説明

tert−ブチルタキサン誘導体の酵素的分割

カルボン酸エステル加水分解酵素と接触させ立体選択的な加水分解を行って、式(I)
【化1】


(式中、Rは-O-C(O)アルキル、-O-C(O)アリール又は-O-C(O)シクロアルキルを表す。)
の化合物のシス体又はトランス体のエナンチオマー混合物を光学分割する方法、および特に経口投与に適した抗ガン剤を製造するための該エナンチオマーの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は米国仮出願(60/313757、2001年8月21日出願)に基づく利益を主張するものである。
発明の分野
本発明はタキサン誘導体の酵素的分割および該タキサン誘導体から経口投与可能な抗ガン作用を有する化合物を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
パクリタキセルは、太平洋イチイの木、セイヨウイチイ(学名Taxus brevifolia)の樹皮より抽出される天然物であって、抗ガン剤タキソール(TAXOL、登録商標)の有効成分である。パクリタキセルは、in vivoの動物モデルにおいて優れた抗腫瘍作用を示し、最近の研究によればチューブリンの異常なポリメリゼーションと有糸分裂の崩壊がその特異的な作用機序に含まれることが明らかになった。現在、ヒト増殖性疾患の治療におけるこの薬物の用途を拡大すべく、多数の臨床試験が進行中である。タキソール(登録商標)の臨床試験結果については多数の著者による総説がある。多くの異なる著者による論文の編集物が、最近では腫瘍学セミナー全体の刊行物〔Seminars on Oncology 1999, 26(1,Suppl 2)〕に含まれる。その他の例では、Rowinsky et al「タキソール;新しい抗ューブリン治験薬」J.Natl.Cancer Instl, 82: pp1247-1259,1990;Rowinsky, Donehower 「ガン化学療法における抗チューブリン薬の用途および臨床薬理」Pharmac. Ther., 52: 35-84,1991;Spencer, Faulds 「パクリタキセル;ガン治療薬としての可能性ならびに薬力学および薬物動態学的性質の概観」Drugs, 48(5) 794-847,1994 ;K.C.Nicolaou et al., 「タキソールの生物学と化学」Angew. Chem., Int. Ed. Engl., 33: 15-44,1994 ;F.A.Holmes, A.P.Kudelka, J.J.Kavanaugh, M.H.Huber, J.A.Ajani, V.Valero 「タキサン、抗ガン薬、基礎科学と現況」編者Gunda I.Georg, Thomas T.Chen, Iwao Ojima, Dolotrai M. Vyas, 1995, American Chemical Society, Washington, DC, 31-57;Susan G.Arbuck, Barbara Blaylock 「タキソール、科学と応用」編者Mathew Suffness, 1995, CRC Press Inc., Boca Raton, Florida, 379-416 等およびその中で引用されたものがある。
【0003】
パクリタキセルの半合成類縁体であるドセタキセルもまた優れた抗腫瘍効果を示し、市販されている抗ガン薬タキソテール(TAXOTERE、登録商標)の有効成分である。例えば、「A環側鎖置換基を欠きC-2'立体配置が可変である、生物学的活性なタキソール誘導体」J. Med. Chem., 34, pp 1176-1184 (1991); 「タキソール誘導体の抗腫瘍活性と構造との相関」J. Med. Chem. , 34, pp 992-998 (1991)およびその中で引用された文献を参照できる。タキソテール(登録商標)の臨床効果についてはJorge E.Cortes、Richard Pazdurの総説〔Journal of Clinical Oncology, 1995,13(10), 2643-2655〕がある。この類の分子に対して慣用的に用いられている番号を付し、パクリタキセルおよびドセタキセルの構造を以下に示す。この番号付けは本願においても用いる。
【0004】
【化1】

パクリタキセル(タキソール:登録商標):R=Ph、R=アセチル
ドセタキセル(タキソテール:登録商標):R=t−ブトキシ、R=水素
【0005】
パクリタキセルが経口では無効であることの十分な証拠が、PCT特許出願WO 98/53811(発明者Samuel Broder、Kenneth L. Duchin、Sami Selim)からの下記引用および文献からの引用中に見出すことができる。「パクリタキセルは経口投与した場合には殆ど吸収されない(1%以下)」;Eiseman et al., Second NCI Workshop on Taxol and Taxus(1992年9月);Suffness et al., Taxol Science and Applications (CRC Press 1995年)。Eiseman et al., は経口投与の場合パクリタキセルの生物学的利用率が0%であることを示した。また、Suffness et al.,は、160mg/kg/dayまで投与しても抗腫瘍効果が認められないことからパクリタキセルの経口投与は可能とは思えないことを報告している。その上、パクリタキセルの経口投与を可能にする有効な方法(即ち、パクリタキセルの生物学的利用率を向上させる方法)は開発されていないし抗腫瘍効果を示すドセタキセルのような他の経口タキサン若しくはパクリタキセル誘導体も開発されていない。この理由からこれまでパクリタキセルはヒト患者に対して経口投与されていないし、確かにパクリタキセル応答性疾患の治療の途中においても経口投与されていない。J.Terwogt et al.,の別の報告(Lancet, 1998.7.25. vol.352, p.285)によると、160mg/kg/injの高用量に至るまで生物学的利用率が低く、ネズミ(マウス)腫瘍モデル(sc M109)において有効性の兆候がないこと、そして、Suffnessのように、更に高い用量を投与しても毒性域には届かないが効力がないであろうことを記載している。更には、胸腺欠損マウス若しくはラットに移植した異種移植ヒト腫瘍に対し、経口投与したパクリタキセルの効果を示そうとする我々の試みはこれまでのところ成功していない。
【0006】
本発明は、特に有効な水溶性C-4タキサン誘導体のラセミ混合物の酵素的分割法を提供するものである。参考までに示すと、該誘導体は米国出願09/712,352に開示され経口活性があって、増殖性疾患に対して経口投与後の用途が期待される。本発明に関係する背景技術をいくつか以下に示す。
C-4水酸基を修飾したタキサン誘導体がいくつか当業者に知られている。
米国特許5808102号(Poss et al.,)およびPCT公開特許公報WO94/14787にはC-4位を修飾したタキサン誘導体の記載を含む。
Gunda I.Georg et al.,は、C-4エステル誘導体をTetrahedron Letters, 1994, 35(48),8931-8934に記載している。
S.Chen et al.,は、C-4シクロプロピルエステル誘導体をJournal of Organic Chemistry, 1994,59(21), 6156-8に記載している。
米国特許5,840,929号(Chen,Shu-Hui)はC-4メトキシエーテル誘導体を含んでおり、1998年11月24日に発行された。
Chen,Shu-Hui, C-4メチルエーテルパクリタキセル誘導体の最初の合成および4-デアセチル-4-メチルエーテルバッカチンIIIの予期せぬ反応性. Tetrahedron Lett. 1996, 37(23), 3935-3938.
【0007】
下記文献ではいくつかのC-4エステル又は炭酸エステル誘導体について論じている。Chen, Shu-Hui; Wei, Jian-Mei; Long, Byron H.; Fairchild, Craig A.;Carboni, Joan; Mamber, Steven W.; Rose, William C.; Johnston, Kathy; Casazza, Anna M. et al. 新規C-4パクリタキセル(タキソール)誘導体;強力な抗腫瘍薬 Bioorg. Med. Chem. Lett. 1995, 5(22), 2741-6.
C-4アジリジンカルバメート誘導体の調製が記載されている;Chen, Shu-Hui; Fairchild, Craig; Long, Byron H. 新規C-4アジリジン含有パクリタキセル(タキソール)誘導体の合成と生物学的評価 J.Med.Chem., 1995, 38(12), 263-7.
【0008】
下記論文はC-4誘導体調製法として記載された反応又は変換を記載している。
10-デアセチルバッカチンIIIのC-4位の新規な修飾法 Uoto, Kouichi; Takenoshita, Haruhiro; Ishiyama, Takashi; Terasawa, Hirofumi; Soga, Tsunehiko, Chem. Pharm. Bull. 1997,45(12), 2093-2095.
Samaranayake, Gamini; Neidigh, Kurt A.; Kiingston, DavidG. I. 修飾タキソール8. バッカチンIIIの脱アシル化および再アシル化 J. Nat. Prod., 1193, 56(6), 884-98.
Datta, Apurba; Jayasinghe, Lalith R.; Georg, Gunda I. 4-デアセチルタキソールおよび10-アセチル-4-デアセチルタキソテール;合成と生物学的評価 J. Med. Chem. 1994, 37(24), 4258-60.
上記のC-4誘導体およびその調製法の例にもかかわらず、経口で有効なC-4誘導体は得られていない。本発明は、経口活性を有するC-4誘導体のラセミ混合物を分割する方法を提供する。
【0009】
以下の文献はタキサンの経口活性化の方法若しくは可能性のある方法を記載する。
モジレータの共存下にタキサンを経口投与し投与後のタキサン血漿濃度を増加させる方法が報告されている:Terwogt, Jetske M. Meerum; Beijnen, Jos H.; Ten Bokkel Huinink, Wim W.; Rosing, Hilde; Schellens, Jan H. M. シクロスポリンの同時投与によりパクリタキセルの経口療法を可能とする Lancet (1998), 352 (9124), 285.
Hansel, Steven B シンコニン同時投与によるタキサンの経口利用可能化の方法 PCT国際出願WO97/27855(1997年8月7日発行)。
Broder, Samuel; Duchin, Kenneth L.; Selim, Sami. シクロスポリンにより生物学的利用率を向上させヒト患者にタキサンを経口投与する方法およびそのための組成物PCT国際出願WO 98/53811(1998年12月3日発行)。これら報告は抗腫瘍効果のデータはないが血漿中にタキサンが存在することから抗腫瘍用途の可能性が推測される。
先行技術中に、前臨床動物モデルにおいて経口活性の報告が少なくともひとつ存在する。Scola, Paul M.; Kadow, John F.; Vyas, Dolatrai M. パクリタキセルプロドラッグ誘導体の調製、欧州特許出願EP747385(1996年12月11日公開)。経口で有効な該プロドラッグの経口での生物学的利用率は開示されていないし、更にヒトにおける治験の段階へ進捗したとの報告もない。
【0010】
ごく最近、1999年フィラデルフィアでの米国ガン研究者学会(American Association of Cancer Researchers)で、マウスの経口投与で抗腫瘍活性を示すタキサン誘導体(IDN-5109)の概要が明らかにされた。以下を参照:Pratesi G. Polizzi D, Totoreto M, Riva A, Bombardelli E, Zunino F :IND5109、経口投与で活性な新規タキサン誘導体、Proc Am Assoc Cancer Res., 1999 40 Abs 1905, Istituto Nazionale Tumori, 20133 Milan and
Indena SpA, 20139, Milan, Italy。この化合物の構造は本発明に記載する化合物とはまったく異なっている。本発明に包含される化合物とは異なり、IDN-1509は14β-ヒドロキシバッカチンIIIより誘導されC-4位ヒドロキシ基が酢酸エステル化されている。この化合物の活性については次の二つの参照により補完できる。
Nicoletti ML, Rossi C, Monardo C, Stura S, Morazzoni P,Bombardelli E, Valoti G, Giavazzi R.: パクリタキセルに対し異なる感受性を示す移植ヒト卵巣ガンに対する、パクリタキセル誘導体IDN-5109の抗腫瘍効果、Proc Am Assoc Cancer Res 1999 40 Abs 1910[Evals+citations]。
Polizzi, Donatella; Pratesi, Graziella; Tortoreto, Monica; Supino, Rosanna; Riva, Antonella; Bombardelli, Ezio; Zunino, Franco;ヒト移植ガンに対する耐性および治療活性の向上した新規タキサン、Cancer Res. 1999, 59(5), 1036-1040。
【0011】
パクリタキセルはもともと長期間腫瘍に晒すことにより効果を挙げる、投与計画に強く依存する薬物である。これは、パクリタキセルの作用機序に関係しており、タキサン類はガン細胞サイクル中の短い期間に生ずる微小管の重合状態のみを認識してこれに結合するからである。現在行われている静脈内注射(1−3時間)は容易に受け入れられ効果的であるが、長引く(24時間以上)連続的投与計画は不可能である。しかしながら、経口のタキサンであればそのような長期にわたって薬物に晒すことも受容でき経費的にも可能かもしれない。最近、適度の用量(即ち、最大耐量でない)のタキソール(登録商標)を週一回繰り返し投与することによる臨床上の有用性が示され、経口のタキサンはそのような長期の処方に対して理想的である。タキサンの他の臨床適応とされているもの(例えば関節リウマチ、多発性硬化症)においてもまた経口タキサンが利用できれば恩恵を受けることができる。経口投与で有効なタキサンは、まだ研究されていない多くの投与計画化の手段があるが故に、現在のタキサンの臨床上用法の型である非経口投与に代わる魅力的な代替案を提供し、更には治療上の利点を提供する可能性がある。
かくして、非経口で投与されたパクリタキセルに匹敵する程度に、経口投与で生物学的利用率および有効性が高く、かつ純粋で高度に分割されたタキサンの提供が求められていることは明らかである。
【0012】
発明の要約
本発明は、その一部として、経口で投与されるタキソール等のタキサン類を製造するための中間体として特に有用な化合物の、エナンチオマー混合物、好ましくはラセミ混合物の効率的な分割方法を提供する。そして、ひいてはこれら化合物の立体特異的な製造法を提供するものである。更に別の態様においては、分割されたエナンチオマーはヒトを含む温血動物に経口投与可能なタキサン類の製造に用いられる。
【0013】
本発明は特に、式(Ia)および式(Ib)
【化2】

〔式(Ia)および(Ib)中、Rはt−ブチル基に対してシス位にある。〕
または
【0014】
【化3】

〔式(IIa)および(IIb)中、Rはt−ブチル基に対してトランス位である。〕
〔ここで、Rは-O-C(O)アルキル、-O-C(O)アリールまたは-O-C(O)シクロアルキルである。〕
で表されるエナンチオマーよりなる混合物の分割方法であって、
(a)そのエナンチオマー混合物をカルボン酸エステル加水分解酵素と接触させ、該混合物を立体選択的に加水分解して二種の化合物、即ち、Rが-O-C(O)アルキル、-O-C(O)アリールまたは-O-C(O)シクロアルキルである一方の化合物と、Rが水酸基である他方の化合物との混合物を与える工程;および(b)その二種の化合物の一方又はその両方の化合物を回収する工程よりなる分割方法を提供する。
【発明の開示】
【0015】
更に本発明の方法を以下に記述する。
シス・エナンチオマー
以下のシス・エナンチオマーの組
【化4】

および
【0016】
【化5】

が本発明の酵素的方法により分離できる。ここで、式(Ia)および(Ib)のエナンチオマーにおいて、Rはt−ブチル基に対してシス位にある。
シス・エナンチオマーの混合物を本発明の方法に従って上記に記載されたように分離するのが好ましい。
【0017】
トランス・エナンチオマー
以下のトランス・エナンチオマーの組
【化6】

および
【0018】
【化7】

が本発明の酵素的方法により分離できる。ここで、式(IIa)および(IIb)のエナンチオマーにおいて、Rはt−ブチル基に対してトランス位にある。
【0019】
エナンチオマー混合物分割のための好ましい方法
式(Ia)および(Ib)のエナンチオマー、又は式(IIa)および(IIb)のエナンチオマー混合物は好ましくは立体選択的な加水分解を行うことにより分割される。そして、該加水分解はカルボン酸エステル加水分解酵素、好ましくは微生物由来の酵素の存在下で行われる。
そうして調製される化合物の組は非エナンチオマーであって続いて分離することにより光学活性で、好ましくは光学純度の高い化合物が得られる。光学純度は99%以上、特に99.5%以上が好ましい。
本発明はまた他の異性体を実質的に含まない化合物を提供する;そのような化合物は本発明の方法により得られる。
加えて、本発明は上記方法により得られる中間体を利用し、精選されたタキサン化合物の調製方法に関する。
【0020】
定義
本明細書で用いる「立体選択的変換」の語は、他のエナンチオマーに対して一方のエナンチオマーに優先的に起こる反応であり、不斉の、エナンチオ選択的な反応をいう。同様に「立体選択的加水分解」の語は、他のエナンチオマーに対して一方のエナンチオマーに優先的に起こる加水分解反応をいう。
本明細書で用いる「混合物」の語は、エナンチオマー化合物について使用した場合は同等量(ラセミ体)又は非同等量のエナンチオマー混合物をいう。
本明細書で用いる「分割」の語は、部分的、そして同様に、好ましくは完全な分割をいう。
本明細書で用いる「非エナンチオマー体」の語は、もともとはエナンチオマーの組のひとつであったが、そのすくなくとも一方が修飾されて、もはやもとのエナンチオマーの他方とは鏡像関係になくなった化合物の構造をいう。
本明細書で用いる「酵素的工程」または「酵素的方法」の語は、酵素又は微生物を用いた本発明の方法又は工程をいう。
【0021】
本明細書で用いる「アルキル」、「アルカン」または「アルク(alk)」の語は、単独で用いられた場合又は他の語の一部として用いられた場合、直鎖又は分枝鎖を有する、通常炭素数1から15、好ましくは炭素数1から6の置換基を有することのある炭化水素をいい、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、4,4−ジメチルペンチル、オクチル、2,2,4−トリメチルペンチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、種々の分枝鎖を有するそれらの異性体等である。例示できる置換基としては以下より選択されるひとつ又はそれ以上の基が含まれる;ハロ(好ましくはクロロ)、トリハロメチル、アルコキシ(例えば、二つのアルコキシ基はアセタールを形成する)、アリール例えば無置換アリール、アルキル-アリール若しくはハロアリール、シクロアルキル例えば無置換シクロアルキル若しくはアルキル-シクロアルキル、ヒドロキシ若しくは保護ヒドロキシ基、カルボキシ、アルコキシカルボニル、アルキルアミノ、アルキルカルボニルアミノ、アミノアリールカルボニルアミノ、ニトロ、シアノ、チオール、又はアルキルチオ等。特に好ましいアルキル置換基はヒドロキシ基である。
【0022】
本明細書で用いる「シクロアルキル」の語は、単独で用いられた場合又は他の語の一部として用いられた場合、置換基を有することのある飽和環状炭化水素であって、1個から3個の環構造を有し、炭素数3から12、好ましくは炭素数3から8のものをいい、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロデシル、アダマンチル等がある。置換基の例は上記アルキル基の一種若しくはそれ以上、又は上記アルキル置換基の一種若しくはそれ以上である。
【0023】
本明細書で用いる「アリール」の語は、置換基を有する、単環若しくは二環の環を構成する炭素数が6から12の芳香族基をいい、無置換のフェニル、ビフェニル、ナフチル又はアルキル、ハロアルキル、シクロアルキルアルキル、ハロゲン、アルコキシ、ハロアルコキシ、ヒドロキシ、アリール等が例示できる。
本明細書で用いる「ヒドロキシ保護基」の語は、遊離のヒドロキシ基を保護し、保護が必要な反応の後は該分子の他の部分を損なうことなく除去できる基をいう。種々のヒドロキシ保護基とその合成法について、例えば「有機合成における保護基」、T.W.Greene, John Wiley and Sons, 1981, Fiser & Fiserを参照できる。ヒドロキシ保護基としては、例えばメトキシメチル、1−エトキシエチル、ベンジルオキシメチル、(β−トリメチルシリルオキシ)メチル、テトラヒドロピラニル、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル、t−ブチル(ジフェニル)シリル、トリアルキルシリル、トリクロロメトキシカルボニル、2,2,2−トリクロロエトキシメチル等がある。
【0024】
出発原料
式(Ia)および(Ib)の化合物よりなる出発物質の混合物は当業者に知られた方法で製造できる。例えば欧州特許出願400,971号に記載された方法を引用して援用する。例えば、式(Ia)および(Ib)のシス-β-ラクタムラセミ混合物は下式
【化8】

で表されるイミンを、下式
【化9】

で表されるアルデヒドの反応により形成して製造される。
【0025】
かくして製造されたイミンは下式
【化10】

(式中、Rは前記に同じ。)
で表される酸クロリド、例えばアセトキシアセチルクロリドと反応させ、式(Ia)および(Ib)のシス-β-ラクタムラセミ混合物が製造される。後者の反応は、例えばトリエチルアミンのような塩基の存在下で、塩化メチレンのような溶媒中、−20℃で反応させその後25℃にまで加温して行うことができる。
【0026】
出発物質として異なるラクタムが必要であれば、上記の反応に続いて生成したラクタムを修飾することもできる。
ラセミ混合物以外の出発物質混合物は、例えば式(Ia)または(Ib)の化合物のひとつを該ラセミ混合物に加えることにより得られる。
出発物質混合物は、例えば式(Ia)または(Ib)の化合物のジアステレオマーを含んでいてもよいが、それらの化合物を本発明の酵素的分割法に付する前に分離しておくことが好ましい。
【0027】
酵素および微生物
本発明の方法で使用される酵素若しくは微生物は、記載された立体選択的な変換を触媒する機能があればどのような酵素若しくは微生物でもよい。エステラーゼ、リパーゼ、アミダーゼ又はアシラーゼ等の種々の酵素が、その起源や純度にかかわらず、例えば、動物若しくは植物酵素又はそれらの混合物、微生物細胞、破砕細胞、細胞抽出物又は合成起源のものであってもよい。
微生物の利用については、本発明の方法は記載された立体選択的な変換を触媒する能力があればいかなる微生物の細胞内物質でも使用することができる。細胞は、損なわれていないウェットな細胞または凍結乾燥、スプレー乾燥若しくは熱乾燥した乾燥細胞であっても使用できる。また、破砕細胞若しくは細胞抽出物のような処理済の細胞物質であってもよい。細胞又は細胞物質は細胞又は細胞抽出物であってもよい。細胞又は細胞物質は遊離の状態又は物理的な吸着若しくは取り込みにより担体に固定化されていてもよい。
【0028】
触媒用の酵素として適切な微生物の属で典型的なものは、ムコール(Mucor)、エシェリチア(Escherichia)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、アグロバクテリウム(Agrobacterium)、アシネトバクター(Acinetobacter), リゾパス(Rhizopus)、アスペルギルス(Aspergillus)、ノカルジア(Nocardia)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、トリコデルマ(Trichoderma)、カンジダ(Candida)、ロドトルラ(Rhodotorula)、トルロプシス(Torulopsis)、プロテウス(Proteus)、バシラス(Bacillus)、アルカリゲネス(Alcaligenes)、シュードモナス(Psuedomonas)、ロドコッカス(Rhodococcus)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)、ジオトリカム(Geotrichum)、エンテロバクター(Enterobacter)、クロモバクテリウム(Chromobacterium)、アルスロバクター(Arthrobacter)、ミクロバクテリウム(Microbacterium)、マイコバクテリウム(Mycobacterium)、サッカロミセス(Saccharomyces)、ペニシリウム(Penicillium)、メタノバクテリウム(Methanobacterium)、ボツリティス(Botrytis)、ケトミウム(Chaetomium)、オピオボラス(Ophiobolus)、クラドスポリウム(Cladosporium)等が含まれる。
【0029】
本発明の工程に使用される微生物で特に適切なものとしては、クロモバクテリウム・ビスコサム(Chromobacterium viscosum);ATCC 25619のようなシュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeuriginosa);シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens);ATCC 31303のようなシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida);シュードモナス・オバリス(Pseudomonas ovalis);エシェリチア・コーリ(Escherichia coli);スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureas);アルカリゲネス・フェカリス(Alcaligenes faecalis);ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus);シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia);ATCC 14830のようなカンジダ・ルゴサ(Candida rugosa);ATCC 32345のようなジオトリカム・キャンディダム(Geotrichum candidum);ストレプトマイセス・クラブリゲルス(Streptomyces clavuligerus);ノカルディア・エリスロポリス(Nocardia erythropolis);ノカルディア・アステライデス(Nocardia asteraides,);マイコバクテリウム・フレイ(Mycobacterium phlei);アグロバクテリウム・ラディオバクター(Agrobacterium radiobacter);アスベルギルス・ニガー(Aspergillus niger);リゾパス・オリゼエ(Rhizopus oryzae)等が含まれる。
【0030】
一種の微生物のみならず、二種若しくはそれ以上の微生物が本発明の工程を実施するために用いられる。ここで用いられる「ATCC」の語は、該微生物の寄託機関であるアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection;12301 Parklawn Drive Rockville, Maryland 20852)であってその受託番号を照会するためのものである。〔〕
本発明の分割方法は用いる微生物を成長させた後に実施してもよいし、溶液中で培養と分割を同時に並行して行ってもよい。微生物の培養は、当業者の周知技術により、例えば炭素と窒素源および微量元素のような栄養素を含む適切な培地を用いて達成される。
本発明の使用に適した酵素で市場で入手できるものとしては、典型的には、アマノPS-30〔シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)〕、アマノGC-20〔ジオトリカム・キャンディダムGeotrichum candidum)〕、アマノAPF〔アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)〕、アマノAK〔シュードモナス種(Pseudomonas sp.)〕、蛍光性シュードモナスリパーゼ(Biocatalyst Ltd.)、アマノリパーゼP-30〔シュードモナス種(Pseudomonas sp.)〕、アマノP〔シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)〕、アマノAY-30〔カンジダ・シリンドラセ(Candida cylindracea)〕、アマノN〔リゾパス・ニベウス(Rhizopus niveus)〕、アマノR〔ペニシリウム種(Penicillium sp.)〕、アマノFAP〔リゾパス・オリザ(Rhizopus oryza)〕、AmanoAP-12〔アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)〕、アマノMAP〔ムコール・メイヘイ(Mucor meihei)〕、アマノGC-4〔ジオトリカム・キャンディダム(Geotrichum candidum)〕、シグマL-0382およびL-3126(ブタすい臓)、シグマL-3001(小麦胚芽)、シグマL-1754〔カンジダ・シリンドラセ(Candida cylindracea)〕、シグマL-0763〔クロモバクテリウム・ビスコサム(Chromobacterium viscosum)〕、アマノK-30〔アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)〕等のリパーゼがある。付け加えると、動物組織由来の酵素で典型的なものは、ブタ肝臓のエステラーゼ、α-キモトリプシン、ブタすい臓リパーゼ(シグマ社)のようなすい臓のパンクレアチン等がある。一種のみならず、二種若しくはそれ以上の酵素が本発明の工程を実施するため用いられる。
【実施例】
【0031】
本発明実施の好ましい態様を以下の反応スキームによりさらに記載する。明確化のため、これら反応スキームは特定のシスエナンチオマーの分割を図示するが、記載された態様は本発明の他のエナンチオマー混合物の分割にも同様に適応されることを理解すべきである。
実施例1
固定化リパーゼPS-30〔シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)から〕を用いたシス-3,4-t-ブチル-3-アセチルオキシアゼチジン-2-オン(ラセミ体)の分割
リン酸カリウム緩衝液(10mM)3L、シス-3,4-t-ブチル-3-アセチルオキシアゼチジン-2-オン(ラセミ体)90gおよび固定化リパーゼPS-30〔シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)から〕45gを含む反応溶液を調製した。反応は40℃、150rpmで撹拌しながら行った。25%NaOH溶液を用いて反応混合物のpHを7.0に維持した。4時間後、該反応により目的のキラルアセテートが49%収率(理論的な最大収率は50%)で得られ、e.e.純度は99%以上であった。
【0032】
実施例2
固定化ペンV アミダーゼ〔フサリウム種(Fusarium Sp.)から〕を用いたシス-3,4-t-ブチル-3-アセチルオキシアゼチジン-2-オン(ラセミ体)の分割
リン酸カリウム緩衝液(10mM)20mL、シス-3,4-t-ブチル-3-アセチルオキシアゼチジン-2-オン(ラセミ体)100mgおよび固定化ペンV アミダーゼ〔フサリウム種(Fusarium Sp.)から〕25mgを含む反応溶液を調製した。反応は40℃、150rpmで撹拌しながら行った。0.1N NaOH溶液を用いて反応混合物のpHを7.0に維持した。3時間後、該反応により目的のキラルアセテートが39%収率(理論的な最大収率は50%)で得られ、e.e.純度は90%以上であった。
【0033】
実施例3
固定化ペンV アミダーゼ〔フサリウム種(Fusarium Sp.)から〕および固定化リパーゼPS-30〔シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)から〕を用いたシス-3,4-t-ブチル-3-プロピオニルオキシアゼチジン-2-オン(ラセミ体)の分割
リン酸カリウム緩衝液(10mM)20mL、シス-3,4-t-ブチル-3-プロピオニルオキシアゼチジン-2-オン(ラセミ体)100mgおよび固定化リパーゼPS-30〔シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)から〕50mgを含む反応溶液を調製した。反応は40℃、150rpmで撹拌しながら行った。0.1N NaOH溶液を用いて反応混合物のpHを7.0に維持した。18時間後、該反応により目的のキラルプロピオネートが48%収率(理論的な最大収率は50%)で得られ、e.e.純度は99%以上であった。
リン酸カリウム緩衝液(10mM)20mL、シス-3,4-t-ブチル-3-ヘキサノイルオキシアゼチジン-2-オン(ラセミ体)100mgおよび固定化ペンV アミダーゼ〔フサリウム種(Fusarium Sp.)から〕25mgを含む反応溶液を調製した。反応は40℃、150rpmで撹拌しながら行った。0.1N NaOH溶液を用いて反応混合物のpHを7.0に維持した。20分後、該反応により目的のキラルプロピオネートが25%収率(理論的な最大収率は50%)で得られ、e.e.純度は98%以上であった。
【0034】
実施例4
固定化リパーゼPS-30〔シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)から〕を用いたシス-3,4-t-ブチル-3-ヘキサノイルオキシアゼチジン-2-オン(ラセミ体)の分割
リン酸カリウム緩衝液(10mM)20mL、シス-3,4-t-ブチル-3-ヘキサノイルオキシアゼチジン-2-オン(ラセミ体)100mgおよび固定化リパーゼPS-30〔シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)から〕50mgを含む反応溶液を調製した。反応は40℃、150rpmで撹拌しながら行った。0.1N NaOH溶液を用いて反応混合物のpHを7.0に維持した。30分後、該反応により目的のキラルヘキサノイルが48%収率(理論的な最大収率は50%)で得られ、e.e.純度は99%以上であった。
【0035】
実施例5
固定化ペンV アミダーゼ〔フサリウム種(Fusarium Sp.)から〕を用いたシス-3,4-t-ブチル-3-フェニルアセチルオキシアゼチジン-2-オン(ラセミ体)の分割
リン酸カリウム緩衝液(10mM)20mL、シス-3,4-t-ブチル-3-フェニルアセチルオキシアゼチジン-2-オン(ラセミ体)100mgおよび固定化ペンV アミダーゼ〔フサリウム種(Fusarium Sp.)から〕25mgを含む反応溶液を調製した。反応は40℃、150rpmで撹拌しながら行った。0.1N NaOH溶液を用いて反応混合物のpHを7.0に維持した。18時間後、該反応により目的のキラルプロピオネートが25%収率(理論的な最大収率は50%)で得られ、e.e.純度は99%以上であった。
【0036】
ここで開示された光学活性なエナンチオマーを用いて式III
【化11】

(式中、Rは既に定義した通りであり、RはCHC(O)O-である。)
で表される抗腫瘍化合物又はその薬学的に許容される塩を製造することができる。
特に好ましい化合物はRがO-C(O)-tert-ブチルのものである。
一般式IIIで表される化合物は異常な細胞増殖に対して有意な阻害作用を示し、異常な細胞増殖を呈し病的な状態にある患者に対し治療効果を有する。更には、これら化合物は経口で有意な生物学的利用率を有し、経口投与後の治療効果をもたらし得る。
式IIIの化合物は続くスキーム1で示される工程に従って製造することができる。該方法は、式IIIの範囲内における化合物を製造するため種々の変化した態様に適合させることができ、特定の方法を開示するものではない。
目的の化合物を製造するひとつの方法がスキーム1の一般法による。該スキームの工程a)において、上述した式Ia、Ib、IIa、IIbのエナンチオマーを式IVの化合物(バッカチンIII誘導体)と反応させる。
【0037】
スキーム1の工程a)においては、C-13炭素のヒドロキシ基を縮合前に金属アルコキシドに変換することが好ましい。所望の金属アルコキシドの形成は式IVの化合物を強力な金属塩基、例えばリチウムジイソプロピルアミド;C1−6アルキルリチウム;リチウム、ナトリウム若しくはカリウムビス(トリメチルシリル)アミド;フェニルリチウム;水素化ナトリウム;水素化カリウム;水素化リチウム等の塩基と反応させることにより可能である。例えば、リチウムアルコキシドが望ましいときは式IVの化合物とn−ブチルリチウムをテトラヒドロフランのような不活性溶媒中で反応させるとよい。Holtonの方法による、置換バッカチンと適切な式Ia、Ib、IIa若しくはIIbの化合物との連結の例は、以下に引用して援用する特許公報を参照できる;米国特許5,175,315号、5,466,834号、5,229,526号、5,274,124号、5,243,045号、5,227,400号、5,336,785号、5,254,580号、5,294,637号又は欧州特許590,267号(A2)等。
【0038】
【化12】

【0039】
ここで、RおよびRは式Vで示されるとおり、そして既に述べたとおり慣用的な水酸基の保護基である。慣用的な水酸基の保護基とは水酸基官能基の反応を阻止してこれを保護するために用いられる部分であって当業者によく知られている。そして、分子の他の部分を実質的に破壊することのない方法で除去されるようなものが好ましい。容易に除去できる水酸基保護基としては、クロロアセチル;メトキシメチル;1−メチル−1−メトキシメチル;テトラヒドロピラニル;テトラヒドロチオピラニル;ジメチルシリルエーテルのようなジアルキルシリルエーテル;トリメチルシリルエーテル、トリエチルシリルエーテル、t−ブチルジメチルシリルエーテルのようなトリアルキルシリルエーテル;ジイソプロピルメトキシシリルエーテルのようなジアルキルアルコキシシリルエーテル;2,2,2−トリクロロエチルオキシメチル;2,2,2−トリクロロエチルオキシカルボニル(又は単純にトリクロロエチルオキシカルボニル);ベンジルオキシカルボニル等の例がある。その他の適切な水酸基保護基は既に引用して援用するT.W.Greene、「有機合成における保護基」第2章〔第三版、Theodra W.Greene, Peter G.M.Wuts(1999, John Wiley & Sons, New York)〕を参照できる。式IVの化合物の保護基で文献上よく使用されるものはトリアルキルシリルである。Rとして最も好ましい保護基は1−メチル−1−メトキシエチル(MOP)、トリアルキルシリルエーテル、又はジイソプロピルメトキシシリルエーテルのようなジアルキルシリルエーテルである。
【0040】
として最も好ましい保護基はジイソプロピルメトキシシリルエーテルのようなジアルキルアルコキシシリルエーテルであるが、トリアルキルシリルエーテル又はベンジルカーボネートのようなカーボネートもまた好ましい。工程b)において、R又はRの保護基又は可能ならばその両方が式Vの化合物より除去される。もしもR又はRの保護基がシリル系の保護基であれば、THF溶媒中トリエチルアミン・トリヒドロフルオリドで除去される。他のフルオリド源も利用できる。例えば、テトラブチルアンモニウムフルオリド、ピリジニウムヒドロフルオリド、カリウムフルオリド又はセシウムフルオリド等も利用できる。カリウムフルオリドは脱シリル化を補助するため18−クラウン−6のような錯体形成剤とともに用いてもよい。これら条件下では溶媒としてアセトニトリルが典型的に使用される。温和な塩酸若しくはトリフルオロ酢酸をアセトニトリル若しくはTHFのような溶媒とともに用いる他の条件もシリル基の脱保護に有用である。同様の酸性条件が1−メチル−1−メトキシエチル(MOP)保護基の切断にも利用できる。
【0041】
実際に使用する条件は用いられたRおよびRの保護基に依存する。例えば、ひとつの好ましいルートとしてRにMOP基を用い、Rにジイソプロピルメトキシシリルエーテルを用いるものが可能かもしれない。この場合、工程b)として塩酸と有機溶媒を用いる温和な酸性処理が必要となる。得られた2′脱保護体は、工程c)において例えばTHF中トリエチルアミン・トリヒドロフルオリドのようなフルオリド源を作用させれば、クロマトグラフ若しくは結晶化による精製の後化合物IIIを与えるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(Ia)および式(Ib)
【化1】

〔式(Ia)および(Ib)中、Rはt−ブチル基に対してシス位である。〕
または
【化2】

〔式(IIa)および(IIb)中、Rはt−ブチル基に対してトランス位である。〕
〔ここで、Rは-O-C(O)アルキル、-O-C(O)アリールまたは-O-C(O)シクロアルキルである。〕
のエナンチオマーよりなる混合物の分割方法であって、
(a)そのエナンチオマー混合物をカルボン酸エステル加水分解酵素と接触させ、該混合物を立体選択的に加水分解して二種の化合物、即ち、Rが-O-C(O)アルキル、-O-C(O)アリールまたは-O-C(O)シクロアルキルである一方の化合物と、Rが水酸基である他方の化合物との混合物を与える工程;および(b)その二種の化合物の一方又はその両方の化合物を回収する工程よりなる分割方法。
【請求項2】
該エナンチオマー混合物が水および/または有機アルコールの存在下で分割される、請求項1の方法。
【請求項3】
が-O-C(O)-アルキルである、請求項2の方法。
【請求項4】
工程(a)において製造される化合物が、下式
【化3】

で表される構造式を有する、請求項3の方法。
【請求項5】
工程(a)において製造される化合物が、下式
【化4】

で表される構造式を有する、請求項3の方法。
【請求項6】
カルボン酸エステル加水分解酵素が微生物より得られるものである、請求項1の方法。
【請求項7】
該酵素がエステラーゼ、リパーゼ、アミダーゼおよびアシラーゼよりなる群から選択される、請求項1の方法。
【請求項8】
該酵素がリパーゼである、請求項7の方法。
【請求項9】
該酵素が、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)から得られるリパーゼPS-30、シュードモナス・セパシア(Pseudomonas cepacia)から得られるリパーゼP-30、ジオトリカム・キャンディダム(Geotrichum candidum)から得られるリパーゼGC-20、リゾパス・ニベウス(Rhizopus niveus)から得られるリパーゼN、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)から得られるリパーゼAPF、カンジダ種(Candida sp.)から得られるリパーゼAy-30、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)から得られるリパーゼAK、シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens)およびブタ膵臓リパーゼよりなる群から選択されるリパーゼである、請求項6の方法。
【請求項10】
該酵素が担体に固定化されている、請求項1の方法。
【請求項11】
該酵素がアミダーゼである、請求項7の方法。
【請求項12】
該酵素がフサリウム種(Fusarium sp.)より得られるペンVアミダーゼである、請求項6の方法。
【請求項13】
式(III):
【化5】

〔式中、Rは-O-C(O)アルキル、-O-C(O)アリールまたは-O-C(O)シクロアルキルを表し;RはCHC(O)O-を表す。〕
の化合物の製造方法であって、
式(Ia)、(Ib)、(IIa)および(IIb)
【化6】

および
【化7】

〔式中、Rは-O-C(O)アルキル、-O-C(O)アリールまたは-O-C(O)シクロアルキルを表す。〕
から選択される化合物を、式(IV)
【化8】

〔式中、RはCHC(O)O-を表し、Rは保護基を表す。〕
で表される化合物と反応させ、次いでRを除去して式(III)の化合物とすることからなる方法。
【請求項14】
更に、式(IV)の化合物を強い金属塩基と反応させC-13位のヒドロキシ基を金属アルコキシドに変換することよりなる、請求項13の方法。

【公表番号】特表2007−503201(P2007−503201A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−521850(P2003−521850)
【出願日】平成14年8月21日(2002.8.21)
【国際出願番号】PCT/US2002/026810
【国際公開番号】WO2003/016543
【国際公開日】平成15年2月27日(2003.2.27)
【出願人】(391015708)ブリストル−マイヤーズ スクイブ カンパニー (494)
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL−MYERS SQUIBB COMPANY
【Fターム(参考)】