本発明の一実施形態において製造したshRNA発現ライブラリーにおいて、抽出して検定したDNAの塩基番号と塩基の種類を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、上記知見に基づき完成した本発明の実施の形態を、実施例を挙げながら詳細に説明する。
【0022】
実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.等の標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いる場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0023】
なお、本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的な実施例等は、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図ならびに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々に修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0024】
本明細書において「ポリヌクレオチド」は、ポリヌクレオチド鎖、およびポリヌクレオチド鎖を構成する一部の領域のいずれも指すものとする。
【0025】
また、本明細書において、「制限酵素による切断部位」とは、その制限酵素を用いた切断処理によって分断される、互いに隣接する塩基と塩基の間を指す。そして、領域、ポリヌクレオチド鎖、あるいはDNA鎖が「制限酵素により切断される部位を含む」とは、領域、ポリヌクレオチド鎖、あるいはDNA鎖の内部に上記「制限酵素による切断部位」を含むこと、および、領域、ポリヌクレオチド鎖、あるいはDNA鎖の末端に上記「制限酵素による切断部位」を含むこと、のどちらであってもよい。
【0026】
==一本鎖ポリヌクレオチド==
本発明に係る一本鎖ポリヌクレオチドは、5’末端から3’末端の方向に、第一の領域、第二の領域、および第三の領域を含む一本鎖ポリヌクレオチドである。この一本鎖ポリヌクレオチドは、以下に説明するような配列を有する範囲内でその取得方法によって制限されず、例えば、固相ホスホラミイダイトトリエステル法(Beaucage and Caruthres, Tetrahedron Letts., 22(20): 1859-1862, 1981)や自動合成機(Needham-VanDavanter et al., Neucleic Acids Res., 12: 6159-6168, 2984)により合成することができる。また、当業者に周知の市販供給元に外注して製造することもできる。
【0027】
第一の領域の塩基配列は、この第一の領域がその相補鎖を有する場合に、第一の制限酵素によって認識される塩基配列を含む。なお、第一の制限酵素によって切断される部位は第一の領域と第二の領域の間に挟まれる領域に含まれていてもよく、または、第三の領域側の末端以外であれば、第二の領域に含まれていてもよい。第一の領域を構成する塩基配列数は制限されないが、4塩基以上であることが好ましく、4〜2000塩基であることがより好ましく、4〜30塩基であることが最も好ましい。第一の制限酵素は、I型制限酵素、II型制限酵素、III型制限酵素のいずれであってもよい。第一の制限酵素によって認識される塩基配列は、回文配列であっても、あるいは非対称配列であっても制限されない。また、制限酵素の切断型も特に制限されず、SacI、SalI、XhoI、KpnI等の3’突出型であっても、EcoRI、AciI、HindIII等の5’突出型であっても、あるいはHpaI、AccII、AfaI等の平滑末端型であってもよいが、3’突出型であることが好ましく、KpnIであることが特に好ましい。第一の領域の塩基配列として、例えば、以下の塩基配列を使用することができる。
5'-TCTTGGTACC-3'(配列番号1)
【0028】
第二の領域は、この領域を構成する塩基数によって制限されないが、6塩基以上であることが好ましく、10〜500塩基であることがより好ましく、16〜30塩基であることがさらに好ましい。
【0029】
第三の領域は、この領域を構成する塩基数によって制限されないが、10塩基以上であることが好ましく、20塩基〜60塩基であることがより好ましい。第三の領域は、その領域内の5’側領域と3’側領域とが相補的な塩基配列を有している。この5’側領域と3’側領域における相補的なポリヌクレオチド領域は、互いにアニーリングした場合に第二の制限酵素によって認識される塩基配列、および第二の制限酵素による切断部位を含んでいてもよい。なお、第二の制限酵素による切断部位は、第二の領域と第三の領域の間に挟まれる領域に含まれていてもよく、あるいは、第一の領域側の末端以外であれば、第二の領域に含まれていてもよい。第二の制限酵素は、第一の制限酵素とは異なる制限酵素であれば制限されず、I型制限酵素、II型制限酵素、III型制限酵素のいずれであってもよい。第二の制限酵素によって認識される塩基配列は、回文配列であっても、あるいは非対称配列であっても制限されない。また、制限酵素の切断型も特に制限されず、SacI、SalI、XhoI、KpnI等の3’突出型であっても、EcoRI、AciI、HindIII等の5’突出型であっても、あるいはHpaI、AccII、AfaI等の平滑末端型であってもよいが、第二の制限酵素はHindIIIであることが好ましい。このような第三の領域の塩基配列として、例えば、HindIIIによって認識される塩基配列および切断部位を含む、
5'-AAGCTTCACTGANNNNNNNNNTCAGTGAAGCTT-3'(配列番号2)
が例示できる。
【0030】
==DNAライブラリーの製造方法==
上述したような、第一の領域、第二の領域、および第三の領域を含む一本鎖ポリヌクレオチドを用い、shRNAを発現させるためのDNAを製造することができる。特に、第二の領域がランダムな塩基配列を有する一本鎖ポリヌクレオチドの集団を用いることによって、ランダムなshRNAを細胞内で発現させるためのDNAライブラリーを製造することができる。第二の領域のランダムな塩基配列の種類が多い場合に、より優れたDNAライブラリーを製造することができる。なお、DNAライブラリーとは、少なくとも2種類以上の異なる塩基配列を有するDNAの集団を指す。
【0031】
以下に説明するDNAライブラリーの製造方法(図1参照)において、加熱、冷却等の工程は、当業者に周知の機器を使用して適宜行うことができる。例えば、サーマルサイクラ−、温度調節器付ウォーターバス、インキュベーター等を使用すればよい。
【0032】
(工程1)
まず、上述したような、第一の領域、第二の領域、および第三の領域を含む一本鎖ポリヌクレオチドの第三の領域の、5’側領域と3’側領域における相補的なポリヌクレオチド領域をセルフアニーリングさせ、第三の領域の3’側末端から、DNAポリメラーゼを用いて、第二の領域および第一の領域に相補的なポリヌクレオチドを合成する。これによって、ヘアピン状ポリヌクレオチドが合成される。第三の領域のセルフアニーリング、および、第三の領域の3’側末端からのポリヌクレオチド合成のための反応温度は、第三の領域における5’側領域と3’側領域を構成するポリヌクレオチドの塩基配列を考慮し、当業者が適宜設定することができるが、4〜99℃であることが好ましく、25〜80℃であることがより好ましく、30〜45℃であることがさらに好ましい。また、使用するDNAポリメラーゼは、所望のヘアピン状ポリヌクレオチドが合成される範囲で制限されず、例えば、DNAポリメラーゼI、DNAポリメラーゼII、DNAポリメラーゼIII、DNAポリメラーゼα、DNAポリメラーゼβ、DNAポリメラーゼγ等の周知のDNAポリメラーゼから正確性や反応条件等を考慮して当業者が適宜選択できる。特に入手や取扱いが容易な市販のDNAポリメラーゼIとしては、TaqポリメラーゼやKlenow断片等が挙げられる。
【0033】
(工程2)
次に、工程1で得られたヘアピン状ポリヌクレオチドにおいて第一の領域に対応する二重鎖が、その認識塩基配列および切断部位を有する第一の制限酵素を用いて、ヘアピン状ポリヌクレオチドを切断処理する。切断処理の条件は特に限定されないが、第一の制限酵素の至適温度で行えばよく、反応時間は当業者が適宜設定することができる。この切断処理によって、切断された二本鎖からなる第一の領域の一部と、第二の領域と第三の領域を含む一本鎖からなるポリヌクレオチド鎖とが生じる。
【0034】
(工程3)
続いて、工程2で得られた、第二の領域と第三の領域を含むポリヌクレオチド鎖に対し、5’末端の脱リン酸化処理を行う。脱リン酸化は、例えばBAP(骨型アルカリフォスファターゼ)やCIAP(子ウシ小腸由来アルカリフォスファターゼ)等の市販のアルカリフォスファターゼを用いて行うことができる。反応に使用するアルカリフォスファターゼの量、反応温度、反応時間等は、当業者が適宜決定すればよい。
【0035】
(工程4)
次に、この5’末端が脱リン酸化されたポリヌクレオチド鎖の3’末端に、二本鎖リンカーDNAを構成するいずれか一方のリンカーDNA鎖の5’末端を結合させる。この反応では、二本鎖リンカーDNAを構成する他方のリンカーDNA鎖は、結合しないままである。なお、5’末端が脱リン酸化されたポリヌクレオチド鎖と二本鎖リンカーDNAのモル比、使用するリガーゼの種類、量、バッファー等の反応条件は、当業者が適宜決定すればよい。
本工程の二本鎖リンカーDNAの塩基配列は、特に制限されないが、第一および第二の制限酵素とは異なる第三の制限酵素によって認識される塩基配列を有していることが好ましい。第三の制限酵素によって切断される部位は、二本鎖リンカーDNAの塩基配列に含まれていてもよいが、リンカーDNAが結合したポリヌクレオチド鎖において、リンカーDNAとポリヌクレオチド鎖の間に挟まれる領域、あるいは、第三の領域側の末端でない限り、第二の領域に含まれていてもよい。これにより、二本鎖リンカーDNA領域を制限酵素で切断できるようになる。第三の制限酵素の種類は、第一および第二の制限酵素と異なっていれば特に限定されないが、MlyIであることが特に好ましい。
以上のような二本鎖リンカーDNAとして、MlyIによって認識される塩基配列を含む、
5'-TTCCAGGGTTTTCCCAGTCACGACGTTGTAGAGTCGTAC-3'(配列番号3)
3'- AGGTCCCAAAAGGGTCAGTGCTGCAACATCTCAG -5'(配列番号4)
が例示できる。
また、二本鎖リンカーDNA領域に、プロモーターや転写開始シグナル、あるいは転写終結シグナルなどの発現に必要なシグナルを含ませてもよい。それによって、本発明の方法で製造されたDNAライブラリーを発現ベクターに挿入して使用する場合、DNAライブラリーの側から、転写に必要なシグナルを供給することが可能になる。この場合、同時に第三の制限酵素による認識配列及び切断部位を含ませようとすると、第三の制限酵素による切断後もシグナルが残るように、第三の制限酵素の内側にシグナルを配置するのが好ましい。
【0036】
(工程5)
このようにして得られたポリヌクレオチド鎖は、5’末端から3’末端の方向に、第二の領域、第三の領域、第二の領域に相補的な塩基配列を有する領域、一本鎖リンカーDNA領域を含むが、一本鎖リンカーDNA領域は、二本鎖リンカーDNAにおける他方の一本鎖DNA領域とアニーリングしたままである。そこで、本工程では、これら2つのDNAを、第二の領域、第三の領域、第二の領域に相補的な塩基配列を有する領域、および一本鎖リンカーDNA領域を含むポリヌクレオチド鎖と、もう一方の一本鎖リンカーDNA鎖とに解離する処理を行う。具体的な方法は特に限定されず、アルカリ処理でも加熱処理でもよいが、処理の簡便さから加熱処理が好ましい。加熱温度および時間は、二本鎖リンカーDNA領域が解離する温度であれば特に制限されない。
【0037】
(工程6)
次に、第二の領域、第三の領域、第二の領域に相補的な塩基配列を有する領域、および一本鎖リンカーDNA領域を含むポリヌクレオチド鎖に対し、一本鎖リンカーDNA領域にアニールするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、このポリヌクレオチド鎖に相補的なポリヌクレオチドを合成し、本発明のDNAライブラリーを製造することができる。
本工程では、プライマーが一本鎖リンカーDNA領域にアニールする一方で、このポリヌクレオチド鎖が高次構造をとらない、例えば、第二の領域と第二の領域に相補的な塩基配列を有する領域、および、第三の領域はアニーリングしない条件下で反応を行う必要がある。従って、一本鎖リンカーDNA領域と、プライマーとのTm値(Tm−1)が、第二の領域と第二の領域に相補的な塩基配列を有する領域、および、第三の領域の相補的ポリヌクレオチド領域のTm値(Tm−2)よりも低くなるように、一本鎖リンカーDNA領域とプライマーの配列が設計されている必要がある。そして、本工程でのDNA合成の反応温度を、Tm−1とTm−2の間に設定すればよい。第二の領域がランダムな塩基配列を有することを考慮すると、反応温度は例えば75℃以上であることが好ましく、85℃以上であることがより好ましく、98℃以上であることがさらに好ましいが、複数の温度で多段階に反応させてもよい。例えば、75℃、85℃、98℃の各温度に連続して温度設定して反応を行ってもよい。また、第二の領域と第二の領域に相補的な塩基配列を有する領域、および、第三の領域の相補的ポリヌクレオチド領域が変性していることを確実にするため、反応前に加熱−急冷等の処理を行うことが好ましい。
ここで使用するDNAポリメラーゼは、本工程の温度条件、合成するヌクレオチド鎖の長さ、正確性等を考慮して当業者が適宜選択することができ、DNAポリメラーゼI、DNAポリメラーゼII、DNAポリメラーゼIII、DNAポリメラーゼα、DNAポリメラーゼβ、DNAポリメラーゼγ等の周知のDNAポリメラーゼのいずれであってもよいが、耐熱性DNAポリメラーゼであることが好ましい。特に、3’から5’側へのエンドヌクレアーゼ活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼであることが好ましく、耐熱性α型DNAポリメラーゼであることがさらに好ましい。使用するDNAポリメラーゼの反応至適温度は65℃以上であることが好ましく、75℃以上であることがより好ましく、85℃以上であることがさらに好ましい。75℃以上の高温で安定して反応を行えるDNAポリメラーゼとして、例えばpyrobest(登録商標)DNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)が挙げられる。pyrobestは、Pyrococcus sp. 由来の3’側から5’側へのエンドヌクレアーゼ活性を有する耐熱性α型DNAポリメラーゼであり、40〜50℃付近でのDNAポリメラーゼ活性は2〜9%、反応至適温度は約75℃である。
なお、リンカーDNA領域が、第三の制限酵素によって認識される塩基配列、あるいは第三の制限酵素による切断部位を含む塩基配列を有している場合、製造したDNAライブラリーを第三の制限酵素によって切断できるようにするため、合成したDNAがその認識配列および切断部位を含むように、本工程で使用するプライマーの位置を決めることが好ましい。このようなプライマーとして、例えば、
5'-TCCAGGGTTTTCCCAGTCACGACGTTGTAGAGTCGTACC-3'(配列番号5)の塩基配列を有するプライマーを使用することができ、反応時間や反応時間等の反応条件は当業者が適宜設定することができる。
【0038】
==shRNA発現ライブラリーの製造方法==
以上のように製造したDNAライブラリーをベクターに挿入して、shRNA発現ライブラリーを製造することができる。挿入方法は特に限定されないが、DNAライブラリーが第三の制限酵素の認識配列及び切断部位を有していれば、第三の制限酵素で切断し、同じ酵素で切断したベクターに挿入するのが好ましい。なお、プロモーターや転写開始シグナル、あるいは転写終結シグナルなどの発現に必要なシグナルは、DNAライブラリー側から供給しても、ベクター側から供給しても構わない。
【0039】
DNAライブラリーを挿入するベクターは、DNAを転写することのできるベクター(発現ベクター)であれば特に制限されず、例えば当業者に周知のウイルスベクターであっても、プラスミドベクターであってもよい。ベクターの選択には、製造するshRNA発現ライブラリーを使用する対象の細胞等を考慮すればよく、例えば、哺乳類の細胞に対して使用する場合には、レンチウイルスベクターに挿入してもよい。
【0040】
第一の領域、第二の領域、および第三の領域を含む一本鎖ポリヌクレオチドの第三の領域において、5’側領域と3’側領域における相補的なポリヌクレオチド領域が互いにアニーリングした場合に第二の制限酵素によって認識される塩基配列、および第二の制限酵素による切断部位を含んでいる場合には、DNAライブラリーを、発現ベクターに挿入する前、あるいは挿入した後に、第二の制限酵素による切断部位に挟まれた領域を除去することができる。DNAライブラリーを発現ベクターに挿入する前に、第二の制限酵素による切断部位に挟まれた領域を除去する場合、例えば、発現ベクターとは異なる好適なベクターにDNAライブラリーを挿入し、第二の制限酵素によって切断、セルフライゲーションすればよい。このようにして第二の制限酵素による切断部位に挟まれた領域が除去されたDNAライブラリーを、適切な制限酵素によりベクターから切り出した後、発現ベクターに挿入することができる。一方、DNAライブラリーを発現ベクターに挿入した後に、第二の制限酵素による切断部位に挟まれた領域を除去する場合、DNAライブラリーを発現ベクターに挿入した後に、第二の制限酵素で切断処理を行い、セルフライゲーションすればよい。
【0041】
==shRNA発現ライブラリーの使用==
以上のように製造したshRNA発現ライブラリーは、特定の機能を有する遺伝子のスクリーニングに使用することができる。
例えば、shRNA発現ライブラリーが導入された第1の細胞集団と、shRNAが導入されていない第2の細胞集団との間の表現型の差異を検出する。そして、その差を有する細胞を同定し、shRNAを回収することにより、その表現型の差異を生じさせているshRNAを同定できる。このshRNAにより発現が抑制されている遺伝子を特定することにより、ある機能に結びついた遺伝子を発見することができる。
ここで、表現型の差異とは、例えば形態学的差異や生化学的差異のことである。形態学的差異は、第一の細胞集団と、第二の細胞集団とを肉眼、あるいは顕微鏡等を用いて観察することによって調べることができる。生化学的差異は、例えば、第一の細胞集団と、第二の細胞集団とにおけるタンパク質の発現パターンや酵素活性の差異等を、当業者に周知の手法を用いて検出することによって調べることができる。
このようなスクリーニングの具体例として、例えば腫瘍細胞に対してこのスクリーニングを行い、特定の遺伝子の発現の抑制が腫瘍細胞の増殖を抑制した場合には、その腫瘍細胞の増殖に関わる遺伝子を特定することができ、さらに、その遺伝子発現を抑制するsiRNAを抗腫瘍剤として使用することもできる。
【実施例】
【0042】
本実施例では、以下に説明するようにDNAライブラリーおよびshRNA発現ライブラリーを調製した(図2、3参照)。
【0043】
==DNAライブラリーの調製==
まず、5’末端から3’末端の方向に、TCTTGGTACC(配列番号1)、ランダムな19塩基、AAGCTTCACTGATCCTTCGCTTCAGTGAAGCTT(配列番号6)の塩基配列を有する一本鎖ポリヌクレオチド集団を化学合成した。この1μM 一本鎖ポリヌクレオチド1ml、1M MgCl 10μl、10mM dNTPs 10μl、およびKlenow断片 10μl(2ユニット/μl、タカラバイオ株式会社)を混合し、37℃で2時間インキュベートした。得られた産物をアクリルアミドゲルによる電気泳動により確認した。得られた産物をMERmaid SPIN Kit(Qbiogene 社)の3カラムを用い、計300μlの溶出バッファーにDNAを溶出させ、回収した。本工程では、
5'-TCTTGGTACC-(N)19-AAGCTTCACTGATCCTTCGCTTCAGTGAAGCTT-(N)19-GGTACCAAGA-3'(配列番号7)の塩基配列を有するヘアピン状ポリヌクレオチドが得られる(図2参照)。
【0044】
次に、上記ヘアピン状ポリヌクレオチド 300μl、純水 525μl、10×NEBバッファー1 (New England Biolabs 社)100μl、KpnI(10ユニット/μl) 75μlを混合し、37℃で一晩インキュベートした。この反応溶液にさらに25μlのKpnIを加え、37℃で2時間インキュベートした後、試料をアクリルアミドゲルによる電気泳動により確認した(図4A)。末端が切断されたヘアピン状ポリヌクレオチドをMERmaid SPIN Kit(Qbiogene 社)の3カラムを用いて精製し、計225μlの溶出バッファーにDNAを溶出させ、回収した。この溶出試料225μl、1M Trisバッファー(pH8.5) 250μl、10×CIAPバッファー 100μl、CIAP(10ユニット/μl) 30μlに純水を加えて1mlの反応溶液を調製し、50℃で1時間インキュベートした。この反応試料を2分割し、それぞれエタノール沈殿法によってDNAの沈殿を得た。このDNAの沈殿を、0.7mlのT10バッファー(10mM Tris−HCl(pH 8.0))に溶解した後、MERmaid SPIN Kit(Qbiogene 社)の2カラムを用い、計200μlの溶出バッファーにDNAを溶出させた。
【0045】
続いて、DNA Ligation Kit Ver2.1(タカラバイオ株式会社)を用い、下記二本鎖リンカーDNA(配列番号4のポリヌクレオチド鎖の5’末端をリン酸化処理した後、配列番号3のポリヌクレオチド鎖とアニーリングしたもの、20μM)190μl、I液760μl、II液380μlを混合し、16℃で一晩インキュベートすることにより、リンカーDNAのヘアピン状ポリヌクレオチドへのライゲーション反応を行った。次に、エタノール沈殿法によりDNAを沈殿させ、500μlのT10バッファーに溶解した。
二本鎖リンカーDNA:
5'-TTCCAGGGTTTTCCCAGTCACGACGTTGTAGAGTCGTAC-3'(配列番号3)
3'- AGGTCCCAAAAGGGTCAGTGCTGCAACATCTCAG -5'(配列番号4)
【0046】
このようにして得られたDNA試料 500μl、10×NEBバッファー3 (New England Biolabs 社)60μl、BsiWI(10ユニット/μl) 40μlを混合し、55℃で一晩インキュベートした。この処理により、二本鎖リンカーDNAが複数結合してできた反応副産物が切断される。このDNA試料を、アクリルアミドゲルで電気泳動し(図4B、矢印)、第二の領域、第三の領域、および一本鎖リンカーDNA領域を含む一本鎖ポリヌクレオチドに対応するバンドを含むゲルを切り出した後、crush and soak法(BioTechniques 18, 33-35)によってDNAをゲルから回収し、さらにエタノール沈殿法によってDNAを沈殿させた。このDNAをT10バッファーに溶解した。
【0047】
このDNA溶液を、数分間煮沸した後、氷上で冷却した。この変性処理により、二本鎖リンカーDNAのうち、ヘアピン状ポリヌクレオチドに共有結合していないDNA鎖が解離し、また、第二の領域、第三の領域、および一本鎖リンカーDNA領域を含む一本鎖ポリヌクレオチドにおけるヘアピン状構造が解離する。
【0048】
ここで、本方法「DNAライブラリーの調製」における上記一連の工程に関し、配列番号7の塩基配列を有するヘアピン状ポリヌクレオチドの代わりに、TATAGATCT-(N)19-ATTAATCACTGATCCTTCGCTTCAGTGATTAAT-(N)19-AGATCTATA(配列番号8)の塩基配列を有する等量のヘアピン状ポリヌクレオチドを用い、KpnIに代わって、BglII(1000ユニット)を用い、KpnIの場合と同条件でインキュベートした場合、ヘアピン状ポリヌクレオチドの切断は不完全であった(図4C)。その後、KpnIの場合と同様に処理し、二本鎖リンカーDNAを結合したところ、ヘアピン状ポリヌクレオチドに二本鎖リンカーDNAが結合した目的の産物以外に、目的としない副産物が同時に得られた(図4D)。従って、KpnIの方が、BglIIより、ここでの処理に適しているため、以下の工程には、KpnIで処理することによって得られたDNAを用いた。
【0049】
加熱変性させた一重鎖DNAおよび10μlに対し、100μMプライマー(配列番号5)2μl、dNTPs(2.5mM)4μl、純水28μl、pyrobest(5ユニット/μl、タカラバイオ株式会社)あるいはrTaqDNAポリメラーゼ(rTaq、5ユニット/μl、東洋紡ライフサイエンス社)1μl、10×PCR用バッファー 5μlを含む50μlのサンプルを混合し、98℃で5分、85℃で5分、さらに75℃で5分インキュベートし、二重鎖DNAを合成した。なお、98℃から85℃、85℃から75℃の間は、1秒当たり0.1℃で温度を下降させた。この反応を、計47チューブ分繰り返し、反応溶液をアクリルアミドゲルによる電気泳動に供し、合成された二重鎖DNAに対応するバンドを含むゲルを切り出した後、crush and soak法(BioTechniques 18, 33-35)によってDNAをゲルから回収し、さらにエタノール沈殿法によってDNAを沈殿させた。このDNAを200μlのT10バッファーに溶解した。
【0050】
なお、ここで、rTaqを用いて伸長反応を行った場合には、十分な二重鎖DNAを得ることができなかった(図5)。従って、以下のshRNA発現ライブラリー調製の工程はpyrobestを用いて得られた二重鎖DNAを用いて行った。
【0051】
==shRNA発現ライブラリーの調製方法==
得られた二重鎖DNA200μl当たり、MlyI(10ユニット/μl、New England Biolabs 社)40μl、10×NEBバッファー4(New England Biolabs 社) 90μl、純水 570μlを加えて混合し、37℃で一晩インキュベートした。この反応溶液を、アクリルアミドゲルによる電気泳動に供し、リンカーDNAが除去された二重鎖DNAに対応するバンドを含むゲルからcrush and soak法(BioTechniques 18, 33-35)によってDNAを回収した。さらにエタノール沈殿法によってDNAを沈殿させ、沈殿したDNAを400μlのT10バッファーに溶解した。この工程により、リンカーDNAが除去された二重鎖DNAの集合体が得られる。得られた400μlのDNA試料に対し、Takara BKL kit(タカラバイオ株式会社)の10×バッファー、Blunting kination Enzyme Mix 20μlを混合し、37℃で10分間インキュベートした。反応後、反応溶液についてフェノール精製、クロロホルム精製を行った後、DNAをエタノール沈殿法によって沈殿させた。得られたDNAの沈殿を500μlのT10バッファーに溶解させた。これにより、リンカーDNAが除去された二重鎖DNAの集合体に含まれるDNAの両末端が平滑化され、5’末端がリン酸化された。
【0052】
終結シグナルが挿入されたpBluescript SK−ベクター(pBluescript SK−ベクターのBamHI、SalI制限酵素部位に、終結シグナルを含むDNA(配列番号9、10)を挿入して作成)200 μg、Nsi I(New England Biolabs 社)1000ユニット、10×NEBバッファー3(New England Biolabs 社)200μl、純水を混合して反応液2mlを調製し、37℃で3時間反応させた。その後、65℃で20分熱処理し、エタノール沈殿法によりDNAを精製した。このDNA全量、SmaI(New England Biolabs 社)1200ユニット、10×NEBバッファー4(New England Biolabs 社)、純水を混合し、反応液2mlを25℃で一晩インキュベートし、エタノール沈殿法によりDNAを精製した。その後、Takara blunting kit(タカラバイオ株式会社)を用い、上記のように制限酵素によって切断されたベクターの末端を平滑化し、QIAGEN Qiaquick gel purification kit(Qiagen 社)で精製した後、10×CIAPバッファー、および、CIAP(10ユニット/μl)に純水を加えて反応溶液を調製し、50℃で1時間インキュベートしてベクター末端の脱リン酸化処理を行った。その後、ベクターをアガロースゲル電気泳動後に供し、DNAを含むバンドを切り出し、QIAGEN Qiaquick gel purification kitで精製し、直鎖化終結シグナル挿入pBluescript SK−ベクターを得た。
終結シグナルを含むDNA:
5'-GATCCCCGGGCTTATGCATTTTTGGAAAAG -3'(配列番号9)
3'- GGGCCCGAATACGTAAAAACCTTTTCAGCT-5'(配列番号10)
【0053】
次に、DNA Ligation Kit Ver2.1(タカラバイオ株式会社)を用い、リンカーDNAが除去された二重鎖DNAの集合体150μl、直鎖化終結シグナル挿入pBluescript SK−ベクター120μl(200ng/μl)、I液3.5mlを純水で7mlに調製した混合液を16℃で一晩インキュベートした。反応液を、QIAGEN purification kit(Qiagen 社)の22カラムを用いて、二重鎖DNAの集合体が挿入されたベクターに対応するバンドを含むゲルからDNAを回収し、計3mlのDNA溶液を得た。
【0054】
以上のように得られた、組み換えDNAを有するpBluescriptベクターのDNA試料1.05mlに対し、HindIII(100ユニット/μl)30μl 10×NEBバッファー2(New England Biolabs 社) 120μlを混合し、37℃で4時間インキュベートした。反応液をQIAGEN purification kitの16カラムを用いて精製し、計1.6mlのDNA溶液を得た。得られたDNAは、二重鎖DNAの集合体からHindIIIによる切断部位に挟まれる領域が除去されたベクターである。このDNA試料1.5mlに対し、10×バッファー7.5ml、T4DNAリガーゼ750μl、純水65mlを加え、16℃で一晩インキュベートした。反応液を、QIAGEN purification kitの16カラムを用いて、環状化したプラスミドDNAを精製し、計2.4mlのDNA−T10溶液を得た。以上のHindIII処理およびライゲーション処理により、組み換えDNAを有するpBluescriptベクターにおいて、組み換えDNA領域のHindIII切断部位に挟まれる領域が除去された。
【0055】
1チューブ当たり、以上のように得られた組み換えpBluescriptベクター試料3μl、STBL4コンピテントセル(インビトロジェン株式会社)25μlを混合し、形質転換を行った。同様に100チューブで形質転換を行い、全ての形質転換体をプールし、ここにLB培地を加えて液量を100mlとした。この液に含まれる独立コロニー数は、7.1×10であった。
【0056】
QIAGEN plasmid purification kit(Qiagen 社)で精製したDNA200μl(1mg)、BamHI(New England Biolabs 社) 1000ユニット、SalI(New England Biolabs 社) 1000ユニット、10×NEBバッファー2(New England Biolabs 社) 100μl、純水800μlを混合し、37℃で6時間インキュベートした。反応液をアガロースゲルによる電気泳動に供し、バンドを含むゲルからDNAを精製し、計1mlのDNA溶液を得た。
【0057】
レンチウイルスベクター(FIVベースのベクターに、H1 promoterとBlasticidin耐性遺伝子をクローニングしたベクター)を、BamHI(New England Biolabs 社) 3000ユニットで37℃、2時間処理し、アガロースゲル電気泳動後、バンドを切り出し、QIAGEN Qiaquick gel purification kitで精製した。引き続きSalI(New England Biolabs 社) 3000ユニット、10×NEBバッファー2(New England Biolabs 社) 100μl、純水800μlを混合し、37℃で6時間インキュベートした。反応液をアガロースゲルによる電気泳動に供し、QIAGEN plasmid purification kitを用いてバンドを含むゲルからDNAを精製し、計3.3mlの直鎖化レンチウイルスベクターを得た。
【0058】
DNA Ligation Kit Ver2.1(タカラバイオ株式会社)を用い、以上のようにして得られたDNA溶液1mlおよび直鎖化レンチウイルスベクター500μg、I液 3.75mlを混合し、純水で全反応液量を7.5mlに調製し、16℃で一晩インキュベートした。この工程により、レンチウイルスベクターに、ランダムDNA配列が挿入される。反応液を、QIAGEN gel purification kit(Qiagen 社)で精製し、2mlのshRNA発現ライブラリーを得た。
【0059】
==shRNA発現ベクターの検定==
上記のように得られたshRNA発現ライブラリー溶液6.3μl、STBL4コンピテントセル(インビトロジェン株式会社)33μlをチューブに混合し、形質転換を行った。120チューブの反応を同様にして行い、全チューブの反応液をプールした。ここに、LB培地を加え、全反応液量を140mlとした。全反応液中に含まれる独立コロニー数は1.4×10であった。アンピシリン含有LB培地で培養したコロニーから84コロニーをランダムに選択してDNAを精製し、塩基配列を決定した。
【0060】
上記84クローンのうち、異常な配列を持つ2クローンを除いた82クローンの塩基配列をFASTAで解析した。表1に示す様に、82クローンの全てにおいて、16塩基以上(連続していないものも含む)が既知のヒト遺伝子と一致した。また、Gが3つ以上、Cが4つ以上、GまたはCが5つ以上、Tが4つ以上、Aが4つ以上連続していないというshRNAの設計のルールに当てはまるクローンは、全体の45%であった。さらに、図6に示す様に、1〜19番目までの塩基において塩基の種類に偏りが見られず、ランダムな配列であった。従って、構築したshRNA発現ライブラリーは、遺伝子スクリーニングに十分使用できるものである。
【表1】

【0061】
==レンチウイルスライブラリー==
上記のように得られたshRNA発現ライブラリー1.2 mgを、パッケージングプラスミド(SBI社)3.6 mgと共に293T細胞に導入した。培養上清8Lを回収し、これをレンチウイルスライブラリーとした。このレンチウイルスライブラリーのタイターは、1.3×10であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’末端から3’末端の方向に、第一の領域、第二の領域、および第三の領域を含む一本鎖ポリヌクレオチドであって、
前記第一の領域は、該第一の領域が相補鎖を有する場合に第一の制限酵素により認識される塩基配列、および第一の制限酵素による切断部位を含み、
第二の領域は、6塩基以上から成り、
前記第三の領域の5’側領域と3’側領域の塩基配列は相補的であって、
第一の制限酵素は3’突出を形成する制限酵素であることを特徴とする、一本鎖ポリヌクレオチド。
【請求項2】
請求項1に記載の一本鎖ポリヌクレオチドの集団を用いた、DNAライブラリーの製造方法であって、
前記一本鎖ポリヌクレオチドの集団は、前記第二の領域がランダムな塩基配列を有することを特徴とし、
該方法は、
(1)セルフアニーリングした前記第三の領域の3’末端から、前記第二の領域および前記第一の領域に相補的なポリヌクレオチドを合成し、ヘアピン状ポリヌクレオチドを作製する工程と、
(2)前記工程(1)で得られた前記ヘアピン状ポリヌクレオチドを第一の制限酵素を用いて切断処理する工程と、
(3)前記工程(2)で得られた、前記第二の領域および前記第三の領域を含む産物の5’末端を、脱リン酸化処理する工程と、
(4)前記工程(3)の産物の3’末端に、二本鎖リンカーDNAを構成するいずれか一方のリンカーDNA鎖の5’末端を結合させる工程と、
(5)前記工程(4)で得られた二重鎖DNAを、前記第二の領域、前記第三の領域、および一本鎖リンカーDNA領域を含む一本鎖ポリヌクレオチドと、前記二本鎖リンカーDNAのもう一方のDNA鎖に解離する工程と、
(6)前記工程(5)で得られた前記一本鎖ポリヌクレオチドを構成する一本鎖リンカーDNA領域の少なくとも一部にプライミングするポリヌクレオチドをプライマーとして、当該一本鎖ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドを合成する工程と、
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の製造方法であって、
前記第一の制限酵素がKpnIであることを特徴とする、製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の製造方法であって、
前記第一の領域の塩基配列が、
5'-TCTTGGTACC-3'であることを特徴とする、製造方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の製造方法であって、
工程(6)における、相補的ポリヌクレオチドの合成のための反応温度が、75℃以上であることを特徴とする、製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法であって、
前記反応温度が、98℃、85℃、および75℃の各温度に連続して設定されることを特徴とする、製造方法。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれかに記載の製造方法であって、
前記ランダムな塩基配列が、16〜30塩基からなることを特徴とする、製造方法。
【請求項8】
請求項2〜7のいずれかに記載の製造方法であって、
前記第三の領域は、前記5’ 側領域と、前記3’ 側領域とがセルフアニーリングしている場合に、第二の制限酵素によって認識される塩基配列、および第二の制限酵素による切断部位を含み、
前記第一の制限酵素と第二の制限酵素は互いに異なる制限酵素であることを特徴とする、製造方法。
【請求項9】
請求項2〜8のいずれかに記載の製造方法であって、
前記第二の制限酵素がHindIIIであることを特徴とする、製造方法。
【請求項10】
請求項2〜9のいずれかに記載の製造方法であって、
前記第三の領域の塩基配列が、
5'-AAGCTTCACTGANNNNNNNNNTCAGTGAAGCTT-3'であることを特徴とする、製造方法。
【請求項11】
請求項2〜10のいずれかに記載の製造方法であって、
前記工程(4)に記載の二本鎖リンカーDNAは、第三の制限酵素により認識される塩基配列を含み、
前記工程(6)のプライマーは、前記一本鎖リンカーDNA領域と、該プライマーを用いて合成した該一本鎖リンカーDNA領域に相補的なポリヌクレオチド領域とを含む二重鎖ポリヌクレオチド領域が、第三の制限酵素によって認識される塩基配列を含むように設計されていることを特徴とする、製造方法。
【請求項12】
請求項2〜11のいずれかに記載の製造方法であって、前記第三の制限酵素がMlyIであることを特徴とする、製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の製造方法であって、
前記二本鎖リンカーDNAが、
5'-TTCCAGGGTTTTCCCAGTCACGACGTTGTAGAGTCGTAC-3'
3'- AGGTCCCAAAAGGGTCAGTGCTGCAACATCTCAG -5'であることを特徴とする、製造方法。
【請求項14】
shRNA発現ライブラリーの製造方法であって、
請求項2〜13のいずれかに記載の工程(1)〜(6)を含み、さらに、
(7)前記工程(6)で得られた、前記一本鎖ポリヌクレオチドと、当該一本鎖ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドから構成される二重鎖DNAに対し、第二の制限酵素を用いて、該二重鎖DNAにおける第二の制限酵素による切断部位に挟まれた領域を除去する工程と、
(8)前記工程(7)で得られた二重鎖DNAを、該DNAを転写することのできるベクターに挿入する工程と、
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項15】
shRNA発現ライブラリーの製造方法であって、
請求項2〜13のいずれかに記載の工程(1)〜(6)を含み、さらに、
(7)前記工程(6)で得られた、前記一本鎖ポリヌクレオチドと、当該一本鎖ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドから構成される二重鎖DNAを、該DNAを転写することのできるベクターに挿入する工程と、
(8)前記工程(7)でベクターに挿入された二重鎖DNA領域に対し、第二の制限酵素を用いて、該二重鎖DNAにおける第二の制限酵素による切断部位に挟まれた領域を除去する工程と、
を含むことを特徴とする、製造方法。
【請求項16】
請求項14または15に記載の製造方法であって、
前記ベクターが、ウイルスベクターであることを特徴とする、製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の製造方法であって、
前記ウイルスベクターが、レンチウイルスベクターであることを特徴とする、製造方法。
【請求項18】
請求項14〜17のいずれかに記載の方法で製造されたshRNA発現ライブラリーを用いた遺伝子のスクリーニング方法であって、
前記shRNA発現ライブラリーが導入された第1の細胞集団と、前記shRNA発現ライブラリーが導入されていない第2の細胞集団との間の表現型の差異を検出し、
前記差異の原因である、shRNAを同定することを特徴とする、方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−10683(P2012−10683A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153309(P2010−153309)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(803000056)財団法人ヒューマンサイエンス振興財団 (341)
【Fターム(参考)】